どうなる?『働き方改革』どうなる?『働き方改革』...
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どうなる?『働き方改革』~改革の内容と実務的留意点~
第1章 時間外労働の上限規制
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第1 現行制度の概観と課題
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第1 現行制度の概観と課題
①時間外労働の原則禁止
労働基準法では,労働時間は原則として
1日8時間・1週40時間以内(法定労働時間)
これを超えるためには,
・労基法36条に基づく労使協定(いわゆる三六協定)の締結
・所轄労働基準監督署長への届出が必要
三六協定では,「時間外労働を行う業務の種類」「時間外労働の上限」等を決める必要
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第1 現行制度の概観と課題
②三六協定に基づく時間外労働の上限
※ただし,限度時間を超えることのできる回数,限度時間を超える一定の時間などを定めた「特別条項付き協定」を締結すれば,上記限度基準を上回る時間外労働をさせることが可能。
期間 限度基準 期間 限度基準
1日 定めなし 1か月 45時間
1週間 15時間 2か月 81時間
2週間 27時間 3か月 120時間
4週間 43時間 1年 360時間
厚生労働大臣の告示
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第1 現行制度の概観と課題
現行制度の課題
罰則による強制力がなく,
特別条項によって上限なく時間外労働を行わせることが可能!
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第2 改正法の内容
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第2 改正法の内容
現行制度
告示による上限
「特別条項」による延長時間の上限不存在
改正法法令による上限※罰則あり
「特別条項」による延長時間の
上限の設定
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※厚生労働省パンフレット「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」(2018年12月掲載)より https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf
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第2 改正法の内容
第2 改正法の内容
法律による原則的上限時間(新労基法36条3・4項)
労働時間を延長して労働させることができる時間の限度時間は,
1か月について45時間 かつ 1年について360時間
※1年単位の変形労働時間制の場合
1か月について42時間かつ 1年について320時間
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第2 改正法の内容
「特別条項」による上限時間(新労基法36条5項)
・時間外労働が1年について720時間
・時間外労働と休日労働の合計が1か月について100時間未満
・時間外労働が1か月45時間( 1年単位の変形労働時間制の場合は42時間)を超えることができるのは,年6か月が限度
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第2 改正法の内容
「特別条項」があっても守らなければならない上限(新労基法36条6項)
・時間外労働と休日労働の合計が1か月について100時間未満
・時間外労働と休日労働の合計の「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」がすべて1か月あたり80時間以内
※違反した場合,6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金
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第2 改正法の内容
施行日と経過措置
・上限規制の施行は2019年4月1日だが,中小事業者に対しては1年間猶予され2020年4月1日からとなる。中小事業者の範囲は,「資本金の額又は出資の総額」と「常時使用する労働者の数」の基準で判断する。なお,事業所単位ではなく企業単位で判断。
・施行に当たっては経過措置が設けられており,2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)以後の期間のみを定めた三六協定に対して上限規制が適用される。
→2019年3月31日を含む期間について定めた三六協定については,その協定の初日から1年間は引き続き有効となり,上限規制は適用されない。
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第3 事例で考える実務的留意点
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事例1
株式会社佃島製作所の代表取締役の佃島と申します。
当社は,工業用機械部品の製造・販売を業とする株式会社であり,事業所は本店所在地1か所のみ,常時使用する労働者の数は25名です。
当社では,2019年2月現在,労働者の過半数代表との間で次のような内容の三六協定を定め,労基署に届け出ています。
そろそろ来年度(2019年4月1日から1年間)の三六協定を締結しようと思うのですが,内容を変更する必要はあるでしょうか?
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時間外労働・休日労働に関する協定届
1日 1か月(毎月1日) 1年(4月1日)
臨時の受注又は納期変更 プレス作業 8時間 5時間 45時間 360時間
臨時の受注又は納期変更 組立て作業 8時間 5時間 45時間 360時間
業務の種類 所定休日 期間
プレス作業
組立て作業
10人
10人
業務の種類
工業用機械部品製造・販売業 (株)佃島製造所本社工場 東京都大田区●●(03-1234-●●●●)
所定労働時間
10人
(特別条項) ただし,通常の生産量を大幅に超える受注が集中し,特に納期がひっ迫したときは,労使の協議を経て,1か月135時間,
1年1080時間まで延長することができる。1か月45時間を超えた場合又は1年360時間を超えた場合の割増賃金率は,25%とする。
10人
労働させることができる休日
並びに始業及び終業の時刻
① 下記②に該当
しない労働者
② 1年単位の変形労働時間
制により労働する労働者
2018年4月1日
から1年間
事業所の所在地(電話番号)事業の種類 事業の名称
期間
延長することができる時間
1日を超える一定の期間(起算日)
2018年4月1日
から1年間
法定休日のうち1か月に3日
始業午前8時,終業午後5時
土曜日,日曜日
祝日
労働者数
(18歳以上)
臨時の受注又は納期変更
臨時の受注又は納期変更
時間外労働をさせる
必要がある具体的事由
休日労働をさせる必要がある具体的事由労働者数
(18歳以上)
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事例1 三六協定に関する新ルールの施行日働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(いわゆる「働き方改革関連法」)
附則第2条(時間外及び休日の労働に係る協定に関する経過措置)第1条の規定による改正後の労働基準法(以下「新労基法」という。)第36条の規定……は,
平成31年4月1日以後の期間のみを定めている協定について適用し,同年3月31日を含む期間を定めている協定については,当該協定に定める期間の初日から起算して1年を経過する日までの間については,なお従前の例による。
附則第3条(中小事業主に対する経過措置)1 中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5000万円,卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人,卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主をいう。……)の事業に係る協定……についての前条の規定の適用については,「平成31年4月1日」とあるのは,「平成32年4月1日」とする。
2~4 (略)
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事例1 三六協定に関する新ルールの施行日「中小事業主」以外の事業主(大企業)は2019年4月1日から,
「中小事業主」は2020年4月1日から,新労基法36条が適用される。
「中小事業主」に当たるか否かの判断基準
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事例1 三六協定に関する新ルールの施行日Q.現在締結中の三六協定の期間が施行前(中小事業主は2020年3月31日)と施行後(同年4月1日)にまたがっている場合,4月1日開始の三六協定を新しく締結し直す必要があるのでしょうか?
A.不要。施行前と施行後にまたがる期間の三六協定を締結している場合には,その初日から1年間に限っては,新ルールの適用が猶予される。
ex. 佃島製作所の三六協定の期間が「2018年10月1日から1年間」だったら…
18/10/1 19/9/31 19/10/1 20/9/30 20/10/1~
現行ルール 新ルール適用
19/3/31 19/4/1 20/3/31 20/4/1
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事例2
来年度の三六協定に関しては,法律上は内容を変更する必要はないということが分かりましたが,今回の「働き方改革」への早期対応のため,内容を新しいルールに則って変更しようと思います。
ただ,当社の主要取引先である中京マシナリーからは,臨時の大量発注や納期変更を頻繁に要求されます。時には,突発的な仕様自体の変更を求められることもあり得ます。これらに対応できるよう,できる限り所定の時間以外で働いてもらえる時間を確保したいのですが,どのような内容の三六協定にするのが望ましいでしょうか?
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事例2 新しい三六協定の内容新労働基準法第36条(時間外及び休日の労働)1 使用者は,当該事業場に,労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合,労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし,厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては,第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず,その協定で定めるところによって労働時間を延長し,又は休日に労働させることができる。
2【新設】 前項の協定においては,次に掲げる事項を定めるものとする。一 この条の規定により労働時間を延長し,又は休日に労働させることができることとされる労働者の範囲
二 対象期間(この条の規定により労働時間を延長し,又は休日に労働させることができる期間をいい,1年間に限るものとする。第4号及び第6項第3号において同じ。)
三 労働時間を延長し,又は休日に労働させることができる場合四 対象期間における1日,1箇月及び1年のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間又は労働させることができる休日の日数
五 労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするために必要な事項として厚生労働省令で定める事項
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事例2 新しい三六協定の内容新労働基準法第36条(時間外及び休日の労働)3【新設】 前項第4号の労働時間を延長して労働させることができる時間は,当該事業場の業務量,時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において,限度時間を超えない時間に限る。
4【新設】 前項の限度時間は,1箇月について45時間及び1年について360時間……とする。
5【新設】 第1項の協定においては,第2項各号に掲げるもののほか,当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第3項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において,1箇月について労働時間を延長して労働させ,及び休日において労働させることができる時間(第2項第4号に関して協定した時間を含め100時間未満の範囲内に限る。)並びに1年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め720時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる。この場合において,第1項の協定に,併せて第2項第2号の対象期間において労働時間を延長して労働させる時間が1箇月について45時間……を超えることができる月数(1年について6箇月以内に限る。)を定めなければならない。
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事例2 新しい三六協定の内容
【一般的な三六協定の内容(新労基法36条2~4項)】
●三六協定で定めるべき事項の法定(同条2項)
※法定労働時間を延長して労働させる場合(時間外労働)と,法定休日に労働させること(休日労働)とは,別個のものとして取り扱う
●時間外労働時間の限度時間(同条3・4項)
労働時間を延長して労働させることができる時間の限度時間は,1か月について45時間,かつ,1年について360時間とする
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事例2 新しい三六協定の内容
【特別条項を定める場合(新労基法36条5項)】
●1か月についての時間外労働時間+休日労働時間の限度
1か月について労働時間を延長して労働させ,及び休日において労働させることができる時間は,100時間未満に限る
●1年についての時間外労働時間の限度
1年について労働時間を延長して労働させることができる時間は,720時間以内に限る
●時間外労働時間の原則(1か月について45時間)を超えることができる月数
1年について6か月以内に限る
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事例2 新しい三六協定の内容来年度(2019年4月1日)以降の佃島製作所の三六協定の例
三六協定の対象期間(36条2項2号)
2019年4月1日~2020年3月31日
時間外労働の原則的上限(36条2項4号)
1日 4時間1月 45時間1年 360時間
休日労働の日数(同上)
月4回
特別条項(
36
条5
項)
特別条項の有無 有り
特別条項の回数 年6回
1か月についての時間外労働時間+休日労働時間の限度
100時間未満
1年についての時間外労働時間の限度
720時間
(36条4項)
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(厚生労働省リーフレット「36協定の記載例(特別条項)」より抜粋)
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(厚生労働省リーフレット「36協定の記載例(特別条項)」より抜粋)
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事例3
当社には,立花・山崎・迫田という3人の従業員がいるのですが,いずれも長時間働かせ過ぎているのではないかと心配です。
3人の2018年度(2018年4月~2019年3月)の時間外労働時間(法定労働時間を延長して労働させた時間)と休日労働時間(法定休日に労働させた時間)は,次のようになる見込みです。
仮に彼らを来年度以降も同様の時間数働かせたとしたら,どのような問題があるでしょうか?
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事例3 時間外労働・休日労働の上限規制新労働基準法第36条(時間外及び休日の労働)6【新設】 使用者は,第1項の協定で定めるところによって労働時間を延長して労働させ,又は休日において労働させる場合であっても,次の各号に掲げる時間について,当該各号に定める要件を満たすものとしなければならない。一 坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務について,1日について労働時間を延長して労働させた時間 2時間を超えないこと。
二 1箇月について労働時間を延長して労働させ,及び休日において労働させた時間 100時間未満であること。
三 対象期間の初日から1箇月ごとに区分した各期間に当該各期間の直前の1箇月,2箇月,3箇月,4箇月及び5箇月の期間を加えたそれぞれの期間における労働時間を延長して労働させ,及び休日において労働させた時間の1箇月当たりの平均時間 80時間を超えないこと。
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事例3 時間外労働・休日労働の上限規制労働基準法第37条(時間外,休日及び深夜の割増賃金)1 使用者が,第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し,又は休日に労働させた場合においては,その時間又はその日の労働については,通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし,当該延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては,その超えた時間の労働については,通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
2~5 (略)
同法第109条次の各号のいずれかに該当する者は,6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
一 ……第32条,第34条,第35条,第36条第6項,第37条……の規定に違反した者二~四 (略)
(現行)同法第138条中小事業主……の事業については,当分の間,第37条第1項ただし書の規定は,適用しない。
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事例3 時間外労働・休日労働の上限規制働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(いわゆる「働き方改革関連法」)
第1条(労働基準法の一部改正)労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)の一部を次のように改正する。第138条を次のように改める。
第138条 削除
附則第1条(施行期日)この法律は,平成31年4月1日から施行する。ただし,次の各号に掲げる規定は,当該各号に
定める日から施行する。一・二 (略)三 第1条中労働基準法第138条の改正規定 平成35年4月1日
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事例3 時間外労働・休日労働の上限規制●労基法36条1~5項に基づいて定められた三六協定の内容に反して時間外労働又は休日労働をさせた場合
→労基法32条又は35条違反として,6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金(同法109条1号)
●三六協定の内容に反していなくても,次の上限規制に反して時間外労働又は休日労働をさせた場合
・単月の時間外労働時間+休日労働時間 100時間未満
・2か月~6か月間の時間外労働時間+休日労働時間の単月平均 80時間以内
→労基法36条6項違反として,6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金(同法109条1号)
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事例3(1)立花氏の場合
時間外労働
休日労働
時間外+休日
4月 20 0 20
5月 20 0 20
6月 20 0 20
7月 20 0 20
8月 20 0 20
9月 20 0 20
10月 70 30 100
11月 20 0 20
12月 20 0 20
1月 20 0 20
2月 20 0 20
3月 20 0 20
年間 265 55 320
単月の時間外労働と休日労働の時間の合計は,100時間未満でなければならない(新労基法36条6項2号)
新労基法36条の規定は,中小企業主については,2020年4月1日以降以後の期間のみを定めている協定について適用される
2020年4月以降,立花氏を単月で100時間以上働かせた場合は,新労基法36条6項2号違反
さらに,2023年4月以降は,時間外労働時間が1か月について60時間を超えた部分(事例では10時間分)に対しては,50パーセント以上の割増賃金を支払わなければならない(同法37条1項但書)
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事例3(2)山崎氏の場合
時間外労働
休日労働
時間外+休日
4月 10 0 10
5月 10 0 10
6月 10 0 10
7月 10 0 10
8月 10 0 10
9月 10 0 10
10月 60 25 85
11月 60 10 70
12月 60 30 90
1月 10 0 10
2月 10 0 10
3月 10 0 10
年間 280 55 335
単月の時間外労働時間+休日労働時間が100時間以上でなくても,その月から遡って2か月間,3か月間,4か月間,5か月間,6か月間のいずれかの月平均時間外労働時間+休日労働時間が80時間以内でなければならない(新労基法36条6項3号)
12月から遡って直近2か月間 (90+70)÷2=80時間 …OK直近3か月間 (90+70+85)÷3=81.7時間 …NG
2020年4月以降,山崎氏を左記のような時間数働かせた場合は,新労基法36条6項3号違反
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事例3(3)迫田氏の場合
時間外労働
休日労働
時間外+休日
4月 0 0 0
5月 0 0 0
6月 0 0 0
7月 0 0 0
8月 0 0 0
9月 50 0 50
10月 50 0 50
11月 50 0 50
12月 50 0 50
1月 50 0 50
2月 50 0 50
3月 50 0 50
年間 350 0 350
新労基法36条6項の上限規制には反しないが,時間外労働時間の原則的上限である「1か月につき45時間」(同法36条4項)を超えて働かせている月数が7回もある
時間外労働時間が1か月45時間を超えることができる月数は,1年について6回以内に限る(同法36条5項後段)
2020年4月以降,迫田氏を左記のような時間数働かせた場合は,三六協定違反(同法32条違反)となる
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