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マーケティング . 利益モデルと価格戦略 2015114早稲田大学 守口剛 MBAエッセンシャルズ アドバンスコース

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マーケティング

2. 利益モデルと価格戦略

2015年11月4日

早稲田大学 守口剛

MBAエッセンシャルズ

アドバンスコース

配布資料について

1. ショートケース

2. 講義資料

配布した講義資料は、検討と議論を行うパートの頁を一部

割愛しています。完全版の講義資料は講義終了後に下記からダウンロードして下さい。

http://www.f.waseda.jp/moriguchi/mba/marketing2.pdf

構成

1. 価格の重要性

2. 潜在利益の三角形

3. ショートケース:コストコの利益モデル

4. 価格戦争の事例:牛丼チェーン

5. 低価格競合品への対抗方法

6. まとめ

1.価格の重要性

営業利益に対する価格のインパクト

• 日本の優良企業100社に関する感度分析(1%改善したときの営業利益へのインパクト)

– 価格 :32.2%

– 変動費:23.9%

– 販売量:8.2%

– 固定費:7.2%

出所:青木(2003)「プライシング:消費者を魅了する値ごろ感の演出」

営業利益に対する価格のインパクト

• 米国のS&P1000社に関する感度分析(1%改善したときの営業利益へのインパクト)

– 価格 :12.3%

– 変動費:8.7%

– 販売量:3.6%

– 固定費:2.6%

出所:青木(2003)「プライシング:消費者を魅了する値ごろ感の演出」

2.潜在利益の三角形

価格設定と売上との関係

価格

販売数量

売上

価格

販売数量

価格設定と利益との関係

価格

販売数量

利益

価格 コスト

価格設定と利益との関係

価格

販売数量

限界利益

価格 変動費

価格設定と利益との関係

価格

販売数量

300円 100円

この場合,利益を最大化するには,価格をいくらに設定すればよいか?

最適価格設定

価格

販売数量

300円 100円

需要曲線が直線の場合には,販売数量が0となる最大価格と利益が0となる最低価格の中間が最適価格

200円

価格設定と利益との関係

価格

販売数量

利益

消費者余剰 =消費者のWTP(willingness to pay)と 実際の支払い価格との差

=売り手から見た逸失利益

価格設定と利益との関係

価格

販売数量

利益

未獲得利益 =消費者のWTPとコストの差

潜在利益の三角形

価格

販売数量

コスト

潜在利益

獲得利益の最大化

価格

販売数量

コスト

潜在利益を最大化するにはどうすれば良いか?

エアラインの例

価格

販売数量

ファーストクラス

ビジネスクラス

プレミアムエコノミー

エコノミー

ツアー

価格対別製品ラインの拡充

価格

販売数量

低価格

プレミアム

ポピュラー

理想的な価格プロモーション

価格

販売数量

270円

250円

230円

210円

190円

獲得利益を最大化する価格設定

• 価格プロモーション

• グレード別価格(ex.エアライン)

• 購入時期による割引き(ex.エアライン)

• 価格帯の異なる製品ラインの展開

• etc・・・

3.ショートケース:コストコの利益モデル

図1:コストコの売上高推移

(億ドル)

(年)

図2:粗利益率と営業利益率の推移 (%)

粗利益率

営業利益率

(年)

図3:営業利益と会費収入の推移 (億ドル)

営業利益

会費収入

(年)

図3:営業利益と会費収入の推移 (億ドル)

営業利益

会費収入

(年)

69.4 72.8 73.1 81.6 76.5 86.3 81.4 76.5 75.2 74.9 75.4

営業利益に占める会費収入比率

検討課題

1. コストコの利益モデルを潜在需要の三角形を用いて説明してください。

2. コストコを利用する消費者は、年会費という定額料金と、買った分の商品代金を支払います。このような、定額料金と利用度に応じた料金との併用による課金方式を「二部料金性」と呼びます。例えば、電気、ガス、電話などの料金体系には二部料金制が利用されています。この他に、二部料金制が有効に機能すると考えられる業種、ビジネスについて考察してください。

一般的な低価格小売業の利益モデル

価格

販売数量

コスト

一般的な低価格小売業の利益モデル

価格

販売数量

コスト削減による低価格化

消費者余剰の拡大

集客+点数UP

規模効果

コスト

コストコの利益モデル

価格

販売数量

1.コスト削減による低価格化

2.消費者余剰の拡大

3.余剰部分を会費として獲得

4.会費収入による低価格化

コストコの利益モデル

価格

販売数量

コスト削減による低価格化

消費者余剰の拡大

会費制 集客+点数UP

規模効果

会費収入

コストコと同様の価格戦略,利益モデルを採用している企業,ビジネス?

コストコと類似した価格戦略,利益モデルを採用している企業,ビジネス?

• Amazon:プライム会員会費+商品代金

• 遊園地などの施設:入場料+乗り物などの料金

• TSUTAYA:Tカード年度更新料+レンタル代金

TSUTAYA発行の場合300円

Tカードのアクティブ会員=約5千5百万人

4.価格戦争の事例:牛丼チェーン

牛丼3チェーンの店舗数推移

出所:Garbagenews.com

既存店対前年売上推移

2009年1月~11月

80

85

90

95

100

105

110

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月

吉野家 松屋

すき家

価格競争の推移

• 09年12月3日

– 松屋:通常価格値下げ.並盛り380円→320円

• 09年12月7日

– すき家:通常価格値下げ.並盛り330円→280円

• ~

– 吉野家:通常価格据え置き.並盛り380円→380円

すき家の値下げ

• 値下げとともに,使用するコメを国産ブレンド米からコシヒカリ100%に変更

• テレビ広告を積極的に投入し,値下げだけでなく品質向上も訴求

• 値下げの秘訣

– 「すき家は全国1350店舗(当時)ですが,ゼンショーグループ全体では約3900店になります.グループ全体で原料の調達から加工・販売までを一貫して行なうシステムを活用して,今回の値下げを実現しました.」ゼンショー広報部

吉野家の対抗策の特徴

• 通常価格の値下げには否定的

– 安部社長の発言「他社の値下げで顧客を奪われたが,価格競争は愚策で,(通常価格の)値下げはしない」(読売新聞,2010年4月17日)

• 一時的な値引きキャンペーンの実施

– 10年1月から断続的に値引きキャンペーンを実施

– しかし,効果は限定的であり,業績回復には結びついていない

既存店対前年売上推移

2009年12月~2010年8月

70

80

90

100

110

120

130

140

12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月

すき家 松屋

吉野家

当時の吉野家の状況

• 2010年2月期決算

– 上場以来最大となる89億円の赤字

• 2010年4月14日

– 吉野家の出射社長が副社長に降格

– 吉野家HDの安部社長が吉野家社長を兼務

• では,吉野家は,すき家と松屋の低価格戦略に,どのように対抗すればよかったと考えられるでしょうか?

経営コンサルタント小宮一慶氏

• 「客が会社を判断する材料にQPSがあります。Qはクオリティ、Pはプライス、Sはサービスです。例えば、近くに吉野家とライバル店があった場合、牛丼各店のQとSに大差はないと考えている客が多いでしょうから、あとはP(プライス)の勝負になる。そこで100円も違うとなれば当然安いほうに行きます。私が社長なら、まず値下げをします。今からでもいい。たとえ50円でもいいから値下げをして『安くなった』という印象を世間に与えることが重要です。」

出所:週刊現代09年12月26日・10年1月2日合併号

エコノミストの吉本佳生氏

• 「吉野家が280円に下げたところで、他店はもっと下げてくる可能性がある。280円が底値だという保証はない。いつまで続くかわからない値下げ競争になど、付き合えるはずがありません。」

出所:同上

5.低価格競合品への対抗手段

低価格競合品への対抗手段

• 価格で対抗する

– 価格変更(値下げ)→すき家(松屋に対抗)

– 一時的な値引きやクーポンなどの価格訴求型プロモーション→吉野家

– 低価格の対抗ブランド(ファイティング・ブランド)の投入

• 非価格手段で対抗する

– 広告,SPなどによる価格以外の価値訴求→すき家

– 品質の改善→すき家

– 高品質ブランドの投入

プロスペクト理論

• トバスキーとカーネマンによって提唱された人間の判断に関する一般的な理論

• 効用関数に代わる価値関数の提唱

– 意思決定に影響するのは確率そのものではなく,ウェイトづけられた確率である

– 人間が感じる価値は,価値の対象となる変数(例えば価格)の大きさそのものではなく,ある参照点からの相違の大きさに影響される

利得 損失

価値

プロスペクト理論の価値関数

参照点

3つの特徴

・参照点依存性

・損失回避性

・感応逓減性

利得 損失

価値

プロスペクト理論の価値関数

a

b

Camerer and Ho (1994)によると

a:b=1 : 2.5

利得 損失

価値

プロスペクト理論の価値関数

380円

270円

利得 損失

価値

プロスペクト理論の価値関数

380円

270円

参照効果からの示唆

• 消費者が感じる価格の価値,参照価格に依存する

• 一度低い参照価格が形成されると,それよりも高い価格に接したときの価値が大きく低下する

• 参照価格の低下を防止することが重要

– クーポン、バンドリング、値引きの期間と理由の明示、非主力商品による値引き対応・・・

スミノフの事例:背景

• スミノフはヒューブライン社の生産する,米国のウォッカ市場におけるリーダー・ブランドであり,1960年当時,全米で23%のシェアを有していた

• 1960年にウォルフシュミット社がスミノフと同品質で1ドル安いと称するブランドを投入

スミノフの事例:対抗策のオプション

• 1ドル引き下げシェア維持 → 利益減尐。

• 価格据え置き、広告・プロモーション支出増大→シェア維持、利益減尐

• 価格据え置き、シェア低下を放置 →シェアも利益も低下

どうすればよいか?

スミノフの事例:実際の対抗策 – 逆に1ドル価格を上げた上で、広告支出を増大し、

価格競争を回避

– 同時に新たにウォルフシュミットに対抗する同価格のレスカを市場導入

– その上で、もう1ドル安いポポフを導入し下からも対抗

スミノフ自体は相変わらず高いイメージを保ち、競争社の力を弱めた。

吉野家がその後採用した戦略

(1)10年1月~:断続的な値引きキャンペーン

(2)10年9月:低価格対抗品の導入(牛鍋丼など)

(3)11年12月:高品質商品の導入(豚丼十勝仕立て

その後、牛すき鍋膳など)

(4)12年10月:低価格業態の出店

(5)13年4月:値下げ(380円→280円)

(6)14年4月:値上げ(280円→300円)

(7)14年12月:再値上げ(300円→380円)

吉野家がその後採用した戦略(2)

低価格対抗品の導入

•すき家と同等価格(280円)の「牛鍋丼」を10年9月7日に導入

•同じ価格の「牛キムチクッパ」を10年11月に導入

既存店対前年同月売上の推移

2009年12月~2010年10月

70

80

90

100

110

120

130

140

12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

吉野家

すき家

松屋

0.0

20.0

40.0

60.0

80.0

100.0

120.0

140.0

12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月

既存対前年同月売上の推移

2009年12月~2011年6月

吉野家

松屋

すき家

吉野家がその後採用した戦略(4)

低価格業態の出店

築地吉野家極 12年10月に出店(現在は4店)

牛丼250円(現在は280円)

吉野家がその後採用した戦略(5)

値下げ 13年4月18日

並盛り価格

380円から280円に値下げ

出所:日経MJ13年4月26日

値下げに伴う変更

• 牛丼の値下げと同時に,牛鍋丼の販売は終了

• さらに,低価格業態の出店も凍結

• それぞれの価格が同じ280円となったため,位置づけが不明確となったため

吉野家 既存店売上・客数・客単価(前年同月比)

の推移:2013年4月~9月

客数

客単価

売上

80.0

90.0

100.0

110.0

120.0

130.0

140.0

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月

値下げ後の客数(前年同月比)推移

すき家 vs 吉野家

すき家

吉野家 100

110

120

130

140

150

当月 2月目 3月目 4月目 5月目 6月目 7月目 8月目

吉野家がその後採用した戦略(3)

高品質商品の導入

13年12月5日

吉野家既存店売上(前年同月比)推移2013年1月~2014年2月

90.0

100.0

110.0

120.0

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月

値下げ

牛すき鍋膳

吉野家がその後採用した戦略

(1)10年1月~:断続的な値引きキャンペーン

(2)10年9月:低価格対抗品の導入(牛鍋丼など)

(3)11年12月:高品質商品の導入(豚丼十勝仕立て

その後、牛すき鍋膳など)

(4)12年10月:低価格業態の出店

(5)13年4月:値下げ(380円→280円)

(6)14年4月:値上げ(280円→300円)

(7)14年12月:再値上げ(300円→380円)

吉野家の対抗戦略の評価

• 主力商品の値引きプロモーションは弊害が大きい

• 時間が経過してから主力商品を値下げしてもインパクトが小さい

• 低価格対抗商品(ファイティングブランド)の導入は客数増加に寄与している

• 高品質商品の導入は客単価向上に寄与している

• 施策を逐次的に投入したため,施策間の整合性がとれないケースがみられる(牛鍋丼,低価格業態の終了,凍結など)

では,どうすれば良かったのか

• 主力商品を価格競争に巻き込むまずに,低価格対抗品を導入する

• 価格競争がさらに進展することを防ぐ意味からも,低価格対抗品の価格は複数設定する(競合と同価格,競合よりも低価格・・・)

• 客単価向上を図るために,高品質・高価格商品を導入する

• 上記のような施策を,時間をおかずに実施する

6.まとめ

• 価格の利益へのインパクトは非常に大きい

• 価格戦略を評価・検討する際には,「潜在利益の三角形」を考えることが役立つ

• 値引きの繰り返しは,消費者の参照価格を低下させ,通常価格時の売上を低下させる危険性がある

• 価格設定の方法にはさまざまなバリエーションがあり,その方法によって利益モデルが異なる

本日のポイント(1)

• 利益を最大化する価格設定を考える際には,潜在利益の三角形を考慮する必要がある

本日のポイント(2) • 価格プロモーションを実施する際には,参照価格の低下を防

止することが重要.