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ISSN0535-1405 2013. July 目 次 第 409 回国際治療談話会例会 時 / 平成 25 年 5 月 23 日(木) 所 / 学士会館 司  会 日本国際医学協会常務理事 石 橋 健 一 p.2、6(9、11) 《第1部》= 頭痛・めまい診療のピットフォール = 【講演Ⅰ】 頭痛診療のピットフォール-脳脊髄液減少症を含めて- 山王病院 脳神経外科 副部長 高 橋 浩 一 先生 p.2(9) 【講演Ⅱ】 めまい診療 ―外リンパ漏の重要性についてー 慶應義塾大学医学部 耳鼻咽喉科 准教授 國 弘 幸 伸 先生 p.4(11) 《第 2 部》 【感想】 蘇る宮沢賢治 早稲田環境塾長 原     剛 先生 p.6(12) ※( )の数字は英文抄録の頁数 No.460

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ISSN0535-1405

2013. July

目 次

第409回国際治療談話会例会時 /平成 25 年 5 月 23 日(木) 所 /学士会館

 司  会 日本国際医学協会常務理事 石 橋 健 一 p.2、6(9、11)

 《第1部》= 頭痛・めまい診療のピットフォール =

 【講演Ⅰ】 頭痛診療のピットフォール-脳脊髄液減少症を含めて-  山王病院 脳神経外科 副部長 高 橋 浩 一 先生 p.2(9)

 【講演Ⅱ】 めまい診療 ―外リンパ漏の重要性についてー  慶應義塾大学医学部 耳鼻咽喉科 准教授 國 弘 幸 伸 先生 p.4(11)

 《第 2 部》 【感想】 蘇る宮沢賢治  早稲田環境塾長 原     剛 先生 p.6(12)

※( )の数字は英文抄録の頁数

No.460

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 そして 2000 年に入ると、現国際医療福祉大学熱海病院脳神経

外科、篠永正道教授が、鞭打ちなどの外傷後に、頭痛、めまい、全

身倦怠感などを呈する症例に、低髄液圧症候群が存在し、ブラッド

パッチが有効である事を報告しました。この報告は、難治性の鞭打

ち症後遺症患者達にとって、画期的な事であり、長い間、苦しい症

状に悩んできた方々を救う治療となりました。

2.原因 脳脊髄液減少症発症は「外傷性」と、「原因不明」の場合があります。

外傷性の場合、交通事故やスポーツ外傷、日常生活での怪我などが

あります。

3.症状 主な症状は、頭痛、頚部痛、めまい、耳鳴り、視機能障害、倦怠

感です。これらの症状は、起立や座位で悪化する傾向にあります。

その他に聴力障害、味覚障害、記憶障害、嘔気、嘔吐、手足しびれ

など、多彩な症状を示す事があります。

4.診断 脳脊髄液減少症の診断に関して、頭部 MRI では、びまん性の硬

膜増強効果や脳の下垂が認められます。特にびまん性の硬膜増強効

果が認められれば、ほぼ確定診断です。しかしこの所見の陽性率は

低く、特に外傷が原因の脳脊髄液減少症では、ほとんど硬膜増強効

果を示しません。また脳下垂を認める症例は半数程度であり、頭部

MRI はあくまで、補助診断と考えています。

 山王病院では、確定診断は主に RI 脳槽シンチグラフィーを行っ

ています。髄液漏出像という直接所見 (Fig. 2)、RI の膀胱内早期

集積や RI 残存率低下といった間接所見により診断します。脳槽シ

ンチでの髄液漏出像が広く認められていますが、この所見を示す症

例は 1/3 程度に過ぎません。経過や症状に加え、脳槽シンチでの

間接的所見により診断される症例が 2/3 を占めます(2)。

 その他、CT ミエログラフィーや MR ミエログラフィーが診断に

有用な場合があります。

5.治療と予後 治療は、安静、水分補給という保存的加療により軽快する症例が

少なくありません。保存的加療で効果を認めない場合、ブラッドパッ

チを考慮します。

≪第 1 部≫司会のことば

-頭痛・めまい診療のピットフォール-

日本国際医学協会常務理事 石 橋 健 一

 頭痛とめまいは日常診療で見過ごされがち

な不定愁訴の代表と言えます。内科だけでな

く脳神経科や耳鼻科など複数科にまたがる病

態が隠れていることがあり、初診時の問診・

診察から診断に至るまで知識と経験が求めら

れ見逃しに注意を要します。

 そこで本日は「頭痛・めまい診療のピット

フォール」と題して、頭痛診療とめまい診療の注意すべき落し穴に

ついて、それぞれ脳神経外科と耳鼻科のお二人の先生にご講演いた

だきます。

【講演Ⅰ】

頭痛診療のピットフォール -脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)とは-

山王病院脳神経外科 高 橋 浩 一

1.脳脊髄液減少症とは 脳脊髄液の減少により、頭痛、頚部痛、め

まい、耳鳴り、視機能障害、倦怠感など様々

な症状を呈する疾患です。

 1930 年代に、腰椎穿刺後に、穿刺穴から

髄液が漏れる事により、特に起立時に頭痛が

生じる低髄液圧性頭痛として報告されたのが、

歴史的に最初とされます。

 1990 年代に、立ち上がると頭痛が生じる起立性頭痛を主訴と

し、MRI で硬膜のびまん性増強効果(Fig. 1)などの画像的特徴

を示す疾患、低髄液圧症候群が報告され、その後、症例が多く認め

られるようになりました。この病態に対し、硬膜外自己血注入(ブ

ラッドパッチ)という治療が有効です。

石橋健一 先生

高橋浩一 先生

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radioisotope cisternography is not influenced by needle size

at lumbar puncture in patients with intracranial hypotension.

Cerebrospinal Fluid Research 2009, 6:5(27 May 2009)

(3)Koichi Takahashi, Tatsuo Mima. Cerebrospianl fluid hypovolemia

in Childhood and Adolescence: Clinical Features and Outcomes.

NervousSystem in Children 36:552-559, 2011

 ブラッドパッチの有効率は 70% 強です。しかし、この脳脊髄液

減少症は歴史が浅く、2 割位の方々の症状が改善しないという現状

があります。また、治療後に腰痛や全身痛などを訴えられる症例も

あり、更なる研究が必要と考えています。

 この脳脊髄液減少症は、成人のみならず小児にも発症しています。

学童、思春期発症の脳脊髄液減少症に対するブラッドパッチは成人

例に比較し有効です。特に発症から治療までの期間が 5 年以内で

あれば、治癒例も含め 90% 以上何らかの有効性が認められます

(1)(3)。

6.脳脊髄液減少症の現状と展望 山王病院では 1200 例以上の脳脊髄液減少症症例を治療してき

ました。その特徴は、外傷後、もしくは特発的に頭痛、めまい、倦

怠感などが出現して、慢性的に持続します。これらの症状は起立時

や天候の変化で悪化する傾向にあります。そのため就労や日常生活、

学業などに支障を来たし、就労不能になる方々や不登校になる子ど

も達も存在します。

 しかし、医療や社会、教育の現場では脳脊髄液減少症の認知度は、

低いのが現状です。様々な検査で異常を認めないため、むち打ち症、

うつ病、精神的な問題、起立性調節障害、自律神経失調、精神障害、

怠け病などと診断される事が多く見られます。さらに周囲からは、

だらしない、怠けているなどと思われる方々も少なくありません。

しかし当の本人の理解されない苦痛は、体調不良に加え、精神面で

落ち込み、日常生活を意欲的に生きる力が失せてしまうばかりか、

中には人生に絶望する方もいます。

 脳脊髄液減少症の診断には、まず疑い、患者の訴えに耳を傾ける

事が必要です。本症を患っている可能性があるにもかかわらず、「怠

け病」などと判断されるのは、非常に酷と思います。今までに述べ

てきたような症状を持つ方々に接した場合、脳脊髄液減少症の治療

経験と理解を十分にもった医師への紹介が望ましいと思います。

参考文献:

(1)高橋浩一,美馬達夫.小児期に発症した脳脊髄液減少症 9 例の検討 ―臨床

像とその対応―:小児の脳神経 2008;33:462-468

(2)Koichi Takahashi, Tatsuo Mima. Cerebrospinal fluid leakage after

Fig.1:びまん性硬膜造影像

Fig.2:髄液漏出像

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【講演Ⅱ】

めまい診療 -外リンパ瘻の重要性について-

慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科准教授 國 弘 幸 伸

はじめに めまいの診療は、脳神経外科医、神経内科

医、そして多くの耳鼻咽喉科医にとっても最

も苦手な領域なのではなかろうか。「めまい」

という言葉が指し示す症状は実に多彩である。

また、患者が訴える「めまい」を客観的に評

価する手段も限られている。臨床の場では「所

見のないめまい」という表現がよく用いられる。「所見のないめま

い」は往々にして心因性めまいと診断される。しかし、心因性めま

いと診断する前に必ず除外しておかなければならない疾患がいくつ

かある。代表例は脳脊髄液減少症と外リンパ瘻であろう。本稿では

外リンパ瘻の臨床像を解説するとともに診断上の難しさについて述

べる。

外リンパ瘻とは何か 外リンパ瘻とは、内耳のなかの外リンパが中耳に漏出することに

よって難聴や耳鳴などの蝸牛症状やめまいを引き起こす疾患であ

る。日本めまい平衡医学会のウェブサイトには、次のように記載さ

れている。

 “外リンパ(髄液)が内耳窓ないし fissure ante fenestram な

どから、鼓室腔へ漏出し、聴覚・平衡障害を生じる疾患である。同

義語として内耳窓破裂,前庭窓破裂,蝸牛窓破裂 , perilymphatic

fistula, perilymph fistula, perilymphatic leak, roundwindow

rupture などがある。この外リンパ瘻は、奇形、あぶみ骨手術、梅毒、

外傷(圧外傷を含む)などで生ずるが、原因不明の特発陸のものも

多い。特発性外リンパ瘻は、手術により聴覚・平衡障害の改善が期

待しうる数少ない疾患であり、その存在を念頭に置き、聴覚・平衡

障害症例を診ることが重要である。”

特徴的臨床像1.聴力

 「亜急性に進行する感音難聴」が外リンパ瘻に特徴的な聴力像と

されている。「亜急性に進行する感音難聴」とは、数日から数週間

かけて徐々に進行する難聴を指す。補充現象が陽性であり、内耳性

の感音難聴である。

2.めまい

 発作性の回転性めまいが反復する。めまいは数分以内に治まるこ

ともあるが数日以上持続することもある。浮動性のめまいが持続す

ることも稀ではない。鼻かみやくしゃみなどによってめまいが生じ

ると訴える患者もいる(迷路瘻孔症状)。また、自動車のクラクショ

ンやドアを閉める音などによってめまいが誘発されることもある

(Tullio 現象)。

3.誘因

 誘因が明らかでない特発性の外リンパ瘻が最も多いが、頭部への

直達外傷や圧外傷の既往が認められることが多い。頭部への直達外

傷の最も大きな原因は交通事故であるが、階段や崖からの転落、ス

キー中の転倒、ラグビーやアメリカンフットボルなどの激しく身体

をぶつけ合う競技、頭部の殴打、更には耳掻き中の鼓膜損傷などが

誘因となることも多い。圧外傷としては、くしゃみ、咳、鼻かみ、

潜水、飛行機への搭乗、息み(重いものを持ち上げる)などをあげ

ることができる。

國弘幸仲 先生

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診断 外リンパ瘻を診断する上で最も重要なのは問診である。上述した

誘因やめまいの増悪要因などについて詳細に問診する必要がある。

 しかし、外リンパ瘻の臨床像は多彩である。定型例では聴力は亜

急性に増悪していく。しかし、突発難聴として発症したり、聴力が

変動したり、更には聴力に全く異常が認められないことも珍しくな

い。突発難聴として発症した場合には突発性難聴と診断されること

がある。また聴力変動例ではメニエール病と診断されていることが

多い。亜急性に聴力が悪化していく定型例であっても聴神経腫瘍な

どとの鑑別が必要になる。

 また、めまいも、回転性のめまい発作が反復して生じる症例もあ

れば、浮動性めまいが持続するような症例もある。平衡機能検査で

もめまい発作の間歇期には異常が認められないことが多い。 CT

やMRIで異常が認められることも稀である。つまり、聴力像やめ

まいの性状、平衡機能検査などでは外リンパ瘻を診断することは極

めて困難である。

 最近、中耳内を生理食塩水で洗浄し、その洗浄液を採取して洗浄

液中のコクリンという物質の有無を調べる検査が一部の施設で行わ

れている。コクリンは外リンパに特有の物質であり、洗浄液からコ

クリンが検出された場合には外リンパ瘻とほぼ確定診断することが

できる。しかし、本検査はまだ限られた施設でしか行われていない。

また、本検査結果が陰性であったとしても外リンパ瘻を否定するこ

とにはならない。

 現時点では、外リンパ瘻が疑われる症例に対しては試験的鼓室開

放術を施行して、顕微鏡下に直接、外リンパの漏出の有無を観察す

る以外に確定診断を下す方法がないのが実情である。

 筆者は、外リンパ瘻が否定できない患者では、長期間にわたって

経過観察を行い、患者が受診するたびに瘻孔症状検査を行っている。

治療 重いものを持たない、息まない、激しい運動は避ける、などの生

活指導を行ってもめまいが長期間にわたって持続し、日常生活に著

しい支障が生じている場合には、瘻孔症状検査でわずかでも外リン

パ瘻が疑われれば積極的に試験的鼓室開放術を行う。そして術中、

外リンパの漏出が確認できてもできなくとも、内耳窓を軟骨膜で多

い、フィブリン糊で固定する(瘻孔閉鎖術)。

 外リンパ瘻単独例であれば予後は良好である。80%以上の症例

でめまいは改善または消失する。ただし、長期罹患例では聴力は改

善しない。

 大きな問題となるのは、脳脊髄液減少症の合併例である。脳脊髄

液減少症合併例では聴力正常例が多い。また、両側の外リンパ瘻症

例が多い。したがって、たとえ片耳に瘻孔閉鎖術を施行しても手術

の効果は限定的であることが多い。また、鼓索神経の機能が障害さ

れ、術後、味覚障害が出現することも珍しくない。おそらく、脳脊

髄液減少症患者では術前から微小循環に問題があるのであろうと筆

者は推測している。外リンパ瘻の再発例が多いことも、脳脊髄液減

少症と外リンパ瘻の合併例に対して手術治療を行う上で筆者を悩ま

せている大きな問題である。再発が多い理由は不明である。

まとめ 外リンパ瘻は頭部外傷後のめまい患者においては常に念頭におい

ておくべき疾患である。しかし、定型的な経過をたどる症例は少な

い。また、患者がどれほど強くめまいを訴えても、「所見のないめ

まい」と診断せざるを得ないこともある。つまり、本疾患を疑って

も確定診断を下すことは容易ではない。担当医が外リンパ瘻である

と確信を抱くまでには、詳細な問診と長期間にわたる経過観察が必

要とされる。しかし、冒頭でも述べたように、外リンパ瘻は手術に

よって改善が期待できる数少ないめまい疾患である。

 交通事故後の症例の診察にあたることの多い脳神経外科医や整形

外科医は、外リンパ瘻を常に念頭に置いていただきたい。

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【感想】

紹介

日本国際医学協会常務理事 石 橋 健 一

 本日は早稲田環境塾長の原剛先生にご講演をお願いしました。原

先生は早稲田大学法学部ご卒業後 1962 年に毎日新聞社に入社さ

れ、社会部記者・副部長、科学部長、編集員、論説委員として活躍

されました。1998 年からは早稲田大学大学院アジア太平洋研究

科教授、また毎日新聞客員編集委員、東京農業大学客員教授も務め

られております。「新・地球環境読本」(1992 年福武書店)、「日

本の農業」(1994 年岩波書店)、「環境が農を鍛える」(2007 年

早稲田大学出版部)等、多数の著書がございます。1993 年には

国連グローバル 500 賞、環境報道賞を受賞されています。

蘇る宮沢賢治―3・11 後の社会現象として

早稲田環境塾長 原     剛

 大震災と原発のシビアな事故は空前の「環

境破壊事件」である。地震、津波、放射能によっ

て被災地の「自然環境」と「人間環境」は壊

滅した。

 形あるものはことごとく破壊され、無形の

「文化環境」が人々の心に残った。私は、私た

ちは何者であるのか。どこから来て、どこへ

行こうとしているのか。――己れのアイデンティティを確かめるこ

とが今、被災地から同心円状に列島全域で日本人に問われている。

被災地では軒下の段ボールの端に、ガレキの壁に、消えた町を見下

ろす寺社の境内の至る所に、宮澤賢治の「雨ニモマケズ」の詩がな

ぐり書きされていた。 それによって暮らしてきた形あるものが消

し飛ばされたとき、人は生きるよすがとして 無形の存在を思うも

のなのか、あるいは否か。3・11 が私たちに発した不可避の問い

のように思える。

 2 大事故の連動が日本にとって文明史的な事件であり、社会規範

の変化を伴う出来事である、とみられている背景である。

 宮沢賢治の詩文は、故郷花巻市内に17か所、岩手県内では19

か所の石碑に刻まれている。岩手県の人々が賢治の心をわが心とし

原 剛 先生

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て親しみ、仰ぎ見ていることがうかがえる。多くの人々が賢治の記

憶と共に見入る風景とは、恐らく日本人とり分け、東北人にとって

心に語りかけ、勇気を与えてくれる「原風景」なのかもしれない。

原風景とは人の心を育て、鍛え、挫折した時にそこに戻って立ち直

ることが出来る風土性豊かな自己形成の場である(文芸評論家 奥

野健男)。

 潰滅した街を海に向かって一望に収める、石巻市の日和山公園の

頂には震災の直後、段ボールを長方形につなぎ合わせて「雨ニモマ

ケズ」の全文が黒い諧書文字で記されてあった。 賢治は死者、行

方不明者約2万2千人を記録した 1896 年の「明治三陸地震」(マ

グニチュード 8・2)の 2 ヶ月後に生まれた。そして世を去る半年

前の 1933 年(昭和 8 年)3 月 3 日、約 3 千人の犠牲者を伴っ

た「昭和三陸地震」(マグニチュード 8・1)が起きた。二つの三

陸大地震の間を生きた賢治の身体性が予見していたのだろうか、3・

11 大地震、大津波の廃虚を大海原へ向かって見下ろす、石巻市日

向山公園にある賢治の碑に「われらひとしく丘にたち」の詩が刻ま

れている。

われらひとしく丘にたち

青黒くしてぶちうてる

あやしきもののひろがりを

東はてなくのぞみけり

そは巨いなる鹽の水

海とはおのもさとれども

傳へてききしそのものと

あまりにたがふここちして

ただうつつなるうすれ日に

そのわだつみの潮騒の

うろこの國の波がしら

きほひ寄するをのぞみゐたりき

 宮沢賢治が明治 45 年 5 月 27 日、中学校 4 年の修学旅行の折

に北上川を川蒸気で下り、石巻の日和山から生まれて初めて海を見

て強い感動を受け、その折の印象を詠んだ。

雨ニモマケズと法華経 エントロピーと化し、いったん環境に溢れ出したその放射性物質

を制御することが出来ない“原子力の科学”とは、社会にとってど

のような存在なのか。 社会規範としてのエネルギーの科学的秩序

とは何か。制御不能の震災と連動して発生した東京電力福島原発の

爆発の環境、社会への影響を見れば、脱原発への社会規範の変革を

メディア、世論が見通せる状況が到来したといえないだろうか。

宮沢賢治は土壌学、肥料化学の専門科学者、技術者であった。同時

に、父親譲りの信仰心の篤い法華教徒でもあった。科学と宗教が同

一人に体現された人格をはぐくみ、「みんなのほんとうのさいわい」

を求めてイーハトーブに到る。その願望を込めた詩「雨ニモマケズ」

が、この緊急時に人々の心の拠り所となっている社会現象を、私た

ちはどのように理解したらよいだろうか。 「雨ニモマケズ」の構成

の背景にあるものを、詩の一節から考えたい。

雨にもまけず

風にもまけず

雪にも夏の暑さにもまけぬ

丈夫なからだをもち

欲はなく

決して怒らず

いつもしずかにわらっている

1日に玄米四合と

味噌と少しの野菜をたべ

あらゆることを

じぶんをかんじょうにいれず

よくみききしわかり

そしてわすれず

野原の松の林の陰の

小さな萱ぶきの小屋にいて

東に病気のこどもあれば

行って看病してやり

西につかれた母あれば

行ってその稲の束を負い

南に死にそうな人あれば

行ってこわがらなくてもいいといい

北にけんかやそしょうがあれば

つまらないからやめろといい

ひでりのときはなみだをながし

さむさのなつはおろおろあるき

みんなにデクノボーとよばれ

ほめられもせず

くにもされず

そういうものに

わたしはなりたい

(奈良市・近鉄奈良駅前の石碑 「雨ニモマケズ」)

デクノボーの原型 常不軽菩薩 「雨ニモマケズ」にこめられた、賢治の思いを読み解く手掛りと

なる二つのキ―フレーズに注目したい。「みんなにデクノボーとよ

ばれ」と「自分をかんじょうにいれず」である。

 「童話「虔十公園林」の主人公、虔十にうかがえる「デクノボー」

の原型、モデルを賢治は誰に見出していたのだろうか。 重病の床

で手帳に記された「雨ニモマケズ」の終句、すなわち「そういうも

のに わたしはなりたい」に続けて

南無無辺行菩薩

南無上行菩薩

南無多宝如来

南無妙法蓮華経

南無釈迦牟尼仏

南無浄行菩薩

南無安立行菩薩

と記されている。それは「法華経」の文言で、原文の文字の配列ど

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発 行 人 柳澤正義編集委員 石橋健一、山田 明、細田瑳一、 市橋 光、伊藤公一、北島政樹、 首藤紘一、谷口郁夫、浦部晶夫編集事務 石橋長孝、長崎孝枝発 行 所 公益財団法人 日本国際医学協会 〒 154-0011  東京都世田谷区上馬 1-15-3

MK 三軒茶屋ビル 3F TEL 03(5486)0601  FAX 03(5486)0599 E-mail : [email protected] URL : http://www.imsj.or.jp/印 刷 所 有限会社 祐光発 効 日 平成 25 年7月 31 日

おりに図示すれば、中央に一段高く置かれた法華の本尊の右傍を固

める上行、無辺行、左側に侍る浄行、安立行の四菩薩に他ならない。

四菩薩は大地から湧き出した無数の菩薩たちのリーダとして法華経

の流布教化を司る菩薩である。

 「法華経」に生きた賢治は「雨ニモマケズ」で「忘己利他」(己を

忘れ他を利する)の心境を「自分を勘定にいれず」と表現した。

 宗教色を避けて通常、教科書やいしぶみからは、法華経の文言が

消去されている。従って「雨ニモマケズ」には一見したところ宗教

色は感じられない。 しかし、実は根底に「法華経」の、とりわけ「常

不軽菩薩」(じょうふきょうぼさつ)の精神が溢れている。

 法華経の「常不軽菩薩品第二〇」に登場する常不軽菩薩は、あら

ゆる人に仏性が宿るとして合掌礼拝を重ねる。「そんなことあるも

のか、いい加減なことを言うな」と大勢の人にののしられ、石を投

げつけられても、仏性を信じ拝み続ける。

 「法華経」(仏教)に拠ることなしに、「雨ニモマケズ」を正しく

解釈することはできないのである。自ら三陸大地震を経験して去っ

た賢治の没後 116 年を経て、社会規範が揺らいでいる今、科学者

賢治の内なる宗教性が、日本人の心を動かし、共感をもたらし続け

ているのではないか。日本文化の基層に根差す科学と宗教の互恵互

譲の精神が、生活作法の記憶が、社会規範として関心を持たれ始め

ているのではないだろうか。

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The 409th International Symposium on Therapy

The 409th International Symposium on Therapy was held at the Gakushi Kaikan in Tokyo on May 23. 2013. Dr. K. Ishibashi, Managing Director of the International Medical Society of Japan

(IMSJ), presided over the meeting.

Introductory Message from the Chair

 The Pitfall of Medical care for headaches and dizziness

Kenichi Ishibashi. MD. PhDManaging Director, IMSJ

Headaches and dizziness are typical general malaise that is often taken little notice of in normal consultations. However, those symptoms could potentially be related to multiple disorders ranging from internal, cranial nerve to otolaryngological disorders, and so require close attention based on expertise and experience during the whole process from history taking at the first consultation, examination to diagnosis.

T o d a y , o u r two g u e s t s , a n e u r o s u r g e o n a n d a n otolaryngologist, are going to give us lectures on pitfalls to watch out for in examination of headaches and dizziness under the title ‘The pitfalls in examination of headaches and dizziness’.

July 31, 2013

Published by International Medical Society of Japan,

Chairman, Board of Directors: Masayoshi Yanagisawa, MD, PhD

Editors: K. Ishibashi, MD, PhD, A. Yamada, MD, PhD,

S. Hosoda, MD, PhD, K. Ichihashi, MD, PhD, K. Ito, MD, PhD,

M. Kitajima, MD, PhD, K. Shudo, PhD, I. Taniguchi, MD, PhD,

And A. Urabe, MD, PhD

3F MK Sangenjaya Building, 1-15-3 Kamiuma, Setagaya-ku, Tokyo154-0011, Japan.

TEL03(5486)0601 FAX03(5486)0599 E-mail:[email protected] http://www.imsj.or.jp/

INTERNATIONAL MEDICAL NEWSInternational Medical Society of Japan

Since 1925

ISSN 0535-1405 No.460

【Lecture I】

Pitfall of Medical care for Headache -Cerebrospianl fluid hypovolemia-

Koichi Takahashi, MD, PhDDepartment of Neurosurgery, Sanno Hospital

ABSTRACT

Intractable headache is sometimes difficult to be treated. These patients often display other symptoms such as neck pain, vertigo, fatigue, tinnitus, and visual disturbance. Many are diagnosed as orthostatic dysregulation, autonomic nervous system dysfunction, or mental problems. Common treatments include painkillers, anti-epileptic drugs and tranquilizers, but these are often ineffective. Many patients experience difficulties in daily life and some are even unable to attend school. Some of these patients happen to be later diagnosed as cerebrospinal fluid(CSF)hypovolemia and can be relieved by epidural blood patch(EBP).

CSF hypovolemia was first described as“aliquorrhea”in 1938. CSF hypovolemia has increasingly gained recognition as a pathophysiological entity since Mokri reported an association between low ICP and headaches. CSF hypovolemia is typically characterized by orthostatic headache and other clinical symptoms that have been identified by imaging techniques.

CSF hypovolemia can occur following trauma, spinal tap, epidural catheterization, or spinal or cranial operation, or can arise apparently spontaneously. Post-traumatic disorders such as whiplash injury have recently been reported as one of the cause of CSF hypovolemia.

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The clinical features of CSF hypovolemia were identified as headache, vertigo, general fatigue, or stiff neck with or without a history of trauma. Those symptoms persisted chronically or progressed. Deterioration due to orthostatic position tended to be seen.

MRI, RI cisternography, CT myelography, MR myelography are useful for the diagnosis of CSF hypovolemia. Diffuse pachymeningeal enhancement is specific to CSF hypovolemia

(Fig. 1), but reported positive rates have ranged from very low to 80%. In particular, post-traumatic CSF hypovolemia rarely shows diffuse meningeal enhancement. MRI thus appears to be the only reference examination needed for diagnosis.

In RI cisternography, it has been reported that CSF leak(Fig. 2)and early bladder fillingwas important findings for CSF hypovolemia(2).

With spontaneous CSF hypovolemia, EBP was effective in about 70%.

We previously reported the study investigated 50 cases of CSF hypovolemia onset in childhood and adolescence(3). The results are about 90% of the patients were improved by EBP. In particular, 96.0% of cases showed good or moderate recovery when onset of CSF hypovolemia and the first treatment was less than 1 year. EBP would be more effective for younger patients than for adult cases(1)(3).

However, CSF hypovolemia is still not widely recognized. This unfortunate lack of familiarity with CSF hypovolemia results in misdiagnosis. Some patients are misdiagnosed with autonomic nervous system dysfunction, orthostatic dysregulation, Barre-Lieou syndrome or depression. Patients with hyperventilation or panic disorder are occasionally diagnosed with psychological problems. If patients suffer from the above symptoms and no obvious diagnosis and treatment are found, CSF hypovolemia should be considered for the differential diagnosis.

FIGURE LEGENDS

Figure 1: MRI images of CSF hypovolemia case. Diffuse meningeal

enhancement were seen.

Figure 2: RI cisternographic images of CSF hypovolemia case. CSF

leaks were seen at the lumbar (A) and thoracolumbar (B) level (arrows).

Fig.1

Fig.2

REFERENCES

1. Takahashi K, Mima T: Cerebrospinal fluid hypovolemia onset in childhood; A report of 9 cases and clinical features. Nervous System in Children. 33:426-467, 2008,

2. Takahashi K, Mima T: Cerebrospinal fluid leakage after radioisotope cisternography is not influenced by needle size

at lumbar puncture in patients with intracranial hypotension. Cerebrospinal Fluid Research. 6:5, 2009

3. Koichi Takahashi , Tatsuo Mima. Cerebrospianl f luid hypovolemia in Childhood and Adolescence: Clinical Features and Outcomes. NervousSystem in Children 36:552-559, 2011

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【Lecture II】

Perilymph fistula

Takanobu Kunihiro, MDDepartment of Otolaryngology,

School of Medicine, Keio UniversityA perilymph fistula is a tear or defect in one or both of

the small, thin membranes(oval window and round window)between the middle and inner ears.

The changes in air pressure that occur in the middle ear normally do not affect your inner ear. However, when a fistula is present, changes in middle ear pressure will directly affect the inner ear, causing various vestibular and cochlear symptoms. The manifestations of vestibular disturbance include dizziness, vertigo, and imbalance. Those symptoms are usually accompanied by nausea and vomiting. On the other hand, hearing typically deteriorates gradually within weeks to months. Other cochlear symptoms, such as tinnitus and aural fullness, may also be present.

Head trauma is the most common cause of perilymph fistula. The causative head trauma may be a direct blow to the head or a "whiplash" injury. Fistulas may also develop after rapid or profound changes in intracranial or atmospheric pressure, as may occur with SCUBA diving, aerobatic maneuvers in airplanes, weightlifting, or childbirth. Fistulas may be present from birth. Rarely, they occur spontaneously with no preceding episodes. Fistulas may occur in one or both ears.

Establishing the diagnosis of perilymph fistula is not an easy task. First, its clinical manifestations vary considerably in individual patients. For example, the progress of hearing loss is not necessarily slow. A profound hearing loss may occur suddenly with or without vertigo. The majority of such cases are initially misdiagnosed as idiopathic sudden deafness. It is also not uncommon to see patients without any hearing abnormalities.

Introduction of the speaker of discourse

Kenichi Ishibashi. MD. PhDManaging Director, IMSJ

Today, we are honored and privileged to have President of Waseda University Environmental Round Table, Professor Takeshi Hara, as one of our lecturers. Professor Hara joined The Mainichi Newspapers after graduating from Waseda University School of Law in 1962, and worked at the forefront as a reporter of the local news section and deputy chief editor of the same section, chief editor of the science section, a member of the editorial staff and an editorial writer. He has been a professor in Graduate School of Asia-Pacific Studies at Waseda University since 1998. He is also a guest member of the editorial staff for The Mainichi Newspapers and visiting professor at Tokyo University of Agriculture. Professor Hara is the author of numerous books including “A New Guidebook on Global Environment”(Fukutake Shoten, 1992), “Agriculture in Japan”(Iwanami Shoten, Publishers, 1994)and “The Environment Strengthens Agriculture”(Waseda University Press, 2007). He also received a United Nations Environment Programme Global 500 Award for his work in broadcasting on environmental issues in 1993.

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【Discourse】

Revival of Kenji Miyazawa ― A social phenomenon after March 11

Takeshi HaraPresident of Waseda Environmetal Round Table

The‘environmental destruction’ caused by the great earthquake and the subsequent nuclear power plant accident was a catastrophe of unprecedented magnitude. The ‘natural environment’ and the ‘human environment’ of the area struck by the earthquake, tsunami and radiation were completely destroyed. Everything tangible was ruined but intangible

‘cultural environment’ was preserved in people’s minds. Who am I? Who are we? What is our origin and what are we going to be? Such a quest for our own identity started in the disaster stricken area and now people all over the nation are desperately seeking answers to those questions. In the area, the poem by Kenji Miyazawa “I will not give in to the rain” were scribbled on cardboard boxes placed under the eaves of the shelters and crumbling walls, and everywhere in the precinct of a temple that overlooks the demolished town. Is it human nature to cherish spiritual things as something that help them keep living when materials that we normally count on in our daily life have been lost? It seems to me that is an

inevitable question we all had when the incidents on March 11th happened.

That is how the two major incidents have come to be seen as significant events in the history of Japanese civilization that lead to change of the social norms.

Some of the poems by Kenji Miyazawa are engraved on stone monuments in seventeen locations in his hometown Hanamaki City and nineteen locations elsewhere in Iwate Prefecture, which illustrates how people in the prefecture look up to the poet, sharing his thoughts and associating them with their own. For many people, the landscapes that remind them of the Miyazawa’s works are probably so-called “landscapes of the heart” that touch the hearts of Japanese people, particularly those in the Tohoku region, and even give them strength to overcome hardship. A landscape of the heart is a view of a place rich in local color where one’s personality is nurtured and strengthened. The place is also somewhere one can come back when he is broken-hearted and recover himself(Takeo Okuno, literary critic).

Right after the occurrence of the earthquake, someone put up a board made of rectangular corrugated cardboards at the peak of Hiyoriyama Park in Ishimaki City that commands the whole

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area from the destroyed streets towards the sea. On the board were all the verses of the poem “I will not give in to the rain” written with black block letters. Miyazawa was born two months after ‘Meiji-Sanriku earthquake’ (8.2 on the Richter scale) in 1896 in which 22,000 people died or went missing. On March 3rd, 1933, half a year before he died, ‘Showa-Sanriku earthquake’ (8.1 on the Richter scale) occurred victimizing about 3,000 people.

116 years after the death of Miyazawa who experienced

the Sanriku earthquakes, when the current social norms are being questioned, it may be the religious aspect of the poet who is also a scientist that moves Japanese people and keeps resonating with their feelings. I suspect people are beginning to be interested in the close relationship between science and religion that has long been perceived in Japanese culture, and the good old manners in daily life as social norms. In this lecture, I would like to quote some of Miyazawa’s poems and comment on them in detail.