モービルマッピングシステム(mms)を 利用した路...

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モービルマッピングシステム(MMS)を 利用した路線測量について 太田 太一 1 ・渡邉 博幸 2 ・今井 ひとみ 1 1 新潟国道事務所 計画課 (〒950-0912 新潟県新潟市中央区南笹口2-1-652 新潟国道事務所 交通対策課 (〒950-0912 新潟県新潟市中央区南笹口2-1-65. モービルマッピングシステム(MMS)は、車両の通常走行により、3次元座標データと画 像データが取得可能なNETISにも登録された高精度な車載型移動計測システムである。 本システムでは、交通規制を行わずに路線測量が可能であり、今回、交通量の多い新潟バイ パスや国道49号県境部において路線測量を行った。本システムを使用した測量方法の紹介と 成果の活用方法について報告する。 キーワード 移動計測,3次元座標データ,画像データ,GNSS,路線測量 1. はじめに 近年、道路行政においては、特に安全管理や事故防止、 地域住民などへの配慮を重点課題として位置付けている。 加えて、単純な成果だけでなく、維持管理や計画検討な ど多様な業務に利用できる様々な付加情報も必要となっ ている。このような状況で生まれた技術革新のひとつが、 モービルマッピングシステム(以下「MMS」)である。 MMSは、車両の天板上にGPS・レーザースキャナ ー・デジタルカメラ・IMU(慣性計測装置)を、タイ ヤにオドメーター(車両移動量計測装置)を装着し、計 測及び補正を行うことにより、通常走行を行いながら車 両周辺の高精度な3次元座標データと画像データが取得 できる車載型移動計測システムである。 3次元座標データ及び画像データとしての利用だけで はなく、この取得データから様々な測量データの作成が 可能となる。 今回、MMSを使用した測量方法の紹介と成果の活用 方法について報告する。 2. MMSの概要 (1) 概要 MMSは、車載型移動計測システムで走行しながらに して、車両周辺の高精度な空間情報を取得することがで きる。GPSによる自車位置情報取得、レーザースキャ ナーによる3次元位置情報取得、デジタルカメラによる 画像取得、IMUとオドメーターでの位置情報補正によ り成り立っており、図-1 に示す計測処理の流れとなって いる。 (2) MMSにおける車載機器 a) GPSアンテナ 3台を車両天板上トライアングルに配置し、1台の二 周波アンテナで車体位置情報を取得し、2台の一周波ア ンテナで車体の姿勢情報を取得している。5個以上のG PS衛星からの信号受信により機能を発揮する。(写 -2 b) レーザースキャナー レーザー光を照射し、その反射により機器から対象物 への角度と距離を計測する。非接触で対象物の3次元座 標を取得することができるノンプリズム型の計測システ ムであり、機器の公共座標を取得することにより対象物 の3次元公共座標を取得することができる。 1秒間に 13,575 点のレーザー光を照射する機器を前方 -1 MMSによる計測処理の流れ

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モービルマッピングシステム(MMS)を

利用した路線測量について

太田 太一1・渡邉 博幸2・今井 ひとみ1

1新潟国道事務所 計画課 (〒950-0912 新潟県新潟市中央区南笹口2-1-65)

2新潟国道事務所 交通対策課 (〒950-0912 新潟県新潟市中央区南笹口2-1-65).

モービルマッピングシステム(MMS)は、車両の通常走行により、3次元座標データと画

像データが取得可能なNETISにも登録された高精度な車載型移動計測システムである。

本システムでは、交通規制を行わずに路線測量が可能であり、今回、交通量の多い新潟バイ

パスや国道49号県境部において路線測量を行った。本システムを使用した測量方法の紹介と

成果の活用方法について報告する。

キーワード 移動計測,3次元座標データ,画像データ,GNSS,路線測量

1. はじめに

近年、道路行政においては、特に安全管理や事故防止、

地域住民などへの配慮を重点課題として位置付けている。

加えて、単純な成果だけでなく、維持管理や計画検討な

ど多様な業務に利用できる様々な付加情報も必要となっ

ている。このような状況で生まれた技術革新のひとつが、

モービルマッピングシステム(以下「MMS」)である。

MMSは、車両の天板上にGPS・レーザースキャナ

ー・デジタルカメラ・IMU(慣性計測装置)を、タイ

ヤにオドメーター(車両移動量計測装置)を装着し、計

測及び補正を行うことにより、通常走行を行いながら車

両周辺の高精度な3次元座標データと画像データが取得

できる車載型移動計測システムである。

3次元座標データ及び画像データとしての利用だけで

はなく、この取得データから様々な測量データの作成が

可能となる。

今回、MMSを使用した測量方法の紹介と成果の活用

方法について報告する。

2. MMSの概要

(1) 概要

MMSは、車載型移動計測システムで走行しながらに

して、車両周辺の高精度な空間情報を取得することがで

きる。GPSによる自車位置情報取得、レーザースキャ

ナーによる3次元位置情報取得、デジタルカメラによる

画像取得、IMUとオドメーターでの位置情報補正によ

り成り立っており、図-1に示す計測処理の流れとなって

いる。

(2) MMSにおける車載機器

a)GPSアンテナ

3台を車両天板上トライアングルに配置し、1台の二

周波アンテナで車体位置情報を取得し、2台の一周波ア

ンテナで車体の姿勢情報を取得している。5個以上のG

PS衛星からの信号受信により機能を発揮する。(写

真-2)

b)レーザースキャナー

レーザー光を照射し、その反射により機器から対象物

への角度と距離を計測する。非接触で対象物の3次元座

標を取得することができるノンプリズム型の計測システ

ムであり、機器の公共座標を取得することにより対象物

の3次元公共座標を取得することができる。

1秒間に 13,575 点のレーザー光を照射する機器を前方

図-1 MMSによる計測処理の流れ

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上方向、前方下方向、後方上方向、後方下方向の計4台

を車両天板上に配置しており、車両全周囲 54,300 点の

3次元公共座標を取得する。なお、レーザーは人体に影

響を与えない最も安全なものを使用している。(写真-

2)

c)デジタルカメラ

カラー、500 万画素のデジタルカメラ6台を車両天板

上に放射状6方向に画像の重なりを持たせるよう配置し

ている。(写真-2)

シャッター間隔は設定可能だが、通常は走行速度によ

って移動距離2mから4mに一枚の間隔で撮影を行う。

d)IMU、オドメーター

IMUは、運動を司る3軸の角度と加速度を検出する

装置で車両天板上に配置される。測量用航空カメラにも

設置されている装置である。(写真-2)

オドメーターは、走行距離計でタイヤの回転を計測し

正確な進行距離を取得する。車両右後輪に設置されてい

る。(写真-1)

IMU及びオドメーターは、GPS衛星からの信号受

信が不良の時にも精度を維持確保するために利用してい

る。

e)記録ユニット

記録ユニットは車両内の後部座席片側に搭載されてお

り、センサBOX(GPS受信機、経路演算装置)、操

作用PC(操作、ステータス取得、地図上で位置確認)、

カメラログ用PC(画像の確認、調整、記録)、画像記

録用HDDで構成されている。(写真-3)

(3) MMSによる計測処理の主な手順

a)計測計画

計測対象に対して、計測路線、交通規制や道路状況、

GPS衛星の配置状況などを勘案し、効率的かつ精度劣

化を招かぬよう計画立案準備を行う。

b)計測

計測は、初期化走行、計測走行、終了走行により行う。

その際、GPS、レーザースキャナー、カメラ、IMU、

オドメーターから取得されたデータを、車内機の記録ユ

ニットに記録、蓄積する。

c)後処理

計測により取得されたデータに面補正パラメータ(F

KP方式)を付加し解析処理することにより、自車位置

姿勢、3次元点群、色付き3次元点群、写真画像を取得

する。

(4) MMS計測による取得データ

MMSによる計測で得られるデータの一例として、写

真画像データ(写真-4)、3次元色付き点群データ(公

共座標データ)(写真-5)がある。

写真-2 MMS車外機

写真-3 MMS車内機

写真-4 写真画像データ(紫竹山IC付近)

写真-5 3次元色付き点群データ(R49トンネル付近)

GPSアンテナ 3台

レーザースキャナー 4台 IMU

カメラ 6台

写真-1 MMS搭載車

オドメーター

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3. MMSを利用した測量

(1) 測量の範囲(区間)・実施の目的

MMSを利用した測量は、表-1の区間(計55.6km)に

おいて、道路構造検証のため縦断測量を実施した。今回

の測量では、交通量が多い現道上で交通規制を行わず、

いかにして縦断測量を実施するかをポイントに、MMS

による3次元データを取得、解析することで平面図・縦

横断面図の作成を行うこととした。

路線 区間 延長

① R7・8

R49

R7~116

新潟BP(黒埼 IC)

~新新BP(新発田 IC)

亀田 BP(茅野山 IC~紫竹山

IC)

紫竹山 IC~黒埼 IC:現道部

28.4km

5.2km

13.0km

② R49 福島県境~津川除雪ステー ション 9.0km

計 55.6km

(2) 測量方法に対する課題と対応

a)精度検証

MMSで取得されたデータの位置座標は、3台のGP

Sアンテナで取得したデータを処理することで決定され

るが、公共座標値としての精度については検証を行う必

要がある。このため計測予定路線沿い概ね5kmに1箇所

の検証点を設置した。

GPSで検証点の座標・標高値の観測を行い、MMS

でも検証点(ターゲット板)の座標、標高値の計測を行

い、比較を行う事で精度検証を行った。

b)点検測量

計測した縦断標高値を評価するため、点検測量を行う

こととした。点検測量は、作業規定準則第13条(精度管

理について規程)に基づき、計測した路線延長に対して

5%の延長について、再度点検測量用として取得したデ

ータで、縦断標高値の計測を行った。

また、作業規定準則70条で、4級水準測量の標準偏差

は最大20mmとしていること、縦断測点20m間隔で扱う場

合、縦断勾配へ与える影響は0.1%と軽微となることか

ら、相対精度20mmを精度管理の基準として設定し、2m

間隔で取得した同一箇所における縦断面図の計測値(標

高値)と点検計測により取得した点検値の較差を比較す

ることにより実施した。

c)縦断測量

3次元座標データの取得は全車線を対象として行うた

め、多車線道路については上下線それぞれ片側2回の走

行を行い、2車線道路は上下線それぞれ片側1回のデー

タ取得を行った。

取得した3次元座標データを基にした地形モデルを作

成し、新潟BP・新新BP・亀田BP、市街部について

は中央分離帯側の白線部を(市街地部で中央分離帯側が

無い箇所はセンターライン)、R49号県境部はセンタ

ーライン上を、それぞれ2m間隔で縦断要素(単点標

高)の抽出計測を行った。

4. 測量結果

(1) 精度検証結果

公共座標値としての精度検証における制限較差は、地

図情報レベル500を準用し残差制限25cmとしたが、X値

較差最大は12.9cm(R7新新バイパス(上り線)新発田

IC付近歩道上)、Y値較差最大は11.6cm(R49亀田

バイパス(上り線)とやの橋上)、H値較差最大は

10.9cm(R49県境~除雪ST(下り線)八木山地先路

肩上)となり、制限を満たす結果となった。(表-2)

X値較差 Y値較差 H値較差

最大較差 12.9cm 11.6cm 10.9cm

較差制限 25cm 25cm 25cm

(2) 点検測量結果

相対位置関係としての精度管理は、道路構造の検証

(縦断勾配・縦断曲線)に見合う範囲の制限でないと目

的は達成できない。作業規定準則に記載がないことから、

今回相対精度20mmを設定し、点検測量の精度管理を実施

した結果、較差の最大はR49号県境~津川除雪ステー

ション間で確認された16mmが最大値であり、設定した基

準を満たす結果となった。(表-3)

路線 新潟BP 新新BP 亀田BP

最大較差 14㎜ 12㎜ 11㎜

較差制限 20㎜ 20㎜ 20㎜

路線 49号県境 7号・116号

最大較差 16㎜ 12㎜

較差制限 20㎜ 20㎜

(3) 縦断測量

作成した縦断面図の縮尺は、縦=1/100・横=1/500と

し、図面のレイアウト及び表示範囲は既存の道路管理図

と同様、上段に平面図(点群オルソ)を配置し、下段に

縦断面図を配置し既存管理図と同範囲になるよう接図位

置を調整して作成した。(図-2)

表-1 MMS測量実施区間

表-2 MMS精度検証結果

表-3 MMS点検測量結果

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(4) 平面図・縦横断面図作成

a)平面図、縦断面図

平面図の縮尺は1/500とし上段に、縦断面図の縮尺は

縦=1/100、横=1/500とし下段に配置した。(図-3)

また、平面図は、国土地理院による公共測量の承認、

社団法人日本測量協会による成果品の検定を受け、適合

していること証明された。

b)横断面図

横断面図の縮尺は1/100として作成した。(図-4)

5. 考察及びまとめ

(1) まとめ

今回の測量範囲は、新潟市を縦貫する新潟・新新バイ

パスを含む区域であり、紫竹山IC付近では、1日に約

14万台の交通量がある。このため一度、事故や落下物な

ど突発的な交通障害が発生すると、通行止めや著しい交

通渋滞を引き起こし、利用者や地域住民に多大な影響を

与えてしまう。このような区域での縦断測量について、

既存手法による測量とMMSによる測量の流れ(図-5)、

及び費用と作業日数の比較(表-4,5)を示す。

今回、交通量の多い道路など直接測量を行うことによ

り、様々な障害が発生しやすい区域での測量をいかに行

うかという課題に対し、費用や作業日数の観点において

もMMSを利用した測量は一つの成果を出せたのではな

いかと考えられる。また、現場での作業を極力低減でき

るために、交通量の問題以外にも、地域住民への配慮や、

トラブルの回避、安全管理、事故防止などへの効果も期

待できるものと考えられる。

図-2 縦断面図作成結果

図-4 横断面図作成結果

M M S 法

仮BM設置測量

作業計画

4級基準点測量

中心線測量

縦断測量

成果等の整理

精度検証用

基準点設置

(路線の起終点)

(5㎞に1点程度)

作業計画

MMS計測処理

縦断データ取得

成果等の整理

既 存 手 法

内業外業

図-5 作業フローの比較

表-4 費用の比較

表-5 作業日数の比較

精度検証用

基準点設置

中心線測量 MMS計測処理

仮BM設置測量 縦断データ取得

縦断測量

計 計約 2,500万円 約280万円

(1業務)

880万円

(401点)

880万円

200万円

直接経費

10万円

60万円

(5点)

10万円

(1業務)

10万円

既存手法 MMS法

作業計画 作業計画

4級基準点測量

500万円

260万円

※縦断測量20km、市街地甲・平地、20m間隔、3,000台以上/12時間で比較

図-3 平面図・縦横断面図作成結果

作業計画 内業 3日 作業計画 内業 3日

内業 89日 精度検証用 内業 2日

外業 227日 基準点設置 外業 3日

内業 55日 内業 2日

外業 260日 外業 3日

内業 23日

外業 77日

内業 48日

外業 135日

内業 約 220日 内業 約 75日

外業 約 700日 外業 約 6日計 計

内業

日数既存手法 MMS法

4級基準点測量

中心線測量

縦断測量

仮BM設置測量 縦断データ取得 68日

※縦断測量20km、市街地甲・平地、20m間隔、3,000台以上/12時間で比較

MMS計測処理

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当然のことながら、当初計画した精度基準である、公

共座標としての精度基準25cm以下、相対位置関係として

の精度基準20mm以下を満たしたことにより成り立つもの

である。

(2) 課題

MMSは、確立された測量手法ではないために、目的

や条件、必要とする成果内容に応じて、運用方法や精度

基準を検討し適用させていく必要があり、実証を積み重

ねることで、様々なケースの運用方法などを確立するこ

ができると考えられる。

MMSは、GPSにより車両位置座標を取得するので、

GPSの配置状況や上空の視界状況などにより精度誤差

を引き起こす可能性があり、今後、日本地域向けに利用

可能な衛星の実用化により改善すると考えられる。

(3) 利活用方法

平成21年度冬に発生した国道49号県境部における登

坂不能障害に対して、既存道路管理図により21区間の発

生の恐れのある区間を抽出したが、これに加えてMMS

による観測データ(実測値)を使い、区間の整合を行い、

発生区間1区間を追加し22区間の把握を行った。

このほか、MMSによる取得データ(3次元色付き点

群データ、画像データ)から利活用できると考えるもの

として、道路管理図作成(図-6)、道路現況確認調査

(写真-6)、路面・法面の管理(写真-7)、トンネル内

空変位調査(図-7)、河川堤防確認調査、道路及び街路

シミュレーション、災害復旧資料作成など、様々な活用

が期待できる。

図-6 道路管理図の作成

写真-6 道路現況確認調査

写真-7 路面・法面の管理

図-7 トンネル内空調査例