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GE Healthcare Lunar News 04 inovation and dedication DXA 法による 身体組成評価の有用性 はじめに Dual Energy X-Ray Absorptiometry DXA)法は骨粗鬆症の診断、治 療において骨量、骨密度を測定するために使用されるが、同時に軟部組織 すなわち筋肉量、脂肪量を定量することもできる。体脂肪率測定のゴール ドスタンダードとされる水中体重法との相関も高く、現在広く用いられて いるインピーダンス法と異なり、体水分の分布状態の影響を受けにくいの で、生活習慣病、メタボリックシンドローム対策に使用されることも多い。 更に、海外では、スポーツ選手(アスリート)の身体組成(Body Compositionの評価に積極的に用いられている。 今回は、アスリート、健康な若年女性を対象として、 DXA測定の有用性に ついて考えてみたい。 どのようなスポーツでも体格はパフォーマンスに対して非常に重要な要 因である。身長が高く、体重が重いほうが有利になる競技も多い。しかし、 体重は身体全体の総量であり、本来はその中身、すなわち身体組成が重要 である。 アスリートにとって体脂肪が多すぎることは、体重の増加につながり、好 ましいことではない。それに対して骨格筋は十分に増やしておく必要があ る。また、競技によって、骨格筋がより必要な部位も異なる。従って、身体 各部位ごとに、その組成がわかるような測定が望ましい。 身体組成計測は、アスリートのトップ・パフォーマンスの維持においても 欠かすことのできない、測定項目になりつつある (図12DXA法(GEヘルスケア社製 Prodigy型)による男子陸上長距離 選手の測定結果例である。彼らはで きるだけ体重(体脂肪)を減らすこと が望まれており、一方で下肢の筋肉 は充分に確保する必要がある。ま た、体重を軽くすること、走るという 同一動作を繰り返し長く続けること 女子栄養大学 栄養生理学研究室 上西 一弘 先生 による疲労骨折の予防にも対応しなければならない。このような場合に、 DXA法による測定は非常に有用となる。 3は、ラグビーのフォワードの選手の測定結果である。ラグビーはポジ ションによって役割が異なり、目指す身体作りも異なる。フォワードの選手 は、当たり負けしないしっかりとした身体を作る必要がある。その場合、単 に身体が大きいというだけではなく、充分な筋肉が発達していることも重 要である。ラグビーの他では、例えば相撲の場合にも、発達した筋肉の上 に適量の脂肪を身につけることが大切といわれている。 このように、スポーツでは身体組成が非常に重要な評価項目となってき ている。横断的にも縦断的にも、 DXA法による身体組成測定は有用である といえる。 アスリートにおけるDXA測定 1 DXA法による測定風景 2 男子陸上長距離選手の測定結果 3 ラグビーのフォワードの選手の 測定結果 体組成(基礎解析) 領域 軟部組織 脂肪センタ イル 総重量 kg脂肪量 g非脂肪量 gBMC g右腕 13.7 - 7.1 920 5,806 351 左腕 13.7 - 6.7 873 5,487 323 右脚 17.1 - 18.0 2,916 14,086 965 左脚 17.2 - 18.4 2,990 14,445 959 胴体 27.7 - 53.3 14,279 37,325 1,698 全身 21.6 - 109.0 22,522 81,619 4,858 全右半身 21.4 - 54.0 11,024 40,508 2,468 全左半身 21.9 - 55.0 11,498 41,111 2,390 体組成(基礎解析) 領域 軟部組織 脂肪センタ イル 総重量 kg脂肪量 g非脂肪量 gBMC g右腕 7.0 - 2.7 175 2,341 159 左腕 7.0 - 2.6 170 2,270 148 右脚 6.5 - 8.9 540 7,814 535 左脚 6.5 - 9.3 565 8,177 542 胴体 7.0 - 24.4 1,662 21,929 805 全身 6.8 - 52.0 3,378 46,063 2,558 全右半身 6.8 - 26.0 1,686 22,984 1,289 全左半身 6.8 - 26.0 1,691 23,079 1,269

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GE Healthcare Lunar News 04inovation and dedication

DXA法による身体組成評価の有用性

はじめに

 Dual Energy X-Ray Absorptiometry(DXA)法は骨粗鬆症の診断、治療において骨量、骨密度を測定するために使用されるが、同時に軟部組織

すなわち筋肉量、脂肪量を定量することもできる。体脂肪率測定のゴール

ドスタンダードとされる水中体重法との相関も高く、現在広く用いられて

いるインピーダンス法と異なり、体水分の分布状態の影響を受けにくいの

で、生活習慣病、メタボリックシンドローム対策に使用されることも多い。

更に、海外では、スポーツ選手(アスリート)の身体組成(Body Composition)の評価に積極的に用いられている。

 今回は、アスリート、健康な若年女性を対象として、DXA測定の有用性について考えてみたい。

 どのようなスポーツでも体格はパフォーマンスに対して非常に重要な要

因である。身長が高く、体重が重いほうが有利になる競技も多い。しかし、

体重は身体全体の総量であり、本来はその中身、すなわち身体組成が重要

である。

 アスリートにとって体脂肪が多すぎることは、体重の増加につながり、好

ましいことではない。それに対して骨格筋は十分に増やしておく必要があ

る。また、競技によって、骨格筋がより必要な部位も異なる。従って、身体

各部位ごとに、その組成がわかるような測定が望ましい。

 身体組成計測は、アスリートのトップ・パフォーマンスの維持においても

欠かすことのできない、測定項目になりつつある(図1)。 図2はDXA法(GEヘルスケア社製Prodigy型)による男子陸上長距離選手の測定結果例である。彼らはで

きるだけ体重(体脂肪)を減らすこと

が望まれており、一方で下肢の筋肉

は充分に確保する必要がある。ま

た、体重を軽くすること、走るという

同一動作を繰り返し長く続けること

女子栄養大学 栄養生理学研究室

上西 一弘 先生

による疲労骨折の予防にも対応しなければならない。このような場合に、

DXA法による測定は非常に有用となる。 図3は、ラグビーのフォワードの選手の測定結果である。ラグビーはポジションによって役割が異なり、目指す身体作りも異なる。フォワードの選手

は、当たり負けしないしっかりとした身体を作る必要がある。その場合、単

に身体が大きいというだけではなく、充分な筋肉が発達していることも重

要である。ラグビーの他では、例えば相撲の場合にも、発達した筋肉の上

に適量の脂肪を身につけることが大切といわれている。

 このように、スポーツでは身体組成が非常に重要な評価項目となってき

ている。横断的にも縦断的にも、DXA法による身体組成測定は有用であるといえる。

 近年、体脂肪率の測定が比較的簡単に行われるようになった。家庭用

の体脂肪計も多数販売されている。しかし、現在用いられている多くの体

脂肪計はインピーダンス法によって計測されており、体水分の量、分布状

態の影響を強く受ける。

 インピーダンス法の中でも、最も正確に身体組成を測定できると考えら

れる機種にInBody(バイオスペース社製)がある。私たちはInBodyとDXAを用いて一般人やアスリートの身体計測を行っている。その一部をここで

紹介する。図4は女子大学生を対象とした際のDXAとInBodyの測定結果の相関である。相関係数は0.904と非常に高い相関を示しており、両測定値の差も大きくは無い。図5は男子のアスリートを対象とした同様の結果である。両測定による体脂肪率の結果の相関は0.357であり、DXAによる測定の方がInBodyよりも低値を示す傾向にある。また、表1に示すように、測定結果を縦断的にみると、InBodyの方が変動が大きくなる。これは他のインピーダンス法よりも少ないとはいえ、体水分分布状態の違いによる、日

内変動のためと考えられる。従って、アスリートにおいて身体組成の経時

的な変動を、より詳細に検討する場合には、DXA法が優れているといえる。

 最近の女子大学生の体格は細身の者が多く、肥満者は少ないように思

われる。しかし、肥満の本当の定義は「体脂肪の過剰蓄積」であるので、単

に身長と体重からだけでは判定できない。そこで、身体組成の測定が重要

となる。ここで女子大学生を対象とした測定結果を紹介する(表2)。 対象は栄養学を学ぶ健康な女子大学生209名で、平均年齢は18.9歳である。身長、体重を測定、BMIを算出した。BMIは18.5未満がやせ、25以上が肥満と判定される。同時に、DXAによる測定を行った。 BMIの平均値は21.5で、25以上で肥満と判定されたものは19名(9.1%)であった。しかし、DXA法で体脂肪率が30%以上であったものは80名(38.3%)も存在した。現在の女子大学生では、外見上はスリムでも、筋肉量が少なく、いわゆる隠れ肥満が多いことが確認された。ちなみに、やせ

の方を見ると、BMI18.5未満の者は21人(10%)存在したが、月経が止まってしまうような体脂肪率が10%をきるような者はいなかった。

 骨塩量、骨密度だけではなく、身体組成(特に脂肪と除脂肪、すなわち

筋肉量)と、その分布がわかるということが、DXA法の長所の1つである。また、長期に脂肪量、徐脂肪量のモニタリングが容易に行えることから、

アスリートマネージメント面からも非常に有用な手法である。今後、DXA法の体組成計測の重要性は、アスリートにかかわらず、肥満や一般のダイ

エットマネージメントや体組成にかかわる疾患のマネージメントに非常に

有用な方法であると思われる。

アスリートにおけるDXA測定

図1:DXA法による測定風景

図2:男子陸上長距離選手の測定結果

図3:ラグビーのフォワードの選手の

測定結果

体組成(基礎解析)

領域 軟部組織脂肪%

センタイル

総重量(kg)

脂肪量(g)

非脂肪量(g)

BMC(g)

右腕 13.7 - 7.1 920 5,806 351左腕 13.7 - 6.7 873 5,487 323右脚 17.1 - 18.0 2,916 14,086 965左脚 17.2 - 18.4 2,990 14,445 959胴体 27.7 - 53.3 14,279 37,325 1,698全身 21.6 - 109.0 22,522 81,619 4,858全右半身 21.4 - 54.0 11,024 40,508 2,468全左半身 21.9 - 55.0 11,498 41,111 2,390

体組成(基礎解析)

領域 軟部組織脂肪%

センタイル

総重量(kg)

脂肪量(g)

非脂肪量(g)

BMC(g)

右腕 7.0 - 2.7 175 2,341 159左腕 7.0 - 2.6 170 2,270 148右脚 6.5 - 8.9 540 7,814 535左脚 6.5 - 9.3 565 8,177 542胴体 7.0 - 24.4 1,662 21,929 805全身 6.8 - 52.0 3,378 46,063 2,558全右半身 6.8 - 26.0 1,686 22,984 1,289全左半身 6.8 - 26.0 1,691 23,079 1,269

Lunar News 04inovation and dedication

 Dual Energy X-Ray Absorptiometry(DXA)法は骨粗鬆症の診断、治療において骨量、骨密度を測定するために使用されるが、同時に軟部組織

すなわち筋肉量、脂肪量を定量することもできる。体脂肪率測定のゴール

ドスタンダードとされる水中体重法との相関も高く、現在広く用いられて

いるインピーダンス法と異なり、体水分の分布状態の影響を受けにくいの

で、生活習慣病、メタボリックシンドローム対策に使用されることも多い。

更に、海外では、スポーツ選手(アスリート)の身体組成(Body Composition)の評価に積極的に用いられている。

 今回は、アスリート、健康な若年女性を対象として、DXA測定の有用性について考えてみたい。

 どのようなスポーツでも体格はパフォーマンスに対して非常に重要な要

因である。身長が高く、体重が重いほうが有利になる競技も多い。しかし、

体重は身体全体の総量であり、本来はその中身、すなわち身体組成が重要

である。

 アスリートにとって体脂肪が多すぎることは、体重の増加につながり、好

ましいことではない。それに対して骨格筋は十分に増やしておく必要があ

る。また、競技によって、骨格筋がより必要な部位も異なる。従って、身体

各部位ごとに、その組成がわかるような測定が望ましい。

 身体組成計測は、アスリートのトップ・パフォーマンスの維持においても

欠かすことのできない、測定項目になりつつある(図1)。 図2はDXA法(GEヘルスケア社製Prodigy型)による男子陸上長距離選手の測定結果例である。彼らはで

きるだけ体重(体脂肪)を減らすこと

が望まれており、一方で下肢の筋肉

は充分に確保する必要がある。ま

た、体重を軽くすること、走るという

同一動作を繰り返し長く続けること

記載内容は、お断りなく変更することがありますのでご了承ください。

©2014 General Electric Company - All rights reservedPrinted in JapanRev.1.0 2014/10 4AK・CK-A1(KM・KM) Bulletin L4A11 JB23704JA

による疲労骨折の予防にも対応しなければならない。このような場合に、

DXA法による測定は非常に有用となる。 図3は、ラグビーのフォワードの選手の測定結果である。ラグビーはポジションによって役割が異なり、目指す身体作りも異なる。フォワードの選手

は、当たり負けしないしっかりとした身体を作る必要がある。その場合、単

に身体が大きいというだけではなく、充分な筋肉が発達していることも重

要である。ラグビーの他では、例えば相撲の場合にも、発達した筋肉の上

に適量の脂肪を身につけることが大切といわれている。

 このように、スポーツでは身体組成が非常に重要な評価項目となってき

ている。横断的にも縦断的にも、DXA法による身体組成測定は有用であるといえる。

 近年、体脂肪率の測定が比較的簡単に行われるようになった。家庭用

の体脂肪計も多数販売されている。しかし、現在用いられている多くの体

脂肪計はインピーダンス法によって計測されており、体水分の量、分布状

態の影響を強く受ける。

 インピーダンス法の中でも、最も正確に身体組成を測定できると考えら

れる機種にInBody(バイオスペース社製)がある。私たちはInBodyとDXAを用いて一般人やアスリートの身体計測を行っている。その一部をここで

紹介する。図4は女子大学生を対象とした際のDXAとInBodyの測定結果の相関である。相関係数は0.904と非常に高い相関を示しており、両測定値の差も大きくは無い。図5は男子のアスリートを対象とした同様の結果である。両測定による体脂肪率の結果の相関は0.357であり、DXAによる測定の方がInBodyよりも低値を示す傾向にある。また、表1に示すように、測定結果を縦断的にみると、InBodyの方が変動が大きくなる。これは他のインピーダンス法よりも少ないとはいえ、体水分分布状態の違いによる、日

内変動のためと考えられる。従って、アスリートにおいて身体組成の経時

的な変動を、より詳細に検討する場合には、DXA法が優れているといえる。

 最近の女子大学生の体格は細身の者が多く、肥満者は少ないように思

われる。しかし、肥満の本当の定義は「体脂肪の過剰蓄積」であるので、単

に身長と体重からだけでは判定できない。そこで、身体組成の測定が重要

となる。ここで女子大学生を対象とした測定結果を紹介する(表2)。 対象は栄養学を学ぶ健康な女子大学生209名で、平均年齢は18.9歳である。身長、体重を測定、BMIを算出した。BMIは18.5未満がやせ、25以上が肥満と判定される。同時に、DXAによる測定を行った。 BMIの平均値は21.5で、25以上で肥満と判定されたものは19名(9.1%)であった。しかし、DXA法で体脂肪率が30%以上であったものは80名(38.3%)も存在した。現在の女子大学生では、外見上はスリムでも、筋肉量が少なく、いわゆる隠れ肥満が多いことが確認された。ちなみに、やせ

の方を見ると、BMI18.5未満の者は21人(10%)存在したが、月経が止まってしまうような体脂肪率が10%をきるような者はいなかった。

 骨塩量、骨密度だけではなく、身体組成(特に脂肪と除脂肪、すなわち

筋肉量)と、その分布がわかるということが、DXA法の長所の1つである。また、長期に脂肪量、徐脂肪量のモニタリングが容易に行えることから、

アスリートマネージメント面からも非常に有用な手法である。今後、DXA法の体組成計測の重要性は、アスリートにかかわらず、肥満や一般のダイ

エットマネージメントや体組成にかかわる疾患のマネージメントに非常に

有用な方法であると思われる。

※GE today vol.41より抜粋

DXA法とインピーダンス法

隠れ肥満

まとめ

図4:DXAとInBodyの体脂肪率の比較(女子大学生)

図5:DXAとInBodyの体脂肪率の比較(男子陸上選手)

表1:2名の男性アスリートにおける体脂肪率(%)の日内変動の比較

表2:BMIとDXAによる肥満判定 女子大学生を対象

販売名称  X線骨密度測定装置 Lunar iDXA 医療機器承認番号:21800BZX10007000号販売名称  X線骨密度測定装置 PRODIGY 医療機器承認番号:21500BZY00582000号販売名称  X線骨密度測定装置 DPXシリーズ 医療機器承認番号:20300BZY00999000号DPX-BRAVOは X線骨密度測定装置 DPXシリーズの 1シリーズです。

InBody

1回目 2回目 3回目 AV SD

アスリート A 6.1 8.3 6.3 6.9 1.2

アスリート B 8.2 12.7 9.8 10.2 2.3

DXA

1回目 2回目 3回目 AV SD

アスリート A 6.8 6.0 6.5 6.4 0.4

アスリート B 4.7 4.1 4.7 4.5 0.3

AV SD

身長 158.1cm 5.2

体重 53.7kg 8.0

平均 BMI 21.5kg / m2 2.6

BMI 18.5未満 21人 10.0%

BMI 25以上 19人 9.1%

平均脂肪%(DXA) 28.4 5.8

脂肪 10%以下(DXA) 0人 0%

脂肪 30%以上(DXA) 80人 38.3%