narrow band imaging 併用拡大内視鏡による早期胃癌診断
TRANSCRIPT
総 説
拡大内視鏡/狭帯域光観察/narrow-band imaging/早期胃癌/診断体系
Narrow-band imaging併用拡大内視鏡による早期胃癌診断
八尾建史 長浜 孝 松井敏幸 岩下明徳
1)福岡大学筑紫病院 内視鏡部,2)同 消化器科,3)同 病理部
要 旨
光学的拡大機能を有する上部消化管電子内視鏡が早期胃癌診断に応用できるようになった.さらに狭帯
域光観察narrow-band imaging(NBI)を胃拡大内視鏡観察に併用すると,さまざまな解剖学的構造が視覚
化される.これらの新しい方法について内視鏡医が知っておく必要がある基本的な原理は,拡大倍率と分
解能の違い,NBIの原理,胃における観察法・観察条件である.また,NBI併用拡大内視鏡を胃粘膜に応
用した場合,何がどのように視覚化されるかを正確に理解しておく必要がある.具体的に視覚化される解
剖学的構造は,微小血管構築像(V)については,上皮下の毛細血管・集合細静脈・病的な微小血管であり,
表面微細構造(S)については,腺窩辺縁上皮・粘膜白色不透明物質である.筆者らは,NBI併用拡大内視
鏡による早期胃癌の診断体系として,VとSの解剖学的構造を指標に用い,それぞれを regular/irregular/
absentと分類し,一定の診断規準に当てはめて診断するVS classification systemを開発した.現在,さま
ざまな臨床応用が報告されているが,白色光拡大に加えNBI併用拡大内視鏡の有用性は充分に検討され
ているとは言い難く,現在進行中の研究結果を待ち再度評価する必要がある.
Ⅰ 緒 言
2000年から通常の内視鏡と同じサイズと操作
性を有する上部消化管拡大内視鏡が一般の臨床で
も使用できるようになり,様々な臨床的有用性が
報告されている.なかでも筆者らは,世界に先駆
けて早期胃癌に特徴的な微小血管構築像を報告し
た.その後,狭帯域光観察 narrow-band imaging
(NBI)を拡大内視鏡に併用できるようになり,胃
の拡大観察が容易になったと一般に考えられてい
る.本総説では,拡大観察やNBIについての基本
的知識(原理)について論述し,NBI併用拡大観
察により視覚化される解剖学的構造について呈示
し,がん・非がんの鑑別診断を行う診断体系を提
案する.そして,早期胃癌診断に対する臨床的有
用性について,白色光観察拡大に加えNBIを併
用するとどれだけの上乗せ効果があるかについ
て,論文をレビューし考察した.
Ⅱ 基本的な原理
1.電子内視鏡時代の拡大内視鏡に必要な原理
1)拡大倍率と分解能(解像力)
近年,臨床で広く使用される内視鏡が,ファイ
バースコープから電子内視鏡に移行した.電子内
視鏡システム時代における拡大倍率と分解能の違
いについて,内視鏡医も理解しておく必要があ
る .
電子内視鏡システムにおいて,絶対的な拡大倍
率という概念は存在せず,拡大倍率はあくまでも
相対的な指標である.電子内視鏡システムにおい
ては,テレビモニターで内視鏡画像を観察するた
め,Figure 1に示す様に,1cmの病変が,モニタ
ー上に10cmの大きさに表示されれば,電子内視
Gastroenterol Endosc 2011;53:1063-75.
Kenshi YAO
Diagnosis of Early Gastric Cancer with Magnifying
Endoscopy using Narrow-band Imaging.
別刷請求先:〒818-8502福岡県筑紫野市俗明院一丁目1番1号
福岡大学筑紫病院 内視鏡部 八尾建史
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Gastroenterological Endoscopy
Vol.53(3), Mar. 2011
鏡の倍率は10倍である.モニターのサイズが倍に
なれば,同じ1cmのポリープは,20cmの大きさ
に表示されるので,電子内視鏡の倍率は20倍であ
る.すなわち,テレビモニターに内視鏡画像を表
示する電子内視鏡システムの場合は,倍率という
表記法は,あくまでも相対的な指標であり,絶対
倍率という概念は存在しない.
一方,分解能(解像力)は,「一定の距離でどれ
だけ小さい対象が明瞭に観察できるか」と定義さ
れる.Figure 2に分解能の計測に用いるテストチ
ャートを示している.チャート上には幅が異なる
5本一組の黒い線が描画されている.分解能の計
測・表記法は,様々であるが,内視鏡観察では,
どの太さの血管まで分解できるかという点が問題
となるので,内視鏡システムで,チャートを観察
した際,1本ずつの線に分解されたチャート上の
最小の黒い線の幅をもって分解能と表記している.
最大分解能は,「内視鏡の最大の光学的倍率で,
焦点が合うぎりぎりに近接した時に観察できる対
象の最小の大きさ」と定義される.本稿で述べる
拡大観察に使用した拡大内視鏡 GIF-Q240Zと
GIF-H260Zについて,最大の分解能を計測したと
ころ,それぞれ7,9μm と5.6μm であった.
光学的観察に基づく知見を報告するためには,
どの程度の分解能を持って得られた知見であるこ
とを記載しないと,検証ができないので,分解能
などの観察条件を記載していない光学的観察法で
得られた知見は,科学論文とはなり得ないという
認識が内視鏡医学の分野でも必要である.
2)Narrow-band imaging(NBI)の原理
NBIの原理は,他に多数の論文・著書で紹介さ
れているので,本稿では,簡単に述べる.NBIは,
415nm(青)と540nm(緑)を中心波長とする可
視光のなかでも短い2つの波長の光を粘膜に投射
して対象を観察する技術である.この2波長が採
用されている理由及び臨床効果は,(1)半透明であ
る粘膜上皮下の組織を浅く狭く伝播するため,表
層の微小血管内のヘモグロビンに強く吸収され,
表層の血管を高いコントラストで視覚化できるこ
と,(2)粘膜表層で強く反射され,粘膜表層部で散
乱が少ないため,粘膜表面微細構造を明瞭に描出
できることである .
これらの2波長を中心波長とする光は一定の帯
域 bandwidthを有するが,中心波長から離れた帯
域の光は,光学的に血管のコントラストを低下さ
せるので,これらの光をカットし,415nmと540
nmを中心波長とする狭い帯域の光を投射すると
表層の血管のコントラストが上がる効果がある.
これが,狭帯域光観察 narrow-band imagingと
称される所以である .
実際のシステムでは,内視鏡の手元操作部のス
イッチを押すと,キセノンランプと RGBフィル
ターの間に,NBIフィルターが挿入され,2波長
の狭帯域光が粘膜に投射され,反射光をモノクロ
CCDで捉え,ビデオプロセッサーで画像処理を行
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Figure 1 電子内視鏡の拡大倍率.10mm大の病変が14イン
チモニター上に100mm(10cm)に表示されれば,電子内視鏡の
拡大倍率は,10倍と計算される.モニターが28インチであれ
ば,モニター上に表示される病変の大きさは,200mm(20cm)
となり,拡大倍率は,20倍と計算される.
Figure 2 分解能(解像力)の計測に用いるチャート(TOPPAN
TEST CHART No.1).
■
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Figure 3 白色光による内視鏡観察(面順次方式).(文献6より引用・転載)
Figure 4 NBIによる内視鏡観察(面順次方式).(文献6より引用・転載)
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Figure 5 NBI併用胃拡大内視鏡により視覚化される胃体部腺粘膜表層の解剖学的構造.上皮下毛
細血管 subepithelial capillary;腺窩辺縁上皮marginal crypt epithelium;腺窩開口部crypt-open-
ing(CO);窩間部 intervening part(IP).(文献8より引用・転載)
Figure 6 NBI併用胃拡大内視鏡により視覚化される胃幽門腺粘膜表層の解剖学的構造.上皮下毛
細血管 subepithelial capillary;腺窩辺縁上皮marginal crypt epithelium;腺窩開口部crypt-open-
ing(CO);窩間部 intervening part(IP).(文献8より引用・転載)
■
いモニターにカラー画像として表示される(Fig-
ure 3,4).
胃は,食道や大腸と異なり内腔が管腔臓器なの
で,通常観察にNBIを併用すると暗く実用に耐
えないので,近接観察または拡大観察のみにNBI
を併用する.
3)胃における観察法・観察条件
前述した毛細血管を観察するために必要な分解
能を得るためには,黒色の柔らかいフード black
soft hood(GIF-Q240Z用には,MB-162,GIF-
H260Z用には,MB-46)が必要である .検査前
に,あらかじめフードを内視鏡先端に装着し,検
査中にフード先端を粘膜に密着させれば,内視鏡
先端と粘膜の距離を一定に保つことができるの
で,最大倍率で常にピントの合った画像が得るこ
とができる .
フードの深さは大変浅いので,非拡大観察時に
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Table 1 早期胃癌100病変中のVS classification systemによるNBI併用拡大内視鏡所見の出現率.(文献4から引用・転載)
V:microvascular pattern;S:microsurface pattern
VS classification
V
Regular
Regular
Regular
Irregular
Irregular
Irregular
Absent
Absent
Absent
Total 100 97 3
Regular
Irregular
Absent
Regular
Irregular
Absent
Regular
Irregular
Absent
1
0
2
7
56
30
0
4
0
0
0
0
7
56
30
0
4
0
1
0
2
0
0
0
0
0
0
S n Present Absent
Demarcation line, n
Figure 7 VS classification.V:microvascuar pattern;S:microsurfacepattern;矢印:demarcation line.(文献4より引用転載)
視野の妨げになることはない.さらに,フードは
柔らかいので,粘膜を傷つけることもない利点が
ある.600例以上のルーチン検査に使用しても,フ
ードが脱落したことなどの不都合なイベントが生
じたことはない .
Ⅲ 腺上皮におけるNBI併用拡大内視鏡
により視覚化される解剖学的構造
食道の重層扁平上皮と異なり,胃は,腺窩 crypt
を有する凹凸を伴う粘膜なので,どの解剖学的構
造がどのようにNBI併用拡大観察により視覚化
されているか明らかにする必要がある.Figure 5
に正常胃体部腺領域粘膜の表層部の解剖とそれに
対応するNBI併用拡大内視鏡像を示している.
具体的には,腺窩辺縁上皮marginal crypt epith-
elium(MCE)が,類円形の白色帯状構造,垂直に
走行する腺開口部 crypt openings(CO)は,褐色
の類円形構造,上皮直下の毛細血管は,多角形の
閉鎖状ループの構造に対応する .特に,胃幽門腺
粘膜(Figure 6)や病的な粘膜では,腺窩が垂直
に走行することはまれであるので,褐色の腺開口
部 COが褐色に視覚化されることは,少ない.
さらにUedoらは慢性胃炎粘膜を対象として
NBIの415nmを中心波長とする狭帯域光を投射
すると,腸上皮化生の brush borderが青白い線状
の反射光として観察される所見を発見し,light
blue crest(LBC)と呼称し報告している .本現
象は,小腸型の形質を有する癌のMCE辺縁にも
観察されることがあり,癌粘膜に LBCが陽性の
場合は,組織学的に CD10陽性の腸型の形質を示
唆する表面微細構造の指標となる .LBCは,
NBI観察でしか視覚化されない点で ,光学的に
意義が深い.
Ⅳ NBI併用胃拡大内視鏡のがん・非がん
を鑑別する診断体系:VS(vessel plus
surface)classification system
筆者らは,3カ国の内視鏡医でコンセンサスを
得た胃癌の診断体系VS classification systemを
提唱している .
1)原則
早期胃癌のNBI併用拡大内視鏡所見を解析す
る原則は,上記した解剖学的構造を指標に用い,
微小血管構築像(microvascular pattern,V)と
表面微細構造(microsurface pattern,S)につい
て,別々に解析し,Vと Sの所見を一定の診断規
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Figure 8 限局した胃炎と小胃癌の鑑別診断.(文献4より引用転載)
a:陥凹型胃炎のNBI併用拡大内視鏡像.矢印のdemarcation line内側の病変部VS classificationは,regular MV pattern plus regular
MS patternを呈する.具体的には,個々の微小血管は閉鎖状の多角形ループからなり,整然としたネットワークを形成している.
血管のループの中心に類円形のMCEが存在し,規則的に配列している.
b:陥凹型小胃癌のNBI併用拡大内視鏡像.矢印の内側の病変部VS classificationは,irregular MV pattern plus irregular MS patternである.具体的には,個々の微小血管は,樹枝状からループ状血管など多彩な形態を呈し,分布は非対称性で,配列も不規則である.
表面微細構造は,多様性や大小不同を有する弧状のMCEが視覚化させていおり,分布は非対称性で配列は不規則である.
a b
■
準に照らし合わせて診断することである .
2)VS classificationの定義(Figure 7)
微小血管構築像micorvascular(MV)pattern
(“V”):解析に用いる基本的な解剖学的構造は,
(ⅰ)毛細血管 capillary,(ⅱ)集合細静脈 collect-
ing venule,(ⅲ)微小血管microvesselsである.
なお,微小血管は,毛細血管にも細静脈にも分類
できない微小な血管の総称である.微小血管構築
像は,以下の3つに分類される.
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a b
c d
Figure 9
a:0Ⅱb型早期胃癌,非拡大通常観察像(GIF-Q240Z).
b:境界部のNBI併用拡大内視鏡(フルズーム,浸水観察).
背景粘膜VS classification:regular MV pattern plus regular MS pattern.具体的には,個々の血管の形態は,開放性ループ状で
あり,分布は対称性で配列は規則的である.個々のMCEの形態は主に弧状で形状不均一を認めず,分布は対称性で配列は規則的で
ある.
境界部:明瞭なdemarcation lineを認める.(intraepithelial microinvasion(+)癌粘膜VS classification:irregular MV pattern plus
irregular MS pattern.具体的には,個々の血管の形態は複雑な閉鎖性ループ状である,形状が不均一である.分布は非対称性であ
り,配列も不規則である.個々のMCEは弧状であるが,途中での中断やVS discordanceも著明である.
c:非拡大通常観察像(マーキング後).拡大内視鏡により正確に癌の境界を同定し,demarcation lineの外側にマーキングした.
d:ESD切除後ホルマリン固定標本,再構築像.
マーキングの内側に正確に癌が同定されていることが証明できる.
(Figure 9-a~dは,文献12より引用・転載)
Regular MV pattern:個々の微小血管の形態
は,開放性ループ状または閉鎖性ループ状(多角
形)であり,形状は均一であり,分布は対称性で
配列は規則的である.
Irregular MV pattern:個々の微小血管の形
態は,様々で,開放性ループ状,閉鎖製ループ状
(多角形),蛇行状,分枝状,奇異な(bizarrely
shaped),など形状は不均一である.分布は非対称
性で,配列は不規則である.
Absent MV pattern:粘膜表層に白色不透明
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a b
Figure 10
a:胃腺腫の通常観察像.前庭部前壁に褪色調の扁平隆起性病変を認める(矢印).
b:胃腺腫のNBI併用拡大内視鏡像(WOS陽性例).褪色調の病変を拡大すると,MCEで取り囲まれた窩間部に白色不透明物質(WOS)
が存在するため,上皮下の血管が透見できない.WOSの形態を詳細に解析すると,規則的な迷路状の形態を呈している.このよう
な場合は,VS classificationは,absent MV pattern plus regular MS pattern(WOS+)と記載する.
(Figure 10は文献21より引用・転載)
a b
Figure 11
a:0Ⅱa型早期胃癌の通常内視鏡像.胃角後壁に発赤調の扁平隆起性病変を認めた.
b:早期胃癌のNBI併用拡大内視鏡像(WOS陽性例).Figure 11-aの病変辺縁部(矢印)を拡大観察すると,demarcation lineの内側
の腫瘍部は,MCEで取り囲まれた窩間部に白色不透明物質(WOS)が存在するため,上皮下の血管が透見できない.WOSの形態を
詳細に解析すると,点状から斑状であり,個々の大きさや形態は不均一であり,腺腫と比較して明らかに不規則である.このような
場合は,VS classificationは,absent MV pattern plus irregular MS pattern(WOS+)と記載する.(文献4より引用転載)
■
物質white opaque substance(WOS)などが存
在し,粘膜上皮下の微小血管が透見できない場合.
表面微細構造microsurface pattern(“S”):
解析に用いる基本的な解剖学的構造は,(ⅰ)腺窩
辺縁上皮MCEと(ⅱ)粘膜白色不透明物質WOS
である.表面微細構造は,以下の3つに分類され
る.
Regular MS pattern:個々の腺窩辺縁上皮の
形態は,均一な円形/楕円形/多角形/弧状/線状で
あり,幅や長さも一定である.分布は対照的で,
配列は規則的である.WOSが存在し,WOSが均
一な形態で規則的な配列を呈する場合は,regular
MS patternの指標となる.
Irregular MS pattern:個々の腺窩上皮の形
態は,不均一な楕円形/弧状/線状/多角形/鋸歯状
であり,幅や長さも一定でない.分布は非対称性
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a b
c d
Figure 12
a:腸型腸高分化腺癌の通常内視鏡像.胃体中部小湾に発赤調のわずかに陥凹した病変を認めた.
b:腸型腸高分化腺癌のNBI併用内視鏡像.発赤した病変部を拡大すると,大小不同を有する弧状のMCEは,LBCにより縁取られてた.
MCEの辺縁は,不整である.別の部位に明らかな不整な微小血管構築像を認めたので,VS classificationは,irregular MV pattern
plus irregular MS pattern(LBC+)と判定した.
c:ESD切除標本の組織学的所見.細胞異型が弱い完全型腸上皮化生に類似した異型線管からなる腸型の超高分化腺癌に合致する所見
であった.
d:CD10を用いた免疫染色.CD10陽性であり,拡大内視鏡のLBCに合致する所見であった.他の粘液形質は,MUC2陽性,MUC5AC陰性,MUC6陰性であり,腸型形質のみを有する超高分化腺癌と診断した.
(Figure 12-a~dは,文献12より引用・転載)
で配列は不規則である.WOSが存在する場合は,
WOSそのものが不均一な形態で不規則な配列を
呈する場合は,irregular MS patternの指標となる.
Absent MS pattern:腺窩辺縁上皮やWOSな
ど粘膜表面微細構造が視覚化されていない場合.
3)早期胃癌の診断規準
従来の検討に基づき,拡大内視鏡所見が,以下
の(ⅰ)または(ⅱ)を満たす場合,癌と診断す
るという早期胃癌の拡大内視鏡による診断規準
(案)を筆者らは提案している.
(ⅰ)The presence of an irregular MV pattern
with a demarcation line
(ⅱ)The presence of an irregular MS pattern
with a demarcation line
4)VS classification systemの有用性と限界
Table 1に連続した100例の早期胃癌に対して
NBI併用胃拡大内視鏡観察によりVS classifica-
tionを行った結果を示す.要約すると97%の早
期胃癌が上記の診断規準を満たしていた.診断規
準を満たさなかった3例の早期胃癌は,すべて肉
眼的に褪色調の表面平坦型または表面陥凹型を呈
し,組織学的に未分化型癌であった .
Ⅴ 臨床応用
NBI併用胃拡大内視鏡のさまざまな臨床応用
が報告されているが,本稿では,早期胃癌診断に
関連したものを紹介する.
1.限局した胃炎と早期胃癌の鑑別診断(Figure
8):有用性と限界
日常の胃内視鏡検査で頻繁に遭遇する限局した
発赤やわずかに陥凹した病変については,従来の
内視鏡検査では,胃炎と胃癌の鑑別診断は,困難
であった.しかしながら,毛細血管レベルまで分
解できる拡大内視鏡検査をルーチン内視鏡検査に
用いると,発赤した小さく平坦な病変については,
拡大内視鏡が相当な正診率を持って,診断できる
ことをすでに筆者らは報告した .その後,NBIを
併用した胃拡大内視鏡の同様の臨床応用が報告さ
れている.白色光拡大観察と比較してNBI併用
拡大内視鏡の診断能が高いと報告はされてい
る .しかし,観察条件(どの程度の分解能を用
いたのか),内視鏡医の熟練度などを統一して,系
統的に白色光拡大観察に比較してNBI拡大観察
がすぐれているという証明をすることが必要
で .今後の検討課題である.
2.早期胃癌の術前境界診断(Figure 9 ):有用性
と限界
微小血管構築像を指標にした胃拡大内視鏡は,
早期胃癌の内視鏡治療に必要な境界診断に有用で
あることを,われわれは世界に先駆けて報告し
た .その後,NBIを併用した胃拡大内視鏡を
用いた早期胃癌の境界診断の有用性については,
EMRを対象とした小病変について報告されてい
る .ESDの適応病変・適応拡大病変となるよう
な広汎な病変を対象とした場合に境界診断の有用
性を検討することが,実際の臨床に最も即してい
る.さらに,従来の診断法で診断困難な病変につ
いてNBI併用拡大内視鏡の有用性を明らかにす
る必要がある.筆者らが行った425例を対称とし
た検討 では,インジゴカルミン色素撒布法を用
いた通常内視鏡で癌の境界を全周性にわたり同定
することができなかった病変(通常内視鏡限界病
変)の頻度は,19%であった.これらの通常内視
鏡限界病変に対し,NBI併用胃拡大内視鏡で境界
診断を行うと,76%の病変に対しては,癌の境界
を全周に渡り同定することができた.残りのNBI
併用胃拡大内視鏡を用いても全周に渡り境界診断
ができない病変は,未分化型癌,分化型癌のうち,
超高分化腺癌のうち非癌腺管が組織学的に混在し
た境界部を有する病変,中分化腺癌のなかでも構
造異型が弱い病変であった.
NBI併用拡大内視鏡の登場により,境界診断に
対する有用性は強調されるに至ったが,白色光拡
大内視鏡と比較して,NBI併用拡大内視鏡がすぐ
れていると客観的に証明した報告はない.
3.腺腫と早期胃癌の鑑別診断(Figure 10,11)
最近,筆者らは,上皮下の血管が透見されない
場合,上皮内を含む粘膜表層に白色不透明物質
WOSが存在することを発見し報告した .
WOSの本体は現在のところ明らかではないが,
特に,扁平隆起性病変に存在する頻度が高く ,血
管が視覚化されていない場合は,WOSの所見を
解析すると,腺腫と癌の鑑別診断に有用であると
報告した.他にも,腺腫と癌の鑑別診断にNBI併
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■
用胃拡大内視鏡は有用であると少数例を対象とし
た報告はされている が,WOSを加味した包括
的な診断体系を用いることが必要である.
4.超高分化腺癌の診断(Figure 12)
早期胃癌中の頻度は少ないが,従来の内視鏡や
生検組織診断では診断が困難であった組織学的に
細胞異型が弱い超高分化腺癌(低異型度癌)にも
NBI併用拡大内視鏡は有用である.超高分化腺癌
の病理学的な分類は統一されていないが,NBI併
用拡大内視鏡は,従来の内視鏡や生検のみでは,
診断が困難であった腸型の早期胃癌の診断に有用
であることを筆者らは報告した .今後,さらに症
例を集積し,解析する必要がある.
その他,NBI併用拡大内視鏡を用いた早期胃癌
の分類とその有用性が多数提唱されており,Na-
kayoshiら は,早期胃癌の組織型を診断するの
に有用,Yagiら は,深達度診断に有用と報告し
ている.しかし,これらの報告には,観察条件の
記載がなく,他の幾多数多の分類も含め,再現性
が検討されていないので,今後の課題である.
Ⅵ おわりに
NBIは,胃粘膜については,拡大内視鏡に併用
して用いるが,血管のコントラストが上がり,さ
まざまな表面微細構造が視覚化されるので,腺窩
などの微細な凹凸を有する上皮については,何が
どのように視覚化されているのかを理解し臨床応
用を行わないと,科学的な手法として普遍的に用
いられる診断体系の確立は不可能である .本稿
では,その点と現在まで報告されている臨床応用
について,解説した.
本邦では,2006年からNBIを搭載した電子内
視鏡システムが市販されて一般の臨床で広く使用
されるようになり,まだ間もない.早期胃癌に対
する臨床的有用性を報告した論文も散見される
が,白色光拡大観察をNBI併用拡大観察という
手法に変更したのみであり,オリジナリティーに
乏しく,エビデンスのレベルも高くない .従っ
て,今回の総説で,早期胃癌に対するNBI併用拡
大内視鏡の有用性について評価するのは,時期尚
早と考える.現在,NBI併用拡大内視鏡の胃炎と
胃癌の診断能について多施設によるランダム化比
較試験(UMIN Clinical Trial Registry ID
C000001072)や多施設による医療経済性の検討
(UMIN Clinical Trial Registry ID R000004875)
が進行中であり,それらの結果を待ちたい.そし
て,優れたスタディデザインで得られた実際の臨
床の成績に基づき,新しい手法の有用性をあらた
めて評価したい.
文 献
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■
DIAGNOSIS OF EARLY GASTRIC CANCER WITH MAGNIFYING
ENDOSCOPY USING NARROW-BAND IMAGING
Kenshi YAO , Takashi NAGAHAMA , Toshiyuki MATSUI
AND Akinori IWASHITA
1)Department of Endoscopy, Fukuoka University Chikushi Hospital.
2)Department of Gastroenterology, Fukuoka University Chikushi Hospital.
3)Department of Pathology, Fukuoka University Chikushi Hospital.
Recently,magnifying endoscopy(ME)has been applied to the diagnosis of early gastric
cancer. In addition,ME with narrow-band imaging (NBI)can visualize various anatomical
components. In order to understand the principles behind such techniques,we describe herein
the difference between magnifying ratio and resolution,NBI technique and standard endoscopy
techniques.Furthermore,we should familiarize ourselves with the microanatomy which can be
visualized with NBI-ME,and how this is achieved. As for the microvascular architecture(V),
subepithelial capillaries,collecting venules and pathological microvessels are visualized,where-
as for the microsurface structure (S), the marginal crypt epithelium and white opaque sub-
stance are visualized. We proposed the so-called“VS classification system”for the diagnosis
of early gastric caner with NBI-ME. There are several preliminary reports which have
described the clinical usefulness of NBI-ME. However,studies investigating the use of NBI-
ME for early gastric cancer are limited in number and in quality. More and better-designed
studies are needed in order to evaluate the possible indication for NBI-ME and the additional
value of NBI over white light imaging.
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Gastroenterological Endoscopy
Vol.53(3), Mar. 2011 総説 Narrow-band imaging併用拡大内視鏡による早期胃癌診断