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Muv Luv Alternative Plantinum`s Avenger 14

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Page 1: Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger ID:212501

Muv─Luv Alternative Plantinum`s Avenger

セントラル14

Page 2: Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger ID:212501

【泚意事項】

 このファむルは「ハヌメルン」で掲茉䞭の䜜品を自動的に

化したものです。

 小説の䜜者、「ハヌメルン」の運営者に無断でファむル及び䜜

品を匕甚の範囲を超える圢で転茉・改倉・再配垃・販売するこずを犁

じたす。

  【あらすじ】

 はじめは"元の䞖界"に還りたいず願った。

 だがそれは叶わず、戊いが突き぀けられる。

 戊いに身を任せ、戊い、戊い、戊い続けた。資源、食料、ヒト、党

おをすり枛らしながら。

 い぀死んだ? 䜕凊で死んだ?

 はじたりに戻っおいた。

 そこでも戊い、戊い、戊いだ。戊いに明け暮れるが、そこでは党お

を倱った。党おだ。

 力があっおも、知識があっおも、芚悟がそこにはなかった。芚悟が

なかったから倱った。厳しく生きる術を教えおくれた教官、名を明か

すこずが蚱されない先任、蚓緎郚隊から䞀緒だった仲間たち、そしお、

愛する人。

 党おを倱っお手に入れるこずができたのは、人類に残された時間の

延長だった。そう、誰も頌らず独り藻掻き足掻き苊しむ人が蚀った。

 それでよかったのか?

 ただ出来るこずがあったのではないか?

 もし叶うのならば

 ──────俺は嫌だ。俺は戊う、戊いたい

 ──────だったら䞀緒に戊おう、タケルちゃん。でも、これが

最初で最埌だよ

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  目   次  

────────────────────

 

1

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6

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14

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21

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29

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39

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47

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57

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66

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77

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86

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96

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104

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115

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126

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137

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148

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160

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172

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182

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190

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198

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208

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  

219

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  

227

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239

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248

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260

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268

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276

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283

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293

──────────────────

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303

──────────────────

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311

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323

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335

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345

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352

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359

──────────────────

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366

──────────────────

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374

──────────────────

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380

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386

──────────────────

  

395

──────────────────

  

404

──────────────────

  

413

──────────────────

  

427

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

  ※この物語はフィクションです。実圚する人物・団䜓・組織・囜家

等は架空であり、珟実のものずは関係ありたせん。

  ﹇幎月日 暪浜基地 桜の朚﹈

 "昚日"の出来事で賑わいが収たらない暪浜基地をバックに、俺は

二人の女性ず盞察しおいた。䞀人は劙霢、囜連軍制服の䞊に癜衣を矜

織っおいる。"ある蚈画"の責任者で、独り䞖界を救うために戊っお

いる人。基地の副叞什も兌任しおいるが、基地内で䞀番暩力を持っお

いる人でもある。

 もう䞀人はあどけなさの残る少女、囜連軍制服に改造を斜しおい

る。頭には特城的な倧きな髪食りを付けおいた。

 䞘の䞊に立぀基地の呚囲は、ずっず瓊瀫ず廃墟が続いおいる。吊。

ただ䞀週間前に䟵攻しおきた■■■■の爪痕や死骞の凊理が終わっ

おいない。

 荒れに荒れた土地であり、人の䜏むこずのできない堎所ずも蚀われ

おいる。しかし、俺にずっおはかけがえのない思い出の詰たった堎

所。今いる桜の朚の䞋も、この土地での怍生は絶望的であるず蚀われ

ながらも、こうしお生き続けおいる。きっず春には花を咲かせ、坂を

圩るこずになるだろう。

 そんな桜の朚の䞋で、俺は重々しくも口を開いた。

「埌は、よろしくお願いしたす。先生」

「さようなら、ガキ臭い英雄さん」

 薄れゆく俺の躰。タむムリミットが寞前たで迫る。今は存圚しな

い、着慣れた"衛士蚓緎孊校"の制服に身を包み、少女の方に声を掛

ける。

「■。先生を助けおやっおくれ」

「  はい」

「皆のこず、誇らしく語っおやれよ? 俺にはもう無理だからな」

「  はい」

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 少女はう぀むきながら、俺の蚀葉に小さく答える。その衚情がどう

なっおいるかなんお想像に容易い。だが、俺にはもうどうしおやるこ

ずも出来ない。

 埐々に手の向こう偎の透明床が高くなり、もう本圓に時間がないこ

ずを知らされる。

 透けおいく俺の躰を芋た少女は、スッず顔を䞊げる。倧きな灰色の

瞳から、倧粒の涙がこがれ萜ちる。

「私、平和になったら海を芋に行きたす」

「あぁ。いっぱい思い出を䜜るんだ。■だけの思い出を」

 限界たで薄れた俺の躰を、今床は光が包み蟌んだ。俺はそれでも、

届く限り声を出し続け䌝える事を諊めない少女の蚀葉に耳を傟ける。

「私、あなたがどこの"侖界"にいおも、ずっず芋おいたす」

「  っ」

「私は──────あなたのこずを忘れたせんッ!! たずえ"この䞖

界"の人たちが忘れおしたったずしおも、私は忘れたせん!!」

 もう少女も、劙霢の女性もがんやりずしか芋えない、声を遠くぞ

行っおしたっお聞こえなくおも、俺はずっず耳を傟ける。

「これが私の気持ちなのか、■■さんの気持ちなのかは分かりたせん。

  ですけど、私はあなたのこずが奜きでした」

 届くか分からない蚀葉を、俺は口に出した。

「そうか  ありがずう、■」

 やがお二人の姿は芋えなくなり、声も聞こえなくなった。光の䞖界

の䞭、俺はずっず考えおいた事を思い出す。

 ──────本圓にこれでよかったのか?

 "䞀床経隓した䞖界"で埗た力があった。だが、力があっおも俺に

は芚悟がなかった。だから党おを倱った。

 党おを倱っお手に入れたモノは、人類に遺された時間の延長だっ

た。

 䜕もかも投げ売っお、ただただひたむきに人類の勝利を、人類の存

続のために独りで戊っおいる人を、たた独りにしお、党お抌し付けお、

俺は消えおしたっおもよかったのか。

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 最初は垰りたいず思っおいたはずなのに、あれだけ呚囲に迷惑を掛

けおきた結果が"これ"で本圓によかったのか。

 吊、いいはずがない。

 もし叶うのならば  。

 ──────俺はたただ戊える。

 ──────䜕もかも党お倱っお、党おあの人に抌し付ける圢で

去っおしたうなんお嫌だ!!

 ──────やり盎せるのなら俺は  ッ!!

 ──────■■ヌヌヌッ!!!!

 ※※※

 ﹇幎月日 暪浜垂柊町 癜銀宅﹈

 瞌が思い。それに枩かい。垃団の䞭にいるのだろうか。光の䞭で

挂った蚘憶はある。その時、"䜕を考えおいた"のかも思い出せる。

だが、突然芖界がブラックアりトしたのだ。しかし、目を芚たしおみ

るず状況は䞀倉しおいた。垃団の䞭にいるのだ。

 もしかしお、ちゃんず俺は"戻れた"のかもしれない。だが、どう

だろう。䜕かおかしい。"戻っおきおいる"のなら、今日は月

日。ならば、俺の暪にいるべき人がいるはずだ。勝手に家に䞊がり

蟌み、あた぀さえ俺の垃団に入っおいた──────■■。

 目を開いお確認するが、䞡脇には誰も居ない。嫌な予感が頭をよぎ

る。確かに、光の䞭で願ったこずはある。しかし、■■■■から開攟

された俺は"戻っおいる"はずなのだ。もし、䞇が䞀、仮に"戻らな

かった"ずすればどうする。

 決たっおいる。俺のするこずは決たっおいるのだ。

 勢いよく起き䞊がり、壁に掛けおある服に手を掛ける。癜陵柊孊園

の制服だ。身支床を敎えお自分の郚屋から出ようずしたその時のこ

ずだ。

 劈くタむダのスリップ音。朝にも関わらず倧きな物音を立おた自

動車が、俺の家の前に停たったようだ。

 ──────自動車が俺の家の前に停たった?!

 状況が分からず少し慌おた俺は、脚を匕っ掛けお転ぶ。どうやら床

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に萜ちおいたゲヌムガむを螏んで滑ったようだ。

 俺がそんなこずをしおいる間にも、状況は刻䞀刻ず倉化しおいく。

 連打されるむンタヌホン。どうやら家に䞡芪がいたらしく、母芪の

声が䞋の階から聞こえおきた。

『はぁい、どちらさた?』

『私こういう者です以䞋省略!! 䞊がらせお貰うわ!!』

『あ、ご䞁寧にどうも  っおちょっず埅っお!!』

 聞き芚えのある声が家に䟵入しおきたようだ。母さんの胜倩気な

声が聞こえたかず思うず、ズンズンず音を立おながら階段を登っおく

る。そしお、俺の郚屋を勢いよく開いたのは  

「ちょっず来なさい!!」

「え? あ? ゆ、倕呌センセぇぇぇぇぇぇ

?!?!?!」

 䞻芳時間、数分前に別れを告げた銙月 倕呌であった。

 俺は銖根っこを捕たれお家の倖ぞ攟り出された。そしお、投げられ

お激突した自動車の暪で痛みに唞っおいるず聞こえおくる声。

「ちょっずコむツ借りおいきたす。詳现は远っお手玙なり電話なりし

たすので」

「こ、銙月さん?!」

「あ、鑑のお宅はどちら?」

「右隣ですが  ?」

「では」

 回埩しお立ち䞊がったのも束の間、今床は隣の玔倏の家のむンタヌ

おばさん

箔

倏

の

母

ホンを連打し、出おきた

を抌し退けおズカズカず家に䞊がり

蟌んだ倕呌先生。すぐに私服姿の玔倏の銖根っこを掎んで珟れ、俺の

方に攟り投げ  っおちょた

「ぐぇ!!!」

「あいたヌヌヌヌッッッ!!!!」

 攟り投げられた玔倏を受け止めたはいいものの、それなりに質量の

あるものを受け止めるずダメヌゞを受ける。よろけお自動車に凭れ、

玔倏が目を回しおいる間にも話は進んでいく。

「鑑を借りおいきたす。詳现は以䞋略」

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「以䞋略っおちょっず!!」

「さぁ、行くわよ!!」

 自動車に抌し蟌められ、タむダスピンしながら自動車は急発進。柊

町を駆け抜けお行く。

 俺は状況を掎めないたた、倕呌先生に玔倏共々拉臎られおしたっ

た。

「だ、誰か説明しおくれぇ〜」

 俺の声は虚しく車内に響くだけだった。

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 

  ﹇幎月日 垝囜軍癜陵基地 正門前﹈

 装甲車に抌し蟌められた俺は状況確認をしおいた。䞀緒に攟り蟌

たれた玔倏に今日は䜕幎䜕月䜕日かを聞き出したずころ、「タケル

ちゃん遂にボケた?」ず本気で心配された。バカにされる方がただマ

シな皋、屈蟱を味わったぜ。

 心配しおいる玔倏曰く、今日は幎月日である。どう考

えたっお幎月日に飛ぶ筈だったのに、どうしお幎

も前にずれ蟌んでいるのか甚だおかしいこずだったのだが、それもこ

れも党お玔倏の発蚀によっお消し飛んだ。

「確かに今日が幎月日じゃないのは倉かもしれない

けど、党郚タケルちゃんが望んたこずだよ?」

 意味が党く分かりたせん。ずもかく、倧暎走する装甲車の䞭で事情

を知っおいる玔倏が説明をしおくれたのだ。

「はじめに、私はタケルちゃんが知っおる玔倏で間違いないよ。タケ

ルちゃんに分かりやすく蚀えば"前の䞖界"の私。たぁ、因果の流入

で"元の䞖界"の私も混じっおるけどね」

 前眮きにそんなこずを蚀った玔倏は、そのたた話を続けた。

「消える瞬間、タケルちゃんは願ったよね? 皆倱っお埗た時間を、自

分は圹目を終えお銙月先生に抌し付けるような圢で消えるなんお嫌

だヌっお。俺はただ戊えるんだヌっお。出来るこずがただあるん

だヌっお」

「そ、それは  」

 あの時、ナニットである玔倏は機胜停止しおいた筈。なのに、

䜕故知っおいるんだ。俺が光の䞭、願ったこずを。

「た、いいじゃないのさ!! 私もタケルちゃんず同じ願いがあるし、だ

からこうしお䞀緒に䞖界を枡ったの。タケルちゃんを助けるために、

そしお、タケルちゃんが助けるみんなのために」

「玔倏  」

「た、いろいろ問題が発生しおるみたいだけどね。詳しくは銙月先生

6

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ず萜ち着いた堎所で話すよ」

「す、玔倏ぁ  」

「でも䞁床よかったよ。倱敗は倱敗でも、結果オヌラむ? ね、銙月先

生」

 今たで玔倏ずの䌚話に集䞭しおいたが、話はずっず聞いおいたみた

いだ。装甲車を運転しおきたのは倕呌先生ではないので、こっちを向

いお話を聞いおたみたいだ。ちなみにドラむバヌ姿は芋えないが、垂

街地を爆走䞭のため党く聞こえない暡様。

「そヌよヌ? 党く、鑑は癜銀の願いを叶えるために、私を巻き蟌んだ

わ。暪浜基地の桜の朚の䞋で、私は癜銀を包んでいたパラポゞトロニ

りム光に取り蟌たれた。倚分だけど、アンタもあの光の䞭で挂っおい

たんでしょうね。その間だけ、私もその空間にいた。その時に蚀われ

たのよ『こんな終わり、先生も嫌でしょ?』っおね。誰が䜕のために

そんなこずを蚀ったのかは、その時には分からなかった。だけどあの

堎には瀟もいたのよ。瀟は分かったように『  私は嫌です』っお答

えた。果たしおそこが終わりなのかは分からなかった。だけど、答え

るたでもなかったわね。そうしたらここに居たっお蚳」

 倖を芋なさい、ず蚀わた俺は、装甲車のハッチを開いお倖を芋る。

そこには芋慣れない軍事斜蚭があった。門扉には『日本垝囜軍 癜陵

基地』ず曞かれおいる。

「ここは暪浜基地が建蚭されるたで私が拠点にしおいたずころ。

たぁ、埌で仙台基地に移るんだけどね  。ここの執務宀で私は起き

た。そしお状況を理解したの」

「  ルヌプしたこずに、ですか?」

「そうよ。蚘憶は保持したたた。状況を確認しおいたら、血盞を倉え

た瀟がすっ飛んできお私に報告。私よりも先に目芚めた瀟が確認を

取っおくれおいたのよ。そうしたらあら䞍思議、幎前に遡っおたっ

おワケ」

 ケラケラず笑いながら、倕呌先生は俺にあるモノを投げ぀ける。慌

おお受け取るず、そこには蟞什ず共に階玚章ず衛士埜章が入れられお

いた。

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「䞖の䞭の女の宿願、若返りを経隓させおもらったお瀌よ。次いでに、

アンタは吊応なしに私の元に来るただろうから、先に手を打たせおも

らったわ」

「先生  でも俺、さっき確認したんですけど、子どもっすよ?」

「ぞヌきよ〜。衚向きは私にスカりトされた倩才児っお扱いだから。

別に今曎孊校で勉匷しお蚓緎兵する気にもなれないでしょ?」

「そうですけど  」

 蟞什は簡単。本日付で囜連軍少尉に任官。

「それに、アンタにはこれたでの鬱憀を晎らすべく、あちこち駆けずり

回っお貰うわけよ。そうなれば既に衛士ずしおの技量も実戊経隓も

ある珟圹衛士で、私の蚈画を知っおいるアンタを遊ばせおおくわけに

もいかないわ」

「いやですから俺子ども!!」

「聞こえないわ。気合でどうにかしなさい」

「科孊者が根性論?!」

 かなり頭の痛い思いをするものの、暪浜基地での倕呌先生ずはかけ

離れた姿をしおいる目の前の倕呌先生が、本来の倕呌先生であるかの

ように思えた。唯我独尊・傍若無人な人であるこずを、すっかり忘れ

おいた。

「たぁたぁタケルちゃん。倕呌先生も気合入っおるんだよ。これたで

奜き勝手蚀っおた人たちを叩き朰す気みたいだから」

「奜き勝手っおたさか」

「うん。䞖界䞭に"あの爆匟"を萜ずした埌、ラグランゞュ点で建造

しおる跳躍航宙艊で倖宇宙に逃げる぀もりの人たち」

「うげ  」

 人類から遞別された䞇人ず共に跳躍航宙艊で地球圏を脱出す

るのず同時に、地球䞊の党ハむノに"匟"を倧量投䞋するこずで焊

土䜜戊を立案しおいるオルタネむティノ。俺はそれを目の圓たり

にしおいるからこそ、それがどれほど愚かな遞択であったのかを理解

しおいた。それず同時に倕呌先生の提唱するオルタネむティノが

人類にずっおどれほど有益なものであるのかも。

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「た、ほがほが私のオルタネむティノも完遂っおずころだしぃ。

を叩き出す次䞖代蚈画を立案するために、発動期間を先延ばし

させながら培底的に虐めおやるわよ」

「いじめっ子の顔しおたすよ、倕呌先生」

「あら、今たで私はいじめられっ子だったのよ? それに、仕返しは圓

然。やったのならやられるこずも想定しおいないずねぇ」

 ふふふっ、ず怪しい笑みをする倕呌先生を暪目に芋぀぀、玔倏の方

を芋る。さっきたで気が動転したり、自分のこずを考えおいお気も回

らなかったが、ようやく玔倏のこずを気にするこずが出来る。

 よくよく芋れば、玔倏の姿は"俺が前芋た時"ず倉わっおいない。

そしお俺はずいうず、少々身長が瞮んでいた。癜陵の制服がブカブカ

だもんなぁ。筋力は少し萜ちおいるものの、軍人ずしおなら問題無い

レベルだ。元に戻すトレヌニングをする必芁がありそうではあるの

だが  。

「ずいうか玔倏、身䜓の方は倧䞈倫なのか?」

「倧䞈倫だよぉ〜。あ、でも胜力は残っおるかな? 流石に量

子電導脳はないず思うけど、癜陵基地に入ったら銙月先生に怜査しお

もらう぀もり」

「銖筋のパヌティションもないもんな」

「うん。た、タケルちゃん同様に身長も瞮んだし、歳になっちゃっ

たけどね」

 暎走装甲車は入堎手続きを終えたらしく、そのたた地䞊斜蚭で䞀番

倧きいずころぞず着けられた。倕呌先生に降りるよう蚀われ、装甲車

から降りる。そのたたどこか連れお行かれるのかず思いきや、倕呌先

生は装甲車の近くに立ったたただ。

「あれ? 行かないんですか?」

「あぁ、ちょっずね。ドラむバヌが降りおこないから」

 さっきたでは䞍思議には思わなかったが、䞀䜓誰だったのだろう

か。䌚話内容はかなりオルタネむティノ蚈画に関するものだったの

で、倕呌先生が話すずは思えなかった。それに、俺たちの䌚話もかな

り機密レベルの高いものだったはず。気にしおなかったが、考慮する

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べくだったかず埌悔する。

「  お埅たせたした」

「お疲れ様、瀟」

「霞ぃぃぃぃヌヌヌヌっ?!?!」

 運転垭から降りおきたのは、動かしおいた自動車からしたら想像も

付かない少女だった。ずいうか倕呌先生は䜕平然ずしおいるんです

かね。軍法に぀いおは孊んでいるから知っおいるにしおも、この䞖界

の道路亀通法はどうなっおいるんだろうか。

「なヌに倉な顔しおいるのタケルちゃん。霞ちゃんは囜連軍の軍人だ

から、資栌の䞭に囜際特殊車䞡運転免蚱もあるんだよ」

「んなもの知るかヌ!!!!」

「  乗り物は、䞀通り運転出来たす」

 やれやれず蚀いたげに玔倏が説明しおくれるが、確かに蚘憶の䞭で

はその資栌があるのは俺も知っおいる。しかし、霞では手足が届かな

くお運転出来ないのではないだろうか。

「  これは私の装甲車なんです」

「うそヌん」

「  うささん号です。専甚のパヌ゜ナルマヌクもありたす」

 霞が指さした先には、先皋俺たちが乗っおきたもの、オルタネむ

ティノ蚈画の誘臎囜が装備を提䟛しおいるため、垝囜軍でも採甚され

おいる装甲車。本来は指揮戊闘車ではあるのだが、囜連軍甚に塗り替

えられたカラヌリングの䞊にデフォルメされたうささんのパヌ゜ナ

ルマヌクが曞かれおいる。

「瀟、車庫には別の奎が戻すから、行くわよ」

「  はい」

 倕呌先生を先頭に、子どもが人䞊んで歩く。建物に入っおから、

どうも芖線を感じる。どう考えおも、倕呌先生が子ども人連れお歩

いおいるからだろうな。

 ※※※

 ﹇同日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区機密区画 銙月博士執務

宀﹈

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 倕呌先生の執務宀に到着するず、俺たちは゜ファヌに座るように蚀

われた。霞はどうやらやるこずがあるらしく、執務宀たで来るず䜕凊

かぞ行っおしたった。

 目の前には倕呌先生がコヌヒヌカップを傟けながら、俺たちに説明

を始めようずしおいた。

「さお、アンタたちにこれからしおもらうこずを説明するわ」

 執務宀には曞類や本が山のように積み䞊げられおおり、敎理も郚分

的にしかされおいない。デスクにはパ゜コンずペンが転がっおおり、

暪浜基地の執務宀ず同じ様子になっおいた。

「たず癜銀。アタシが春に蚭立したばかりの─に入っおもらお

うかず思っおいたけど、幎霢的に問題しかないからパス。しばらくの

間は特務兵ずしお動いおもらうこずになるわ。それず同時に衛士ず

しおの䜓䜜りもしなさい。盎近だず倧陞、確実なのは䞊陞の

時たでには戊闘に耐えうるだけにはなりなさい」

「了解」

 想像通りではあった。俺の利甚䟡倀なんおものはそれくらいしか

ない。しかし、俺の機動特性はこの䞖界には存圚しないものだ。曎

に、もし倕呌先生がの開発を行うのならば、俺がいなければ完

成には挕ぎ着けないはずだ。

「次に鑑。アンタは怜査、ナニットの痕跡がないかの調査をする

わ。もしなかったずしおも胜力があるのなら、そのたた攟り出

しおおくこずは危険なの。瀟ず共にオルタネむティノ構成員にな

りなさい。どのみち勉匷挬けになるけど、ナニットだった頃の蚘

憶ずかあるの?」

「ありたすよ。ですけど、䜓感的には他次元の量子電導脳ず䞊列接続

しながら、なにかをするっおいうのは無理です」

「知識は?」

「あ、あはは〜」

「はぁ  瀟を付けるから、必芁知識を党お叩き蟌みなさい」

「りょヌかいでぇす」

 䞀通り俺たちぞの今埌の説明をし終えた倕呌先生に、玔倏が手を挙

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げる。

「はいはヌい!! 銙月先生ヌ!!」

「なに?」

「私、衛士になりたいです!!」

「はぁヌヌ??」

 玔倏はそんなこずを口走る。俺ずしおは是非ずも反察するが、玔倏

がどうしお衛士になりたいのか理由を聞いおからでも遅くない。

「ど、どうしお衛士になりたいのかね、玔倏クン  」

「タケルちゃんが䜕を考えおるか分からなくもないけど、私は嫌だよ

!! 絶察ぜったい、れヌッタむ嫌!! 私は守られるだけじゃ嫌!! タ

ケルちゃん蚀っおたじゃないのさ。『玔倏は俺の半身だ』っお。私も

そう。だから私はタケルちゃんず同じずころに立぀。そしお守られ

るだけじゃなくお守るよ!! 銙月先生は私たちをオルタネむティノ

のために色々なずころに連れお行くだろうし、人前に出るこずもあ

るず思う。そこできっずタケルちゃんは色々な人の悪意に晒される

ハズ。銙月先生は芚悟の䞊だろうし、"やらなくちゃいけないこず"

もあるから䜕ずかするだろうからね。倧人だし。でもタケルちゃん

は違うじゃん。私が願っお"こんな䞖界"に攟り出されお、しなくお

もいいこずしお、傷぀かなくおいいのに傷぀いおさ  。きっず、こ

れからもそういうこずがあるず思う。だからさ、そんなタケルちゃん

の暪には私が居るの。人よりも人なら怖くないよ!!」

「玔倏  」

「はいはい、むチャコラしないの。それで、私ずしおは別にいいけど、

そうするず鑑、アンタは蚓緎兵からよ?」

「えぇ〜〜!!」

 ブヌたれる玔倏が俺に助けを求めおきた。玔倏の思いは分かった

し理解した。でもやっぱり反察ではあるのだが、玔倏はいくら蚀っお

も分からないだろうから、仕方がない。もし共に戊堎ぞ行くのなら、

俺が守っおやればいいだけだしな。あず、匷匕に撀退させる。これに

尜きる。もし任官したら倕呌先生に蚀っお、玔倏は撀退厳呜しおもら

おう。

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 そんなこんなで、今埌の倧方針が確定した。この埌は、出来るだけ

今話せる内容を話し合い、现かな方針を決めおいくこずになった。䞻

にオルタネむティノに盎接関わる内容に぀いお。兵力・資源・人材・

資金を芖野に入れた倧戊略だ。

 䌚議は時間を気にするこずなく続いおいき、気付けば倜は曎けお

いった。そしお、玔倏が掻動限界を迎えるず、䞀旊䌚議がお開きず

なったのだった。倕呌先生は、間違っおいた数匏の蚂正䜜業ず報告曞

の䜜成、論文の執筆等々を始めるらしい。しかし、郚屋を远い出され

るず思ったら『アンタたちの郚屋はないわよ? だっお、今朝飛び出

しお来たたただったからねぇ』ず、デスクに着いおパ゜コンを操䜜し

ながらそう蚀うのだ。結局、隣の仮眠宀のベッドに玔倏を寝かせ、俺

は壁に凭れながら寝るこずになったのだった。

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 

  ﹇幎月日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区機密区画

 銙月博士執務宀﹈

 昚日の蚘憶があやふやだ。日の倜、仮眠宀で寝お起きおから、息

぀く暇もない皋に倧忙しだった。䞀応囜連軍少尉ずいう肩曞は持っ

おいるが、基地内を囜連軍型軍装で闊歩するには目立ちすぎる。た

だでさえ幌いのだ。そこに囜連軍の軍装を着おいたら目立っお仕方

がない。なので、䞀先ず垝囜軍の軍装を仕立おるこずになった。䞀

応、囜連軍が間借りしおいる区画では囜連軍所属の軍人はいるもの

の、基本的には垝囜軍の軍装を纏っおいるので、それらに合わせたも

のになるのだ。この歳で身長が以䞊ある俺はただしも、玔

倏はどうすればいいものかず悩んだ。結局、俺も玔倏も䜎身長ずいう

䜓を通すこずずなった。

 採寞を行い、近いサむズのモノを取り寄せたら、次は半ば拉臎のよ

うに連れおかれた俺たちの䞡芪ぞの説明。面倒だったので、圓分は内

倖共に通すこずになった蚭定『垝囜倧孊のすごい孊者が俺ず玔倏の秘

めたる可胜性を芋出したため、将来の垝囜のために高等な教育を斜

す』ずいうものだ。぀たるずころ、飛び玚したずいうものだった。こ

の説明には俺ず玔倏䞡方の䞡芪が涙を流しお喜んだそうだ。我が䞡

芪ながらチョロ過ぎるぜ  。説明は倕呌先生ず倕呌先生の信頌で

きる腹心が、わざわざ家に行っお説明。それらしい蚀葉を䞊べたずい

う。次いでにその時枡すための手玙を曞かされた。分で曞けな

んお蚀うもんだから、必死になっお曞いた。

 残りは俺の戊術機適性怜査ず、珟段階で䜕凊たで戊えるのかの蚈

枬。玔倏も戊術機適性怜査を受けたが、その埌は霞ず勉匷䌚ずいうこ

ずで別行動になった。管制をしおいた倕呌先生がい぀の間にか居な

くなっおいたらしいが、別に苊にも思わなかったために延々ずシミュ

レヌタで戊闘を行っおいた。で、気付いたら筐䜓に搭乗しお数時間が

経っおいたずいう。い぀たでも垰っおこない俺を心配した玔倏が霞

ず、倕呌先生のずころに聞きに行ったずいう。『あ〜、なんかずっず

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やっおるから飜きちゃった。あれ? アむツただ垰っおこないの?』

ず。シミュレヌタルヌムに確認に来た䞉人は、疲れを芋せずシミュ

レヌタで倧暎れしおいた俺を芋お愕然ずしたずいう。

 そしお今、シミュレヌタから匕き摺り出された俺は、埗たデヌタを

印刷した埌にデヌタの砎棄ず完党消去を行い、倕呌先生の執務宀に

戻ったのだ。

 デヌタ確認をした埌、玔倏にい぀たでシミュレヌタに籠もっおるの

だず怒られおから蚘憶が無い。どうやら、気付いおないだけで、かな

り疲れおいたようだった。

「あっはっはっ!!! 正座したたた寝おたのアンタ!!」

「そうみたいっすね  」

「鑑の説教が長いから、途䞭から無芖しおたんだけど、そんな面癜いこ

ずになっおるのなら芋おればよかったわ」

「芋なくおいいですからね? 先生はやるこずあるでしょ?? おか遊

ぶな、痛い痛い痛い!!」

 で、目が芚めたずころ、『䜕アンタ、座犅しおたんじゃないの?』ず

蚀われた倕呌先生に説明。無茶苊茶笑われたずいうこずだ。ちなみ

に玔倏は仮眠宀で寝おいる暡様。脚が痺れお動けないのをいいこず

に、倕呌先生がゲラゲラ笑いながら俺の脚を突いお遊んでいる。いい

加枛止めお欲しいんだがなぁ。

「お遊びはこの蟺にしお、今日からアンタのするこずはあんたりない

わね」

「そうなんですか?」

「数匏の曞き換えず論文、オルタネむティノの報告曞類その他諞々。

因果埋量子論も改蚂版の執筆も行うわ」

「圓面はそっちの方で手䞀杯っお感じですか」

「えぇ。数匏ず論文は私の方で必芁なものだし、今の論文は間違いが

あるから曞き換えが必芁。オルタネむティノに関するこずは、オル

タネむティノぞの牜制も同時に行う必芁があるわ。因果埋量子論

は䞊列凊理コンピュヌタの理論にも関わりがあるから、どの道必芁。

結局オルタネむティノに回垰する蚳ね。た、軍事行動に関しおは、

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幎間皋䌑止の予定よ」

 ─の錬成もただだし、ず呟く。

 倕呌先生曰く、─の蚭立したはいいものの、珟段階では䜿い

物にならないずのこず。集められた衛士は、そのほずんどを垝囜軍か

らの匕き抜きで構成されおいるのだ。しかし、それでも集められたの

は䞀個連隊芏暡。それは垝囜軍党䜓に及ぶ倕呌先生謹補適性怜査を

行った結果だずか。その適性怜査は至っお簡単なもので、私生掻から

軍事行動に至るあらゆる行動の監芖を行い、より良い因果を掎み取り

ながら生きる衛士を合栌ずするもの。぀たり、運が匷い衛士を求めお

いるずいうのだ。その䞭から遞抜された数癟名ぞ、特呜ずしお招集。

垝囜軍から囜連軍ぞの転属意思を持った者のみ採甚したずいう。そ

れが蚭立時連隊芏暡であった─の正䜓でもあった。連隊芏暡

しか集めるこずが出来なかったのだ。

 そんな圌らに課しおいる任務は、連隊内郚でのチヌムワヌクの圢成

ず特殊任務に耐えられるだけの蚓緎を斜すこず。内容は決しお軜く

はないが、垝囜軍出身の圌らでも冷や汗を額に浮かべる皋の厳しいも

のだずか。それに定期報告を受けおいる倕呌先生も、基準を満たしお

いないずねちっこく理詰めで責めおいるらしく、郚隊指揮官から末端

の衛士たで死に物狂いで蚓緎蚓緎蚓緎䞉昧だずいう。

 そんな圌らを倕呌先生は「ただただよ」ず䞀蹎するのだから、怒り

を通り越しお尊敬されおるずか。孊者の癖に分かっおる、ずかなんず

か。

 そんな─からは完党に独立した特務兵扱いの俺の配眮はか

なり特殊だ。─はオルタネむティノ盎属の特殊任務郚隊。

その存圚は隠匿されおいるが、それ以䞊に存圚そのものがない郚隊が

蚭立されおいた。

 ─。タスクフォヌス。─ オルタネむ

ティノ蚈画第戊術戊闘攻撃郚隊ずいう郚隊名すら䞎えられない、完

党に機密扱いの郚隊。その構成員に珟圚、俺は垭を眮いおいる。䞻な

任務は倕呌先生の指瀺の元で行われる軍事行動に埓事し、目的遂行の

ために行動する。しかし、その実態は─を皌働状態に持っおい

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くための時間皌ぎや、皌働䞭の─郚隊が介入するこずの出来な

い任務に投入されるスケヌプゎヌト郚隊でもある。ずいうのが機密

であるが衚向きの抂芁。

 本質は別にあり、特務兵ずしお俺を手元に眮くための方䟿なのだ。

「アンタはするこずないから、基本的には私の䜿いっ走りね」

「そ、゜りデスカ  」

 仰々しい郚隊に入ったずはいえ、俺は圓分いいように䜿われるだけ

らしい。早速、今日から曞類の印刷やらで走り回るこずになったが、

たぁ機密フロアから出るこずはないから問題ないだろうな。

 ※※※

 ﹇幎月日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区機密区画 

仮眠宀﹈

 今日、倕呌先生は出匵だ。玔倏を連れお早朝、垝郜に向かった。今

日はどうやら遅くたで向こうにいるらしく、垰っおくるのは日が暮れ

お以降になるらしい。霞は事頭を䜿うこずには長けおいるずいうが、

今の所やるこずがないらしい。そこで、これたでは出来なかったこず

をしおみるずのこず。プログラムは元々それなりに知識があったら

しいが、本栌的な軍事甚゜フトりェア開発に手を出しおいるずいう。

既に始めおから週間皋経過しおいるらしいが、かなりの速床で䞊達

䞭ずのこず。この調子でいけば、人で゜フトりェア開発を行うこず

が出来るようになるのも時間の問題らしい。埓っお、珟圚はオルタネ

むティノ蚈画甚に割り圓おられおいる電算宀で猶詰しおいるみたい。

 埓っお、俺は暇なのであった。

「うば〜〜〜」

 オルタネむティノ専甚区画の䞭でも、ほずんどの人が立ち入るこず

の出来ないフロアで独り、䜕かの生物のような声をあげおいた。

「そういえば今日は  」

 ふず、今日の日付を思い出しおいた。今日は月日。玔倏の誕生

日だ。

 思い立ったが吉日ずいうもの。すぐさた準備を敎えお私服に着替

えるず、そのたた癜陵基地を飛び出すのだった。目暙はただ぀。玔

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倏の誕生日プレれントを賌入するこずである。

 ※※※

 ﹇同日 柊町某所﹈

 飛び出しおみたはいいものの、そう簡単にいいものは芋぀かる筈も

ない。先ず思い぀いたのは雑貚。しかし、玔倏はちゃっかり色々ずモ

ノを癜陵基地に揃えおいた。文房具やら小物入れ、収玍。本屋に入っ

おみたものの、玔倏の基本スペックのこずを考えお断念。幟らナ

ニットだった頃の知識や蚘憶があったずしおも、珟圚の䜎スペック脳

ミ゜では、掻字本の内容を理解出来るずは思えない。よっお、本も断

念。衣類、本人がいないため断念。あれも駄目これも駄目ず店に入っ

おは出おを繰り返し、結局柊町のめがしい店は党お入っおしたったの

だ。最埌の最埌には骚董品店で壷や掛け軞を芋おいた皋である。

「はぁ  」

 朝から歩き詰めで、俺はフラフラず歩いおいた。もう日も暮れおし

たうため、そろそろ垰ろうずか思っおいた矢先、目に飛び蟌んできた

のは小さな雑貚屋。

 最埌に淡い垌望を胞にいだきながら、いざ入店する。

 そしお、店倖に出た時には荷物が増えおいたのだ。

「やった  」

 出費ずしおは倕呌先生から"䞀応"絊料をもらっおいるため、そこ

たでだった。しかし、満足の行く品を賌入するこずが出来た。それは

  。

「たさかあるなんおな」

 そう。うさぎのキヌホルダヌ。前の䞖界で、俺が朚の欠片からナむ

フで削り出したサンタうさぎや、元の䞖界で小さい頃にあげたサンタ

うさぎのキヌホルダヌずは違うものの、かなりデザむンが䌌おいる別

のキヌホルダヌを芋぀けたのだ。朚の端から䜜ったサンタうさぎの

方に䌌おいるが、我ながらツむおいる。

 それず、店であるものを予玄しおきた。予玄ずいうかキヌプに近い

んだが。今床来るのは、今幎の月。その時たで売らないで欲し

い、ず頌んであるのだ。

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「䞍味い。そろそろ戻らないずな!!」

 玙袋を片手に、俺は薄暗くなっおいた柊町を駆け抜けるのだった。

 ※※※

 ﹇同日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区機密区画 仮眠宀﹈

 倕食の時間からしばらくしお、倕呌先生ず玔倏が垰っおきた。倕呌

先生は荷物を攟り出すず、次にやるこずがあるず蚀っお、パ゜コンの

前に座ったっきり動かない。䞀方、玔倏は「クタクタだよぉ〜」ず仮

眠宀に行っおしたう。俺は慌おお玔倏の埌を远っかける。

 仮眠宀は珟圚、俺たちの郚屋になっおいた。郚屋を甚意させるずの

こずだったが、結局先延ばしになっおいるため、今も俺たちは仮眠宀

暮らしをしおいる。

 玔倏はベッドに腰掛けお溜息を吐いおいた。どう芋おもお疲れな

様子。だが、時間は刻䞀刻ず迫っおいる。疲れおいるずころ悪いが、

付き合っお貰おう。

「玔倏クン」

「んヌ? なに、タケルちゃん」

「時に玔倏クン、今日は䜕の日だか知っおいるかね?」

「今日ヌ? 今日は銙月先生ず垝郜で垝囜䞊局郚にオルタネむティノ

の経過報告䌚ぃ〜」

 駄目だこりゃ  。しかし枡さねばならぬのだよ。

「いやいや、䜕を蚀っおいるのだね。そんな君にはこれをあげるこず

は出来ないな」

「なになに? なにかくれるの? タケルちゃんが珍しいね」

 た、確かに珍しいかもしれない  。

「はい、これ」

「ありがず。䞭、芋おもいい?」

「いいぞ」

 玙袋を開け、䞭に手を入れた玔倏。それを掎んで手を匕き抜くずそ

こには  。

「っ  !!」

 サンタうさぎによく䌌たキヌホルダヌ。それを取り出した玔倏は

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胞の前でギュッず握り、目を閉じる。䜕か思い出したのかもしれない

が、静かに芋おいるこずにする。

「  ありがず、タケルちゃん」

「ハッピヌバヌスデヌ、玔倏」

「そっか、今日は私の誕生日だったね  。あはは。忙しくおすっか

り忘れおたよ」

 玔倏が幟ら忙しかったずしおも、俺は忘れない。䜕せかけがえのな

い"半身"なんだからな  。

 この埌、玔倏ず少し隒いだ。がただ日本に䞊陞しおいない

この時期、物資に䜙裕があるので買い物はそれなりにしやすいのだ。

だから、急いで垰る途䞭にコンビニに寄っお買っおおいたのだ。本圓

ならケヌキでも甚意できればよかったが、なかなか䞊手く準備に手を

回すこずが出来なかった。お菓子ずゞュヌス、デコレヌションは誕生

日甚ではないがケヌキを玔倏の前に甚意した。それに、忘れおはいけ

ない霞を呌びに行き、぀いでに倕呌先生も。きっず無理しお食事を抜

いたりしおいるに決たっおいる。それに、甘いものを食べれば頭もよ

く回るだろう。

 突貫甚意したささやかな誕生䌚は、玔倏も喜んでくれただろう。今

回の件で意倖だったのは、倕呌先生は参加しないず思ったら参加した

こず。しかも出匵に行っおいた癖に玔倏の䞡芪ずコンタクトを取り、

人からのお祝いも確保しおいたこずだ。あず、霞がオロオロしおい

たのは少し可愛そうだったかもしれない。『  䜕も準備しおたせん

でした』ず蚀っおいたから、きっず芚えおはいたんだろう。

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 

  ﹇幎月日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区機密区画 

銙月博士執務宀﹈

 月に入るたで、倕呌先生は倧忙しだった。執務宀にいる時は、垞

に䜕かしら䜜業をしおいた。出匵で垝郜や囜倖を出るこずも倚かっ

た。そんな䞭、俺はあたり倖に出るこずはなかった。䜕故なら軍事基

地に俺のような"少幎"がいるこずがおかしいからだ。䞀応、倕呌先

生の執務宀たでのセキュリティパスを所持しおいる人には、俺たちの

衚向きの玠性は明かされおいる。しかし機密区画から䞀歩出れば、俺

や玔倏は完党に異質な存圚だ。本来ならば倖で蚓緎やなんかもした

かったのだが、倕呌先生の厳呜で犁止されおいた。そもそも機密区画

から出るこず自䜓、なるべく避けお欲しいず蚀われた。

 自他ずもに認める倩才が拟った子ども、ずいう噂は立っおいるずい

う。噂を気にするような人間ではない倕呌先生ではあるのだが、別の

こずを気にしおいた。俺たちをダシにした劚害工䜜だ。䜕凊の人間

であったずしおも、オルタネむティノや倕呌先生ぞの劚害をするな

らば、本人ぞ行䜿するよりも呚囲に行った方が効果的であるのだ。そ

んな倕呌先生ぞの効果的劚害を行うのならば、俺や玔倏の存圚は栌奜

の逌なのだ。察しお、霞を䜿った工䜜は効果がないずいうこずは前提

条件にあるため、行䜿するこずはないずいう。理由は分からないが、

霞が正芏蚈画芁員であるこずが理由の぀であるだろう。

 ずいうような理由から、俺は基本的に倖に出れない。玔倏の誕生日

の時に関しおは、かなり運が良かったずしか蚀い様がない。倕呌先生

の執務宀たで来れるセキュリティパスを持った人ず仲良くなり、その

人を䜿っお基地から出たのだ。戻る時も同様。忙しい䞭、時間を䜜っ

お俺に付き合っおもらっおありがたかった。今埌も時々䞖話になろ

うず思う。

 それはずもかくずしお、そんな俺や玔倏の制限が限定解陀されるこ

ずを倕呌先生から䌝えられた。俺ず玔倏の行動範囲が霞ず同レベル

たで開攟されたのだ。機密区画の移動ず利甚の自由。ずいっおも、そ

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のほずんどが研究区画だったりするのだが。しかも、玔倏は以前から

自由にそっちを移動しおいたずいう。ナニットのこずもあるだ

ろうし、倕呌先生や霞に付いお回っおいるずいうのもある。技術士官

ずしおの仕事を熟すのに必芁だったんだずか。ずは蚀っおも、出入り

しおいたのは電算宀くらいだったみたいだが。

「じゃ、セキュリティパスの曞き換えは終わっおいるから」

「ありがずうございたす!!」

「機密区画の抂芁は知っおいるず思うから、わざわざ説明するたでも

ないわね?」

「はい」

「じゃ、私はやるこずあるから」

 そう蚀った倕呌先生は執務宀から俺を远い出した。廊䞋に出た俺

ず玔倏、霞はこれからどうするかの盞談を始める。ず蚀っおもやるこ

ずは決たっおいるので、人に䜕するか聞いおおこう。

「玔倏ず霞はこれから䜕をするんだ?」

「そういうタケルちゃんはどうするのさヌ?」

「  私は電算宀です」

「お、霞は勉匷か?」

「  無芖するなヌヌヌ!!」

 霞は軍事甚゜フトりェア開発の勉匷を続けおいる。ずいうか、既に

勉匷もなにもないらしい。ここ数日は籠もっお゜フトりェア開発を

行っおいるずいうのが、倕呌先生の話ではある。玔倏はそれの手䌝い

や、自分の勉匷を電算宀でしおいるんだずか。倕呌先生に呌び出され

たら、そっちに行っお色々しおいるずいう。その色々が分からないん

だが、玔倏は䜕も教えおくれない。

「俺はトレヌニングかな。資料宀の䞀角を䜿っおの自䞻トレにも限界

があるからなぁ」

「あヌ、䞍必芁なものの片付けをした代わりに䜿っおいいっお蚀われ

たずころ?」

「そう。あそこにマットを敷いお筋力錬成」

「それ以倖では銙月先生に呌び出されお小間䜿いしおるもんね〜〜」

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「資料敎理、䜜成、箱詰め、運搬前の状態にしたり、片付け、掃陀、掗

濯、マッサヌゞ  あれ? 俺っおい぀から先生の䜿甚人になったの

??」

「本圓、いいように䜿われおるよね  。仮眠宀は私ず分担しおるけ

ど、結局私たちの郚屋の甚意は先延ばしされっぱなしだよね」

 そんな話を廊䞋でする。結局人ずも暇ずいえば暇であるのだ。

霞のプログラミングも急ぎずいう蚳ではないみたいだし、玔倏も自分

で決めた時間を勉匷に充おおいるみたいだからな。

「た、たぁ、いいぢゃないか!! 俺はトレヌニングルヌムに行っおくる

!!」

 俺たちのセキュリティパスが限定解陀されたからずいっお、今のた

たではやるこずは倉わらないのだ。

 トレヌニングルヌムで俺は氞遠ず筋力錬成ず有酞玠運動をやった。

玔倏が倕食に呌びに来るたで氞遠ず。バカだず蚀われたが、確かにバ

カかもしれない。吊定は出来ないな  。

 ※※※

 ﹇幎月日 柊町某所﹈

 今日も仲良くなった関係者に頌み、基地から出しおもらった。流石

に回目ずなるず、結構簡単に出おこれるものだ。前回から曎に䞋調

べをしおくれおいたらしく、肝が冷えるようなこずは䞀床もなく出る

こずが出来たのだ。

 向かっおいるのは、䞀床蚪れたこずのある堎所。玔倏の誕生日プレ

れントを賌入した小さな雑貚屋。店に入っおカりンタヌぞ向かう。

「あの、癜銀ですけど」

「お、あの時の。頌たれた通りキヌプしおるよ」

「ありがずうございたす!」

「なんのなんの。あんたり客が来ない店だからね。せっかく来おくれ

たお客様の願いは、出来るだけ叶えたいのさ」

 店䞻のおばさんが、奥から包を出しおきた。䞭身は分からないが、

俺が頌んでいたもので間違いないずのこず。来る日付は前もっお䌝

えおあったので、準備しおくれおいたんだろう。

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「プレれント、喜んでくれるずいいな」

「はい」

「  誰ぞのプレれントなんだい?」

「え?」

 店䞻のおばさんがニダニダしながら問いかけおくる。代金を支払

おうず財垃を出したが、動きを止めおしたった。別にやたしい心積も

りはなかったのだが、すぐに答えれるような関係性はパッず浮かんで

こないのだ。

「効のような、友だちのような、先生のような  かけがえのない人で

す」

「そうかいそうかい」

「あはは。お、お代はここに」

「はいはい、ありがずうね」

「こちらこそ。では」

 少し恥ずかしいず思ったが、すぐに切り替えお料金を支払う。モノ

ずラッピング代。ラッピングは頌んでいなかったが、しおくれたのな

ら眮いおいくべきだろうし。お代ず䞀緒に眮いお、俺はすぐに店を出

た。

 次に向かうのは掋菓子店。予玄は電話でしおある。埌は店で支払

いず受け取りをするだけだ。倧きい荷物を持ちながら、掋菓子店を目

指しお歩いおいく。

 ※※※

 ﹇幎月日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区機密区

画 仮眠宀﹈

 今日のこずに関しお、玔倏には既に話を通しおある。玔倏も乗り気

で色々準備をしおくれおいるが、俺の分担は買い出しだった。ケヌキ

は泚文、お菓子ずゞュヌスは垰りに買い出し。玔倏は郚屋の食り付け

ず、勘付かれないように動くこず。埌、話を聞き付けた倕呌先生が

色々手を回したみたいだ。

 埌で聞いた話だが、装甲車をプレれントしたのは倕呌先生だったみ

たいだ。基本的に埒歩以倖の移動手段は、倕呌先生ず共に自動車等の

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乗り物に乗るこず。それ以倖は出来なかったらしく、垞に軍事斜蚭に

いる霞のために、眮いおいおも䞍審に思われない装甲車をチョむスせ

ざるを埗なかったずいう。

『私だっおこんなのよりも、もっず普通のをあげたかったわよ』

 ず蚀っおいた。確かに、霞は目立぀のは埗意じゃないので、こう玛

らわす必芁があるのだ。霞でも運転出来るようにカスタマむズした

のも先生だずいう。あげた時、喜んでいるのか分からなかったらしい

が、今でなら喜んでいたこずは分かるみたいだ。

 ずもあれ、俺が垰っおきたら始めるずいう玔倏の䜜戊は䞊手くいっ

た。足止めに倕呌先生が買っお出おくれたからだ。先生には準備完

了の知らせが行っおいるはずなので、盎に仮眠宀ぞ霞が来るだろう。

「  」

「「ハッピヌバヌスデヌ!!」」

「  倱瀌したした」

「おいおい埅お埅お!!」

 霞が出おいっおしたったので、呌び止めに行く。倖ですぐに捕たえ

お、再び仮眠宀に戻る。

「「ハッピヌバヌスデヌ!! 霞霞ちゃん!!」」

「  あ、」

 やっず気が付いたようだ。

「  ありがずう、ございたす」

「ほらほら、䞻圹なんだからこっち来いよ!!」

「そヌだよ!! 今日は霞ちゃんの誕生日なんだから!!」

 霞の手を匕いお誘導する。人だけしかいないが、これでも立掟な

誕生日䌚。霞、歳の誕生日なのだ。

 仮眠宀は圩られおいた。玔倏が食り付けをしおくれたのだ。それ

も、時間がないのでヶ月前から倜なべしお。前日なんお培倜だ。俺

も手䌝いをしたが、『タケルちゃん、ぶきっちょだから別のこずしお

!!』ず怒られおしたった。流石に俺の出る幕ではないず、別のこずを

しおいたが  。

 お祝いの蚀葉をそれぞれ蚀っお、次はお菓子やケヌキを食べる。本

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圓なら玔倏が料理を甚意する予定ではあったのだが、食材を手に入れ

るタむミングが芋぀からなかったのず、䜕床も買い出しに出おいるず

バレおしたうため、止む無しでお菓子ずゞュヌスずいうこずになっお

したったのだ。

 霞ず玔倏ずで小さいテヌブルを囲み、どうでもいい話をする。玔倏

が俺ずの思い出話をしお、流石に霞の誕生日䌚なので叩くこずは自重

した。しかし、玔倏が調子乗っお色々話すもんだから、぀い぀い叩い

おしたった。

 たぁ、別に霞が笑っおくれたのならいい。

「ずたぁ、こんなずころで霞にこんなものをあげよう」

「  なんですか?」

「誕生日プレれントだッ!! ほら!!」

 俺が持っお垰るのも䞀苊劎した倧きな袋を、霞にポンず枡す。座っ

おいる霞がプレれントを膝の䞊に乗せたが、お蔭で埌ろの霞が党く芋

えなくなっおしたった。

「  タケルちゃん、どんだけ倧きいの買ったのさ」

「いやぁ、玔倏の誕プレを買いに行った時、同じ店に眮いおあったのを

芋おビビッず来ちたったんだよ」

 玔倏の呆れ声に答え぀぀、霞の方を芋た。既に袋を膝から䞋ろしお

おり、俺に無蚀で開けおいいかず蚎えおくる。それに無蚀で頷いお返

すず、霞は袋を開封した。

 袋から出おきたのは、倧きなうさぎのぬいぐるみ。前の䞖界で霞が

持っおいたものよりも、倧きくおかわいいうさぎのぬいぐるみだ。色

合いも同じで、䞁床いい。それに、あの『うささん』は、霞が寝る時

に抱いお寝おいたものだ。この倧きさになっおいるのにも、霞が抱い

お寝れるようにずいう意味も蟌めおある。

 珍しく目を茝かせおいる霞に、今床は玔倏がプレれントを枡した。

ずいうか、い぀の間に甚意したんだろうか。

 受け取ったのは、そこそこ倧きな玙袋。これも霞は無蚀で開けおい

いかず聞いおきたようで、玔倏は笑っお頷く。䞭から出おきたモノ

は、バンダナず゚プロンだった。胞のずころにうさぎの刺繍がされお

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いる黒い゚プロン。バンダナぱプロンに合わせたのか黒色だ。

「  玔倏さん」

「うん!! 今は忙しいけどさ、霞ちゃん、前に蚀っおたよね?? 料理を

しおみたいっお。だから、今はこれくらいしか出来ないけど、い぀か

䞀緒に料理しようね!!」

「  はいっ、ありがずうございたす、玔倏さん、癜銀さんっ」

「うわわっ、泣かないでよっ!! 嬉しくなかったの?! ご、ごめんね

!!」

「あわあわ、ゎメンな霞!!」

 突然泣き出しおしたった霞に、俺ず玔倏は激しく取り乱す。しか

し、霞は銖を暪に振っお吊定した。

「  ぐす、ちがい、たす。うれしくお、あたたかくお  お人が、

ずおもあたたかいいろで  」

「そっか  」

 玔倏が霞を抱き寄せお、静かに霞の話を聞く。

「  わたしは、こんななのに  ぐすっ、い぀もたわりからはさけら

れお  ぐすっ  でも、お人はい぀も  あたたかいいろで、ぐ

す  わたしをむかえおくれお  」

「うん」

「  それなのに、こんな、ぐす  たんじょうびかいたで  」

「圓たり前だよ。霞ちゃんは私の友だちだから  」

「  ありがずう、ございたすっ。すみかさん」

 おいおい。俺を眮いおきがりにしおいる人に、少しいたずらをす

るこずにした。

「なんだよ、霞。俺だっお友だちだっお思っおるぞ」

「  はい、癜銀さんっ」

 そんな少ししみったれた空気になっおいるず、仮眠宀の扉が開く。

そこには倕呌先生が、なにかを片手に立っおいた。

「  あら?」

 ず呟いたのに、ニンマリず口元を歪める。

「なに、アンタたち人しお瀟のこずむゞメおたの?」

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「「どヌしおそうなるんですか!!」」

「はいはい。私も人に䟿乗しお甚意したわよ、瀟」

 怒る俺ず玔倏を無芖しお、倕呌先生は霞のずころに歩く。そしお、

玙袋を手枡した。

「はい、枡したから私は戻るわ。人ずも、あんたり隒がないように。

じゃ、オダスミ」

 ず玠っ気なく仮眠宀を出お行った倕呌先生を芋送り、俺たちは誕生

䌚を再開した。しかし、俺も玔倏も気になるこずがあった。

「ねぇねぇ霞ちゃん!! 銙月先生から䜕もらったの?」

「  銙月博士からも、誕生日プレれントを貰いたした」

「開けおみおよ!!」

「  はい」

 霞は玙袋を開けお、䞭の物を取り出した。

「  本です」

「「本っお  」」

「  戊術機開発に関する専門曞です」

「「よりにもよっお専門曞?!」」

「  うれしいです」

「「嬉しいんだ  」」

 うさぎのぬいぐるみ、バンダナず゚プロン、戊術機開発に関する専

門曞。プレれントを莈られ、霞は衚情を倉えないが笑っおいるず嬉し

い。

 この埌も人での誕生日䌚は倜が耜るたで続いた。

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 

  ﹇幎月日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区機密区

画 第シュミレヌタルヌム﹈

 この日たで、俺はずっず身䜓錬成を続けおきた。トレヌニングルヌ

ムに通っお運動、蚓緎、蚓緎蚓緎蚓緎  。食事は基本的に兵士甚の

ものを食べおいた。たたに玔倏ず共に勉匷したりもしおいた。結局、

䞀日の倧半を錬成・勉匷・小間䜿いをしおいただけだったが、今日か

らそれも卒業である。

 俺ず玔倏が共に歳を迎えた日、俺は本栌的に倕呌先生の呜什を

受けお極秘䜜戊を請け負うこずずなっおいたのだ。それに、今たで錬

成があっおも戊術機に関わる蚓緎がなかったのにも理由があるのだ。

「じゃあ、β版のシミュレヌション運甚開始。に癜銀の機

動特性を教育し、先行量産型を完成させなさい」

「了解!!」

「発案者である癜銀はシミュレヌションでのデヌタ収集埌は、䞀昚日

搬入させた匏戊術歩行高等緎習機 吹雪による実機デヌタ収集

を行うこず。既にの換装は枈たせおあるわ。実機に移る際、プ

ログラマヌの瀟かプログラマヌアシスタントの鑑がのむンス

トヌルを行いなさい」

「「はい!!」」

「  分かりたした」

 ぶっちゃけ、倏が終わる頃にはのβ版は完成しおいた。しか

しシミュレヌションも実機テストも芋送らざるを埗ない状況にあっ

たのだ。俺の機動特性はどの戊術機でも行うこずが出来るのだが、そ

れでもデヌタ自䜓は高機動戊闘を䞻県に眮いた第䞖代戊術機で行

うこずが無難だったからだ。

 それで、デヌタ収集に最適だった機䜓が吹雪。前の䞖界でも吹雪で

それを行ったのなら、今回、今手に入る最新の第䞖代機 匏戊

術歩行戊闘機 䞍知火を䜿うよりもいいずいう刀断を倕呌先生がし

たのだ。別に䞍知火の跳躍ナニットをダりングレヌドしおもよかっ

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たらしいが、面倒だからずいう理由で案が棄华された。

 吹雪を入手するずいう前眮きがあり、倕呌先生は機䜓を手に入れる

手回しをしおいたずいうこずだ。だが─発足時に、機皮転換蚓

緎で䜿甚したものがあったのにも関わらず、『蚓緎郚隊に回したので

䜙剰機がなかった』ずいうこずだった。

 シミュレヌションデヌタは簡単に入手出来たが、実機を甚意出来な

かったずいう点からここたで開発が遅れた。それに、搭乗する衛士が

歳ずいうのも問題だったらしい。

 垝囜斯衛士官孊校では元服を終えた少幎少女が衛士ずしおの教導

を受けるこずが出来る。基本的には将軍家や将軍家瞁者の護衛を任

ずしおいる城内省管蜄の独立歊装組織だが、察倖的には日本囜内にあ

るもう぀の垝囜軍ずいうこずになっおいる。

 幌少の頃から歊術に觊れおいる圌らの颚習を隠れ蓑に、俺を衛士ず

しお仕立おるずいうのが倕呌先生ず俺ずで盞談した筋曞きでもあっ

た。䜕か蚀われようにも『垝囜斯衛軍ず同じで、癜銀 歊も軍事蚓緎

を受けおいる』ずいうこずで、匷匕に是を蚀わせるものだ。

 建前は幟らかあったものの、本心ずしおは、俺を実働状態に持っお

いくずいうものだった。珟段階では俺の存圚は倕呌先生の手札には

ならないずいうのもある。それに、俺の目的も果たすこずは出来ない

のだ。

 ※※※

「ぐぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 鉛色の空。倧地を埋め尜くす。俺は単機で地䞊を、空を駆

電磁䌞瞮炭玠垯

カヌボニックアクチュ゚ヌタ

け抜けおいた。匏突撃砲は唞りをあげ、関節郚ず

が激しく䌞瞮を繰り返す。跳躍ナニットが炎を吐き出し、機䜓速床が

増枛をする。走り、跳ね、回る。止たるこずはない。

 の波間を䌑むこずなく駆け抜ける。

『デヌタ収集率』

「ぐっ、ぉおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 やがお匏突撃砲は、双方の匟が切れる。腰

郚予備匟倉を取り出すが、今の補絊で党おなくなった。

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 迫りくるに再び照準を向け、跳び䞊がる。

『デヌタ収集率』

「あ〞あ〞ぁぁぁぁぁぁぁ!!!! はあぁァァァァァァァ!!!!」

 駆けろ、駆けろ。止たるこずは蚱されない。既に突撃砲は砎棄し、

長刀もこれでもかずいう皋振り回した。先皋折れたため、切っ先は芁

撃玚の背䞭に突き刺したたた、半ば折れた長刀を振るいながら突き進

む。

『デヌタ収集率』

「  ッ!!」

 長刀も投棄。次いでに戊車玚が集たっおいるずころにぶん投げ、最

埌の兵装を装備。二振りの短刀を持ち、い぀から入っおいたか分から

ないハむノを駆け抜ける。

『デヌタ収集率。デヌタ粟査に入りたす。  癜銀さん、お

疲れ様でした』

「はぁ  はぁ  」

 そんなこんなで、俺はシミュレヌタルヌムでシミュレヌトデヌタの

収集を行っおいた。皌働デヌタからバグを探しお朰す。これからは

そんな単玔䜜業が続く。

 網膜投圱䞊に映し出される霞のバストアップ映像から、今埌の予定

が䌝えられた。

『  この埌、玔倏さんずプログラム修正を行いたす』

「はぁ  頌んだ  。次はい぀になるか分かるか?」

『  明日です』

「分かった。じゃあ俺は䞊がるよ」

『  はい』

「お疲れ様」

 俺は筐䜓から降り、背䌞びをした。倕呌先生に蚀われおから、すぐ

に霞ず玔倏がのむンストヌルを始めお、終わったらすぐに俺はシ

ミュレヌタに乗っおいた。それから䌑憩なしのデヌタ䜜業は、時間間

隔を狂わせる皋に集䞭しおいたみたいだ。

「午埌時か。シミュレヌタに乗ったのは時過ぎだから、正味時

31

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間っおずころだな」

 我ながら長時間搭乗をしおいたようだ。普通ならば時間皋で䌑

憩を入れるが、俺は䌑憩なしで時間も搭乗しおいた。

「おぉっず  、あぶねぇ」

 そりゃフラフラにもなるな。足取りがおが぀かない。筐䜓の䞭で

霞ず話したが、管制宀にいるであろうから盎接顔を芋おから垰るこず

にしよう。

 管制宀を芗き蟌むず、霞がデヌタを蚘憶媒䜓に保存しおおり、その

隣で玔倏がラップトップを匄っおいた。

「お〜、霞お぀かれ〜」

「  はい。癜銀さんもお疲れ様でした」

「時間も乗っおたなんお、さっき気付いたぞ。いやぁ〜、意倖ず䜓力

が付いおおよかった」

「タケルちゃん、やっぱり戊術機に乗るず倉態になるね。普通、あんな

に乗っおられないよ」

「倉態っおなんだよ!? 俺は普通だ!!」

「やヌい、倉態ぃ〜!! 銙月先生も『アむツは倉態だ』っお蚀っお」

 䞁床近くにあったビニヌルスリッパを折り曲げ、玔倏の頭に振り䞋

ろす。スパヌンず小気味よい音を鳎らした。

「あいたヌヌヌヌ!! なにすんのさ!!」

「俺は倉態じゃない!!」

「どヌしおそんなポンポン叩くのさ!!」

「お前が倉態呌ばわりするからだ!!」

「事実じゃん!!」

「ちげヌし!!」

 そんな蚀い合いをしおいるず、霞が『  コピヌ完了したした。

  たたね』ず蚀っお管制宀から出おいっおしたう。手䌝いをしおい

た玔倏が俺ず蚀い合っおいるから、人で始めようずしおいるんだろ

う。

「玔倏」

「なにさ!!」

32

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「霞、もう行ったぞ」

「え? あ、埅っおよ〜〜!!」

 今日からこんな日が続くのだ。恐らくβ版完成は半幎以内

に終わるだろう。の基瀎抂念は俺、プログラマヌは霞、制埡系

ハヌドりェアは倕呌先生。぀いでに玔倏も。開発陣党員が完成圢の

を知っおいる人間だ。しかも前回の開発では、時間に迫られお

いた。先生曰く『開発に費やしたリ゜ヌスは少ないわよ』ずのこず。

今回はかなり手を入れお制䜜しおいる。粟巧なプログラミング、入念

なテストを行い䜜り䞊げるは、きっず前の時よりもいいものに

仕䞊がる筈だ。

 独り背䌞びをしおシミュレヌタルヌムを埌にする。

 ※※※

 ﹇幎月日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区第挔

習堎﹈

 極床の緊匵状態だ。管制ナニット内で独り、今か今かず網膜投圱映

像を芋おいた。跳躍ナニット・䞻機の出力を萜ずしおアむドリング状

態にする。

 突撃砲のトリガヌに掛かっおいる指ず、出力を萜ずしおいるフット

ペダルに掛かる足が攣りそうだ。呌吞も埐々に浅くなり぀぀ある。

 刹那、レヌダヌに反応。

「っ!!」

 望遠映像に移るのは  。

「っク゜ォォォォォ!! 戊闘デヌタが欲しいずか倕呌先生のバ

カァァァァァァァ

!!!!!」

『あら、ただ盞手も機だけだからいいじゃない。本圓だったら䞀個

䞭隊ずか圓おる぀もりだったけど?』

「倕呌先生ありがずう!! ホントありがずう!! やっぱり聖母だな!!

 うんッ!!!!」

 鬌がいる。やっぱり、どこの䞖界に行っおも倕呌先生はそのたた

だ。

 䞀方、状況が激しく動き出しおいた。俺が乗っおいるのは吹雪

33

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搭茉機。既にβ版も䜳境に入り、霞曰く「ほが完成したした」ずの

こず。今に必芁なのは、ロヌルアりトたで挕ぎ着くこず。その

ためには戊闘経隓が必須。それが挔習であったずしおも、だ。そのた

め、倕呌先生は暡擬戊を䌁画したのだ。

 盞手は匏戊術歩行戊闘機 撃震。衛士は  

「たりもちゃん  やっぱり匷いな!!」

 神宮叞 たりも軍曹。倕呌先生の芪友で悪友。元日本垝囜軍富士

教導団の゚リヌトで、今は垝囜軍癜陵基地第衛士蚓緎郚隊の教

官を務めおいる。そしお、俺の恩垫の人だ。

 九・六䜜戊の初陣からしばらくの間、東アゞア戊線で暎れたわった

歎戊の衛士。初陣から配眮転換たでの間、倧陞で無慈悲に残酷に

を狩る様は『狂犬』ず蚀われる皋の人物。垝囜軍内でも名の知れ

た熟緎衛士。

 たりもちゃんの匷さは俺には身に沁みおいた。兵科教緎、戊術機教

習等々実技や、その立ち居振る舞いや心構えたで。蚓緎生ずしお回

教えおもらっおいるが、たりもちゃん以䞊の教官は居ないだろう。

 俺はそんなたりもちゃんを盞手に戊っおいるのだ。

 砲撃戊を数合、近接戊を䞀床しおいる。だが、臎呜傷を䞎えられお

いない。俺もダメヌゞは受けおいないが、それだけの戊闘をしおもた

だ、撃墜には至っおいないのだ。

 チャンスが舞い蟌む。釣り出しに出たたりもちゃんに突っ蟌み、近

接砲撃戊を仕掛ける。の先行入力ずキャンセル、コンボがあれ

ば、垞に入力を続けなければならない近接戊で倧きなアドバンテヌゞ

になるのだ。

 珟に目の前のたりも機の撃震の動きが、俺の吹雪に远い぀いおいな

いのだ。远いかけ回し、攻撃を繰り出し、誘い、ダメヌゞを䞎える。離

脱しようにも、俺が退路を塞ぐため、行動が制限されおいる状況だ。

 遂に逃げるのを諊めたのか、跳躍ナニットを前ぞ迫り出しバック

ブヌスト。急制動を掛け、正面の厖を蹎っおこっちに飛んできたの

だ。

 チャンス。すぐに長刀を振り抜く。背郚巊マりントが持ち䞊がり、

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匏近接戊闘長刀









─





火薬匏ノッカヌが

を匟く。匟かれた勢いを殺さ

ずに、䞊段から長刀を振り䞋ろす。しかし、ここでたりも機が避ける

こずは想定枈みだ。すぐさた方向転換。跳躍ナニットを䞀方向ぞ向

けお掚力を偏向。機䜓を右回転させ、長刀を暪䞀線。たりも機が方向

転換し、こちらに迫っおいるのは芋えおいた。

『神宮叞機、胎䜓䞡断。倧砎。挔習終了です』

 ※※※

 機䜓をハンガヌに戻すずキャットりォヌクに玔倏が来おいた。䌁

画䞻催の倕呌先生は別の所にいるのだろうか。管制ナニットを開攟

しお降りるず、玔倏が俺を出迎えおくれる。

「お疲れ様、タケルちゃん」

「おヌ、玔倏。ダバかった気がするんだが、どうだった?」

「倚分倧䞈倫じゃないかなぁ。結局勝ったし」

「それでいいのか、本圓に  」

「倧䞈倫だず思うよ〜。それず銙月先生から䌝蚀。第ブリヌフィン

グルヌムに集合。䞀床着替えおから来なさいっお」

「了解。䌝蚀ありがずう、玔倏」

「どういたしたしお〜。じゃあ、私は吹雪からデヌタ吞出しがあるか

ら」

「あず頌むな〜」

 ラップトップを脇に抱えた玔倏が、俺ず入れ替わりで管制ナニット

に入り蟌んでいく。俺はそれを芋るず、そのたた倕呌先生がいるずい

う、第ブリヌフィングルヌムに駆け足で向かうのだった。

 ※※※

 ﹇同日 囜連軍専有区機密区画第ブリヌフィングルヌム﹈

 ブリヌフィングルヌムに入るず、倕呌先生ず久々に芋る匷化装備を

着た女性の埌ろ姿があった。䞻芳で蚀えば半幎皋床だが、䜓感はかな

り長い間䌚っおいないような気がする。

「来たわね」

「ちょっず銙月博士!! 説明を芁求したす!!」

「キャンキャン煩いわね、たりも。アンタの求める説明は、コむツが来

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おからじゃなきゃ出来ないのよ」

 倕呌先生にそう蚀われたたりもちゃんは、俺の顔を芋るず心底驚い

た。愕然ずいう蚀葉の方が圓おはたるかもしれない。信じられない

ものを芋た、ずも蚀える。俺を芳察したたりもちゃんは、そのたた倕

呌先生に掎みかかろうず攻め寄るが、先生はそれをあしらいながら話

を始める。

「貎女ッ!! この子、囜連軍の軍服を  ?!」

「はいはい。それもこれもアンタに説明するから、ちょっず萜ち着き

なさい」

「ふヌっ、  それで、説明をお願いしたす。銙月博士」

 流石、切り替えが早い。ずはいえ、気になっおいるのは目に芋お分

かる。俺ず倕呌先生の顔を䜕床も埀埩しおいる目を芋れば、さっさず

説明しお欲しいずいったずころだろう。

 倕呌先生はすぐに説明を始める。

「たりもには始め、『調子に乗っおる新任少尉がいるから、叩き朰しお

あげなさい』っお蚀ったわよね?」

「えぇ。蚓緎校を䞻垭で卒業、戊術機適性は通っおいた蚓緎校歎代

䜍、教官をのしお任官した傲慢な新任少尉の盞手をしろずおっしゃい

たした」

「で、結果はたりもの惚敗」

「そんなこずは分かっおいたす!! ですが、あの吹雪の機動は垞軌を

逞しおいたした。硬盎時間もほがなく、次々に繰り出される耇雑䞔぀

奇っ怪な機動制埡。挙げ句、光線玚がい぀撃ち抜くか分からない空を

飛びたした。確かに衛士ずしおの技量は新任少尉にしおは高いです

が、もっず別の芁因があるように思えるんです」

「流石たりも。気付いおいるじゃない。そう、たりもが盞手にしお吹

雪には、私の研究の副産物を利甚した新を搭茉しおあったの」

「新?」

「正匏名称は。特殊な機動抂念を持぀衛士の提案を私が採甚。

先行入力・キャンセル・コンボず呌ばれる機胜を远加・最適化した

ず、を動かすために必芁な挔算凊理胜力を戊術機に䞎えるた

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め、私の研究からスピンオフした䞊列凊理半導䜓を䜿甚したを

搭茉しおいるわ。分かりやすく蚀うず、远加された機胜以倖にも副次

的な効果ずしお、戊術機の反応速床が玄アップしおいるわ。こ

の意味、分かるわよね?」

「え、えぇ  。それだけ反応速床が䞊がれば、レスポンスがシビアに

はなるけど、今よりも繊现な機動が実珟できたす」

「そうね。反応速床向䞊に加え、凊理埅ちをしおいる機動制埡シグナ

ルに匷制的に介入、別のシグナルの優先床を䞊げお操䜜を行う先行入

力。実行䞭・凊理埅ちの機動制埡シグナルを削陀するこずで実行䞭の

動きを䞭断したり、誀った入力を消去するこずの出来るキャンセル。

衛士の入力した機動制埡シグナルをパタヌン化し、䞀定の入力以䞊を

行うず自動で機動制埡を実行するコンボ。これらの機胜によっお、こ

れたでの戊術機の制埡は栌段に簡略・円滑化しおいるわ」

「スタビラむザの自動制埡で転倒䞭に受け身を取る匷制入力時に実行

䞭の機動制埡シグナルを先行入力ずキャンセルを行うこずで、受け身

をキャンセルしお倒れた状態で離脱も出来る、ずいうこずですか」

「そういうこず」

「なるほど  。非垞に気になるお話ですが、そこにいる子は?」

「あぁ、そい぀は癜銀。の基瀎抂念の持ち䞻よ」

 平然ずそう吐き捚おた倕呌先生に、たりもちゃんは遂に目が点に

なった。恐らく、負荷オヌバヌでも起こしたんだろう。すぐさた再起

動が掛かり、たりもちゃんは俺に話し掛けおくる。

「わ、私は極東囜連軍 第衛士蚓緎郚隊教官 神宮叞 たりも

軍曹です」

 階玚章を芋たらしく、敬語で俺に話し掛けおくる。

「俺は極東囜連軍  えぇず、俺っおどこの所属ですか?」

「  私の助手」

「極東囜連軍 銙月 倕呌倧䜐盞圓官付の癜銀 歊少尉です」

 倉な肩曞になった。始めは─ず蚀いかけたが、䞀床倕呌

先生に確認の意味を含めた芖線を送っお正解だった。どうやらたり

もちゃんには知らせるべきでない話だった。

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「  っ」

「  」

 沈黙が俺ずたりもちゃんの間に流れる。それを倕呌先生が壊した。

「ちなみにさっきの吹雪の衛士、コむツだから」

「えぇヌヌヌヌっ

?!?!?」

 たりもちゃんの感情は、このブリヌフィングルヌムで䜕回切り替

わったのだろうか。俺は倕呌先生ずたりもちゃんの蚀い合いを遠目

に芋ながら、今埌のこずを考えるのだった。

 倕呌先生が俺を人前に出した、ずいうこずは、今埌はもっず動くこ

ずになるずいう前兆のような気がしおならなかったからだ。きっず

それは危険なこずでもあるだろうし、倕呌先生のためになるこずでも

あるだろう。そしお、ゆくゆくは俺ず玔倏のためになるこずだ。

 芚悟を決めなければならない。俺は再び、この䞖界で戊うこずを芚

悟した。

「も〜〜!! 倕呌のバカ!! 䞊局郚に知られたらずんでもないこずに

なるわよ!! し、少幎兵だなんお!!」

「あら、そんなこず蚀っおもいいのかしら? これでもよ」

「じ、ぅぅ

!?!?!?」

 それは嘘。たりもちゃん、倕呌先生の嘘に隙されないで  。

38

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 

  ﹇幎月日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区機密区画 

第シミュレヌタルヌム﹈

 私が始めた芋た"圌"の印象は耇雑だった。幌い顔付き、小さい䜓

躯でありながらも屈匷な肉䜓、その目に宿る意思の匷さ。ここたでち

ぐはぐな人は初めお芋た。少しの間、近くに居お印象はすぐに倉わっ

た。性栌もちぐはぐで、幎霢盞応の発蚀もすれば、幎霢䞍盞応の発蚀

もする。話しおいお䜕凊か、私ず同い幎か幎䞊かず思うような物蚀

い。芋えおきた圌の背景ず心は、芋るに堪えない皋ズタボロだった。

そう、ひっきりなしに責め立おられる前線の兵士のように。䜕もかも

が憎く、を恚み、䞖界に絶望したような。倧陞に居た頃、時々

芋かけた壊れた兵士のような姿。かず思えば倕呌が近くに眮いおい

る幌子、瀟 霞や、圌が"スミカ"ず呌ぶ女孊生くらいの少女の前で

は、軜口を叩きながらも滲み出るオヌラは枩かく優しいものだった。

『神宮叞軍曹。順応教習䞭に考え事ですか?』

「あ、いいえ。なんでもないわ」

『そうですか。お疲れでしたら、この蟺りで切り䞊げおもいいんです

が  』

「倧䞈倫よ。ただ党然元気なんだから」

『あははっ、その様子ならただただいけたすね。これたでは機動制埡

の芋盎しでしたが、もう戊闘挔習に入りたしょう。ずいうこずで霞、

ノォヌルクデヌタ。状況、地䞊陜動、支揎』

 げっ。この子、可愛い顔しお結構排萜にならない蚭定を入れおきた

わ。しかも、よりにもよっおノォヌルクデヌタなんお  。反論をし

ようずしたものの、すぐさた瀟少尉が管制宀から制埡をしおしたう。

『了解。ノォヌルクデヌタ。地䞊陜動、支揎。随䌎は

─䞀個䞭隊』

『サンキュヌ。じゃあ、行きたすよヌ神宮叞軍曹!!』

 シミュレヌタ筐䜓内の映像が切り替わり、ミンスクハむノの映像が

衚瀺される。呚囲にはや戊術機の残骞が転がり、私ず癜銀君

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の埌方にカラヌの─が䞀個䞭隊出珟した。

 もう拒吊しおも駄目だろう。諊めおノォヌルクデヌタに挑むしか

ない。

「  はい」

 癜銀君の蚀葉に、なんずか絞り出しお出おきた返事がそれだけだっ

た。流石に、いきなりノォヌルクデヌタはキツい。

 ※※※

 ﹇幎月日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区機密区

画 第ブリヌフィングルヌム﹈

 癜銀君の駆るを搭茉した吹雪にこっ酷くやられた日の倜、私

は倕呌に詰め寄っおいた。䞁床に顔を出したずころを捕たえ、圌

女に無理を蚀っお機密区画に通しおもらったのだ。

「䜕よたりもぉ〜。この頃男日照りで飢えおるからっお、芪友である

私を襲うなんお」

「違・い・た・す!! 聞きたいこずがあったの」

「ふ〜ん」

 私のこずを揶揄った倕呌は、近くにあった怅子に腰掛けお脚を組ん

だ。私も近くから怅子を匕っ匵っおきお、倕呌の前に腰を䞋ろす。

「今日貎女に玹介された癜銀少尉のこずよ」

「あぁ、よりにもよっお癜銀を  。䞀応確認は取っおおくけど、犯眪

よ?」

「違ぁヌう!! いい加枛そこから離れおよ!!」

「残念。でも本気だったずしおも、アむツは駄目よ」

「  倕呌?」

「  なんでもないわ。それで、話しっお䜕?」

「だから癜銀少尉のこず。瀟少尉のこずは䜕ずなく話は聞いおるけ

ど、癜銀少尉は別よ。圌は軍事教緎も受けおいるみたいだし、衛士ず

しおの腕前も本物。新任衛士ですら軜く超える実力よ。熟緎衛士に

迫る皋であるず蚀っおもいいわ」

 そう。あの芋せ぀けられた腕前は本物だ。あのこず戊術機操瞊に

関しおは魑魅魍魎が跋扈しおいた富士教導団でさえ、あそこたで飛び

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抜けたものは芋たこずがない。それが新型が理由であるかない

かに関わらず。それだけ、あの戊術機操瞊技術は異垞だったのだ。

「そうね。アむツはたりものいた富士教導団や本土防衛軍垝郜守備隊

の゚ヌス䞊かそれ以䞊よねぇ」

「えぇ。だからこそ、圌の腕前に玍埗がいかないの。幎霢にそぐわな

い胜力の数々は、あれで歳ずいうのは嘘でしょう? 芋た目的に

も」

 私が戊った時間、ブリヌフィングルヌムで顔合わせをした数分間だ

けで䜕ずなく分かっおしたったのだ。あの"癜銀 歊"ずいう少幎、

おかしすぎる。

「たりものその芋立おは間違っおないわ。歳ずいうのは嘘。本圓

は歳」

「っ?!?!」

「蚀いたいこずは分かるわ。圌は少幎兵よ」

「ゆ、倕呌ッ!! 流石にこれは看過できないわよッ!!」

 ひず目芋た時から分かっおいたが、やはり思い違いではなかった。

顔付きず着せられおいる軍服から、どう芋おも少幎兵にしか芋えな

かったのだ。もし、䜎身長なだけだったずしおも、それにしおは童顔

過ぎた。

 そうであっお欲しくなかった。前線囜家では子どもでさえ、戊堎に

駆り立おられおは散っおいたのだ。目の錻の先たで迫っおいるずは

いえ、日本囜内で少幎兵なんお蚱される蚳がないのだ。

「分かっおいるわ。だけどね、たりも」

 脚を組み盎した倕呌は、鋭い目぀きで私を睚み぀けながら蚀った。

「これは戊争なの」

「  でも」

「アむツには必芁ずされる衛士ずしおの知識、異垞な戊術機適性、実戊

機動に耐えうるだけの䜓力ず新の基瀎抂念を持぀皋特殊だわ。

アむツは戊堎で死ぬ芚悟もある、そう蚀ったわ。だけど、そんなアむ

ツを衛士ずしお籍を眮かせたのは私よ」

 それに、ず続けた倕呌。

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「それに、アむツは私の研究にも必芁。たりも、アンタは倖瞁だけでも

知っおいるでしょう? 知っおなければ富士教導団の゚リヌトが

こんなずころ

垝

囜

の

嫌

わ

れ

者

で軍曹なんおいう階玚匕っ䞋げお教官しおる蚳ないも

のね?」

「  えぇ」

 あんな子どもたで戊堎に立たせなければならない皋なのか。そう

疑っおしたうが、この県で芋た光景はそれを吊定する。人類には䜙裕

がないのだ。未曜有の䟵略者に、私たちは守るべき子どもたで駆り立

おねばならぬほどであるのだ。

 悔しいかった。ただただ悔しかった。

「じゃ、この話は終わり。ただ私の助手扱いだけど、時期が来れば少し

ず぀衚に出おくるわ。その時はたりも、アンタに任せるこずもある

わ」

「分かった  」

「はい。じゃあ、ここの斜錠はよろしくね」

 スッず立ち䞊がった倕呌はそのたたブリヌフィングルヌムから出

お行っおしたう。残されたのは未だ座っおいる私ず、目の前に残され

た怅子。

 倕呌、怅子を片付けお行かなかった。

 ※※※

 ﹇幎月日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区第挔習

堎﹈

癜銀機

吹雪搭茉機

 盞倉わらず倉態的な機動制埡を行う

を远いかけ回す。今た

ではすぐに埌ろを取られお、远いかけ回されるばかりだったので、こ

こたで来たのは倧きな進歩だろう。

 疟く駆ける。䞀秒でも遠く、䞀瞬でも速く。逃げおいる間でも、盞

平面滑走

サヌフェむシング

手の隙を芋逃すな。

しながら、障害物の間を瞫うように高速

移動をする。今、挔習堎で戊っおいる機を芋た他の衛士はきっず

『あんな動き、吹雪ず撃震が出来たか?』ず思うはずだ。私の撃震を远

いかけ回す吹雪は、それこそ障害物を巧みに䜿いながら远いかけおく

る。さながら障害物競走のように。

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 平面滑走、短距離跳躍、急旋回をしながら、アクロバットな䞉次元

機動を行う。埐々に詰められおいく距離を離す努力をしながら、状況

を芆す手立おを探す。

「くぅぅぅ  !! ここで、ぇえぇぇい!!」

 急角床のむンメルマンタヌン、ハむペヌペヌ、急制動し぀぀鋭角に

旋回。吹雪の目の前たで来るず、そのたた跳躍ナニットが出力党開に

なり、唞りを䞊げお急䞊昇を行う。぀いおくる吹雪目掛けお倒立反

転、そのたた加速しながら長刀を振り抜く。

「あ"ぁぁァァァァァ!!!!」

『なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁ

!!!!!』

 急䞊昇しおいた吹雪が倒立反転したたた萜䞋しおくる撃震を回避

するため、脇に逞れたずころを狙う。癜銀君の癖は、ここ週間の教

導で理解した。だからこその攻撃。回避する方向は䞀定なのだ。そ

こを狙っお、長刀で斬り぀ける。

 攻撃の結果を確認するこずなく、地面手前で跳躍ナニットの噎射口

を地面に向けお出力党開にし運動゚ネルギヌを盞殺するが、勢いを殺

しきれずに地面ぞドスンず着地した。

 頭䞊の吹雪を確認するず、巊肩郚装甲ブロックから腕郚たで党おを

倱い、巊跳躍ナニットも脱萜しおいた吹雪が浮いおいた。チャンス

だ。このたた倧砎たで远い蟌む。

 すぐさた飛び䞊がろうず跳躍ナニットの出力を䞊げるが、なかなか

離陞しおくれない。足元を芋るず、撃震の脚郚が地面にめり蟌んでい

た。匷匕に脚を匕き抜いお、再び吹雪の所圚を確認するず、既にすぐ

そこたで迫っおいる。

「したった!?」

『ぅおらぁぁぁぁ!!』

 長刀を構えたたた萜䞋しおきたのだ。私がさっきしたこずを、その

たた返される。今床は回避するこずもたたならず、撃震をコクピット

ブロックごず切り裂いたのだった。

『神宮叞機、コクピットブロック䞡断。衛士死亡。挔習終了です』

「  たた負けた」

43

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 悔しい。ここたでやっおおきながら負けおしたったこずが。

『癜銀さんず神宮叞軍曹はハンガヌぞ戻り、第ブリヌフィングルヌ

ムに集合しおください。匷化装備のたたで倧䞈倫です』

『了解』

「了解したした」

 今日の挔習で䜕戊目だろうか。幎明けから毎日のように、䜕戊も実

機挔習を行っおきた。ブルヌの撃震がオレンゞ色になるたで挔

習を繰り返した。敎備班長に怒られるこずもあった。

 届かない。吹雪を駆る癜銀君に。を搭茉した私の機䜓でも、

倧陞からこの方ずっず乗り続けお癖もなにもかも知っおいる愛機で







オペレヌション・バむ・ラむト

も。䞖代差もあるかもしれないが、私の撃震は

化や装

電子装備

アビオニクス

甲材軜量化、パヌツや

を最新モデルに換装、察レヌザヌ蒞散

塗膜塗垃加工がしおあるため、そんなものはあっおないようなものな

のだ。第䞖代氎準機ず第䞖代のダりングレヌドされた蚓緎機な

んお、差があっおないようなもの。なのに、癜銀君の吹雪には敵わな

い。

 ハンガヌに機䜓を戻すず、敎備ず枅掃のために取り付いた敎備兵た

ちが『こりゃ脚郚ダバむな』や『今回も掟手に動き回っおいたな』ず

蚀っおいたが、䜕凊からか『あの吹雪の腕を切り飛ばしたのを芋た時

には、遂にやったず思った。今たで手も足も出なかったこずがあった

くらいだからな』ず。確かに、これたで䞎えたダメヌゞの䞭では䞀番

倧きいかもしれない。だが、私はそれでは満足しない。やるからには

倒したいのだ。

 ※※※

 ﹇同日 第ブリヌフィングルヌム﹈

 匷化装備のたた指定されたブリヌフィングルヌムに入るず、既に癜

銀君ず瀟少尉が来おいた。他には倕呌も来おいるようで、近くの怅子

に腰を降ろしおいる。

「  神宮叞軍曹が到着したので、デブリヌフィングを開始したす」

 瀟少尉がそう切り出し、デブリヌフィングが始たる。

戊闘挔習

察

人

類

戊

闘

挔

習

「  先皋の

によっお、β版だったが完成したし

44

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た。既にバグの陀去も終わっおいたす」

「そ。  玄ヶ月お疲れ様」

「  今埌のの扱いに぀いおですが、銙月博士から既に指瀺が

出されおいたす」

 瀟少尉は搭茉機の数を増やすこずを䌝えた。決定しおいる

だけで癜銀君の吹雪ず私の撃震。他にも撃震の機ず吹雪機、䞍知

火機が確定ずのこずだった。私の撃震が搭茉機になったこ

ずで、癜陵基地の撃震旧搭茉機を新たに回すずいうこずになっ

た。今埌も増えおいく予定であり、最初は倕呌盎属郚隊に先行量産型

実戊蚌明

コンバットプルヌフ

を搭茉し、

を行うずいうこずだった。その先のこずは䜕も

蚀わなかったが、既に予定立おおいるず思われる。

 が完成に挕ぎ着けたずいうこずは、今埌癜銀君ず戊闘蚓緎を

行うこずもないずいうこずだ。勝ち越しされるのは嫌だ。むしろ、負

け越しする方が嫌だ。なんずしおも勝ちたい。そう考えおいる私を

尻目に、瀟少尉が説明を続ける。

「  神宮叞軍曹には今回の功瞟によっお倧尉に昇進。おめでずうご

ざいたす」

「ぞ? あ、ありがずう  ?」

 癜銀君が倕呌の助手ずいうこずは、特殊任務も受けるこずが倚いだ

ろう。䜕凊かのタむミングで再戊を申し出おおかなくおはいけない。

 ずいうか今、瀟少尉はなんお蚀った? 私が昇進?

「ちょっず埅っおください。私が昇進? しかも倧尉ですか?! 階

玚特進なんお聞いたこずないですよ!!」

「アンタは蚓緎生の子守りをしながら、の教導マニュアルを䜜

成しお正芏兵に教導しおもらうから」

「なっ?!」

「仕方ないでしょ〜? 癜銀はこんなだし、他にを扱えるのが

いないのよ」

「  り、了解」

「ちなみに蚓緎生の子守り䞭は軍曹だから」

「  はい」

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 長幎の付き合いで分かっおいる。倕呌は無茶苊茶なこずをする。

䜕床反論しおも、䜕床抵抗しおも無意味なのだ。ならば玠盎に埓う方

が身のためになる。溜息を吐きながら、私は倕呌から階玚章ず蟞什を

受け取る。

「霞、俺は?」

「  癜銀さんは、圓面の間は䜕もありたせん」

「そんなぁ  」

 癜銀君には圓分の間、お暇が䞎えられたようだ。倕呌曰く、癜銀君

は察倖的には兵士ではないらしい。それを垣間芋る出来事は䜕床も

あった。実機蚓緎の際は、基本的に屋倖で降りるこずはないのだ。管

制ブロックを開けるずころはハンガヌの䞭だけで、倕呌盎属郚隊甚の

ハンガヌの䞀番奥でしか開閉するこずはない。倕呌にそう厳呜され

おいるんだずか。しかも匷化装備に着替えるのは管制ブロック内。

出歩く際は囜連軍型軍装か䜜業着で、非戊闘員に玛れお出歩いおい

るずいう。癜銀君本人も煩わしく思っおいるようで、「こればっかり

は幎霢ですし、仕方ないですよ」ず蚀っおいた。

 確かにそうかもしれないが、やはり䜕凊か寂しいなず思っおした

う。もっず自由に出歩きたいず思っおいるだろうし、面識があるのは

どうも私ず倕呌、瀟少尉ず"スミカ"くらいに芋える。

 どうにかしおあげたい、ず考え぀぀も私はブリヌフィングルヌムを

出お、新たな仕事を始めるのだった。

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 

  ﹇幎月日 朝鮮半島海南郡沖﹈

 先生、俺はアンタを恚むぜ  。事の始たりは日前に遡る。

 月の䞋旬。玔倏ず霞の人で他愛のない話をしおいた。俺は幎

明けにが完成しお以来、䜓䜜りずシミュレヌタ蚓緎、勉匷くら

いしかしおいない。玔倏も勉匷ず䞊行しお筋力・䜓力䜜りに燃えおお

り『䜓が匕き締たったッ!!』ず喜んでいた。霞もそれに付き合っお、

皋々に蚓緎を亀え぀぀も、メむンの頭脳劎働をしおいる。そんな俺た

ち人が話しおいるず、そこに倕呌先生がこう蚀ったのだ。

『アンタ。ちょっず朝鮮半島行っおきなさい』

 ず。拒吊する間もなく、準備が進められおいた。そしお、気付いた

時には黄海を航行する戊術芏母艊の䞭に居た。

 倕呌先生から俺に䞎えられた任務は簡単だ。俺には身分詐称が厳

光州

クアンゞュ

呜されおおり、

䜜戊に斌いお囜連軍叞什郚防衛の匷化ず陜動を

行うこず。所属は極東囜連軍光州基地第戊術機甲䞭隊 りェン・

リヌ少尉。ナヌラシア極東戊線に斌ける激戊の最䞭、壊滅した郚隊が

ごちゃごちゃに固められお出来た郚隊の補充芁員ずしお入るこずに

なっおいる。

 先生が『悲劇を止めるならここからよ』ず俺に蚀っおいた。぀たり、

俺がしなければならない事は"そういう事"なのだ。だから囜連軍

叞什郚を守れ、ずいう任務が䞎えられたのだろう。

「いいさ、やっおやる」

 俺はそう呟き、戊術機に乗り蟌んだ。

 今回、俺が乗る戊術機は吹雪じゃない。モグリであるこずを悟られ

ないため、極東囜連軍光州基地に配備されおいる戊術機ず同系統のも

のを倕呌先生が甚意した。─だ。これにを搭茉しお

慣らし運転をしおあるものを持っおきおいる。少々動きが異垞にな

るかもしれないが、俺の生還も厳呜されおいるため、䜕か蚀及される

ようなこずがあれば、どうにかしお回避しろずのこず。最悪、凊分し

なければならないずいう。それに、䞇が䞀撃墜された堎合は、管制ナ

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



プラスチック爆匟

ニット内に仕掛けおある時限匏

を爆発させろずのこず。

を機䜓毎吹き飛ばせずのこずだった。

 髪型を少し倉え、俺は戊術機母艊から飛び立った。目的地は既に戊

闘が開始されおいる第防衛線。

 ※※※

 ﹇同日 光州䜜戊第防衛線﹈

 極東囜連軍光州基地第戊術機甲䞭隊ず合流。この時、第防衛

線は混乱を極めおいた。既に第戊術機甲䞭隊は半壊。合流前は

残存機機ずいう状況にあったが、俺が加わったこずで少し持ち盎し

たようだ。

『貎官がから連絡のあった補充兵か? 俺がこの

第戊術機甲䞭隊

リ

ザヌ

ド

äž­

隊

隊長 アレックス・ミラヌ倧尉だ。りェン・リヌ

少尉だったな、よろしくな』

「はッ!! よろしくお願いしたす!!」

 アレックス・ミラヌ倧尉。極東囜連軍に属する゜連系だずいう。瀟

䌚䞻矩思想が嫌になり、囜連軍に入ったずか。䞭幎で癜髪なナむスな

ミドルだ。

『俺はむ・ヒョンゞュン少尉。よろしくな、坊䞻』

「よろしくお願いしたす」

 頬の痩けた韓囜人青幎のようだ。゜りルに䜏んでいたが、韓囜軍が

散り散りに敗走しおしたったため、囜連軍に籍を眮いおいるずいう。

『む・スギョン䞭尉よ。よろしくね』

「よろしくお願いしたす」

 こちらは韓囜人女性。半島の北の方に䜏んでいたらしいが、軍がな

くなっおしたったので囜連軍に籍を眮いおいるずいう。

『枈たないが残りの機は埌退しおいる。損傷が酷かったのでな。䞭

の衛士も重傷だったみたいで、こっちに戻っおくるのは難しい』

 ミラヌ倧尉はそう蚀っお、オヌプン回線で状況説明を始める。珟

圚、第戊術機甲䞭隊の担圓戊域にはがいない。党お始末

したずいう。しかし、これから続々ずは来るだろうず予想さ

れおいるずのこず。䞡隣の戊域でも、第戊術機甲䞭隊のように脱

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萜者が倚数いるらしく、既に埌方ぞが流出しおいるずいうの

が珟状。第防衛線残存兵力は、第防衛線から埌退する戊術機甲郚

隊の支揎を行いながら、第防衛線たで埌退。囜連軍叞什郚ず背埌を

進行する民間人たちの誘導を支揎せよずいう呜什が叞什郚から䞋っ

おいるのだ。この際、第防衛線たで撀退する最䞭は砲兵郚隊や黄海

に展開しおいる日本垝囜海軍・統䞀䞭華戊線・倧東亜連合・囜連軍混

成艊隊による支揎砲撃が行われるずのこず。

 既に第防衛線残存兵力は埌退を始めおおり、少数の戊術機甲郚隊

─

殲

撃



型

が埌退䞭であった。俺たちの戊域に通過するのは、機の

。統

匷制脱出

ベむルアりト

䞀䞭華戊線所属機。双方共に損傷を受けおおり、片方には

し

お負傷しおいる衛士が搭乗しおいるずいう。

『リザヌドより第防衛線から撀退䞭の─。所属ず階玚、状況

の説明を求む』

 ミラヌ倧尉が戊術デヌタリンクに映った機圱に通信を呌びかける。

するずすぐに応答が入った。

『トラむアドよりリザヌドぞ。統䞀䞭華戊線 第戊術航空連

匵チャン

隊 

倧䜐だ。我々が第防衛線から匕き䞊げる最埌の郚隊だ。双

オレンゞ

è­Š

戒

方の機䜓ステヌタスは

。俺の機䜓は巊腕ず右跳躍ナニット、

僚機は右脚ず頭郚が特に状態が悪い』

『リザヌドよりオヌルナニット。リザヌド隊はトラむアド隊の機

を゚スコヌトしながら、䞀床第防衛線たで埌退する』

『『「了解」』』

 ※※※

 第防衛線の状況もいいずいう蚳ではなかった。ずの戊

闘は発生しおおり、抌し朰され掛けおいた。トラむアド隊の機は統

䞀䞭華戊線叞什郚ず連絡を取るこずが出来、負傷者を降ろしおから予

備機に乗り換えお戻っおくるずのこず。俺たちは第防衛線の補匷

のため、戊列に加わり戊闘を繰り返しおいた。

 を搭茉した─の機動はやはり、旧搭茉機よりも

機敏に動くこずが出来る。撀退䞭にそのこずをミラヌ倧尉やむ䞭尉、

む少尉にも聞かれた。しかし、答えるこずはせず、『お前の腕がいいん

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だろうな』ずミラヌ倧尉が纏めおしたった。

 ずはいえ、俺の機䜓のみ動きが機敏なのは埐々に囜連軍郚隊内でも

広たり぀぀あった。それに、担圓戊域の掃蚎が終わるず、俺たちは他

の戊域ぞ移動しおは戊闘を繰り返しおいた。ミラヌ倧尉が『俺たちの

郚隊も壊滅したが、機䜓のステヌタスに問題はない。ならばするこず

は味方の揎護だ』ず蚀っお、叞什郚の蚱可の元で転戊するこずになっ

たのだ。

リザヌド

りェ

ン・

リヌ

分隊

゚レメント

『リザヌドより

は俺ず

、む䞡名はそっちで分隊を組

んだ方が機胜するだろう』

「リザヌド了解」

『リザヌド了解。確かにリザヌドずの連携の方が安定したすが

  』

『リザヌド了解。俺たちで組んだ方がいいに決たっおる。りェン少

尉の機動に぀いおいけるのなら、俺はミラヌ倧尉ず組むが?』

『バカ蚀わないで。無理よ』

『なら蚀うな』

 即垭分隊を圢成し、第防衛線を転々ずし぀぀あるず叞什郚から

オヌプン回線で通信が入る。日本垝囜倧陞掟遣軍が突劂ずしお担圓

戊域を離脱。避難民を海南船舶タヌミナルぞの誘導のため、戊術機・

戊車郚隊が埌退。自走砲郚隊は倉わらず支揎砲撃を続けおいるずの

こずだった。

 これが恐らく『光州䜜戊の悲劇』だ。倧陞掟遣軍叞什官を務める圩

峰 萩閣䞭将が独断で呜什を䞋したものであり、『人は囜のために成

すべきこずを成すべきである。そしお囜は人のために成すべきこず

を成すべきである』を実行したたでに過ぎないずいうこずだ。戊列を

離れるこずは、぀の軍団ずしおは倧問題ではある。しかし、圩峰䞭

将は"成すべきこずをした"に過ぎないのだ。人ずしお。だからこ

そ、それだけ郚䞋が付き埓っおいるずいえる。

 行動を起こすのなら今しかない。俺はそう考え、ミラヌ倧尉に䞊申

をするこずにした。今、遊軍になっおいる厩壊した郚隊を集結させ、

囜連軍叞什郚正面に展開すれば守りきれるかもしれない。

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「リザヌドよりリザヌドぞ。我々は第防衛線以前から撀退した

戊術機を纏め、日本垝囜軍の抜けた穎を塞ぎに行きたしょう」

『リザヌドよりリザヌド。理由を聞いおもいいか?』

 怪蚝な衚情をしたミラヌ倧尉から、俺は理由を聞かれた。ここで説

埗をしなければ、このたた囜連軍叞什郚はに蹂躙されおした

う。それはなんずしおでも避けなければならない。

「はッ!! 日本垝囜軍の担圓しおいた戊域は抌され぀぀ありたした

が、残存戊力は䞀個連隊皋でした。しかし、それらの殆どが抜けおし

たったずなるず、進行䞭のが最終防衛線を抜け、埌方の囜連

軍叞什郚に到達しおしたいたす。各戊線には防衛線から埌退しおき

た戊術機甲郚隊が合流をしおいたすが、どこも手詰たりなはず。なら

ば、防衛線の支揎のために転々ずしおいる俺たちが向かうべきです。

幞いにしお、第防衛線は埐々に埌退䞭。最終防衛線の戊力増匷がな

されるため、遊軍ずなる我々にしかその穎を塞ぐこずは出来たせん

!!」

『  ただガキの癖になぁ。よし分かった。リザヌドより党

負け犬隊

アンダヌドッグズ

。俺たちは各防衛線で撀退の遅れた郚隊だ。叞什郚

も俺たちのこずを把握しおいる人間はあたりいない』

 負け犬隊。ミラヌ倧尉が第防衛線で転戊する䞭、増えおいった戊

術機たち。それは第防衛線や第防衛線から、党滅したず思われお

いた戊術機たちだ。その実、前線に残っお足止めをしおいた連䞭だ

が、どうにか埌方にたどり着いた奎らで出来た臚時線成倧隊だった。

どの機䜓も䜕かしら郚䜍が砎損しおいるものばかりだが、ただただ戊

える者たちでもある。だからこうしお、転戊する䞭で拟ったミラヌ倧

尉に付いお来おいるのだ。指揮官だったり新兵だったり、─や

─、─ 、─、─等など。統

䞀䞭華戊線、極東囜連軍、倧東亜連合軍ずいった郚隊で成された混成

郚隊が出来䞊がった。

『リザヌドよりオヌルナニット。これより日本垝囜軍が抜けた穎を

塞ぐべく、囜連軍叞什郚の正面に展開する。叞什郚が萜ちれば、俺た

ちがここに来た意味はない!! 俺たちの守るべき民は日本垝囜軍に

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任せよう!! 俺たちはここで死ぬべきではない!! 俺たちはナヌラ

シアに忘れられた戊士だッ!! 俺たちの生き様、俺たちの歊勇、俺た

母なる倧地

ナヌ

ラ

シ

ア

ちの想いをこの

に刻み぀けろッッッ!!』

『『『『『応ッ!!』』』』』

 呚囲に集結しおいた戊術機が䞀斉に跳躍ナニットを皌働させる。

次々ず浮き䞊がり、頭を向けるのは最終防衛線。囜連軍叞什郚に向か

う集団だった。様々な戊術機たちは、そのを殺戮す

べく飛び立ったのであった。

 ※※※

『  こちら第歩兵連隊。もう持たない!! 兵士玚や闘士玚は

どうにかなるが、戊車玚や芁撃玚は察凊出来ない!! 至急救揎を!!』

ヌクッテ

韓囜語オオカミ

『

連隊。残匟割を切った!!!! もう前線ぞの支揎砲撃を満足

に行えない!!』

『ぐああァァァァァァァ!!! く、駆動系が!! や、止めろ止めおく

れェェェェ!!! がが』

 ボロボロの戊術機甲郚隊が囜連軍叞什郚前面の最終防衛線に到着

したのは、もう少しで戊線が完党に厩壊する䞀歩手前だった。数機の

戊術機ず歩兵・戊車郚隊による懞呜な戊闘が行われおいる最䞭、俺た

ちは火線の正面に降り立ったのだ。

『リザヌドより囜連軍叞什郚に通達』

 オヌプン回線を開いたミラヌ倧尉は話しながら、迫り来る戊車玚や

芁撃玚を撃ち続ける。

『リザヌド䞭隊  第防衛線の第戊術機甲䞭隊か!? 奎らは党

滅したのでは?』

 恐らく囜連軍の指揮を執っおいるず思われる将校の映像が映し出

される。その顔には焊りず恐怖からか、脂汗が額から滲み出おいた。

叞什郚

『リザヌドより

。俺たちは、各防衛線から忘れ去られた衛士だ。

総勢機。統䞀䞭華戊線、倧東亜連合、囜連ず様々な軍に属しおい

るが、ここが堕ちれば光州䜜戊の意味が無くなっおしたう。日本垝囜

軍には俺たちの家族を守っおもらう。代わりに俺たちがここを守る

!!』

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『そうか  。最終防衛線を頌んだ』

 ミラヌ倧尉はそれに答えるこずはなかった。

『匵倧䜐。匟薬ず掚進剀は』

『掚進剀はあたり補絊出来おいないが、匟薬は別だ。歩兵の埌方に補

絊コンテナが蚭眮された。突撃砲の補絊ず、䜕凊から持っおきたのや

ら長刀たである』

『ありがずうございたす』

 戊域デヌタリンクに補絊コンテナの䜍眮が衚瀺される。総数

基。その殆どが突撃砲のものだが、぀だけ長刀のものもある。どう

やら第防衛線にあった日本垝囜軍のものらしい。これだけあれば

機䜓が壊れるたで戊い続けるこずができる。

 極東囜連軍叞什郚正面に展開した戊術機甲郚隊は、その損傷からは

想像も付かない皋の動きを芋せるこずずなった。元々機䜓自䜓にあ

たりダメヌゞのなかったリザヌド䞭隊に、予備機を取っお戻っおきた

匵倧䜐のトラむアド隊を䞭栞ずしおいるこずは䞀目瞭然だった。所

属はバラバラだずしおも、そこが守らなければならない堎所であるず

蚀わんばかりに。他の叞什郚は撀退枈みであり、残すずころ俺たちが

守る囜連軍叞什郚のみずなっおいた。避難民の収容は囜連軍の茞送

船を䜿甚しおいるずいう理由もあり、叞什郚撀収のための茞送船はた

だ接岞出来おいないのだ。

 しかしながら、そのような状況䞋にあったずしおも、俺たちは戊い

続けた。瓊解するず思われおいた囜連軍管蜄の防衛線は、叞什郚目前

で持ち盎しおいた。戊術機母艊に戻っおいた各軍の戊術機も、続々ず

救揎のために最終防衛線に集結し぀぀ある。

 そしお最終防衛線での戊闘開始からおよそ分埌。囜連軍叞什

郚撀収の時間を皌いだ混成郚隊ず共に、叞什郚非戊闘員が朝鮮半島か

ら撀退。光州䜜戊に斌ける、最倧の危機は脱するこずが出来たのだっ

た。

 ※※※

 ﹇幎月日 東シナ海掋䞊﹈

 俺たちリザヌド䞭隊が収容された戊術機母艊には、乗り合わせた他

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軍の戊術機があった。俺たちは囜連軍ではあるのだが、黄海で匷襲䞊

陞を務めた倧東亜連合ず統䞀䞭華戊線の戊術機母艊はおよそ割が

蜟沈しおいたのだ。そのため、䜜戊終了時に戊術機を収容する母艊の

数が足りなくなったのだ。

「いやぁ、助かった。極東囜連軍が匷襲䞊陞の時に䜿った戊術機母艊

俺たちのずころ

çµ±

侀

äž­

華

戊

線

が無傷で䜕隻も残っおいたんだろ? 

は搭茉機数

機の母艊に機乗せるもんだから、垰還の時は機䜓を乗り捚おる

こずもあるんだ」

「そら知りたせんでした。統䞀䞭華戊線の戊術機母艊は゜連のレンド

リヌスずラむセンス生産のものがほずんどだず聞きたしたけど、数は

足りないんですか?」

「造船所も明かりが萜ちないくらいに働いおるんだが、それでも足り

なかったんだ」

「匵倧䜐が乗った母艊も?」

「もちろん。俺たちの連隊には戊術機母艊が隻䞎えられおいたが、

それでは連隊党機は茉せれないからな。甲板に朮さらしにするしか

なかった」

 戊術機母艊のハンガヌに、俺ずミラヌ倧尉、匵倧䜐が集たっお話を

しおいた。行きに俺の戊術機を茉せおいた母艊だが、俺を送った埌は

光州䜜戊に参加した囜連軍の指揮䞋に入るこずになっおいた。俺が

垰る時にも、この戊術機母艊を䜿うようにず倕呌先生に蚀われおいた

のでその通りにしおいる。

 しかし、先生も想定倖だろう。俺を線入した郚隊は俺を残しお党滅

するず思っおいたらしく、たた、戊堎で共闘した他軍の戊術機を茉せ

るこずになる等県䞭にすらなかった筈だ。俺の─の秘密を

知られる可胜性は捚おきれないが、先生ぞの意趣返しのためずでも

思っおおこう。

「しかしなんだ、りェン少尉の─はおかしな動きをするんだ

な」

「匵倧䜐  」

「詮玢はしたくはなかったんだが、単玔に興味だ。俺の知っおいる

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─はあんな動きはしない。蚭蚈思想からしおも、近接戊闘は開発

元からしおも考えられないからな。だが、りェン少尉の戊闘スタむル

は俺たち統䞀䞭華戊線やその他、自囜領土内にハむノを抱える囜にあ

りがちな近接密集戊闘だ」

「お、俺の所属しおいた蚓緎郚隊では、そのようには教わらなかったん

です」

「はははっ!! なるほどなぁ。そりゃ、砲撃戊向きの機䜓なのに近接

䞭身俺

密集戊を行う蚳だ。

がそう出来おないならな」

 ゲラゲラ笑い、俺の肩を叩く匵倧䜐はタバコを吞いながら、䞀床深

呌吞をした。

「戊友になったお前らに、恐らく埌から聞かされるこずを先に䌝えお

おこう」

 戊堎で戊っおいた時の雰囲気に切り替えた匵倧䜐は、俺たちが怅子

代わりにしおいた突撃砲の匟薬箱にもたれ掛かりながら淡々ず話し

始める。

「光州䜜戊に投入された戊術機、およそ割を喪倱。俺たち統䞀䞭華

戊線機は残存が俺ず僚機になった金䞭尉が乗っおいた予備の─

だけ。他の軍も倉わらないんだろう? 参加機数が倚かった囜連・日

本垝囜軍は垰還機数が倚かったずしおも、統䞀䞭華戊線も他囜軍も同

じだ」

「倧東亜連合に組み蟌たれた朝鮮人民・倧韓民囜軍も同じです」

鉄

原

チョルりォン

「

の奎か」

 鉄原。確か朝鮮半島䞭倮にある地域だが、その地名には聞き芚えが

ある。ハむノが建蚭された堎所。光州䜜戊時にはすでに陥萜しおい

お、衛星ががハむノを䜜っおいるずころを確認しおいるのだ

ろう。



戊闘指揮所

「先皋同乗の瀌を艊長に蚀いに行った時、

のレヌダヌを芋たん

だ。繰り䞊げで指揮官になった俺だが、それでも指揮官レベルのブ

リヌフィングには出垭しおいる。どれ皋の艊艇が参加しおいたのか

を知っおいるからこそ、撀退しおいる艊艇の数を芋るずやるせなくな

るな」

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 俺も倕呌先生からは聞いおいる。途䞭で合流する際、県䞋で炎䞊し

ながら沈んでいく船は数え切れない皋芋た。だからこそ、匵倧䜐が蚀

いたいこずが理解できた。

「い぀たで経っおも、慣れないな  。吊。慣れたくはない、な」

 そう呟いた匵倧䜐の声が虚しく、機械音ず収容できた負傷者や民間

人の声で掻き消えおいった。

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 

  ﹇幎月日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区機密区画 

銙月博士執務宀﹈

 光州䜜戊に参加するために身分や名前を停っお入った極東囜連軍

光州基地第戊術機甲䞭隊のミラヌ倧尉たちや、䜜戊䞭に合流し共

闘した匵倧䜐ず共に戊術機母艊で撀退した埌、統䞀䞭華戊線の軍枯

《基隆枯》で再線成ず、難民たちの䞀時的な䞋船が行われた。

 その時に匵倧䜐たちは軍に報告をするず蚀っお分かれ、ミラヌ倧尉

たちはホヌムを倱ったずいうこずで、䞀時的に統䞀䞭華戊線の台北基

地所属になるずいうこずだった。汚染掗浄も枈んでいないボロボロ

の─は、オヌバヌホヌル盎前レベルたで疲劎しおいるもの

の、䞭砎・倧砎しおいる戊術機を優先しお運び蟌むずのこずだったの

で、台北の空を機線隊で台北基地たで飛ぶこずになった。

 台北基地に降り立った俺たちはすぐさた再線成の指什を受け取り、

それぞれにミラヌ倧尉から蟞什を受け取った。䞉人は台北基地にそ

のたた残っお、生き残った衛士たちを纏め䞊げお負け犬隊を存続する

こずになったずいう。その䞭に俺の名前はなく、光州たで乗っおきた

戊術機母艊の母枯である暪浜たで行くこずになったのだった。

 たった数日間だけだが、共に戊ったリザヌド䞭隊の面々や、䞇党な

機䜓が䞀機もいないたた囜連軍叞什郚を目指しお撀退した各囜軍の

衛士ずは、ずっず前から家族だったように思えお仕方がなかった。

 しかし俺にはやらねばならないこずがある。光州で連れ添った仲

間たちに別れを惜したれながら、俺は䞀人で戊術機母艊に戻り、暪浜

に垰還するのだった。

「報告曞は読んだわ。アンタみたいな蚳アリが入っおも䞍審に思われ

ない堎所に攟り蟌んだんだけど、盞圓前線は酷かったようね」

「えぇ  あれが本来のずの戊いなんだ、っお戊っおいる時

は実感したせんでしたけど  」

 目の前で足を組みながら、俺が戊術機母艊内で曞き䞊げた報告曞を

読む倕呌先生は、他の報告曞らしきものも手に取っお読み始める。

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 倚分だが、もう䞀぀の報告曞らしきものは─が提出したもの

なのだろう。顔を顰めながら睚み぀ける様に読み進めおいる。

「  ご苊劎さた」

「はい。こっちでは䜕かありたしたか?」

「特にないわ〜。匷いお蚀えば、䞀人になっおも鑑がうるさかったく

らいよ」

「はぁ  玔倏のダツ  。俺が芋おいない間に先生にご迷惑掛けた

せんでした?」

「それも無いわね。むしろうるさくおもやるこずはやっおいたわ。ア

ンタの吹雪ずたりもの撃震の敎備はあったから、基本そっちに付きっ

きり」

「そう蚀えば出撃前日たで実機詊隓はやっおたしたね。ずいうか玔倏

のダツ、戊術機の敎備なんおできるんですか?」

「アビオニクス系はむゞれるようになったみたいよ。瀟のプログラミ

ングアシスタントをしおいたからかしら? それに戊術機でやるこ

ずなくなるず、執務宀やらあちこち掃陀しお回ったりしおたようね」

 二組の報告曞を机の䞊に攟り投げた倕呌先生は、そのたたコヌヒヌ

メヌカヌの前に立っおコヌヒヌを入れ始めた。

「順番が逆になったけれど、アンタの耳に入れおおきたいこずがある

わ」

 再び垭に戻った先生は、カップを傟けながら話し始める。

「─に建前的に詊隓導入したに぀いおよ」

 問題が起きたのだろうか?

「圓初は䞀個䞭隊に䞎えただけど、月䞋旬には䞀個倧隊にた

で膚れ䞊がったのは知っおいるわね?」

「はい。やはりず蚀うかなんずいうか、あれは衛士から芋れば画期的

なですから。盎接芋たり䜓隓したりすれば、䜿いたくなるものだ

ず思いたす」

「そうよ。結局連隊党機に導入するこずにはなっおいたんだけれども

ね、光州䜜戊に間に合ったのがその䞀個倧隊だったっお蚳。それで

搭茉機ず旧搭茉機の光州䜜戊時のキルレシオを芋たのよ。

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  よ」

「それは぀たり  」

「えぇ。を搭茉した䞀個倧隊が、光州䜜戊に参加した旧搭

茉機のレシオず䞊んだわ。参加戊術機数は䞉個垫団盞圓だったはず

だから、そこから単玔蚈算でね。任務は色々䞎えおいたけれど、

の実蚌実隓は成功。その䞊、䞀個倧隊芏暡の䞍知火が倧立ち回りし

たお陰で参加軍から問い合わせが殺到䞭。たぁ、教えおあげないんだ

けどね」

 俺の担圓戊域からかなり離れおいたずころを担圓した─が、

どんな戊いをしたのかは気になる。俺のこずをよそに、倕呌先生は話

を続けた。

「光州䜜戊には二個倧隊を投入したけれど、未垰還は。搭

茉機に限ればよ」

 䞀床ずの戊いになれば、戊術機が戻っおこないなんおこず

は圓然のこずであるこずはよく知っおいる。知っおいるからこそ、倕

呌先生の蚀った機未垰還ずいうのは、ずお぀もなく倧きなこずであ

るこずは理解できるのだ。

 静かに聞いおいた俺は、頭に思い浮かべおいたこずを口にする。

「撃墜機の扱いは、どうなっおいるんですか? 前の䞖界では、回収で

きるずころでは回収しおいたず思うんですけど」

「ふぅん  。撃墜された䞍知火は爆砎凊分されおいるわ」

「爆砎?」

「前の䞖界、月日の䞊陞ず月日のクヌデタヌ

の時は囜内だったから、党お私が回収したわ」

 厳密に蚀えば、─専属チヌムが回収したのだろう。指瀺は倕

呌先生が出したずいうこずだ。

「だけど今回は囜倖。囜内なら私の手が届くけれど、䞀床倖に出れば

状況は倉わるわ。は子飌い郚隊の䜜戊遂行率を䞊げる意味で

も必芁なもので、他の囜や郚隊に枡るのはできる限り避けたいの。前

の䞖界では䜙裕がなかったけれど、今は䜙裕はないにしろ猶予はあ

る」

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「それずを隠匿する因果関係は  反オルタネむティノⅣずオ

ルタネむティノ⅀掚進掟の察策ですか?」

「よく考えるようになったわね。その通り。ただ生たれお間もないオ

ルタネむティノⅣの息を氞らえさせなくおはいけないからこそ、

は私たちの手の届く範囲でのみ運甚するこずになるわね。圓面は

─だけになるわ」

 衛士の生還率があがる芁因にもなるを、そんな政治的理由で

䜿わせなくする。そんなこずを頭では理解できおいた。そうしなけ

れば、オルタネむティノⅣが䞭断されおしたうかもしれない。オルタ

ネむティノ⅀に進たせおはいけないからこそ、圌らにスキを芋せない

意味でも、圌らに力を持たせない意味でも必芁なこずなのだ。

 だが、心は別のこずを叫んでいる。今からでも普及させれば、死ぬ

人を枛らせるかもしれない。前線を抌し止めるこずができるかもし

れない。本土に䞊陞させないようにできるかもしれないのだ。

 ぐっず気持ちを抑え蟌み、俺は倕呌先生の目を芋る。

 その目はい぀も芋おきた目だ。人類を救うため、悪魔に魂を売っ

た。埌ろ指を刺されながらも、倧倚数を敵に回しおも、盎向きに人類

の勝利を願っお己の力を䜿っおきおいるのだ。

 そんな先生の埌ろ姿を芋たからこそ、俺は抑え蟌むこずができたの

かもしれない。力も芚悟もある。理解した。先生ず目指す先が同じ

だず蚀うのならば、俺も䞀緒に歩けばいいのだ。

「ずなるず、第衛士蚓緎郚隊の戊術機蚓緎だけは、たりもちゃん

がを教えるこずになりたすね」

「  そうよ。既に次の代のが入っおきお蚓緎を始めおいるわ。ただ

前期蚓緎䞭だけれども、総戊技挔習が終わり次第よ」

「戊術機蚓緎を受けおいない蚓緎兵が、始めからを䜿っお蚓緎

した時の䌞び方は尋垞じゃないず思いたす。俺の代は特別でしたが、

きっず今床受ける蚓緎兵も蚓緎次第で同じくらい匷くなるず思いた

す。教えるのがたりもちゃんなら尚曎」

「を初めから䜿っお、早々にくたばっおもらっちゃ困るわ。ア

ンタもあたしも」

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「そうっすね  」

「あたしやるこずあるからここで終わりよ。アンタは奜きなようにし

なさい。ひずたずやっおもらうこずは終わったから」

「そうさせおもらいたす。倱瀌したす」

 はオルタネむティノⅣの成果物になる、ず倕呌先生は蚀っお

いた。だからこそ、でなければ埗られないメリットをデメリッ

トが霞むくらいに倧きいものにしなければならない。先行配備され

た─の䞀個倧隊では、未垰還機が機だった。そも旧が

機だったのに察しお、だ。これは倧きなメリットになるだろう。し

かし、の真骚頂は反応速床の䞊昇だけでない、远加された機胜

にあるのだ。俺は─で参加したが、倕呌先生からはあたり

キャンセルやコンボを倚様しないように蚀われおいた。党力機動は

なるべく人目に觊れないこずや、誀魔化しの効く『前線囜家で蚓緎を

受けた』がカバヌできる範囲だけで実珟ができたのみだ。

 ずなれば、次にやるこずは自ずず決たっおくる。倕呌先生のオルタ

ネむティノⅣが盀石なものずなり、人類が反旗を翻すその時たでオル

タネむティノ蚈画を独走させるこずだ。

 倕呌先生の執務宀を出た俺は、荷物を仮眠宀に攟り入れお玔倏ず霞

のずころぞ向かうのだった。最初は垰還報告だ!

 ※※※

 ﹇同日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有機密区画 電算宀﹈

 俺は人がいるであろう電算宀に向かった。ずいうのも、玔倏は倜

に仮眠宀ぞ戻るたでは囜連軍の機密区画内のあちこちにいる。その

䞭でも䞀番確率が高いのは、霞がよくいる電算宀だった。

 俺の予想は圓たっおいたらしく、電算宀の扉を朜るず、䞭からコン

ピュヌタのラゞ゚ヌタファンが唞りを䞊げおいる䞭にキャッキャず

䞻に聞き芚えのある声が聞こえおくるからだ。

「ただいた〜」

「あ〜〜〜〜!!! やっず垰っおきたヌヌヌヌ!!」

「ただいた、霞」

「  おかえりなさい、癜銀さん」

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「無芖するな〜〜〜〜!」

「よう、玔倏」

「あ、うん  タケルちゃん」

 い぀ものごずく元気に隒ぐ玔倏に、物静かにコンピュヌタのモニタ

ずにらめっこしおいた霞が俺をチラッず芋おすぐに芖線を戻す。

あぁ、今仕事䞭だったのね。俺も少しはプログラミングの勉匷をしお

いるから分かるのだが、霞の技術は本圓に技術者の゜レだろう。タむ

ピングが止たるこずを知らず、モニタの文字列がどんどん䞊ぞ䞊ぞず

抌し䞊げられおいくのだ。

 䞀方、玔倏は急に静かになった。俺のこずを芋おすぐは元気だった

のに、ゞロゞロず俺のこずを芋枡しおいる。

「なんだよ、玔倏」

「あ、うん  あはは。"前の䞖界"の蚘憶があったずしおも、党郚䞀

緒に出撃したこずしかなかったからさ。こうやっお私は残っお、タケ

ルちゃんを芋送るこずっおなかったから  」

「そっか  そうだよな  。ただいた、玔倏。俺は元気に垰っおき

た。怪我もしおないし、ほら、この通り!!」

 玔倏に芋せ぀けるように屈䌞運動や手を振ったりしおみせた。

 玔倏が䜕を思っお蚀ったのかは分かっおいる぀もりだ。だが、どん

な返答を願っおいるのかたでは分からない。分からないが、俺は俺の

したいようにする。俺は䜕事もなく垰っお来れたんだ。

 そんな俺を芋た玔倏は、フラフラず立ち䞊がっお俺に抱き぀いた。

これたでに䜕床もしたこずあった。だが、"この䞖界"では初めお

だ。俺は玔倏の背䞭に手を回しお抱き寄せるず、そのたた顔を玔倏の

顔の暪に持っおいく。巊頬に玔倏の赀い髪の毛が圓たっおくすぐっ

たいが、それが気にならなくなる皋に、そしお玔倏が壊れないくらい

に力を入れお抱き締めた。

「怖かった  」

 たった䞀蚀が俺の心に刺さる。玔倏が戊堎に出た蚳ではないが、玔

倏の蚘憶の䞭にはず生身で察峙したものがあるのだ。俺も

"前の䞖界"のプロゞェクションで芳せられおいるからこそ、玔倏が

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心で䜕を思っおその蚀葉が出おきたのかが理解できる。

 できおしたうからこそ顔に出おしたうのだ。蚀葉にしなくずも雰

囲気や衚情で盞手に知られおしたう。俺は玔倏に顔を芋られないよ

う、䞀局力を入れお抱き締める。

 そんな俺に霞がふずこちらを芋お、い぀もの様に淡々ず話し始め

た。

「  出撃が決たり、癜銀さんの搭乗機が確保できた時、玔倏さんは癜

銀さんの機䜓に现工をしおいたした」

「现工?」

「  はい。癜銀さんの─ですが、あれは型だず聞いおいる

ず思いたす」

「え? あ、うん。配属が光州基地だったから配備されおいるのは

─か─だもんな」

「  あの─を甚意したのは銙月博士です。換装ず

むンストヌル䜜業は癜陵基地で私ず玔倏さんが行いたした」

 マゞか。䞀床本䜓諞々、戊術機の制埡系を芋せおもらったこ

ずがあるが、換装䜜業は霞たちが行える皋楜な仕事じゃないのは目に

芋えお分かる。そもそも自䜓が倧型であるずいうこずもある

し、制埡するために必芁な電力䟛絊は旧ず少し違うのだ。だから

ずがセットで運甚されお本領発揮するずいう話は本圓

ではあるのだが、その実、電源倉換ナニットやら諞々も亀換するのだ。

「  簡単に蚀っおしたえば、あの─は簡易版の型でした。

短時間であれば近接密集栌闘戊も可胜です。同じく、長刀も䜿甚可胜

でした」

 嘘だろ。─だずばかり思っおいたから、長刀の䜿甚は控え

おいたのに  。しかも囜連軍叞什郚の前に展開した時、垝囜軍が残

しおいったコンテナに未䜿甚の長刀がこれでもかず死蔵されおいた

のだ。継戊胜力を優先したため、長刀の䜿甚は最埌の最埌にしようず

しおいたのに、実は䜿えたしただなんお今聞かされおも  。

「りッ゜だろオむ  。初期装備も突撃砲門で、撀退たで長刀なん

お指䞀本觊れなかったのに  」

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「  起動シヌケンスでステヌタスに《─ 》ず衚

瀺されたはずですが」

「芋おねぇ  クッ゜〜〜〜〜! それ芋おたら確実に気付いたのに

〜〜〜〜!」

「  ごめんなさい」

「いんや、霞は悪くない。気付かない俺が悪い」

 気付かなかった俺が悪い。これで霞がむゞっおくれた─

を撃墜されたなんお話だったら笑えない。恐らく、霞の奜意でむゞっ

たのだろう。それに、今埌も─には乗るこずになりそうだか

らな。きっずそれたでに霞が色々やっおくれるかもしれない。それ

を期埅しよう。

「霞ちゃんが型ず型のプログラムを比范しお、近接栌闘戊ができ

るように曞き換えたんだよ〜〜〜〜。さっき霞ちゃんが芋おいたの

だっお、─のプログラムだもんね」

「  はい。簡易版しか曞き換えおたせんので、今回はオルタネむ

ティノⅣ補の─を䜜りたす。既にハヌドの発泚は銙月博士

にしたした」

「今珟圚、吹雪持っおるんだけど、オレ  」

「いいじゃないのさヌ。タケルちゃんには必芁なんだから。それに吹

雪はオルタネむティノⅣが䜿っおるけど、癜陵基地甚でもあるんだか

ら」

 俺から離れた玔倏はニヘラず笑いながら蚀う。

「わかっおらぁ」

「ほんずに〜〜〜〜?」

「お、おう」

 端切れの悪い返事を返しおしたう。

「  次の任務は決たっおいないので、癜銀さんは通垞任務に含めお

─のテストパむロットをしおくださいね」

「分かった」

「  プログラムの䞊曞きをしおきたす。たたね」

 コンピュヌタの前から立ち䞊がった霞は、愛甚のラップトップを片

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手に電算宀から出お行っおしたう。玔倏は遅れるこず数秒埌、同じく

ラップトップを片手に霞を远いかけお行っおしたった。

「霞ちゃん、埅っお〜〜〜〜!」

 電算宀に眮いおきがりになった俺は、そのたた数秒埌に再起動し、

しなければならないこずを始める。

 たずは自分の凊理しなければいけない事務仕事だ。䞀応衚向きは

─の郚隊長は俺になっおいるので、郚隊宛に回っおくる曞

類を確認しなくおはならないのだ。ず蚀っおも数枚皋床なので、確認

しお次の郚眲に回すだけだ。

 誰もいなくなった電算宀の照明を萜ずしお、俺は䞀人仮眠宀に向か

うのだった。

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 

  ﹇幎月日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区第挔習

堎﹈

 囜内が光州䜜戊埌の趚勢に泚目する䞀方、俺は新聞を読み持っおい

た。囜内で流通する新聞から、わざわざアメリカの新聞を買っおたで

情報収集を行っおいたのだ。

 目的はもちろん、持ち堎を離れた日本垝囜倧陞掟遣軍に぀いお。防

衛線を攟棄し避難民救出を優先したのだ。その結果、戊線が厩壊。最

終防衛線の埌ろに存圚する囜連軍叞什郚壊滅、指揮系統の混乱に远い

やった。このこずから囜連は倧陞掟遣軍指揮官である、圩峰 萩閣䞭

将が戊犯ずしお日本垝囜政府に身柄を芁求した。䞀連の事件から、

幎にはクヌデタヌぞず繋がっおいったのだ。

 この䞖界では、倧陞掟遣軍が抜けた穎を、俺が朜り蟌んでいた戊術

機郚隊ず各囜の寄せ集めで察応し、なんずか乗り切る事ができたのだ

が、それでも被害がなかったず蚀えば嘘になる。䞀個倧隊芏暡の戊術

機甲郚隊が穎埋めをしたず蚀っおも、本来ならば戊車や自走砲等の機

甲郚隊や䞇党な戊術機甲郚隊が担っおいた戊域を、ボロボロか぀倚囜

籍な戊術機甲郚隊がカバヌできるかず蚀ったらできないのだ。実際、

あの堎所に駆けおも足止めにしかならなかったからだ。

 難しい顔をしながら新聞を読み持っおいるが、俺がどこにいるか忘

れおいる蚳ではない。管制ナニット内に新聞を持ち蟌んだ蚳ではな

く、搭乗前に読んでいたものを思い出しおいただけだった。

 䜕故、今管制ナニット内にいるのか。それは倕呌先生に蚀われたこ

ずを遂行するためだ。

『確認するわ。アンタにはこれから、─ず挔習をしおもらう』

「せ、先生?」

『  䜕よ』

「䜕ずなく目的は分かるんですケド  」

『あらそう? じゃあ、私が求めおいるこずも分かるわね? じゃあ、

よろしく〜』

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 網膜投圱されおいた、倕呌先生のバストアップりィンドりが閉じ

る。それず同時に俺は倧きく息を吞い蟌んで、思いっきり叫んだ。

「どぉしお、䞀個䞭隊ず戊わなくちゃいけないんだァァァァァァ!!!!」

 ブリヌフィングはなく、ただ─ず戊っおこいず蚀われた。目

的䜕ずなくだが分かる。での実戊を経隓し、驚異的な生還率を

䌚埗した─の衛士たちを叩きのめすのだろう。倩狗になっお

もらったら困るのが倕呌先生で、これから戊うこずになる─の

衛士なのだ。驕っお挑もうずすれば、どこかで必ずミスを犯しお死

ぬ。それは初陣の衛士でも蚀えるこずなのは、口酞っぱく蚓緎兵時代

の教官に蚀われお耳にタコができおいる筈なのだ。ならば、こんなこ

ずをする必芁はないんじゃないか、ずも蚀える。しかし、倕呌先生は

必芁だず蚀った。ずいうこずは぀たり、その兆候があるずいうこずな

のだ。ここで懞念材料ずなりうるであろうものは、なるべく摘んでお

きたい。倖から芋おいるからこそ分かるこずであり、それを正すこず

のできる立堎にいるのならば手を出す。"こちら偎"に立ったから

こそ、芋える景色なのだろう。

挔習

察

人

類

挔

習

統合仮想情報挔習システム











 これから始たる

は

を甚いた

察だ。もちろん、の偎は俺。この挔習はかなり平等性に欠けお

おり、─偎は䞍知火の搭茉機。䞀方俺は吹雪の搭

茉機。状況からしお、どう考えおも俺をタコ殎りにする挔習内容。し

かし、この堎で求められるのは、吹雪による䞀方的な蹂躙だった。

 あたりに過酷な条件を突き付けられたが、慄くこずはない。これよ

りも数段深い地獄を䜕床も経隓しおいる。盞手は─で粟鋭だ

からず、牙を剥かない蚳にはいかない。

 操瞊桿を握り蟌み、躰を自然䜓にし、頭を萜ち着かせる。クリアに

なれば、機䜓のステヌタスチェックを再床行う。

『挔習開始秒前  、、、挔習開始』

 将校はおらず、カりントダりンも敵偎の将校のを聞いおい

るだけだ。開始の合図ず共に、スロットルを開いお噎射跳躍を始め

る。時より着地しお姿勢を盎しながら、戊域をゞグザグに瞫うように

進んでいく。レヌダヌには䜕も映っおいないが、恐らく盞手は俺のこ

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ずを捉えおいるだろう。

 刹那、レヌダヌに反応が出た。近くに熱源を感知。分隊を発芋し

た。カラヌの䞍知火だ。

 即座に接地し、䜓を捻っお反転する。ビルの廃墟の壁を蹎り飛ば

し、発芋した䞍知火の方向ぞず進路を向ける。

突撃前衛

ストヌム・バンガヌド

 吹雪は

装備を遞択しおおり、右手に匏突撃砲、巊手

に匏倚目的远加装甲を保持しおいる。背郚にある可動兵装担架

匏近接戊闘長刀









─





システムには

が本保持されおいる。これが突

撃前衛装備であり、固定歊装ずしお前腕に栌玍されおいる匏近接

戊闘短刀ず合わせお装備されおいる兵装の党おである。

匷襲前衛

ストラむク・バンガヌド

 芖界内に捉えたのは、突撃前衛装備ず

装備の䞍知火

だった。跳躍ナニットの出力は吹雪のものがダりングレヌドされお

䜎くなっおいるため、远いかけっこの鬌には向かない。確実に屠るの

ならば、あちらから接近させる必芁があった。しかし、幞いなこずに、

盞手の分隊はこちらに迫っおきおいる。そうであれば、こちらにはど

うずでもやりようはある。ただし盞手も搭茉機であるこずを

忘れおはならない。

 突撃砲の射皋圏内から近接栌闘戊圏内たで接近するず、すぐさた远

加装甲でチェヌンガンの匟を匟きながら射撃䜓勢に移る。

バヌスト撃ちをこちらもするが、匷襲前衛には远加装甲を䜿われ、匷

襲前衛には回避運動を取られる。

 このたたでは他の機に囲たれおしたう。そう考えた俺は、勝負

に出た。

 面倒な敵なのは突撃前衛だ。狙うのならば、たずはこちらが先決。

重りにしかなっおいない远加装甲を捚お、党速力で突撃前衛に突っ蟌

む。

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 亀わるその時、背郚兵装マりントに巊手を䌞ばす。火薬匏ノッカヌ

によっお跳ね䞊がる長刀を、その勢いを殺さずに振り䞋ろした。远加

装甲によっお匟かれた長刀をそのたた逃し、急制動。反転党力噎射を

行い、跳躍ナニットのノズルを地面方向に向けた。姿勢はう぀䌏せの

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姿勢。本来かかるはずのない方向からのに抌し぀ぶされそうにな

りながらも、そのたた空䞭で姿勢制埡。突撃前衛に反転降䞋する。勢

いを殺さずに長刀を振り抜いお空䞭倒立、そのたた照準を定めおいた

匷襲前衛に向かっお射撃した。

『ノァヌル倧砎、衛士死亡、戊闘䞍胜』

 最初に盞手の突撃前衛の撃墜アナりンスが将校から知らされ

る。

『ノァヌル小砎、巊跳躍ナニット脱萜、戊闘続行可胜』

 空䞭で姿勢制埡し、突撃前衛を螏み台に突撃前衛に向かっお氎平噎

射跳躍で接近。埌ろに控えおいた匷襲前衛に牜制射撃をし、長刀を振

り抜く、すんでのずころで躱され、跳躍ナニットを切り萜ずすこずず

なった。ここで機ずも撃墜する぀もりだったが、少し考え盎す必芁

がありそうだ。

 残る機の䞍知火に苊戊する未来が脳裏に過った。

 ※※※

 初陣の光州䜜戊を垰還した時、喜びよりも安堵の方が勝った。蚓緎

兵時代に聞かされたこずも、配属埌の䞊官から聞いたものずも違っお

いた。私は聞いお想像しお、知りもしないで玍埗しただけだった。

 そしお、初めおを芋た時には、おぞたしい姿をした人類の

脅嚁に圧倒され、盎前に迫る死に恐怖した。それからは死にもの狂い

で戊い、気付いた時には基地ぞ垰る母艊の䞭。脂汗でベトベトになっ

た額に、排泄物パックにはブツが入っおいた。だが、蚘憶には刻たれ

おいた。県䞋に広がる惚状。骚䌝導スピヌカから聞こえおくる、オヌ

プン通信で泣き喚く衛士の断末魔。幞い、胃の䞭身をぶち撒けなかっ

たが、それでも吐き気は催した。

 基地に戻っおこれば、い぀もの勀務がやっおくる。あの戊堎はどこ

か遠いずころで起きたものだず錯芚しおしたうが、脳裏には光景が焌

き付いおいた。

 そんなある日。私の所属する連隊を指揮䞋に持぀、銙月博士が私た

ちの䞭隊ぞやっおきお蚀ったのだ。面癜い衛士がいる。銬鹿なガキ

で蚓緎兵だが、劙に戊術機を操る腕はある。それを錻にかけおいるか

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ら、可愛がっおやれ、ず。

 䞭隊長は博士の頌みだからず受け、私たちは挔習堎ぞず繰り出し

た。

『ノァヌル小砎、巊跳躍ナニット脱萜、戊闘続行可胜』

 ステヌタスは巊の跳躍ナニット以倖䞇党。脱萜した跳躍ナニット

は前方で爆発しおいる。僚機の小隊長はどこぞ行ったのか。撃墜刀

定を受けおいる。バストアップりィンドりには、悔しそうに顔を歪め

おいる小隊長がおり、本圓に撃墜されおいるこずを私に突き぀けた。

 䞭隊でも矀を抜いお匷い小隊長が撃墜? しかも近接栌闘戊で?

 信じられない。私は揺れる網膜投圱された映像で、倒壊したビル矀

を芋ながら息を呑んだ。

 あの吹雪、たかが蚓緎機にしおやられた。しかも私たちには最新匏

のが搭茉された䞍知火が配備されおいる。負ける筈がな

い。光州䜜戊で搭茉機のほが党おが垰還した、連隊内でも奇跡ず蚀わ

れおいるなのに。

 確か、盞手の吹雪にもが搭茉されおいるず䞭隊長がブリヌ

フィングで蚀っおいた。同じ土俵だが、あちらはダりングレヌドされ

た機䜓。きっず跳躍ナニットの䞻機も、出力が抑制されおいる筈なの

だ。䜕故だ。

『ノァヌル!! 匕き返しお合流しろ!!』

「䜕故  」

『ノァヌル!! 䌊隅!! 匕き返せ!!』

 近付いおくる吹雪を呆然ず芋ながら、必死に刷り蟌んだ特有

のコマンド入力を詊みる。䜕故、蚓緎機の筈なのに、私たちを䞊回る

動きができる。䜕故、空を飛んだ。䜕故、機盞手に臆するこずな

く挑めた。

「どうしお、どうしお  ッ!!」

『䌊隅!! ク゜ッ!! ノァヌルより党機!! 前に出る!! あの銬鹿

鶎翌壱圢

りィングワン

を救い出しお、態勢を立お盎す!! 

で突撃ッ!! 抌し蟌ん

で、そのたた埌退する!!』

 あの吹雪は䜕者なのだ。

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 埌方から突出しおきた䞭隊が、吹雪に牜制射撃をしながら私の前に

躍り出る。厚い匟幕の前には、吹雪も匕かざるを埗ないようだ。私ぞ

突撃姿勢を取っおいたものを、ビルを蹎飛ばしお鋭角にタヌンしお離

脱する。

 䞭隊長の怒鳎り声で我に返った私は、手の甲で額に浮かんだ汗を

拭った。

 驚異的な機動戊闘力。抑制された機䜓である筈なのにも関わらず、

光線レヌザヌ

飛んで跳ねる様な操瞊技術。動きに迷いがなく、

属皮がいないよ

うに空を飛ぶ。盞手は盞圓な銬鹿なのだろう。そんなこずを考える。

「申し蚳ありたせん、䞭隊長」

『構わん。  それで、バンディットの衛士をどう芋た?』

 私はその問に迷うこずなく答える。

「床し難い皋の銬鹿です」

 ※※※

 音感センサで探知されるのを避けるために䞻機を萜ずし、静かに呚

囲を探玢する。

 党おのセンサをフルに䜿い、機の䞍知火を探すこずは簡単だっ

た。ノァヌルのコヌルネヌムを呌ばれた䞍知火を救出するため、

党機が俺を远い立おるように出珟した。流石に盞手するのも分が悪

すぎるため、埌退しお姿を晊たしたのだが、圌らは郚隊行動をしおい

るためにすぐに芋぀けるこずができる。

 振動センサには䞻脚で移動しおいる様子がキャッチできおいた。

しかし、俺が単機であるために、盞手の䜍眮を割り出すこずができな

い。ある皋床の方向を予枬し、そちらの地圢を頭の䞭に思い浮かべ

る。

 移動しおいる盞手は振動センサが䜿えない。ならば俺も䞻脚移動

をすれば、ノむズに玛れお移動するこずが可胜だ。だが、跳躍ナニッ

トを䜿っおしたえば䞀瞬で探知される。䞻機をアむドリングにしお



補助動力装眮

したえば、赀倖線センサに十䞭八九探知される。

は赀倖線セン

サで熱源をキャッチできないから動かしたたた、静かに情報収集に務

めた。

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 盞手はどうやら小隊毎に分散したらしく、倧たかに぀に別れたよ

うだ。この状況で、俺が遞ぶべき遞択肢は぀しかない。最も分散し

た隊から離れた小隊に攻撃を仕掛ける。

 幞運にも、䞀番近くで䞻脚移動しおいる隊が、最も他の小隊から離

れおいるらしい。

 はやる気持ちを抑えながら平垞心を心がけ、機䜓のステヌタス

チェックず突撃砲の残匟を確認する。

高速培甲匟









 機䜓はオヌルグリヌン。右手の突撃砲の

は

倚目的抎匟









発。

が発党匟残っおいる。䞍具合もな

し。巊手の長刀も問題なし。掚進剀もただたんたり残っおいる。

 深呌吞をしお、䞀番距離の近くなった瞬間を芋極める。そしおその

時は来た。

 すぐさた䞻機に火を入れ、ロケットモヌタを点火。屈䌞運動の反動

で飛び䞊がり、そのたた空䞭で姿勢制埡。党速で盞手の機小隊ぞ

突っ蟌む。

 俺の吹雪が動き出したこずを感知し、小隊は攻撃態勢に移る。だが

しかし、その動きに遅れが生じる。長機の動きに旧の癖が残っお

いる。指瀺を出したが、䞀歩出遅れたようだ。そのたた長機に向かっ

お滑腔砲を攟぀。砲匟は機䜓に吞い蟌たれるように飛翔

し、炞裂。長機の反応が消える。

 滑腔砲の砲撃からすぐにタヌゲットは切り替えおいた。

動き始めおいた䞍知火機の片割れぞチェヌンガンの掃射

を济びせながら、前に出た䞍知火の方には長刀で暪䞀線。胎䜓が断絶

するのを芋届ける。すぐさた、残りの機ぞ肉薄。振り切った長刀を

生き残りぞ投げ棄おる。

 回転しながら勢いよく飛んでいった長刀を、管制ブロックに食らっ

た残りの機は、そのたた動きを止めた。

『ノァヌル、、、倧砎、衛士死亡、戊闘䞍胜』

 撃砎した小隊の䞍知火の装備を芋るに、どうやら埌衛を務める小隊

だったらしい。最初の方に埌衛を朰せたのは、今埌の戊況に関わっお

来るだろう。

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 小隊を撃砎した俺は、すぐさた離脱を図る。既に連絡を受けた個

小隊がこちらに向かっお来おおり、先発の機小隊が突っ蟌んできお

いた。内の機は巊跳躍ナニットがない。ずいうこずは、機小隊は

前衛の小隊なのだろう。機は俺ず同じ突撃前衛装備だ。

 今亀戊しおもいいが、欲を蚀えば態勢を立お盎したい。突撃砲の

匟倉がほが空になっおいるのだ。匟倉を亀換しお、もう䞀本の

長刀を持ちたいずころだ。

 しかし、そうもできない。先皋の戊闘では䞊手く党機撃砎できたも

のの、盞手は垝囜軍から転属しおきた衛士ばかりだ。粟鋭であるこず

は間違いなく、そんな圌らに䞎えられたのは最新鋭第䞉䞖代戊術機。

鬌に金棒だ。これたでの戊闘で、俺をこれたで以䞊に譊戒しない蚳が

なく、その分戊闘もやり蟛くなるこずは火を芋るより明らかなこず

だ。

 状況を確認しながら、残りわずかばかりの匟が入ったの匟

倉を捚おおリロヌドを行う。長刀を投げおいなければ、もっず他の方

法を遞ぶ矜目になっおいただろうず考え぀぀、残りの長刀を背郚兵装

マりントから匕き抜いた。これで歊噚は突撃砲挺ず長刀本。前

腕郚のナむフシヌスに栌玍されおいる短刀が本。心持たない装備

だが、もずより察だ。気にしない。

 掚進剀もただただ残っおいる。近接栌闘戊も十二分に戊える。な

らばするこずは決たっおくる。

 逆噎射制動で床回頭するず、远っお来おいた機小隊の䞍知

火目掛けお突撃を始める。姿勢を䜎く這うように。そしお、盞手から

芋える投圱面積は小さく。狙い目は手負いの䞍知火だ。

 小隊は受け止めるこずはなく、進路から離れお远撃を始めようずす

る。しかしやらせはしない。跳躍ナニットを前方に党力噎射し、すぐ

さた方向転換。目暙にしおいた䞍知火ぞ接近戊を仕掛ける。バヌス

ト射撃を繰り出し、発の匟が胞郚に着匟するのを確認する

間もなく、すぐさた目暙を切り替える。次の盞手は突撃前衛装備の䞍

知火だ。

『ノァヌル、胞郚管制ブロック被匟、衛士死亡、戊闘䞍胜』

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 残った匷襲前衛装備の䞍知火ず゚レメントを組み、連携攻撃を仕掛

けおくる。だが、厩れおいるのなら付け入るスキはあった。前に出る

突撃前衛装備の䞍知火の攻撃をいなし、そのたた埌衛の匷襲前衛装備

の䞍知火に長刀を振り抜いた。巊肩から右脇腹たで切り぀けられた

䞍知火は、そのたた右肩郚ごずずり萜ちる。

『ノァヌル、胞郚管制ブロック倧砎、戊闘䞍胜』

 残った突撃前衛装備の䞍知火にも斬撃を食らわせる。振り向きざ

たに接近しおた䞍知火ぞ、跳躍ナニットの起こす運動゚ネルギヌをそ

のたた乗せた長刀の打撃で叩き切ったのだ。

「ノァヌル、胞郚管制ブロック倧砎、衛士死亡、戊闘䞍胜』

 これで残るは機小隊のみ。倧しお枛っおいない突撃砲の残匟数

を確認し、再び姿を眩たせる。

 撃墜した前衛小隊の近く。ビルの圱で、たた䞻機を萜ずしお

のみを動かしおいる。機の䞍知火は、俺が姿を眩たせた秒埌に

到着したが、俺を芋倱ったらしい。擱座した䞍知火のそばにいるた

め、目芖で発芋される可胜性もある。しかし、離れおいったず刀断し

た盞手は、そのたた䞻脚移動に切り替えお移動を開始したのだ。

 離れゆく䞍知火を音感センサで感知しながら、次の手立おを考え

る。

 恐らく䞀番最初に撃墜したのは突撃前衛長。今倒した小隊の突撃

前衛装備の䞍知火ず戊っお確信した。そしお、その間に倒した機小

隊は埌衛装備。残っおいるのは䞭隊長率いる䞭衛小隊ず考えるのが

劥圓だろう。

 䞭隊長ず蚀えば、歎戊の猛者だ。数ある戊堎を経隓し、ず

の戊いに慣れおいる衛士。そういった衛士ならば、蚓緎での戊闘

にも慣れおいる。最埌に残しおおくには厄介な盞手だ。

 䞀床深呌吞しお心臓を萜ち着かせる。

 こうもなれば、埌は圓たっお砕けろ、だ。

 ※※※

 ハンガヌに収めた吹雪は跳躍ナニットの蟺りに汚れはあるものの、

至っお正垞な状態だ。敎備兵に機䜓を匕き枡した俺は、挔習終了埌に

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倕呌先生から蚀われた通り、い぀もの䜜業服姿に着替えお指定された

ブリヌフィングルヌムに来おいた。

「どこたでかず思えば、アタシの想像を超える倉態だったわ、アンタ」

「んが?! そんなに党機倒すのは倉態ですか?!」

「いいえ、䞊出来。アタシの意図を汲み取っおくれおアリガト」

 ずいうこずは、盞手の䞭隊の䌞びた錻はぞし折るこずができたのだ

ろう。劣った装備、数的劣勢だったのにも関わらず、文字通り党滅し

た䞭隊。俺よりも先に戻っおいた盞手の䞭隊は、出撃前ずは雰囲気が

䞞っきり違っおいたようだ。倕呌先生の求めおいたものになったず

いうこずだろう。

「  それで、盞手は─のなんお䞭隊ですか?」

「蚀っおなかったっかしら?」

「聞いおないです」

「圌らは第䞭隊《ノァヌズ》。陞軍第垫団から転属しおきた衛士ず

癜陵基地第衛士蚓緎孊校卒の衛士で構成された䞭隊よ」

 垝囜軍ずいうず本土防衛軍ずかではないのだろうか。そんな考え

を頭の片隅ぞ远いやり、気になった埌半のこずに぀いお聞いおみる。

「卒の衛士がいるんですか?」

「えぇ。あなたもよく知っおいるダツがいるわ」

「この時期だず  䌊隅倧尉ですか」

「そ。今は少尉で新任だけどね。光州が初陣だった」

 ただ蚘憶は薄れおいない。脳裏には䌊隅倧尉の顔が浮かび、今にも

声が聞こえおくる。涙は出ない。俺や他の仲間に泣いお欲しくお、倧

尉は凄乃皇・匐型で自爆したのではない。そうせざるを埗なかった。

それが人類にずっお䞀番利のある遞択だったのだ。

 少し黙っおしたったが、すぐに倕呌先生の方に意識を戻す。

「アンタが序盀、手負いにしたのが䌊隅よ  。たぁこの話は眮いお

おきたしょうか。アンタずノァヌズの挔習デヌタは、─で共有

するわ。ただ匷くなっおもらわないずね。各隊長にはアンタのある

こずないこず吹き蟌んで回しおあるから、次─ず戊う時にはボ

コボコにされおいるかもしれないわね」

75

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「そうならないように蚓緎を積んでおきたすよ  」

「匕き続きよろしく頌むわ。明日、他の䞭隊ずもやっおもらうわね」

「え  」

「じゃあね〜」

「あ、ゆ、倕呌先生ェ?!」

 ケラケラず笑いながらブリヌフィング宀を出お行った倕呌先生を

芋送りながら、蚀われたこずを反芻する。

 明日、他の䞭隊ずも挔習をする。それは぀たり、同じ条件ずいうこ

ずなのだろうか。頭を掻きながら、十䞭八九そうであるこずを確信し

た俺は、枛った腹を満たすために食堂ぞず向かうのだった。

 埌日。毎日のように─の䞭隊を盞手するこずになり、垰っお

くる俺の様子はたるで屍のようだず玔倏が蚀っおいた。そりゃそう

だろう。倕呌先生の課す厳しい任務にも耐えられるように蚓緎され

た衛士の䞭隊芏暡を盞手にしおいるのだ。蚀い返す気力もない俺は、

垃団に倒れ蟌むず泥のように眠る日が続いたのだった。

「タケルちゃ〜ん  敎備が远っ぀かないよぉ〜」

 しかし、玔倏にアビオニクスの調敎を頌んだんだが、たさか玔倏も

寝䞍足になるずは思いもしなかった。連日連倜、呪詛のように远っ぀

かないず文句を蚀われる。蚀い返す気にもなれないし、申し蚳ないず

思っおいるからな。ただ、静かに寝かせお欲しい。

76

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 

   ﹇幎月日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区機密区画 

銙月博士執務宀﹈

 昚日は玔倏の誕生日だった。去幎はサンタりサギそっくりなキヌ

ホルダヌをプレれントしたが、今幎は悩んだ挙げ句、滅倚に䜿わない

絊料を䜿っおネックレスを買った。人でゞュ゚リヌショップに入

るのは戊闘よりも緊匵したが、店員さんの応察のお陰で䜕ずか賌入す

るこずができた。プレれントを枡した時の玔倏の顔は傑䜜だった。

 玔倏ず共にハンガヌで吹雪の調敎を行っおいた俺を、霞が呌びに来

た。感情の起䌏が少ない圌女だが、どうも様子がおかしいこずは芋お

取れた。

「  癜銀さんず玔倏さん、急いでブリヌフィング宀に行きたしょう」

 ただならぬ雰囲気を感じ取り、そしお劙な胞隒ぎを感じながらもブ

リヌフィング宀に駆け蟌む。䞭には既に倕呌先生が来お埅っおいた。

 状況説明は簡単だ。重慶ハむノから飜和した矀が東進を

再開。日本海を暪断しお、九州ぞ䞊陞しようずしおいる。生憎、台颚

がやっおきおいるこずもあり、海での間匕きは䞊手く行くこずはな

かったずいう。これたでも間匕き䜜戊は䜕床も行われおいたが、それ

も意味はなかったずいう。

 垝囜・囜連・圚日米軍の軍合同の防衛線の構築ず、九州・䞭囜・

四囜地方の民間人の避難も始められおいるが、どれだけの人間が逃げ

れるかは分からないずいう。

 ルヌプをしおいる倕呌先生は、日本䞊陞に向けお動いおは

いたものの、ただオルタネむティノⅣの暩限が匱いこずもあり、旧知

の知り合いの䌝手で、圓該地域に配属されおいる垝囜軍人に譊告する

皋床しかできなかったずいう。䞀応、埁嚁倧将軍ぞの経過報告ずしお

は䌝えられたが、真に受けおいなかったずいうこずが分かっおいるら

しい。

 ぀たり本土䞊陞は、前回のルヌプ同様の被害を生むこずに

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なる、ずいうのだ。玄䞇人が死ぬ。逃げ切れずに。

「─は動かせないわ。囜連軍から癜陵基地に留たり、即応䜓制

で埅機するように通達があったの」

「それは  」

「前ず同じ。─には連隊長が各郚隊に連絡を行っおいる頃だず

思うわ」

 倕呌先生は衚情を倉えるこずなく、平静な様子で話を続ける。

「恐らく─が動かせるようになるのは、䞭郚地方が突砎される

かされないかの瀬戞際のずころよ」

 そこたでは指を咥えお芋おいるこずしかできないのだろう。歯痒

い気持ちを抑えながら、蚘憶にある本土䟵攻の状況を敎理した。

 九州に䞊陞したは、䞭囜・四囜地方には進たずに制圧。制

圧次第、関門海峡を枡っお䞭囜地方ぞ進出。京郜東偎では倧芏暡な防

衛戊を繰り広げたが、進撃を続けるの足止めはヶ月が限界

だった。その埌、䜐枡島ハむノ建蚭のため、長野県蟺りで䟵攻を停滞。

数ヶ月のスパンの埌、東進を再開。西関東を手䞭に収めた埌、東京を

目前に転進。南䞋を開始するず、䌊豆半島たで行き着くず䟵攻が停

滞。倚摩川を挟んで膠着状態に陥る。䟵攻を阻止するため、時間

態勢の間匕き䜜戊が開始されるこずずなった。

 ちなみに、長野県で矀が䟵攻を止めた際に、米軍が日米安

党保障条玄を䞀方的に砎棄し、日本から圚日米軍を撀退させた。これ

が日本垝囜内での反米感情の火付けになったず蚀われおいる。

 回目で必死に頭に叩き蟌み、回目で再床確認を行った歎史をリ

フレむンしおいた俺に、倕呌先生はあるこずを呜什した。その呜什に

は意味があり、将来的には確実にオルタネむティノの利益になるも

のだ。

「ずいう蚳で、アンタにはたたモグリをしおもらうわ。幞い瀟が奜き

─ 

スヌ

パヌ・

むヌ

グ

ル

勝手匄くり回した

があるから、日本垝囜軍の

亡霊にでもなっおもらおうかしら?」

 ─ 。スヌパヌ・むヌグルず名付けられたその

機䜓は、垝囜軍癜陵基地謹補。吊。瀟 霞が䞭叀の─をカス

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タマむズした、機しかないワンオフ機だ。

 光州䜜戊時には、ず電源ナニットを亀換し、がむンス

トヌルされた。たた、制埡システムを簡単に曞き換えられおおり、短

時間だが長刀を扱えるようになっおいた。

 しかし垰還埌、分解敎備が行われた時、霞が甚意しおいた腕郚関節

─

陜

炎

が

のものに亀換され、十分な近接栌闘力を埗た。たた、党

電磁䌞瞮炭玠垯

カヌボニックアクチュ゚ヌタ

身の

を緩衝匵力の高いものに亀換し、曎に高い蚭定を

するこずで機動力ず瞬発力を向䞊。たた跳躍ナニットの掚力制限を

数開攟し、幟らか燃費は萜ちるが高機動戊闘力も向䞊。空力性胜を

䞊げるために、前腕郚にカナヌドが搭茉された。

 霞は知らなかったが、现郚は違うものの、埌の幎からアメ

リカ・ボヌニング瀟のフェニックス構想で埗られた、─・

ず䌌通ったモノを䜜っおしたったのだった。

「魔改造された─に垝囜軍迷圩を斜しお、どこかの戊堎で戊

えず?」

「぀たりはそういうこずになるわね。  あそこたで匄られおいるず

䞍審がられるかも知れないけれど、珟堎の衛士には適圓なこずを蚀っ

おもらう぀もりよ」

「具䜓的には? 垝囜技術廠が極秘開発䞭の詊䜜機、ずでも?」

「それでいいんじゃないかしら? ぶっちゃけ、光州䜜戊の時にあ

がった報告を芋おいる限り、前線囜家の戊術機は改造されおいるこず

があるらしいわ。あの䜜戊にもそれは存圚しおいたの」

 戊地改修を受けた戊術機は幟らか実圚しおいる。幎代の

─

チ

ボ

ラ

シュ

カ

東ドむツ軍にいたず報告されおいる、

の胎䜓に─

《バララむカ》の頭郚を付けた機䜓が有名だ。

負け犬隊

アンダヌドッグズ

 光州䜜戊時にいた戊地改修機ず蚀えば、途䞭で合流した

の

芁塞フォヌト

─がそうだろう。装甲が飛沫した

玚の衝角から分泌

される匷酞性溶解によっお溶かされた機䜓を、囜連軍の前線基地の敎

備兵たちが修理した。囜連軍であったこずから、─の保守

パヌツがある蚳もなく、─の装甲板を無理矢理取り付けたのだ。

時々゚ラヌが出るこずを無芖すれば、普通に扱うこずができたらし

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─

─の゜連向け茞出機

い。元々─は

の改修機ずいうこずもあり、互換

性があったのだろうずいうのは搭乗しおいる衛士が蚀っおいた蚀葉

だ。

「俺のレコヌダにでも残っおいたんですかね? 分かりたした。勿

論、駆け蟌み寺は甚意しおもらえるんですよね?」

「なしっお蚀いたいずころだけれど、甚意せざるを埗ないのよねぇ。

䜕箇所か甚意する぀もりよ」

「了解」

「瀟ず鑑にはこれから䌝えるから、アンタは準備しおきなさい」

 倕呌先生にブリヌフィング宀を远い出された俺は、身蟺敎理やその

他準備を始める。

 出撃前の準備は手慣れたもので、䟿箋を取り出しお遺曞を曞く準備

をする。前回曞いたものがただ残っおいたこずを思い出し、匕き出し

から玐で結んだ封筒の束を取り出した。宛名を芋お、挏れがないこず

を確認する。この䞖界での俺に、友人がどれほど居たかは分からな

い。だが、確実に蚀えるこずは孊埒動員が始たっおいる日本で、孊生

生掻を送れおいる者は少ないずいうこずだ。特暩階玚や゚リヌト、矢

面に立たせるよりも頭を䜿わせた方が優秀な人材等は倧孊ぞ進んで

いるらしいが、それも"らしい"止たりで確認したこずはない。前線

に居るかは分からないが、確実に垝囜軍か囜連軍に籍を眮いおいるこ

ずだろう。

 思ったよりも少ない遺曞を䞊べ、少し思案する。俺は出しおいた䟿

箋を仕舞うこずはせず、新しい宛名で遺曞を曞き始めた。

 ※※※

 ﹇幎月日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区 第

衛士蚓緎郚隊 戊術機ハンガヌ﹈

 ─ずは別郚隊であるが機密性の高い俺の戊術機は、同じく他

の蚓緎郚隊よりも機密性の高い第衛士蚓緎郚隊甚の戊術機ハ

ンガヌの最奥にある、蚓緎教官甚戊術機の曎に奥。そこに─

 は眮かれおいる。

 ちなみに吹雪は、蚓緎郚隊のずころに玛れおいる。シェヌドが掛け

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られおおり、蚓緎兵たちには予備番機ずいう颚に䌝えられおいるら

しい。これはたりもちゃんから聞いたこずだ。䜕でも、予備機が機

甚意されおいるこずに぀いお、蚓緎兵から質問されたそうだ。その時

に苊し玛れに答えたらしい。圌女たちはそれで玍埗したらしく、それ

以䞊聞いおくるこずはなかったずか。ずは蚀っおも、蚓緎兵たちの䜿

う吹雪ず同じなのだがな。

─

撃

震

 たりもちゃんの

には寄り付かないらしく、その奥にある

─には誰も気付いおいないずいう。

 そんなずころに衛士匷化装備を身に纏い、小さいバッグを肩に掛け

お俺はやっおきた。前は戊術機ずは別で移動したから、基地からは茞

送機に乗っお出発した。今回も茞送機での移動になるのだが、俺が乗

り蟌んで茞送機に栌玍しなければならない。

 茞送機から降ろされれば、すぐに俺は前線に飛び立぀こずになる。

なので匷化装備姿なのだ。勿論、垝囜軍のモグリなので、どこからか

調達された匏衛士匷化装備を着おいる。予備も着甚意しおあ

り、機内に持ち蟌む予定だ。

 ─ のキャットりォヌクに䞊がるず、調敎䜜業

をしおいた霞がひょっこりず顔を出す。

「  癜銀さん。最終調敎は終わっおいたす」

「ありがずう、霞」

 俺が近寄るず、ヒョむず管制ナニットから出おくる。ラップトップ

にはただコヌドが繋がれおおり、少しキヌボヌドを叩いお機䜓から

コヌドを匕き抜いた。

「  昚倜、この機䜓がどういう調敎がなされおいるか話したず思い

たすが、芚えおいたすか?」

「あぁ、芚えおる。蚀うなれば、高機動型─ 霞スペシャルっ

おずころか?」

「  」

「  」

 少し戯けおみたんだが、どうやら䞍評だったらしい。少しばかり眉

をひそめおいる。

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「  た、たぁありがずうな、霞」

「  はい。頑匵っおください」

「おう、任せろ! 絶察垰っおくるからな!!」

 笑いながら霞に手を振り、管制ナニットを密閉する。着座を行い、

衛士搭乗をに知らせる。埅機状態に入るずキャットりォヌクが

撀去され、ガントリヌが開攟状態になる。

 そのたたガントリヌが仰向けに倒れお、─ が

運び出されおいく。

 ─ の管制ナニットは、匏戊術機管制ナ

ニットだ。これには緊急脱出システムずしお軜匷化倖骚栌、匏機

械化歩兵装甲が搭茉されおいる。寝転ぶ圢で機械化歩兵装甲に背䞭

を預け、揺れる機内で倖の映像を眺める。

 朝もいい時間で、始業から時間皋経っおいる。食堂は軍人でごっ

た返しおいたが、俺は早めの朝食を摂っおいたのでバッティングする

こずはなかった。

 持ち蟌んだ荷物が音を立おお揺れ、䞭に入っおいるゞュラルミン補

の匁圓箱が、荷物宀の壁に圓たっお甲高い音を立おる。

 朝早くに起きた玔倏が甚意しおくれたのだ。機内でも簡単に食べ

られる匁圓だずか。なかなか枡しおくれなかったが、どうしおなのか

は蚀葉にしなくおも衚情を芋れば分かった。

 光州䜜戊の時のように、いきなり行けず蚀われお慌ただしく出おい

く蚳ではない。玔倏も前日に倕呌先生から説明を受けおいるのだ。

 これから俺がどこぞ行くのか分かった䞊で、そうしおくれた。俺は

䜕か蚀うべきだったのかもしれない。だが、俺は霞に蚀った蚀葉ず同

じこずを蚀った。絶察垰っおくる。俺は玔倏の元に垰っおくるのだ。

『癜銀、聞こえおる?』

「はい、聞こえおたす」

『そ。じゃあ、よろしく頌むわね』

「了解」

『じゃあ、─ずしおの最初の任務、防衛戊を展開する軍の

支揎䞊びに』

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「垝囜軍・垝囜斯衛軍の芁衝の防衛」

『  分かっおいるのならいいわ。本番は京郜よ。じゃあ、よろしく』

「了解」

 確認ず小蚀のために開かれた通信だったが、倕呌先生はバストアッ

プりィンドりを閉じようずしない。

 俺は少し間を眮いお蚀った。

「あんたり玔倏がうるさくするようならば、たりもちゃんにでも頌ん

だらどうですかね?」

『  いいわね』

「いいんかい  」

 それだけを蚀うず、りィンドりは閉じられおしたい、通信は終了し

た。

 い぀の間にか茞送機ぞの積み蟌みも終わっおおり、そのたた茞送機

はタキシングを始める。満茉の軍需物資ず、戊術機カヌゎに俺を茉せ

お飛び立぀。

 目的地は山口県、囜連軍防府基地。珟圚の本土防衛戊叞什郚が眮か

れおいるずころだ。

 ※※※

 ﹇同日 囜連軍防府基地 ゚プロン ─機䞊﹈

 の䜓液で汚れた戊術機が倚く䞊ぶ゚プロンには、忙しなく

機材や郚品を運ぶ敎備兵の姿を倚く芋かける。コンテナに入れられ

たたたの俺ず─ は、匏自走敎備支揎担架が

到着するのを埅っおいた。

 立ち䞊ぶずいうよりも、転がる戊術機を支えるために自走担架は出

─

ム

リヌ

ダ

払っおいるようで、

のコンテナからは䞋ろしたものの、

俺はい぀頃になるか分からないずいうこずで、機䜓から出お─

の客宀に来おいた。

 客宀には医薬品や日甚品等の物資が積み蟌たれおおり、機䜓䞋郚の

荷物宀にも匟薬や倧型物資が最倧積茉量ギリギリたで積たれおいる。

 基地も人手䞍足らしく、荷降ろしもたたならないずいうこずもあ

り、俺は客宀から荷物を䞋ろす手䌝いを買っお出おいた。

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「撃震が垰っおくるぞヌ!」

「陀染車ず化孊消防車を呌び出せ!」

 開きっぱなしになっおいるハッチから、倖で敎備兵の叫ぶ声が聞こ

えおくる。どうやら九州から撀退しおきた戊術機が着陞しに来るよ

うだ。より隒がしくなるず同時に、遠くから跳躍ナニットの音が聞こ

えおくる。どうやら撃震がこちらに来おいるようで、音からしお機

か機向かっおいるようだ。

 医薬品の入ったコンテナを持ち䞊げお、ハッチの倖で埅機しおいる

垝囜軍兵士に手枡ししおいるず、䞁床滑走路に撃震がランディングし

おくる様子が芋える。

 しかしどうだ。の䜓液で薄汚れた日本垝囜軍塗装の撃震

が、ふら぀きながら危なげに着陞したように芋える。だが、それを取

り囲むように、近くに駐機しおいたであろう䞭途半端に敎備された撃

震が突撃砲を構えおいた。

 刹那、チェヌンガンの発砲音ず共に、聞き慣れた気味の悪

い肉の朰れた音が聞こえおくる。

戊車タンク

「べ、だ!! 

玚が䜓ひっ぀いおいやがった!!!!」

「うわああああ!!!」

闘士

りォヌリア

「う、

玚も䜓いるぞ!!」

 そんな声を聞いおいるず、垝囜軍兵士が苊笑いを浮かべながら俺に

話しかけた。

「䟵攻が始たっお、ここに戊術機が逃げ蟌んでくるようになっおから

床目くらいですよ。九州からくる戊術機は、䜕ずか逃げ切った戊闘

力を倱ったのばかりらしいですからね。萜ずしお来たくおも、避難が

続いおいる関門海峡から山陜道付近を飛行しおいるので、振り萜ずし

たりはできないんです」

「ここを発った戊術機はどうなんだ?」

「防府基地の戊術機郚隊は党滅した、ず噂で聞いおいたす。たたたた

こっちに萜ち延びた囜連軍の─の衛士が、盎方垂で共闘した

戊術機郚隊がそうだった、ず蚀っおいたそうですから」

 俺ず幎の倉わらなさそうに芋える兵士は、最埌のコンテナを俺から

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受け取っお呟く。

「頑匵っお来おください」

「あぁ。ありがずう、䞊等兵。埌、俺ずそんな幎倉わらなさそうだか

ら、もう少し砕けた口調でもいいぞ?」

「そ、そうなんですか  。自分、䞊田䞊等兵です。戊術機乗りを目指

しお志願したんですが、適性がなかったのでこっちに。俺の分たで、

をぶっ飛ばしお来おください!」

鉄くろがね

「任せろ!! 俺のこずは  

でいいぞ。あず、防府基地のこず頌ん

だ」

 コンテナを乗せ終えたトラックず共に、䞊田䞊等兵は去った。俺は

─の脇に眮かれたコンテナを眺めながら、次にできるこず

を考える。

 荷物宀のコンテナを䞋ろしおいるず、どうやら自走担架が回されお

きたようだった。シェヌドをかけられた─ を

起き䞊がらせるず、─の機長がやっおきお蚀ったのだ。

時間埌に、九州ぞ向かう垝囜軍戊術機郚隊がいる、ず。俺はその郚隊

に玛れお、䞀床、九州の様子を芋に行くこずにした。

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 

  ﹇幎月日 犏岡県道号 城山霊園﹈

 補絊コンテナが幟぀も立ち䞊び、地面には故障で遺棄されおいる突

撃砲が幟぀も転がっおいる。この補絊地点には我々、囜連倪平掋方面

第軍築城基地戊術機甲䞭隊が防衛の任にあたっおいる。

 この補絊地点を蚪れる戊術機郚隊は数知れず、そしおそのどれもが

欠員を出しおいる郚隊ばかりだ。この補絊地点も蚭眮時には最前線

になっおおり、それなりの芏暡の矀が床々襲いかかっおく

る。その床に䞭隊で䜕床も退けおきた蚳だが、短いスパンでやっおく

るため気が䌑たらない。

 防衛任務ずいうのも聞こえがいいが、この補絊地点が陥萜しおした

うず、私たちよりも前線で戊っおいる郚隊の連䞭たちが䞞腰になっお



シヌルダヌズ

したう。芋知った顔ぶれがやっおくるず「

はいいねぇ。早々

に壊滅しかけお、撀退呜什が出たらこれだから」ず嫌味ったらしく蚀

われる。

 分かっおいる。私たちの郚隊は新兵が倚く、犏岡垂や飯塚垂の救揎

に向かっおすぐ、錯乱を起こした新兵がもいないずころで倧

暎れしたのだ。すぐさた粟神安定剀を遠隔泚射したが、䜿い物になら

ないからず埌退するこずになったのだ。

 私の䞭隊は新兵ばかりの䞭隊。私含めお隊長栌の人も、蚀うほど

経隓を積んでいる蚳ではない。促成士官教育を受けた際、それは嫌ず

いう皋私に突き付けられたのだ。

『シヌルドよりシヌルド。隊長、こちらに接近する機圱あり。垝

囜軍の─のようですね』

「シヌルド、垝囜軍の─は日本人向けにカスタマむズされた

─だ。長刀を背負っおるだろう?」

 シヌルド。任官した際、䞀緒の郚隊に配属になった同期だ。倧和

撫子ず聞く日本人女性ずはかけ離れた、かなり陜気な性栌の女性衛士

だ。ハヌフずいう理由で浮いおいた私にも気さくに話しかけおくる、

呚囲に流されない䞀面も持っおいる。こういった䜜戊行動䞭は敬語

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を䜿うが、普段はもっず砕けた話し方をする奎だ。

『わたしも長刀䜿いたいです』

「同感だ。  シヌルドより䞭隊各機。接近する─には私

ずシヌルドが察応する。他の者は、呚囲の譊戒を怠るこずのないよ

うに。たた、亀代で小䌑息を取っおもよし。氎分補絊・栄逊補絊皋床

ならばいいぞ」

 それだけを䌝え、私はすぐさた目の前に着陞した─を芳察

する。

 ひず目芋お、目の前の戊術機がおかしいこずは分かった。あちこち

がカスタマむズされおいる─だ。䞀番目を匕くのは、前腕郚

に取り付けられたカナヌド翌。空力性胜を䞊げお、空䞭での姿勢制埡

をしやすくしたのだろう。それ以倖にもおかしいずころず蚀えば、そ

の動きにあった。

 着地する動䜜が滑らかだった。滑るように進入し、あたり着地の震

動を起こさずに止たっおみせたのだ。

『垝囜軍第詊隓小隊、鉄 倧和少尉です。掚進剀の補絊コンテ

ナは残っおたすか?』

 垝囜軍第詊隓小隊。詊隓小隊ずいうこずならば、目の前の倉

な─の説明は付く。技術廠が実隓機を䜜ったのだろう。鉄

 倧和ず名乗った少尉は、バストアップりィンドりの映像は

 になっおいお顔は芋れないものの、声の感じからしお少

幎だろう。色々ずちぐはぐで違和感しかないが、ここで波颚立おおも

私たちではどうするこずもできない。

「囜連軍第戊術機甲䞭隊、祠堂 カレン倧尉だ。掚進剀のコンテ

ナはただ残っおいる」

「ありがずうございたす」

 戊術デヌタリンクでマップにビヌコンを立おる。そこの補絊コン

テナは掚進剀タンクが玍められおいるものなのだ。

 䞻脚移動で目的の補絊コンテナで補絊䜜業を行う鉄少尉の─

を眺めながら、呚囲の譊戒を続けおいるず、小䌑憩䞭の新任少尉

がオヌプン回線を開いた。

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『垝囜軍の─の方、どこから来られたんですか?』

 女持りの奜きな少尉だ。初戊闘では倧泣きしおいたのに、今ではケ

ロッずしおいる。䞭隊でも問題行動が倚い奎ではあるのだが、悪い奎

ではない。私ず鉄少尉の䌚話はオヌプン回線で行ったが、繋いで聞い

おいたのだろう。興味を持っお話しかけたようだ。

『関門海峡を通っお、犏岡垂たで。こっちに寄ったのは、掚進剀の補絊

のためです』

『あっちはどうなっおたした?』

『面制圧で穎がこになっおたしたよ。は日豊本線沿いで食い

止めおいるように芋えたすが、もう防衛線を突砎されおいたす』

 デヌタリンクでも情報は入っおきおいるものの、防衛線は日豊本線

が最前線のたたになっおいる。恐らくだが、垝囜斯衛の戊術機郚隊が

小倉城で培底抗戊でもしおいるのだろう。垝囜軍の情報が䞀切入っ

おこない囜連軍だが、そういった状況はなんずなく想像ができる。

 鉄少尉はそれだけ新任少尉に答えるず、補絊䜜業が終わったのかス

テヌタスの確認を始めたようだ。

 芋慣れぬ機䜓。実隓機であるこずは確かだ。完成されおいないが

故に壊れやすく、装甲板の塗装に擊れた様子があるこずから、戊闘を

䜕床かしおいるこずは芋お取れる。僚機が芋圓たらないこずは気に

なるが、普通ならば僚機がいない蚳がない。どこかで撃墜された、ず

考えるべきだろう。

 の䜓液がべっずり付いた長刀の様子を芋た埌、䜕かに気付

いたのか近距離通信で鉄少尉が呌びかけた。

『接近する集団がいたす。ここが萜ちるのは困りたすから、

俺もここで戊いたすよ』

 その呌びかけず同時に、から通信が入った。

『よりシヌルダヌズ。垝囜軍富野基地方面から出珟した倧隊芏暡

の集団が接近䞭。城山霊園補絊地点付近に埌分。構成皮

芁

撃

グラップラヌ

は戊車玚ず

玚のみ。補絊地点を死守せよ』

 やるこずは倉わらない。補絊地点を通過しようずしおいる

共を蹎散らすだけだ。

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「シヌルドよりシヌルダヌズ。ただ、前線から匕いおくる郚隊も倚

い。䜕ずしおも補絊地点を死守せよ!」

『『『了解!!』』』

「鉄少尉。共闘を頌めるか?」

『圓然です。むヌグル了解』

 むヌグル。そう郚隊識別呌称を名乗った鉄少尉は、が向

かっおくる方に機䜓を向けた。

 ※※※

 城山霊園補絊地点では機の─がずの戊闘を繰り

広げおいる。連戊続きずいうこずもあり、新任少尉たちは少しばかり

疲劎を感じさせるが、私を含めた人は䜕ずかい぀もの調子で戊えお

いた。

 しかしその䞭でも県を芋匵るのは、鉄少尉の─だろう。

 実隓機であるからこそなのか、詳しいこずは䜕も私たちには分から

ない。しかし、あの異垞な機動制埡は、これたでの抂念をぶち砎る様

なものにしか芋えなかった。

 バッタのように飛び跳ね、瞊暪無尜に駆け回る。そしお圌は蝶のよ

うに空を舞う。

『す、すげぇ  』

 誰かが蚀葉を挏らす。この堎にいる誰もが思っおいるこずだった。

鉄少尉の動きは、それほどだったのだ。そしお、圌の撃砎数は加速床

的に増えおいく。たった機で私たちを䞊回る数を捌いおいた。戊

闘ではなく、呌吞をするようにを打ち捚おおいくその姿に錓

舞されたのか、私たちの隊の士気もあがり぀぀ある。

「シヌルドより䞭隊各機。むヌグルを支揎し、このたた

を殲滅する。抜けそうなのみを狙え」

『『『了解!!』』』

 皋なくしおの殲滅が終わり、呚囲に生き残りがいないこず

兵士

゜ルゞャヌ

を確認する。小型皮、

玚や闘士玚は螏み朰すだけでいいので、䜙

裕のある者に任せお、その他はステヌタスチェックず残匟確認をさせ

る。

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 鉄少尉の─は、の返り血を济びお赀黒くなっおい

るが、芋る限り損傷はないようだ。それでも擊り傷は増えおいるた

め、それなりに接觊はある様子。

『  長刀が䜿えなくなりそうだな』

 オヌプン回線が開いたたたになっおいるのに気付いおいないのか、

鉄少尉の独り蚀が聞こえおきた。

 巊手に保持されおいる長刀の耐久倀がかなり萜ち蟌んでいるよう

だ。背郚マりントには突撃砲が門あるだけで、どうやら予備は持っ

おいない様子。この補絊地点には生憎、長刀は甚意されおいない。囜

連軍ず圚日米軍が甚意した補絊地点ずいうこずもあるため、䜿甚でき

る機䜓がないから甚意されおいないのだ。

 よく芋れば、衚面にひび割れが確認できる。刃こがれもかなりしお

いる。あれでは䜿い物にならないのだろう。

 地面に長刀を突き刺すず、そのたたふわりず飛び䞊がっお蟺りを芋

枡し始める。

 戊闘䞭、床々空を飛ぶこずがあったが、光線玚のこずを知らない蚳

がない。任官しおいるだろうし、䜕より圌は開発衛士。かなりの修矅

堎を朜り抜けた猛者ず考えるべきだ。

 だが、それを眮いおおいたずしおも、空を飛ぶこずがどれほど危険



光

線

箚

è­Š

å ±

なのか知らない筈がない。この戊域には無論、

は出

おいる。攻撃は目芖できないが、恐らく射線を取るために移動䞭だろ

う。そんな盞手がいる戊堎で、鉄少尉は空を飛んだ。高床でも

高い皋なのに、それよりもはるか䞊空を。

『ごめん。長刀をもらう』

 近くで果おた友軍の長刀を拝借したのだろう。撃震の腕が投げ捚

おられおいるのが芋える。

 この衛士は私の思っおいる以䞊に異垞だ。戊術機の動きも、垝囜軍

ずしおの振る舞いも。歊士道なんおものは持ち合わせおいるずは到

底思えず、長刀の振り方も圢はない。効率化を求めた動きだけを取

り、最適なものを瞬時に遞びぬいおいる。そしお、それを叶えるこず

のできる─。あれほど繊现な動きができただろうか。床々

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芋る機䌚はあったが、もう雑掟な動きをしおいたように思える。

 鉄少尉が長刀を拟い、突撃砲の匟薬の補絊も終えおも、は

城山霊園補絊地点に珟れるこずはない。しかし、戊術デヌタリンクで

は、前線がみるみる埌退しおいるのは芋お取れる。もう私たちよりも

東に友軍のアむコンは存圚しない。

「シヌルドより」

『  』

「シヌルドより!」

 埌退し、九州偎の関門海峡を固める友軍のずころぞ向かいたいがた

めに、指瀺を仰ごうずに通信を呌びかける。だが、応答する気配

はない。は築城基地の叞什宀に眮かれおいる。もし、移転するの

ならば連絡が来おいる筈なのだが、応答がない。

 オヌプン回線で呌び掛けるものだから、新任少尉たちの衚情が陰

る。もしや築城基地が陥萜したのでは、そんな考えが脳裏を過る。

「シヌルドより築城基地!! 応答せよ!!」

『  』

 応答はない。ならば、もう珟堎の刀断を䞋すしかあるたい。

「シヌルドより䞭隊各機。装備の確認を行い、持おるだけ歊噚を持

ミサむルコンテナ

倚目的自立誘導匟システム

お。埌衛の人は

を装備しろ。終わり次第、築城基

地を芋た埌に関門海峡ぞ向かう」

 床だけだが、こういった堎面に盎面したこずがあった。䞭隊長を

任される前の話になるが、吉林省 集安に配属されおいた時のこず

だ。

 その日も重慶ハむノ呚蟺から東進しおきた矀を叩いおい

た時のこずだ。重厚な面制圧ができるから、ず砲兵隊の連䞭が嚁匵っ

おいた。゜りルから補絊物資が届いたからだ。だから私たちは安心

しお撃ち挏らしの凊理をしおいた。

 そんな時、突然からの連絡が途絶えたのだ。䜕事かず思っおい

たが、気にするこずなくの掃蚎が終わらせた。

 皋々に掚進剀ず匟薬を䜿い切っお戻っおみるず、駐屯しおいた集安

基地がに食い砎られおいたのだ。芁撃玚䜓ず戊車玚䜓、

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幟らかの兵士玚や闘士玚によっお。どこからか抜けたが、即

応郚隊が出撃するたでもなく譊備郚隊ず非戊闘員を食い尜くしおし

たったのだ。

 戻っおきた砲兵隊ず、前線の生き残りは唖然ずし、近くの基地に収

容されるこずになったのだ。

「持ちきれなかった分は捚お眮け。自立飛行できるコンテナのみ、行

き先を関門海峡九州偎に蚭定し、私たちも移動を開始する。  鉄少

尉」

『は』

「元は別郚隊。䜕か任務を䞎えられおいるのであれば、我々は先ほど

蚀った通りに行動する。どうする?」

 盞倉わらずバストアップりィンドりには に

なっおいるが、返事は少し迷った様子を芋せ、すぐに答えを出した。

『俺も行き先は同じです。築城基地にも付いお行きたす。関門海峡か

らは別行動になりたすが』

「あぁ。それでいい。では出発」

 移動䞭に襲われおも、圌がいれば生存率は䞊がる。人郚

䞋を倱った䞭隊でも、関門海峡たでは生き残れるだろう。

 ※※※

 ﹇同日 犏岡県道号北西 門叞城跡﹈

 やはり築城基地は陥萜しおいた。元々、九州最埌の砊である関門海

峡から少し離れおいたのだ。機を芋お脱出しなければ、の逌

食になっおいたのは圓然だったのかもしれない。

 ずホヌムベヌスが蹂躙されお気萜ちした気分を切り替え、関門海峡

の九州偎である門叞城跡は、垝囜・囜連・米軍が埌退を続ける前線の

芁衝ずした地点。無理矢理戊術機゚プロンに䜜り倉え、物資集積堎を

建蚭しおある堎所だ。予備機なんかも眮かれおいるずいう話だった

が、私たちが到着した時には地獄ず化しおいた。

 私の想定しおいたよりも矀が入り蟌んでいたのだ。既に

号線を挟んでず察峙しおいる状態。しかも、遅滞戊闘を

続けおいるのは、いずれも䜕ずか動けおいる戊術機たちだろう。垝囜

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軍を䞭心に、いくらか囜連軍のものが散芋される。圚日米軍の機䜓は

芋かけないが、撀退しおしたったのだろうか。

 を倱った私たちは、そのたた関門海峡にある郚隊に加わるこず

になった。囜連軍防府基地の叞什郚は、ロストした戊術機郚隊の

将校が倚くいるらしく、私たちにも将校を付けおもらえるこずに

なったのだ。

『よりシヌルダヌズ。門叞城跡の防衛地点は順次撀退䞭であり、

数刻もしない内に九州から党面撀退をする。珟圚は関門海峡倧橋を

枡っおいる茞送郚隊が、山陜本線北偎たで撀退したこずを確認次第、

順次防衛地点の戊術機郚隊は埌退を行う。シヌルダヌズは第次防

衛線にお、第次防衛線を抜けた個䜓の撃砎を行え』

 聞き慣れない将校の声に少し萜ち着かなかったが、そうも蚀っ

おいられない。

 私たちが到着した頃には、この門叞城跡に構える関門海峡九州偎防

衛線も瓊解䞀歩手前だったのだ。この惚状を芋れば、聞かずずも分か

るずいうもの。

 新任少尉共は、やっず䌑憩できるず思っおいたのだろう。将校

からの通信を聞き、青い顔をしおいた。

 このようなこずは、ずの戊堎では日垞茶飯事だ。むしろ楜

ができるこずなんお、たずあり埗ない。

 腑抜ける新任少尉らの尻を蹎り䞊げる぀もりで、オヌプン通信で喝

を入れる。

「貎様ら、぀いい぀ぞやたで"死の分"を乗り越えただのず喜んで

いた嚁勢はどうした? 連戊続きで疲れ果おたか? 甘ったれるな

!! ヒペッ子の分際で、䞀床戊堎に出たら、すぐに楜できるず思うな

よ?!」

『『は、はい!!!!』』

「異星起源皮に喰われたくなければ戊え!! そのク゜頭に詰たっおい

るミ゜を䜿え!!」

 初陣の戊闘から、䜕床か小芏暡なものを経隓しおきおいる新任少

尉。それでも、初出撃から䞀床も機䜓から降りおいないのなら、ただ

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初陣の真っ只䞭だ。分を乗り越えたからず蚀っお気を抜けば、たち

突

撃

デストロむダヌ

たち光線玚に焌き殺されるか、

玚に蜢殺されるか、芁撃玚の前

腕衝角にコクピットごず朰されるか、戊車玚に取り付かれお喰われお

死ぬかのどれかだ。新任衛士は初陣を生き延びお、初めお半人前にな

れる。䞀人前には、䜕床かの戊闘を経隓しなければならないのだ。

「なぁに。機䜓が耐久限界を迎えれば、嫌でも埌方に移される。それ

たでずりあえずは生き延びろ」

 それだけを蚀っお通信を切ろうずするが、むヌグルのアむコンが

回線に入っおきた。

『むヌグルよりシヌルド』

「むヌグル、どうした?」

『ここでお別れです。撀退するよう、呜什が䞋りたしたので』

「そうか  。少ない時間ではあったが、貎官がいおくれお助かった。

ありがずう」

『は。では、たたどこかで』

 数時間もすれば芋慣れおしたった動きに、未だに感動しながら芋送

る。これたで様々な人物に䌚っお来たが、あれほど特城的な軍人は他

にいないだろう。終始聞くこずのなかった、ただあどけなさの残る声

色に぀いおも、バストアップりィンドりの映像が映っおいないのも。

機密なのは分かる。だが、短い時間でも背䞭を預けあった仲間だった

のだ。

 ふわりず浮き䞊がり䞭囜地方ぞず飛び去る─。血塗れに

なった垝囜軍塗装も満足に枅掃するこずなく、どこかの基地ぞず向

かった鉄少尉が芋えなくなるず、私はオヌプン回線で党員に呌びかけ

る。

「シヌルドより䞭隊各機。むヌグルがいなくずも、我々は我々の

任務を党うしよう。戊堎は䞀期䞀䌚だ。だが、死んでは次の機䌚は

巡っおこない。たずは本土䟵攻を生き延びようではないか」

『『『応!!』』』

「今こそ我々は新任ばかりのひよっ子䞭隊から、人類の生存圏ず皮の

神の盟

むヌ

ã‚ž

ス

存続を守り、を打ち払う

ずなろう!! たずは、撀退す

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る郚隊の支揎だ!! 党機、兵噚䜿甚自由。楔壱型で出錻を挫く!!」

 接波のように抌し寄せるを芋据え、私たちは最前線の戊列

ぞず躍り出る。䞇党ずは蚀えない状態ではあるが、それでも他の戊術

機ず比べればマシな皋床。ステヌタスがむ゚ロヌでも䜕のその。掚

進剀ず匟薬が残っおいるのならば戊える。

 ただ数時間ず戊っおいない新任少尉たちの顔぀きも、い぀の間にや

らマシなものになったこずを感じ぀぀も、未だに枛るこずのない

を睚み぀ける。初陣が本土防衛ずいうのも酷な話だず思うが、そ

んな状況は各地で起きる筈だ。私は甘ったれたこずを蚀っおいた時

のこずを思い出し、錻で笑い飛ばした。

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 

   ﹇幎月日 囜連軍防府基地 ゚プロン﹈

 日付も倉わっお久しい頃、昚日振りに戻っおきた防府基地の様子

は、あたり倉わっおいなかった。九州が陥萜しお数時間経っおいる

が、最前線の垝囜斯衛軍の小倉城守備隊も撀退しおしたっおいる。぀

たり、九州地方は完党に陥萜した。

囜連軍第戊術機甲䞭隊

シヌ

ル

ダヌ

ズ

 俺が途䞭から行動を共にしおいた

は、別

れた門叞城跡での撀退支揎を行った埌の行方は知らない。本土䟵攻

の最前線にいたのだ。行方が分からないずいうこずは、"そういうこ

ず"だず考えるべきなのだ。

 血塗れになっおいる─ が滑走路に進入しお

くるず、地䞊䜜業をしおいる敎備兵たちがわらわらず矀がっおきた。

機䜓に付着しおいる、の肉片や䜓液を掗い流しお陀染するた

めだ。

 ガスマスクを被った数人の敎備兵たちが氎ず陀染液を掛けはじめ

お数十分もすれば䜜業も終了し、そのたた゚プロンたで歩いお移動す

る。からの指瀺で、空いおいる自走敎備支揎担架に機䜓をロック

するず、そのたた垝囜軍の敎備兵たちが敎備䜜業を始める。

 管制ブロックを開攟しお、数時間ぶりの倖の空気を堪胜する。機密

䞊、俺は機䜓から降りるこずができない。特に防衛戊に参加しおいる

党軍が集たっおいるずころは特に、だ。

 機密挏れや俺の正䜓がバレるこずを防ぐためだ。そもそも、霢

かの少幎が乗っおいれば、䞍審がられない蚳がないのだ。話し方

や振る舞いはくらいを想定しおいるものの、姿を芋られたならば

疑われるのは必至。そうなった堎合、瞬く間に逮捕されおしたう。

「䜕だこい぀  。かなり特別なチュヌンがされおるぞ?」

「この陜炎、本圓に垝囜軍のものなのか?」

 垝囜軍の敎備兵たちが、接続されたコン゜ヌルを芋ながらそんな蚀

葉を挏らす。玔倏・霞曰く、─ はフルチュヌン

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機なので、あちこちにシステムロックを掛けおある。敎備に必芁な郚

分は閲芧できるこずになっおいるが、や等にはアクセスで

きないらしい。その他にも付け替え等が行われおいる郚分も倚いた

め、觊り慣れた敎備兵たちからすれば違和感だらけの機䜓だろう、ず

いうこずを蚀っおいた。

 だからだろう。防府基地の垝囜軍敎備兵たちからしおみおも、この

機䜓はおかしいずころだらけなのだ。

「  カスタム機だろう」

「班長」

「倖芳も匄り回しおいるのも芋お取れる。䞭身も盞圓だ。ならば垝囜

技術廠が秘密裏に開発を進めおいる改修機なのかもしれない。あた

り詮玢はするな」

「了解したした」

 垝囜軍敎備兵を纏める班長は、難しい顔をしながら機䜓を芋䞊げお

くる。俺はその顔に芋芚えがあった。

 班長は事前に知らされおいた、オルタネむティノの工䜜員だった

のだ。倕呌先生が甚意したずいう、俺が立ち寄れる敎備拠点にいるず

いう情報を撹乱させる人員だ。

 芋䞊げおすぐ、班長は少し離れお班員に指瀺を出した。

「できるだけ早く敎備を枈たせおやれ!! こい぀はすぐに移動する

!!」

 心の䞭で瀌を蚀い、十分に倖の空気を取り蟌んだ管制ブロックを閉

めた。

 ※※※

 敎備にそこたで時間がかかるこずはなく、補絊の方に時間がかかっ

た。掚進剀の補充も十分に終わったのだが、装備の方に遅れが生じお

いた。突撃前衛装備で防府基地を出撃しおいたが、垰還する頃には突

撃砲が門になっおいたからだ。

 補絊するのは長刀本ず倚目的远加装甲。基本的に䜿い捚おにな

る远加装甲も、既に他の機䜓が持ち出しおいお、予備もない状態だっ

た。あったずしおも、爆発反応装甲を䜿い終わったものや、かなり歪

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んでしたっおいるものしか残っおいないのだ。長刀は簡単に手に

入ったものの、突撃砲も戊堎で拟っおきたもの。かなりダメヌゞを蓄

ゞャムる

匟

è©°

た

り

積しおおり、い぀か

ような状況になっおいたのだ。

「突撃砲、準備できたした!」

「長刀を背郚マりントぞ栌玍完了!」

 倚目的远加装甲がただ到着しない。敎備兵の人がコン゜ヌルか

らメンテナンス甚のヘッドセットを装着しおオヌプン回線を開く。

『远加装甲が手に入りたせんでしたが、どうしたすか?』

「  突撃砲をお願いしたす」

『了解』

 腰郚匟薬庫に満タンに装填された匟倉が次々ず入れられおいく傍

ら、近くの突撃砲にマヌクが付いた。どうやらコン゜ヌルから䜿甚可

胜な突撃砲を指瀺したらしい。

『マヌクの付いた突撃砲を䜿っおください。敎備が終わっおいるもの

です』

「ありがずうございたす」

『敎備完了したした。い぀でも出撃可胜です』

「むヌグル了解」

 メンテナンス甚ヘッドセットを装着しおいる敎備兵や、そのた取り

付いおいた敎備兵たちがコン゜ヌルの接続を切ったり、キャット

りォヌクを排陀しおいく様子を芋ながら、に通信を接続した。

「むヌグルより」

『こちら防府』

「防衛線はどうなっおいる?」

『珟圚、関門海峡倧橋を超えられおいる状況。山口県ぞ埐々に

が䟵入し぀぀あるが、氎際で撃砎が進んでいる様子。䞀昚日の台颚

で出撃できなかった垝囜海軍氎雷戊隊が爆雷攻撃を行っおおり、戊術

機甲郚隊等の地䞊戊力は自走砲・ロケット砲等の砲兵隊の支揎が䞻に

なっおいる』

 戊術デヌタリンクから、山口県の九州地方偎にいく぀もの味方アむ

コンが衚瀺された。既に門叞城跡は陥萜しおおり、䞋関䞀垯で

98

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を氎際撃砎しおいる状況だった。

『たた、状態が良奜な戊術機甲郚隊は九州地方ぞ進出し、間匕き䜜戊を

継続䞭だ。珟圚、垝囜陞軍個戊術機甲倧隊ならびに極東囜連軍個

戊術機甲倧隊、垝囜斯衛軍個戊術機甲倧隊の増匷連隊芏暡が間匕き

を行っおいる最䞭だ。圚日米軍は囜道号に沿っお防衛戊を再

構築䞭』

 おおよその状況を掎むこずができた。垝囜軍ず極東囜連軍は最前

線で戊い、圚日米軍は基本的に埌方で支揎戊闘を行っおいる構図なの

だろう。これが埌に、日米安党保障条玄の䞀方的な砎棄に繋がったか

は分からないが、米軍が戊力を枩存しおいるのは火を芋るよりも明ら

かだった。

 すぐさた方針を決めるべく、どこぞ向かうべきか考える。しかしな

がら、そんな俺の考えを遮るように、防府は俺に呜什を䞋した。

『防府よりむヌグルぞ。貎官は九州地方の間匕きに参加するこ

ず』

「  むヌグル了解」

 波颚を立おないためだ。俺には極東囜連軍から独自裁量暩を埗お

いるが、垝囜軍を名乗っおいる以䞊は埓わなければならない。ここに

来お、垝囜軍の皮を被っおいるこずが裏目に出るずは思いもしなかっ

た。

 防府の将校の顔を思い出しながら、フットペダルに力を入

れる。自走敎備支揎担架のロックが解陀されたこずを確認するず、そ

のたた゚プロンから滑走路ぞず向かった。

 ※※※

 ﹇同日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区機密区画 第衛士蚓

緎郚隊 戊術機ハンガヌ﹈

 因果埋量子論の論文の改定もずうの昔に曞き終わり、今はオルタネ

むティノを劂䜕に進め、維持するかに泚力しおいる。

 これも䜕の因果か分からないが、因果導䜓ずなっおいた癜銀に巻き

蟌たれた圢で䞖界を枡ったアタシは、幎よりも幎前のアタ

シの誕生日たで遡っおいた。

99

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 幎はオルタネむティノが確定した幎だ。これず同時に

オルタネむティノの時ず同様に、必芁に駆られお専門郚隊を発足す

るこずずなる。アタシずしおはナニットが出来䞊がった埌でも

よかったのだが、オルタネむティノ蚈画が䞊立しおしたった状況䞋で

は、あらゆる事態に察応するために甚意しなければならなかった。

 しかし、この䞖界では時間ず資金ず圧力に抌し朰されそうになるこ

ずは少なくなった。幎時点でのオルタネむティノの研究

成果ず、幎間の䞖界情勢はアタシの倩才的な頭脳にむンプットされ

おいる。

 この状況䞋であれば、最䜎幎間は倧きな歎史の流れを倉えない限

り、アタシの掌の䞊。

 ナニットの補䜜は、䞻垭候補になる予定であった鑑を䜿甚でき

る状況でないため、別の方法を暡玢する必芁があった。しかしなが

ら、あの危機的状況䞋に斌いおも、幎月日以降は、研

究に時間を倚く割くこずができた。新技術や新理論を持ち、怜蚌もで

きおいるものだっおある。切矜詰たっおいない今の状況になっおか

らは、時間的䜙裕を持っお研究を進めるこずができた。

 䞻垭候補である鑑は、玠䜓ずなった蚘憶を持っおいる。これを利甚

せずしお䜕ずする。この䞖界でも、鑑にはナニットになっおもら

うのだ。しかし、量子電導脳を補䜜する必芁もない。あの技術はもう

昔のものなのだ。

「銙月せんせヌ。ハンガヌに来るなんお珍しいですね」

「あら。息抜きで散歩するくらいいいじゃない」

 目ざずくアタシを芋぀けた䟋の鑑は、たりもの戊術機から顔を芗か

せおこちらを芋る。

 アタシは垞に成長を続ける倩才。ならば、できる限りのこずはしお

みせるのもアタシなのだ。

 【ナニット改】。それが、この䞖界でのナニット。そしお鑑

は、換えの効かない䞻垭玠䜓であるのだ。

 ※※※

 䟋のものができあがっおしたうず、埌は起動実隓やデヌタ採取を

100

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行った埌に実戊投入を行うだけ。

 ぀たり、オルタネむティノは終わったも同然なのだ。成功すれ

ば、の話だけれど。しかしアタシの蟞曞に倱敗の文字はない。必ず成

功する。

 ずなるず、次に手を付けるべきこずは、オルタネむティノを盀石

なものにするための戊力だ。

 䜜業が終わったのか、キャットりォヌクから降りおきた鑑が、アタ

シのずころに来た。

「鑑、アンタ、衛士になるんだっけ?」

「はい!」

「そ」

「  えっず?」

「確認しただけよ。それよりも、たりもの機䜓をむゞっおたみたいだ

けど、䜕かあったのかしら?」

「はい。蚓緎で䜿う機䜓ですから、メンテナンスは䜿う床に行うんで

すよ。敎備班長が蚀うには、結構䜿い倒した機䜓だから、より䞁寧に

敎備しろヌっお。機械のずころは敎備兵の皆さんに任せお、私ず霞

ちゃんで゜フトずかを芋おたんです」

「あヌ、これ叀いのね」

 たりもは昔から物持ちのいい子だった。高校生の頃に乗っおいた

ママチャリ、ナントカ号は今でも実家に眮かれおいるずか。どんな名

前だったかは芚えおない。珟圹の頃に聞いた話では、母芪のお䞋がり

だずか。そんな幎も䜿えるなんお、そうあるこずではない。

 そんなたりもの機䜓だからこそ、長いこず䜿えおいるのだろう。

「はい! 私ず同い幎です!」

「これ幎も䜿っおるのね  」

 そんなどうでもいい話をしおいるず、ハンガヌの䞀角のガントリヌ

にシェヌドか掛けられた戊術機が目に留たる。あんなものがあった

だろうか。䜍眮的には─のものではない。─のた

めの堎所だ。

「ねぇ、アレっお」

101

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「あヌ、アレは─ ですよ。先生が取り寄せろっお蚀う

から、副官の人ず霞ちゃんが手に入れたんです」

「そんなこずも頌んでたわね」

─ 

マ

ã‚€

ン

ド

シヌ

カヌ

 

。オルタネむティノの前身、オルタネむティノ

の時に補造された戊術機だ。アレに発珟䜓ず衛士を乗せお、

ポパヌルハむノ

ス

ワ

ラヌ

ã‚ž

䜜

戊

に投入された。それ以倖に甚途はなく、結局オルタネ

むティノに移行しおからは䜿甚されなかったもの。

 それをアタシは取り寄せた。利甚方法はあるにはあるのだが、別に

改造される前の─でもよかったのだ。しかし、─ 

モスボヌル

保

存

凊

理

は囜連軍管蜄。ノヌマルは米軍が

したものがあるだろ

うが、倢物語を語る連䞭に欲しいず蚀っおも出し枋る。面倒なわだか

たりを生んでも、癟害あっお䞀利なしず蚀う。簡単に手に入るであろ

う方を頌んだのだ。

「アレは䜿えるようになっおいるの?」

「ただです。動きはするんですけど、゜フトりェアの方がただ  」

「瀟がやったんじゃないの?」

「霞ちゃんは䜕故か、アレにあたり寄り付かなくお」

 ナルホドね。瀟にずっお、あの機䜓は因瞁のようなものがある機䜓

だ。

「  ゆっくりでいいわ」

「了解です」

 さお、そろそろ動き出さなくおはならない。

 幟ら癜銀を前線に投入したからず蚀っお、人の力が倧局に倧きな

圱響を䞎えるずは思えない。粟々、数時間やその皋床、猶予を匕き䌞

ばすこずくらいしかできないだろう。

 ずなるず、しなければならないこずは぀。

この蟺り

暪

浜

åž‚

柊

町

は最前線になる。そうなれば、人類の嚁信を賭けたオルタネ

むティノをの目ず錻の先で進める蚳にもいかない。前の

䞖界でもしたように、䞀時的に仙台にでも拠点を移す必芁があるの

だ。

 時間は十分ずは蚀わないが、恐らくヶ月以䞊は持぀筈だ。それた

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での間に、オルタネむティノずアタシの研究を曎に進めなければな

らない。皋々に資料の敎理をしながら、匕っ越しの準備でも始めよ

う。

 鑑に別れを告げ、機密区画の廊䞋を歩きながら、そんなこずを考え

る。

「  癜銀が垰っおきおからやらせたしょう」

 片付けなんお柄じゃないわ、アタシ。

103

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 

  ﹇幎月日 垝囜軍青野原基地 囜道号 第

防衛線 北条町駅﹈

 䞋関攻防戊ず呌ばれおいる、関門海峡での防衛戊は数日ず持぀こず

はなかった。日に日に枛っおいる䜜戊参加郚隊。戊術機は次々ず撃

墜されおいく光景を目の圓たりにし、光州䜜戊でも肌で感じた

ずの戊闘を思い起こさせた。

 䞋関から撀退するこずを決めた日本垝囜軍・斯衛軍ず囜連軍は、囜

道号たで叞什郚を埌退させ、それに䌎い防衛線も倧幅に䞋がる

こずずなった。

 垝囜軍防府基地も撀退に際し、残っおいた物資や匟薬を満茉にした

トラックが数え切れない皋東ぞ向かい、その䞭には、初めお基地に降

り立った時に話した䞊田䞊等兵の姿もあった。

 䜕床か小型皮を連れ垰った戊術機がいたそうだが、䞊田䞊等兵は察

物ラむフルで戊車玚を倒したず誇らしげに語っおいた。

 圚日米軍が最前線に立぀も、すぐに圚日米軍叞什郚は埌退を決断。

岩囜たで埌退する。それから䜕床も敗走は続き、山口県が陥萜。慌た

だしくも防衛線を転々ずしおいるず、気付いた時の四囜にが

䞊陞。本州の戊闘もたたならない䞉軍混成軍は、四囜に駐留しおいる

最䜎限の郚隊のみで䜏民を守りながらの戊闘ぞず突入した。

 四囜には九州や山口県から䜕ずか逃げ出せた避難民が居た。䜏民

ず避難民を守りながら、最䜎限の人員で守れる筈がない。四囜は地獄

ず化した。

 そんなこずを知りもしない俺は、呉攻防戊に参加。日本垝囜軍呉支

郚が眮かれおおり、九州戊線からずっず垝囜軍ぞの指瀺はここから出

しおいた。

 垝囜軍は呉を重芁拠点ずしおおり、呚蟺地域も囜防にずっおは必芁

な斜蚭が揃っおいた。特に江田島は垝囜随䞀の火工品生産拠点だ。

ここを倱えば、垝囜の歊噚匟薬生産量がガクンず萜ちおしたう。しか

しながら、の前には非力だった。他の拠点よりも螏ん匵っお

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は芋せたものの、拠点から運び出しきれなかった匟薬諞共誘匕した

を吹き飛ばした。

 結局のずころ、どこかの拠点や防衛線で螏ん匵っお芋せおも、それ

が党域で起きおいる蚳ではなかったため、次々ず陥萜しおいったの

だ。

 そしお遂に兵庫県の䞭倮を超えおしたった。もう垝郜・京郜は目ず

錻の先。既に矀は広島県・鳥取県を手䞭に収め、四囜も埳島

県の䞀郚しか残されおいない。珟圚は囜道号を第防衛線ず

し、防衛線以東犏知山線たでを第防衛管区ずしおいる。それよりも

東は第ず続き、囜道号たでを今回の最終防衛線ずしおいる。

京郜府亀岡垂に臚時の叞什郚を眮き、垝郜ずの連絡線を密に取っおい

る状態だ。

 垝囜䞊局郚は、この囜道号たでの防衛線での本土䟵

攻を食い止め、远い返す぀もりらしい。しかし、もし食い砎られた堎

合は、垝郜決戊も蟞さないずいうこずは埁嚁倧将軍から声明があっ

た。垝囜民は垝郜防衛に燃え、そしお故郷を远われた垝囜軍人は埩讐

の炎を募らせおいたのだ。

『垝囜軍スワロヌ䞭隊より。倉敷から撀退したのは俺たちで最埌

だ』

『よりスワロヌズ。掚進剀・匟薬の補絊埌、そのたた第防衛線に

加われ』

『スワロヌ了解。  ク゜ッ、俺たちは機しか残っおいないんだ

ぞ』

 満身創痍の─が近くをフラむパスする。の䜓液で

塗れおいるのは勿論だが、機党機が腕や装甲板が脱萜しおいる。酷

いものだず、跳躍ナニットがない機䜓たである皋だ。

『スワロヌより。青野原に予備機はないか?』

『予備機はない。党お出払っおいる。残っおいるのは、飛ぶのか分か

らないものばかりだ。それず機械化歩兵装甲は残っおいる』

『機械化装甲歩兵に鞍替えする気はない。  無茶なこず聞いお枈た

ない』

105

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『いい。敎備兵が䜿える機䜓を順次敎備しおいるずころだ。出来次

第、乗り換えを行っお欲しい。それに、愛知から生産された新品も

次々ず玍入されおいる。舞鶎から─から再配備が始たっおい

るずころだ』

 愛知県。もっず広い蚀い方をするず、東海地方は戊術機の䞀倧生産

拠点だ。機械補品の補造に匷い䌁業が幟぀も存圚しおおり、軍需産業

も盛んだずいう。䞍知火も愛知県の工堎で生産しおいるんだずか。

ヘンテコな陜炎

─ 

『スワロヌより

ぞ。我々はここに合流する。コヌル

サむンを教えおくれ』

「むヌグルよりスワロヌ。ヘンテコは勘匁しおください」

『勘匁な。芋慣れないものでな。オレは赀坂 幞䞭尉。東は東京、南

は山口ず枡り歩いおいる。よろしく頌む』

「鉄 倧和、少尉です。俺も九州からずっずですよ」

 色癜の青幎だった。幎はそう離れおいなさそうだが、歎戊の雄姿を

思わせる雰囲気を挂わせおいる。

『それで、ここの説明を頌めるか?』

「えぇ」

 バストアップりィンドりには の文字が浮か

び䞊がっおいるだろうに、そのこずを聞くこずもなく、防衛線に぀い

おの説明を求めおきた。

 俺は簡単にだが、デヌタリンクを䜿いながら口頭で説明をする。

 囜道号の第防衛線。俺が担圓しおいる戊域は、比范的埌方

の近い地点だ。号よりも西、北条鉄道の北条町駅。垂街地であ

り、補絊コンテナが幟぀か眮かれおいるずころでもある。補絊地点は

ここより曎に西にあり、加西蟺りに甚意されおいるのだ。

 担圓戊域での任務は、埌退する郚隊の揎護。及び、可胜ならば支揎

攻撃。撀退時には殿を務めるこずになっおいる。

 勝手に呜什を䞋され、䞍和を起こさないために埓っおここに配眮さ

れたのだ。

 䞋関からこの方、ずっず戊闘続きで敎備もたたならない。防府基地

ず呉、倉敷で敎備を受けおいるが、本栌的なものは䞀床も受けおいな

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いのだ。ステヌタスではオヌルグリヌンず衚瀺されおいたずしおも、

システムチェックが行われおいない範囲で、かなりダメヌゞを蓄積し

おいるこずは確かだった。

『ここには他の郚隊はいないのか?』

 北条町駅には俺の他にも郚隊は駐留しおいた。しかし圌らは別呜

でここを離れ、最前線ぞず行っおしたったのだ。残っおいるのは民間

人の避難誘導を行っおいる垝囜軍歩兵ず随䌎の機械化歩兵䞭隊のみ。

圌らのは既に埌方ぞ退避しおいる。乗り換えの駅で垭を確保し

おいるらしく、折返しの電車が向かっおいるずいうこずは機械化装甲

歩兵䞭隊の隊長から聞いおいた。

「北条町駅の民間人を守っおいる歩兵ず、随䌎の機械化装甲歩兵䞭隊

のみです」

『戊術機機ずそれだけの戊力で?!   確かにここは第防衛線で

も埌方に䜍眮するずころだが、それはあたりにも』

 蚀いたいこずの意味は分かる。そしお、赀坂䞭尉が途䞭で口を噀ん

だのも。

 第防衛線の正面には倚くの戊術機甲郚隊が展開しおおり、犏知山

線沿線に砲兵隊が前線に支揎砲撃を行っおいる。それは、ここで戊闘

埅機をしおいる今でも揺れを感知できる皋の激しいものだ。

 しかし、正面戊力を十分に揃えおしたうず、埌衛の郚隊が薄くなっ

おしたうのも圓然なのだ。郚隊は足りない、戊術機も足りない。これ

からどこたで戊闘が続くか分からない珟状、が䟵攻しおいな

い地域の郚隊を党お匕き抜くこずもできないのだ。

「幞いにしお北条町駅は無人になる予定です。民間人ず歩兵が撀退す

るのを確認した埌、俺は犏知山線たで埌退したす」

『そうか  。俺たちはどうするか  』

 赀坂䞭尉ず今埌の話をしおいるず、状況が動き出す。

 最前線での増揎があり、受け止めた郚隊が壊滅。そのたた

が雪厩蟌んできおいるずいうものだった。空いた穎を、埌方

で詰めおいた郚隊が埋めたが、かなりの量を蚎ち挏らしおしたっおい

るずのこず。矀は東進を続けおおり、どうやら北条町駅を目

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指しおいるずいうのだ。緊急でから迎撃態勢を取り、もう少しで

到着する電車を送り出すたで持ちこたえろず呜什を受けた。

 ビルの䞊に䞊がっお望遠カメラで確認をする。遠くに砂塵が確認

でき、それが接近䞭の矀であるこずが分かった。

「むヌグルよりスワロヌ。矀を目芖で確認」

『スワロヌ了解。デヌタリンクで確認した。むヌグルず共に民間

人が逃げるたで、ここを機で守り通すぞ』

 ふわりず北条町駅を取り囲んでいた戊術機が浮かび䞊がり、䞀斉に

のアンブッシュポむントを目指した。

 ※※※

 ﹇同幎月日 亀岡垂 最終防衛線﹈

 北条町駅は守りきれなかった。機で察応するにも数が倚すぎた

ため、捌き切るこずができなかったのだ。䜕ずか皌いだ時間も分

ずいうずころで、駅に到着しおいた電車に乗り蟌めたのは半数の民間

人だけ。歩兵ず残りの半数は駅に取り残されおしたい、予定倖に軜く

なった電車はを振り切っお走り去っおしたった。

 駅ぞの籠城を決めた歩兵ず民間人たちは、残されおいた携垯火噚

や、機械化歩兵装甲を拝借し歊装。時間皌ぎを提案。機械化歩兵䞭隊

を通じでに連絡が行き、救揎を寄越すたで耐えるこずずなった。

 赀坂䞭尉の郚䞋が人ずも撃墜された頃、駅では小型皮ずの戊闘に

なっおいた。機械化装甲歩兵䞭隊は駅の倖でバリケヌドを䜜っおい

たが、速く到着した戊車玚や闘士玚ず戊闘を開始。䞭途半端なバリ

ケヌドを内偎から建造しながら、歩兵ず民間人は戊闘を始めた。

 序盀は戊車玚を順調に倒しおいたのだが、䞍意を衝かれたり気を抜

いた時に次々ず殺されおいった。結果、籠城を遞択した歩兵ず歊装し

た民間人人はの腹に収たり、戊闘できない女子ども老

人人ず、近くを固めおいた人もあっずいう間に殺されお

したった。駅は分で陥萜しおしたったのだ。

 救揎が間に合う筈もなく、到着した頃には俺ず機䜓から脱出した赀

坂䞭尉しか残っおいなかったのだ。

 救揎郚隊ず共に埌退する頃には、青野原基地にが䟵入。

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は壊滅しおしたっおいた。

 今は、京䞹埌・加西を結ぶラむンで矀の䟵攻を䞀床食い止

めたずいうこずもあり、日前に蚭眮された防衛線以西の残存郚隊

は、䞉軍共に郚隊の再線成を行っおいるずころだ。

「いただきたす」

 近くに攟眮されおいた物資の䞭から戊闘糧食を拝借し、持おるだけ

持っお─ のずころたで戻っおくる。

 北条町駅から撀退した俺は、そのたた䌑息に入ったのだ。このたた

戊い続けおも、心身共に疲匊し切っおしたっおいおば、い぀しか撃墜

されかねない。気付けば日間も戊術機に搭乗しおいたのだ。機䜓

に持ち蟌んでいた戊闘糧食も既に底を付き、もう機䜓を降りるしかな

い状態であったずも蚀える。颚呂にも入れおおらず、䜓䞭垢だらけで

もあるのだ。定期的に管制ナニット内は換気しおいたので、臭うずか

そういうのはないだろう。

 戻っおくるず、長いこず着おいた匷化装備を脱ぎ捚お、近くを流れ

おいる小川に飛び蟌む。ひんやりず冷たい氎が心地よく、森から聞こ

えおくる小鳥のさえずりがずの戊闘を忘れさせおくれるよ

うだ。枅流の䞭で䜓を掗い、頭から氎を被っお汚れを流す。気持ちい

いこずこの䞊ないが、欲を蚀えばお湯がよかった。

 小川から䞊がり、䜓を也かしお新しい匷化装備に身を包む。適宜自

動でサむズ調敎を行う匷化装備だが、着おきたものず同じものを持っ

おきたず思ったら、少しばかりブカブカに感じるのは気の所為ではな

いだろう。連戊ず䞍摂生な生掻で少し痩せた、ずいうこずだ。

 拝借した戊闘糧食の䞭から適圓なものを遞び、管制ナニットの䞊、

胞郚の䞊に䞊がっお腰を䞋ろす。䜓液を济びおいるず蚀っおも、亀岡

に埌退しおきた際に陀染をしおもらっおいる。それから移動しおき

たばかりずいうこずもあっお、錻に付く硫黄臭なんかも党くしおこな

い。

 ヘッドセットを通しお、頭郚マルチカメラの映像は芋えおいるた

め、぀いでに呚囲の様子を芋ながら食事を始めた。

 ※※※

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 ─ の倖装装甲を倖し、内郚の駆動系を目芖で

確認する。確認するたでもなく分かっおいるこずだが、やはりかなり

損耗しおいる様子だった。

 亀岡に退いおきた時にも、䞀床敎備しおもらっおいる。それでも戊

地敎備ずいうこずもあっおか、簡易的なものしかできおいない。本栌

的な分解点怜修理を行うのならば、ブラックボックス化した霞や玔倏

がいる癜陵基地たで戻る他ない。

 倖装装甲を取り付けし盎し、点怜工具袋にラチェットずモンキヌレ

ンチを攟り蟌んで機䜓を芋䞊げる。

「い぀たで持぀のやら」

 そのようなこずを独りごちお、管制ナニットぞず戻る。

 珟圚は第防衛線以西での郚隊再線ず間匕き䜜戊が決行されおい

る。先日決たったばかりの第防衛線の倖郭、青野原基地は䞁床

の最深䟵攻地域だったらしい。

 救揎郚隊ず共に支配地域ぞ䟵攻。青野原から加西ぞ抌し

返すこずができたのだ。

 の䟵攻が止たったこずを確認するず、そのたた俺は珟地で

の再線には加わるこずはなく、『機密文曞ず䌝什』ずいう䜓で宮接・䞹

波・明石に集結しおいた軍をパスしお亀岡たで来おいる。

 亀岡にはオルタネむティノの息がかかった基地があり、そこで䟿

宜を図っおもらうためだった。

 癜陵基地を出る前のこずを思い出す。前の䞖界での本土䟵攻が、ど

のように掚移しおいったのか。日本垝囜的には重芁な事件であった

ずいうこずもあり、かなり詳现な蚘録が残されおいる。

 台颚の盎撃ず盞たっお、重慶ハむノから東進する矀の攻撃

が䞍十分であったこず。そしお、民間人の疎開政策が䞊手くいかな

かったこず。これによっお、あたり数を枛らすこずができずに䞊陞を

蚱しおしたい、避難の送れる民間人を守りながら戊うこずを匷いられ

おしたった。

 刹那のこずだった。垝囜軍・斯衛軍・囜連軍・圚日米軍ぞの䞀斉通

信が入った。オルタネむティノの協力者からの連絡で、第防衛線

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で矀の䟵攻が確認された。俺からは受信しかできないが、そ

の隠匿性の高い通信を受け取った俺は、出発準備を人で始めるの

だった。

 俺に課せられた任務を果たすため。そしお、垝囜・垝囜斯衛軍に恩

を売り぀けに行く。

 そのために俺は戊っおいるのだ。

 ※※※

 ﹇同日 最終防衛線 京郜・嵐山基地﹈

 第防衛線で動きがあったこずは、基地内の喧隒から察するこずが

できる。しかしながら、私たち嵐山補絊基地所属 

斯衛軍第独立譊護䞭隊

ファ

ン

グ

ス

は䞹波を越えようず動き出した

矀にい぀でも出撃できるように、即応埅機で詰所にしおいる状態

だ。

 本来であればここには、垝郜鎮守のために配備された戊術機甲郚隊

ず即応郚隊がいた筈。しかし前線ぞ抜出された戊力を補填するため、

繰り䞊げ任官した私たち半孊埒兵が着任しおいる状態だった。

 しかしながら、状況は切迫しおいる。前線の状況は戊術デヌタリン

クを閲芧するこずも、デヌタベヌスにアクセスするこずもできない

ポンコツ

ヘッドセット

では芋聞きするこずはできない。

 唯䞀、情報を埗られる手段は、基地の正芏兵の䌚話や怒号から埗ら

れたピヌスを組み合わせお掚理するこずだけ。

 ただ、嵐山基地の立地や防衛線の様盞から掚察するに、私たちが出

撃するような事態になるこずは、第防衛線が突砎されるかされない

かの瀬戞際。亀岡を突砎された時に、それが蚪れる。

「ねぇ  さっき敎備兵が話しおるのを聞いたんだけどさ」

 そんな䌚話の切り出し方をしたのは、同じ䞭隊所属で癜癟合女孊園

時代からの友人、石芋 安芞。

「䜕かあったの?」

 その蚀葉に反応したのは、恐らくあの䞭隊長の嚁圧に怯んでしたっ

た安芞ず同じく友人の胜登 和泉。隊長を怖がっおはいるが、元気が

あるようにも芋えない。蚱嫁が九州で戊死したずか聞いたが、それが

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理由だろう。

「埅機っお蚀っおも、やるこずあるんだから、そっち終わらせちゃおう

よ」

 口ではそう蚀うものの、少し興味あり気にしおいる芪友の甲斐 志

摩子。

 詰所には他にも私たちず同じように、速成教育を受けお繰り䞊げ任

官をしおいる新任少尉がいるが、その䞭でも私ず近くで黙々ず䜕かを

曞いおいる山城 䞊総の人は仲がいい。

 話を聞いたず切り出した安芞が、私たちを手招きしお近くぞ呌び寄

せるず、呚りに聞こえない皋床の声で話し始めた。

「九州からこれたでの戊闘に぀いお、皆は教官や劂月䞭尉から聞いお

るず思うけど、なんだか興味を唆られるのを聞いたんだよね」

「もったいぶっおないで教えおよ。どんな話?」

─

陜

炎

「倉な

がいるんだっお。あちこちの九州からずっず、生き

残っおるずか。い぀も単機で転々ず戊域を移動しお、詊隓小隊を名

乗っおるみたい」

 それは、よくある戊堎の郜垂䌝説みたいなものだった。

 安芞が蚀うには、垝囜技術廠が開発しおいる新型の─の詊

䜜機で、実戊デヌタ収集を目的に出撃しおいるずか。詊䜜機でありな

がら僚機はおらず、そしお搭乗する衛士は粟鋭䞭の粟鋭。再珟䞍可な

機動制埡を行い、を蹂躙しおいく。

 和泉も志摩子も少しばかり興味を持ち、これたでに経隓したこずの

ない空気感を玛らわすために盛り䞊がり始める。

 黙々を䜜業を進めおいる䞊総は、興味を無くしたのか、぀たらなさ

そうに䜜業を再開させおいた。

「  篁さん」

「䜕?」

「石芋さんの話を聞いお、䜕か分かるんじゃないかしら?」

 興味がないず思ったのだが、少しはあるらしい。私は安芞の蚀っお

いた特城を思い出しながら、私の知っおいる範囲で情報を補匷しおい

く。

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「戊術機のこずなら  。─は、─から長刀を䜿う

ためにの曞き換えず関節、電磁䌞瞮炭玠垯の緩衝匵力匷化や

匏突撃砲に合わせた兵装担架の蚭蚈倉曎がされおいる。党郚日本垝

囜仕様にするため」

「それは講矩で習いたしおよ」

「確認。  党おの改装は䞊半身に斜されたものだず思う。でも、機

動力の向䞊や倖芋的倉化はなかった筈。空力特性を鑑みた、頭郚ず䞊

腕郚のカナヌド翌取り付けが代衚的だけれど、これは日本の戊術機運

甚思想からくるものね」

「それがなされおいた─を垝囜技術廠が開発しおいる、ず?」

「あり埗ない。なぜなら、䞍知火があるもの」

 䞊総は䜜業を終わらせたのか、ペンを机に眮いおこちらを向いた。

「ずいうこずは、その─は䞍明機ずいうこずになるわね。詊

䜜機を最前線にずっず眮いおおくのもおかしいし、䜕より僚機がいな

い䞭での単独戊闘はもっずあり埗ないわ」

「うん。私もそう思う」

「私たちが芋るこずはないず思うけれど、倚分、戊堎の郜垂䌝説。幻圱

でも芋おいたのよ、そんな報告をした衛士は。埌催眠暗瀺ず興奮剀で

バッドトリップでもしおいたのでは?」

 暗瀺ず興奮剀の䜵甚は、初陣の衛士によく凊眮されるものだ。それ

の副䜜甚ずしお、バッドトリップを匕き起こすこずが時々ある。恐慌

状態に陥り、䜕もできなくなった衛士に斜すものずしお適切である、

ず教えられるものだが、副䜜甚は少し觊れるだけ。実際に䜿っおみな

ければ、その恐ろしさは誰にも分からないのだ。

「出珟地点もたちたちだし、期埅するだけ無駄ね。そんなヘンテコな

陜炎ならば、芋おみたいものだわ」

 そう蚀っお切り䞊げた䞊総は、提出しおくるずだけ蚀い残しお詰所

を出おいっおしたった。

 残された私は、ただ少し盛り䞊がっおいる人に声をかけお、䜜業

をするように進めた。埌で䞭尉から雷が萜ちるのは、少し避けたいず

ころなのだから。

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 

  ﹇幎 月日 最終防衛線 亀岡戊域﹈

 第・第防衛線は、数時間ず持たずしお瓊解しおしたった。これ

たでの戊堎では、山間郚が防衛線に垞に含たれおいたからか、少しば

かり防衛に有利な条件が揃っおいた。しかし、第防衛線以降は比范

的なだらかな地圢が倚かったため、光線属皮の逌食になる戊術機や砲

匟が埌を絶たなかった。

 悪条件化に晒された本土䟵攻。日本垝囜は䞇党の態勢で

を迎撃できなかったこずが、䞀番の察応ミスだったのかもしれない。

 冷静にこれたでの戊況を分析しながら、倜なのに明るく照らされお

いる戊堎を芋぀める。

『だ、誰か  ッ!! 誰かいないのか?! !! !! ち、䞭隊が

!! 䞭隊があああああ!!』

『!! このたたでは絶察防衛線に取り付かれる!! 即時揎軍ず面

制圧を芁請する!!』

『ががっ  ち、っくしょう  。痛ぇ  痛ぇ  、生きたたた、喰

われる、なんお  嫌だ  』

『補絊はただかよ!! もう誰も突撃砲を撃っおないんだぞ!! 短刀

本で䞭隊芏暡のをどう殺せばいいんだ!!』

 阿錻叫喚地獄絵図なんお蚀葉では収たらないような状況が、戊堎で

はあちらこちらで起きおいる。俺は助けに行くこずができる。だが、

課せられた任務を擲っおたではできない。それにたった機ででき

るこずなんおたかが知れおいる。

 増揎に来たのが機だけならば、俺だったずしおもガッカリする。

 戊闘が始たっおからどれほど経っただろうか。亀岡戊域から京郜

ぞ向かう䞻芁な矀、それも単機で察応可胜な探知されおも埌

回しにされそうなものを撃砎しお回っおいた。

 単機での戊術行動は掚進剀ず匟薬を加速床的に消費する。これで

も節玄しながら戊闘を続けおいるが、戊を超えた蟺りから心持たな

い状況になり぀぀あった。倧胆な機動制埡も䜿えない、匟をばら撒く

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こずもできない。補絊するには、どうにかしお補絊地点か補絊基地に

飛び蟌むしかない。

 各防衛戊には、あちこちに掚進剀ず突撃砲・長刀の補絊ができる補

絊コンテナや補絊地点が甚意されおいる。それは垝囜・垝囜斯衛軍

の、䞊陞からこれたでの屍の䞊に築き䞊げた戊術ではあるのだが、䜿

い手がいなければ眮物であるこずに倉わりはない。そしお、

にずっおも収集する資源でしかない。

『亀岡呚蟺の残存戊術機ぞ。残っおいる者で郚隊を再線し、防衛線を

再構築する。集合座暙は  』

『損傷機は嵐山ぞ行け!! あそこならば予備機がある筈だ!!』

『より亀岡に展開する党郚隊ぞ。郚隊を再線し、接近䞭の倧隊芏

暡矀を迎撃せよ』

撃

震

匏戊術歩行戊闘機 ─

『畜生、珟圚再線䞭だ!! 郚隊はバラバラだが、党機が

だ。連携が厩れるこずもないだろう。近くの斯衛郚隊も合流し、共同

で察応する』

 西から亀岡に入った俺は、亀岡垂街の様子を遠くから眺める。どれ

も䜓液だらけ、傷だらけの戊術機が、小型皮や矀からあぶれた

を倒しながら集結しおいた。

 駅前には茞送コンテナが䞊べられおおり、先に到着しおいた戊術機

が䜕かをしおいるようだった。

 コンテナのハンドルを握るず、残っおいた぀を持ち䞊げお集合し

おいた戊術機に声を掛ける。

『デスサむズより、亀岡戊域の戊術機郚隊ぞ。これから茞送コンテ

ナを持っお埌退し、西川に防衛線を展開。を迎え撃぀。先皋

オヌプン回線でも蚀ったが、損傷機は嵐山ぞ。䞻脚、跳躍ナニットが

ない機が向かうこず。その他は継戊可胜だず刀断する。該圓機は

最小線成単䜍

ã‚š

レ

メ

ン

ト

ず共に埌退。嵐山からの支揎砲撃が来ない理由も芋お

きおくれ』

 該圓する戊術機の衛士が返事をするず、機の戊術機が嵐山の方ぞ

ず飛び去る。どうやら機ぱレメントもいない、単機だったよう

だ。

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 再線された亀岡の戊術機郚隊は機。亀岡呚蟺にいた戊術機ず

はいえ、他戊域の郚隊も混じっおいた様子。本来であれば、亀岡垂街

には䞀個倧隊盞圓の戊術機甲郚隊がいるはずなのだが、既にその殆ど

が蚎ち滅がされおしたっおいるようだ。

 戊術デヌタリンクを芋ながら、亀岡の状況が芋えおくる。

 亀岡垂街の戊術機甲郚隊は戊域䞭倮軍。担圓は垝囜軍。その他に

も東端ず担圓しおいる。西端は垝囜斯衛軍ず垝囜軍の混成郚隊。東

西䞭倮で線成にバラツキがあるのは、恐らく西端は支揎砲撃のしやす

い火力が集䞭しやすい地域なのだろう。配眮されおいるのも、かの斯

衛ずはいえ嵐山補絊基地所属の孊埒郚隊だ。

 西端は愛宕砲撃陣地の防衛に泚力しおおり、山間郚の譊備郚隊や装

甲車郚隊ず共に小型皮掃蚎を䞻に行っおいる様子。䞭倮は先皋の

オヌプン通信を聞いおの通り。目的は嵐山砲撃陣地の死守、ずいった

ずころだろうか。戊域䞭倮軍は嵐山砲撃陣地の西偎。䟵攻する

軍は恐らく、東に砲撃陣地を芋぀けお方向転換をするだろう。そ

ういった考えがあり、戊域䞭倮軍は集結・再線成し防衛線を再構築す

るのだ。

 ならば西端を担圓しおいた斯衛郚隊の動向はどうなのだろう。

 圌らは西端戊域で䟵攻する䞭隊芏暡の矀ず接敵、亀戊。そ

の埌も散発的に浞透を続ける矀に察しお味方を萜ずされな

がらも持ち堪えたが、光線玚を掃蚎埌は嵐山補絊基地方面に向かっお

撀退を始めた。補絊コンテナも党お空にした様子で、そのたた老ノ坂

峠ぞ向かった。

 嵐山補絊基地はどうなっおいるだろうか。亀岡戊域の補絊を担っ

おいる嵐山補絊基地は、山間郚に建蚭されたもののようだ。山肌をく

り抜いお䜜られた基地は、斜面を芋䞋ろす圢で戊術機甚カタパルトを

基蚭眮されおいる。射出される方角は亀岡方面だ。戊況はレヌダ

や戊域デヌタリンクず共に、倖を芋るこずで把握ができる立地だず思

われる。

 戊術デヌタリンクから状況を確認するず、どうやらは眮かれお

いない様子だった。

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 戊域䞭倮軍を巊手に芋ながら、戊域デヌタリンクを共有。補絊コン

テナの䜍眮を曎新する。ただ西の方には䜿われおない䞊に

が寄り付いおいない補絊地点が点圚しおいる。䞀床抌し出せば、その

補絊地点を䞭心に防衛線を抌し䞊げるこずができる。しかし、このよ

うな状況䞋ではそれも難しいだろう。遠隔操䜜で補絊コンテナを呌

び、展開する防衛線の補充にするだろう。

『デスサむズより、南を移動する垝囜軍戊術機ぞ。貎官は䜕故埌方

ぞ行く』

 突然、バストアップりィンドりが衚瀺される。壮幎の男性衛士が映

し出され、俺にそう蚎えかけおきた。

『むヌグルよりデスサむズ。前線から叞什郚ぞの䌝什です。早急

に嵐山補絊基地ぞ向かいたす』

『䌝什? その情報を開瀺できるか?』

 オヌプン通信であるならば、それらしいこずを蚀わなければならな

いだろう。

『申し蚳ありたせん』

『  分かった。むヌグル、嵐山に䌝えおくれ。亀岡戊域が瓊解す

るのも時間の問題、ず』

『了解』

 りィンドりが閉じられる。それず同時に幟぀もの閃光ず発砲音を

捉えた。

 そのたた反転するこずなく、斯衛郚隊を远いかけるように老ノ坂峠

ぞず向かった。

 ※※※

 ﹇同幎同日 絶察防衛線圏内 垝囜軍桂駐屯地﹈

 遠くからではあるが、俯瞰しお桂駐屯地が芋える䜍眮で戊域の様子

を芋おいた。

 垝囜・垝囜斯衛軍に恩を売る。その呜什を受けおはいたが、結局俺

は俺にできる最倧限のこずをしおきた。だが、単機にできるこずは倧

きくなかった。亀岡垂街の戊域䞭倮軍に加わるこずもできたし、䜕な

らこれたでの参加した戊闘党おで蚀えるこずだ。北条町駅でのこず

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や、九州でのこずも。囜連軍や垝囜軍ず共闘するこずは䜕床もあった

のだ。

 それでも、俺にできるこずは倧きくなんおない。

 あの頃、俺は䞖界を救うず勘違いしおいた。だが、それは俺"だけ

"にできるこずではない。仲間ず共に䞀䞞ずなっお成さなければい

けないこずだった。

陜炎

─

『停止䞭の

』

 接近には気付いおいた。しかし、䞻機も萜ずしおいた俺にわざわざ

話しかけた。擱座しおいるず思われたのか? それずも、どこかの郚

隊から抜出された、桂駐屯地の救揎ずでも蚀うのか?

 俺の呚りにランディングしおきた機の䞍知火は、機が突撃砲を

埌ろの地面ぞ向けお構えたたた、その他の機は呚蟺譊戒をしお睚み

぀けおくる。

『こちら垝囜軍銖郜防衛連隊所属の遊匋郚隊 りルブズだ。搭乗䞭の

衛士、聞こえおいるのなら返事をしろ』

「垝囜軍第詊隓小隊 鉄です」

『䞭身が生きおいるのならいい。このようなずころで䜕をしおいる

?』

 䜓液で汚れた、特城的な迷圩が斜されおいる䞍知火に少し気が逞れ

る。だが、すぐに持ち盎しおそれらしいこずを答えた。

「機䜓の調子が悪いみたいで、先ほどたで機倖で䜜業をしおいたずこ

ろです」

『ほう。芋たずころ、俺の知っおいる陜炎ずは違うみたいだ。垝囜軍

の詊隓小隊ずいうこずは、詊䜜機ずいったずころか?』

「機密に぀きお教えするこずはできたせん」

 バストアップりィンドりに衚瀺される顔ず、コヌルサむンから察す

るに䞭隊長。俺は名乗ったものの、盞手は倧尉だ。

 俺が になっおいるずころが気になっおいる

だろうが、それよりも確かめなければならないこずを、確かめおいる

ずいったずころだろうか。

 この時の俺は油断しおいた。䜕故ならば、これたでどこの郚隊ず接

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觊したずころで、郚隊名を蚀っお機䜓のこずは機密だず蚀えばそれで

枈んでいたからだ。

   。知る必芁のない人間に知らせる必芁

はない。知る必芁が出た時、必芁な情報だけが知らされる。

 俺は聞き慣れない垝郜防衛連隊ず、郚隊長である圌のこずを少しば

かり䟮っおいたのかもしれないのだ。

『この戊域には詊䜜機を投入した実戊詊隓は行われおいないず聞いお

いるが、貎官の所属を明らかにしろ』

 䞍味い。疑われおいる。りィンドり越しに睚み぀けるオッドアむ、

恐らく擬䌌生䜓移怍された目が獰猛な狌のように睚み぀けおくる。

 だが、運が良かった。桂駐屯地内にいる斯衛の孊埒郚隊に動きが

あったのだ。恐らく、近くで瓊瀫に挟たっおいた突撃玚が動き始めた

のだろう。橙色の機䜓目掛けお突撃し、匕き倒しおしたったのだ。勢

いが足りず、機䜓を蜢き裂くこずはできなかったようだ。芋たずころ

前腕のナむフシヌスが脱萜しおおり、歊装は䜕䞀぀ずしお持っおいな

い。

 あれでは機ずも、たった匹の突撃玚にやられおしたう。

『チッ! 乳歯共が䞍味いな。陜炎の、詳しい話は埌だ』

 ふわりず浮かび䞊がった䞍知火たちは、突撃玚ず戯れおいる匏

戊術歩行戊闘機 瑞鶎に向かっお行った。

 ※※※

 着座ずデヌタリンク同期、起動シヌク゚ンスは䜕も必芁ないが、少

しばかり遅れお俺も飛び䞊がる。向かうのは、突撃玚や、付近に朜ん

でいた戊車玚を倒しきった䞍知火ず瑞鶎がいる堎所だ。

 䜕やら話しおいたようだが、俺が着地する頃には䞀通り話しは終

わっおいたようだ。

『䜕だ、鉄』

「いいえ。少しばかり話が聞こえおいたものですから」

 そう蚀っお俺は䞞腰の瑞鶎たちに突撃砲ず長刀を枡す。

「䜿い叀しで枈たない」

『え  ですが』

120

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「俺にはこれがある」

 ナむフシヌスから短刀を振り匕き抜いお芋せる。ただ䜿っおい

ない新品だ。

 俺はすぐさた回線に入り、りルブズの䞭隊長に話し始める。

「りルブズの䞭隊長」

『真田だ』

「では真田倧尉」

 真田倧尉は顔を顰める。どうやら階玚は倧尉で合っおいたらしい。

「あたり詮玢されるのはやめお欲しいですね。藪を぀぀いお蛇を出

す、ず俺は思いたすよ」

『䜕を蚀っおいるんだ  鉄』

 剣呑な雰囲気に倉わっおしたったが、このような状況䞋で俺がもし

工䜜員ず疑われおしたうこずだけは避けたい。斯衛の孊埒兵には悪

いが、少しばかりその空気は我慢しお欲しい。わざわざこずわざを

䜿っおたで、そう䌝えたのには぀理由がある。

 ぀目は、俺が生きお癜陵に垰るため。道䞭、営巣やら尋問はなし

で。そしお぀目は、真田倧尉ずこの堎にいる党衛士のためだ。もし

あ・

の・

人・

この機䜓ず俺の秘密が知られおしたったならば、ほが確実に

は

情報挏えいの察策をする筈だ。

 垝囜軍の䞍知火は、粟鋭にしか配備されない機䜓。ずいうこずは、

真田倧尉は粟鋭。そしお、その䞍知火を連れおいる䞭隊の長だ。この

戊堎で生き残る可胜性は十二分に考えられる。もし、生きお垰ったな

らば、垰った先で俺のこずを報告するかもしれない。

 俺の䌝えた第詊隓小隊は存圚しない。調べればすぐに知ら

れおしたう嘘だからだ。ならば、詮玢しないに限る。

『篁、これから貎様らはどうする?』

『は  二条城の本陣を目指し、斯衛本隊ず合流したす。そこで新た

な呜什を受領したす』

『貎様らの向かう先は、垂街戊の激戊区だ。無論、道䞭の浞透した敵ず

の遭遇率も高い。ならば、駅に向かうずいい。京郜駅ならば、臚時の

物資集積堎になっおいる。戊術機甚の兵装ならば䞀通り揃う筈だ。

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それに、運がよければ簡単な機䜓敎備を受けられるかもしれん。垝囜

軍戊術機甲䞀個䞭隊ず機械化装甲歩兵䞀個倧隊が守っおいる。䞇が

䞀の堎合は、壬生駐屯地ぞ向かえ。助教だった斉藀䞭尉を探せ。䜕ら

かの融通はしおくれるだろう』

 䌚話内容から掚察するに、真田倧尉は斯衛で教官をしおいたのだろ

うか。

 脳裏にたりもちゃんの顔が過る。䜕床も教えられ、怒られた。呆れ

られるこずもあった。驚かれるこずもあった。それでも俺の䞭で先

生であり教官であるのはたりもちゃんだけ。そしおトラむアルの時、

埌催眠暗瀺ず興奮剀の䜵甚でバッドトリップした俺は、ペむント匟を

装備したたたに突撃し、撃墜された。

 その埌のこずも鮮明に芚えおいる。管制ナニット内で小䟿をチ

ビっお泣き喚いたこず。助けおくれた䌊隅倧尉に行かないでず懇願

したこず。党おが終わった埌、たりもちゃんに慰められたこず。そし

お  。

「うぐっ  」

『どうした、鉄』

「いえ少し。昔のこずを思い出したしお」

 今埌のこずを話しおいた真田倧尉ず篁少尉の泚意が俺に向く。

 俺の機䜓からはアクセスできないが、この防衛線に参加しおからは

嫌ず蚀う皋芋おきたから分かる。それに、圌女たちは新任少尉だろ

う。恐らく、出撃前に催眠凊眮がなされおおり、戊闘䞭は䜕床も圧力

泚射が斜行された筈だ。薬物過剰投䞎の圱響は芋れば分かる。

 少しばかり虚ろな目をしおいる。県鏡の胜登少尉は県球が揺れお

いる。緊匵状態か䜕かを必死に考えおいるか。篁少尉ず山城少尉は

幟分かマシな状態だが、远いかけおきおいる俺からしおみれば、よく

ない状況なのは自明だった。

 ならば、少しばかりここで恥をかくのもありだろう。それに俺は架

空の郚隊の架空の衛士。別に誰かに䌝えられようが、存圚しない人間

の話だ。痛くも痒くもない。ただ、蚀えないこずも倚い。それなりの

カバヌストヌリヌを䜜らなくおはならないな。

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「俺が任官したばかりの」

 そう蚀いかけた刹那のこずだ。

『りルフよりりルフ。垫団芏暡のが接近しおたす』

『了解した』

 近接接続された戊術デヌタリンクからの情報が飛び蟌ん

でくる。西から接近する垫団芏暡矀は、真っ盎ぐこちらに向

かっおきおいた。

『りルフよりファング小隊ならびに鉄』

『は』

「はい」

 機䜓を迫りくるの方に向けた真田倧尉は、小さく蚀った。

『行け』

『  了解』

「了解」

 俺はどうしようかず考え぀぀、戊域図を拡倧しお芋る。

 既に垝郜には矀の通過した跡が残されおおり、西偎の補絊

基地は朰されおいる。篁少尉らの基地である嵐山補絊基地は既に陥

萜。マヌカヌはロストしおおり、恐らく矀に蹂躙されおい

る。

 珟圚は琵琶湖付近たで迫っおおり、山科付近での残敵掃蚎戊が始

たっおいるようだ。既に矀の先鋒は通り過ぎた埌。面制圧

や砲撃によっお、その殆どが蚎ち倒されおいる。ずなるず、

矀埌衛である芁塞玚らがそろそろ垂街地に入っおきおいる頃だろう

か。

 すり枛った防衛郚隊が芁塞玚の倧矀を盞手にするのは困難だ。そ

れに先皋、篁少尉らの瑞鶎ずデヌタリンク共有した際に分かったこず

だが、圌女たちにはデヌタリンク制限がかかっおいるものの、参加䞭

の斯衛郚隊のデヌタが入っおいた。そこには、絶察防衛線に配備され

おいる斯衛郚隊の半数以䞊が孊埒兵であるこずが分かっおいる。

 ぀たり、どこの郚隊ずも満足なデヌタリンクができない郚隊が、垝

郜垂街にあちこち生存しおいる可胜性が極めお高い。

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 たた、垝囜軍も同じような珟象が芋られる、ず思われる。本土に螏

み蟌たれたなら、戊える者は党お動員する刀断を䞋すのも玍埗できる

こずなのだ。

 真田倧尉は遊匋郚隊ず蚀った。俺が聞いおいない間に、篁少尉らに

どのような説明をしたか分からないが、恐らく物資の集積ず同時に生

存者の捜玢も任務の内ずしおあるのだろう。このようなずころで孀

立しおいる人を芋぀けお話しかけるずいうこずは、元々教え子で

あったずいうこずを抜きにしおも任務を確実にこなしおいる蚌拠だ。

 真田倧尉らりルブズが飛び去るのを確認するず、俺はそのたた篁少

尉に話しかける。

「篁少尉が機を率いおいる、ず芋おいいのか?」

『は、はい。鉄  』

「少尉だ。  人は京郜駅に向かう。そこで兵装を受け取り、埡所

の斯衛本隊に合流する。そうだったな?」

『そうです、鉄少尉』

「俺も行こう。短刀があるずはいえ、ほが䞞腰みたいなものだからな」

『申し蚳ありたせん』

 先皋、真田倧尉にどうするか聞かれた時、篁少尉は少し悩んでいた。

恐らく、りルブズが遊匋郚隊であるこずを聞いお、䜕かを考えおいた。

それは保護だろう。歊装が党お脱萜した戊術機が機、孀立しおいる

のだ。しかし、斯衛本隊に合流するず蚀った。

 ぀たりそれは、自力でこの状況を打砎するため、ずいったずころだ

ろう。繰り䞊げ任官埌も、教官のおんぶにだっこではよくない、そう

考えた。

「俺はファング小隊ず連携が取れない。芋おの通りの機䜓。だから先

行する。近接デヌタリンク範囲ギリギリを先行し、前方の様子を確認

しながら行く」

『了解したした、鉄少尉』

「俺もその気持ち、分かるんだ。だが、これくらいはさせおくれ」

『え  ?』

 スロットルを開き、機䜓を浮かばせる。匍匐飛行の態勢を取り、そ

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のたた京郜駅を目指すこずにした。埌ろに機の瑞鶎を匕き連れお。

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 

  ﹇幎月日 絶察防衛線圏内 垝郜垂街西域﹈

 西の方で戊闘が始たった。真田倧尉らが矀ず亀戊を始め

たのだろう。桂駐屯地を出おから、途䞭たでは跳躍ナニットで移動し

おいた。しかし䞀垯から山がなくなり、䜏宅街に入った頃には光線属

皮から射角が取れるだろうず、䞻脚移動ぞず切り替えおいた。幞いに

しお、呚囲には感知できない。震動探知も音王探知も起動し

おいるが、捉えおいるのは俺たち機の䞻脚移動音だけ。

 呚りを぀ぶさに確認しながら、俺はオヌプン回線を開いた。

「むヌグルよりファングス各機」

 砎壊された䜏宅街を芋おいるのも぀たらない。呚蟺譊戒の泚意が

散挫になるかもしれないが、数離れたずころを同じように移動し

おいる圌女たちには、いい暇぀ぶしになるかもしれない。

「さっき蚀いかけたこずを話そうず思う」

 オヌプン回線に人がアクセスする。

 俺は次に出る蚀葉が詰たった。䜕故このようなこずをしようず

思ったのか。あの黄昏時、倧砎した吹雪の前に座り蟌んでいた俺。䜐

枡島ぞ向かう戊術機母艊の甲板で、意味もなく空を芋䞊げた俺。そん

な俺に蚀葉をかけおくれた先達。圌女たちのマネをしようず蚀うの

か。それずも、たった数戊の経隓がある少尉の俺が、そう倧しお経隓

倀は倉わらないであろう圌女たちに先茩ヅラを吹かせるずいうのだ

ろうか。

 だが、恥のかき捚おだ。それほど倉わらない、新任少尉の先茩であ

る俺からの。ただ䞀人前ずは皋遠い俺から、䜕か教えられるこずがあ

るやもしれない。

「任官したばかりの頃の話っお切り出そうず思ったが、別にいいだろ

う。  俺のいた蚓緎郚隊での話だ」

 それからは所属郚隊や基地のこずを䌏せながら話す。違和感だら

けに聞こえただろう。それでも、䌝えるこずに意味があるず思った。

「俺さ、萜ちこがれの蚓緎兵だったんだ。座孊はからっきし、䜓力錬成

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もダメダメ、銃の組み立おで郚品を玛倱。そんな俺を匕っ匵っおくれ

総

戊

技

総合戊闘技術評䟡挔習

た仲間たちず䞀緒に

を突砎できたんだ。たぁ、道䞭もただ

の蛇に噛たれたのに、毒蛇だずか散々隒ぎたくっお、挙げ句に行軍䞭

は熱を出しおぶっ倒れた」

 ケラケラ笑いながら話す。䞻芳時間で蚀えば、もう䜕幎も前の話だ

からだ。

「そんな取り柄のない俺にも、぀だけ才胜があった。それは、戊術機

の機動制埡。シミュレヌタの蚓緎過皋を最速でクリアしたんだ。そ

の時は仲間にも教官にも心底驚かれたっけな」

 人の芖線が俺の機䜓の方に集䞭しおいるのが、なんずなく分か

る。兵士ずしおダメダメでも、戊術機の扱いが䞊手ければ、こんな機

䜓が䞎えられるのか。そのようなこずを思われおいるようでならな

かった。

「そんな俺の話を聞き぀けた将校が、ある提案をしたんだ。俺たちに

シミュレヌタ時間ず蚓緎機を融通しおくれる。飛んで喜んだよ。俺

の機動制埡はそれだけ有甚であるず認められた。入力ログは仲間に

も共有されお、党員の機動制埡技術に貢献できたんだ」

 ここからは完党に本圓の話を䜜り倉えた話。嘘でもないから、真実

味が増しおいく。

「シミュレヌタを蚓緎郚隊は最速でクリアしお、すぐに実機蚓緎。導

匏戊術歩行高等緎習機

吹

雪

入されたばかりの

に乗っお、高名な教官の

元で蚓緎に明け暮れた。そんな時だ。実機蚓緎䞭、に襲撃さ

れたのは」

『っ?!』

 党員の衚情が匷匵った。自分たちの蚓緎ず重ねおいたのだろうか。

「暡擬戊䞭の襲撃だ。近くの挔習堎に出珟したがすぐそこた

で迫っおきおいた。なんで基地の近くにが出珟したのかっ

おいうず、極秘に捕瞛しおいた奎が逃げ出したらしい。事件はもみ消

されたものだから、あの時基地にいた人しか知らない」

 厩れたマンションを眺め、あの時のこずを思い出す。

「突然のこずで驚いお䜕もできなかった俺たちに、近くで蚓緎をしお

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いた正芏郚隊が呜什したんだ。歊噚庫に行っお突撃砲ず長刀をあ

りったけ持っお来いっお。それたでの足止めは自分たちがする、ず」

 燻る瓊瀫を暪目に芋る。党おに人がいた筈なのに、今では誰人ず

しお残っおいない䜏宅街。聞いた話によれば、避難誘導を振り切っお

自宅に戻る民間人がいたずか。寺瀟では読経をしおいるずころもあ

るずいう。

「初めお芋るの姿に、蚓緎兵だった俺たちは足が竊んだ。で

も、行かなくおは正芏郚隊がやられおしたう。なんずか分隊を動かし

お歊噚庫に向かったんだ。その道䞭、俺たちはに遭遇した」

 芁撃玚が数䜓いたこずを思い出す。

「そい぀を芋た瞬間、俺は突撃砲を撃ち始めた。装填されおいるのが

暡擬匟であるこずを忘れおな。塗料で色が倉わっおいく芁撃玚に、俺

は自分の埗意な機動制埡を䜿った。そうしたら、の泚意が俺

に向いたんだ」

 錻で嗀い、右手に芋えるショッピングモヌルに目を向けた。䞭で小

型皮が蠢いおいるかもしれないからだ。しかしそれは杞憂だったよ

うで、厩れた倖壁や萜ちた倩井があるだけ。

「勘違いしおいた。その時の俺はを殺せおいる぀もりだった

んだ。話を聞いおいおなんずなく分かっおいるず思うが、蚓緎䞭の遭

遇だ。事前凊眮なんお受けおいない。ピクリずも動かない俺たちに

正芏郚隊が遠隔操䜜で斜した興奮剀のみ。きっず幻芚でも芋おいた

かもしれない。が殺せおいる状況を」

 もう少しで桂川ずいうずころたで来おいた。そろそろ跳躍ナニッ

トで移動しおもいいだろう。背の高い建物が増えおきたのだ。

「だが本圓はバッドトリップしおいたんだ。そしお俺はすぐに芁撃玚

の前腕衝角で撃墜。䞻電源もも萜ちた圱響で、党おの電気系統

が䜿えなくなった。ヘッドセットから倖の様子は芋お取れないが、俺

の乗っおいた吹雪を食い砎ろうずしおいた戊車玚の音は聞こえおく

る。泣いたよ。喚いたよ。怖い、死にたくないっお。小䟿を挏らし

お、ガキみたいに」

 圌女たちにも芚えはあるのだろう。今回が初陣だった筈だ。想像

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を超える量で抌し寄せる矀を目の圓たりにした筈だ。

「助けられた戊術機の倧尉にも、行かないでっお懇願したっけな。

  これが俺の初陣だ。顔も分からない先任少尉の話を聞いたずこ

ろで、なんだか分からないず思うけど気に止めおおいおくれるず嬉し

い」

『  鉄少尉』

 䞀番最初にリアクションをしたのは、意倖にも胜登少尉だった。

『その時の蚓緎分隊はどうなったんですか?』

「兵装運んで、すぐに撀退。俺が撃墜された以倖は被害れロ。仲間も

興奮剀の投䞎でどうにかなりそうだった筈なのに、俺の心配しおずっ

ず声を掛けおた。だけど俺が足止めをしおるから行けっお蚀ったら

しく、先任のずころに歊噚を運びに行ったよ」

 自分たちの初陣ず比范したのだろう。その様子は芋お取れた。

「その埌は繰り䞊げ任官をしお、新任少尉のたた最前線。ここは胜登

少尉たちず同じだな。皆同じ蚓緎郚隊出身だろ? 俺もそうだった。

仲間たちず䞀緒の郚隊に配属されお、さっき出おきた助けおくれた倧

尉の郚隊に配属になっお、気付いたら俺人だ」

 嘘ではない。党員生きおはいるが、俺のいた䞭隊はいない。ほずん

どは蚓緎郚隊にすら入っおいない幎頃の筈だ。

 俺の蚀葉に党員が口を噀んだ。状況は俺ず篁少尉らの郚隊ず同じ

だからだ。

「情けねヌ俺が生き残っお、優秀だった仲間たちが先に死んだ。ずっ

぀きにくい奎らばかりで、反発しお、喧嘩しお、いがみ合っお、それ

でも背䞭を預け合う仲間だから信甚しお、信頌しお、助け合っお、そ

れでも生き残れないんだよ」

 少し暗い雰囲気になったが、俺の蚀いたいこずは蚀い切れた。それ

に、䞁床いいタむミングでもある。光線属皮からの射線は完党に切れ

た䜍眮に到着したのだ。䞻脚移動の方が、返っお危険な環境に倉わっ

た。

「篁少尉たちも、俺ず䌌た経隓をしたかもしれない。だから、これは同

茩のおせっかいだ」

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 移動を止め、少し遠くを歩く瑞鶎らの方向を芋た。

「心を開け。想いも願いも党お口に出しお、仲間に聞いおもらうんだ。

絶察受け止めおくれる」

 目の前で停止した瑞鶎を確認し、俺は指瀺を出す぀いでに蚀う。

「埌、俺の機動制埡がおかしいのは、俺がおかしいからじゃない。俺は

、鉄 倧和ずいうのは仮の名だ。極秘裏に蚈画された

スヌパヌ゚リヌト゜ルゞャヌ蚈画の、れロれロナンバヌを持぀最埌の

スヌパヌ゚リヌト。遺䌝子操䜜技術によっお、戊闘甚に遺䌝子を操䜜

された詊隓管ベビヌなのさ」

『はい?』

 人のリアクションを芋お分かった。絶察に滑った、ず。

「た、たぁ、気にするな。ここからは飛んで移動する。高床制限は

だ。俺が先行し、垂街地の様子を芋る。ファングスは俺の埌方

を付いお来い」

『『『り、了解』』』

 ※※※

『こちら垝囜軍嵐山基地所属 斯衛軍第独立譊護䞭隊! 駅駐

留郚隊指揮所、応答願いたす!』

 オヌプン回線で応答を䜕床も呌び掛ける篁少尉の声を聞いたのは



匍

匐

飛

行

䜕床目だろうか。

で垂街地を移動しながら、京郜駅に駐留しお

いるず蚀う垝囜軍郚隊に呌びかけを続けおいた。もう少しで到着す

る頃合いだが、劂䜕せん様子がおかしい。

 刹那のこずだ。俺はすぐさた回線に入っお叫んだ。

「党機散解!! 建物の圱に泚意だ!!」

 俺の目の前に、突然芁塞玚が珟れたのだ。

 芁塞玚は矀最埌方を移動する皮だ。理由ずしおは、その図

䜓からも分かるが、移動速床が他の皮よりも遅い。そしお、䜓内に小

型皮のを抱えおおり、の運搬も行っおいるからだ。

闘士玚、兵士玚、光線玚を芁塞玚の死䜓が吐き出したずいう蚘録も

残っおいる。

 䞡手に保持する短刀のリヌチの短さに苊悩しながらも、鞭のように

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振るわれる衝角を避けながら機に指瀺を出した。

「ここは任せろ! ファングスは京郜駅から兵装をかっぱらっお来い

!!」

 飛び去る瑞鶎たちを芋送りながらも、俺は衝角を避けながら切り萜

ずすチャンスを芋蚈らっおいた。

 倉幻自圚に振るわれる觊手は、俺に衝角を圓おお匟き萜ずすか、衝

角先端から分泌される匷酞性の溶解液を流し蟌むかを狙っおいた。

 しかし奜きにはさせない。それなりに乗りなれおきた機䜓でもあ

る─ は、䞍知火たでずはいかないたでも近接栌

闘ができる。元々米囜補ずいうこずもあっおか、完成床自䜓は高いの

だ。近接栌闘戊を想定しおいない䜜りではあるものの、ず霞の

プログラム倉曎等の改修によっお、それなりの性胜を匕き出せおい

た。乗ったこずはないが、─よりも動けおいるだろう。

 短刀本では芁塞玚の撃砎は䞍可胜ずいうこずは分かっおいる。

だからこそ、衝角を切り萜ずすこずに目暙を絞った。

 䞀床距離を取り、加速しお芁塞玚に突っ蟌む。衝角を避ける時も、

動きは最小限に留めながら速床を殺さずに飛び蟌んだ。

 䜐枡島で陜動を買っお出た時にも芋た光景だが、今は芁塞玚は匹

しかいない。集䞭するのは匹だけでいいず思えば、少しばかり心は

楜だった。

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 胎䜓の䞋を通り過ぎおすぐ、急制動をしおすぐにむンメルマンタヌ

ン。そのたた方向を倉えおいる最䞭の衝角ず觊手の付け根を狙い、斬

り付ける。

 断面から䜓液が吹き出し、汚い黄色をした溶解液が挏れ出す。地面

に撒き散らされたそれが、呚囲に異臭ず有害物質を撒き散らしながら

蒞発し、自動車ほどの倧きさがある衝角が道路に転がった。

 チャンス。そのたたの勢いで、芁塞玚の䞋をくぐり抜けお京郜駅を

目指す。先皋からオヌプン回線が静かなこずが気になる。もし、駅駐

留郚隊ず合流したのなら、䜕かしらの連絡が入っおいる筈だ。

「ロスト?!」

131

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 戊術デヌタリンクは健圚で、接続範囲たで接近したのにも関わら

ず、デヌタリンク䞊には䜕も衚瀺されない。それよりも、近くを歩く、

別の芁塞玚が気になる。

 接近しお芋おみるず、芁塞玚の頭郚のようなずころに望遠カメラを

向けおみたくなった。

「黄色の塗料ず装甲片」

 すぐさた近くを怜玢する。嫌な予感がする。そしおその予感は的

䞭した。

 京郜駅屋䞊。そこに黄色の瑞鶎が墜萜しおいる。デヌタリンクは

生きおいないのは分かっおいるため、目芖で確認する。歪んで塗装剥

げや欠けが芋られる装甲板。完党に沈黙しおいる跳躍ナニット。撃

墜されおいる。

 救助をした圢跡が芋られないこずから、恐らくただ䞭に篁少尉が

乗っおいる。他の山城少尉や胜登少尉の䜍眮を確認する。胜登少尉

軜匷化倖骚栌

匏機械化歩兵装甲

の機䜓は京郜駅前に墜萜しおおり、䞁床䞭から

で

匷制脱出

パワヌアりト

しおきおいた。

「こちらむヌグル! 胜登少尉! 無事か?!」

『くろ、がね、少尉  』

 望遠カメラに切り替えお顔を芋る。顔色が悪いのは薬物の過剰投

䞎の圱響かしれない。鎮静剀が䜕床か圧力泚射されおいた様子だっ

たからだ。そしお怪我をしおいる様子もないこずから、どうやら機䜓

が動かなくなっただけで枈んだようだ。

「機䜓から突撃銃ず拳銃は持ち出したか?! 俺の手に乗れ!!」

『は  い  』

 䞍味い。様子を芋る限りじゃ、完党にバッドトリップしおいる。薬

物も残っおいないがために、完党にむカれかけおいる。朊朧ずした意

識ではあるが、その足取りはしっかりしおいるこずから察するに、た

だ最悪の状態ではないず思う。知識はないが、俺自身に経隓があるか

らこそ蚀える。ただ倧䞈倫。

 ゆっくりず掌に乗った胜登少尉を運んで、篁少尉の機䜓の前に䞋ろ

す。近くにがいないこずは確認枈みだ。

132

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「篁少尉がただ䞭にいる。意識を倱っおいお、電気系が萜ちおいるよ

うだ。倖郚から管制ナニットをこじ開けお匕きずり出しおくれ」

『でも  』

「機䜓を倱ったからっお諊めるな。本隊ず合流しお、戊うんだろ? 

それにこの蟺りにはがいない。俺は山城少尉のずころに行

く。ここから反察偎の駅東広堎だ」

『りょう、かい  』

 ああは蚀ったが、戊闘はもうできないだろう。胜登少尉の目の焊点

が定たっおいない。それでも呜什をしおおけば、倚分動ける筈だ。

 すぐに人のずころから離脱し、山城少尉のずころぞず向かう。そ

こたで離れおいない。少し滑空しお着地するだけだ。の反

応はあるが、恐らく戊車玚。胜登少尉の機䜓から枡した突撃砲を受け

取り、そこぞ向かう。その時だった。

「アラヌト?! 䞍味っ!!!」

 ※※※

 ﹇同幎同日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区機密区画 銙月博士執

務宀﹈

 結局、癜銀にやらせる぀もりだった片付けを自分でやり始めおどれ

くらい経っただろうか。最近は珍しくも、芏則正しい生掻を送っおい

る私は、朝食を食べおからすぐに始めおいた。

 自分にしか分からないものだけを䞻に集めお、皮類毎にドキュメン

トケヌスに入れおいく。順番通りに眮かれおいるものだから、そのた

た攟り蟌んでいくだけでいい䜜業だ。ある皋床ケヌスの数が出おく

るず、コンテナに攟り蟌んでいくだけ。

 そこそこ自分の机のが芋え始めた頃だった。瀟ず鑑がアタ

シの郚屋に飛び蟌んできたのは。瀟は顔を青ざめさせおおり、䞀方の

鑑は焊燥しおいるように芋える。

「䜕よ、いきなり飛び蟌んできお」

「こ、ここここ」

「䜕? 鶏のマネ? 面癜いから出おいきなさい」

「ちが、ちちちちが、違いたす!!」

133

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 ワタワタず忙しなく手を動かし、いかに自分が焊っおいるのかをア

ピヌルする鑑。その隣で青ざめたたたの瀟は、呌吞を敎えお口にした

のだ。

「  癜銀さんが」

「はぁ? 癜銀がどうしたの? 毎日アンタたちが教えお欲しいっお

蚀うものだから、日回生存確認ずどこにいるか教えおいるじゃな

い? それでも䞍満なの?」

「  癜銀さんが京郜で撃墜されたす」

「は? あの倉態衛士サマが?」

 巫山戯おみるものの、人の様子から本気であるこずが䌺える。

 それに鑑が芳たのは、未来の京郜だ。胜力は様々確認されお

いるが、その䞭でもメゞャヌなものが未来芖。予知胜力ずも蚀うそれ

は、どれほどか先に起こりうる未来を、どのような圢であれ胜力者が

芳枬するこずのできる胜力だ。オルタネむティノの成果の䞭に、そ

ういった胜力を持぀発珟䜓が確認されたレポヌトが

あったのを芚えおいる。

 埌倩的に量子電導脳によっお胜力を埗た鑑ならば、珟圚は通

垞の人間の脳であったずしおも、そういった胜力を継承しおいおもお

かしくはない。普通の人間ずしおこれたで生掻しおいたずしおも、そ

の蚘憶が虚数空間から流入し、脳を倉質させたず仮説立おれば説明が

付く。

 ずりあえず、アタシは人の蚀っおいるこずを信じるこずにした。

「  玔倏さんが前の䞖界から量子電導脳の胜力をある皋床匕き継い

でいるこずは、博士も知っおいるこずです」

「そうね」

「  胜力も勿論、持っおいるんです。だからその胜力で玔倏

さんは芳おしたったんです」

「䜕を?」

「  今日の深倜、癜銀さんが撃墜されお亡くなる様子です」

 確認ずしお、アタシが鑑の胜力に぀いお把握しおいるのは分

かった。しかし、いやだから、どうしおなのかを聞いおいるのだ。

134

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 それず瀟の蚀葉足らずなのは、今でこそマシになったずはいえど

も、それでも珟圚の状態でも足りないのは事実だった。

「  近くにいた友軍が先に撃墜され、救助に向かったずころをやら

れたんです。呚蟺に友軍はいたせん。珟地郚隊が気付いお救助に向

かったずしおも、癜銀さんは遺䜓も分からないくらいになっおいた

す。だから」

「だから䜕? 救助郚隊を送れ、ず?」

「  」

 瀟は答えない。鑑も黙ったたたこちらを芋おいる。

 癜銀が撃墜されるなんおこずは、アタシの䞻芳蚘憶で䞀床だけ。そ

れも蚓緎生䞊がりたおの新米の時。トラむアル䞭に出珟した

盞手にバッドトリップしおからのこずだ。

 芋方を倉えおみる。今アむツが乗っおいる戊術機は、瀟が手の加え

たワンオフ機だ。搭茉されおいるや電源ナニットはアタシ謹

補。のメむンプログラマヌは瀟、そしお鑑。この人はオルタ

ネむティノの芁員だ。塗装が垝囜軍のものでも、倖芋からしお怪し

さ満点の䞍審戊術機。そしお、あの機䜓自䜓が珟圚のオルタネむティ

ノの叡智を結集した成果でもある。そんなものが、倧砎しお転がっ

おいれば垝囜軍が回収しない筈がない。もし圚日米軍にでも発芋さ

れたならば、オルタネむティノの痛手になっおしたう。

 䞭身を芋られたらお終い。䞭には米囜補やアタシのずころの技術

班が䜜ったものが倚分に含たれおいる。勘がそうずう鈍い奎じゃな

い限り、アタシが疑われるのは確実。それに、人に頌たれお毎日集

めおいる情報から分かっおいるこずだが、アむツはこの本土䟵攻で目

立ちすぎた。戊堎を倧暎れする陜炎、ずたこずしやかに噂されおい

る。そんな機䜓を拟おうものなら、勘が鈍かろうが、噂の機䜓ずいう

こずで調査しかねない。

「蚀っずくけど、─は出撃させられないわ。動かしたら囜連軍

䞊局郚からの远求は確実。かず蚀っお、他の囜連軍や垝囜軍、斯衛軍

に蚀っおも動いおくれる保蚌はない。圚日米軍は論倖。そんな状況

でどうするの? たさか、今日は戊闘しないで欲しいなんお癜銀に䌝

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えろ、なんお蚀わないでしょうね? 今日は絶察防衛線が突砎される

日。そんな日に、アむツを戊堎から匕き離したら意味がないの」

「それは  」

 少し萜ち着きを取り戻した鑑が蚀い淀む。無理もない。他力に頌

れる皋、今のオルタネむティノは力がない。アタシの盎接的なコネ

も、このような状況では無意味に等しい。

「じ、神宮寺先生は  ?」

「駄目。知っおるず思うけれど、たりもは教官よ。今日も蚓緎兵の尻

を蹎り䞊げるこずで忙しいのよ。いきなり日ほっぜり出しお垝郜

に向かえ、癜銀を支配地域から救出しろは無理があるの。や

れなくもないけれど。さぁ、これ以倖の案を出しなさい。それならい

いわ」

 他にも理由がある。たりもに垝囜軍・垝囜斯衛軍ず接觊した時、機

密を挏らさない話術で切り抜け、䜕も知られるこずなく垰るこずは難

しい。恐らくヘマをやらかす可胜性も考えられる。

「う、うううぅぅぅ〜〜〜!!」

「唞られお嚁嚇されおも、できないものはできないの。アタシが挙げ

たもの以倖で、聞いた䞊で可胜ならばいいわ」

 状況説明をしおから黙っおいた瀟が発蚀する。

「  ぀、ありたす」

「ぞぇ  、蚀っおみなさい」

 それは荒唐無皜だった。それでも、蚀ったアタシの条件を党おクリ

アした案を突き぀ける。ア・

レ・

「  私が行きたす。

に乗っお」

ア・

レ・

ア・

レ・

「  

? あぁ、

ね」

 瀟の芋せた顔は、これたでのものずは違う。芚悟を決めた顔。アタ

シはこの顔は䞀床だけ芋たこずがあった。

 そう───桜花䜜戊の時に。

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 

  ﹇幎月日 絶察防衛線圏内 京郜駅前﹈

 激しく揺さぶられ、網膜投圱がブラックアりトする。しかしすぐに

埩掻し、自動でステヌタスチェックが始たった。

「芁撃玚の前腕衝角?! 最期の力でも振り絞ったのか!?」

 䜓液を倧量に垂れ流す芁撃玚が、銃創から赀い液䜓を噎き出しなが

ら、再床前腕衝角を振りかぶる。

 回避運動。跳躍ナニットのロケットモヌタずゞェット゚ンゞンを

点火しようず詊みるが、党く火が点かない。右䞊に衚瀺されおいる党

身図に目を向ける。

 䞡跳躍ナニットが赀だ。どうやら点火できない皋に砎損したよう

だ。

 ならばず腕で、ず右手を地面に付き立おる。しかし起き䞊がれな

い。右肩から腕が抜け萜ちた。前腕衝角は右腕に圓たったようだ。

装甲板ずフレヌムを砎砕し、完党に䜿い物にならなくされたようだ。

巊手には突撃砲がある、筈だった。ビルに埋たった銃口は抜けない。

「畜生!!」

 振り䞊げられた前腕衝角が䜕ずか振り出した巊足が受け止め、嚁力

を盞殺する。しかし、もう機䜓は圹に立たない。この攻撃ず同時に、

芁撃玚は力尜きたようだ。

緊急脱出

ベむルアりト

 管制ナニット内は赀い譊告ランプが点滅し、

をシステムが

促しおくる。

 幞い呚囲の状況は、頭郚カメラナニットが生きおいるため分かる。

「芁撃玚たった匹にやられるなんお  ク゜ッ!!」

 生きおいるのはカメラナニットだけ。もう䜕も動かない。う぀䌏

せに倒れおしたい、緊急脱出も匷制脱出もできない。背䞭からどう

やっお脱出しようか。

 そうこうしおいるず、山城機に矀がっおいたず思われる戊車玚が数

䜓接近しおくる。

『  ろ  にげ  』

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「ク゜、ク゜、ク゜、ク゜ォォォ!!」

 軜匷化倖骚栌は幞い起動した。俺の声に玛れ、山城少尉の声も聞こ

えおくる。スノヌノむズで聞き取り蟛いが、ただ生きおいるシステム

を䜿っお確認する。

 山城少尉は壁に背䞭から打ち付けられお機胜停止した瑞鶎の䞭に

取り残されおいた。管制ナニットのハッチが閉たったたただが、あの

重傷では動けない。あちこちが痛い筈なのに、必死に䜕かを蚎えかけ

おくる。

『  くろ  しょ  にげお  』

「山城少尉!! 諊めんな!!」

 どうにかなるはずだ。軜匷化倖骚栌で脱出しお、山城機に取り付

き、山城少尉を担いで逃げればいい。瑞鶎は─の改修機だ。恐

らく同じ堎所に収められおいる筈。山城少尉のヘルメットが䜿い物

になれば、埡の字だ。

 䜕ずか身にたずうこずのできた軜匷化倖骚栌で、管制ナニットの内

偎から背䞭に向けお力を入れる。抌しおこじ開ける。装甲が薄く、あ

たり電子機噚の密集しおいないずころだから開く筈なのだ。

「開け、開け、開け開け開け!!!」

 ミシミシず金属が音を立おる。戊車玚が霧っおいるからなのか、そ

れずも背䞭の装甲が倖れる音なのか分からない。

「開け開け開け開け開け開け開け開け開け!!!! 開けえええええええ

!!!!」

 自力で開くこずができ、ヘルメットを被っおそのたた擱座した機䜓

の䞊で飛び出す。網膜投圱は既に切り替わっおおり、機倖の映像は芋

れなかったが想像通りの状態だった。䜓の戊車玚が─ 

を取り囲んでおり、ひしゃげた四肢を霧り、管制ナニット

のずころをこじ開けようずしおいたのだ。

 俺の手に持っおいるのは突撃銃だけ。他の荷物は機内に残しおあ

る。そしお、䞇が䞀のために持っおいるのはの爆砎スむッチ。既

にが収められおいる蟺りには蚭眮しおおり、埌はスむッチを入

れるだけで爆発するようになっおいた。

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「死んでたたるかああああああ!! 俺は、俺はただ、䜕もなしおいない

んだヌヌヌヌヌヌ!!!!」

 突撃銃を撃ちながら、機䜓から飛び降りる。䜓の戊車玚が近寄っ

お、俺に手のようなものを䌞ばしおきた。ギリギリのタむミングでそ

れを避け、走り出す。ずりあえず、䜓から離れおもう䞀床機䜓に飛

び乗る。できるだけ戊車玚を集めお吹き飛ばしたい。

 瓊瀫や動かなくなったの背䞭、廃車の䞊を飛び移り、圱に

飛び蟌みながら走り回る。

 この間だけはヘルメットを被り、呌吞を敎えながら走る。

「俺はここだ!! ク゜ダロヌヌヌ!!!」

 機䜓に戻り、背䞭の兵装担架に登っお戊車玚を芋䞋ろす。県䞋には

䜓の戊車玚。これだけ巻き蟌んで爆発したならば、山城少尉の救

出ももう少し簡単になるだろう。

 そしお絶奜のタむミングが蚪れた時だった。

「戊術機の  跳躍ナニットの音?」

 音が聞こえる。この呚蟺に戊術機に乗っおいる味方はいない筈な

のに。戊術デヌタリンクに曎新が入り、その正䜓が分かった。

「─  」

 ラビッツ。どこかの囜連軍郚隊だろうか。だが、接近しおきたのは

機だけだった。そしおラビットず近接デヌタリンクで同期が行

われるず、はるか埌方に垝囜軍郚隊が来おいるのも確認できる。

 しかし気は抜けない。俺の目の前にはただ、逌に集る戊車玚がいる

のだ。

『  ラビットよりむヌグル。聞こえたすか?』

「その声は  」

 蜟々ず跳躍ナニットが音を鳎らし、火を吹き、そしお"芋慣れない

戊術機"が姿を衚した。秘匿回線を䜿甚し、映し出されたバストアッ

プりィンドりに映し出されたのは、幎端も行かない少女だった。

『  退避しおください』

 䞡腕の突撃砲が俺に集っおいた戊車玚に銃口を向ける。俺はすぐ

さた兵装担架から降りお退避する。そしお、の雚が戊車玚に

139

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降り泚いだ。

「  な、なんで」

 しかし、自分が助かったこずよりも、俺は気になっお仕方がなかっ

た。

「なんで霞が戊術機に乗っお珟れた?!」

 霞が戊術機に乗っお珟れたこずが、気になったのだ。それに、芋慣

れない機䜓ずいうこずもある。あんな機䜓、癜陵基地にあっただろう

か。

 ※※※

 俺を囲んでいた戊車玚を倒し切っお、呚囲のを確認する。

やはり山城機の呚りにただ集っおいるが、それ以倖には確認できな

い。少し離れたずころに芁塞玚が䜓芋えるが、それ以倖はいないよ

うだ。

マむンドシヌカヌ



─





 







 霞が乗っおきた機䜓、

ずか蚀った機䜓に乗り蟌む

ず、どうやら耇座座垭になっおいる様子だ。前方の座垭から霞は埌方

の座垭に乗り換え、俺は掌の䞊で軜匷化倖骚栌を脱ぎ捚おお着座す

る。

 着座デヌタの曎新を行い、起動手順はショヌトカット。管制ナニッ

トを密閉し、ヘルメットを脱いだ。

「聞きたいこずは埌だ! 霞、少し我慢しおくれよ!!」

「  はい」

 すぐさた跳躍ナニットに火を入れお浮かび䞊がる。目指すは山城

機だ。

 山城機の呚囲は暗闇で芖界が悪く、䜕かが蠢いおいるのは分かる

が、詳现な䜍眮は党く分からなかった。頭郚カメラナニットに隣接さ

れおいるず思われるラむトを点灯し、その蟺りを照らしおみる。

 山城機を取り囲む戊車玚が、遂に管制ナニットをこじ開けようずし

手のようなものを滑り蟌たせたずころだった。

「させるか!」

 突撃砲を構え、瑞鶎を避けるようにをバヌスト射撃する。

赀い䜓躯を朰されながら、次々ず絶呜しおいく。俺も足を止めたたた

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ではなく、適床に䞻脚移動や跳躍ナニットで飛びながらの掃陀だ。

 ある皋床片付け終わるず、どこからか沞いたのか戊車玚の増揎が接

近し始めおいた。俺はすぐさた胜登少尉ず篁少尉に呌びかける。

「むヌグルよりファング、ファング! 生きおるか?!」

『  はい』

『和泉が助けおくれたした。倧䞈倫です!』

 生きおいるようだ。胜登少尉から近接デヌタリンクで、俺が䞋ろし

た䜍眮から動いおいないこずが確認できる。

『ファングよりむヌグル。山城少尉が東広堎で』

「今救出しおいる。戊車玚が片付いたずころだ」

「  ファングは生きおたす」

『  今、少女の声が』

「気の所為だ。もう少しで垝囜軍が来る。どうやら匷制脱出したお陰

で、かに芁救助マヌカヌが発信されたみたいだ。山城少尉を

人のずころぞ運ぶから、人は回収しおもらえ」

 俺は䞀方的に喋り、目の前で壁にもたれ掛かっおいる瑞鶎を遠隔操

䜜する。しかしどうやら受け付けない様子。篁機同様に電源が萜ち

おいるようだ。

 手を䜿っお管制ナニットを匷制排陀し、ヘルメットを被っお機倖ぞ

出る。瑞鶎に飛び移り、管制ナニットを芗き蟌むず、そこには頭から

血を流し、匷化装備の生呜維持装眮で匷匕に芚醒状態にさせられお虚

ろな目をした山城少尉がいた。

 長い黒髪から血が滎り萜ちおおり、血が目に入っお片目が開かない

ようだ。それに䞡腕ず足が動かせない様子。

 自分の緊急脱着甚レスキュヌパッチを䜿い、ずりあえず額の挫傷郚

䜍に圓おる。巊腕ず右足が骚折しおおり、右肩が脱臌しおいるが、こ

こでは手圓ができない。

「あな  た、は  」

「仲間が埅っおる。死ぬんじゃねぇぞ」

 軜匷化倖骚栌の埌ろに栌玍されおいるヘルメットを取り出し、山城

少尉に被せる。慎重に管制ナニットから運び出し、予め広げおいた掌

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に山城少尉をゆっくりず䞋ろすず、管制ナニットを開いたたた暗闇か

ら脱した。

 篁機が擱座しおいるずころに降り立ち、呚囲のを確認しお

人に山城少尉を預ける。

「篁少尉、胜登少尉」

『は  ですが』

「俺はここたでのようだ。このたた、すぐに到着する垝囜軍郚隊に匕

き継ぐ。矀が近づいおきおいるようなんだ。ここには近寄

らせないようにするが、圌らが到着次第離脱する。俺の機䜓もおじゃ

んになったからな」

『い、いえ、そうではなく  䜕故、囜連軍機に?』

「答えられない」

『  分かりたした』

「デヌタリンクで確認しおいるず思うが、山城少尉は重傷だ。できる

限りの手圓をしおやっおくれ。頭にはレスキュヌパッチを付けおあ

るが、腕ず足には䜕もできなかった」

『鉄少尉、ありがずうございたした』

「おう。たたどこかで逢おうぜ! 今床は面癜い話でも聞かせおやる

よ!!」

 回線を切り、機内の換気が終わったこずを確認しおヘルメットを脱

ぐ。

 すぐに霞のバストアップりィンドりが衚瀺され、俺に呚蟺状況の説

明を始めおくれた。

「  珟圚、呚蟺に小隊芏暡の矀が接近䞭。その個䜓の党お

が戊車玚です」

 西の方から戊車玚が接近しおきおいた。その近くには芁塞玚䜓

おり、ゆっくりずこちらに向かっおきおいる。

「  接近䞭の垝囜軍郚隊は、救助隊を乗せたヘリコプタヌず、その護

衛ずしおメヌカヌ開発実隓郚隊の戊術機機。望遠カメラで確認し

た限りでは、恐らく歊埡雷です」

「幎にはもう䜜られおたのか?」

142

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「  いいえ。詊䜜機のようです」

 りィンドりに【ラむブラリヌデヌタなし】ず衚瀺されおいる。日本

垝囜が保有しおいる戊術機ずしおは、ただ登録されおいないずいうこ

ずだろう。

 䌚話が途切れた時、䞁床矀ず接敵した。霞が乗っおいるこ

ずで、い぀もやっおいるような機動制埡はできないだろう。突撃砲斉

射による䞀撃離脱だけで数を枛らすこずにし、回の斜行でそれは殲

滅できた。

 戊域デヌタリンクは未だ回埩しおいないが、もう捉えるこずのでき

る距離たで接近しおきおいる垝囜軍郚隊。俺は離脱するこずを遞び、

芁塞玚が来た方向ぞず、飛び去るこずを遞んだ。

 ※※※

 ﹇同幎月日 囜連軍甲賀基地﹈

 ここは倕呌先生が手配しおいた、俺のゎヌル地点。小芏暡な基地で

はあるが、山麓に囲たれた地圢は倩然の芁塞ずなり、守りに堅いずこ

ろず蚀われおいる。

 滑り蟌むように機䜓を着陞させるず、敎備兵たちが防護服を来お陀

染䜜業を始めた。

「はぁヌ  」

「  お疲れさたでした」

「霞もお疲れ  っお!! そうじゃねぇ!?」

 俺は霞の方を向くず、「䜕か?」ず蚀いたげな衚情をする霞が俺の顔

を芋぀めおいた。

「どうしお霞が戊術機に乗っお珟れるんだよ?! ずいうか䜕コむツ!!

 俺䜕も思わずに乗っおたけど、こんなの癜陵基地にいたっけ?!」

 霞が手元で䜕か操䜜をするず、ラむブラリヌのある項目が衚瀺され

た。

「─  マむンドシヌカヌ?」

「  はい。オルタネむティノで䜿甚されおいた、戊略匷襲歩行偵

察機です」

「ずいうずアレか」

143

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 霞ず同じ、人工発珟䜓を搭乗させお、ハむノの反応炉をリヌ

ディングするための郚隊に配備された機䜓。

「  そうです。私も乗る予定の機䜓でした」

「スマン」

「  気にしないでください」

 霞にずっおは思い出したくないこずだったのかもしれない。もう

少し考えお発蚀するべきだった。

 しかし話は戻る。䜕故その─ が癜陵基地にあった

のか、ずいうこずだ。霞を乗せおハむノぞ行け、だなんお倕呌先生も

無茶なこずは蚀わないだろう。そうなるず、いよいよある理由が分か

らない。

「  この機䜓は博士が取り寄せたものです。どういう意図があるか

は分かりたせんが、玔倏さんが䞭心ずなっおカスタマむズを行っおい

たした」

「玔倏がぁ?」

「  はい。頭郚、肩郚装甲ブロック、前腕郚の耇合センサヌポッドは

取り倖され、─ ず同じナむフシヌスに倉曎。頭

郚モゞュヌルは重金属雲䞋でも通信を可胜にする、倧型送受信機。肩

郚

装

甲

ブ

ロッ

ク

に

は

元々

搭

茉

さ

れ

お

い

た、

─ フェニックス

フェ

ニッ

ク

ス

ミ

サ

ã‚€

ル

専甚ランチャヌが搭茉可胜な状態に戻

したした。その他、─ のデヌタからを最

適化させ、電源ナニットずず䞀緒に亀換されおいたす。ほずん

ど元の─ず倉わらない状態に戻されたした」

「おぉ  なんだか分からないけど、すごいな」

「  ですが、近接栌闘戊ができたせん。蚭蚈思想にそういったもの

の入る䜙地が残されおなかったんです」

 デヌタが切り替わり、新しいものが衚瀺される。

「  この機䜓は─  コアトランスポヌタヌ。

─ 

スヌ

パヌ

むヌ

グ

ル

の姉効機です」

「なる  ほど」

 党然分からない。結局、どういった理由で䜜られたのかは分からな

144

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いが、必芁だから倕呌先生が甚意したものなのだろう。

 それを䜿っお、䜕故俺がピンチのずころに救揎ずしお来るこずがで

きたのだろうか。

 そんなこずを考えおいた時のこずだ。秘匿回線にコヌルがかかり、

応答しおみるず耳が割れんばかりの倧声が聞こえおきた。

『タケルちゃ〜〜〜〜ん!!!!』

「うぉ?! す、玔倏?!」

『よかったよぉぉぉ〜〜〜〜〜〜!!』

 涙をダバダバ流す玔倏がアップで映され驚いたが、䜕やら蚳分から

ないこずを嘆く圌女に぀い頬をが緩んでしたう。

『それでね、敎備兵の皆さんに頌んでカスタマむズしおもらった【 ミ

ケネコ スミカスペシャル 】の䜿い心地はどう?」

「ぞ? ミケネコ スミカスペシャル? 䜕蚀っおんのお前? コむ

ツ、─ っお名前じゃないのか?」

『霞ちゃんが運んで、今タケルちゃんが乗っおる゜レだよ〜〜?』

「戊術機にけったいな名前を付けるなヌヌヌヌ!! このバカ!!」

『えぇ〜〜〜〜。かわいいよぉ〜〜〜〜』

 コロコロず衚情を倉える玔倏の顔を眺めながら、俺は忙しなく敎備

兵が動く地䞊を眺める。

 ここたで色々なこずがあった。最初は倕呌先生にアバりトな呜什

を受けお出撃したが、䜕だかんだ蚀っお週間も戊堎を枡り歩いたの

だ。よく生きおいたな、ず思うず同時に、これたでに取り零した呜の

こずを考えおしたう。

 もしかしたら助けられたかもしれない。そう思うずやるせない気

持ちでいっぱいになった。

「  それは傲慢です」

「霞  」

 そんな俺の心をリヌディングしたのか、霞が真面目な衚情で蚀う。

「  ここたでたくさんの呜が倱われたした。それを党お助けられた

かもしれないなんお思わないでください」

 芖線を手元に萜ずした霞は、自分の指を絡たせながらポツポツず聞

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き逃しそうな声で蚀うのだ。

「  癜銀さんも圌らず同じなんです。圌らはたたたた運が悪かっ

た。そういう運呜にあった。でも、今を生きおる癜銀さんは、運がよ

かった。そういう運呜がただ続いおいるんです」

「でも」

「  だから癜銀さんは生き残った人ずしお、しなければならないこ

ずがありたす。そうですよね?」

「  あぁ。そうだな」

 俺は驕っおいた。自分がこの䞖界をルヌプしおいるから、ず。俺が

そうであったずしおも、この䞖界に生きる人にずっおは、これが党お

なのだ。そしお、ルヌプしおいる俺自身も、今のこの䞖界が今の党お

なのだ。

 俺は気分を入れ替え、管制ナニットを開く。ここならばヘルメット

を付けなくおも、倖の空気が吞えるのだ。

「よぉヌし。そうず決たれば  アレ? ─ ど

うしたっけ?」

「  私が遠隔操䜜で爆砎したした」

 霞の手には、俺が持っおいた筈の爆砎スむッチが握られおおり、そ

れを俺の方に芋せおいる。

「じ、じゃあ  この埌は?」

 俺はすぐに戻り、機䜓の凊理をするものだず思っおいたのだが、こ

れではやるこずが分からなくなっおしたう。

『補絊完了! 高い機䜓が配備されおいるなんお、どこの郚隊だい?』

「  ありがずうございたす。あず、郚隊は秘密です」

『そりゃあ残念だ! このたた離陞しおも構わないぞ! 敎備兵は退

避させおある!』

「  はい」

 倖の敎備兵ず霞が䌚話しおいる。補絊が終わり、既に出る準備がで

きおいるず蚀っおいた。

「えず、霞  サン?」

「  これから癜陵基地に戻りたす。そこで予備機䜓を受け取り、再

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床京郜ぞ行っおください。博士からの呜什です」

「な、なんでさヌヌヌヌヌ!!!!」

 䜕ずなく分かっおいたから、そこたで気にしない。それでも、俺自

身ただ足りないず思っおいた皋だ。

 各防衛戊で戊闘に参加しおきたが、ただ俺の貢献床はそこたで高く

ない。たった機の戊術機でずの戊況をひっくり返せるの

ならば、今頃人類はここたで远い詰められおいないのだ。

 ならば、俺は蚈画のためにも最倧限に戊うのみだ。そうだろう、玔

倏。

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 

   ﹇幎月日 絶察防衛線圏内 京郜埡所戊域﹈

 あの日、甲賀にたどり着いた俺は、その日の内に癜陵基地を目指し

移動を始めた。日の出前の移動開始だったが、どうやらその時間垯に

は矀を退けるこずに成功したらしく、絶察防衛線では再線成

や郚隊招集を始めおいた。物資や戊術機の運搬で、ひっきりなしに東

から西ぞず鉄道や茞送車䞡、茞送機が移動をしおいた。

 そんな䞭での移動ずいうこずもあり、茞送手段が䜿える筈もなかっ

た。甲賀基地を出た俺ず霞は、䞻脚移動や噎射跳躍を䜿いながら玄

を戊術機で移動した。日がかりの移動で、癜陵基地に到着

した頃には疲劎困憊だった。

『癜銀。機䜓の甚意はできおいるわ』

 倕呌先生が珍しく出迎えたな、なんお思ったら、それだけを蚀っお

自分の仕事に戻っおしたった。俺の芋぀める先には、実戊甚に調敎さ

れた吹雪。俺の機䜓が鎮座しおおり、既に歊装の準備も完了しおい

た。そしお䟋の劂く、垝囜軍カラヌに塗り替えられおいる。吹雪を装

い・

な・

い・

備しおいる囜連軍は

こずになっおいるのだ。

 考えおみれば分かるもので、─ を倱った俺に

残された機䜓は吹雪しかなかったこず。それに、─のため

に確保されおいた戊術機自䜓も─ ず吹雪しか

ないのだ。俺は身支床を敎えおすぐに吹雪のずころに向かうず、流石

に京郜ぞ向かうのは茞送機だずいうこずに安堵した。

 管制ナニット内で埅機しなくおもいいずのお達しだったこずもあ

り、客宀で惰眠を貪っお向かったのだった。

「で、だ  」

 これたでのこずを思い出し、俺は再床自分の眮かれた状況を確認す

る。

 垝囜軍倧接仮蚭飛行堎に降り立った俺は、今回は茞送したのが垝囜

軍の茞送機ずいうこずもあっお、面倒な手を螏たずに自立敎備支揎担

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架に乗せられた吹雪ず共に移動。京郜埡所防衛に就くこずずなった

のだ。ちなみにこれは倕呌先生のオヌダヌでもある。建前では「蚓緎

兵が繰り䞊げ任官しお戊闘に参加。生き残った俺は、単独で補充芁員

ずしお䞍知火が配属されおいる郚隊ぞ送り蟌たれる」ずいうこずに

なっおいる。ちなみに、名前もこれからは本名を名乗るこずになっお

いた。所属は垝囜軍癜陵基地 第蚓緎郚隊。

『貎様が補充で来た新任少尉か?』

「は、はい! 癜銀 歊少尉です!! よろしくお願いしたす!!」

『あぁ、よろしくな』

 どうしお、俺は真田倧尉の郚隊に配属されおいるんだ?

 ※※※

 芋慣れおいるずいえば芋慣れおいるこの光景を芋぀぀、俺はブリヌ

フィングに呌び出されおいた。

 京郜埡所の䞭ではなく、西にある䞊京䞭孊校があったずころだ。こ

こには埡所守護のために集められた郚隊の叞什郚が眮かれおおり、校

舎内も簡易的ではあるが兵舎や野戊病院ずなっおいる。グラりンド

には自立敎備支揎担架が幟぀も䞊べられおおり、䞀角には戊術機の兵

装や予備パヌツ、小火噚、機械化歩兵装甲、果おは予備機たで眮かれ

おいるような状態だ。察しお広くないずいうこずもあり、隙間なく敷

き詰められおいるため、通路は狭く通行し蟛い。

 呌び出されたずころは、その校舎にある぀の教宀。あったであろ

う机や怅子の殆どが撀去されおおり、幟぀か残されおいるような状態

だった。

 この教宀に集たったのは党員で人。隊長の真田倧尉ず他人、そ

しお俺だ。俺が入る頃には党員が集合しおおり、党員の芖線が俺の方

に向けられる。

「先皋機䞊では俺ず挚拶しおいるが、お前ら党員にも顔合わせをしお

おこうず思う。垝囜軍癜陵基地 元第蚓緎郚隊の癜銀だ。運

悪く防衛線抜出郚隊に遞ばれお前線ぞ来お、こっちで他の仲間を党員

倱ったずいう。曰く、新任少尉の癖に腕はいいず来たもんだ。でな

きゃ、䞀昚日の防衛線での腹に収たっおる筈だからな。ほ

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れ」

「癜銀 歊です。よろしくお願いしたす」

「機䜓は吹雪。俺たちの壱型䞙よりも栌段に性胜が劣る機䜓だが、戊

闘終了埌にぶっ壊れた乗機ず亀換したものらしい」

 壱型䞙ずは䜕だろうか。付けっぱなしのヘッドセットから遠隔で

ラむブラリヌデヌタを確認する。

 どうやら䞍知火の改修型らしいが、燃費が悪くシビアな操䜜感で䞍

人気だったらしい。蚀うなれば高機動型䞍知火だったようだが、あた

りに䞍人気過ぎお調達数はも届かない内に締め切られたずか。

通垞の䞍知火ず芋分けるため、フェリスカモフラヌゞュずいう迷圩塗

装を斜しおいるずいう。

 ただでさえ性胜差がある吹雪の䞍知火だが、そこから曎に性胜差が

開けるずいう。違う機䜓を同䞀郚隊に入れるず、連携が厩れたりする

ずいうが、そういったこずは考慮しないのだろうか。

「壱型䞙の調達呜什が出おいるようだが、どうやら手に入れるのには

時間がかかるずいう。それに、他の䞍知火を装備する郚隊に配属する

か䞊が協議したが、どこの郚隊も再線成の圱響で入れるこずができな

い。よっお、損耗が盞察的に少ない我々の郚隊預かりずなった。それ

に壱型䞙を装備した郚隊ずは蚀え、俺たち党員が揃っおいたずいうこ

ずでもない。今や機しかたずもに動くのがない以䞊、人には同じ

く吹雪は配備される。よっお、長機は壱型䞙ずし、その他は吹雪で代

甚する」

 俺が初めお真田倧尉ず遭遇した時、確か機の壱型䞙が居た気がす

るが、あの埌からは欠員は出おいないようだ。

 真田倧尉から、隊員の玹介が始たる。やはりずいうか、圌らは粟鋭

郚隊。幎霢局も高めで、倕呌先生くらいの人ばかりだ。厳栌な雰囲

気。そしお、劥協を蚱さない姿勢が感じ取れる。たさに垝囜軍人ずい

う雰囲気だ。

 圌らを芋おいるず思い出す人物がいる。沙霧 尚哉。垝囜本土防

衛軍第䞀戊術機甲連隊に所属する圌が、オルタネむティノ掚進掟の

工䜜によっお煜動されお起きたクヌデタヌ事件。沙霧倧尉や他の垝

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囜軍人は、真摯に殿䞋を想い行動を起こした。たるで、圌を芋おいる

ような気がするのだ。

 お互いの自己玹介もほどほどに枈たせるず、吹雪受領曞に目を通

す。俺のは癜陵基地から持っおきた吹雪だが、他の機䜓は別の基地や

䞍知火の保守パヌツ等で組み䞊げられた機䜓だ。぀たり間に合わせ

の機䜓。カタログスペック通りに出力が出るか分からないずいう。

それにしおも、戊闘䞭に壊れるずいうこずはないだろう。

 受け取りを枈たせるず、どうやら真田倧尉の壱型䞙が駐機しおいる

蟺りに自立敎備支揎担架ず共に運ばれるようだった。

「さお。俺たちの配眮を説明する」

 真田倧尉は机に広げられた地図を囲むように蚀い、赀鉛筆で印を付

けられた蟺りを指す。

「俺たちの任務は埡所の守りを固めるこず。ここが珟圚の最前線であ

り、順次前線を抌し䞊げおいっおいる。珟圚も垂街の矀掃蚎

が行われおおり、安党が確認され次第前進する予定だ。これにより、

埡所の安党を確保しおいく」

 二条城の西偎をスヌッず指でなぞる。その蟺りが、珟圚垝囜軍の戊

術機郚隊ず機械化装甲歩兵郚隊が展開䞭のずころだ。

「珟圚、二条城たで前進しおいるが、今日䞭には西倧路通たでを確保す

る予定だ。俺たちは今日、出撃する予定はない。吹雪を拝領した者は

調敎を行い、い぀でも出れるようにしおしおおいお欲しい」

 西倧路通たでずいうず、明日たでには桂駐屯地たで奪還する予定な

のだろう。そしお京郜を取り戻し、続くの攻勢に備える。

 次に俺たちの詳现な配眮に぀いおの説明が始たった。

「俺たちりルフ䞭隊は、囜道号を奪還するたでは即応埅機だ。

その埌、防衛線の再構築が完了次第、絶察防衛線に配眮される。拠点

ここ

䞊京䞭孊校

は

だ。西倧路通たで取り戻せたら、もう少し広く䜿えるだろう」

 すぐに真田倧尉から解散が呜じられ、吹雪を受領した隊員たちが教

宀から出おいく。俺はどうしようかず考えおいるず、壱型䞙の衛士た

ちず倧尉に話しかけられた。

「癜銀少尉。聞いおの通りだ」

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「はい。任官早々、粟鋭郚隊に配属されたこずは嬉しく思いたす。し

かし、皆さんの足を匕っ匵るようなこずにならないように努力する所

存です」

「あヌ、いやそういうこずを蚀っおいるのではない。いやたぁ、䞀抂に

間違っちゃいないんだがな」

 優しげな雰囲気の䞭尉が俺の肩を掎んだ。

「芋たよ、これたでの戊歎。関東から抜出された郚隊で、しかも孊埒兵

だった。これだけを聞けば、たしかに䞍安はあった。だが、そうじゃ

ない。郚隊が党滅させられながらも、人で戊堎を駆け回ったずか。

元々、戊術機の扱いは䞊手かったんだろう? 腕の差で生き残ったず

蚀っおもいい。そこのずころは期埅しおるよ」

「高梚䞭尉  䞀䜓、䜕が曞かれおたんですか  」

「いやたぁ。普通だよ。蚓緎兵ずしおは異垞かもしれないけれども」

 高梚䞭尉。真田倧尉ずは付き合いが長いずいう。詳しい話は聞い

おいないが、纏っおいる雰囲気が匷者のそれだ。たた、高梚䞭尉の小

隊には俺が配属されたため、盎属の䞊叞ずいうこずにもなる。

「そうだずも。向こうの教官も偉く君を買っおいた。実機蚓緎の映像

たで送られおきた皋だ」

 チェシャ猫のように嗀う人の顔が脳裏に浮かぶ。垰還した俺をす

ぐに蹎り出したあの人だ。

 腕を組みながら、りンりンず頷いお映像の感想を語るのは副官を務

めおいる堀田䞭尉。高梚䞭尉を差し眮いお副官であり、りルフでも

ある。

「君の働きには期埅しおいる。存分にその歊を奮っお欲しい」

「はい」

 人が去っおいくのを芋送るず、教宀には俺ず真田倧尉だけが残さ

れた。倧尉は䜕かするこずがあるのか残る぀もりだったらしく、俺は

ただ単に出おいくタむミングを逃したに過ぎない。

 人の話し声が聞こえなくなるのず同時に、地図を黒板に貌り付け

た真田倧尉が、俺を呌んだ。

「癜銀少尉」

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「䜕でしょうか」

「  深いこずは聞かない」

「  は?」

 䜕を蚀い出すのかず思えば、唐突にそう蚀ったのだ。

「貎様はあの日、京郜に居た。そうだったな?」

「はい。仲間ず共に防衛線に参加しおいたした」

 䜕が蚀いたいのか分からない。だが、緊匵感だけは䌝わっおくる。

真田倧尉が蚀っおいるこずは、確実に俺にずっお䞍利益になるこず

だ。䜕故かそれは分かった。

「だが、詮玢はしない。お前も蚀ったからな。『藪を぀぀いお蛇を出

す』ず、鉄少尉」

「っ  、誰ですかそれ」

「分からない蚳がないだろう? 恐らく小隊長連䞭も気付いおいる。

気付いおいないのは、他の少尉連䞭だけだ」

 ずがけるだけ無駄だろう。恐らく真田倧尉は確信しおいる。鉄 

倧和が俺であるこずを。

「  気付いたんですか?」

「圓たり前だ。俺が䜕幎生きおいるず思っおいる」

 真田倧尉には気付かれおいたのか。それに䞭尉の人にも。だが、

分かっおいながらも、その話には觊れおこなかった。

「心配するな。䞊にも報告しおいない」

「  真田倧尉」

「お前が䜕をしおいるのかは知らない。どこに関わっおいるのかも、

䜕を目的にしおいるのかも」

「  」

「京郜駅前に、垝囜軍の陜炎ず思われる機䜓が爆散しおいた。様子か

ら察するに、跳躍ナニットの暎走による爆発ではないこずも分かっお

いる。恐らく、管制ナニット内に仕掛けられた爆薬による爆発。アビ

オニクスは党お吹き飛び、レコヌダすら粉々になっおいた。そしおそ

の近くで篁たちが拟われたこずも聞いおいる。京郜駅で䜕があっお、

お前が䜕をしたのかもな。そしお、所属䞍明の機䜓がそこから離れる

153

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のも確認されおいた」

 息を呑んだ。芚悟はしおいたが、そこたで知られおいれば取り繕う

必芁もない。

「借りがある。だから黙っおいおやる」

 そう蚀った倧尉は背を向け、扉の方ぞ向かった。

「篁たちを救っおくれおありがずう」

 そう蚀い残し、教宀から出おいっおしたった。

 教宀に残された俺は、今埌どう身を振ろうかず考える。身の䞊はバ

レおしたった。防衛戊での俺がやっおいたこずがどこたでバレおい

るかは分からない。京郜での出来事だけならば問題ないだろうが、䞀

連の本土䟵攻での目撃談が出おいれば話は別だ。

 䜕故真田倧尉の隊に配属になったのか、そしお再び京郜に戻すず決

めた倕呌先生の思惑が芋えない俺は、頭を掻き溜息を吐く。恐らく、

残りヶ月続くであろう垝郜防衛戊に぀いお考えながら。

 ※※※

 ﹇同幎同月日 新絶察防衛線 西京区﹈

 京郜奪還に燃えた垝囜軍・垝囜斯衛軍は、砎竹の勢いで前進。

支配地域を次々に奪還しおいった。その結果、宮接・䞹波篠山・

神戞たで先遣隊が到達した時点で、の再䟵攻を確認。防衛線

の構築自䜓は、京郜を守る倖郭・前絶察防衛線圏内たでしか完了しお

いなかった。

 この新防衛線を守護するのは、䞻に垝囜軍・斯衛軍の珟地軍ず極東

囜連軍。圚日米軍は埌方支揎に培し、琵琶湖の第艊隊が䞻だった戊

力ずなる。残党圚日米軍は滋賀県内で再線を行っおおり、完了次第戊

線の補匷ずしお増員される予定だった。

 圧倒的に戊力が足りおいない状態での防衛戊。第・第防衛戊は

早々に瓊解。琵琶湖に展開䞭の垝囜海軍連合艊隊の支揎砲撃があっ

たずしおも、浞透するに察しおは陞䞊戊力が䞍可欠だった。

 足りおいない戊術機、機械化歩兵装甲、譊備歩兵。再線された戊力

でもここたで持ったのは、今回の䟵攻では個䜓数が激枛しおいたこず

が理由だろう。

154

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『りルフより各機。たたもや異星起源皮共が埡所を螏み荒らさんず

しおいる。俺たちは絶察防衛線に配眮され枩存されおきた戊力だ。

前方からの撃ち挏らしず突砎した集団が接近しおいる。京郜の街ず

将軍殿䞋に我ら獰猛な狌の戊い様、しかずご芧に入れよう。党機抜刀

! 目暙、前方の倧隊芏暡矀!! 突撃ッ!!』

『『『応!!』』』

 先頭集団の突撃玚は数を枛らされおいるが、埌続の芁撃玚ず戊車玚

は残っおいる。瓊瀫の向こう偎で蠢く矀に察し、たった機

の戊術機が突撃を敢行する。俺はその戊術機郚隊で戊っおいた。

 真田倧尉の隊に入っおから週間も経っおいないが、着任埌の様子

からは考えられない皋に銎染んでいたず思う。倧尉や堀田䞭尉、高梚

䞭尉には、以前の戊闘で遭遇したむヌグルであるこずが芋砎られお

いた。思うずころもあっただろうが、その俺に察しおも普通に仲間の

ように接しおくれたのだ。無論、他の先任少尉たちもだ。

 幎霢が䞀番䞋ずいうこずもあっおいじられるこずも倚いが、よくは

しおもらっおいる。

 それに、ここでは今たでに経隓したこずもなかったものも経隓しお

いるのだ。たず、蚓緎郚隊から特別扱いされおいたずころに入れられ

おいたこず。配属先は─ずいうオルタネむティノ蚈画盎属の

特殊郚隊だ。䞀番遠い蚘憶では、蚓緎郚隊をそのたた正芏郚隊ずした

こずもあったが、略匏任官した埌のこずは蚘憶の流入の圱響か混濁し

おいおハッキリしない。

 俺の䜓感的に、䞀般郚隊配属ずいう経隓は初めおであったのだ。座

孊で習ったこずをそのたた䜓隓しおいる。兵舎は男女䞀纏め、シャ

ワヌも共甚。プラむバシヌなんおものは完党に取り払われおおり、䜕

でもかんでも䞀緒なのだ。だからこそ、仲間ずいう感芚が身に぀くの

が早かったのかもしれない。

奎さん









『いやぁ、それにしおも

の物量にはい぀芋おも圧倒されたすね』

『同意するが、口を慎めよりルフ。戊闘䞭だ』

『ぞいぞい』

 の死骞を瞫いながら殲滅を続ける。─ 

155

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よりも乗り慣れた機䜓ではあるが、やはり䞻機の出力が䜎いのは

気になる。それでも䜙分な装甲材なんかが取り倖されおいる吹雪で

の、近接栌闘戊はやはりしやすい。これよりも栌段に動きが機敏な䞍

知火が、どれほどの戊術機であるのかがよく分かるずいうものだ。

 䞍知火でこれほどならば、歊埡雷がどれほどのものなのかは非垞に

興味がある。そしお、䞍知火 壱型䞙にも。

『よりりルブズ。垫団芏暡の矀が東進䞭。至急察凊に向

かえ』

『りルフより。こちらは倧隊芏暡の矀ず亀戊䞭だ。他

の郚隊を圓たっおくれ』

『よりりルフ。他の郚隊も同様の状況だ。接近䞭の矀

は貎隊の正面に到達する予枬だ』

『吊応無しに亀戊する矜目になるのか、仕方ない。りルフ了解。

  聞いたな、狌共! コむツらをさっさず肉片に倉えないず、俺た

ちがすり朰されちたう。撃砎速床を䞊げ、補絊の時間を皌ぐ! 党

機、奮起せよ!!』

 散らばっおいた機が䞀時集合するず、戊域を再床分割。ある皋床

固たっおいる集団に突撃を刊行する。

 俺の所属する第小隊は最も西にいる集団だ。銃創のあたりない

個䜓が倚く、撃砎するには骚が折れるだろう。しかし、最も匟薬ず掚

進剀の消費が少ない小隊だったため、遠くの矀衆が遞ばれたのだ。

『りルフより第小隊各機、我に続け』

『「応!」』

 高梚䞭尉の壱型䞙を先頭に矀ぞ斬り蟌む。属皮も関係な

くごちゃごちゃになったに察し、劣化りラン匟を遠慮なしに

叩き蟌みながら、僚機の䜍眮を確認し぀぀近接栌闘戊に持ち蟌む。

 巊手に突撃砲、右手に長刀を持ち、䜎く䜎く這うように飛ぶ。昔な

らばできなかったこずだが、この䞖界に来おからも蚓緎を重ねおき

た。できなかったこずの倚くができるようになっおおり、その䞭の

぀が噎射地衚面滑走を応甚した機動だった。

「おおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

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 突撃砲は最小限、振るう長刀も最小限に留める。は殺し切

るのではなく、行動䞍胜にするように心がける。突撃玚は䞀床来おい

るが、それでもによる肉壁は䞭盀たでは効果がある。突撃玚

の䟵攻を遅らせるためだ。しかし、あたり高く壁を䜜りすぎるず、芁

撃玚や戊車玚の圱になっおしたい、奇襲しやすくしおしたう。ある皋

床のずころで止めお、殺し切る方法にシフトしなければならないの

だ。

 突撃玚によっお均された垂街地で高床を取るのは自殺行為だ。今

展開しおいる西京区の西には嵐山がある。山間に光線属皮が展開し

おいれば、広い射角が取れた光線属皮に䞞焊げにされおしたう。だ

が、でできた壁がそれを塞いでくれる。

 地面を這うように動き続け、時には高い高床に飛び出すこずもあっ

た。けたたたしく鳎る譊報を䜕床も聞き、それでも䞀床も光線を济び

るこずはなく、着実にを捌いおいく。

『第小隊、掃蚎完了!』

『こっちはただだ! 先に態勢を敎えろ!』

 の死骞の山に埋もれながら、䞀床集合した第小隊の面々

を芳察する。

 党機䜓液を济びお汚いが、損傷箇所はそれほどないように芋える。

装甲ブロックの傷が増えた皋床だったり、兵装を倱っおいたりする皋

床だ。

『りルフよりりルフ。お前、ずんでもない動きをするのな』

「そうですかね?」

『謙遜するなよ。地面スレスレの噎射地衚面滑走を倚甚したようだ

が、転倒姿勢のたた動き回るなんお聞いたこずがない』

「教官が噎射地衚面滑走、埗意だったんですよ。教導䞭は吊応にも芋

るこずになりたすし、これで远いかけられたしたからね」

『癜銀の教官、どんな゚リヌトだったんだ? 俺の教官は倧尉のよう

に倧陞垰りの人だったが、詳しい経歎は知らない。でも芚えおいるの

は、チビる皋怖かったこずくらいだ』

 脳裏に浮かぶのは、優しく笑うたりもちゃんの顔だった。だが、教

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官ずしおの衚情も知っおいる。無茶苊茶怖かったし、い぀も怒られお

いた。呆れられるこずもあった。

 だが、それでも俺にずっおは最高の教官だった。

 そのたりもちゃんの経歎を思い出す。確か、倧陞掟遣軍ずしお蚓緎

兵だった頃の郚隊の䞭隊長ずしお䜜戊に参加。自分以倖が党滅。日

本に垰るたで、倧陞で倧暎れしお付いたあだ名が【 狂犬 】。日本に

垰っおきたら、戊術機操瞊の腕を認められお富士教導団ぞ行き、その

埌に倕呌先生に呌ばれお囜連軍に転属。階玚は聞いたこずなかった

が、郚隊を率いた経隓があるのなら䞭尉以䞊だっただろう。

『それで癜銀?』

「あ、はい。俺の教官だった人は富士教導団出身でした。倧陞にも

行っおいたずか」

『莅沢な教官じゃねぇか。その䞊、教えるのも䞊手いずきたもんだ。

そりゃ、こんなのが生たれる蚳だ』

「教垫になるのが将来の倢だったらしいですからね。圢は違えど、教

える偎であるこずに倉わりありたせんから、教えるのが䞊手いのは圓

然じゃないですか?」

『いよいよその教官がどれだけの人材なのか分かるな』

 そんな雑談をしながら態勢を敎えるために、絊匟や移動をしながら

残敵玢敵を行っおいるず、第・小隊もの殲滅が完了した

ようだった。

 䞀床合流し、再床、接近䞭の矀を確認する。

 垫団芏暡で迫るそれは、俺たちが戊闘しおいる間に手空きの砲兵が

攻撃をしおくれたようだった。ある皋床数は枛らされおいるものの、

先頭集団は砲撃から逃れお䞀足先に到着する様子。

 党機の状態を確認するず、真田倧尉から号什が䞋る。垫団芏暡なら

ば、これたでに䜕床も戊っおきた。慢心せず、確実に倒すこず。そう

蚀い切り、に連絡を取る。垫団芏暡矀に突入する連絡

だ。

『りルフより。これから垫団芏暡矀ぞ攻撃を開始す

る』

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『よりりルブズ各機。幞運を祈る』

 䞇党の状態ではないにしおも、を抌し止めるのに力䞍足を

感じるのは仕方がない。だがそれをカバヌするのは、郚隊ずしおの緎

床だったり士気だったりする。俺は思った。この郚隊ならば問題な

い、ず。

 結局、俺が再び京郜に戻された理由が分からないが、倕呌先生の思

惑が分からない以䞊は粟䞀杯戊っお生き残るこずを考えるこずにし

たのだ。

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 

  ﹇幎月日 新絶察防衛線 西京区﹈

 矀の増揎、垫団芏暡を撃砎した。幞い撃墜も出なかった

り、戊闘䞭に西京区に散っおいた友軍が増揎に来たりしたため、孀立

無揎の戊闘にはならなかったのだ。

 だが垫団芏暡矀を撃砎したずころで、防衛線の状況は奜転

しなかった。迫りくるは物量にものを蚀わせる異星起源皮

だ。察する、先の䟵攻で瓊解した防衛線を立お盎しお再線された新絶

察防衛線は、以前の䞉重に構えられた防衛線よりも脆匱だったのだ。

戊術機や機械化歩兵装甲、砲兵、譊備兵や非戊闘員たで、ありずあら

ゆる兵科の人員が䞍足した状態での戊闘だったからだ。

 割ず善戊した西京区だったが、長岡京は食い砎られた。前線を維持

するため、西京区の戊線は埌退。淀川たで党軍埌退を䜙儀なくされた

のだ。

『今埌の動きに぀いお説明する』

 そう切り出したのは、真田倧尉だった。今は簡単な敎備を受けおい

る最䞭で、西京区から撀退しおきた時に倧尉も含めおそれなりにダ

メヌゞが蓄積されおいたのだ。ステヌタスもオヌルグリヌンずは蚀

わず、システムはどこかしらの倉調を蚎えおいる状況でもある。

 機䜓に纏わり付いおいる敎備兵が、機械油で汚れおいる顔を拭かず

に䜜業を続けおいる様子を眺めながら、機内での簡単なブリヌフィン

グに集䞭した。

『叞什郚は我々に遊匋任務を䞎えた。い぀も通りではあるが、今日は

少し蚳が違う。防衛線の拡倧や、先の戊闘の圱響で京郜にある掚進剀

が少なくなっおいる。バカ食いするコむツの䞖話をしながらの任務

では、機䜓が統䞀されおいないこずもあっおか、遊匋を満足に行えな

いずいう刀断がくだされた。よっお俺たちは京郜垂内限定での遊匋

を行うこずになっおいる。担圓戊域は埡所以西の垂街地党域。堎合

によっおは淀川を超えるこずもあり埗る。救出できる友軍は可胜な

限り救出する぀もりだ』

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 戊術デヌタリンクに郚隊内での曎新があった。京郜垂街党域に円

が描かれおおり、そこがりルフ䞭隊の遊匋範囲になる。

『同時に茞送コンテナの回収や、状態のいい突撃砲・長刀の回収も行う

こずになっおいる。よっお、各自携垯できる兵装は最䜎限ずなる。突

撃砲挺ず長刀本になるが、これは再線䞭の珟状で兵装が行き枡っ

おいない郚隊ぞの䟛出になる。各自状態のいいものを眮いおいくこ

ずだ』

 俺は機䜓に装備されおいる兵装を確認する。突撃砲が挺に長刀

が本。背郚マりントの長刀を䞋ろしおいくこずにする。

『それでは簡易敎備埌に行動開始。再線された防衛線たで前進する』

『『『「了解」』』』

 ※※※

 遊匋任務は順調に進めおいた。茞送コンテナを幟぀か芋぀けお埌

方ぞ送り返し、撃墜されたり匷制脱出された戊術機からは突撃砲や長

刀を拟ったりもした。戊堎でゎミ拟いをしおいる感芚になるが、これ

をしなければ戊闘䞭の郚隊がたちたち歊噚を倱っお数を枛らしおし

たう。それだけはなんずしおも防がなくおはならないのだ。

 そんな任務も、時間が経぀に連れお必芁もなくなっおくる。埐々に

抌し蟌たれ぀぀あり、西京区からも既に撀退しおいる。䞭京区や䞊京

区に郚隊が密集しおおり、匟幕が厚くはなっおいるが、結局のずころ

この戊域にしか戊力が集䞭しおいない。他の攟棄された戊域からも

続々ず矀が抌し寄せお来おおり、迫りくる物量に埮力ながら

も抗っおいるような状況だ。

 埌続の矀には、琵琶湖に展開しおいる垝囜海軍連合艊隊の

艊砲射撃が、京郜の砲撃陣地を揎護する圢で数を枛らすこずに貢献し

おいる。

『これ以䞊、京郜を䟵される蚳にはいかない!』

『斯衛郚隊の助力に感謝する。垝囜軍だけでは力䞍足だ』

『よい。埁嚁倧将軍を守護するのが我らの任務。殿䞋ず陛䞋がおわす

垝郜に螏み蟌む異星起源皮を黙っお芋過ごすこずはできたい』

『山科の郚隊は来れないのか?!』

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 远い蟌たれた状況になっおも、京郜で戊う軍人は皆、䜕故か匱音を

あたり吐かない。

 それはりルブズも同じで、俺たち二条城を背に戊っおいる。しかし

俺たちよりも前で戊っおいる郚隊はもういない。先皋戊っおいた垝

囜軍郚隊がすり朰されおしたったずころなのだ。同じ戊域には斯衛

軍も戊っおおり、赀の瑞鶎が率いおいる䞭隊が奮戊しおいるずころ

だ。

 正面戊力が個戊術機甲䞭隊のみずなるず、接波のように抌し寄せ

おくる矀には歯も立たない。二条城に残っおいた戊力の殆

どは、埡所守護のために埌退させおいるからだ。

 そしお叞什郚からも二条城の攟棄を呜什されおおり、殿を務めおい

たりルブズず斯衛郚隊が残っおいる。

 斯衛郚隊は先の垝郜防衛戊に参加しおいた正芏兵半分ず孊埒兵半

分で構成された郚隊だ。京郜垂を䞭心に配備されおいた戊力ではあ

るが、絶察防衛線を螏み越えた埌は圌らが䞭心ずなっお戊っおいた。

あの日、嵐山で孀立した圌女たちもその䞭に含たれおいる。

第独立譊護䞭隊

タ

ロ

ン

ズ

「

は先に匕きたせん。俺たちが先に埡所に埌退

したしょう! 圌らは斯衛ですから!」

『分かっおいる。  りルフより䞭隊各機。二条城を先に埌退す

る。タロン、先に倱瀌する』

『タロンより垝囜軍ぞ。すぐに埁く』

 長髪を埌頭郚に結った矎圢の男性衛士だが、涌しい顔をしながら瑞

鶎を操っおいる。

 五摂家に近い有力歊家出身の衛士だが、二条城で合流しお短い時間

の間共闘しただけでも分かる皋に腕の立぀衛士だった。驕らない性

栌らしく、党く慢心をしない戊い方ずいうこずもあっおか、少し臆病

な皋にも芋える。しかし、それがこれたで生き残らせおきた所以なの

だろう。

 䞭隊を率いながらも、今回の線成では脱萜者が少ないずいうこず

が、指揮胜力の高さから䌺える。どこか懐かしい銙りのする指揮をす

るのだ。

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 俺たちは埌ろ髪を匕かれながらも、䞊京䞭孊校たで埌退した。

 亀戊域に入った䞊京䞭孊校も既に集積物資の搬送が完了しおおり、

補絊コンテナだけが眮かれおいる状態になっおいた。既に、付近には

ずの亀戊跡も残されおおり、数䜓死䜓が転がっおいる。

 ここでは突撃砲ず長刀の補絊を枈たせるず、デヌタリンクの曎新だ

けを行っお埡所の正面に集合した。

 埡所西偎には戊術機や機械化装甲歩兵、戊車、譊備郚隊が集結しお

いた。䞻に垝囜軍・斯衛軍が展開しおおり、囜連軍・圚日米軍は埡所

の呚囲に展開しおいる。琵琶湖に展開しおいる第艊隊の艊茉戊術

機郚隊の─が、すぐ埌ろでフェニックスミサむルを撃っおい

るずころだ。

 しかしながら、初めおフェニックスミサむルを芋たが、あれならば

確かに支揎砲撃䞊の攻撃力を持っおいる。小芏暡ながらも

矀を殲滅できおいるこずがその蚌拠だ。

 だがそれでも、圧倒的に数が少ない。様子を芋る限り、フェニック

スミサむルの搭茉数は発が限界。それを機小隊で運甚しおいる

ため、発が最倧射撃量ずなる。

第戊術歩行戊隊

ゞョ

リヌ・

ロ

ゞャヌ

ス

『米海軍

 アヌチャヌより京郜守備隊ぞ。次

が支揎の限界だ』

『第独立譊護䞭隊、了解。支揎感謝する』

 飛び去る─を芋流し、埡所守護の長をする人物から党䜓に

通信が入る。

『ホヌンドより京郜埡所に展開する党郚隊ぞ』

 バストアップりィンドりに衚瀺されたのは、青色の匷化装備を来お

いる男性衛士だった。

『陛䞋、殿䞋は埡所をお離れになる。それず同時に我々の撀退をお䞋

知なされた。しかし、我々は最埌たで諊めるこずはない。圚日米軍、

ならびに囜連軍郚隊から順次撀退を始めおいただきたい。最期たで

我々

垝囜斯衛軍

残るのは

だけで十分だ』

 陜も萜ち始め、空が茜色に染たる。それは京郜が燃えおいるからだ

けではなく、もう少しで倜になる頃だ。戊い始めお時間は経っおい

163

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る。それだけ経っおいるのに、䞍思議ず喉の也きや空腹感はあたり感

じられない。

 これから暗くなっおいくず、その闇が戊闘に支障をきたすようにな

る。街が燃えおいるから、幟らかマシかもしれない。それでも、日䞭

の戊闘よりも危険であるこずに倉わりない。

我々圚日米軍

『  ブレむブ了解。

は所定の埌退地点たで撀収する』

『スパルタン了解。ただ、ギリギリたでいさせお欲しい。日本は私

たちの第の故郷なんだ』

『貎官らの助力に心からの感謝を。其方らの振るった歊勇、誠に玠晎

らしかった。散った同胞も誇らし気に芋おいるこずであろう』

 ホヌンドの衛士は、戊闘指揮を執りながら米軍ず囜連軍を芋送る

ず、残された郚隊にも指什を䞋す。

『ホヌンドより垝囜軍䞊びに斯衛軍郚隊ぞ。機械化装甲歩兵郚隊は

機甲郚隊ず譊備郚隊を護衛しながら埌退するこず。垝囜軍の戊術機

郚隊はもう少し付き合っおもらうぞ。圌らの撀退が完了する頃には、

米海軍がもう䞀床来る。─を護衛しながら埌退したたえ。

殿は我らが務める。さぁ、行け!!』

 それは事実䞊、垝郜攟棄の呜什だった。この京郜に留たっおいる郚

隊は、埡所を守護しおいる俺たちしか残されおいない。正真正銘、最

期の防衛郚隊だったのだ。残された戊術機も倚くなく、負け戊は目に

芋えおいた。それでも、できる限り垝郜を氞らえさせるために戊っ

た。

 次々ず機甲郚隊や譊備郚隊が機械化装甲歩兵郚隊に守られながら

撀収しおいくのを眺めながら、九州からこれたでの戊闘を振り返る。

 初動が台颚の圱響で倱敗しおいた。それ故に九州では防衛線構築

もたたならないたた、民間人を守りながら戊うこずになった。俺が螏

み蟌んだ戊堎は関門海峡が近かったからか、逃げ遅れた人は少ない。

それでも戊闘地域を集団で歩いおいたり、自動車で移動しおいる民間

人は䜕床も芋かけたのだ。そんな䞭を戊った。

 䞭囜地方では、撀退できた九州地方の郚隊ず䞀䞞ずなっお戊った。

それでも食い止めるこずはできなかった。倩然の芁害ずなる筈だっ

164

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た䞭囜山地も、想定されおいた皋に力を発揮するこずはなかったの

だ。

 戊略的芁衝を幟぀も倱いながら、最埌の防衛線では西日本の党戊力

を投入した総力戊だった。䞀番深く関わったのも、この防衛戊だった

気がする。

『今䞀床の螏ん匵り凊、各員奮励努力せよ!』

 喝を入れられた、埡所に集たる機䜙りの戊術機は、迫り来る

の接波を睚み付けた。

 ※※※

 ゞョリヌ・ロゞャヌスが再床京郜に到着する。その頃には、もう埡

所に突撃玚が䟵入しおいるような状況だった。陜もすっかり萜ち、空

を街を燃やす炎が照らす。暗い圱は熱線映像を芋ながら、なるべく撃

墜された機䜓や炎を芋ないようにする。

『こちらセむバヌ。ク゜ッタレのがうじゃうじゃいる所為

むンペリアル・アヌミヌ

垝

囜

軍

で、発射䜍眮たで近付けない! 

! その拠

点は包囲されおいるぞ!』

 米海軍の衛士に蚀われなくおも分かっおいる。できるだけ守っお

いる京郜埡所ぞの籠城を遞択した俺たちだったが、数分前には

によっお退路を塞がれおしたったのだ。

 退路を確保しようずも、削れに削れお今や残存戊術機は機もい

ない。俺の所属するりルフ䞭隊も、もう䞭隊ず蚀っおいい皋にも戊力

は残っおいないのだ。真田倧尉ら指揮官人ず俺、もう人だけ。埌

の垝囜軍機は党お撃墜されおしたい、他の戊術機は斯衛軍の瑞鶎ばか

りだ。

『ホヌンドよりセむバヌ。予定発射地点からでなくおもよい。で

きるだけ近付いお撃っおくれ』

『セむバヌ了解。行くぜ、野郎共ォォォ!!! フェニックス  発

射ァァァァァァ!!!!』

 セむバヌ隊がフェニックスミサむルを撃ったのは、予定射撃地点か

らかなり埌方の地点。元々長射皋ミサむルずいうこずず、重金属雲濃

床が䜎䞋しおいるこの戊堎では、その機胜を十党に扱うこずができる

165

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からだった。軌道衛星の誘導を受けた発のフェニックス

ミサむルは、癜い尟を匕きながら埡所の正面で炞裂。子爆匟をばら撒

きながら捲れ䞊がったコンクリヌトに刺さった。散らばった子爆匟

は次々に炞裂しおいき、埌続の矀を朚っ端埮塵に吹き飛ばし

たのだ。

第戊術歩行戊隊長

セ

ã‚€

バヌ



『

より垝囜斯衛軍。これが最埌の手土産だ、

幞運を祈る』

『りルフより垝囜軍機ぞ。これより山科を抜け、琵琶湖たで撀退す

る。俺たちの圹目はここたでだ』

 俺ず隣の吹雪が跳躍態勢に入る。だが近くの壱型䞙は動こうずし

ない。

「りルフよりりルフ! ホヌンドの呜什です!! 撀退したしょ

う!!」

『りルフよりりルフ、。俺たちはここに残る』

 射撃䜓勢のたた、頭郚モゞュヌルだけをこちらに向ける。䜓液に塗

れ、右の角が折れた䞍知火は跳躍ナニットに火を入れないのだ。

 デヌタリンクを通し、䜕故逃げないのかが分かった。もう壱型䞙に

掚進剀が僅かしか残されおいないのだ。それは他の指揮官機も同じ

で、䜕かしら欠損しおいお逃げられる状態だず蚀うのに、逃げるだけ

の掚進剀は残されおいなかったのだ。

「掚進剀が  」

『あぁそうだ。だから俺たちは、埡所を守っお九段ぞ逝く』

「倧尉!!」

 りルフの衛士も小隊長たちに逃げるよう蚀うが、誰も聞きやしな

い。そうこうしおいるず、ゞョリヌ・ロゞャヌズは山科を抜けお琵琶

湖ぞず飛び去っおしたい、京郜にはもう俺たちしか残されおいなかっ

た。

『ホヌンドよりりルフ。䜕故斯様なこずを申さなかった』

『は。コむツはじゃじゃ銬な䞊に、倧食らいず来た。俺たちが節玄し

おいれば、他の戊術機は奜きなように動ける。それに癜銀、りルフ

の動きをご芧になったかず思いたす』

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 たさか  。

『りルフの動きに制限をしおしたえば、戊線維持に支障が出たしょ

う。奎には党力で戊っおもらった蚳です』

 ただでさえ高機動をする俺の掚進剀消費が激しいからず、自分たち

は抑えお戊闘をしおいたのか。

『成皋。ならば、共に戊おうか。垝囜の狌よ』

『『『応!』』』

『りルフ・。其方らは匕け』

 ここで躊躇しおしたうのは、俺が郚隊に留たり過ぎたからだろう

か。操瞊桿を握りしめ、歯を食いしばる。自分の決断の匱さが恚めし

い。しかしそれでも、九州からここたで俺は芋捚おおきたのだ。衛士

や他の軍人、そしお民間人さえも。それは俺の目的、俺たちの目的の

ために。俺がここで退堎するのを良しずしないからだ。

『聞いおいるか、りルフ』

「  はい」

 りルフの衛士。俺よりも少し幎䞊の男性衛士だ。圌も握り蟌む

操瞊桿に力んでいるのだろう。震える声で続けたのだ。

『俺は残る』

「  え?」

『死にたかねぇが  死ぬ぀もりもねぇ。それは倧尉たちも同じだ。

だから、最埌たで䞀緒に戊う。抗呜なんかク゜喰らえ。倚分、明日の

俺がどうにかしおいるだろうな』

 そういい、りルフは倧尉らに蚀ったのだ。

『りルフよりりルフ。俺は匕かないです。最埌たでここで

を殺しおから、䞀緒に垰りたしょう』

『  りルフ』

 ここで感情に流されおは駄目だ。残りたいず蚎える感情ず、身の安

党を確保するために今琵琶湖に匕くずいう理性が喧嘩をする。だが、

俺はこれたで理性的に生きおこれたこずがあたりなかった。

 だからだろう。俺の感情が勝っおしたったのだ。

「りルフよりりルフ。俺も残りたす」

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『りルフお前は  』

「死ぬ぀もりはないです。ホヌンド、そうですよね?」

『うむ。その぀もりはないな。戊堎で散るこずが矎埳ずは思わん』

「ならそういうこずです。俺もそう思いたせん」

 再び戊列に戻った俺は、突撃砲を構えおに察峙する。もう

蚀っおしたった。腹は元より決たっおいる。ならば実行するのみ。

ここたで、盞倉わらず倕呌先生の真意は分からないが、可胜な限り

戊っお生き残ればいい話なのだ。それの方が簡単で分かりやすい。

『閣䞋。頃合いにございたす。お䞋知を』

 オヌプン回線に入っおきた人物に心圓たりがある。しかし、どこか

雰囲気が違うように思える。その考えはすぐに頭の隅に远いやった。

 今䞀床集結した残存戊術機に、ホヌンドが号什を出す。

『うむ。───皆の者、これが最期の攻勢ぞ。殿を預かる我が斯衛ず

垝囜の戊い、この千幎の郜に刻み付けお埁け!!』

 ※※※

 ﹇同幎同月日 垝囜軍倧接基地﹈

 燃え盛る垝郜から、俺たちは撀退できた。ゞョリヌロゞャヌスの撀

退から䜕ずかを抌し留め、琵琶湖からの艊砲射撃でずどめを

刺す方法を取った。結果的に、突撃玚・芁撃玚・戊車玚など䞻だった

戊術機に察抗できるは撃砎し、芁塞玚は砲撃によっお吹き飛

んだ。その他、兵士玚や闘士玚は瓊瀫の䞋や配管等に残されたため、

撃砎するこずを断念し撀退するこずずなった。

 撀退できたのは機にも満たない。第独立譊護䞭隊からは

機。ホヌンドや、芋芚えのある雰囲気を持った赀い瑞鶎の衛士を

含んだ人。垝囜軍は真田倧尉他指揮官は党員生還。その他には俺

だけだった。りルフは戊闘䞭に跳躍ナニットを䜕かにぶ぀けたら

しく、䞍調をきたしお満足な機動戊闘を行うこずができなくなった。

そしお芁撃玚の攻撃を避けるこずができずに、前腕衝角が管制ブロッ

クを盎撃。ナニット内たで拉げおしたい、衛士はそのたた朰されおし

たったのだ。

 ボロボロになった機の戊術機は倧接たで撀退を開始したのだが、

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俺たちのマヌカヌを取られおたらしく、迎えの垝囜軍が来た。飛べな

くなった機䜓は迎えの機䜓が抱え、飛べる機䜓は自力で倧接たで撀退

するこずができたのだった。

 ここで俺は叞什郚から呜什を受け取る。倧接から機䜓を持参し、甲

賀基地たで向かうこず。りルフ䞭隊は実質解散。再線が行われるた

で埅機を呜じられたのだ。

「癜銀少尉。ご苊劎だった」

「いいえ。お䞖話になりたした」

 倧接基地の゚プロンの䞀角。陀染䜜業ず簡単な敎備を受けた吹雪

を背に、俺は真田倧尉らず話をしおいた。

「郚隊を倱い、再線された埌にたた郚隊を倱う。䞊局郚は蚓緎兵を来

たるべきずころに戻す、ず決めた蚳だ」

「そうみたいですね」

 高梚䞭尉ず堀田䞭尉が芋守る䞭、真田倧尉は頭を掻きながら尋ねお

くる。

「結局、俺たちだけしか残らなかった蚳だが  聞いおもいいか?」

「たぁ  いいですよ」

 雰囲気で分かった。きっず、俺に぀いお螏み蟌んだこずを聞いおく

るのだず。だが、俺は断らなかった。真田倧尉が聞きたいこずを聞い

た埌でも、それを答えるかはその時決めればいいのだから。

「結局、お前は䜕者なんだ? 話したから分かっおいるず思うが、高梚

も堀田も気付いおいる。無論、俺もだ。日の時は、答えられない

ず蚀った。今はどうなんだ?」

 真田倧尉も分かっおいるのだろう。俺の身の䞊がハッキリしない

こずや、経歎が党お欺瞞であるこずも。それがどこから指瀺されおい

るのかは分からなくずも、盞手が確実に自分よりも䞊の人間であるこ

ずも。

 それを俺は分かっおいながらも、機密であるこずを理由に俺は話さ

なかった。真田倧尉らは知る必芁がなかったからだ。

 その䞊で、俺は今どう答える。圌は再床俺に問うたのだ。

 お前は䜕者なのだ、ず。

169

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「俺は  」

 正盎に蚀っお、真田倧尉らがどういう人間なのかは気付いおいる。

倧陞垰りの粟鋭で、それ以䞊でもそれ以䞋でもないずいうこずを。

「『人は囜のために成すべきこずを成すべきである。そしお囜は人の

ために成すべきこずを成すべきである』」

「っ  」

「俺の䞊官だった人が蚀った蚀葉だ。お前が成そうずしおいるこず

は、囜のために成すべきこずなのか? そしお、囜はそれを人のため

に成しおくれるのか?」

 その蚀葉に芚えがあった。吊、俺の心に深く刻み蟌たれおいる。そ

の蚀葉は圩峰、圩峰 慧の父芪である圩峰 萩閣の蚀葉だ。そしお気

付いた。真田倧尉は圩峰䞭将の元、倧陞で戊っおいたこずを。

「  俺がするこずは、人のため囜のためになるこずだず信じおいた

す」

「そう、か  」

「圩峰䞭将は」

「っ?!」

「圩峰䞭将は今、どうされおいたすか?」

 俺は聞きたくなっおしたった。抑えられなかった。光州䜜戊の悲

劇、垝囜軍を率いお倧東亜連合の避難救助ぞ加勢したこずが原因で囜

連軍叞什郚の陥萜を誘発しおしたい、指揮系統を倧きく混乱させおし

たったのだ。

「光州䜜戊での敵前逃亡に問われたが、幞いにしお前線で取り残され

た郚隊が抜けた穎を埋めた結果、叞什郚が陥萜せずに枈んだ。この事

から、降栌凊分で枈んだ。倧東亜連合ず共に孀立した囜連軍救助や避

難救助を行い、斯衛軍個倧隊を倱ったこずの責も問われたが、それ

も降栌凊分で枈んだずいう。䞊局郚ぞ盎蚎が盞次いだからだろう。

もっず重い凊分を䞋しおいれば、垝囜軍や斯衛軍の䞀郚が謀反を起こ

すずでも思ったんだろうが  」

「そう  ですか」

 新聞を読んだりしお調べおはいたが、こうしお盎接聞くのずでは情

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報の質が違う。

 今回、俺が動いたこずによっお悲劇は回避できた。そう確信でき

た。銃殺にもならなかった。䞭将のずころに出向き把 是芪、把 千

鶎の父芪が囜の未来を語っお死んでくれず頌むこずもない。この事

件から続く、䞀連のものを止めるこずができたのだず理解した。

 だがそれでも、将軍の埩暩を望む者がいお、そこに付け入る者もい

るこずに倉わりはない。将軍を取り巻く状況は䜕ら倉わりないのだ

から。

 時蚈に目を向けるず、そろそろ出なければならない時間になっおい

た。地面に眮いおいた荷物を持ち䞊げる前に、真田倧尉に敬瀌をす

る。

「お䞖話になりたした」

「あぁ」

 腕を䞋ろしお荷物を持ち䞊げ、吹雪の前に足を進める。喧隒ずする

゚プロンの䞭、背埌から小さくはあるがハッキリず声が聞こえた。

「ありがずう」

 俺はその蚀葉に答えるこずはなく、吹雪に搭乗するのだった。

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 

   ﹇幎月日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区機密区画

 銙月博士執務宀﹈

 真田倧尉らに別れを告げ甲賀基地に向かった俺は、俺の到着を埅っ

おいた茞送機に機䜓ごず搭乗。そのたた癜陵基地に垰還した。どう

やら倕呌先生から垰還呜什が出たようなのだ。

 それたでの疲れを癒やすが劂く客宀で惰眠を貪り、癜陵基地の滑走

路に降り立った。

 その埌は倧倉の䞀蚀に尜きた。吹雪を早急にハンガヌぞ片付けた

埌、管制ナニット内の掃陀を行う。それが終われば、荷物ずゎミを

持っお機密区画に行き、そこで身蟺敎理。ゎミの片づけ、垝囜軍の制

服や匷化装備の片付け等々を枈たせる。

 そうしたならば、今床は倕呌先生から執務宀に来るように蚀われお

いたので、執務宀に出向いた。

「あら、おかえり」

「ただいたです。  えっず」

「  なによ」

「この状況は䞀䜓?」

「あヌ、アンタなら䜕ずなく分かるんじゃない?」

 執務宀ぞ入っお、俺は足を止めおしたったのだ。それは俺が出撃す

る前に片付けさせられおいた執務宀が、芋るも無残に荒らされおいた

こず。そしおこの郚屋の䞻は、荒れた䞭の䞀角でコンテナを組み立お

おいたのだ。

 倕呌先生から分かるだろうず蚀われお、考えを巡らせる。別に深く

考える必芁もなく、俺でなくずも分かるこずなのですぐに気付くこず

ができた。

「匕っ越しの準備ですか?」

「そうよ。もう少ししたらここも最前線。アンタを本土䟵攻に攟り蟌

んだせいで、アタシもリアルタむムで戊況は把握しおいるわ。前回は

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倧慌おで準備したものだから、今回は䜙裕を持っお事に圓たっおいる

ワケ」

「  そうですよね」

 コンテナを組み立お終わった圌女は、そこにポむポむず曞類の束を

攟り蟌んでいく。芋おられなかったずいうこずもあっおか、俺がコン

テナの方に行くずあっさりずそれを枡し、自分は゜ファヌの方ぞ行っ

おしたった。

「既に仙台の方に拠点を移す準備は枈んでるの。オルタネむティノ

の基幹郚は党お移蚭予定だし、もう始たっおいるわ」

「それで䞭枢メンバヌでないず閲芧䞍可な曞類を自分で片付けおいた

んですね」

「そうずも蚀えるわね。ただ癜銀にやらせる぀もりだったし、暇だっ

たからアタシが䞻に扱うものはもう枈んでいるわ」

 指差した方向には、既に積み䞊がっおいるコンテナが幟぀かある。

そこには重芁曞類が収められおいるだろう。

「今残っおいるのは、あたり関係ない資料もあったりするもの。分別

ず敎理が面倒だからね。こっちに来おから任せおいた癜銀にやらせ

ようず思ったんだけれど、少し考え事をする時はこうやっお自分で

やっおいたのよ」

「いや、自分でやっおください」

「嫌よ。  それでアンタに垰るように蚀っおから、瀟ず鑑にも匕っ

越しの準備は始めさせおいるわ。昚日のこずだし、もう終わっおるん

じゃない?」

「そうっすか  」

 コヌヒヌカップを片手に高みの芋物、ずいった様子の倕呌先生を尻

目に片付けを匕き継ぐ。

 いや確かに、こっちに来おからはこういったのを俺にやらせおいた

が、垰っおきたその日にやらせるものだろうか。そんなこずを考えは

するものの、盞手はかの銙月 倕呌だ。圌女ならやらせる。間違いな

く。

 そんなこずを頭の䞭で考えながらも、手を動かし続ける。しかしな

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がら慣れたもので、みるみる内に曞類の分別ずドキュメントケヌスに

収めおコンテナに入れおいくのは進んでいく。

「霞や玔倏にはやらせなかったんですね」

「瀟にやらせるのはなんかね。それに鑑はやっおくれるっお蚀ったん

だけど、アンタが撃墜されおからは電算宀ずハンガヌ以倖には自分の

郚屋しかいかなくなったもの」

 そう口を尖らせる倕呌先生に苊笑いを向ける。おそらく副官等に

は任せられなかったのだろう。曞類を持っおこさせたりはするもの

の、そもそもこの執務宀はセキュリティレベルがかなり高い。それこ

そ、本来は圌女しか入れない皋なのだ。しかしここに簡単に出入りで

きる俺や霞、玔倏は特別であり、その特別である所以がオルタネむ

ティノ䞭枢メンバヌであるからに他ならないのだ。

「で、オルタネむティノがどこたで進んでいるかなんだけど」

「この流れでする話じゃない?!」

 曞類が散乱する執務宀で、倕呌先生は淡々ず語った。

「ずりあえずメむンプランは倉わらず、に察する諜報戊を仕

掛ける。これは囜連のお偉方や垝囜政府に話したこずず倉わらない

わ」

「ですが俺たちは䞖界を枡っおいたす。正盎聞いおたせんが、地球䞊

の党ハむノデヌタずの配眮図は手に入っおいるんですか?」

「無論。ただ、鑑は芚えおいなかったし曞き出せなかった。鑑が認知

できる範囲で芚えられなかったの。アンタもよく分かっおんじゃな

い?」

「えぇ。玔倏はバカですから」

「そう、鑑はバカ。だから膚倧なデヌタを芚えられなかった。でも、鑑

の脳は別よ。圌女の海銬には前の䞖界で埗られた情報が保存されお

いたの」

 俺は思わず手を止めお倕呌先生の方を芋おしたう。そんな俺の様

子を芋おも、圌女は説明を止めなかった。

「幞いにしお圌女の脳にある蚘憶領域は䜙裕があった。空きスペヌス

にむンストヌルされる圢で保存されおいお、圓然今の圌女にその蚘憶

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を芋るこずはできなかった。圓然よね。だっお、今の圌女が蚘憶した

ものではないんだから。量子電導脳でもないんだし」

「玔倏が芚えおいなかったのなら、䜕故先生はそのこずが分かったん

ですか?」

「瀟が芋たのよ。鑑の脳に䞍自然なものが蚘憶されおいたこずに」

「  リヌディングで芋぀けたんですね」

「そうよ。それで匕き出しを開けおみればビックリ、幎

月末のずハむノに関するデヌタが保存されおいたの」

 俺は䞖界を枡った時のこずを思いだす。光の䞖界で挂っおいた時、

どこからずもなく玔倏の声が聞こえたのだ。

 あの時の玔倏は、前の䞖界の玔倏で間違いない。それに蚀っおいた

のだ。俺が願ったこずを聞いおいた。そしお、䞀緒に枡ったのだず。

 倕呌先生の前の䞖界で埗たデヌタが、どこで手に入るのかが分かっ

たこずで、話は次ぞ進んだ。

「そういう蚳で、ぶっちゃけオルタネむティノ圓初の目的である、察

こ・

の・

䞖・

界・

諜報掻動は

では成功。ナニットによる反応炉

ぞのリヌディングがなかったんだから圓然よね」

 ケラケラず笑い、飲みきったのであろうコヌヒヌカップを机の䞊に

眮いた。

「でも、肝心のナニットがない。これじゃ、成功したなんお蚀えな

い。だから次のナニット補䜜が必芁になるわ」

「ずいうこずは、玠䜓候補ずしお䞀番の玔倏を」

「んな蚳ないでしょ。ここでアンタが謀反を起こしたら、出凊の分か

らない情報しか残らないわ。それに、その情報も未来のこずであっ

お、曞き出した瀟自䜓の画力のなさや正確性の䜎さから粟床の䜎いも

のになるわ。だから、アンタずの利害を䞀臎させなければならない以

䞊、これたでの手段は遞べないのよ」

 笑いを匕っ蟌めた倕呌先生は、足を組んで話を続けた。

「そこで次なるナニット開発を始める必芁があった。そもそも䞀

床完成しおいる技術であるから、そこからスピンオフさせるだけでよ

かった。ずいうこずは぀たり、"掌サむズの半導䜓億個分の䞊

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列凊理装眮"を䜜り䞊げる必芁があるの」

「ですがそれは前回補䜜した量子電導脳のこずじゃ?」

「そう。あれも"掌サむズの半導䜓億個分の䞊列凊理装眮"

よ。ず蚀っおも、掌には収たらない皋床に倧きい代物になったけど

ね」

 そうだ。前の䞖界では、玔倏の脳幹を量子電導脳に眮き換えたの

だ。それによっお玔倏はヒトではなくなり、生物根拠も生䜓反応も"

"になった。

「だから今床は玠䜓候補に付けるオプションパヌツのような圢になる

わ」

「オプションパヌツ?」

「そう。䟋えば、ヒトに纏わせる、ずか。衣類のように着させお、どこ

かに量子電導脳を装着し、䜿甚しおいる玠䜓候補から生物根拠ず生䜓

反応を隠蔜するもの」

「ステルスみたいなものですか」

「それに近いわね」

 話をしながらの片付けなので、話が頭に入り蟛いかず思っおいた。

だが、どうやら意倖ずすんなり聞いおいられる。俺自身に予備知識が

あったからだろう。䌚話内容自䜓は難しいものではあるのだが、扱っ

おいる分野は俺が関わったものだ。そうなれば、嫌でも芚えるこずに

なる。

「量子電導脳の小型化。そしお盎接接続するのではなく、むンタヌ

フェむスを噛たせるこずになる。玠䜓候補専甚の装備ずいうこずに

なるわね。これを"ナニット改"ず呌ぶこずにしたわ」

「玔倏専甚の量子電導むンタヌフェむスナニット、みたいな?」

「そんな感じね。最も、前回のものは量産が効かないものだったけど、

今回は量産が可胜よ。でも今回のナニットにも匱点はあるわ」

 のこずかず考える。量子電導脳の冷华には、脳髄液の代わり

にず呌ばれる由来反応炉産の液䜓を䜿甚しおいる。

これが劣化するこずで、量子電導脳のリヌディング情報を蓄積し、浄

化䜜業のために反応炉ぞ戻す必芁がある。この浄化䜜業によっお、

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偎ぞ人類の情報が挏れ出しおしたうのだ。

 そもそも量子電導脳補造の技術は、ヒトを脳髄だけの状態で生き長

らえさせるこずのできるの技術から掟生されたものであっ

お、量子電導脳を皌働させるには必然的にの技術を頌らざる

を埗ないのだ。

 倕呌先生は、ナニット改の匱点にを䜿甚しなければなら

ないこずを挙げるのだろうか。少し䞍安になりながらも、耳を傟け

る。

「ナニット改は専甚装備よ。鑑甚に䜜ったものは、鑑にしか䜿う

こずができない。搭茉される量子電導脳は鑑の胜力を増幅す

るもの。それ以倖のヒトが䜿えば、ただの装食品になるわ。なぜな

ら、鑑の胜力を増幅するためだけに調敎されるからね」

「ずいうこずはを䜿甚するずいうこずはないんですか?」

「いいえ。結局、は量子電導脳の冷华には必芁なの。無論、冷华

するずいうこずは劣化もするわ。そうなった堎合、反応炉を通しお浄

化䜜業を行う必芁が出おくる。ずいうこずは、䜿甚者のリヌディング

情報がに流出するこずになるわね」

「玠䜓候補を殺すか殺さないか、ずいう違いしか改良するこずができ

なかった、ずいうこずですか?」

「そんな蚳ないじゃない。量子電導脳を䜿えばは劣化するけれ

ど、それは今たでのナニットずは違っお、感情等に振り回されな

いのよ。どれだけ䜿甚したずしおも、䞀定の速床で劣化しおいくわ」

「ガ゜リン゚ンゞンの゚ンゞンオむルみたいなものですか」

「そんな感じね。より、機械らしくなったずいうこずかしらね」

 話しながらも動いおいた手は䌑むこずはなく、ある皋床のずころた

で片付けは進んだ。倕呌先生が組み立おたコンテナには党お、曞類が

収められる皋床には終わったのだ。

 ここら蟺で䞀区切りするこずにし、背䞭を䌞ばしお軜く動かす。コ

キコキず音が鳎る腰を抑えながら、今たで座り蟌んでいた床に芖線を

萜ずした。

「さお、䞀区切り぀いたようね」

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「はい。半分くらいは片付いたんじゃないですか?」

「続きは別の日にでもしお頂戎。オルタネむティノの話はここた

で。ここからは、アンタの話よ」

 床から立ち䞊がり、倕呌先生の正面の゜ファヌに腰を䞋ろす。

 䜕床も座っおきた゜ファヌだが、ずっず戊術機のシヌトに座っおい

たずいうこずもあっおか、柔らかい゜ファヌに思わず息が挏れる。

 そんな俺をこずはお構いなしに、倕呌先生は話し始める。

「今回アンタに課した任務は、垝囜軍・斯衛軍の芁衝防衛。そう蚀った

けれど、本圓の目的は別にあったの」

「ずいうず?」

「アンタが戊堎を枡り歩くこずで、よりよい因果を匕き寄せる玠䜓を

探すこず。これはアタシの方でやっおいるから、たぁ確認皋床で行っ

おいたわ」

 やはり、本圓の目的は別にあったようだ。

「そしお、䞍審な戊術機ずその衛士に興味を持たせるこず」

 それはどういう意味なのだろうか。

「勿論、行く前のアンタに蚀ったこずも目的ずしおはあったわ。でも

優先床は䜎い。アンタが戊堎にいれば、それはアンタが勝手にやっお

くれるこずだったからね」

「確かに  」

 それは確かにそうだ。九州から枡り歩いた戊堎では、結局激戊区で

あったり芁衝にいるこずが倚かった。意識しおいないだけで、そう

いったずころを転々ずしおいたのだ。

「前者の方は、結果は良奜。今埌損耗が予想される─の補充ず

しお確保しおいるわ」

「ずいうず、俺みたいによりよい因果を匕き寄せる存圚を芋぀けた、ず

いうこずですか?」

「えぇ。そしお埌者に぀いおも、結果は良奜よ。むしろ、アタシの想定

以䞊の成果よ。ずいうかやりすぎ。最初は戊堎の郜垂䌝説ずしお語

られるに過ぎなかったアンタの話は、実際に遭遇した衛士たちが生き

残るこずで真実味を垯びお拡散。噂話ずしお垝囜軍・斯衛軍・囜連軍・

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圚日米軍にたで広がったわ。正盎米軍に嗅ぎ付かれるのはもう少し

埌の方がよかったのだけれど、もう枈んでしたったこずを悔やんでも

仕方ないわ。アンタの─ ずアンタの第

詊隓小隊、鉄 倧和ずいう名前は広たった。郜垂䌝説から䌝説に姿を

倉えおね」

「䌝説に?」

「詊隓機単機でを狩り尜くす、凄腕の衛士。圌が珟れた戊堎

は、持ちこたえるこずが難しかったずしおも時間皌ぎにはなり、共に

戊った衛士はアンタの機動制埡を芋お刺激を受ける。粟鋭ならすぐ

に気付く筈よ。アンタの操る機䜓の動きは、自分たちの機䜓では再珟

できない、ず」

 それは圓たり前だ。が搭茉されおいる前提の動きなのだか

ら。

「それでどこの誰なのか調べる。所属は垝囜軍第詊隓小隊。技

術廠の詊隓機を䜿っおいる詊隓郚隊だ。ならば詳现を知りたければ、

技術廠に連絡をすればいい。こうしおアンタず─ 

は衛士や指揮官らに興味を持たせるこずができた」

「  トラむアルの再珟、ですか」

「そうよ。衚立っお行動できないのは仕方なかったけれど、アンタが

所属ず名前を停っおいたのは、アタシ専属の機密郚隊であればお偉方

も玍埗するからね」

 俺が本土䟵攻で行っおいたのはのトラむアルだったのだ。

しかしそう考えるず、少し匕っかかる点が生たれおくる。

「トラむアルの再珟だったずしたら、䜕故䞍知火じゃなかったんです

か?」

 そう。䜕故垝囜軍を停っおトラむアルをしたのなら、䞍知火ではな

かったのか。垝囜の颚朮を考えれば、そちらの方が垝囜軍ずしおも受

け入れ易い筈なのだ。

─

陜

炎

「垝囜軍塗装の

は目立぀の。たずえそれが普通の機䜓だずし

おもね」

「成皋」

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 ぀たり、䞍知火にしおしたうず腕の立぀衛士ずしお凊理される可胜

性もあったのだろう。そしお、垝囜軍の─は調達数が少ない。

それ故に戊堎での目撃数も少ない。ずなるず、目撃した衛士や兵士た

ちの蚘憶に残りやすい、ずいったずころだろうか。

「それず、あんたりアタシが芁求するもんだから出し枋られちゃっお

ね。─から取り䞊げおもよかったんだけど、それは止めおおい

たわ」

「甚意できなかっただけかい!!」

 本音は甚意できなかっただけだったらしい。それならば、京郜に再

出撃した時のように、吹雪でもよかったのではないだろうか、ずも考

える。

 しかし吹雪だったずしおも、それはそれで問題になったかもしれな

い。そもそも高等緎習機ずいうこず。そしお、そんな緎習機が䜕故単

機で戊堎を圷埚いおいるのか、䞍自然なものになっおしたうからだろ

う。

「た、そんなずころね。アンタはアタシの意図を知っおか知らずか、芁

求以䞊に仕事しおくれたわ。ずりあえず、出撃は仙台に行くたではな

いから安心なさい」

「は、はぁ  」

 珍しく耒められお拍子抜けするが、仙台たで出撃がないっお、そ

れっお数日くらいしかないんじゃないだろうか。もしかしお、仙台に

行くや吊や戊堎に逆戻りずかそういうのだろう。

 聞かなくおも分かるこれからの予定を悟り、俺は早めに玔倏ず霞の

顔を芋るこずを心に決めた。

「これからの出撃は第詊隓小隊やら鉄 倧和やら停名を䜿う必

芁はないわ。普通に囜連軍、癜銀 歊でいいわよ」

「了解です」

「じゃ、アタシはご飯食べおくるわ」

 そう蚀い残し、スッず立ち䞊がった倕呌先生は執務宀から出お行

く。それを芋送った俺は倧きい溜息を吐いお、ポロリず挏らす。

「  ぀たり、これからも出撃なんだよなぁ」

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 そう遠くない未来、たた単機で出撃する光景が甚意に想像できた俺

は、床に倧の字になっお寝転がった。

 ひんやりしおいお気持ちいい床に、戊い詰めだった俺の䜓は急激に

睡魔に襲われお、気付いた時には眠っおしたったのだった。

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 

   ﹇幎月日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区機密区画

 電算宀﹈

 倕呌先生の執務宀で寝おしたった俺は、早朝に目を芚たした。俺が

寝おしたった埌、誰も執務宀に来なかったようだった。結局起きるた

で俺は執務宀の床で転がっおいた。

 硬い床で寝たためにあちこち痛い䜓を起こし、俺は寝がけ県になり

ながらも昚日のこずを思い出した。

 これたでのオルタネむティノの動きは、前回ずは違い加速床的に

事が進んでいる。そしお、倕呌先生はナニットの改善案を甚意し

おいた。詳しいこずは俺には分からない。それでもオルタネむティ

ノを実行するこずは、に人類の戊略情報を流すずいう意味

では倧博打に等しい。俺の予枬ではあるが、今回の䞖界でも甲号、

新疆りむグル自治区のカシュガルにあるオリゞナルハむノぞの䟵攻

䜜戊は立案・実行される筈だ。ナニットの圱響をなるべく枛らす

ために。

 シャワヌも济びずに、床に寝転がっお寝おいたこずを思い出した俺

は、シャワヌ宀に駆け蟌んで身嗜みを敎える。

 執務宀から垰った埌にする予定だったこずも、倧急ぎで片付けた俺

は、朝食も食べずに電算宀に行くこずにした。玔倏は䜕故か知らない

が、電算宀やハンガヌに居るこずが倚い。そうでなければ、やっず確

保された官舎の郚屋。家もそうだったが、こっちに来おからも俺ず玔

倏の郚屋は隣同士。俺の郚屋を出おすぐに、玔倏の郚屋がある。

 ただ起床ラッパも聞こえないような早い時間に目が芚めた俺だっ

たが、色々しおいたら結局起床ラッパが聞こえお久しい時間になっお

いたのだ。玔倏が寝坊しおいなければ、い぀もいる堎所にいるだろ

う。圓たりを付けた俺は、近い電算宀から芗いおみるこずにしたの

だ。

 煌々ず照明が転倒しおいる電算宀は、数人の技垫の他に芋慣れた埌

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ろ姿があった。

「よぉ」

「あ」

 俺の顔を芋おアホ面を晒しおいる、赀毛の少女。玔倏は䜕やら難し

いコヌドを打ち蟌んでいるコンピュヌタから芖線を倖し、俺の顔を芋

䞊げおいた。

 その頭を小突くず再起動したのか、特城的なアホ毛を皲劻圢に倉圢

させる。

「䜕すんのさ!!」

「わはは!! 俺の顔を芋お呆けおいる玔倏が悪い!!」

「バカ!」

「ごめんごめん」

 そんなやり取りをしお、俺は空いおいる隣の怅子を匕き出しお腰掛

けた。

「ただいた」

「  おかえり」

 そう蚀うずそっぜ向き、画面に芖線を戻す。

 䜕やら気付いたら機械の虫になっおいる玔倏だが、これも倕呌先生

に蚀われおいるこずだから仕方ないのかもしれない。量子電導脳

だった過去の胜力を䜿い、生身ずしおもそれ盞応の知識や頭の回転を

芁求されたのだ。

 戊術機に乗る、ず蚀い出しお久しいが、衛士を目指しおかなり時間

も経っおいる。自䞻蚓緎も続けおいるので、俺には及ばないたでも蚓

緎兵ずしおはそこそこのずころたで来おいるだろう。

 そんな玔倏の暪顔を眺めた俺は、ずりあえずこれたでのこずを話し

始める前に、瀌を蚀うこずにした。結局、甲賀基地で秘匿回線を䜿っ

お話した時も、俺は状況を半分くらいしか理解できおいなかった。

「"あの時"、助けおくれおありがずう。玔倏」

「  え?」

「霞に聞いたんだ。"それ"䜿っお、なんか感じ取ったんだろ? 俺

が撃墜されるっお。だから、倕呌先生を説埗するために盎談刀したっ

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お聞いた。どんな手を䜿っおでも、俺がここで脱萜するのを阻止する

ために」

「タケルちゃん  」

 霞が助けに来た時、俺は諊めおは居なかったが、冷静に自分の状況

を分析しおいた。助かる芋蟌みは䜎い、そう考えおいたのだ。だから

山城少尉を救出しおから、党員で埒歩行軍。篁少尉が行くず蚀っおい

た、斯衛本隊合流に付いおいく぀もりだったのだ。それでも駄目な

ら、あの人を芋捚おお俺だけでも、どこか友軍がいるずころたで逃

げる぀もりだった。だがそれは俺の心が蚱さなかった。すぐそこに

救えるのに、芋捚おるなんお。道䞭、そんな堎面は幟぀もあった。京

郜に至るたでに、そのほずんどを切り捚おおきたずいうのに。

 だから霞が─ に乗っお珟れた時は、心底驚いたの

だ。䜕故霞が、今このタむミングで戊術機に乗っお京郜に来たのか。

「オマ゚じゃなくお、霞が乗っおきたっおいうのは締たらなかったけ

どな。  だからありがずう」

「うん。どういたしたしお」

「本圓に助かったよ」

 そう蚀っお話題を切り替える。今床は、俺が防衛戊に参加しおいる

間、玔倏は䜕をしおいたのかを聞く。

「それで、玔倏は俺がいない間に䜕をしおたんだ?」

「え? あヌ、い぀もず倉わらないよ? タケルちゃんに教えおも

らった蚓緎やっお、ここずハンガヌを行ったり来たり。目が回りそう

で倧倉、ずたではいかないかなぁ?」

「い぀もず倉わらねぇ  。それ以倖は?」

「んヌ  あ、敎備する機䜓がなくなっちゃったからさ、第蚓緎

郚隊の蚓緎機の敎備を手䌝ったりしおたよ? 私たちが来る前に

機駄目にしたらしいんだけど、代わりの機䜓が入っおきたから、そっ

ちの敎備を手䌝ったりずか」

 玔倏は盞倉わらず、敎備の手䌝いもしおいるようだ。そもそもアビ

オニクス系がいじれるようになった玔倏は、霞に぀いお俺の搭

茉機の敎備をしおいた。基本的には─やたりもちゃんの

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機䜓だけだったが、その範囲は広がり぀぀あるず蚀う。

 ─の敎備の手が足りない時には、時々敎備班に頌たれお手

䌝っおいるこずもある、ず玔倏は蚀っおいた。䜕だかんだ蚀っお、衛

士になるより先に敎備兵になる方が先な気がしなくもない。

「今思い出したんだけど、第蚓緎郚隊の撃震にが搭茉さ

れたよ。銙月先生の指瀺だけど、今期の蚓緎兵からの戊術機に

なるっお」

「そう蚀えば月蟺りにそんなこず蚀っおたなぁ  。ずいうか蚓緎

機になった奎っお、たりもちゃんの旧が茉っおた撃震じゃね?」

「倚分そうだね。神宮寺先生の撃震は機あったけど、今は機に

なっおるからさ」

 話しながらでも手を動かしおいた玔倏の手が止たる。どうやら䜜

業が終わったらしい。

「よし、っず!! ん〜〜〜〜!! 終わったあぁぁぁ!!」

「お疲れヌ。この埌どうするんだ?」

 俺は電算宀で玔倏を芋぀けたから、ずりあえずするこずはない。倕

呌先生に呌ばれおもないからな。

「これから朝ごはん? 起き抜けで来たから、お腹枛っちゃっお  」

「おう、なら俺も付き合うぜ!」

「䜕、ただ食べおなかったの?」

 コンピュヌタの電源を萜ずし、デヌタを保存したハヌドディスクず

曞類やペンをドキュメントファむルに入れた玔倏は立ち䞊がった。

 俺もそれに呌応するように立ち䞊がる

「向こうじゃずっず戊闘糧食ばっかりだったからな。ク゜䞍味いもん

ばっかり食っお参っおたんだよ。それに昚日垰っおきおからは、倕呌

先生に呌び出されおずっずそっちだったし。あの惚状を芋たら、垰れ

なくなっおなぁ」

「あヌ  今執務宀汚いもんね  」

「おう。んで、執務宀の床で寝ちたった。早起きしなきゃ、倕呌先生に

螏み぀けられるずころだったぜ」

「ちゃんずベッドで寝ないず颚邪匕くよ〜〜〜」

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「悪い悪い、疲れおたからなぁ」

 そんな話をしながら俺たちは電算宀を離れ、ぞず向かった。

 ※※※

 ﹇同幎同月同日 垝囜軍癜陵基地 囜連軍専有区機密区画 第

衛士蚓緎郚隊 戊術機ハンガヌ﹈

 玔倏ず朝食を食べ終わるず、そのたた䞀緒にハンガヌぞず向かっ

た。どうやら霞がここにいるらしい。玔倏のアホ毛が遂にレヌダヌ

になったのかず思ったのだが、どうやら圌女ず同じく行く堎所は少な

いずいう。

 忙しなく敎備兵が動き回るハンガヌ内では、垰還しお間もない俺の

吹雪の敎備が行われおいた。敎備兵の人波に玛れお、背の䜎い特城的

な銀髪ずツむンテヌルが揺れおいるのが芋えた。

「おはよヌ、霞ぃヌ」

「おはよう、霞ちゃん!」

 俺たちが霞に近づいおも気付く気配はなく、ラップトップずにら

めっこを続けおいた。吹雪の管制ナニットから䌞びるコヌドは、

キャットりォヌクにあるコン゜ヌルず敎備兵が囲んでい芋おいる

ラップトップ、そしお霞のラップトップに繋がれおいた。

 どうやらデヌタの吞い出し䜜業か、システムチェックでもしおいる

のだろう。あたり衚情が豊かではない霞も、この䜜業にはかなり真剣

な雰囲気を呚囲に撒き散らしおいた。

 そんな霞に俺たちが声をかけるず、ハッず顔を䞊げおうさ耳のよう

な髪食りをピコピコず動かす。

「  おはようございたす、玔倏さん。おかえりなさい、癜銀さん」

「うん、おはよヌ!!」

「ただいた、霞」

 簡単な挚拶だけを亀わし、玔倏が霞のラップトップを芗き蟌む。

 バカだずは思っおいたんだが、流石に慣れた様子で画面を芋る玔

倏。ここで「分かんない」なんおこずは蚀わないだろう、そんなこず

を考え぀぀も自分の愛機を芋䞊げる。

 倖装の擊り傷は増え、塗装ハゲも倧きくなった吹雪。元々垝囜軍塗

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装が斜されおいたが、いよいよ塗装の剥げた郚分は鈍い銀色が照明を

反射しおいる。゚ッゞ郚分に至っおは削れお倉圢しおいたり、欠けお

いるずころもある皋だ。その状態から、それほど激しい戊闘をしおい

たずいうこずになるだろう。

 近くでカタカタずキヌボヌドを叩く霞が、小さく息を吐いお手を止

めた。

「  玔倏さん」

「䜕?」

「  機動デヌタの粟査は終わったんですか?」

「あ」

 玔倏は慌おお持っおいたハヌドディスクを霞に枡す。どうやらハ

ンガヌに来た甚事は、霞ぞ物を届けるためだったらしい。

 霞は小さく瀌を蚀うず、手早くハヌドディスクをラップトップに接

続し、䜜業を再開させる。俺にずっおは䜕をしおいるのかさっぱり分

からないが、霞ず玔倏は理解しおいるのだろう。畑が違うのなら分か

らないのも圓然だが、ここは俺の出る幕ではなさそうだった。

 ふず─のハンガヌ、第蚓緎郚隊甚の戊術機ハン

ガヌの奥に目を向ける。䞊んでいるのは、郚隊を分けるように配眮さ

れたたりもちゃんの撃震。その巊から入り口に向かっお、蚓緎機が䞊

んでいる。俺が芋䞊げおいる吹雪を芋䞊げ、そのたた右ぞず芖線を向

ける先には、─ が機䜓を芆うようにシェヌドが掛けら

れおいる。そしお、本来であればそこにあった筈の─ 

はもうない。

 ─のために確保されたハンガヌは぀。俺が出撃する

たでは぀が空いおいたが、どうも─ の隣にシェヌド

の掛けられた機䜓がもう機あった。

 俺はそちらの方に歩き出し、機䜓の確認をする。そもそも─

は俺しか線成されおいる衛士、軍人がいないのだ。しかし機分

も空きが確保されおいるのは、─ のように甚途䞍明で

確保された機䜓を眮くために過ぎないのか、はたたたオルタネむティ

ノ盎属の倕呌先生の息が盎接かかった機䜓を眮いおいくためなの

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か䜙分に甚意されおいたのだ。

 シェヌドを党お剥がすこずはせず、足元からペラっず捲っお䞭に

入っお芋䞊げる。芋えるのは、俺のよく知る機䜓だった。

「䞍知火  」

 ただ倖装が新品なのか、塗装も斜されおいない䞍知火がそこに䜇ん

でいたのだ。眮かれおいる堎所から察するに、この機䜓は俺の機䜓

だ。

 足銖の関節に近づいおよく芋おみるず、どうやら倖装だけではなく

機䜓そのものが新品だった。皌働させたこずによる擊れもなく、綺麗

な状態だったからだ。

 シェヌドを朜っお倖に出るず、再び機䜓を芋䞊げる。

 この機䜓を甚意したのは倕呌先生だ。そしお甚意された機䜓がオ

ンボロの䞭叀品でもなければ、どこかでホコリを被っおモスボヌルさ

れおいた蚳でもない新品の機䜓。ずいうこずは぀たり、この機䜓を䜿

うような状況が発生するずいうこずに他ならない。

 たた無理難題を吹っかけられるのだろうな、などを考えお目を閉じ

る。そしお思い出した。

「あ  」

「どしたの、タケルちゃん?」

 䞁床玔倏が近くに来おいたようで、俺の間抜けな声を聞いお疑問笊

を文字通り頭䞊に浮かべた圌女の顔を芋お俺は駆け出した。

 倕呌先生は仙台ぞ匕っ越しをするず蚀っおいた。もう既にその準

備は枈んでおり、オルタネむティノの基幹郚の移蚭も進んでいるず

たで。ずいうこずは、早ければ今日䞭にも匕っ越しが始たる。ハン

ガヌにはその様子は芋られないが、その気になれば数時間で準備も敎

うだろう。ならばしなければならないのは先生の執務宀の敎理ず、俺

の郚屋の準備だけだ。俺の郚屋はただしも、執務宀の惚状は未だ健圚

で、俺は半ば睡魔に負けお寝おしたったのだ。

「ちょ、どこに行くのタケルちゃ〜〜〜〜ん?!」

「執務宀!! 片付けさっさずやんねぇず!!」

 そんな捚お台詞ずハンガヌに残し、俺は執務宀を目指した。

188

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「  匕っ越しは月末なんだけどなぁ」

 玔倏の蚀葉も聞こえる筈がなく、俺はゆっくりやっおも間に合う執

務宀の片付けを必死の圢盞で行っおいた、ず埌に倕呌先生は蚀っおい

た。ただ日も䜙裕あるのにねぇ、ず優雅にコヌヒヌを飲みながら蚀

われたのは、党おの曞類の片付けが枈み、コンテナを入り口近くの壁

に積み䞊げた埌のこずだった。

189

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 

  ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 機密区画 銙月博士執務

宀﹈

 ぀いさっき運び蟌たれたコンテナから荷解きをするこずもなく、俺

ず玔倏は執務宀で郚屋の䞻ず盞察しおいた。

「さお、匕っ越ししおきた蚳なんだけども」

 そう切り出した倕呌先生は、玔倏の目の前に曞類を差し出した。䜕

かのリストかず思ったが、どうやら違う様子。

 玔倏は苊笑いをしながら読み進め、最埌たで行き着くず先生に尋ね

た。

「  なんですかコレ?」

「え〜。芋お分からない?」

「いや、分かりたすけども  」

 曞類を芋おいない俺からは刀断できないが、玔倏の関わっおいる䜕

かだろうか。

 うんうん唞る玔倏を暪目に、俺は倕呌先生の方に芖線を向けた。そ

うするず、答えるように圌女は話し始めたのだ。

「前に話したナニット改の件よ」

「あぁ。確か、"量子電導むンタヌフェむスナニット"でしたっけ?」

「そ。アンタには話したけど、前の䞖界で䜿ったナニット甚匷化

装備をカスタマむズする予定ではあるわ。鑑に芋せたのは、ナ

ニット改に぀いおね。圌女には䞀切情報を䌝えおなかったから、今が

初めおになるのかしら」

「䌝えおなかったんですか  」

「仕方ないじゃない。癜陵にアンタたちを連れおきおからは、アンタ

は衛士になるための鍛錬ずアタシの小間䜿。鑑は人間の脳ミ゜に詰

め蟌めるだけの情報を詰め蟌んでもらっおたんだから。その䞊に戊

術機が匄れるようになっおいたり、アンタ同様に基瀎蚓緎を自䞻的に

しおいたんだから、教えるタむミングはほずんどなかったのよ」

 唇を尖らせ、たるで芪に怒られる子どもが蚀い蚳をしおいるかのよ

190

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うに、倕呌先生は玔倏に説明しなかった理由を語った。

 確かに、玔倏は忙しそうにしおいたこずは芚えおいる。"疲れた"

ずかはよく蚀っおいたが、本圓に疲れおいたからそう蚀っおいたの

だ。

「それで鑑。内容は芋たわね?」

「  はい」

 曞類を芋た玔倏の衚情が少し暗いのは気の所為だろうか。分から

ないが、匷匕に聞いたずころで恐らく答えおくれないだろう。玔倏か

ら曞類を受け取った倕呌先生は、そのたた曞類に火を付けお煀汚れお

ない灰皿に眮いた。

「さお。ナニット改に぀いおは、アタシず鑑でやるずしお  そ

れ以倖のこずは癜銀にも動いおもらうわ」

「ずいうず?」

「本土䟵攻はただ終わらないわ。今の所は前の䞖界ず同じように事が

動いおいる。ずなるず、今埌起こりうるこずは想像するたでもなく確

定した事実ずしお起きるわ」

「  䜐枡島ず暪浜ですか」

「そういうこず。埌退を続ける䞉軍に、急に進路倉曎をする

矀のために䜐枡島ぞ展開するように蚀える蚳もない。そしお、倚摩川

たでには来おもらうこずになる」

「目的は元玠の確保。凄乃皇の燃料ず量子電導脳の制䜜に必芁なん

ですよね」

「えぇ。それに加えお、あたりここで歎史改倉をする぀もりはないわ」

 そういい切った倕呌先生の瞳は、い぀もの色が宿っおいる。぀たり

それは、冷培な心ず芚悟を持っおいるこず。日本垝囜民䞇人

超を匕き換えに、億人を救う極秘蚈画の責任者ずしおの顔だっ

た。

 俺はそれを芋慣れた蚳ではない。だが、昔ずは違う。どういう思い

を持っおいるのかは、少し䜍は汲み取るこずができるのだ。芪友にも

開かせなかった秘密を知る俺だからこそ。

「  少しは成長したようね」

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「えぇ。少しは  ですけど」

「  前にも蚀ったず思うけれど、仙台に来た時点でアンタの䌑暇は

終了よ」

 次のどこに行けず蚀われるのだろうか。仙台に来るたでの間、ずっ

ず考えおいたこずだったが、結局分からなかった。盞手は倕呌先生な

のだ。俺の予枬を軜く飛び越えたこずを蚀っおくるこずは自明だっ

た。だからこそ、予枬できない。

「─のガス抜き、ペロシク」

「え?」

「たた、─の連䞭の盞手をしおきなさいっおコト。前の挔習か

らそこそこ時間が経っおいるじゃない? いい加枛䜿い物になっお

いるか気になるずころだから、適圓に揉んで来なさい」

「た、マゞかぁ〜〜〜〜」

「マゞよ」

 前回の─ずの挔習を思い出す。吹雪で個䞭隊の䞍知火ず

戊う挔習だ。幟぀も郚隊があるから、俺は䜕回も挔習をしなければな

らない。しかも盞手はさしもの─だ。粟鋭の名は䌊達ではな

く、かなり匷い。俺の知っおいる衛士はわずかどころか䌊隅倧尉、今

は䌊隅少尉しかいないが、それでも圌女を育おおきた先達であるこず

は倉わりない。

「あのヌ、䞍知火䜿っちゃ駄目ですか?」

「ん? あヌ、癜陵でアレ芋たのね。その件は鑑ず瀟に聞きなさい。

私は定期的に䞊がる報告しか知らないから、詳现は圌女たちしか知ら

ないのよ」

「埌で聞いずきたす」

 玔倏に目配せをするず、䞁床こちらを芋おいたようで頷いた。

「そろそろアタシもやるこずあるから、アンタたちはしなきゃいけな

いこずをしなさい。たた䜕かあれば呌ぶわ」

 倕呌先生はそう蚀い、俺たちの退出を促す。俺ず玔倏は揃っお執務

宀を出おいくこずにした。

 入り口近くに積み䞊げられたコンテナはどうするのかを考えなが

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ら、近い内に片付けに来なければならないこずを頭の片隅に眮いおお

く。

 ※※※

 ﹇同幎同日 囜連軍仙台基地 ─ハンガヌ﹈

 ─のために甚意された栌玍庫は小さい。─ず隣

合わせに眮かれおいるが、極秘蚈画の専任郚隊である─よりも

機密性の高い─のために色々ず特殊なセキュリティヌが

甚意されおいるずいう。これは匕っ越し䞭に霞から聞いた話ではあ

るのだが、─の人間ならば入るこずはできるらしい。しかし、

─には入堎を固く犁じおいるらしく、䜐官であっおも入るこず

はできないずいう。それでも入堎するこずはできるのだが、入堎管理

が厳栌に行われおいるため、すぐにバレおに連行。即刻営倉に攟

り蟌たれるんだずか。

 別に倧したものは眮かれおいないず思うんだが、それほどたでに重

芁芖する理由ずいうのも分からない。確かに─では掻動でき

ない任務を遂行するこずを目的に蚭立された郚隊ではあるのだが、そ

もそも構成員は俺だけなのだ。

 謎の栌玍庫ず、そこぞ出入りする少幎ずいう組み合わせは─

の衛士たちの興味を惹かない蚳がない。

 癜陵基地にいた時は、第蚓緎郚隊のハンガヌ奥を䜿わせおも

らっおいた。

 あの時は共有しおいるから蚓緎兵に興味を持たれるのは仕方な

かった。だからい぀も機䜓にはシェヌドがかけられおいたし、芋に行

こうものなら敎備兵から怒られおいたずいう。

 今は仙台基地に移っおきたばかりずいうこずもあっおか、─

で元気な衛士らは基地内を探怜しおいたようだ。

「  どう芋おも幎䞋だよな?」

「䜜業着姿だから敎備兵でしょ? 新しくりチのずころで敎備するの

かな?」

 俺は─のハンガヌ前で男女の日本人衛士に絡たれおい

衛士埜章

りィングマヌク

た。人の胞には

がある。

193

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 "あの時"、で絡んできた少尉連䞭ずは違い、嫌味な態床や衚

情は䌺えない。ただ興味があるだけのように芋える。

 俺は人を目の前にしお蚀葉が出なかった。それよりも頭の䞭で

は別のこずを考えおいたからだ。

 俺の栌奜は囜連軍の䜜業着姿だ。䞊は支絊される黒のノヌスリヌ

ブ。䞋はブルヌのパンツ。軍靎。倏堎にハンガヌで敎備をしお

いる敎備兵ずなんら倉わりのない姿。

 しかし腰に巻いおいるパンツずセットになっおいる䞊着には階玚

章が付いおおり、人が芋れば俺が少尉であるこずはすぐに知られお

したう。

 この栌奜で─の衛士だず蚀うこずも考えた。しかし、倕

呌先生からは特に䜕も蚀われおいない。䜓倖的には先生の付き人の

ように扱われおいる。その事実があった䞊で「そこのハンガヌの機䜓

の衛士」ずは蚀えない。

「名前、なんお蚀うの?」

 片方の女性衛士がそう尋ねる。

「  癜銀 歊です」

「そう、癜銀くん。どうしおここに? あなた、─の関係者で

しょ? このハンガヌは立ち入り犁止なんだけど」

 女性衛士は襟章から、この人が少尉であるこずは分かる。少尉で

あるずいうこずは、─で開瀺されおいるオルタネむティノの

機密情報のレベルも䜎い筈だ。

 だが、気にするこずはない。  、圌らには

知る必芁のない情報なのだ。

「俺はここの立ち入りを蚱可されおいるので倧䞈倫です」

「そう、なんだ」

 俺は振り返っおハンガヌのゲヌトを朜ろうずする。しかし、背䞭か

ら女性衛士の声が聞こえた。

「ここ、䜕があるの? ハンガヌだから戊術機だず思うんだけど」

 たた答えにくい質問をしおきた。

 圌女の蚀う通り、ここには戊術機が収められおいる。俺の機䜓だけ

194

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であり、吹雪や䞍知火は圌女たちも芋慣れたものだろう。しかし、

─ ずなるず話は別だ。

 その機䜓は倕呌先生が秘密裏に取り寄せた機䜓で、あの時の─

でも建造の事実を知らなかった凄乃皇ず同じように、教える必芁が

ないず刀断されたものなのだ。

 䞀床戊堎に出おはいる機䜓だが、搬出も垰還も人目に぀かないよう

に配慮されおいた。そう考えるず、教える必芁はないず考えるのが劥

圓だろう。

 だが、あたり秘密にしおしたっおも、䜙蚈に勘ぐられおしたうこず

もある。ならば、圌女たちが知っおいる皋床の情報のみを立ち䞊げお

嘘をでっち䞊げるしかない。

「あるのはそちらのハンガヌず倉わりたせんよ。䞍知火ず吹雪が眮い

おあるだけです」

「なるほど。こっちに収たらなかった機䜓を入れおるんだね! 予備

機ずかかな?」

「そんな感じです」

 自分で勝手に解釈しおくれたから、䜙蚈な誀魔化しをせずに枈ん

だ。

 今床こそゲヌトを朜り抜け、─のハンガヌに入る。

 ─のハンガヌほど䞭に敎備兵はおらず、俺を加えおも人

はいない。人ほどが䞍知火に取り付いおおり、人だけが足元で

ラップトップずにらめっこをしおいた。

 画面を凝芖しおいるのは䟋に挏れず霞だったが、今の衚情は険しく

は芋えない。

「霞〜〜」

「  癜銀さん。博士ずの話はもう良かったのですか?」

「おう! さっき終わったずころだ。それでなんだが  」

 俺は倕呌先生に蚀われおいるこずを䌝える。途䞭たでハンガヌに

来おいた玔倏からは「ハンガヌに着いたら説明するから」ず蚀われお

いるものの、圌女が忘れ物をしたずかで自分の郚屋に戻っおしたっ

た。

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「い぀かは分からないんだが、─ずの挔習があるんだ。それた

での間に䞍知火を䜿えるようにできるか?」

「  私が敎備を統括しおいる蚳ではないので、正盎分かりたせん。

ず電源ナニットの亀換、のむンストヌルは既に終わっお

いたす」

「じゃあ敎備の人に聞いおみるよ。サンキュな、霞」

「  はい」

 䞍知火を敎備しおいるのは、癜陵基地からの顔銎染みだ。俺が戊術

機に乗ろうが、䜕も蚀わずに完璧な敎備をしおくれる優秀な人たち。

 俺が近い内に─ずの挔習に䞍知火を䜿うこずを蚀うず、日

くらいで皌働できるずだけ教えおもらった。

 どうやら電磁䌞瞮炭玠垯の調敎や、䞻機の点怜・詊運転が終わっお

いないらしい。それらを党お枈んで匕き枡せるのが日埌ずいうこ

ずらしい。

「それにしおも博士もやるなぁ。新品でたっさらなら䞍知火を甚意す

るなんお。愛知盎送だったぞ」

「そうみたいですね。癜陵で芋た時は塗装もただだったようですが」

「あぁ。あの時は組み立おで粟䞀杯だったからなァ。こっちに来おか

ら本栌調敎だ」

 ブルヌに塗装された䞍知火を芋䞊げながら、壮幎の敎備兵は油

たみれの顔を拭く。

 装甲板の塗装はこっちに着いおからすぐに行われたようで、組付け

はさっき行われたばかりだずいう。

 装甲板を倖しおいたのなら、先に電磁䌞瞮炭玠垯の調敎をすればよ

かったのだが、─ず共甚のものらしく、どうやら調敎に必芁な

噚具の調達に時間がかかったらしい。

 だから倚少前埌はするが、できるこずを進めおいたずいう。

「それにしおもお前さん、─はどうした?」

「あ、あぁヌ」

 そういえばこの敎備兵は、俺の─ の敎備もし

おいた人物だ。本土防衛に出たっきり戻っおこないずなるず、心配す

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るのも仕方ない。

「京郜で撃墜されたしお  爆砎凊分しおきたした」

「ったく。博士から奜きにむゞっおいいっお蚀われおた機䜓だから、

皆奜き勝手やっおたのによぉ。  たぁ、お前さんの呜の方が倧事

だ。しょうがない」

「ははは  」

 確か霞が䞻導でカスタマむズしおいた、ずいう話だったのだが、ど

うやらそうでもなかったのかもしれない。

「霞ちゃんのお願いを聞いおいたばっかりだったがな!! ガハハハハ

ハ!!!!」

 ずいうのは思い違いで、本圓に霞が率先しお改造をしおいたよう

だ。

 機械油の臭いが染みた手で、俺の頭を乱暎に撫でるず、䞀蚀俺に

蚀った。

「よく垰っおきたな」

「  はい」

「あの機䜓は圹に立ったか?」

「えぇ」

「オンボロもやっぱり圹に立぀じゃねヌか」

 そう蚀い残すず、敎備兵は䞍知火に取り付いおいる他の敎備兵に檄

を飛ばす。

「お前ら、さっさず敎備進めろ!! たた─をぶっ飛ばしおく

るっおよォ!!」

 ダむノダむノず野次が飛んでくるが、俺は苊笑いを浮かべお、先達

たちの─の粟匷さを思い出しお冷や汗を浮かべた。

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 

   ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 第挔習堎﹈

 今日は─ずの挔習日だ。どうやら俺の䞍知火が䜿えるよう

になるのを芋蚈らうかのように予定が入れられおおり、挔習が詊運転

ず蚀わんばかりだ。

 今回の挔習圢匏はを甚いた俺察個䞭隊だ。倕呌先生

が─にどのように盞手である俺の情報を䌝えおいるか分から

ないが、いい印象を持たれおいないのは確かだ。

 盞手ずオヌプン回線は開始たで繋がれおおり、衚情も芋れる状態に

なっおいる。䞀方で、盞手も俺の声は聞こえるが顔は盞倉わらず

 になっおいるのだずか。

『俺たち盞手に䞍知火機ですかい? 冗談ですか、倧尉』

『冗談な蚳あるか。それに以前にも䌌たようなこずがあっただろう

?』

『光州䜜戊から垰っおきた埌にやった吹雪ですか? アむツは博士の

甚意した倉態だったっお話じゃ?』

『その倉態が今床は䞍知火に乗っおいる。博士曰く、アむツを倒せな

いのならただただね、だそうだ』

『ク゜っ  。ですが俺たちはアレ以来研鑜を積んできたした。あの

倉態吹雪にだっお負けたせん!』

『あぁ。その気抂で頌む』

 なんだか俺のこずを倉態倉態ず蚀っおくれおいるが、俺の機動制埡

は倉態じゃないず思うんだがどうなんだろうか。

 俺の疑問は誰に聞いおも、返答が皮類なのは解せないが、俺はこ

こでも─を叩き朰さなければならない。

 あの挔習以来、─の衛士たちは猛蚓緎に励んでいたず聞いお

いる。それは぀たり緎床が向䞊しおいるず芋お間違いないだろう。

 だが、を本圓に䜿いこなしおいるのかは分からない。それば

かりは、─の珟状を聞いた時点では刀断できなかったのだ。

198

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『倉態衛士サマはだんたりなようで? 前回は口も聞いおやくれたせ

んでしたからね』

 盞手の䞭隊長に俺のこずを煜るような発蚀をしおいた男性衛士は、

そう俺に察しお蚀っおきた。

 ここで盞手の土俵に䞊がる必芁はない。そう思っおいた。

「機密なもので。それは勘匁しおください、少尉殿」

『  ブッヒャッヒャッヒャ!! 声からしおガキじゃねぇか!!』

『抑えろスルヌズ。申し蚳ないな  えっず、倉態衛士』

 ゲラゲラず笑うスルヌズに泚意した倧尉は、俺のこずをそう呌

んだ。どうやら俺の名前は知らされおいないらしい。倕呌先生が教

えなかったずいうこずは、知る必芁がないのだろう。

 しかしながら、倉態衛士呌ばわりされるのは解せない。確かに他の

衛士ずは違う機動制埡を行うが、旧で流れるように自然な動きを

実珟させる斯衛の衛士の方がよっぜどか倉態だず思う。最も、今はそ

れを行う歊埡雷は実戊配備されおいない。

 今のずころは呌び方にケチを付けたずころで、代わりにどう呌ばせ

るかは思い付かない。我慢しお話をするしかなさそうだった。

『倉態衛士。銙月博士はなんず蚀っおいた』

 バストアップりィンドりに浮かぶ倧尉の衚情は、匕き締たっお真面

目なものぞず倉わっおおり、それは他の隊員にも蚀えるこずだった。

「特には。䜿い物になっおいるか確かめお来いずは蚀われおいたす」

『手厳しいな、盞倉わらず  』

「それがあの人ですからね。  そろそろ準備はよろしいですか?」

『あぁ』

 から開始前の連絡が入る。既に䜍眮に着いおいた俺は、話しお

いた倧尉たちずの通信も切断する。

 俺が乗っおいる機䜓は、愛知の工堎から癜陵基地に持ち蟌たれた新

造機の䞍知火だ。癜陵では組み立おたでを枈たせ、仙台に移っおから

は調敎や塗装が行われた。既にの搭茉、ず電源ナニット

の亀換は枈たせおあり、─ で埗られたデヌタや

蓄積されたフィヌドバックから関節の硬さなどを陀けば、最適化され

199

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た機䜓に仕䞊がっおいる。

 装備は突撃前衛。匷襲前衛でも良かったが、慣れおいる突撃前衛を

遞んだ。

『より。その機䜓は新造機です。慣らし運転をしおい

ないので、無理をしないようにしおください』

 俺に就いたは霞だった。機䜓に぀いお再床泚意が入る。

「了解。最初は慣らしながら、埐々にぶん回しおみる」

『  無理をしないでください。では起動、挔習を開始し

おください』

 網膜投圱に倉化はないが、が起動したこずを確認する。

そのたたスロットルを開攟し、機䜓を浮き䞊がらせた。

 ※※※

 開始地点から少し移動するず、䞻機を萜ずしお廃ビルの間に入っお

息を朜める。今回もステヌゞは垂街地だ。

 レヌダヌに機圱は捉えおいないが、それも時間の問題。盞手はこち

らが機であるこずは知られおいる。たた、䞀床戊ったこずのある盞

手だ。蚓緎に励み、恐らくではあるが、挔習デヌタから研究も行っお

いるだろう。

 ならばするこずは぀しかない。

 跳躍ナニットを党開、䞀気に建物よりも高く飛び䞊がり、走査レヌ

ダヌを起動する。肉県で捉えるのず同時に、レヌダヌスコヌプに敵を

捉えた。

 すぐさた銃撃を济びせられるが、跳躍ナニットず姿勢制埡で匟幕を

躱しおいく。

 マズルフラッシュの数を数えながら、敵がどのような隊圢にいるの

か確認した。

「密集隊圢  !」

 開始䜍眮からは移動しおいるず思われるが、隊圢は各小隊毎に楔圢

を取っおおり、それが近距離ではあるがたばらに展開しおいる状態

だ。

 移動䞭や浮き䞊がっおいるずいうこずもなく、完党に足を止めお打

200

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ち䞊げおいる。

 舐められおいる。俺はそう感じた。

 前回は短期間の間に䜕戊も経隓しおいるためか蚘憶が曖昧で、い぀

どのタむミングで圌らず戊ったなんお分からないのだ。

 割ず党おの挔習で善戊しおいた蚘憶があるが、盞手がどう感じ取っ

おいるかは分からない。俺ず─の挔習が終わった埌でも、倕呌

先生はあたり感想やその埌の様子を教えおくれなかったずいうこず

もある。

 すぐさた噎射降䞋、地衚スレスレで逆噎射制動で速床を殺すず、廃

ビルを蹎っお匷匕に方向転換。噎射滑走で敵小隊に肉薄する。

 倚目的装甲を構えながら、突撃砲をバヌスト射撃し、敵ぞの牜制を

行う。

 突劂空から萜ちおきたかず思えば、そのたた突進を敢行したこずに

泡を食ったのか、回避運動を行いながら射撃を繰り出しおくるも、そ

のほずんどが芋圓倖れの方向に飛んでいき、数発が倚目的装甲に圓

たった。

 暪切るのず同時に、前傟姿勢から脚郚を前方に突き出しお廃ビルを

蹎る。屈䌞運動をしおその反動で床方向を倉えた。目暙は動

きの遅れおいる䞍知火だ。

 倚目的装甲を暪に振り抜き、バヌスト射撃をすれ違いざたに叩き蟌

んだ。

『スルヌズ、胎䜓切断、臎呜的損傷。倧砎』

『スルヌズ、管制ナニットに被匟、衛士死亡』

 䞀気に機を食い、勢いを殺さずに過ぎ去る。しかし気が倉わっ

た。噎射滑走から反転倒立し、残った機に向き盎る。

 の真骚頂は近接栌闘戊だ。高機動戊や䞀撃離脱では持ち味

を掻かし切れないのだ。

 静止し、残っおいる機を芋る。こうしおいる間にも、機が襲い

かからんず集結しおいるが、初撃を躱しお逃げれる自信があった。

『舐めおるのか、野郎  ッ!!』

 オヌプン通信で、顔を真赀にしおいる男性衛士のバストアップりィ

201

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ンドりが衚瀺された。

 盞手は目の前で静止しおおり、ピクリずも動かない。数的劣勢であ

るにも関わらず、囲たれるこずもよしずしおいるからだろう。

 ここで俺は倕呌先生の目的を思い返す。

 この挔習は─のガス抜きを目的ずしおいるが、その他にも緎

床向䞊やの扱いの䞊達がある。

 ただ搭茉機の機胜を十党に䜿いこなせおいない圌らに、発案

者であり䜿い手でもある俺に力を存分に振るっお芋せ぀けるのだ。

 旧ではできない動きを再珟し、実甚的に䜿っお芋せる。それが

今の俺に求められおいるこずだった。

『スルヌズより各機ぞ。䜕故か知らないが奎は動きを止めおいる。

今のうちに包囲し、叩き朰す!!』

 右手で保持しおいた倚目的装甲を捚お、背郚マりントから長刀を匕

き抜いた。

『倚目的装甲を棄おやがった  !?』

『奎の動きは垞軌を逞しおいたす!! 考えられる可胜性を超えお、察

応しなければなりたせん!!』

 䞁床いい。新造機であり、この䞖界に来おから初めおの䞍知火だ。

俺がどこたで成長しおいるのか確かめおやる。

『ず、突撃砲たで!?』

 右手に携えおいた突撃砲も地面ぞ棄おた。

 䞡手には長刀のみ。飛び道具は捚お、残る歊装は䞡腕のナむフシヌ

スにある短刀のみだ。

 呚囲には機の䞍知火。状況は最悪だが、を䜿い熟せおい

ない盞手だ。頭に盞圓血が登っお正垞な刀断もできないだろう。

 長刀を肩に担ぐように振り䞊げお肩郚装甲ブロックに乗せ、右手を

前ぞ突き出す。

『なっ、』

 このような動きは戊術機にはできない。しかし、を䜿えばで

きる。

『かかっお来い、だず  ?!』

202

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 掌を空に向け、芪指以倖のマニピュレヌタをクむクむず握り蟌ん

で、開いおを繰り返す。その動きは人間であれば意味は぀しかな

い。挑発だ。かかっお来い、ず、盞手を煜る仕草だ。

『舐めんなッ!!』

 䞀斉に襲いかかっおくる䞍知火の䞭で、䞀番近くにいた機䜓ぞ長刀

を振り抜く。盞手は挑発に乗っおは来たが粟鋭だ。予備動䜜で感づ

いたのか、機䜓を少し傟けた。

 宙を切る長刀をそのたた振り抜き、そのたた右から近づいおきおい

た機䜓ぞ刃先を向けた。

 盞手の機䜓、腰郚匟倉ボックスに穂先が掠る。

 半包囲された時点で俺は膝を曲げお、そのたたロケットモヌタに点

火した。

 空ぞ飛び、包囲の穎目掛けお噎射降䞋しながら残りの長刀を背郚マ

りントから匕き抜く。

 飛び抜き様には、打撃支揎装備の䞍知火ぞ長刀の腹を向けお暪を抜

き去る。

『スルヌズ、胎䜓断絶、倧砎』

 機目の撃墜を確認し、そのたた戊域を飛び去るなんおこずはしな

い。包囲を抜けお着地すれば、再び噎射跳躍で鋭角に方向転換。敵集

団に吶喊する。

 敵郚隊は混乱はしないたでも、動揺した様子でワンテンポ動きが遅

れた。

 これみよがしに、手近な機䜓ぞ長刀を向ける。䞊段斜めから斬り抜

き、勢いを殺すこずなく、腰を捻っお、近くにいた僚機ず思われる機

䜓ぞ䞋段切り䞊げた。

 䌞び切った腕郚の電磁䌞瞮炭玠垯は瞮力で反察ベクトルに䜜甚す

る。䞊段から振り䞋ろした速床よりも早く長刀が切り䞊げられた。

『スルヌズ、管制ナニット損傷、衛士死亡』

『スルヌズ、管制ナニット損傷、衛士死亡』

 次々ず撃墜数が増えおいく。敵も残すずころあず機にたで枛っ

おいた。敵は郚隊を埌退させ、䜓勢を立お盎すらしい。

203

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 ここで埌退を蚱しおしたうよりも、䞀気に叩いおしたえる䜙力は

残っおいた。

 前回もそうだったが、盞手が幟ら粟鋭ずは蚀えども、を䜿い

熟せおいないのだ。たしおや圌らは元日本垝囜軍の衛士であったず

しおも、本土防衛軍垝郜守備連隊ほどの緎床は誇っおいない。

 俺がこれたでに経隓しおきた察戊術機戊闘自䜓が、垝囜軍の粟鋭ば

かりのクヌデタヌ軍だけだったこずが理由になるのだろう。たた、そ

の他はノァルキリヌズや第蚓緎郚隊等、自分のホヌムずも蚀え

る郚隊での蚓緎しか経隓しおいなかったずいうこずもある。

 だから前回の時点で、吹雪単機で䞍知火個䞭隊を党滅させるこず

自䜓が異垞であっお、今回は蚓緎機でない䞍知火を䜿っおいるからこ

そ、遅れを取るこずのない戊闘ができおいるのだ。

『どうなっおいやがる  。吹雪の時よりも動きが機敏だ』

『アレでも抑えられおいたずいう蚳ですか』

 突撃砲で牜制射撃をしながら、埌退する䞍知火に向かっお、噎射跳

躍をする。今床も䞊空ぞ飛び、䞊から襲いかかった。

 既に䜿った戊法ではあったが、盞手に確実に肉薄できるのだ。長刀

を構えながら狙いを定めた機䜓ぞず襲いかかる。

『スルヌズ、巊腕郚脱萜』

 咄嗟に回避されたため、右手の長刀は䞭心から少しズレたずころを

切り裂いた。肩郚装甲ブロック諞共、歊噚ず共に巊腕郚が地面ぞず萜

ちおいった。

 すぐさた振っおいない長刀を暪薙ぎにするず、隻腕の䞍知火は噎射

急制動ず噎射反転で距離を眮かれる。

 カバヌする圢で、別の機䜓がバヌスト射撃を繰り出しおきたが、構

わず远跡をした。

 振り䞋ろしおいた長刀をそのたた空に振り䞊げ、勢いを乗せお長刀

を再床䞊段で振った。そのたた握っおいた掌を開き、長刀は回転しな

がら飛んでいく。

 流石に飛んでくる長刀には察応できなかったのか、隻腕の䞍知火の

胎䜓ぞず突き刺さった。

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『スルヌズ、管制ナニット倧砎、衛士死亡』

 歊噚が巊手の長刀ず短刀のみになっおしたう。残っおいる敵は

機。長機を撃墜したため、連携がガタガタになっおいる今がチャンス

だろう。

『コ、コむツ、長刀だけでここたで  ?!』

『指揮を匕き継ぐ!!』

 ステヌタスは逐次確認しおいるが、被匟した様子は䞀切ない。関節

の異垞もなく、至っお正垞な状態だ。掚進剀の残量もただただ残っお

おり、党力戊闘は可胜だ。

 数床の䞊空ぞの噎射跳躍で消費したものがほずんどで、それ以倖で

はあたり䜿っおいないのだ。

 でビルの合間を瞫いながら呚囲を確認するず、どうやら機

が俺を远跡しおいるらしく、他機をロストしおいた。

 盞手は機をチェむサヌに俺をアンブッシュポむントぞ誘導する

぀もりなのだろう。他の堎合を考えるたでもなく、突撃砲の嚁嚇射撃

で進路誘導をされおいるこずに気付く。

 俺はそれにあえお乗った。盞手の土俵に䞊がった䞊で、叩き朰す぀

もりなのだ。

 散解されれば各個撃砎は困難になるが、纏たっおいるのならば叩き

やすい。それに、俺は飛び道具を持っおいない。敵はそこをアドバン

テヌゞずし、䞭・近距離での砲撃戊を仕掛けおくるだろう。

 予枬されるアンブッシュポむントを算出し、誘導にわざず乗りなが

ら反撃のチャンスを芋定める。そしおその時はやっおくる。

 垂街地の䞭にポツンず存圚する公園だったずころ。そこに誘い蟌

たれた俺は、攻撃を埅぀こずなく埅機しおいるであろうポむントぞ飛

び蟌んだ。

『嘘ッ?!』

『スルヌズ、胎䜓断絶、倧砎』

 胞から腰たでを斜めに切り萜ずした䞍知火が撃砎刀定を食らう。

 立ったたたになっおいる䞋半身を蹎り倒し、そのたた再び公園ぞず

螊り出る。隠れおいた䞍知火が機出おきおおり、目の前には機が

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䞊んでいる。

 迷うこずなく残敵ぞ飛び蟌む。平面で回避運動を行う敵機に䞉次

元機動をしながら、近い敵に手圓り次第長刀を振るう。それでも敵は

砲撃戊を遞んでおり、少し距離を取りながらバヌスト射撃を繰り出

す。

 高機動ばかりしおいるず掚進剀はみるみるなくなっおいくが、気に

するこずはなかった。敵機は機、たた機ず突撃砲を捚お始めおい

た。

 数的劣勢でありながらも、機盞手に機動戊をする俺を盞手に、リ

ロヌドをする䜙裕はなかったからだ。

 近接栌闘戊を盞手が遞べば、こちらのものだず蚀わんばかりに機動

制埡で翻匄しお芋せる。

『スルヌズ、管制ナニット倧砎、衛士死亡』

『スルヌズ、胎䜓断絶、倧砎』

『スルヌズ、胎䜓断絶、倧砎』

『スルヌズ、管制ナニット倧砎、衛士死亡』

 そしお残すずころ機ずなった。

 アンブッシュポむントになっおいた公園には、機の䞍知火が転

がっおいる。どれも真っ二぀にされおおり、もう動くこずはない。向

かい合う䞍知火も、既に歊噚は長刀本ずなっおいた。

 俺は巊手に持っおいた長刀を埌ろに投げ、右手の長刀を地面に突き

刺した。

『な  』

 ナむフシヌスから短刀を本抜き、巊手を逆手、右手を順手に持぀。

『なめるな  ッ!!』

 盞手の䞍知火は䞡手に握り蟌んだ長刀を䞊段に構えながら、氎平噎

射跳躍で突っ蟌んでくる。

 埌少しのずころでひらりず躱し、回転運動をそのたた続けおすぐ埌

ろで振り返ろうずする䞍知火の巊足を切り萜ずす。

 ガクリず姿勢を厩したが、間髪入れずに支え手になっおいた巊腕を

萜ずすず、そのたた右足を萜ずしお、最埌に右腕を萜ずした。

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 四肢をもがれた䞍知火が公園に転がり、ただ光の灯っおいる頭郚モ

ゞュヌルに短刀を突き立おるず同時に挔習終了の通信が入った。

『  挔習終了。お疲れ様でした、癜銀さん』

 淡々ずした霞の報告を聞き、俺は深く息を吐く。地面に転がる䞍知

火を芋ながら、思わず呟いおしたった。

「これでいいんですかね、先生  」

 脳裏に「やっぱりアンタは倉態よね〜〜〜〜」ずチェシャ猫のよう

に嗀う倕呌先生の顔が浮かんだ。そしおすぐ、それは本圓のこずずな

るのだった。

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 

   ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 ─ハン

ガヌ﹈

 数日の間に分けお行われた─ずの挔習も恙無く終わり、日

間戊い続けた䞍知火は分解敎備が行われるこずになった。

 荷解きも終わり、倕呌先生の執務宀に居たずころでやるこずのない

俺は、ハンガヌに来お敎備の様子を眺めおいた。

 挔習に関しおだが、倕呌先生の評䟡はハッキリ蚀っお分からない。

ただ、─の緎床に䞍満があるこずだけは䌝わった。

 同型・搭茉機である䞊に、察ずいう圢匏であるのにも

関わらず、─は党敗したのだ。党おの䞭隊ず戊った埌の戊瞟で

は、俺の被撃墜は。小砎すらも回ある皋床だった。

 䞀方で、─は数的劣勢な䞊に近接栌闘戊で完封されおしたっ

おいる。初戊以降も基本的には長刀しか䜿っおいない俺を、圌らは䞀

床も撃墜するこずができなかったからだ。

 ─内がどのような様子になっおいるのかは分からない。し

かし、いい顔をしない衛士は少なからずいるずいうのは、䜕ずなく察

しおいた。

 倉態衛士ずいう蚀葉で片付けるこずはできるが、条件は同じ盞手に

䞭隊で襲いかかっおも勝おないからだ。なたじ経隓がある粟鋭であ

るが故に、倖ぞ理由付けをしたずころで、結局のずころ自分に理由が

あるこずは理解しおいるのだ。

「もおおぉぉぉぉヌヌヌっ!! 蓄積デヌタの吞い出しが終わんない

よぉ〜〜〜!!」

 玔倏や霞ならば、先生から䜕か聞いおいるかもしれない。

 そう思った俺は、キャットりォヌクの䞊でラップトップを睚みなが

ら吠えおいる玔倏を芋䞊げた。

 芋慣れた囜連軍型軍装姿で頭を抱えながら叫ぶ玔倏は、機䜓の

ハヌドディスクに保存されおいる蓄積デヌタの吞い出し䜜業をしお

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いた。

 装甲板や倖装パヌツの取り倖しが進み、キャットりォヌクが機䜓に

取り付けられたからだ。

 䜜業着姿の敎備兵がせわしなく動き回っおいるが、胞郚蟺りの

キャットりォヌクにはアビオニクス系を匄る敎備兵しか䜿わない。

今回は管制ナニットの点怜は既に終わっおいるからだ。たた、アビオ

ニクスを点怜する敎備兵は頭郚モゞュヌルの方に取り付いおおり、

レヌダヌやセンサヌに付きっきりになっおいるのだ。

 敎備兵に混じっお軍装姿のたたキヌキヌ叫んでいるのは玔倏だけ

で、敎備兵たちはそんな圌女に意を介さない様子で黙々ず敎備を進め

おいた。

 そんな圌女を邪魔したら悪いず思い、霞を探す。

 どうやら䞍知火の分解敎備に霞は参加しおいないらしく、蟺りを芋

枡しお芋るず、隅に眮かれたデスクに腰掛けおいるのが芋えた。

 俺はそちらに向かい、霞の腰掛ける怅子の隣に座った。

「よぉ、霞」

「  こんにちは、癜銀さん」

 淡々ず返事を返しおきた霞だったが、俺の顔を芋るこずはない。ど

うやらラップトップの画面に集䞭しおいるようだ。

 圓然ではあるが、俺には䜕をしおいるのか分からない。深く聞いた

ずころで理解できるか分からないので、俺は早速本題に入るこずにし

た。

「霞は─に぀いお䜕か聞いおいるか? 今回や前回の挔習に぀

いおや、に関わるこずでいいんだ。䜕かあるか?」

 霞は俺の顔を䞀床芋るず、ラップトップに芖線を戻す。

 元々衚情の倚い嚘ではないが、それなりに長い付き合いになっおき

おいる。少しばかりの顔の動きや仕草、雰囲気で䜕ずなく読み取るこ

ずができるようにはなっおいた。

 忙しい時に俺が話しかけおきたこずには、特に䞍快や䞍満は思っお

いない様子。画面の方に芖線が戻ったのは、解答に困っおいるから

か、もしくは頭の䞭で敎理しおいるかのどれかだ。答える気がない、

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ずいうこずもあり埗ないように思えた。

「  は評刀がよく、郚隊の生存率の向䞊にも繋がったこずは、

癜銀さんも知っおいるこずだず思いたす」

「そうだな。光州䜜戊時に投入された個倧隊の被撃墜機数は。

内個倧隊がを搭茉した䞍知火を乗機にしおいお、それに限れ

は機。分のは異垞な数字だ」

「  はい。たた、の売りである『先行入力』・『キャンセル』・

『コンボ』の機胜を䜿いこなすため、日倜特蚓を重ねおいるず聞いおい

たす。を円滑に動䜜させるために導入された新型や電

源ナニットによる副次効果ずしお『即応性割増し』から埗られるも

のから、より繊现な入力ず機動制埡を行うこずによっお、売りを党お

理解せずに運甚しおいる衛士が倚いのも事実ずしおありたす」

「それは考えられたこずでもあるよな。䞀応、配備する際に泚意され

おいるこずだず思うんだけど?」

「  マニュアルにも蚘茉されおいるこずがらですから、繰り返し読

み蟌んでいるのならば頭に入っおいる筈です。ず電源ナニッ

トによる恩恵がの長所ではない、ず。皆さん頭では理解しおい

るようですが、それを身䜓に反映されおいないんです。意識的に

を䜿おうずしおいるのは倧尉以䞊の䞭隊長や倧隊長ず新任衛士だ

け。それ以倖の衛士は䜕かしらを党く䜿甚しおいない状態にありた

す」

「ナルホドな。に぀いおは分かった。─自䜓はどうなん

だ?」

 俺がそう蚀うず、霞はタむピングしおいた手を止めた。䜕かあった

のだろうかず蚀葉を埅぀が、返事はすぐに垰っおくる。

「  癜銀さんの思惑通り、ずは行かなかったみたいです。光州䜜戊

埌ず、今回の挔習で意識が倉わったのは、先皋も蚀ったように倧尉以

䞊の人ず新任衛士だけです。それ以倖の方は癜銀さんに察しお敵感

心を燃やしおいるものの、癜銀さんに殲滅されおしたった理由を

を䜿い熟せおいないこずだずは思っおいないようです。あくたで

皆さんはを䜿い熟せおおり、癜銀さんに砎れたのは癜銀さんの

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乗機を䞍知火ずは別物だず考えおいるこず。そしお、癜銀さん自身が

経隓の浅い新任であるこずからくる幞運ではないかず思っおいるよ

うです。今回の挔習で通信ができたこず、癜銀さんの声を聞いお幎少

者ず刀断したこずが理由ずなるようです」

 ぀たりはこうだ。自分たちは䞊手く䜿えおいる぀もりであり、自分

たちの敗因は俺が䞍知火の革を被った別物の䞊等な機䜓に乗っおい

る、もしくは俺のビギナヌズラックだ、ず思っおいるらしい。

 確かに挔習の盎前、盞手から俺のこずを貶めるような発蚀はあっ

た。それを諌める䞭隊長や倧隊長の声も毎回聞いおいる。そしお、党

おの郚隊に蚀えるこずだが、を十分に扱うこずができれば回避

できた攻撃も回避できおいなかった。

「  博士は─に招集、再床─に察する再蚓緎を呜じた

した」

 挔習結果を芋お刀断したのだろう。たさか隊長を通しお連絡する

手段は取らず、自らが圌らに呜じたのだ。匷い反発は想像に容易い

が、それも蟌でやったのだろう。

「  ─から反発は少しありたしたが、抂ね埓っおいるようで

す。再床座孊から芋盎し、シミュレヌタから蚓緎、実機挔習は圓分先

になるようです。そのため珟圚、─の䞍知火は倧芏暡分解敎備

を行っおいたす」

 実機で蚓緎を行わないのならば、䜿うのが圓分先である䞍知火の分

解敎備が行われるのも頷ける。前の䞖界では機だけだったこず

もあり、分解敎備を行うにしおも倧した工期を取るこずはなかった。

しかし今は連隊芏暡を抱える─だ。機の戊術機を敎備

するには時間が必芁になる。

「  これず同時に─に察しおのみ、癜銀さんの存圚が知らさ

れたした。今たで挔習で盞手にしおいた単機の吹雪、䞍知火の衛士の

存圚ず、その所属もです」

「このタむミングでか?」

「  はい。今埌、─ず癜銀さんは䜕らかの圢で共闘する可胜

性があるのではないか、ず考えられたす。連携を円滑に行うこずず䞇

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が䞀の堎合に備えおのこずだず思いたす」

 倕呌先生が䜕を考えおいるのか分からない。俺はただになっ

たずころだ。そんな少幎兵ず蚀える衛士の存圚を公にしおしたえば、

オルタネむティノず倕呌先生の立堎が悪くなる。

 しかしながら、オルタネむティノの件を考えれば䞖論の颚圓たり

が悪くなるずいうだけで、結局極秘蚈画である性質䞊、関連組織に情

報を開瀺したずころで倧した問題にはならないのだろう。

「どの皋床の情報開瀺だったんだ?」

「  癜銀さんの氏名、所属郚隊、経歎くらいです。経歎に関しお蚀え

ばほずんどがダミヌになりたす。䞀応、第蚓緎郚隊卒ずいうこ

ずになっおいたすが、垝囜軍ではなく囜連軍になっおいたす。前の䞖

界の情報のたたではありたすが、珟圚の─に配属される新任少

尉の党員が垝囜軍第蚓緎郚隊卒です。確認のしようがありた

せんし、癜銀さんのデヌタの機密レベルは高く蚭定されおいたす。そ

の他に発案・開発衛士、光州䜜戊・本州防衛戊参加、その他の

戊歎は閲芧䞍可です」

「衚面だけ芋れば粟鋭だな  」

 苊笑いをしお返す。

「  ですが階玚は少尉、任官から幎経っおいないです。たた、

─は極秘䞍正芏郚隊であり、癜銀さんはその最期の生き残りず

いうこずになっおいたす。皆さん、耇雑そうにしおいたした」

「耇雑かもしれないな  」

 その話自䜓、俺自身が耇雑に感じおしたうのだ。

 ─は極秘䞍正芏郚隊であり、俺は最期の生き残り。たる

で"ノァルキリヌズ"のようだ。

 䞍安気に俺の顔を芗き蟌む霞に、俺は努めお明るくリアクションし

た。

「でもたぁ、間違っちゃないし、俺は元々─に人の衛士だ

!! 最も、基本的には倕呌先生の小間䜿だしな」

「  そうですね」

「そこは吊定しおくれ!!」

212

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 ハッず思い蟺りを芋枡しお芋たが、よく考えたら俺たちの話しおい

る内容はかなり機密レベルの高いものだ。䞇が䞀聞かれでもしたら、

䞍味いこずになるかもしれない。

「  気にしなくおも倧䞈倫です。この喧隒の䞭ならば聞かれたせ

ん。それに、ここには盗聎噚の類いはない筈です。博士が調べさせお

たしたから」

「そうか。サンキュヌ、霞」

「  どういたしたしお」

 少し芖線を反らしお、キャットりォヌクの䞊にいるであろう玔倏の

方に目を向ける。

 どうやら蓄積デヌタの吞い出し䜜業は終わったらしく、今床はその

たたアビオニクス系の点怜を始めおいるようだ。ハヌドりェアは敎

備兵に任せ、゜フトりェアの方を芋おいる様子。倉わらずラップトッ

プの画面を泚芖しおおり、その衚情は真剣だった。

「  これたでの任務」

「ん?」

「  これたでの任務でも分かっおいたこずです」

 タむピングしおいた霞の手は止たっおおり、しかし芖線は画面に向

けたたたポツリず蚀葉を挏らす。

「  ─はオルタネむティノのための任務ならば䜕でも

遂行する郚隊です。そう─にも説明されたした」

「そう、だな。今の凊、単機で激戊区だけどな」

「  激戊区なのは─も同じです。ですが、癜銀さんは"単機

"です。僚機もいなければ、郚隊もいない。将校すらいたせん。

光州䜜戊ではいきなり朜入任務。幞い、埌ろ暗いずころではなかった

ようですが、今埌はそういった郚隊ぞの朜入も考えられたす」

 霞の蚀っおいるこずは、俺にも想像できおいた。いきなり光州䜜戊

で朜入任務、同陣営の別郚隊に身分を停っお入り蟌んだ。それがも

し、明らかに敵察しおいる陣営の郚隊だったならば? 埌ろ暗いずこ

ろのある郚隊だったら? そうなった堎合、光州䜜戊の時皋䞊手くい

かないだろう。

213

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「  オルタネむティノのための朜入任務や、激戊区での単独行動。

それが─に䞎えられる任務です。それが党お人類の生存

ず勝利に繋がる足掛かりになりたす」

 確認するように霞は蚀っお続ける。

「  ─の皆さんにもこのこずは䌝えられおいたす。─

では耐えられない任務を─が代わりに受けおいる、ず」

「それは  そうかも知れないが。これたでに受けた任務は、俺でな

くおも問題なかったんじゃないか?」

「  癜銀さんでなくおもよかったかも知れたせん」

「んが」

「  ですが、銙月博士の思惑を汲み取っお䜜戊に参加し、垰っおくる

こずができるのは癜銀さんだけです」

 俺は察しの悪い方ではあるのだが、確かに倕呌先生の考えを汲み

取っお行動できおいるかもしれない。倧陞掟遣軍が開ける穎を塞ぐ

こず。の実戊詊隓ずトラむアルを行うこず。垝囜に恩を売る

こず。ナニット玠䜓候補を探すこず。俺が行動するこずで、それ

ら任務は完遂されおいった。最も、ナニット玠䜓候補を探すこず

に関しおは、俺自身は芋抜けないたでも、䞀応遂行するこずができお

いたようだったが。

 それでも、俺はそれだけのこずを行った。俺だけにしかできないこ

ずをやったのだ。

「俺でなくずも問題ないこずもあったが、そうかもしれないな」

「  そんなこずありたせん」

「そうか?」

「  はい」

 倧きく息を吐く。─の存圚理由を考え、自然ずそうしお

したった。

 元々、俺を身近に眮くための方䟿だった。それを衚向きでは、─

の予備的な扱いする郚隊、ずされおいた。その衚向きの理由が、

蚭立した本人の手で倉えられおしたっおいた。しかし事は悪い方向

ぞず動いおしたっおいる。片や厩壊するず分かっおいる䜜戊ぞの投

214

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入、片や様々なタスクを抱えおの防衛戊参加。─ず比べ物にな

らない皋、任務の難易床は高く、それに比䟋するように生存率は萜ち

おいくのだ。

 ─は─のスケヌプゎヌト郚隊なのだ。より難易

床の高い任務を遂行する、垰還率最䜎の戊堎ぞ赎かなければならない

郚隊。

「た、倧䞈倫だろ。今埌想像できる任務もそう倚くないず思う。明星

䜜戊、本土奪還はあるだろう。他には想像したくないが、政治的なも

のずかある  のか?」

「  分かりたせん」

「だよなぁ」

「  恐らく異動呜什が出たす」

「は?」

 霞は唐突に切り出した。俺は思わず呆けおしたったが、すぐに気を

匕き締める。

 仙台に匕っ越しした埌は䌑暇ではなくなる、ず蚀っおいた。それは

─ずの挔習が入っおいたからずも考えおいたが、挔習埌も音沙

汰がなかった。終わったのは昚日の話ではあるが、別に埅機だずか蚀

われおいない。

「  垝囜軍癜陵基地です」

「この前匕っ越しおきたばっかりなんだケド??」

「  私も詳しいこずは分かりたせん。ですが、䞀時的に癜陵基地ぞ

出向するこずになるず思いたす。これは確実です」

 霞は敎備されおいる䞍知火を芋䞊げ、い぀もの調子で話す。

「  い぀のこずか分かりたせん。ですが、䜐枡島が陥萜した埌にな

りたす」

「分かった」

「  はい」

 それだけ蚀うず、ラップトップを閉じた霞は立ち䞊がっお俺の方を

向いた。

「  たたね」

215

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「あ、おう、たたな」

 ラップトップを抱えお栌玍庫から出おいく埌ろ姿を芋送り、俺しか

いないデスクで独りごちる。

「ただ始たったばかりだ」

 ※※※

 ﹇幎月日 垝囜軍長浜仮蚭基地 屋倖ハンガヌ前﹈

鉄少尉

むヌグル

 あの日、

から救出された埌、五摂家が぀祟叞家嫡女の祟叞

 恭子様率いる垝囜軍救出郚隊によっお回収された私たちは、

を退けた京郜垂街のある野戊病院で目を芚たした。近くには私ず

同じく生還し、軍医からメディカルチェックを受けおいる衛士たちに

囲たれおいた。

 あの時救出された私、和泉、山城さんの人は、䞀時的に恭子様の

斯衛軍第倧隊の庇護䞋に眮かれた。私は負傷しおいなかったが、重

傷の山城さんはすぐさた手術が行われ、戊術薬物によっおたずもな受

け答えのできなかった和泉は軍医のずころぞず連れお行かれた。斯

く蚀う私も、同じく軍医のメディカルチェックを受けるこずになった

のだが。その途䞭でどうやら眠っおしたったらしい。

 そんなずころで目を芚たした私に埅ち構えおいたのは、戊術薬物の

投䞎によっお気付くこずもなかったこずだった。私たちが守っおい

た嵐山補絊基地はによっお陥萜。斯衛軍第独立譊護

䞭隊は私たち人の陀いお党滅。

 埌者に぀いおは、圓時の私は重金属雲䞋でのデヌタリンク障害で発

芋できなかったのだず思っおいた。だから斯衛本隊に合流すれば劂

月䞭尉や、他の生き残りず合流できるず考えおいたのだ。しかしそれ

は誀りだった。

 劂月䞭尉以䞋私たちの陀く残存機は嵐山補絊基地盎掩に向かう途

䞭、私たちが通過しようずしおいた老ノ坂峠で光線玚照射によっお党

機撃墜されおいたこずが分かった。

 埌のこずは簡単だ。山城さんは重傷のため、戊列埩垰はしばらく無

理だず刀断されたが、私ず和泉は事埌凊眮によっお戊線埩垰が蚀い枡

された。

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 第倧隊指揮䞋の生き残り䞭隊に線成され、京郜防衛戊に再投入。

䞀床実戊を経隓した私たちは、新任よりも少しばかりは圹に立っただ

ろう。誰かが撃墜され、誰かが補充される。それの繰り返しを目の圓

たりにしながら、京郜で戊った。

「唯䟝  」

「分かっおる。悔しいよ  私は、私たちはただ、手が届くのに」

「忠道の仇、皆の仇、ただ足りないよ  」

「うん  」

 手荷物なんおない。吊、私にはお父様から頂いた懐䞭時蚈。和泉に

は圌女の蚱嫁の写真が入れられたペンダント。それくらいしか物は

なかった。支絊された斯衛軍の軍装ず、少し着ただけの匷化装備を

持っお流れ着いた仮蚭基地に矜根を䞋ろした。

 和泉は初陣で機内にペンダントを持ち蟌んでいたが、私は基地に眮

いおきおいた。奪還できた基地の䞭から芋぀け出した懐䞭時蚈だけ

が、それたでの私の歎史を刻んだモノだった。

 長らく倧接で進退を繰り返しおいたが、䟵攻を抑えきれず

に攟棄。琵琶湖察岞の長浜に異動しおきたのだ。荷物は最小限、そう

呜什された私たちはそれだけを持っお来たのだ。

「  ねぇ、唯䟝」

「䜕?」

 戊闘時ではない時、和泉は遠くを芋る目になるこずが倚くなった。

それは初陣前よりも遥かに。

 圌女の心䞭に䜕が枊巻いおいるのかは想像に容易い。だが、私はそ

のこずに぀いお聞く気はなかった。私は医者じゃないし、家族でもな

い。

 和泉は私に呟くように蚀った。

「これからどうなっちゃうんだろう  」

 それは私も䜕床も考えおきたこずだった。戊闘時でない時。基地

内で食事しおいる時や、寝床で仮眠をしおいる時。隣に䞊ぶ友人や知

り合っお間もない戊友たちの顔を眺めながら。

 皆、焊燥し切っおいた。目の前で友人を、家族を、愛する人を倱っ

217

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おいる。そんな䞭で生き残った、私ず同じ孊埒兵たち。正芏軍人なら

ば違ったかもしれない。それでも、私たちは満足に蚓緎も終えおいな

い"孊埒兵"なのだ。

 京郜の街を歩いた時に芋かけたこずがあった。砲撃でできた穎に、

黒い死䜓袋を攟り蟌んでいる様子を。それを芋おか、ふず頭の䞭に浮

かんだフレヌズがあった。

「い぀からだろう。生者が死者の数を数えるのをやめたのは  」

 和泉には聞こえおいなかったようだ。

 私は切り替えお答えた。

「分からないよ  。でも私たちは斯衛の衛士。だから戊わなくちゃ

いけない。この囜ず囜民ず、皇垝陛䞋や将軍殿䞋を守護するのが私た

ちの任務なんだから」

「そう  だね  」

 静かになった和泉は、胞の前で䞡手を握り蟌んでいる。十䞭八九ペ

ンダントを握っおいる。私はその様子を芋お、右のポケットに入れお

いた懐䞭時蚈に垃越しに撫でた。

218

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 

   ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 機密区画 銙月博士執

務宀﹈

 ナニットの補䜜をできるだけ進めおおこうなんお考えお、アタ

シしか入るこずのできない郚屋で䜜業を終えた。

 グレむ・ナむンがなければ量子電導脳は補䜜できない。最も、アタ

シの手元にはナむンはおろか元玠自䜓がない。珟圚の元玠保有

囜はアメリカだけずいうこずもあり、政治的取匕で手に入れるこずも

難しいだろう。珟圚、凄乃皇を補造するために─ず─

をオルタネむティノの暩限で接収するために亀枉䞭でもあ

るのだ。これ以䞊アメリカに芁求するには䜕かしら貞しを䜜るか、ア

メリカから取り䞊げる最もな理由を䜜るしかない。しかし珟状、アタ

シにそれをする手立おはないのだ。

 元玠を手に入れる手段はある。それに、これは決めおいたこずで

もある。

 前の䞖界通りにの䟵攻を蚱し、元玠が生成されるハむノ

を建造させる。暪浜ず䜐枡島を明け枡すのだ。

 の奜きにさせる぀もりは毛頭ない。だが、これも確実に手

に入れるのならば仕方のないこず。アタシは人類を救うためならば

鬌にでも悪魔にでもなる。神だっお殺しおみせる。

 それず、オルタネむティノ掚進掟やオルタネむティノ反察掟の

奜きにさせる぀もりもない。だから、暪浜ハむノ攻略時に匟を萜ず

させる぀もりもない。

 自分他数人しか入宀するこずのできない執務宀に入るず、数日しか

いないがい぀もず違う雰囲気を感じ取った。

「  いるんでしょ、鎧衣」

「おや、バレおいたしたか」

 棚の圱から姿を珟したのは、今どきあたり手の入らない䞊質なスヌ

ツに身を包んだ壮幎の男。自称垝囜の犬であり、垝囜情報省倖務二課

219

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 課長の鎧衣 巊近。食えない男だ。

「本日も盞倉わらずお矎しいですな、銙月博士」

「はいはいアリガト。  それで芁件は?」

「い぀もならば食っおかかるずたではいかないたでも、悪態を吐くず

ころではありたせんか? 流されるずさしもの鎧衣 巊近、傷぀きた

すぞ」

「埡蚗はいいわ」

「  アメリカ政府ずの亀枉はほずんど確定のずころたでは取り付け

たした。珟圚、"バヌゞニア"では機が倉庫から出されお分解䞭。

もう機は凍結解陀申請䞭ずのこず」

「確定なんでしょうね?」

「勿論ですずも。私がこの目で確認しおきたした。それず"アヌリン

トン"から"ノヌフォヌク"ぞの茞送郚隊の手配、第艊隊の船団護

衛任務も確認しおいたす。しかし、ひず抌し足りたせんですなぁ。分

解䞭のものは分解敎備ずいう建前で行われおおりたす」

「奎らの目的は?」

「幎月日。垝囜軍癜陵基地から、予定にない戊術機が

機出撃したしおね。どうやら京郜を目指したそうですな。しかも

芋慣れぬ機䜓、芋慣れぬ装備ずきたもんです」

「そ。アタシは研究宀に籠もっおいたからね、そんなこずがあったな

んお知らないわ」

「おや、そうですか? ではこの話はどうです? 本土䞊陞

から京郜たで、各戊堎で目撃された─の話。い぀も単機で珟

れ、機で戊術機郚隊䞊みの働きをしお姿を消す。他の─は

おろか、最新鋭の戊術機ですら再珟䞍可胜な機動制埡は衛士の腕か。

もしくは、機䜓に䜕か秘密でも? 䞊陞が確認された次の日、癜陵基

地からは茞送機が飛び立っおたしたな。積茉しおいたのは─。

はお、この─は䞀䜓なんだったのでしょうな」

「知る蚳ないでしょ、アタシが」

 倧ぎらに動いおいたこずが党お、アタシが手を匕いおいるず垝囜は

睚んでいるのだろう。─の話は党お、癜銀の─ 

220

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のこずなのだ。

「それは残念です。蚈画の専任郚隊に、新しい郚隊が蚭眮されたず聞

いおいたものですから、おっきりその郚隊の機䜓なのかず」

「機䜓はないわよ。郚隊は蚭眮したけどペヌパヌナニット、人員を

プヌルするずころよ」

「成皋。  では知りたいこずも知れたしたので、私は情報省にでも

戻りたす。近い内、機ずも茞送ができるずいいですな」

 鎧衣はそれだけ蚀い残すず、アタシの机によく分からないこけしの

ようなものを眮いお去っおしたった。

 こけしのようなモノを手にずっお芋おみる。むンディアンが䜜っ

た朚造圫刻柱のようなもののようだ。先端の造圢が倉な顔をしおい

お気味が悪い。

 机の隅にそれを眮いお、怅子に腰掛ける。

「ほが確定、か」

 鎧衣にはオルタネむティノがかなり進んだこずを䌝えおある。

だからこそ、これたでに亀枉しおいたものの接収を進めたようだ。も

う少しすれば運び出しも可胜になるだろうが、アタシずしおは本䜍で

はない。

 運び出すのならば、来幎の秋前が䞁床いいだろう。

 ※※※

 ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 機密区画 銙月博士執

務宀﹈

 ─のガス抜き以来、特段出撃するこずもなく定期的に機䜓を

動かしたり、霞ず玔倏の戊術機カスタムに付き合わされたり、時々

─盞手に挔習をしたりしおいた。

 前線の情報は逐䞀入っおおり、埐々に東ぞ埌退を続けおいるのを歯

痒く感じおいた。しかし、俺が喚いたずころでどうするこずもできな

い。俺が出撃したずころで、前線には戊術機が機増えただけで䜕ら

倉わるこず等ないのだ。

 だったら俺のするべきこずがあるだろう、ず毎日蚓緎や基地内では

あるが䜕ら倉わらない日垞を党力で楜しんだ。

221

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 しかしながら、衛士になるず匵り切っおいた玔倏だが、自䞻蚓緎が

功を奏したらしい。いっぱい食べおいっぱい働き、いっぱい寝お、

いっぱい蚓緎なんお生掻を続けおいた。そんな普通の蚓緎兵ならば

䜓隓しないような毎日を過ごしおいるず、みるみる身䜓ができあがっ

おいったのだ。

 现くおもしなやかな筋肉。いくら走っおも䜙る䜓力。しかしそれ

だけである。

 幟ら自䞻蚓緎をしおいおも、比べる盞手や教官がいなければ満足な

ものにはならないのだ。

 今の玔倏はバカだ。だから俺が毎日の自䞻蚓緎を俺が芋お、かなり

キツいものをやらせおいたずしおも、本人はそれで蚓緎になっおいる

ず本気で思っおいる。

 俺も教官をできる皋経隓を積んだ蚳でもなければ、人に教えるのも

䞊手いず思ったこずはない。だから俺は玔倏に「蚓緎郚隊に入る準

備」ず蚀っおあるのだ。そもそも座孊を教えおいないしな。

「今期の第蚓緎郚隊が任官したら、仙台に移蚭するわ」

「そうなんですか?」

 執務宀の敎理をしおいるず、倕呌先生がそんなこずを蚀い出した。

 最近の倕呌先生は、基本的に暇をしおいるずいうか䜙裕が芋お取れ

る。時々熱が入っお、研究に没頭するこずもあるくらいで、芏則正し

い生掻をしおいるようなのだ。

 床に散らばった資料を片付けながら、俺は倕呌先生の話に耳を傟け

る。

「そヌよ。前線が岐阜たで埌退しお時間が経っおいるの」

「  長野に入れば䟵攻が停滞したすね」

「えぇ。そうしたらアメリカが日米安党保障条玄を䞀方的に砎棄しお

圚日米軍を匕き䞊げるわ。既にその動きは捉えおいるのよ」

「歎史は繰り返す  䜿い方は違いたすが、オルタネむティノを遂

行するためには必芁なこずですよね」

「アメリカを敵に回しおおくには、もう少し日本で戊力を削っお欲し

いずころではあるのだけれど、そうも工䜜できないから仕方ないの

222

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よ。前の䞖界でも、アタシは工䜜しお倱敗したし」

「そうだったんですね  」

 既に岐阜以西はの手に萜ちおいるのだ。珟圚は䞭郚の

軍ず関東党域・東北から捻出された垝囜軍が前線で攻防を繰り広げお

いるんだずか。

 垝囜軍叞什郚を束代に移しおから、そこそこ時間が経っおいるずい

う。

「関東にが入っおから、─を出すっお話芚えおる?」

「芚えおたす。ずっず出さないのも内倖的に問題あるんですよね?」

 カタカタずパ゜コンに䜕かを入力しながら、倕呌先生はそんなこず

を切り出した。もうそろそろ準備をしなければならないのだろうか。

片付ける手を䌑めるこずなく、ナニットに関連する資料を芋た。

「その時に─も出撃よ。これたでずは違っお、─に

同行」

「単独行動じゃないんですね」

「圓たり前よ。関東圏での戊闘は垝囜軍ず囜連軍がごちゃごちゃに

なっお戊うの。叞什郚は別々でも、担圓戊域がずっ散らかっおお結局

どこのからの指瀺も受けるこずになるわ。アンタみたいな䞍審

機䜓、速攻序盀に手空きの郚隊に囲たれお連行よ」

「酷い  」

「た、アンタも知っおの通り、関東圏での戊闘は倚摩川絶察防衛戊で守

りきれる」

 その理由が、恐らく─の投入なのだろうか。それたで床重な

る防衛戊で疲匊ず摩耗を繰り返しおいる前線郚隊にずっお、損傷のほ

ずんどない連隊芏暡の戊術機甲郚隊は頌もしい増揎なのだ。

「早いずこ、アタシの手駒はたずめお眮きたい、っおのが─に䌝

える内容」

「指揮系統が独立しおたすからね、─っお」

「  それずアンタには他に頌みたいこずがあるのよ」

「頌みたいこず?」

「そ」

223

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「い぀もの奎ですか?」

「んな蚳ないでしょ。いや、それもあるけど、わざわざ頌たなくおもア

ンタは芋せ぀けおくるに決たっおるわ。  アンタに頌むのは、撃墜

された─の戊術機の爆砎よ。そうでなければ、ず電源ナ

ニットのある郚分を砎壊するだけでもいいわ」

 悪びれるこずもなく、倕呌先生は蚀い攟った。

「ず蚀っおも、やるのは戊闘が終わった埌よ。アンタは単独ないし残

存─郚隊ず共に、撃墜機䜓の捜玢ず砎壊をするだけ」

「そこたでしお垝囜ず囜連にを枡さない、ず」

「今はただね。興味をできるだけ惹いお、カヌドを切る。今はただそ

の時ではないの」

 倕呌先生の考えおいるこずは分からない。だが、俺からしおもただ

を倖に出すには早すぎるず思うのだ。

 ただもっずいいタむミングで、倧きなリタヌンになる䜿い所がある

筈なのだ。それにの開発が止たっおいるのにも理由がある筈

なのだ。俺の機䜓に搭茉されおいるからは、戊闘埌必ずデヌタ

の吞い出しが行われおいるが、アレは蓄積デヌタを解析しお次のもの

ぞ繋げるためだろう。

「今月䞭には埅機呜什を出すだろうから、それたでは暇しおおいいわ

よ」

「了解」

 ─は極秘郚隊だ。存圚しおいるこずにはなっおいるが、所属

する衛士の玠性が明かされるこずはない。甲号䜜戊で凄乃皇匐

型ず共に䜐枡島で自爆した䌊隅倧尉は、死亡理由を「教導䞭の事故死」

ず凊理された。前の䞖界でもあったこずだ。あの埌も、ノァルキリヌ

ズの先任は次々ず亡くなったのだ。きっず同じような内容を遺族に

送っおいたに違いない。

 分かっおいる。分かっおいるからこそ、遺䜓も遺品も焌华凊分され

るこずを分かっおいるからこそ、のために戊っお死んだ戊友の

亡骞を雑に扱うこずができるのだ。

 ドキュメントファむルに纏めた曞類を閉じながら、俺は近くに萜ち

224

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おいた戊死通知曞を芋぀めた。

 ※※※

 ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 ゚プロン﹈

 蚓緎が予定されおいた戊術機郚隊が発着するこずはあれど、ほずん

ど出入りがない゚プロンには䞖界各地に囜連軍があれどここでしか

芋るこずのできない、囜連軍仕様の䞍知火が堂々たる䜇たいで敎列し

おいる。

 俺はその列に玛れおいた。

『これより─は西関東防衛線ぞ進発する』

 連隊芏暡の䞍知火が列を成し、それぞれに搭乗する衛士は険しい衚

情を浮かべおいた。その目に映っおいるのは、今も䟵されんずしおい

る故郷の光景だった。

 党員の通信回線で蚓瀺をしおいるのは、─を任されおいる連

隊長。癜陵基地やここに匕っ越しおからも䜕床か芋る機䌚があった

が、こうしおたじたじず顔を芋るのも始めおだ。

 経隓豊富な囜連軍の衛士で、元々垝囜軍の衛士でもあった。圌もた

た、倕呌先生の策略によっお囜連軍ぞ転属になった内の人なのだ。

『光州䜜戊からこれたで、我々はによっお祖囜を䟵されるの

を黙っおみおいるこずしかできなかった。しかし、銙月博士はこの怒

りをぶ぀ける機䌚を䞎えおくださった』

 ─はほずんどが日本人で構成されおいるが、少なからず

によっお故郷を远い出された人もいる。だからこその蚀い回し

なのだ。日本人は珟圚進行系であり、それ以倖は過去圢。分かっおい

るからこその蚀葉遞びをしおいる。

『我々は未だ未熟だ。ずいう画期的なを頂戎したにも関わ

らず、発案者・開発者の満足行く皋の緎床を埗られおいない。ただ

─たる資栌を埗おいないのだ。それでも、この実戊に斌いおその

勇姿を芋せろずのご呜什だ。ならば応えようではないか。我々はた

だあぐらをかいお蚓緎しおいたのではないこずを。関東ぞ向かい、垰

還した我々は誰人ずしお欠けないこずを』

 倕呌先生はに぀いお、自分はず電源ナニットを提䟛し

225

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たに過ぎないず䌝えおいる。発案者はオルタネむティノの人間で

あり、開発も同じく倕呌先生の郚䞋が䜜ったこずになっおいるのだ。

そしお、その双方が─の技胜に぀いお満足しおいないこずも。

 技術者畑の人間が実戊のなんたるかを知っおいるのかず憀慚する

ずころかもしれないが、圌らは倕呌先生の蚀を知っおいるのだ。技術

者でありながらも、実戊を考慮した䞊で無茶なこずを蚀う。できない

のかず挑発するのだ。それを圌らは芋返えそうず奮起しおいた。

『今回の任務は─も加わり、䞍甲斐ない我々のために力を

貞しおくれる。我々は詊されおいるこずも心しおおくように』

 から䞀斉に出撃呜什が䞋る。

『─、出撃!!』

 機の䞍知火が䞀斉に飛び䞊がり、仙台の空を埋め尜くす。目

暙は囜連軍通山基地。東北から捻出された囜連軍郚隊が䞀堂に䌚す

る前線基地の぀だ。

 ─から遅れるこず、俺も圌らの埌を远うように噎射跳躍を開

始したのだった。

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 

  ﹇幎月日 囜連軍久留里基地﹈

 䜐枡島陥萜の報せは月䞋旬頃には届いおいた。実に呆気ない

最期だったらしい。

 長野たで進出した矀は北進を開始。犏井・石川県を萜ずし

お胜登半島東端の珠掲垂から日本海ぞ朜行、䜐枡島ぞ枡った。垝囜軍

ず囜連軍は早々に石川県攟棄を決めおいたため、あたり抵抗をするこ

ずがなかったこずから、呆気ない陥萜だったのかもしれない。

 䜐枡島ぞ枡ったは䟵攻停止。これは䜐枡島にハむノを建

蚭しおいるからだず思われ、偵察衛星から建蚭は確認されたため確実

ずなった。

 これを機ず芋たのか、アメリカ政府は日米安党保障条玄を䞀方的に

砎棄。残存圚日米軍を米海軍第艊隊毎匕き䞊げるこずになった。

暪須賀基地はもぬけの殻ずなり、長野県に展開しおいた守備隊も埐々

に埌退しおいったのだ。

 日本垝囜政府は匷い反発ずアメリカ政府に察する非難が圓然のよ

うに始たり、囜際䞖論にもアメリカの行いに疑問があがった。しか

し、アメリカはアメリカ至䞊䞻矩の囜だ。たた、に攻められ

おいようが、囜力が䞖界で䞀番ある。圓然のこずながら、䜕凊吹く颚

の態床で匷匕に傍芳者ぞず移ったのだ。

 しかしながら、圚日米軍叞什郚は垝囜軍ず極東囜連軍に眮き土産を

眮いおいった。─含む戊術機やその予備パヌツ、突撃砲・戊

車・自走砲・ロケット砲等の匟薬、医薬品・日甚品・食料たで。匕き

䞊げに際し、茞送艊や空母に茉せきれないから任せた、ず。

 垰還埌どうなったかは分からないが、米軍の将や匕き䞊げおいった

米軍の軍人たちぞの評䟡はそれほど悪くはなかったのだ。

 そうこうしおいるず、䜐枡島ハむノの建蚭が萜ち着き、これず同時

に長野県に停滞しおいた矀が南䞋を開始。関東北東郚で防

衛戊が始たったのだ。

 これをしおいる間に銖郜機胜の移転やら色々始たり、俺たちに盎接

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関わりのあるものずしお第蚓緎郚隊が仙台に移ったり、オルタ

ネむティノの研究斜蚭移転も完了した。

 俺を含めた─が仙台を出撃した頃には、銖郜圏が戊堎になっ

おいる頃だったのだ。泥沌の防衛戊は経隓しおいるが、前線の陥萜速

床が速いのは、恐らく守備隊の質の䜎䞋やそもそもの頭数が絶察的に

䞍足しおいるからだず考えられる。

 俺たちが降り立った基地はただ埌方ずいうこずもあっお、基地内も

そこたで雑倚になっおいない。

 久留里基地の゚プロンには、数時間前に到着した─ず─

の䞍知火が特別に甚意されたずいう区画に駐機しおある。そ

れぞれには簡易点怜ず掚進剀の補絊が行われおいた。仙台からの移

動分を補充し、い぀でも出撃できるように準備しおおくためだ。

 遅れるように、将校らを乗せた茞送機や保守資材等も到着し、

゚プロンには簡易的ではあるが兵舎や資材眮き堎が䜜られた。

「よぉ」

「こんにちわ〜」

 管制ナニットにある緊急甚の突撃銃を点怜確認しおいる俺の元に、

組の男女がやっおきた。栌奜は囜連軍の䜜業着ズボンにフラむト

ゞャケット、襟章を芋おから胞のりィングマヌクを芋お、─の

衛士であるこずをすぐさた理解する。

 突撃銃を䜜業しおいた机の䞊に眮き、圌らの方を芋お俺は思い出し

た。

 仙台基地に移っおすぐのこず、ハンガヌ前で話しかけおきた人組

だったのだ。あの時は勝手に俺のこずを敎備兵だず勘違いしおいた

が、この状況や事前に俺のこずを聞いおいるずいう霞情報から掚察す

るに、芋かけたから話しかけたずいうこずろだろうか。

「こんにちは」

 無難に返事をしお人を再床芳察する。やはり、どこかの衛士たち

のような雰囲気は党く感じられない。

 俺の目の前たでやっおくるず、いじっおいた突撃銃を芋䞋ろした。

「その突撃銃、よく敎備されおいるずいうか防錆コヌティング剥がれ

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おきおないか?」

 確かにコヌティングは剥がれおきおいるかもしれない。元々管制

ナニット備え付けの突撃銃はなかったのだ。䞍知火が運び蟌たれた

癜陵基地で敎備兵が気付き、基地のお叀を収めおくれたのだ。

 お叀ずはいえただただ䜿えるものだったずいうのだが、匕き枡され

たモノを芋れば䜜動しないこずは䞀目瞭然。サビはしおいないもの

の、手入れがされおいないこずはひず目芋ただけで分かった。

 結局敎備をしおは詊射しお、調敎しおは詊射をするこずを繰り返し

おいた。そのため、俺の機䜓の突撃銃は故障しやすいものだずいう認

識があった。䜕床も䜕床も点怜しなければ気が枈たなくなっおし

たったのだ。

 そういった突撃銃であるのならば、コヌティングが剥がれおきおい

るずいうのも玍埗ができる。䜕床も䜕床も拭き䞊げたり磚き䞊げた

りしおいれば、その分衚面は摩耗しおくる。コヌティングが剥がれる

ずいうこずは、䜿い蟌たれた突撃銃であるず蚀えるのだが、衛士は滅

倚に持぀こずのないものず考えれば、蚓緎郚隊の突撃銃のような俺の

突撃銃にそういう感想を持っおもおかしくはないのだ。

「たぁ  よく敎備したすからね」

「そうか。気䌑めくらいにしか思えないが、少尉の蚀う通りかもしれ

ないな」

 男性衛士は机の偎から俺の䞍知火を芋䞊げ、巊肩に印字された識別

番号を口ずさむ。

「  ──。タスクフォヌス、か」

 ─。郚隊名称も䞎えられおいない極秘䞍正芏郚隊。

─よりも郚隊構成員が少なく、それ故に情報も少ない、ずいうこ

ずになっおいる。

「癜銀少尉」

「なんですか?」

 アッパヌレシヌバヌを閉めおピンで固定し、ボルトの様子を芋おい

るず男性衛士が俺の方を芋おいた。

「君が─の衛士であるこずは知っおいる。しかしな  あ

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の俺たちを負かせた吹雪や䞍知火の衛士ずは思えないんだ」

「  俺は間違いなくヌの衛士ですよ。たぁ、少尉の蚀わ

んずしおいるこずは䜕ずなく分かりたす」

 今幎で歳。初芋では敎備兵ず間違われたくらいだ。この歳で

衛士になっおいる日本人はほずんどいない。それこそ、戊時城甚で繰

り䞊げ任官になった斯衛軍の蚓緎兵くらいだろう。

 敎備の終えた突撃銃を机に眮き、油で汚れた手をぶら぀かせながら

男性少尉の問いに答え続けた。

極秘蚈画

オルタネむティノ

「ですがお人の聞いおいる通りです。それにあたな方は

実行郚隊



─





の

。俺も別郚隊ではありたすが、同じく極秘蚈画の実行郚隊

です。説明にもあったず思いたすが、俺たちは蚈画のためならばどん

な戊堎にでも赎きたす。時には非人道的な任務や、苊枋の決断を他の

郚隊よりも迫られるこずがあるでしょう」

「分かっおいる。分かっおいるから、俺も所属しおいるんだ」

「ならば分かるず思いたす。それは敵だけではなく、味方にも向けら

れるんですよ。"倧䜐"はそのためならば、自分の手が幟ら汚れよう

が厭わない。その手で民間人を手に掛けるこずもありたすよ」

「  」

 男性衛士はもちろんのこず、黙っお聞いおいた女性衛士も苊虫を噛

み朰したような衚情をする。

「俺の話でしたね。  たぁ、連隊を通しお聞いおいる通りです」

 どのような話になっおいるのかは、霞から断片的にしか聞いおいな

いから党䜓像は俺にも分からない。だが、倕呌先生のこずだから、倉

な脚色をしおいたりするこずは間違いない。蚂正するのにも疲れる

し、そのたたの方がいいだろうなんお考えながら人の反応を芳察す

る。

「  じゃあ癜銀くんは、発案ず開発衛士で、光州にも参加し

お、その䞊、今回の本土䟵攻にも前々から参戊しおいたっおこず?」

「はい。の発案は俺ですけど、開発は極秘蚈画芁員の人が行い

たした。開発衛士も、結局俺しか務たらないこずだったので俺が。光

州には─ずは別で任務が䞎えられおいたしたが、最埌は䞀緒に

230

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戊っおたんじゃないですかね? あの時は䞍知火に乗っおなかった

ので分からないずは思いたすけど  。今回の件も機密でお教えで

きたせんけど、光州の時から乗っおいた機䜓が駄目になるくらいに

は」

 悲痛な心情が顔に浮かび䞊がっおいる様子。十䞭八九勘違いしお

いるだろうが、蚂正するずなるず骚が折れる。少し様子を芋るこずに

した。

「  それであの匷さかぁ。囜連軍の蚓緎郚隊っおどんな蚓緎をしお

いるのかな? 癜銀くんが─の衛士であれだけ匷いっお

なるず、盞圓な蚓緎なんだろうなぁ」

 俺の所属しおいた蚓緎郚隊。囜連軍第衛士蚓緎郚隊は、蚓緎

兵の少ない郚隊だ。そもそも─専甚の蚓緎郚隊ずいうこずも

あるため、いわゆる遞ばれた人間しか所属するこずができない。

「普通の蚓緎郚隊ですよ。歩兵ずしおの基瀎蚓緎に、総戊技を終えた

ら適性怜査をしお戊術機。人の出身郚隊ず倉わらないですよ」

「そうなのかなぁ。  私の蚓緎郚隊、ず蚀っおも─に来る新

任少尉たちは皆、同じ教官から扱かれるんだけど、あれ以䞊に厳しい

のかっお思うず寒気がしおくるよ」

「少尉の蚓緎郚隊ですか。俺のいたずころの教官もそうですよ。無茶

苊茶厳しくお、怖くお、それでいお優しい教官でしたよ」

「分かるなぁ。蚓緎兵時代は鬌教官ずか蚀っお嫌っおたりしおたけ

ど、卒業しおみるずね」

「えぇ」

 今頃仙台で新しい蚓緎兵に怒鳎り散らしおいるであろうたりも

ちゃんの顔が脳裏に浮かんで芋える。

 恐らくではあるが、─ず同時に蚭眮された第蚓緎郚隊

の教官は最初からたりもちゃんだ。恐らく、目の前の人もたりも

ちゃんに扱かれたのだろう。少し青い顔をしおいるが、衚情は誇らし

気だ。

 気持ちはずおも分かる。俺も同じ教官の元で育おられた衛士なの

だから。

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「たぁでも、俺は満足に教育課皋を終わらせおいない繰り䞊げ任官し

た新任少尉です。そこは少し違うかもしれないですね」

「繰り䞊げ任官?」

「蚓緎兵の間に実戊を経隓しおいるんですよ。配属埌もすぐに倧芏暡

䜜戊でしたし」

 これだけ話せば、恐らく人の頭の䞭で掚枬が始たっおいるだろ

う。

 蚓緎兵だった頃に実戊を経隓しおいるずいうこずは、光州䜜戊時に

繰り䞊げ任官をしおいるずいうこず。光州で生き残った埌、本土䟵攻

に投入。どこかのタむミングで倕呌先生に拟われ、の開発に携

わった、ず。

 俺は急かすように話を匷匕に切り替えるこずにした。これ以䞊、俺

の話自身の話をしたずころで仕方がないからだ。

「そう蚀えば、お人の名前は?」

「私、遠乃 優莉」

「兵藀 盎也」

 遠乃 優莉ず兵藀 盎也。俺が知らないのも無理はない。前の䞖

界で、俺が来た時には人ずも戊死か埩垰できない状態になっおいた

のだろう。

「改めお、俺は癜銀 歊です。よろしくお願いしたす」

 䞍知火を芋䞊げながら、人にここぞ来た蚳を聞き出す。

「そういえば、䜕故ここに?」

「特に理由はないんだ。ただ、あの時ハンガヌの前で䌚った君が衛士

だずいうこずが信じられなくお、こうしお䌚いに来おみたの。そうし

たら、本圓にいたから驚いちゃった。同じ匷化装備だし、─

の䞍知火の足元にいれば疑う䜙地もないよね」

「そうでしょうね﹈

 ─ずは違い、─は戊闘員が俺だけしかいない。

も基本的には付いおいない。それは実戊郚隊で最前線で戊うのな

らばどうなんだずいう話ではあるのだが、今回に限っお蚀えばどこか

しらの郚隊ぞ䞀時的に所属するこずになっおいる。指揮暩は独立し

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おいるものの、やるこずは防衛戊だ。遊撃も遊匋もする必芁がなく、

戊域に留たっお戊うこずになる。京郜防衛戊ず同じような状況にな

るのは必至だ。

 話を戻すが、敎備兵も基本的には─の敎備兵が俺の機䜓の敎

備を行う。そのため、─に割り圓おられた区画には人がい

ない。だから人は、俺が正真正銘─の衛士であるず認め

るこずができたのだ。

「あ、そういえば癜銀くんが䞀時的に組み蟌たれるの、私たちのノィリ

ノェヌズなんだよ。戊堎でもよろしくね」

「はい。よろしくお願いしたす」

 ノィリノェヌ䞭隊。挔習の蚘憶を掘り起こしお思い出す。特別匷

い蚳でも匱い蚳でもなかった、─の䞭では䞀般的な匷さの䞭隊

だろう。

 ただ、劙に目がいい印象があった。それ以倖では特にない。

「最初はデリングスっお話だったけど、今回は私たちよりも若い新任

少尉がいるからっお、そっちは倖されたみたい」

「そうだな。鳎海ず平、だったか。人の面倒を芋るのに粟䞀杯ずか

なんずか」

 これたで黙っおいた兵藀少尉が話に入っおきた。

 鳎海に関しおは聞き芚えがある。速瀬䞭尉関係で聞いたような気

がするが、話した内容もそこたで倚かった蚳ではないのであたり芚え

おいない。平に関しおは、鳎海以䞊に聞き芚えがなかった。

「それはずもかくずしお、これから䞀緒に飯でもどうだ?」

「はい。ご䞀緒したす」

 俺が突撃銃を眮いおから䜕もしおいないのを芋おか、兵藀少尉が

誘っおきた。断る理由もない俺はすぐに応え、突撃銃を管制ナニット

に片付けるず匷化装備からい぀もの䜜業着ずフラむトゞャケットに

着替えお─の仮蚭食堂に向かったのだった。

 ※※※

 ﹇同幎同月日 埌玉県 囜道号 秩父戊域﹈

 長野県束本垂で停滞しおいた矀が再床䟵攻を開始した連

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絡を受けた─は久留里基地から党力出撃。䞀床は奥倚摩に展

開したものの前進し、秩父西郚の田村に陣を匵っおいた。

 この戊域で戊っおいるのは、䞭郚ず関東の垝囜軍ず北陞の囜連軍郚

隊だった。北関東の郚隊に吞収されたものの、無傷である郚隊は埌方

に配眮し、吞収された郚隊は前衛に配眮しおいる。

 地の利がある圌らが前衛にいた方が䜕かず郜合がいい、ずいうのが

叞什郚の方䟿だ。だが実際には、元々自分らの指揮䞋にあった戊力を

枩存しおおくためだった。たた、前衛配眮ずなった郚隊は旧匏装備で

あったり、かなり耐久倀も限界が近いものが倚かったりするずいうの

も実情であったりもする。

 持ち回りで機䞊埅機をしおおり、先皋亀代したばかりだ。俺が䞀時

的に配属されたノィリノェヌ䞭隊ずデリング䞭隊が間隔を開けお、西

偎の山岳地垯を睚み぀けおいる。近くには他の囜連軍郚隊も展開し

おおり、垝囜軍郚隊は秩父南郚の方に展開しおいる。

 理由ずしおは、山梚県南郚の富士吉田に垝囜軍富士教導団が展開し

おおり、長野県陥萜前にも出撃し戊果を䞊げおいた。たた、東京が近

いずいう理由もある。埌方垝囜軍郚隊埌方には小田原・盞暡原・入間

ずそこそこ倧きな垝囜軍基地が点圚しおいるこずも理由ずしお挙げ

られる。埌退しおも再線成や連携の取りやすさを考慮したのだろう。

 䞀方で囜連軍郚隊はずいうず、防衛戊でも北方の倖瞁郚に集䞭配備

されおいる。垝囜軍ずの取り決めではあるのだが、いかんせん支揎の

手が薄くなる内陞郚であり、最寄りの基地も少ない。かなりやり蟛い

状態にあるこずこの䞊なかった。

『しっかし、前線はどうなっおいるんだろうな? さっきも損傷の激

しい戊術機が埌退するのを芋たが、あれじゃあすり朰されるのも時間

の問題か?』

 ノィリノェヌ䞭隊の衛士がボダく。党員が心の内で思っおいるこ

ずを口に出したらしい。振動センサヌには埮匱ながら戊闘でしか発

せられないモノを怜知しおいる。それが段々ず近付いおきおいるこ

ずも。

『前衛に配眮されおいたのは、北陞の囜連軍郚隊。基本装備は─

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か─かだ。それに絶察数も足らないず聞く。そう遠く

ないタむミングで俺たちの出番も来るだろうな』

『垝囜軍の方は少し善戊しおいるみたいだけど、かなり根性論で抌し

通しおいるみたいね。それに倪平掋から艊砲射撃もあるみたい。射

皋距離内なら面制圧もできおいるみたい』

 そんな声がオヌプン通信から聞こえおくる。俺も接続はしおいる

ものの、答えるこずはない。静かに遠くの尟根を睚んでいるだけだ。

『倧䜐からのオヌダヌは、東京の防衛。埌は奜きなようにしおいい、ず

いうこずになっおいる』

『倧尉はどう思いたすか。今回の出撃は?』

 そんな通信に䞭隊長も混じっおきた。機䞊埅機は暇ではあるが、基

本的に即応埅機ず倉わらないために私語を泚意するこずはないのだ。

戊闘時に切り替えれば問題ないずいうこずなのだろう。

『連隊党䜓ずしおは、恐らく奥倚摩蟺りたで攻められないず出撃呜什

は出ないか、もしくは関東を砎られるたで出撃はないんじゃないかず

蚀われおいた。だから今回の出撃は倧䜐の気たぐれか、もしくは悪い

癖でも出たんじゃないか?』

『そういえば、癜銀に負けお以来実機蚓緎は片手で数える皋しかしお

たせんからね』

『仕方ないだろう。俺たちがの性胜を十二分に発揮できおいな

いのだから。これだけの物を䞎えられおおいお持ち腐れおいれば、倧

䜐であろうず怒るのは圓たり前だ。それに、俺たちが䜿いこなせおい

ないずいうのは本圓のこずだからな』

『その䜿いこなせおいないっおのが気に食わないですよ。確かに癜銀

の動きはであれば再珟できるかもしれたせんが、俺たちには無

理だ。根本からしお違いたすよ』

『倉わらんよ、俺たちずは』

 俺の話を持ち出した小隊長の疑問に、倧尉が返事を返す。聞いおは

いたが、小隊長の様子を芋る限り本圓に気に入らない、ずいった様子

のようだ。

『の䟵攻が確認される前、兵藀ず遠乃が癜銀ず話したようだ。

235

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癜銀の䞍知火は、俺たちの機䜓ず䜕ら倉わりないものだずいう。吹雪

もそうだ。機皮転換で乗った吹雪ず同じ。アレにず電源ナ

ニットを茉せ替えお、をむンストヌルしただけのものだそう

だ。俺たちが敵わなかったのは、に察する理解や熟緎床が足り

なかった。もしかしなくおも、衛士ずしおの腕も及ばない』

『そうはいいたすがね倧尉』

『貎様の蚀いたいこずは分かる。だがな、事実ずしお同じ䞍知火を

䜿った癜銀に䞭隊毎ではあるが連隊を党滅させられおいるんだ。そ

の事実があった䞊で、倧䜐が䞍満足なのも圓然のこず。どれだけ掛け

お開発されたのか分からないにず電源ナニット。これ

だけの物を䞎えられお、今たで通りなんお郜合が良すぎる。俺たちは

極秘蚈画のためにも、その力を䜿いこなさなくおはいけないんだ』

『  分かっおたすよ、倧尉。垰ったらたた蚓緎挬けですよね』

『そうだ。もし撃墜なんかされおみろ。仙台で癜銀少尉盎々で蹎り回

しおもらうからな』

『それは勘匁しお欲しいです!』

『ずいうこずで頌めるか、癜銀少尉?』

 急に話を振られたが、話は聞いおいたのですぐに答える。

「了解。䞊官ずか無芖しお蹎り回したす」

 ここで俺はふず思い出した。玔倏が蚀っおいたこずだ。

「あ。䞍知火であやずりできたら、蹎っ飛ばすのを匘前蟺りで勘匁し

おあげたすよ」

『ちょ!? 戊術機であやずりなんかできる蚳ないだろ!!』

「開発に携わった技術者ができるず蚀っおいたので」

 機䞊埅機も暇になっおきたずころだったずいうこずもあり、䞀床

に攻められお廃墟になった秩父の街の適圓な切れた電線を探

す。

 突撃砲ず倚目的远加装甲を傟いたビルに立お掛け、切れた電線の䞡

端を結び、手に通した。

 前の䞖界で霞ず遊んだこずを思い出しながら、適圓に箒を䜜っお芋

せおみる。

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「旧では握ったり、開いたり、぀たんだり、掎んだりするこずが基

本動䜜でそれ以倖はやりたせんからね。はそれ以倖のこずも

できるようになっおいるんですよ」

『䞍知火があやずりをしおるずいうのは䜕ずも蚀えない光景だが  

本圓にできるんだな?!』

 戊術機があやずりをしおいる光景なんお、かなり倉な堎面かもしれ

ない。䞭隊党員がポカンずした衚情をしおいる。俺は気にするこず

なくほうきを解き、梯をやっおみた。

 少し苊戊はしたものの圢になったため、そのたた芋せおみる。

『  それがを䜿いこなす、ずいうこずなのか?』

「たぁ、近いですね。キャンセルず先行入力でできたすが、コンボは別

です。蓄積デヌタから自動で機䜓が動䜜したすが、積極的に䜿っおい

かないず意味がないですからね」

『コンボはどうなんだよ』

「コンボは䞻に回避で䜿う機胜です」

『急に実戊の話をするなよ』

「たぁ、他にいい説明の仕方を思い぀かなかったので。  コンボは

さっきも蚀いたしたが、回避の時に䜿うのが有効ですね。同じ動䜜を

する堎面もコンボずしお凊理しお、動䜜の最䞭にキャンセルず先行入

力を入れれば、かなり動きにキレが出たすし人間的になりたす」

『癜銀なら、䟋えばどんな時に回避を䜿うんだ?』

「えヌ  どんな時でも䜿いたすよ。混戊時はそうですし、光線玚の

回避でもいく぀か甚意しおおけば問題ないです」

 党く分からん、ず蚀いた気な小隊長の衚情に苊笑いを浮かべ、倧尉

の方に芖線を向けた。

『倧䜐から聞いた話だし、俺たちも実際に挔習で芋たが、癜銀は空を飛

ぶ。光線玚がいる戊堎でも空を飛ぶずのこずだ』

 通信がざわ぀くが、倧尉は気にするこずなく話を続けた。

『光線回避にもは䜿える。旧の乱数回避機動よりも䜿いよ

うによっおは、回避率が高いずいう。実戊デヌタも癜銀が実際に取っ

おいるずのこずだ。光線を回避しろずは蚀わん。だが、䜿いこなしお

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みせろ』

 電線を捚お、突撃砲ず倚目的远加装甲を拟い䞊げお、再び尟根の方

に芖線を向けた。

 党員譊戒しおいるものの、口ではの話ばかりをしおいる。戊

闘機械であった戊術機があやずりをしお芋せ、それがを䜿いこ

なすこずでできるこずだず蚀っおしたえば、話題は自然ずそちらぞず

向かっおいっおしたう。

 そんな䞭隊の声を聞きながら、俺は迫り来るにチリチリず

闘志を燃やし始めたのだった。

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 

  ﹇幎月日 埌玉県 ずきがわ戊域﹈

 が秩父に接近しおきたのは、機䞊埅機を亀代しおから

時間皋経っおからのこずだった。䌑憩に入っお、匷化装備のたたお手

掗いや絊氎をしおいるず、急報が入ったのだ。

 垫団芏暡の矀が八ヶ岳・倩狗岳を越え、埡座山、諏蚪山ず

東進を続けおいるずいう。たた、南䞋も同時進行しおいるらしいずい

う情報もあった。

 これに察するは、秩父戊域に展開しおいる囜連軍個戊術機甲連隊

ず地䞊戊力で察凊するこずを叞什郚から呜什が䞋された。

 こうしお戊闘が開始された蚳ではあるのだが、囜連軍叞什郚の䜜戊

配眮に問題があった。

 俺たちの配眮されおいる秩父戊域は山ず山に囲たれた谷に䜍眮し

おおり、束本から東進する矀は䞡神山を越えおからは秩父方

面に芖界が開ける。

 䞀床䟵攻されたこずもあっおか、の䟵攻路の山岳地垯は掘

削ず面制圧によっお、かなり暙高が萜ちおいるからだ。

 ぀たり、本来であれば自然の芁害ずなるはずだった山岳地垯は、奇

しくもによっお有利な状況を䜜り出しおしたっおいた。そ

しお、この事実に囜連軍叞什郚は気付いおいなかった。

 ─を通しお再䞉連絡したのだが、そのような事実はないの䞀

点匵り。これにより、実力による配眮転換もできない八方塞がりな状

況のたた防衛戊ぞず突入するこずずなったのだった。

『オヌディンより─に告ぐ! 秩父垂街戊域を攟棄し、残存

囜連軍郚隊ず共にずきがわたで埌退する!』

『より─! 䜕をしおいる!! 持ち堎を離れるこずは重倧

な軍芏違反䞊びに敵前逃亡であるぞ!!』

『頭の匱い叞什郚の呜什なぞ聞いおいられるか!!』

 ─の連隊長を兌任しおいる第倧隊の厎山 健䞉䞭䜐が囜

連軍叞什郚の指揮䞋から倖れ、そのたた埌方に控えおいた防衛線たで

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埌退したのだ。

 これたでの間に─は個䞭隊半を撃墜されおおり、党おの機

䜓がしおいた。その他にも同じ戊域に配眮されおいた囜連軍

郚隊も半数が倱われおおり、本来であればただ保おたであろう戊域を

叞什郚の倱策でいたずらに兵力を倱っただけになったのだ。

 ずきがわたで埌退した囜連軍残存郚隊は、そのたた東束山ず日高を

結ぶ防衛線に合流。第防衛線の山岳地垯に配眮するこずずなった

のだ。

『テュヌルズ、゚むルズは党滅。その他䞭隊にも幟らか撃墜が出たか

  』

 撀退の殿を務めた俺は、撃墜された友軍機の確認を党お枈たせおい

た。

 基本的に撃墜された機䜓の倧半は光線属皮の攻撃によるものだっ

た。管制ナニットが融解、ごっそりず消え去っおいた。

 撃墜された機䜓からの残骞を発芋される蚳にはいかないた

め、倕呌先生からは砎壊任務が蚀い枡されおいたが、その必芁もない

ものがほずんどだった。

 光線玚によるもの以倖だったずしおも、残る党おは突撃玚や芁撃玚

に朰された埌、戊車玚によっおバラバラに食い散らかされおたずいう

こずもあり、砎壊する必芁もない状態になっおいたのだ。

 党おのを目芖で確認した俺は、殿を共に努めたノィリノェヌ

䞭隊ず遅れおずきがわ戊域に埌退するこずができた。

 戊を亀えた埌ではあったのだが、─の空気は久留里や奥倚

摩から秩父に移った盎埌ずは党く違う様子に倉わっおいた。

『もう個䞭隊もやられるなんおな』

『やめおよ  どうしおよ  』

『別にテュヌルズも゚むルズも─の䞭では粟鋭だったんだ。そ

れが䞀床にあんなやられ方するなんお』

 テュヌル䞭隊・゚むル䞭隊は日本人ばかりで構成されおいる─

の䞭で、珍しく倚囜籍な郚隊だった。極東囜連軍の䞭から遞ばれた

衛士ばかりで構成されおいたずいうこずもあるが、日本垝囜籍の倖囜

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人も䞭には存圚しおいた。囜内では少し蚳ありずしお凊理されがち

な衛士を集めたずいうこずもあるのだが、圌らはかなり士気が高い郚

隊でもあったのだ。

 そんな䞭隊が、連隊長のオヌディン䞭隊やその他新任少尉たちが配

属されおいる䞭隊を逃がすためだったり、救出のためだったり。

梯団を受け止める受け皿になったりもした。だからか党滅する

のは必然だったのかもしれない。

 その他にも新任少尉やそれなりの経隓を積んでいる衛士も撃墜さ

れおしたっおいた。その事実を受け止め切れおいないのは、未だに生

き残っおいる新任少尉らだったのだ。

『お前らいい加枛にしろ!! これが戊堎なんだよ!! グゞグゞ蚀っお

る暇なんおねぇんだよ!!』

 そんな新任少尉を芋かねおか、どこかの郚隊の䞭尉が怒鳎った。

『䞭々出撃呜什を出さない博士に業を煮やしおただろうが!! お前ら

の埅ちに埅った実戊で、仲間が䜕十人ず消えたくらいでメ゜メ゜しお

んなよ!! 圓たり前なんだよ、これが実戊で最前線なんだよ!!』

 蚀い方は酷い。それでも真剣さは䌝わる。俺が今たでに掛けられ

た蚀葉ずは違う、別の重みを感じた。

『運が良いずか悪いずか、熟緎ずか新任ずか、そんなモノはの

前では無意味だ。だからお前らは目の前のこずだけに集䞭しろ』

『生きお垰るのよ。そしお戊い続けるの。皆の生き様を、私たちが語

り継がなくちゃいけないの。いい?』

 次々ず先任たちが恐怖に慄く新任少尉たちに蚀葉を投げかける。

 出かかった蚀葉を抌し蟌めた俺は、䞊ぶバストアップりィンドりを

芋おから戊域デヌタリンクを確認する。

 重金属雲からは脱出しおいるこずもあっおか、呚囲の郚隊ずのデヌ

タリンクは正垞に接続できおいる状況にあった。それによっお、最前

線での状況が逐䞀曎新されおいく。

 いち早く進展があったのはやはり秩父戊域だった。戊闘郚隊の倧

郚分がずきがわたで撀退しおしたったこずもあり、矀は秩父

垂街東郚を早々に突砎。分厚い山間郚からの砲撃によっお、それなり

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に削るこずができたずいう報告は入っおきおいる。

 ずきがわに展開しおいるのは、秩父から埌退しおきた─ず䞀

個増匷倧隊芏暡。地䞊戊力も、垂街地でゲリラ戊を行う予定だった機

械化歩兵が個倧隊残すのみずなっおいる。

『レゞメント・リヌドより連隊各機。呜什を䞋す』

 戊術デヌタリンクによっお、珟圚俺たちが展開しおいるずきがわ戊

域のマップデヌタが衚瀺された。珟圚確認できおいる友軍戊力は秩

父から撀退しただけずなっおおり、山や䞘に隠れる圢で分散配眮され

おいる。

 の進路は山間郚を通過しお、真っ盎ぐずきがわに向かっお

くる予想だ。

 たた、垝囜軍が展開しおいる南郚に向かった梯団はそのた

た南䞋を続けおおり、既に戊闘状態に突入しおいるずいう。これを支

揎するため、日高以南の囜連軍は垝囜軍の支揎を開始したずのこず。

 これによっお、囜連軍は東束山・ずきがわ・日高の郚隊だけで垫団

芏暡矀に察凊しなければならなくなっおいた。

 矀を効率よく被害を最小限に留めお殲滅する方法を暡玢

した、東束山・日高の囜連軍叞什郚は、限られた火力ず装備を甚いた

防衛戊を匷いられおいた戊堎の教蚓を掻かすこずを決断。予備郚隊

は控えさせるものの、砲撃ず航空戊力による面制圧を䞻目的にした䜜

戊を提案するこずずなった。

光線玚吶喊

レヌザヌダヌクト

 叞什郚が欠員の出おいない戊術機甲䞭隊に察し、

をする

ように呜什を䞋したのは。勿論、残りの郚隊は光線玚吶喊の陜動のた

めに前衛を匕き぀ける。

『我々はずきがわ戊域で矀を受け止める。埌続の光線属皮を

匕き摺り出し、光線玚吶喊を行う郚隊の露払いを行う。これには個

倧隊を圓お、残りの郚隊で前衛の足止めを行う。露払いは䌊

藀の倧隊に任せる。ある皋床のずころたで誘導が完了次第、俺たちの

方に合流しろ』

『了解』

『䌊藀倧尉の倧隊をαずし、陜動に残る俺たちをαずする。α

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は各䞭隊に別れ、埌方の機甲郚隊ず協力し遅滞戊闘を行う。できる限

りずきがわにを匕き぀け、この戊域での面制圧を目指す』

 マップデヌタが倉わり、西北西からアむコンが進み出る。

『極東囜連軍いわき基地から、─戊略爆撃䞭隊によるずきがわ

戊域に絚毯爆撃を行う。この時たでに、南方に進出した梯団

に光線玚が確認されおいないか、垝囜軍によっお排陀されおいるこず

を前提ずしおいる』

 個のアむコンがずきがわ戊域を旋回し、北東方面ぞず飛び去

る。

『絚毯爆撃ず砲兵による面制圧の埌、遅滞戊闘を行っおいた郚隊は攻

勢に打っお出る。残敵掃蚎を行いながら、可胜な限り前線を抌し返

す』

 厎山倧䜐の垌望ずいうよりも、囜連軍叞什郚の垌望ずしおは秩父以

西たで取り戻したい様子ではある。しかし、十䞭八九その垌望は通ら

ないだろう。

 予備䜜戊も無論甚意しおいる。

 もし、垝囜軍が甲府で光線玚の排陀ができなかった堎合、ずきがわ

ぞ飛来する戊略爆撃䞭隊は光線玚の逌食になるのだ。

 珟状、南䞋䞭の梯団に光線玚は確認されおいないため、恐

らくではあるが䜜戊は可胜であろうずいうのが叞什郚の芋解だ。

 戊略爆撃䞭隊が壊滅しおしたった堎合、叞什郚は東束山ず日高の攟

棄しお垞総あたりたで埌退し、態勢を立お盎すこずになる。

 垝囜偎ずしおは、この倱敗した堎合に起きるこずはできるだけ避け

たいずころだ。

 䜕故なら、西日本からの避難民や囜内の生産拠点等を北関東や東北

に䞀時的に移し、東南アゞアやオセアニアぞ疎開させる甚意をしおい

るずころだったからだ。これらが壊滅しおしたうず、垝囜は立ち行か

なくなっおしたう。

 そうなれば垝囜は䜎䞋した囜力を回埩する術を党お倱うこずにな

るのだ。

 垝囜軍は南䞋する梯団に察し、富士教導団の䞀隊が挺身突

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撃隊ずしお突入。光線玚の存圚を目芖で確認するらしい。

 今回の攻勢は、奇しくも囜連軍の働きによっお垝囜のこれ

からが決たっおしたうのだ。

 ※※※

 ﹇同幎同月同日 ずきがわ戊域北郚﹈

 囜連軍による光線玚吶喊は倱敗に終わった。突入した─

の個䞭隊は、矀䞭衛ですり朰されおしたったからだ。暪っ

腹を突いた぀もりが、タむミングが早すぎたのだ。

 光線玚は矀でも埌衛に䜍眮しおいるからだった。

『ハむクラむムスが党滅!?』

『より戊域に展開䞭の戊術機甲郚隊ぞ。珟圚、光線玚吶喊第二波

の郚隊遞定を行っおいる。遅滞戊闘に集䞭せよ』

 光線玚吶喊第䞀波を行ったハむクラむム䞭隊の反応が消倱したの

だ。

 谷間を転々ず移動しながら聞こえおくる通信は、どれも悲痛なもの

ばかり。戊力が圧倒的に足りおいない状況な䞊、捻出した戊術機䞭隊

は党滅したからだ。

 ゞリゞリず前線が抌され぀぀あり、遅滞戊闘を行っおいたずしお

も、これではすり朰されるのも時間の問題だった。

『どうするんだよ!! あっちには光線玚吶喊ができる郚隊は残っおい

るのか?!』

『叞什郚は怜蚎䞭だ』

 将校も定型句ばかりの返答する。恐らくでもでも混

乱を起こしおいるのだろう。

 山間郚での光線玚吶喊。野戊で行うものよりもかなり成功䟋の倚

いものだったからだ。

 ハむクラむム䞭隊も盞圓な粟鋭の䞭隊だったのだろう。それが光

線玚集団に到達するこずなく党滅しおしたうこずは、誰が想像しただ

ろうか。

 誰かしらは想像しおいただろう。ずの戊闘でポゞティブ

なこずを考えおはいけない。その圧倒的な物量に抌し぀ぶされおし

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たうからだ。

「よりオヌディン」

『こちらオヌディン。どうした?』

 俺は通信を開き、谷を通過する芁撃玚ず戊車玚の集団にバヌスト射

撃を行いながら進蚀した。

「光線玚吶喊には俺が向かいたす」

『なっ  ?! 、それは認められない。どれほどの数がい

るのかも確認できおいない状況だ。そんな䞭、垫団芏暡矀埌

衛に単機突入するこずを蚱せるず思うか?』

「では、俺たちで行きたしょう」

 この状況をひっくり返すのならば、ハむクラむム䞭隊よりも高緎床

な郚隊が任務を請け負わなければならない。

 そう考えるならば、他の郚隊ず比べお比范的損害の出おいない─

が匕き受ける他ないのだ。

『しかし、俺たちはここで遅滞戊闘をしなければならない。東束山ず

日高に䜙剰戊力はなく、─から抜けた郚隊分を補充する䜙力は

残っおいないんだ』

 厎山䞭䜐の蚀う通りなのだ。珟圚のこの戊線もではあるが、䜙剰戊

力は満足に残っおいない。予備機皋床ならばあるだろうが、操瞊する

衛士の数は足りおいないのだ。

 だが手がない蚳ではない。

「─からどこかの䞭隊の抜けた穎は、どれだけ持たせるこずが

できたすか?」

『  恐らく時間も持たないだろう』

「それくらいあれば十分ですよ」

 俺は考え出した案を口にした。

「俺ず個䞭隊は戊線から突出。矀を飛び越えお、盎接光線

玚集団を叩きたす」

『っ?!』

 あんぐりず口を開けお驚いおすぐ、い぀もの衚情に戻した厎山䞭䜐

は決断を䞋した。

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『  分かった』

「ありがずうございたす」

『しかし  できるんだな?』

「やるんですよ」

『そうか。  これよりノィリノェヌズはず共に光線玚殲

滅に向かえ』

『「了解」』

 厎山䞭䜐のバストアップりィンドりが閉じるのず同時に、入れ替わ

るように別のバストアップりィンドりが開かれる。は『 ─

 ─ 』ず衚瀺されおいた。

 ノィリノェヌ䞭隊はどちらかず蚀うず埌衛向きの郚隊だ。通垞戊

闘時では俺ず盞性がいいかもしれないが、光線玚吶喊ずなるず話は別

だ。

 俺を前衛に眮き、䞭隊がその埌ろず埌衛を務める陣圢になるだろう

ず思うが、敵䞭を進むのであれば党呚譊戒をしなければならない。も

しかしたら、偎面攻撃で埌衛が削られる可胜性があるのだ。

『ノィリノェヌより。我々はハむクラむムスずは違う進

路を執る。それに盞違ないな?』

 気品のある話し方をする、歌舞䌎をやっおいたならば女圢をしおい

そうな衛士がノィリノェヌ䞭隊の䞭隊長を務める垂村倧尉だ。

「よりノィリノェヌ。基本方針は先皋オヌディンに䌝

えた通りです」

『怖気づいた぀もりはない。しかし、可胜なのか?』

「短時間で光線玚吶喊を完遂するのならば、ショヌトカットするしか

ありたせん」

『  了解した。ノィリノェヌより䞭隊各機。集合した埌、そのた

た矀先鋒に突撃を敢行する』

「よりノィリノェヌズぞ。隊の䞀番槍は俺が務めたす。こ

の時、皆さんにはお願いしたいこずありたす」

 手早くマップデヌタに予定進路を入力し、戊術デヌタリンクに曎新

する。

246

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「基本的に突撃埌は、着地点以倖には攻撃をしないように。たた、埌衛

は前衛の通った地点を通過しフォロヌをしながら進んでください。

極力、噎射跳躍ず噎射地衚面滑走を䜿いながら進みたす。の

死骞は光線玚の盟に、取り付かれる個䜓ず足堎のみぞの攻撃だけで

す」

 オヌプン通信がざわ぀く。

『  本気か?』

「本気ですよ」

 再床垂村倧尉が尋ねおくる。俺はそれに真面目に答えた。

『  分かった。聞いおの通りだ。を頂点に眮いた楔壱

型、光線玚集団を目指す』

 戊線は埐々に埌退し぀぀ある。速やかに光線玚を排陀しなければ

防衛線が持たない。

「よりノィリノェヌズぞ。党機我に続け!」

『『『了解!』』』

 防衛線から飛び出した戊術機䞭隊は、向かい来る矀に察し

無謀ずも蚀える吶喊を開始したのだった。

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 

  ﹇幎月日 埌玉県 ずきがわ戊域﹈

 垫団芏暡矀の先鋒である突撃玚を飛び越え、最䜎限の足堎

のためだけに発砲しながら進む。埌ろを振り返るこずはなく、ただ前

に前にず突き進んでいた。

 俺ず共にハむクラむム䞭隊の倱敗した光線玚吶喊に参加した、ノィ

リノェヌ䞭隊の面々もなんずか付いおこれおいるずいった様子。最

初こそ動きがたどたどしかったが、すぐに芁領を掎んだ前衛がいたら

しく、その機䜓の埌ろを䞭隊がなんずか付いお来おいるずいう圢に

なっおいた。

 あの様子では、もしかしたら光線玚集団に到達するたでに半分皋数

が枛らされおいるかもしれない。

 そんなこずが俺の脳裏を過ぎったが、すぐにその思考を振り払う。

もしそうなるのだずしたら、もっず早く到達し、瞬く間に光線玚を殲

滅すればいい。撀退はそのたた矀の埌衛を抜けお、進路埌方

に出ればいいのだ。

『くっ  うぅぅぅ  !! はや、すぎる  !!』

『突撃玚の甲殻を足堎にしたり、飛び䞊がった芁撃玚を蹎飛ばしたり

しお進むのは無理だッ!!』

『気をしっかり持お!! 難しいこずはしおないんだ!! 足堎を芋極め

お着地する、たったそれだけのこず!!』

 どうやら芁領をいち早く掎んでいたのは、突撃前衛長のノィリ

ノェヌだったらしい。郚䞋や埌続のこずを気にしながら、俺の埌を

远っおくる。

「よりノィリノェヌズ、もう少ししたら光線玚集団です!!」

 突撃玚・芁撃玚で構成された先鋒集団を既に抜けおおり、戊車玚ず

少数の芁撃玚で構成された䞭衛集団もほずんど終わりだ。先皋たで

遠くに芋えおいた芁塞玚がハッキリず芋える䜍眮にたで迫っおきお

おり、移動しおいる光線玚集団も目芖で確認できる。

 山間郚や矀の間を瞫い぀぀も、進軍速床を緩めるこずはし

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ない。数千のを飛び越えたその先に、目暙を捉えた。

「光線玚集団を確認!!」

『ノィリノェヌより各機、兵噚䜿甚自由!! 目ン玉野郎を匹残ら

ず殲滅せよ!!』

 集団ぞ滑り蟌むように突入した機の䞍知火は、攻撃ができない

光線玚を次々に屠っおいく。

 青々ず茂った朚々をの䜓液で赀く染めながら、りィンドり

に衚瀺されおいる光線玚残数を確認しながら突撃砲のバヌスト射撃

を行う。

 癟を超えお確認された個䜓の党おを撃砎するず、すぐさた垂村倧尉

が指瀺を出した。

 このたた最埌衛の芁塞玚を通り抜けお、矀埌方に退避する

こず。そしお、そのたた郚隊合流を目指しながら、矀を远い

越し぀぀も爆撃の様子を芳察するずいうのだ。

 無謀ずも思えた光線玚吶喊成功に沞く䞭隊を収め぀぀も、少しばか

り自分自身も高揚しおいるであろう垂村倧尉は、揚々ず報告をし始め

た。

 突入盎前に重金属雲を展開しおいたため、通信状況は最悪だったの

だ。だから、矀に突入した俺たちは、陜動を行った─

やその他の郚隊の様子を知らないのだ。

『ノィリノェヌよりオヌディン。任務完了。これより、

矀南方を』

 重金属雲䞋から脱出し、いち早い通信回埩を詊みた。予定よりもわ

ずかながら南を噎射地衚面滑走で移動しおいるず、垂村倧尉の声が途

絶えた。

『な  䜕故?!』

 戊術デヌタリンクを呌び出し、防衛線の戊況を確認する。前衛埌ろ

半分から埌衛たでを戊略爆撃機ず砲撃による面制圧で殲滅する䜜戊

であるが、先鋒のある皋床は抜かれおしたうこずは承知の䞊だった。

 しかし、思っおいたよりも前衛が予定地域よりも防衛線に食い蟌ん

でいた。その原因はすぐに分かったのだ。

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「東束山ず日高の郚隊はどうした?!」

『どうしお?! どうしおいなくなっおるのッ?!』

 ほずんど残っおいた東束山ず日高の囜連軍戊術機郚隊が応然ず姿

を消しおいたのだ。

 矀を抌し留めおいるのは、秩父から退いた─ずほず

んどが食われた戊術機郚隊や機械化歩兵郚隊だった。

『ノィリノェヌよりオヌディン!! 䜕故郚隊が消えおいるんです

か?!』

『オヌディンよりノィリノェヌ、理由は分からない。しかし、珟圚

の戊線を支えおいるのは、秩父から撀退した我々だけだ。盎に突砎さ

れるかもしれない  』

 矀に突入した時よりも、半数近くのアむコンが消倱しおい

る─。戊線に散解しお、䜕ずか維持しおいるずは到底蚀えない

状況になっおいた。

 すぐさた戊域デヌタリンクの探知範囲を広げ、埌方にたで目を向け

おみた。

 近くには戊略爆撃䞭隊が来おおり、既に爆撃態勢に入っおいる様

子。光線玚は殲滅しおいるこずもあり、存分に爆撃を行うこずができ

るのだが、爆撃範囲から矀が倧きく挏れ出しおいる。これで

は殲滅するこずは難しく、先鋒集団を残り少ない郚隊で受け止めなけ

ればならない状況になっおいた。

 たた、撀退したず思われる東束山ず日高の戊術機郚隊は、東束山・

日高・川越を結ぶお怀型の防衛線を構築しおいる様子だった。

『ここでを抌し留め、砲兵隊ず連携し殲滅する!! 各機奮励

努力せよ!!』

 厎山䞭䜐の激励が飛ぶが、─の士気は悪くなる䞀方だ。─

よりも、共に撀退しおきた秩父の郚隊は恐慌状態に入りかけおい

る皋だ。䜕ずか態勢を立お盎そうずしおはいるものの、ゞリゞリずす

り枛らされおいるような状況が奜転するこずはない。

 先鋒を埌ろに少なからず通しおしたった前線に到着する

ず、状況は思っおいたよりも最悪なものになっおいた。

250

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 ─は䜕ずか螏ん匵っおいるものの、もう無傷の戊術機はほず

んど残っおいない。突撃砲の匟薬もほずんど䜿い切っおしたっおお

り、長刀を振るっおいる機䜓が半数。短刀の機䜓もちらほらず芋られ

る皋だった。

 滑り蟌むようにノィリノェヌ䞭隊が戊域に乱入し、戊線の補匷を第

䞀に動き出す。もう䞭隊毎の行動ができない状況になっおいたため、

小隊毎に分かれお散るよう呜什が䞋った。

 䞀方、俺は遊撃ずしお戊線を駆け回るこずになる。

『ノァヌルより付近の戊術機  ッ!!』

 俺は䞍意に入った通信に意識が奪われる。ノァヌル、─

の䞭でもかなり蚘憶に残っおいるコヌルサむンだ。理由は簡単。こ

のコヌルサむンを䜿っおいるのは、䌊隅少尉なのだ。

『ノァヌルより付近の戊術機!! 誰でもいいから手を貞しおッ!!

 もう持たないの!!』

 すぐさた機銖をそちらの方に向け、短距離跳躍をする。

 該圓の戊術機に矀がっおいる芁撃玚や戊車玚の排陀を行いながら

着地し、近距離通信で呌びかけた。

「よりノァヌル!! 状況は?」

『  癜銀少尉  』

 俺の顔を芋お、蚀葉を詰たらせる俺の蚘憶の䞭よりも少し幌い䌊隅

少尉は、震える口で状況を説明した。

 既にノァヌル䞭隊は壊滅。䞭隊長も撃墜されお。残っおい

るのは䌊隅少尉だけだずいうのだ。単機で戊線を維持するのは困難

だず刀断し、友軍機が撃墜された付近たで䞋がろうずしたものの、

に囲たれたずいう。

 埌退する理由は芋れば分かったが、手には短刀が本しかない状態

だったのだ。それもかなり損耗しおおり、もう䜿い物にならないず

蚀っおいいほどの状態になっおいた。

 バヌスト射撃をしながら、近くの芁撃玚ず戊車玚を倒しながら、埌

ろで友軍機から突撃砲ず匟倉を剥ぎ取る䌊隅機を気にする。無防備

な今襲われるず、どうするこずもできないからだ。

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 しかしその䞍安も杞憂だったようだ。

「よりノァヌル。これ以䞊埌退するこずはできないで

す。珟区域に留たり、爆撃が行われるたで持ちこたえたす」

『  ノァヌル、了解』

 苊しいず蚀わんばかりの衚情に、その感情が乗った返事に俺は返答

をするこずはなかった。

 ただ目の前に迫っおきおいるの接波に気を抌されおいた。

呚蟺に展開する友軍のマヌカヌを確認し、もう匕くこずができないこ

ずを改めお感じ取る。

 東の空には戊略爆撃機の倧矀が目芖圏内に入っおきおおり、もう数

分持ちこたえるだけでいい。それよりも埌には、防衛線に展開しおい

る残存郚隊で掃蚎戊に移行するだけだ。

 気力が削げおいる䌊隅少尉を芖界に収め぀぀も、突撃砲の

チェヌンガンを絶え間なく撃ち続ける。

 突撃玚は倚脚郚を狙撃し防塁ずしお機胜させ、間を突砎する芁撃玚

や戊車玚を倒しおいく。

「リロヌド!」

『カバヌするわ』

 たった機の防衛線。呚囲には撃墜された䞍知火が転がっおおり、

管制ナニットは拉げたり喰われおいる。

 䞀床は挔習で盞手をした衛士たちだ。圌らから突撃砲の匟倉や長

刀を剥いでは䜿い、䜙裕がなければ捚おる。圌らの装備も匟倉の残り

がなかったり、耐久倀がかなり萜ちおいるものもある。それでもない

よりはマシだったのだ。

 脚郚が地面に刺さり、腰から䞊がなくなっおいる䞍知火の腰郚匟薬

庫から匟倉を拝借しながら戊術デヌタリンクに䞀瞬目を向けた。

 既に頭䞊を戊略爆撃機が通過しおおり、撀退に移っおいる。撃墜さ

れた機䜓もおらず、そのたた無傷で基地ぞ戻っおいくようだった。

 それず同時に、頭䞊には無数の航空爆匟が投䞋されおいるこずに気

付く。予定爆撃範囲に投䞋しおいるのであれば、俺たちが戊っおいる

䞀垯は爆匟の雚に晒されるこずはない。

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「巻き返したす。前進!」

『了解』

 突撃玚の装甲殻によじ登り、向こう偎の景色を芋る。

 爆炎ず砂煙が断続的に舞い䞊がり、飛沫や砎片が四散しおいた。爆

撃は予定範囲に行われたようで、砂煙の向こう偎から新たに珟れる

の数は少ない。

『  オヌディンより防衛線に展開䞭の党衛士ぞ。爆撃による面制

圧は成功した! すぐさた砲撃による埌詰の面制圧が開始される。

各防衛線は埐々に面制圧範囲ぞ前進し぀぀、残存を撃滅せよ

!』

 その通信に呌応するように、の死骞の海から䜓液に塗れた

戊術機が続々を顔を出し始めた。

『ノァヌルより』

 掚進剀の残量を気にしお䞻脚移動の分量を倚めに前進を開始しお

しばらく、䌊隅少尉が通信回線を開いおきた。

 衚情は倉わらず焊燥しきっおおり、かなり疲劎しおいるのも芋お取

れる。戊闘が開始されおから数時間皋時間が経っおいるが、小䌑止皋

床しか䌑憩できおいないからだろう。

『  あなたは䜕者なの?』

 質問の意図が俺には分からなかった。散発的に極少数で出珟する

を倒しながら前進を続けながら、俺は頭の䞭で考えた。

 俺は䜕者なのか。語るべくもなく人間で、今は衛士だ。それ以䞊で

もそれ以䞋でもない。しかし、䌊隅少尉の質問はそういったこずを聞

いおいる蚳ではないのだろう。

 血塗れの芁撃玚の䜓目にを数発叩き蟌むず、呚りを芋枡

しお動いおいるがいないこずを確認する。センサヌも確認

しおいるが、これほどたでに死骞が転がっおいるず探知できないこず

もあるからだ。

「どういう、意味ですか?」

 進める足が遅くなる。芖線はバストアップりィンドりに映っおい

る、俺の蚘憶しおいるよりも幌い顔をした䌊隅少尉が蚝しげな衚情を

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浮かべおいた。

『そのたたの意味よ。  光州䜜戊、本土䞊陞時には九州か

ら京郜たで転戊。発案者、開発衛士。。ただ任官

したおの少尉の筈なのに、戊術機の腕前は粟鋭を軜く突き攟しおい

る。ハッキリ蚀っお異垞よ。その䞊、声からしお子ども。あなたの第

䞀印象も子ども。おかしすぎるのよ』

「  」

 自分のこずながら、確かにおかしいかもしれない。

『衛士になるにしおも幌すぎる。軍人ずしおも幌い。たるで少幎兵

よ。それが䜕故歎戊の衛士のような動きができるの? 䜕故幎䞍盞

応な腕前なの?』

 気付けば䌊隅機は足を止めおいた。俺も足を止め、そちらの方を向

く。

 䌊隅少尉の疑問に、俺は答えるこずができる。しかし、それは圌女

にずっお荒唐無皜であり、理解し難いこずだ。それに、前の䞖界でも

俺の身の䞊に付いお知っおいる人間はほずんどいなかった。知る必

芁がないず刀断されたからだ。

『  』。倕呌先生は暗にそう蚀い、誰にも俺の

ちぐはぐな背景に付いお蚀わなかった。知りたがる人物には嘘を䌝

えた。

 倕呌先生に倣うならば、䌊隅少尉は俺に぀いお知る必芁はない。

知ったずころで、䜕ができる蚳でもない。むしろ、信じられるずは思

えないからだ。

 俺はゆっくりずその問に答える。

「いやぁ、あなたが知る必芁はないですよ」

『  』

「俺に぀いおは─党䜓に知らされたこず以倖に䜕もありたせん

よ。ただの日本人で囜連軍の衛士、それだけです」

 䞍満だず蚀いたげな衚情をありありず浮かべられる。

『答えられない、ずいうこずかしら?』

「䌊隅少尉が知っおいるこずで党おです」

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『  ずいうこずなの?』

「聞かなくおも分かるず思いたすよ」

『  そう』

 それだけを蚀うず、倧きく息を吞っおもう䞀床俺の顔を真っ盎ぐず

芋る。

『あなたは私たちの味方なのよね?』

 その問に俺は即答する。

「そうですよ」

『  戊闘䞭にごめんなさいね。戻りたしょうか』

 それだけを蚀うず、バストアップりィンドりが閉じる。

 戊域デヌタリンクには埐々に個䜓数を枛らしおいくず、そ

れを远い立おる─のアむコンが少しず぀動き出しおいた。呚

囲のを確認し、兵装を確認する。

 䜙裕はないが、ただただ継戊可胜だ。䌊隅少尉が、䜕故このタむミ

ングで俺にあのこずを聞いおきたのかは分からないが、ずりあえず匕

き䞋がっおくれたこずを感謝し぀぀、掃蚎戊を再開した。

 ※※※

 ﹇同幎同月同日 囜連軍久留里基地﹈

 今回の䜜戊に参加した─は少なくない痛手を負った。

 掃蚎戊が終了し掚進剀ず兵装の補絊埌、俺は単機で秩父・ずきがわ

戊域ぞ出た。目的は撃墜された─の䞍知火を虱朰しに確認し、

新型・・電源ナニットが収められおいる管制ブロックを

砎壊しお回ったのだ。しかしそのほずんどは朰れおいたり、爆発しお

いたため、特に䜕かするずいうこずもほずんどなかった。

 オヌディン、厎山䞭䜐から䌝えられた総被撃墜数ず照らし合わせ

ながら、党おの機䜓を確認した俺は、䞭䜐に「連絡の途絶えた党機の

を確認」ずだけ䌝えた。

 総被撃墜数機。それが─の被った被害だった。その他

にも損傷機は垰還機のほが党おであり、䞇党な状態にあるのは個䞭

隊にも満たない。蚀うなれば、─は壊滅しおしたったのだ。

 俺は蚘憶を掘り起こす。前の䞖界で─に入った時、ノァルキ

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リヌ䞭隊しか残っおいなかったこず。ずいうこずは぀たり、補充を繰

り返しながら、幎末たでは戊力を削られながらも生き残っお

いたのだ。

 壊滅状態になったずしおも、すぐに再線されるだろう。考えるたで

もなく、その解に蟿り着いた。

 珟時点で衛士は名が生き残っおおり、治療のために埌方ぞ䞋げ

られた人数を差し匕いた名が䞇党の状態で垰還しおいる。぀た

り、すぐに再線されるずなるず増匷倧隊皋床の戊力があるずいうこず

になる。

「こんにちは〜」

 ─に割り圓おられた゚プロンで䜜業をしおいるず、聞き

芚えのある声が聞こえおくる。手をひらひらずさせながら珟れたの

は、出撃前にも来おいた遠乃少尉だった。あの時䞀緒にいた兵藀少尉

の姿は芋えないが、振っおいない方の手には経口補氎液が぀握られ

おいた。

「こんにちは」

 ゚プロンに降り立った時には陀染を行っおはいるものの、芋えない

装甲の裏には小さいながらもの砎片が挟たっおいるこずが

ある。簡易マスクず手袋をしながらそれを取り陀いおいる時に、遠乃

少尉が来たのだ。

「ありゃ? 自分でやっおるの?」

「敎備兵は─から借りおいるのず、機䜓の状態がいいので埌回

しなんですよ。簡単な点怜をしたら、─の方に行っちゃいたし

た」

「だから自分で砎片陀去をしおるんだね」

 飲む? ず差し出された経口補氎液を受け取るために手袋を倖し、

俺は䌑憩に入るこずにした。久留里に戻っおきおすぐに始めたもの

だから、満足に䌑んでいないのだ。

 近くに眮かれおいる匟薬コンテナに腰掛け、近くの保守郚品に腰を

降ろした遠乃少尉の方を芋る。

 圌女は既に経口補氎液を飲み始めおおり、空を芋䞊げお遠い目をし

256

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ながらストロヌを吞っおいた。

「ねぇ、癜銀くん。君的にはどうだったかな、今回の戊闘は」

 どういう意図で聞いおいたのか分からない問だったが、俺は玠盎に

答える。

「囜連軍偎は䞀床撀退しおいるものの、ずきがわ戊域でを殲

滅できたのは僥倖だったず思いたすよ。もしかしたら、川越たで退い

おいたかもしれないですから。垝囜軍はかなり頑匵ったようですね。

富士教導団が䞻力だった、ずいうこずもあるのかもしれたせん」

「同感」

 それだけ答えるず、もう䞀床空を芋䞊げる。

 既に日も暮れお久しく、䜜業甚照明が蟺りを照らしおいる。小さい

星明かりは芋えないが、月や匷い光を攟぀星は芋えおいた。

「  私たちの䞭隊は癜銀くんを線成に加えおいたからか、幞いにも

が出なかったんだ。でも、他の郚隊では少なからず戊死者が出

おる。分かっおはいたし、芚悟もできおいたけど、やっぱり蟛い

なぁっお」

「  それが戊堎ですからね」

 冷たく突き攟すような答えを蚀っおしたうが、優しい蚀葉等求めお

いるずは思えなかった。

 遠乃少尉は少し笑い、蚀葉を続ける。

「盎也が負傷したの。光線玚吶喊から戻っお、防衛線に埩垰しおから

のこずなんだけどね。担圓した゚リアで戊っおたんだけど、圓然のよ

うに予想よりも倚くのが来たの」

 遠乃少尉の話はこうだ。防衛線で小隊別行動を取っおいた時、死䜓

の圱から飛び出した芁撃玚が圌女を狙っおおり、気づいた兵藀少尉が

咄嗟に圌女を庇ったずいうこずだった。䜓圓たりしたものだから、右

肩郚装甲ブロックは砎損。右腕の動きの鈍くなった。そしお、砎片が

管制ナニットを盎撃し、揺さぶられた兵藀少尉は頭郚挫傷。

 血は流しおいるものの、戊闘続行可胜ず刀断されたために圧力泚射

で鎮痛剀の泚入ず応急キットでガヌれを圓おたずいう。

 そのような状態で戊っおいたが、戊闘機動に耐えるこずはできず

257

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に、垰還埌機内で気絶。緊急搬送されたずいう。ノィリノェヌ䞭隊で

の䞻だった負傷者は兵藀少尉だけだったらしいが、それが遠乃少尉に

心のダメヌゞを䞎えおしたったのだずいう。

「盎也は圌氏なの。だから私を庇っおくれたのは嬉しかったんだけ

ど、そのこずに぀いお垂村倧尉から蚀われたの。戊堎で私情は捚お

ろ、っお」

「  」

 俺は答えるこずができなかった。この䞖界にやっおきおからは違

うかもしれないが、前の䞖界では私情に塗れお戊っおいた。

 飲み終わった経口補氎液の容噚を握り朰し、俺は小さく答えた。

「どう答えたものか分からないです。遠乃少尉の気持ちも分かりたす

し、垂村倧尉の思いも分かりたす。分かっおいるから、遠乃少尉がモ

ダモダしおいるずいうのも。ですが、これだけは蚀えたす。兵藀少尉

が生きおいるのならいいじゃないですか。過去を埌悔するよりも、未

来を芋るべきだず俺は思いたす」

「癜銀くん  」

 俺の返事に遠乃少尉はそれ以䞊䜕も問うこずはなかった。飲み終

えた容噚をくしゃりず握るず、もう行くねずだけ蚀っお保守郚品から

飛び降りお─の゚プロンの方ぞず行っおしたった。

 芋えなくなった圌女の背䞭から芖線を倖すず、俺はもう䞀床星空を

芋䞊げる。

 衛士をしおいれば、人が傷付いたり死ぬずころに立ち䌚うのはよく

あるこずなのだ。それが誰かを庇っおなのか、小さいミスからなのか

は様々ある。それを身を以お経隓しおいるからこそ、圌女の気持ちは

ある皋床理解できたんだず思う。

 助けおもらえお嬉しかった、自分のために危ないこずをしお欲しく

ない。そんな蚀葉が聞き慣れた声で聞こえおた気がした。

「寝る前に終わらせちたおう」

 脳裏に浮かぶ赀毛の少女の笑顔にチョップをかたし、暪に眮いおい

た手袋を付け盎す。い぀出撃呜什が䞋っおもいいように、今できる限

りの䞇党な状態にしおおくためだ。

258

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 俺は人、静かな゚プロンで愛機に取り付いお䜜業を再開するの

だった。

259

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 

  ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 機密区画 第通

信宀﹈

 この基地には同じような䜜りをした通信宀があちこちに蚭眮され

おいる。䜿甚目的ずしおは、軍人が基地倖の家族や友人ず電話をする

ために䜿甚するものだが、その他にも倖の軍高官ずのやり取りに䜿う

こずもあるのだ。各基地の保安郚や軍が管理しおいるもので、監芖や

怜閲も行われおいる。防諜のために䜜られおいるずいうこずもあっ

おか、遠方にいる人物ずの機密のやり取り等もできるようになっおい

るため、わざわざ出向いたり招くこずなく腹の化かし合いにも䜿うこ

ずができるのだ。

 しかしながら、そういった魑魅魍魎を盞手取るこずも厭わないアタ

シでも、衚情に出ないようにするだけで粟䞀杯なこずがその通信宀で

起きおいた。

『キミの進めるオルタネむティノが順調に進んでいるようでね。い

やなに、どれほどのものか是非ずも䌺いたくおね。時間を取らせおし

たっお申し蚳ない』

「いいえ、問題ありたせんわ」

 戊術機に内蔵されおいる戊術デヌタリンクず通信技術を応甚しお

䜜られた通信宀は、音声ず映像を同期したものを送受信しおいる。ア

タシの目の前のディスプレむに映っおいる、でっぷりず腹を匵り出さ

せおいる男は、芋䞋すかのような憎たらしい衚情を浮かべお、小銬鹿

にするように話しかけおくる。

 このブ男はオルタネむティノ掚進掟でも暩力を握っおいる、囜連

軍将校だ。欧州戊線で戊果を挙げ、埌方勀務になったずいう゚ロゞゞ

むだ。

『しお、聞かせおもらえるかね? オルタネむティノの目的である、

察諜報員の育成に関しお。あのような、キミの提唱する因果

埋量子論なる荒唐無皜な論ず共に、実珟䞍可胜な蚈画はどうなっおい

るのかね?』

260

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「は」

 あちらには腰䞊たでしか映っおいないだろう。アタシは静かに説

明を始める。

「蚈画は順調に進んでおりたすわ。オルタネむティノの目的である

察諜報員育成に関しおですが、少将もご存知の通り、ナ

ニットの䜜成に着手しおおりたす。これたで補䜜しおいた詊補

ナニットらからは方向転換しおはいたすが、方向性は以前倉わらずで

すわ。珟圚は基瀎理論に䞍備がありたしたので、再線したものを甚意

したずころです。既に補䜜の方も始める段取りを進めおおりたすが、

䜕かが足りないようですわ」

『なるほど。以前は詊補ナニットらが、ナニットたる氎準に

達しおいないずかで完成には至らなかったず蚀っおおったが、なんだ

基瀎理論に問題があったか? それはナニットの基瀎理論かね

? それずも基瀎理論の前提にある因果埋量子論の方かね? はた

たたどちらもか?』

「前者ですわ。既に旧版の基瀎理論は砎棄、再線版の基瀎理論は完成

しおおりたす。それを基に補䜜を再開しおいるずころですわ」

『それは重畳だな』

 オルタネむティノの話が本題でないこずは分かっおいる。既に

オルタネむティノの進捗や状況ずいうのは囜連䞊局郚や誘臎囜で

ある日本垝囜政府には通達枈みなのだ。今話したこずも確認だった

のだろう。無意味だず分かっおいおも、圌らに取っおは必芁なこずら

しい。理解し難い。

 話を切り替えた少将はギシリず腰を降ろしおいるであろう怅子を

鳎らし、錻にかけた態床のたた語り始めた。

『極東囜連軍はキミの掌の䞊だず思っおいたのだが、そういう蚳では

ないようだね。アチラにも我々ず同じ考えを持぀ものは倚いようだ。

我々の蚈画に賛同しおくれおね、力を貞しおくれるそうなんだよ。関

東には仲間が少なかったから、䞊も倧喜びだ』

「それはそれは、喜ばしいこずで䜕よりですわ」

『キミの子飌いの郚隊、最悪な状況になっおいるず聞く。どうかね、新

261

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しい仲間に協力を仰いでみようか?』

 どうでもいい話を぀ら぀ら䞊べおいたが、やはりそうだ。これが本

題なのだろう。

 いやらしい笑みを浮かべる少将の蚀っおいるこずは、ここ数日のこ

ずなのだ。長野から䟵攻を再開した矀ずの防衛戊に、─

を投入したこずに぀いお。

 極東囜連軍や日本垝囜政府から、あれだけの装備ず緎床を持぀─

をこれたで腐らせおいるのはどういう了芋か、ず問い合わせが

あった。それは本土䞊陞からの話ではあるのだが、圓初は光

州䜜戊に投入しおから再線成䞭だずのらりくらりずしおいたのだが、

そうも蚀っおいられない状況たで切迫しおしたっおいる。圚日米軍

の勝手な匕き䞊げも盞たっお、猫の手も借りたいほど戊力が萜ち蟌ん

でいる䞡軍は、無傷で個連隊芏暡の䞍知火を燻ぶらせおいる─

ぞ戊闘に参加するよう再䞉打蚺があったのだ。

 どれだけ口八䞁手八䞁したずころで、蚈画のために枩存しお眮きた

かったずいうこずもあったこずず、前の䞖界でも関東防衛戊には投入

しおいたこずもあっお、アタシは今回の䜜戊に参加させたのだ。

 しかし結果は既に報告を聞いおいる通りだった。初戊、秩父戊域の

前線叞什郚が銬鹿な䜜戊立案を行った。戊闘するには䞍向きな地圢

に郚隊を展開させ、戊力を浪費する真䌌を仕出かしたからだ。これに

よっお─ず残存郚隊は埌退。ずきがわ戊域の防衛線に吞収さ

れるず、囜連軍東束山・日高の郚隊ず共に再展開。しかし、突劂ずし

お双方の郚隊が基地たで埌退しおしたい、秩父から逃げた郚隊だけで

を受け止めるこずずなった。

 これによっお─は壊滅。共に埌退した秩父の郚隊は党滅す

るに至ったのだ。珟圚は珟地で再線成が行われ、皌働機のみで遊匋を

行っおいるずいう。

 この状況を䜜り出したのは、他でもない目の前の男なのだ。裏を取

る必芁もない。アタシを目の敵にしおおり、ここ最近で䞀番突っか

かっお来おいるのは、他でもない圌なのだ。

 時間を立たずしお裏も取れ、圌が䞻導しお今回の件を起こしたこず

262

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も分かるだろう。

 正盎に蚀っお、この男の嫌がらせずいうのは䜕床も受けおきた。慣

れるなんおこずは絶察にあり埗ない。癜々しく宣う蚀葉に苛立ちを

芚えなかったこずはないのだ。

 今回は分かっおいた蚳でもなければ、前回はあったのかも定かでは

ない工䜜。今回の件ではっきりした。この狞芪父は、事ある毎にアタ

シの䜜戊行動に噛んできおいるのだろう、ず。

 しかし今回もその感情は衚に出すこずはない。平静な態床で返事

を返した。

「せっかくのご提案ですが、遠慮させおいただきたすわ」

『  ほう?』

「私の郚隊はそこらの郚隊よりも匷いず自負しおおりたす。たずえ壊

滅状態に陥っおいようが、最期の䞀兵になったずしおも戊いたす。こ

れたでの─ずも、これからの─ずも違いたすわ」

『そこたでキミの郚隊に自信があるのか。それはあれかね。

タむプ

䞍

知

火



壱

型

侙

を─専甚にでも改装したのか? それずも

が揃えられたのかね?』

「さぁ、どうでしょう?」

 軍人ずいうこずもあり、珟代の戊堎で䞻だった掻躍をしおいる戊術

機に関しおはかなり詳しいこずず、オルタネむティノ掚進掟隷䞋郚

隊に最新鋭機を集めおいるずいう話は入手しおいる。

 アタシの─の戊術機は特別だ。そのこずを圌が知らない筈

もない。圌らの息の掛かった諜報員は日本垝囜内にごたんず朜䌏し

おいるのだ。垞日頃、アタシの粗探しずむゞメ材料を入手するために

嗅ぎ回っおいる。だからこそ、─の戊術機がおかしいこずに気

付いおいる筈なのだ。

 肝心なずころでずがけたアタシの態床が気に食わなかったのか、眉

をひく぀かせお聞き返しおくる。

『キミの郚隊のタむプは垝囜の機䜓ず違うのかね?』

「日本垝囜軍が正匏採甚しおいる匏戊術歩行戊闘機ずなんら倉わ

りたせんわ。垝囜軍粟鋭や富士教導団ず同じ機䜓です。少将が懇意

263

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─

ストラむク・むヌグル

にされおいる郚隊のように、─から

にこっそりず

入れ替えるなんおこずはしおおりたせん」

『  よかろう』

 別に切る必芁もない手札を切る。前の䞖界のアタシならば出し

枋っただろうが、今の䞖界のアタシには痛くも痒くもない。䜕故なら

ゞョヌカヌがある。匷いものず匱いものの枚。

『東束山ず日高の囜連軍郚隊は被害がほずんどなかったのでな、秩父

ずずきがわの陣地再構築を行っおいるずいう。野ざらしになっおい

る機はどうやら垝囜軍に枡すために回収するそうだ。装甲板も

内郚も䞍審に思われないよう、手を加えおくれるずいう』

「ありがずうございたす」

『気にするな。垝囜軍は物資も人員も歀床の䟵攻によっお逌迫しおい

る。せめおパヌツ取りのできる分は回収せねばな』

 どうやらこれで話が終わったようだ。圌の癖で、話を切り䞊げる前

に䜕か飲み物を飲むのだ。画面の向こうでコヌヒヌカップを傟けお

いる姿が芋えるこずから、これで今回の話は終わる様子。

『では。忙しいずころ倱瀌した、銙月博士。囜連䞊局郚には私からも

色々䌝えおおこう』

「ありがずうございたす。では倱瀌臎したすわ」

『あぁ』

 画面が暗転し、それず同時にアタシの顔が反射で映し出される。

 い぀ものキレむな顔だが、今回も少しばかり眉間にシワが寄っおい

る。通信䞭たでは我慢できたが、どうやら終わった途端にこうなっお

したうようだ。

 䜕かある毎にこうしおオルタネむティノ掚進掟やオルタネむ

ティノ反察掟からのアポむントメントがある。その床に蟟易しお

いる蚳だが、毎回のように終わった埌にはこういった衚情をしおいる

のだ。

 䞍機嫌な衚情をしおいるず、たりもからは昔からよく蚀われおいる

が、今回ばかり自芚を持っお蚀える。䜕床芋おも、この顔は䞍機嫌だ。

 ※※※

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 ﹇同幎同月同日 囜連軍仙台基地 機密区画 研究宀﹈

 基本的にアタシは機密区画から出るこずはない。癜陵基地だった

適圓な護衛

た

り

も

ならば、昌時になるず

を付けお京塚食堂ぞ足を運んでいた

が、仙台ではそうもいかない。そもそも倧抂、軍の食堂で出される食

事はそこたで矎味しいこずはなく、京塚のおばさんがいないずいうこ

ずもある。

 仙台基地に移っおからは、専ら口にする食事は手軜に食べられるサ

ンドむッチかおにぎり。そうでなければ、ほずんどはコヌヒヌや即垭

食品。手に入らなければコヌヒヌモドキや戊闘糧食のクラッカヌば

かり。こんな食生掻をしおいたら䜕故か鑑に怒られ、瀟からは䜕も蚀

わずに䞍満気な衚情を向けられた。

 それからずいうもの、そういった食事になる前に気付いた鑑や瀟が

䜕かしらを持っおくるようになった。

 今日は午前䞭にあの憎たらしい狞少将を盞手にした埌、ずっおおき

のコヌヒヌを飲んで気分を萜ち着かせた。それからすぐに研究宀に

来お、䜕だかんだやっおいたら昌の時間になっおいたようだ。

 物音を建おずに存圚感を消しお珟れたのは、䜕幎もの付き合いにな

る瀟だった。手にはお盆が茉せられおおり、䞍栌奜なおにぎりが぀

茉せられおいた。

「  お疲れ様です、銙月博士」

 アタシが圌女を芖界に捉えるず、抑揚のあたりない声でそう蚀う。

 目の前たでやっおくるず、机の空いおいる空間にお盆を眮き、近く

の怅子に腰を䞋ろした。

「  お昌を持っおきたした。玔倏さんも埌で来たす」

「そう」

 芖線を再床お盆に萜ずし、䞍栌奜なおにぎりを芋お、ふず脳裏を過

る。

 これたで䜕だかんだ蚀っお近くで過ごしおきお分かっおいるこず

だが、鑑は家事胜力が高い。癜銀は軍隊で身に぀けたものだろうが、

鑑の堎合はどこか所垯じみおいるずころがあるのだ。ズボラな癜銀

の䞖話を焌いたり、荒れたアタシの執務宀や研究宀を入るなり掃陀を

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始めたり、癜銀に振る舞う食事が家庭料理のそれだったりず。

 䜙裕が出おきたからこそ、こういった芳察もできるずいうものだ。

孊生時代のたりもも䌌たようなずころがあり、時々助けおもらったり

もしおいたこずをふず思い出した。

「じゃあ鑑を埅ちたしょうか。瀟、䜕か飲み物はいる?」

「  私が淹れたす。博士は䜕にしたすか?」

「そうねぇ  緑茶にしようかしら? この研究宀にあったっけ?」

「  ありたす」

「あるのね  どうしおあるの?」

「  玔倏さんが持ち蟌みたした」

「鑑ィ  」

 スッず立ち䞊がった瀟は、積み䞊がった機材や資料の壁の向こう偎

ぞず消える。それず入れ替わるように、今床は物音を立おながら誰か

が入っおきたようだ。

 アタシの研究宀を簡単に出入りできるのは、アタシを入れおも人

しかいない。人は今頃関東にいるだろうから、埌は人だけ。

「お疲れ様で〜す! お腹枛ったよぉ〜〜〜〜!!」

「うるさいわねぇ。さっさず手掗っおらっしゃい」

 ボケッずした衚情で入っおきたのは、やはり鑑だった。脇には支絊

されおいるラップトップず本が冊にファむルが぀。フラフラず

こちらに近づいおきたかず思うず、近くの怅子に荷物を攟り出しお瀟

が消えた方向に向かっおいった。

 瀟、鑑の順番で戻っお来るず、それぞれに玙コップが぀ず぀配ら

れる。぀は緑茶だが、もう぀はどうやらむンスタント味噌汁だ。

基地内では手に入らないものずいうこずもあるため、十䞭八九鑑がど

こからか手に入れおきたものだろう。

「いっただきた〜す!!」

 鑑の元気な声に遅れお、瀟ずアタシが続く。

 い぀から誰かず食事をするようになったのだろう。そんな疑問が

脳裏を過るが、すぐに解が出る。

 この䞖界に来お、鑑や癜銀を連れおきおからだろう。

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 今たでは暗い研究宀で、味気ないクラッカヌやカロリヌバヌを霧

り、気が向けば食堂に向かうなんお、ほずんど人ず話すこずもなけれ

ば日の光を济びるなんおこずもなかった。

 だが、人を連れおきおから、目の前にいる人や関東で暎れおい

るであろうアむツが近くにいるようになっおからは、そういったこず

はなくなったのかもしれない。

 䞍栌奜なおにぎりを口に含むず、具であろうおかかず少し薄めの塩

の味を舌に感じる。味気ない食事ずいうのも久しく、ただのおにぎり

であっおもあの頃ずは違うように感じた。

「今日は霞ちゃんが䜜るっお蚀っおおビックリしちゃったよ。ご飯も

炊いたの?」

「  頑匵りたした」

 い぀の間に、そんな顔をするようになったのやら。人の少女を眺

めながら、味噌汁を啜った。

「あちっ」

 赀い頭ず銀の頭がせわしなく揺れる様を芋お、その奥に眮かれおい

るモノに芖線が向いおしたう。

 完成には遠いが、い぀か必ず䜿うこずになるモノ。

 ただ、道のりは遠く。だが今は独りで歩いおいる蚳ではないのだ

ず。

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 

   ﹇幎月日 囜連軍久留里基地﹈

 自分でできる範囲の敎備を終えお簡易ベッドに入るずすぐに寝お

したったらしく、気付いた時には朝になっおいた。

 ただ起床ラッパの時間前だずいうのに人の声や機械音が聞こえる。

もしかしたならば、倜通し亀代で敎備兵たちが䜜業をしおいたのかも

しれない。

 身支床を敎えおテントから出るず、既に─でも起きおきおい

る者がチラホラ芋られた。ほずんどがあたり顔を合わせたこずのな

い衛士なのは分かるのだが、数人は䜕ずなく顔ず名前が䞀臎しおい

る。

 昚日の倕食の際に配られたチヌプな歯ブラシセットを片手に氎堎

ぞず向かう。

 皋々に身支床を枈たせた頃に起床ラッパが鳎り響き、䞀応芏則通り

に動き始める。だが既にほずんどの軍人は起きおいるか、倜通し䜜業

をしおいたので䜜業的に鳎っただけだった。

 クラッカヌを霧りながら、早朝から敎備が始たった自分の䞍知火を

芋䞊げる。

 久留里基地に垰還した─の䞍知火の䞭でも、特に状態のいい

たた戻っおきたのが俺の機䜓だった。欠損・砎損郚䜍なし。簡単な陀

染䜜業を行った埌、内郚の駆動系や電装系をメンテナンスする皋床で

枈む。しかしそれでも䞍調を起こしおいる所はどこかしらにはある

らしく、長く務めおいる敎備兵が油たみれのラップトップ片手に怒号

をあげおいた。

「コむツは䜕もモゲおないからっお気ぃ抜くんじゃねぇぞ!! 駆動系

を重点的に点怜し、亀換できるパヌツがあれば亀換しおおけ!!」

「「「はいッ!!!!」」」

「電装系の奎らは腕を手䌝え!! 戊闘で狂っちたったズレの修正だ!!

号機

癜

銀

機

 

だから慎重に行え、動䜜䞍良でも起こしおみろ!! テメェ

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らの頭にスパナ投げお俺は腹を切る!!」

 物隒な声が聞こえおくる方を暪に芋ながら、キャットりォヌクに䞊

がっお管制ナニットに入り蟌む。

 昚日着おいた匷化装備が広げおシヌトに掛けられおおり、ヘッド

セットは巊の操瞊レバヌに匕っ掛けおある。

 機䜓のは皌働状態で電源が入っおおり、機䜓自䜓がメンテナ

ンスモヌドになっおいる。ヘッドセットを装着するず、前面に《

 》ず衚瀺されおいた。

 ノヌスリヌブずカヌゎパンツ姿のたた着座し、電装系の敎備兵が眮

いおいったラップトップを接続する。

「  状態はむ゚ロヌよりのグリヌン」

 メンテナンスモヌドで関節がロックされた状態だが、機䜓のステヌ

タスを確認する。

 昚日の時点では同じ状態だったが、走査システムに匕っかからない

腕や手銖関節の調敎は既に終えおしたっおいるようだ。

「少尉、乗っおるんだろヌ?!」

「はヌい!!」

 倖から聞き慣れた声が聞こえおくる。敎備兵の声だ。

「腕を動かしおくれヌ!」

 右腕のメンテナンスモヌドが解陀され、関節のロックが倖れる。網

膜投圱で芋ながら泚意を払い぀぀も、腕を少し動かしおみる。あたり

聞くこずのない関節駆動音を遠くに聞きながら、敎備兵の声を聞く。

「ありがずよヌ!」

 定䜍眮に戻すず、再びメンテナンスモヌドに入った。俺は自分のや

りたかったこずを始める。

 戊闘時の皌動ログを確認したかったのだ。い぀も玔倏が吞い出し

䜜業をし、のバヌゞョンアップや最適化に䜿っおいるずいうも

の。

 俺自身も䜕床も芋おきたものだが、こうやっお昚日今日で確認した

こずはなかったのだ。結局デヌタを芋たずころで、俺には怜蚎も付か

ないプログラムの矅列ずいうこずもあり、䜕のこずだか分からない。

269

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ラップトップのハヌドディスクのドラむブから空きスペヌスを探

し、デヌタに適圓な名前を付けお保存する。

 機䜓敎備に䜿われおいるラップトップは倚くあるが、それぞれに専

甚のものが甚意されおいる。俺が操䜜しおいるのはそれだ。機䜓か

ら降ろされたずころで、基地に持ち垰っおも他の機䜓で䜿われるこず

はほずんどない。きっず玔倏や霞が敎備する時に芋るだろう。そん

なこずを考え、プログラムデヌタず䞀緒にテキストデヌタを残すこず

にした。保存した日付ず誰が保存したのかだけを簡朔に纏めお、同じ

く保存する。

 ラップトップの電源を萜ずし、脇のスペヌスに眮いお目を閉じた。

昚日たでの出来事を思い返す。

 秩父戊域からずきがわ戊域での出来事。考えおみれば、この䞖界に

来お初めお䞀般的な防衛線に参加したように思える。前の䞖界では、

暪浜基地奇襲・クヌデタヌ・甲号䜜戊・暪浜基地䟵攻・桜花䜜戊

ず参加しおきた。どれも特殊な立ち䜍眮での䜜戊参加であり、他郚隊

ずの連携は党くず蚀っおいいほどなかったからだ。

 だがこの䞖界では、光州䜜戊から本土䟵攻にかけお、ずっず他の衛

士たちず肩を䞊べお戊っおきた。

「ステヌタスチェック」

 東進しながらも出䌚った衛士たちのこずを思い出す。もう数ヶ月

も前になる人物もいるが、圌ら圌女らはただ戊堎で戊っおいるのだろ

うか。匷く蚘憶に残っおいる人物を思い出す。

 光州䜜戊で䞀緒の郚隊に配属されたアレックス・ミラヌ倧尉、む・

スギョン䞭尉、む・ヒョンゞュン少尉ら囜連軍リザヌド䞭隊や倚囜籍

の負け犬隊。本土䟵攻からすぐ、九州で共に戊った祠堂 カレン倧尉

ら囜連軍シヌルド䞭隊。兵庫で共に戊った赀坂 幞䞭尉ら垝囜軍ス

ワロヌ䞭隊。京郜で助けた篁 唯䟝少尉、山城 䞊総少尉、胜登 和

泉少尉らのファング小隊。京郜を守るために戊った真田 晃蔵倧尉

らりルフ䞭隊。

 他にもたくさんの衛士や兵士ず出䌚った。

 圌らがどうなっおいるのかは分からない。ただ、もし生きおいたな

270

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らば、どこかの戊堎でたた䌚うこずもあるだろう。

 機䜓ステヌタスを眺めながら、シヌトの調敎も同時に行う。倧䜓が

䜿われるこずなく砎壊されおしたう、匏機械化歩兵装甲のチェッ

クも怠らない。

 京郜では撃墜された時に䞀床䜿っおいるのず、前の䞖界やその前の

䞖界でも蚓緎兵時代に蚓緎ずしお䜿甚したこずがあったのだ。機械

化歩兵装甲があれば、生身で脱出するよりも心匷いこずは身を以お理

解しおいる。それに俺は着甚したたたでの戊闘経隓もある。だから

こそ、少し疎かになりがちな機械化歩兵装甲のこずもよく芋るこずに

しおいるのだ。

「癜銀ヌ? さっきずは逆の腕を動かしおくれないかヌ?」

 機倖から倧声が再び聞こえる。網膜投圱に巊腕に敎備兵が集っお

おり、装甲板が倖されお駆動系が露出しおいた。

「はヌい」

 簡単に答えおから右腕の時ず同じように動かす。巊腕の方がどう

やら駆動系の損耗やズレがあるようで、右腕よりも倚くのパヌツが近

くに運ばれおくる。

 考えおみれば、巊腕で倚目的远加装甲を保持しおいたり、長刀を振

り回すのも巊腕だ。重量物を持っおいたり、振り回しおいたら、それ

だけ損耗も早いのは道理だ。

 俺は長刀ず突撃砲を䜵甚した高機動近接戊を埗意ずしおいるこず

もあり、損耗は他の戊術機よりも盞察的に早い。駆動系に気を䜿った

動きの緎習も長いこず続けおいるが、どれ皋身に付いおいるかは分か

らない。

 巊右持ち替えながら戊うこずを意識しはするものの、集䞭しおいた

り混戊の真っ只䞭だず、そのようなこずは些事だず隅ぞ远いやっおし

たうこずの方が倚い。

 緎習を続けおいればそのうちできるようになるだろう、そんなこず

を胜倩気に考えながら機䜓から降りた。

 ※※※

 ﹇同幎同月日 静岡県 埡殿堎戊域﹈

271

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 長野から南東ぞ䟵攻を再開したは、回目ずなる日の

䟵攻から䞀時的に䟵攻する個䜓矀が確認されるこずはなくなっおい

た。しかし、回目の䟵攻はこれたでずは動きが違った。

 長野県束代蟺りを発った矀は南䞋を開始。そこから分か

れるこずなく、䞀盎線に南䞋を開始したのだ。偵察衛星が捉えおた長

野の残存個䜓数は回目の䟵攻で倧きく数を枛らしおおり、目暙は䞍

明だが南ぞず進み始めおいた。

 今回の再䟵攻では埌玉方面ぞ向かう集団はなく、もずもず埌玉方面

に展開するこずになっおいた─は戊術機に乗り蟌んですぐに

将校の埅ったで足螏みをするような状況になっおしたったのだ。

 ─は単独での戊闘を想定した線成が行われおいる。そう連

隊長の厎山䞭䜐が蚀っおいた。

 埌玉方面は基本的に極東囜連軍の管蜄ずいうこずもあり、倕呌先生

が幅を利かせるこずができたが、静岡・山梚方面は垝囜軍の管蜄でそ

うもいかない。

 その䞊、珟圚─で満足に戊闘が可胜な戊術機は機。増匷

䞭隊分しか残っおおらず、残りはどこかしらが䞍調であったり修理䞭

であったりするのだ。

『より。博士から盎接呜什が䞋っおいる』

 自分の゚プロンでアむドリングさせたたたにしおいたずころぞ、

将校が通信を開いた。

「より、呜什ずは?」

『─はこれより─から離脱。単独、埡殿堎戊域ぞの

匷行偵察任務を課す』

「了解」

『貎官はこれを単独で行なうこず』

 機䜓に乗り蟌んでいる─の衛士たちから声が䞊がる。しか

し将校はそれを無芖しお話を続けた。

『この際、機䜓のカラヌリングの倉曎は必芁ない。そのたたの状態で

出撃し、戊域の情報を収集。可胜な限り情報を集めた埌、久留里基地

に垰還せよ』

272

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 目の前に映し出されたマップに、予定されおいる戊域のデヌタが衚

瀺される。ある皋床把握できおいる展開䞭の垝囜軍の情報だ。

 防衛戊にしおは戊術機の数が少ないように思えるが、床重なる䟵攻

ず戊術機生産拠点の東海地方が陥萜しおいる以䞊に、衛士の䟛絊も満

足に行えおいないのかもしれない。

 しかし、埡殿堎の蟺りならば、駿河湟沖に展開しおいる垝囜海軍が

艊砲射撃をする筈だ。ずなるず、面制圧によっお今回の䟵攻も食い止

める぀もりなのだず䌺える。接近すればデヌタリンクで駿河湟沖の

状況ももしかしたら手に入るかもしれない。

「了解。速やかに出撃ですか?」

『あぁ。準備でき次第出撃だ。装備は任せる』

「はい」

 倖郚スピヌカに切り替えるず、倖で退避しおいる敎備兵に向かっお

声を掛ける。今の俺の機䜓の装備は突撃前衛装備になっおいるが、倚

目的远加装甲を䞋ろしお匷襲前衛装備に換装したいからだ。

「番機、匷襲前衛装備に換装しおくれ!」

 適圓なずころに远加装甲を眮くず、敎備兵がトラックで牜匕しおき

た突撃砲が近くに停められる。それず同時に、自立支揎担架によっお

皌働兵装担架システムの換装が始たった。

 䜜業自䜓はそこたで時間がかかるこずはなく、近くの右腕がない䞍

知火に远加装甲を受け取っおもらい、担架の茉せ替えず歊噚を持ち替

えるだけですぐに準備は完了した。

「番機、出撃する!」

 異色の゚プロンから機の䞍知火だけが䞻脚移動を始め、から

管制塔に発進蚱可を取っお電磁カタパルトで射出される。

 ※※※

 今回の単独任務の経緯は、い぀も以䞊にいきなり決たったこずだっ

た。溜息を吐くこずはなく、静かに指定された埡殿堎戊域を目指した

のだ。

 圓然のこずながら譊戒はしおいおも接敵するこずはなく、䜕床か戊

術機ずすれ違った皋床。オヌプン回線で話しかけられるこずもあっ

273

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たが、基本的には答えないようにしおいる。そもそも倕呌先生から答

えるなず蚀われおいるこずもあるが、俺自身も答える必芁はないず考

えおいるからだ。

 答えなければ盞手もデヌタリンクの䞍調や通信機が壊れおいるず

勝手に勘違いしおくれる。

 䜕床か噎射跳躍を亀えながら、埡殿堎戊域の南方に到着した俺は広

域デヌタリンクで情報収集を始めた。

「埡殿堎に展開しおいるのは、垝囜軍ず斯衛軍の混成郚隊」

 垝囜軍の䞀般的な戊術機甲郚隊ず、富士教導団から捻出されたず思

われる粟鋭郚隊。斯衛軍郚隊。個連隊芏暡皋床はいるようだ。

 それだけの戊力では、南䞋しおいるを受け止めるこずはで

きない。座孊で習う皋に基本的なこずを思い出し、もう䞀床広域デヌ

タリンクで拟えるだけの展開郚隊情報を確認する。

 垝囜軍戊術機甲垫団。戊術機甲郚隊ず随䌎支揎敎備郚隊、機械化歩

兵郚隊、砲兵郚隊で構成されおいる。それに加えお、富士教導団所属

戊術機甲個䞭隊ず、斯衛軍独立譊護個䞭隊だ。

 基本的な盎接支揎は垝囜軍の随䌎砲兵郚隊に任せおおり、接觊前の

察レヌザヌ匟による飜和攻撃もこの砲兵が行なう様子。足りなけれ

ば、駿河湟沖の垝囜海軍が補充するだろう。

 基本的な戊術は、地䞊戊力による矀遅滞戊術。封じ蟌めが

ある皋床できたならば、垝囜海軍による飜和砲撃を行い殲滅。セオ

リヌ通りの迎撃戊になっおいるず思われる。

 だがやはり気になるのは、受け止める堎所ずしお遞んだであろう埡

殿堎に展開しおいる郚隊が少ないように思えた。

「これで今回も防ぐこずはできるのか?」

 思わず疑問が口から挏れる。誰が聞いおいる蚳でもないが、すぐに

口を閉じお思考に集䞭を再開する。

 今回は二正面䜜戊ではないため、芁請次第で囜連軍を投入するこず

そ・

う・

い・

う・

こ・

ず・

も可胜だずいうのに、それがないずいうこずは

なのだろ

う。自囜戊力のみで察凊する腹積もりがあり、その裏に䜕があるの

か。

274

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 珟圚の富士山呚蟺は䞭郚戊線最埌の砊になっおいる。南

䞋開始以前は山梚県東郚も砊ずしお機胜しおいたが、床目の䟵攻に

よっお攟棄。䞭郚地方に残されおいるのは、静岡県偎の富士山麓ず䌊

豆半島しかないのだ。

「  ひずたず偵察を続けよう」

 頭の䞭から䜙蚈な考えを振り払い、デヌタリンクの情報を機䜓の

ハヌドディスクに保存しおいく。それ以倖に目芖で確認できるこず

等は、手元のメモ垳に曞き残しおいった。

 そもそも䜕のために倕呌先生が、急遜俺を偵察に出すこずを決めた

のか、その意図がただ掎めないでいた。

 将校の話だず、埡殿堎戊域に匷行偵察を行なうこず、ず蚀われ

た。䞀応、戊域から離れた地点から分かる皋床の情報を集めおいる

が、そもそもの呜什は匷行偵察だ。

 実際にず戊闘し、情報を収集するのが本来の任務になっお

いる。

 ある皋床区切りのいいずころでメモしおいた手を止め、戊闘で管制

ナニット内ず飛び回らないよう、機械の隙間にメモずペンを噛たせる

ず、スロットルを解攟しお機䜓を浮き䞊がらせる。

 目暙は前方で始たった埡殿堎での戊闘。ある皋床情報収集を終え

たら、そのたた撀収する。そう自分に確認するように蚀い、突撃砲の

安党装眮を解陀した。

275

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 

   ﹇幎月日 静岡県 埡殿堎戊域﹈

 斯衛軍第倧隊でお䞖話になり始めお、京郜から機䜓が持぀限り戊

いに明け暮れおいたような気がする。

 䜕床か䌑日もあったが、それは機䜓が持たなくなっお敎備をするた

めであったり、衛士の䜓調管理のためであったり理由は様々だ。

 長野が陥萜しおから倧きな䌑みをもらっおいたが、その間にも私に

はやるこずがあった。家のこず、原隊のこず。機械的に凊理しおい

た。その間にも、和泉ず山城さんずは䜕床も顔を合わせたが、殆どは

山城さんの入院しおいる軍病院での話だった。

 山城さんの退院は早々に決たっおおり、数日前に仙台から前線に

戻っお来おいた。無論、原隊は倱っおおり、配属先がないずいう理由

から、同期の私たちがいる第倧隊の預かりずなった。

「ファングより䞭隊各機。状況を確認する」

 これたでの戊闘で数を枛らした斯衛軍第倧隊も、既に定員数を䞋

ハむドラ

第



回っおいる。残すは祟宰 恭子様率いる

䞭隊ず、その他の生

ファング

第



き残りを固めた

䞭隊のみずなっおいる。そのファング䞭隊

も䞊官や先任が戊死したため、私が䞭隊長を務めるこずずなり、郚䞋

は和泉ず埩垰した山城さんのみだ。

「珟圚長野を発った垫団芏暡の第次南䞋矀は、南アルプスを通過䞭。

盎に埡殿堎に到達する予想だ。目暙は倉わらず䌊豆半島ず思わる」

 網膜投圱されたマップに矀の予想進路が衚瀺される。そ

の進路䞊に私たちの郚隊マヌカヌが衚瀺されおいた。

「私たちはここで矀の䟵攻を受け止め、駿河湟沖に展開しお

いる垝囜海軍連合艊隊第戊隊の艊砲射撃によっおこれを殲滅する」

 近くで譊戒埅機しおいた垝囜海軍のお陰で、富士山呚蟺の守りが固

くなっおいるず蚀っおも過蚀ではない。元々垝囜軍富士教導団の

ホヌムがあるずころだ。地䞊戊力も申し分ないものが埅機しおいる。

 しかしそれでも少なからず䞍安はある。地䞊戊力の少なさだ。い

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くら艊砲射撃で殲滅予定ずはいえ、個連隊芏暡盞圓の戊術機甲郚隊

ず、連隊隷䞋の砲兵隊だけが支揎砲撃を行うのだ。

 想像するたでもなく、受け止めたずしおも持ち堪えられるずは思え

ない。

 簡単な確認を枈たせるず、戊闘開始の合図たでは埅機ずなる。機䜓

の電装が発する排熱音ずアむドリングさせおいる跳躍ナニットの音

以倖には、自分の錓動ず息遣いくらいしか聞こえない。

『ハむドラより我々の戊域に䟵入する戊術機ぞ。所属ず名を明か

せ』

 戊術デヌタリンクにアンノりンが衚瀺されるのず同時に、オヌプン

回線に恭子様の声が聞こえおくる。

『繰り返す。こちらは垝囜斯衛軍第倧隊所属ハむドラ 祟宰 恭

子倧尉。圓戊域に䟵入する戊術機ぞ。所属ず名を明かし、圓戊域に䟵

入する理由を明らかにせよ』

 アンノりンは第倧隊が展開する戊域よりも南から姿を珟し、悠々

ず噎射跳躍で移動を続けおいる。

『ハむドラよりファング。貎官らが䟵入機から䞀番近い。突撃砲

の䜿甚を蚱可する』

『『「了解」』』

 䟵入機が向かっおくる方角に突撃砲を向ける。数分もしない内に、

レヌダヌが䟵入機の詳现情報を取埗した。

「  ─、䞍知火?」

『あ、あれ垝囜軍機じゃないの?』

 和泉もデヌタリンクで確認したようだ。しかしおかしい。アレは

䟵入機で所属䞍明機の筈だ。なのに䜕故、デヌタリンクにが衚瀺

されおいるのだろう。

── 

垝

囜

軍

第







è©Š

鹓

小

隊

『  

』

「それっお  」

 山城さんがいち早くに気付き、読み䞊げる。私はその郚隊名を

聞いお、蚘憶が掘り起こされた。

 その呟きを聞いおいた恭子様が鋭い目぀きを向けおくる。

277

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『篁少尉。こちらでも貎官らの機䜓に残っおいるデヌタを閲芧した。

ア・

レ・

が垝囜軍の第詊隓小隊なのか?』

 同意しかけたその時、䟵入機はもう私たちの目ず錻の先にたで接近

しおおり、近くに機䜓を着陞させた。

 その機䜓は䞍知火ではあるのだが、芋たこずのない塗装が斜されお

おり、着陞の動きが滑らか過ぎる。こんな戊術機を芋たのは䞀床しか

ない。

「は、はい。恐らく垝囜軍第詊隓小隊で間違いないです」

 動揺し぀぀も蚀葉を䜕ずか繰り出す。䜕故私が動揺しおいるのか。

それは、目の前の䞍知火の巊肩郚装甲ブロックに塗装されおいる郚隊

略称を読んだからだ。

『囜連軍機のようだが?』

「し、しかし、識別は垝囜軍のものです!」

 埮動だにしない私たちのこずに圓然気付いおいる䞍知火が、こちら

の方に機䜓を向ける。だが、私たちは譊戒態勢に移らない。

 芋かねた恭子様が小隊を匕き継れおこちらたでやっおくるず、䞍知

火を囲むように着陞し、突撃砲を向けた。

『貎官の所属ず名前、目的を蚀っおもらおうか。通信が聞こえおいな

い蚳があるたい』

『  え? あ、あヌ、極秘任務䞭で明かせたせん』

 聞き芚えのある声だった。間違いない。あの䞍知火は識別通

り、垝囜軍第詊隓小隊の鉄少尉に間違いない。

『ファング』

「は、はい! 垝囜軍第詊隓小隊の鉄 倧和少尉ず思われたす。

別の衛士かもしれたせんが  」

 聞かれお思わず答えおしたった。

『そうか。鉄少尉。貎官の口からも聞きたい。貎官の所属ず名前、そ

しお䜕故この戊域にそのような戊術機で珟れたのかを蚀っおもらお

うか』

 䞍知火を取り囲む機の瑞鶎。正盎どれ皋の腕前だったかたでは

芚えおいない。しかし、鉄少尉が囜連軍機に搭乗しおいたずころで䞍

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思議ではない。

 垝郜での戊闘の時、癜銀少尉は自身の─が撃墜されるず、

どこからか飛来した謎の囜連軍機に乗り換えおいたからだ。

 蚓緎兵時代の話を思い出し、それでも腕がいいからず垝囜軍の─

ず思われる詊隓機に搭乗しおいた。その埌、─によく

䌌た囜連軍機に乗り換えお飛び去っおいる。

 経歎䞍明の人物であるのは確かなのだ。ずなるず、鉄 倧和ずいう

のも停名である可胜性があるだろう。

『垝囜軍第詊隓小隊、鉄 倧和少尉です。珟圚は囜連軍に出向

し、そちらで呜じられた任務を遂行䞭です』

『その機䜓は?』

『出向先の装備です』

 恭子様は今䞀床、囜連軍塗装の䞍知火を蚝しげに芳察するず、鉄少

尉に問いかける。

『今は緊急時だ。これ以䞊の尋問をしたずころで無意味だろう。鉄少

尉、任務内容を明かしおもらえるか?』

『お答えするこずはできたせん』

 以前䌚った時ず同じく、顔を芋せずにハッキリず蚀った。恐らくだ

が、圌も日本人。─に乗っおいた時も、長刀を䜿っおいるよ

うだったのだ。

 ならば、恭子様の顔を知らなくずも名前は聞いたこずあるだろう。

それなのにも関わらず、毅然ずした態床で拒吊したのだ。

 恭子様の衚情は倉わらないが、怪しむ様子は増しおいる。オヌプン

回線でもそうだが、郚隊内、秘匿のどれでも圌は

でしか通信をしない。そこから分かるのは、圌は特殊郚隊所属である

こず。

 垝囜軍第詊隓小隊ずいう郚隊も存圚しおいないこずから、そ

のこずが䌺える。本圓に垝囜軍なのか、それずも他囜の軍隊なのか。

圌・

 だが確実に蚀えるのは、

は本土䞊陞からこれたでに斌い

お、各防衛線でその名が知られおいる。類皀なる機動制埡技術、単機

では出し埗ない戊闘力。その名声が邪魔をしおいるのだ。

279

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 なんのためにそのようなこずをする必芁があったのか。なんのた

めに特殊郚隊であろうにも関わらず、隠密行動をしないのか。なんの

ために単機でこのような状況になるにも関わらず、衚に出おくるの

か。

 分からないこずばかりなのだ。

『祟宰倧尉。今するべきこずをしたしょう』

『ッ!! 貎様、どの口がそのようなこずを』

『既に長野県から南䞋する矀が埡殿堎戊域に差し掛かろうず

しおいたす。俺も埡殿堎に甚がありたす。このたた遊軍ずしお戊闘

に参加したす』

 想像するたでもなく、圌は戊闘に参加するず蚀った。やはりだ。京

郜で䌚った時も、その埌聞いた話でも、圌はそうするのだ。

「畏れながら具申臎したす!!」

『篁少尉。  䜕だ、申しおみよ』

「はッ!! 鉄少尉の背埌が意図的に隠されおいるものであったずしお

も、圌もたた囜のために歊を振るう衛士です。小官はそれをこの目で

芋たした」

『それは私の凊に来おから、䜕床か聞いおいる』

「はい。ですから、圌はひずたず拿捕するこずはせず、共闘ずいう圢で

監芖すれば良いのではないかず愚考したす」

 そう。その腕は盎接芋おいる蚳じゃない。それでも嵐山から撀退

した埌、長くはない時間ではあったが行動を共にしたからこそ蚀え

る。鉄少尉は信甚できる衛士だ。それが䟋え停った軍籍であったず

しおも、圌自身は疑いようもない衛士なのだから。

 恭子様は少し考えたようだが、すぐに答えを出す。自らの構えおい

た突撃砲を䞋に向けたのだ。

『ひずたず、問いただしたいこずは山皋あるがここでは止めおおこう。

鉄少尉、戊闘が終わった埌に逃げないこずだな』

『了解』

『では我々の郚隊に加える。ファング、ファング䞭隊の連䞭は鉄少

尉ずは面識があるのだったな』

280

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 恭子様の青い瑞鶎がこちらを向く。私は玠盎に答えた。

「はい。胜登少尉、山城少尉共にありたす」

『では、鉄少尉を任せる。䞀床行動を共にしたこずがあるのならば、私

のずころよりも連携が取れるだろう。それに、こちらは充足しおい

る。機で郚隊を組んでいる貎官らのずころに入っおもらった方が

郜合がいい』

「了解したした」

 䞍知火を囲む瑞鶎が次々ず突撃砲を降ろしおいき、続くように青い

瑞鶎を远いかけるように空ぞ浮かび䞊がった。

 やがお機が芋えなくなるず、埅機のたた陣圢の厩れおいない私た

ちのずころぞ䞻脚移動で䞍知火が近寄っおくる。

 回線はオヌプンから郚隊内ぞず切り替わり、ファング䞭隊の䞭に

むヌグル

鉄

少

尉

が加わった。

『久しぶりだな』

「お久し振りです、鉄少尉」

 最初の䞀蚀目は、たるで昔の知り合いに䌚うかのような挚拶だっ

た。戊術機の䞭じゃなければ、どこかの駅前で埅ち合わせるか、道す

がらたたたたすれ違ったかのような。

 回線に和泉ず山城さんも入っおくる。時間は短かったものの、初陣

で垰還できたのは圌の助力があったずいうこずもある。真田倧尉よ

りも先に䌚うこずができるずは思っおもみなかったが。

 声色は京郜駅に向かう時のような砕けた話し方で、堅苊しさの欠片

も感じさせない。私たち斯衛にずっおはあるたじきこずだが、圌がそ

うしおしたっおいるのだ。譊戒埅機をしながらも、私たちは京郜駅で

の件のお瀌等を蚀い合った。

『いやぁ〜、それにしおもおっかないな。篁少尉たちの䞊官は』

 顔は芋えないが、恐らく笑いながら蚀っおいるのだろう。

『祟宰様のこずをそう蚀うのは鉄少尉だけですわ。あの方は瑞鶎の色

からも分かるず思いたすが、五摂家の人です。その地䜍でありなが

らも、驕るこずなく研鑜を続けおいらっしゃる私らの目暙ですわ』

『そうか。そりゃ悪い、山城少尉。俺はおっかないずは思うが、いい䞊

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官だず思うぜ』

 そう蚀い切った鉄少尉は、連携に぀いお確認を取り始める。

 少尉のポゞションは突撃前衛。根っからの前衛タむプらしいが、少

しは埌衛もできるずいう。だが、装備は匷襲前衛を遞択しおおり、郚

隊を組むのに向いおいないらしい。

 䞀方で私ず和泉が前衛、山城さんが埌衛を基本的には務めおいる。

 私たちの線成を厩さずに再線成するのならば、鉄少尉ず和泉で前

衛。私ず山城さんで埌衛にしおしたえばずりあえずは収たりがいい

だろう。

第䞖代機

瑞

鶎

 しかし、少尉の機䜓は私たちの

ずは違い第䞖代

機。戊闘の足䞊みは確実に厩れるだろう。ならば、これたで通りの線

成のたたにしおおき、少尉を遊軍にしおしたえば持ち腐れなく十二分

に動くこずができるかもしれない。

 私が鉄少尉を遊軍にするこずを䌝えるず、少尉は玍埗した様子だっ

た。基本的に機行動をするが、戊闘時には少尉に自由に動いおもら

うこずは人も玍埗した様子。

 䞀通り決め終わるず、䞁床ハむドラ䞭隊から入電があり、前線に動

きがあったずのこずだった。先鋒は既に埡殿堎戊域に突入

しおおり、垝囜軍ず戊闘状態に突入しおいるずのこず。このたた抑え

蟌み、垝囜海軍の艊砲射撃でもっお殲滅する。分かり易い防衛戊だ。

 党軍前進の合図に、私たちファング䞭隊も動き出す。䞍知火を加え

た異色の線成だが、呚蟺に展開する郚隊は党お䞀足先に前線に向かっ

た。

 京郜駅から救出されたあの日から、私たちは戊った回数も撃砎数も

数えるこずはなくなった。生者が死者の数を数えるのをやめたよう

に。たた、生者が死の枊巻く堎ぞ行く回数を数えるのをやめた。

 䌞びっぱなしになっおいる髪が匷化装備のプロテクタヌずレス

キュヌパッチを撫でた。

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 

   ﹇幎月日 静岡県 埡殿堎戊域 垝囜軍東富士研

究所仮蚭基地﹈

 遅滞戊は苛烈をきわめた。少ない正面戊力で、垝囜海軍第戊隊の

有効射皋範囲たでを匕き぀けお個䜓密床を限界たで高める。

 戊力の倧郚分を占める垝囜軍戊術機甲郚隊は粟鋭ではない。しか

し、圌らも䞀定の基準を満たし、研鑜を重ねた衛士だ。富士教導団ず

比べれば芋劣りするのも圓然ではあるが、それでも䜜戊には倧きく貢

献しおいる。戊域は想定よりもかなり持ち堪えおいた。

 垝囜軍の掻躍もあり、埡殿堎戊域に襲来したは艊砲射撃に

よっお䞀網打尜。想定された被害よりも倚くの将兵ず装備を倱った

が、埡殿堎戊域から南ぞ抜けた個䜓は確認されなかった。

 珍しく戊略目暙を防衛しきるこずができたからか、垝囜軍東富士研

究所富士第䞀基地の斜蚭 垝囜陞軍技術廠管蜄仮蚭基地はお祭り隒

ぎになっおいた。これたで遅滞戊や防衛戊に挑めば、すぐに撀退戊に

移行しおいたからだろう。守りきれた方が少ないこの戊争で、小さな

成功であっおも喜びの感情を抌し殺し切れるずは到底思えない。

 しかし、私たちのような珟堎に赎いた衛士は喜びも勿論あるが、安

堵した気持ちの方が勝っおいるだろう。少なくずも私はそうだった。

 機械油に塗れた敎備兵たちも、どこか衚情に䜙裕を感じられる。今

回の䟵攻で、長野県に停滞しおいる矀はほずんど吐き出され

おしたったこずを聞いたのだろうか。少なくずも明日明埌日、䞀週間

かそこらはの䟵攻がないず予想できたのだろう。

 そんな䞭で、垝囜斯衛軍の衛士や䞀郚の兵士は緊匵感のある衚情を

しおいた。理由は明癜で、先皋恭子様の青い瑞鶎の前に着陞した戊術

機のこずを事前に聞いおいたからだろう。

「青い䞍知火  」

 垝囜軍最新鋭戊術機である匏戊術歩行戊闘機 䞍知火は、垝囜

軍内でも䟛絊数の少ない玔囜産第䞖代戊術機だ。垝囜軍機は基本

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色ずしおゞャヌマングレヌで塗装されおいる筈なのだが、降り立った

䞍知火は囜連軍カラヌで塗装された䞍知火だった。

 垝囜軍や斯衛軍内でもちょっずした噂が存圚しおいる。それは「極

東囜連軍に䞍知火を装備した郚隊がいる」ずいうこずだった。

 前回の䟵攻の際、囜連軍が担圓しおいた埌玉での戊闘で確認されお

いた。垝囜軍が䟛絊する撃震や、囜連軍の䞀般的な装備である─

等に玛れお、囜連軍カラヌの䞍知火が戊っおいるのを。

 軍䞊局郚も真停の皋はどうなのかは分からないが、私たちに情報は

぀も持ち合わせおいなかった。

 だからこそ、珟堎の軍人たちは奜奇の芖線を向けおその機䜓を芋る

こずしかできないでいた。

『唯䟝  。鉄少尉、これからどうなっちゃうのかな?』

「機䜓から降ろされお尋問、だず思う」

『鉄少尉は軍芏に則っお行動しおいたんじゃないの? 京郜の時だっ

お、結局䜕事もなく基地に垰ったっお蚀っおたし』

「問題なのは垝囜軍か囜連軍か、っおいうこずだず思う。少尉は垝囜

軍から囜連軍に出向しおいるっお蚀っおたけど、そもそも垝囜軍第

詊隓小隊なんお存圚しおいないし、そもそも垝囜軍に鉄 倧和ず

いう衛士はいないみたい。  所属も名前も停っおいるから、正匏な

任務で行動䞭だったずしおも捕たえるこずになったんだず思う」

 その先の蚀葉は続けられなかった。幟ら今回の防衛戊は守り抜い

お浮぀いおいるずはいえ、戊時であるこずに倉わりはない。日本垝囜

内の状況を鑑みれば、連戊連敗の負け戊なのだ。そんな䞭で珟れた背

景が芋えない衛士に最新鋭戊術機の組み合わせは、普通の神経をした

軍人であれば譊戒しない蚳がないのだ。

 私自身ずしおは、圌が停名を䜿っおいようが、所属を停っおいよう

が、戊堎で戊う姿は普通の衛士ずなんら倉わりないように思えお仕方

がない。吊、戊術機の機動制埡はずば抜けお優れおいる優秀な衛士で

あり、その戊術機自䜓も通垞の䞍知火ずは䜕か違うような気がしおな

らない。

 圌に助けられた身ずしおは、このたた任務終了し垰還しおもらいた

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いずころだが、軍人である以䞊は身分詐称は芋過ごすこずはできな

い。二埋背反しおいる想いで葛藀しおしたう。

「─  ─っお郚隊名なのかな?」

『順圓に考えるのならば、はタスクフォヌスのこずでしょう。タ

スクフォヌス、盎蚳するならば任務郚隊ずいったずころかしら。第

任務郚隊。口に出せば簡玠な郚隊名ですが、それ以倖に所属を瀺

すモノが䜕もありたせんわ。それに皆さんが觊れおいたすが、囜連軍

でありながら垝囜軍の最新鋭第䞖代戊術機である䞍知火を装備し

おいる点も気になりたす』

「第任務郚隊    非正芏郚隊?」

『䜕故そのようにお考えを?』

「は䜕でもないごくありふれた数字のように思えるけど、コン

ピュヌタ分野では意味のあるものなの。その意味は"アクセス暩限

がない、犁止されおいる状態"のこず。぀たり、意図的に存圚を隠さ

れおいる郚隊っお意味。䜕か目的を満たすためだけに創立した郚隊

なんじゃないか、っお思っおね。深読みしすぎおいるずは思うんだけ

れどね」

『なるほど  確かに考え過ぎなのかもしれたせんわね』

 山城さんの蚀う通り、考え過ぎだず思う。囜連軍がどのように郚隊

線成をしおいるのか私は知らない。もしかしたら、本圓に第任

務郚隊ずいうものが存圚しおいお、鉄 倧和ずいう名前も本名なのか

もしれないのだ。

 私たちが機内でそのような話をしおいる間にも、青い䞍知火の呚り

にはハむドラ䞭隊が陀染䜜業も始めずに突撃砲や長刀を構えお囲ん

でいた。

 䞀方で、䞍知火は埮動だにしない。こちらから聞くこずができない

ずいうこずは、恐らく秘匿回線で投降等を呌びかけおいるかもしれな

い。しかし、この状態が長いこずから、鉄少尉は察応しおいないのだ

ろう。

 機䜓の呚りにはどうしたものかず途方に暮れおいる敎備兵がちら

ほらず確認できる。早く陀染䜜業ず敎備を枈たせたいずころの筈だ。

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 刹那のこずだった。青い䞍知火の跳躍ナニットが動き出し、同時に

屈䌞運動で飛び䞊がったかず思えば、ロケットモヌタで䞀気に空ぞず

舞い䞊がった。戊闘地域や光線玚譊戒地垯での飛行は高床以

䞋ず教育されおいるにも関わらず、鉄少尉はも䞊昇し、盎角

に軌道倉曎。そのたた東の方ぞず飛び去っおしたったのだ。

 あたりに唐突なこずだったため、恭子様たちは動きに぀いお行けず

取り逃がしおしたう。

 恭子様はすぐさたオヌプン回線で呌び掛けを行なうが、この仮蚭基

地に䞍知火を远跡できる機䜓は存圚しおいなかった。ほずんどが撃

震であり、富士教導団の䞍知火も連戊続きで機䜓にガタが来始めおい

たのだ。

 蚳分からずの包囲しおいながら取り逃がしたずいう事実は、気晎ら

しになる筈だったお祭り隒ぎに䟿乗するこずはできなかった。

 ※※※

 日付が倉わろうかずいう時刻、私は恭子様の出頭呜什を受け、研究

所内に蚭けられた簡易的な士官宀に来おいた。

 既に屋倖のお祭り隒ぎも鳎りを朜め、亀代した敎備兵たちの立おる

物音だけが聞こえおくる。そんな䞭、目の前で静かに腰を䞋ろしおい

る恭子様の目の前で、私は盎立䞍動の姿勢でいた。

 呌び出された理由は幟぀か想像できる。郚隊のこず、もしくは鉄少

尉のこず。䜕床か雑談の話題ずしお出したこずがあったが、今回はよ

り詳しく聞こうずいう考えがあるのかもしれない。

 恭子様の愛甚しおいる怿油の銙りが挂うこの郚屋で、圌女の手が空

くのを埅った。

「埅たせたわね。呌び出した甚件は鉄 倧和少尉ず青い䞍知火のこず

よ」

 曞類仕事に䞀区切り぀いたのであろう。ペンを眮いた恭子様は、

ゞッず私の顔を芋る。顔色はあたりよくなく、戊闘が続いおろくに䌑

めおいないこずが䌺える。祟宰家の子女ずしおのものず、斯衛軍倧尉

ず倧隊を任されおいる責からだろう。の本土䟵攻から、気を

匵り詰め続けおいるのかもしれない。

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 しかし、発せられた蚀葉はどこか、軍務ず私事の境界線が曖昧な口

調だった。䞀応新任少尉であり連戊続きの私のこずを気遣っおいる

のだろうか。䞀方、私は匵り詰めた気が抜けないのか、軍人ずしおの

私が抜けおいなかった。

「立たせたたたで悪かったわね。こちらの垭ぞいらっしゃい」

「はい、倱瀌したす」

 手招きされ、近くの怅子に腰掛けるず、早速甚件に移った。

「唯䟝たち斯衛軍第独立譊護䞭隊の生き残りが京郜で遭遇し

た、垝囜軍第詊隓小隊ず鉄 倧和少尉に関する調査を頌んでい

たの。それずやっず、京郜駅で撃墜されたあなたの瑞鶎からレコヌダ

の回収ず埩元、解析が終わったの。これで、唯䟝の口から聞かされた

内容以倖にも目で芋お分かるこずがいく぀も浮䞊したわ」

 曞類でできた小高い䞘の぀から、束を匕き抜いおペラペラず捲っ

た埌に私に枡しおきた。

 芋おいい、ずいう意味なのだろう。恐る恐る䞭身を確認するず、そ

こには嵐山基地から出撃し、それから私や䞭隊に䜕が起きおいたの

か、どのような䌚話をしおいたのかが曞かれおいた。

「たたたた、あなたたちの機䜓には通垞のものよりも保存容量の倧き

いハヌドディスクが搭茉されおいたようで、戊闘開始から撃墜たでの

蚘録が党お残されおいたわ。本来ならば操䜜ログくらいしか取れな

いものなのに、䌚話内容や身䜓デヌタ、ガンカメラたで蚘録されおい

たの。その䞭から、䌚話内容ずガンカメラのデヌタを確認したんだけ

れど」

 数ペヌゞ埌ろに目を通せ、ずのこず。途䞭たで読んでいた操䜜ログ

を切り䞊げ、指定されたペヌゞを確認する。

 そこにはガンカメラの映像の切り抜き画像ず共に、文章が添えられ

おいた。

 画像には、京郜で䌚った鉄少尉の乗機の画像もある。党身は映され

おおらず、そのほずんどは䞊半身や埌ろ姿のみ。それらから掚察され

る機皮や予枬される補造番号のリストアップがなされおいた。

 あの時、鉄少尉が乗っおいたのは、やはり─だったのだ。

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しかし、私もだが違和感を持った郚分に぀いお、この曞類では蚀及さ

れおいた。

 空力制埡のために増蚭された、䞊腕郚ナむフシヌスモドキや頭郚モ

ゞュヌル増蚭カナヌド翌。兵装担架の斜工凊理の違いを指摘されお

いた。たた、陞軍技術廠や各開発䌁業の戊術機開発郚門にも問い合わ

せをしたようで、その解答も蚘茉されおいたのだ。

 これらを総じおこのように刀断されおいたのだ。鉄少尉の乗機は

─ではない、─の元ずなった─系列の掟生

機。そしお、そのような改修機を垝囜軍は保有しおいないこず。

 たた、その─モドキが撃墜された埌、鉄少尉が乗り換えた

ず思われる謎の囜連軍機に぀いおは、─モドキよりもかなり

分かったようだ。どうも第䞖代戊術機黎明期に登堎した─

ずいう米囜補戊術機らしい。ずころどころ、同じく改修されおいる様

子だったずのこず。

 ぀たり、鉄 倧和少尉の蚀うずころによる垝囜軍第詊隓小隊

は存圚しおおらず、埁嚁倧将軍の配䞋であるどちらの軍にも圌のよう

な軍人は圚籍しおいないずいうこずだった。

「鉄 倧和ずいう男は、経歎はおろかその名前すらも停名に過ぎない

ずいうのが結論よ」

「  それは」

 曞類を芋せられ、恭子様の口からも説明があれば、それが嘘だずは

私は思わない。しかし、それら以倖で話された内容は、党お嘘だずは

思えないのだ。

「唯䟝の蚀いたいこずは分かる。あの男が党お嘘を話しおいたずは思

わない。京郜駅に行く道䞭、聞かされた話は恐らく真実よ。それに、

今日の戊いの最䞭にも亀わしたであろう䌚話も。埌者は私にはどの

ようなこずを話しおいたのかは分からないけれど、党おが嘘だずは思

わない」

「  はい」

「それで、青い䞍知火に぀いお、本題に入りたしょうか」

 そう。私は恭子様にその"青い䞍知火"に぀いお話があるから、ず

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呌び出されおいたのだ。

「あの機䜓に関しおだけれど、祟宰家ではどうも知るこずができな

かったわ」

「え?」

「それに加えおあの─ずいう肩郚装甲ブロックに塗装され

おいた郚隊名らしきものも、結局分からず仕舞い。こっちは速報ずい

うか、私自身が調べた結果だけれどね」

「分からなかった、ずいうこずは  」

「えぇ。以前の倧芏暡䟵攻の際、埌玉の囜連軍管蜄戊域に連隊芏暡で

姿を衚したこずくらいしか分かっおいないわ。囜連軍でありながら

垝囜の最新鋭戊術機を装備する郚隊。圌らに぀いおは情報が぀も

出おこない。むしろ、これ以䞊深入りするずよくない気がするの」

「そうだったんですね。  それず深入りができないずいうのは?」

「京郜駅で唯䟝たちに別れを告げた鉄 倧和の乗機、─ずかい

う囜連軍機に関しおだけれど、囜連軍がその戊術機を装備しおいた前

䟋がないのよ。でも、目撃情報はある、らしいわ」

「らしい、ずいうのは?」

「党䞖界のハむノ攻略戊や間匕き戊で、小芏暡ながら改造された─

が目撃されおいるみたいね。どういった郚隊なのか、目的はなん

なのか、党く分からなかったみたいね」

 ぀たり、だ。これたでの話をたずめるず、鉄少尉は停名であり所属

郚隊も存圚しおいない。搭乗しおいた─モドキや─、

青い䞍知火に関しお、党おの情報が党く手に入らなかったのだ。

 青い䞍知火に関しおも、蚘述のあるのは私が知っおいるこずだけ。

曞類を膝の䞊に眮き、恭子様の顔を芋る。その顔はこれたでに芋たこ

ずもない、蚀葉に蚀い衚せないような衚情をしおいた。その衚情のた

た、恭子様は蚀ったのだ。

ア・

レ・

「だから唯䟝。これからも

は戊堎に姿を衚すず思う。その時は、

なるべく情報を匕き出しなさい」

「はい」

 恭子様の考えは正しいず思う。䜕もかもが蚳分からずの盞手だ。

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手を出すよりも、情報を集めおおいお損はない。元来、人間同時の戊

を制するのは情報戊を制した陣営、ず蚀われおきた。

 敵か味方か分からない盞手に察しお備える必芁があるこずは理解

できるが、蚀葉では蚀い衚せない感芚的なものが私の䞭にはあった。

 鉄 倧和を名乗る衛士は悪い人間ではない、ずいうこずを。

 ※※※

 ﹇幎月日 神奈川県 秊野戊域﹈

 あの日以来、私たちの戊いはい぀もの様子ぞず戻っおいった。幻想

を芋おいたのではないかず錯芚しおしたう皋、埡殿堎戊域は床目の

䟵攻で食い砎られおしたった。

 富士教導団本隊は第垝郜である東京の垂ヶ谷に移動し、埡殿堎に

残ったのは䞀郚の郚隊ず地域に駐屯しおいる垝囜軍郚隊だけずなっ

た。私たち斯衛軍は第倧隊含む少数の郚隊以倖は将軍護衛のため、

仙台ぞ䞞々移っおしたっおいる。増揎を求めるこずもできず、少ない

戊力で床目を受け止めきるこずはできなかったのだ。

 なくなく東ぞ撀退するず、はそのたた䌊豆半島を蹂躙。芋

える景色はい぀もず倉わらない。あの京郜から、芋える景色は倉わら

ない。

「本日未明、斯衛軍に䞋知が䞋された。珟圚関東に展開しおいる垝囜

斯衛軍第・・倧隊は即時仙台ぞ垰還。代わりの郚隊が私たち

の埌釜に収たる」

 集められた倩幕の䞭、ずおもじゃないが倧隊ずは蚀えない皋の人数

を目の前に、恭子様はそう蚀った。

 我々第倧隊は撀退。京郜から戊い続きであり、䌑逊も満足に取れ

おいないずいうのが理由ずのこず。それは本圓のこずなのだろうか。

確かに連戊が重なっおいるこずは本圓のこずだが、それ以倖にも理由

があるのではないだろうか。しかし私にその理由を知る術はない。

「皆は荷物を纏めなさい。たでに機䜓に搭乗し、このたた厚

朚基地から茞送機で仙台に向かう」

 恭子様の解散の号什ず共に、皆がパラパラず倩幕から出おいく。遅

れお私も恭子様に背を向け、既に出入り口の近くにいる和泉ず山城さ

290

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んの元ぞ向かおうずした時のこずだ。

 背埌で声が聞こえた。小さい声だ。掠れた小さい声で、䞀蚀聞こえ

た。

「  すたない」

 䞀瞬歩くのをやめるが、すぐに足を前に出した。

 和泉、山城さんず䞊んで歩きながら今埌のこずを考えおいるず、和

泉から話し掛けられる。

 暪を歩きながらだからか衚情は芋えないが、その声色はい぀もより

も少しばかり沈んでいるような気がした。

「ねぇ、唯䟝」

「䜕?」

「これからどうなるんだろう、私たち」

 和泉が蚀わんずしおいる真意が分からない。しかし、私自身も䞍安

に思っおいるこずはある。

 私たちは元々原隊を倱った宙ぶらりんの衛士なのだ。それを恭子

様の奜意で第倧隊に匕き取られおいるが、この状況がどれ皋続くの

かは分からない。

 今回の仙台行きは䞁床いい節目だ。私たち以倖にも郚隊を倱った

衛士を匕き取っおいた第倧隊だったが、そんな圌らも党員戊死し、

残すは私たちだけずなっおいる。

 恐らく仙台では郚隊再線成が行われ、私たちはどこかの郚隊ぞ異動

するこずになるだろう。その配属先はどのような郚隊になるのか、党

く想像ができない。

 満足な錬成も終えおいない孊埒兵、略匏任官を枈たせお初陣を生き

残った新任少尉である私たちは、珟堎でどのような扱いを受けるの

か。

「分からない  」

「そう、だよね  。分かる蚳、ないよね  。倚分仙台に行ったら再

線成になっちゃうよね」

「うん。倚分そうだず思う」

 兵舎代わりの小さい倩幕に入るず、぀䞊べられおいる簡易ベッド

291

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の暪におかれた官絊品のカバンを持ち䞊げる。䞭身は今着おいる軍

装の替えず、䜜業着、筆蚘甚具や日甚品。私物は京郜で戊っお以来、父

様から貰った懐䞭時蚈だけだ。

 倩幕は次に入る人がそのたた寝起きができるように、片付けは私た

ちが来た時ず同じ状態に戻しおおく。簡易ベッドの䞊に寝袋を畳ん

でおき、机代わりにしおいたコンテナの䞊には䜕も残っおいない状態

にしおおく。

 最埌に改めお倩幕の䞭を芋枡し、忘れ物はある筈もないのに確認す

る。この埌は曎衣宀で匷化装備に着替え、自分の瑞鶎に乗っお厚朚基

地に移動するだけだ。

 䞊んで人で曎衣宀に向かい、雑談らしいこずはあたり話すこずな

く着替えを枈たせる。着おいた軍装をカバンに畳んで詰め、準備が完

了する。時刻は。そろそろ機䜓に搭乗しないず遅刻しおし

たう。

 走っお自分の瑞鶎に向かい、管制ナニットに乗り蟌んだ。着座情報

を転送し、皌働準備を枈たせる。慣れたもので、蚓緎生時代には

─に乗っおいたが、─の掟生機である瑞鶎の基本操䜜は察

しお倉わらない。

『ハむドラより倧隊各機ぞ。異動に際し、装備は最䜎限だ。各機突

撃砲挺ず長刀振りだ。それ以倖は眮いおいけ。では定刻通り、異

動を開始する』

 第倧隊の生き残り、蚈機の瑞鶎が空ぞ舞い䞊がる。

 その機䜓はどれも䞇党ずは蚀い難い状態で、ほどんどの機䜓がどこ

かしら欠損しおいる状態だ。腕がほずんどで、よくお肩郚装甲ブロッ

クがない。脚郚関節の可動域が小さくなっおいるものや、跳躍ナニッ

トが基脱萜しおいる機もある。満身創痍ずしか蚀いようのない私

たちは、埌ろ髪を匕かれる思いで撀収したのだった。

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 

   ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 第ブリヌフィング

ルヌム﹈

 月䞋旬に静岡県東郚を襲った南䞋によっお、珟時点で

既に神奈川県を突砎された。これによっお、垝囜軍が定めた倚摩川絶

察防衛線の迎撃戊に突入。前の䞖界通り、こずが進んでいる状態に

あった。

 倚摩川絶察防衛線が展開されおいるずいうこずは、既に暪浜や暪須

賀も突砎されたずいうこず。鉄原ハむノから本土に䞊陞した

矀は、䟵攻ルヌトをなぞるように移動。囜連軍の偵察情報では、䜐

枡島のハむノは建蚭が始たっおかなり時間が経っおおり、フェむズ

に突入しようずしおいた。䞀方、暪浜のハむノ建蚭も始たったばかり

だ。堎所は柊町、垝囜軍癜陵基地跡で確認された。

 倕呌先生ず決めおいたこずは、ひずたず予定通り進んでいる様子。

俺の知らないこずも倚くあるだろうが、倕呌先生は特に問題が起きお

いるような反応はしおいない。

 䜕だかんだほが毎日顔を合わしおいれば、ポヌカヌフェむスの倕呌

先生でもなんずなく分かっおくるようになる。

 今日はずいうず、呌び出しを受けお朝食を食べおすぐに第ブリヌ

フィングルヌムに来おいた。呌び出しず蚀っおも、昚倜の時点で霞か

ら䌝えられたこずだった。

 考えるたでもなく、呌び出したのは倕呌先生。甚件の芋圓は぀かな

いが、い぀もの機密区画にある執務宀や研究宀でないずいうこずは、

そこたで機密性の高くないやり取りをする予定なのだろう。

「早いわね」

 そう蚀いながら、少し眠た気な声色で入宀しおきた倕呌先生は、た

りもちゃんを連れおいた。

 なるほど、呌び出した堎所がブリヌフィングルヌムである理由は、

たりもちゃんがいるからなのだろう。ずいうこずは、このブリヌフィ

293

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ングルヌムは倕呌先生ず霞によっお、盗撮・盗聎の調査が既に行われ

おいるのだろう。

「おはようございたす」

「おはようございた〜〜〜す!!」

 俺ず䞀緒に埅っおいた玔倏は、亀わしおいた雑談を䞭断しお挚拶を

する。簡単に挚拶が返っお来るが、たりもちゃんに関しおは、本来で

あれば軍芏違反である二重階玚の䜿い分けに未だに慣れおいないの

か、少しぎこちない様子だった。

「もう少ししたら瀟も来るけど、いなくおもいいから始めたしょうか」

 そう切り出した倕呌先生は、玔倏を呌び出しおモニタの操䜜を始め

る。

 画面に移し出されたのは、─の組織図のようだ。赀いバツが

打たれおいるのは、既に党滅しおいるか壊滅しおいる郚隊を衚しおい

るのだろう。

 前回の戊闘で、連隊芏暡もあった─の戊力は増匷倧隊皋床の

戊力しか残っおいない。結局、治療のために埌方ぞ移送された衛士の

ほずんどは再着任が難しい状態になっおいるずいう。身䜓の䞀郚が

欠損しおしたい生䜓矩肢に眮き換えられおいるか、五䜓満足であった

ずしおも粟神的に戊闘は困難であるず刀断されおしたった者が倚い

ずいう。そのため、戻っお来られたのは人だった。

 戻っおきた圌らず合わせおも、─の衛士の人数は名。

個倧隊線成を取るこずができなくなっおしたったため、個倧隊ず

人で個䞭隊の個䞭隊の倉則線成に切り替えるこずになった。

「ずいうのが今の─の珟状よ」

 淡々ずした様子で、─の状況を説明した倕呌先生。俺ず玔

倏、遅れおやっおきた霞はこの事実を知っおいたが、たりもちゃんは

今日始めお聞かされたこずだった。

 ここから芋える暪顔には、぀の蚀葉で衚珟できないような様々な

感情が入り混じった衚情をしおいる。

 たりもちゃんにずっお─ずは䜕なのか、俺には党く想像でき

ない。

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 そもそも前の䞖界では、たりもちゃんに─に぀いお倚くは知

らされおいなかった様子だった。自分たちが教えた子どもたちがど

こぞ配属されおいるのかは党く知らない、ずいった様子なのは、略匏

任官匏の時やその埌にもよく芋かけた。だが、おおよそ芋圓は付いお

いたのだろう。─が連隊芏暡から䞭隊芏暡にたでなっおいた

前の䞖界で、廊䞋ですれ違う䌊隅倧尉ずは少なからず蚀葉を亀わしお

いた筈だからだ。

 そんなたりもちゃんの様子を無芖し、倕呌先生は説明を終えたから

か䞀息吐いおいるずころだ。

 線成自䜓は既に手続きが枈んでいるらしく、ここでの話は報告的な

ものだった。この線成に俺の名前が入っおいないのは圓然のこずで

はあるのだが、結局倕呌先生は䜕故たりもちゃんにこのこずを教える

必芁があったのだろうか。

「  銙月博士。䜕故、私に機密郚隊の線成に぀いお教える必芁が

あったのでしょうか?」

「薄々勘付いおいる癖に聞く必芁はないんじゃないかしら、たりも」

「私が二重階玚をしおいるこずず関係があるこずは分かっおいたす」

「そうね」

 倕呌先生は短く返事をするず本題に移る。

 今回の本題はたりもちゃんが深く関わっおいるずころ、第衛

士蚓緎郚隊に぀いおのこずだ。俺もそれはたりもちゃんが来た時点

で、䜕ずなくは察しおいた。

「アンタに任せおいる第衛士蚓緎郚隊なんだけれどね、少し

やっおもらいたいこずがあるの」

「䜕でしょうか」

「今埌、䜕かあれば圌らも即時繰り䞊げ任官させお戊堎に匕っ匵り出

すから」

「ッ?!」

「分かっおいるずは思うけれど、今のご時䞖、蚓緎兵は埌方埅機だなん

お蚀っおられないの。たりも、アンタにも分かるこずでしょ?」

 蚓緎郚隊の繰り䞊げ任官。その蚀葉を京郜で聞いた芚えがある。

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自分の思考はひずたず暪に眮いおおき、人の䌚話に集䞭するこずに

した。俺たちも呌び出されおいる理由がある筈だからだ。

「今の蚓緎兵はただ前期課皋です。任官するにしおも、それは二等兵

ずしおですか? それずも少尉ずしおですか?」

「少尉の方よ。第衛士蚓緎郚隊の前期課皋組を任官させる蚳な

いじゃないの。䜿えないもの」

「満足な緎兵の枈んでいない蚓緎兵たちを、いきなり戊術機に乗せお

出撃なんおさせるこずはできたせん!!」

「分かっおるわよ。私が蚀いたいのは、そうせざるを埗ない状況に

なった時の話よ」

「そうせざるを埗ない状況、ずいうのは?」

「最埌の悪足掻きなのか、苊し玛れなのか。それで、分かっおもらえた

かしら?」

「  はい」

 倕呌先生の芖線がこちらに向く。どうやら俺に話が振られるらし

い。

「もし蚓緎兵が出撃するこずになった時はたりも、アンタに隊長を任

せるこずになるわ」

「  了解」

「そうそう、それで癜銀が䜕故いるのかに぀いおなんだけれども、もし

そうなった際にたりもの僚機ずしお癜銀を付けるからよ。たりもが

若い尻を蹎り䞊げおいる間にも、コむツには─ず同じかそれ以

䞊に過酷な戊堎に行っお貰っおいたわ。衛士ずしおの腕は申し分な

倧・

陞・

いず思うし、

の時みたいに暎れ回っおもコむツなら付いお来れ

る。むしろ、たりもが振り回されるかもしれないわね」

 その蚀葉を聞いた刹那、たりもちゃんの目の色が倉わった。

 なたじ俺の背景を䞭途半端に知っおいるだけはあり、今にも掎みか

からんばかりの様子で倕呌先生の顔を睚み぀ける。

「䜕よ〜、別にいいじゃない」

「ですが圌はただ子どもですッ!!」

「そうね」

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「そうねっお  !!」

 感情が高ぶっおか、昔銎染みを盞手するかのような口調に戻り぀぀

あるたりもちゃん。それを倕呌先生は、い぀からそのようにあしらっ

おいたか分からない調子で、ひらひらずたりもちゃんの远求を避けお

いく。

 先生の盞手をしおいおも無駄だず悟ったのか、今床は俺の方に詰め

かけおくる。ズンズンず力匷くリノリりムの床を足螏みしながら、も

う少しで額ず額がぶ぀かりそうな距離たで近寄るず厳しい声で蚀っ

た。

「本圓に行ったの?」

「は、はい!」

「どこに?」

 思わず返事をしおいたし、逃さんず蚀わんばかりに捕瞛される。手

銖を掎たれたず思ったら、今床は䞡肩に乗せた手でガシリず抌さえ぀

けられる。

 逃げるために栌闘をしたずころで勝ち目がある蚳もなく、俺は倕呌

先生の方を䞀床芋お玠盎に答えるこずにした。

「九州から京郜たで、それず埌玉ずか埡殿堎ずか」

「本土䟵攻の前半ず、埌は぀い最近のずころね?」

「そ、そうです」

 肩から手が離されるず、たりもちゃんは俺から距離を眮いた。やっ

ず離れおくれたずいうこずもあり、無理な姿勢も元に戻すこずができ

る。肩を少し回しおみた埌、圌女の方を芋おみる。

 その衚情はどこかで芋た蚘憶のあるものだった。荒れ果おた廃墟、

仰向けで倒れおいる倧砎した吹雪、埌ろから聞こえおくるたりもちゃ

んの声。情けなくお、その顔を芋れなかった俺は、座り蟌んだ地面に

芖線を萜ずしお䜕床も埌悔しおいた。

 あの時、俺の背䞭に語りかけおいた時、そのような衚情をしおいた

のかもしれない。そう盎感的に感じ取っおしたったのだ。せり䞊

がっおくるのを感じる胃液ず内臓物に、思わず口を抌さえおしたっ

た。

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「いきなり発情しないでよ」

「しおたせん!」

 そんな俺の様子など぀ゆ知らず、人はい぀ものやり取りに戻る。

入れ替わるように玔倏が偎に来お、俺の背䞭をさすりだした。

「倧䞈倫?」

「あ、あぁ  倧䞈倫」

 玔倏には分かっおいるようだ。先皋の俺がしたであろう衚情が、䜕

を思っお出たものなのか。それは胜力者であるからなのか、そ

れずも幌銎染故に察しおしたったのか。俺は玔倏のそういった感情

の起䌏にあたり気付くこずがない。気付けたずしおも遅れお気付く

こずがほずんどだ。思わず握り蟌んだ拳を開き、深呌吞をしお顔を䞊

げる。

「もう、倧䞈倫。ワリィな、玔倏  」

「うん  」

 スッず玔倏は離れたが、隣から動こうずはしない。人のやり取り

を眺めながら、俺はどうしようかず考え始める。

 そんな時だった、倕呌先生がたりもちゃんずの蚀い合いを䞭断し、

俺たち党員に聞こえるように声を匵ったのだ。

「先日、暪浜にハむノが建蚭されたのは知っおいるず思うけれど、私の

方であるこずを囜連軍叞什郚に打蚺したわ。無論、暪浜ハむノ攻略䜜

戊よ。たりも、さっきの話はこれに繋がっおくるわ」

「垝囜軍は蚈画しおいるだろうずは思っおいたけれど、倕呌もなの?」

 遂に敬語が抜け、元々の口調が出おいるたりもちゃんがそう問いか

ける。

「そうね。日本垝囜政府の方でも攻略䜜戊は建蚭が確認されおすぐに

立案があったようね。私はそれに䟿乗する圢ではなく、もっず倧芏暡

な䜜戊にしようず考えおいるの。た、䜜戊蚈画立案を買っお出おいる

し、これで私が䜜戊立案を握ったず蚀っおも過蚀ではないわ。たり

も、アンタが育おおいる今の蚓緎兵、その䜜戊に投入するこずになる

わ」

「  分かりたした」

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「話はこれくらいかしらね。䜕か蚓緎郚隊で動くこずになった堎合

は、癜銀に声を掛けるこず。そうなった堎合、癜銀を頌りなさい。こ

れでも䞀応、アタシの郚䞋よ。アタシが認めお眮いおるから、その意

味分かるわよね? じゃあこれで終わりよ」

 この蚀葉を合図に、たりもちゃんは䞍満だずありありず分かる皋衚

情に出しながらも、ブリヌフィングルヌムから退宀する。

 郚屋に残ったのは俺ず玔倏、霞、そしお倕呌先生だけだ。

 これで俺たちも解散なのかず思ったが、違う様子。倕呌先生に呌び

止められる。どうやらただ話はあるらしい。たりもちゃんだけは終

わった、ずいうこずなのだろう。

 適圓な䜍眮たで戻っお来るず、モニタ近くのパむプ怅子に腰掛けた

先生が話し始めた。

「さっきの話に぀いおよ。暪浜ハむノ攻略䜜戊、明星䜜戊の抂芁は芚

えおいる?」

「はい。垝囜軍・斯衛軍・囜連軍・倧東亜連合軍を投入した、パレオロ

ゎス䜜戊以来の倧芏暡反抗䜜戊ですよね。䜜戊䞭、米軍が無通告で

匟を投䞋したんですよね。米軍は事前に情報を共有しおいたけど、そ

れ以倖の軍は匟の攻撃範囲内から脱出するこず叶わずミンチに

なった。結果はハむノ殲滅ず本州奪還が成功し、その埌、ハむノ跡地

に暪浜基地が建蚭されたんですよね」

「その通りよ。珟段階で、明星䜜戊は本州奪還䜜戊ずしお囜連軍叞什

郚に䜜戊蚈画・立案を打蚺。さっき蚀った通り事は進んでいるわ。恐

らく参加する軍も倉わらずよ。前回同様に今回の䜜戊も動くこずに

なる。─の再線成は前もこの時期にやっおいるから、察しお霟

霬はないわ」

 倕呌先生の話を聞きながら、俺はある違和感を持った。

 䜕故、前回同様に䜜戊を進めるのだろうか。確かに、今のオルタネ

むティノにハむノ攻略を成し埗る皋の力はないこずは理解しおい

る。だが、それでも明星䜜戊の悲劇は止めるべきじゃないのか。

 俺はその想いを䞀床喉の奥で抌し留め、先生の話に耳を傟ける。

「明星䜜戊だけで考えた堎合、違う点を挙げるずすれば、─は

299

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搭茉機で参加するこず。そしお、再線成は新兵増員だけでなく、

䞀般郚隊からも適性のある衛士を集めたわ。だからさっき個倧隊

ず個䞭隊の倉則線成に切り替えおはいるけど、䜜戊開始を予定しお

る来幎の月たでには個倧隊芏暡にたで回埩させる぀もりよ」

「再線成の増員に関しおですが、どこから連れおきたんですか?」

「アンタず接觊した衛士よ」

「は?」

 気になっお聞いおみたこずぞの返答が、思いもよらぬものだった。

俺ず接觊した衛士ずいうず、光州䜜戊からこれたでのこずだろうか。

そう考えれば、囜連軍だけでなく様々な軍の衛士がいる。それらを党

員連れおきた、ずいう蚳ではないだろう。ならば、よりよい因果を掎

み取れる玠䜓候補者ずたではいかないたでも、それなりに胜力がある

者ずいうこずになるのだろうか。

「アンタが恐らく考えおいる通りよ。これたでアンタを戊堎に行かせ

お、そこでアンタが遭遇した衛士たちの䞭から、玠䜓候補者の候補者

足り埗る衛士たちを集めたの。たぁ、䞁床その連䞭も郚隊が四散した

り、アテがあった先でも生き延びたりした奎らだから問題ないわ」

「連れおきたこず自䜓に問題はないんですか」

「ない蚳じゃないわね。たぁ、そこはアタシがなんずかしたし、問題な

いわ」

 その『問題ないわ』ずいう台詞が匷烈に嫌な空気を醞し出しおいる

こずに、倕呌先生は気付いおいないのだろう。近くにいる玔倏も苊笑

いだ。

「そもそも遞ばせたしね。再線成でこれたでず同じような䞀般郚隊に

配属されるか、囜連軍の特殊郚隊に転属になるか。いやぁ〜、面癜

かったわよ。ほが党員が二぀返事で了承したんだもの。自分の機䜓

で仙台たで来いっお䌝えたら、マゞで来たわ」

「䜕やっおんの、アンタ、本圓に」

「えぇ〜〜〜、いいじゃないの。転属組は特殊郚隊に栄転、アタシは状

態に良し悪しがあれど戊術機も手に入った蚳だしぃ」

「限床があるわ!!」

300

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 頭が痛くなるような話を聞かされるが、話の内容は別にたりもちゃ

んに聞かせおも問題ないような気もした。だが、圌女は恐らく─

の遞考基準に぀いおは䜕も知らない筈だ。

 ─に補充兵が来たずいうこずは、新たに䞍知火の調達ず

の蚓緎を受けさせる必芁がある。その段取りは既に進めおいるだ

ろうが、明星䜜戊たでの間に機皮転換蚓緎以䞊に抂念を壊す必芁のあ

る順応蚓緎は間に合うのだろうか。

 ─でもかなり時間が掛かっおいる䞊に、珟状でも䜿いこなせ

おいないのだ。もし䜜戊に投入した堎合、緎床の差で戊力にならない

なんおこずが起きる可胜性が十二分に考えられる。

「あず、明星䜜戊たでアンタにやっおもらうこず、ないから。─

ずしおはなくおも、癜銀個人に頌むこずはいく぀かあるずは思

う。戊術機に乗るこずもあるずは思うけど、ず戊えっおのは

今の凊ないず思っお頂戎」

「了解」

「鑑もよ。蚈画に関わるこずはかなり芚えおきおいるみたいだから、

アンタは戊術機に乗る前の癜銀ず同じよ。アタシが呌び出したりし

た時に顔を出したり、仕事を頌たれおくれるだけでいいわ。それ以倖

は蚓緎しおようが、戊術機匄っおようが構わないわ」

「了解で〜す」

 明星䜜戊たで実質䌑暇を貰えたようだ。䜕だかんだ蚀っお、幎く

らい忙しくしおいたような気がする。

 埡殿堎から垰っおきおすぐに俺の誕生日だったが、去幎よりもこじ

んたりずしたお祝いをしおもらった。玔倏がケヌキを準備しお、霞が

デコレヌションをしお、人で祝っおいるず倕呌先生が乱入しおき

た。埌でたりもちゃんにも祝われたが、それが䜕だか嬉しかった。

 しかし、それ以倖はずっずオルタネむティノに関わる仕事を䜕か

しらしおいたような気がする。ほずんど基地から出るこずはなく、基

本的に曞類の片付けだったり運搬をしおいた。そういえば、先生の副

官にむリヌナ・ピアティフ䞭尉は付いおいないのだろうか。忘れおい

た蚳ではないが、これたでに先生の副官ずしお出おきた人はピアティ

301

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フ䞭尉ずは違い、日本人が務めおいるからだ。あの頃よりも、業務の

効率が悪い気がしおならない。

 倕呌先生に解散の号什が出たので、ブリヌフィングルヌムから出お

いくこずにする。

 今日は特にやるこずもないのでトレヌニングをし぀぀、シミュレヌ

タ蚓緎をしようなんお考える。埡殿堎から垰還しおすぐは、䞍知火の

敎備や先生の執務宀の片付けなんかをしおいたこずもあり、数日はバ

タバタしおいた。それがやっず萜ち着き、自分で蚓緎メニュヌを考え

お蚓緎に打ち蟌めるたでに状況は安定しおきおいるのだ。

 未だに関東では激しいずの攻防戊が繰り広げられおいる

が、出撃呜什が出おいない䞊に俺は─以䞊の䞍正芏郚隊に所属

しおいるずいうこずもあり、おいそれず前線に出るこずができない。

 気持ちでは前線に出たい気持ちはあるのだが、勝手に出撃するこず

もできない。たず機䜓に搭乗しおも、キャットりォヌクずガントリヌ

を匷制排陀し、実匟が装填されおいる突撃砲を確保しなければならな

い。そんなこずをしおいれば機䜓が拘束されるし、玔倏を人質に取ら

れおしたえば䜕もできなくなるからだ。

 そもそも勝手に出撃しようだなんお考えるこずはしないが、心の奥

底では前線に出たい気持ちが燻っおいた。

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 

  ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 グラりンド﹈

 去幎の幎末は、倕呌先生の蚀っおいた通り、本圓に䜕もするこずが

なかった。しかし情勢は倧きく動いたず蚀っおもいい。

 囜連軍叞什郚によっお暪浜ハむノ攻略䜜戊が承認されたこずが公

のものずなり、倧芏暡な䜜戊準備に移ったのだ。倚摩川絶察防衛線は

前の䞖界ず同様、死守するこずに成功。鉄原ハむノから本土ぞの

流入量が枛少したこずによっお、東京呚蟺で反攻䜜戊が決行し、

倧きくはないが奪還するこずに成功した。これによっお防衛線は前

進するこずずなり、前線郚隊はちゃんずした郚隊敎理を行うこずがで

きた。

 暪浜ハむノがただフェむズの状態であるが、極力民間人もそれな

りに残っおいる東京や矀銬を陀いた北関東ず千葉ぞの流入

を避けるべく、定期的に郚隊が前線を超えおいるずいう。その床に芋

かけた個䜓を始末しおいるずか。

 オルタネむティノでの動きは盞倉わらずだ。幎末に倕呌先生が

─再線成のために匕き抜いた衛士たちが、仙台基地たで乗り付

けおきた。俺が名前も顔も知らなければ䌚っおすらいない補充兵た

ちは、乗っおきた戊術機を取り䞊げられるず吹雪が䞎えられ、第䞖

代ず日本垝囜補の機䜓の順応蚓緎を始めおいるずいう。圌らの蚓緎

を芋おいるのはたりもちゃんずのこず。かなり厳しくしおいるらし

く、シミュレヌタで鉢合わせた時は聞くに堪えない蚀葉をオブラヌト

に包んで蚀っおいた。

「お〜い! 玔倏ぁ〜〜〜!! 手ぇ抜いお走んな〜〜〜!!」

「ふえぇぇぇ〜〜〜!! だっおぇ〜〜〜!!」

「だっおじゃねぇ〜〜〜!!!!」

 そんな俺がしおいるのは、玔倏の自䞻蚓緎に付き合っおいた。俺が

この䞖界に来おからすぐ、玔倏は倕呌先生に宣蚀したのだ。自分も衛

士になる、ず。

 そのための蚓緎はずっず続けおおり、぀い最近になっお本腰を入れ

303

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お蚓緎できるようになっおきたのだ。䞀応オルタネむティノ蚈画芁

員ではあるのだが、今は所属や階玚の分からない䜜業着姿で走っおい

る。俺はい぀ものこずだが、玔倏が䜜業着を着おいるずいうのも珍し

い光景で、戊術機の倧掛かりな敎備の時くらいでしかお目にかかれな

いのだ。

 躰をだらしなく揺らしながら、背筋を曲げたたた走るその姿は、い

぀かの俺の姿を芋おいるようだ。だが、こうしお自䞻蚓緎に付き合っ

おいる以䞊、幌銎染だからず莔屓にする蚳にもいかない。呚回遅れで

远い぀いた玔倏の背䞭に向かっお、煜るような蚀葉をぶ぀ける。

「そんなんじゃ、蚓緎郚隊に入っおもドベだぞ!! や〜い、ドベ玔倏ぁ

〜〜〜!!」

「なにおヌ  !!   ず、蚀いたい、ずころ、だけど  タケルちゃ

ん、はやい、よぉ  」

 息を切らせながらもなんずか走る玔倏を远い越し、埌ろを振り返り

ながら話しかける。

「たりもちゃんにはっ倒されるぞ、そんなんだず。倚分、ずんでもなく

汚い蚀葉が飛んでくる。マゞで」

「えぇ  」

「しかもな、他の蚓緎兵っお、蚓緎郚隊に入る前は軍の予備孊校だか䜕

だかで蚓緎兵になる準備をしおくるらしいな」

「それ、どこ、情報、なのぉ  」

「知らん。どっかから聞こえおきた話だ」

「信甚、性、皆無、だ、よお〜  」

 距離を離す玔倏が芖界から消えるず、自分のペヌスで背䞭を远いか

け远い぀く。今床は隣に䞊んで走りながら、説明を続けた。

「だが、最初は皆同じスタヌトなんじゃないか? 俺は途䞭から入っ

たようなもんだったから分からないけど、倚分そうだ」

「そっ、かぁ」

「お、そろそろ目暙呚回数だな」

 事前に決めおいた呚を走り終えるず、呚は走ったずころを歩く。

急に立ち止たるず䜓に悪い、ずいうのはたりもちゃん情報だ。

304

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 息切れも元に戻った玔倏は、絊氎所で冷え切った氎を飲んで適圓な

ずころに腰掛ける。俺は特に蟛かった蚳でもないので、そのたた近く

に立っおいるだけだ。

「来期の蚓緎郚隊に志願するこずにしたよ」

「そうか」

 唐突に切り出される。分かっおはいたこずだが、倕呌先生から解攟

されたからこそ志願できるようになったず蚀っおも過蚀ではない。

玔倏の決めたこずだから俺は止めるこずはないが、どうしおもその決

定に肯定するこずができない。考えおしたうのだ。玔倏が撃墜され

おに喰われる様を。そうなる前に助けるこずはできるだろ

うが、もし俺が助けるのに間に合わなければどうなる。助けられたの

に助けられなかった、なんおこずが起きおしたうんじゃないか。

 玔倏にずっおは䜙蚈なお䞖話かもしれない。玔倏のしたいこずを

吊定するこずになるから、よく思われないかもしれない。それでも俺

は止めたい。どうか、戊堎に出お欲しくない。あんな思いは二床ずし

お欲しくない、ず。

「倧䞈倫だよ、タケルちゃん」

 玔倏の声がスッず耳に入る。俺たちの他にもグラりンドで自䞻蚓

緎をしおいる軍人はいる。そんな圌らの息遣いや声が聞こえる䞭で、

圌女の声だけが鮮明に聞こえたのだ。

「私が衛士になる理由、い぀か話したよね。芚えおるかな」

「  こっちに来た時だったか」

「うん。あの気持ち、今でも倉わっおないよ。私は守られおいるだけ

はむダ。タケルちゃんは私のこずを『俺の半身』っお蚀ったじゃない。

私も同じこずを思っおる。だから、私は守られおいるだけじゃなく、

守りたいの。今も人で戊っおるその背䞭を、䞀䜓誰が守るのさ。今

はただ蚓緎兵にもなっおなくお、タケルちゃんの機䜓を盎すこずくら

いしかできないけど、私はそれだけじゃ嫌なの」

 ゆっくりを顔を俯かせた玔倏は、アホ毛を揺らしながら蚀葉を止め

ない。

「どんな芚悟で蚈画に乗っおるのか知っおるよ。力ず知識があっお

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も、芚悟がなかった。芚悟がなかったから党おを倱った。それでも埗

られたのは僅かな時間。それでよかったのか、っお。最初は垰りた

いっお思っおた筈なのに、私のせいで留たるこずになっお、だからし

なくおもいいこずをしお、散々傷付けられお泣いお、それでも立ち䞊

がるこずを、戊うこずを匷いられた。そうでしょ? 立぀こずも戊う

こずも私が匷いたこずだもん」

 ギュッず握り蟌んだ手が震えおいるのが分かる。その手を取りそ

うになったが、俺は既のずころで䌞ばした手が止たった。その手の震

えが誰かの助けを求めるものではなく、自らの意思で立ち䞊がろうず

しおいるように芋えたのだ。

「嫌だよ、怖いよ、死にたくないよ  。でも、そこにタケルちゃんが

いるのなら、倧䞈倫  。倧䞈倫なんだよ、私は」

 い぀の間にか手は解かれ、震えを止めるためか拳を握り蟌んでい

る。

「だから私は衛士になる。タケルちゃんの背䞭を守っおみせる」

 俺の顔を芋䞊げた玔倏の顔は、今たでに芋たこずもない衚情をしお

いた。それは恐怖ず芚悟ず、䜕かを決断した倧人の顔をしおいた。今

たで芋おきた、コロコロず倉わる愉快な芋慣れた顔ではなく、俺も芋

たこずのないもの。

 俺が黙っお玔倏を芋おいるず、静かなのが恥ずかしくなったのか、

捲し立おるように立ち䞊がっお蚀い攟った。

「だ、だだだからさタケルちゃん!! 神宮叞先生から、怒られないよう

にたずは頑匵る  よ?」

 トンチンカンなこずで締めた玔倏に、俺は思わず笑っおしたった。

「ぶッ! なんでたりもちゃんから怒られないように頑匵るんだよ!!

 たずは蚓緎兵になっおからだろ!!」

「なっ!! なにお〜〜〜?! 私はちゃんず蚓緎兵になれるもんね〜〜

〜!! そしお絶察䞻垭になっおやる!! 党郚が䞀番だ!! ドベチン

のタケルちゃんずは違うもんね!!」

「俺はドベじゃね〜〜〜!! むしろ成瞟よかったわ!! 期埅の超新星

だ!!」

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「それはないね!! だっお、昔から勉匷は真ん䞭らぞんだったし、運動

だっおそこたで  あいたヌヌヌヌヌヌ!!!!」

 䜜業着のポケットに忍ばせおいたビニヌルスリッパを匕き抜いお、

玔倏の脳倩めがけお勢いよく振り䞋ろす。甲高い音を鳎らし぀぀も、

叩かれた圌女の頭から垂れ䞋がるアホ毛は皲劻型に倉圢しおいた。

「なにするかヌヌヌ!!」

「俺はドベじゃないからな!! むしろ玔倏がドベになりそうだわ!! 

以䞋同文!!」

「以䞋同文っおなにさ!!」

「説明する必芁もなし」

「ムキヌヌヌ!!」

 先皋たで蟺りを挂っおいた空気は四散し、い぀ものやり取りぞず倉

わっおいく。しかし俺の心の䞭には、぀っかえたたたの小骚のような

ものが匕っかかったたたになっおいた。玔倏にずっおは䜙蚈なお䞖

話かもしれないが、俺は圌女に戊堎ぞ出お欲しくない。

 ※※※

 ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 講堂﹈

 基地に怍わっおいる桜が咲き始める盎前に迫り、少しず぀蕟が花を

開き始めおいる。そんな日に仙台基地の講堂を借りお執り行われお

いるのは、第蚓緎郚隊の入隊匏だ。

 先代の蚓緎兵たちは無事、埌期課皋を終了しお任官。─の各

郚隊ぞず散っおいった。ちなみに先代蚓緎郚隊の人数は人だっ

たらしい。党員が─に入り、既に任官埌教育を行っおいる。

 これず入れ替わるように、今期の第蚓緎郚隊に蚓緎兵を入れ

るずいうこずになったのだ。

 去幎は立ち䌚うなんおこずをしなかったのに、䜕故俺がそんな入隊

匏に立ち䌚っおいるのかずいうず、話は至極簡単なこずだった。玔倏

が今期の第蚓緎郚隊に入るこずになったからだ。

 小孊校や䞭孊校の入孊匏ずは違い、立ち䌚いの䞡芪なんかはいる筈

もない。志願たたは城兵でやっおきた蚓緎兵たちが人、真新しい

第蚓緎郚隊の制服に身を包み、囜連軍仙台基地叞什の蚓瀺を聞

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いおいる。

 俺はこの堎に立䌚人の人ずしお参加しおいた。倕呌先生が気を

利かせたのだろうが、俺ず霞は今日日は䌑日のような扱いになっお

いる。

「  玔倏さん、萜ち着きないです」

「アホか、アむツ」

 呚りに芖線を泳がせおいる玔倏を芋お、霞がそんな蚀葉をポロリず

零す。䜕故圌女があれほど呚りを気にしおいるのかは分からないが、

少しは萜ち着いお欲しいものだ。泚意するこずもできないので、少し

ばかり睚んでから芖線を壇䞊の䞊に向ける。

 壇䞊には基地叞什から倉わり、教官たちの代衚ずしおたりもちゃん

が壇䞊に䞊がっお話しおいた。内容は簡単だ。自分たちが教官を務

め、立掟は軍人に鍛え䞊げるこず。そしお、第蚓緎郚隊は戊術

機乗り育成を前提に蚭眮されおいるため、総戊技を乗り越えた埌の適

性怜査をするたでは分からないが、戊術機を駆る衛士になるこずがで

きる、ず。

 蚓緎䞭の匷い口調で話すが、今はただ優しさを亀えた声色だ。本栌

的に蚓緎が始たれば、そんな優しさも完党に消え倱せるこずになる。

蚓緎兵たちは緊匵ず少しの䜙裕を浮かべおいるが、すぐにそんな衚情

をするこずもできなくなる。

 登壇しおいたたりもちゃんの話も終わるず、すぐに斜蚭案内等々を

始める。い぀もりロりロしおいる玔倏にずっおは必芁ないものかも

しれないが、他の蚓緎兵には必芁なものだ。案内に付いおいく蚳にも

いかない俺ず霞は、たりもちゃんに頌たれおいたこずを始める。

 案内が終わった埌に来る教宀に、前期課皋で䜿うこずになっおいる

教科曞や蟞曞等の運搬だ。予め決められた堎所に決たった数を眮い

おいくだけのこず。俺ず霞の他に、第蚓緎郚隊付きの文官も手

䌝っおくれる。

 人で手早く枈たせるず、䞁床たりもちゃんたちが教宀に到着した

ようだ。

 俺ず霞の存圚は暗黙の了解ずなっおおり、誰も蚀及はしおこない。

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しかしそれは、俺ず霞の䞊叞が誰なのかを知っおいるからだ。知らな

ければ、俺はただしも芋た目が完党に代前半の少女である霞は、

䜕かしら絡たれるこずがある。

 霞は基本的にそういった人間がいるようなずころを胜力で避けお

行動しおいるが、今回は絡たれるようなずころからさっさず匕き䞊げ

るこずができなかった。

「貎様ら、さっさず垭に付け。目の前には、前期課皋で䜿甚する教本を

甚意した。それらでたずは䞀般的な軍人、歩兵ずしおの基瀎を座孊で

身に぀けおもらう。その他にも䜓力錬成や、兵噚の取扱方法、士官教

育も先行しお行う。私らの蚀葉を䞀蚀䞀句聞き逃すこずは蚱さない」

「「「はい!!」」」

「貎様らがトロトロず斜蚭の䞭を歩き回っおいる間に、䞊官のお方

ずサポヌトをしお頂く蚓緎郚隊付きの軍人にもお手䌝いしお頂いた」

「「「ありがずうございたす!!」」」

 䞀緒に運搬や分配した軍人が敬瀌をしたので、俺ず霞も続いお敬瀌

をする。霞から教宀から出たいずいうプロゞェクションがあり、胜力

を䜿っおたで出たいのかず俺は急かされるように霞を連れお教宀か

ら出るこずにした。

 廊䞋に出お、俺たちの埌から続いお出た軍人を芋送っおその堎で教

宀の䞭から聞こえおくる声を聞くこずにする。霞もどうやら蚓緎兵

たちの興味が自分から別に移ったこずを感じ取ったのだろう、少し安

心した衚情をしおいた。

『今日は午埌から座孊を行うが、明日は䜓力錬成がある。今朝採寞し

た䜜業着を今倜支絊する。明日は起床点呌、朝食埌の集合時間には䜜

業着に着替えお集合だ』

『『『はい!!』』』

『ではこれから班分けを行う。名前を呌ばれた者は返事をしろ』

 蚓緎兵時代の間に経隓しおこなかったこずが、教宀内で行われおい

た。少し物珍しくもあったが、そろそろ霞を連れお移動する。俺たち

からは玔倏に特に甚事はない。䜕かあれば、人になっおいる時にで

も接觊すればいいのだ。

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 蚓緎郚隊の䜿甚する郚屋は基本的に地䞊にあり、地䞋に来るのは埌

期課皋に進んでからだ。それは俺が蚓緎兵をしおいた時ず倉わらな

い。ほずんど来ない斜蚭を暪目に芋ながら、俺ず霞は倖の空気を吞い

に出お行くのだった。

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 

   ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 第ブリヌフィング

ルヌム﹈

 仙台基地に越しお来おからずいうもの、このブリヌフィングルヌム

を䜿うのも日垞ず化しお来おいる。そもそも倕呌先生以倖ずはほず

んど接觊しおこなかった俺が、䜕だかんだ蚀っお─ず顔を合わ

せる機䌚が生たれおからずいうもの、オルタネむティノ関係の人間

ず話すこずが倚くなっおきたからだ。そういった時には、ブリヌフィ

ングルヌムを䜿うこずが倚く、機密区画に入っおこれる人間ならばこ

こ以倖でも話すこずはあっおも、入っおこれる人間はそう倚くもな

い。

 自動的に、週に床はこうしお普通に出入りできるずころぞ足を運

ぶようになっおしたったのだ。

 今日は倕呌先生に呌ばれたずいうよりも、霞が俺を連れお行きたい

ずころがあるず蚀い出し、こうしお手を匕かれお来おしたった。その

先が行き慣れたブリヌフィングルヌムだったずいうだけ。䜕の甚事

で連れおこられたのか聞かされないたた、俺は手を匕かれたたた郚屋

ぞず入った。

 䞭には囜連軍の衛士が数名いた。俺ず霞を芋るなり怪蚝な衚情を

浮かべおいたものの、人は霞に走り寄っお来るなり頭を撫で始め

た。むダむダず銖を振っお振り払うず、俺の背䞭の埌ろに隠れる。た

るでフラれたような衚情をしたたた固たる女性衛士に誰も声を掛け

るこずはなく、むしろ足蹎にするように無芖したたた俺ず霞に声を掛

けおきたのは、どこずなく芋芚えのある衛士だった。

「私は本日付でオルタネむティノ蚈画第戊術戊闘攻撃郚隊 

─に配属なった、祠堂 カレン倧尉だ。君は?」

 祠堂 カレン。聞き芚えがある名前だった。名前を頭の䞭で反芻

しながら、再床圌女のこずを芳察する。

 日本人の名前を持っおいるものの、日本人離れした顔立ち。数幎前

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の蚘憶にある、ピアティフ䞭尉のような雰囲気のある矎人。クセ毛の

あるボブカットの赀毛。切れ長の碧県。もう䞀床名前を反芻するず

思い出した。

「あぁ、シヌルダヌズ」

「え? 私の前いた郚隊のこずを蚀ったか?」

「いや、䜕でもないです。俺は癜銀 歊、少尉です。よろしくお願いし

たす。こっちは瀟 霞。先任少尉ですが、圌女は技術者です」

「よろしく頌む。それでなんだが、先皋の私のいた郚隊の名前を知っ

おいる件に぀いお」

 そう蚀いかけるず、霞にフラれお我を倱っおいた女性衛士が再起動

しお口を開く。

「癜銀少尉はあの時、停名を䜿っおいたんですねぇ〜。声は同じです

し、シヌルダヌズの名前が出おきたこずにも玍埗したす。カレンも気

付いおたんですよね?」

「分かっおいたが、本人から確認を取らねばな  。癜銀少尉があの

氞代ながしろ

時の鉄少尉だずいうのならば話は早い。゜レは

 すみれ、䞭尉

だ」

「゜レっお酷いです!!」

 コロコロ衚情の倉わる圌女は、長く艷やかな黒髪にお嬢様カットに

倧きい焊げ茶の瞳。たさに倧和撫子ずいった雰囲気を持ち぀぀も、人

圓たりがいいようだ。再起動した圌女は逃げ回る霞を远いかけ回し

おいるが、人を眮いお俺は祠堂倧尉ず話す。

「それで、氞代䞭尉の蚀っおいたこずだが、貎官が鉄 倧和少尉なのか

?」

「倧尉が─に入ったのならば隠す必芁もないので玠盎に答えた

すが、俺が鉄 倧和で合っおたすよ」

「そうなのか」

 氞代䞭尉ずは察照的で、祠堂倧尉はあたり衚情を動かすこずがな

い。階玚故なのか、はたたた元来そういう性栌をしおいるのかは分か

らない。前回䌚った時は戊堎で、それもほんの数時間だけだった。そ

の間に圌女のこずを掚し量るこずはできる蚳もなく、小さく動く口か

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ら繰り出された蚀葉に返事を返すこずに集䞭する。

「君は䜕故、名前や所属を停っおいたんだ? それに乗っおいた戊術

機を垝囜軍カラヌに塗装しおたで。ここにいるずいうこずは、囜連軍

の衛士なのだろう?」

「そういう任務だったんですよ。それに俺は囜連軍の衛士で間違いな

いです」

「そうか  。─がどういう郚隊なのかは、䞀通り説明を受け

おいる。君はどうも─ずは違う郚隊のようだが、指揮系統は同

じなのだろう? ─ず蚀ったか。話には聞いおいるが、超

法芏的措眮で特別に掟遣されたずいうこずか?」

「はい。─ずは別の郚隊の─所属ではありたすが、

倧本は同じずころです。俺もオルタネむティノ蚈画の構成員になり

たすね」

 前の䞖界には存圚しおいなかった─。それに同じく前

の䞖界では、オルタネむティノ蚈画に関わるこずがなかったであろう

祠堂倧尉や氞代䞭尉ら。戊闘に参加しおいる時に感じられなかった

歎史改倉を、ここに来お俺は肌に感じおいた。

 倕呌先生から聞かされおいるこずだが、今回の─増員は前の

䞖界では行わなかったずいう。ずいうこずは、基本的に第蚓緎

郚隊からの新任少尉たちが─の基本的な増員手口だった。぀

たり、それ以倖の手段を取った今回は、明らかな歎史改倉である、ず。

「難しいこずを説明されおも、理解できたこずは䞀郚だけだ。私が分

かっおいるこずは、特殊郚隊転属の声が掛かったこずだけ。それは氞

代䞭尉や、この堎にいる各地から集められた今回の転属衛士たちも同

じ。蚈画に぀いおの説明も受けおいるが、理解できるこずはあたりな

い。粟々、知っおいる知識がその蚈画ず倚くの犠牲によっお霎された

こずくらいだ。だから、今のずころは郚隊に順応し、これたで以䞊の

働きができるよう努力する、これだけだ」

「成皋。俺も同じような状況にあったこずがあったので、䜕ずなくで

すが気持ちは分かりたす。それで霞、俺を祠堂倧尉たちのずころに連

れおきた理由は?」

313

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 氞代䞭尉に远いかけ回された霞だが、気付けば頭を撫で回されおい

る。䞍満ず顔にありありず珟れおいるが、俺の質問にすぐさた返事を

した。

「  珟圚、─は再線成に䌎い、連携蚓緎を行っおいる最䞭で

す。そこにこれたで䞀般郚隊にいた皆さんを郚隊に順応させるこず

は難しいです。なので、蚓緎から倖し、連携蚓緎に参加できる皋床た

での順応蚓緎を行う必芁がありたす」

「そっか。祠堂倧尉たちはを䜿ったこずがないもんな。そ

りゃ、─の連携蚓緎に参加したずころで意味はないなぁ」

 霞の蚀葉に俺は玍埗しおいたが、転属しおきたばかりの祠堂倧尉た

ちは分からない、ず蚀った衚情を浮かべおいる。

 分からないのも無理はない。これたで圌女たちが搭乗しおいた戊

術機は旧を搭茉した、鈍重な動きしかできない埓来機だ。それ

を、が搭茉されおいる䞍知火に乗り換えるだなんお、蚀われお

すぐにできる蚳もない。元祖─は蚓緎に膚倧な時間を費やし

おいるが、それでも倕呌先生を満足させる皋の緎床に達しおいないの

だ。

「─が特殊郚隊なのは知っおいるのだが、私たちではそれほど

たでに郚隊にずっお足枷なのか? 私やその郚䞋はただしも、他の衛

士は極東囜連軍の粟鋭だ。それほどたでに─ずは緎床の高い

郚隊なのか?」

「─の緎床は確かに高いです。囜連軍の他の郚隊や垝囜軍の粟

鋭ず比べおも同じくらいなのかもしれたせん。ですが、聞いおいる通

り─は特殊郚隊です。ご存じかず思いたすが、戊術機も日本垝

囜補の䞍知火、─に乗り換えおもらうこずになりたす。

たた、機䜓を乗り換えるだけではなく、この䞍知火は垝囜軍の機䜓ず

は倧きく異る点があるんです」

「乗機が特殊、ずいうこずなのは分かるが、それほどたでに違うのか

?」

「はい。─の䞍知火はず呌ばれる新抂念の搭茉ずそ

の䜿甚を可胜にした高性胜ず電源ナニットの亀換がされおい

314

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たす。倧尉たちがこれたでに乗っおきた機䜓ずは党くの別物、ず考え

るべきだず思いたす。既に実戊蚌明枈みですし、なんなら九州で倧尉

たちに䌚った時の俺の乗機にもは搭茉されおいたした」

 分からない、ず蚀いた気な衚情をする倧尉たち。どうしようかず考

えおいるず、霞が匕き継ぐ圢で話に入っおくる。

「  旧ずの明確な違いずしお、即応性が䞊がっおいたす。

操䜜はシビアになりたすが、より搭乗者の思うがたたに操瞊できるよ

うになっおいたす。その他にも぀の新機胜が搭茉され、それらを甚

いるこずによっお戊術機を人間の枠から倖れた動きを可胜ずし、生存

率向䞊に倧きく貢献しおいたす。光州䜜戊に参加した─は、そ

れぞれ個倧隊が旧ずを搭茉しおいたした。撃墜された

のは機。その内、搭茉機は機のみでした」

「なっ  ?!」

「  たた、搭茉機を装備しおいた個倧隊ず䜜戊参加した旧

搭茉機ずのキルレシオが䞊んだずいう蚘録もありたす。単玔蚈

算で個倧隊で個垫団䞊の戊力になるずいうこずです」

 開いた口が塞がらない様子の転属組から、いち早く戻っおきたのは

倧尉だった。

「  実戊蚌明枈み、戊果䞊堎の新装備をある皋床扱う─ず、

に觊れたこずもない倧尉たちを䞀緒に連携蚓緎をしたずころで

意味がない、ず博士が刀断したんだず思いたす」

「分かった。それで、博士ずいうのは?」

「  珟圚のオルタネむティノ蚈画の責任者です」

「私たちの新しいボスはその博士ずいうこず。分かった。私たちが

─ず連携蚓緎ができないこずも、圌らが装備するものの偉倧さ

も。それで、結局癜銀少尉ず瀟少尉がここに来た理由は? 私たちも

䜕も聞かされずに、第ブリヌフィングルヌムで埅機するよう、厎山

連隊長から聞かされおいるんだが」

「  の順応蚓緎です。たずは座孊。その埌、シミュレヌタを

行い、最埌は実機蚓緎です。できるだけ早急に連携蚓緎に参加するよ

う、博士に蚀われおいたす。座孊ずシミュレヌタ・実機の管制は私が

315

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行いたすが、盎接的な蚓緎は癜銀さんが行うよう博士から呜什を受け

おいたす」

「䜕故癜銀少尉が? それず瀟少尉も」

「  癜銀少尉が発案者ず䞻垭開発衛士をしおいたした。それず私は

メむンプログラマヌです」

「人が  そうか。分かった」

 倧尉ず䞭尉はどこか玍埗した様子を芋せたが、埌ろで黙っお聞いお

いた他の衛士たちは䞍満がある様子。

 無理もない。発案者で䞻垭開発衛士が代半ばの少尉であるこ

ずが気に食わないのだろう。霞がメむンプログラマヌずいうのは、圌

女が持぀独特の空気感で口出しをしないだけなのかもしれないが。

 俺にずっお、こういった態床を取られるこずは珍しいこずではな

い。このたた教導に入ったずころで、圌らは真面目に教導を受けるか

ずいったら、そんな蚳がないのだ。

 ならばどうするべきか。答えは぀。

「  俺から教導を受けるこずに䞍満がある人がいるみたいなのでこ

うしたしょう。座孊は普通に霞から受けおもらいたす。その埌のシ

ミュレヌタず実機は自分たちなりに蚓緎をしおください。そこで

を䜿いこなせたのなら、俺ず挔習しお勝っおください。そうすれ

ば─ずの連携蚓緎に合流しおも構いたせん。もし負ければ、座

孊からやり盎しです。蚓緎では俺が教導したす」

「癜銀  それでいいんだな?」

 䞍満気だった衛士の人が俺に確認をする。それに俺はハッキリ

ず肯定の返事を返した。

「癜銀少尉。私ず郚䞋は少尉の動きを戊堎で芋おいるから実力はなん

ずなく掚し量るこずができるが、それでも粟鋭盞手にそれは倧蚀壮語

ではないのか?」

 倧尉の蚀っおいるこずは最もだ。芋た目や事前に調べおいたかで、

俺の戊歎をふんわりず把握しおいるのだろう。

 参加䜜戊だけ䞊べれば、倧芏暡䜜戊に参加し生還した衛士ずいうこ

ずになっおいる。しかし蓋を開けおみれば、厩れかけの郚隊ぞ補充兵

316

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ずしお充おられ、優秀な䞊官の元でなんずか生き残った初陣。九州か

ら京郜たでは、倧尉の知るずころだろう。仙台に垰っお来おからの経

歎が調べられおいるかは分からないが、それだけみればただ初陣を生

還しおから数回出撃経隓のある半人前の少尉ずいったずころだろう。

 ただ、それが䞀般的な衛士だったなら、その分析は正しい。

「  座孊を始めたす。教本は既に甚意しおありたすので、このたた

始めたす」

 少しピリ぀いた空気感を壊した霞は、壇䞊に立ち教本を開いた。そ

れに続いお、倧尉たちも俺から芖線を倖し、それぞれ垭に腰掛けおい

く。

 座孊は半日で終わる。午埌からシミュレヌタに入り、挔習をするで

あろう日皋を逆算しながら蚓緎の予定を立おるこずにした。

 ※※※

 ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 第挔習堎﹈

 ─ぞ転属しおきた祠堂倧尉ら名の衛士たちは、予定通り霞

の座孊を半日で枈たせお早々にシミュレヌタ蚓緎を開始。霞の管制

で実機でも問題なく動かせるだろうず刀断された埌、実機蚓緎ぞず移

るこずになった。

 ちなみに、実機蚓緎は今は䜿い手のいない第蚓緎郚隊の吹雪

だ。

 吹雪、高等緎習機に乗るこずに抵抗はなかったようだが、䜕故吹雪

が緎習機たるかは理解できたらしい。そもそも、䞍知火に乗るのなら

ば、これたで─に乗っおいたからには機皮転換蚓緎ず䞖代差

を埋めるために乗らされるこずを想定しおいたらしい。

 ─ずいうか米囜補戊術機ず日本垝囜補戊術機の挙動の霟霬

や、の即応性を生身で感じお蚓緎をするこずで身に付いたず刀

断したらしい。

 完熟蚓緎開始から日で、祠堂倧尉が─ぞの合流を垌

望しおいるこずを霞から聞かされたのだった。

 俺ずしおは、最䜎でも週間はかかるず思っおいた。だが、シミュ

レヌタや実機が空いおいるずいうこずもあっおか、かなりの時間を蚓

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緎に費やしたらしいこずを霞から聞かされた。

『  準備はいいですか?』

『準備は䜕も霞ちゃん。倧䞈倫なんですか、癜銀クンは?』

 霞から挔習に぀いお聞かされたのは今朝。事前に敎備班長ず、ある

人に頌んで今日のために甚意しおいた。ほずんど感芚は芚えおいな

いものの、機䜓は䜿い慣らされおいる。舐めらかな動きをする操瞊桿

ずフットペダル。枅掃が行き届いおおり党く䞍快感がないどころか、

ほのかに優しいいい銙りの挂う管制ナニット。

『  倧䞈倫です』

『ですが流石に正芏兵の戊術機機、纏めお掛かっお来いだなんお

  』

『  問題ない、です』

『本圓に倧䞈倫なんですか〜?』



─





撃震近代化改装搭茉機

 たりもちゃんの

を借り、僚機のいない挔習。これはも

う定番化しおいるような気がしおならない。

 分からせるには実力で捻じ䌏せる、的な颚朮は前からあったような

気がしなくもないが、俺もその颚朮に感化されおきた気がする。祠堂

倧尉たちず顔を合わせた埌、霞には挔習ではこのような状況にするよ

うに俺が䌝えおいた。぀たり、感化されおきた気がするのではなく、

率先しおその颚朮に則っお行動しおいるず蚀った方が正しい。

 頭を振っお、挔習前に関係ないこずを思考から远い出し、目の前の

状況に集䞭する。

「倧䞈倫ですよ」

 俺は平静な態床で通信に割り蟌む。

『俺たちがをどれだけ䜿い熟しおいるのか、その目で芋おきた

のか?』

 食っお掛かったのは、祠堂倧尉の郚䞋ではなく、別の郚隊から匕き

抜かれた衛士だ。他にも名があざ笑うような態床で振る舞う。

『それに癜銀少尉は撃震じゃない。祠堂倧尉の話じゃ改造された─

に乗っおいたり、─の連䞭は吹雪や䞍知火に乗っおいた

ず聞いおいるわ。アむツらは倧げさに話しおいたけど、倧したこずな

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いんじゃない? ルヌキヌによくあるビギナヌズラックっおや぀よ』

『癜銀少尉の動きが倉態だずも聞いたぜ。よく分からねぇが、やっお

みりゃ分かるだろ』

 ─では少し珍しくなり぀぀ある、日本人ではない衛士。それ

が別の郚隊から匕き抜かれた粟鋭だった。

『倧尉たちがどんなのを芋おきたのか知らないけれどね、この目で芋

ないの信じないのよ。─のガンカメラを芋せられたずころで、

本圓にその機䜓に癜銀少尉が乗っおいたのかなんお分からない。だ

から蚌明しお頂戎』

 元シヌルダヌズではない衛士たちの口䞊を聞いおも、返事を返すこ

ずはない。圌らが蚀ったのだ。口ではなく行動で瀺せ、ず。その流儀

に俺は賛同する。

 霞が通信で開始の確認を取るのを聞きながら、機䜓の調子を再床確

認する。

 敎備は䞇党に行われおおり、俺甚に調敎も行われおいる。操瞊桿や

フットペダルの調子はたりもちゃんの䜿ったたたになっおいるが、特

に問題はない筈だ。おかしな動きをするこずもなければ、入力に誀差

があるなんおこずもない。

『  起動。䞡隊は䜜戊を開始しおください』

 霞の号什を合図に、跳躍ナニットを唞らせる。

α隊癜銀隊

『  勝利条件はどちらかの隊が党滅した堎合のみずしたす。

は

β祠堂隊

自機の撃墜が敗北条件です。䞀方、

は機党機撃墜です。制限時

間はありたせん』

 かなりシビアな条件だが、俺はこの条件で䜕床も─の盞手を

やらされおきおいる。今曎䜕ずも思わない。

 開始地点から飛び䞊がり、空䞭に䞀床静止しお呚囲を走査する。今

回挔習を行なっおいる第挔習堎は山間郚を利甚しおいる。あたり

察戊挔習の経隓のない環境ではあるが、恐らく垂街地や廃墟より

も玢敵は簡単の筈だ。反察に姿を隠すこずは難しいず思われる。山

陰や谷、厖等ならば戊術機の党高ず同皋床あったずしおも、走査レヌ

ダヌには恐らく匕っかかっおしたう。

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 それらを考慮し、第挔習堎で挔習を行なうこずが決たった時点

で、俺は䜜戊を考えおいた。

 䜜戊は簡単だ。逃げも隠れもしない。正面から機を盞手に戊う。

背䞭を芋せたら逃げ回るこずも難しい筈なのだ。

「こっちから仕掛けるぜ!!」

 熱源センサヌに぀の反応があり、すぐさた望遠カメラで確認する

ず、そこには隊列を組んで移動を始めおいる機の吹雪の姿があっ

た。

 確認するたでもなく、祠堂倧尉らβ隊だ。

 跳躍ナニットの偏向ノズルず接続郚のアヌムが可動し、氎平方向の

モヌメントによっお機䜓が前進を始める。そのたた前傟姿勢になる

よう機䜓を倒しながらも、巊手の倚目的远加装甲を正面に構えなが

ら、右手の突撃砲を正面に向けお安党装眮を解陀する。

 射皋圏内に入り次第、滑腔砲を発攟ち、隊前列の予枬

進路䞊にばら撒く。

『隠れずに堂々ず?!』

 近距離回線が盞手の蚀葉を拟い、β隊が䞍意を突かれたこずを確認

するが、攻撃の手を緩めるこずはしない。

 幞い、β隊が通過しおいたのは倧岩が転がっおいる地点。蚭蚈段階

からこれたで䞈倫さが取り柄の撃震のお箱であり、俺もよく䜿っおい

る機動制埡を行なう。

 維持しおいた前傟姿勢を解陀し、䞡足を前に突き出す。そのたた倧

岩に接地するず、屈䌞運動をし぀぀逆噎射跳躍を行い、鋭角に機動偏

向する。身䜓に急激なを受けお䞀気に頭から血が匕くのを感じる

が、そのたた意識を保ちながら攻撃を繰り出す。

 残っおいた滑腔砲を撃ち尜くし、倚目的远加装甲で

チェヌンガンの匟䞞を匟く。初撃もそうだが、ダメヌゞを䞎えら

れおいるずは思っおいない攻撃だ。砎片によっお装甲や四肢に軜く

損傷を䞎えお、動きを制限できれば埡の字ず考えおいた攻撃。圓然で

はあるが、回避される。

 しかし、その回避にできた隙を突く。旧の癖が抜けおいないの

320

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だろう。先行入力ずキャンセルの䜵甚でもっず玠早い回避ができる

筈なのに、それをしないのだ。

 跳躍ナニットを偏向させ、機䜓を回避が遅れた機䜓に差し向ける。

突撃砲で斉射しおもいいが、確実性に欠ける。ならば、ず倚目的远加

装甲を暪薙ぎに振り抜く。

『  β胎䜓断絶、倧砎、戊闘䞍胜』

 そのたた倚目的远加装甲で銃撃を受け止めながら、バランスを厩し

おいる吹雪に肉薄。装甲を抌し付けお仰向けに倒すず、そのたた管制

ナニットを螏み抜き、远加装甲で打ち付ける。

『  β管制ナニット圧朰、衛士死亡』

 远加装甲はそのたたに、跳躍ナニットを前ぞせり出させおロケット

モヌタを点火。正面に集たり぀぀あったβ隊から䞀床距離を取る。

远跡し぀぀あるが、動きが党䜓にぎこちないβ隊から距離を離すこず

に成功した。

 そのたた䞀息吐き、すぐさた態勢を敎える。远加装甲は喪倱。突撃

砲も滑腔砲匟はだ。リロヌドしなければならないが時

間がかかる。チェヌンガンは残匟にただただ䜙裕があり、

発超残っおいる。

 すぐさた背面の兵装担架から長刀を匕き抜いた。巊手に長刀、右手

に突撃砲。他の残しおいる兵装は、長刀が担架に振りず短刀が振

りのみ。珟状、撃墜したのは機䞭機だけ。残す機は䞇党の状態

のたただ。

 これだけの亀戊で、盞手がただに慣れおいないも完熟もただ

ただなこずも十二分に分かった。それでも俺のしなければならない

こずに倉わりはない。圌らをこずごずく朰すこず。それだけだった。

を䜿い熟し、圧倒的な状況で勝利する。そうしなければ、圌ら

も敗北を認めないかもしれない。それは俺のこれたでの経隓則だっ

た。

 跳躍ナニットのロケットモヌタが唞り声をあげ、今にも浮かび䞊が

りそうな状態を維持しながら残る機の吹雪が接近しおくるのを埅

぀。隠れるこずもしない。䞁床いい距離たで接近させ、䞀気に肉薄

321

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し、党お平らげる。受けるダメヌゞは考えない。党お回避すればいい

のだ。

「うぉらああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 䞀気にスロットルをし、敎然ず隊列を組む機の吹雪に向かっお䞀

盎線に突撃する。

 そしお数分もしない内に、聞き慣れた静かな声で聞こえおくるの

だ。

『  β隊党機撃墜、䜜戊終了』

322

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 

  ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 第ブリヌフィング

ルヌム﹈

 䞀切ペンキで汚れなかった撃震をハンガヌに収めるず、匷化装備か

ら着替えおブリヌフィングルヌムに向かう。俺が到着する頃には既

に、先皋挔習で戊った衛士たちが集たっおいた。

 霞は管制宀からすぐにブリヌフィングルヌムに来おいたようで、モ

ニタにラップトップを接続しお䜕やら䜜業をしおいる。

 俺が入宀する音にたず気付いお動き出したのは霞で、ラップトップ

の前から立ち䞊がるず俺の目の前たでやっおきた。

「  お疲れさたでした」

「おう。霞も管制ありがずうな」

 霞はそれだけを蚀うず、スタスタずラップトップの前に戻っおした

う。そしお少し操䜜するず、こちらを向いお話し始めた。

「  挔習お疲れさたでした。無人芳枬機が今回の挔習を撮圱しおい

たしたので、そちらを芳ながら話をさせおいただきたす」

 モニタにはあちこちの芖点から、撃震ず吹雪を捉えた映像が流れ始

める。

「  挔習の結果はβ隊の党機撃墜による敗北です」

 開始数分で党滅させた吹雪たちが、映像の䞭でも次々ず撃墜されお

いく。単機の鈍重な撃震に远い立おられる、现身で身軜な吹雪たち。

成すすべもなく機、たた機ず地に䌏せおいった。

 そしお最埌、朚々に囲たれた挔習堎で立っおいたのは撃震のみ。戊

闘䞭、次々ず歊装を投棄し、最埌は右手の長刀しか残されおいなかっ

た。

 映像の再生が終わるず、霞はいそいそずラップトップの片付けを始

める。それを確認するず、入れ替わるように祠堂倧尉が前に出おき

た。

「ずたぁ、私たちは癜銀少尉にコテンパンにされた蚳だ。文字通り、手

も足も出なかった」

323

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「そうですね」

 俺は吊定するこずなく、祠堂倧尉たちが俺に察しおダメヌゞを䞎え

るこずのできなかったこずを認める。この発蚀に数人反応したが、倧

尉はそれを無芖しお話を続けた。

「玄束通り癜銀少尉の教導を受けよう。目の前でたざたざず芋せ぀け

られおは、認める他あるたい」

「では、挔習前に話した通りにしたしょう。座孊からやり盎しですね」

「分かった。蚀う通りにしよう。瀟少尉、すぐに始めるのか?」

 モニタの片付けを終えおいた霞がコクリず銖を瞊に振る。

 片付けられおいた机や怅子を䞊べ始めながら、次の座孊では俺が教

えるこずもあるだろうななんお考えおいるず、俺に話しかけおきた衛

士がいた。

 そちらを向くず、挔習前にや俺に぀いお疑っおいた人だっ

た。圌らは祠堂倧尉たちずは、仙台基地に来おから始めお顔を合わせ

たらしい。倧尉曰く、極東囜連軍でも粟鋭の衛士だずいう。

 そんな圌らが人䞊んで俺に声を掛けおきたのだ。

 䜜業しおいた手を停めおそちらを向くず、気䞍味そうにしながら

やっず口を開いた。

「し、癜銀少尉。枈たなかった」

 そう切り出したのは、人の䞭でも階玚の高い䞭尉の衛士。ヒスパ

ニック系癜人の男で、日本人の俺ずは違い身䜓に恵たれおおり倧きく

筋肉もある。坊䞻にしおいる頭をポリポリ掻きながら謝っおきたの

だ。

 䞭尉に続くように、スラノ系癜人の女やアラブ系の男も頭を䞋げ

た。

 俺は慌おお頭をあげるように頌むが、数秒は䜕も蚀わずに頭を䞋げ

たたたにしおいた。やがお顔をあげるず、再床䞭尉が切り出す。

「俺たちはプラむドを傷付けられたず思ったんだ。こうしお囜連軍で

衛士をしおいるこずに誇りを持っおいる。人類の反撃の鋒を担える

こずに、そしお祖囜を蹂躙した忌々しいク゜をい぀の日にか

地球から叩き出すこずを。蚀い蚳にしか聞こえないだろうが、本圓に

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少尉のような新米を卒業したかも分からないような奎が発案した芋

たこずも聞いたこずもない戊術機のなんお、所詮今たでのものず

倧差ないっおな。機䜓に倧幅な改修を斜しお、それらしく芋せおるだ

けなんじゃないかっお。だが、少尉ず挔習しお分かった。少尉の─

はたしかに垞軌を逞しおいた。デタラメな機動制埡や硬化時間

のなさ、柔軟な動き、どれも機䜓を改造しただけじゃできない。衛士

の腕かずも思ったが、それはあり埗ない。なぜなら、あんな動きを戊

術機にさせるこずは俺たちの知りうる䞊ではできないからだ。

 それず、俺たちがどれだけを扱えおいないのかが分かった。

挔習でやっおみせた動きは、の機胜を十分に䜿いこなせればでき

るものなんだろ? 今たで乗っおきた戊術機から、の吹雪に乗

り換えお䞖界が倉わったように芋えおいた。それで舞い䞊がっお、本

来しなければならないこずを芋倱っおいたんだ。本圓に俺たちがや

らなくちゃいけないのは、少尉のような動きだずいうこずに気付かさ

れたんだ。

 散々蚀い蚳を蚀ったが、これからは心を入れ替える。だから、よろ

しく頌む」

 ふず脳裏にある光景が浮かんだ。

 前の䞖界、のトラむアルで圓たった暪浜基地の粟鋭に呌び出

された時のこずだ。連れおかれた先で、先任の衛士たちに囲たれお䜕

かされるかず思ったら耒めちぎられたのだ。

 目の前に䞊ぶ人の顔をもう䞀床芋る。

 プロフィヌルは倕呌先生から聞かされおいるので、倧䜓は把握しお

いる。党員、によっお囜を远われおいる。避難先で居堎所が

なく、ただただに察しお埩讐心を持っお囜連軍に入隊したず

いう過去を党員が持っおいた。それでも任官し埓軍を経隓するず、

様々なモノに圱響を受けお埩讐心の他にも別の想いや願いが生たれ

おいった。それはただ囜を取り戻すためではなく、囜連軍ずしお人類

のために戊うこず。そしお、隣に立぀戊友をなんずしおでも生きお垰

すこず。

 それは俺が任官した時に教わったこずであり、戊堎に赎く床にその

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想いは増しおいった。蚓緎郚隊から䞀緒だった同期や、先任たちを死

なせたくない。そんな想いを持っお戊ったに違いない。

 䞭尉の蚀葉には、話しおいない人の想いも乗せられおいたのだろ

う。䞭尉に続いお䜕を蚀うこずは、ただ謝眪ずこれからよろしくずだ

け。俺は静かに返事した。

「はい。こちらこそ、よろしくお願いしたす」

 ※※※

 ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 シミュレヌタルヌム﹈

『埅お、タケル!!』

『ク゜!! ダナ、そっちに行った!!』

『了解』

『氞代䞭尉ず゚ストラヌダ䞭尉はそれぞれの隊で挟撃、远いかけっこ

は私が匕き継ぐ!!』

 昚日は早々に座孊を始めるず、霞の座孊に加えお俺の解説も亀えな

がら䌑憩なしで最埌たでやり切った。その埌はすぐに倕食だったの

で、人ず俺ず霞で食べるこずになり、簡単に身の䞊話なんかを

でしお亀流を深めた。

 そしお次の日はシミュレヌタルヌムを借り、が搭茉された筐

䜓に籠もっお最初はむチから教えおいたが、すぐに远いかけっこぞず

教導が倉貌しおいた。

 远いかけっこは霞が蚀い出したこずで、俺以倖党員が鬌ずなっお俺

を远い立おるこずによっお、の぀の新機胜を䜿わざるを埗な

いような状況を生み出すずのこず。どういうこずなのか分からな

かったが、ずりあえず始めおみるこずになり、歊装解陀をしお远いか

けっこを始める。

 そうするず始めたばかりの頃は、硬盎時間や姿勢制埡によっお遅れ

るこずがあったのだが、次第に自然ずキャンセルや先行入力を始める

ようになっおいたのだ。䜕故そうなったのかは埌で霞に聞くずしお、

自然ず䜿えるようになっお来おいるのなら郜合がいい。このたた逃

げ回っお、どんどんの新機胜に慣れさせおいけば目的は達成さ

れるのだ。

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 瞊暪無尜にフィヌルドを駆け回りながら、時には挑発するような動

きも亀えながら鬌ごっこを続ける。

『癜銀ク〜ン。捕たっおくれたら、おねヌさんがいいずころ連れおっや・

おあげたすよヌ。具䜓的には倧尉が寝おるベッドルヌムずか? 

り・

た・

い・

攟題できたすよ?』

『日本人圢モドキの戯蚀は聞かなくおいい! むルハヌム少尉、䞀番

近いぞ!』

『無茶蚀わなくおください、倧尉!! アリゞャラッドバッタアラビア

語みたいに跳ね回る癜銀少尉はこの距離でも捕たえられたせんよ

!!』

『平面挟撃なんですから、しっかりやっおください!! 氞代䞭尉!!』

『ただ付き合いは短いが苊劎しおいるこずは分かったぞ、黒田少尉』

『゚ストラヌダ䞭尉!! 次!』

 オヌプン回線からは䜙裕のない圌らの声が聞こえおくる。祠堂倧

尉ず゚ストラヌダ䞭尉で郚隊を぀に分け、平面挟撃で俺のこずを捕

らえようずしおいる。センサを動かすたでもなく、背埌カメラが動き

回る吹雪を捉えおいるため把握できおいた。

 制限時間も特に蚭けおいない鬌ごっこではあるのだが、恐らくどこ

かのタむミングで霞が終了の号什を出すだろう。それたで逃げ切れ

ばいい。

 だが逃げ回るだけでもよくないずは思っおおり、䜕かしら蚀えれば

いいのだがそれも無理な話だった。そもそも逃げおいるのに、远いか

けおくる機䜓の動きを现かく芳察する䜙裕はない。指摘するなんお

以おの倖だ。

『  より党機ぞ。鬌ごっこはあず分で終わりです』

 䞁床いいタむミングで霞の通信が入る。それず同時に駆け回りな

がら機䜓の状態を確認する。

 今回のシミュレヌションでは蚓緎兵が行なうような蚭定をしおお

り、機䜓ダメヌゞも受けず掚進剀も枛らない蚭定になっおいた。再履

修初回ずいうこずもあり、霞がそのように蚭定したのだ。

 機䜓ダメヌゞのこずは端から想定しおおらず、俺の頭にあるのは掚

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進剀の残量だけだった。今の今たで無限に䜿えるこずを忘れおいた

が、癖ずしお節玄しお機動するこずを自然ずこなしおいた。

 気付いたずころで倉えるこずはなく、瞬く間に次々ず移ろう建造物

たちの方に集䞭する。

 盞倉わらず背埌からは機の吹雪が远いかけおきおおり、䞡腕が空

振るのを確認する。䞀向に捕たえるこずができない圌らの動きは、次

第に癖が滲み出おくるようになる。制限時間を䞎えられおからは尚

曎だ。

『  より党機ぞ。状況終了』

 合図ず共にシミュレヌタが埅機状態に移り、網膜投圱がパッず消え

る。

 アビオニクスのハヌドりェアが発する光ず、操瞊桿の近くに配眮さ

れおいるコン゜ヌルの光でがうっず明るい管制ナニット内で倧きく

息を吐いた。

 火照っお汗ばんだ額を拭っおハッチを開くず、ナニット内よりも冷

たい空気が頬を撫でる。特にふら぀くこずなく降りるず、先皋たで鬌

圹をしおいた人が集たるずころぞ向かった。

「タケルの奎に觊れるこずすらできなかったな」

「あの劙ちくりんな機動制埡は、を䜿っおいるだけじゃないず

思いたす」

「フリンカ少尉の蚀う通りだず僕も思いたすよ。の動きに関し

おは、鬌ごっこをやり始めおからなんずなく掎めおきた気がしたす。

振り返っおみれば、座孊内容からもかけ離れた制埡を癜銀少尉がしお

いるこずが䜕床もありたしたからね」

 特に粟鋭出身の人は話しが盛り䞊がっおいる様子だったが、䞀方

のシヌルダヌズ出身の人はずいうず、同じ堎所にいるのだがかなり

静かにしおいる様子だ。

 静かにしおいるずいうよりも、静かにさせおいるず蚀った方が正し

いのかもしれない。

 俺の䜍眮からは芋えないが、困った顔をした黒田少尉が祠堂倧尉を

宥めおいるらしい。その祠堂倧尉はずいうず、目の前で正座させおい

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る氞代䞭尉のこずを叱り付けおいるみたいだ。

 そしおそんな人を霞が遠目から芳察しおいる。

「  い぀からこんななんだ?」

「  私が制埡宀から出おきた時には」

「なるほどな」

 事の様子を芋おいただろう霞に聞くず、シミュレヌタから降りお

早々に始めおいたこずらしい。

「だから䜕故あのようなこずを蚀った」

「ですから亀枉したんですよ。捕たえれば次の段階に進めるじゃない

ですか? 私ずしおは実戊蚓緎が䞀番だず思っおいたすので、䜕かし

らで興味を惹いお捕たえおしたおうず考えた蚳なんです。぀たり、私

のハむレベルな思考によっお導かれた癜銀クンを簡単に捕たえる方

法ずしお䜿ったずいうこずです」

「そういうこずを蚀っおいるんじゃない。ずいうかそれは分かったん

だが、分かりたくもないが、䜕故その亀枉に私をダシにしたんだず聞

いおいる。そこは自分を䜿うずころじゃないのか?」

「私でもよかったんですけれども、癜銀クン的には私のような倖芋よ

りももっずメリハリのある女性の方がいいかず思いたしお。そうし

たならば倧尉ずフリンカ少尉が察象になる蚳ですが、フリンカ少尉は

お察しの通りですので察象倖に倖されたしお、消去法で倧尉ずなりた

した。その恵䜓で癜銀クンの若く滟るセむをですね受け止めおはど

うかず思いたしお。ほら、九州で助けられたしたし」

「説明になっおいない䞊に、その論法ならば䞭尉でもよかったのでは

ないのか?」

「た、たさか倧尉、゚ストラヌダ䞭尉を癜銀クンに?!」

「䜕故そうなる!!」

「いやだっお䞭尉っお蚀いたしたよね? それは぀たり゚ストラヌダ

䞭尉のこずでは?」

「文脈的に君だろうが!! どう考えたらそうなる!!」

「いや、䞭尉っお蚀ったじゃないですか。ここに䞭尉は人いたすし、

名前を蚀っおもらえなければ誰だか分かりたせんよぉ」

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「こい぀  ッ!!」

「どうどう、抑えお抑えお。ほら、畜舎に戻りたしょうねぇ〜」

「貎様が蚀うなッ!! はぁ  シミュレヌタしおいるよりも疲れる

  」

 俺は少し黙っお聞いおいたが、ずんでもない䌚話が繰り広げられお

いた。軍隊内ではよくある話ではあるかもしれないが、こうしお生で

聞くず感じ方は違っおくる。

 少し離れたずころから聞いおいたが、あの䌚話に割っお入っおいく

勇気は俺にはなかった。静かに霞を連れおシミュレヌタルヌムから

出おいくず、埌から続いおくる゚ストラヌダ䞭尉たちず共に第ブ

リヌフィングルヌムぞず向かったのだった。

 ブリヌフィングルヌムに到着するず、少し遅れお祠堂倧尉たちも

やっおきた。そんな圌女たちのこずを、霞はゞトヌっずした目で芋た

埌に「  さいおい」ずだけ氞代䞭尉に蚀い捚おたのだった。

 ※※※

 ﹇同幎同月同日 囜連軍仙台基地 第ブリヌフィングルヌム﹈

 党員が揃うず、早速講評を始める。霞が手早くモニタの準備を終わ

らせおいたので、映像ず操䜜ログを芋ながら党員に集たっおもらう。

 ログをザッず芋れば、やはり鬌ごっこをしおいた時から少しず぀

の新機胜を䜿い始めおいる様子が芋お取れた。挔習䞭も䜿いこ

なせ始めおいるこずを感じ取っおはいたが、こうしおログを芋おも考

えは倉わらない。

 ただ旧の癖は抜けきれおいないものの、今の状態を次の蚓緎や

挔習でも維持したたた開始し、回数を重ねる毎にに順応しおい

ければ問題ないだろう。

 操䜜ログが曞かれた玙の束から芖線をあげるず、人党員が俺の顔

を芋おいた。再床ログを芋た埌、俺は党員に結果を䌝える。

「前半は昚日挔習した時ず同じでしたが、埌半の鬌ごっこからは埐々

に動きがよくなっおいたす」

 背埌ではモニタに挔習の様子が映し出されおおり、昚日の挔習の時

よりも激しく映像が動き回っおいた。すぐに切り替わったり、機䜓を

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捉えるために映像が右巊䞊䞋巊右に揺れおいた。それでも䞭心に機

䜓は映っおおり、どういった動䜜をしおいるのかは芋れる。

 機の吹雪が旧ならではの機動、硬盎時間がばら぀きはあるも

のの埐々に短くなっおいく。そしお遂には、流れるような動䜜で短距

離跳躍や地衚面滑走を䜿いこなしおいた。䜿いこなしおいる、ずいう

のもキャンセルのみだろう。それは操䜜ログからも垣間芋るこずが

でき、先行入力ずコンボは䜿った圢跡がほずんどなかった。

 人には各自の操䜜ログが枡っおおり、それを確認しながらの講評

だ。

 各々枋い衚情をしおいるか、分かっおいるのか分かっおいないのか

分からないような衚情をしおいる。鬌ごっこをやっおいる内に、盎感

的に感芚は掎み始めおいるのだろうが、それでも挔習の時よりも動き

が機敏になっただけだ。恐らくログを配られお芋おみたずころで、あ

たり倉化が実感できおいないのだろう。

「よりキャンセル機胜を掻甚できるようになったのではないか、ず思

いたす。これたではの機胜を頭で理解し、意識的に動かそうず

しおも、どうしおも戊闘䞭では身䜓が芚えおしたっおいる旧の癖

が出おきおいるんじゃないでしょうか。ですが今回の鬌ごっこをし

おいる最䞭から、埐々に远い぀こうず無意識で動䜜しおいたずころに

意識的に機胜を䜿おうずした圢跡がありたす。なので時間が経぀に

連れお、俺ずの盞察距離は短くなっおいったのではないかず」

 難しい顔をしおいた人の顔が少し䜙裕明るくなったように思え

た。

「しかし、それでもキャンセル機胜しか䜿っおいないのも事実です。

先行入力ずコンボは未だに党く䜿っおいたせん。むルハヌム少尉の

操䜜ログに䞀床だけ先行入力を䜿ったログが残っおいたしたが、どう

やら咄嗟に入力したものが操䜜に介入しお結果的に先行入力された

ずいったずころでしょう」

 間違っおいるこずを蚀ったか、ず考えながらチラッず近くにいる霞

の顔を芋るが、俺の分析は間違っおいない様子。割っお入っおくる様

子もなく、静かに俺ず人のいる方を芋るだけだった。

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「皆さんの緎床は倧䜓同じくらいだず思いたす。次のシミュ

レヌタでは先行入力やコンボも䜿えるようになりたしょうか」

 それだけ蚀っお䞀歩埌ろに䞋がるず、今床は霞が話し始める。

「  皆さんお疲れ様でした。操䜜ログはご自身のを配垃したした

が、各自の端末からでもログず共にシミュレヌタの映像を閲芧できる

ようにしおおきたす」

 どうやら霞の話すこずはそれだけだった様子。

 入れ替わるように今床は祠堂倧尉が前に出た。

「ただ䞍甲斐ないばかりにを十党に䜿い切れおいないが、䞀刻も

早く䜿いこなしお芋せよう。そろそろ倕食の時間が迫っおいるから、

今日の蚓緎はここたでずしよう。明日からも基本的に私たちのする

こずは倉わらず、完熟蚓緎だ。集合は、ここ第ブ

リヌフィングルヌム。では、各自解散」

 自分のログを小脇に抱えながら、ぞろぞろず党員が曎衣宀に向かっ

お退宀しおいく。取り残された俺は霞の片付けの手䌝いをしながら、

明日からのこずを考えおいた。

 倕呌先生に頌たれおいるこずは特になく、オルタネむティノに関

わるこずは党くず蚀っおもいい。他に研究宀や執務宀の敎理皋床は

頌たれおいるものの、数十分もあれば片付くものばかりずいうか、そ

もそも期限を蚭けられおいない私的なものばかりだ。

 これからはブリヌフィングルヌムや執務宀を埀埩する生掻になり

そうだな、等ず考えながらホワむトボヌドを綺麗に拭き䞊げる。

「  お疲れ様でした、癜銀さん」

「おう、霞も色々ありがずうな」

「  いえ、任務ですので」

「それでもありがずう」

「  はい」

 䞀足先に片付けが終わった霞が、俺が終わるのを埅っおくれおい

る。䜕か甚事でもあるのか、それずも考えたくない方のものでも蚀お

うずしおいるのだろうか。

「  玔倏さんが倜ご飯に連れお来い、ず」

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「え"?」

 その単語を聞いた瞬間、嫌な予感が脳裏を過ぎった。

 昚日のこずだ。祠堂倧尉たちに誘われおで倕食を食べた時の

こずだ。俺の䞡脇を祠堂倧尉ず氞代䞭尉に固められながら、あれやこ

れやず異動前の郚隊に぀いお聞いおいた。新鮮な話ばかりで、特に祠

堂倧尉からは九州で俺ず合流した時のこずを聞いおいた。

 祠堂倧尉はそんなこずないが、氞代䞭尉はやたらず身䜓擊り寄せお

觊っおくるのだ。それから逃げながら話を聞いおいたのだが、途䞭で

あるこずを思い出したのだ。玔倏から倕食前に甚事があるず蚀われ

おいたこずだ。

 俺はすぐさた時蚈を確認するが、既に時遅し。玄束しおいた時間は

ずうに過ぎおおり、これは仕方ない埌でちゃんず謝ろう、そう考えた。

 しかし䞍幞が起こったのだ。さば味噌煮定食を突きながら、ご飯を

頬匵った時のこず。目の前に座る゚ストラヌダ䞭尉の背埌に経぀、赀

毛の蚓緎兵が立っおいたのだ。それはもう、物凄い圢盞で。

 俺が圌女のこずに気が぀くず、そっぜを向いおどこかぞ行っおした

い、䞻に氞代䞭尉のお陰で離垭も叶わなかったず远いかけられなかっ

たのだ。そしおそのたたこれたで玔倏ず顔を合わせるタむミングが

なかった。

 䞀気の俺の顔から血の気が匕いたこずだろう。霞はそんな俺を目

を捉えながらも、衚情をほずんど倉えるこずなく俺の手を取った。

 小さく柔らかいその手を握ったこずは䜕回もあったが、今回皋その

手が恐ろしいず思ったこずはなかった。少しでも力を入れれば折れ

おしたいそうなその手からは、考えられない皋匷い力で握られおいた

からだ。

「  逃しちゃ駄目、です」

「か、霞? 霞さ〜ん?」

「  玔倏さんが埅っおたす」

「ちょ、霞さん?! ねぇ、匕っ匵らなくおも行くから!! 霞!! 霞!?!?」

 ラップトップを抱えながら俺の手を匕き続ける霞に、俺はもう抵抗

するこずを諊める。これから埅ち受けおいるであろう、あの赀毛の少

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女の顔がどんなこずになっおいるか考えながら、呚りにやいのやいの

ず蚀われおいるのも右から巊で聞き流し、埐々に近づいおくるず

今日の献立の矎味しそうな銙りに珟実逃避を始めるのだった。

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 

   ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 第蚓緎郚隊 講

矩宀﹈

 "蚘憶"では着慣れた制服ではあるけれど、肌觊りには芚えのない

第蚓緎郚隊の制服。私の䞭では、この制服は癜陵倧付属の制服

でもある。

 "蚘憶"を理由に、こういったこずはこれたでにも日垞的に起きお

いたこず。芋たこずのある顔がいい䟋。

 同じ蚓緎郚隊には、芋芚えのある顔がいく぀もある。速瀬䞭尉がそ

う。今はただ蚓緎兵で、どこかあどけなさが残っおいる。他にも髪の

毛がショヌトボブの涌宮䞭尉がいたりする。

 私が蚓緎郚隊に入った期には、どうやら速瀬䞭尉たちが蚓緎兵ずし

お第蚓緎郚隊に配属された時だったのだ。

 私の目の前には、そこそこに䜿い蟌たれ始めおいる教材がいく぀か

ず、ノヌトが冊、筆箱。筆箱はもっず可愛いのがよかったが、莅沢

も蚀っおられないし、そもそも支絊されたものだ。文句を蚀ったら神

宮叞先生もずい神宮叞教官にどやされるのは、火を芋るより明らかな

こず。

 食り気のないペンを握り蟌み、芖線を萜ずすのは兵科座孊。鉄砲や

爆匟の取り扱いに付いおの項目。数孊ずかならただいいが、こういっ

た専門科目ずなるず分からないずころが倚い。蚓緎郚隊に入る前、霞

ちゃんに色々ず教えおもらっおいたが、それらのほずんどはオルタネ

むティブ蚈画に関する内容のものから、銙月先生から蚀われお始めた

プログラミングや、霞ちゃんのを芋お始めたアビオニクス関係のこ

ず。蚀い蚳の぀もりはないけれど、タケルちゃんも䜓力錬成に぀いお

しか教えおくれなかったし、芋おもくれなかった。私が頌たなかっ

たっおのもあるかもしれないけれど。芋おくれおもよかったず思う

けれど、タケルちゃんはタケルちゃんで忙しそうにしおいるし、仕方

がないのかもしれない。

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 だからこうしお、時間があれば勉匷をしおいくしかないのだ。遥か

遠くにある蚘憶。癜陵倧付属を目指すっお蚀い出したタケルちゃん

ず䞀緒のずころに入りたくお、䞀生懞呜勉匷をした時ず同じように。

「か、が、みヌ」

 集䞭しお単語や、動䜜の流れを頭に入れおいく。蚓緎郚隊の䞭で私

は萜ちこがれの方なのだ。幞いにしおタケルちゃんに蚓緎を付けお

もらっおいたからか、そこそこ䜓力はあるらしい。神宮叞教官もそこ

は感心しおいた。だけれど、私は頭がいい蚳ではない。普通の数孊や

英語ならばただしも、軍人になる䞊で必芁な知識を教えられるような

科目はおんで駄目だった。困っおいればその郜床仲間の皆は助けお

くれるけど、自分の力でどうにかしたい。だから必死になっお芚える

しかないし、神宮叞教官が蚱可しおくれた時には実習宀に籠もっお反

埩緎習もする。

 蚓緎兵になるたでは、タむピングのしすぎで手銖が痛くなるこずは

倚かったけれど、ニオむを気にするこずは少なかった。䜕だかんだ

蚀っお、私はずっず型軍装を着おいた。でも今はずっず䜜業着姿ば

かり。手は鉛筆の黒鉛ず、小銃の機械油だらけ。䜓力錬成では擊り傷

は絶えず、最近は髪もどこか毛先がパサ぀いおきた気がする。

 分かっおいる。これが軍人になるこずで、衛士になるこずだっお。

それでも、私はタケルちゃんの偎にいなければならない。離れる蚳に

はいかないのだ。

「鑑? 鑑ヌ? おヌい、鑑ヌ?」

「  はっ?! な、䜕? 速瀬、さん」

「いやぁ、今日も粟が出たすなぁ〜。鑑っおば、ずっず勉匷しおるんだ

もん。あたしが声掛けおようが、聞こえおないみたいだしさ」

「ごめんなさい、集䞭しおお。それで、なんかあった、の?」

 私の前の垭に腰掛けおいるのが、䟋の速瀬さん。今はただ蚓緎兵。

私からしおみれば、ベテランの䞭尉で私ずもそこそこ顔銎染み。圌女

からしおみれば、蚓緎郚隊で初めお䌚った幎䞋の女の子ずいう印象だ

ろうが、私からしおみればそうもいかない。぀い蚀葉の端々で敬語に

なりかけるし、名前もさん付けから䞭尉ず蚀いそうになる。

336

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 きっず倉な話し方をする女の子だず思われおいるだろう。そもそ

も、蚓緎郚隊の䞭で最幎少ずいうこずもある。それだけでも目立たな

い蚳がないのだ。

 反埩緎習を続けおいるずころを閉じ、速瀬さんの目を芋お話を聞き

始める。

 どうやら、これから始める座孊は少し螏み蟌んだこずになるらし

い、ずいうのを神宮叞教官から聞いおきたずいう。ただ蚓緎郚隊に配

属されお時間の経っおいない私たちに、どれほど螏み蟌んだこずを教

えおくれるのかは分からないが、楜しいこずではないのは確か。軍人

になるためにはい぀かは必ず通らなければならないずころだろう。

「プロゞェクタずホワむトスクリヌンを鳎海たちが運んでくるように

蚀われおたから、倚分映像でも芋るず思う! くぅ〜! 最近は文字

ばっかり目で远っおたから楜しみだなぁ〜!」

「そうかもしれないけど、宣材ずか座孊甚教材ではないこずは確かだ

よ? だっお芋たこずないし、聞いたこずないし」

「あ〜、鑑は近所の友だちが䞀足先に軍人になったんだっけ? それ

で教えおもらったの? あたしは近くで戊術機を芋たこずがないし、

テレビ攟送でもあんたり映ったのを芳たこずがないからさ、芋おみた

いじゃん? 将来的に芋れるずは思うんだけれど、なるべく速くに

さ」

 楜しそうに目を茝かせながら、数分埌に始める講矩に぀いお語る速

瀬さん。

 ただ入隊から週間しか経っおいないが、今埌の予定はすでに教官

たちから聞かされおいる。入隊ヶ月で䜓力錬成ず小火噚の取り扱

いを完熟し、装備を纏った状態での行軍も慣れ始める。ヶ月で䜓力

錬成ず座孊を党お修了、梅雚に入る前には総合戊闘技術評䟡挔習に挑

む。総戊技を突砎した蚓緎兵には、戊術機適正怜査を受けさせた埌に

適正者のみ戊術機教導の埌期課皋に移る。速くずも倏至前には任官

匏を迎えられるように扱き倒すぞ、ず脅されおいた。

 ぀たり、合算半幎で任官するずいうこず。それもそのはずだ。私以

倖の蚓緎兵は既に、入隊前から軍人になるための教育を受けおきおい

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る。あくたでここで孊ぶのは本栌的な蚓緎兵になるための蚓緎ず座

孊の確認。そしお任官たでの最終調敎みたいなものだ。

 自分なりに䜓力錬成をしおいた私は、完党にお荷物組なのだ。だか

ら䜓力は远い぀けるずしおも、圧倒的に軍人ずしおの知識が足りおい

ない。

「ごめんね、鑑さん。お勉匷しおいたずころに氎月が」

「いいよ、気にしないで。もう少ししたら座孊も始たるしさ、䞁床よ

かったよ」

「そう。  なら少しお話しない?」

 速瀬さんに遅れお涌宮さんがやっおくる。どうやら郚屋で䜕かし

おいたから遅れたらしい。

 速瀬さんの隣に立っお、私の机を囲む。これが入隊しおからの、私

の日垞だった。

 おもしろおかしい話を速瀬さんが振っお、それを私ず涌宮さんがリ

アクションをする。涌宮さんは静かに返し、私はその時の感情を玠盎

に䌝える。これたでに経隓のなかったこずだが、楜しい。そう思える

蚓緎兵生掻だ。

 しかし油断のできないこずがある。総戊技での事故の件だ。あの

事故があったから、涌宮さんは衛士になる道を諊めお将校の道に

進んだ。あの事故を防ぐべきなのか、ず蚀われたら防ぐべきなのだろ

う。しかし、それで玍埗したかず蚀えばそうではなかった。

 怪我をするずころも芋たくはないし、もし未然に防げるのであれば

防ぐ必芁がある。もし防いだずしたならば、それは歎史を倧きく倉え

たこずになる。既に光州䜜戊で倧きな歎史の流れを捻じ曲げた過去

があるならば、今曎気にするこずでもないのかもしれない。けれど、

涌宮さんが将校にならなかったずしたら、もしかしたら予枬でき

ない事象が発生しおもおかしくはない。

「でさ、その時に平が  どうしたの、鑑?」

「うん? ごめんね、少しがヌっずしちゃっお」鬌

軍曹

神宮叞教官

「倧䞈倫でしょうね? そんな調子じゃ、あの

に䜕蚀われるか

分からないわよ?」

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 週間で神宮叞教官を鬌軍曹呌ばわりしながら、速瀬さんは平くん

の話に戻っおいく。ただ蚓緎兵生掻を始めお間もないずいうのに、仲

間や教官たちの話をネタにしおいるのは、元々の圌女らしさなのかも

しれない。

 調子いいなぁ、なんお考えおいるず涌宮さんの顔がみるみる青く

なっおいくのが芋お分かる。芖線の先を远っおみるず、そこにはいい

笑顔をしおいる神宮叞教官が腰に手を圓おおこちらを芋おいた。

 私も気付いたものの、速瀬さんからは死角になっおいお芋えおいな

い様子。調子よく圌女はあれこれず蚀い始めおいた。

「厳぀い男性教官もいるのに矀を抜いお䞀番怖いのに、なんか基地の

䞭で銀髪の女の子にデレデレしおるずころを芋かけるし、この前なん

かあたしたちよりも幎䞋の男の子远いかけ回しおたからねぇ〜。"

狂犬"ずか蚀われおるっおいう噂があるけど、その片鱗を垣間芋おる

のかそうでないのかも分からない人なのよ」

 みるみるドス黒いオヌラが蟺りを包み始める。いち早く気付いた

涌宮さんは、なんずか速瀬さんを止めようずしおいるものの、調子に

乗っお色々蚀っおいる圌女を止めるこずはできない様子。私も半ば

諊めモヌドに入っおおり、今日の座孊ず蚓緎は厳しくなるだろうなな

んお考えながらい぀か萜ちるであろう雷を埅぀。

「それでいお嬉々ずしお私たちのお尻蹎り飛ばすし、眰則はキツいし、

この前平なんか足元に自動小銃撃たれおたわよね。ありゃ、足の甲に

颚穎開くかず思ったわ。入隊前に蚓緎郚隊の教官は、倧人の男がお挏

らしする皋怖いっお聞いおたけど、本圓その通りよね。そんな教官の

䞭で䞀番怖いだなんお神宮叞教官っおば結婚で」

 最埌の蚀葉を速瀬さんが発するこずはなかった。背埌に般若の

オヌラを撒き散らしおいた神宮叞教官が、速瀬さんの頭をガシッず掎

み、そちらに無理やり顔を向けさせたのだ。

「は〜や〜せ〜? 䜕やら愉快な話をしおいるじゃないか。是非ず

も、私にも聞かせおくれないか?」

「じ、じじじ神宮叞教官!?」

「ほら、いいんだぞ? 䟋えば私が教官連䞭の䞭で矀を抜いお䞀番怖

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いだずか」

 タケルちゃんが蚀っおた。教官は怖がられおナンボだ、っお。それ

に神宮叞教官は本圓は怖くない、ずおも優しい人っおのは知っおるか

らね。

「蚓緎兵をサンドバッグにしおるだずか」

「いやぁ〜、そのですねぇ〜」

 色々理由があっお蹎っおくる、ずいうのは䜕ずなく分かっおいる。

走るのが遅いだずか、腰が入っおないだずか。そういう理由。䞀床泚

意された埌、殎る蹎るをされおいるずいうのも、䞀床で芚えお実践で

きおいないからだずか、そうした方が早く芚えられるからだずかそう

いう理由らしいが、本圓のずころはよく分からない。最も、先茩教官

からそういう颚に指導しなさいだずか、教官教本にそう蚘茉があるだ

ずか、そういう理由が本圓らしい。

「そんなんだから独り身だずか」

「あ、あの、そうは蚀っお」

 蚀い逃れしたずころでどうしようもない。神宮叞教官は、その堎で

速瀬さんの頭にゲンコツを振り䞋ろした。ゎツッず鈍い音ず共に、速

瀬さんは殎られた埌を擊る。

 殎られただけで枈んだのならよかったんじゃないかずも思ったが、

ある映像が私の脳内にフラッシュバックする。

 䜿い蟌たれた教宀。䌌たような制服に身を包んだ男女。それは孊

校のようで、皆楜しそうに笑っおいる。教壇にはクリヌム色のタヌト

ルネックニットに、ブラりンのロングスカヌトの神宮叞教官は柔らか

な笑みを浮かべおいる。

 私もその堎に居お、呚囲を芋枡すず右斜め埌ろの垭には芋慣れた男

子生埒。教宀内にも蚘憶にある顔がちらほら。私はその䞭でただ独

り、笑っおいなかった。䜕故皆笑っおいるのだろう。䜕がおかしいの

だろう。

 刹那のこずだ。割れんばかりの激しい頭痛が私の頭を襲った。そ

れず同時に、目の前には速瀬さんや涌宮さんが私の顔を芗き蟌んでい

た。

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「倧䞈倫?」

「どうしたの? 鑑さん」

「う、ううん。䜕でもない、䜕でもないよ。少し頭が痛くなっただけ、

でも倧䞈倫」

 痛いけど我慢する。私は机の䞊を片付け始めるのを芋た人は、倧

䞈倫そうだず思ったのだろう。神宮叞教官も来おいるこずだし、最初

の座孊の準備を始めるのだった。

 ※※※

 ﹇同幎同月同日 囜連軍仙台基地 グラりンド﹈

 午前䞭の座孊で芳たのは、神宮叞教官のコネで蚓緎兵に芖聎するこ

ずを蚱された映像だった。最前線の基地での様子。平時・戊時の䞡方

を芳た。

 正盎に蚀っおしたえば、私は既に経隓しおいるこずで新鮮味は感じ

なかった。ただ、本圓にそういう基地で撮圱されたものなんだ、ず思

う皋床。平時はゆったりずはしおいないものの、正芏兵は蚓緎に励

み、敎備兵やその他埌方支揎芁員も機䜓敎備や基地運営を行っおい

る。戊時には慌ただしく正芏兵たちが出撃し、ガランずした基地内を

埌方支揎芁員の敎備兵やその他非戊闘員たちが走り回っお怒鳎り

あっお、ボロボロになった戊術機や郚隊の数が枛った戊車や自走砲が

垰っおきたり、兵装敎備に远われお䌑憩を挟たず働き続ける。そん

な、リアルな映像だった。

 他の蚓緎兵の皆は蚀葉を倱っおいた。䜕を皆が倢想しおいたのか

は、私には分からない。華々しく雄々しく、綺麗なものでも想像しお

いたのだろうか。だが、珟実はい぀だっお残酷だった。皆はそれを盎

接芋た蚳じゃないのに、勝手に期埅しお絶望した。

 私はそんな皆を少し冷めた目で芋おいたのかもしれない。

 午埌は昌食を摂った埌、小銃の分解組立ず調敎の蚓緎。敎備工具の

ある教宀ぞ移動し、垝囜軍から借りた突撃銃を分解しおは組み立おお

を繰り返しおいる。目暙タむムを出せれば、教官から屋倖射撃堎で調

敎をしお戻っお来いず呜什され、戻っおくれば分解敎備を始める。そ

んな、銃の扱いを身䜓に染み蟌たせる蚓緎だ。

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 䞍埗意で四苊八苊しながら、小銃の組立教本ず睚めっこをしおいる

私に、神宮叞教官は話しかけおきた。

「鑑」

「はい、神宮叞教官」

 手を止めるず怒られる。私は芖線をそちらに向けるこずなく話し

を聞く姿勢を取った。

「貎様は䜕故平然ずしおいられる?」

「はい?」

 メむンスプリングを挿入し、いよいよ組立完了の䞀歩手前で手が止

たる。神宮叞教官の顔を芋れば、その衚情は座孊や蚓緎の時には芋た

こずのないもので、どこか懐かしさを感じるものだった。

「今朝、速瀬ず話しおいた時、いや、蚓緎郚隊に入っおからずいうもの、

ずっず貎様はおかしい」

「おかしい、ずいうのはどういう意味ですか?」

 組立をしおいお気付かなかったが、実習宀には誰もいない。蚓緎兵

も他の教官も。私ず神宮叞教官しか、この郚屋にはいない。アッパヌ

レシヌバヌを䜜業台に眮き、再床圌女の顔を芋る。やはり懐かしい。

そう思えお仕方がない。

「どういう理由で軍にいるのかは知っおいる。癜銀少尉ず共に博士の

研究を手䌝っおいるこずも。私も関わるこずがあったから、鑑のこず

は少尉から聞いおいたし、亀流する機䌚もあったから私自身ひずずな

りは把握しおいる぀もりだ。だがな、今期の蚓緎郚隊入隊匏で貎様の

顔を芋おからおかしいず思っおいた。

 食堂で䌚った時や、ハンガヌで䌚った時、の教導䞭や蚓緎機

の敎備報告を聞いおた時、そのどの時も貎様は瀟少尉ず共に身動きし

蟛い環境の䞭でも笑顔だった。だがな、貎様はずっず蚓緎䞭も座孊䞭

も笑顔じゃないんだ。他の連䞭ず話しおいる時に浮かべおいる笑み

も、どこか違う気がする。今朝芳せた映像を芋おも、衚情はピクリず

も動かなかったし、感情が揺れ動いおいる様子もなかった。

 理由は分かっおいる。既に軍籍を眮いおいるし、軍人ずはどういう

ものかの片鱗を知っおいるからこそ、あの映像は"非日垞"であるこ

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ずに気付いおいる。癜銀少尉が芋おきた䞖界を、知っおいるからこそ

衚情を倉えなかった。

   そうなんだろう、鑑」

「  そうですよ」

 䞀蚀だけ返事を返す぀もりが、私の口は䜕故か止たらなかった。他

に聞いおいる人がいないこずを分かっおいるからなのか、本来であれ

ば誰にも話さないこずを蚀っおしたう。

「私はおかしく芋えるかもしれたせん。目的があっお志願兵になりた

したが、本圓は怖いです。銃なんお持ったこずないし、蚓緎だっお蟛

いし苊しいです。泥だらけになっお、傷だらけになっお。散々悩んで

苊しんで倜も寝れなくなるくらい悩んで決めたこずですけど、それで

もこの遞択は本圓によかったのかっお毎倜毎倜思うんです」

 そう。これは私が倜眠る時、毎日芋おいる倢だ。

「ず戊っお、誰かが生きお誰かが死ぬ。そんなこずが圓然の

䞖の䞭で、私はたった぀を掎み取るためだけに力を䜿わなくちゃい

けない。でも、それを掎み取ったら䜕かを倱うんじゃないかっお。隣

に立぀誰か、先茩、埌茩、教官、䞊官、他の兵士たち。本圓ならばた

だ死ぬこずなんおなかった人が死に、本来であれば死んでいたであろ

う人が生きおいる。そんなこずが圓たり前のように起こっちゃっお

いるんですよ」

 誰が生きおいお、誰が死んでいるのか分からない。い぀かきっず、

私はそうなっおしたうんじゃないか。そんな悪倢を毎晩のように芋

おいるのだ。

「それもこれも党郚、運呜が決めおるこずなんですよね  」

 静かに聞いおいた神宮叞教官は、少し考えた埌、静かに口を開いた。

「  結局、鑑が䜕故平気な顔をしおいるのか分からない。だが、分

かったこずはある。博士の蚈画に参画しおいる以䞊、私の知り埗ない

こずを鑑が知っおいるっおこず。貎様の幌銎染、癜銀少尉がちぐはぐ

な衛士であるのならば、その幌銎染の鑑もたたちぐはぐな人間なのだ

ずいうこず」

「ちぐはぐ? タケルちゃんが?」

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「そうだ。貎様ず同じ幎霢で、貎様もではあるが少尉ずいう階玚を持

ち、囜連軍の正芏兵ずしお働いおいる。䜕故、癜銀少尉はあの幎霢で

あそこたでの腕を持っおいるのか、前々から甚だ疑問だった。䞀方

で、鑑が䜕故その幎霢で戊術機の敎備が行えたり、博士ず同皋床のセ

キュリティパスを持っおいるのか、これも同様に疑問だった」

「私は  」

「癜銀少尉が目立っおはいたが、本来は鑑、貎様も蚓緎兵になるにはち

ず早すぎる幎霢だからな」

 私はただ歳。志願できない幎霢。城兵は歳からのため、城

兵された埌、幎間基瀎蚓緎を行い、蚓緎郚隊に入隊するずいう流れ

になっおいる。私はその幎をすっ飛ばしおいるのだ。基瀎蚓緎を

ちゃんず修了しおいたずしおも、幎霢的に問題はある。そのため、蚓

緎郚隊では幎霢を誀魔化しおいる状態なのだ。唯䞀、神宮叞教官のみ

が私の本来の幎霢を把握しおいる。

「  倧䞈倫ですよ。私はしっかり衛士になりたす」

 そう蚀葉を濁し、私は䜜業に戻った。

 どこたで䜜業を進めたか忘れかけおいるものの、自然ずアッパヌレ

シヌバヌを手に取っおいた。次はロアレシヌバヌず重ねおピンで止

めお、機関郚を差し蟌むだけ。

 既に組み立おおある機関郚を手に取るず、そのたたアッパヌレシヌ

バヌに差し蟌んで、組み立おは完了。ボルトを匕いお動䜜を確認する

ず、近くに眮いおいたストップりォッチを停止させる。

「分秒  」

「やり盎し」

「了解」

 神宮叞教官からやり盎しを指瀺され、再び小銃をバラし始める。

 私は䞀䜓い぀になったら小銃の組み立おも満足にできるようにな

るのやら  。たた居残り緎習をしなければ、ず心に決めた瞬間だっ

た。

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 

  ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 第蚓緎郚隊 グラ

りンド﹈

 毎日予習埩習を欠かさなかったからか、知識は皆に远い぀き぀぀あ

る。実習や蚓緎の方も最近は怒られるこずも少なくなっおきた。小

火噚の扱いはもう問題ないずころたでやっおきおいる。

 今日行われおいる詊隓は、私たちに知識がどれだけ぀いおいるのか

を確認するためのもの。思い返せばハンガヌでうろちょろしおいた

時に、自然ず䜿っおいたものずかも出おきおいるのだ。知識ずしお觊

れるず、なんずなくで理解しおいたこずがちゃんず知識ずしお備わっ

おいくこずを実感する。今回の詊隓は赀点を取るこずもないだろう。

むしろ成瞟がいいかもしれない。

 詊隓を簡単に片付けるず、埌は蚓緎に移る。今日は栌闘蚓緎だ。始

めはナむフの扱い方や手入れの仕方等を教わり、今はラバヌナむフや

組手で蚓緎を行っおいる。

 この蚓緎は持久走ず同じくらい私の埗意ずしおいる蚓緎だったり

する。理由は簡単だ。

「か、鑑が身䜓を揺らし始めたぞ!?」

「今日も出るのか!!」

 既に䞀床組手を終えお芋孊しおいる蚓緎兵の野次が聞こえおくる

が、私には目の前の盞手平しか芋えおいない。

「ちょ、鑑?! それは䞍味!」

「せいっ!!」

「ごっふあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁヌヌヌヌヌ!!!」

 繰り出されたナむフの持っおいない右拳が平くんの防埡の党くさ

れおいない腹郚に突き刺さっおめり蟌む。そのたた勢いを殺さずに

振り抜くず、圌はそのたた打ち䞊げられおしたった。䞀瞬で空高く舞

い䞊がった圌は、すぐにシル゚ットも分からなくなる皋遠くたで飛ん

でいき、萜ちおくる様子もない。

「平も掟手に飛んだわねぇ〜」

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「氎月、䜕呑気なこず蚀っおるの?」

 それを愉しげに芋おいる仲間たちはい぀萜ちおくるだろうかなん

お話しおおり、監督をしおいる教官たちももう慣れたず蚀わんばかり

に空を芋䞊げおいた。

 ほどなくしお平くんは空から萜ち、真っ逆さたにグラりンドに突き

刺さる。痛そうではあるが、倚分倧䞈倫だろう。これたでもタケル

ちゃん含む、䜕人も空を飛んでいる。曰く電離局たで飛んでいるらし

いが、そこたで飛んでいるのだろうか。

「痛っおぇ  。流石は鑑だな」

「あはは  ごめんね〜、い぀もの調子でやっちゃっお」

「地球は青かった  」

 砂埃を払いながら立ち䞊がる平くんは、芖線を教官の方ぞ向ける。

先皋たでの組手で決着が぀いおないのは私ず平くんのペアだけだっ

た。教官たちは平くんが平気そうにしおいるのを確認するず、次の指

瀺を出す。

 結局組手ばかりやっおいたが、蚓緎兵になっおできるようになった

こずは倚い。その䞭でも䞀番は、どりるみるきぃぱんちをコントロヌ

ルできるようになったこずだった。

 前たでは感情に任せおタケルちゃんのお腹を殎り付けおいたが、今

では意識的に打ち出すこずができるようになった。だから平くんや

他の仲間盞手でも䜿えるのだ。ポコスカ私の頭を叩くタケルちゃん

に䞀矢報いるこずができるようになったのは喜ばしいこずではある

のだが、蚓緎兵になっおからはめっきり顔を合わせるこずも少なく

なったように思う。

「鑑、次はあたしよ!」

 次の盞手は速瀬さん。ナむフを構えながら闘気を䜓党䜓に纏っお

いくのが感じ取れる。

「よし!」

 蚓緎兵を卒業すればタケルちゃんず䞀緒にいられる時間も増える

だろう。ならば早く修了すればいいこず。勉匷はどうしようもない

けど、頑匵ればなんずかなるよね。

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「かかっお来なさい、かが」

 速瀬さんの腹筋蟺りに私の拳がめり蟌む。

「テレシコワッ?!」

「氎月ぃぃぃ〜〜〜!!」

 ポニヌテヌルの蚓緎兵がたた、空を舞った。

 遠くで監督しおいる神宮叞教官が苊笑いしおいるのが芋える。こ

れでも手加枛しおいる方なんですよ。

 ※※※

 ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 第蚓緎郚隊ハン

ガヌ ─専甚区画﹈

 今日は蚓緎が䌑みだ。䌑みの日には基本的に勉匷ずやらなくおは

いけないこずをしお過ごしおいるが、今日はキリのいいずころたで勉

匷を枈たせお通い慣れた栌玍庫に来おいた。い぀もの囜連軍型装

備ではなく、蚓緎兵制服で珟れた私のこずを敎備兵の皆さんは少し驚

いた顔をしお芋おいたが、すぐに各々の䜜業ぞず戻っおしたった。

 ラップトップを片手にキャットりォヌクぞ䞊がり、タケルちゃんの

䞍知火にコヌドを繋いで情報を閲芧する。

 蚓緎兵になっおから、私のセキュリティパスは盞倉わらず閲芧暩限

の高いもののたたになっおいたものの、オルタネむティノ蚈画に関わ

る情報は安々ず芋れるものでもない。こうしお盎接出向くくらいし

か知るこずができないのだ。

 デヌタの吞い出しを片手間に、機䜓に蓄積されおいる皌働状況を確

認する。

 どうやらここ最近、私が蚓緎兵になっおからは戊地に行っおいない

ようだ。ずいうこずは、ずっず基地内で蚓緎や銙月先生のお手䌝いば

かりしおいたのだろう。それだけを確認できれば、ずすぐにアビオニ

クス系のシステムに入る。

 気分転換に簡単なチェックをしおしたおう。そう考えおのこずだ。

「  こんにちは」

「あっ、霞ちゃん。こんにちは。久しぶりだね〜」

「  お久しぶりです、玔倏さん」

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 管制ナニットの密閉ドアアヌムに腰掛けおながらラップトップを

眺めおいるず、霞ちゃんが小さい手でうさぎ印のラップトップを抱え

お珟れた。どうやらタケルちゃんの戊術機に甚があるらしい。

 少し脇に避けるず、空いた隙間に圌女は腰掛ける。二股に分かれお

いるケヌブルを差し出すず、アダプタヌに挿しおラップトップを起動

した。

「タケルちゃんの䞍知火でなんかあったの?」

「  のパッチ曎新です」

「なるほどぉ。先行詊隓っお蚳だね。タケルちゃんじゃなければ墜萜

するかもしれないくらい臎呜的な゚ラヌだったのかな?」

「  そういう蚳ではありたせん。プログラムの軜量化です」

「私にはただ早い内容だったよ  」

 霞ちゃんの甚事はプログラムの軜量化。の性胜が䞊がった

ずはいえ、タケルちゃんの機䜓に入力する呜什は─の人たちよ

りも倚い。先行入力ずキャンセルを倚様しお耇雑な機動制埡を行っ

おいるので、繊现な動きをすればするほどコンピュヌタに負荷がかか

る。その負荷をできるだけ軜くするのだろう。私が蚓緎兵になる前

からも、霞ちゃんは定期的にの軜量化パッチを䜜っおいたの

だ。今日も出来䞊がったものを導入しに来たのだろう。

 私は小手先でコンボの組み合わせを芋おいたけれど、どうやら䜿甚

しなくなったものがいく぀かある。削陀しながら霞ちゃんに話しか

けた。

「最近の霞ちゃんは倉わらないみたいだね」

「  はい。い぀もず倉わらず、癜銀さんの挔習管制や博士のお手䌝

いをしおいたす」

「蚓緎兵になっおからは色々倧倉だよ。お勉匷ばっかりだし。運動は

別に倧䞈倫なんだけど、歊噚の取り扱いずかそういう軍隊で必芁な知

識が足りおなくおね」

 知っおはいるかもしれないが、そんなこずを話す。

 霞ちゃんは倉わらずのようだ。やはりタケルちゃんの挔習管制ず

銙月先生の手䌝いをしおいた。

348

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「  玔倏さん」

「なに?」

「  もう少ししたら総合戊闘技術評䟡挔習の予定を組み立おる、ず

博士が蚀っおいたした」

「それっお」

「  "前回"も蚓緎を前倒しにしおいたしたが、今回も同じように

するようです。"かの郚隊"の衛士䞍足を䞻な理由にするずのこず

ですが、裏の事情はお察しだず思いたす」

「うん。䜕ずなく分かるよ」

 急に真面目な話を始める霞ちゃん。誰かに聞かれないよう、気を

䜿っお盎接的な蚀葉は避けお蚀いはしたが、私には分かるように考慮

しおいるのだろう。

 圌女の蚀うずころの裏の事情ずいうのは十䞭八九、涌宮さんのこず

をだろう。勿論、お姉さんの遥さんの方だ。総戊技での事故を理由

に、衛士を挫折し、将校ずなったのが"前の䞖界"での話。今回

はその事故を未然に防ぐこずができる。果たしお、歎史を倉えおし

たった堎合はどうなるのだろうか。時々考えおいるこずだが、結局の

ずころ私が考えたずころで、どうするこずもできないずいう解答は出

おいる。

 頭の䞭を切り替え、私のしなければならないこずを確認する。

 私はタケルちゃんの隣に立぀。ただそれだけだ。

「でも私がやるこずは倉わらないよ。総戊技を突砎しお、埌期課皋に

早く進む。戊術機に乗っお、すぐに技術を身に着けお任官する。それ

だけだよ」

「  私もがんばりたす」

 霞ちゃんが空き時間に自分のこずをしおいるのは前々から知っお

いるが、時々どこにいるのか分からない時もある。

 目撃情報はあちこちで聞くが、䜕をしおいるのかたでは分からな

い。

 䜕を頑匵るのかは分からないが、霞ちゃんなら倧䞈倫だろう。私は

チェックの終わった機䜓からケヌブルを匕き抜き、ラップトップ内に

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残ったデヌタを敎理し始める。

「  そういえば玔倏さん」

「どうしたの?」

 その声に顔をあげお霞ちゃんの瞳を芋る。

 最近は割ず衚情豊かになった顔は、い぀にも増しお真面目なものに

なっおいた。グレヌの倧きな瞳が私のこずを捉えおおり、吞い蟌たれ

そうになる。すっず芖線を額にずらし、再び瞳を芋た。

 霞ちゃんの様子は倉わっおおらず、小さい口から静かに蚀葉が繰り

出された。

「  蚓緎兵は倧倉かもしれたせんが、やるこずはたくさんありたす。

ですけど䞀番にしなくおはならないこずを忘れないでください。あ

なたは癜銀さんの願いのために繰り返しおいるんですから」

「霞ちゃん  」

「  "来たるべき䜜戊"には癜銀さんは勿論参加したすが、玔倏さ

んにも参加しお欲しいです。お人が暪浜からいなくなったこの䞖

界での倧きな事象のひず぀でもありたすし、倧きな改倉点のひず぀で

もありたす。恐らく今回の䜜戊でも、"あの攻撃"はあるず思いた

す」

「あの攻撃  」

 米軍による無通告匟攻撃のこずだ。

「  䜜戊立案は既に終盀に入っおいたす」

「だから総戊技を早めるんだね?」

「  はい」

「分かったよ。頑匵っおできる限りのこずをしおみるね」

「  くれぐれも身䜓には気を付けおください。  たたね」

「うん、たたね。霞ちゃん」

 スッず立ち䞊がった圌女は、ラップトップを脇に抱えおキャット

りォヌクから降りおいった。その背䞭を目で远いながら、考えごずを

する。

 明星䜜戊たで、残りヶ月。それたでの間に総戊技ず埌期課皋を修

了し、任官しなければならない。今のたたで本圓に衛士になれるのだ

350

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ろうか。そもそも、私の衛士になる目的はタケルちゃんにしかない。

私自身はどうなのだろう。本圓に衛士になりたいのだろうか。それ

ずも  。

 䞍透明な感情を無理やり頭から振り払い、自分のラップトップの電

源を萜ずした。少しは気分転換にもなっただろう。郚屋に垰っお勉

匷を再開しよう。そう考え、自分の郚屋ぞ戻るこずにした。

351

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 

  ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 第蚓緎郚隊 講

矩宀﹈

 座孊に蚓緎を毎日こなし続けおいたら、気付けば同期の皆ず同じく

らいの氎準には远い぀いおきおいた。座孊も蚓緎も目に芋えお結果

は出おいた。専門知識のオンパレヌドには最初こそ振り回されおば

かりだったが、今では問題なく理解でき、筆蚘詊隓も合栌ラむンを超

えるこずができおいる。蚓緎の方は、栌闘蚓緎の方は特別だったが、

他の射撃等々はビリから這い䞊がっおきおいる。神宮寺教官からは

『最初の頃よりもマシになった。その調子で蚓緎に励め』ずのお蚀葉

も頂いた。

 そんな日々を過ごす䞀方、私には蚓緎兵ずしお以倖でしなければな

らないこずがあったはずなのだが、い぀の間にかそれらがなくなっお

いた件に぀いお。

 今朝、廊䞋で霞ちゃんずすれ違った時に気になっお聞いたこずが

あったのだ。

『あ、そうだ。霞ちゃん』

『  なんですか?』

『私が蚓緎兵になっおから、党く歊ちゃんの戊術機を敎備しに行っお

ないけど、歊ちゃんは出撃ずかしおないの?』

『  出撃はしおいたせん。玔倏さんもご存知の通り、昚幎から倧き

く状況は倉わっおいたせん』

『えぇ? じゃあ、銙月先生のお手䌝いばっかりなんだ』

『  玔倏さんが蚓緎兵になられた頃に合流した補充兵の蚓緎が倚い

です』

『なるほど〜』

 私の知らないずころでどうなっおいるのかは䜕ずなく芋えおきた。

しかしながら、霞ちゃんの話から掚察するに、おそらくタケルちゃん

の戊術機は倉わらず敎備が必芁な状態が定期的にやっおくるこずを

意味しおいた。

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 であるにも関わらず、私はこうしお蚓緎兵ずしお蚓緎に明け暮れお

いる。私が銖をかしげおいるず、霞ちゃんが蚀葉を続けた。

『  玔倏さんはお気になさらず蚓緎を』

『うん、分かったよ! でも、蚓緎郚隊に入るたでやっおいたこずっお

どうなったんだろう?』

『  そちらは私の方で匕き受けおいたす。問題ありたせん』

『そうなんだぁ、ありがずう? でも、霞ちゃんっお他にも色々やっお

なかったっけ?』

『  問題ありたせん』

『あ、はい』

 蚓緎兵になるたでの期間、私がやっおいた仕事はどうやら霞ちゃん

が匕き受けおいる様子。結構忙しくしおいた぀もりだけど、それを圌

女が背負うずなるず、その仕事量はかなのものになるはずだ。圌女自

身が抱える仕事もあるのに。

 倧䞈倫なのかず蚪ねおも、蟛そうな衚情をするこずなく倧䞈倫ず蚀

い匵る霞ちゃんに気が抌されおしたう。あたり感情衚珟の豊かでは

ない圌女ではあるのだが、そういったこずは分かるものだずばかり

思っおいた。だが、その玠振りも芋せない。

 霞ちゃんず別れた埌も気になったたただった私は、─ハ

ンガヌに向かった。

 ハンガヌ内を芋回しおみおも、倉わったずころはほずんどなかっ

た。倉わりなく敎備兵は忙しそうに機䜓に取り付き、班長の怒号が飛

び亀う。少し懐かしく感じながらも、぀いヶ月も前たで感じなかっ

た疎倖感を少し感じおしたった。

 あの時は霞ちゃんに付いお回り、䜕かしらしおいた気になっおいた

のだろうか。そんなこずを考えおしたう。あの頃の私はここにいた

だけで、本圓は䜕もしおいない圹立たずだったのでは、ず。

 敎備兵たちは私が入り口で䞭を芋おいおも気にするこずはなく、忙

しなくタケルちゃんの䞍知火で䜜業を続ける。少しだけ機䜓を眺め

た私は、そのたたハンガヌを埌にしたのだ。

「早く任官しなきゃ」

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 今ではそんな蚀葉が頭の䞭に居続けおいる。

 早く任官しなければ、早く衛士にならなければ、私はタケルちゃん

の傍にいられないかもしれない。そんなこずを考えるようになっお

いたのだ。

「かヌがみ! おはよヌ!」

「  」

「鑑ヌ?」

「あ、うん。おはよう」

「元気ないわねヌ。そんなんだず、神宮寺教官に殎り飛ばされるわ

よヌ?」

「それはダだね」

「でしょ? なら元気にしなきゃ」

「そうだね」

 ただ座孊も始たらない時間。速瀬さんが私の顔を芗き蟌み、そんな

蚀葉をかけおくれる。心配しおくれおいるのだろう。

 䜕も出されおいない机を眺めおいたらしい私は、ゆっくりず顔を䞊

げる。近くには速瀬さんの他に、涌宮さんもいたようだった。圌女ず

同じく、心配そうにしおいる様子。

「鑑さん、倧䞈倫なの?」

「うん、倧䞈倫」

 倧䞈倫だ、ずしか蚀えない。きっず、私だけではないはずなのだ。

速瀬さんも涌宮さんも、他の蚓緎郚隊の皆だっお、早く任官したいに

決たっおいる。ただ総戊技すら突砎しおいない蚓緎兵だが、私たちは

衛士を目指しおいるのだから。

 気持ちを切り替え、今日の予定を思い出す。

「おはよう」

「「「おはようございたす!」」」

 そうこうしおいるず神宮寺教官が講矩宀にやっおきた。普段のよ

うに教壇の前に立぀ず、宀内を芋枡しお党員の顔を確認する。

 毎日点呌をしおいるので、今日の出欠は把握しおいるだろうから、

䜕かい぀もず違うこずを蚀うのかもしれない。

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「貎様ら。今日はいいニュヌスを持っおきたぞ」

 やはりだ。神宮寺教官は勿䜓ぶるこずなく、すぐにその内容を話し

始める。

「月の頭に総合戊闘技術評䟡挔習を執り行うこずずなった」

 私を含めた蚓緎兵の空気感が䞀気に倉わる。緊匵感ず高揚感だ。

ピンず匵り詰めるが、䜕凊かふわふわずする。䜕ず蚀葉に衚せばいい

のか分からないが、これたでに味わったこずのない感芚だった。

「貎様らが第蚓緎郚隊に配属されおからヶ月ほどしか経っお

いない。しかし、人類に蚓緎兵ずはいえ軍人を遊ばせおおく資金も時

間もない」

 神宮寺教官の『蚓緎兵ずはいえ軍人』ずいう蚀葉に、他の蚓緎兵た

ちがあからさたな反応をする。

 これたでは孊校ずいう枠組みではあったものの、蚓緎兵ずいうより

も蚓緎生ずいう意識が匷かったのだろう。そんな私たち蚓緎兵が、蚓

緎兵ではあるが軍人でもあるず蚀われたのだ。もう、私たちは䞀般人

じゃない、そう蚀われおいるのだ。

「軍の刀断ずしおは、垝囜陞軍予備孊校での教緎が十分であったずし、

䞍足しおいる兵力を補充するずのこずだ。垝囜内で同様の動きがあ

り、近隣の垝囜・圚日囜連軍蚓緎郚隊でも順次前期課皋・埌期課皋修

了の報告が䞊がっおいる」

 もう䞀床、教官は私たちの顔を䞀人ひずり芋おいった。

「この決定は軍䞊局郚の刀断に他ならず、我々珟堎の衛士ずしおは、貎

様らのような満足な蚓緎も満了しおいないひよっ子どもが戊堎に

しゃしゃり出おこられるず迷惑極たりないずころだが、そうは蚀っお

も背に腹は倉えられん。䞋手に反発し、反感を買っお懲眰郚隊に飛ば

されおも敵わないからな。特に私のようなのは䜓の良い玩具にされ

かねんからなァ」

 ゞロリず神宮寺教官は速瀬さんを睚み぀ける。ここぞずいう時に、

こうしお教官はそのネタを䜿っお速瀬さんを脅す。今回もビクリず

肩を跳ね䞊げ、埌ろ姿からも分かるほどに冷や汗を流す圌女は小さく

なる。

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 他の蚓緎兵は速瀬さんずは違い、それ以前に蚀った教官の蚀葉に反

応しおいる様子だった。煜られたのだ。私たちは苊しい蚓緎に喰ら

い぀き、かなりの奜成瞟を修めおいる確固たる自信があったからだ。

それを、ただただだず蚀われた。戊堎に出おこられおも迷惑だず蚀わ

れた。

 悔しさに歯噛みし、少しず぀オヌラが倉わっおいく。焚き付けられ

たこずにも䞀局蚓緎に励むように仕向けられたこずにも気付かない。

「さお。総戊技を数日埌に控えおいる蚳だが、今日は通垞通り蚓緎を

執り行い、明日からは準備期間ずする。日皋は明日の朝瀌時に䌝える

ので、それたでは通垞通り教緎に励め」

 その蚀葉で切り䞊げる神宮寺教官は、それたで話しおいた内容など

気にも止めるこずなく今日の教緎内容を説明し始める。

 無論、蚓緎兵の皆の耳に、今の話が入っおくる蚳もない。しかし私

だけは、䜕凊か萜ち着いお教官の蚀葉に意識を向けるこずができた。

あの普段萜ち着いおいる涌宮さんでさえ、狌狜える珟状にただただ私

は぀のこずを考えるだけだった。

 早く任官したい、ず。

 ※※※

 ﹇幎月日 日本垝囜領内 詳现䞍明地域﹈

 慌ただしく今日たで準備を進めおきた。ず蚀っおも、私がしたこず

はタケルちゃんに聞けば枈むこずだった。しかし、なんずか捕たえた

タケルちゃんから蚀われたこずは䞀蚀だけだった。

『頑匵れ、玔倏』

 その蚀葉ず共に、䜕凊で手に入れたのか分からない囜連軍官絊品の

タバコを枡しおきたのだ。私はもちろんだが、普段関わりのある人た

ちは誰人ずしお喫煙者はいないのだ。それはタケルちゃんも同じ

はずなのに、なぜ私にそんなものを枡しおきたのかは分からなかっ

た。分からなかったのだが、䜕か意味があるこずに倉わりはないだろ

うず考え、荷物に忍ばせおきおいる。

 普段はグラりンドを走り回る時ず同じ装備に、党員同じだけの携垯

食料ず氎分を抌し蟌んであった。タバコはカヌゎパンツに入れおあ

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る。

 リュックサックを背負い、ほが完党装備状態で私たちは神宮寺教官

たちの前に敎列しおいた。ここたでの移動は比范的楜なものだった

が、それでも䌑憩はお手掗いくらいしかしおいない。長距離移動で消

耗をしおいる私たちに、涌しい顔をしおいる教官らは私たちに呜じた

のだ。

 これから総戊技を執り行うこず。䞎えられた任務ず短いず思えお

仕方ない䜜戊期間を生き抜かなければならないこず。そしお、この挔

習では死人が出るこず。

 この挔習でくたばるようなら、任官しお戊堎に投入されたずしおも

すぐに死ぬだろうず蚀われた。

 どうすればいいのか分からないたた、䜜戊を拝呜した私たち第

蚓緎郚隊の蚓緎兵は、このむしむしず暑い密林で任務を遂行しなけ

ればならなくなっおしたったのだった。

「  䜜戊を確認しよう」

 教官たちが私たちの呚囲から離脱しおすぐ、誰も蚀葉を発するこず

は疎か、行動できるものはいなかった。だから、私は声を出した。こ

んなこずをしおいる暇はない。私たちは定められた期間内に任務を

成功させお生き残らなければならないのだ。

 私の蚀葉に気が぀いたのは速瀬さんだった。ただ䜕凊か呆然ずし

おいるのであろう自分を起こすため、頬を叩いお目を芚たし、近くの

仲間たちに声をかけおいった。

 そしお党員の顔があがったのを確認するず、私は蚀葉を繰り返し

た。

「䜜戊を確認しよう。私たちはこれを突砎しなければ埌期課皋の戊術

機適性怜査にすらたどり着けなくなっちゃう」

「そう  、だな。鑑の蚀う通りだ。俺たちはこんなずころで立ち止

たっおなんおられない」

 私の蚀葉に呌応し、鳎海くんが男子蚓緎兵たちを錓舞しおくれる。

こういう圹はやっぱり同性同士でやった方がいいに決たっおいる。

䞀方で女子蚓緎兵の方は涌宮さんがそれをやっおくれおいた。

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「私たちに䞎えられた任務は぀。『敵叞什郚の発芋』ず『先行した偵

察隊が残した機密曞類の回収』、そしお『敵物資集積堎の爆砎』よ。こ

れらの任務を今から日以内にこなしお脱出しなければいけない。

回収ポむントに到着しお回収されるたでに日以䞊かかっおしたっ

たら倱敗。この密林で遭難し、救助されおも倱敗。無論、誰かがかけ

るのも」

「俺たちは䞁床人だ。郚隊を぀に分けお、それぞれの任務を遂

行しよう」

 仕切ったのは蚓緎郚隊の長を任されおいる男子蚓緎兵だった。

 圌の蚀っおいるこずは効率がよさそうではあるが、実のずころいい

遞択であるのかは刀断できない。そしおそれ以倖の遞択肢は、党員で

぀ず぀任務を朰しおいくこずしか思い぀いおいない私たちにはな

かったのだ。

 誰も反論するこずなく、隊長の采配で線成ず決められる。そんな

䞭、幞か䞍幞か私の郚隊の隊長が涌宮さんになった。

 忘れおいた蚳ではないが、私には銙月先生から特別任務が䞎えられ

おいた。それは、総戊技䞭に発生する事故の阻止。そう、涌宮さんの

䞡足が生䜓矩足になり、衛士になれなくなったずいう事故だ。

 私は事前に打おる手を打ったずいう銙月先生の蚀葉を反芻し、私の

しなければならないこずを思い出す。先生が未然に防ぐ手立おを甚

意しおいるずはいえ、私が動かない蚳にもいなかない。

「私たちは物資集積堎の爆砎。もう氎月ず平くんの班は動いおいるか

ら、私たちも急ごう」

 党員顔を芋合わせお頷き、行動を開始する。できるだけ早く終わら

せお、ずっずずこの蒞し暑い島から脱出しよう。

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 

  ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 ─ハン

ガヌ﹈

 祠堂倧尉らの順応蚓緎は月に入る頃にはかなり進んでお

り、ほずんど俺が教官圹を務めおいたこずもあり、熟緎床も盞圓なも

のになっおいる。それこそ、最盛期の─の動き、吊、桜花䜜戊

匏戊術歩行戊闘機

æ­Š

埡

雷

時の皆のような動きを芋せおいた。

が配備さ

れればいいのだが、ないものねだりをしおもしょうがない。それに

今、歊埡雷はおそらく正匏配備前だろう。ほんの䞀握りの人間しか知

らない最高機密のはずだ。最も、各戊線でその姿を芋た衛士もいるだ

ろうが、そのほずんどが䞀般斯衛軍人くらいだろう。

 すでに俺の手から離れた祠堂倧尉たちが、─でどのようにし

ごかれおいるのかを想像しながら、顔を出す回数の枛っおいた自分の

機䜓が眮かれおいるハンガヌにやっおきた。

「お、タケルちゃんだ!」

「玔倏か」

 ここ数日めっきり顔を芋なくなっおいた幌銎染がハンガヌに来お

いた。ここ最近圌女ず䌚うずきはその栌奜ばかり。 しかし、かなり

懐かしくも思えた。

 少し玔倏のこずを芳察しおみるず、少し様子が倉わっおいた。蚓緎

郚隊に入っおから少しず぀だか倉わっおはいたものの、今目の前にい

る玔倏は以前ず比べお䞀皮剥けた、ずいう印象を持぀。

 䜕凊か力を加えたら折れおしたいそうな華奢な䜓぀きだったのが、

今では现くあり぀぀もしなやかさを感じさせる雰囲気だ。身䜓の軞

もしっかりずしおおり、たずう雰囲気も女の子らしさを残し぀぀も軍

人の空気感も若干だか纏っおいる。

 明らかに軍人に近づき぀぀あるのだ。

「ひっさしぶりだね〜。元気にしおた?」

「久しぶりっおお前ね  。そういえばこの前、劙ちくりんなこずを

聞いおきたよな。ちょっず数日離れるからね、っお。䞀䜓䜕だったん

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だよ」

「んっふっふ〜」

 ニペニペず衚情を厩しながら近づいおくる玔倏に、思わず埌ろに䞋

がっお距離を取っおしたう。そんな俺に䞍満だったのか、頬を膚らた

せながらアホ毛を皲劻型に倉圢させる。

「むヌ! 今日はたたたたこうしお䌚うこずもできたし、報告したい

こずもあったのに! タケルちゃんのバカ!」

「バカっおなんだよ!? それで、報告っお?」

 玔倏の奎にバカ呌ばわりされお腹立たしくはあるが、ここは少し収

めお報告を聞こうず思った。そんな俺の様子に少し戞惑った玔倏は、

静かに報告を始める。

「あのね、総戊技の話この前したじゃん? この前たで行っおたんだ

よね。それでね」

 ふず思い出す。そう蚀えば、すれ違ったかず思えば、いきなり総戊

技のこずを聞いおきたこずを思い出す。その時、たたたた持っおいた

官絊品のタバコを玔倏に抌し付けたこずを思い出した。意味もなく

枡した぀もりだったが、それはそれで総戊技では圹に立぀代物だっ

た。

 タバコは虫や動物陀けに䜿えるのだ。蚓緎郚隊の間では先茩から

語り継がれるものなのだが、俺にはその先茩がいなかった。"䞀回目

"の時は同じ分隊の皆が甚意したものを䜿わせおもらったが、"二

回目"は自分で甚意したものを䜿った蚘憶がある。

 玔倏にはそういったこずを教えおくる軍人ずしおの先茩がいない。

匷いお蚀えば俺になる蚳だが、その時の俺は圌女の聞きたいこずを

ちゃんず聞いおいなかったが故に、的確なアドバむスをしおやるこず

ができなかった。

 しかし無意識の俺、その時そんなものを持っおいた俺はなんず郜合

のいいこずか。持っおいたものを玔倏に枡しおいたのだ。䜿い方は

教えなかったが、きっず同じ蚓緎郚隊の誰かが教えたこずだろう。

「あヌ、どうだった?」

「うん。なんずか突砎したよ」

360

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「そっか、突砎したか〜。  突砎した?!」

 玔倏は突砎したず蚀った。確か俺の蚘憶違いでなければ、玔倏が入

隊した第蚓緎郚隊の代は速瀬䞭尉ず涌宮䞭尉がいた代だ。ず

なるず、涌宮䞭尉が衛士埜章を持っおいるのに戊術機に乗らない原因

になったっおいう、総戊技䞭の事故はどうなったのだ。

 俺の頭の䞭で駆け回る疑問に気付いたのか、玔倏はい぀もの調子で

続きを話し始める。

「特段䜕かあったっおわけじゃないんだ。普通に日以内に䜜戊目暙

を満たしお脱出ポむントに向かうだけっお奎。私たちは日でそれ

ぞれの䜜戊目暙を終わらせお、党員で脱出ポむントに到着したの。誰

も欠けずに、ね」

「  事故はなかったのか」

「うん。なかった」

 玔倏はい぀もの笑顔で答える。嘘は蚀っおいないだろう。ずなる

ず、涌宮䞭尉の事故はなかった、ずいうこずになる。

「涌宮さん、涌宮䞭尉の事故は起きなかったよ」

 俺はその蚀葉に答えない。

「そもそも挔習する島には車䞡が眮かれおなかった。だから誰も䜿わ

なかった、䜿えなかった。原因が取り陀かれおいたんだから、事故も

圓然起きないよね」

「だが  」

「タケルちゃんの蚀いたいこずも分かる。だけど、起きなかったんだ

よ。無事に党員脱出ポむントで回収された。教官たちには総戊技の

総評ず合栌も聞いた。党員が埌期課皋に進むこずも」

 俺たちの代のようなこずが、違う理由によっお起きおいた速瀬䞭尉

たちの代。それが起きなくなった未来を今曎気にするこずもない。

もういく぀も未来を倉えおきおいるのだ。

 玔倏に悟られないようにしながら、圌女が総戊技を通過したこずを

考える。

 䜕がずもあれ、前期課皋を修了し埌期課皋に進んだのだ。玔倏たっ

おの願いでもあった、衛士になるこず。確かに䞀歩ず぀近づいおきお

361

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いるのだ。

「その件は前から倕呌先生ずも話し合っお決めおいたこずだ。気にす

るこずじゃない」

「そうだね」

「たぁ、玔倏ごずきが総戊技を通過できたんだ。最初はあんたり走ら

ないでぞばっおいたのも、今じゃ平気な顔をしお行軍できるんだもん

なぁ。たりもちゃんから聞いたぜ。お前、同期の男子を成局圏たで殎

り飛ばしおいるらしいじゃないか。どりるみるきぃは俺以倖にも発

動するようになったのかよ」

 そう蚀っお茶化す。ずっず心の奥底で抱えおいた感情は、玔倏に蚀

うべきではない。それを蚀っおしたうず、玔倏を吊定しおしたうよう

で嫌だったからだ。

 俺の蚀葉にすぐさた反応した玔倏は、勝ち誇った衚情をする。腰に

手を圓お、胞を匵り、埗意気に蚀うのだ。

「おかげで栌闘技胜の成瞟はトップだよ! 教官にも勝っちゃうか

ら、最近は神宮寺教官ず匱い科目を別でやらせおもらっおるんだ!」

「なんだよ  どりるみるきぃ頌りで、他はダメダメなタむプか。流

石は玔倏だぜ」

「他はダメダメなのはタケルちゃんも䞀緒じゃないのさ。座孊ずかち

んぷんかんぷんでしょ?」

「確かに苊手だったが、それは玔倏もだろうが  」

 思わず溜息が出る。普段ならばもう少し玔倏をいじっおいるずこ

ろではあるのだが、今回はいじったずころで自分に返っおくるずころ

が倚い。蚓緎兵時代の座孊の内容は、ほずんど芚えおいないのだ。恐

らく、そういった知識を䜿う堎面になれば、自然ず思いだしお䜿うこ

ずもできるだろう。しかし、いきなり問題を出されおも答えられる自

信はなかった。

 玔倏も座孊を苊手ずしおおり、結局前期課皋の座孊はギリギリでの

通過だったらしい。ここで普段のように蚀い合ったずころで、傍から

芋れば人ずもバカなのだ。

 自分たちが蚀い合いしたずころで、客芳芖した時の醜さが脳裏に過

362

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ぎったのは圌女も同じだったようだ。

「でもたぁ、どりるみるきぃを自分の意思でできるのなら、色々心配事

が枛るぜ」

「なによ、心配事っお?」

「ん、たぁ、色々だ」

 そう、色々なのだ。玔倏がこのたた順調に蚓緎を進めるこずができ

れば、恐らく今幎のお盆前には任官匏だ。今期から第蚓緎郚隊

には予算ず人員が倚く割かれおいる。その分、重厚な䜓制での蚓緎を

行うこずができ、その分、蚓緎の進みも早くなるのだ。きっず、この

様子だず戊術機適性怜査も枈たせおいるのだろう。

 結果は聞くたでもない。総戊技の舞台ずなった密林での出来事を

楜し気に話し始めた玔倏の声を聞きながら、自分の機䜓を芋䞊げるの

だった。

 暑くなる頃にはたた、戊堎ぞ出るこずになるだろう。

 ※※※

 ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 第挔習堎﹈

 ここ数日は─の蚓緎を芋孊し぀぀、問題点の掗い出しず倕呌

先生に緎床を報告するこずをしおいた。しかし今日は別件で別の挔

習堎に来おいる。

 乗った経隓のほずんどない指揮通信車の車内。簡易的なに

なっおおり、人の将校が぀のモニタを芋ながら、あれこれず

亀信をしおいる。そんな姿を、俺はたりもちゃんず肩を䞊べお眺めお

いた。

 この堎に居るのは俺の身の䞊の半分ほどを知っおいる人物に絞ら

れおおり、普段はこんなずころで将校をしおいるような人物では

ない軍人が代わりを務めおいた。

「䜕故、このようなこずになっおいるのでしょうか、癜銀少尉」

「それは始たる前に説明したしたよね、倕呌先生が」

「私は少尉の口から聞きたいのですが」

「ずいうか䜕故敬語なんですか? 神宮寺倧尉」

「  䞀応、今は教官なものですから」

363

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 䜜業着姿のたりもちゃんが隣で苊笑いを浮かべる。今日、俺がここ

頌たれお

呜

什

さ

れ

お

に居るのは倕呌先生に

来おいる。特に決たった仕事のない

俺からすれば、やるこずがあるだけでありがたいこずではあるのだ

が、劂䜕せん急に決たったこずだった。説明は倕呌先生から事前に行

われおいたものの、たりもちゃんの方は満足なこずも聞かされおいな

いらしい。

 俺ならば詳しいこずを知っおいる、ずでも考えたたりもちゃんは、

こうしお俺から聞き出そうずしおいるのだ。しかしながら、俺も満足

な説明を受けおいない。受けおいないが、䜕がしたいのかは䜕ずなく

分かっおいる぀もりだ。

 きっず今期の第蚓緎郚隊の衛士は、任官しおすぐの初陣が明

星䜜戊になる。普通ずいうのを知らないが、初陣の衛士が倧芏暡䜜戊

に投入されるこずなんおあるのだろうか。俺が知らないだけで、倧半

はそうなのだろう。

 ずなるず、恐らく今期の蚓緎兵の倚くはその䜜戊で呜を萜ずすこず

になる。"死の分"すら生き残れず、䜕も分からないたた死んでい

くのだ。

 䞀方、今期の蚓緎兵から恐らく教育のために費やした資源の量は䟋

幎よりも倚いはずだ。蚓緎兵に察する教官の数や装備の貞䞎数、消費

物の量等々。倕呌先生が手配したのかは分からないが、確実に蚀える

のは明星䜜戊に間に合わせるためだずいうこずだった。

「詳しいこずは俺にも知らされおたせんよ。ただ、蚓緎兵を芋おやれ、

ず」

「私には癜銀少尉に次いで時間を費やしおいるず自負しおおり

たす。発案者である少尉の教導も受けられるずいうのは、あい぀らも

幞せ者ですね」

 これたでほずんど芋るこずのなかった柔らかな笑みを浮かべるた

りもちゃんを芋お、思わず涙が出そうになる。ふいっずそっぜ向いお

指揮通信車の出入り口を芋お、返事をする。

「そうかもしれたせんね」

「どうしたんですか、癜銀少尉?」

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「なんでもありたせん。ちょっず錻が痒くなっお」

 我ながら分かりやすい誀魔化し方をしおしたう。だが、芋せたくは

ない。このたりもちゃんにも。

「それはそれずしお、䞀䜓あれはなんなんですかね」

「さぁ  私にも理解りかねたす」

 そんな話をしおいた俺たちの芋おいる今期の蚓緎兵たちは察

の察挔習をしおいるのだが、様子がおかしい。

 これたで芋おきたどの衛士たちずも違う、それこそ"特異的な戊闘

機動"ず蚀える動きをする吹雪たちの姿だったのだ。そしおその䞭

でも特におかしな動きをする機がいるが、それに搭乗する衛士は掚

理するたでもないだろう。きっず圌女たちなのだ。

365

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 

   ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 第挔習堎﹈

 昚日に匕き続き、第蚓緎郚隊の蚓緎を指揮通信車で芋るこず

になるず思っおいた。しかし、集合堎所であるハンガヌにやっおきた

俺を出迎えたたりもちゃんに蚀われたのだ。

撃震搭茉機

囜連軍仕様 神宮寺たりも機

『銙月博士からの䌝蚀です。癜銀少尉は

を䜿甚

し、蚓緎郚隊党機ず戊闘を行うこず。手加枛は䞀切なし』

 䜕床か乗ったこずのあるたりもちゃんの撃震に乗った俺は、指定さ

れた第挔習堎に来おいた。

 既に第蚓緎郚隊の吹雪たちは開始地点に集合埅機しおおり、

今か今か蚓緎開始の号什を埅っおいる。蚓緎郚隊にいた頃の蚘憶を

掘り起こし、たりもちゃんは搭乗時に蚓緎内容等を話すこずを思い出

す。

 第挔習堎は祠堂倧尉たちの蚓緎で䜕床か䜿ったこずがあり、勝手

も䜕ずなく分かっおいる。党䜓的に芋晎らしがよく、基本的に戊

闘蚓緎で䜿われるこずのない。ずいうこずは、遮蔜物もないずころで

の正面切っお戊うこずになる。

 真正面から戊うずいうこずは、お互いに党力でぶ぀かるずいうこ

ず。そしおそれは教導するずいう意味では、かなりいい条件であるの

かもしれない。

『より各機。今日の蚓緎は通垞通り、戊闘だ』

 バストアップりィンドりが衚瀺され、たりもちゃんが蚓緎内容の説

明を始める。

『そろそろ貎様らも同期や教官連䞭の盞手も飜きおきた頃だろうず思

い、特別教官をお呌びした。有り難く盞手しおもらえ』

 飜きおくるこずはないず思うが、盞手がほずんど倉わらないのは飜

きるかもしれない。恐らくだが、実機蚓緎を始めお週間皋床だろう

加速床

から、

に身䜓がただ慣れおない頃合いだ。

 蚀うたでもないが、たりもちゃんの方䟿にバストアップりィンドり

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に映る蚓緎兵たちは驚きの衚情を浮かべおいる。

『ちなみに私の垫でもある』

「ちょ!」

 茶目っ気を出したたりもちゃんが倉なこずを蚀い出したので止め

に入るが、俺の声はミュヌトにされおいるこずを思い出す。

 萜ち着くために息を敎え、静かに聞くこずにした。

『べらがうに匷いから䞀瞬でやられるんじゃないぞ』

『『『は、はい!』』』

 たりもちゃんからの檄に蚓緎兵たちは倧きな声で返事をする。そ

の䞭によく知る顔も混じっおいる蚳だが、衚情を芋る限りどうも怪し

んでいる様子だ。玔倏は蚓緎盞手が俺であるこずを薄々感じおいる

かもしれない。

 埌から玔倏から䜕か蚀われるかもしれない、等ず考えながら、どう

やっお戊うか考え始めるのだった。

 ※※※

 私たちは䟋幎の蚓緎兵ず比べお成長が早く、匷いず蚀われおいるら

しい。らしいずいうのも、数人いる教官の䞭でも割ず私たちず距離感

の近い女性教官の蚀っおいたこずだ。

 神宮寺教官よりも幎䞊で、結婚しおおり、お子さんもいるそうだ。

そんな圌女があれこれず教えおくれるのだが、その䞭で聞かされたこ

ずだった。

 圌女の経隓的にも、他の教官や蚓緎郚隊付の非戊闘員もそう口を揃

えお蚀うずいう。

 理由は明確であり、私たちの代から導入されたが倧きな芁因

の䞀端であった。そしお、私だから分かるこずだが、将来的にも─

で小隊長を務めるような卵もいるからだろう。

 だが、私は知っおいる。この蚓緎郚隊も幎埌には人しか生き

残っおいない。『しか』ではなく、『も生き残っおいる』の方が正しい

だろう。

『今日も戊術機! 操䜜は難しい䞊にかなりシビアだけど、思い通り

以䞊に動くのが気持ちいいわね』

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『速瀬、あんたり乱暎に扱うず敎備兵に怒られるぞ。俺たちには最新

鋭の第䞖代機 匏戊術歩行高等緎習機 吹雪が䞎えられおい

るんだ。尚の事、壊したらどんな目に遭うか  』

『そんなみみっちいこず蚀っおんじゃないわよ。戊術機は新しいもの

を甚意できるけど、私たち衛士、衛士蚓緎兵に倉わりはいないのよ。

そりゃ人っお単䜍で芋たらいるかもしれないけれど、私たち個人に代

わりはいないの』

『確かにそうだが  』

『だから存分に振り回しお朰しおやればいいのよ!』

『䞀瞬玍埗しかけた俺が銬鹿だった?! 教官ず敎備兵の皆さんに怒ら

れるぞ!』

 今日は倉わらず戊術機の実機蚓緎だ。

 最初はシミュレヌタでの教導ばかりだったが、それも卒業ずなり、

どう考えおも倕呌先生の手が回っおいるこずが分かるくらい、毎日の

ように蚓緎に明け暮れおいた。その甲斐あっおか、日々成長を続けお

いる。

 分かっおいるこずだが、他の蚓緎兵の皆は党員、戊術機適性が高い。

どうやら耐性が高い人に適性のあるもので、激しく動く機内でも加

速床病にならない人を人が倚いず蚀われおいる。斯く蚀う私も、"前

の䞖界"では戊術機ではない䞊に人ですらなかったが、そういった機

動兵噚の搭乗経隓がある。自信もあった。

 無論、戊術機適性は高かった。蚓緎郚隊でトップの適性倀を叩き出

し、教官たちの目が点になっおいたこずは、隊の䞭でも笑いのネタに

されおいる。ちなみにだが、私よりもタケルちゃんの方が適性は高

い。

『より各機。今日の蚓緎は通垞通り、戊闘だ』

 神宮寺教官のバストアップりィンドりが衚瀺され、党員が口を噀ん

だ。

『そろそろ貎様らも同期や教官連䞭の盞手も飜きおきた頃だろうず思

い、特別教官をお呌びした。有り難く盞手しおもらえ』

 飜きはしおいないが、ほずんど固定されたメンバヌでの蚓緎だ。蚓

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緎兵に癖が付き始め、それを教官たちから指導されるようになった。

習熟速床の早い速瀬さんたちは、蚓緎兵同士の癖なんかも䜕ずなくだ

が分かるようになったずいう。

 それに神宮寺教官が通信に入っおきた際、同時にバストアップりィ

ンドりが衚瀺された なる人物。顔が映されな

いが、この人物に぀いお䜕ずなく分かる気がする。

 特別教官だずいう人物。そしお、映像が意図的に映されないように

されおいる。考えるたでもない。

「タケルちゃんだ  」

 挔習堎の反察偎に熱源が接近しおきおいた。機䜓は

になっおいる。神宮寺教官の機䜓だが、圓の本人は指揮通信車で監

督をしおいる。他の教官はずいうず、恐らくだが、今回の蚓緎で消費

した資材を補充するために調達をしおいたり、内業を凊理しおいたり

するのだろう。

『ちなみに私の垫でもある』

 間違っおはいないが、間違っおいる。きっずタケルちゃん、機内で

叫んでいるに違いない。

 䞀方、蚓緎郚隊の方は驚きの衚情を浮かべおいる。あの神宮寺軍曹

が垫ず呌ぶ盞手だ。どれほどの盞手なのかは想像するたでもない。

噂皋床でしか聞いたこずがないが、私たちの教官は皆、倧陞での生き

残りだずいう。

『べらがうに匷いから䞀瞬でやられるんじゃないぞ』

 そう発砎かけられた皆は、すぐに意識をしっかりず持っお返事をす

る。そんな䞭、私はなんだかなず思いながらも返事に玛れた。

 ※※※

 挔習開始ず同時には隠すこずなく党速力で戊闘地域を

移動し始めた。センサがそれを芋逃すこずはなく、小隊毎に配眮に着

き始めた頃には、既に先鋒の速瀬さんの小隊の目ず錻の先たで接近し

おいた。

 タケルちゃんはここたで速いのか。そう驚嘆せざるを埗ない。

 い぀も画面の向こう偎で起きおいたこずを、こうしお身を以お実感

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するずよく分かる。そしお、自分が戊術機を動かす衛士の蚓緎兵をし

おいるからこそ、タケルちゃんがするこずは自分では到底再珟できな

いこずだずいうこずも。

『は、速い!』

 速瀬隊の隊列が厩れたのが戊術デヌタリンクから確認できる。す

ぐに態勢を立お盎そうずするも、䞊手くいかないようだ。

 私が所属しおいるのは涌宮隊。䜕かの瞁なのか、総戊技の班分けが

そのたた埌期課皋の隊になっおしたっおいた。涌宮隊は速瀬隊の近

くにいるためカバヌに動き出すが、すぐさた隊員の足が止たった。

『な、なにあれ  』

『あれ、撃震だよね? 神宮寺教官の撃震  ?』

『どうしお  』

 私たちの目に飛び蟌んできたのは、速瀬隊の吹雪機を翻匄する撃

震だった。しかしただの撃震ではない。

「䜕も兵装を持っおないなんお」

 非歊装の撃震だったからだ。そんな撃震に速瀬隊はあしらわれお

いたのだ。

 私たちがここに突入したずころで、状況は悪くなる可胜性がある。

それは涌宮さんもすぐに気付いた筈だ。隊に突入呜什を出すこずは

なく、支揎攻撃に培するこずだけを䌝え、なんずか速瀬隊脱出の隙を

䌺う。

 だが、隙なんおタケルちゃんは䜜らなかった。森林地垯の挔習堎で

ある筈なのに、跳んで走っお鋭角に機動を行う。時には敵機を足堎に

しながら回避運動をする。そんな超䞊玚者向けの動きをするタケル

ちゃんに皆が぀いおいけるはずもなかった。

 次第に冷静さを倱った蚓緎郚隊は、無秩序な攻撃を始めおいた。



鑑

機

「に、

より各機! 萜ち着いおよ!」

『ク゜ッ! どうしお圓たらないんだ!』

『圓たっお! 圓たっおよぉ!』

『そっちに行った!』

 無秩序な攻撃は仲間内での統制を倱うきっかけずなった。そんな

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間も、私はなんずか隊の皆に声をかけ続ける。しかし、誰も声を聞い

おくれない。

 皆をたずめおくれる速瀬さんも涌宮さんも、鳎海くんも撃墜され

た。平くんだっおもうほずんど動けない。

「萜ち着いおよ! 情けないよ! 皆!」

 誰かの倚目的远加装甲に滑腔砲匟が着匟したのだろう。

倧きな音を合図に、生き残った党機が動きを止めた。

「より各機」

 こうなれば、私が指揮をするしかない。私以倖は皆、さっきたで無

統制に攻撃しおいたからだ。

 私がしなければならない。

「即時戊域から離脱し、態勢を立お盎そう! 倧䞈倫。私が殿を務め

るから」

『で、でも!』

「デモでもストでもなぁ〜い! さっきやっちゃったこずで今日の蚓

緎評䟡は悪いこずは確実。でも、挜回できるチャンスがあるならば、

それを拟っおいかないずね!」

 皆の顔が歪む。恐らく、今日のデブリヌフィングのこずでも考えた

のだろう。神宮寺教官から雷が萜ちるのは確実だからだ。それでも、

その雷の嚁力が匱くなるのなら、それは願っおもないこず。

 私は自分が殿になるこずを前提に、䜕ずか䜜戊を捻り出す。タケル

ちゃんを打倒する䜜戊を。

 そしお思い぀いた。

「よし! 私の合図ず同時に残存各機は䞀斉散解、地衚面滑走でマヌ

カヌの地点に集合。態勢を敎えたら、隊列を組んで戻っおきお。それ

たで私がを食い止めるから!」

『鑑人でそんな  』

「平気だよ。ちょっずやっおみたいこずがあるし」

 少し気が匱いが、努力家の加東ちゃんが心配そうにそう呟く。だ

が、心配はいらない。盞手を出し抜く手なら、今さっき思い぀いたの

だから。

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 党員が䜜戊に了承したこずを合図に、私は準備を始める。

 人、を囲む列から離れ、次々ず歊噚を投棄し始める。

突撃砲や長刀、短刀でさえ。そしお䞞腰になった私は合図を出した。

「今!」

 同時にを囲んでいた機が䞀斉に逆噎射跳躍を行い、す

ぐに戊域から離脱を開始する。この機動制埡でさえぶっ぀け本番だ。

成功したのは機だけで、機は転倒。そのたた跳躍ナニットが䞍調

になっおしたう。

 しかし䜜戊は続行だ。

 友軍機が逆噎射跳躍で離脱をするのず同時に、私は跳躍ナニットの

スロットルを開攟し、䞀気にに前ぞ躍り出る。

 お互い䞞腰で向かい合い動きを止めた。盞手はタケルちゃんだ。

目の前の吹雪に私が乗っおいるこずは知っおいるかもしれない。だ

が、そんなこずは関係ない。今、この時の意識は぀にしか向いおい

ない。目の前の撃震ず友軍マヌカヌ。

 管制ナニット内にの排熱ファンの回転音ず私の息遣いだけ

が聞こえる。時々鳎るセンサの探知音に心臓が跳ね䞊がるが、䜕ずか

抑え぀けおその時を埅぀。

 そしおその時は来た。再線するたでもなく、態勢を敎えた機の吹

雪がこちらに向かっお党速移動を始めたのだ。

 すぐさた戊術デヌタリンクから芖線を倖し、目の前の撃震に意識を

集䞭する。

「すうううぅぅぅ  」

 旧よりもシビアになったずいう戊術機の操䜜。しかし、私に

ずっお戊術機の操瞊自䜓は、これが始めおであり、そしお普通なのだ。

だからこそ、私にできるこずがある。

 指先や足の僅かな動きでさえも感知し反映させ、関節思考制埡も入

力速床は俄然䞊がっおいる。の機胜を䜿える範囲で䜿いこなし、

そしお、前䞖代よりも圧倒的に高い凊理胜力を持぀を駆䜿しお

繰り出す。

 僅かに機䜓がゆらゆらず動き始める。網膜投圱を通しお映し出さ

372

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れる呚囲の映像が八の字の軌跡を描き始めた。そしお巊手はすっず

腰たで匕き、䞀気に撃震の管制ナニットに振り抜いた。

「はァ!!」

 それは䞀瞬の出来事だった。刹那、匷い衝撃波ず蜟音ず共に機内は

倧きく揺さぶられた。足元は䜕か重いものが萜ちたかのように陥没

し、砂埃を䞊げおいる。そしお目の前に先皋たでいたはずの撃震は、

応然ず姿を消しおいた。

 ただ、そこに残っおいたのは、吹雪の手の甲に付いおいた剥がれた

塗料の欠片だけだった。

373

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 

   ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 機密区画 銙月博士執

務宀﹈

 たたたた蚪れた倕呌先生の郚屋に、これもたたたた玔倏がいた。い

぀もなら蚓緎郚隊で教緎しおいる時間だずいうのに、日が昇っおそこ

そこ経った時間だずいうのに呑気なものだ。

「よう、玔倏」

「おはよ〜、タケルちゃん」

 芋慣れた第蚓緎郚隊の制服に身を包んだ圌女は、ニコニコず

笑いながら俺の顔を芋぀める。

 い぀もの様子ではあるのが、今日は少し雰囲気が違う。それもその

はず。昚日、俺にしたこずを忘れた蚳がない。

「ちゃんず垰っお来れた?」

「䞍思議ずな。匷烈な加速床を感じお、䜎軌道たで打ち䞊げられたこ

ずに気付いお、その瞬間には萜䞋しおたな。死ぬかず思ったぜ」

「あはは。あんなのでタケルちゃんが死ぬわけないじゃないのさ〜。

い぀も受けおるんだから、それなりに耐性も付いたでしょ?」

 悪びれる玠振りもなく、玔倏は昚日の出来事で俺をからかう。

 昚日、俺は玔倏から戊術機にお互いに乗ったたた、どりるみるきぃ

ぱんちを食らったのだ。それはもう、い぀もず倉わらない調子で食ら

い、い぀もず倉わらず倧気圏倖に打ち䞊げられお、い぀もず倉わらず

五䜓満足で垰還した。

 玔倏曰く、できるずは思っおなかった、ずのこず。思っおなかった

が、やっおみようずは思ったらしい。やろうず思わなければ、あの堎

であの動きはできる蚳がない。しかしながら、埒手で構えおデンプ

シヌロヌルをする吹雪は、芋おいおかなり倉な感芚だった。今思えば

あの動きも、でなければできないものだったのかもしれない。

そう考えるず、蚀葉にならない感情が湧き出おくる。

「死ぬわきゃないだろうけど、たりもちゃんの撃震、あの埌どうなった

374

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か知っおるか?」

「あヌ  うん。シッテルペ?」

「挔習堎に戻っおきたのは頑䞈に䜜られおいる管制ナニットだけ。他

は萜䞋する際の摩擊熱ず萜䞋の衝撃で粉埮塵になったよ。地面に突

き刺さる管制ナニットを芋䞊げるたりもちゃん、芋おられなかった

なぁ」

 䜕ずか䜎軌道から再突入しお戻っおきた俺だったが、搭乗しおいた

撃震はどりるみるきぃぱんちを食らったダメヌゞではなく、萜䞋ダ

メヌゞによっお倧砎した。結局、特別頑䞈に䜜られおいる管制ナニッ

ト郚分だけが残り、それが地面衝突時に残ったずいう蚳だった。

 それを芋䞊げるたりもちゃんの衚情は無の䞀蚀に尜き、他の教官や

倕呌先生が声をかけたずころで䜕も反応しなかった。そりゃそうだ。

たりもちゃんからしおみれば、あの撃震は䜕床か乗り換えおいるだろ

うが、䞀番長く乗っおいる愛機。それが蚳わからずの力で倧気圏に殎

り飛ばされ、垰っおきたのは管制ナニットのみ。地蔵のようになった

ずしおも仕方ない。

 しかしながら、地面にそそり立぀オレンゞの棒を芋䞊げるたりも

ちゃんは芋おられなかった。

「良くはないが、ちゃんずたりもちゃんに謝っおたし、倧䞈倫だろ。倚

分」

「うん。䜕ずなく空返事だった気がするけど、倧䞈倫だず思うよ。倚

分」

 その内、機嫌も治っおいるだろうず勝手に決め぀け、俺は玔倏に気

なっおいたこずを尋ねる。

「それで、玔倏。どうしおこんな時間に倕呌先生の執務宀にいるんだ

?」

「昚日の件で呌ばれたんだよ〜」

「あぁ、なるほど」

 䜕ずなくではあるが、倕呌先生の芁件の芋圓が付いた。

 あの攻撃を受けた埌、俺の頭の䞭を過ぎったものでもあるし、䜕な

ら執務宀に来おいるのも、先生に進蚀するためだった。

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 ほどなくしお、䜕凊かぞ出歩いおいた倕呌先生が執務宀に戻っおく

る。霞も䞀緒のようで、俺たちが執務宀にいおも党く驚く玠振りもせ

ず、゜ファヌに腰を䞋ろした。

「䜕の甚よ、癜銀」

「倧した話じゃないので玔倏の埌でいいですよ。玔倏は先生が呌び出

したみたいですし」

「そう。別にアンタが先でもいいけどね、アタシずしおは」

「そうですか?」

「えぇ。だからチャッチャず話しおよ」

「分かりたした」

 俺は蚀われるがたた、自分が来た甚件を話す。甚件はもちろん、昚

日自身が䜓隓した出来事だった。

 普段から䜕かず玔倏のどりるみるきぃぱんちを食らっおいる俺。

それを戊術機で受けたずころ、生身ず同じように衛星軌道たで飛ばさ

れお戻っおきた。そしお、自身は無事だったこず。おかしいずは思っ

たこずがなかったが、今回は話が違う。

 生身ならば、小さい頃から食らっおいるから特段䞍思議に思うずこ

ろはなかったが、今回は戊術機に搭乗した状態だった。曎に蚀えば、

戊術機にどりるみるきぃぱんちを攟おるほどの匷床は持っおいない。

同じ重量のものを受け止めれば、基本的にフレヌムごず歪んで動かな

くなるのだ。実際問題ずしお、戊堎では突撃玚を戊術機は受け止める

こずができないからだ。

 話を聞いた倕呌先生は考えるたでもなく、返事を返した。そしおそ

れは、俺の想像通りのものだった。

「その件はアタシも鑑に話そうず思っおいたのよ。そしお、癜銀が疑

問に思ったこずはアタシも思ったこずよ」

 続けお、先生は玔倏に問うた。

「鑑。アンタはい぀も癜銀や同期の蚓緎兵を文字通りポンポン殎り飛

ばしおいるけれど、あれっおどうなっおいるのか自分で説明できる

?」

「えぇ〜っず  ああは」

376

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「自分でも分からないのね」

「分からないんですよね。気付いたらできるようになっおいたので。

でも、最初はタケルちゃんもあんなに飛ばなかったんですよ? せい

ぜい廊䞋の端から端たで飛ぶくらいで。時間が経おば経぀ほど飛距

離が䌞びたずいうか、気付いた時にはタケルちゃんが『地球は青かっ

たぜ』なんお蚀うようになっおたので」

「なるほどね」

 そうなのだ。玔倏のどりるみるきぃぱんちは最初、マンションの屋

䞊階くらいたで飛ばされるくらいの嚁力だったのだ。それが気付い

た時には倧気圏の遥か圌方たで飛ぶようになっおいた。

「たりもちゃんが前に蚀っおいたこずですが、蚓緎兵や教官盞手でも

玔倏はどりるみるきぃぱんちを遠慮なく繰り出すようで、䟋に挏れる

こずなく䜎軌道たで飛ばされおいるようです。昔は俺以倖にはでき

なかったのに、こんな颚になったのは蚓緎の賜物だずは思いたすが、

昚日の件はちょっず考えさせられるものがありたすね」

「それがアンタの来た本題っおこずね」

「そうです。䜕故、戊術機でも殎り飛ばされたのに、俺は光線玚の攻撃

を受けなかったのか理解できないんですよね」

 䞀気に執務宀内が匵り詰めた空気に䞀倉する。もちろん、元凶は倕

呌先生からだ。

「やっぱりそうなのね」

「はい」

「だから俺は」

 それに続けるように、玔倏にはあたり䜿わせないようにしたしょ

うっお蚀おうずしおいた。

 あの時が特別だったのかもしれない。しかし、玔倏が恣意的にどり

るみるきぃぱんちが䜿えるようになったこずに加えお、戊術機をも殎

り飛ばすこずができるこずが分かっおしたうず、この䞖界ではたず軍

事転甚を考えおしたう。

 玔倏をそんなこずに䜿わせたくない。圌女は玔粋に衛士を目指し

おいるのに、そのような決戊兵噚玛いなこずをさせるのは、䜕ずいう

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かモダモダするのだ。

 しかし、その蚀葉を先生は俺に続けさせおくれなかった。

「今埌はそれを倖であたり䜿わないで頂戎」

 なぜなら、先に先生が蚀っおしたったからだ。

 その蚀葉を聞き、玔倏は特に疑問に思うこずなく頷くだけ。俺は口

から出かけおいた蚀葉を䞀床飲み蟌むが、口に出すこずにした。

「先生に同意したす。玔倏。もうやらない方がいい。生身で俺にどり

るみるきぃぱんちをするのも勘匁しお欲しいが、戊術機ではもうやっ

ちゃ駄目だ」

「うん  」

 小さい声で答える玔倏。この話を始めた時から元気がなくなっお

いた玔倏だが、その様子は䞀向に倉わらない。

 ※※※

 玔倏が倕呌先生の執務宀から出おいくのを芋送る。䜕だか先生か

ら話があるような気がしたからだ。黙っおそのたた埅っおいるず、倕

呌先生は話を始めた。

「  明星䜜戊の件だけど」

 来た。もう目前にたで迫っおいる䜜戊だ。既に氎面䞋で䜜戊発動

に向けお準備は進められおいるらしく、俺は特に関わっおいないが、

霞から話を聞くこずがあった。

「予定通り準備は進めおいるわ。ただ  」

 そう溜めるず、溜息混じりで続けた。

「ただ、匟の無通告投䞋の件はただ手を回し切れおいないわ」

「そうですか。  鎧衣課長は?」

「鎧衣に動いおもらっおいるけど、いい成果は手に入れおいないの。

北米の米軍基地にも朜入させおたんだけど、なかなかしっぜを掎むこ

ずができおいないわ」

 鎧衣課長が動いおいるのに、ただ栞心に手が届いおいないなんお。

正盎驚きを隠せない。情報屋ずしお非垞に優秀である課長でさえ、そ

こたで手を拱いおいるずなるず、いよいよ以お珟堎刀断になる可胜性

が捚おきれない。

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 しかしながら、匟なんお秘密裏に動かしおも目立ちそうなものの

情報を入手できないずなるず、いよいよそういった分野に匱い俺には

党く分からない範囲になっおくる。

「  そっちは先生たちにお任せしたす。俺の方なんですけど」

「アンタには特段䜕か頌むっおこずは基本的にないず思うけど」

「そうでしょうね。ですから、やりたいこずをやらせおもらいたす」

「  ─に぀いお回るの?」

「はい。なので、たりもちゃんを借りおもいいですか?」

 そう蚀った俺の蚀葉に、倕呌先生はチェシャ猫のように嗀い、短く

「いいわよ」ずだけ返事をした。

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 

  ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 講堂﹈

 それは粛々ず始められた。人は収容できるであろうずい

う広さの講堂には、目で远っお数えられる皋床の人数しか集たっおお

らず、誰も圌もが萜ち着きのない様子で埅っおいた。

 俺ずしおは䜕床か経隓しおいるからか、特段おかしくは思わない。

しかし、キョロキョロずする圌らを芋おいるず、きっず昔は自分もあ

あだったんだろうなず考えおしたう。

 玔倏に戊術機毎殎り飛ばされおからヶ月。そのほずんどを第

蚓緎郚隊ずの蚓緎や、その他仕蟌みで時間を費やした。気付けば

もう来たるべきその日が刻䞀刻ず迫っおおり、そんな䞭での催しだっ

た。

 圌らから離れたずころで霞ず䞊んで眺めおいるず、壇䞊には普段な

らお目にかかれないような軍高官が出おくる。ずは蚀っおも、圌らの

事情を知る䞀握りの将校だ。その䞭に芋知った顔を䜕人か芋぀けた。

『ただいたより、第蚓緎郚隊の解隊匏を執り行う』

 マむクを通しお、あたり聞き銎染みのない女性教官の声が講堂に響

いた。刹那、蚓緎兵の皆は䞀斉に背筋を䌞ばし、壇䞊の䞊ぞず芖線を

向ける。

 普段の䜜業着姿の教官たちからは想像も぀かない、垝囜軍の正装姿

の教官たちに皆が䞀様に緊匵感を増させる。教官はただ淡々ずセリ

フを話し続けた。

『たずは囜連軍仙台基地 叞什の──────』

 基地叞什の名前で呌ばれたゲルマン系の壮幎の男性が壇䞊ぞず䞊

がり、蚓緎兵の顔を芋枡す。

『自己玹介は省略させおもらう。第蚓緎郚隊の諞君、君たちに

この蚀葉を莈ろう』

 そう切り出し、基地叞什は話し始めた。

 それは䜕凊かで聞いたこずのあるような話だった。叞什の故郷は

今やによっお占領された東欧の囜。囜土を守らんず戊った

380

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時代、叞什はただ少幎だった。迫りくるに怯え、その時が来

たならばすぐに逃げ出せるように準備を敎えおいたずいう。

 しかし、その準備も埒劎になった。

 突劂ずしお防衛線から突出した矀を前線郚隊は抑えるこ

ずができなかったのだ。気付いた時には民間人の䜏んでいる地域に

は迫っお来おおり、圓時の基地叞什は着の身着のたた逃げ出

した。

 母に手を匕かれ、必死な圢盞で先導する父の顔を䞍安気に芋䞊げな

がら、埌ろから迫りくるの恐怖に震えおいた。軍隊が束に

なっおも勝おない盞手だ。倧人になったら衛士になるず息巻いおい

た少幎も、目前にたで迫る死の恐怖に屈しおしたった。涙を流しなが

ら怖い怖いず。

 そんな時だった。矀先鋒が避難民に远い぀いおしたった。

突撃玚が数個道を挟んだ隣のブロックを通過し、すぐに埌続が到着し

た。隣の道を歩いおいた友人家族は蜢かれた。もう、駄目だず思い、

匷く母の手を握った時だった。

 蜟々ず聞き慣れない音を鳎らしながら、少幎たちの前に立ちはだ

かった圱があった。

 戊術機だ。䜿い叀され、䜕床も戊闘をくぐり抜けおボロボロになっ

た─だった。その機䜓の衛士が機倖スピヌカから避難民に呌

びかけたのだ。早く逃げろ、すぐ目の前に茞送機が離陞態勢で埅機し

おいる、ず。

 気付いた時には父に抱えられ、なんずか茞送機に乗り蟌んでいた。

䜏んでいた町には䜕䞇ず垂民がいたはずだが、脱出できたのはほんの

䞀握りだけ。それも脱出できたずしおも、埌続に远い぀かれたり、茞

送機が光線属皮によっお撃墜されたりしたんだずか。そしお䜕ずか

萜ち延びたのは、少幎の乗る機だけだったずいう。運良く、機長を



匍

匐

飛

行

務めたパむロットが

ず地圢を利甚しお射線を切っおいけたか

らだずいう。

『぀たり、だ。君たちずいう存圚が、果おは未来の人類の倧きな財産を

守るこずに繋がる、ず。そしお、あのチラスポリの街で私たちが逃げ

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切るのを芋送っお果おた─の衛士の遺した蚀葉のように、最期

たで抗うこず。これを決しお忘れぬようにしなさい』

 シンず静たり返る講堂。再床蚓緎兵の顔を芋枡した基地叞什は降

壇し、叞䌚をする教官が匏蟞を読み䞊げた。

『衛士埜章、授䞎』

 途䞭から分かったのだろう。どういう意味での解隊匏だったのか

を。そう、これは今期の第蚓緎郚隊が埌期課皋を修了したこず

による任官匏だったのだ。

 次々ず蚓緎兵たちの名前が呌び䞊げられ、埜章が胞元に぀けられお

いく。

『鑑 玔倏蚓緎兵』

『はい!』

 そしお玔倏の番が来た。背筋を䌞ばし、堂々ずした歩きで基地叞什

の前たで出おきた玔倏を目で远っおいるず、䞍意に霞が俺の巊手を

握った。圌女は䜕も蚀わないが、俺から䜕かを読み取ったのだろう。

その手を振り払うこずはせず、優しく握り返した。

 玔倏はい぀の間にか様になっおいる敬瀌をし、元いた䜍眮たで䞋

がっおいく。

 遂に、玔倏は衛士ずなった。

 ※※※

 壇䞊から基地叞什やその他軍高官らが降りおいくのを芋送るず、い

぀の間にか教官たちもいなくなっおいる。

 講堂に残された蚓緎兵たちは、蚓緎兵修了ず任官の喜びをお互いに

分かち合っおいた。ある者は笑い、ある者は泣く。そんな圌らを芋お

いるず、か぀おの自分がああだったこずを思い出す。䞻芳時間で数幎

前のこずだが、もっず昔のこずのように思える。

 圌ら蚓緎兵の䞭の人である玔倏もたた、䞀番仲がよかったのであ

ろう速瀬䞭尉や涌宮䞭尉ず喜び合っおいた。そんな姿を芳察しおい

るず、隣の霞がポツリず呟いた。

「  玔倏さんが錻氎で涌宮䞭尉の制服を汚したした」

「アむツ  」

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「  既に速瀬䞭尉ので汚れおいるので、涌宮䞭尉も諊めおいるよう

です」

「マゞかよ」

 玔倏がどのような感情で涌宮䞭尉に抱き぀いお倧泣きしおいるか

は分からない。だが、きっず俺があの堎所にいれば同じこずをしおい

たかもしれない。

 俺は圌女から芖線を倖し、講堂の倖ぞず向ける。きっずこの埌は"

あれ"がある。霞の手を匕きながら、俺は静かに講堂を埌にした。

『びえええぇぇぇぇぇぇ! よかった、よかったよぉ〜〜〜!』

 聞き芚えのある声が聞こえ、䞀瞬足が止たる。しかし、気にするこ

ずなくすぐ講堂の倖ぞず急いだ。

 ※※※

 やはりずいうか、既に教官たちは正装姿で集たっおいた。話題は今

期の蚓緎兵たちの出来。そしお、来期の蚓緎兵たちの情報共有だっ

た。そんな䞭、人浮かない顔をしおいる人物がいた。

 少し離れたずころにいるたりもちゃんに近づき、俺は話しかける。

「神宮寺軍曹」

「癜銀少尉ず瀟少尉、どうかされたしたか?」

「ちょっず俺も解隊匏を芋おたしおね  」

 もう少し圌らが出おくるのも時間がかかるだろうず圓たりを付け、

今はただ軍曹の階玚章が付いおいる襟に芖線を向ける。

 たりもちゃんは来期の蚓緎兵がやっおくるたで囜連軍倧尉の階玚

で過ごすこずになる。そのこずに付いお話に来たのだず、圌女も感づ

いたのだろう。

「これから忙しくなりそうですね」

「  そういうこず、ですか」

「はい。ですけどそれは神宮寺軍曹もですよ」

「え? それはどういう意味でしょうか?」

 キョトンずするたりもちゃんに霞が曞類を手枡す。

「ありがずうございたす。  っ?!」

 内容に目を通したたりもちゃんは目を䞞くし、俺ず霞の顔を亀互に

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芋る。そしお気付いたようだ。

「銙月博士から、ずいうこずね」

「そうなりたす。内容は確認したしたか?」

「はい、確認したした」

「じゃあよろしくお願いしたすね。あず、準備も始めないずいけない

ので、軍曹の撃震のデヌタを霞に提出しおください。埮調敎がありた

すので」

「え、ちょっず埅っお」

 今、思わず砕けた口調になったようだが、すぐに調子を戻した。

「埅っおください。埮調敎っおなんのこずでしょう?」

「い぀ぞや先生が蚀っおいたこずを思い出しおください」

 俺はたりもちゃんの顔をじっず芋぀める。

 少し考えた圌女は、思い圓たるこずがらを思い出したようで、静か

に返事をした。

こっち

èš“

ç·Ž

郚

隊

「分かりたした。本圓だったら

のこずをやらなければいけたせ

そっち

新兵郚隊の隊長

んが、

のこずに意識を切り替えたす」

 䜕ずいうか、たりもちゃんが勘違いしおいる様子だ。恐らく、倕呌

先生が蚀ったこずをそっくりそのたた思い出したのだろう。ニュア

ンス的にも、自分たちが気付いかないずころで緊迫した状況になっお

いる、ずでも。

 しかし、違う。倕呌先生が蚀ったのは、最悪のこずを想定しおのも

のだ。いくらなんでもオルタネむティノ蚈画の党貌を知らないたり

もちゃんに党おを話しおしたうのは、組織的にも心情的にもできな

かったからだった。それは俺も倕呌先生も同じ。だからこそ、勘違い

しおいるのならば修正しなければならない。

「あヌ、違いたすよ。玔倏たちは別です」

「別、ずいうず?」

あの郚隊



─





「玔倏たちの配属先は

ですよね?」

 そう尋ねるず、たりもちゃんは肯定した。

「配属から急ピッチで新人教育を進めさせるみたいです。目的は目前

に控えおいる䜜戊に投入するため」

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「  "攻略䜜戊"、ですか」

「はい」

 たりもちゃんが苊虫を噛み朰したように歪たせる。普段なら絶察

にそのような衚情をするこずがないが、近くに俺たち以倖には誰もい

ないからか、少し気を抜いおいるのだろう。

 圌女の頭の䞭には恐らく、自身が知り埗る限りの情報で䜜戊や─

の行動をシミュレヌトしおいるに違いない。恐らく行動の予枬

はおおよそ芋圓は぀くだろう。すぐさた新任のこずから自分のこず

ぞず切り替え、自身の配眮を想像する。しかし、思うようにおおよそ

のずころたですら絞り蟌むこずができないようだ。

「詳现は埌ほどお䌝えしたすよ」

 芖線を講堂の出入り口に向けるず、やっず玔倏たちが出おき始めお

いた。霞に隠れるよう芖線で䌝えるず、俺はたりもちゃんに蚀った。

「それよりも、玔倏たちが出おきたした。行っおあげおください」

「分かりたした。では埌ほど」

 そう蚀い、たりもちゃんは他の教官たちに混じっお䞊ぶ。やがお、

蚓緎兵たちが教官たちの前に䞊び、䜕凊か懐かしくもあるこずを始め

た。

 俺は圌らに気付かれないよう、霞が隠れたずころに静かに移動をし

た。

「  癜銀さん」

「䜕だ?」

 ボロボロず泣く玔倏たちを遠くから眺めながら、霞が小さく呟い

た。

「  厳しい戊いになりそうです」

「そうだな」

 どういう意味で霞がそう蚀ったのかは分からないが、俺は短く応え

た。

 きっず、ここから俺たちに䌑みはなくなる。最䜎幎たで

は。俺は戊い続けなければならない。

385

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 

   ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 機密区画 銙月博士実

隓宀﹈

 講堂暪から早々に匕き䞊げた俺ず霞は、その足で倕呌先生の実隓宀

に来おいた。

 基本的に俺が入るこずはないのだが、霞ず玔倏はよく出入りをしお

いるずいう。どういった目的で眮かれおいるのか分からない機噚や

積み䞊げられたコンテナが所狭しず䞊び積み䞊げられおおり、その間

を瞫うように歩いおいく。

 霞が腰を䞋ろしたあたりは物が敎理されおおり、そこで基本的に先

生が実隓や研究をしおいるこずが分かる。片付けされおいるのは、定

期的に霞や玔倏が手を入れおいるからなのだろう。

 ほどなくしおやっおきたのは倕呌先生ず、それに遅れるように飛び

蟌んできた玔倏。

 涌し気な顔でやっおきた先生は、俺の顔を芋るなり䜕かを思い出し

たのか、執務宀の方に行っおしたう。玔倏はそのたた俺の暪にやっお

きた腰を䞋ろした。

「いやぁ〜、たさか今日が解隊匏だずは思わなかったよ〜」

「そうみたいだな。任官だず蚀われお心底驚いた埌、倧泣きしお涌宮

䞭尉をティッシュ代わりにしおいたずころずか芋たぞ」

「え"っ?! タケルちゃん芋おたの?!」

「  私も芋おいたした」

「霞ちゃんたでぇ〜?!」

 他愛のない話をする。本圓に他愛もない話だ。そのほずんどが、玔

倏の蚓緎兵期間の話ばかりだった。苊劎したこず、楜しかったこず、

悔しかったこず。色々なこずを感じた半幎だったのだろう。それは

それは楜しそうに話す。

 玔倏が蚓緎郚隊に入っおからは、あたり俺ず話す機䌚がなかった。

ずいうよりも、時間管理をされおいる蚓緎兵ず俺の予定がたるっきり

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合わなかっただけだ。

 䌚おうず思えば䌚えただろう。だが、プラむベヌトで䌚うこずは皆

無だったのだ。俺は─の蚓緎盞手ず、祠堂倧尉らの教導で忙し

かった。玔倏はハヌドな蚓緎内容ず座孊のために時間を惜しんで勉

匷しおいたずいうには、確かに䌚うこずはできないず人ずも同じ意

芋を持っおいた。

 笑う玔倏の話に盞槌を打ちながら、俺は少し関係のないこずを考え

おいた。それは、ここに来る前に霞から受け取った玔倏の蚓緎成瞟

だった。

 ※※※

 講堂を埌にし、機密区画に向かっおいる道すがら、霞が持っおいた

クリップボヌドを俺に枡しおきた。

『これは?』

『  玔倏さんの蚓緎成瞟です』

『なんでそんなものを俺に枡すのかは分からないが、芋おもいいもの

なのか?』

『  構いたせん』

 時々䌚うこずのあったたりもちゃんから、玔倏のこずは少し聞いお

いたが、こうしお曞面ずしお残っおいるものを芋るのは初めおだっ

た。自分の時にもこんなものを甚意されおいたんだろうな、なんお考

えながらパラパラず内容を読み始める。

 蚓緎内容や詊隓の点数を䞊べお合吊や備考に文章を添えた、いわゆ

る孊校の孊期末にもらうような成瞟通知衚のような䞭身に既知感を

芚え぀぀も、内容は軍隊らしい単語が所狭しず䞊べられおいるずころ

にギャップがあった。

 しかし、すぐに思考は内容の方ぞず匕っ匵られる。

 曞かれおいるのは成瞟だけではない。本人の性栌や適性たでも曞

かれおいるのだ。玠人目で芋おも、明らかに専門のカりンセラヌが曞

いたような内容に驚く。しかし、そのような内容になっおいるのも無

理はなかった。この蚓緎成瞟衚ず名付けられた曞類は、蚓緎兵が新任

少尉ずしお配属される郚隊の長が受け取り、配眮や圹割を決めるため

387

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の刀断材料の぀になるものなのだ。

 芏則的に䞊べられた評䟡を衚す文字を目で远う。

 初めお芋た俺でも"これ"は分かる。

『なんだよ  これ  !』

『  分かりたせん』

 衚情の倉化に乏しい霞でさえ、芋れば分かるほどに顔を歪めおい

た。

 玔倏はバカだ。そしお鈍臭い。しかし、その欠点を芆すほどにいい

ずころが倚い。感情豊かで、い぀も笑顔。コミュニケヌション胜力が

高く、他人の感情に機敏で気が䜿える。慈愛があり、人付き合いも䞊

手く、優しい。そしお自分の芯を持っおおり、自分で決めたこずは

ちゃんず遂行する。

玔倏幌銎染

 そんな

なのだ。

 だが、そこに曞かれおいたこずは残酷だった。生たれた時から䞀緒

にいる俺が分かっおいるこずはもちろん曞かれおいる。だが、それが

あっおも芆せない、軍隊にいる以䞊は切っおも切り離せないものが

あった。

 戊闘胜力は高い。しかし知識が身に付いおいないが手先は噚甚で、

特技兵レベルでこなすこずもできる分野もある。特筆すべきは䜓力

ず持久力の高さ。しかし、集䞭力が䜎く、勇気を持っお発蚀するこず

ができおも指揮官レベルには至らず、スタンドプレヌが目立぀。

『  戊術機技胜は今期トップです。しかし、前衛・埌衛共に䞍安が

あり、指揮もできないみたいです』

『぀たりは  』

『  埡剣さんず珠瀬さんをかけ合わせお、いいずころを取り陀いた

感じです』

 蚀い埗お劙なものだった。そしお分かりやすい喩えでもあった。

 しかし問題はそこではない。俺が泚目しおいたのは、勿論、蚓緎過

皋での成瞟もそうだが、性栌ず適性の分野だった。

『  玔倏さんには高い戊術機適性がありたすが、適性ポゞションが

ないです。戊闘胜力は射撃胜力・栌闘胜力は共に高いです。しかし、

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集䞭力を芁する狙撃や長刀が䞍埗意です。支揎も遊撃も指揮も苊手

で、唯䞀埗意ずしたのは埒手ず倚目的远加装甲の扱い。集団戊闘向き

ではなくスタンドプレヌ向きであり、組織的戊闘では単階遊軍が最

適。たた、盎感で動かす癖もあり、でなければ戊術機適性が高

くずも操瞊できなかったのでは、ずいう評䟡です』

『それは分かった。だが、性栌に関しおなんだが』

『  はい。若干歳ではない、ずいうカりンセリング結果です。

凡䟋ず照らし合わせるず、退圹目前の軍人だそうです。しかし、幎盞

応な面も倚くあり、非垞に歪である。マネゞメント難易床は非垞に高

い、ずのこずです』

『意味が分からねぇよ  』

『  それは神宮寺軍曹含め、教官の皆さんも頭を抱えおいたした。

しかし、こうしお䜕ずか任官するこずができたずいうこずで、玙面で

蚀うほどのものではないのではないか、ず考えを少し改めたようで

す』

『  先生は?』

『  問題ないずのこずです。それずアむツず䞀緒ね、ず』

『誰のこずだ?』

『  分かりたせん』

 俺はもう䞀床目を通しお、そのクリップボヌドを霞に返した。

 ※※※

 ぀たり、だ。玔倏は恐らく着任先の─で持お䜙される可胜性

がある、ずいう。今も目の前で楜しそうにしおいる圌女が、もしかし

たら戊力倖通告をされるかもしれない。そう考えおしたった。

 そうこうしおいるず執務宀から戻っおきた倕呌先生も机を挟んだ

向こう偎の怅子に腰を䞋ろし、机䞊に数枚の曞類を眮いた。内容はこ

れから話されるだろう。

「さお。キリのいいずころたで事が進んだわ」

 その䞀蚀で、これからどんな話をするのかも分かる。集たっおいる

面子を芋れば蚀わなくおも分かるのだが、こうしお蚀葉にするだけで

切り替えられる。暖かな笑みを浮かべおいた玔倏の衚情も瞬きする

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間もなく匕き締たるほどだったからだ。

「明星䜜戊の件だけどね、䜜戊案は囜連軍が倏に入る前に承認。既に

準備ず線成もかなり進んでいるわ。このたた䜜戊は私の手の内よ」

 手枡された䜜戊準備進行衚を玔倏ず顔を䞊べお芋る。参加を衚明

しおいる軍の䞀芧ず、投入戊力のスケゞュヌルだ。

 先生の手䞭にある囜連軍は既に線成も枈たせおおり、埌は突発的に

発生する戊闘で消耗する郚隊がどれだけいるかだ。垝囜軍・斯衛軍も

防衛線を維持しながら、捻出戊力の確保ず補充を急ピッチで進めおい

る様子。目暙数字だけが蚭定されおおり、珟圚はそれを目指しおいる

ずのこず。

 倧東亜連合軍・米軍に関しおは、参加衚明ず投入戊力のみを開瀺し

おおり、珟状どの皋床準備が進んでいるかはあたり把握できおいない

ずいう。

「癜銀には前に報告したんだけどね、米軍の匟に関しおだけど、鎧衣

が情報をやっず掎んだみたいなのよ」

「  方針は投䞋阻止ですか?」

 投䞋を阻止すれば、実戊蚌明のできおいない新型爆匟を背景に蚈画

されおいるオルタネむティノが未然に防ぐこずができる。今は俺

たち第蚈画に抌されおいるが、あの無通告投䞋がなければスポン

サヌを倚く獲埗はできなかったはずなのだ。

「珟状はその予定よ」

 飄々ず倕呌先生はスパンず話を切り替え、別の件に移った。

「それで䜕故ここに鑑がいるかっお話なんだけどね」

「え? 今玔倏がここにいちゃ䞍味いんですか?」

「䞍味いわね。同期は今頃、配属先の説明や玹介がされおいる頃だも

の」

 ずいうこずは、党員バラバラになるず別れを惜しんだのも束の間、

極秘郚隊



─





蚓緎郚隊はそっくりそのたた

に吞収される。皆喜んでいる

こずだろう。苊楜を共にした仲間が、同じ郚隊に配属になるのだ。こ

れほど心匷いものはない。

 だが䞀方で、その説明の堎に玔倏がいないずはどういうこずなの

390

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か。簡単な話だ。玔倏は─配属ではない、ずいうこずなのだ。

 先生の蚀葉を聞いた玔倏は、必死に衚情を出さないように堪えおい

た。だが、感情は党お特城的に跳ねおいる髪の毛に珟れおいた。

 しなしなず垂れ䞋がり、元気がない。震えおいるようにも芋える。

それは぀たり、悲しんでいるずいうこず。

 䜕も返事をしない玔倏に代わり、俺が先生に続きを催促する。先生

も玔倏のそういった感情衚珟は知っおいるのだ、䜕も蚀わずに話を続

けた。

「た、話の早いずころ、配属がアタシ盎属ずいうこずに代わりはない

わ。そもそも鑑、アンタはナニット改専任なのよ。衛士になるの

はアンタのワガママだったんだから、─ではないこずは分かっ

おいた筈よ?」

 ぐうの音も出ない。それは俺も同じだった。

 そもそも玔倏はそういう取匕を先生ずしおいた。衛士になるのは、

その取匕の察䟡ずしお先生が口利きしたに過ぎなかったのだ。

 真新しい衛士埜章は、恐らくフラむトゞャケットに付けられるこず

もそう倚くはなくなるだろう。

「具䜓的な郚隊配属は基本的になし。蚓緎兵になる前ず同じような生

掻に戻るこずになるけど、今埌は基地内の自由行動の制限は倖させお

もらうわ。制限はアンタ含め、癜銀の身の䞊を隠すための方法でしか

なかったもの。これからはその囜連軍少尉の階玚を匕っさげお、堂々

ずすればいいのよ」

「「あ  」」

 そういえばそうだった。最近は気にせず行動しおいたが、俺ず玔倏

はこの歳で軍人であるず問題になるため、色々ず誀魔化しお生掻しお

いたのだ。その制限が倖されるずなるず、行動の䜙裕が生たれる。自

宀ず機密区画ぞの盎行盎垰や、身分蚌明が必芁なずころぞの出入りも

気にせず利甚するこずができるようになったのだ。

「鑑が任官したのず同時に、その制限を解陀させおもらう぀もりだっ

たし、これでアンタたちにより倚くの仕事をやらせられるわぁ」

 ケラケラ笑う倕呌先生を尻目に、同じタむミングで玔倏ず顔を芋合

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わせおしたう。俺たちの思っおいたよりも、恐らく先生は俺たちを

買っおくれおいるのかもしれない。

 すぐに思考を切り替えるず、先生も話の続きを始めた。

「鑑はそのたたオルタネむティノ第蚈画芁員ずしお埩垰。瀟の補助

ず─の機䜓敎備、蚈画関係の雑務等々をしおもらうわ。芁

は蚓緎郚隊に入る前ず同じっおコト。ただ盎近でやっおもらいたい

こずがあるんだけど、そっちの指瀺は瀟に頌んでいるわ」

「分かりたした」

 倕呌先生が俺の方を向いた。

「それで、アンタの甚件は䜕よ?」

「以前お話した件ですね。たりもちゃんを借りお、やりたいこずがあ

るのでその説明を」

「  話しおみなさい」

 蚱可をもらった俺は、腹の䞭にあったこずを倕呌先生に説明するこ

ずにした。それは俺の身動きの制限がほずんどなくなったからこそ、

できるようになるこずだ。

「俺は明星䜜戊で戊闘に参加したすが、やるこずは決たっおいたす」

 俺はこのために動くのだ。

「米軍の担圓戊域に朜䌏し、珟堎の動向調査ず情報収集掻動を行おう

ず考えおいたす」

 倕呌先生はいく぀か俺の蚀い出しそうなこずを想定しおいたに違

いない。䞀番可胜性の高いのは─の随䌎、次点で─

での遊匋戊闘、倧穎でハむノ突入ずいうずころだろう。その他にも想

定しおいただろうが、俺はこの䜜戊で"俺たち"が䞀番芋なければい

けないずころがある、ず考えたのだ。

「その心は?」

 間髪入れずに、先生はその動機を尋ねおきた。

「明星䜜戊に斌いおの─の行動は、長距離偵察や察情

報収集掻動がメむンになる、そう予枬したした。俺たちが"繰り返し

おいる"ずはいえ、歎史をいく぀か倉えおきた以䞊、知っおいる未来

のこずでない事象が発生しおもなんら䞍思議ではない」

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 そう、俺たちはいく぀も未来を倉えおきおいるのだ。倧きなこずず

すれば圩峰の芪父さん、圩峰 萩閣の凊刑の原因ずなった光州䜜戊の

悲劇を阻止したこず。そしお、本土䟵攻での戊闘介入。関東

戊域での─の掻躍や、郚隊増員等々。これらが、未来にどのよ

うな圱響を䞎えおいるのかは、党く想像のできないものだった。

 しかし、このこずを倕呌先生が想定し察策しおいない蚳がなかっ

た。だが、俺たちの知る未来に察しお察策をしない蚳にもいかない。

既に過去を倉えおきおいるのだ。倉わっおいる可胜性を加味すれば、

確定しおあるものず暫定しお予枬できるもの、このどちらにも察策し

なければならないのだ。

 単玔蚈算、劎力は倍必芁になる。

「倕呌先生、オルタネむティノ第蚈画叞什郚が立案した明星䜜戊は、

俺の知っおいる明星䜜戊ず同じだず思いたす。ただ、結果しか知らな

いので、それも予枬でしかありたせん。ずなるず─がするこず

は確定しおいる。どう䜜戊が動いおいくか分からない以䞊、先生は以

前歩いた道を遞んだ。ならば、俺はその道からい぀でも迂回路を遞べ

るようにすればいい」

「それが米軍担圓戊域での朜䌏偵察なのね」

「はい。秘密䞻矩でアメリカ至䞊䞻矩の囜です。戊域に展開する郚隊

で、䜕凊がキヌになるのかは参加郚隊䞀芧や郚隊配眮図が手に入らな

かったずしおも、戊域内での情報収集ず偵察によっおそれは掎むこず

ができるず思いたす」

「そう。だけどね、アンタもそうだけど、たりももそんなスパむみたい

なこずできないず思うのだけど」

 それは聞かれるだろうず思ったから、返答は甚意しおいる。

「垞に混乱しおいる戊堎で、最初から始めるにはないにしおも途䞭か

らならば、他囜籍郚隊がいたずしおもそこたで問題になりたせん」

「それはアタシには分からないこずだけど、叞什郚にバレるのは時間

の問題よ」

「そこはどうにかしたすよ。共闘する぀もりはありたせん。どのみち

─は公然の秘密みたいなものです。それず䌌た郚隊が戊域を

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フラフラしおいたからず気に留めたずころで、政治的な掻動はできた

せんよ」

 そう答えるず倕呌先生は黙っおしたう。俺は少し芳察しお、話を再

開した。

「䞍味くなったら逃げるこずず、匟が投䞋されるのを事前に察知す

るための朜入です。鎧衣課長がしくじるずは思いたせんが、そちらの

予備だず思っおください」

「分かったわ。話を進めおもいいわ。どうせたりもには声もかけおい

るだろうし、準備も始めおいるんでしょ?」

 倕呌先生は短く溜息を吐き、腰をずらす。

「はい。たりもちゃんの䞍知火があるので、そっちの敎備ずい぀でも

䜿えるようにしおもらうように指瀺は出しおいたす。それず」

 そう続けお、俺は蚀い切った。

「それず、─の搭茉蚱可をお願いしたいんです」

「  いいわよ」

「ありがずうございたす」

 ─。戊術栞に匹敵するほどの嚁力を持぀、通垞高性胜爆匟。

もっぱら、反応炉砎壊するためのものではあるが、戊術機に搭茉され

る自決兵噚でもある。それなりのものでもあるため、搭茉蚱可が必芁

だず思った俺は聞いおおきたかったこずだったのだ。

 案倖あっさりず蚱可がもらえるずは思っおもなかったので、少し拍

子抜けはしたものの䞊々の結果だった。

 ─を搭茉するのも保険ではあるのだが、できれば䜿いたくは

ない。䜿う堎面が想定されるが故に、搭茉しおおく必芁があるず考え

たからだ。

 たった機の戊術機で戊うこずになった明星䜜戊。䜕凊か心にし

こりが残り぀぀も、䜜戊決行日たで䞇党の準備を進めるこずずなった

のだった。

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 

  ﹇幎月日 囜連軍久留里基地 第滑走路﹈

 食堂が倕食を食べにやっおくる軍人たちで賑わい始めおいるであ

ろう頃、俺は仙台基地から離れ、䜕床か来たこずのある囜連軍久留里

基地にやっおきおいた。

 今は極東囜連軍前線基地の぀ずしお機胜しおおり、䞀床戊闘でも

起きようならひっきりなしに戊術機が離着陞する。

 しかし今日は非日垞ず化しおいた。

 ハンガヌに入り切らず、滑走路脇に甚意された仮蚭゚プロンでさえ

も所狭しず䞊べられた戊術機の倧矀。そのほずんどが─や

─囜連軍仕様ではあるのだが、その䞭から機、党く毛色の違

う機䜓が進み出おくる。

『久留里コントロヌルより─。発進を蚱可したす』

「了解」

『珟圚、倚摩川最終防衛線は膠着状態。昚倜の戊闘で蚎ち挏らした残

敵が朜䌏しおいる可胜性が考えられたす。十分に留意されたし』

 気を利かせた将校の蚀葉に短く答え、カタパルトに足を掛け

る。カりントダりンはなく、射出䜍眮を取るず勝手に情報が管制宀に

転送され、将校が射出操䜜を行う。

 匷いに身䜓を抑え぀けられながら、すぐさた跳躍ナニットに火を

入れた。

 ※※※

 戊堎ずは、戊闘が起きおいない限り、限りなく静かなずころでもあ

る。そうひしひしず感じさせるのが、この支配地域であり人

類ずの緩衝地垯になっお久しい西関東゚リアだ。

 陜が萜ちおそれなりに時間も経っおおり、呚囲には生き物のいるよ

うな気配は党く感じ取れない。぀い数時間前に哚戒䞭の垝囜軍機ず

すれ違ったが、圌らはオヌプン回線でくだらない話をしおいたずころ

から察するに、俺たちが息を朜めおいたこずに気付きもしおいないだ

ろう。

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 の支配地域ではあるものの、圷埚いおいる個䜓は巡回か偵

察か目的の分からない小型皮ののみ。ずいうのも同行しお

いる僚機の衛士の経隓からくる知識の぀だった。

「より。熱源、音王共にフラット。呚囲には

いないみたいです」

『より、了解。無闇に機䜓を動かす蚳にもいかないから、そろ

そろ停装するために倖に出たしょうか』

「了解」

 管制ナニットが音を立おお開く。するず倖から独特な匂いが機内

に流れ蟌んだ。生臭いずもほど遠く、いうなれば孊校のあたり人の立

ち入らない郚屋のような銙りだった。

 屋倖の機䜓から降りお背筋を䌞ばす。コキコキず音を立おる背䞭

ず銖。持っお降りた突撃銃を小脇に挟みながら呚囲を確認するも、や

はりはおろか生き物の気配は党くしなかった。

 遅れおくるこず数十秒。僚機の衛士も降りおくる。

「お疲れ様」

「はい、お疲れ様です。神宮寺"倧尉"」

「あ、そういえばそうだった  」

 少し遠い目をする僚機の衛士、もずい神宮寺"倧尉"。普段の教官

職に就いおいる軍曹ではなく、今は倕呌先生に䞎えられた倧尉の階玚

を䞋げおここに来おいるのだ。

 しかし、普段から『軍曹』や『教官』ず呌ばれおいるたりもちゃん

からしたら、その事実は理解しおいたずしおも、すぐに反応するこず

はできないようだ。

 苊笑いを浮かべながら、自身の小銃から手を離すこずはないたりも

ちゃん。圓然ず蚀えば圓然で、支配地域では歊噚から手を離すなず口

酞っぱく蚓緎兵に蚀っおいる立堎なのだ。自分が実戊できなければ

ものを教えるこずもできなければ、説埗力など皆無に等しい。

「もう日の入りを迎えお久しいし、この蟺りで野営の準備でも始めた

しょうか」

 少し砕けた口調で、背負っおいたバックパックを䞋ろす。簡単では

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あるが、食分の食料を持参しおいたのだ。

 人気がなく、動物すらも党くいないこの蟺りは、お盆前だずいうの

にそこたで暑くはなかった。むしろ、真っ暗になっおからは気枩が少

し肌寒く感じるほどに萜ち蟌んでいた。

 厩れた鉄筋コンクリヌトでできた建物の圱に入り、野営の準備を始

める。たりもちゃんが自分でやるず蚀い出しテキパキず食事の準備

も始めおしたったため、俺は小銃を持ったたた立哚をするこずにし

た。

 月がポツンず空に浮かび、蟺りを照らすのはその光でがんやりず芳

察するこずができる。俺の䞍知火のセンサを䜿いながら、動く物䜓を

監芖し始めた。ず蚀っおも、やはり支配地域では生き物なん

お党くいない。粟々いるずしおも虫皋床で、他には俺ずたりもちゃん

だけ。

 芋るものなんおなく、䜕か動けばセンサがアラヌトを鳎らすので、

俺は考え事を始めようずしおいた。そんなずころに、たりもちゃんは

話しかけおきたのだ。

「癜銀少尉」

「  䜕でしょう?」

「特に䜕かあるっお蚳じゃないの。ただ聞きたいこずがあっおね」

 がんやりずしながら、その声を聞く。

 背䞭で䜜業をするたりもちゃんの声を聞きながら、意識をそちらに

向け盎した。

「どうしお衛士になったのか、ちょっず聞いおみたくお。気付いた時

には倕呌のずころにいたし、あの時には既にあなたは衛士になっおい

たから」

「そうですね  」

 難しい質問じゃない。俺は䜕も隠すこずなく答えるこずにした。

ただ、䞖界を枡ったずかそういうものは抜きにする。

「俺は戊術機に乗りたくお衛士になったんだず思いたす」

「そう  結構、男の子っぜいわね」

「自分でもそう思いたすよ」

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 本圓に最初はそうだったのかもしれない。吊。本圓は違う。

 本圓は䜕も分からず野垂れ死なないために、そしお、身元䞍明な俺

を眮いおおく぀いでに戊術機に乗りたがっおいる俺を倕呌先生が蚓

緎郚隊に攟り蟌んだだけなのだ。

 だから、元をたどれば自分の意思じゃない。しかし、そうたりも

ちゃんに答えるこずはできなかった。

「じゃあ、倕呌のずころにいるのはどうしお?」

 出来䞊がったらしく、䜿い捚おの皿に取り分けたものを俺が先に食

べるように蚀う。入れ替わるようにたりもちゃんは立哚に移り、俺は

手頃な瓊瀫に腰掛けお食べ始めながら答える。

「色々ありたしお、倕呌先生のずころでお䞖話になるようになりたし

た」

 それ以䞊のこずは蚀えない。ただ、俺の身の䞊はたりもちゃんも分

かっおいるずころだろう。

 たりもちゃんが二重階玚になっおそこそこ時間は経っおいるが、䜕

凊かで時間を䜜っお調べおいるかもしれない。倧尉ならば、そこそこ

のアクセス暩限は持おるはずなのだ。

 だが、その暩限があっおもなお、恐らく知るこずはできないだろう。

「  そうなの」

 早々に食べ終わっお立哚を入れ替わるず、話題は今回の件のものに

倉わっおいた。

 思い返せば、今回の詳现をたりもちゃんに説明しおいない。目的は

話しおいるものの、それは抂芁だけだったのだ。

 オルタネむティノ蚈画に觊れる郚分は省き぀぀も、䞻目的である

匟に付いおは詳现は説明せずに説明する。

「なるほど。倕呌が動いおいる件の予備䜜戊ずしお、癜銀少尉が先

乗りしおいるっお蚳ね」

「そうです。倕呌先生の方では既に動いおいたすし、そっちが俺たち

の郜合よく事が運べばいいっおだけです。そうなれば、俺ず神宮寺倧

尉はそのたた─に合流するか、独自の䜜戊行動をするか、っお

ずころですね」

398

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 嘘だ。俺は倕呌先生にも隠しおいるこずがあり、そのためにたりも

ちゃんを巻き蟌んだ。

 たりもちゃんである必芁はないのかもしれない。別に人でもよ

かった。だが䜕故か僚機が欲しいず思っおしたった。これたで散々

単独行動をしおきたずいうのに。

 静かに進む倜を俺は星空を芋䞊げお過ごしたのだった。

 ※※※

 ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 第発什所﹈

 今朝は早く起床し着るのも久しい型軍装に身を包むず、簡単に身

支床を敎えお郚屋を出た。

 向かう先には銙月先生は既にいるらしく、色々やっおいるずのこ

ず。斯くいう私はずいうず、そこにいたずころで䜕をする蚳でもな

い。ただただ空いおいるデスクに腰を䞋ろしお、目の前の画面を眺め

るだけだ。

 第発什所は第発什所が䜿えなくなった時のために甚意された

叞什郚





もので、今は明星䜜戊の

の぀ずしお機胜しおいる。しかし䜍

眮も前線から皋遠いために最埌方のものであり、基本的に囜連軍郚隊

の指揮しか行わない。そのため、垝囜軍や斯衛軍、たしおや米軍の将

校は誰人ずしおこの発什所にはいなかった。

「定刻になったわ。始めたしょうか」

 抑揚のないフラットな銙月先生の声で、䜜戊が発動される。

 【明星䜜戊】ず名付けられたこの䜜戊は至っお簡単に説明ができる。

 本土䞊陞により西関東以西はの支配䞋に萜ちた。

甲号

暪

浜

ハ

ã‚€

ノ

その最前線である倚摩川絶察防衛線前方に建蚭された

を攻

め萜ずすずいうものだった。

 本䜜戊に参加するのは極東囜連軍・日本垝囜軍ならびに斯衛軍・倧

東亜連合軍・米軍。察するは掚定芏暡䞇個䜓超。霞ちゃ

ん曰く、圓時芳枬された個䜓数は予想よりも倚かった、ずのこず。し

かし、"蚘憶ず個䜓数に盞違はない"ず埌に付け足した。

 矀に察応するべく甚意された戊力は申し分ない数を甚意

しおいる。こちらは銙月先生が頑匵ったからずのこず。

399

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「より各郚隊ぞ。䜜戊開始。繰り返す。䜜戊開始」

 将校が䞀斉に各郚隊ぞ䜜戊開始の号什を通達する。

 戊域を映す正面モニタは刻々ず郚隊ず矀の動きを刻んで

いる。人類の動きに勘付いたのか、地䞊で掻動を䌑止しおいた

矀が電源の点いた機械のように、起動するように動き始めた。やが

おその動きは波ぞず倉わり、戊堎の倧きなうねりず化す。

 䜜戊第段階が進行するさなか、誰もが戊堎の動きに泚目する。し

かしその䞭で私は、党く違うずころに泚目しおいた。囜連軍を芋たず

ころで─の配眮は─将校のモニタでしか確認でき

ない。そのブロックに䞀番近いずころで静かに芋守る銙月先生の暪

で、正面モニタで蠢く点を必死に远っおいた。

「タケルちゃん  」

 劙な胞隒ぎがするのだ。タケルちゃんがいるであろう米軍管蜄戊

域は、今の所順調に矀の駆逐が進んでいる。

 䞀方で囜連軍や─の初動も奜調だ。霞ちゃん曰く、戊力は前

回ずさしお倉わらないずいうが、配眮はかなり倉わっおいる、ずいう。

それ故に効率的にの殲滅が進んでいた。予想䟵攻路䞊に配

眮された戊術機郚隊。が流入する窪地めがけお飜和攻撃を

行い、残敵凊理を行う砲兵郚隊ず機械化歩兵郚隊。

 党おが順調に進んでいるように芋えた。

『レむノンより』

 状況が倉わるにはそこたで時間を芁しなかった。䜜戊が第段階

に移行しおからしばらくするず通信が入ったのだ。オルタネむティ

ノ蚈画甚の将校甚ブロックに入電がある。タケルちゃんからだ。

銙月先生ずの取り決めで、よっぜどのこずがない限り連絡をしないず

いうこずになっおいた。たた、ずいうを䜿甚せずにレむノ

ン隊を名乗るずいうこずにしおいたのだ。その郚隊名ならば、あたり

オルタネむティノ蚈画に詳しくない人物が聞いおいたずしおも、倉に

思うこずはないだろうずいうこずだった。

 銙月先生は手早くヘッドセットを装着し、将校の出力音声ず同

期した。

400

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「よりレむノン。感良奜」

『レむノンより。"機䜓が゚ラヌを吐いおいる"。"このたた

では墜萜しおしたう"。"即時埌退指瀺が欲しい"』

 隠語だ。銙月先生ず盞談しおいたのを聞いおおり、埌で霞ちゃんか

らも聞いた。確か『機䜓が゚ラヌを吐いおいる』ずいうのは、『䜜戊は

倱敗』。぀たり、タケルちゃんの䞻任務である米軍担圓戊域で䜕らか

の問題が生じた、ずいうこず。次の『このたたでは墜萜しおしたう』ず

いうのは぀目の蚀葉に掛かっおおり、『米軍撀退の予兆あり』ずいう

こず。最埌の『即時埌退指瀺が欲しい』ずいうのは基本的にそのたた

の意味ではあるが、『戊域に展開䞭の総軍に即時埌退指瀺を出しお欲

しい』ずいう意味なのだずいう。

 ぀たり、これらを党お繋げお衚すず『鎧衣課長の䜜戊が倱敗し、米

軍が撀退を開始しおいるため匟投䞋が予想される。戊域に展開さ

せおいる総軍に即時匟効果範囲倖ぞ退避するように』ずいうこず

だった。

 続けざたに応答した将校の個人モニタにデヌタリンクを通じ

おデヌタが送られおきた。それは、米軍の通信回線ぞ匷匕に䟵入しお

盗聎したず思われる音声ファむルに座暙の数倀ず時間だった。衚瀺

されたコヌルネヌム通りに応答した将校は圓然のこずながら、レ

むノンもずいタケルちゃんが䜕を蚀っおいるのか理解できない。

返答に困っおおり、送られおきたファむルをずりあえず開こうずしお

いた。それを埌ろから銙月先生が埅ったをかけた。

「垭、倉わりなさい」

「り、了解したした」

 有無も蚀わさず語気を将校に圓おお起立させた銙月先生は滑

り蟌むように怅子に腰掛け、タヌミナルを操䜜し始める。即座にファ

むルを開き音声を聎きながら座暙の䜍眮を確認するず、乱暎に怅子を

蹎っお立ち䞊がり、近くで戊堎の趚勢を芋おいた囜連軍叞什官に声を

かけた。

「叞什。少々よろしいでしょうか」

「  䜕かね、銙月博士」

401

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「党軍ぞ即時戊域倖ぞの退避を進蚀臎したすわ」

 圓然ながら匟の存圚も、オルタネむティノ蚈画がこの䜜戊で䜕を

しおいるのかもほずんど知らないであろう圌は、蚝しげな衚情を浮か

べながら銙月先生に問い返した。

「どういう、意味ですかな?」

「蚀葉通りの意味ですわ」

 倚くは説明しない。しかし銙月先生は盞手が歎戊の将校であろう

ず、臆するこずなく意芋しおいた。そしお、この䜜戊の行く末が私が

握っおいるず蚀わんばかりに、蚎えおいた。

「  君の飌っおいる郚隊が䜕か掎んだのかね」

「  そう思っおもらっおも構いたせん。しかし、叞什官が本䜜戊で

倧きな打撃ず倧敗を喫したいのであるならば、私は構いたせん。こち

私の犬



─





らずしおは

のみを退避させるだけですので」

 その蚀葉に叞什官は少しばかり衚情を歪たせる。

 情報が党くないず蚀っおいいほどに機密に包たれた─の情

報は戊堎での働き皋床ならば、蚈画関係者でなくずも叞什官ほどの高

玚将校ならば耳に入らない蚳がない。そんな─だけが戊線を

離脱するずいうのだ。珟時点で目立った行動はしおいないものの、圌

らが抜けた埌のこずを考えれば痛いどころの話ではないず理解しお

いるのだろう。

 察匟による重金属雲が薄たり始め、次第におおよその状況しか

分からなかった戊域の詳现な情報が入っおくるようになる。

 第段階は優勢に進んでいたものの、もうそろそろ第段階に入る

ずいう頃合い。前線の状況は䞀倉しおいた。─を陀く党郚隊

が劣勢状態に陥っおいたのだ。戊線では郚隊が消滅しおいるずころ

すらあるほど。

 知識ずしお知っおいるが、これが人類ずの戊争では日垞茶

飯事で起きおいるこず。そしおこの埌に埅ち構えおいるのは䜜戊倱

敗ず撀退だった。

「分かった。博士の進蚀を受けよう」

「感謝臎したすわ」

402

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 すぐさたから各に党軍指定ポむントぞの撀退が呜什され

る。呜什を受理し、行動可胜な郚隊から少しず぀ではあるが郚隊の撀

退が始められる。

 正面モニタをよく芳察しおみるず、䞀足先に米軍の撀退が確認でき

る。既に割が戊線の最埌方たで埌退しおおり、最䜎限の戊闘行動し

かしおいない状態だった。恐らく将校たちは気付いおいるが、䜕

か蚀うわけでもない。それは銙月先生も同じで、そちらの方を䞀瞬芋

おすぐに別のずころぞ目を向けた。

「䜜戊参加郚隊、割が撀退完了」

「垝囜斯衛軍が遅れおいたす」

「囜連軍および米軍䜎軌道艊隊および軌道降䞋兵団、突入回廊から離

脱を確認」

 めぐるめく状況が動いおいく。その䞭、異質なものが混じった。

「南東方面より小芏暡の䜎軌道艊隊が接近䞭」

「  䜕凊の船よ」

「は。米囜宇宙総軍 第䜎軌道艊隊です」

 銙月先生から匷い感情を受け取る。

 これは聞くたでもない。タケルちゃんが知らせたのは予想に過ぎ

なかったが、これで確信を埗た。

「チッ  。叞什、党軍の退避を急かさせおいただきたすわ。アンタ、

蚘録は取っおいるわね」

「  問題ありたせん」

 少し離れたずころでラップトップを開いおあちこちにコヌドを繋

げおいた霞ちゃんがポツリず答える。

 結局、タケルちゃんの考えおいた予備案に乗っかる圢になっおいる

ものの、先生が䜕も甚意しおいない蚳がない。そう思えおならなかっ

た。そしお、䜜戊開始時からあるモダモダが倧きくなったように思え

る。

 䜕か良くないこずが起きるような気がしおならない。

403

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 

   ﹇幎月日 明星䜜戊 最終防衛線 米軍戊域﹈

 前日から乗り蟌み、䜜戊開始からしばらくしお第防衛線の米軍に

合流した。思いの倖、呆気なく合流するこずができたのはよかったも

のの、肝心の情報収集は䞊手くいかなかった。

 そもそもストレヌトに匟のこずや、他軍内での䜜戊を聞き出すこ

ずはできない。そうなるず戊術デヌタリンクから埗られる具䜓的な

米軍の情報に頌らざるを埗なかった。最も、合流した郚隊が末端の䞀

般郚隊だったずいうのが誀算だったのかもしれない。

 誀算があるずすれば、アメリカ至䞊䞻矩の塊みたいな衛士ばかりだ

ず思っおいたが、そうではなかったずいうずころだろう。

『アヌチャヌよりレむノンズ。お前らも぀くづく付いおねぇよな。

䜜戊早々郚隊が恐慌状態に陥っお散り散りになるなんお』

「本圓、そうですよ。぀い最近入った新兵のこずは気にしおいた぀も

りなんですが、事前催眠があたり効果なかったみたいで、を

みるなり倧混乱でしたからね」

『そのルヌキヌ共が無闇矢鱈に発砲、先任や䞊官たちが逃げ始めるず

䜙蚈に混乱。埌はこのザマっおのは、本圓に笑えないね』

 米陞軍の䞀般戊術機䞭隊に合流したが、米軍の郚隊線成の基本は倧

隊だ。おおもずになっおいる倧隊ず連絡を取り、同行が蚱された。

 合流したのは米陞軍第戊術機甲倧隊 アヌチャヌズ。元圚日

米軍の郚隊だずいうのは、たりもちゃんから聞いおいる。䜕故そんな

こずを知っおいるのかは分からないが、少なからず情報があるのは有

り難い。

 アヌチャヌズの䞭隊、圌らは本隊から少し離れおいたずいう。本

隊は戊況が䞍利になっおいるず分かるず早々に埌退を決断し、珟戊域

から撀退したずいう。圌ら䞭隊はその殿であり、物資の確保や他郚

隊の支揎をしおいた。そんな䞭、近くの戊域をふらふらしおいる俺た

ちを発芋したずいうのだ。

404

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 䞀方で、俺たちはずいうず、戊術デヌタリンクを介しお米軍叞什郚

のサヌバヌにハッキングを仕掛けおいた。戊堎のど真ん䞭でするこ

ずではないこずは理解しおいるが、特にやるこずなんおない。膝の䞊

で開いおいるラップトップから機䜓を介しおハッキングプログラム

を走らせおいるだけだった。

 そのハッキングプログラムを䜜ったのは霞ず玔倏。ず蚀っおも、基

本的に霞は口出ししただけで倧郚分は玔倏によるものだった。こう

いったプログラムを䜜るのは問題なく行えるらしく、解析速床ず高床

なセキュリティりォヌルを突砎するだけの胜力を持った自埋走査プ

ログラム、ずいう。䜕を蚀っおいるのか分からなかったが、ずりあえ

ず䜿えるこずは確認しおいるずいう。

 このプログラムを半日で䜜った玔倏は凄いな、なんお関心しおいる

ず、ラップトップに通知が入る。

《 セキュリティりォヌルを突砎したよ! これから走査に入るね!

 》

 䜕ずも玔倏らしいフロヌ通知だ。どうやらものの数分もしないで

叞什郚サヌバヌぞのハッキングが終わったようだ。

『レむノンよりレむノン』

 神宮叞倧尉から秘匿回線が入る。

 レむノンズもずい─の指揮暩は俺が持っおいるが、衚向

きは階玚が䞊であるたりもちゃんが持っおいるこずになっおいる。

故にたりもちゃんのがで俺がになっおいるが、最初は混

乱したものの、今ではかなり慣れおきおいた。

 たりもちゃんからのコヌル内容は、十䞭八九、ハッキングに぀いお

だろう。事前に䜕を行うかは教えおいるものの、たりもちゃんに党お

を教えおいる蚳ではない。教えたずころで行動に察する疑問点があ

がり、それを尋ねるたりもちゃんに話しおしたえるこずも倚くはない

のだ。そのほずんどがオルタネむティノ蚈画に関わるこずだからだ。

「レむノンよりレむノン。どうしたした?」

『  米軍叞什郚ぞのクラッキング、本圓に倧䞈倫なの?』

「問題ありたせん。霞ず玔倏を信じおください」

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 どうやら気になったのは、その点だったようだ。盞手は本囜を離れ

おいるずはいえ"倩䞋の米軍"だ。無論、察人類の電子戊を想定した

装備やマニュアルも甚意されおいるだろう。だが、こちらはオルタネ

むティノ蚈画。米軍を盞手取っお戊うこずもいずわないのが、俺たち

ボス銙月倕呌

の

の意向なのだ。

 今頃、米軍のデヌタサヌバヌを走査しおいるプログラムは、オルタ

ネむティノ蚈画謹補の代物だ。それも信頌しおいる芁員が䜜成した

もの。俺が信じずしお、誰が信じるずいうのだろう。それにもし、逆

ハックされたずしおも問題ない、ずいうのは補䜜者の語るずころなの

だ。特に心配するこずもないだろう。そもそも、逆ハックされる前提

で䜜られおいるず蚀っおいた。ならば、堂々ず䜿っおデヌタを奪えば

いいだけなのだ。

 そうこうしおいるず走査も倧䜓が終了し、抜出したデヌタの䞀芧が

衚瀺される。サッず䞭身を確認し、該圓しそうなファむルを開くずそ

れは倧圓たりだった。そしお、俺の次の行動ぞず移させる決定打ず

なったのだ。

『グルヌプリヌドよりアヌチャヌズ。ボスからの叞什だ。これより

䞭隊ず合流次第、第艊隊の停泊する浊賀駐屯地ぞ向かう。俺たちは

そのたた機䜓の点怜敎備を行い、号什がかかるたで埅機だ』

 戊術デヌタリンクからバストアップりィンドりに倧隊指揮官が衚

瀺される。䞀蚀も話したこずのない盞手だが、俺たちの合流を認めた

盞手だ。米軍叞什郚ぞのサむバヌ攻撃は察知されおいるだろうが、出

凊たではただ掎めおいない様子。俺たちを疑う様子もなく、近距離通

信で話し始めたのだ。

 今の呜什は実質的な撀退を意味しおいるこずは、䜜戊芁項を把握し

おいるならば気付かないはずがない。しかし、倧隊の誰もが疑う䜙地

も芋せななかった。

 もう裏も取れた、ず蚀っおも過蚀ではない。

 即座に俺は専甚回線を開く。





囜連軍叞什郚

「レむノンより

」

 俺ずたりもちゃんの機䜓にだけ接続を蚱された回線を開き、通信を

406

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詊みる。もう重金属雲を抜け、埌方に各軍の郚隊が芋えおきおいた。

『よりレむノン。感良奜』

 囜連軍型装備に身を包む将校のバストアップりィンドりが

衚瀺され、その端に芋芚えのある姿を確認する。

「レむノンより。"機䜓が゚ラヌを吐いおいる"。"このたた

では墜萜しおしたう"。"即時埌退指瀺が欲しい"」

 その蚀葉を発するのず同時に、機䜓からデヌタを送信する。これた

で機䜓で録音しおいた通信デヌタずハッキングで抜出したデヌタを

ファむルにたずめたものだ。

 同時に将校から芋慣れた囜連軍将校に癜衣ずいうミスマッチ

な栌奜をしおいる女性が映し出された。モニタを確認しおいるのだ

ろう、数分もしない内にそのたた垭を離れおしたったため、入れ替わ

るように応答した将校に話し続ける。

『よりレむノン。  どういった意味だ』

「他意はない。意味は䌝わったようだ。これより本隊の珟圚地を送

る。呚蟺の戊況を確認したい」

『  了解。少し埅お』

 皋なくしお戊術デヌタリンクに詳现な戊術デヌタが送られおくる。

 状況はこちらが目芖で確認しおいる通りだった。俺たちが合流し

たアヌチャヌズを殿に、米軍郚隊は浊賀ぞ向けお移動をしおおり、既

に半数の郚隊が到着しおいた。䞀方、䜜戊戊域には未だに囜連・垝囜・

倧東亜連合軍が戊闘を継続しおおり、戊闘開始時から半数ほどのマヌ

カヌがロストしおいる。

ハむノ抗口

ゲヌ

ト

 戊況は思うように進んでおらず、地䞊郚に露出した

目芖

距離すら到達できおいない。だが到達できおいなかった方がよかっ

たのかもしれない。

  ───今この戊堎には匟が運ばれおいるのだから。

  ※※※

 ﹇同幎同月同日 明星䜜戊戊闘地域倖 吟劻島 米軍集結ポむン

407

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ト﹈

 米陞軍第戊術機甲倧隊に合流しお到着したのは、聞いおいた米

海軍第艊隊が停泊しおいる浊賀ではなかった。そのいくらも手前

にある島に降り立぀ず、そこには先に到着しおいた米陞軍郚隊が集結

しおおり、ざっず個垫団はいるだろう。

─

ストラむク・むヌグル

 圌らの誰もが最新鋭の

を装備しおおり、アメリカの底力

をひしひしず感じる光景だった。始めは第倧隊が特別だず思っ

おいたのだが、こうしお同機皮が機単䜍で集結しおいるのを芋

るず圧巻だった。

 そんな䞭で私たちが異質であるのは指摘されなくおも理解できた。

日本垝囜軍最新鋭"第䞖代"戊術機である䞍知火、しかも囜連軍仕

様ずいう異質䞭の異質。明星䜜戊に参加した日本垝囜軍でもどれほ

ど䞍知火を投入しおいるかは定かではないが、─よりも絶察数

が少ないのは確実だった。

 奇異の目に晒されながら第倧隊の埌に続いお着陞するず、オヌ

プン通信が開かれおいるこずに気づく。

『いいずころだったっおぇのに、どうしお䞊は撀退を指瀺したんだ』

『アタシずしおは、こんなずころでおちおち死ぬ気なんおなかったか

アむツら

日

本

人

らよかったけどね。ただ、い぀芋おも、

の戊い方はクヌル

じゃないわね』

『ブシドヌだかよくわからねぇが、がうようよいるずころに

サヌベル振り回しお戊おうだなんお思わねぇ。むカれおるんじゃ

ねぇのか。ンなもん、突撃砲撃ちたくりゃいいものを』

 奜き勝手に話しおいるのが聞こえおくる。匷化装備の自動翻蚳機

胜で日本語になっおいるが、翻蚳されなくおも䜕を蚀っおいるのかは

分かる。

 圌らは日本垝囜の戊い方が理解できない様子。䜕が効率よくお悪

いのかずいう話は、の前では無意味だずいうのは戊いを重ね

たベテラン衛士なら分かる筈だ。私だっお倧陞で散々ず味わっお来

た。砲撃で方を぀けられるならばそれで良し。だが、匟薬が尜きるこ

ずを考え、矀の動きをコントロヌルするこずも目的ずしお含

408

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たれおいる近接密集戊においおは垞識であり、その戊い方を遞ぶので

あれば、近接栌闘甚装備ずいうのは必芁䞍可欠なものなのだ。そしお

日本人の心の有り様ずしおも、長刀ずいう存圚は絶察になくおはなら

ない存圚だった。機䜓に匵り付いた小型皮を払うためだけにある短

刀ずは違うのだ。

 そんなこずを考えおいるず、呚囲の米軍衛士の興味は私たちの方に

移ったようだ。

『オむオむ、あれ芋ろよ。日本垝囜の─だぜ。戊域で芋

たが、コむツら色が違うな』

『カラヌリング的に囜連軍仕様っおずころじゃない? 肩郚装甲ブ

ロックにもの文字が入っおいるし』

『カヌッ! これだから囜連軍っおの分からネェ!』

 この様子だずあたり突っかかっおくるような衛士はいなさそうだ

が、油断はできない。ここは友軍の陣地ではあるが、味方ではないの

だ。気は䌑たらない。

 䞀方、癜銀少尉はずいうず、完党に通信回線を遮断しお䜕かをしお

いる様子。蚈画に関する䜕かをしおいるのだろうか。だからだろう、

自ずず倖からの通信には私が答えなければならなくなる。

『─の衛士さんよぉ、聞こえおいるのなら返事しおくれ』

「レむノンよりシ゚ラ。䜕の甚だ」

『  レむノンズはどうしおここにいるんだ? お前ら、囜連軍だろ

うが』

「郚隊が壊滅したずころを拟われた。今は囜連軍叞什郚からの呜什埅

ちをしおいる」

『そりゃ灜難なこずで。それで、人の機䜓は─のよう

だが、䜕故囜連軍が垝囜の最新鋭機を装備しおいる』

「軍機に぀き答えられない」

 角の立぀ような返事はできない。ただでさえ異質な存圚なのは、倚

くを知らない私でも分かるこずだった。それに癜銀少尉ばかり頌っ

おいおはいけない。あくたで私は感情をフラットに、質問にはできる

限り答え、蛋癜な察応をする。

409

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 やがお興味をなくしおいき始める呚囲の米軍衛士たち。䞀息吐い

たのも束の間、遠くで埅機しおいた─が近くに降り立぀ず、

突撃砲を構えおロックオンしおきた。反射でこちらも突撃砲を構え、

跳躍ナニットに火を入れる。

『リノェンゞャヌよりレむノンぞ。貎官らの䜜戊配眮時の䜍眮を

答えろ』

「  」

 突然の敵察行動、䞀瞬で呚囲は緊匵感に包たれる。スッず癜銀少尉

を確認するものの、機䜓は突撃砲を構えお跳躍ナニットに火を入れお

いるものの、通信に割っお入っおこようずはしない。答えられる䜙裕

がないのか。どういった状況なのか分からない。

 目の前で起きおいるこずに察し、私は䜕ずか察凊を詊みる。これで

も垝囜軍時代は䞭尉たで䞊り詰め、倧尉になっおすぐ囜連軍に移った

のだ。戊闘以倖の軍人ずしおの経隓も積んできおいる。

『囜連軍参加郚隊リストに貎様らのような身元䞍明な郚隊がいく぀か

混じっおいる。我々が貎官らを玠盎に浊賀に案内しなかったのは、そ

れを知っおいたからだ。答えられないのか』

 ダヌクブロンドの髪を短く切りそろえたリノェンゞャヌの男性

衛士は、譊戒心剥き出しの衚情で詰問する。

 圌の蚀った蚀葉の䞭に気になるこずもあった。ここに案内したの

は、私たちが所属䞍明の郚隊だずいうこずを始めから知っおいた、ず。

぀たりそれは、米軍に接觊した時点で、私たちが正芏の囜連軍郚隊で

ないこずに勘付いおいた、ずいうこずなのだろう。

 考えおみれば圓然のこずで、私たちの乗機は日本垝囜補の

─

匏戊術歩行戊闘機 䞍知火

なのだ。囜連軍戊術機郚隊の倧半は─や─

、─、─で構成されおいる。その他、駐屯囜家の

正面装備を䜿うこずもあるが、それもほずんどは旧匏であったり䞭叀

品である堎合が倚い。にも関わらず、最新鋭第䞖代戊術機を装備し

おいる私たちは、そういった囜連軍事情を知っおいる人間からしおも

䞍思議な存圚であるず蚀える。

『レむノンよりレむノンぞ』

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「レむノンよりレむノン。どうした?」

 突劂、秘匿回線を䜿っお癜銀少尉から通信が入る。

 その衚情にひず぀も焊りを浮かべるこずもなく、淡々ず圌は蚀っ

た。

『どうやら米軍の眠だったようで申し蚳ありたせん』

「謝眪は埌でいいわ。この状況を脱する方法を考えたしょう」

『匷行突砎したす』

「  はい?」

 耳を疑った。今、癜銀少尉はなんず蚀ったのか。私には匷行突砎す

る、ず聞こえたのだが。

『の情報がアメリカに流れるのず、毎奪われるの、どっち

がいいず思いたす?』

「そりゃ、デヌタず取られるだけの方がいいに決たっお  」

 私でも知っおいる。私の機䜓を含む、倕呌傘䞋の戊術機には

が搭茉されおいる。たた、そのは茞出もラむセンス生産も行っ

おおらず、ただ倕呌の郚隊だけが䜿甚しおいる特別なものである、ず。

そしおは癜銀少尉を筆頭に䜿甚し、䜕床も実戊を経隓しおお

り、その戊堎のひず぀に米軍のいた本土防衛での䞀連の戊いがあった

のだ。

 前線衛士や戊闘に関わった囜ならば、気付かないはずがないのだ。

 癜銀少尉はそれを加味し、この絶望的な状況䞋を脱出するず蚀った

のだ。理由は考えるたでもなく、米軍には私たちは囜連軍正芏郚隊で

はない、䞍審な戊術機郚隊を捕瞛するずいう倧矩名分を持っおいるの

だ。その䞊、日本垝囜の最新鋭機を我が物顔で䜿っおいる。幟ら䞀方

的に日米安党保障条玄を砎棄したからず蚀っおも、これだけの手土産

があれば、その状態からでも日本垝囜ずは悪くない関係を保぀こずが

できるのだ。

 ぀たり、アメリカにずっお政治的に旚味のある状況が、今目の前に

転がっおいる、ず蚀えた。

『こんなずころで機䜓を捚おお投降したずころで意味はないです。そ

れに、目の前にあるボタンを抌すには情けなさすぎたす』

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 目の前のボタンずいうのは、今回、私たちの機䜓に装備されおいる



自

決

装

眮

─による

のこずだ。この島毎吹き飛ばしおしたえる嚁

力があり、私たちを囲んでいる機の─も道連れにでき

る代物だ。

『だから戊いたすよ、神宮叞倧尉』

「えぇ、分かったわ」

 その蚀葉に芚悟ができた。操瞊桿を握り締め、目の前を埋め尜くす

─を睚み付ける。そしおふず聞こえおしたった。

『こんなの、絶望なんかじゃねぇ。生きお垰るんだ』

 あの小さい背䞭が語る蚀葉にしおは、重すぎる蚀葉が。

 ※※※

 癜銀少尉はなるべく戊闘せずに、この状況を切り抜ける぀もりだ、

ず蚀った。私たちを蜂の巣にせんがために䞀斉に突撃砲を撃ち始め

た─には、私たちは手を出せない。こちらは損傷なしで脱出

し、たた盞手にも損傷を䞎えおはならない。

 合図ず共に癜銀少尉が動き出すのが分かっおいたからか、次の行動

を自分の䞭で決めるこずができた。恐らく、癜銀少尉は䞍意を突い

お、空ぞ飛び䞊がる。ならば私は、埗意な方法で移動を始めればいい。

幞いにしお、この吟劻島も障害物は豊富だった。

『目暙は囜連軍叞什郚のある囜連軍久留里基地ぞ逃げ蟌むこず。先生

曰く、あそこは蚈画の息がかかっおいるずころで、かなり融通を利か

せおくれおいるらしい。ならば、あそこたで逃げればいい』

「海の䞊を跳んで行く぀もり?」

『それはありたせん。東京湟をぐるっず回っお行きたす。もしその目

暙に逃げ蟌めないのであれば』

 その先の蚀葉は私の脳を揺らすには十分過ぎる提案だった。

『もし駄目ならば、暪浜ハむノに突入したす』

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 

  ﹇幎月日 明星䜜戊戊闘地域倖 吟劻島﹈

 私の読んでいた通り、癜銀少尉は合図ず共に䞊空ぞ舞い䞊がった。

そちらに気を取られおいる米軍の目を盗み、私は䞀気に跳躍ナニット

のスロットルを解攟する。

 爆発的に速床の䞊がり、身䜓に匷烈な加速床を感じ぀぀も、敵機ず

障害物を瞫うように陞地を目指した。幞いにしお、ここたでほずんど

が埒歩移動だったためか、掚進剀はかなり残っおいる。無理をした高

機動戊闘もそれなりの時間は問題なかった。

 虚を衝かれた機以䞊の米軍機たちはすぐさた察応を開始。

しかし、远い぀ける蚳がない。今、圌らが感じおいるモノは、私は既

に味わった。間接思考制埡ず盎接入力をしおいおもなお、盞手の動き

に付いおいくこずができないもどかしさ。そしお、耇雑な制埡をしな

がら障害物走をするように飛び去る戊術機の背䞭を芋るこずしかで

きない気持ちを。

 次々ず芖界の端々を過ぎ去る─の矀れに攻撃するこずな

く、思考は最䜎限の党呚譊戒にだけ割き、残りは癜銀少尉に眮いおか

れたいず必死に本土に戻るこずだけを考える。

『お、远え!』

『䜕なんだアむツら!? 戊術機の機動じゃない!』

 遥か埌方に着匟する砲撃が氎飛沫を䞊げ、皋なく本土に蟿り着く。

そのたた北䞊を開始する。埌ろは䞀切振り返らず、反撃するこずもな

い。近くを高速機動する癜銀機を確認しながら、目暙地点たでの予枬

到着時間を算出する。

「から分っおずころね  」

 この調子なら、久留里基地に到着する前に掚進剀が切れる。だが、

それたでの間に远撃する米軍機を振り切るこずも可胜だ。今の調子

ならば。

 だが、そうも蚀っおられない事態はすぐにやっおくる。

『ク゜っ!』

413

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 通信から癜銀少尉の悪態が聞こえた。䜕かあったのかず暪目に癜

銀機を芋るも、被匟した様子はない。ずなるず䜕があったのだろう

か。

 明星䜜戊戊闘地域に突入し、続々ず亀代する連合軍。どれも䞇党な

状態の機䜓はいない。圌らず真逆の方向ぞず跳んでいるが、この調子

で行けば分ほどで前線から第次防衛線くらいたでは移動でき

るだろう。

 しかし、私の考えずは違うこずを、癜銀少尉は口にした。

『時間がない! 神宮叞倧尉!』

 時間がない、ずいうのはどういう意味なのか。順調であるこずに代

わりはなく、远撃を続ける米軍機ももういなくなっおいる。このたた

久留里基地たで逃げ蟌めればいいのではないのだろうか。

 そんなこずを考えおいた私に、癜銀少尉は戊術デヌタリンクを介し

お情報を送っおきた。それは、䜎軌道を呚回する艊隊のようだが、こ

れは囜連宇宙総軍軌道降䞋兵団ず装甲駆逐艊隊による軌道爆撃のア

むコンではないのか。

『珟圚、米囜宇宙総軍゚ドワヌズ基地から出撃した小芏暡装甲駆逐艊

隊が向かっおいたす』

 アむコン内蚳が簡単に衚瀺された。たった隻で構成された装甲

駆逐艊隊は単瞊陣で確実に暪浜䞊空を通る軌道を移動しおいた。確

かに少数過ぎる艊隊で目的が分からないが、䜎軌道で埅機しおいる他

の艊隊に合流する埌続なのかずも考える。しかし、違っおいた。

『この艊隊は特殊装備を搭茉しおおり、それをこの明星䜜戊で無断䜿

甚しようずしおいたす』

「特殊装備の無断䜿甚  」

 字面通り捉えるならば、私たちも人のこず蚀えないず思うのだが、

癜銀少尉はそういうこずを蚀っおいるのではないのだろう。

 の死骞の山を飛び越えながら、で移動し぀぀も少し

考えたが、結局答えは分からなかった。

『特殊装備の詳现に぀いお説明するず長くなりたすので、簡単に枈た

せたす。特殊装備ずいうのは、米囜で開発された爆匟です』

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「特殊な爆匟。栞爆匟みたいな?」

『そういった次元を超越しおいる代物ですよ。あれが䞀床爆発すれ

ば、呚囲には爆颚ではないモノを撒き散らしおこずごずくを砎壊し、

被爆地は重力異垞地垯になりたす』

 どういう意味なのかさっぱり分からなかった。だが、それが䞍味い

ものであるこずは分かった。爆撃された地域が重力異垞地垯なんお

いう聞き慣れない単語の状況になっおしたうような代物だずいう。

文字通りの意味ならば、䜕かしら重力が異垞な状態になるものなのだ

ろう。急降䞋する飛行機の䞭のような状態になるのだろうか。

『そしお、その爆匟を䜜っおいる奎らず倕呌先生は戊っおいたす』

 癜銀少尉には悪いが話半分に聞いおいたが、倕呌の名前が出れば話

は別だ。倢やおずぎ話をしおいる蚳ではないのは分かっおいるが、圌

女が出おくるずなるず、真面目に聞かなければならない。圌女が関連

しおくるずなるず、䟋のオルタネむティノ蚈画に関連のあるこずなの

だろう。

『米囜は明星䜜戊であの爆匟の実蚌実隓を行い、倕呌先生のオルタネ

むティノ蚈画を朰す気なんです。こんなずころで実隓を成功させお

集䞭運甚なんおされおしたえば、ではなく自分たちの手で滅

びおしたうんですよ。そういう爆匟なんです』

 話は分かった。だが、匕っかかるずころがある。

「分かった。だけど、匕っかかるずころがある。その爆匟を搭茉した

装甲駆逐艊が来おいるのず、時間がないずいうのは、恐らくもうその

爆匟がこの戊域に到着しようずしおいるずいうこずなのだろう。ず

なるず、私たちは他の郚隊に芋習っお戊闘地域倖ぞ退避するべきなの

では? もう米軍も撒いたが、念の為に囜連軍郚隊が集結しおいるず

ころに」

『それでは駄目なんです! もう今からじゃ間に合わない。だから、

予備案を実行したす』

「予備案ずいうず、たさか  ?!」

 私は背筋が震えあがった。聞いおはいたが、考えたくもなかったこ

ずだ。

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 楜芳芖しおいた蚳ではない。ただ、予備案の予備案であるずしか考

えられなかった䜜戊に、私は珟実を受け入れられなかった。

門ゲヌト

『近くに

がありたす。そこから䞀時的にハむノに逃げ蟌み

たす。ハむノ内でもそれなりの深さたで朜れば、爆匟の効果範囲から

守られたすから』

 蚀葉が出ない。

 芚悟しおいなかった蚳ではなかった。軍人であり、衛士であるのな

らば、どんな困難な呜什をされおも遂行しなければならなかった。そ

しおそれらを螏み越えおできたのが今の私だからだ。なので、今回の

こずも最悪の堎合は想定しおいた。私の機䜓に─が搭茉され

おいるこずからも、よほど危険な任務を負うこずになるこずも。

 それでも、ハむノ突入は考えおいおも考えたくなかったこずだった

のだ。

 返事がしたいのに、声が出ない。ただ、喉に぀っかえお息が抜ける

音だけが出る。蚀いたい。たった機でそんなのは無茶だ、ず。しか

し、できないずは蚀いたくない。

 だが、なんずしおも生きお垰らなければならないのは、癜銀少尉も

䞀緒のはずだ。私もこんなずころでおちおち死んで等いられない。

ただ、やりたいこずもやり残しおいるこずもある。しかし、今床ばか

りは本気で芚悟しなければならない。

「了解」

 私はそれだけだが、癜銀少尉はどうなのだろう。

 次幎床入っおくる蚓緎兵よりも若い正芏兵。あれだけの機動制埡

ずセンス。軍人ずしおの知識ず経隓の倚さ。そしお、他の研究員や衛

士の誰よりも近しい倕呌の偎近。考えれば考えるほどに分からない。

癜銀少尉、癜銀 歊ずは䞀䜓䜕者なのか。

 ※※※

 第防衛線をたった機で飛び越え、の散芋される地域を

避けながらの高速機動。気を䜿っお掚進剀を節玄しおいるものの、

割ずいう正盎安心はできない量が残っおいる。兵装だっお満足でな

く、友軍も僚機である癜銀機しかいない。

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 もう蟺りに人類偎のマヌカヌはひず぀ずしお残っおおらず、赀い点

矀が蠢くのみ。そんな戊術デヌタリンクに、目暙であるが衚瀺

される。もう目ず錻の先にあり、幞運なこずに門の付近にの

反応はなかった。

『レむノンよりレむノン。このたた門に飛び蟌み、第局を目指

したす。恐らく第局目たでは吹き飛ばされたすから』

「レむノン、了解」

 質問も反論もしない。

 私にハむノ突入の経隓はない。地䞊戊は嫌ずいうほど経隓しおい

るが、こればっかりは特別な環境䞋にいなければないだろう。教鞭を

振るう偎ずしお、パレオロゎス䜜戊におミンスクハむノに突入した際

の芳枬デヌタの存圚ず、数床のその芳枬デヌタから䜜成されたノォヌ

ルクデヌタによる蚓緎しか行っおいない。

 思い返せば、癜銀少尉からの教導を受けた際、ノォヌルク

デヌタでのハむノのシミュレヌションを行っおいた。たさかずは思

うが、癜銀少尉はこれを芋越しお、あの蚓緎を行ったずいうのだろう

か。教導マニュアルを䜜成した際、ノォヌルクデヌタでのハむ

ノのシミュレヌションも蚓緎の぀ずしお入れおいるが、癜銀少尉や

倕呌が芋た時には䜕も蚀われなかった。

 考えれば考えるほど、これたでの経隓ず珟圚の状況が玐付いおい

く。倕呌や癜銀少尉たちず関わった事柄、それらが、どうも今回の䜜

戊に繋がっおいるような気がしおならなかった。

広間ホヌル

『最初の

にはがいたせん。そこでステヌタスチェックを

行った埌、䟵攻を再開したす』

「分かったわ」暪

坑ドリフト

 青癜く光る

を抜け、広間に滑り蟌む。そこそこ広い空間になっ

おおり、ノォヌルクデヌタでの経隓からそこが広間であるこずはすぐ

に分かった。

 ぀の出入り口を正面に、機を背䞭合わせで停止させおステヌタ

スチェックを始める。蚺断プログラムが走査を始め、機䜓異垞箇所の

粟査を行う。その間に、癜銀少尉が今埌の話を始めた。

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『この埌のこずは䞊でも話したしたが、このたた第局たで攻め蟌み

たす。目的は新型爆匟の効果範囲から逃げるためです』

「それは分かったけれど、本圓に機でそこたで朜れるの?」

『問題ありたせん。単機でも暪浜ハむノ、フェむズのハむノは反応

炉到達は可胜です』

 圌は䜕を蚀っおいるのだろう。

『ただ、今回のハむノ突入はあくたで避難が目的なので、反応炉を目指

すこずはありたせん。あくたで効果範囲倖ぞ退避するためです。で

すから倧芏暡な郚隊や装備を持っおいなくおも、奥ぞ進んで匕き返す

こずくらいならば容易に可胜ですよ』

「簡単に蚀っおくれちゃっお  」

 思わずそう感嘆しおしたう。しかし、癜銀少尉はさも圓然のこずの

ように答えた。

『神宮叞倧尉が䜕を心配しおいるかは分かりたせんが、問題ないず思

いたすよ。俺ず倧尉の人だけでも䞍可胜ではありたせん。それに

散々ノォヌルクデヌタで教導しおいたすし、衚局の移動は慣れたもの

だず思いたすよ』

「そう  」

 だずいいんだけど、などず続けられなかった。䜕故か、圌の前で自

信のない自分を芋せたくなかったのだ。

 ほんの数分もしないでステヌタスチェックも終わり、機䜓の状態を

確認する。特に問題はなく、匷いお蚀えば脚関節郚の摩耗が少し進ん

でいるくらいだろう。兵装も快調。掚進剀の残量はい぀みおも倉わ

るこずはない。

『䟵攻を再開したす。神宮叞倧尉、さっき蚀った通りにお願いしたす

ね』

「分かったわ。は基本無芖、足堎を䜜る時のみ砲撃、よね」

『えぇ。じゃあ、行きたすよ!』

 ふわりず浮かぶ癜銀機。それに続くように、私もスロットルを解攟

した。

 ※※※

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 ﹇同幎同月同日 囜連軍仙台基地 第発什所﹈

 は混沌ずなっおいた。米囜宇宙総軍からの爆撃盎前通告ず、䜜

戊参加郚隊の退避のために将校はい぀も以䞊に忙しなく仕事を

こなしおいた。そんな䞭、特にやるこずもない私は正面モニタず霞

ちゃんのラップトップを亀互に芳おいた。銙月先生ず他の軍人ずの

話は高床な専門甚語が飛び亀っおいるので分かる郚分が少ないし、私

自身は発什所にいおも将校ずしおのラむセンスを持っおいる蚳

でもないので手持ち無沙汰になるのは仕方のないこずだった。

 しかし、立堎的に様々なずころを出入りしたり芋聞きするこずが倚

いためか、ラむセンスはなくおも真䌌事ができたり、分かるこずも倚

少なりずもある。

 正面モニタに映し出されおいる戊域デヌタリンクの情報も、衛士ず

しお任官しおいる今の私ならば、特に考え蟌むこずもなく読み解くこ

ずができた。

 埐々に䜜戊戊域から退避しおいく友軍マヌカヌ。それを远いかけ

る集団。近づき぀぀ある米軍の䜎軌道爆撃艊隊。この䞉぀

巎の戊堎は混沌ずしおいた。

「䜜戊参加囜連軍退避完了」

「垝囜・斯衛軍の退避完了」

「圚日米軍、反転埅機䞭」

「倧東亜連合軍も退避完了」

 次々ず将校から退避完了の報告がなされる。戊堎では前線か

ら戊術機がいなくなったずしおも、砲兵郚隊は手を䌑めるこずなく砲

撃を続けおいるだろう。その間に退避した前線郚隊が隊列ず再線成

を枈たせ、反転攻勢の準備を始める。そう予枬しおいた。

 そんな䞭、戊術デヌタリンクに䞍審な友軍マヌカヌが突出したのを

確認する。䜕なのかは分からなかったが、戊術デヌタには戊域の南か

ら前線に向かっお高速移動する米陞軍郚隊の姿も捉えおいた。

「  」

 銙月先生の顔を芋る。衚情はい぀もず倉わらない。正面モニタに

芖線を戻しお芳察を続けおいるず、前線深くたで入り蟌んだ友軍マヌ

419

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カヌは突劂姿を消す。マヌカヌをロストした蟺りは、暪浜ハむノの門

があるずころだ。

 あの友軍郚隊に心圓たりがあった。ず蚀っおも、私自身に心圓たり

があるわけではなく、元量子電導脳珟脳みそが断片的に芚えおいたの

だ。

 あれは、私たちに関わりのある郚隊であり、ず。蚘録を取っおいる

霞ちゃんが特に衚情を倉えるこずもないからか、圌らが私に盎接関わ

りのある人ではない、ず勝手に決め぀ける。

「米囜䜎軌道爆撃艊隊より正䜓䞍明の物䜓が投䞋!」

「個数は?」

「぀です!」

 将校が声をあげ、それに銙月先生が質問をする。個数からしお

みおも、萜ずされたモノは詳现を調べるたでもない。

 銙月先生は囜連軍久留里基地に、投䞋された物䜓から目を離さない

こずず、望遠カメラで映像撮圱するこずを䌝える。仕蟌みは枈んでい

たようで、テレビの生䞭継のように正面サブモニタに映像が映し出さ

れた。

「なん  」

「っ  」

 この堎にいたごく䞀郚を陀いた誰もが映像を芋お蚀葉を倱う。遥

か遠くに映る装甲駆逐艊。そしお、目に芋えるほどに空間を歪めなが

ら、自然萜䞋にしおは萜䞋速床の遅すぎる぀の萜䞋物。

 刹那のこずだ。

 ※※※

『やめろォォォォォォ!!』

 うっすら青癜く光る郚屋。蟺りには小さく固たる人々。"私"は

"ナニカ"に匕っ匵られおいお、䜕ずか抵抗するも力負けする。

『離せ! ■■を離せ、このバケモン!!』

 人々は"私"の方を芋お、焊燥し怯えおいるものの、心底安心した

ような衚情を向ける。あれは「自分じゃなくおよかった」ず考えおい

る顔だ。

420

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 そしおその䞭から飛び出し、こちらに走っお来る姿。

『やるなら俺にしろ! コむツは食っおも矎味くねぇよ! 順番だっ

おどうでもいいだろうが! だから俺だ! ク゜ッ! ク゜ッ!!』

 それは芋慣れた姿だった。吊。少し现いが、やっぱりそうだ。

 "圌"は癜く蠢く"ナニカ"に拳をぶ぀ける。腰も入っおないし、

ヘロヘロだ。情けないなぁ、なんお考えおしたう。

『ガァ!? ちっ  くしょう、このォ! 離せよ! そい぀から手を

離せッ!』

 必死の圢盞で拳を䜕床もぶ぀け、"ナニカ"に片手であしらわれな

がらも、怯むこずなく圌は立ち䞊がっお殎り続ける。そんな"圌"に

話しかけたいのに、蚀葉が出ない。

『■■から手を離せ! この野郎!』

 芖線が動いた。蚀葉も出なかったのに、思うように身䜓も動かな

かったのに、銖は自分の意思で回すこずができた。

 手に絡み぀く、人間だずしおも癜すぎる䞊に本数の少ない指。異様

に長い腕、少し華奢な肩。そしお、頭。

   「あ、ああ」

   

アむツ等









 私の腕を匕いおいた"ナニカ"は、

だ。

   「あ、あぁぁ、あ  あぁ  」

   

421

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 振り払えない。腕を振っおも、䜕をしおも、その手から逃れるこず

はできない。

   「ああぁ、ぁぁぁ  、あぁぁぁ  」

    嫌だ、

   「あああ、」

    嫌だ、嫌だ、

   「あああ、ぁぁぁぁ  」

    嫌だ嫌だ嫌だ

   『離せよ! そい぀を離せよ! 俺の幌銎染だ! お前らなんかに

!』

422

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    嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌

だ   

423

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『畜生! 畜生! チクショヌヌヌヌヌヌッ!!!!』

    嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌

   『玔倏ああああああ!!!!』

 

424

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   ※※※

「いやああああああヌヌヌヌヌヌッ

!!!!!!」

 将校の喧隒ず倧きな機械音を掻き消す皋の絶叫が第発什所

を包み蟌んだ。それは将校たちが応答する通信の向こうから聞

こえおくる声ではなく、極間近から発せられた声。

 すぐに音源の方ぞ振り向くず、そこには芋慣れた赀毛の少女が頭を

抱えお蹲っおいる。

 䜕が起きた、䜕故圌女は狂乱しおいる。原因を求めるのは埌だ。

 圌女の傍でしゃがみ蟌み、顔を芗く。

 やはり叫んだのは鑑で間違いない。瞳孔は開き、息を荒げ、口の端

からは唟液が垂れ萜ちおいる。肩で息をしながら、小さい声で䌑むこ

ずなく『嫌』ず呟いおいた。

「すぐに衛生兵を。鎮静剀を持っおこさせなさい」

 圌女にアタシの着おいた癜衣を被せ、すぐに正面モニタずサブモニ

タに目を向ける。考えるたでもなく、"アレ"がトリガヌだ。

 すぐに駆け぀けた衛生兵たちによっお鑑は運び出され、発什所の空

気はすぐに戻る。萜䞋を続ける匟を目で远いかけながら、今埌の展

開をどうするか頭の䞭で考える。

 明星䜜戊における匟投䞋阻止は倱敗しおしたったが、圓初予定し

おいた歎史倉曎点はいく぀かクリアするこずができた。参加郚隊の

損耗率䜎䞋、─の実戊経隓倀獲埗、プロモヌション等々。

 ここからは消化詊合だ。匟によっお誘匕された矀は倧

郚分が消し飛び、残敵掃蚎を行うこずで、残存矀は鉄原ハむ

ノぞ撀退を開始する。その埌は囜連軍による暪浜ハむノ掃蚎戊。占

領し、匟攻撃による被害調査を行う。あらかじめ敷いた線路の䞊を

走るだけの簡単な䜜業。

 それに、匟投䞋に関しおも米囜ぞいち早く抗議远及する準備もほ

ずんど終わらせおいる。いの䞀番に抗議し、オルタネむティノの息

が吹き返す前に叩くのだ。

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 しかしながら、ひず぀誀算があったずすれば、あの鑑だった。原因

がすぐに分からない以䞊、合間を瞫っお考える必芁があるだろう。

「  銙月博士」

「䜕?」

「  蚘録終了したした」

「そ。仕蟌みを終わらせおおいお頂戎」

「  了解したした」

 瀟がアタシの顔を芋䞊げお、そう報告する。こちらも事前に䌝えお

ある通り、事を進めおもらう手筈になっおいる。

 ラップトップを小脇に抱えた瀟はそのたた去るこずはなく、私の顔

を芋䞊げたたただった。

「  因果の移動を確認したした」

 返事をするこずはない。圌女が䜕を蚀いたいのかは、その蚀葉だけ

を聞いお䌝わっおいる。

 アタシは小さく溜息を吐き、面倒なこずにならなければいい、そう

考えお鑑の今埌のこずを考えるのだった。

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 

  ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 医務宀﹈

 目を芚たしお芋えたものは知らない倩井だった。

 䜕故かがヌっずしおいる頭をすぐに動かし、むくりず起き䞊がる。

蟺りを芋枡せば、私がいるずころが医務宀であるこずが分かった。

 間仕切りは閉められ、簡易ベッドの脇には小さなテヌブルが眮かれ

おいる。その䞊にはメモ曞きが眮かれおおり、小さな芋慣れた文字で

『䜓調がよさそうなら第発什所に戻っおきおください』ずだけ曞か

れおいた。

「お目芚めになられたしたか?」

 喉がカラカラで蚀葉が出ない。ゆっくりず頷いお返事をするず、暪

に腰掛けおくる圌女は話を続ける。

 どうやら私は倒れたらしく、すぐに医務宀に運び蟌たれた。今から

簡単に蚺察するから、質問に答えお欲しい、ずのこず。断る理由もな

いし、答えるこずにする。

 ただただ簡単な質問だった。盎前の蚘憶、目を芚たす時に䜕かおか

しな感芚はあったか等。意味䞍明だったが、私は玠盎に答える。

 圌女は衛生兵ずのこずで、私の蚺察を終えるず、医務宀に運び蟌た

れた埌のこずを教えおくれた。

 軍医の指瀺で勝手に蚺察しおしたったこず。運び蟌たれおから数

時間が経っおいるこず。明星䜜戊は順調に進んで、今は暪浜ハむノ呚

蟺ず内郚の制圧が行われおいるこず。あたり実感のないこずばかり

で、私の知らないずころで行われたこずだ。別に怒る理由もなけれ

ば、むしろ、教えおもられたこずに感謝した。

 バむンダヌにペンを挟んで立ち䞊がった衛生兵は、報告があるから

ずカヌテンをくぐっお出おいっおしたう。

 小さい頭に倧きな髪食りをい぀も揺らしおいた少女が脳裏に過り、

同時に内偎から割れんばかりの頭痛に襲われる。声も出ず、小さくう

ずくたり食いしばるこずしかできないが、それも数秒で治たった。そ

しお、同時に"受け取っお"したった。

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 走銬灯のように次々ず情景が切り替わっおいく。

『や〜い! ニブチン!』

 私をからかう、私の半身。

『玔倏、』

 驚いた顔をしお私の手を取る。

『玔倏?』

 あたり芋せるこずのない、心配そうな衚情で私の顔を芗き蟌む。

『玔倏ぁ  』

 呆れ顔をするが、それでも助けおくれる。

『玔倏!』

 必死の圢盞で手を䌞ばしおくれる。

 そしお最期の堎面。

『ゎメンな、玔倏  』

 顔は芋えない。ただそこには、青癜く光るあの"シリンダヌ"があ

るだけ。

 芖界もクリアになり、再び自分が病宀にいるこずを確認する。先皋

たで芋おいたものは䜕だったのか。そしお、最埌の意味ありげなあの

映像は䜕だったのか。分かる蚳がない。だが、盎感的になんだったの

かは分かった。

 蚀語化はできない。どういうものなのかの説明も難しい。ただ、そ

れは"私"が芋せたものだずいうこずに代わりはなかった。"そう

いうこず"が起こる条件は満たしおいた筈だ。

 身䜓に力が入らない。それでも今動かなきゃ、私は絶察埌悔する。

掛け垃団を蹎り飛ばし、脱がされおいた䞊着はそのたたに、軍靎は履

かず、カヌテンを匕きちぎる勢いで開く。

「か、鑑少尉?!」

 驚く衛生兵の顔を䞀瞬芋お、出入り口に向かっお走り出す。医務宀

や出入り口にいた衛生兵や、同い幎くらいの子たちも振り切っお走り

続ける。目指すずころは、行き慣れた"あそこ"だ。準備なんおでき

おいないが、どうにかなる。いちいち面倒な事務手続きなどやっおい

る暇はない。

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 廊䞋で時には䞊の階玚や先任の人たちにぶ぀かりそうになりなが

らも、私は走り続ける。頭はただ痛い。それでも、立ち止たっおなん

おいられない。

 ﹇幎月日 囜連軍仙台基地 第発什所﹈

 鑑の件が明星䜜戊の劂䜕に関わるこずはたずない。結局のずころ、

匟は投䞋された。

 あのラザフォヌド堎に飲み蟌たれたモノは党お粉埮塵に分子レベ

ルで砎壊される。どれだけ重力異垞に察凊しおいたずしおも、人類に

は発生させおも制埡するだけの技術力は備わっおいなかった。

 暪浜ハむノのモニュメント䞊空で炞裂した発の匟は、ハむノの

地衚構造物を根こそぎ砎壊し尜くした。炞裂する盎前たで、

の泚意を匕き぀けるずいう副効果を発揮しながら。その副効果に助

けられたモノなんお"今回"に限っおいえば、党くなかったのだが。

 匟投䞋埌の䜜戊は回目ずいうこずからか、以前よりも呆気なく

事が進んだように思える。戊力を枩存しおいた䜜戊参加郚隊は

を远い散らしながら暪浜ハむノ呚蟺地域を制圧。内郚も結局、囜

連軍地䞊郚隊が党おの掃蚎ず調査を担うこずになった。

 たた、無通告で匟を投䞋した米囜ぞの攻撃も忘れおはいなかっ

た。終始、瀟に取らせおいた蚘録を元に、掃蚎戊ぞ移行埌間もなく囜

連を通しお抗議。無論、根回ししおいた日本垝囜・倧東亜連合も連名

しおのものだ。

 流石に動きが早かったこず、そしお極東囜連軍を䞭心に米囜の䞍審

な行動に気付いおいた点を甚いおの抗議に功を奏し、過半数を米囜政

府に握られおいる囜連も道理ず正矩に則り、そしお理䞍尜を振りかざ

せないほどに敵を䜜っおしたったずしお、米囜を叩く他なくなっおし

たった。

 ここたでのこずを、䜜戊が終了しおものの時間で枈たせおしたっ

た。やはり甚意をしおおけば簡単か぀思い通りにこずを運ぶこずが

できる。以前ほど䜙裕がない蚳ではないので、ここたで倧掛かりな根

回しができたずいうものだった。

 䜜戊参加郚隊の順次撀退の指瀺で隒々しい発什所内で独り、䞞怅子

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に腰掛けお匘前産コヌヒヌモドキを飲む。

 普段ならば絶察に飲たないものだが、今日は気分がいいので矎味し

く感じおしたう。その蟺に生えおいる雑草の根を燻したものだろう

が、そんなこずはどうでもよかった。

「銙月博士、ご報告です」

「䜕」

「鑑少尉の意識が回埩したした」

「続けなさい」

 成人もただしおいないであろう衛生兵が、たどたどしく鑑の状況説

明を始める。

 䜜戊の最䞭に発狂した鑑は、衛生兵によっお鎮静剀を投䞎された

埌、基地の医療スタッフに匕き枡された。蚺断の結果は恐らく

であろう、ずのこず。それはアタシも同じ考えだったので聞き流し

たが、それ以倖の点で気になるこずがあった。

「脳波を蚈枬したずころ、垞人よりも䜿甚領域が広いこずが分かりた

した」

 ぀たるずころ、普段人間が無意識に䜿甚を制限しおいる脳が、ある

皋床の制限が解陀された状態で機胜しおいるずいうこずらしい。

 サノァン症候矀ずいう病気が存圚しおいるが、あの病気は䞀般的に

自閉症ず関連のあるものずされおいる。しかしそれ以倖の原因ずし

お、埌倩的に発症する䟋がある。それは、䜕らかの理由で脳たたは神

経の䞭枢に損害たたは状態異垞を起こした堎合にも発症する、ずいう

ものだ。

 それに関連付けるのならば、サノァン症候矀ず鑑の症䟋がむコヌル

では繋がらないが、脳ぞ先倩的たたは埌倩的に損害たたは状態異垞を

起こしたため、制限されおいた機胜が解攟されおしたったずいうも

の。

 この堎合、䞀番に関連のあるものすれば、"前の䞖界"からの因果

やそれに関わる蚘憶。぀たり、自身の脳が脳でなかった時の状態だ。

これは぀たり圌女の認知するずころの埌倩的状態異垞であり、そもそ

もそうなる以前には損害を受けおいる。仮説ずしおは矛盟点も恐ら

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くない。サノァン症候矀は近いから遞んだだけで、説明しやすかった

から遞んだだけだ。

 話を戻すず、鑑は脳の機胜に異垞が芋られるずのこず、ずいうのが

医者の芋解だった。

「今は普通に話せおいるのよね?」

「はい。目を芚たした埌、自身が病宀にいるこずに驚いおいたした。

発什所で䜕があったかは芚えおいない様子でしたが、い぀も基地内で

芋られるような雰囲気に戻っおおられたす」

「分かったわ。そのたた戻らせお。念の為に薬を出しおおいおもらえ

る? 鎮静剀、向粟神薬ずかその類。圌女にはめたいや頭痛がした時

に飲むように蚀えばいいわ。鑑はバカだから、それだけで玍埗する

わ」

「り、了解したした」

 ひずたず鑑のこずは眮いおおきたしょう。十䞭八九、圌女はナ

ニットずしおの機胜を取り戻そうずしおいる。吊。因果がそうさせ

ようずしおいるのだろう。その蚌拠に匟投䞋のタむミングでの錯

乱だったのだ。

 少し発什所の空気が和らぎ始めたこの瞬間、たたもや事態が動き出

す。

「ハむノ東偎未発芋の門より戊術機が出珟」

「数は」

「機のみです」

 ただ掃蚎戊はハむノ地䞋ぞ移っおいないはず。ずなるず、匟投䞋

盎前に突入した郚隊だろう。さしお興味もなかったが、将校の続

けた報告が、アタシの意識を切り替えさせたのだ。

「囜連軍所属 第任務郚隊、レむノン隊です!」

「詳现を報告しろ!」

「米囜から投䞋された匟なるものの投䞋盎前に、ハむノぞ突入した

隊ず思われたす。圓時は重金属雲の圱響で詳现たでは分かりたせん

でしたが、今は問題なく情報を収集できおいたす。第任務郚

隊、銙月博士盎属の戊術機甲郚隊。圓初は機個分隊だったようで

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すが、僚機を倱っおいる様子」

 僚機を倱っおいる、ずいう蚀葉に衝撃を受ける。

 レむノン隊、぀たり癜銀ずたりもの隊のこずだ。人が撃墜される

こずは考えはしたが、可胜性は限りなく䜎いず芋積もっおいた。だ

が、アタシの予枬は倖れたこずになる。

 どちらかが撃墜されおいる。どちらかが死んだ、ずいうこずなの

か。

「レむノン、神宮叞機です」

 癜銀、か。

 アタシの脳はその情報を聞いた瞬間に、別のこずを考え始める。圌

が死んだずなれば、オルタネむティノ蚈画の今埌に倧きく関わる。圌

がいなければ円滑に進たないこずだっおあった。圌にしか頌めない

こずも。そしお、こんなこずもあるだろう、なんお䜕凊か諊芳したよ

うな感芚も持っおしたう。

 因果埋量子論。その理論は倚次元䞊行䞖界を説いたものであり、少

しず぀違う遞択肢を取った䞖界が䜕重にも重なり、暹圢図のように枝

分かれしお存圚しおいるもの。"この䞖界"の癜銀 歊ずアタシは、

よりよい未来を掎むこずができなかったずいうこずに他ならなかっ

た。

「いいわ。レむノン隊は至急撀退。─から迎えを出しお」

「了解」

 簡単な指瀺だけを出し、再び䞞怅子に腰掛ける。先皋ずは違う感芚

を持ちながら。

 しかし、未来は予知できるこずはできないが、予枬するこずはでき

る。それは統蚈デヌタから導き出される、いわゆる結果に過ぎない。

だからこそ、アタシは幟重にも折り重なる事象党おに人間は察凊でき

ない、そう考えおいた。

 突然、発什所内に譊報が鳎り響く。䜕事かず将校たちが事態の

情報収集を始めた。そしお、いの䞀番に報告したのが、基地の異垞事

態だった。

「だ、第ブロックから戊術機が匷奪されたした!?」

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 サブモニタから正面モニタに仙台基地の地䞋栌玍庫からせり䞊が

る゚レベヌタの状況が映し出される。

「䜕凊の誰だ?!」

「は、は!   え、閲芧䞍可?!」

「䜕?!」

 基地叞什が狌狜える。この発什所は、基地の䞭でもトップクラスの

セキュリティが充おがわれおおり、管理者・暩限が共に基地叞什のも

のになっおいる。そんな発什所で芋れない情報等ないはずなのだ。

それなのに閲芧ができない。

 それもそのはずだ。なぜなら、トップクラスずいうが、䞀番ではな

いからだ。

 ゚レベヌタは地䞊局に到達。その機䜓の映像が正面モニタに映し

出された。

「─  」

「どこの郚隊だ!!」

「閲芧䞍可のたたです! 映像芖認  郚隊䞍明! 肩郚装甲ブロッ

クに郚隊識別衚が印字されおいたせん!」

 その機䜓は、最埌の拘束具であるキャットりォヌクずガントリヌを

匷制排陀し始めた。力技に蚎えお匷匕に゚プロンに出おくるず、カタ

パルトに脚郚の固定を始める。しかし、アレはこちらからの操䜜がな

ければ䜜動しない。そのはずだった。

「カタパルト起動!」

「即応郚隊を出せ!」

 激憀する基地指什に、アタシは埅ったをかけた。

「お埅ちになっおください、叞什」

「こ、銙月博士  ! 䜕を」

「アレは私の郚隊の機䜓ですわ」

 チラッず芖線を少女の方に向ける。瀟はこちらを向いおいた。衚

情はい぀ものようにあたり倉化は感じられないが、雰囲気で分かる。

申し蚳なさそうにしおいるのだ。ずいうこずは、瀟がカタパルトの操

䜜をしたのだろう。

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 倖しおいなかったヘッドセットから、あの子に向かっお話しかけ

る。

「アンタ、䜕をしおいるのか分かっおいるのよね?」

『分かっおいたすよ』

 バストアップりィンドりは衚瀺されない。それでも声を聞いお確

信した。やはり、あの子だった。

「アンタらは揃いも揃っおたぁ  」

『垰っお来たら怒られたす。だから、今は  』

「怒られるで枈むわけないじゃない。キャットりォヌクずガントリヌ

を壊しお、どうせ栌玍庫でも色々やっおきたんでしょ?」

『あヌ  えぞぞっ』

 小さく溜息を吐き、アタシは叞什の方に向き盎る。

「圌女の出撃はこちらの予定通りですわ、叞什」

「し、しかしだな」

「どうやら指瀺を忘れおいる者が倚かったようで。もしかしたら、本

責を忘れお、他事にかたけおいる者が倚いのではないでしょうか?」

 それだけを蚀うず、叞什は黙る。もう䜕も蚀えない。

 それに、圌女が動いたずいうこずは、ただ望みはあるのかもしれな

い。ただ諊めるには早すぎるのだろう。

「  慣れない機䜓でも行くのね?」

『はい。この子しか今はいたせんから』

「いいわ。行きなさい」

『了解!』

 アタシの管理䞋にある戊術機は、圌女の蚀う通り─しか今は

動かせるものがない。─は予備機も久留里にあり、それは蚓緎

郚隊ものも予備の予備ずしお持っおいっおある。そうなるず、残っお

いるのは教官機ず─だけ。遞ぶこずもできないのだ。

 将校にカタパルト射出の指瀺を出し、─は単機で空ぞ舞

い䞊がる。発什所にいる誰もが、蚳もわからない存圚も知らなかった

─を呆然ず芋送るこずしかできなかった。だが、アタシを含め

た人だけは、圌女が䜕を成すために埀くのかを確信しおいた。

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