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国際会計基準の導入と分配規制の変革 ―イギリスとオーストラリアを事例として― 河内山 International Financial Reporting Standards and Dividend Restrictions in Corporate Law : Cases of the United Kingdom and Australia KOCHIYAMA, Takuma Abstract This paper discusses how the adoption of International Financial Reporting Standards IFRS affects the role of dividend restrictions in corporate law. While corporate law has been restricting companies’ ability to pay dividends on the basis of their financial statements, the efficacy of such regulations depends on the accounting standards and methods by its nature. In this respect, it has been concerned that the adoption of IFRS in particular, application of fair value measurements vitiates creditor protection that intended in the dividend restrictions. The UK and Australia have changed their ways to assess companies’ ability to pay dividends in accordance with the adoption of IFRS. This paper argues their legal reforms and provides additional insights into the relationship between accounting standards and corporate law. Key Words International Financial Reporting StandardsIFRS, dividend restrictions, corporate law, fair value measurements, creditor protections キーワード 国際会計基準,分配規制,会社法,公正価値測定,債権者保護 はじめに 分配規制の役割,類型,企業会計との関係性 イギリスにおける分配規制と IFRS の受容 オーストラリアにおける分配規制と IFRS の受容 日本への示唆―結びに代えて― 49

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国際会計基準の導入と分配規制の変革―イギリスとオーストラリアを事例として―

河 内 山 拓 磨

International Financial Reporting Standards and Dividend Restrictions in Corporate Law :

Cases of the United Kingdom and Australia

KOCHIYAMA, Takuma

Abstract

This paper discusses how the adoption of International Financial Reporting Standards( IFRS)

affects the role of dividend restrictions in corporate law. While corporate law has been restricting

companies’ ability to pay dividends on the basis of their financial statements, the efficacy of such

regulations depends on the accounting standards and methods by its nature. In this respect, it has

been concerned that the adoption of IFRS ― in particular, application of fair value measurements ―

vitiates creditor protection that intended in the dividend restrictions. The UK and Australia have

changed their ways to assess companies’ ability to pay dividends in accordance with the adoption of

IFRS. This paper argues their legal reforms and provides additional insights into the relationship

between accounting standards and corporate law.

Key Words

International Financial Reporting Standards(IFRS), dividend restrictions,

corporate law, fair value measurements, creditor protections

キーワード

国際会計基準,分配規制,会社法,公正価値測定,債権者保護

目 次

Ⅰ はじめに

Ⅱ 分配規制の役割,類型,企業会計との関係性

Ⅲ イギリスにおける分配規制と IFRSの受容

Ⅳ オーストラリアにおける分配規制と IFRSの受容

Ⅴ 日本への示唆―結びに代えて―

49― ―

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Ⅰ はじめに

商法・会社法は,債権者保護を目的として会社が作成する貸借対照表を基礎に「維持すべき資

本」と「分配可能財源」とを一定のルールに従って峻別してきた1)。すなわち,債権者のための

引き当ての部分と株主への分配可能な部分とを区別することにより,両者の利害を調整し,有限

責任である株主から債権者の利益を保護することが意図されてきた。

本論文では,こうした会社法の分配規制2)について国際会計基準(以下,IFRS)3)の導入がどの

ような影響を及ぼすかを考察し,日本の会計制度の今後についての示唆を得ることを目的とす

る。こうした検討を行なう背景には,大きく2つの問題意識がある。

第1に,企業会計の国際的調和化の流れが挙げられる。日本では,1990年代後半より国際的

な会計基準へのコンバージェンスが本格化し,これ以降,基準設定機関の主たる活動は国際的な

会計基準との差異を解消することにあった。とくに,2009年6月に公表された「我が国におけ

る国際会計基準の取り扱いについて(中間報告)(案)」では一定の要件を満たす会社について

IFRS(指定国際会計基準)に従った連結財務諸表の作成を許容すべきであることが報告され,

10年3月期より IFRSに準拠した連結財務諸表を作成することが可能となった4)。これにくわ

え,近年では「我が国に適した IFRS」の作成が進められ,15年6月には修正国際基準(JMIS)

が公表されるに至った5)。

こうした会計基準の国際的調和化に伴う企業会計の変革は,会社法規制である分配規制にも影

響を及ぼす可能性が高い。これは,分配規制が会社の作成する個別計算書類の会計数値に依拠し

ているためであり,したがって,分配規制が持つ役割は会計数値をどのように測定するかに依存

する側面があるためである(伊藤,1996)。事実,IFRSを先行導入した欧州連合諸国(EU諸国)

では,個別財務諸表への IFRS導入にあたり会社法改正あるいは制度的対応を実施した国が確認

1)本論文における「維持すべき資本」とは,商法・会社法が債権者保護を図るうえで会社に維持・拘束を命

じる資本金や法定準備金のことを指す。また,「分配可能財源」とは,株主への分配(配当や自社株買い)

に利用することができる商法・会社法上の金額を指す。なお,現行会社法で「分配可能額」と呼ばれるもの

がこれに該当する。

2)本論文で述べる「分配規制」とは,分配可能財源の算定ならびに分配の実施にあたって満たさなければな

らない条件に関する法規定を指す。すなわち,株主に対する会社財産の分配を制限する法律上の規定であ

り,従来,配当規制と呼ばれていたものである。

3)本論文では,国際会計基準委員会(IASC)および国際会計基準審議会(IASB)によって作成された国際会

計基準(IAS),国際財務報告基準(IFRS),およびこれら基準の解釈指針の総称として「国際会計基準」

(IFRS)という言葉を用いる。

4)「連結財務諸表の用語,様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(2009年12月)を参

照。

5)企業会計審議会(2013)「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針(案)」(2013年6

月公表)および企業会計基準委員会(2015)「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修

正会計基準によって構成される会計基準)の公表にあたって」を参照。

亜細亜大学経営論集 第51巻第1・2号合併号(2016年3月)50

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されている(弥永,2012;河内山,2013)。また,日本でも2012年7月に公表された「国際会計基

準(IFRS)への対応のあり方についてのこれまでの議論(中間的論点整理)」において,「単体

財務諸表については,会社法,税法,その他の規制等との関連に配慮が必要となる」(p.9)こと

が述べられ,IFRS導入にあたっては関連諸規制への影響に配慮すべきとしている。

第2に,近年,あるべき分配規制の再構築に対する関心が高まっていることが挙げられる。日

本では,平成13年6月商法改正を嚆矢とする一連の法改正により,分配規制に期待される役割

が大きく変容してきた。とりわけ,会社法施行に際して法務省民事局員(当時)であった郡谷

氏・岩崎氏は,「現行法の�資本�は会社財産の維持機能を有しておらず,したがって�資本�

の会社財産の維持機能を前提としなければ債権者保護との関係を導き得ない資本の各原則を強調

せず,これらが債権者保護との関係で役割を果たしているとは考えない」(郡谷・岩崎,2005a :

p.42)と述べ,現行の分配規制に債権者保護法制としての積極的な役割を見い出すことは困難で

あるという見解を示している。この一方で,これを改正しない理由については,「貸借対照表を

基準とすることに積極的な意義を見出すというよりも,これに代わる有効な払戻規制の方法を現

時点では構築しがたいという事情の方が大きい」(郡谷・岩崎,2005b : p.22)と説明し,有効な

分配規制のあり方を検討していくことの必要性を説いている。

また,企業会計の国際的調和化という文脈において,伊藤(2013: p.23)は「現行の分配規制

が次善なものとして,あるいは慣行的に設けられてきたきらいがなくもなく,IFRSをめぐる議

論を契機として今後あるべき分配規制のあり方についての本格的な論議を盛り上げていくべきで

ある」と論じている。同様に,弥永(2009),久保(2012)や秋葉(2013)などもまた,企業会

計の国際的調和化を背景に会計数値に依らない支払能力テストやアメリカで採用されている財務

比率に基づく分配規制を導入することの可否について言及している。

本論文では,これら2つの問題意識に立脚し,IFRS導入が会社法の分配規制にどのような影

響を及ぼすかを検討していく。とりわけ,本論文では,IFRSをすでに分配規制目的で利用して

いるイギリスとオーストラリアの2カ国に注目し,IFRS導入に際して各国会社法がどのように

変容したか,また制度上の対応はどのようなものであったかについて考察し,日本への示唆を得

ることを狙いとする。

本論文の構成は以下の通りである。第2節では,分配規制の役割,類型および企業会計との結

び付きについて整理を行ない,問題の所在を明らかにする。第3節ではイギリスにおける,そし

て,第4節ではオーストラリアにおける IFRSの受容および分配規制上の対応について考察す

る。第5節では日本への示唆について述べ,結びとする。

Ⅱ 分配規制の役割,類型,企業会計との関係性

1.分配規制の役割

分配規制とは,配当などの会社財産の分配を制限する法規制である。こうした分配制限の必要

51国際会計基準の導入と分配規制の変革

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性は,株主にとって望ましいタイプの企業行動と債権者にとって望ましいタイプの企業行動が異

なることに由来する。これは,両者が持つ請求権が異なることに起因するが,株主―債権者間の

利害対立が最も顕在化する状況の1つが企業の分配をめぐってである。会社財産の分配は,株主

にとってキャッシュ・イン・フローの増加を意味するが,債権者にとっては債務履行に充てられ

る会社財産の減少を意味する。そのため,分配による会社財産の流出は,債権者が抱える債務不

履行リスクを少なからず高めることから,債権者にとって好ましいものではないとされる6)。

こうした利害対立があるなか,多くの先行研究では,分配制限は株主―債権者間の利害調整な

いし債権者保護を図るうえで重要な役割を担うことが論じられてきた7)。たとえば,分配制限の

必要性について,伊藤(1996: pp.13―14)は,「株式会社では,株主は自己の出資額を超えて会

社債権者に対して責任を負わないため,債権者にとっては会社の財産だけが唯一の担保である。

そのため次のような債権者の保護措置が必要になる。第1に支払不能ないし破産に陥る危険性な

いし可能性そのものをできるだけ少なくすること。第2に仮に支払不能ないし破産に陥ったとし

ても,債権者がこうむる損失を最小限に食い止めることである」と論じている。換言すれば,有

限責任である株主に対して債権者は会社財産のみが頼りとなることから,分配を事前に制限する

ことにより会社倒産を防止しまた会社財産の保全を図る必要があるということである。

2.分配規制の類型

では,こうした債権者保護を図るうえでどのような分配規制があるのだろうか。ここでは,伊

藤(1996)および猪熊(2009)を参考に分配規制の類型について整理を行なう。表1は,分配規

制の諸類型をまとめたものである。

支払不能禁止基準では,会社が債務不履行の状態にあるかが分配可否の基準となるため,必ず

しも会計数値が規制目的で明示的に利用されるわけではないことに特徴がある。他方,資本減損

禁止基準と留保利益基準は,貸借対照表の純資産を基準とする点で共通し,法定資本額を債権者

6)とくに,株主あるいは会社が負債または保有資産の流動化によって調達した資金を分配する場合,当該会

社は債権者にとって「抜け殻」となり,貸出債権の回収可能性は著しく低下することとなる(Leuz et al.,

1998)。

7)たとえば,中村(1969),安藤(1985),吉原(1985),伊藤(1996)などが挙げられる。

表1.分配規制の諸類型

類 型 内 容

① 支払不能禁止基準会社が支払不能の状態にあるか,または,当該分配によって支払不能となる場合には,分配を行なってはならないとする。

② 資本減損禁止基準 分配可能財源を貸借対照表上の純資産から法定資本額を控除した残額である剰余金とする。

③ 留保利益基準 分配可能財源を留保利益(利益剰余金),すなわち未分配の蓄積利益とする。

④ 期間利益基準 分配可能財源を当期またはそれ以前の特定の会計期間における純利益とする。

⑤ 財務比率基準 分配後の財務比率(流動比率など)について規定を定め,これにより分配の可否・金額を定める。

出所:伊藤(1996: pp.32―34)および猪熊(2009: p.101)を参考に筆者作成。

亜細亜大学経営論集 第51巻第1・2号合併号(2016年3月)52

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に対する債務弁済のための安全弁あるいはクッションとしている。両者の差は資本剰余金の分配

可否にあり,前者では資本剰余金は分配可とされる一方で,後者では分配不可とされる。

期間利益基準は,損益計算書に計上される(あるいは計上された)純利益を分配可能財源と

し,当期純利益さえあればそこからの配当を認めるという比較的に緩い分配規制であると言える

だろう。また,財務比率基準は,会社の分配後の流動比率などについて一定の基準を設け,それ

を上回る限りにおいて分配を認めるとするものである。

これらの分配規制の類型にあって,日本では,貸借対照表の純資産を基準とした分配規制が採

用されてきた。現行会社法では,分配可能財源を構成する要素として「剰余金」が明記されてお

り(第461条第2項),この「剰余金」はその他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額である

ことが規定されている8)。そのため,上記類型に従って述べれば,現行分配規制は資本減損禁止

基準に該当すると考えられるだろう9)。

3.企業会計との結びつき―分配規制が抱える根源的問題―

貸借対照表の純資産額を基準とする分配規制は,純資産を債権者のための引き当ての部分と株

主への分配可能な部分とに区別することで,両者の利害を調整し,債権者の利益を保護すること

が意図されている。現行会社法では,純資産における剰余金を株主にとっての分配可能な部分

(分配可能財源)とする一方,資本金や法定準備金を債権者のために維持・拘束しておくべき部

分(維持すべき資本)としており,いわゆる資本制度に基づいた分配規制が採用されている。し

かしながら,こうした分配規制は企業が作成する貸借対照表に基づくため,そこで期待される債

権者保護は資産および負債をどのように評価するかによる影響を受けることとなる(伊藤 ,

1996)。この点を検討するうえでは,まず,資本制度に基づく分配規制が抱える問題点について

触れておく必要があるだろう。

資本制度に基づく分配規制について,これまで多くの論者がその問題点ないし限界を指摘して

きたが10),これは大きく2つに分けることができると考えられる。ひとつは,維持すべき資本の

「金額」に係る問題である。債権者保護を第一義的に考えた場合,資本制度はこれにふさわしい

だけの資本金等を債務弁済のクッションとして設定することを命じるべきであると考えられる。

8)厳密には,会社法第446条第1号および会社計算規則第149条において,【資産の額(イ)+自己株式の帳簿

価額(ロ)-負債の額(ハ)-資本金および準備金の額の合計額(ニ)】-【(イ)+(ロ)-(ハ)-(ニ)-その他資

本剰余金の額-その利益剰余金の額】といった剰余金の計算方法が規定されている。

9)平成13年6月商法改正により,その他資本剰余金が分配可能財源に含められることとなった(改正後商法

第289条第2項および商法施行規則第70条)。その他資本剰余金は減資差益や資本準備金減少差益など払込

資本の取り崩しから生じるものであるため,現行会社法のもとでは留保利益のみが分配可能財源を構成する

わけではない。したがって,日本では同商法改正を契機に留保利益基準から資本減損禁止基準に移行したと

解すことができるだろう。

10)たとえば,吉原(1985),伊藤(1996),安藤(2003),Enriques and Macey(2001),Mülbert and Birke

(2002),Armour(2006),Rickford(2006)などがある。

53国際会計基準の導入と分配規制の変革

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つまり,当該会社の負債額にふさわしいだけの資本金等が維持される必要がある。しかしなが

ら,現実には,会社の負債額は会社および産業ごとによって異なるのが普通であり,また負債額

に比べて維持すべき資本の金額が過少であるケースも少なくない。この場合,資本制度ならびに

分配規制に従って会社内に財産を維持しようとも,維持すべき資本は債務弁済のクッションとし

て機能するには不十分となり,分配規制による債権者保護は限定的なものとなる。

いまひとつは,維持すべき資本の「裏付け」に係る問題である。一般に,債権者の最たる関心

は約定された元本および利息を実際に回収できるかにあるとされる(Armour,2006)。したがっ

て,資本制度が債権者保護に寄与するためには,そこで維持される資本額に相当する会社財産が

債務履行に利用可能なものである必要がある。しかしながら,会社法上,資本金等は会社の目的

のために出資者によって拠出され,かつ,原則として債権者のために維持しておくべき計算上の

金額を意味するだけである(江頭,2002;弥永,2003)。そのため,維持すべき資本は会社が保有

する個々の財産とはまったくの別のものであり,これに相当する財産がどのような形態で会社に

保有されるかについては不明確である側面がある。こうした維持すべき資本と会社財産の齟齬

は,貸借対照表において換価可能性が低い,つまり金銭的価値が見込まれにくい資産が多く計上

される場合にとくに顕著となる。これは,維持すべき資本に相当する資産が十分に計上されてい

る場合であっても,これらが実質的な金銭的価値を持たないのであれば,債権者の利益を保護す

ることにはつながらないためである。

こうした問題点の整理は,資本制度に基づく分配規制の役割は法制度のみならず企業会計によ

る影響を受けることを示唆している。とりわけ,法制度が維持すべき資本に関する「金額」を提

供し,企業会計がその「裏付け」を規定するという関係にあると考えられる11)。事実,昭和37

(1962)年商法改正では,企業会計側からの働きかけにより計上されることになった繰延資産に

ついて分配制限が加えられることとなったが12),これは取得原価主義の導入に伴う裏付けの問題

を債権者保護の観点から解消する試みであったとされる(山下,1962)。また,平成11(1999)

年商法改正では,企業会計審議会主導のもと金融商品の時価評価が導入されたことを受け,当該

時価評価によって生じる評価益を分配可能財源から控除すべき旨が加筆されることとなった13)。

こうした分配規制上の対応は,企業会計の論理に従った資産評価基準の導入により維持すべき資

本の裏付けに係る問題が顕著になったことに対する施策であると考えられるだろう。

4.国際会計基準がもたらす影響―問題の所在―

これまで論じてきたように,分配規制と企業会計における測定基準は相互に密接に関係してい

11)弥永(2003)や尾崎(2004)は,上記の「金額」と「裏付け」という概念をそれぞれ「容器」と「水」と

いう言葉で喩え,従来,商法・会社法は維持すべき資本という「容器」を提供し,これを満たす「水」は企

業会計によって規定されてきたことを論じている。

12)昭和37年改正商法第290条第1項第4号を参照。

13)平成11年改正商法第290条第6号を参照。

亜細亜大学経営論集 第51巻第1・2号合併号(2016年3月)54

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る。それでは,IFRSの導入は分配規制に期待されてきた債権者保護という役割にどのような影

響を及ぼすのだろうか。

先行研究の多くは,IFRSで比較的に重視されている公正価値測定の導入・拡大が分配規制の

役割を損なわせる可能性が高いとして,これを問題視している14)。とりわけ,公正価値測定のも

とでは市場価格や現在価値法(present value techniques)などを用いた資産・負債の再評価が行

なわれることから15),再評価差額として生じる未実現利益の分配および新たな評価技法の適用に

伴う裁量の拡大が懸念されている。

まず,未実現利益の分配について検討しよう16)。公正価値測定のもとでは,当該資産(負債)

の公正価値がその取得原価(発行価額)を上回る(下回る)場合に評価益が認識されることとな

る。評価益は一般に市場価格の変動ないし測定者の見積もりの変化等によって生じるものである

ことから,現金等の貨幣性資産の流入を伴わない未実現の利益である。したがって,こうした未

実現利益を分配原資として払い出すことは,将来に実現すると期待される利益を見込んで,現在

保有している現金を株主に払い出すことを意味する。

こうした分配行動の問題はこれが「資産代替」を引き起こすことにある。すなわち,未実現の

利益を元手に現金を払い出す場合,貸借対照表では現金が減少する代わりに未だ「投資のリス

ク」から解放されていない未実現の利益が資産として計上されることとなる。こうした未実現の

利益は当該資産が実際に売却・現金化されるまで価格変動のリスクにさらされるため,当該企業

の財政基盤は不確実なものとなる17)。とくに,債権者の関心が元本と利子の回収にあるとする

と,債務履行に利用可能な資産を維持すべき資本の裏付けとして拘束しておくべきであると考え

14)たとえば,日本語文献では,弥永(2008,2009,2013),秋葉他(2009),尾崎(2009),秋葉(2013),伊藤

(2013),神田他(2013)などがある。先行研究のなかには,IFRSは投資家・株主への情報提供を主たる目

的としていることから,債権者保護を重視する会社法規制とは理念的に相容れないとする主張がある

(Schön,2006; Lutter,2006)。すなわち,IFRSでは財務報告の主たる利用者として投資家が想定されており,

規制主体などはこの主たる利用者から除かれていることが特に問題視されている(IASB,2010: para.OB2,

OB10)。

15)IASBが2011年5月に公表した IFRS第13号「公正価値測定」では,公正価値は「測定日における市場参

加者の特異でない取引において,資産を売却することによって受け取るだろう価格または負債を移転するた

めに支払うであろう価格」(para.9)として定義される。測定にあたっては,市場価格から企業が保有する自

己データまで幅広いインプットが利用できる一方,信頼性の高いデータを優先的に利用すべき旨が定められ

ている(para.72)。

16)会計基準の国際化という観点から未実現利益の分配に係る問題について論じている研究として,弥永

(2008,2013),久保(2012),秋葉(2013),Ferran(2006),Lutter(2006),Pellens and Sellhorn(2006)な

どが挙げられる。

17)未実現利益の分配可能性について,齋藤(1991,2009)は理論的な説明を行なっている。齋藤教授によれ

ば,金融投資の場合,時価が与えられれば「投資のリスク」から解放されたと考えられるが,未実現利益の

分だけ企業価値が増加せず,また株主への未実現利益の分配が債権価値を減少させる場合には,債権者の利

益が損なわれることとなる。とくに,長期保有を前提とする有価証券などは売却までの値下がりリスクが存

在するため,含み益と同じ分だけ企業価値が増加することはなく,したがって,含み益をあてにした分配は

債権者にとって不利な企業価値の分配となり債権価値を低下せしめることにつながると論じている。

55国際会計基準の導入と分配規制の変革

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られる。そのため,債権者保護を目的とする分配規制の観点からは,不確実な資産と法定通貨で

ある現金とを代替するような分配行為が問題視されるのである。

次に,評価技法の適用に伴う裁量の拡大について検討しよう18)。IFRSでは,レベル別のイン

プットが規定され,観察可能な市場価格が存在する場合にはこれを用いた資産評価(mark-to-

market会計)を,そうでない場合には測定者の見積もりを利用した資産評価(mark-to-model会

計)を行なうことが規定されている。このうち測定者の見積もりを用いた資産評価を行なう場合

には,将来キャッシュ・フローや割引率などを予測し,これらにより計算される将来利益に対す

る「期待」が資本化されることとなる。

分配規制の観点からは,このように測定される資産が債権者保護に寄与するものであるかが論

点となる。先行研究では,債権者は貸出債権の回収可能性に関心を持つため,貸借対照表に計上

される資産については会社清算時の価額が信頼性(ないし検証可能性)をもって保守的に測定さ

れることを選好すると論じられる(Kothari et al.,2010)。したがって,公正価値測定により信頼

性の高いインプット(たとえば,活発な市場における観察可能な市場価格など)を用いた資産評

価が行なわれるのであれば,貸借対照表における資産は清算時の価額を表現し得るため債権者の

情報ニーズに適合したものであると考えることができる。

しかし,公正価値測定ではそこで用いられる評価技法,インプットまた測定のタイミング等に

おいて測定者の選択・裁量の余地が残されていることから,信頼性という債権者が持つ会計情報

ニーズを満たさない可能性がある。たとえば,Kothari et al.(2010)は,mark-to-model会計には

測定者の機会主義的行動および測定モデルの信頼性という2つの点において問題があることを指

摘している。また,首藤(2012)は,公正価値測定では情報優位な測定者による内部情報の伝達

を期待して主観的な見積もりの利用が許容されているが,測定者の見積もりは内部情報の伝達と

いうよりはむしろ機会主義的な利益調整に利用されるケースが多いことを報告している。

そもそも将来予測情報を用いた資産評価は「投資のリスク」から解放されていない利益を資本

化する行為であり,したがって,これにより資産額が増加する(あるいは資産額の減少が抑えら

れる)場合には財務的裏付けのない資産が貸借対照表に計上されることとなる。さらには,こう

した資産価値が測定者の裁量によって機会主義的に算定される可能性があるとすれば,分配規制

によって維持・拘束される資産は債権者にとっての引き当てとして機能しないものになると言え

るだろう。そのため,分配規制の観点からは,こうした資産評価技法の利用および測定者の裁量

の拡大が問題視されている。

5.小括

これまでの議論から,IFRS,とくにそこで重視される公正価値測定の導入が分配規制に期待

18)この点を指摘する研究としては,伊藤(1996),久保(2012),Ferran(2006),Pellens and Sellhorn

(2006),Rickford(2006),Schön(2006)などが挙げられる。

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される債権者保護という役割に影響を及ぼす可能性が高いことが確認された。とりわけ,分配規

制が債権者保護法制として有効に機能するためには,これに資するだけの資産が十分な「金額」

と財務的「裏付け」をもって会社内に維持・拘束される必要があるが,公正価値測定が導入・拡

大する場合にはこうした「裏付け」に係る問題が深刻化する可能性がある。

それでは,IFRSをすでに分配規制目的で利用している国はどのようにして IFRSを受容したの

か。また,その際の制度的対応は何であったのか。以下では,イギリスおよびオーストラリアを

日本にとっての「すでに起こった未来」(伊藤,1996: p.3)として位置づけ,検討していく。

Ⅲ イギリスにおける分配規制と IFRSの受容

2002年7月に公布された IAS規則(EC Regulation No.1606/2002)19)を背景に,イギリス会社

法は04年11月に改正され,現行法である2006年会社法(Companies Act2006)では上場企業

および非上場企業(慈善会社を除く)の個別財務諸表に IFRSを適用することが認められること

となった(第395条)。これにより,分配規制目的において IFRSに準拠した個別財務諸表を利

用することが容認されることとなった20)。しかし,この一方で,分配規制に係る条文に変更はな

く,従前の分配規制が依然として現在も採用され続けている。これは,イギリスでは分配規制の

実質的な内容がこれまで会計士協会などの実務家に委ねられてきたことに依ると考えられる。こ

の点を検討するうえでは,イギリスの分配規制の歴史を振り返ることが有用であろう。

慣習法国として位置づけられることの多いイギリスでは,従来,分配可能財源の算定について

は裁判所の判例に依るところが大きく,会社法では「配当は利益から以外には支払われてはなら

ない」(1948年会社法第1附則表 A)という旨が定められているだけであった(Yamey,1962)。

しかし,債権者保護の観点からこうした分配規制のあり方について疑問が投げかけられてきたこ

と21),また,1978年12月までに国内法化を要求する EC第2号会社法指令が公布されたことを

19)欧州委員会が公布した IAS規則では,第1に,2005年1月より域内の上場企業について「国際的な会計

基準」に準拠した連結財務諸表の作成が求められることとなった(Article4)。第2に,個別財務諸表および

それ以外の会社については,各加盟国が「国際的な会計基準」の適用を許可ないし強制してもよいことが定

められた(Article5)。なお,この「国際的な会計基準」とは,国際会計基準,国際財務報告基準および関連

する解釈指針であると定義されている(Article2)。

20)EU諸国では,1976年に公布された EC第2号会社法指令(77/91/EC)の定める規定を国内法化する形で

分配規制が行なわれている。同指令では,①年次財務諸表に計上された純資産額が引受済資本金の額と分配

不可とされる準備金の合計額を下回る,ないし当該分配により下回る場合には分配を行なってはならない

(Article15(1)(a)),および,②株主に対する分配額は直近会計年度の利益に繰越利益額および分配可能とさ

れる積立金を加算した合計額から,繰越損失および分配不可とされる積立金を減じた額を超えてはならない

とされている(Article15(1)(c))。したがって,EU諸国では日本と類似した資本制度に基づく分配規制が施

行されていると解される。また,この目的で利用される個別財務諸表は,従来,EC第4号会社法指令(78/

660/EC)によって規定され,各国はこれを国内法化する形で会社法会計規定および会計基準を作成してき

た。

57国際会計基準の導入と分配規制の変革

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背景に,1980年会社法(Companies Act1980)では分配規制に係る詳細な明文規定が初めて導

入されるに至った22)。

1980年会社法第263条(1)では,「会社の分配可能利益は,分配または資本組入れにより以前

に使用されていない累積実現利益から,適法に行なわれた資本の減少または更生に際して以前に

償却されていない累積実現損失を控除した金額である」ことが述べられた。さらに,公開会社に

ついては,上記にくわえ「公開会社は,次に掲げる場合にはいつでも分配を行なうことができ

る。(a).その時点において会社の純資産額が払込済株式資本金および分配不可である準備金の総

額を下回らない場合,および,(b).分配により会社の純資産額がその総額を下回ることになら

ない場合」(同法第264条(1))という旨が定められた。すなわち,会社全般については正味累積

実現利益が分配可能財源であること(実現利益テスト),公開会社についてはさらに「純資産額

>法定資本金等額」である場合に分配可能であること(純資産テスト)が明記された23)。なお,

これら2つの分配規制は,現行の2006年会社法へそのまま引き継がれている(第830条(2)およ

び第831条(1))。

こうした分配規制にあってとくに問題となるのは,何をもって「実現」とみなすかである。し

かしながら,この点についてイギリス会社法は「実現」に係る概念を明確に定義することはせ

ず,「一般に公正妥当とされる原則に従うこと」(1980年会社法第262条(3);2006年会社法第

853条(4))としている24)。すなわち,会社法は自ら分配可能財源に関する具体的な計算方法を

規定するのではなく,これを実務慣行に委ねるという立法スタンスにあると考えられる。

事実,1980年以降,イングランド・ウェールズ勅許会計士協会(ICAEW)およびスコットラ

ンド勅許会計士協会(ICAS)が分配可能財源に関する詳細な実務ガイダンスを公表し「実現」

概念を規定してきた(Morris,1991; Leuz et al.,1998)。82年には ICAEWにより組織された会計

団体諮問委員会(CCAB)が1980年会社法における分配可能財源の算定に関する実務ガイダン

ス(TR481および TR482)を初めて作成・公表した。その後,2000年代前半にイギリス会計基

21)たとえば,1962年の「ジェンキンス委員会報告書」(Report of Company Law Committee)では,Dimbula

Valley(Ceylon)Tea Co. Ltd. vs Laurie.1961の判決で認められた固定資産の再測定から生じた評価益の分配

が問題視され,明文規定によりこれを規制すべきという旨が主張されている(para.350)。この点については

中村(1963)に詳しい。

22)イギリス会社法の変遷に関する日本語文献としては,中村(1963),尾崎(1983),森川(1993)などがあ

る。

23)こうした分配規制は,EC第2号会社法指令を国内法化したことからこれとほぼ同一の内容となっている。

実現利益テストについては,EC第4号会社法指令における「再評価積立金の実現要件」(Article33(2)(c))

を反映したものであると一般に解されている(Rickford,2006)。なお,「実現テスト」と「純資産テスト」の

実質的な差は,公開会社の分配可能財源の計算に累積未実現損失を反映させるか否かにある。すなわち,貸

借対照表の純資産に計上される未実現利益は実現テストにより分配不可とされる一方で,未実現損失は純資

産額を減少させることから純資産テストに反映されることとなっている(Ferran,2008)。

24)他方,固定資産の再測定から生じる再評価損益および開発費に関する「実現」については,それぞれ2006

年会社法第841条および同法第844条に規定されている。

亜細亜大学経営論集 第51巻第1・2号合併号(2016年3月)58

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準のコンバージェンスが本格化し,また05年に IFRSが導入されると,その都度,ICAEWおよ

び ICASは実務ガイダンスを修正することで会計基準の変化に柔軟に対応してきた。表2は,両

会計士協会によって公表されたガイダンスをまとめたものである25)。

これら一連の実務ガイダンスにおいて,特筆すべきことは実現概念の変遷である。初期の TR

481では,利益が実現したか否かを検討するうえでは会計実務基準書(SSAP)第2号における

慎重性の概念(prudence concept)を斟酌しなければならないことが明記されている(CCAB,

1982a : para.6)。この慎重性の概念とは,「収益および利益は予測されてはならないが,現金ある

いは相当の確実性をもって最終的に現金化される他の資産という形で実現する場合に限り損益計

算書に含められる」(CCAB,1982a : para.7)というものである26)。この考え方に従い,TR482で

は「あらゆる資産の再測定から認識される取得原価を上回る超過額は未実現のものである」こと

が明記された(CCAB,1982b : para.18)。そのため,分配可能財源という文脈における実現概念

とは慎重性の概念に基づいたものであり,あらゆる未実現利益を分配可能財源から排除すること

が意図されていたと言えるだろう。

しかし,その後,イギリス会計基準のコンバージェンスが進展すると,こうした実現概念が見

直されることとなった。とりわけ,従前の SSAP第2号を引き継ぐ形で公表された財務報告基準

(FRS)第18号「会計政策」では,「SSAP第2号における慎重性と実現の関係性は時代遅れと

なっている。市場は,売却・処分がなされなくとも,利益の存在を確証し,その測定が十分な信

25)なお,会計士協会が作成・公表する実務ガイダンスは法的効力を有していない。しかし,これは会計士お

よび法律専門家によって作成されることから,違法配当をめぐる訴訟ではこれに依拠して分配可能財源を算

定していたことが分配の適法性を示す証拠となり得る。そのため,実務ガイダンスはソフト・ローとして機

能してきたとされている(Ferran,2008)。

26)これにくわえ,TR481は SSAPで規定されていない会計実務に従って利益が計上される場合にも,慎重性

の概念を斟酌したうえで実現利益か否かを決定すべき旨が記載されている(CCAB,1982a : para.11)。

表2.イギリスにおける分配可能財源に関する主な実務ガイダンス

年 コード タイトル

1982 TR481The Determination of Realised Profits and Disclosure of Distributable Profits in the Context of theCompanies Acts1948to1981

1982 TR482 The Determination of Distributable Profits in the Context of the Companies Acts1948-1981

2003 TECH07/03Guidance on the Determination of Realised Profits and Losses in the Context of Distributions underthe Companies Act1985

2004 TECH50/04Guidance on the Effect of FRS17 “ Retirement Benefits ” and IAS 19 “ Employee Benefits ” onRealised Profits and Losses

2005 TECH57/05Distributable Profits : Implications of IAS10 and FRS21 for Dividends(external and intra-groupdividends)

2007 TECH02/07 Distributable Profits : Implications of Recent Accounting Changes

2009 TECH01/09Guidance on the Determination of Realised Profits and Losses in the Context of Distributions underthe Companies Act2006

2010 TECH02/10Guidance on the Determination of Relaised Profits and Losses in the Context of Distributions underthe Companies Act2006(Revised TECH01/09)

59国際会計基準の導入と分配規制の変革

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頼性をもって行なえるほどに発展してきた」と述べられ(ASB,2000: Appendix4, para.17),

「�実現利益�は容�

易�

に�

実�

現�

可�

能�

な�

(readily realisable)資産に関する利益をも包含する」ことが

付記された(ASB,2000: para.28)。こうした実現概念の変化を受けて公表された実務ガイダンス

TECH07/03では,mark-to-market会計から生じる評価損益は「実現した損益」として取り扱わ

れることが明記され(ICAEW and ICAS,2003: para.10),近年,実現概念および実現利益の範囲

が変容・拡大してきたと考えられるだろう。ただし,公正価値測定から生じる評価損益すべてが

「実現した」とみなされるわけではなく,たとえば金融商品についても観察可能な市場データを

含まない評価技法を用いた場合,これにより生じる評価損益は未実現のものとして取り扱われる

こととなっている(ICAEW and ICAS,2010: para.4.4)27)。

このように見ると,イギリスは IFRSに準拠した財務諸表を分配規制目的で利用しつつも,会

計士協会あるいは実務家レベルで分配規制の債権者保護という役割が損なわれないよう工夫がな

されてきたと言える。とりわけ,企業会計制度の変革に応じて,分配規制上の実現概念を変容さ

せていくことで会社法と企業会計の調和を図ってきたと考えられるだろう28)。

Ⅳ オーストラリアにおける分配規制と IFRSの受容

次に,オーストラリアにおける分配規制と IFRSの受容について検討しよう。オーストラリア

では,従来,会計専門家によって組成されたオーストラリア会計研究財団によって自国会計基準

が作成されてきた29)。しかし,1997年9月に会社法経済改革プログラム(Corporate Law

Economic Reform Program)が公表されると,99年には国際的な会計基準を全面的に採用する

案が提示され,2000年にはオーストラリア会計基準審議会(AASB;旧会計基準検閲審議会)が

パブリックセクター会計基準審議会を吸収し会社法目的での会計基準の設定を引き受けることと

なった。こうしたなか,02年12月に財務報告諮問会(FRC)は AASBに対して IFRSと同一の

自国会計基準を作成することを命じ(FRC,2002),05年1月1日以降,オーストラリア版 IFRS

27)最新の実務ガイダンス TECH02/10では,現金あるいは相当の確実性をもって最終的に現金として実現す

ると考えられる資産の形で実現した時にのみ,その利益は実現したと取り扱われるべきであると述べられて

いる(ICAEW and ICAS,2010: para.3.3)。これを前提に,同ガイダンスは,利益および損失の実現を「適格

対価」(qualifying consideration)の有無および「容易に現金化できるか」(readily convertible to cash)に

よって判断すべきとしている。

28)ただし,こうした分配規制のあり方は,会社の分配に係る法務リスクを増大させてきた可能性がある。

Hastie(1995)は,会社法は配当を分配可能財源から行なうことを命じる一方でその金額の開示および計算

方法を規定していないことから,会社の法務リスクおよび監査人の訴訟リスクが深刻化していることを報告

している。とくに,TR481および TR482はそれぞれ16段落および32段落から構成されていたのに対し,

最新の TECH02/10は538段落から構成され,分配を行なうにあたって配慮しなければならない事項が増加

傾向にある。そのため,IFRSの導入に伴い,企業の分配に係る法令順守コストおよび法務リスクは増加傾

向にあることが推察される。

29)オーストラリアにおける会計基準設定主体の変遷については浦崎(1998)に詳しい。

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が2001年会社法(Companies Act2001)の対象となる報告主体すべてに適用されることとなっ

た30)。なお,会計基準の法的権限に関して,2001年会社法は第334条において AASBが会社法

目的における会計基準の作成を行なえることを規定し,同法第296条において財務報告はこの会

計基準に従わないといけない旨を明記している。

では,こうした企業会計の国際的調和化があったなか,会社法における分配規制はどのように

対応したのであろうか。従来,オーストラリア会社法では,配当は会社の利益からのみなし得る

こと(利益テスト)が規定されていたが(改正前2001年会社法第254T条),何がこの「利益」

に該当するものであるかについて会社法で定義されているわけではなかった。そのため,分配の

適法性は裁判所の判例に依るところが大きく31),定義が曖昧であるとの批判がなされていた。と

りわけ,産業界からは,「利益」という語句の定義が曖昧であるため配当の支払いに関する法的

要求事項を理解することが困難であること,IFRS導入に伴い利益計算の性質が変容しており公

正価値との関係において何が「利益」であるかが不明確になってきたこと,そして,資本維持原

則を強調しないとする昨今の流れと利益テストは矛盾するものであることが指摘されていた32)。

そこで,オーストラリアでは2010年会社改正(財務報告改革)法により,2001年会社法第

254T条が改正され,新たな分配規制が導入されることとなった。すなわち,①配当が宣言され

る前における会社の資産が負債を超え,その超過額が配当を支払ううえで十分であり(貸借対照

表テスト),②当該配当の支払いが全体として会社の株主にとって公正かつ合理的であり,③当

該配当の支払いが債権者に対する支払能力を大きく損なわせるものでない場合に限り(支払能力

テスト),会社は配当を行なうことができると定めるに至った(改正後第254T条第1項)。ま

た,同条第2項は,資産および負債はその時点において効力を有する会計基準に従って算定され

なければならないとし,この結果,IFRSと同等とされるオーストラリア会計基準が分配規制目

的で利用されることとなった。

このようにみると,オーストラリアは IFRS導入を契機に支払能力テストへと実質的に移行し

たと考えられる。たとえば,改正後の分配規制に従えば,維持すべき資本に欠損が生じている場

合であっても,資産額が負債額を上回る(すなわち純資産額が正である)限り,また支払不能に

陥らないと予測される限りにおいて配当が行なえることとなる。そのため,伝統的な資本維持の

考え方は排除されたと見ることができるだろう。ただし,弥永(2012)が指摘するように,オー

ストラリアにおける支払能力テストとは,キャッシュ・フロー・テストのみを意味するのではな

く,資産,負債,金銭,資産売却や借入による資金調達の可否などを考慮に入れて行なうもので

30)中小企業庁(2010)の調査によると,IFRSを直接適用するのではなくオーストラリア版 IFRSを作成した

理由は,国外の機関である IASBが作成した IFRSをオーストラリアの法律文書とするには立法上の疑義が

あるためと説明されている。なお,オーストラリア版 IFRSは IFRSとほぼ同一の内容であり,企業結合や退

職給付などについて若干の差異が存在する。この点については,Deloitte(2005)を参照。

31)分配に関するオーストラリア裁判所判例については,弥永(2012)に詳しい。

32)“Corporations Amendment(Corporate Reporting Reform)Bill2010−Explanatory Memorandum”を参照。

61国際会計基準の導入と分配規制の変革

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あり,一定の状況下ではキャッシュ・フロー・テストと貸借対照表テストの両方が行なわれけれ

ばならないと解されてきた(Quick, William Gary v Stoland Pty Ltd. 1998)。これにくわえ,2001

年会社法第588G条では,宣言後の配当の支払いを株主への債務負担として分類したうえで,債

務負担時の取締役の義務・責任を定めている。そこでは,支払不能時に債務を負担した場合ある

いはその債務を負担することで支払不能となる場合において合理的な者であればその支払不能状

況に気付いたであろうと判断される時は,債務負担時に取締役であった者は民事罰の対象となる

ことが明記されている(同条第1項および第2項)。同様に,こうした支払不能状況を疑いつつ

も,会社がその債務を負担することを阻止しなかった者が不誠実であったと判断される場合に

は,刑事罰の対象となることが定められている(同条第3項)。そのため,支払能力テストに移

行したからといって,必ずしも債権者保護法制としての厳格さが損なわれたわけではないと推察

される。

また,オーストラリアにおける分配規制改革について特筆すべきことは,昨今の支払能力テス

ト一本化に向けた動きである。2015年5月に可決された2014年会社法制改正(規制緩和および

他の対策)法は,当初,その公開草案において貸借対照表テストを削除し,支払能力テストのみ

を分配規制とする案が提示されていた33)。この背景として,純資産は会社の支払能力を測るうえ

で有効な尺度ではないとの指摘がなされたこと,および,分配規制上,維持すべき資本からの配

当を黙示的に認める一方で減資にあたっては実務上の制限があることから貸借対照表テストが空

文化していることなどが挙げられている34)。こうした動きは,分配規制を通じた債権者保護を検

討していくうえで資本維持原則を強調しないとするオーストラリアの立法スタンスを体現するも

のとして理解することができるだろう。

以上の議論をまとめると,オーストラリアは企業会計の国際的調和化のなか IFRSと同等の自

国会計基準を作成しこれに準拠した分配規制を実施する一方で,これに適合する分配規制として

支払能力テストに軸足をシフトしたと考えられるだろう。先のイギリスの事例とは対照的に,資

本維持原則を強調しないという意味において純資産を基準とした分配規制と決別しようとしてい

る点にオーストラリアの特徴があると言えよう。

Ⅴ 日本への示唆―結びに代えて―

本論文の目的は,IFRSをすでに分配規制目的で利用しているイギリスとオーストラリアの2

カ国に注目し,IFRS導入に際して各国会社法がどのように変容したか,あるいは,制度上の対

応は何であったかについて考察することにあった。また,こうした考察を通じて,日本の会計制

33)“Corporations Legislations Amendment(Deregulatory and Other Measure)Bill2014” を参照。なお,この

提案はより慎重に判断すべき事項として見送られている。

34)“Corporations Legislations Amendment(Deregulatory and Other Measure) Bill2014― Explanatory

Material” を参照。

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度の今後を検討していくうえでの示唆を得ることに本論文の狙いがあった。最後に,本論文にお

ける検討事項からもたらされる示唆について論じ,これをもって結びとする。

本論文で注目したイギリスおよびオーストラリアは,IFRS導入にあたってそれぞれ異なる制

度的対応を行なっていた。すなわち,イギリスでは,会計数値に基づく分配規制の実質的な内容

を会計士協会・実務家に委ねることで,債権者保護法制としての役割が損なわれないよう柔軟な

工夫がなされてきた。この一方で,オーストラリアでは,IFRSと同等の国内会計基準の作成に

伴い,資本維持原則を重視しない支払能力テストへの移行が行なわれた。

こうした各国の制度的対応は,企業会計の国際的調和化が進展する日本の分配規制の今後につ

いて有益な示唆をもたらすと考えられる。とくに,現在,連単分離を前提として IFRSの適用が

認められているが,①日本基準のさらなるコンバージェンスが進展する場合,②指定国際会計基

準が個別財務諸表に適用される場合,および,③修正国際基準が個別財務諸表に適用される場合

には,債権者保護法制としての役割を維持するために分配規制上の対応を図っていく必要がある

(神田他,2013;弥永,2015)35)。

まず,イギリスの事例を参考に,実務家・会計士協会レベルでの対応を図ることが考えられる

だろう。日本では会社計算規則における調整項目により会計基準の変化に対応してきたため,こ

うした方法の実行可能性は未知数である。しかしながら,会社法における開示規制が包括規定

(会社法第431条)のもと実質的に企業会計基準委員会(ASBJ)の作成する企業会計基準等に委

ねられてきたことを考えると,分配規制についても実務家・民間団体に委ねることができないわ

けではないと考えられる。とくに,岸田(2010)は ASBJの公表する企業会計基準は,包括規定

を介して「法的効力」を持つのであり,その違反は刑事罰の根拠となることからいわば刑事罰規

定であることを論じている。そのため,イギリスのように会社法では実現利益から分配すべきと

いう旨のみを定め,この「実現」に係る詳細な規定を実務家・民間団体に委ねたとしても分配の

適法性を確保することは可能であるかもしれない36)。

次に,オーストラリアの事例を参考に支払能力テストへの移行を図ることが考えられるだろ

う。支払能力テストの利点は,同テストにおいて会計数値が明示的に利用されないため会計基準

変更による影響を受けにくいということが挙げられる(久保,2012;神田他,2013)。また,債権

者の最たる関心が約定された元本と利子が弁済期に支払われることにあるとすると,支払能力テ

ストは債権者の利害に直接的に結びつくものであると言える(伊藤,1996)。ただし,この場合

35)連単分離を前提とした場合であっても,現行分配規制の有効性については再検討を要すると考えられる。

1990年代後半以降,日本基準のコンバージェンスが進展してきたが,その過程において分配規制上,対応で

きていない事項も存在する。たとえば,弥永(2008,2013)は負ののれん,未認識の数理計算上の差異や過

去勤務費用が現行分配規制において考慮されていないことを指摘している。

36)この他の方法として,これまでの会社計算規則におけるいわゆる「減ずるべき額」によって対応していく

ことも考えられる。しかし,イギリスの実務ガイダンスが膨大かつ複雑なものであること,および,IFRS

がムーヴィング・ターゲットであることを踏まえると,これらすべてについて会社計算規則における明文規

定により対応することは困難かつ現実的ではない可能性がある(神田他,2013)。

63国際会計基準の導入と分配規制の変革

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には,経営者の楽観的・恣意的な予測あるいは判断のもと債権者にとって好ましくない分配が実

施される可能性が存在する。そのため,弥永(2012,2013)が指摘するように,不正取引や倒産

危機時の取引について経営者の責任を認める等の法制度上の工夫をあわせて検討していくこと

が,支払能力テストの実行可能性を高めていくうえで必要になると考えられるだろう37)。

以上のように本論文では分配規制と IFRSの関係性について議論してきたが,残された課題も

存在する。ひとつは,他の諸外国における法制度の変化およびその帰結に関する調査である。

EU諸国では,分配規制目的で IFRSを利用する国とそうでない国とが混在していることが確認

されている(弥永,2012;河内山,2013)。本論文では前者に該当する国に注目したが,後者に該

当する国がどのような経緯のもと IFRSを分配規制目的で利用しないとするに至ったかについて

は検討の余地が残されている。

いまひとつは,代替的な分配規制の可能性についての検討である。先では本論文で得られた知

見をもとに分配規制の今後について考察を行なった。しかしながら,いずれの分配規制のあり方

が望ましいかを提示するまでには至っていない。この点について,吉原(1985)で行なわれてい

る倒産直前期における分配抑制という観点に立った実証分析あるいは公認会計士や企業経営者に

対するアンケート調査・ヒアリング調査を実施することで,日本の実情に合った分配規制のあり

方を検討することが可能であると考える。

これらの点については今後の課題としたい。

(謝辞)本稿の作成にあたり,筆者は JSPS科学研究費助成事業(課題番号26885078)の支援

を受けている。ここに記して感謝したい。

参考文献

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秋葉賢一・大日方隆・川村義則・万代勝信・佐藤信彦(2009)「日本の会計法規の体系と IFRS」『企業

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伊藤邦雄(1996)『会計制度のダイナミズム』岩波書店。

伊藤邦雄(2013)「IFRSと会社法をめぐる論点」『企業会計』第65巻第5号,18―27頁。

猪熊浩子(2009)「会計基準の国際化と配当可能利益の動向」『国際会計研究学会年報』(2009年度),

99―109頁。

浦崎直浩(1998)「オーストラリアの会計制度改革:国際会計基準の導入に対する取り組み」『国民経

済雑誌』第178巻第1号,33―48頁。

37)なお,筆者が調査した限り,オーストラリアにおいて支払能力テストへの移行が債権者保護を図るうえで

不具合を引き起こしたとする事例は確認されていない。むしろ,2014年会社法制改正法に示されるように,

オーストラリアでは貸借対照表テストを廃止しピュア支払能力テストへの移行を積極的に検討していると考

えられる。

亜細亜大学経営論集 第51巻第1・2号合併号(2016年3月)64

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