年報:国際本部・留学生相談・指導 2015 · a)...

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年報:国際本部・留学生相談・指導 2015 1 1. 留学生相談室概要(アプローチ、開設日時・場所) 外国人留学生は、育った文化基盤が日本人 の場合と異なるために、多くの場合、成人で ありながら、情報弱者であり、災害弱者であ ることから、社会弱者にならないようにする こと、そして、リスクマネジメントでいう「ハ イリスク」グループに属しているということ を、基本理念において、支援をしてゆく必要 がある。また、成人であるが故、文化変容に おけるアイデンティティのリスクも抱えて 2 おり、日本という異文化において、フルサポ ート、フルサービスというより、自立支援を 念頭におくべきである。 【写真】国際交流バスツアー「埼玉学のすすめ」より 埼玉大学国際本部では、国際本部棟1階に留学生相談室 3 (以下相談室)を開設し、外国 人留学生が直面する生活上の諸問題(異文化適応、進路、日本での在留や住居、対人関係 等)に対応している(相談項目の詳細については下のグラフ1を参照)。相談室の開設日時 は、月~金の正午から午後4時までである。そのうち、相談室での対面相談として、月・火・ 水は中本進一教授(男性)が日本語・英語によるカウンセリングを行っている。また、木・ 金は趙丹寧相談員(女性)が日本語と中国語で対応している。相談業務としては、外国人 留学生からの相談だけではなく、日本人学生のための海外留学相談に対応する「留学サポ ートデスク」機能も兼ね、国際室のカウンターでの一般的な短期海外留学相談と連携し、 海外留学にかかる各種奨学金申請書の添削、面接練習などを行っている。平成27年度の留 1 旧留学交流支援室にかかる、派遣関連の業務・事業企画運営(海外留学フェア、危機管理オリエンテー ション等)は除く。 2 留学生という異文化と遭遇する場合、その相手は、自己の持つステレオタイプが影響を与える場合があ り、例えば、外国から来ているという理由で、言葉が出来ないこと、日本を知らないことを前提に接する ことがある。その際に、留学生側は、成人としての扱いを受けないという印象を持つ場合があり、そのま まストレスとなる。 3 相談員は、カウンセリングのトレーニング(アサーティブトレーニング、傾聴、アドバイジング手法な ど)を受けた経験者が担当する。

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Page 1: 年報:国際本部・留学生相談・指導 2015 · A) 平成27年度は、予約制を徹底し、ISSSU(埼玉大学留学生会)のFacebookで、相 談室の開設状況(出張などによる閉室)を周知した。

年報:国際本部・留学生相談・指導 20151

1. 留学生相談室概要(アプローチ、開設日時・場所)

外国人留学生は、育った文化基盤が日本人

の場合と異なるために、多くの場合、成人で

ありながら、情報弱者であり、災害弱者であ

ることから、社会弱者にならないようにする

こと、そして、リスクマネジメントでいう「ハ

イリスク」グループに属しているということ

を、基本理念において、支援をしてゆく必要

がある。また、成人であるが故、文化変容に

おけるアイデンティティのリスクも抱えて2

おり、日本という異文化において、フルサポ

ート、フルサービスというより、自立支援を

念頭におくべきである。

【写真】国際交流バスツアー「埼玉学のすすめ」より

埼玉大学国際本部では、国際本部棟1階に留学生相談室3(以下相談室)を開設し、外国

人留学生が直面する生活上の諸問題(異文化適応、進路、日本での在留や住居、対人関係

等)に対応している(相談項目の詳細については下のグラフ1を参照)。相談室の開設日時

は、月~金の正午から午後4時までである。そのうち、相談室での対面相談として、月・火・

水は中本進一教授(男性)が日本語・英語によるカウンセリングを行っている。また、木・

金は趙丹寧相談員(女性)が日本語と中国語で対応している。相談業務としては、外国人

留学生からの相談だけではなく、日本人学生のための海外留学相談に対応する「留学サポ

ートデスク」機能も兼ね、国際室のカウンターでの一般的な短期海外留学相談と連携し、

海外留学にかかる各種奨学金申請書の添削、面接練習などを行っている。平成27年度の留

1 旧留学交流支援室にかかる、派遣関連の業務・事業企画運営(海外留学フェア、危機管理オリエンテー

ション等)は除く。 2 留学生という異文化と遭遇する場合、その相手は、自己の持つステレオタイプが影響を与える場合があ

り、例えば、外国から来ているという理由で、言葉が出来ないこと、日本を知らないことを前提に接する

ことがある。その際に、留学生側は、成人としての扱いを受けないという印象を持つ場合があり、そのま

まストレスとなる。 3 相談員は、カウンセリングのトレーニング(アサーティブトレーニング、傾聴、アドバイジング手法な

ど)を受けた経験者が担当する。

Page 2: 年報:国際本部・留学生相談・指導 2015 · A) 平成27年度は、予約制を徹底し、ISSSU(埼玉大学留学生会)のFacebookで、相 談室の開設状況(出張などによる閉室)を周知した。

学生相談と海外留学相談の合計は827件4であった。

学生支援課と連携している部分としては、外国人学生の授業料免除申請における記載内

容のチェックと、就職支援における「留学生就職支援セミナー」の企画運営が主な部分を

占める。

また、留学生相談室は、全学留学生会と大学とのコーディネータ的役割を果たしており、

各国代表が集まる月1回の会合に出席している。

さらに、国際室と連携し、国際交流会館のRA(レジデント・アシスタント)の採用、RA

会議でのアドバイジング、RAのためのセミナーも実施している。

平成27年度と従来の相談体制における違いは以下の通りである。

A) 平成27年度は、予約制を徹底し、ISSSU(埼玉大学留学生会)のFacebookで、相

談室の開設状況(出張などによる閉室)を周知した。

B) 従来のメール相談に加え、SNS(Facebookとメッセンジャー)による、相談対応

を追加した。その際、学生のプライバシーに配慮しつつ、メールとの使い分け

を行った。

C) 留学生相談担当教員間の連携を強化するためのミーティングを定期的(月1回程

度)に開催した。

D) 上記開設時間に加え、特に守秘が必要と思われる相談件においては、相談者と

メールや電話による確認後、中本研究室で対応した。

2. 相談件数

2-1 外国人留学生相談

平成 27年度の外国人留学生相談件総数5は 640件で前年度の 518件と比較して約 23.5%

増となった。増加分のほとんどが SNSによる学生からのアプローチだったことから、SNSが

留学生にとって、相談を目的とした、使いやすいツールになっていることが推測できる。

なお、メールや SNS による学生からのアプローチのうち、単に相談予約を求めるものにつ

いては件数に入れていない。

平成 27 年度の相談の特徴としては、人間関係にかかる相談6が 51 件と前の年の 2 倍以上

に増加しているほか、中国人留学生による、家族を日本に短期招聘するための保証人依頼

が前年度の 14件から 25件と大幅に増加した7ことなどが挙げられる。

4 相談室時間外では、中本研究室や国際室内での対応も含む。 5 対面相談、メール相談、SNS相談の合計 6 凡例を参照のこと。 7 3月~4月期、GW、春節祭の時期に集中している。この依頼においては、相談員が、短期滞在ビザの申請

者(留学生の家族・親族)の日本滞在中の保証人になることが求められており、在職証明の発行が必要と

なる。そのために、相談対応時には、必ず来日予定者の海外旅行保険加入の確認、来日時に保証人となっ

た相談員との面談を必須条件とした。短期滞在は最長 3か月まで許可されるが、9割以上の申請者は 3週

間程度の滞在である。

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2-2 相談内容

次に相談内容を概観してみたい。件数的に多かったのは、第1位の「打ち合わせ(教職員)」

の55件で全体の約11%を占めている。この多くは、新入生に対するオリエンテーションの

内容や配布資料の打ち合わせ、事件やその他のトラブルに巻き込まれた学生への援助に関

するものがほとんどである。次いで第2位は「住居(総合住宅保障)にかかる面接8で54件で

あった。

4位には「人間関係」9が51件を記録し、前年度の2.2倍であった。仮にアカデミックハラ

スメントを含むであろうと推定されるケースが発生した場合には、学内のハラスメント相

談(ホットライン)などとの連携を行っている。続いて、「修学・進学」が44件を記録し

た。これらの多くは、交換留学生の履修相談と交換留学後の埼玉大学を含めた日本の大学

院への進学に関する相談であった。「在留資格」に関しての相談10は42件であった。次に「授

業料免除申請」の41件がつづく。

2015年は、上述した通り、大学の近隣での事件が発生したことから、「事件(警察連携

を含む)11」「健康(心理)12」の増加が目立った。

8 総合住宅保障制度は、留学生が日本で民間のアパートを借りる際に、大学が機関保証する制度で、その

ために、学生の単位取得や研究などの、修学状況、アルバイトなどの生活状況、授業料納付状況などを確

認する意味で面接を行っている。また、授業料免除申請において、申請内容の記載に間違いがないかをチ

ェックするための面談であり、学生支援課との連携で行っている。 9 借りているアパートの隣人や大家さんに関する相談、教員や学生同士の人間関係などを含んでおり、こ

れらのケースが発生した場合には、必ず、不動産業者や学内の各種委員会の相談窓口をリファー先に入れ

て対応している。 10 在留資格の更新にあたり、修学状況や生活状況の確認をするとともに、入国管理局とのタイアップも行

っている。 11 警察との連携とは、主なものとして、近隣パトロールの強化依頼、国際交流会館での警官による犯罪防

止のためのガイダンスが挙げられる。 12 留学生アドバイザーが行う、カウンセリングは、心理療法、セラピーではなく、個別に相談しながら、

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グラフ1:外国人留学生相談件数

2015年 2014年

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29件あった「生活状況」とは、在留資格の延長申請に窓口に来た学生の中で、成績不振

に陥っている学生が見つかった場合、呼び出しをかけ、出席状況、アルバイト先の情報、

経済的困窮度などについて確認作業と指導を行う項目である。

「特定活動」では、卒業・修了までに就職に至らなかった学生が、入管法に則って半

年ごとに就職活動状況を面談により確認することになっている。いわゆる新卒での就職機

会を逸してしまっている場合、かなり就職の範囲も限定されることから、「グローバル人材

育成センター埼玉(GGS)」への登録や、留学生就職支援ネット・NAPへの登録、学生支援課

との連携で、就職カウンセリングなどをリファー先としている。

外国人留学生からの「留学相談」も 11件あった。そのうちの 5件は、モナシュ海外研修

などの語学研修にかかる相談であった。すでに日本での留学を終え、帰国した元留学生か

ら、第 3国への留学のために推薦書の執筆を依頼されたものもこの数字に含まれている。

2-3 ネットワーク構築

留学生相談室の担当教員が、単独で、留学生の抱えるすべての問題の解決策を提示でき

るわけではない。むしろ、単独で解決できる問題のほうが少ない。例えば、精神的な問題

を抱えた場合、セラピーなど専門家との連携が必要である。また、在留資格に関する詳細

を知る必要性が発生した場合は、当然入国管理局との連携となる。時には法律相談にまで

展開することもあり、埼玉県国際交流協会などの外国人のための法律相談を紹介すること

もある。すなわち、相談体制を充実させるには、学内外で広く、しかも重層的なネットワ

ークを構築する必要がある。

また、留学生にとって、相談できる場所や相手が多いほど、リスク回避につながること

も明らかで、国際交流協会等との連携でおこなう、ホストファミリーなどとの地域交流13も

重要なリスクマネジメントの基盤づくりとなる。

さらには、相談の相手として留学生たちが一番相談しやすいのは、同じ立場にいる留学

生同士であるということも、過去のアンケート結果に表れていることから、留学生同士の

連携を強化する意味で、全学留学生会を 2011年14に発足した。

主には留学生をサポートするために話を聞いたり、情報を提供したりすることを指す。埼玉大学の留学生

アドバイザー(2名)は、傾聴、エポケー(判断保留)などのカウンセリングに必要なトレーニングを受

けている。相談者の表情、姿勢、しゃべり方などを注視し、必要に応じて不眠・食欲不振など、生活状況

などについてインタビューすることで、うつなどのサインを見逃さないように対応している。症状が深刻

である場合には、即座に保健センターと連携し、専門医師との面談を設定する。 13 ホストファミリーから連絡をもらい、学生が抱えていた問題が早めに判明したことも多い。 14 偶然ではあったが、埼玉大学留学生会が正式に発足し、その第 1回総会を開催したのは、2011 年 3月 4

日、つまり東日本大震災の 1週間前であった。震災後の留学生対応において、当時の初代会長(バングラ

デシュ出身)と相談室で協議を重ね、どの情報を留学生に提供するべきかという情報整理や、各国大使館

の対応情報の配信、一時帰国を奨励するメッセージ、入国管理局からの情報配信などを行うことが出来た

ことは今も記憶に新しい。全学留学生会が留学生同士の連携を強める意味で、重要な役割を果たすことが

出来た最初のケースとなった。

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凡例:

在留資格 一時帰国・再入国許可、在留資格延長等(様々な理由により、修学状況がよく

ない場合には、入国管理局へサポートレターを提出することが求められる。必

要に応じて、留学生の所属部局、指導教員や、保健センターと連携して対応す

る)入国管理局の相談窓口案内等。

修学・進学 入学要件、進学、履修相談、単位取得状況、研究内容等に関する相談。科目等

履修生の面談等。

就職 面接練習、就職活動計画、エントリーシートの書き方等

特定活動 卒業・修了後に、就職活動に限って日本滞在を継続するための在留資格取得の

ための修学状況確認と、就職活動状況の確認を目的とする面談

留学相談 留学生の場合、第 3国への留学を指す。多くは語学研修にかかる相談

奨学金 民間奨学金の紹介、奨学金を必要としている経済的困窮にかかる相談等

授業料免除申請 学生支援課との連携で、申請内容に間違いがないかを確認し、助言する。約 8

割以上の学生の申請書に記載誤りがある。

住居 留学生総合住宅保障制度利用のための面談。アパート賃貸契約時に、留学生担

当教員が、緊急連絡先となることを保証会社から求められる。

健康(心理) 事件や事故に遭遇した学生に対して、定期的なカウンセリングを行う。アイコ

ンタクト、姿勢、生活状況から、専門家との連携の必要性を確認する。また、

保健センターへの同行を含む。

●うつの兆候●ストレス度判定

健康(身体) ●健康状態によっては保健センターとの連携●地域の医療機関の紹介を行う。

推薦書 ●奨学金申請時に推薦書の提出を求められる場合があり、指導教員のいない学

生からの依頼を受ける。●アルバイトにかかる学生の保証人になることなど。

人間関係 ●友人・知人、大家さん、家族、教員、職員等との人間関係に関する相談。ハ

ラスメントの可能性を含むケースなどは、事件の項目と重複する。

家族親族(呼び寄せ等) 中国人留学生の場合、短期の知人訪問において、大学の教授・准教授の在職証

明提出が必要となるほか、留学生担当教員がビザ申請者(留学生の家族等)の

日本滞在期間の保証人になることがと求められる。日本滞在期間中の危機管理

のために、来訪者全員の海外旅行保険加入と、相談室訪問を義務付けている。

交流イベント 全学留学生会(ISSSU)からアドバイスを求められるケース。

●地域の自治体、ボランティア団体等からの留学生との交流にかかる相談等。

●平成 27 年度に関しては、記載していないが、2016 年度からは、チューター

制度にかかる相談件数やセミナー等もこのカテゴリに含まれることとなる。

事件(警察連携を含む) ●ストーカーなど留学生が被害者になるケース●窃盗など留学生が加害者にな

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るケース

事故 ●自転車事故が主なもの

生活状況 ●通学時間●帰宅時間●睡眠時間

アルバイト ●留学生の資格外活動にあたるアルバイトの入管法に関する指導

●アルバイト先から依頼される保証人になることなど15。

打ち合わせ(ISSSU) 全学留学生会のアドバイザーとして、月 1 回程度のミーティングに参加し、留

学生会からの依頼等があれば、大学とのコーディネータ的な役割を果たしてい

る16。

2-4 海外留学相談

埼玉大学は、グローバル人材育成事業の採択を受けたことから、日本人学生を中心とし

た海外派遣留学(協定校への交換留学)にも力を入れている。これまで、毎年1度程度行っ

てきた、海外留学に関する説明会、各種奨学金制度の説明会、危機管理セミナーを年に3回

ずつ開催するようになった17。これに伴い、派遣者数も伸びてきたのだが、同時に、学生か

らの留学相談件数も増えてきた。ただ、教養学部や経済学部は独自の留学相談業務を行っ

ていることや、国際室のカウンターで専門の職員による対応が可能となったため、国際本

部の相談室で受ける留学相談のほとんどは、奨学金申請に関することに集中している。結

果的には、グローバル人材育成事業以前(2010年)と比較して、相談件数は40%ほど減少し

ている。なお、留学生の留学相談に関しては、留学生相談の件数としており、ここに示す

海外留学相談件数には含まない。

15 保証人になることを承諾するうえで、必ず賠償責任などをカバーできる保険に加入することを条件とし

ている。 16 2010年 6月に現在の国際室(大学)からの依頼を受け、留学生アドバイザーが全学留学生会の指導担当

となった。これは、当時の副学長が「埼玉大学留学生会会則」を作成し、留学生会がそれに同意したこと

による。 17 本報告書では、留学生相談業務についての内容であることから、海外留学派遣のための危機管理セミナ

ー等についての記述はない。

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2-5 海外留学相談件数

平成27年度の留学相談件数は、187件で、前年度の173件と比較し、約8.1%の増加であっ

た。一番多かったのは「奨学金申請」にかかるもので、49件であった。主な相談内容とし

ては、申請書の書き方、面接試験対策、申請書の添削などがであった。現在「トビタテ」

に関しては、本学から毎回採択者を出している。第2位は、「モナシュ海外研修(語学研修)

18」にかかるもので、45件を記録した。前年度の28件と比較すると、60%以上の増加であっ

たが、このデータはそのまま、海外研修の参加者数に現れた。すなわち、2014年は5名にと

どまったが、2015年の参加者は10名と倍増している。

語学学習にかかる相談が30件、留学期間関する相談が15件と続く19。交換留学は協定校に

留学し、単位取得が主な目的となるため、派遣留学希望の申請を提出する前に、それぞれ

の協定校が設定している語学要件をクリアする必要がある。学生の多くが語学学校や留学

予備校などに通う余裕もないことから、例えば、出来るだけ経費をかけずに英語能力を伸

ばすためのアドバイスが必要となるケースが生じる。多くの場合は、学内の「英語何でも

相談室」を紹介している。また、留学生アドバイザーの2名は留学や語学教育の経験者であ

り、個人にあった語学学習法についても、相談を受け付けている。

18本学の理念でもある「知」と「技」の獲得を目標とするプログラムである。オーストラリア、もしくはア

メリカにおいて、英語・地域研究(関連して、グローバリズム研究)を中心とした教育プログラム「知」

と、ホームステイや寮での共同生活を通じて、学生による自主的課題設定と解決を意図とした「技」を組

み合わせた研修である。全ての学部学生が参加可能なプログラムであり、将来的に長期の海外留学を目指

す学生の「留学基礎力」養成を支援する。 19 一般的には、半年ないしは 1年未満の留学であるが、その後の就職活動、本学での単位取得状況などの

要因と、出来る限り留学を長期間行いたいという、相反する要因で学生が悩むことが多い。なお 9割以上

の学生が 1年間の留学を希望している。

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海外留学相談(派遣)

2015年 2014年

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3. 留学生支援ネットワーク

留学生支援におけるネットワークのハブとしての役割が、相談室に求められていること

は間違いない。その主な理由は 3つ挙げられる。

第一に、留学生が抱える問題・課題を解決するためには、多くの専門家の支援が必要で

あるということが挙げられる。例えば、在留資格(延長申請、変更申請)にかかる問題は、

いわゆる「~だと思う」で片付く問題ではなく、正確な情報を学生に伝える必要がある。

そのために、入国管理局との連携は日ごろから重要であり、アドバイザー自らが入管の相

談窓口に出向くことがある。また、心理・身体の健康に関する相談は、保健センターの 2

名の医師との連携が重要になる。さらには、ホストファミリープログラムなどは埼玉県国

際交流協会や地域のボランティアグループ(Friendship Force 等)、生活における安全面

では、浦和西警察、日本語支援20という意味では、さいたま市国際交流協会、そして、就職

支援では、学生支援課に加え、外部では NAPやグローバル人材育成センター埼玉(GGS)と

の連携が必要である。複雑な法律相談となると埼玉県国際交流協会が運営する「外国人総

合相談センター埼玉」との連携は必須である。

次に、地域(学外)とのつながりの中で、留学生支援が位置付けられるからである。例

えば、留学生 30万人計画は単独の大学の問題ではない。計画そのものは、国策として策定

されたものであっても、埼玉大学も採択を受けた「留学生交流拠点整備事業」に見るよう

に、地域が留学生を誘致し、留学における「入口」と「出口」、またその間の生活支援も

含め、戦略的に受け入れることが重要視されている。一方、留学生たちも単独で行動して

いるわけではない。個人的な理由や背景を持ちつつ、来日し、各自が様々なネットワーク

の中で生活している。当然、「○○国学友会」などが自分たちの母国から来日する留学生

のサポートをしている場合もあり、これら個々の団体との連携も相談室はサポートするこ

とになる。さらには、これらの個々の団体をまとめる形で、埼玉大学留学生会という団体

もある。換言すれば、留学生相談室が構築するネットワークは、留学生政策でいうマクロ

政策(国家的戦略)とミクロ政策(地域、個人)の橋渡し役を担っていると言っても過言

ではないのである。

そして、最も重要な理由は、危機管理という観点である。上記に挙げたネットワークが

重層でかつ頑強であればあるほど、留学生のリスクは軽減される。上述したように、相談

室単独で留学生の支援をすることの出来る範囲は、非常に限られているのが事実なのであ

る。下に、必ずしも網羅的とは言えないが、主な連携先等について図式化してみた。

20 これまで 20年以上にわたり、ボランティアグループで「コスモス浦和」というグループが埼玉大学の留

学生と家族のために国際交流会館で週 1回、無料の日本語クラスを開室してきた。2015年 3月末をもって、

その長きにわたる活動を終了することになり、留学生相談室は、国際室と連携してさいたま市国際交流協

会「さいたま市国際交流センター」と 7か月間、コスモス浦和の活動を継承の可能性を協議し、その結果、

2016 年 5月より「にほんごのへや」の埼玉大学支部による日本語クラスの開講することとなった。

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4. 留学生生活オリエンテーション

4-1 概要

留学生の受入体制の中で、最も重要な業務の一つにオリエンテーション21の企画運営があ

る。どういうカテゴリの学生に対して、何をどう伝えるのかというのが骨子となる。埼玉

大学では、交換留学生、研究生、学部正規生、大学院正規生、大学院特別プログラム生、

日本語日本文化研修留学生+日韓共同理工系学部留学生コース生、教員研修留学生に対し

て、日本語と英語(2か国語の場合もある)オリエンテーションを実施している。これらに

加え、国際交流会館におけるガイダンスの企画運営も留学生相談室業務の一部である。内

容的には、埼玉県の紹介、大学の概要、図書館や保健センターの利用法、入管法、災害対

策などが主なものであるが、オリエンテーションの基盤にあるのは、巻頭でも述べたよう

に、留学生が、情報弱者、災害弱者であることから、ハイリスクグループであることを自

らが自覚し、危機管理について学び、行動出来ることを目的にしていることである。すな

わち、オリエンテーションは、異文化間教育の一環として捉えている。

4-2 2015年前期

21 留学生オリエンテーションは原則として、全員出席を義務としている。欠席者には連絡を取り、日程を

調整のうえ、必ず受けることを指示している。

全学留学生会 留学生同窓会

ESS 等の留学生支援学生

グループ

NAP

GGS

国際室

国際本部

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2015年 4月 2日(木)10:00~12:00、シアター教室にて学部正規生 50名を対象に、

第 1 回学部生生活オリエンテーションを実施。同時に、生活にかかるアンケート

を実施した。オリエンテーション後は、全学留学生会の、中国人学友会の、韓国

人学友会の紹介を行った。使用言語:日本語

4 月 3 日(金)9:30~11:00 全学講義棟で、交換留学生 30 名を対象に、生活オリ

エンテーションを実施。使用言語:日本語と英語

4月 6日(月)15:00~16:30国際本部棟で、交換留学生 3名(来日が遅れた学生)

を対象ね、生活オリエンテーションを実施。同時に、生活にかかるアンケートを

実施した。オリエンテーション後は、全学留学生会の、中国人学友会の、韓国人

学友会の紹介を行った。使用言語:日本語と英語

4 月 8 日(水)10:00~12:00、シアター教室にて大学院正規生 40 名を対象に、

第 1回大学院生生活オリエンテーションを実施。使用言語:英語

4 月 23 日(木)12:20~12:50、シアター教室にて第 2 回学部正規生生活オリエ

ンテーションを実施。使用言語:日本語

4 月 28 日(火)11:00~11:30、留学生相談室にて、欠席者対象のオリエンテー

ションを実施。大学院生、使用言語:英語

5 月 11 日(月)12:30~13:00、留学生相談室にて、欠席者対象のオリエンテー

ションを実施。大学院生、使用言語:英語

4-3 2015年後期

9月 25日(金)9:30~11:00全学講義棟で、交換留学生 30名と教育研修留学生(国

費)を対象に、生活オリエンテーションを実施。使用言語:日本語と英語

9月 29日(火)12:15~13:00研究機構棟にて、日本語・日本文化研修留学生と

日韓共同理工学部留学生の計 7 名を対象に、生活オリエンテーションを実施。使

用言語:日本語

10月 7日(水)12:15~13:00経済学部棟にて、第 1回理工学研究科特別プログ

ラム生 3名を対象に、生活オリエンテーションを実施。使用言語:英語

10 月 21 日(水)12:15~13:00 経済学部棟にて、第 2 回理工学研究科特別プロ

グラム生 7名を対象に、生活オリエンテーションを実施。使用言語:英語

以下を留学生対象オリエンテーション実施における反省点としてあげたい。

A) 学部正規生対象のオリエンテーションでは欠席者が目立ったこと。

B) 特別プログラム生対象のオリエンテーションは FSOとの連携が密でなかったため、

周知が十分でなかったこと。

C) 交換留学生対象の来日時の面接がスケジュールに入ってくるために、欠席者対象

のオリエンテーションの日程調整が困難であったこと。

D) 現在は「留学生ハンドブック」は発行されないので、国際の Websiteにオリエン

Page 11: 年報:国際本部・留学生相談・指導 2015 · A) 平成27年度は、予約制を徹底し、ISSSU(埼玉大学留学生会)のFacebookで、相 談室の開設状況(出張などによる閉室)を周知した。

テーションの内容の掲載や、留学生相談室のページの開設などを検討する必要が

ある。

5. 留学生交流事業

留学生相談室の役割の中には、日本人学生と外国人留学生の交流促進が含まれる。ただ、

一昔前の国際交流と現在の国際交流にはかなりの相違点がある。従来の国際交流といえば、

ほとんどがお祭り的なイベントであり、経費が掛かるもの、そして留学生をお客様扱いし

た、いわゆる留学生支援という位置づけであった。それゆえ、一般的な学生同士の交流事

業は、一時的なものに終わっていたし、対等ではない(受入側が上)関係性に終始してき

た。しかし、急速なグローバル化時代を迎えた現代では、グローバル人材育成推進という

概念が広まるにつれ、交流の在り方が変わってきた。すなわち、受け入れ側とである日本

人学生と外国人留学生が対等な立場で、相互に学びあい、切磋琢磨する関係性が求められ

る。このような概念を基盤に、交流事業を企画運営してきた。

5-1 バスツアー「埼玉学のすすめ」

昨年度に引き続き、中島記念国際交流財団助成金の採択を受け、本事業を企画した。2015

年 12月 13日(日)実施の「埼玉学のすすめ」バスツアーは、埼玉県在住外国人留学生に、

埼玉県の歴史・文化について深く知ってもらうことにより、埼玉県、さらには日本の魅力

を彼らに母語等により発信してもらうことを目的とし、「埼玉学のすすめ」と題し企画した

ものである。また、日本人学生には2回にわたる事前研修(各回1.5時間程度)として、

異文化コミュニケーションにおける基礎的な知識習得、外交プロトコルの手順と姿勢理解、

通訳演習、おもてなしのための訪問地知識の共有を行った。また、学生主体で、参加者が

平等に楽しめるような交流のためのイベント等を企画できるよう指導した。訪問地の選定

基準として、「日本が誇るべき伝統工芸であり、将来的にもその価値が世界的に認められる

こと」とし、日本人学生と外国人留学生が一緒に「体験できる」ことで交流を深めること

が可能である地を選んだ。

実際、埼玉県には、江戸時代に川越藩の城下町として栄え、現在も多くの歴史的建造物

を残す川越、国指定の名勝長瀞があり、数多くの伝統工芸品が伝統的手工芸品の指定を受

けるなど、次世代へ継承させるべき伝統文化も多くある。今ツアーでは、その中でも、200

年前から地元衆によって演じられてきた小鹿野歌舞伎(八幡神社:秩父郡小鹿野町)、伝統

的な秩父銘仙の染めを体験できる秩父織塾・横山工房(株)(秩父郡長瀞町)、1900年前の創

立である宝登山神社(秩父郡長瀞町)、隆起した結晶片岩が広がる長瀞岩畳(秩父郡長瀞町)

を実地訪問した。

参加者は、外国人留学生44名(埼玉大学)と、日本人学生23名(埼玉大学、埼玉県立

大学、東京外国語大学、獨協大学、法政大学、昭和女子大学)の計67名であった。

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当日は、埼玉大学に集合し、大型バス2台に分乗し現地へ向かった。

八幡神社における小鹿野歌舞

伎では、小雨降りしきる中、傘を

差しながら、三田川中学校生徒に

よる「菅原伝授手習い鑑 吉田社

頭車引の場」を見学した。小鹿野

歌舞伎が、役者・義太夫・裏方に

いたるまで、スタッフのすべてが

地元衆で行われていること、常設

の掛け舞台での上演はもちろん、

祭り屋台(山車)に芸座・花道を

張り出して演じる「屋台歌舞伎」

が大きな特長であることを、日本人学生が、外国人留学生にわかるよう説明した。

秩父織塾・横山工房(株)では、伝統工芸士 横山敬司氏による、秩父銘仙の染めの工程説

明を受け、草木染めを体験した。割り箸で布の両側を挟み、輪ゴムを巻くと、染めた際、

挟まれた部分は白く残るということであったが、自分の作業が最終的にどのような形で現

れるのか想像できない外国人留学生は、日本人学生のアドバイスにより、自分なりの形を

制作していた。また、染めるという作業も興味深かったようで、みな自ら率先して体験し

ていた。染めが終わり、ハンカチを広げると、日本人学生も外国人留学生も、その模様の

美しさに驚きの声をあげていた。

蚕を飼育し、まゆから糸を取り、織

りまで行うという一連の工程をすべて

一つの工房で行うことは珍しく、海外

からも来訪者があるという話を、日本

人学生が外国人留学生に通訳した。

宝登山神社へは、宝登山山頂付近で

バスから下車し、山頂からの景色、紅

葉を見ながら、山道を歩いて神社へ向

かった。手水舎では、神社参拝での作法を日本人学生が外国人留学生に説明し、本殿では、

日本古来の建築物を賛美しながら談笑する姿が見られた。

長瀞岩畳では、国指定の名勝・天然記念物である岩畳(いわだたみ)の上を歩き、荒川、

秩父赤壁(ちちぶせきへき)と呼ばれる岩壁を背に写真を撮り、美しい自然を楽しんだ。

事業の成果及び今後の展望

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今バスツアーでは、参加者が2台のバスに乗り込み、日本人学生 1 名(リーダー役)と

外国人留学生2-3名がグループとなり一日行動を共にした。同じメンバーが行動を共にす

ることで、日本人学生の通訳を通じての学習効果向上を目指した。

外国人留学生の乗車するバスと席は、当日の朝くじ引きで決めることとしたため、初対

面の学生同士が隣合わせとなった。これは、参加者が友達同士で固まってしまうことを避

け、より意義のある交流機会を持つことを目的としていたのだが、反面、参加外国人留学

生が孤立することも危惧された。また、外国人留学生の中には、日本語はもとより、英語

もままならない学生もおり、ツアー参加前にその点を心配する学生が出てくることも想定

された。これらの課題解消のために、日本人学生の席は事前に決めておき、その日本人学

生をリーダーとし、一列に並ぶ席の近い留学生とで3-4名の小チームを形成し、バス内で

も常に顔が見える、言葉を交わしやすい環境づくりに配慮した。

今回のツアーでの日本人学生の役割は、ツアースタッフとして、「もてなす側」として、

留学生のフォローや旅行中の通訳に徹するだけではなく、小チームのリーダーとなり、チ

ームをまとめる責任をも担った。また、今ツアーに参加するにあたり、日本人学生向けに

は事前ガイダンスを2回実施し、本学教員からは訪問先概要と異文化間教育的視点から「お

もてなし」の心構え等を説明した。日本人学生は、事前ガイダンスから SNS を活用する等

し、バス内でのリクレーションや学生同士の交流について企画をしてきた。外国人留学生

とコミュニケーションを取ることは、留学経験のある日本人学生にとっては難しいことで

はないが、留学生をもてなすことは初めての経験だった学生も多く、おもてなしの気持ち

を持つ外交プロトコル学習の良い機会となったと思われる。

外国人留学生にとっては、埼玉に在住していながらも、なかなか行く機会のない場所を

訪れ、伝統工芸を実際に体験し、新たな視点で日本文化を見直す貴重な機会になったと思

われる。ツアー中は、日本人学生が通訳をするなど、適宜フォローしていたこともあり、

多くの留学生は、今回訪れた土地や文化に大変興味を持ったようだ。一日を通じ、楽しい

経験をしたとの声や、また同じように深く日本文化を理解できるツアーがあれば是非参加

したいとの声も多く聞かれ、今企画の「埼玉学のすすめ」にふさわしい内容となったこと

は間違いない。ぜひ彼らから、今ツアーで学んだ埼玉について、何らかの形で、今後発信

していってもらいたい。

なお、以下本学及びグローバル人材育成センター埼玉のホームページには、参加学生の

感想を、英語、日本語、母国語で掲載している。

http://international.saitama-u.ac.jp/news/news_detail_195.html

http://www.ggsaitama.jp/information3327/

今ツアー参加者の多くは埼玉大学生であったが、他計5大学からの参加もあったことか

ら「埼玉県」への留学という視点からも成果があったと言えよう。今回の成功を受けて、

更なる「体験型」「交流型」の学習ツアーが企画できるのであれば、さらに多くの大学から

の参加があるよう広報も工夫していきたい。

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5-2 全学留学生会へのアドバイスと ISSSU Facebook運営

留学生相談担当教員は、全学留学生会(International Student Society of Saitama

University, 以下 ISSSU)の公式なメンバーの一人として、ISSSU のアドバイザーを務め

ている。ISSSUは、2011年 2月に、以下を目的に設立した留学生を中心とした組織である。

・ 外国人留学生相互の親睦の機会を

広げる

・ 学長との懇談などにより大学への要

望等の機会の提供

・ 各種留学生主催イベントの大学から

の支援依頼(経費支援等については

要検討)

・ 災害等に伴う救援者募金活動の公式化 など

・ 留学生向けオリエンテーションへの協力

・ 海外の大学等からの訪問者などからの留学生懇談依頼への対応

・ 各種イベントへの協力

・ 定期的な懇談会実施などにより留学生のニーズ把握

・ ネットワークを通じた在籍管理、在留資格確認など

・ 生活指導事項などの周知徹底 など

留学生相談担当教員は、コアメンバーによる代表会議への出席とともに、会議での大学

の立場や考えの説明を行うこと、また、ISSSUが企画する各種交流事業への助言などが主な

業務内容である。

ISSSU Facebook:https://www.facebook.com/groups/isssu/

コアメンバー会議:

4月 16日 12:10- 8月 20日 12:10-

5月 21日 12:10- 10月 22日 12:10-

6月 18日 12:10- 11月 12日 12:10-

7月 16日 12:10- 1月 14日 12:10-

2015年主な交流活動

1. 留学生懇親パーティ:2015 年 12 月 10 日:留学生、日

本人学生、地域行政関係者、教職員が参加。計 250名。

https://www.facebook.com/rangga.sudisman/videos/

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2. T-shirtと ISSUロゴ・デザインコンテスト:2016年 1月末日

3. バスツアー:2016 年 3 月 5 日 江戸東京博物館+浅草+国会議事堂:参加者 45 名

(うち日本人 10名)

5-3 国際交流会館 RAとの連携について

埼玉大学国際交流会館では、外国人居住者(留学生・研究者等)のための危機管理と居

住者通しの交流(日本人学生を含む)の活性化を目的として、RA(レジデント・アシスタ

ント)を 6~8 名常駐させている。留学生指導担当として、国際室が RA を採用するための

面接試験、毎月 1回程度開かれる RAとの定期会合に参加し、助言を行っている。主な議題

としては、学生への緊急対応に関する報告や、業務改善のための協議、国際室との連携等

が挙げられる。

RAとの定期会合

4月 15日 12:15-

5月 29日 12:15-

7月 9日 12:15-

7月 24日 12:15- RAオリエンテーション

9月 11日 12:15-

12月 17日 12:15-

1月 21日 12:15-

2月 19日 15:30- RA採用面接

2月 24日 10:30-

3月 23日 13:00- RAオリエンテーション

以上

文責 中本

6.木・金 留学生相談担当者からの報告

以下に趙丹寧相談員からの留学生相談業務に関する報告を掲載する。

1. 留学生が抱えている問題

日本の私費留学生は経済面では困窮である(平成 23 年度日本学生支援機構の調査では、

収入と支出が同じく 13.8 万円であった)為、不慣れな異文化環境で、学業とアルバイトを

並行して行う必要があり、体力的・精神的に負荷が高い。体の不調をきたした場合、在留

資格や奨学金の条件との関係で、休学などの措置も取りづらく、精神的に追い込まれやす

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い面がある。近年、留学生の年齢層は若年化し、留学目的がまだ明確でないうちに来日す

る人も多く、彼らの日本での適応には、困難が伴うことは多い。留学生の不適応は、身体

面(心身症)、行動面(不登校、勉強に集中できない、対人関係の悪化、逸脱行動など)と

精神面(情緒不安定から各種の精神障害まで)に現れる。

2. 留学生が相談に対する両面的な考えと行動

留学生はハイリスクを背負っているにもかかわらず、相談や援助を受けるのをためらう

人が多い。学業やアルバイトなどで忙しかったり、余裕がなく自分の不適応にも気づかな

かったり、不適応を大学に知られるのはまずいことになると思ったり、自分が変だと思わ

れるのではと不安がったり、教員に意見を押し付けられるかも、と心配したりすることな

ど、様々な原因がある。そのため、最初に相談室に来た時は、「今は相談することはなく、

しかも急いでいる。私はとても健康で正常だから。」と宣言する人が多い。同時に、彼らは

相談には興味を持ち、相談によって自分や周りの人をより深く理解し、問題の対処法を知

り、成長していきたいという期待を抱く。そのため、普段の生活など話をしているうちに、

自分の悩みを明かす留学生が多い。

3. 相談内容の傾向

件数で一番と二番に多いのは、「授業料免除」と「住宅(総合住宅保障)」の面接である。

(平成 27 年度はそれぞれ 95 件と 86 件であった)。重要な経済面、生活面に対するサポー

ト制度であるため、来室者が多い。相談に両面的な考えを持つ留学生は、制度利用のため

に来室するが、困ったことについて言及する場合もある。留学生にとって、助けを求める

きっかけになることもある。

次は人間関係である(平成 27 年度は、合計で 51 件であった)。エリクソンの発達理論で

は、20 代は「親密性」、つまり友情を結び、パートナーを作るという発達課題がある。前段

階の思春期で育まれてきたアイデンティティや自信が確立できていれば、他人との関係に

親密性を感じることができる。しかし、確立できていない場合、自分の気持ちを素直に伝

えられず、相手を受け入れる事ばかりに心を向けてしまったり、また反対に自分の気持ち

を一方的に伝え続けてしまったりして、「孤独感」 に陥る場合がある。留学生にとって、

周りの人々特に日本人大学生に受け入れられることは気になる。一方、母国にいた時から

アイデンティティの確立ができていなかったり、ソーシャルスキルが不足する留学生もい

る。その上、日本人大学生は積極に留学生に声かけをすることが少ないので、留学生は孤

独を感じやすい。また、留学生にとって恋愛問題は、将来の進路や家族との関係に関わる

ので、複雑な状況を考慮せざるを得なく、困難さを感じやすい。他に、指導教員との関係

も重要である。一部の留学生は文化差や言葉の問題で、指導教員との間に誤解が生じ、摩

擦やトラブルまで発展してしまう場合もある。

更に、在留資格の相談も多い(平成 27 年度は、先生と合わせて 42 件)。一部の留学生は、

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研究生から正規生入学までの間、或いは大学院修了から就職までの間に、数か月のブラン

ク期間がある。原則として一旦帰国する必要があるが、最近入国管理局はそういう場合の

措置として、特別の在留資格を取らせることもあるので、一度入国管理局に確認すること

を勧める。

他に「就職」と「特定活動」の面接がある。多くの留学生にとって、日本での就職やイ

ンターンは、そもそも留学目的の一つである。留学で得た知識を生かせ、日本という新天

地で自分の力を試してみたい。就職やインターン情報について、GGS や大学の就職課など

をリファー先としている。個人の適性や PR の仕方について、相談員と一緒に検討すること

もできる。また、卒論或いは修論に打ち込み、就職活動のタイミングを逃してしまった留

学生は、「就職特定活動」ビザの申請をすることができる。

その他、事故後の対応や、日本での子育てや保育園入園など、社会生活に関する相談も

行われている。

4. 相談室の対応

相談活動は、受容、共感と自己一致というカール・ロジャーズ22のカウンセリング原則に

従って行われている。相談員は留学生一人一人を大切にし、彼らの文化、宗教、ジェンダ

ー、年齢、身体的障害や健康の問題、社会経済状況、周囲のサポートなどを総合的に考慮

した上で、その人らしさや良い部分を見極めようとし、常に肯定的な方向性と希望を見出

せるように心がけている。また相談する際に、相談員は自分の価値観にとらわれないよう

に注意を払う。

時には、留学生と一緒に現在の問題を多角的に捉え、その上で行動を計画する。例えば

一部の留学生は友人がほしいと思いながらも、社交の場では自分だけが静かでしらけて、

孤独だと感じる。社交的でないのは現代社会では欠点ともいえる一方、静かな人は落ち着

いて信頼でき、ひいては魅力的だと思われることもあるので、長所とも捉えられる。無理

に社交的になろうとするのではなく、自分のペースで、スキルを磨きながら、ゆっくりと

他人に接近していくことを行動目標とする。また時には、留学生と一緒に今までの人生を

振り返り、自分の強みを見出すなどの作業を行うこともある。

留学生は若くて気力があり、自己変容の動機づけも高いので、試行錯誤をしながら、健

気でいながら逞しく成長していく。そのような成長の姿に、相談員も多々に励まされ、感

動し身が引き締まる思いをする。全ての留学生が、元気よく埼玉大学を巣立っていくよう

に、相談室は今後も尽力していきたい所存である。

以上

22 カール・ロジャーズは、アブラハム・マズローなどと並ぶ、人間性心理学の研究者であり、

Client-Centered Therapy の創始者として知られている。