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KRCフィールド通信 No.2
2017年 12 年 26日
バングラデシュの ICT Expo
コンサルタント第一事業部 主席コンサルタント 庄司 仁
業務で開発途上国に滞在すると、ホテルによっては現地の英字新聞を届けてくれる。どちら
かというと滞在国内のニュースよりは国際的なニュースに眼が行きがちなのと、言論の自
由が十分でない場合もあるので、普段はあまり関心を持たないのだが、バングラデシュでは
安全管理の面からも現地新聞から情報を入手することが奨励されており、現地の新聞に目
を通すようになった。10 月のある日、傍らで仕事をしていた上司が、ICT Expo が開催され
ているという記事1を目に留め、小生に記事を見せてくれた。そういえば前日、首相府へ行
く道すがら車の中から見た国際会議場らしき場所で、大手の ICT メーカーの艶やかな幟が
舞っていたことを思い出した。
筆者は首都ダッカに外国直接投資と国内産業を結びつけて、国内の産業育成を行おうとい
うプロジェクトで滞在していたのだが、筆者が従事するプロジェクトは基礎部品の製造業
をターゲットとしており、ICT はプロジェクトの直接の対象ではない。しかしながら Digital
Bangladesh はハシナ現首相の夢と言われ、現在のバングラデシュの国家開発の方向性を示
す文書である Vision 2021 でも中心的なスローガンである。仕事で一緒の首相府職員の口か
らも”digital”という言葉を何回も聞いた。当然 ICT はバングラデシュ政府の考える将来有
望業種に含まれており、ハイテクパーク庁(High-tech Park Authority)という名の ICT 産業
誘致に特化した工業団地開発機関が存在する。この機関は従事しているプロジェクトの対
象には含まれていないのだが、外資を呼び込んで技術を習得し、自国の産業を育てようとい
う政策の方向性では共通するものがある。新聞記事には ICT 部門に繊維産業のような成長
の潜在可能性があり、政府がコンピューターハードウェアを地場で生産するための外国直
接投資を振興することを目的として ICT Expo を開催すると記載されていた。国内最大のコ
ンピューターハードウェアの見本市だというこの Expo は、ハイテクパーク庁と郵政通信 IT
省の ICT Division、ICT 業界団体が後援し、10 月 18 日~20 日の三日間開催されていた。
人の集まるところはテロのリスクが高いため通常は立ち入りが禁止されているのだが、上
司はその記述に注目し、知見を広げるために許可を取って二人で訪れてみることにした。イ
1 October 18, 2017 Daily Sun Business, “ICT sector holds growth potential like RMG;
Kamal”
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ンターネットで検索してみると、オンラインで参加登録をするようになっているのだが、も
う開催されているので、登録は直接会場入り口で行うように指示が出ていた。
国際会議場は広大な敷地の中に立っているガラス張りのモダンな建物だ。正面で車から降
りて、受付をしてもらおうとブースに寄ると、若者が群がっていて、一寸待つことになった。
自分の順番という段になって、若い男が脇からこっちへついて来い、という。大丈夫かと思
いつつついていくと、一般入り口とは異なるゲートをするりと抜けて建物の中にある、ちょ
っと雑然とした事務所へと連れて行かれた。休息用のソファなどが置かれている、プレスや
出展関係者の控室のような場所だ。その場で誰も何も我々に説明しないまま VIP と書かれ
た入場パスをくれた。明らかに外国人と分かる二人組を厚遇してくれるのは、いかにも開発
途上の国らしいと思った。
会場となった国際会議場外観2
展示場内の様子
事務所を出ると目の前はメインの入り口を入ったすぐの展示会場で、おなじみのコンピュ
ーターメーカーのロゴが並んだ展示ブースが所狭しと並んでいる。斬新な照明で飾ったブ
ースに皆それぞれ最新の機種を並べている。壁にかけられたスクリーンに映し出されてい
る画像はどれもゲームで、各社は最新のマシーンの性能を誇示し、来場者の気を引いている。
見回すと周りは学生らしい若者が多く、中にはゲームに夢中になっているものも居る。そん
な一角にハイテク・パークの開発業者が展示を行っていた。Summit Technopolis Limited と
いう名のその会社は、シンガポールとインドの企業の合弁現地法人で、ダッカ北方のガジプ
ールという場所で世界銀行の借款でハイテクパーク庁が造成している、ハイテクパーク用
の土地にレンタル工場を建設し、入居企業を募っている。ハイテクパーク庁との官民連携事
業で、レンタル工場団地経営のコンセッションは 60 年契約とのことであった。現在売り出
し中なのは、全 5 区画のうちの Block II と V の二区画である。プロモーションビデオは今
後 10 年間の投資で居住コンプレックスやホテル、国際会議場、ショッピングモールを抱え、
ダッカ国際空港から直行の高速鉄道で結ぶ、プロジェクトは環境に優しい設計とし、二区画
2 写真は全て田中秀和氏撮影
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で 7 万人の雇用を生み出す、と謳っていた。将来の姿と現実のギャップがちょっと大きい
ように思えたが、そういう世界が手に届くという夢が語れるぐらいに、経済が発展してきて
いるのだという印象を持った。同様の投資誘致を模索している我々のプロジェクトの参考
とするために、彼等が抱える直接投資の課題は興味があるところだ。
むき出しのケーブルや場内アナウンス用のラウドスピーカーが無作為に部屋の入口に置か
れている会場は、改善の余地があるなと思いつつ奥に進むと、総勢 132 の展示ブースは二
つの会場に分かれており、メイン会場の奥に位置する別の会場ではより小さなブースが並
んでいる。国内でコンピューターのハードウェア産業を育成する目的の展示会だが、係員に
展示している機械はどこから輸入したのかを尋ねると殆どが中国からということであった。
中でもスペックの高いゲーム用の機器は全てが中国製であった。またパソコンだけでなく、
ネットワークを活用する IoT を提供する企業も出展していたが、この企業の製品も中国か
らの輸入品だった。従事しているプロジェクトから見えてくるバングラデシュの製造業の
姿は、コンピューターを作るというイメージから程遠いものだったが、入口近くには、バン
グラデシュの地場企業である Walton 社が「バングラデシュ製」のスマホを展示販売してい
た。「全部バングラデシュで作っている」という売り子の言葉を聞きながら、マザーボード
やタッチガラスを作るだけの技術があるのかと思う。売り子が部品の製造とアセンブリン
グの違いを理解するとも思えず、真実のところは分からないが、3,400Tk(約 4,700 円)程
度で売られている 5 インチのスマホを見せられると、部品にかかる輸入関税が高いと聞い
ているだけに、本当にバングラデシュで作っているように思えてくる。Expo 期間中は 5%
引きだと売り込みをかけてきた売り子に、日本語は使えるか、と訊いたところ、残念ながら
英語とベンガル語だけであることが判明した。6 インチのスマホでも 10,000Tk(約 14,000
円)程度、現金の持ち合わせがあったら買ってしまいそうな値段だ。この国でスマホを持つ
人が一層増えるに違いない。後日現地新聞で同社が国産のスマートフォンの製造工場を開
いたという記事3を見つけた。開所式典に郵政通信 ICT 担当国務大臣が来訪し、日独製の技
術を導入したサーキットボードやマザーボードの製造過程を含む生産ラインを見学したと
の記載があった。部品を製造する機械は輸入品だが、これは後発性の利益と言えるだろう。
スマホは「バングラデシュ製」が嘘でないことが判明した。ちなみに Walton 社の工場もガ
ジプールにあると書かれていた。
3 Bdnews24.com, October 5, 2017, “Bangladesh begins making smartphones at Walton
Plant”
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Walton 社のブース
学生が展示していた水質測定器
ICT Expo の出口に近い一室には、各地の工業大学の学生が IT を使った独自のアイディア
を披露するイノベーション・コーナーも設けられていた。手書きの説明看板がいかにも学園
祭という雰囲気だ。部屋の中の島と壁を囲むように展示ブースが並んでおり、こんなにも工
科系の大学があるのかという印象、どの大学も工夫を凝らしていた。展示の内容は水質を測
定してスマホに送ってくるというような、多くが簡単な技術の応用だったが、現実に即した
課題の解決を ICT を通じて行おうとする意気込みが感じられた。殆ど中国からの輸入品と
いう企業の製品、国産スマホ、工科大学の学生の作品とみてくると、まだ十分に成熟してい
ない IT 産業も、こういう場所で展示される大学生の技術があれば、きっと近い将来可能性
が等比級数的に発展するのではないかと思われた。
会場を後にするときも入り口には若者の人だかりが続いていた。会場は 3 日間の期間中毎
日夜 8 時まで開いている。この会場であった若者達が、Digital Bangladesh を通じてより発
展した社会を実現する日はそう遠くはないだろうと思った。(2017 年 11 月 17 日)