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1 ■JWPA News デンマーク洋上風力視察ツアー(5 月出発)の報告 株式会社 風力エネルギー研究所 髙橋 邦彦 1.はじめに 2017 年 5 月 14~21 日に、日本風力発電協会 主催のデンマーク洋上風力視察ツアーに参加 した。 主要日程(デンマークをほぼ1周) 5/15 Copenhagen:State of Green 講義、Dong Energy 訪門、Middelgrunden 洋上風力サイト 船上視察 5/16 Esbjerg、出荷拠点港視察、Jack up ship 乗船、V164 視察 5/17 Aalbor:Siemens 翼工場、K2Management 社講義、Kolding:LM 社の翼生産の資料館視 5/18 Odense:LORC 試験センターと MVOW ナアセル組立 工場、Roskilde:ロータ4連装風車視察 5/19 Copenhagen:デンマーク洋上関連企業との交流 今回の参加者は、開発事業者、施工業者、電 気工事業者、コンサルタント企業、自治体、海 運業者、材料メーカー、金融機関からなる総勢 33 名である。本視察ツアーには、風車メーカー からの参加者はいなかった。そのため、ブレー ドの製造工場、ナセルの組立工場への見学が可 能となった非常に貴重な体験であった。各視察 先では、活発な質問があり、デンマークの風力 発電事情を知ることができた。また、参加者間 での交流も積極的に展開された。 本稿では、本視察ツアーを通じて得られたデ ンマークの風力発電事業に係る最新情報を紹 介し、今後の事業展開の一助になれば幸いであ る。 2.デンマークの風力発電の導入状況及び今後 の目標 デンマーク産業連盟が所有のコペンハーゲ ンの施設に入っている State of Green(公共と 民間のパートナーシップで設立、会員 600 企業) を訪問した。State of Green は、2008 年にデ ンマーク政府、デンマーク産業連盟 (Confederation of Danish Industry)、デン マ ー ク エ ネ ル ギ ー 協 会 ( Danish Energy Association )、 デ ン マ ー ク 農 業 食 糧 委 員 会 (Danish Agriculture & Food Council)、デン マーク風力産業協会(Danish Wind Industry Association)によって設立された官民共同の 非営利団体(会員 600企業)である。ここでは、 風力発電事業に係る下記業界団体からデンマ ークにおける風力発電のこれまでの経緯と今 後の動向、事業紹介があった。 ・State of Green ・デンマーク風車工業会(Danish Wind Industry Association;DWIA) ・GWO(Global Wind Organization、風車教育訓 練機関) ・Confederation of Danish Industry(デンマ ーク産業連盟) ・WindPal(発電事業者) ・Ministry of Foreign of Denmark(デンマー ク外務省) ・COWI(技術コンサル会社) ・RAMBOLL OFFSHORE WIND(基礎設計・工事会 社) ・Martin Brncher Group(海運会社) ・SG Wind Japan ・Global Wind Academy 1973 年~1974 年のオイルショックの当時、 99%を輸入エネルギーに依存していた。海外依 存低減方法に関し国民的議論の結果、原子力発 電では無く(実証プラントはあったが現在は廃 炉)、再生可能エネルギーを大きく伸ばすこと となった。 2015 年時点でデンマークはエネルギー生産 の 23%、エネルギー消費の 28.6%(内訳は国産 75%、輸入 25%)を再生可能エネルギーが占める (図 1~3参照)。再生可能エネルギー内の風力 発電比率は 24.6%(1次エネルギー全体に対し ては 7%)になる。年間発電電力量では、再生可 能エネルギーが 67%、その中で風力発電量は 76.2%(電力全体に対しては 51%)を占める(図 3参照)。

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1

■JWPA News

デンマーク洋上風力視察ツアー(5 月出発)の報告

株式会社 風力エネルギー研究所 髙橋 邦彦

1.はじめに

2017 年 5 月 14~21 日に、日本風力発電協会

主催のデンマーク洋上風力視察ツアーに参加

した。

主要日程(デンマークをほぼ1周)

5/15 Copenhagen:State of Green 講義、Dong

Energy 訪門、Middelgrunden 洋上風力サイト

船上視察

5/16 Esbjerg、出荷拠点港視察、Jack up ship

乗船、V164 視察

5/17 Aalbor:Siemens 翼工場、K2Management

社講義、Kolding:LM 社の翼生産の資料館視

5/18 Odense:LORC 試験センターと MVOW ナアセル組立

工場、Roskilde:ロータ4連装風車視察

5/19 Copenhagen:デンマーク洋上関連企業との交流

今回の参加者は、開発事業者、施工業者、電

気工事業者、コンサルタント企業、自治体、海

運業者、材料メーカー、金融機関からなる総勢

33 名である。本視察ツアーには、風車メーカー

からの参加者はいなかった。そのため、ブレー

ドの製造工場、ナセルの組立工場への見学が可

能となった非常に貴重な体験であった。各視察

先では、活発な質問があり、デンマークの風力

発電事情を知ることができた。また、参加者間

での交流も積極的に展開された。

本稿では、本視察ツアーを通じて得られたデ

ンマークの風力発電事業に係る 新情報を紹

介し、今後の事業展開の一助になれば幸いであ

る。

2.デンマークの風力発電の導入状況及び今後

の目標

デンマーク産業連盟が所有のコペンハーゲ

ンの施設に入っている State of Green(公共と

民間のパートナーシップで設立、会員600企業)

を訪問した。State of Green は、2008 年にデ

ン マ ー ク 政 府 、 デ ン マ ー ク 産 業 連 盟

(Confederation of Danish Industry)、デン

マ ー ク エ ネ ル ギ ー 協 会 ( Danish Energy

Association)、デンマーク農業食糧委員会

(Danish Agriculture & Food Council)、デン

マーク風力産業協会(Danish Wind Industry

Association)によって設立された官民共同の

非営利団体(会員 600 企業)である。ここでは、

風力発電事業に係る下記業界団体からデンマ

ークにおける風力発電のこれまでの経緯と今

後の動向、事業紹介があった。

・State of Green

・デンマーク風車工業会(Danish Wind Industry

Association;DWIA)

・GWO(Global Wind Organization、風車教育訓

練機関)

・Confederation of Danish Industry(デンマ

ーク産業連盟)

・WindPal(発電事業者)

・Ministry of Foreign of Denmark(デンマー

ク外務省)

・COWI(技術コンサル会社)

・RAMBOLL OFFSHORE WIND(基礎設計・工事会

社)

・Martin Brncher Group(海運会社)

・SG Wind Japan

・Global Wind Academy

1973 年~1974 年のオイルショックの当時、

99%を輸入エネルギーに依存していた。海外依

存低減方法に関し国民的議論の結果、原子力発

電では無く(実証プラントはあったが現在は廃

炉)、再生可能エネルギーを大きく伸ばすこと

となった。

2015 年時点でデンマークはエネルギー生産

の 23%、エネルギー消費の 28.6%(内訳は国産

75%、輸入 25%)を再生可能エネルギーが占める

(図 1~3参照)。再生可能エネルギー内の風力

発電比率は 24.6%(1次エネルギー全体に対し

ては 7%)になる。年間発電電力量では、再生可

能エネルギーが 67%、その中で風力発電量は

76.2%(電力全体に対しては 51%)を占める(図

3 参照)。

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EU 内では、電力の広域系統連系が進められて

おり、デンマークはドイツ、スウェーデン、ノ

ルウェーと系統が連系されており、これからオ

ランダとも連系される予定となっている。例え

ば不足時にはノルウェーから水力発電を輸入

しているが、逆に需要の 100%を超えた場合には

ノルウェーに電力を販売している。

風力発電等の再生可能エネルギーからの出

力が過剰になった場合(年間で数パーセント)

にネガティブ・プライスが発生している。対応

策として、鉄道の電化、データセンターの増設

等、出力を抑えるのではなく、電気の需要先の

増加を図ることでネガティブ・プライス回避す

ることを考えている。

今後の目標として、エネルギー消費量に占め

る再生可能エネルギーの割合を 2020 年に 40%、

2030 年に 50%、2050 年には石炭火力をゼロにす

ることを目指している。火力発電の寿命が 35

年位なので、火力発電所は 2050 年までに廃止され

てなくなる予定となる。

図 1 デンマークのエネルギー消費量の割合 1)

図 2 デンマークの再生可能エネルギー消費量

割合 1)

図 3 電力生産の中で再生可能エネルギーの割

合 1)

3.風力発電のこれまでの経緯と社会動向につ

いて

デンマークでの風力発電の始まりは、1891 年

デンマークの物理学者 Poulla Cour による電力

源としての風力実験が始まりとなる。1979 年に

Vestas 社が 初の風力発電を製造した。1991

年には世界初となる洋上風力発電所が建設さ

れた。この発電所は2017年に撤去されている。

風力発電の普及に当たっては、固定価格買取

制度(FIT)が大きく寄与した。農家の人達が

売電収入を目当てに積極的な導入が進んだ。普

及していく過程で、効率化を図るために風車が

大型化した。それに伴い開発事業者が進出し、

地元住民(農家)の収益源に対抗する存在とな

り、地域住民との軋轢が発生してきた。これに

より、住民との合意形成を図るルール化が地域

に応じて作られるようになった。その中で、風

車位置と民家からの隔離距離、ノイズ対策が盛

り込まれるようになっている。地域住民に対し

ても利益を分配する仕組み(20%の資本参加を

可能に)、補償に対応するローカルグリーンフ

ァンドを設置するなど、社会受容性に配慮して

いる。

風力産業は、国内に3万人以上の人が従事し、

全雇用の 2.5%に相当している。また、輸出額の

5%以上を占める規模である。風力発電関連企業

の世界トップ 10 のうち 7 社が集まっており、

風力発電産業の様々な分野に携わる多くの企

業が集まっている。その中で、サプライチェー

ンの統合が進み、例えば MHI と Vestas、GE と

アルストム、シーメンスとガメサとの統合と上

流側の統合により、下流側のサプライチェーン

の統合も加速している。その過程で、システム

サプライヤーが登場し、例えばタワーの部品だ

けを納品する、タワーを組み立てて納品する、

という分業化が進んできた。分業化に伴い標準

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化(規格化)が進み、また同時に風車の大型化

により、コストの低減が進んでいる。

デンマークのユトランド半島北東部ウスタ

イル(Østerild)に大規模風力タービンのため

の国立テストセンターがあり、3 つのテストス

タンドを拡張する予定である。ここでは、 高

部高さ 330m までテスト可能なものが出来る予

定で、2017 年に EIA(環境アセスメント)を実

施し、2018 年の操業を予定している。Høvsøre

にある大型風力タービンのテストステーショ

ンでは、2 つのテストスタンドを拡張する予定

である。ここでは、同 200m までテスト可能な

ものが出来る予定で、2017 年に EIA を実施し、

2018 年の操業を予定している。

風車設置後の O&M の体制は、日本国内では整

備が十分でないところが多い。EU では、GWO

(Global Wind Organisation)が基本安全訓練

のスタンダードを制定している。洋上風力プロ

ジェクトで事故等が発生した場合、Dong energy、

E-ON 等の開発事業者が 終責任を取ることに

なっている。そのため、下請会社に対しては GWO

の訓練を義務付けている。GWO の講習は、法令

等による義務ではなく、サイトオーナーの意向

によるものである。トレーニングの認証機関は、

全世界に 192 ヶ所存在し、日本では日本サバイ

バルトレーニングセンターのみが認証を受け

ている。デンマークには、技術員養成を行う

Global Wind Academy(ALPHA、GSI Wind、Global

Blade Service、RESC によるコンソーシアム)

がある。訓練施設を有し、ブレードトレーニン

グ、技術トレーニング、O&M 教育を行っている。

ブレードのロープアクセスができる訓練も可

能である。日本では、SG Wind Japan(三共グ

ループと GSI Wind によって 2017 年に設立)が

風力発電設備に対するトータルサポート(ブレ

ード点検・補修、設備の試運転等)を行ってい

る。

デンマーク企業の日本法人であるWindpalに

ついて簡単に紹介する。Windpal は、風力発電

に 20 年以上の実績を持つ 4 つのデンマーク企

業 ( World Marine Offshore 、 Blue Water

Shipping、Vento Energy Support、Comtec Int)

による洋上風力に係る も効率的かつ信頼性

の高いソリューションを提供するために結束

した会社である。Windpal は日本企業として設

立し、名古屋を拠点としており、今年の 7,8

月には東京にも拠点を作る予定である。2017 年

には JWPA の会員にもなった。Blue Water

Shipping は、輸送ロジスティクス、運送、貨物、

タービンのポート組立に関する事業をしてい

る(SIEMENS 製の風車を秋田に輸送した実績有

り)。World Marine Offshore は、沖合オフショ

ア船、乗組員および建設船を取扱う事業をして

いる。Vento Energy Support は、インストール

作業、サイト管理、ブレード修理、スペアパー

ツ取り付けの事業をしている(日本企業のイオ

スエナジーマネジメントにサービス提供を行

った実績あり)。Comtec Int は、特別な安全装

置及び安全トレーニングとGWOを支援する事業

をしている。

4.電力事業者の視察

デンマークの国営電力会社であり、世界 大

の風力洋上発電事業者である Dong Energy 社を

視察した。Dong Energy 社は、開発、建設、操

業及び売却/買収といった発電事業に係る全て

の業務を一貫して自社で手掛けている(図 4参

照)。

2006 年~2016 年にかけて、石炭火力発電を

持続可能なバイオマス発電に移行し、石炭消費

量を 73%削減してきた。2023 年までに石炭の使

用を全て停止することを決定した(図5参照)。

投下資本ベースをみると、主力をこれまでの石

炭火力から洋上風力に転換し、風力発電事業に

対して 80%を当て、Oil&gGas へは 4%となってい

る。

現在世界で 28 ヶ所(操業中 21、建設中7)

の洋上風力を手掛けており、全体で 7.4GW の容

量となる。2020 年までに 7GW のパイプラインが

計画されており、2020 年以降には欧州以外での

事業進出を考えている。直近では、台湾プロジ

ェクトへの進出を表明している。

洋上風力の利点として、以下のことを挙げて

いる。

・大規模開発が可能であること

・立地の制約がないこと

・風力発電機の大型化によりコスト効率が上が

ること

・キャッシュフローが高いこと

・景観に対する制約が少ないこと

コスト削減の方法として、以下のことを挙げ

ている。

・スケールメリット

・技術革新

・仕様の標準化

アジア圏の洋上進出において、日本より台湾

を選択した理由として、以下のことを挙げてい

る。

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・政府の導入目標が確定していたこと

・事業環境が整備されていたこと

・タリフは安いが一般海域の利用を含めた法制

度がクリアであったこと

台湾における漁業者への補償問題について

は、オープンな算定式が定められており、それ

に従って対応していくとのことである。

浮体式洋上に対する研究は、現在実施してい

ないが、今後の状況に応じて検討していくそう

である。

図 4 風力発電事業のビジネスモデル 2)

図 5 Dong Energy の事業割合 2)

5.洋上風力発電所の視察

首都コペンハーゲン沖約3キロにあるミドル

グルンデン洋上風力発電所を見学した(図6参

照)。シーメンス社の担当者が同行し、説明を

していただいた。

シーメンス社の 2.0MW が 20 基設置されてい

る。2001 年から操業が開始され、北側 10 基が

Dong Energy 社が所有し、南側 10 基が市民(協

同組合)が所有している。

基礎は、コンクリートの重力式基礎が採用さ

れている。施工時の水深が 4-5m のため通常船

で作業を実施した。

ミドルグルンデン洋上の平均風速は 7-8m/s

で、設備利用率が 25%であまり条件は良くない

が、タリフが高いため黒字となっている。

風車の設計寿命は 20 年であるが、あと 10 年

程度は操業可能と考えている。現在の風車は、

設計寿命を 25 年で設計しており、メンテナン

ス次第で長寿命化が可能と考えている。

シーメンス社では、操業開始後通常 5年のメ

ーカーによるメンテナンスサービスを契約し

ている(97%稼働率を保証)。

SIEMENS から見て、ミドルグルンデンに採用

されている 2MW と、現在主流の 6MW 風車の技術

的な違いは、ギアボックスの有無である。6MW

ではダイレクトドライブ方式の永久磁石型同

期発電機(PMG)でギアレスとなっていること

である。

図 6 ミドルグルンデン洋上風力発電所の全景

6.洋上風車出荷拠点港及び SEP 船の視察

6.1 洋上風車出荷拠点港(エスビアウ港)

コペンハーゲンからユトランド半島のエス

ビアウ港まで300km程度の道のりをバスで移動

した。エスビアウ港は、北海近海の洋上風力発

電事業における建設・メンテナンスの中心拠点

港となっている(図 7参照)。水深 10.5m、敷地

面積 450 万 m2、10 区画に分かれている。洋上風

力向けのエリアは東側の100万m2となっている。

世界の洋上風力の 90%が北海近海に集中して

いるが、エスビアウ港から出荷された風車の設

備容量は洋上風力全体の 67%を占める。これま

で 45 件のプロジェクト(15GW)に関与してき

た。2016 年には、1.1GW の出荷実績がある。

エスビアウ港の主な実績として、100 基以上

分のタービンパーツ(ナセル 100 個、ブレード

300 本、タワーなど)を同時に保管(2016 年 4

月)、LM Wind Power 製の世界 長ブレード(長

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さ 88.4m、重量 34t)を出荷(2016 年 12 月)、

世界 大の SEP 船である Seajacks Scylla によ

る作業実績(積載量 1500t、Leg の長さ 105m、

収容人数 130 名)である。

洋上風力エリアは、保管・組立エリアと O&M

エリアに分かれている。組立エリアでは、MHI

Vestas の 8MW・3.3MW 機(図 8 参照)、SIEMENS

の 6MW 機が作業中で、ナセル動作試験も実施し

ている。海上での組立作業は、陸上での作業と

比較すると 10 倍以上のコストが掛かるため、

可能な限り陸上で作業を行う。O&M エリアでは、

Dong Energy をはじめとする多くのメンテナン

ス船が利用しているほか、Vattenfall のグロー

バル監視センターも所在している。

洋上風力におけるデンマークの強みは、自国

内でフルバリューチェンが網羅・完結している

点である。資金調達から、開発、製造、ユーテ

ィリティ、連系、輸送、O&M が国内企業で完結

しており、それらに対する政府サポートが手厚

い(図 9 参照)。

図 7 エスビアウ港の全景 3)

図 8(1) MHI Vestas 製風車の出荷準備の様子

図 8(1) MHI Vestas 製風車の出荷準備の様子

図 9 洋上風力のバリューチェンの流れ 3)

6.2 Jack up ship (SEP) の見学

エスビアウ港に停泊している SEP 船「Bold

Tern」号(英国 Fred Olsen Windcarrier 社所

有)を見学した。

Bold Tern 号は、2012 年に造船され、2013 年

から稼働している。設計はオランダの GustoMSC

社によるもので、積載量は 9,000t(Payload は

7,600t)、船体総重量は22,000tとなっている。

クレーンの長さは 高で 127m、640~800t クラ

スを搭載可能となっている。船上設備は、プロ

ジェクト毎に都度入れ替える。タービンは 8MW

級が 4基まで積載可能である(図 10 参照)。7MW

の施工実績があり、8MW 級の積載計画がある。

改造すれば、それより大きな風車も施工が可能

である。収容人数は、船の操縦人員 30 名、そ

の他船上作業員 50 名で、通常は 60-70 名で作

業を行うことが多い。航行速度は 速 10 ノッ

ト(18.5km/h)、航行中の位置は、ダイナミッ

クポジションシステム(DPS)により 0.1m 単位

でのコントロールが可能となっている。

作業可能条件は、水深 55m まで(ただし海底

の状況による)、波の高さは 2.5m 以下、ジャッ

キアップ時は 1.8m 以下、風速は 12-16m まで(作

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業対象物の重量による)対応可能となっている。

稼働期間は、夏場を中心に年間 9 ヶ月程度で

ある。作業人員は昼夜 2 シフト制で、5 週間ず

つ人員が入れ替わる(交替時はヘリを利用)。1

日当たりの利用料金は約 2千万円、造船費は約

230 億円である。Bold Tern 号と同程度の能力

を持つ船は世界に 4 隻ある。

タービン積載エリアの全体像

船上クレーン

図 10(1) SEP 船 Bold Tern 号の様子

SEP 船の外観

船内の食堂

図 10(2) SEP 船 Bold Tern 号の様子

7.MHI Vestas V164-8.0 実証サイトの視察

エスビアウ港近郊において、MHI Vestas

V164-8.0 MW(陸上改良機)2 基が設置されてい

るモーデ実証サイトを視察した(納入先:

European Eenergy A/S)(図 11 参照)。

仕様は、陸上機種と全く同じである(タワー

高さ 105m、ブレード長さ/重量 80m/35t、ナセ

ル重量390t、定格出力8MW、定格回転数10.5rpm)。

スイッチギヤ、トランスはタワーボトム部に

搭載されており、冷却は水冷でありナセル部お

よびタワー外部にラジエーターが搭載されて

いる。ブレードは、英国サザンプトンとデンマ

ークナクスコーの自社工場で生産し、タワーは

デンマーク国内メーカーに外注している。

20 年のサービス契約を締結し、建設工法、メ

ンテナンス、ウィンドファーム制御など洋上建

設前の総合的な実証を担うプロジェクトとな

っている。

ここモーデ実証サイトは、年間平均風速が約

10m/s、設備利用率が 30~40%程度となっている。

モーデの実証機 V164-8.0MW は、2号機と 3 号機

である。1 号機は、デンマーク政府がユトラン

ド半島北部ウスタイルに建設した国立テスト

センターに設置し、稼働中である。ウスタイル

の 1号機は出力を 9MWに仕様変更し実証実験を

継続している。国立テストセンターの存在は、

各メーカーが苦労する1号機による型式認証取

得に大きく役立っている。

ベースとなった V164-8.0MW は、英国バーボ

バンク(Burbo Bank)洋上風力拡張プロジェク

ト(32 基、256MW 級)に採用され、2017 年 5 月

から稼働中である。受注済み設備の総発電出力

は 160 万 kW を超えている。

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図 11 V164-8.0 MW の実証機

MHI Vestas 社の情勢について、説明する。こ

れまでに、3MW、3.3MW を開発し、現在は 3.45MW

となっている。3MW は陸上・洋上の両用で、こ

れまでに 3200 基(10GW)を納入してきた。現

在、V117-4.0MW を開発中で、台湾や日本の東ア

ジア向け仕様となっている。強風・雷対策を強

化し、クラス Tに対応し、レセプターの数を増

やして対応している(図 12 参照)。風速 10m/s

に特化した場所に適合し、低風速には見合わな

い。V164-8MW は、ブレード長 80m で Boing747-8

(全長 76m)より長い。年平均風速 11m/s を想

定している。日本向けには、4MW を提案してい

く。8MW は日本で対応できる適切な場所がない。

景観の問題もある。デンマークでも陸から見え

ないところに設置する。洋上風力発電の実績は、

すべてヨーロッパ内で、すべて着床式である

(浮体式は 1 ケースのみ(オランダ))。自社の

テスト設備では、陸上用風車も含めて試験が行

われている。吹上げや突風などを想定したデー

タをドライブトレインに与えて行われている。

逆回転などのテストも実施している。日系企業

とも協業しており、ブレードには東レの子会社

ZOLTEK や三菱レーヨンのカーボンを使用、発電

機には安川電機系列のスイッチ社の製品を使

用、スイッチギアには三菱電機の製品を使用し

ている。建設期間の短縮を図るために、タワー

は全て港で組立て、タワー内の部品も設置して

輸送する。試運転も港で行い、できる限り洋上

では何もしない状態にする。1 日に 大 2 基設

置可能である。メンテナンスでは、Vestas 社の

データベースにより今の状態で何時間後に故

障するかが分かるので、計画的なメンテナンス

が可能となっている。遺失発電量を減らすこと

ができ、保証期間 15 年間を可能としている。

図 12 3MW プラットフォーム概要 4)

8.風車メーカーの視察

8.1 SIEMENS 社ブレード工場の視察

視察したブレード工場は、デンマーク北部の

オールボーにある元 Gamesa の工場で、2001 年

から操業している(従業員 2,000 人)。2017 年

4 月に SIEMENS が Gamesa を統合した(図 13 参

照)。

製造しているブレードの種類は、ブレード

長 55m、63m、75m の 3 種で、洋上の 6MW、7MW

を対象としている。ブレード長75mの重量は26t

ある。本工場には、世界 大のブレードテスト

センターを保有している。他に、アイオワ、カ

ナダ、中国、イギリス、モロッコに工場がある。

本工場で製造しているブレードの特徴は、継

目がないワンピースでの一体成型(One shot式)

で、他社にない独自のもので特許を取得してい

る。構造上の弱点となる接着部がないので、強

度が確保される。構成材料は、ガラス繊維、バ

ルサ、レジンから成る。バルサ材は、コロンビ

ア、エクアドル、インドネシアなどから調達し

ているが、国政が不安定な情勢にあることから、

別の材料も検討しているとのことである(発泡

材など)。ブレード 1 本製造するのに 1 週間程

度要する。本工場では年間 2,500 本生産してお

り、全世界で年間 5,000 本生産している。

製造ラインでは、8MW のブレードを製作中で

あった。75m ブレードのガラス繊維の積層作業

を全て手作業で行っていた。半割の型(上半、

下半)、ウェブ、中空の型(バルーン)をセッ

トして、レジンを注入し、これにより一体成型

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ができる。ライトニングレセプター、ケーブル

はあらかじめ仕込んでおき、真空引きしつつ、

レジンを注入する。レセプターは、7.5m、10m

ピッチのいずれかで設置される。

超音波で、ガラス繊維のたるみ、しわがない

かを確認する。ガラス繊維がまっすぐになって

いないと力が発揮されない。まっすぐの引張り

に強く、切れないが、結び目があると簡単に切

れてしまう。

テストセンターでは、静荷重試験中であった。

疲労試験では、20 年間の荷重を想定して 200 万

回の振動荷重を与える。破壊試験もできる設備

もあり、設計の 2~3倍の荷重をかける。

ブレード先端には、水抜き穴があり、遠心力

によって水が抜けるようになっている。ブレー

ド先端に落雷すると一瞬にして2万℃以上の高

温となるため、ブレード内部に水が溜まってい

ると、その水が瞬間的に蒸発して水蒸気爆発を

起こすことがある。その結果、ブレードが破裂、

破砕する。

リーディングエッジには、エロージョン防止

のためのラバーペイントが施されている。ブレ

ードの先端速度は時速 300kmにもなり、雨の

水滴などで、ブレードが徐々に浸食され破損し

ていくことがある。これは性能と強度に悪影響

を与える。ブレードの外面には紫外線を通さな

い塗料を塗ってあり、内部の繊維や接着剤が紫

外線で劣化するのを防止している。

品質管理は、全工場共通となっている。超音

波検査など、シーメンスの中で認証された者が

2~4週間かけて検査する。検査員は350人おり、

3 ヶ月毎に検査員の報告内容・数などをチェッ

クしている。

現在は、材料として炭素繊維は使用していな

い。強度のメリットはあるが、高価で、導電性

なので雷が落ちやすい等のデメリットがある。

将来的な採用は考えている。ボルテックスジェ

ネレータなどの追加物は、接着剤でつけている。

ブレードの先端の後縁には△△△形のギザギ

ザが付いており、山谷で音を相殺して 5dB 程度

の騒音の低減効果があるとのことである。

エロージョンの問題(過去に翼交換を伴う大

規模な補償工事を実施)は解決したので、将来

に向けての課題はブレードを長くすることに

よる効率化と、それに伴うコスト増の抑制を図

ることである。

図 13 SIEMENS 社の外観

8.2 LM Wind Power 社の視察

ユトランド半島コリングにある LM Wind

Power 社の本社を視察した。

LM Wind Power 社の歴史について簡単に説明

する。1940 年家具屋から始まり、1950 年グラ

スファイバーに関わりヨットセーラーを 5,000

台製造した。1978 年からメーカーからの依頼を

受けてブレードの製造を開始し、1981 年には自

社内でデザイン、性能等全ての工程に対応でき

るようになり今に至る。1990 年以降、バキュー

ム技術を使った製造が始まり、その後ブレード

の 長記録を更新している。2014 年にカーボン

を混ぜたハイブリッドを製造し、2012 年アルス

トム向けに納品したブレードで 長記録を更

新した。洋上向けに“PROBLADE”を開発した。

2016 年にブレード長 88m を超え、記録を更新し

た(ドイツ アドウィン向け)。2017 年に GE の

グループの傘下に入る。

世界 長ブレードは、8MW 級でアドウィン社

向けに製造し、長さ 88.4m、重量 30t、一部に

カーボンを使用し、軽くなっている。ブレード

表面には、ボルテックジェネレーター(小さい

ギザギザ))が付いており、性能を上げるため

のもので、飛行機にも採用されている。

ブレードは年間 1 万本製造しており、これま

でに 80GW、19 万 5 千本製造した。デンマーク

では、プロトタイプのみ製造している。タング

ステンのレセプターを使用している。ブレード

製造には、輸送やメンテナンスも含んでいると

考えている。輸送用のジグを貸している。修理

時のロープアクセスが出来る作業員を有して

いる。ドローンの活用も行っている。コンダク

タの導通試験は、陸上・洋上ともに 2年おきに

チェックしている。日本では 3 年おきにチェッ

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クしている。

ブレード試験を見学したので、報告する。荷

重テストでは、ブレードを 4方向に荷重を載荷

し、1,000 種類のケースで試験を実施する。材

料が均質でないため、シミュレーションだけで

は分からないことがある。疲労テストでは、25

年間動くことの試験を行う。1,000 ケースの試

験とともに耐久試験も実施し、ブレードを 500

万回動かす。この試験は、ブレードを上下に動

かし、ブレードの歪み、変位センサを付けて計

測する。また、サーモグラフで部材が熱を持っ

ているかどうかを観察する。コンピュータによ

るチェックと目視によるチェックからクラッ

クを確認する。破壊・亀裂位置が分かるように、

テスト用は塗装していない。テストは、プロト

タイプで行うが、量産品のものと同じであるこ

とが重要である。ねじれ試験は行っていないが、

上下左右に振動させることによって、ねじれを

考慮した結果となる。認証をとるために破壊試

験はしない。ゆっくり曲げて(引張って)、15

秒止めて、戻す。決めた荷重までかける。自社

自身も認証機関となっているが、自社内の開発

に対しては他社の認証機関にお願いし認証を

取得している。

風洞試験施設を見学したので、報告する。1MW

のファンを使用しており、380km/h(105m/s)

の風速を作り出すことが可能となっている。各

所に280のセンサーがついており、気圧、気温、

湿度などを測定する。パワーカーブに必要なパ

ラメータが分かる。風洞の大きさは直径 3.1m

で、ブレードをスケールダウンしたフルシェイ

プに対して、すべての角度で試験を行い、パワ

ーカーブを確かめることができる。ボルテック

スジェネレータを付けた場合にはこの試験が

必要であり、シミュレーションでは分からない

部分がある。テストでは 1~2 時間程度で済む

ケースが、シミュレーションでは 1 ヶ月掛かる

場合がある。与える流れは、層流のみで、乱流

を与えることはできない。

ブレード浸食(エロ―ジョン)テストは、水

滴を高速で回転するブレードに当てることで

テストを行う。3 週間(30 日間)で 25 年のラ

イフタイムが分かる。試験体はアルミで、リー

ディングエッジの試験をしている。実際のブレ

ードは FRP であるため、このアルミでの試験結

果をベンチマークとして結論を導き出す。これ

は、チップスピード(周速度)の耐久性を見る

ための試験である。

9.LORC テストセンターの視察

フュン島のリンドー・インダストリアルパー

ク内にある LORC(Lindo Offshored Renewable

Center、リンドー洋上再生可能エネルギーセン

ター)を視察した。LORC は、洋上風力のメジャ

ーな企業(SIEMENS、Vestas、Dong Energy など)

が 2009年に共同で設立した非営利財団で、LCOE

(均等化発電原価)を低減するために洋上風力

の技術革新を推進している。ナセルのテスト施

設、コンポーネント&構造のテスト施設、溶接

技術センターを有している。

ナセルのテスト施設では、13MW 級のナセルの

性能試験と HALT(Highly Accelerated Life

Testing:高加速寿命試験)ができる(図 14 参

照)。ナセルの性能試験は、13MW ダイレクトド

ライブモーターによる運転模擬、風のプロファ

イルの変化を模擬した性能試験(ピッチ制御試

験)ができる。連系線では、公共の送電線・内

部の送電線があり、陸上・洋上の両方に対応し

たグリッドシミュレーションができ、周波数も

変えることができる。発電機の短絡試験(セー

フティ・カップリング)ができる。HALT 試験設

備は、視察した時は建設中で、基礎工事が完了

し、モーターを設置する準備中であった。ここ

では、14MNm 以上のトルク供給ができ、25MNm

の範囲でチルト/ヨー方法のモーメント発生機

能を有する。25 年間の製品寿命を約 6ヶ月間で

試験検証することができるようになる。設備が

完了次第、シーメンスの 6-7MW のギヤレスをテ

ストする予定になっている。13MW まで対応可能

となる。ただし、ロードテストでは、13MW まで

対応できない。陸上風車は、3-4MW までしか対

応できない。また、IEC では 200%負荷試験が要

求されているので、6.5MW までの増速機までの

対応となり、洋上では大きなものには対応でき

ない。

ナセルの性能試験設備

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図 14(1) ナセルのテスト設備 (http://www.lorc.dk/test-facilities より)

HALT 試験設備

図 14(2) ナセルのテスト設備 (http://www.rdas.dk/en/cases/energy/halt-testbench-to-lorc/ より)

コンポーネント&構造のテスト施設には、メ

カニカル試験、耐候試験設備がある。メカニカ

ル試験では、20m×9m の強化フロアーと高さ 4m

(厚さ 3m)の反力壁を有する。小さいスケール

からフルスケールのジャケットの強化試験と

疲労試験ができる(図 15 参照)。35~200t の負

荷を供給できる6個の油圧シリンダーが装備さ

れている。テスト期間は、4~6 週間かけて行わ

れる。耐候試験設備、14m×8m×8m のチャンバ

ー規模となる。温度-35~60℃、湿度 0~95%の

試験環境と塩水噴霧を実施することが可能と

なっている。床は 1,000t までの重量に対応し

ている。洋上風力の冷却設備の性能試験や寒冷

地向風力の耐候試験などを実施する。ナセル本

体の試験は行っていない。個々のコンポーネン

トについて実施している。-30℃で 2 週間程度

試験を行う。このような試験施設がある背景に

は、ここ 近山脈に建設するケースが増えてき

ており、駒井ハルテックのようにロシア向けに

寒冷地対応の設置が増えてきていることが起

因している。

メカニカル試験設備

図 15(1) コンポーネント&構造のテスト施設

(http://www.lorc.dk/test-facilities より)

耐候試験設備

図 15(2) コンポーネント&構造のテスト施設

(http://www.lorc.dk/test-facilities より)

溶接技術センターでは、 大 32kW(16kW×2

機)のレーザー溶接機とマグ溶接機を用いたハ

イブリッド溶接の研究を行っている。板厚 40mm

の鉄板を溶接する場合、マグ溶接では 30 回の

溶接工程が必要だが、ハイブリッド溶接では 4

回の工程で完了し、工程短縮が期待できる。ハ

イブリッド試験の 適な組み合わせを研究し、

60mm までの鉄板を溶接したが、今後は、100mm

を超える鉄板の溶接を試験する予定である。

リンドー・インダストリアルパーク内ある

MHI Vestas 社の V164 洋上風車ナセルの組立工

場を視察した。1基製造するのに 30 日程度要す

る。ドライブトレインの重量は 130t になる。

ナセルの上にはヘリポートがあり、部品などは

ヘリで輸送する。ナセル内の部品交換には上面

のハッチが開き交換することができる。増速機

の潤滑油を冷やすクーラーが後部に設置され

ている。制御盤やトランスなど(PCS)はタワ

ーの一番下に設置される。変圧器、油だけ分割

して取り出せる。軸受け組立時はテントの中で

行い、埃を逃がすように下から風を当てる。部

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品の購入分で 48,000 点ある。MHI Vestas は組

立だけで機器の内作は行っていない。締め付け

工具は、データが自動的に記録されるようにな

っている。波高 1.5m まで対応可能で、タワー

の高さは 70-90m まで変更可能となっている。

建設・設置は、お客様に依頼している。メンテ

ナンス対応もやっており、教育も行っている。

目標製造台数は年間 150 台で、現在 2年間分の

受注がある。

10. DTU(デンマーク工科大学)のロータ 4 連

装風車

シェラン島ロスキルにある DTU(デンマーク

工科大学)のリソキャンパスを視察した。本キ

ャンパスには、建設中の風洞実験施設・構造物

試験施設、Vestas 社製のロータ 4連装風車試験

機がある。今回は、4 連装風車試験機を見学し

た。

建設中の試験施設について、簡単に説明する。

風洞実験施設は、防音設備を施し、実験時の

ノイズが非常に小さい。105m/s(380km/h)の

超高速の風速を再現可能である。風洞断面は 3m

×2.5m である。大学所有の実験施設として世界

高クラスとなる。

ブレード及び他構造物の試験施設は、 大

45m 長のブレードを対象とした 大静的荷重テ

スト(垂直方向のみ作用)が可能である。静的

荷重テストでは、ブレードの先端変位量が 13m

まで対応可能である。45m 以外に 25m、15m 長の

ブレード試験ができるスタンドを有する試験

場が 3つできる。繰り返し載荷テスト(全方向

に作用)が可能であり、固有振動数を踏まえた

先進的な加振システムを有する疲労試験も可

能である。ブレードだけでなく、その他の構造

物に対しても試験が可能である。試験 1回に 50

万ユーロ(約 6,000 万円)が必要と見込んでい

る。

次に、Vestas 社製のロータ 4 連装風車試験機

を見学したので、説明する。図 16 に示すよう

に、4 つのロータからなり、定格出力は 1MW

(250kW×4)となる。2 連装が上下に並ぶ構成

となっている。ヨー制御を行う部分(旋回輪軸

受)は、2 連装の付け根となっている。ハブ高

は、上側が約 60m 程度、下側が約 30m 程度であ

る。

本試験の目的は、小さい受風面積でより多く

の発電が可能であるか(スケールメリットの課

題)、 適なハブ高・ 適な風力発電施設設置

位置(後流の影響を考慮)等の検討を行うこと

である。

4 連装の特徴は、4 つのロータブレードのハ

ブ中心が同一面内になっている点である。通常

であれば、タワーとブレードの回転面が 6 度程

度傾いているが、この 4 連装では傾きがなくタ

ワーとブレードの回転面が平行となっている。

また、上下 2 連装となっているので、風況によ

って上下で回転数は異なり、上下の風向の違い

でヨー制御によって向きも異なる。上下でより

効率のよい発電を行う構成となっている。同じ

敷地内に 1MW 機があるので、ロータ 1基とロー

タ 4基の効率性をコスト面も含めて検証してい

くとのことである。4 連装のメリットとして挙

げられるのは、小型化による輸送組立コストが

大型に比べ安いと考えられるが、トータルコス

トで検証ができていないので、今後の課題とな

る。

日本にも似た集合風車があるので参考まで

に紹介する。岡山県鏡野町の男女山公園に設置

されている集合風車で、地元企業の(株)山田養

蜂場より町に寄贈された蜂の巣型をした「なか

よし風車」である(図 16 参照)。6 角形のハニ

カム構造になっており、構造強度が強くなり、

空間に隙間なく設置できるメリットがあると

のことである。

図 16 ロータ 4連装風車試験機を背後に集合写

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図 16 蜂の巣型風車「なかよし風車」

(http://beekeeper.3838.com/activity/environment/より)

謝辞

本報告書を作成するに当たり、本視察ツアー

に参加された各班から提出された報告書を参

考にさせて頂きましたので、参加され皆様に感

謝いたします。また、本視察ツアーの全工程に

おいて通訳をしていただきました日本気象株

式会社の西嶋裕様に感謝申し上げます。 後に、

本視察ツアーを主催していただきました日本

風力発電協会様に感謝申し上げます。

参考文献

1)State of Green,Welcome to Denmark – State

of Green,2017 年 5 月 15 日

2)Dong Energy,DONG ENERGY - LEADING THE

ENERGY TRANSFORMATION INTRODUCTION,2017

年 5 月 15 日

3)PORT OF ESBJERG,PORT OF ESBJERG – IN

GENERAL,2017 年 5 月 16 日

4)MHI Vestas,会社概要の紹介および欧州洋上

風力市場の動向について,2017 年 5 月 18 日