m2mプレスai分析システムによる プレスのカス上がり、2枚抜き...

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クラウド 生産電子カルテ 電子カルテ Σ軍師 i ラインコンピューティング Σ軍師 e(エッジ) ファクトリー コンピューティング 工場 4M 情報 M-Dashboard M-Document 成形ライン プレスライン 加工ライン 複合加工ライン 自動機ライン 測定設備 金型・人・情報・連絡 世界中に点在する工場と サプライヤーを一括で クラウド管理 M2M 以外はタブレット QR 認識でモノをキャッチ Windows8 Android 端末 スマートフォン データベース データベース プレス、成形、機械加工の現場でも IoT の普及が 進んできた。経営課題である生産性向上、原価低減に 対し、製造現場では、経験と勘の世界から IoTM2M システムの導入によるデジタル化で得られた製造デー タからの分析、不具合の未然防止、工程改善、業務改 善などの模索が続いている。本稿では、IoTM2M システムと活動実態の一部を紹介する。 課題の整理と IoT・M2Mの取組み 1.IoT・M2Mシステムと導入レベルの定義 IoTM2M システムの導入に際しては、全体の 95 %と言われる古い機械の存在やメーカー違い、部品に よっては補器類、周辺機器、ロボットなど、多くの周 辺装置が存在し、金型はすべて違うことに対する M2M の対応が最大の課題である。特にプレス現場で は、カス上がりや 2 枚抜きという 2 大不具合が不良 80% を占め、チョコ停の原因も機械設備要因だけ ではない。経営陣は IoT M2M AI だというが、 どこまでデータがとれるのか、そのデータをどう分析 するのか、誰がやるのか、指導してくれる企業・団体 はあるのかという課題に直面する。 とはいえ、企業のやりたいこと、課題、現場力には 差があり、当社では、各社の要望とレベルに応じた取 組みが進められるよう技術コンサルティングを実施し ている。また、独自に 3 段階の M2M レベルを定義 し、システム導入の提案を行っている。 図1 は、プレス、成形、機械加工などの工場の 4M 情報を取得する当社の「デジタル製造 IoTM2M ステム」の全体構成図である。現場の設備情報は、周 辺装置や付加センサ情報を一括して「Σ 軍師」でリア ルタイムに収集できる。かつ、古い機械やメーカー違 い、追加センサまですべてのデジタル機器に対応でき る。 ほかに作業者情報、測定情報、工場環境情報、材料 Seiki Sato:代表取締役社長 ** Shinichi Abe:専務執行役員 2130012 川崎市高津区坂戸 321 TEL 0443220400 図1 当社の「デジタル製造 IoT & M2M システム」の全体構成図 特集 IoT/AI 活用による金型製造・部品生産技術の新展開 Part 1 IoT/AI 活用最前線 M2M プレス AI 分析システムによる プレスのカス上がり、2枚抜き不良未然防止 ㈱KMC 佐藤 声喜 、安部 新一 ** 043 型技術 33 巻第 11 2018 10 月号

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Page 1: M2MプレスAI分析システムによる プレスのカス上がり、2枚抜き …kmc-j.com/web/wp-content/uploads/2018/09/KMC様_型... · 善などの模索が続いている。本稿では、iot、m2m

クラウド生産電子カルテ

電子カルテ

Σ軍師 iラインコンピューティング

Σ軍師 e(エッジ)ファクトリー

コンピューティング

工場 4M情報

M-DashboardM-Document

成形ライン プレスライン 加工ライン複合加工ライン自動機ライン 測定設備 金型・人・情報・連絡

世界中に点在する工場とサプライヤーを一括でクラウド管理

M2M以外はタブレットQR認識でモノをキャッチ

Windows8 Android 端末

スマートフォン

データベース

データベース

プレス、成形、機械加工の現場でも IoTの普及が進んできた。経営課題である生産性向上、原価低減に対し、製造現場では、経験と勘の世界から IoT、M2Mシステムの導入によるデジタル化で得られた製造データからの分析、不具合の未然防止、工程改善、業務改善などの模索が続いている。本稿では、IoT、M2Mシステムと活動実態の一部を紹介する。

課題の整理と IoT・M2Mの取組み

1.IoT・M2Mシステムと導入レベルの定義

IoT・M2Mシステムの導入に際しては、全体の 95%と言われる古い機械の存在やメーカー違い、部品によっては補器類、周辺機器、ロボットなど、多くの周辺装置が存在し、金型はすべて違うことに対するM2Mの対応が最大の課題である。特にプレス現場で

は、カス上がりや 2枚抜きという 2大不具合が不良の 80%を占め、チョコ停の原因も機械設備要因だけではない。経営陣は IoTだM2Mだ AIだというが、どこまでデータがとれるのか、そのデータをどう分析するのか、誰がやるのか、指導してくれる企業・団体はあるのかという課題に直面する。とはいえ、企業のやりたいこと、課題、現場力には差があり、当社では、各社の要望とレベルに応じた取組みが進められるよう技術コンサルティングを実施している。また、独自に 3段階のM2Mレベルを定義し、システム導入の提案を行っている。図 1は、プレス、成形、機械加工などの工場の 4M情報を取得する当社の「デジタル製造 IoT・M2Mシステム」の全体構成図である。現場の設備情報は、周辺装置や付加センサ情報を一括して「Σ軍師」でリアルタイムに収集できる。かつ、古い機械やメーカー違い、追加センサまですべてのデジタル機器に対応できる。ほかに作業者情報、測定情報、工場環境情報、材料

*Seiki Sato:代表取締役社長**Shinichi Abe:専務執行役員〒213-0012 川崎市高津区坂戸 3-2-1TEL(044)322-0400

図 1当社の「デジタル製造 IoT & M2Mシステム」の全体構成図

特集 IoT/AI 活用による金型製造・部品生産技術の新展開

Part 1 IoT/AI 活用最前線

M2MプレスAI 分析システムによるプレスのカス上がり、2枚抜き不良未然防止

㈱KMC 佐藤 声喜*、安部 新一**

043型技術 第33巻 第11号 2018年10月号

Page 2: M2MプレスAI分析システムによる プレスのカス上がり、2枚抜き …kmc-j.com/web/wp-content/uploads/2018/09/KMC様_型... · 善などの模索が続いている。本稿では、iot、m2m

1.稼働率・停止データ取得

2.製造・設備データの分析

3.対策(設備・条件改良)

4.PDCAを回す

レベル 1:稼働率管理

レベル 2:製造条件管理(統合M2M)

レベル 3:製造条件の自動補正

主に経営的視点での生産性評価:稼働率とチョコ停を監視し生産の実力、ムダな時間、停止時などの異常対応が可能

工場現場視点で稼働率低下、チョコ停の原因分析:原因分析には設備、周辺機器異常、条件設定ミス、金型異常、材料異常などを監視。1ショットで各データの複合分析が可能

レベル 2 では、原因分析後の対応は作業者にゆだねられるが、レベル 3 では、設備の生産条件を自動的に補正し、最適化条件での安定品質維持、生産が可能

Σ軍師システム:各種加工設備・自動機・センサなどの生産ログ情報取得装置(LAN接続)

Σ軍師成形機 プレス機 加工機 自動機・組立て 周辺機 ロボット 金型センサ

赤:設備異常黄:信号異常

Σ軍師パトライトΣ軍師ソフト1ショット管理機能:加工機、周辺機器、センサ、ロボットしきい値設定機能:生産条件に対して上・下限設定が可能異常警告機能:設備停止、しきい値、データ通信異常の警告が可能データの削除・保存機能:不要データの削除、異常時の保存が可能

金型情報管理

金型所在・棚卸管理

20 年耐性QR銘板(表面ガラスコーティング)

QR銘板と金型管理サービスクラウド金型管理サービス

データベース

サービスパーツ・生技情報管理・製造年月日・メーカー名・購買・資産管理コード番号・金型・資産管理番号・命数・不具合・メンテナンスなどの履歴情報・廃棄情報

情報、工程情報が、クラウド(オンプレミスも可)の生産電子カルテ(M-Karte)に 4M情報として蓄積される。得られたデジタル情報から、出来高、原価、稼働率、チョコ停、不具合などの現場指標が可視化される。日本、海外工場の可視化と連携も実現できている[コニカミノルタ㈱事例]。見える化の先に改善、改良を目指すが、そのためには不具合の特定、分析、製造条件変更などの現場改善・改良が必要となる。各種データマイニングやデータの複合分析、AIによるマネジメントも必要になり、当社ソリューションはM-Dashboardにて動的情報の可視化と分析を行う。作業日報や機械日報、QC工程表、金型経歴書などの静的情報は、閲覧共有ツールとしてM-Documentが用意され、間接業務の削減にも寄与している。図 2は、IoT & M2Mシステムの取組みステップとM2Mレベルを示す。特に重要なのがレベル 2の

データ分析・予防の取組みである。最初は、レベル 1の稼働率、チョコ停の見える化から始まるが、20年前から取り組んで実現している会社もある。真の IoT・M2M活用はレベル 2からの取組みとなる。また、予兆管理からの製造条件の自動補正運転などはレベル 3の段階であり、そこに AI機能などが実装される。そのためには、しっかりレベル 2でデータをとり、自分たちの製造条件を確立する必要がある。2.板金プレスのM2Mシステムと金型管理

当社はこの 8年、顧客とともに IoTソフトを活かすためのM2Mシステムの構築を進めてきた。板金プレス、射出成形、機械加工の現場に共通する最初の課題が、古い機械とメーカー違いのM2Mシステム対応である。図 3は、当社独自の万能型M2M:軍師システムと金型管理システムである。すでに国内外の 18事業所、

図 2 IoT & M2Mシステムの取組みステップとM2Mレベル

図 3M2MシステムΣ軍師とQR銘板・金型管理

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IoT システム生産電子カルテデータベース

作業者情報

マイコンA/D変換アンプ

QR銘板:金型情報

【プレスM2Mシステム:レベル1】稼働・停止は敷設済みのパトライトや連続運転信号を制御装置から取得可。当社はRaspberry Pi「M-Ifboard」を採用

【プレスM2Mシステム:レベル2-1】ひずみゲージセンサ方式

【プレスM2Mシステム:レベル2-2】高精度な圧力センサにはピエゾセンサを使用

【プレスM2Mシステム:レベル3】複数の半導体センサを用いたAI 圧力センシング方式

20ライン、500台以上のメーカー違い、新旧設備・センサへの接続実績がある。Σ軍師には、工場現場設置型のパネル PC版の Σ軍師 iと管理室設置用の汎用 PC版の Σ軍師 eの 2種類が用意されている。また、図 3には、当社のクラウド金型管理サービスの利用例も示す。プレス現場において、増加する金型と保管、サービスパーツ対応、棚卸作業も大きな工数負荷となっている。2016年から中小企業庁などが推進している金型廃棄や金型保管料未払いの問題もある。金型は Tier 1などからの貸与型が多く、自動車などではサービスパーツ供給契約などで 20年間実質的な保管義務が生じているものの、個体管理できる有効な手段がなかった。従来の RFIDでは耐用年数不足で、市販の QRプレートでは�や油汚れ、高温・高湿環境や、こすれなどで認識できなくなる課題がある。当社では、金型管理現場の悪条件下でも 20年の耐性、250℃の耐熱性を有する特許「QR銘板」と、金型の所在、棚卸、使用条件をクラウドで管理するクラウドサービス(月額4万 5千円~)を用意している。これも、プレスなどの製造現場で必要な IoTであり、Tier 1、中小の金型管理工数を大幅に軽減できる。国内外の金型管理に普及が進んでいる。

Σ軍師の活用には、単に設備接続とはいえ、温度センサだけでもアナログ信号の処理、例えば電圧違い、ピーク電圧か一定時間か、メーカー別の信号対応、接続ケーブル選定、設置など、さまざまな知識と現場ノウハウが必要だ。当社はそのすべての接続回路設計、センサ選定、工事までワンストップで請け負う。実は、誰がやるのか、誰が指導するのかが、IoT・M2Mシステム導入の大きな障害になっている。板金プレスでのレベル 1に必要な稼働率・チョコ

停データは、プレス機の自動運転信号や簡単なカウンター、パトライトから取得でき、これは比較的安価なシステムや工事で行える。市販品も多く上市されていて、既設のロガーに当社の電子カルテを連動させた事例もある。当社では、独自に 30台以上の多数台のさまざまな加工機と周辺機器まで信号取得できるような安価な無線・有線対応のマイコン接続機器「M-IFボード(マルチインターフェイスボード)」を用意している。レベル 2の段階では、不具合・チョコ停分析とその対策に向けて、プレス機、搬送ロボット、吹き飛ばしなどの周辺装置の関連するすべてのデータを取得する必要がある。そして目的の不具合、2枚抜き、カス上がりなどの分析用に後付け圧力センサなどを組み合わせたプレスM2Mシステムを構成している。特に本稿では、その方式を詳しく紹介する。一つは、ひずみセンサをプレス機に取り付けて圧力変動を測定するひずみセンサ方式である。他方、精密な圧力を測定するには、ピエゾセンサによる測定、評価法との組合せ方式がある。ひずみセンサは既存プレス機でも安価に設置可能で、現時点は普及版と言える。図 4に、プレス IoT & M2Mシステムのレベル 1、レベル 2、レベル 3の概要を示す。次にプレスメーカーにおける IoT & M2M、測定・金型管理に取り組む企業を紹介する。

山口製作所のプレス IoT・M2Mシステムの導入事例

1.導入背景

山口製作所(YSS)との出会いは 2016年。同社はプレス加工・組立て、金型製作、部品加工を手がける。従業員 28人。山口貴史社長は、「これから先の人口

図 4プレス IoT & M2Mシステムのレベル 1、レベル 2、レベル 3の概要

特集 IoT/AI 活用による金型製造・部品生産技術の新展開

Part 1:IoT/AI 活用最前線

045型技術 第33巻 第11号 2018年10月号

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M2M:Σ軍師

IoT:生産電子カルテ

圧力センサ稼働率・チョコ停監視グラフ

圧力グラフ

減で従業員不足が懸念される。手入力や勘による作業を減らし、できるだけ人の手をかけない体制を構築し、真剣に不具合を減らさないと中小プレス屋は生き残れない」と力を込めて言い切った。YSSは、ITやプレスセンサの導入はすでに 10年前から取り組んでいたが、先を見据え、ものづくり補助金を活用し、2016年度に最新の IoT導入を図った。選定にあたり、IoTソフトだけでなく現場に精通し、古い機械にも最新のセンサとM2Mができるリアルタイムデータロギングシステムと、その工事までのすべてを請け負う業者を探していた。当社は早速、課題確認と現場調査、2枚抜き、カス上がり対策などの IoTとM2Mシステム設計から開始した。図 5に、プレス工場に導入された IoT & M2Mシステムと圧力センサによる監視画面を示す。2.課 題

YSSの課題は、不具合の 80%を占めるカス上がりと 2枚抜きである。対策に、正確な圧力変化を取得・記録できるセンサと、1ショットごとにデータを整理して分析が可能なM2Mシステム「軍師システム」を提案した。得られたデータを処理する IoTソフトは、現場作業者が金型のショット管理や金型メンテナンス履歴をタブレットで簡単に記録できる「金型電子カルテ」を採用し、ショット数とそのプレス条件、荷重データがリアルタイムに手作業なしに自動で記録でき、かつ紐付け評価ができるシステムを導入した。現場作業者が瞬時に変化を捉え、対策できるような仕組みを目指している。もちろん、レベル 1の稼働率管理やチョコ停の見える化も行う。さらに、新規に 3次元測定機の寸法測定や測定表作成などとの関連性調査も手間を

省き、品質管理が行えるような取組みも行う。3.取得データの今後の活用

追加したセンサ情報を活用して、金型の摩耗検知や劣化検知、傾向分析による予兆検知、異物混入検知などの監視が可能なシステムの構築を目指している。もちろん日々の管理では、稼働率、チョコ停監視、上限・下限のしきい値管理で異常をリアルタイムに検知し、改善に役立てることを目指している。不良原因には、材料送り装置や吹き飛ばし、油など複合的な要因もあるので、プレス工程すべての関連情報の収集に取り組むことも視野に入れている。4.効 果

最も重視する技術的効果は、現場力の向上である。プレス技能者の経験や勘、音、振動などの状況判断をデジタル化し、プレス機、金型の変化検知、異物検知など総合的現場力の向上を図っている。現場の勘に頼っていた分析もデジタル化で論理的にかつ短時間で可能になり、不具合があってもデータをもとに話ができるようになりつつあることは大きな変化である。金型データ、メンテナンス記録、測定値データから、事前に予測して金型補修ができるようになれば、さらに効果は大きい。また、製品ロットと測定値、金型状態、メンテナンス履歴、プレス条件を並列にデータ分析できるようになれば、プレス技術の進化につながる。不良対応工数や段取り、書類作成工数、集計業務などの現場間接工数も削減されつつある。経済的効果は、プレス 1ショットデータ管理で影響ロットが特定でき、万一の不良でも影響を最小限に食い止め、後処理や廃棄部品費の削減につながる。同社は IoT導入前の売上げが 3億 2千万円、不良品の処理に直接経費でも年間 500万円かかっていた。こ

図 5プレス工場に導入されたIoT & M2M&センサ

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圧力検知と傾向値管理

上限・下限のしきい値管理

ひずみ量 /mV

ショット数

515

505

495 変化点→予兆

のほか、金型の突発故障でのメンテナンス、生産停止はプレス機 1台当たり年間 50時間ほど費やしていた。IoT・M2Mの取組みをしなければ 3割は人を増やさないといけなかった。山口社長は、まずは導入した IoTシステムの効果を手の内にすることに注力し、今後さらなる拡充を図る計画だ。IoT導入は、何より客先からの信頼性も上がることで受注増のベースとなることを期待している。企業の大中小の規模の問題ではなく、日本のプレス製造業の発展のためにこれからも挑戦し続け、業界仲間と共有しながら日本の製造業の復活に向けて貢献していきたいと熱意を語る。

IoT&M2Mの投資効果とレベル3の自動補正M2Mへの取組み

当社への依頼の中で投資効果の議論がよくある。自社の課題を明確に認識していない企業には、課題の定量化調査分析から提案している。効果試算は、不具合仕損費だけでも、再製作、機会損失を考えると 3倍のロス金額と考えるべきだと主張している。投資回収の答えは現場改善にあり、電子カルテ&Σ軍師の役割はリアルタイムに現場の 4M情報を監視し、異常に対し即座に現場作業者、管理者に情報を提供することにある。金型・設備メンテナンスの予知や傾向値分析などで不具合を未然に防止し、稼働率アップを図るレベル 2の投資で十分回収可能である。また、レベル 2の取組みで、十分にデータをとり、しきい値を決めるプロセスは欠かせない。図 6はプレスセンサ情報からの現場管理の一例を示す。当社では、しきい値管理が十分に現場でできるようになった企業へレベル 3を提案する。当社の IoT

& M2Mシステムもさらなる進化に向けて図 4のレベル 3の次のシステム開発を急いでいる。プレス分野では、サポインを活用した「プレス成形不良ゼロを実現するスライド一体型高感度・高耐久型センサーと予知予防 AIシステムの開発」を行っている。2017年度は、YSSの工場現場実験の協力を得ながら、50%ほどの開発が完了した。カス上がり、2枚抜きの不具合予兆管理のため、パンチ 1本の破損まで検知できる超微細な高精度圧力センサの開発と、プレス機への複数のセンサ配置による点から面への圧力分布データの取得、それを AIで分析、予兆監視するシステムである。2018年度はさらなる実験データ収集や AI実装も施し、さらに強力で効果のあるシステムに仕立て上げ、2019年度から商品リリースする計画である。今後も、共同研究やモニタ企業を募集して、現場での共創をしながら日本のプレス業界の発展に寄与したい。

これからの製造業には、M2Mによる製造革新、IoTによる業務革新の両面が必須だ。日本製造業の信頼性回復には、ISOや IATFなどの新たな自動車規格にも対応したデジタル品質保証体制の確立が最も重要である。そのすべての課題は現場にあり、答えも現場にある。それこそがボトムアップ方式の日本版 IoTの取組みである。

参 考 文 献

1)機械技術、Vol.65、No.1(2017)、pp.78-822)自動認識、Vol.31、No.4(2018)、pp.41-453)新潟日報 2016年 8月 20日付

図 6 プレスセンサ情報からの現場管理例

特集 IoT/AI 活用による金型製造・部品生産技術の新展開

Part 1:IoT/AI 活用最前線

047型技術 第33巻 第11号 2018年10月号