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In e e

根 岸 英 一「過去」に執着しすぎずに、挑戦すべき新しいテーマを

自らキャッチする能力を身につけてほしいいま、世界の学問は激変しています。研究現場も同様で、変化のスピードは昔とは比較にならず、ここ10年、20年単位でもさまざまな変動が見られます。たとえば、いまこの時点で見ると、中国のサイエンティストがノーベル賞をとる可能性は、ゼロではありませんが、限りなくゼロに近い。しかしそれは20年、30年前にどこでどういう教育を受けたかという結果だからで、その状況は速やかに変わりつつあります。10年以上前から、中国は欧米、特にアメリカに優秀

な人材をどんどん送ってきました。私の研究室には、各国から100人近い博士研究員(ポスドク)が来ましたが、いま、中国の優秀な人がいなければ研究ができない状態になりました。歴代最高と認めている人も中国の人です。なぜ最高なのかというと、そういう人は、自分自身が

「これはいい」というテーマ、プロジェクトを自分で見つけて私にぶつけてくるからです。いくら頭が良くて実験が上手でも、先生のテーマをもらってやっているだけでは、評価されません。そのような研究でいったい誰がクレジットを取るのかといえば、当然、そのテーマを与えた先生になってしまうからです。最初に、これをこういうふうにやって、こういうふうにチェックしたらいいのではないか、という根本の発想が重要で、それがクリティカルな独り立ちの条件です。もちろん、そういうことができる人というのは、100人の中でも滅多にいません。ただ残念なことに、私のところに来たポスドクの中でも、日本人の研究者はそこ、つまり自分自身の着想を飛躍させようとする力が弱いように思います。研究者でも、日本の人は上司の意向とかハーモニーに重点を置きすぎていると感じます。だから、このままで行くと、これから日本がノーベル賞をとる可能性には大きな「?」がついてしまいます。学者、研究者というのは真理、しかも非常に重要だと

思われる真理を追求し、発見し、そののちにそれがどう実用的な価値をもち、応用できるのかを考えるために生きています。その視点から見ると、中国にも弊害はあります。中国は国土が広く人口も多いので、政府の役人が、研究者の誰がどのランクにいるのか、ロジスティックスを見極めることが大変難しい。そのために、評価の方程式を作ってしまいました。ある仕事をしてペーパーを出すと、その仕事の価値を、発表した雑誌のランクやバリューによる係数でかけて、それを足し合わせて研究者を数字で評価する。これが中国方式です。客観的で公平だという意見もありますが、私は大変危険だと思っています。若い研究者が、研究を目的にするのではなく、その点数を取ることを目標にしてしまう。国内で准教授にキャンディデイトすると、その数字で判断されます。面接すらない場合もあるようです。その傾向がますます強くなり、中国の科学界に悪い影響を及ぼさない事を祈りたいと思います。一方、日本人の研究者は、自分がやってきた実績にあまりにも愛着を感じてしまって、これからどうするのか、もっと高みを目指そうとするときに、さて何をやればいいかに戸惑ってしまう傾向が強い。勉強もよくできるしプライドもあるし実学もよくできるのに、オリジナリティやクリエイティビティが弱いと言われてしまう。じつは、そこから、挑戦すべき新しいものを自らキャッチする能力を身につけることが大事なのです。それをどう乗り越えればいいのか。私は、自分のやってきたことにあまりハイバリューをつけすぎてはいけない、と思っています。過去にやってきたことに執着しすぎず、行き詰まったら一旦棚に上げて、どんどん脱皮していかなくてはいけない。自分の中のコンテクストから脱皮して、突破していかなければいけない。脱皮し、突破し続けていく力が、いま求められているのです。

E h Neg h2010年ノーベル化学賞受賞ダイキン工業 フェロー

1935年、中国・吉林省長春市に生まれる。神奈川県立湘南高校卒業。1958年、東京大学工学部応用化学科卒業、現・帝人入社。1960年、フルブライト奨学生としてペンシルベニア大学博士課程に留学。1999年からパデュー大学ハーバート・C・ブラウン化学研究室特別教授。ペンシルベニア大学、東京大学名誉博士。在米50年、家族は妻と2女、4孫。

2 Challenge 2017 Vol. 02 3

1日のほとんどの時間を室内で過ごす人間にとって、室内環境を整えることは健康維持や知的生産性を向上させる上で重要なテーマといえる。しかし、適切な空間は個人の心身状態や執務内容などによって異なるため、従来の画一的な環境制御では、健康維持や知的生産性向上にふさわしい空間を作り出すことは困難である。そこで、ダイキンの持つ「空気を最適にコントロールする技術」や「空気・空間が人に与える影響に関する知見」と、NEC(日本電気株式会社)のAI・IoT(Internet of Things)技術を融合させることで、こうした課題をクリアし、ニーズに合った空気・空間を実現できたら――。2016年10月、このような目標を掲げ、両社の協創プロジェクトはスタートした。

温度変化や芳香など、五感への刺激が  作業能率に大きな影響を与える

共同研究はTICのオフィスや会議室を活用し、在室者の「心身状態(例:覚醒度)の推定」と「心身状態を適正化する環境制御スケジュールの生成」を行うことで、人々の知的生産性向上に貢献できる次世代型の知的環境制御システムの実現を目指す。(P3上図)右図はこれまでに行った実験の一部で、室内に生体センサやカメラ及び環境センサなどを配置し、定期的にデータを収集。これらのデータを基に在室者の覚醒度と室内環境との関係を解析していった。被験者は30代男性とし、次のような3つの環境条件の中で暗算問題(加算暗算50問を1セットとする)を解き、これを約5分の休憩を挟んで計7回繰り返した。●環境条件1:室温設定27℃一定、芳香なし

T IC協創イノベーション

変化する社会インフラのニーズに応えるべく、ダイキンが所有する空調技術とNTT西日本が所有するLPWA技術(少ない消費電力により、km単位の距離で通信できる無線通信技術の総称)を活かし、IoTを利用した「空気に関係する新たな価値づくり」の協創が昨秋より始まった。トライアルの概要は、TICが拠点とする西日本エリアに設置されている空調機をNTT西日本のLPWAに接続して個々の空調機の稼働状態や屋内外の空調情報を常時監視しようというもの。こうしたシステムが普及すると、契約先の空調機と遠隔監視センターを安価に常時接続することが可能になるため、空調機の保守サービスの高度化が可能になる。さらに、空調機がセンシングした屋内外の空気の温度や湿度、風の強さ、清浄度など、さまざまな情報をフレキシブルに活用した新たなサービスの創出につながると大いに期待されている。

新分野にChallenge

快適性、知的生産性に関する協創NEC×T I C 人工知能で生産性の高い空間を

TIC(テクノロジー・イノベーションセンター)は2015年の開所以来、ダイキンの技術開発のコア拠点としてさまざまな社外協創に取り組んでいる。なかでも今回紹介する協創は、将来を見据え、最先端のAI(人工知能)に着目した大きなチャレンジだ。

LPWAの活用により、空調機器と遠隔監視センターを常時接続することで、故障機器の特定や故障内容の診断、突発事故時の対応に要する時間が短縮される。

空調ネットワークに関する協創NTT西日本×T I C LPWAによる空気の新サービス

0 10 20 [min]1 2 3 4 5 6 7

30 40 50 60

暗算 暗算 暗算 暗算 暗算 暗算 暗算休憩 休憩 休憩 休憩 休憩 休憩

27℃設定27℃設定

覚醒刺激あり

2.温度刺激あり

3.芳香刺激あり

set

27℃設定

20℃設定

1.温度一定(環境条件)

1.0

2.0

3.0

4.0

5.01 2 3 4 5 6 7 set

温度一定 温度刺激あり(目が冴えている)

(眠い)

眠気評定結果

環境制御と覚醒度の関係の実験例

実験プロトコル

眠気評定結果の時間推移(温度一定/温度刺激あり)

眠気評定結果の時間推移(芳香刺激あり)

1.0

2.0

3.0

4.0

5.01 2 3 4 5 6 7 set

芳香刺激あり

※芳香:ローズマリー・レモンなどを含むアロマ

(目が冴えている)

(眠い)

眠気評定結果

このような実験から、「被験者に五感を刺激する環境制御(温度刺激、芳香刺激)を与えると、覚醒度を変化させることができ、覚醒度の変化によって作業効率が向上する」という結果が導き出された。今後は、模擬タスクを実タスクに置き換えた現場実証、AI・IoTを用いた自動制御の完成度向上などをテーマに、

企業経営者や建築分野、脳科学分野の研究者の意見を聞きながら研究を進めていく予定。こうした研究は世界でも新しいジャンルで、「ニーズに合わせ、さまざまな分野で活用できる空気・空間の新しい指標と制御を完成させたい」と西野淳はじめ、プロジェクト担当者たちは意欲的に実験を継続中だ。

●環境条件2:27℃→20℃→27℃、芳香なし[設定温度を第2セット開始時と第5セット開始時に変更]

●環境条件3:27℃一定、芳香なし→あり→なし[アロマを第2セット開始時から第5セット開始前の30分間噴霧]

トライアルのシステム構成

ダイキン工業 NTT西日本

NTT西日本/ダイキン工業

室内機 室外機

LPWA

LPWA基地局

クラウド データ分析

空調通信

NECとの協創で目指す世界初のシステム

集中している疲れている眠い…など

人・環境情報の収集

AIエンジンによる人・空間の分析

顔画像

音声

脈波

温湿度・環境情報

生体情報

人の様々な状況に合わせた制御

知的生産性を高める室内環境制御システムを構築 空気・空間の新しい価値を提供

①人の状態推定

両社が得意なセンシング手段を活用し、人の知的生産性の推定への挑戦

② 個々の人に合わせた空間制御

ダイキンの空調・アロマ・照明等の制御技術、NECのA I予測・制御技術を活用し、高い知的生産性を維持する空間実現に挑戦

Challenge 2017 Vol. 02Challenge 2017 Vol. 02 7

その他論文の表題 学会誌/講演会名 発表日ヒートポンプを用いた英国でのデマンドレスポンスについて 日本冷凍空調学会 2017 年度年次大会 2017年 9月知的生産性を高める空間を実現する、AI・IoT活用型知的環境制御システムの研究開発(第1報)多様な室内環境制御を統一評価する指標の検討

平成 29年度空気調和・衛生工学会大会(高知) 2017年 9月

短期間実測データを用いた簡易的熱負荷推定法に関する研究 平成 29年度空気調和・衛生工学会大会 2017年 9月ベイズ推定を用いた確からしさの法検討及び予測手実化に関する研究 平成 29年度空気調和・衛生工学会大会 2017年 9月Effects of ambient PM2.5 collected from Asian cities using cyclone technique on human airway epithelial cells

第 58 回大気環境学会年回 2017年 9月

空調用ファンモータ・ドライバの開発 平成 29年電気学会産業応用部門大会 2017年 8月知的生産性を高める空間を実現する、AI・IoT活用型知的環境制御システムの研究開発(その1)覚醒度を推定して、室内環境制御を行うコンセプトと基礎評価結果

2017 年度日本建築学会大会(中国)学術講演会 2017年 8月

モータ鉄損測定の新手法の提案 電気学会 回転機 /リニアドライブ /家電・民生合同研究会 2017年 8月「未来の食糧生産を支えるスマートアグリ -植物工場の社会実装を考える-」植物工場空調の現状と課題

未来の食糧生産を支えるスマートアグリ -植物工場の社会実装を考える-

2017年 7月

無拘束センシング技術による生体情報抽出と睡眠状態の判定 技術情報協会「生体情報センシグ技術とヘルスケア、健康管理への最新応用」

2017年 6月

poly(tetrafuluoroethylene-co-vinyl pyrrolidone) コート表面の高い汚防特性 第 55回日本接着学会年次大会 2017年 6月樹脂ペレットの流動性に及ぼすペレット形状の影響 第 22回計算工学講演会 2017年 5月フッ化ビニリデン /テトラフルオロエチレン共重合体(P(VDF/TFE))の核生成速度の過冷却依存性

第 66回高分子年次大会 2017年 5月

インバータ励磁時のモータ用電磁鋼板の鉄損評価技術 2017 年自動車技術会春季大会学術講演会 2017年 5月モータ用磁石材料の評価技術(3次元減磁評価技術) 2017 年自動車技術会春季大会学術講演会 2017年 5月磁気軸受けを用いた高効率モータ損失分析評価技術 2017 年自動車技術会春季大会学術講演会 2017年 5月有機薄膜太陽電池用新規アクセプター材料の開発 第 121回黒鉛化学研究会 2017年 5月マイクロ水力発電システム開発のための流体解析技術 -ポンプ逆転水車の解析事例-

(公財)計算科学振興財団 FOCUS シミュレーション事例集

2017年 3月

IoT時代における10テラバイト光ディスクを目指した超多層ビット記録材料の開発

日本化学会 第 97春季年会 招待講演 2017年 3月

正弦波励磁によるモータコア磁気特性の三次元磁気ヒステリシス解析 平成 29年電気学会全国大会 2017年 3月エアコン用インバータの電流検出回路における信号ノイズ・熱解析 平成 29年電気学会全国大会 2017年 3月

国際会議論文の表題 学会誌/講演会名 発表日3-D Magnetic Field Analysis Taking Account of Anisotropic Magnetic Hysteresis Property of Electrical Steel Sheet

The 11th International Symposium on Linear Drives for Industry Applications

2017 年 9月

The New Variable Refrigerant Flow System Models in EnergyPlus: Development, Implementation, and Validation

Building Simulation 2017 2017 年 8月

Evaluation of Performance for Heat Pump System using Low GWP Refrigerants in High Ambient Temperature

12th IEA Heat Pump Conference 2017 年 5月

Evaluation and Development of Air-conditioners using Low GWP Refrigerant

12th IEA Heat Pump Conference 2017 年 5月

Where is the air-conditioner industry going ? 2017 年 IWCC Joint Meeting 2017 年 5月3-D Magnetic Field Analysis Taking Account of Magnetic Hysteresis of Electrical Motor Core under Inverter Excitation

IEEE International Magnetics Conference INTERMAG Europe 2017

2017 年 4月

APPLICATION OF DYNAMIC EXPLICIT FEM TO QUASI-STATIC DEFORMATION ANALYSIS OF LARGE-SCALE NONLINEAR MODEL

The 12th World Congress on Computational Mechanics (WCCM XII), The 6th Asia-Pacific Congress on Computational Mechanics (APCOM VI)

2016 年 7月

LONG-TERM BEHAVIOR SIMULATION OF FLUOROPOLYMER GASKET FOR AUTOMOTIVE LITHIUM-ION BATTERY

The 12th World Congress on Computational Mechanics (WCCM XII), The 6th Asia-Pacific Congress on Computational Mechanics (APCOM VI)

2016 年 7月

学術論文論文の表題 学会誌/講演会名 発表日建物仕様及び短期間実測データを用いた熱負荷推定法の精度検証に関する研究 空気調和・衛生工学会論文集 2017年 4月多段階多光子吸収を用いたナノ秒単発レーザーパルスによるホログラフィックポリマー媒体への記録ピットの形成

電子情報通信学会、磁気記録・情報ストレージ研究会 2017年 3月

社内の部門を超え、会社の枠を超え、相互に作用し合うことによってイノベーションを巻き起こそうと挑戦する。TICで2016年7月から2017年9月までに発表された研究の一部を紹介してみよう。これからも新たな技術開発テーマの“協創”を目指すために。

最近のおもな社外発表

フッ素の非粘着性を高めて医療分野にも活用

DNA検査にも使われる「マイクロ流路チップ」は医療現場だけでなく、食品管理などでも活用されている。このマイクロ流路チップの表面に、防汚機能を有するフッ素材料がコーティングされている。血液など生体成分との接触部分が詰まってしまうという課題を解消するために、フッ素の非粘着性に着眼した試みである。新たなコーティング材料として一部の分子の構造を変え、poly(tetrafuluoro ethylene-co-vinyl

pyrrolidone)(p4FVP、図1)を合成した。

血液適合性や抗菌性をもつ 高い防汚機能を備えた新素材

p4FVPの防汚特性を証明するため、タンパク質吸着試験、血小板粘着試験、大腸菌接着試験を実施。大腸菌の培養液に、PET基板とp4FVP66(VP66mol%)を12時間漬ける。すると、前者の大腸菌表面被覆率が12%なのに対し、後者は2%以下。

モーター鉄損新測定法がインバータを変える

インバータ励磁に起因するモーターの鉄損をいかに減らせるかが、モーターの性能を上げる鍵である。「高効率モーター用磁性材料技術研究組合」(理事長:大山和伸)に出向する中川倫博(テクノロジー・イノベーションセンター副長)らは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の

委託事業未来開拓研究プログラム「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発」を進める中で、鉄損を測定する新しい方法を開発した。これまで、鉄損そのものを測る技術はなかったが(図1)、中川らはモーターの中に検出センサを入れて磁界を測り、ヒステリシス曲線(図2)を測定することで鉄損を可視化。

これにより、インバータ励磁による鉄損増加量(キャリア損)に相当するマイナーループを可視化できるようになった。

キャリア損を可視化し   モーター業界の課題に挑む

キャリア損(インバータによる鉄損)は、鉄損の10数%を占める。従来、鉄損を低減するためには、材料を替える方法が主だった。しかし鉄損、キャリア損が可視化されたことで、ヒステリシス曲線の挙動を確認しながらインバータの波形、スイッチングなど様々な改善トライヤルを試みることができ、評価もできる。結果、効率の良いモーター作りに繋がり、それはダイキン工業のコア技術であるインバータの改良にも繋がる。

左:分子構造中に親水性ユニットvinyl pyrrolidonp(VP)を含むのがp4FVP。右:大腸菌接着テスト。p4FVPでコーティングされたBは、ほとんど菌が付着しない。

T CI最新 究研

T E NE E T E E C

鉄損 = モーター入力-モーター出力-銅損-機械損

ステータロータ

ボールベアリング

銅損

鉄損 機械損

モーター出力(トルク、回転数)モーター入力

(電圧、電流)

赤文字:測定可青文字:測定不可

図1 鉄損算出方法の概念図

図2 ヒステリシス曲線

図2 Adherent Bacterial images on PET substrate (A) and p4FVP34 coatings (B). Coverage area of bacterial adhesion on the PET and p4FVP66. ***p < 0.001 vs. PET. Incubation = 37 ℃, 12h. Image magnifi cation = 2000. Bar = 20μm.

14

12

10

8

6

4

2

0PET p4FVP66

Coverage, %

16A

B

C

poly (tetrafuluoro ethylene-co-vinyl pyrrolidone) (p4FVP)

図1 Chemical structure of p4FVP

CF2 CF2 CH2 CHN O

バクテリアの接着抑制効果が顕著に高まったのだ。これまで以上に高い防汚特性をもつp4FVPを塗布することで、今後、生体適合性が問われるさまざまな物品への応用が期待できるだろう。これは奈良先端科学技術大学院大学の安藤先生らとの共同研究の成果である。

poly (tetrafuluoro ethylene-co-vinyl pyrrolidone) (p4FVP)

CF2 CF2 CH2 CHN O

1.5

0

-1.5-2,000 0 2,000

Minor loop

Minor loopH[A/m]

B[T]

(第55回日本接着学会年次大会予稿集より引用)

中川ら:「モータ鉄損測定の新手法の提案」,電気学会研究会資料(回転機・リニアドライブ・家電・民生)合同研究会,RM-17-08,LD-17-80,HCA-17-47,pp47-52(2017)

人類の知の手段ねむる特集

Challenge 2017 Vol. 02

勤勉な者も怠惰な者も人生の半分は大差なしといえよう。なぜなら人生の半分は眠っているからだ。Aristotelesアリストテレス

「ねむる」という人間の本能からどんどん乖離していく現代人……。

睡眠への科学的アプローチの進化が期待される。

古代において睡眠は限りなく「死」に近い存在だった。

19世紀のイギリス人画家、エドワード・バーン=ジョーンズが描いた耽美な「ねむり」の世界には、それを彷彿とさせるものがある。睡眠研究の歴史はまだ浅く、本格的に進むのは20世紀からだが、

今や「いかに快適にねむるか」は健康維持に欠かせないテーマとなった。

人類の知の手段

ねむる特集

Dublin City Gallery The Hugh Lane

人間はなぜ「ねむる」のか̶̶。この問いに対する答は明解で、ねむることは「本能」であり、体の機能の修復に欠かせないものだからである。人間が生きるために大切なねむり……。しかし、古代において睡眠は「生」よりもむしろ「死」に近く、「仮死状態」とみなすのが一般的だった。ギリシア神話に登場する眠りの神ヒュプノスが、「夢」を意味するオネイロスのほか、タナトスやモロスなどの「死」を意味する神々と兄弟とさ

れていたこともこれに通じる。睡眠時には霊魂が肉体から離脱して、現世や天上を彷

さまよ

徨う。そのときの経験が夢であり、抜け出した霊魂がそのまま戻らない場合は、死が待ち受けているという解釈だ。

ねむりは万人共通の休息だがその環境はさまざまだった

これに対して古代ギリシアの哲学者アリストテレスは、睡眠を「動物のみに見られる疲労回復のための周期的現象」と、すでに生理学的解釈を展開していた。アリストテレスが残した言葉にもあるように、睡眠は万人に与えられた時間。だが、どのような場所でどんな寝具を用いたかというねむりの「環

ソクラテスやプラトンと並ぶ西洋最大の哲学者。紀元前4世紀にギリシアで活躍し、イスラム哲学、中世スコラ学、近代哲学や論理学にも多大な影響を与えた。

境」には、時代や国、身分の違いによってもかなりの差があり、詳しいことは分かっていない。たとえばベッドの発祥は古代エジプトとされるが、その後の伝播のルートは定かではない。日本でも古代は丸太のベッドのようなものが使われていた形跡があるが、西洋とは敷物なども異なり、奈良時代に畳文化が誕生すると、平安時代には何枚もの畳を重ねて寝台とした。ただし、それは公家や貴族に限られ、農民たちはワラにもぐってねむるのが常だったという。その後も、身分の低い者たちのねむりの環境は改善されず、庶民の暮らしに綿布団が普及したのは明治以降のことであった。

左甚五郎作と伝承される栃木県日光東照宮の「ねむり猫」は、徳川家康を守るために待機していると伝えられる一方、「ねむり」は「平和」の象徴で江戸幕府による治世を「猫もねむるほどの平和」と表現したとの説もある。

日光東照宮を飾る建築彫刻の「ねむり猫」は平和の象徴

「ねむる」=「仮死状態」……

古代人は毎晩神秘の世界を彷徨っていたのか

古代エジプトにおける寝台が現在のベッドの原型ではないかといわれ、ヤシの葉を編んだ簡素なものから、黒檀、金、象牙などを使った装飾的なベッドまで見つかっている。写真はツタンカーメンの墓からの発掘されたもので、動物の彫刻が特徴的。

ツタンカーメンなどの王墓からは豪華なベッドが多数発掘

人類の知の手段ねむる特集

10 Challenge 2017 Vol. 02 11

理想の睡眠時間は   人それぞれだが     目覚めには太陽光が効果的

その後も睡眠医学の第一人者として多くの研究に着手したデメント教授は、「睡眠障害は多くの病気の原因ともなり、国家に多大な損失を招く」と明言した。実際に日本でも、厚生労働省は睡眠障害による病気のリスクを上の表のようにまとめている。では、理想の睡眠時間は何時間かといえば諸説あり、各自の体質、労働量、年代によっても異なるが、こんな研究報告も上がっている。寝不足(4時間睡眠)を2日間続けると、食欲を抑えるホルモンであるレプチンの分泌が少なくなり、逆に食欲を増進させるホルモンのグレリンの分泌が盛んになる。つまり、慢性的な寝不足状態は過食や肥満の原因となり、結果、糖尿病などの生活習慣病を引き起こしやすい。ただし、睡眠は長すぎてもよくない。

睡眠を時間の長短だけで判断することは難しく、近年、良質な睡眠をとるための多彩な研究が進んでいる。スタンフォード式睡眠法によれば、「朝目覚めたら太陽の光を浴びる」のも快眠法の1つ。強い光を浴びることで睡眠をつかさどるメラトニンというホルモンの分泌が止まって1日の始まりを体で感じ、夜になると分泌が再開されて眠気を催す仕組みだ。また、強い抗酸化作用で疲労回

復を促す成分のイミダペプチドを多く含む鶏胸肉などを摂取することも、睡眠の質の向上には効果的といわれている。この他、寝具が睡眠の質に関わっているケースもあって、「枕外来」という診療科を設ける病院もある。枕を調整したら、長年悩まされてきた頭痛や肩こり、体の痛みやしびれなどが解消され、安眠できるようになったケースも少なくないようだ。

快い眠りこそ、自然が人間に与えてくれるしみじみとやさしい看護婦だ。illi es e re

ウィリアム・シェイクスピア

16世紀末からロンドンで活躍した劇作家にして詩人。卓抜な観察眼による心理描写で最も優れた英文学の作家としても称えられる。「ハムレット」「マクベス」「オセロ」「リア王」の四大悲劇のほか、多くの傑作を残した。

現在、不眠に悩む人は多く、その数は成人の5人に1人ともいわれる。睡眠障害を放置しておくと認知症やうつ病のリスクが高まり、生活習慣病の引き金になることを示す研究データも上がっているため、「たかが睡眠不足」ではすまされない。しかし、ねむりを科学的に捉え、睡眠と健康の密接な関係が証明され始めたのは今から60年ほど前のことである。

人間のねむりには   規則正しいリズムがある

1953年、スタンフォード大学のウィリアム・C・デメント教授らがレム睡眠を発見したことで、睡眠医学は一躍脚光を浴びる。人間の睡眠には浅くなったり深くなったりするリズムがあって、それが、現在では、すでに認知されているレム睡眠とノンレム睡眠だ。「浅いねむり」と表現されるレム

睡眠の特徴は、脳が活動する覚醒状態にあること。このときの脳は、起きている間に得た大量の情報から必要なものと不要なものを整理し、必要な記憶の定着や記憶を引き出すための索引作りを行っていることが近年の研究で明らかになっている。目覚めた後も残っているのは、このレム睡眠中に見た

夢の記憶とされる。「深いねむり」のノンレム睡眠は、脳の休息と体のメンテナスのための睡眠で、このとき、筋肉の活動は休止されないが、脳は休止状態で、呼吸や脈拍が非常におだやかになって血圧も下がる。睡眠中は、レム睡眠とノンレム睡眠が繰り返されるが、起床時刻に近づくにつれ、ノンレム睡眠よりもレム睡眠の時間が長くなって覚醒の準備を整えていく。そのため、レム睡眠のタイミングで起きるとさわやかな朝を迎えることができる。

虫よけや風通しのための蚊帳は古より行われてきた快眠の工夫

蚊帳の起源は1300年ほど前の書物に記されているが、日本で本格的に作られ始めたのは奈良時代からとされる。しかし、贅沢品だった蚊帳が庶民の暮らしに広まるのは江戸時代で、喜多川歌麿の「婦人泊り客之図」にもその様子が描かれた。

ハーブは不眠解消に効果的とされ、お茶などに重用されてきた。古代エジプトの女王クレオパトラも、カモミールティーを安眠薬として活用していたと伝えられる。カモミールの中でも写真のジャーマンカモミールがお茶に適している。

経済協力開発機構の調査によると、睡眠時間の国際比較において日本人の睡眠時間は非常に短く、男性より家事や育児の負担の多い女性のほうがより短かった。年代別には40~50代が6時間台で最も短かい。

不眠症が慢性化すると、交感神経が緊張したり、血糖値を上昇させる糖質コルチコイドが過剰分泌したりといったトラブルが起こり、糖尿病に罹患するリスクも1.5倍以上になる。

レム期とノンレム期を繰り返す睡眠において、スタンフォード式では、最初の90分をしっかり深くねむることが良い睡眠の条件としている。目覚めについては、覚醒に合わせて目覚ましをセットするとすっきり起きられる。

20世紀から始まる睡眠の解明

睡眠の研究は「レム睡眠」の発見から本格化

クレオパトラも安眠にはカモミールを利用した?

日本ベルギー

ドイツ

エストニア

フランス

ハンガリー

スロベニア

フィンランド

スウェーデン

イギリス

ノルウェイ

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7:33

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(時間:分/日)

女性(有職者)

男性(有職者)

日本人の睡眠時間は世界で一番短い

睡眠不足・睡眠障害

肥満

生命予後の悪化

糖尿病 高血圧 脂質異常症生活習慣病の罹患リスクUPや症状の悪化

心血管疾患(心筋梗塞・脳血管疾患)

睡眠障害と生活習慣病

睡眠時の深さは一定のサイクルで変動している(睡眠深度)浅い

深い

うとうと

すやすや

ぐっすり

成長ホルモン分泌

(睡眠時間)0 1 2 3 4 5 6 7 8

覚醒

:ノンレム睡眠(深い睡眠)/ :レム睡眠(浅い睡眠)

1

2

3

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出典:厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト

出典:厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト

人類の知の手段ねむる特集

12 Challenge 2017 Vol. 02 13

睡眠時専用コントローラーso i n e(ソイネ)

1. 寝返りなどの体の動きを ...

2. Soine がセンシングして眠りのリズムを検知 4. 眠りのリズムに

あわせて温度を自動調節

3. リズムに適した温度をエアコンに送信

受信

送信

これまで空調機の低騒音化や最適制御、睡眠センシングと快眠制御、生体情報センシングなどを手掛けてきた。「24時間365日、いつでも最高の空気を提供したい」と語る。

多忙な現代人にとって、十分な睡眠時間を確保することは難しい。発明家にして短時間睡眠でも知られるエジソンは「みんな愚かなほどにねむり過ぎだ」と語っていたというが、睡眠時間を削ることで忙しさを緩和する点では、現代人もエジソンに負けてはいない。ねむりを蔑ろにしてきた代償だろうか。現在、不眠対策として睡眠導入剤を常用する人も少なくない。その傾向は高齢になるにつれ、顕著になるという。

高性能で多機能な空調機が寝室にこそ必要とされる時代

こうした背景が睡眠研究に拍車をかけ、空気、空調メーカーの威信をかけた研究開発がダイキンでも続けられている。2000年頃から始まった「soine(ソイネ)」の研究もその1つ。「soine」とはダイキンが10年ほどかけて

ポリソムノグラフィー(Polysomnography:PSG)とは、頭や顔、体の必要な部位にテープで電極を貼りつけ、脳波や呼吸、眼球、筋肉の動きなどを記録し、睡眠の状態について調べるもの。イスには、「soine」を応用した「Airitmo(エアリトモ)」を設置し、同時にセンシングを行っている。

完成させたアイデア商品で、人が寝ている状態を常にモニターして、室温を自動で調整する「睡眠時専用コントローラー」だ。研究開始のきっかけの1つに、消費者の「リビングには高価で高性能な空調機を導入するが、寝室の空調機にはこだわらない」という傾向があった。「寝室用の多機能空調機によって、人々の睡眠に対する意識を変えたいと思った」と長年この研究に携わってきた樋江井武彦は当時を振り返る。研究を進めると、ねむっている人の体温調節について次のような特徴があることが分かった。睡眠中、人間の体温調節機能は日中と比較して低下し、さらにそれはレム睡眠とノンレム睡眠でも異なる。特に環境の温度変化を受けやすいのはレム睡眠時で、この

ときには発汗による体温調節反応が弱くなる。また睡眠後半はレム睡眠の割合が高いため、明け方に室温が低いと寝冷えしやすいということも分かっている。そこで、「soine」は、圧力センサーが入ったゴムチューブで睡眠状態を感知し、深い眠りのノンレム期には体温が下がるのをサポートするために室温を1℃下げ、逆に浅い眠りのレム期は体温調節機能が低下するので、寒さを感じないように室温を1℃上げるように仕上げた。さらに睡眠中の体温にはもう1つのリズムがあり、寝入ってから3~4時間は徐々に体温が下が

り、それ以降から目覚めるまでは徐々に上がるというゆるやかなV字のカーブを描くのだ。そのため、基本となる±1℃の調整に加え、V字のカーブに合わせて寝入りから3時間にかけて徐々に室温を2℃下げ、目覚めにかけて元の室温に戻していくという設定にした。「ただし、睡眠に関係するのは室温だけではありません。光や音、各自の体の大きさや代謝量の違いにも関係してくるので、今後は、そのような点も考慮し、個人個人に合った睡眠を提供できるシステムを構築していきたい」と語るのは、樋江井と「soine」の研究に取り組んできた安本千晶だ。

「soine」の正確さを証明するために、「soine」そのものの実証実験と並行してポリソムノグラフィー(左ページの写真参照)も行ってきた。ポリソムノグラフィーをはじめとして睡眠に関わる実験については10年間に延べ1万人のデータを集めたが、研究は現在も続行中だ。高性能な睡眠時専用コントローラーが睡眠に革命を起こす。そんな日は遠くないかもしれない。

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ダイキンが考える理想の睡眠空間の1つのカタチ

快適なねむりの空間を追求した「快眠カプセル」

「ねむる」のNa ga oテクノロジー・イノベーションセンターChallenge 企画・編集担当小林 淳

エア・コンディショナーは、ヒューマン・コンディショナーに進化することでしょう。空調の夢を語り合いませんか? お問い合わせを、下記

樋江井武彦

入社以来、人にやさしい空気の開発に向け取り組み、睡眠時専用コントローラーの開発や生体センシング技術に携わってきた。「1人ひとりにふさわしい空気を届ける」ことを目指す。

安本千晶

① 空調モジュール 駆動のなく静かなペルチェ素子による空調を行う。② 空気清浄機 マイナスイオンとフィトンチットを含む清浄空気を送る。③ 足元ヒーター 足部を暖め、冷えを抑え、血行を促進させる。④ バイブレーター 軽いマッサージ効果で、血行を促進させる。

より良く「ねむる」ために……

睡眠にもオーダーメードの時代が来る

改良のための実験

改良のための実験

ダイキンでは空調技術を結集し、快適なねむりの空間を追求した「快眠カプセル(仮称)」を開発。このカプセルは、空間に「頭寒足熱」に相当する約4℃の傾斜温度分布を作り出すことで、興奮を司る交感神経の活動を抑制し、快適なねむりを実現する。寝始めには、足元ヒーターとバイブレーターによる相乗的な血行促進による入眠促進制御を行い、同時にねむりに有効に働くといわれるマイナスイオンや森の香りを含んだ空気を供給することで、リラックス効果をさらに高める。

TIC内には、理想的な空間作りに向けての実験設備が充実。左は、被検者に室内で普通に生活してもらい、室内の温度や湿度、酸素や二酸化炭素などの量を測定して、室内環境が人間に及ぼす影響を観察する実験室。こうした施設を活用して、睡眠に関する研究も実施している。

メールアドレスでお待ちしています。[email protected]

睡眠時専用コントローラーso i n e(ソイネ)

1. 寝返りなどの体の動きを ...

2. Soine がセンシングして眠りのリズムを検知 4. 眠りのリズムに

あわせて温度を自動調節

3. リズムに適した温度をエアコンに送信

受信

送信

ello × ene al anage対談

Te hnolog an Inno a on Cen e

1963年生まれ。京都大学農学部農業工学科卒業後、87年にダイキン工業株式会社入社。2014年より執行役員、空調生産本部などを経て、15年11月より現職。

one aダイキン工業株式会社 執行役員テクノロジー・イノベーションセンター長テクノロジー・イノベーションセンター長米田裕二

1 Challenge 2017 Vol. 021 Challenge 2017 Vol. 02 11

坂 グローバルで先行する会社ほど、日本という場の求心力を世界のなかでどう確保するか、悩んでいます。単にそこに本社があるだけでは、世界の人々は納得しない。TICの役割の一つは、グローバルの求心力を作り出すことです。その時に、日本人が意外に軽視しているのがビジョンです。日本の現場は顧客オリエンテッドだから、トップダウンのビジョンを大きく掲げることを 躊

ちゅう

躇ちょ

することが多い。けれど、今は社会が大きく変化している時期なので、ビジョンへの希求が高まっています。センター長のお話にあった「技術戦略の明確化」ですが、今、ダイキンの技術戦略、ビジョンをどう掲げるかが、TICにとって非常に重要です。全世界の拠点が足並みをそろえて同じ方向に向かっていく力、それを作り出すビジョンが、今、すごく重要だと思います。米 おっしゃる通りですね。坂 たとえばアメリカのエアコンが全部ダイキンのヒューストン工場で作られているものになったら、どれくらい地球環境のサスティナビリティに貢献できるか、とか。また人への優しさ、健康とクリエイティヴィティという問題もある。これからは知識集約の世界になりますから、人そのものが大事。健康とクリエイティヴィティを高めるというの

は、すごく大きな付加価値です。快適な状態がどれだけ長く続くかで、生産性が変わってくるから。ダイキンには、知識社会の中で、人の知恵を生み出し生産性を上げることに貢献できる蓄積がある、と私は思います。米 ありがとうございます。どこから、どうその一歩を踏み出していくかだ、と思っています。これまでやってきたことと、4、5年先の社会の変化との間には、密接な関係がある。だから、今やらなければならないことも含めて、テーマの見直しは縦横無尽にできるはず。その方が楽なので、ややもすると今までの技術の改善、改良に走ってしまったりする。新たなチャレンジ、と言うのは簡単だけれど、そこにどうやって向かっていくかが、まだまだだなあと思っています。幹部が、引っ張っていく姿勢をもうちょっと見せなければ、とも思います。坂 その辺りがもどかしいところなのでしょうね。

WhyとWhatを追求する上で「オープン」は必須

米 研究職でやってきた人は、テーマが決まれば、それをどう深堀り(How)するのかは得意という人が多い。そういうハード面も大事だけれど、大事なのはWhatとWhy。何

米田(以下 米) 7月1日に組織機構改革を行って、TICはダイキングループのグローバル戦略と空調の全拠点として、コントロールタワーになると宣言しました。商品テーマから技術戦略、グローバルな開発までを視野に、9人の副センター長を配置し、TICの方針を再度明確にしたうえで、各拠点でやるべきことと、TIC自身が実行責任をもつところを分けながら、最後は差別化商品、差別化技術を実現したい。同時に3年、5年先を目指す短期的な事業貢献や事業収益も大事。技術のストックをもっと増やし、各拠点にTICのさまざまな技術を使ってもらってこそ、存在感を実感してもらえると思っています。坂田(以下 坂) 米田さんがおやりになりたいことの具体的なイメージはありますか?米 僕自身がやりたいことははっきりしています。基盤技術、モーターやインバーター、空調を支えてきた根幹技術開発をやりながら、コトづくりをどんどん積極的にやっていきたい。空調には工事もサービスもあるし、エネルギーマネジメントもできる。空調とその周辺のサービスソリューションをどんどん広げたい。坂 空調機を含め、データをとれる環境がものすごく整っていますよね。米 空調機も全部クラウド技術に繋

がる時代になってきています。ビルのエネルギーソリューションはもちろん、エネルギーの需要予測をして、ダイキンのサーバーで都市まるごとの快適性を実現することもできる。エネルギーマネジメントで新しい提案をどんどんしたいですね。

10年後には、センシングデータの主導権を持ったところが勝者になる

坂 ただし、まだデータが有効に使えていないですよね。データがあることと、そこからビジネスを生むことには大きな乖

かい

離り

がある。今後はこれに挑まないと。我々は「質の高いデータ×良いアイデア」の相乗で付加価値が生まれる、と定義しています。データの質としては、ダイキンは独自のセンサーを持っているうえに、どういう環境で取得したかを詳細に把握しています。ここは一番の強みです。仮に他の会社が盗んだとしても、使うことができない。米 確かにそのとおりです。坂 それにどうアイデアをプラスできるかが勝負。他のセンサー情報をどう組み合わせられるか。例えば電力会社は電力の使用量は今でも把握しているわけですが、近い将来、スマートセンサーで電力に関する情報がもっと細かくセンシングされる時代になる。例えば冷蔵庫の開閉データまでセンシング可能になってく

る。そうしたデータと、自分たちのデータを組み合わせると非常に大きな価値が生まれます。ダイキンがカバーしている得意分野と、ビルの中、家の中、場合によっては街単位で他のセンシング情報をどう組み合わせ得るか。技術的な面以外に、提携するとか買収するとか、経営的な要素が必要な部分はありますが、おそらく10年後には、多様なセンシングデータの集合体に対して主導権を持ったところが、勝者になる。ダイキンは自社のコアデータを持っているところが強みです。それがないと交渉能力がないから。米 まず優秀な技術者がいりますね。坂 それには、ワクワク感があるビジョンが大事です。若い研究者たちを見ていても、ずっと仕事をすることは苦しいと思わない。けれど、面白くならないとやらない。興味が持てれば、もの凄く力が出る。先ほどのセンター長の発言のような、コトを大きくとらえて、ダイキンのエアコンとコア技術を拡張して人間社会に提供する、というような大きなビジョンがあれば、若い研究者をひきつけられると私は思います。

TICの役割は、グローバルの吸引力を日本で持つこと

米 グローバル化についてはどうお考えですか?

T I Cは「Why」とエネルギーマネージメントで新しい提案を

のためにそれを今やるのか。何故それがうちの将来にとって大事なのか、そういう議論にもっと時間をかけなければいけないと思っています。先生がおっしゃる切り口やビジョンは大賛成。正しいかどうかより、これで行くぞ、と皆を納得させられるかどうかだ、と思います。坂 これまで我々は主に、既にある「問い」に対する解き方を考えてきました。そこでは、如何に早く解くかや優れた解き方を見出すか、の勝負でした。先行モデルやロードマップが見えている時代はそれで十分だったのです。しかし、今は、経済社会の未来像が不透明になる中で、whyを繰り返しながら、解く価値のある「問い」自体、すなわち、what to doを見出すことが求められています。それがまた社の中長期のビジョンにもつながります。このために、TICが掲げる「オープン」や「協創」という哲学はとても重要です。What to doは、居心地のいいよく知っている空間だけにいては見えてきません。社会との広い交わりや文理をも超えた多分野の協働が大事です。米 先ほどのワクワク感のお話もまったくその通りですし、やりたいことはいっぱいある。今後とも、フェローとしてご指導ご協力をお願いいたします。

1966年生まれ。東京大学工学系研究科教授、イノベーション政策研究センター長。元経産省官僚。エネルギー・サスティナビリティ、ナノテクノロジー、情報科学領域を中心としたイノベーション政策、技術経営、地域クラスター、産業政策論など、現代の課題に挑戦する。2016年12月よりダイキンのフェローに。

I h o a a a

東京大学イノベーション政策研究センター長イノベーション政策研究センター長坂田一郎

「What」を追求する

1 Challenge 2017 Vol. 021 Challenge 2017 Vol. 02 1717

TIC3階の「ダイキンオープンラボ」に展示されたマイクロ水力発電のシステム本体を前に「低コスト、高効率のシステムで、地球環境保護やエネルギーの有効活用に貢献したい」と話す沢田。

空調機は電気を消費しますが、マイクロ水力発電は

その電気を生み出すんです。

空調機は電気を消費しますが、マイクロ水力発電は

その電気を生み出すんです。

マイクロ水力発電システム 開発統括 専任部長

沢田祐造o a a a

世の中の役に立つモノ作りがしたい――技術者ならだれもが、大なり小なりそんな思いを抱いているだろう。だが、企業においては事業化を無視してはその思いも叶えられない。ダイキン工業に、その二つを両立させる新しい製品・システムが誕生した。浄水場の管水路における水の流れを利用したマイクロ水力発電だ。化石燃料から再生可能エネルギーに比重が移りつつある現在、まさに世の中の変化に対応した新技術。一基の出力は小さいが、工場配管などにも広がれば、生み出す総エネルギー量はバカにならない。チームをけん引する沢田祐造(62)は「空調機の独自技術を活用できたのが大きかった」と感謝の気持ちを込めながら言う。「空調機は電気を消費しますが、マイクロ水力発電は電気を生み出します」

2度の挫折の後、滋賀製作所で     高効率モータ・インバータに出会った

マイクロ水力発電は、シンプルに言えば、水の流れを水車の回転で電気に変えて取り出す仕組み。既に確立された技術であり、高い稼働率と安定した発電出力が期待できる有望な再生可能エネルギーだが、1基当たりの出力が小さい分、初期費用やメンテナンスコストの高さが導入を妨げてきた。沢田らは高効率で低コスト、かつ小

型化による省スペース製品の開発を目指した。チームが発足したのは5年前だった。3年後には出力22㌔㍗と75㌔㍗の二つのタイプの発電機を開発し、従来の半分以下の大きさと、大幅な低コスト化を実現した。2013年度には環境省の「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」に採択され、富山県南砺市と福島県相馬市の上水道施設で実証実験を進め、既に期待通りの成果が確認されている。プレスリリース後のヒヤリングでは「こんな発電機を待っていた」という言葉も寄せられたという。スムーズに進んだように見えるマイクロ発電システム開発だが、沢田には挫折と苦悩の長い年月があり、心の内には「未来への貢献」という、技術者として消えることのない思いがあった。京都大学大学院でロボット制御を学び、別の機械メーカーに就職した。ロボットブームを迎え、産業ロボットの事業化を考えていたダイキンには、1982年に入社した。金型磨きという苛酷な作業を、ロボット化するという課題に取り組み、実用化することが出来た。しかしダイキンがロボット事業から撤退したために大きな事業貢献には至らなかった。95年の事業撤退の前後には、新たな事業テーマを模

社会貢献とビジネスを両立させたい。マイクロ水力発電は社内「協創」の賜物

研究者の群像シリーズ❷

1 Challenge 2017 Vol. 021 Challenge 2017 Vol. 02 11

できるシステムを構築しなければならない。「水車をどのように動かすかの知見もなかったのですが、水の圧力を受けて回転する水車ランナ4種類を開発し、設置箇所に適合するものを選択することで、汎用性を持たせました。既存の解析設計技術を利用できたので、3年という短期間でできたんです」と述懐する。発電機を制御する組み込みソフトと水車特性評価装置の開発に携わった尾中正人(35)は、「コストと期間で厳しい条件がありました。汎用の表示器を使い、システム制御と発電機の連携動作を実現するのに苦労しました」と語る。実は、沢田を含めて3人とも本流である空調部門の経験はない。名古屋工業大学電気情報工学科で人工骨を研究していた須原は1994年入社。配属された電子技術研究所では大型トラックのオートマ開発に携わり、油機のハイブリッド油圧に取り組んでいた。尾中は長岡科学技術大学電機電子情報工学科でパワーエレクトロニクス、特にモータ制御を学び、2006年入社。油機事業部で、

油機のハイブリッド油圧ユニットの開発に携わった。そんなチームが短期間で製品化を実現したのは、尾中が「部門間の壁が低い社風を改めて感じました」、須原が「人間関係でできました」と言うように、研究所と油圧部門と空調部門が一体となって取り組んだ成果といえる。マイクロ水力発電はいわば、「捨てていたエネルギーを発電に利用する」システム。須原が「国内での普及でエネルギー問題に貢献し、欧米やアジア地域に広げたい」と言えば、尾中は「特に、発展途上国で普及したら、これほどの喜びはない。さらに低コスト化を図る」と夢を広げる。定年後の再雇用でTIC専任部長を務める沢田は、

「開発チームの仲間に恵まれ、地球環境維持に貢献できるエキサイティングなテーマに引き続き従事できることは、本当にありがたい。自治体向けの開発は初めてで、相手方との折衝も含めて試行錯誤の連続でしたが、その分満足感もあります。工業用水や農業用水を含めて利用できる場はたくさんありますので、まずは全国津々浦々に普及したら嬉しいですね」と笑う。

より機能を高めた製品や技術の開発に議論を重ねる沢田(中央)とチームのメンバーたち。「こんな発電機を待っていた」などとの自治体から寄せられる評価の声や、空調部門と油圧部門をはじめ、各セクションの垣根が低いダイキンの社内風土が、彼らの意欲をさらにかきたてる。

多くの挫折や苦悩を超えて念願のテーマにたどりつき、定年後もチームのまとめ役として奮闘する沢田。若い技術者たちとの真剣で闊達(かったつ)な議論と交流が、心身ともに若さを保つ秘訣かも知れない。

仲間に恵まれ、地球環境維持に貢献できるエキサイティングなテーマに従事できて幸せです。

索し、今後注目を浴びるだろう健康・医療・福祉分野でのメカトロニクス技術応用を提案した。だが、実際に開発するまでには至らず、再び「忸怩たる思い」を秘めたまま97年、滋賀の電子技術研究所(当時)に異動する。ここで出会ったのが、高効率モータ・インバータ技術を核とするダイキンお得意の省エネ空調技術だった。そこから道が開けた。モータ・インバータ技術と、ロボットで培ってきたメカトロシステム技術を融合させようと考えたのだ。沢田にはFA・産業分野での〝土地勘″があったため、省エネで社会に貢献する「省エネ」メカトロニクスを追求し始めたのだ。一貫して省エネ・省力化を追い続けた沢田はこう振り返る。「基本的に二つの問題意識がありました。エネルギー問題と地球環境問題です」

「マイクロ水力発電」には        既存の設備を活用できるメリットがある

沢田が大学に入る前年の1973年は第1次オイルショック。社会に出る1年前の1979年は第2次オイルショックに見舞われた。その記憶から、新興国のエネルギー消費増やピークオイルなどに起因するエネルギー不足が社会・経済に大きな影響を及ぼし、時に紛争の原因になることさえあるという問題意識を持つようになった。電子技術研究所に移った1997年には、年末に京都で第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)が開催され、京都議定書が世界の温暖化防止の達成目標となり、空調の省エネ競争も激しくなっていく。地球温暖化、異常気象は、その後ますます深刻になり、沢田の問題意識は次第に収斂されてきた。「結局、環境

にやさしいエネルギーが解決のキーではないか」と。「企業の一エンジニアが、その解決に向けてできることは微かですが、社会貢献とビジネスを両立させて、実際の技術・商品開発を進めて普及させることは可能です」答えを探して、再生可能エネルギー、地球環境問題・低炭素化、国・自治体の政策関連文献などを読み漁った。ネットで情報収集し、1年かけて収益性を調べて分析した結果、住宅に近いところにあり、既存の設備を活用できるメリットのある「管水路用マイクロ水力発電」に答えが集約されていった。一方、2000年には滋賀製作所に、空調の省エネ技術を利用して油圧機器の省エネ化に取り組む全社プロジェクトが立ち上がった。その道が、マイクロ水力発電の中核技術につながる省エネ油圧ポンプや、ハイブリッド建機用モジュールとして結実していくことになる。「空調、特に室外機もメカトロであり、その設計の考え方から大いに学びました」と沢田は振り返る。

部門間の壁が低い社風。研究所と    油圧部門と空調部門が一体となった成果

通常の水力発電は流量や圧力に依らず水車を一定回転数で回すための複雑な機構を持つが、マイクロ水力発電システムではモータ・インバータ技術の活用で水車の可変速運転と小型化を実現した。水車で流量や圧力を制御する新機能も組み込んだ。いずれもポイントとなったのは制御ソフトであった。チームの技術開発リーダーを務める須原淳(45)は、水車制御技術を手掛けた。このシステムは水道施設に設置するものなので、トラブルが発生しても水を安定供給

研究者の群像 シリーズ❷

マイクロ水力発電システムには、小型化や最大効率確保のための工夫が凝らされているが、永久磁石同期発電機や発電コントローラなど、ダイキンが長年培ってきた独自の空調機技術を応用したものも多い。

システムの内部情報を最大限活用して運転・管理状態の「見える化」に努め、インターネットを介した遠隔監視を行っており、運転管理やメンテナンスなどの運用コストも最小限に抑える工夫も好評だ。

ロータコア

水車ランナ

システム制御盤

システム本体

水の流れ 水の流れ

発電コントローラ

見える化・遠隔監視永久磁石同期発電機

水冷配管

縦型インラインポンプ逆転水車

発電機一体型発電コントローラ

系統連系インバータ

マイクロ水力発電システム

マイクロ水力発電システム設置場所

遠隔監視時 モバイル 水道事業者施設 遠隔監視サービス事業者

携帯電話網インターネット

スマホ タブレット

20 Challenge 2017 Vol. 02 21

ロンを発生させる方式を確立。これにより大量生産が可能になり、フロンの大需要期に対応できる体制を整えていた。90年代に入ると、フロンを取

り巻く環境は激変する。主流だったクロロフルオロカーボン(CFC)はオゾン層破壊が問題視され、95年に生産停止。代替フロンのハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)も同様に、先進国では2020年に全廃予定。現在では、オゾン層破壊系数(ODP)ゼロの

ハイドロフルオロカーボン(HFC)に代わっている。こうしたなか、ダイキンは国内におけるフロンのトップメーカーとして、代替フロン開発を積極的に進めた。当時、次世代の冷媒候補として着目されていたのがHFCのR32(CH2F2)とR410A。R32はフッ化水素と塩化メチレン(CH2cl2)を反応させて得られる。R410AはR32とR125の混合冷媒。R32の評価は当時、必ずしも高くはなく、R410AはHCFC

の後継冷媒として既に広く利用され始めていたが、温暖化係数(GWP)が高いという難点があった。ダイキンは99年、国内初のR32のプラントを建設して研究を重ね、次第にR32に傾斜していく。R32はGWPがR401Aの3分の1と小さいうえ、エネルギー効率に優れ、冷媒量の削減や熱交換機など部品のコンパクト化とリサイクルにも適している。また、圧力などの性質がR410Aと似ているため、既存のR410A対

フッ素はあらゆる元素の中で最も反応性が強く、どんなものも酸化してしまう。一方で、炭素と結合するとその化合物は非常に安定性があり、炭素―フッ素結合を有する化合物は耐熱性、耐候性、耐薬品性、耐酸化性に優れる。また、分子間力の弱さゆえ、摩擦力や表面張力が小さい、粘度が低い、撥水・撥油性が高いなどの性質を持つ。このため、フッ素樹脂をはじめとしたフッ素化合物の用途は極めて幅広く、自動車エンジン部品や電線被覆材、医薬品、衣料、半導体加工、塗料、太陽電池など数え上げたらきりがない。ダイキンで化学事業一筋に歩んできた役員待遇の青山博一(61)は「耐ガソリン+耐熱や、水と油を同時にはじくなど、複数の機能を同時に出せるなど、他のものでは達成できないことができるのがフッ素」と、フッ素化学の面白さを指摘する。冷媒に使われるのはフッ素と炭素の化合物であるフルオロカーボ

ダイキンを支える技術 ❷

冷媒としての フッ素 とその展開空調機に欠かせない冷媒。ダイキンの強みは、機械メーカーでありながら、冷媒を含むフッ素化学事業を自社で持っていることだ。ダイキンを支える技術第2弾は、オゾン層破壊系数ゼロのHFC32(R32)の実用化を中心に、ダイキンのフッ素化学を紹介する。

1980年に入社。化学事業部応用研究部で、5年ほど技術者として研鑽を積んだ後、米国アイオワ大学に留学。1年半後に帰国し、化学事業部第二研究開発部へ。2010年より化学研究開発センター長を務め、17年より現職。

青山博一テクノロジー・イノベーションセンター

役員待遇産産・産学・産官連携テーマ担当

いられてきた炭酸ガスやアンモニア、メチルクロライドなど自然冷媒の欠点を克服するものだった。ダイキンが新規事業としてフロンに取り組み始めたのは戦前に遡る。その背景には軍の潜水艦用の需要があった。35年には日本初のフロン製造に成功。同時に開発に取りかかり、輸入品を上回る性能を実現した冷凍機「ミフジレーター」の冷媒としても使われた。空調事業と化学事業という、現代のダイキンを支える2つの柱の、これが源流だ。

空調機部門と化学事業部門の英知が結集した製品誕生へ

フロンの生産が世界的に急増したのは1960年代。使い勝手の良さから冷凍機の冷媒としての需要が増えたのに加え、エアゾール用噴射剤などの新しい用途が開発されたためだ。ダイキンは50年代に、ホタル石(CaF2)と硫酸でフッ化水素(HF)を製造。これに四塩化炭素(Ccl4)を反応させてフ

日本初のフロン製造成功から80年、さらなるフッ素の可能性を拓く

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ン類、すなわちフロンだ。1930年に米国で開発されたフロンは、人体に無害で無色・無臭、引火・爆発の危険性もなく、それまで用

フルオロカーボンの種類と特長種類 特長および物質例 主な用途

HFC

[Hydro Fluoro Carbon]塩素を含まず水素を含んだオゾン層を破壊しない物質。HFC-23、32、125、134a、143a、152aなど。HFC系混合冷媒 R-410A、407C、404A。

冷媒(冷蔵庫、業務用低温機器、カーエアコン、ルームエアコン、パッケージエアコンなど)発泡剤、洗浄剤、エアゾール噴射剤。

HCFC

[Hydro Chloro Fluoro Carbon]塩素を含むが水素があるためオゾン層破壊の性質は比較的弱い物質。HCFC-22、 123、 141b、142bなど。

冷媒、発泡剤、洗浄剤、エアゾール噴射剤などに広く使用されたが、オゾン層保護法に基づき全廃途上。品種、用途によってはすでに全廃済み(例:ウレタン発泡剤用のHCFC-141b)。

CFC

[Chloro Fluoro Carbon]塩素を含みオゾン層破壊の性質が強い物質。CFC-11、12、 113など。

冷媒、発泡剤、洗浄剤、エアゾール噴射剤などに広く使用されたが、オゾン層保護法に基づき、1995年末までに生産・輸入全廃済み。

フッ素化学製品の幅広いラインアップホタル石(CaF2)を原料に、多種多様なフッ素化学製品を取り揃えている。

フッ素系モノマー

硫酸H2SO4

無水フッ酸HF

ホタル石

フルオロカーボンガス

フッ素樹脂フッ素樹脂フィルムフッ素ゴムフッ素塗料撥水撥油剤指紋付着防止剤

防水・防湿コーティング剤離型剤添加剤医薬中間体

フッ素オイル など

有機塩化物(クロロホルム) エッチング剤

冷媒用フロン(フルオロカーボン)の開発製造から発展したダイキンのフッ素化学が生み出す製品は驚くほど多種多様だ。それは、摩擦力が小さい、撥水・撥油性が高い、耐熱性、耐候性、耐薬品性、耐酸化性に優れるなど、フッ素とフッ素化合物が持つ特性の多様性を表すものだが、フッ素の機能を最大限に生かすフッ素科学はまだ発展途上であり、技術者たちは未知の用途、未知の製品の開発に向け、研究を続けている。

CFCに始まったフロンは、オゾン層保護と地球温暖化防止というグローバルな課題を突きつけられ、HCFC、HFCへと急激に進化していった。ダイキンは国内トップメーカーとして常に時代を先取りし、代替フロンの開発をリードする。

●フッ素化学製品の幅広いラインアップ

22 Challenge 2017 Vol. 02 23

オロエチレン(TFE、CF2=CF2)は、フッ素樹脂の代表といえるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のモノマーであり、米デュポン社によって世界で初めて生み出されたPTFEがテフロンだ。フロンの研究開発は、デュポン社に追いつけ追い越せと取り組んだダイキンのフッ素事業の基盤となっている。例えば、米ダウコーニング社との共同開発で生まれた繊維処理剤「ユニダイン」は、フッ素とシリコンを複合させたもので、フッ素の撥水・撥油性に優れるという特長と、シリコンの素材の風合いを損なわないという特性を両立させた製品だ。そして、スマートホンの普及により急激に売り上げを伸ばしたのが「オプツール」だ。当初、ハンディビデオレコーダーの液晶画面の指紋付着防止のために開発され、メガネの指紋防止コーティングにも採用されていたオプツールだが、大きな市場にはならなかった。ところが、その指紋付着防止とフッ素独特の滑りやすさという特性が、スマホの液晶画面が求める機能にぴったり一致したのだ。そのオプツールにスマホ業界で最初に目を着けてダイキンを訪ねてきたのが、今や業界トップに君

臨する米国の某メーカー。ダイキン社内ではスマホ時代到来をまだ読んでいなかった頃で、それほどの期待は寄せていなかったが、メーカーのスピード感あふれる事業展開と、オプツールに対する信頼で売り上げが急増していった。青山は「他社の追随を許さない機能を複数備えていたことが新しい用途を生み出したといえます」と振り返る。フッ素化合物の用途は今後さらに拡大していくと見られる。例えば、「室外機の熱交換機に使われているアルミ製フィンに霜が付かないようにするのが難しい。フッ素樹脂は、水ははじくが氷は付くのです。この問題を解決できれば、電線や飛行機の着氷防止にも活用できるでしょう」と青山は話す。オプツールのように、時代を牽引する新用途を生み出すには、社外の視点も必要だ。既存のフッ素化合物も他社との交流から意外な用途が生まれるかもしれないし、商品化への道が開ける可能性もある。「ダイキンには世界に誇る技術があります。その技術を生かして新しい用途をどんどん生み出すため、TICでは他社とのオープンイノベーションを強化していきたいと考えています」。青山はそう力を込めて語る。

1935年 ● 日本初のフロンガス合成に成功。

1942年 ● ダイキン工業がフルオロカーボンガスを独自技術で開発製造。

1952年 ● フッ素樹脂事業への進出のため「弗素化学研究委員会」発足。

1953年 ● フッ素樹脂ネオフロンPCTFEの販売開始。

1955年 ● フッ素樹脂ポリフロンPTFEの販売開始。

1968年 ● ポリフロンの品質向上、原料の造粒技術の開発などにより、フッ素樹脂事業で国内占有率トップに。撥水撥油剤の販売開始。

1970年 ●フッ素ゴムの販売開始。1974年 ● フッ素樹脂ネオフロンFEPの販売開始。

1977年 ● 「フッ素ゴムの開発」で高分子学会賞受賞。

1980年 ● 半導体用ドライエッチング剤の開発。

1987年 ● 精密重合「ヨウ素移動重合法」で高分子学会賞受賞。

1988年 ● フロン回収システム発売。1991年 ● 代替フルオロカーボンガスHFC-134aを生産開始。

1993年 ● 新冷媒HFC-32、HFC-125のパイロットプラント稼動。

1994年 ● ダイキンアメリカ社 ディケータ工場でフッ素樹脂PTFE稼動開始。

1998年 ● 化学事業の海外売り上げ比率が50%に。

1999年 ● 代替フルオロカーボンガスHFC-32を生産開始。

2000年 ● ディスプレイ用指紋付着防止オプツールDSX発売。

2001年 ● 代替フルオロカーボンガスHFC-125を生産開始。ダイキンアメリカ社 ディケータ工場で撥水撥油剤の生産開始。

2003年 ● 中国工場でフッ素樹脂PTFEの生産開始。

2006年 ● アルケマ社と空調機器用新冷媒HFC-125の合弁会社を設立。

2007年 ● タッチパネル用指紋付着防止オプツールDAC発売。

ダイキン

フッ素化学の歴史

R32の単独使用で問題となったのがコンプレッサーだったが、機器側のハードを改良することで高性能を維持。高効率の熱交換機の採用や業界初の「ダブル吸い込み構造」設計などで高い省エネ性と環境性を同時に実現したのだ。そして今、国内の空調機の冷媒はほとんどR32になっている。

フッ素には時代をリードする新用途を生む可能性がある

多くのフロンはさまざまなフッ素モノマーの原料になる。中でもHCFC22を原料とするテトラフル

ほとんど発火の恐れがないことを実証し、機会あるごとにR32の優位性の認識を広げる活動を推し進めた。そして、満を持して2012年12月に発売したのが、世界で初めてR32を単独使用する「うるさら7」シリーズだ。12年度の省エネ大賞経済産業大臣賞、13年度のオゾン層保護・地球温暖化防止大賞優秀賞、同年度のものづくり日本大賞内閣総理大臣賞と、賞を総なめにした「うるさら7」は、空調機部門と化学事業部門の経験と英知が結集した製品といえる。

ダイキンを支える技術❷

基材表面処理層

UV 塩水 酸

耐候性塗料 汎用樹脂・塗料汎用樹脂・塗料フッ素樹脂層バインダー樹脂層

-(CF2CF2)n- F(C3F6-O-)n- C2F5(C2F4)n-

⑦ユニダイン⑥オプツール⑤ルブロン④ゼッフル③焼付塗料変性PFPE パーフルオロアルキル化合物変性TFE塗料 低分子量PTFE粉体フッ素樹脂塗料

指紋付着防止撥水・撥油性

耐候・耐食性長寿命

低摩擦係数

耐摩耗、非粘着耐食性

表面機能材料と表面改質技術基材表面にフッ素材料の特性を付与するための、様 な々処理・加工技術とそれに適した材料がある。①フッ素樹脂フィルムの接着②フッ素樹脂によるロトライニング・ルーズライニング

水 油

Na ga oテクノロジー・イノベーションセンター高機能材料グループリーダー主席技師杉山明平

フッ素の強みである「表面機能化技術」で高機能商品の開発を目指します。一緒に新たな価値を世の中に提供しませんか。

「フッ素」の

フッ素化合物がその特性を最大に発揮する分野の1つが表面加工。ユニダインはフッ素の撥水・撥油機能を、ルブロンは摩擦力の小ささを、ゼッフルは紫外線や塩水、酸に強いという耐候性を生かし、それぞれ塗料などとして使われる。

皮脂を弾くオプツールは、基材への指紋や汚れの付着を防止するとともに、それらを除去しやすいうえ、低摩擦で滑り効果が高い。ダイキンが独自に開発した特殊な構造を持ち、従来の防汚コーティング剤より非常に高い効果を発揮する。

フッ素化学(ケミストリー)からフッ素科学(サイエンス)への伸展を目指して、スタッフとの打ち合わせにも熱が入る青山。「考えたり話し合ったりすることはもちろん重要ですが、やってみないと分からないことも多い。まず手を動かしてみることが大切だと思います」と語る。

皮脂

タッチパネル表面

皮脂基材 基材

皮脂の層が基材に引きつけられ、基材に多くの皮脂が残る。

<防汚処理なし>

(指を離したとき)

基材 基材

防汚処理表面は、皮脂を弾くので、皮脂が基材表面で弾かれ、基材に皮脂が残りにくい。

<防汚処理あり>

(指を離したとき)指紋付着防止処理剤

皮脂

皮膚

皮膚

皮脂皮膚

皮膚

オプツールによる指紋付着防止の原理●オプツールによる指紋付着防止の原理

●表面機能材料と表面改質技術

応の機器からの施工設備の変更が不要という利点があったのだ。微燃性が問題視されたが、実際には

基材表面にフッ素材料の特性を付与するための、様々な処理・加工技術とそれに適した材料がある。

フッ素の特性が協創で引き出されて大きな市場を生み出すことも

2 Challenge 2017 Vol. 022 Challenge 2017 Vol. 02 22

うちょっと外に出して失敗させていかないと、と思いますね。皆、これでいいですか?あれでいいですか?と、まず正解を求めてくる傾向が強いから。天 石橋を叩いてね。杉 そうじゃなくて、いっぺん他流試合をして学んで来いや、っていう感じ。怒られて帰ってきても、次どうしようか、と考えて、また挑戦した方がいいのに、なんだか最初から逃げてかかっているというか。それがもどかしいことがありますね。天 怒られるのが嫌なんでしょうね。松 会社の規模がでかくなったのもあるんでしょうね。僕らが若い頃はまだ小さかったから、失敗することは当然、みたいな感じだった。藪 「プライバシー」とか「パワハラ」なんて言葉が一人歩きしすぎているような気もします。部下が営業先に行って失礼なことをしてきておきながら、「僕は言われた通りやってきただけです」と言い訳して、謝りに行くのは上司。どこの会社もそうみたい。もう一回行って、また怒られて、何回でも食らいついてくれば、相手も本気で教えてやろうか、世話を焼いてあげようか、となる。今の状態では世話を焼く気も起こらない。市場で育ててもらうこともできないと思う。天 松井さんのところは、外の力も借りていろいろしかけ始めているでしょう?今まで付き合ったこともない相手だから、失敗のリスクを多分にはらみながら進めている。そういうのもひとつの刺激、変化のきっかけになるんじゃないかと思います。松 うまく成功したいと思っていますけどね(笑)。今、一番ドキドキしているのは、やってみるのが自分ではなくて、部下だということです。

今までよりすごく緊張感があります(笑)自分がやるんだったら最後はなんとかするんだけど。

一緒にやることで、ブラック ボックスの中が見えてくる

杉 うちのデフロスト(霜取り)について言うと、これまでは化学の方から「こんな材料がある」と出していたけれど、それを企業内に限定せずに、空調の課題に応えるためにサプライチェーンごと全体で新たに取り組もうかと。それがどう繋がるか、まだわからないけれど、オールダイキンとサプライメーカーとを取り込むみたいな場は作れるだろうと思います。天 イメージはあるんですよね。杉 スピードも上がる。今までは自分たちで評価して、また何かをして答えを出していた。牛歩みたいに。それが、製品が目指すものを共有し、加工部門は同時進行で開発し、こちらは材料を開発する。空調側は評価をする。そうやってスピードが上げられるだろうと思う。従来のやり方では、エンドユーザーに持っていくのに、その間の流れがわからないブラックボックスになっていた。ここまでつなげて一緒にやれるのは、そばに空調がいるからです。松 デフロストって、空調からしたら夢の技術ですよね。デフロストが解決できたら大きい。今までは化学が提案してきた材料を評価して、使える、使えないという返し方をしていたのを、評価の場面にまで化学が入ってやるので、もっと具体的に、何が良かったか悪かったかわかる。藪 たとえば4つ評価しましたという世界だったのが、一緒にやることで、評価は4つあるけれど、ここをもうちょっと変えたら1’も2’も、あ

テクノロジー・イノベーションセンター高機能材料グループリーダー主席技師杉山明平化学事業部を経て、低GWP冷媒ガス開発主任研究員。表面機能、フィルムに関する新機能材料の開発、用途開発に向けた基盤技術力の高度化や空調との協創開発に取り組む。

テクノロジー・イノベーションセンターZEBエネマネグループリーダー主席技師松井伸樹発電、蓄エネ、エネルギー搬送技術開発を経て、近年はAI、IoTまで。エネルギーソリューション事業立ち上げに必要となる技術戦略立案・技術開発・事業化企画などに幅広く取り組む。

テクノロジー・イノベーションセンターIAQ技術グループリーダー主任技師薮 知宏機械技術研究所、空調技術研究所を経て空調生産本部に。マルチ商品グループ主任技師、重要商品開発テーマプロジェクトリーダー主任技師などを経てIAQ技術グループリーダー主任技師として活躍。

藪 この1年は外から見学にも来ていただき、いろいろ話を聞いて刺激を受けました。今後は自分たちが出向いて、自分たちだけでは解決できないものの答を探しにいかなければならない。仕事は上から落ちてくるもの、という姿勢の人もまだ多いし。天野(以下 天) 時代背景として、ものづくりとか技術に求められる役割分担がどんどん微小になって、目的が遠くなっているという現状もあると思う。ただ、オープンイノベーションをして外の人と話をしようとするなら、「何がやりたいのか」を持っていないと話はできない。次は、何がやりたいのかを一人一人が持って出ていけるかたちにしないといけないですよね。松井(以下 松) それがないとま

ずいですよね。天 ないわけじゃないと思うんです。特にZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)とか、エネルギーに関わるところ、空気空間に関わるところは非常に重要なので、アイデアとしてこんなのをやりたいというものは少なからずある。問題はそれが小粒なところ。ほんとうにそんなものがいるの?というスケールのものもある気がする。こんな面白いものを集めて、こういう世界を作りたい、こういう価値を提供したい、ともうちょっと大きなものにしてから出ていかないと。松 外と協創しようという時には2つの側面が大事だと思います。大きい話は確かに必要。世界観というか、これをやることでダイキンとしてど

こまでのことをやりたいのか。もっとデカく言ったら世界をどうしたいか、みたいな話は1つ必要。だけど、大きすぎても組みようがない。具体的にどうするのかという2つ目の側面も必要だと思う。たとえば、「ネットに繋げてこんないいサービスがしたい」と言っても、「具体的に何がしたいですか」と問われると「うーん」というのでは非常にまずい。新しいコンテンツを考えなきゃいけないと言うのなら、もうちょっと具体的な想像力を持って、今、自分がここにいて、何に困っているのかが明確にできないと、外と組みようもない。

最初から正解を求めないで もっと失敗したほうがいいよね

杉山(以下 杉) 若い人たちをも

テクノロジー・イノベーション戦略室担当課長(現・経営企画室技術企画担当課長)天野賢二環境技術研究所にて圧縮機の技術開発に従事。研究企画調査・オープンイノベーションの体制作りに取り組み、TIC開所後、戦略室にて新価値創造に向けた外部協創を実行。「課題解決と新価値創造の両輪で協創を進めます」

イノベーションに挑戦する技術を実効性あるビジネスに

オープンして1年が経ち、TICは2万人の来訪者を迎え、さまざまな刺激を受けた。けれども、ここからが正念場。グループリーダーたちが、その現状と夢を熱く語った。

o座談会

るいは3’も使えるかもしれない、ということができるようになってくる。

究極のサービスとは、個 の々お客さまの要望に応えること

松 材料だけを作っているのではなくて、一緒にこのデフロスト組織を作っているというイメージになって

2 Challenge 2017 Vol. 022 Challenge 2017 Vol. 02 2727

いというコンセプトをそこに投げると、それに対して、投稿者たちがわーっと提案していく。メンターが必要だけれど。初めての取り組みとして試してみたんです。藪 中には無責任な人もいるけど、ブラッシュアップしていく過程で抜けていく。コンセプトの出口は、社内だけでやっていた時より完成度が高い。ただ、それを技術に落とすのは僕らの仕事。可能性があるところまで展開したら、そこに技術をつけて、本当にビジネスになるか、社内でやるのか外でやるのかも含めて、僕らが練り上げていかなければ。天 ホームページで公開していますが、ひとつは「移動中でも快適な空間を」。たとえば移動のバスの中で、眠りたくてアイマスクも耳栓もしたけれど、においはどうにもできない。移動中でも快適に眠れるように、パーソナルな空間を実現して欲しい。もっと良くできないか考えていく。もうひとつは「空気でお風呂に入ったような感覚」。「AIR BATH」って名前ですが、横たわって良い空気が来ていたら、心身状態がすごく良くなって、リフレッシュできる。お風呂に入ったようなリラックス感が得られる。それを空気でできないかというコンセプト。アイデアは、僕らだけでやるよりはるかにきれい

に合わせたい。人間はある意味で嘘つきで、体調が一番正直。生体情報に合わせてコントロールしましょうというのが、空調の出口だと思います。たとえば僕の年齢なら、自分の意志で暑さと涼しさを調整すればいいけれど、動物とかお年寄り、赤ちゃんは意志を発することができない。そういう人たちに優しい空調にするために、センサーでコントロールできたらいいし、そういう可能性はある。ストレス状態もわかる。健康診断にメンタルチェックが入るような時代なので、簡易なセンサーで様々に使えたらいいよね、という展開まである。天 エアコンとは関係ない分野にも展開の可能性があるよね。藪 もっと大きく言ったら、移動中の車とかバスで、居眠り運転だけでなく、過労などといったストレス状態がつかめずに運転させてしまっているようなケースにも、そのストレスがわかったり、ドライバーが眠くなっている、なんてこともわかればいい。人間は寝ることがすべての元なので、それをちゃんとコントロールしてあげれば、心身ともに健康になる。眠ることの技術をしっかり作っていかなければ、と思っています。

なかなか「儲かるネタ」はないけどちょっと考え方を変えよう

天 そういう意味では、生体のセンシングと空気、空間のビジネスの間はそんなに離れていない。人の1日の状態がわかっていたら、それぞれのシーンや場所で、人のストレスの状態とか疲労度がわかる。それを軸にして、違うことを提供していけるはず。もっとこういうことができる、という可能性を模索したいですよね。藪 最後は牛と馬をやりたいですね

(笑)JRAの馬のストレスを測れれば、大金持ちになれますやん(笑)あとはおいしい牛肉も。松 牧畜チームか(笑)アグリグループ(笑)天 温度そのものは牛さんの生育状況にもかかわってくるし。松 以前、真顔で鶏の卵の洗浄器を作ってくれと言われたこともあります。潜水艦用の空調を作れと言われたこともあるし。藪 南極の昭和基地に空調を、とか。松 スペースシャトルに載せる除湿器を作れという提案もありましたよ。なかなか「儲かるネタ」はない(笑)天 ちょっと考え方を変えなければとも思う。ニーズが細かくなってきているから、ネタが小粒になってきている気がする。個別のネタで「売り上げ1億の新ビジネス」と言っても、かなりしんどい。様々な取り組みを通して何が出来ているかを大きくとらえ直すことで新事業を考えなければいけない。

「Wemake」のコンセプトを技術に落とすのは僕らの仕事

天 ネットを通じてアイデアやデザインを投稿してもらって、みんなでブラッシュアップしようという「We make」というチャンネルがあるんです。こういうことをやりた

o座談会

きている。材料を作っている方も言い分があると思う。もっとこういう使い方ができるのではないか、こういう条件を抜いてくれたら使えるじゃないか、と。これまでのやり方だとそれがわからなかった。杉 そうですね。壁があった。松 一緒にやることで、もっとこういうやり方もあるんじゃないか、と議論ができるのは良いことだと思う。天 物理的にコミュニケーションの距離が近くなっているのがいいよね。一緒にいるだけで、全然スピードが違う。それはたぶん、進めようとしている外部との協創につながっていく。松 僕らがやろうとしているのは空調機で、必ず室内機と室外機というネットワークで繋がっている。これを、何にでも繋がる新しいネットワークに構築しよう、そのデータを使って、新しいサービスをしようと考えている。サービスでは、データを使って、きめ細かくお客さまの建物に合った空調システムを提案することが大事。流れ作業で作るとか、工場でカスタマイズして出してしまえ、というのではなく、実際の使われ方を遠隔で見ながら最適運用するとか、センサー情報も入れて最適に動かしましょうとか。もっと言うとクラウドのシステムを作らなきゃいけない。全体構想があまりにデカすぎて単独では無理だから、通信はよその部署から、センサーもデータ分析もよそと組んでみようとか、そういう動きにはなってきています。糸を引いている私自身が、糸が多すぎてわけがわからなくなっているくらい(笑)藪 ちょっとうらやましい。空調周辺をやっていると、みんな否が応でもやってくれる。受け口はわかって

いるから。うちの部署では、その受け口がないところを作っていかないといけないところに一番パワーがいる。松 うちも同じようなもんですよ。いつも新しい通信インフラを作っていますもん。それは、今までの通信インフラを捨てることなので、非常に軋轢がある。過去の研究所では、できることを積み上げてやろうという動きだったし、そうでないと僕らが発信しても誰も聞いてくれない状況だった。今は、TICはハブの中心だと言われているので、僕らは全体のストラテジーを発信しなければならない。藪 前と比較すると、やりやすくなっていると思うけど。松 大それたことをきちんと言えるようになったし、言わなきゃいけなくなっているという感じ。そこに協創がくっついてきている。協創のために協創しているのではなく、もうバルーンを揚げちゃったので、やりきらなければいけないよね。

人間は嘘をつくけど    体調は一番正直です

松 このTICの建物の設備をやっている時に、うまく運用するとすごく省エネになるところがわかってきた。一般的な空調でも、コントロール次第で良くなる部分ってすごくあ

る。そのコントロールをするために、信じられないほど複雑なシステムを組まなくてはいけないこともわかった。お互いがしゃべり合える通信ネットワークになっていないために、間に翻訳機を死ぬほどかませて、その上で新しいコントローラをつけて、束ねるためにまたソフトウェアを構築するとか。システムは良いけれど、これはありえないという部分もある。TICの建物自体が実験だった。皆 そうそう。松 ものすごく変わった整備のさせ方しているので、最初の3カ月はむちゃくちゃでした(笑)藪 やっとやり方がわかってきたという感じでしょ。コントロールから管理からいろいろ。松 建物を建てる時からずっと密着していたから勉強にはなりました。天 新しい取り組みの芽生えは?藪 うちでは生体情報を計るエアリトモがあり、それで面白いことができそうです。オープンにしたら引き合いがきて。片端からどういうことに使いたいのかフィールド・モニターして、共同研究しましょうという案件を選別しながらやっています。天 エアリトモを元に、どういう世界を実現させようとしているの?藪 いろいろ可能性がある。最後はリモコンをなくして、その人の体調

■ We make によるNEXT AIR PROJECT by ダイキン工業Air Capsuleは、乗り物での長時間移動やベッドの中でも、顔周りを清浄で心安らぐ香りで包めれば、嗅覚の刺激による無意識の睡眠妨害を緩和できるのではないか、と発想された。AIR BATHは、空気で再現したお風呂と心地よい風による癒し効果で精神的疲労を回復させ、うつ病を予防しようという提案だ。

今までは「研究所」だったのでコツコツ積み上げていけばよかったけど、TICになった今は、風呂敷を広げざるを得ないよね、などと4人の会話は弾んだ。

o座談会

2 Challenge 2017 Vol. 022 Challenge 2017 Vol. 02 22

に仕上がっている。ただ、作る段階になると、僕らにない技術も当然ある。今度は外のパートナーシップを探しに行かねばと。

現場の困り事をすくい上げて新しい仕組みを作りたい

藪 ヘルスケアハッカソンは、実務者が中心のグループでアイデア出しをした。ダイキンの最新技術をつかって、新しい着眼点をもつエンジニアやデザイナーと新しい仕組みを構築していこうとしています。天 現場の困り事をよくわかってい

るのか、はまた別の知恵が必要になってくる。ハッカソンみたいな取り組みだけで成功するかというと難しいけど、単発で止めないようにしないといけないなと思っています。藪 実務者たちのネットワークができたので、すぐに聞きにいけるところができたのはよかったよね。次からは気軽に相談できる実務者がいるのは大きい。今までは実務者に行きつかなかったから。

感性を磨かないと    情報は目の前をスルーする

天 結構なイノベーションですよね、人脈というのは。松 うちのグループには、空調の現場の工事とかに入っている人が多かったので、わかることが結構いっぱいある。皆が言っていたのはそういうことだったのか、みたいな気づきもある。ただ、現場の声だけを拾い上げちゃうと、それぞれすごく小さいことなので、それを本質的な問題に翻訳しなきゃいけないですよね。藪 オープンイノベーションで何かを生み出そうとするなら、個人の人間性を磨かなきゃいけない。難しいけど。そうすれば、自分の中でいろんなことが消化できるでしょう?松 感性と、あとはやってみるというのも重要ですよね。藪 情報が入ってきても、自分の仕事に関係ないからと流してしまうと、それは勝手にスルーしていく。こう考えたらこう使えるやないかってことがいっぱいあるのに。個人の感性が鍵。いろいろなものに触れて。杉 自分の目の前のものを解決することばかり聞いてくる人も多い。想像力を膨らますような質問がいいよね。感性は体験の集積だと思うし。天 最近の若者の方がお金を持って

いるから、経験の数としては、僕らが触れていないものを持っていたりもする。フックは効いている。でもアウトプットしていない。出すには労力がいるから。考えていないわけではないけれど、出すことに慣れていないんだと思う。僕のチームでは「ボケろ」と言っている。自分たちにはない異質なものに触れて、それがダイキンのビジネスと掛け合わさったらどんなものができるのか、が大事。「ボケろ」と言ってあげることで、ダイキンと外のものが引っかかる範囲を広げるようなイメージです。藪 予測のつくことばかり言わないで、その外を言いなさいと僕は言っている。意外だなと思うようなことをアイデアにして言葉にしろと。松 会社が求めているようなものとは違うものを、思い切ってぶつけてみろ、というイメージですかね。それが、案外ハマるかもしれないぞ、と。天 そうした方が広がるかなと思いますね。情報を受け取る時の感受性も変わるのかなと思う。杉 僕はどちらかと言うと、そういうフックをかけるような人のところに行ってこい、と言っています。ただし、誰に聞いたらいいのか、という人はチョイスして行かせますけど。

これからはゴールのための オープンイノベーションだ

松 最近はネタに困っているというよりは、出す方に困っている。面白そうじゃない、という話はいっぱい転がるようになってきた。一生AIなんて関係なさそうな人が、AIの講習会に来てるとか(笑)。ただ、それが形になって出てきていないので、みんなピンと来ていない。出す方のオープンイノベーションも考えな

特に化学と空調なんて、もっと他人の知識を活用したら、スピードは速まると思うよね…

る人たちですよね。藪 僕らも現場に出て行ってヒアリングするけれど、現場の人たちが困っている本音の部分は一朝一夕ではわからない。だから、30代とか40代の実務をやっている人たちが集ったハッカソングループと一緒に、ダイキンの空気、空間のノウハウを活かして、アイデア出しあってみませんかと呼びかけた。松 実際に現場で働いているお医者さんとか看護師さんとか。藪 そこをベースに官庁で法規制をやっている人とかいろいろな人が集まった。自分のところだけだとしんどいけれど、実務者同士が連携すればできるということがわかって来た。天 現場の困り事は出てくるけど、そこにどうソリューションを提供す

o座談会

かなければと考えて、動いているんです。松 ちなみに、マイクロ水力発電の沢田さんは、マイクロ水力発電の前にインバータポンプを作られていた。その道順を逆回ししたら発電できるやん、という発想。あれはよくビジネスにはまりましたよね。藪 社内でも、そんなことをしてるなんて知らない人もいますよね。天 まだまだ技術が社内で協創できるところはあるでしょうね。松 沢田さんの作ったものを売る人たちがうちのグループにいますが、売る人たちは社外協創なんですよ。ビジネスにどうはめるか、が課題。今はニッチでもう一段、二段、案を大きくするものがいるでしょうね。杉 事業につなげよう思ったらすごくパワーが必要だけどね。松 やんわり成功していこう(笑)藪 さすがに成功事例を作らないと。天 今年は、作った技術がビジネスとして実効性のありうるものになるか、かたちにしないといけないよね。

きゃいけないなと思う。こんなエアコンを作りましょう、というのなら皆やり方はわかっているし、日程も読める。どんな資料を読んだらいいかもわかるけれど、例えば牛や馬を育てる技術で面白そうなこと考えました、と言ってもピンと来ない。そもそもどうやって売るねん?と(笑)ゴールのためのオープンイノベーションを考えないといけないよね。藪 シーズ探しができていないか。松 技術のネタですよね。天 ソフトウェアは急に作れない。僕らだけではできない部分があって、それを一緒にやっていける実務のパートナーとのお付き合いが不可欠。松 外と一緒に、という発想はなかったけれど、多岐にわたることを手がけてどうにもならなくなったら、初めて外と、という話になる。それに慣れていかなきゃいけないんだと思う。天 やるかやらないかを考えるのに時間を使うより、一回やってみよう。

フッ素にこだわらず、世の中で求められている機能を提案

杉 価値創造、と言われたらみんな固まってしまったけど、次第に、お客さんに言われたことをやっていたらいいでしょ、という体質が、ちょっとずつ解れてきた。やらざるを得ないというのはネガティブに聞こえるけれど、横の環境が変わって追い詰められたら、考え方はだいぶ変わってきた。僕はTICに来られてよかったと思っています。結果はまだないけれど、皆と仕事ができるのが楽しいし。天 一緒に考える機会は増えているよ、杉山さんのチームは特に。杉 僕は、フッ素にはこだわらないでいきたいと思っています。だって、

フッ素だけで行っていても勝てるわけがない。僕の持論はソリューション。フッ素は表面機能で、指紋がつかない、汚れない、撥水する。それはあるけれど、むしろ、いろいろな課題に対して提案できるものは何なのかをもっと学んで、こう使ったらこういう価値が出ますとか、技術をお客さまにフィットするような提案型に向かわなければ。世の中では、どういう機能が求められているのか、それを考えていかなければ、と思います。僕らは化学を勉強してきたので、フッ素にこだわらなくていい。他のメーカーの技術を見極めて、空調に紹介することもできるはずですし。藪 そういうところからソリューションが生まれるでしょうね。

技術は、社内で協創できる 余地がまだまだある

杉 僕らは、空調のふりをして会社に入っています(笑)けど、ほかの化学メーカーの動向も知っていますから。松 それはいいよね(笑)杉 例えば、デフロストもフッ素でいこうと始まっているけれど、結局は氷をいかにつけないかということ。氷を成長させないためには、どんな表面構造にすればいいのか考えて、それを作るためにはどのメーカーをつかまえてきたらいいかと探ることもできる。それを掴んで空調に渡せば、新しい価値が生まれるし、その技術を獲得できる。フッ素をひとつのきっかけには使いますが、フッ素だけで応えようとしていたら、そこから身動きが取れなくなってしまう。お客さまに応えるためにはどんな技術がいるのかを見て、新たに横に広げていく技術を作ってい

Na ga oテクノロジー・イノベーションセンター担当部長/Challenge 編集長東 研一

座談会の

協創のパートナー探しで最も重要なのは、自分たちの魅力度を上げようとする姿勢にあると痛感しています。お問い合せは

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PICK UP !

新たな価値観を吹き込む 開発の現地化( )海外ルポ

30 Challenge 2017 Vol. 0230 Challenge 2017 Vol. 02 3131

ヨーロッパ

アジア・オセアニア

中国

日本

テクノロジー・イノベーションセンター

アメリカ

:研究・開発部門のある拠点

拠点で生産

拠点で開発

世界

70

10

送り込む仕組み。米国の住宅用はユニット化された「ユニタリーエアコン」とも呼ばれる。一方で、日本は、部屋ごとに室外機と室内機を備える「ルームエアコン(個別空調方式)」。ダクトがないのでダクトレスと呼ばれる。

北米も省エネルギー性を追求する新しい潮流3つの研究拠点で、差別化商品の開発を推進

現地拠点戦略を進める背景には、大量消費社会のアメリカにも省エネルギー性や快適性を重視する意識が広がるという、新たな潮流がある。省エネ性が高く、静穏なダクトレスは20%以上のペースで成長し、ダイキンのVRV(ビル用マルチエアコン)、日本式のルームエア

コンの需要も伸びる。インバータ搭載のダクトレスは、ダクトに比べ30%近く省エネ効果が高いことが実証されている。長年、ダイキンが追求してきた技術が、北米でも評価されつつあることの証左でもある。ただ、既存のコア技術だけにあぐらをかいているわけにはいかない。新たな機能を持った差別化商品なしには生き残れないからだ。それには、社会、人間の働き方などを大きく変化させるAI(人工知能)や、「IoT」などの先端技術に基づく商品開発が不可欠だ。そのAIやIoTを担うのが米カリフォルニア州サンノゼにある「シリコンバレー・テクノロジーオフィス」(STO)。2015年にオープンした「テクノロジー・イ

a n on on ng ( hangha) Co. .大金空調(上海)有限公司

I IN IN T IE (T I N ) T .ダイキン インダストリー タイランド社

a n e ea h e elo en ala a n. h .ダイキン R&D マレーシア社

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erse s re ort

2017年5月24日。アメリカ南東部テキサス州ヒューストン郊外で、巨大なハイテク工場「ダイキン・テキサス・テクノロジーパーク」(DTTP)の開業式典が行われた。敷地面積は200万平方メートル、東京ドーム43個分。工場の延床面積は37万平方メートル。全米ではボーイングの工場に次ぐ広さを誇る。2012年にダイキンが傘下に収めた米随一の家庭用空調メーカー「グッドマン・グローバル」の生産拠点となる。ヒューストンは同社の発祥の地でもあり、全米に分散した4つの工場・物流拠点を集約。すべてのものがネットにつながる「IoT」技術も採用され、作業工程の管理などがスマートフォンでも監視できる。この工場

と車の両輪となって差別化商品の開発・生産を進めていくのが、併設される「北米R&Dセンター」だ。ここでは、グッドマンが得意とする住宅ユニタリー空調機、付加価値を高めた高機能商品の開発を担うだけではない。全米で主流の「ダクト方式エアコン」の新たな商品開発と、ダイキンが得意とする「ダクトレス方式」の普及拡大。双方を見据えた世界初のイノベーション拠点となる。ダイキンのコア技術である「インバータ」を搭載し、アメリカ人のニーズ、好みに合わせながらも長期的には「ダイキン」ブランドを浸透させていく。ダクト方式は、室外機と室内機が一体となった設備が地下などに設置され、太い送風管(ダクト)で各部屋に

世界に90か所以上の生産拠点を抱え、150か国以上で事業展開するダイキン。今や海外販売比率は75%を超える。さらなるグローバル展開を進める上で力を入れるのが、「設計・開発の現地化」だ。空調設備に対するニーズは地域によって異なり、文化や価値観に適応した商品開発が生き残りには不可欠だからだ。そうした商品開発を進める開発拠点が欧州、アジアなど各地で広がるが、中でも空調設備の最大市場である北米では、R&Dの一大拠点が胎動し始めた。米国シェアNO.1達成に向け、牽引役と期待される拠点の一端を紹介する。

ro e olo o tio e ter to t e orl

a n E o ean e elo en Cen eダイキン ヨーロッパ・デベロップメントセンター

a n In e C e h e l . .o.チェコ インダストリー チェコ共和国社

a n on on ng In a . .ダイキン エアコンディショニング インディア社

アプライド開発センターDaikin Applied Development Center

ダイキン・テキサス・テクノロジーパークDaikin Texas Technology Park

Silicon Valley Technology Officeシリコンバレー・テクノロジーオフィス

32 Challenge 2017 Vol. 0232 Challenge 2017 Vol. 02 3333

制御」が求められるのに対し、中国は「冷風をなるべく遠くへ届ける制御」のニーズが高い。二つ目、インバータなど「コア技術のさらなる発展」だ。競争に勝てる基幹部品、圧縮機、冷媒制御技術などを常に更新していかなくてはならない。そして三つ目は「人材育成」。これらの実現を目指す推進役の一つが今年6月大阪大学と結んだ「情報科学分野を中心とした包括連携」だ。AIやIoTなどの基礎研究、スマート工場などシステム構築などのほか、人材育成も進める。10年間で56億円が阪大に提供される大型の大学との協創プロジェクト。北米は、年間4兆円を超える世界最大の空調市場。ダイキンのシェアは、現在全米4位。「2020年までに北米首位を目指す」(井上礼之会長)という目標に向け着実に地歩を固めている。今回のDTTP操業開始、R&Dセンターの創設は、こうした流れをさらに加速させる起爆剤となる。「過去の失敗を教訓に、新たな文化や価値観を吹き込む」。ダイキンのあくなき探求と米国での挑戦はこれからが正念場だ。

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2009年5月開設。07年に獲得した空調メーカー、マッケイ・インターナショナル社の持つアプライド空調技術と、ダイキンのインバータ技術等を融合させることで、差別化商品の開発を加速化させた。

2017年5月開設。空調大手グッドマン・グローバルを買収し、本格的にアメリカの住宅空調市場に参入した。ボーイング工場に次ぐ巨大工場で、住宅用から業務用まで幅広くエアコンの生産・開発を進める。

2017 Vol. 02

人と人が創る科学の夢e olo o tio e ter

編集長 ● 東 研一企画・編集 ● 小林 淳 木下 悠(ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター) 大槻 茂(株式会社広報戦略研究所) 株式会社タミワオフィス執筆 ● 大槻 茂、藤原規洋、玉村 治、民輪めぐみ、上村久留美、関根くるみ写真撮影 ● 吉川忠久、村川荘兵衛デザイン協力 ● 水田デザイン写真協力 ● 株式会社アフロ、フォトライブラリー印刷所 ● 大日本印刷株式会社

「Challenge」という英単語から「lle」を抜くと、「Change」という英単語が現れます。「挑戦に次ぐ挑戦から変革を起こす」を意味するこの誌名は、ここTICが目指す姿そのものであり、当社の社風を表すものでもあります。写真はTICの外観。

表紙デザイン/坂川朱音(krran)撮影/吉川忠久

Con en巻頭インタビュー

根岸英一 2010年ノーベル化学賞受賞 ……01「過去」に執着しすぎずに、挑戦すべき新しいテーマを自らキャッチする能力を身につけてほしい新分野にChallengeTIC協創イノベーション ……02新たな技術開発テーマで協創をめざすTIC最新研究 ……05

特集人類の知の手段「ねむる」 ……08睡眠への科学的アプローチの進化TICフェロー TICセンター長坂田一郎 × 米田裕二 対談 ……14TICは「Why」と「What」を追求する研究者の群像②マイクロ水力発電システム開発統括 専任部長 沢田祐造 ……16社会貢献とビジネスを両立させたい。マイクロ水力発電は社内「協創」の賜物ダイキンを支える技術②冷媒としての「フッ素」とその展開 ……20グループリーダーたちが熱く語る技術を実効性あるビジネスに ……24イノベーションに挑戦する新たな価値観を吹き込む 開発の現地化海外ルポ ……30

『Challengeという誌名について』

TICでは、「新たな価値」を生み出すための協創相手を求めています。お問い合せ、ご連絡は [email protected] まで。

ノベーションセンター」(TIC)の分室という位置づけ。世界のICT技術者が集うシリコンバレーに近いという立地を生かし、最新先端情報を手に入れ、有能な人材によるイノベーションを実現する拠点である。ここで生まれた技術は、DTTPなどで商品開発に応用される。ダイキンには、もう一つカナダと接するミネソタ州ミネアポリスに研究開発拠点「アプライド開発センター」がある。2009年に、ダイキン傘下で、米業務用エアコン大手の「マッケイ」と共同で開設。巨大な工場、モールなどに大型設備に合った空調設備を開発する、世界的な発信基地となっている。北米R&Dセンター、STO、アプライド開発センターは、ダイキンにとって3度目となる米国進出の成功のカギを握る。ダイキンは、1981年と1998年の2回、得意のインバータを搭載したダクトレスの家庭用エアコン、業務用エアコンを全米に売りこもうと、米国に進出したが、「ダクト方式主流」という文化や販売網の弱さの壁に撤退を余儀なくされた。3度目の進出は、2005年、ダイキンエアコンディショニングアメリカズ社設立から始まった。07年には、マッ

ケイを傘下に持つ、マレーシアの「OYLインダストリーズ」を買収。12年にはグッドマンを買収するなど戦略的なM&Aによって、全米にダイキン・ブランドを注入する橋頭堡が確保された。同時に研究開発にも力を入れ、グッドマン・ブランドとその販売力などの相乗効果で、全米における空調の売り上げは着実に伸び、2016年は、12年に比べ、約5倍の5134億円に膨れあがり、すでに日本国内市場(4317億円)を大きく凌駕した。

協創とグローバル展開の司令塔はTIC   AI、IoTの新価値を生み出し世界に

しかし、現地化、グローバル展開で忘れてならないのは、日本からのサポートの重要性。その技術の司令塔は、TICが担う。国内外の多方面のパートナーと協創し、「夢のある商品づくり」「差別性のある技術」「新たな価値作り」を生み出すマザー拠点として、海外の拠点も支える存在だ。700人の研究者を抱えるTICの役割の一つは、地域性を生かしながらも差別化を図る「ベースモデル開発」。エアコンを例にとると、日本は「人に風を当てない気流

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2017年5月開設。IoT、AI技術強化のために開設されたが、成功のためには、グローバル拠点やマザー拠点(TIC)も含め、新たな技術探索と技術を事業に結びつける人材の増強が必要だ。技術進展がとにかく速いという北米で、最先端の技術を吸収しながら、新たな価値づくりに挑戦する、コアパーソンの獲得がカギになるだろう。

アメリカの住宅の空調は日本のルームエアコン(個別式)と異なり、セントラル式が主流。「つけっぱなし」状態が通常で、誰もいない時でさえ稼動させることも多く、省エネ時代を逆行しているとも言える。この習慣をどう変えていけるかが、空調発祥の地であるアメリカでの成功のカギだろう。

IoT、AIなどの先端技術の模索と人材獲得がカギとなる

テクノロジー・イノベーションセンター 副センター長(IoT・AI担当)都島良久

ミネソタ州

北米をはじめ世界で進める現地化を推進するには、司令塔となるTICの技術力、発信力、求心力などの役割がきわめて大きいです。AIやIoTによってどこまで新たな価値を生み出せるか。人材確保を含めて、これからやることは多いです。

カリフォルニア州

テキサス州