jcam agri . co., ltd

12
令和2年10月1日(毎月1日発行)第724号 編集兼発行人:大 2020 〒101- 0041 東京都千代田区神田須田町2 6 6 ジェイカムアグリ株式会社 発行所 農業と科学 JCAM AGRI. CO., LTD.

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令和2年10月1日(毎月1日発行)第724号 編集兼発行人:大 山 邦 雄

2020

〒101-0041 東京都千代田区神田須田町2−6−6

ジェイカムアグリ株式会社発行所農業と科学

J C A M A G R I. C O., L T D.

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農  業  と  科  学 ( 1 )令和2年10月1日

 近年,稲作を取り巻く環境は大きく変化してお

り,水稲の収量・品質の不安定化,年次や圃場毎

のバラツキの拡大が生じています。変化の要素と

して,気候変動,生産体制の変化,稲作技術の変

化などがあげられます。気候変動については,地

球温暖化に伴う高温,台風,日照不足などの気象

災害により,水稲の収量・品質低下を招いていま

す。生産体制の変化については,作業の効率化や

省力化を目的とした生産体制(経営規模

の拡大,大区画圃場,基肥一発肥料,流

し込み肥料等)が増加する傾向にあり,

さらに農業従事者の高齢化・減少やベテ

ラン農家の離農など労働力の量的,質的

な低下などにより,安定的な生産性の維

持が懸念される状況が想定されます。一

方では,農業の効率化・省力化・精密化

の促進が期待されるロボット技術やICT

技術を用いたスマート農業の導入も始ま

ろうとしています。そこで,稲作を取り

巻く環境の変化に対応し,気候変動や生

産体制の変化にも適応できる,ICT技術を利用し

た次世代型の主食用米の多収技術構築のための開

発戦略を下記の①〜④の観点から示します。

① 水稲多収に必要な技術的要素を多収事例から

  紹介します。

② 稲作を取り巻く環境(気象,生産体制,稲,技

  術等)の現状と近未来予測から,生産性の向

  上に必要な戦略を解説します。

本 号 の 内 容

I C T技術を利用した次世代型の主食用米の多収技術構築 ………………………1

                          株式会社ファーム・フロンティア                          山形大学農学部 客員教授

                                   藤  井  弘  志

§

露地野菜の畝連続栽培における   セル苗全量基肥を用いた省力技術の試み …………………………………7

                          鹿児島県農業開発総合センター                          生産環境部 土壌環境研究室

                                   加 治 屋  五 月

§

株式会社ファーム・フロンティア山形大学農学部 客員教授

藤  井  弘  志

ICT技術を利用した次世代型の     主食用米の多収技術構築

図1.多収要因(技術,気象)

令和2年10月1日農  業  と  科  学( 2 )

③ 基肥一発肥料の現状と課題から,今後の改善

  戦略を解説します。

④ ICT技術を利用した次世代型の主食用米の多

  収技術構築のための戦略を紹介します。

1.水稲多収に必要な技術・気象的要因(図1)

 昭和24年から43年にかけて実施された「全国

多収穫コンクール」で多収を達成した生産者の技

術要素を簡単にまとめてみます。技術としては,

①総合的で,それぞれの水田の状況に対応した土

づくり(堆肥,ケイ酸,深耕,客土,透水性)の

実施による耕土培養,②適切な肥培管理技術(健

苗育成,多収品種,適切な水管理,多施肥(窒素

など)の実施があげられます。次に,多収を達成

した水稲の収量構成要素は,①m2当たり籾数の

確保で,m2当たり穂数が450〜500本で一穂籾数

が80〜120粒でm2当たり籾数を4万〜5万粒と多

くの籾数を着生している。②m2当たり籾数が多

い段階での登熟能(登熟歩合:80〜85%,千粒重

:21〜23g)の向上があげられます。当時の気象

要因は,現在ほどの高温ではなく,特に夜温も低

く呼吸消耗が少ないこと,日照時間も現在よりも

多い傾向であり,葉身による光合成量も多いこと

が考えられます。多収の実現には,収量容量が高

いこと,登熟性が高いことを同時に達成している

ことが重要であり,そのことを可能とする要因と

して窒素やケイ酸等地力の向上(養分の供給側)

と根量・根の活力の向上(養分の吸収側)を同時

に達成することが必要であると考えられます。

2.稲作を取り巻く環境(気象,生産体制,稲,

 技術等)の現状と近未来予測から生産性の向上

 に必要な戦略(図2)

 今後の稲作を予想すると,さらなる気

候変動の増加や生産体制の変化,現在の

稲作を取り巻く環境の悪化により,多収

の実現は難しい状況です。

気候変動への対応

 地球温暖化の影響もあり,日本でも,

近年気象災害が多発しています。猛暑,

酷暑,爆弾低気圧,ゲリラ豪雨などの気

象用語を頻繁に耳にするようになりまし

た。雨の降り方は,局地化,集中化,激

甚化しており,農業への被害も見過ごせ

ません。農業は,特に天候の影響を大きく受ける

産業であり,気候変動への対応を各方面から考え

ていく必要があります。

 温暖化は,単に気温が暖かい方向へシフトする

というわけではありません。平均的な気象の年が

減少し,より暑い天候が増加し,記録的な暑さを

出現させます。逆に寒い天候が発生することも否

定できません。また,暖かい天候の後に一転して

寒くなるというように,年単位だけでなく,月単

位,週単位,日単位での変動幅も拡大しています。

 さらに日照不足の問題があります。植物は光合

成によって二酸化炭素と水からデンプンを生産し

ますが,日照不足になると光合成量が減少します。

さらに,夜温が高いとイネの呼吸が活発になりデ

ンプンの消費量が多くなります。その結果,穂や

根に送り込むデンプンの量が少なくなり,登熟不

足や未熟粒発生の原因となります。図3には,新

潟市,福井市および佐賀市の8月の平均気温と積

算日照時間の推移を示しました。この図からも,

昔に比べてより高温,より日照不足になっている

ことが分かります。まさに,高温で日照不足とい

う気候は,ダブルパンチとなってイネの生育に影

響を与え,収量や品質の低下が懸念されます。

生産体制(農業従事者の減少,規模拡大,基肥一

発肥料等)への対応

 表1には,経営耕地面積規模別の農業経営体数

の推移を示しています。この表から,耕地面積規

模の大きな経営体が急増していることが分かりま

す。作業の効率化や省力化を目的とした生産体制

(経営規模の拡大,大区画圃場,基肥一発肥料,流

図2.稲作を取り巻く環境の現状と近未来予測

気象災害

生産体制

土づくりの強化

現状認識 近未来予測 対策は気温上昇台風日照不足

さらに増加常態化

収量・品質低下

さらに増加

収量・品質低下バラツキ拡大

基本技術の励行健苗育成

適切な肥培管理

規模拡大一発肥料などによる効率化省力化

農  業  と  科  学 ( 3 )令和2年10月1日

し込み肥料等)が増加

する傾向にあり,気候

変動や水稲の変化に対

応したきめ細かな対策

の実施が難しくなり,

水稲の収量・品質低下

やバラツキの拡大が起

こりやすくなっていま

す。近未来はさらに,

効率化や省力化を目的

とした生産体制が増加

することが予想され,

さらにきめ細かな対応

が難しくなります。水

稲の収量・品質低下や

バラツキの拡大がさら

に増加すると予想さ

れ,特に気候変動条件

下では,その影響は甚

大となります。このよ

うな懸念を払拭するに

は,対策の強化,特に

基本技術の励行(健苗

育成,適切な肥培管理)

および土づくりの実施

が必要です。さらに,

農業従事者の減少や高

齢化により労働力の量

的・質的な減少が進んでいますので,ス

マート農業の利用も含め,効率的な生産

体制が重要です。

3.稲作の変化

 図4に示したとおり,稲作に関して変

化している内容として,①栽培されてい

るイネ,②気象,③土づくり,④地力,

⑤稲作技術があります。

 まず栽培されているイネの変化につい

て説明します。「枯れ上がり」は,成熟

期に稲株の主幹で上から数えて何枚の葉

身が生きているかを調べる方法で,3枚

生きていれば枯れ上がりが少ないイネ,

1.5枚しか生きていなければ枯れ上がり

表1.都府県の経営耕地面積規模別農業経営体数の推移

5ha未満

5ha以上50ha未満

20ha以上50ha未満

50ha以上100ha未満

100ha以上

平成17(2005) 年

平成22(2010) 年

平成27(2015) 年

増減率(%)

経営耕地面積規模

1,899,393

51,634

3,119

459

159

1,564,727

59,838

6,492

1,165

313

−17.6

15.9

108.1

153.8

96.9

増減率(%)

−33.6

24.8

159.9

234.9

165.4

1,262,058

64,428

8,107

1,537

422

農林水産省HP(単位:経営体)

図3.8月の平均気温,積算日照時間の推移

新潟日照

新潟気温

福井日照

福井気温

佐賀日照

佐賀気温

平均

気温

(℃

)

積算

日照

時間

(h)

29.028.528.027.527.026.526.025.525.024.524.023.523.022.522.0

350

330

310

290

270

250

230

210

190

170

1501940−1949 1950−1959 1960−1969 1970−1979 1980−1989 1990−1999 2000−2009 2010−2019

図4.稲作に関与する要因の変化

稲作に関与する要因の変化

● 減葉、枯れ上がり、未熟粒、生育・収量のバラツキ拡大

イネの変化は   大きい

● 高温、日照不足、台風

気象災害は   多く複合的

● ケイ酸資材、稲わら腐熟

土づくりは   停滞

● 窒素、ケイ酸、強還元

地力は   低下

● 苗質低下、施肥窒素減少、深植え、水管理

稲作技術は   省略

令和2年10月1日農  業  と  科  学( 4 )

が大きく,後期凋落したことがわかります。

 「やせ米」とは厚みの薄い米のことです。(専門

的には,米の縦溝が深いと表現します。)米は,長

さ⇒幅⇒厚み の順に長さや大きさが決まります。

「やせ米」が増加する要因には,暑い夏と,良食味

指向による窒素施肥の減少や地力の低下などがあ

げられます。

 次に気候変動については,気象災害の発生頻度

が高くなっていることや,高温と台風などという

ように気象災害の要因が一つだけでなく複合的に

なってきていることがあげられます。気象災害の

多くなった時こそ,土づくりが必要なのですが,

停滞しているのが現状です。それに伴い,窒素や

ケイ酸地力も低下しています。また,稲作技術も

省略される傾向にあります。「苗半作」という言

葉がありますが,苗の質が稲作の半分を決めると

いうことを示す言葉です。しかし,現実には苗質

も低下し深植えになったりして気候変動に弱いイ

ネとなっています。

 さらに,現在の稲作の環境は,土づくりの停滞

や基本技術(苗づくり,適切な水管理)の省略な

どによって四重苦にさらされた状態にあります。

【一つ目の苦】は水田の透水性の低下です。農

業機械の大型化による踏圧の増大と浅耕により,

土壌の透水性を低下させています。

【二つ目の苦】は根活力の低下です。石灰など

のアルカリ成分を含むケイ酸資材の施用不足など

により土壌のpHが低下します。土壌のpHが低い

と,秋から春にかけて土壌微生物の活動が弱ま

り,生稲わらの分解が遅れることで湛水条件下に

おける強還元土壌が生成されます。強還元条件下

で生成される有機酸や硫化水素などの発生が助長

され,根にダメージを与え,根量を減らし根の活

力を低下させることになります。

【三つ目の苦】は地力窒素の低下・施肥窒素の

減少です。堆肥などの有機物の施用の減少によ

り,水田の地力窒素が低下しています。「お米の中

のタンパク質含有率が低いと美味しい」という良

食味指向により,施肥窒素量も減少しています。

窒素栄養不足からイネの後期凋落現象が,近年の

高温・日照不足・台風などの異常気象とあいまっ

て懸念される状況です。

【四つ目の苦】は葉身の光合成能の低下です。

ケイ酸資材施用量の減少などにより,水稲に対す

るケイ酸供給量が減少して葉身のケイ酸含有率も

低下し,結果的に光合成能力が低下していきます。

これらの四重苦の結果として,収量の不安定化と

品質・食味が低下する悪循環が起きています。

 これらの四重苦を繰り返していることで,水田

の地力は年々低下しています。この負のスパイラ

ルを遮断するには,①ケイ酸資材の施用,②土壌

透水性の向上や稲わらの腐熟促進など,土壌の強

還元化の抑制,③苗質向上・適正な水管理,④適

正な窒素施肥管理など,基本技術の励行が重要と

なります。

基肥一発肥料の現状と課題

 また,基肥一発肥料の現状も上記に示した気候

変動,生産体制,イネの生産環境の悪化により,

様々な課題があります。

 基肥一発肥料は非常に良い肥料なのですが,使

用については留意するべきポイントがあります。

本来この肥料を使いこなすには,健苗育成や圃場

の均平度を確保する技術などがなければいけませ

ん。苗作りが不十分なままに基肥一発肥料を使用

すると,速効性成分が少ないので初期生育の不良

がなかなか回復せず,結果として茎数・穂数(籾

数)がとれません。籾数が少ないと,生育後半に

基肥一発肥料から溶け出す窒素の受皿が不足し,

玄米中のタンパク質含有率が高くなって,食味不

良につながります。「追肥作業がいらない。」と効

率だけを重視して使用している人が少なくないの

で生育のバラツキが大きくなっています。基肥一

発肥料は基本技術とのセットで使うことが重要な

ポイントです。

 さらに,近年の気候変動が生産性を不安定化さ

せています。高温障害・日照不足などの被害を受

けることが多くなっているため,それぞれに応じ

たきめ細かい対応が求められます。

 今後も大規模経営,大区画圃場経営が増加する

傾向にあります。基肥一発肥料の利用はさらに増

加することが想定されます。稲作を取り巻くさま

ざまな変化(気候変動,地力低下,苗質の低下)

に対応した基肥一発肥料の戦略として,次のよう

なことが考えられます。

農  業  と  科  学 ( 5 )令和2年10月1日

4.次世代型の主食用米の多収技

 術構築のための戦略

Step1

基肥一発肥料体系と現状の稲作環

境との関連で検討する視点(図5)

 現状の稲作のマイナス要因であ

るスタートダッシュと持久力の対

策を実施することが重要です。特

に,基肥一発肥料の場合は,スタ

ートダッシュや持久力のマイナス

要因に対応した対策の実施により,

本来の基肥一発肥料の有用性が確

保されます。

Step2

基肥一発肥料体系でバラツキを少なくする視点

 基肥一発肥料による圃場内,圃場間の生育・収

量のバラツキの少ない方法の導入が必要です。イ

ネの視点から,イネの周辺にある肥料バラツキの

大きい施肥法はブロードキャスターとの意見が多

いため,バラツキを少なくする施肥法の検討も必

要となってきます。さらに,施肥時期が早い(移

植前30日頃)場合は,施肥したアンモニア態窒

素が硝酸態窒素に変わり,入水後に脱窒や流亡に

よりロスすることにより,移植時に想定した窒素

量をイネに与えることができないこともバラツキ

を拡大していると考えられます。そこで,基肥一

発肥料の方の問診による聞取りによって課題抽出

および対策の実施(施肥法,施肥時期の検討)を

行うことが重要です。

Step3

次世代型土づくり・基肥一発肥料体系

 規模拡大などの生産体制への対応としては,作

業の効率化,省力化,精密化のために,ICT技術

を活用したスマート農業の導入があげられます。

肥料ロスの抑制,疎植栽培,土づくり,圃場単位

の情報利用,効率化,水稲の安定多収を同時に達

成するための技術・システム・ICTツールの利用

をセットで①〜③の技術開発を実施しています。

① 土づくりとの連動の考え方:土壌分析・問診

  票等の情報に基づき,圃場毎のケイ酸資材,稲

  わら腐熟体系の実践,センシングによる画像

  データ等からの圃場間および圃場内の土づく

  り実施場所の選択と集中,情報システムによ

  るケイ酸資材および散布方法の選択システム

  の構築。

② 施肥連動の考え方:地力(地域変動) +乾土効

  果(年次変動)等の情報に基づいた側条施肥

  (速効性N:基肥相当)の窒素量の最適化,地

  力・品種に基づいた苗箱まかせ(緩効性N:追

  肥相当)の窒素量の最適化システムの構築。

③ センシングによる「肥料切れ」評価,圃場間

  の地力評価:ドローンセンシングによる画像

  診断,移植後の生育スピード,気象条件(気

  温,日照時間)等の情報による肥料切れ判定

  システムと施肥対応。圃場間および圃場内の

  バラツキ把握と可変施肥対応システムの構築。

 現在,次世代型の主食用米の多収技術について,

スマート農業と連動した土づくり,基肥一発施肥

システムの構築を目指し,基礎的研究と現地にお

ける実証試験を行っています。

≪試験事例≫

ICT利用による業務用米の基肥一発肥料を用いた

多収技術の構築

1.目的

 基肥一発肥料(全層施肥体系)における施肥窒

素量を変化させた場合の,収量および収量構成要

素から評価し,多収を目標とする場合の施肥量

の上限について検討しました。基肥窒素量を変化

させ,センシングによる画像データから,収量,

窒素吸収量の関係性を検討し,多収に必要な画像

データの情報を解析します。目標収量は720kg/

10aです。

図5.基肥一発肥料の現状と稲作環境の関連および解決方策

スタートダッシュに対するマイナス要因

苗質低下,土づくり停滞⇒地力低下,深植え,移植時の土壌還元の

進行,いつき現象

持久力に対するマイナス要因

地力低下,根量不足,高温,台風 (風),食味指向

《対策》

スタートダッシュ対策

⇒土づくり,稲わら腐熟,苗質向上

持久力対策

⇒追加の追肥対応(診断システム)

令和2年10月1日農  業  と  科  学( 6 )

2.試験方法(2019年)

① 試験場所:山形大学農学部農場(地力条件:低)

② 供試品種:「はえぬき」

③ 供試肥料:軽田くん一発708(窒素−リン酸−カ

  リ:27−10−8)(速効性N15%,緩効性NLP

  コート12%)

④ 施肥法:全層施肥体系:施肥(4月25日)⇒耕

  起⇒入水・代かき⇒移植(5月15日)

⑤ N施肥量(kg/10a):標準施肥量⇒1.0区を基

  準に30%増加させた区(1.3区)と20%減少させ

  た区(0.8区)を設定しました。標準施肥窒素

  量(10a当たり):全層施肥体系:「はえぬき」 ⇒

  8kg,ケイ酸施用:転炉スラグ100kg/10a施用

⑥ センシング;7月10日,20日に実施。「はえぬ

  き」の出穂期は8月3日で,7月10日は出穂前

  24日,20日は出穂前14日でした。

3.試験結果

① 基肥一発肥料の施肥窒素量が標準施肥量より

  増加するにつれて,m2当たり籾数が増加し,収

  量が増加しました。

② 施肥窒素量の増加によって,m2当たり籾数が

  目標値を3000〜5000粒上回りました。近年の

  高温障害の助長要因の一つであるm2当たり籾

  数の増加も考慮すると,標準の1.3倍の施肥窒

  素量と光合成を向上させるケイ酸の併用は必

  要な技術と言えます。

「要約」

 センシングによるNDVI値は葉色,m2当たり籾

数,窒素吸収量との関係性が認められました。セ

ンシングの利用により,圃場間の地力や肥料切れ

の評価が可能であると考えられます。

図6.NDVI値と稲体窒素吸収量との関係

窒素

吸収

量 (kg/1

0a)

NDVI値 (7月20日)

16

14

12

10

8

6

4

2

00.5 0.55 0.6 0.65 0.7

図7.NDVI値と葉色との関係

葉色

(7月

20日

)

NDVI値 (7月20日)

45

43

41

39

37

350.5 0.55 0.6 0.65 0.7

表2.処理別の収量,NDVI値,窒素吸収量

試験区転炉スラグ NDVI値 葉色 N吸収量 収量 整粒歩合 玄米タンパク質含有率

kg/10a 7月11日 7月20日 7月20日 kg/10a kg/10a %%

1.3区

1.0区

0.8区

1.3区

1.0区

0.8区

0

0

0

100

100

100

0.6

0.575

0.52

0.6

0.585

0.521

0.65

0.615

0.54

0.655

0.615

0.551

43.2

42.1

40.5

44.1

40.8

39.3

13.1

10.8

9.3

14.2

11.1

9.5

661

604

515

701

634

561

82

80

78

85

85

78

7.6

6.6

6.2

7.5

6.8

6.3

農  業  と  科  学 ( 7 )令和2年10月1日

1.はじめに

 鹿児島県では温暖な

気候や畑かん施設を利

用した加工・業務用露

地野菜の生産が盛んで

あり,平成30年度の

キャベツの作付面積は

1,990ha,全国5位で

ある。全国のキャベツ

の作付面積が減少する

中,本県のキャベツ作

付面積は増加している

が,その理由として露

地野菜の農業生産法人

の増加が考えられてお

り(図1) ,大規模露地野菜生産の省力化・低コ

スト化のための肥培管理技術の確立が喫緊の課題

となっている。

 一方,本県の露地野菜産地では可給態リン酸や

交換性カリ含量の高い圃場が昨今増加する傾向に

ある。そこで,省力かつ低コストの露地野菜生産

を目的として,土壌診断を実施し可給態リン酸含

量及び交換性カリ含量に応じた減肥基準に基づく

施肥を推進している。また,平成27年度からは農

業法人の現地圃場において,リン酸やカリの減肥

技術に併せて,可給態窒素診断に基づく適正施肥

についても取り組んでいる(写真1) 。

 他方,イチゴやキュウリ等の施設野菜では,収

穫後の畝を壊さず,次作でもそのまま利用する

“不耕起栽培”や“畝連続栽培”と呼ばれる省力

的な栽培法が開発されており,露地野菜でも“だ

いこん−さつまいも栽培体系”などで検討されて

いる。

 本報では,本県の温暖な気候を活かし秋から春

に露地野菜を2作連続栽培する事例のうち,マル

チ栽培によってレタスを秋に収穫した後,同じ畝

鹿児島県農業開発総合センター生産環境部 土壌環境研究室

加 治 屋  五 月

露地野菜の畝連続栽培における  セル苗全量基肥を用いた省力技術の試み

図1.鹿児島県のキャベツ作付面積 (ha)及び野菜の農業法人数 (戸)

0

50

100

150

200

250

300

350

0

500

1000

1500

2000

2005 2010 2015 2019

野菜

の農

業法

人数

(戸

)

キャ

ベツ

作付

面積

(ha)

キャベツ作付け面積 野菜の農業法人数

キャベツ面積は農林水産統計 (令和元年) ,農業法人数は鹿児島県農政部経営技術課(令和2年)調べ

写真1.農業法人のキャベツ栽培圃場における適正施肥実証風景

左半分:慣行施肥区,右半分:減肥区で生育・収量に有意差無し

令和2年10月1日農  業  と  科  学( 8 )

でセル内に全量窒素を施肥(以降,セル苗全量基

肥と記述)して育苗したキャベツを栽培する省力

技術について検討したので紹介する。

2.栽培方法の概要

 試験は平成27〜28年にセンター内の表層腐植質

黒ボク土圃場で行った。試験を行ったレタス作付

前の土壌の化学性は,可給態窒素量が2mg/100g

乾土,可給態リン酸含量が7mg/100g乾土,塩基

飽和度が28%であり,本県の平均的な露地野菜栽

培土壌に比べて地力はやや低いと考えられた。

 10月中旬に黒ビニルでマルチした畝にレタス

(品種:ゴジラ)を畝幅1.2m,株間0.3m,条間

0.3mで2条定植し12月下旬に収穫した。レタス

収穫後に植穴と植穴の間に穴を開けてセル苗全

量基肥したキャベツ苗(YR若隅3号)を同日に

定植し,翌年5月中旬に収穫した

(図2) 。

 前作のレタスでは,牛ふん堆肥

2t/10aを施用後,基肥で窒素,リ

ン酸,カリをそれぞれ20kg/10a

ずつ施肥した。後作のキャベツで

は,レタス収穫後に残渣とマルチ

を除去し,その後耕うん,施肥す

る慣行区と,収穫後のマルチ畝を

そのまま利用し,セル苗全量基肥

のキャベツ苗を定植する畝連続区

を設けた。慣行区のキャベツは,

窒素,リン酸,カリを各15kg/10a

施肥し,畝間0.6m,株間0.4mと

し,通常の育苗方法で育苗したセ

ル苗を定植した。なお,栽植密度は慣行区5,714株

/10a,畝連続試験区5,555株/10aである。

3.セル内に窒素施肥しキャベツを育苗

 平成28年度(1年目)の試験では,窒素が配合

されていない育苗専用培土に被覆肥料LPS100を

使ってセル苗全量基肥のキャベツ苗を準備した。

慣行区と同量の窒素量をセル内に施用するには,

育苗トレイ1セル内に約5gの肥料を入れる必要

がある。通常の128穴トレイではセル当たりの培

土量が不足すると予想されたため,72穴のセルト

レイで育苗した。また,肥効調節型肥料(LPS100)

を使うことで窒素利用率の向上が期待できるので

セル苗全量基肥の窒素施肥量は2割減肥とした。

リン酸及びカリについては前作のレタス前に施用

した牛ふん堆肥(2t/10a)由来の成分量がそれぞ

れ23kg/10a,21kg/10aと試算できるので無施

肥とした。

 平成29年度(2年目)の試験では,LPS100に

比べて初期の窒素溶出が穏やかで,水分を保持す

る特徴があるセル苗専用肥料(24−1−0)を供試

し,128穴トレイで育苗した。セル内への窒素施

肥量は2〜4割減肥とし,11月28日に播種し12月

26日に定植した。定植時には十分な堅さの根鉢が

形成され,形状も保たれていた。しかし,根鉢形

成にはやや長い育苗期間を要したため苗が大き

くなり,移植機での定植にはやや不向きであった

(写真2) 。このことから,根鉢が完全に形成され

図2.レタス−キャベツ畝連続栽培の定植位置

写真2.慣行セル苗とセル苗全量基肥した苗

農  業  と  科  学令和2年10月1日 ( 9 )

るまで生育させなくても機械移植が可能なペー

パーポットを使った育苗についての検討が必要で

ある。

4.セル苗全量基肥のキャベツ苗質と本圃におけ

 る収量

 平成28年度(1年目)はLPS100を利用し72

穴トレイで育苗した場合,根鉢が十分に形成さ

れず,移植時に根鉢がくずれ,定植に多くの労力

を必要とした。しかし,セル苗全量基肥の畝連続

区のキャベツの収量は慣行区と同程度であった

(図3) 。

 平成29年(2年目)は,窒素の減肥率にかかわ

らず畝連続区のキャベツの1個重

は慣行区よりも重く,結球収量は

2割減肥区で141%,3割減肥区

及び4割減肥区で127〜129%で

あった。なお,減肥区における1

個重は施肥窒素を減肥するほど軽

くなる傾向であった(図4) 。

 このように,レタスとキャベツ

の2作連続栽培体系では,畝を更

新せずにセル苗全量基肥で育苗し

たキャベツ苗を定植することで,

慣行栽培と同等以上のキャベツ収

量を確保できた。これは,畝連続

栽培ではセル苗全量基肥によっ

て,施肥窒素を効率よく利用でき

ることや,低温期に当たるキャベ

ツの生育初期に黒マルチによって地温が高く推移

したため,地力窒素の供給量が多くなり生育が進

んだことから増収したと推察された。これらの結

果より,畝連続栽培において窒素を2〜4割減肥

しても,慣行栽培と同等以上の収量が得られると

考えられる。

5.養分収支

 表1に平成29年度の慣行区と畝連続区における

養分収支を示した。慣行区において,化学肥料の

みの施肥では窒素とカリはマイナス収支,リン酸

はプラス収支であった。堆肥+化学肥料の養分収

支は,窒素とリン酸はプラス収支,カリは化学肥

料のみと同様にマイナス収支であった。

 一方,畝連続区の2作分の養分収支は,化学肥

料のみの施肥では,窒素4〜8kg/10aのマイナス収

支であった。リン酸およびカリは施肥せず栽培し

たため,リン酸およびカリもマイナス収支となっ

た。これに対して,堆肥+化学肥料の養分収支は,

窒素が9〜11kg/10a,リン酸は32〜33kg/10aと

プラス収支であったが,カリは18〜20kg/10aの

マイナス収支となった。

 これらのことから,レタス作付後にセル苗全量

基肥でキャベツを畝連続栽培する体系では,栽培

圃場のカリ肥沃度を高めるとともに,牛ふん堆肥

の継続的な施用が必要と考えられた。

6.さいごに

 以上の結果から,大規模露地野菜生産の省力

化・低コスト化を実現する技術の一つとして,セ

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

0

2

4

6

8

10

12

慣行 畝連続2割減肥

1個

重 (kg)

結球

収量

(t/

10a)

図3.キャベツ結球収量と1個重(平成28年5月収穫)

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

0

2

4

6

8

10

12

14

慣行 2割減肥 3割減肥 4割減肥

畝連続

1個

重 (kg)

結球

収量

(t/

10a)

図4.キャベツ結球収量と1個重(平成29年5月収穫)

農  業  と  科  学 (毎月1日発行)令和2年10月1日第724号(10)

ル苗全量基肥による畝連続栽培と,リン酸,カリ

の2作1回施肥を組み合わせることで,慣行より

窒素施肥量を減らしても,慣行栽培以上の収量が

得られることが示された。しかし,育苗において

機械移植を想定した根鉢が十分に形成されるまで

育苗期間を確保した場合,茎葉が生長し過ぎ機械

移植に支障がでることが課題として残された。農

業法人などがセル苗全量基肥技術を利用するに

は,機械移植に適した大きさの苗を作ることが重

要であり,今以上に栽培や機械部門とうまく連携

し更なる生産性向上を図る必要がある。

 また,今回検討したセル苗全量基肥体系では肥

効調節型肥料を使用しているため,地温の低い時

期は窒素の溶出が不安定になりやすい。今回は黒

マルチ栽培によって地温が確保されたので施肥窒

素量を減らすことができたが,育苗や定植時期が

本稿の条件と大きく異なる場合には,肥効調節型

肥料の窒素溶出が不安定となり生育に影響する恐

れがあるので,窒素の減肥率を変えるなどの検討

が必要である。

1)レタスの養分投入量 (A) は牛ふん堆肥+化学肥料から,( ) 内は化学肥料のみの養分吸収量。2)キャベツの養分投入量 (A') は化学肥料からのみ。3)収支 (C") は投入量 (A") − (B") とし,( ) 内は化学肥料の投入量とその収支を示す。

表1.堆肥を含めた養分投入量及び化学肥料の投入量に対する養分収支(kg/10a)

区  名 収支3)

(C)

レタス (H28 11月収穫) キャベツ (H29 5月収穫) 2作合計

投入量1)

(A)吸収量

(B)収支(C')

投入量(A')

吸収量(B')

収支(C")

投入量(A")

吸収量(B")

   慣  行

    窒素2割減肥

畝連続 窒素3割減肥

    窒素4割減肥

   慣  行

    窒素2割減肥

畝連続 窒素3割減肥

    窒素4割減肥

   慣  行

    窒素2割減肥

畝連続 窒素3割減肥

    窒素4割減肥

窒素

リン酸

カリ

(15)

(15)

(15)

30

43

36

(11)

(14)

(5)

26

42

26

4

1

10

(15)

(12)

(11)

(9)

(15)

(15)

15

12

11

9

15

0

0

0

15

0

0

0

(−13)

(−16)

(−16)

(−17)

(8)

(−9)

(−10)

(−9)

(-20)

(−44)

(−44)

(−46)

−13

−16

−15

−17

8

−9

−10

−9

−20

−44

−44

−46

28

28

26

26

7

9

10

9

35

44

44

46

(30)

(27)

(26)

(24)

(30)

(15)

(15)

(15)

(30)

(15)

(15)

(15)

45

42

41

39

58

43

43

43

51

36

36

36

(−2)

(−5)

(−4)

(−8)

(22)

(5)

(4)

(5)

(−15)

(−39)

(−39)

(−41)

13

10

11

9

50

33

32

33

6

−18

−18

−20

32

32

30

30

8

10

11

10

45

54

54

56