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三菱東京UFJ銀行 経済調査室ニューヨーク駐在情報 The Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ, Ltd. Economic Research Group (New York) Shiro Katsufuji 勝藤 史郎 Senior Vice President & Chief Economist +1(212)782-5701, [email protected] July 2, 2010 リスク回避はレッドゾーン:投資家心理と消費 株価収益率と米国債利回りからみた投資家のリスク回避度合いはすでに 2007 年のパリバ ショック後の水準に達している。雇用が横ばいとした場合、個人消費はマイナスもしく はかなり失速するという計算になり、すでに危険水域に近づいている。 株価指数益回りと国債利回りのスプレッド(以下“リスク回避スプレッド“)の推移を 見たのが第 2 図である。これによれば、現在の投資家のリスク回避度は 2009 年の金融危 機最悪期には及ばないものの、それ以前の 2008 年初のリスク回避ピーク期を既に上回っ ている。2008 年初のピークは、2007 8 月に発生した短期資金市場の流動性危機(いわ ゆるパリバショック)から発生したものだ。 2000 年から今年 5 月までの月次データによれば、実質個人消費の前年比の伸びがゼロに なるのに相当するリスク回避スプレッドは約 2.8%である(第 4 図)。6 月末現在の同ス プレッドはすでに 3.8%にまで拡大している。リスク回避と個人消費の関係だけからは、 既に実質個人消費の伸びは前年比でマイナスにまで悪化していてもおかしくないことに なる。投資家のリスク回避は既に実体経済にとって危険水域にまで拡大していることに なる。 今後については、仮に雇用の伸びが極めて緩やか、つまり前年比ゼロ程度の伸びだった とした場合、リスク回避といった市場心理要因が消費の方向性に影響する可能性があり、 その影響は無視できないものである可能性があることになる。 FOCUS<トピック1> 頭を垂るる。。:雇用先行指標 6 月分の雇用統計では、民間雇用の増加ペースが前月よりやや強まったことが判明した。しかし、雇用増加ペー スは依然して弱く、また一部先行指標にかげりが見られる。 <トピック 2> 増税カードのタイミング:G20 赤字半減宣言 6 27 日に公表されたトロント G20 サミットの首脳宣言では「先進国は 2013 年までに財政赤字を少なくとも半 減する財政計画をコミットした」ことが明記された。 <経済・金融の動向:6 28 日~7 2 日現在> 下値抵抗線ブレークし更に下値リスク <経済指標コメント>カンファレンスボード消費者信頼感指数(6 月)は 52.9 ポイント(前月比-9.7 ポイント)、 他。

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Page 1: July 2, 2010 FOCUS...2010/07/02  · BTMU Focus USA Weekly/ July 2, 2010 Page 2 の指標になりうる。 株価指数益回りと国債利回りのスプレッド(以下“リスク回避スプレッド“)の推移を見

三菱東京UFJ銀行 経済調査室ニューヨーク駐在情報

The Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ, Ltd. Economic Research Group (New York)

Shiro Katsufuji 勝藤 史郎 Senior Vice President & Chief Economist +1(212)782-5701, [email protected]

July 2, 2010

リスク回避はレッドゾーン:投資家心理と消費

株価収益率と米国債利回りからみた投資家のリスク回避度合いはすでに 2007 年のパリバ

ショック後の水準に達している。雇用が横ばいとした場合、個人消費はマイナスもしく

はかなり失速するという計算になり、すでに危険水域に近づいている。 株価指数益回りと国債利回りのスプレッド(以下“リスク回避スプレッド“)の推移を

見たのが第 2 図である。これによれば、現在の投資家のリスク回避度は 2009 年の金融危

機 悪期には及ばないものの、それ以前の 2008 年初のリスク回避ピーク期を既に上回っ

ている。2008 年初のピークは、2007 年 8 月に発生した短期資金市場の流動性危機(いわ

ゆるパリバショック)から発生したものだ。 2000 年から今年 5 月までの月次データによれば、実質個人消費の前年比の伸びがゼロに

なるのに相当するリスク回避スプレッドは約 2.8%である(第 4 図)。6 月末現在の同ス

プレッドはすでに 3.8%にまで拡大している。リスク回避と個人消費の関係だけからは、

既に実質個人消費の伸びは前年比でマイナスにまで悪化していてもおかしくないことに

なる。投資家のリスク回避は既に実体経済にとって危険水域にまで拡大していることに

なる。 今後については、仮に雇用の伸びが極めて緩やか、つまり前年比ゼロ程度の伸びだった

とした場合、リスク回避といった市場心理要因が消費の方向性に影響する可能性があり、

その影響は無視できないものである可能性があることになる。

<FOCUS>

<トピック1> 頭を垂るる。。:雇用先行指標

6 月分の雇用統計では、民間雇用の増加ペースが前月よりやや強まったことが判明した。しかし、雇用増加ペー

スは依然して弱く、また一部先行指標にかげりが見られる。

<トピック 2> 増税カードのタイミング:G20 赤字半減宣言 6 月 27 日に公表されたトロント G20 サミットの首脳宣言では「先進国は 2013 年までに財政赤字を少なくとも半

減する財政計画をコミットした」ことが明記された。 <経済・金融の動向:6 月 28 日~7 月 2 日現在> 下値抵抗線ブレークし更に下値リスク

<経済指標コメント>カンファレンスボード消費者信頼感指数(6 月)は 52.9 ポイント(前月比-9.7 ポイント)、

他。

Page 2: July 2, 2010 FOCUS...2010/07/02  · BTMU Focus USA Weekly/ July 2, 2010 Page 2 の指標になりうる。 株価指数益回りと国債利回りのスプレッド(以下“リスク回避スプレッド“)の推移を見

<FOCUS> リスク回避はレッドゾーン:投資家心理と消費

株価収益率と米国債利回りからみた投資家のリスク回避度合いはすでに 2007 年のパリバシ

ョック後の水準に達している。雇用が横ばいとした場合、個人消費はマイナスもしくはかな

り失速するという計算になり、すでに危険水域に近づいている。

各市場でリスク回避が顕著になっている:銀行間市場は意外に平静

欧州危機問題が米国の金融市場に顕在化したのは 5 月初の株価急落の頃からだった。以来

市場ではリスク回避方向に資金が流れていると思われる動きがかなりはっきりしている。

株価下落のほか、商品市場では金価格が上昇、原油価格が下落している。安全資産とされ

る米国債には資金が流入し、2 年物米国債利回りは 1%を大きく割り込む 0.6%台にまで低下、

10 年物も 3%を割り込む水準にまで低下している。為替市場では、円キャリーポジションの

巻戻しと思われる円買いが進み、ドル円は今週 1 ドル=87 円台にまで下落した。

当レポートでは金融システムを通じた欧州財政危機リスクの波及が、景気 2 番底というリ

スクシナリオの 1 つの要因だと考えている。金融システムを通じたリスクの波及は、カウン

ターパティリスク拡大を通じた信用収縮と流動性リ

スクの拡大により起こる。 第1図:S&P500益回りと米国債10年物利回り

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1/2/04

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(%

S&P500益回り

米国債10年物利回り

(資料)Bloombergより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成

現在銀行間市場の流動性リスクはさほど顕現して

いない。米ドルの 3 ヶ月物 LIBOR は 0.53%台の高値

圏にあるとはいえここ 1 ヶ月ほどは横ばい推移で安

定している。3 ヶ月物米国債利回りとのスプレッドも

拡大はしているが、2008 年のリーマンショックや、

2007 年の流動性悪化時に比べてもまだ小さい。

株式・米国債市場のリスク回避度はパリバショック

後をすでに上回っている

銀行市場が比較的安定しているのに対し、投資家

のリスク回避傾向はより顕著に悪化している。銀行

間市場に中銀の流動性対策がセーフティネットとし

て働いていることが当面の安定をもたらしているが、

株式市場・消費市場ではより安全志向が顕著にでや

すい。

第2図:S&P500益回りと米国債10年物利回り

のスプレッド

0

1

2

3

4

5

6

7

8

1/2/04

1/2/05

1/2/06

1/2/07

1/2/08

1/2/09

1/2/10

(%

(資料)Bloombergより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成

第 1 図は、S&P500 指数の益回り(1/株価収益率×

100)と、米国債 10 年物利回りの推移の比較である。

投資家のリスク回避が株式からの資金流出と安全資

産である米国債への資金流入を呼び起こすとした場

合、この両者の利回り較差(株価指数益回り-国債利

回り)は、投資家のリスク回避度合いを示すひとつ

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の指標になりうる。

株価指数益回りと国債利回りのスプレッド(以下“リスク回避スプレッド“)の推移を見

たのが第 2 図である。これによれば、現在の投資家のリスク回避度は 2009 年の金融危機 悪

期には及ばないものの、それ以前の 2008 年初のリスク回避ピーク期を既に上回っている。

2008 年初のピークは、2007 年 8 月に発生した短期資金市場の流動性危機(いわゆるパリバシ

ョック)から発生したものだ。パリバショック以後各国中銀は大量の流動性供給と政策金利

引下げでこれに対応、2008 年の半ばにかけて一旦はリスク回避は沈静化した。しかしその後

2008 年 9 月のリーマンショックで金融危機は 悪期に突入した。

リスク回避は個人消費にリアルタイムに連動する 第3図:リスク回避と個人消費

-4

-2

0

2

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(年)

(%

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7

(前

年比

、%

S&P500益回り-米国債10年物利回り(左目盛)

実質個人消費(右目盛)

(資料)Bloomberg、米国商務省統計より三菱東京UFJ銀行

経済調査室作成

リーマンショックのいわば前触れであったパリバシ

ョックによるリスク回避を越えるリスク回避が市場で

起こっているとすれば、今後の金融市場や実体経済の

見通しはやや暗くなってくる。

リスク回避が実体経済に及ぼす影響を見るひとつの

試みとして、2000 年以降の月次データをもとに、上記

リスク回避スプレッドと、米国の実質個人消費の伸び

の推移を比較したのが第 3 図である。これによれば、

両者の間には相関係数=約-0.75 の逆相関関係(R^=

0.57)が見られる。投資家のリスク回避と個人消費の

悪化はほぼ同時に進行する可能性が高いことになる。

同じことを、鉱工業生産指数など企業部門の需要を

含む指標で試しても、あまり強い逆相関は見られない。

金融危機の際もそうであったように、企業部門の生産

は景気の悪化に対する反応がやや遅れる傾向がある。

個人消費を中心とする家計部門のほうがよりセンチメ

ントに対して迅速に反応する。

2000 年から今年 5 月までの月次データによれば、実

質個人消費の前年比の伸びがゼロになるのに相当する

リスク回避スプレッドは約 2.8%である(第 4 図)。6

月末現在の同スプレッドはすでに 3.8%にまで拡大して

いる。リスク回避と個人消費の関係だけからは、既に

実質個人消費の伸びは前年比でマイナスにまで悪化していてもおかしくないことになる。投

資家のリスク回避は既に実体経済にとって危険水

第4図:リスク回避と個人消費

(2000年1月~2010年5月)

y = -0.7347x + 2.8174R2 = 0.5755

-4

-2

0

2

4

6

8

-4 -2 0 2 4 6 8

実質個人消費(前年比、%)

S&

P50

0益回

り-1

0 年

物米

国債

利回

り(%

(資料)Bloomberg、米国商務省統計より三菱東京UFJ銀行経

済調査室作成

域にまで拡大していることになる。

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実体経済指標を変数に加えると、何とかプラスの消費は正当化できる

上記の試算は投資家リスク回避

と実質個人消費を直接的に比較し

ただけで、両者の連関をつなぐ要

素や、他の実体経済要因を捨象し

ている。

そこで、実質個人消費を決定す

る変数に実体経済の動向を現す非

農業部門雇用者数の前年比の伸び

を加えてみると、補正 R^2 は 0.78

にまで上昇、かつリスク回避スプ

レッドも統計的に有意な変数となった。その場合、

リスク回避スプレッドの 1%の拡大は実質個人消費を

約 0.53%押し下げるとの結果になった(第 1 表)。

第1表:実質個人消費の決定要因と係数(2000年1月~2010年5月)

定数項 3.2507 2.3963 2.9601

(27.3699) (23.2315) (32.4971)

S&P500益回りと

米国債10年物利回りのスプレッド (%) -0.7833 -0.5375

(-12.9134) (-10.7126)

非農業部門雇用者数(前年比、%) 0.6855 0.4623

(12.6240) (10.4269)

補正R^2 0.5721 0.5609 0.7719

(資料)各種統計より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成。

( )内はt値

第5図:実質個人消費の伸び

-3

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1

2

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10

(年)

(%

実績値 推計値

(資料)Bloomberg、米国商務省統計より三菱東京UFJ銀行経

済調査室作成

6 月現在で非農業部門雇用者数の前年比の伸びは概

ねゼロにまで回復した。その場合、3.8%のスプレッ

ドに対応する実質個人消費の前年比の伸びは約

+0.9%となる。雇用悪化に歯止めがかかった現在で

は、雇用による購買力の維持で消費のマイナスへの

悪化は避けられることになる。しかしそれでも、現

在の実質個人消費の伸びのレベルよりもかなり低い

水準に低下してしまう計算になる。

また、上記モデルによる個人消費の推計値と実績値を比較してみると(第 5 図)、今年に

入ってからの実質個人消費の伸びは、概ね推計値を上回るペースになっている。今年に入っ

てからの個人消費の伸びが所得などの家計購買力の伸びに対してあまりに急速であったこと

は既に何度が観察してきた。ここでも同様に、今年に入ってからの消費の急激な伸びは、景

気後退期にやや過度消費を切り詰めたことにより潜在需要の積み上がりが主な加速要因であ

ったことが推測できる。

株価下落、雇用先行指標の悪化は、持続的成長シナリオのリスクを増している

今後については、仮に雇用の伸びが極めて緩やか、つまり前年比ゼロ程度の伸びだったと

した場合、リスク回避といった市場心理要因が消費の方向性に影響する可能性があり、その

影響は無視できないものである可能性があることになる。

当レポートでは主に雇用の持続的拡大(そのペースは遅いものの)による所得の伸びの回

復をベースに、個人消費を中心とした米国経済は低成長ながら持続的回復になると予想して

いる。しかし、欧州財政危機の米国金融市場への顕在化以後、特に今週に入ってその前提に

やや揺らぎがでてきている。

BTMU Focus USA Weekly/ July 2, 2010 Page 4

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ひとつの大きな問題は、今週 NY ダウが更に大幅続落して、これまでの下値抵抗線だった

9800 ドルレベルを割り込んできたことである。当レポートでは、主に資産効果による消費拡

大の源泉としての株価は年間を通じて概ね NY ダウ 1 万ドル以上を維持できることを、持続

的成長シナリオの前提としてきた。今後の株価についてその方向を拙速に判断することは困

難だが、メインシナリオ維持にやや揺らぎが出ていることは間違いない。

また持続的な雇用の拡大も、先行指標の悪化によりやや下方リスクが増している(<トピ

ック 1>参照)。

そこにリスク回避要因である。上記の通り、リスク回避要因の悪化を補ってあまるだけの

雇用拡大ペースが継続するのであれば問題はない。しかし欧州危機からの連想でこのまま市

場のリスク回避が拡大して、雇用増による所得効果を相殺するようになった場合、欧州危機

はまたも金融市場を通じて米国にも伝染した、という結果になりかねない。

(<FOCUS>)

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<トピック1> 頭を垂るる。。:雇用先行指標

6 月分の雇用統計では、民間雇用の増加ペースが前月よりやや強まったことが判明した。

しかし、雇用増加ペースは依然して弱く、また一部先行指標にかげりが見られる。雇用回復

は緩やかなペースにとどまるという当レポートの見通しに沿った実績ではあるが、この先は

やや下方リスクが勝ってきている。

民間雇用の伸びはまだ遅い

2 日に公表された 6 月分雇用統計は、非農業部門

雇用者数が前月比-125 千人の減少、うち連邦政府に

よる国勢調査要員の一時雇用終了に伴う雇用減-225

千人を差し引くと同+100 千人の増加となった。

第1図:非農業部門雇用者数の推移

-1000

-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

07 08 09 10

(前

月比

、千

人)

非農業部門雇用者数

うち民間部門

(資料)米国労働省統計より三菱東京UFJ銀行

経済調査室作成

(年)

民間部門の雇用は同+83 千人と、1 月以来 6 ヶ月連

続の増加、かつ前月の同+33 千人からやや増加ペー

スが加速した。しかし、100 千人を下回る雇用増加ペ

ースは決して順調とはいえない。また民間部門の雇

用者増加ペースは、4 月の 241 千人増から大きく減速

している(第 1 図)。

業種別の増減を見ると、大きく好転したのは娯楽・宿泊業(5 月の天候要因の反動か)、

専門ビジネスサービス業など一部にとどまり、多くの業種で低迷が続いている。製造業は先

月の前月比+32 千人から+9 千人に大きく雇用の伸びを縮め、うち自動車・同部品製造業は 4

ヶ月ぶりの減少となっている(章末第 1 表参照)。

過去 2 ヶ月間で連続して雇用を減少させたのが建設業、小売業、金融業の 3 業態である。

建設業は非住宅建設雇用が 6 月に大幅に減少したのが効いている。小売は 5 月の小売不振に

つづき、6 月も小売売上が低迷したことを示唆している。5 月の統計時点では建設、小売の 2

業種の雇用減少は住宅インセンティブ制度終了や、悪天候による小売売上不振という一時的

な要因による可能性が高いと見ていたが、6 月にも同じ業種の雇用が減少していることはこ

れらの雇用市場の悪化がもうすこし趨勢的なもので

ある可能性を示唆している。 第2図:失業率の推移

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

94 96 98 00 02 04 06 08 10 (年)

(%)

(資料)米国労働省統計より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成

失業率は数字上は先月の 9.7%から 9.5%に低下し

た(第 2 図)が、これはあまりよい内容ではない。

家計調査によれば、就業者数、労働力人口のいずれ

もが減少している。つまり職を失った労働者が増加

して労働市場から退出したことによる見かけの失業

率低下である。この傾向は 5 月、6 月の 2 ヵ月連続し

て続いている。これは今後、労働市場が好転した際

に再び失業率が上昇する可能性を示唆している。

BTMU Focus USA Weekly/ July 2, 2010 Page 6

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週労働時間の減少、在庫など他の統計でも先行指標が伸び悩んでいる

さらに今後にとっての不安要素は、先行的な指

標にかげりが見え始めていることである。労働市

場の先行指標とされる製造業の週平均労働時間

(全労働者)は、4 ヶ月ぶりにしかも大幅に減少し

た(第 3 図)。5 月までは小売を始めとする企業の

売上が好調な一方、在庫がやや不足気味であった

こともあり、企業は早いペースの在庫積み増しに

迫られていた。5 月ころには在庫水準がほぼ適正な

レベルになった上、売上ペースが減速したことで

その後の在庫積み増しペースは需要拡大に応じた

られる。こうした背景が、労働時間の短縮を生み、

労働力のタイト化が緩和されてきたといえる。

同様の状況は、製造業在庫統計で在庫残高が

第3図:週平均労働時間

(全労働者)

33

34

35

06 07 08 09 10(年)

(時

間)

38

39

40

41

(時

間)

全体(左目盛)

製造業(右目盛)

(資料)米国労働省統計より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成

ものにとどめることが出来るようになったと考え

5 月

場の先行的な指標にかげ

明らかに過大であった(第 4 図)。

分の残りや、緩やかとはいえ増加してい

先行指標の悪化の兆しは、労働市場回復見通しにやや下方リスクが生じてきてい

減少していいることや、ISM 製造業景況感調査に

おいて、サプライヤーの入荷遅延指数が低下に転じ

たことからも推測できる。

また他の統計でも労働市

が見えている。新規失業保険申請件数が 450 千件

を上回る水準のまま減少しないことはその第一であ

る。特に、新規失業保険申請件数と非農業部門雇用

者数増減の相関からは、5 月までの雇用増加ペースは

2000 年から 2009 年までのデータからの当レポート試算によれば、非農業部門雇用者数の増

加が安定的に見られるには、新規失業保険申請件数は週あたり 378 千件レベルにまで減少し

なければならない計算になる。現状の 450 千件を越える失業保険申請の水準は、毎月-250 千

人を越える雇用減少局面に相当する。これは、国勢調査員の一時雇用終了による雇用減-250

千人の他の雇用がゼロである状況にほぼ等しい。

当面は景気後退期に積みあがった潜在需要の実現

第4図:非農業部門雇用者数と新規失業保険件数

-1000

-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

(前

月比

、千

人)

200

300

400

500

600

700

(月

平均

、千

件)

非農業部門雇用者数(左目盛)

新規失業保険申請件数(右、逆目盛)

(資料)米国労働省統計より三菱東京UFJ銀行経済調

査室作成

(年)

民間雇用による購買力拡大でそこそこの需要増加は見込める。また設備投資関連の出荷が

堅調なことで、資本財関連の需要は当面もつだろう。欧州財政危機のリスクが米国金融市場

に顕在化した 5 月以降は消費者センチメントもやや低下しているものの、企業が人員削減を

再開するにはいたっていない。現状では今後も雇用は緩やかな増加を続けるという予想は維

持する。

しかし、

ことを示唆している。

BTMU Focus USA Weekly/ July 2, 2010 Page 7

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<トピック 1>

09/7 8 9 10 11 12  10/1  2 3 4 5 6非農業部門雇用者数 -346 -212 -225 -224 64 -109 14 39 208 313 433 -125(前月比、千人)

民間部門 -297 -215 -186 -262 75 -83 16 62 158 241 33 83

製造業 -43 -57 -48 -57 -25 -18 22 16 19 38 32 9自動車及び同部品 37 -8 -1 4 -5 -1 27 -9 4 4 6 -3

建設業 -80 -64 -71 -67 -15 -36 -60 -51 27 22 -30 -22

サービス業 -169 -85 -65 -131 108 -29 46 90 101 174 20 91小売業 -54 -15 -48 -63 9 -15 49 7 23 14 -11 -7金融業 -23 -24 -12 -19 2 -9 -22 -7 -19 2 -12 -15専門ビジネスサービス業 -48 -34 -22 11 106 22 23 56 1 70 25 46

人材派遣業 -9 -16 -9 42 95 50 49 36 32 23 31 21教育・医療サービス業 21 35 26 35 31 37 20 30 49 28 20 22娯楽・宿泊業 -4 -18 16 -54 -21 -33 12 23 23 36 -8 37

政府部門 -49 3 -39 38 -11 -26 -2 -23 50 72 400 -208

失業率(%) 9.4 9.7 9.8 10.1 10.0 10.0 9.7 9.7 9.7 9.9 9.7 9.5製造業週平均労働時間(注) 38.8 39.1 39.0 39.1 39.6 39.6 39.9 39.7 40.0 40.1 40.5 40.0時間当たり賃金(注) 22.20 22.28 22.30 22.35 22.39 22.38 22.45 22.48 22.48 22.50 22.55 22.53

(資料)米国労働省統計より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成。(注)民間全雇用者

1表:非農業部門雇用者数の推移第

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<トピック 2> 増税カードのタイミング:G20 赤字半減宣言

G20 サミット首脳宣言で 2013 年までの財政赤字半減をコミット

6 月 27 日に公表されたトロント G20 サミットの首脳宣言では「先進国は 2013 年までに財

政赤字を少なくとも半減する財政計画をコミットした」ことが明記された。

今回のトロント G20 では、ギリシャなどの財政危機を抱え財政緊縮に舵をきる欧州と、景

気刺激策の継続を主張する米国の対立がひとつの焦点だった。オバマ大統領はサミットに先

立つ 6 月 16 日に G20 参加国首脳に書簡を送付、「景気刺激策の早すぎる終了が新たな経済

悪化と景気後退を招いた過去の過ち」に鑑み、拙速な財政緊縮に反対する立場を鮮明にして

いた。

結果的に公表された首脳宣言は、成長の重視と財政規律を併記した総じて玉虫色のものだ

った。しかし、その中で上記の財政赤字削減について、2013 年までに半減という数値目標が

明記されたことは、予想以上に強い内容だ。財政支出継続による景気刺激維持を唱える米国

の譲歩のようにも見える。

大統領予算教書ではすでに 2013 年までの半減を提案済み

だが、実際にはそうではない。2013 年までに財政赤

字を半減する財政「計画」はすでに今年の初めにオバ

マ大統領が公約した計画を焼きなおしたにすぎない。

2 月に公表されたオバマ大統領の予算教書ではすでに、

2010 年度に 1.5 兆ドルを越える財政赤字が、2013 年度

には 7270 億ドルに半減する計画が提案されている。つ

まり、2013 年までの財政赤字半減「計画」は G20 サミ

ットの何ヶ月も前に大統領が「コミット」した出来あ

いのものを追認したのに過ぎない。さらに巧妙なのは、

大統領予算教書では 2014 年度(暦年では 2013 年末を含む)に財政赤字が 小になる計算に

なっていることだ。その後再び財政赤字は拡大し、2020 年には再び 1 兆ドルを越えることに

なっている。「2013 年までに財政赤字半減」はあたかも大統領予算教書の数字に合わせたか

のようなコミット内容だ。

第1図:2011年度大統領予算教書による財政赤字見通し

-1800

-1600

-1400

-1200

-1000

-800

-600

-400

-200

0

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017

2018

2019

2020

(会計

年度)

(十

億ド

ル)

(資料)大統領予算教書より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成

むろん予算教書の赤字削減計画も全てが現実的なわけではなく、イラク戦費の削減や、銀

行課税、ヘッジファンドなどへのキャピタルゲイン課税増税など、まだ実現が不確実なもの

もある。しかし、景気対策法による 8000 億ドル近い支出が自然に剥落するだけでも概ね現在

の財政赤字の半分に相当する。実現性の如何はともかく「財政計画へのコミット」としては

予算教書公表で十分すぎるほどだ。

この点は大統領自身も認めていて、米国はあらたな財政支出削減をするわけでもなく、む

しろ他国に先駆けて財政規律の強化をしたのだと述べている。G20 サミット後の記者会見で

大統領は「我々はかなり前にすでに、2013 年までに財政赤字を半減することを提案してい

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Page 10: July 2, 2010 FOCUS...2010/07/02  · BTMU Focus USA Weekly/ July 2, 2010 Page 2 の指標になりうる。 株価指数益回りと国債利回りのスプレッド(以下“リスク回避スプレッド“)の推移を見

る」「したがって今回採用された時間軸と政策は我々の見方に一致するものである」とのべ

ている。

その後 2020 年に 1 兆ドルまで赤字再拡大の予想:これが本来の課題

かように、形式上の G20 宣言のコミットは、既に米国については既決事項ということにな

る。現実的な問題はその後だ。上記の通り予算教書においても、2014 年度以降財政赤字は再

び拡大することになっている。そこでは医療費、社会保障の膨張が大きな財政支出拡大要因

になっている。オバマ大統領にとっての本来の課題は 2013 年までの財政赤字半減ではなく、

10 年後を見据えた財政赤字の縮小である。予算教書段階ではそうした本質的な財政赤字対応

策の答えは見出されていなかった。大統領自身も述べるとおり、現在の米国の財政は維持不

可能である。

長期的な財政赤字削減のため、オバマ大統領は予算教書公表と同じ 2 月に大統領令を発し、

超党派の財政委員会を設置して 2015 年までに財政赤字を解消する政策の策定を指示している。

委員会は 12 月 1 日までにその報告書を提出するように指示されている。

2015 年までの財政赤字解消は一見かなり非現実的な高いハードルである。予算教書にはす

でに、ブッシュ減税の一部廃止、大企業を中心とした補助金や税優遇の廃止など、ブッシュ

政権の負の遺産とオバマ大統領がみなす税制優遇の見直しはすでに予算教書に盛り込まれて

いる。さらに歳出凍結についてもかなり厳しい内容を盛り込み済みである。

中間選挙後にいよいよ VAT 導入提案を公表か

個々から更に維持可能な財政規律を在任中に打ちたてようとすれば「年収 250 千ドル以下

の家計には増税しない」というオバマ大統領の公約を見直すような新たな財源が必要になる

だろう。過去にも述べたように(2 月 5 日付当レポート<トピック1>「いずれ増税は不可

避と見る」、5 月 28 日付当レポート「ファンド課税の功罪」参照)、財政赤字の持続的解消

のためには、広い増税とくに米国では現在導入されていない、連邦付加価値税(VAT)の導

入が必要だと当レポートでは見ている。

近の状況証拠はさらにその方向を指している。超党派財政委員会の報告書提出期限は 12

月 1 日だが、オバマ大統領は G20 後の記者会見で、その報告書の発表を「11 月に開始」だと

述べた。つまり、11 月の中間選挙前の時期を避け、選挙終了後に財政赤字削減策の公表を行

おうとの意図が読み取れる。

さらに同じ会見で大統領は「来年に私は、わが国にとって極めて難しいいくらかの選択肢

を提案し始める」と述べている。「極めて難しい選択肢」には歳出削減、増税、双方あろう

が、片方だけではもはや赤字解消は困難であろう。どこかの段階でオバマ大統領はVATなど

の増税提案に踏み切らねばならないと見る1。

<トピック 2>

1G20 記者会見をうけた、 米メディアにおける VAT 導入の可能性を見る論調に 6 月 28 日付 USA Today “Obama on deficit and debt crisis”, 7 月 2 日付 WSJ 紙“The Obama Tax Trap”がある。

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<経済・金融の動向:6 月 28 日~7 月 2 日現在>

下値抵抗線ブレークし更に下値リスク

株価市場、NY ダウは 2 週続落、前週末比 457 ドル安の 9686 ドルで 2 日の取引を終えた。

NY ダウは 2 日まで 7 営業日続落、また過去 2 週間の下落幅は 764 ドルに及んでいる。1

週間でもっとも下落の大きかった 6 月 29 日は、中国の景気指標の下方改訂や、カンファ

レンスボード消費者信頼感指数の低下が要因とされているが、いずれも景気動向を大きく

転換する材料とは言いがたい。市場全体のリスク回避が更に進行している結果と見たい。

S&P500 の 10 業種別騰落率は、金融、素材、資本財、情報技術など景気敏感株を中心に

10 業種全てが前週末比で下落した。

為替市場ではドルが対円、対ユーロで下落した。ドル円は先週末の 1 ドル=89 台から、今

週は 87 円台にまで下げた。ユーロは、先週の 1 ユーロ 1.23 ドル台後半から、今週は 1.25

ドル台までユーロが上昇した。債券市場では米国債利回りが更に低下、10 年物米国債利

回りはほぼ 1 年ぶりに 3%を割り込んだ。

向こう 1 週間は、6 日に 6 月 ISM 非製造業指数、8 日に大手小売業既存店売上高の発表が

あるほかは経済指標、イベントともに薄め。

株式市場は、これまでの下値抵抗線だった NY ダウ 9800 ドルを割り込んだ。テクニカル

には更に下値を追う形だ。中期的にも 4 月下旬の 11200 ドル台を頂点とするヘッドアンド

ショルダーを形成していて、弱気シグナルとなっている。次の下値は 9000 ドルレベルま

で目処がない。しばらくは弱気基調が継続すると見ざるを得ない。。ISM 非製造業指数が

企業景況感の鈍化を示す結果になれば、さらにリスク回避がすすんで下落の可能性がある。

ただし来週は営業日も少なく、材料難かつ 7 月後半からの企業決算待ちとなるため、一時

的にショートカバーの買いにより持ち直す動きがあってもおかしくない。ともあれ、NY

ダウ 10000 ドル以上を概ね維持という当レポートの成長シナリオの前提にはやや黄信号が

灯りつつある。

(<経済・金融の動向>)

BTMU Focus USA Weekly/ July 2, 2010 Page 11

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BTMU Focus USA Weekly/ July 2, 2010 Page 12

<経済指標コメント>

カンファレンスボード消費者信頼感指数(6月)は 52.9 ポイント(前月比-9.7 ポイント):消費者信頼感指数(1985=100)は 3 ヶ月連続上昇ののち 6 月は-9.7 ポイントの大幅な低下となる 52.9 ポイント。現況指数 25.5 ポイント(前月比-4.3 ポイント)、将来指数 71.2 ポイント(同-13.4)といずれも低下、特に将来指数の低下が著しい。総合指数の低下幅は、大幅な株価下落や悪天候のあった 2 月の低下幅に匹敵する。指標公表元のカンファレンスボードは「近の雇用増の鈍化の結果、経済と労働市場の不確実性を増したことが指数急低下の原因」としている。6 月 29 日の株式市場はこの指標公表後に大きく下落した。ただし水準的にはまだ昨年後半からのレンジの範囲内であって、消費者信頼感の大きな下離れというわけではない。失業率の連関性の高い就職困難指数は 44.8 とこちらも 4 ヶ月ぶりの悪化。

個人消費統計(5 月):名目個人所得前月比+0.4%(前月同+0.5%)、名目個人消費前月比+0.2%(前月同横ばい)、実質個人消費前月比+0.3%(前月同横ばい)、貯蓄率 4.0%(前月比+0.2%)、個人消費支出価格指数前月比横ばい(前年比+1.9%)、同コア指数前月比+0.2%(前年比+1.3%):個人所得は 7 ヵ月連続の増加ないし横ばいとなる前月比+0.4%、前年比の伸びは+1.6%と前月の同+2.6%から大きく減速したが、これは昨年 5 月の一時的な給付金の増加によるもの。内訳では、雇用者報酬が前月比+0.4%と堅調な伸びであるものの、前年比の伸びは+1.0%にとどまっていて、まだ雇用回復による賃金収入の伸び回復が遅いことを表している。一方で 2009 年の景気対策法施行後 1 年を経過して、減税・給付金の前年の伸びが急激に縮小している。移転所得の前年比の伸びは前年比+0.6%にまで縮小、逆に租税は前年比の伸びが+0.2%にプラス転化している。家計の所得の伸びは政府支援にはもはや頼れず、給与所得等で自律的に増加していくより他はなくなっている。そのため今後の所得の伸び維持には雇用の安定的増加が必要条件になる。名目個人消費は前月比+0.2%と堅調、前年比の伸びも+4.5%にまで拡大した。ただしこの消費の伸びは、名目可処分所得の前年比の伸び(+1.7%)に対していかにも大きく、これまでの景気回復局面における消費の回復ペースがやや早すぎたことを示唆している。実質個人消費は前月比+0.3%。6 月が 5 月比横ばいと仮定した場合の第 2 四半期の GDP 統計上の実質個人消費は前期比年率+2.5%になる計算だ。個人消費支出価格指数(PCE デフレーター)は、2 ヶ月連続の横ばいにとどまり、前年比の伸びは再び 2%を割り込んだ。コア指数の前年比の伸びも依然低下基調にあり、デフレ圧力はまだ強いといえる。

消費者信頼感指数の推移

0

20

40

60

80

100

120

140

01

02

03

04

05

06

07

08

09

10

(年)

(1985=100)

0

10

20

30

40

50

60

(%)

総合指数(左目盛)

就職困難指数(右目盛)

(資料)カンファレンスボード統計より三菱東京UFJ銀行経済調査

室作成。シャドー部分はリセッション期(09年6月の終期は筆者見

込み)。

S&P ケースシラー住宅価格指数(20 都市、4

月)は前年比 +3.8 %、季節調整済前月比

個人所得と消費

-3

-2

-1

0

1

2

3

4

5

6

07 08 09 10 (年)

(前

年比

、%

実質個人消費

実質可処分所得

(資料)米国商務省、ミシガン大学統計、Global Insightより三菱東京UFJ銀

行経済調査室作成

S&P ケース・シラー住宅価格指数 20都市

-25

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

(前

年比

、%

(資料)Global Insightより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成

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+0.4%:住宅価格指数は前年比で 3 ヶ月連続の上昇、また季節調整済前月比でも 3 ヶ月ぶりに上昇した。前月比で住宅価格が上昇した都市数は 3 月の 10 都市から 4 月には 17 都市に急増した。ただし、4 月は住宅購入インセンティブ制度の期限となる月で、駆け込み購入により価格上昇ペースが加速した可能性がある。その後住宅販売はやや軟化していることから、5 月以降はやや住宅価格も緩むと見る。

業施設にやや減少ペースの低下が見られる。

年比-47.1%(前月同-65.1%):チャレンジャ

建設支出(5月)は前月比-0.2%(前月同

+2.3%)、うち民間非住宅建設支出同-0.6%、民間住宅建設支出同-0.4%:建設支出は 3 ヶ月ぶりの前月比減少。うち民間部門の住宅建設支出はインセンティブ制度終了の影響で 3 ヶ月ぶりに減少に転じた。民間部門の非住宅建設支出は先月一時的に増加したが、再び減少に転じ、過去 12 ヶ月中 11 ヶ月で減少する低迷が続いている。6 月が 5 月比横ばいだった場合、第 2 四半期の非住宅建設支出は前期比年率-1.5%と、前期よりマイナス幅が大きく縮小する計算になる。トレンドではオフィスや商

チャレンジャー社公表レイオフ数(6 月)は前

ー社集計の公表レイオフ数は昨年同月に比べ大幅な減少を続けている。件数ベースでも 39.4 千件と 3 ヶ月連続で 40 千件をやや下回る低水準にとどまっている。企業の採用意欲はまだ強くはないが、人員削減は概ね平時の状況である。

新規失業保険申請件数(6 月 26 日〆週)は 472

千件(前週比+13 千件)、継続受給比率(6 月19 日〆週)は 3.6%(前週比横ばい)、継続受給者数は 4616 千人(前週比+43 千人):新規失業保険申請件数は前週の減少から反発して増加、4 週移動平均も 466.5 千件(前週比+3.25 件)と上昇に転じた。5 月中旬以降新規申請件数は 450件台~470 件台のレンジで推移していて、450 件レベルを下抜けられずにいる。6 月より連邦政府の国勢調査要員の一時雇用終了がはじまっていて、これが申請件数の増加につながっている可能性はある。しかし、継続的な新規失業保険申請の 450 千件を越える高止まりは、まだ雇用環境が完全に回復していないことを示唆している。

新規失業保険申請件数

400

450

500

550

600

Aug-

09

Sep-

09

Oct-

09

Nov-

09

Dec-09

Jan

-10

Feb-

10

Mar

-10

Apr

-10

May

-10

Jun-10

(千件

)

新規失業保険申請件数

同4週移動平均

(資料)米国労働省統計より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成

事業用建設の伸び

-80

-60

-40

-20

0

20

40

60

80

05 06 07 08 09 10

(年)

(前

年比

、%

商業施設

オフィス

宿泊施設

ISM 製造業指数(6 月)は 56.2%(前月比-3.5%ポイント):ISM 製造業指数は 2 ヵ月連続の低下となる 56.2%。11 ヶ月連続で景気判断の分か

(資料)米国商務省統計より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成

製造業ISM指数

20

25

30

35

40

45

50

55

60

65

03 04 05 06 07 08 09 10 (年)

(%

総合

雇用

(資料)全米供給管理協会統計より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成

公表レイオフ数

0

50

100

150

200

250

300

J F M A M J J A S O N D

(千

人)

2007年

2008年

2009年

2010年

(資料)Challenger, Gray & Christmas社調査, Global Insightより三菱

東京UFJ銀行経済調査室作成

BTMU Focus USA Weekly/ July 2, 2010 Page 13

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れ目となる 50%を上回っているが、上昇にはかげりが見られる。総合指数を構成する 5 つの DIは、新規受注 DI が 58.5%(前月比-7.2%ポイント)、生産 58.5%(同-7.2)、雇用 57.8%(同-2.0)、入荷遅延 57.3%(同-3.7)、在庫 45.8%(同+0.2)と、在庫を除く 4 つの DI が前月比で低下している。前月 5 月の総合指数低下は主に在庫 DI の低下が大きく寄与していたが、6 月は広い生産・雇用関連 DI が低下していて、内容的にも悪くなっているといえる。

緩やかながら増加傾向

新車販売台数(6 月)は年率 11.8 百万台(前月

同 11.6 百万台):新車販売台数は 2 ヵ月連続の増加、昨年秋をボトムにをたどっている。

雇用統計(6 月)、非農業部門雇用者数は前月

比-125 千人(前月同+433 千人)、うち民間部門+83 千人(前月同+33 千人)、失業率 9.5%(前月比-0.2%):非農業部門雇用者数は前月の増加から転じて-125 千人の減少。このうち連邦政府による国勢調査要員の一時雇用終了にともなう雇用減が-225 千人含まれており、これを除くと非農業部門全体では+100 千人の増加となった。

用増、かつ前月一旦減速した増加ペースややや加速した。しかし 241 千人の増加を見せた 4 月のペースに比べればペースは減速している。業種別では、住宅インセンティブ制度終了の影響を受けた建設業が 2 ヵ月連続の減少となる-22 千人、また小売業、金融業も 2 ヶ月連続の減少となっているのが目立つ。また製造業も雇用を増加させたもののそのペースはやや落ちている。雇用を増加させたのは専門ビジネスサービス、教育・医療、娯楽・宿泊の各業種。製造業の週平均労働時間も 4 ヶ月ぶりに減少していて、労働力の若干の緩みを示唆している。失業率は前月比-0.2%の低下となる 9.5%だった。しかし、内容をみると家計調査の就業者数、労働力人口いずれも減少した結果の失業率低下であって、求職を停止して労働力人口から流出が起きていることを表している。全体として雇用の回復は継続しているがそのペースは遅いといえる。また、週労働時間の減少、新規失業保険申請件数の増加など、一部先行指標にも翳りが見える。

新車販売台数

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

06 07 08 09 10 (年)

(年

率、

百万

台)

(資料)米国商務省統計より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成

製造業受注(5 月)は前月比-1.4%、製造業在庫

同-0.4%、航空機を除く非国防資本財受注同+3.9%、同出荷同+1.4%:製造業受注は 9 ヶ月ぶりの前月比減少、ただし振れの大きい民間航空機の受注減が全体を押し下げていて、設備投資の先行指標となる航空機を除く非国防資本財受注は前月比+3.9%の大幅増、過去 6 ヶ月中 4 ヶ月で前月比増加と依然好調。GDP 統計上の機器ソフトウエア投資項目の基礎統計となる航空機を除く非国防資本財出荷は 4 ヶ月連続の前月比増加となる前月比+1.4%。6 月の出荷が 5 月比横ばいだった場合、第 2 四半期の出荷は前期比年率+15.4%と、前期の+12.1%を上回るペースになる。尚、製造業在庫は前月比-0.4%と 8 ヶ月ぶりに減少に転じた。

非国防資本財出荷(除く航空機)

-50

-40

-30

-20

-10

0

10

20

30

06/II 07/II 08/II 09/II 10/II

(年)

(前

期比

年率

、%

非国防資本財出荷(除く航空機)

民間設備投資(機器ソフトウェア)

(資料) 米国商務省統計より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成

民間部門は+83 千人と、1 月以来 6 ヶ月連続の雇

非農業部門雇用者数の推移

-1000

-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

09 10

(前

月比

、千

人)

非農業部門雇用者数

うち民間部門

(資料)米国労働省統計より三菱東京UFJ銀行

経済調査室作成

(年)

(<経済指標コメント>)

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