icls コ ース テキスト -...

44
NPO救命おかやま ICLS ース テキスト

Upload: others

Post on 05-Sep-2019

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

第 3 版

NPO救命おかやま

ICLS コ ース テキスト

- 2 -

目次

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

院内心肺蘇生の 1 例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

BLS(一次救命処置) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

AED(Automated External Defibrillator) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13

医療者用 BLSアルゴリズム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

BLSのまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17

気道管理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18

緊急時の輸液経路 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25

モニター ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26

心停止アルゴリズム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31

VF/Pulseless VT ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32

Asystole /PEA(Pulseless Electrical Activity) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34

鑑別疾患 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36

心拍再開後の集中治療 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38

心肺蘇生で用いる薬剤 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40

RRS について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42

参考書籍と役に立つ URL ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43

- 3 -

はじめに

米国心臓協会(American Heart Association, AHA)は、1974 年より心肺蘇生(cardiopulmonary

resuscitation, CPR)と救急心血管治療(emergency cardiovascular care, ECC)のガイドラインを定

期的に発表してきました。2000 年には、国際蘇生連絡協議会(Internarional Liaison Committee

on Resuscitation, ILCOR)とともにグローバルスタンダードとしての“Guidelines 2000 for

Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care”が刊行され、日本でも救命

処置法のスタンダードとして広く浸透しました。以後、国際的なガイドラインは 5 年ごとに改定がなされています。

2015 年 10 月 16 日に JRC(Japan Resuscitation Council, 日本蘇生協議会)蘇生ガイドライン

2015 が発表されました。このテキストは JRC 蘇生ガイドライン 2015 を参考にNPO救命おかやま

ICLSコース用に作成したものです。なお、倉敷中央病院の清輔先生が中心になって作成されたテ

キストをベースにしました。

JRC 蘇生ガイドライン 2015 の主な変更点は次の 4 つです。① 胸骨圧迫の深さは胸が約 5cm

沈む程度とするが、6cm を超えないようにする(圧迫の深さが 6cm 以上になると、外傷の割合が増加するため)。② 胸骨圧迫のテンポは 1分間に 100~120回とする(圧迫のテンポが速くなると、

圧迫の深さが減るため)。③ 呼吸の確認に迷ったらすぐに胸骨圧迫を開始する。④ バソプレシン

をアドレナリンの代用として使用すべきでない(心停止におけるバソプレシンとアドレナリンの併用

には、標準用量のアドレナリンに優る利点はなく、バソプレシンはアドレナリン単独投与に優る利点

はない。したがって、アルゴリズムを簡略化するため、バソプレシンを除いた)。

また、このテキストでは触れていませんが、今までなかったファーストエイドの項目を追加したこ

とと GRADE システムという評価方法を新たに用いてガイドラインは作成されています。

心停止や窒息という生命の危機的状況に陥った傷病者や、これらが切迫している傷病者を救命

し、社会復帰に導くためには、「救命の連鎖(chain of survival)」が必要となります。JRC が提唱する救命の連鎖は、以下の 4 つの要素で構成されています。

JRCにおける救命の鎖

- 4 -

心停止の予防は、心停止や呼吸停止となる可能性のある傷病を未然に防ぐことです。初期症

状の気づきが重要であり、それによって心停止に至る前に医療機関で治療を開始することが可

能になります。

早期認識は、突然倒れた人や、反応のない人を見たら、ただちに心停止を疑うことで始まりま

す。心停止の可能性を認識したら、大声で叫んで応援を呼び、救急通報を行った、AED と蘇生器材を持った専門家や救急隊が少しでも早く到着するように努めます。

一次救命処置(basic life support:BLS)は、呼吸と循環をサポートする一連の処置です。BLS

には胸骨圧迫と人工呼吸による心肺蘇生と AED の使用が含まれ、誰もがすぐに行える処置ですが、心停止傷病者の社会復帰においては大きな役割を果たします。

二次救命処置(advanced life support:ALS)は、BLS のみでは心拍が再開しない患者に対して、薬物や医療機器を用いて行うものです。心拍再開(return of spontaneous circulation:ROSC)後

は、必要に応じて専門の医療機関で集中治療を行うことで社会復帰の可能性を高めることがで

きます。

ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)と言われるコースは、AHA が主管する二次救命処置に関わる2日間の研修コースです。

一方、このICLS(Immediate Cardiac Life Support)コースは、日本救急医学会が認定する ALS の中でも基本となる、突然の心肺停止に対する最初の 10 分間のチーム蘇生に重点を絞ったコースです。 

このテキストは、ICLSコースのために“NPO法人救命おかやま”が作成したテキストです。救命

おかやまでは、”明るく、楽しく、わかりやすく”をモットーに15年にわたってコースを開催してきてい

ます。

急変時に対応できるようになることを目標に、マネキンを使った実技中心の講習会にしたいと

思っています。このテキストをよく読んで、講習会に参加していただきたいと思います。

- 5 -

院内心肺蘇生の 1例

ある日、あなたが田中さんの部屋を訪れると・・・

「セリフ」 〈行動・状況〉 解説

あなた

あなた

看護師 A

あなた

看護師 A

あなた

看護師 B

あなた

看護師 B

あなた

医師 C

あなた

医師 C

あなた

〈田中さんが目の前でうめき声を発して反応がなくなる〉

「田中さん、大丈夫ですか?」

〈肩を軽く叩きながら大声で呼びかける〉

「反応がない。」

〈ナースコールを押す〉

「どうされました?」

「田中さんの反応がありません。急変です。緊急コールをし

て、救急カートと除細動器(AED)を持ってきてください。」

「はい、分かりました。」

〈気道確保:頭部後屈・あご先挙上〉

〈呼吸と脈を同時に確認、10 秒以内〉

「呼吸なし。脈なし。胸骨圧迫を開始します。」

〈胸骨圧迫を開始〉

〈換気ができれば、胸骨圧迫と換気を 30:2 で繰り返す。

換気ができなければ胸骨圧迫のみ継続する〉

~しばらく CPR を行っていると~

「どうしたんですか?」

「心停止です。胸骨圧迫を交代してください。」

「はい。1、2、3、4、・・・・・・・・・、27、28、29、30。」

「換気をお願いします。胸骨圧迫と換気は 30:2 の同期でお

願いします。」

「はい。1、2。」 〈バッグマスクで 2 回換気〉

「背板を入れましょう。頸部を保護して換気係の合図で背板

を敷きます。」

「1、2、3、はい。」

「モニターを付けて、Ⅱ誘導にして下さい。感度が 1 倍以上

【C:Circulation】循環

胸骨圧迫:100~120 回/分のテンポ、

深さ 5cm以上(6cmを超えない)、圧迫

と圧迫の間に胸壁に力がかからないよ

うにする

【A:Airway】気道確保

【B:Breathing】換気 2 回吹き込み(吹

き込みは 1 回 1 秒で)、胸骨圧迫の中

断は最小限に

まず、胸骨圧迫を交代することで、リー

ダーとして指示できる立場になる

頭側の人(換気係)が頸部保護しなが

ら、かけ声をかける

- 6 -

看護師 D

あなた

看護師 D

医師 E

あなた

看護師 D

医師 C

あなた

看護師 B

あなた

医師 E

あなた

看護師 B

医師 C

あなた

医師 C

であることを確認してください。」

「モニターつきました。Ⅱ誘導にしました。感度は 1 倍以上で

す。」

「モニターをチェックしますので胸骨圧迫を止めてください。」

「VF(心室細動)です。胸骨圧迫を再開してください。360J で

電気ショックを施行してください。」

「360J に設定しました。」

「充電します。離れてください。」

〈パドルを胸壁に当てて、充電ボタンを押す〉

「1、2、3、モニター」

〈充電完了を確認し、モニター波形を見ながら、放電する〉

「胸骨圧迫を再開してください。」

〈胸骨圧迫を交代できるよう、あらかじめ移動しておく〉

〈胸骨圧迫〉「1、2、3、4、・・・・・29、30」

〈換気〉「1、2」

「挿管の準備をしてください。」 「静脈ラインをとってくださ

い。肘正中皮静脈から、生食をつないでください。」 「カルテ

で病状を教えてください」「カラダの所見は?」

「静脈路確保できました。」

【胸骨圧迫と換気(30:2)5 サイクルまたは 2 分後】

「モニターを確認します。胸骨圧迫を止めてください。」

「VF 持続しています。胸骨圧迫を再開してください。360J で

除細動してください。」

「充電します。離れてください。」

〈パドルを胸壁に当てて、充電ボタンを押す〉

「1、2、3、モニター」

「胸骨圧迫を再開してください。」

〈胸骨圧迫を交代できるよう、あらかじめ移動しておく〉

〈胸骨圧迫〉「1、2、3、4、・・・・・」

〈換気〉「1、2」

「挿管してください。」

「アドレナリン 1mg 静注して、生食 20ml で後押ししてください。その後、上肢を 20 秒挙上してください。」

〈気管挿管〉

「声門通過、スタイレットを抜いて。カフにエアを 10ml 入れ

各メンバーもそれぞれ行為を宣言する

【D:defibrillation】

電気ショックは単相性 360J、二相性

推奨エネルギー量(150~200J)

パドルで電気ショックを行う場合は、

ジェルパッド、ゼリーを使用

【除細動の安全確認】

1:自分

2:あなた(換気係)

3:周りすべての人

胸骨圧迫者は 1~2 分毎に交代する

(胸骨圧迫の質を保つ)

二次救命処置

【A:Airway】高度な気道確保(気管挿

管など)

【B:Breathing】酸素投与

【C:Circulation】静脈路確保と薬剤

【D:Differential diagnosis】鑑別診断(カ

ラダ、カルテ、カゾク、検査など)

充電完了を確認し、最終モニター波形

を確認後、放電ボタンを押す

アドレナリンは 3~5 分毎に投与

- 7 -

あなた

看護師 D

あなた

医師 E

あなた

看護師 D

医師 C

あなた

て。挿管できました。」

「挿管の確認をします。胸骨圧迫を止めてください。」

「心窩部ゴボゴボ音なし。胸郭の動き左右差なし。呼吸音左

右差なし。心窩部ゴボゴボ音なし。」

「胸骨圧迫再開。」

「チューブ内の曇りは上下しています。酸素がつながってリ

ザーバーが膨らんでいます。」

「カプノグラフィに接続しましょう。換気と同期して波形が確

認できました」

「気管チューブを固定してください。胸骨圧迫は 1 分間に100~120 回、換気は 1 分間に 10 回、非同期で行ってくださ

い。」

「アドレナリン 1mg 静注して、生食 20ml で後押し、上肢挙上しました。」

【胸骨圧迫と換気(30:2)5 サイクルまたは 2 分後】

「モニターを確認します。胸骨圧迫を止めてください。」

「VF 持続しています。胸骨圧迫を再開してください。360J で

ショックしてください。」

「充電します。離れてください。」

〈パドルを胸壁に当てて、充電ボタンを押す〉

「1、2、3、モニター」

「胸骨圧迫を再開してください。」

〈胸骨圧迫を交代できるよう、あらかじめ移動しておく〉

〈胸骨圧迫〉「1、2、3、4、・・・・・」

〈換気〉「1、2・・・・」〈非同期で 1 分間に 10 回〉

「2 分経過しました。モニターを確認します。胸骨圧迫を止め

てください。」〈頸動脈を触れながら〉

「脈触れます。血圧を測ってください。」

「呼吸確認、呼吸あり。」

「反応の確認、分かりますか?」

気管チューブの先端位置と CPR の質

を継続的に評価するために、呼気 CO2

モニター(カプノグラフィ)を使用する。

充電完了を確認し、最終モニター波形

を確認後、放電ボタンを押す

体動・呼吸の出現または圧の出そうな

波形になればパルスチェック。それ以

外は CPR2分間(または 5サイクル)続

ける。

- 8 -

BLS(一次救命処置)

CPRとは Cardiopulmonary Resuscitationの略語で心肺蘇生法のことです。

我々、人間の脳組織は 4~6分で不可逆的(元には戻らないこと)な変化をきたすと言われてい

ます。心肺蘇生法は心臓と肺の機能を他動的に維持させることで脳の機能を維持、回復させるこ

とが目的であることから、心肺脳蘇生法(CPCR Cardiopulmonary Cerebral Resuscitation)とも

言われます。

BLS(Basic Life Support)には胸骨圧迫と人工呼吸によるCPRと AEDが含まれます。ガイドライ

ンではより迅速な胸骨圧迫を開始することができるように、心停止と判断された場合には胸骨圧

迫から CPR を開始することが推奨されています。

ここでは、成人における BLSについて学んでいただきます。

1.反応の確認

周囲の安全を確認し、感染防護対策(手袋、防護服など)を行なった上で、傷病者に近づきます。

次に反応があるか、外傷がないかをみます。傷病者の肩を軽く叩きながら、大声で呼びかけま

す。何らかの応答や目的のある仕草がなければ、「反応なし」とみなします。

救助者の位置

一番効率のよい位置は、傷病者の肩の位置にひざまずくことです。人工呼吸から胸骨圧迫

に移るのに一番労力が少なくてすみます。

2.助けを呼ぶ(迅速な通報)

反応がなければ、その場で大声で叫んで助けを呼びます。周囲の人に 119 番通報と AED の手配(近くにある場合)を依頼します。院内であれば、緊急コール(コードブルー、スタットコール

など)をかけて人を集め、救急カートと除細動器(AED)を持ってきてもらいます。

救助者が一人だけのときは、自分で 119 番通報を行い、AED が近くにあれば取りに行きます。その後、CPR を開始します。

溺水や窒息などの呼吸原性の心停止が疑われる、あるいは溺水の場合は、救助者が一人な

ら、まず 5サイクル(2分)の CPR(1サイクル=胸骨圧迫 30回+人工呼吸 2回)を行った後

に、119番通報や AEDの手配を行います。

- 9 -

3.気道の確保

反応がない傷病者は気道(空気の通り道)が塞がっている恐れがあります。頭部後屈・あご先

挙上法で気道を確保します。片方の手掌を傷病者の額に当て頭を軽く反らせ(頭部後屈)、もう

一方の手の人差し指と中指をあご先の骨の部分に置き、下顎を引き上げます(あご先挙上)。

4.呼吸と心停止の判断

胸と腹部の動きを観察し、動きがなければ「呼吸なし」と判断します。

呼吸がないか異常な呼吸(死戦期呼吸)が認められる場合、あるいはその判断に自信が持て

ない場合は心停止と判断します。呼吸の確認には 10秒以上かけないようにします。

蘇生に熟練した救助者は呼吸を観察しながら同時に頸動脈の拍動の有無を確認します。

額を押さえている方、またはあご先を挙上している方のいずれかの一方手を離し、その指で頸

動脈を触知します。2~3本の指で気管を触れ、この指を気管と胸鎖乳突筋とのあいだの溝に

すべらせていくと頸動脈に触れます。

死戦期呼吸は、しゃくりあげるような不規則な呼吸であり、心停止直後の傷病者ではしばしば

認められます。死戦期呼吸であれば、胸と腹部の動きがあっても「呼吸なし」すなわち心停止

と判断します。

呼吸はないが脈拍を認める場合は、気道を確保して 1分間に約 10回の人工呼吸を行いなが

らALSチームを待ちます。少なくとも 2分毎に脈拍確認を行い、心停止となった場合に胸骨圧

迫の開始が遅れないようにします。

- 10 -

5.胸骨圧迫

CPR は胸骨圧迫から開始します。一刻も早い胸骨圧迫が大切です。

傷病者を仰臥位に寝かせて、傷病者の胸の横にひざまずきます。

胸骨の下半分に、片方の手のひらの付け根を置きます。それからもう一方の手を重ねます。胸

郭に指が触れないように指をそらせるか、組みます。傷病者に対して覆いかぶさるようにして肘

をまっすぐ伸ばし、垂直に、胸骨が約 5cm(ただし、6cm を超えない)沈むようにしっかり圧迫し

ます。1 分間あたり 100~120 回のテンポで圧迫します。圧迫を解除するときには、掌が浮き上

がらない(離れない)ように注意し、しかも胸が元の位置に戻るように圧迫と圧迫の間に胸壁に

力がかからないようにします。ただし、胸骨圧迫が浅くならないように注意します。

手の位置を確認する場合、必ずしも衣服を脱がせて確認する必要はありません。

胸骨圧迫は可能な限り硬い面の上で行うべきです。CPR 中は空気で膨らんだマットレスを常

に脱気すべきです。背板を使用することの是非についてのエビデンスは不十分です。背板を

使用する場合、救助者は胸骨圧迫の開始の遅れや胸骨圧迫の中断を最小限にすべきで、ま

た背板を挿入する時にカテーテルやチューブが抜けないように注意すべきです。

コラム : 実際は脈があるかもしれないのに、胸骨圧迫をしても大丈夫?

心停止が疑われる傷病者の頸動脈の脈拍を迅速に評価するのは、医療従事者であっても困難または不正

確なことがあります。脈の触知にこだわって、心停止傷病者に対する CPRの開始が遅れることがあってはな

りません。すなわち、脈拍の有無が不明確な場合には、脈拍がないものとして胸骨圧迫を開始します。実際

には脈がある傷病者に CPR を行ったための害は、脈拍がない傷病者に CPR を行わなかったための害によ

りはるかに少ないです。自己心拍のある傷病者に対する胸骨圧迫で VF などの致死的不整脈が誘発された

との報告はありません。

- 11 -

コラム : 感染防御について

CPR における感染のリスクは低いです。しかし、傷病者に危険な感染症が

あることが判明している場合や血液や体液(唾液など)に触れる場合には、

注意が必要です。フェイスマスクやバッグマスクなどの感染防護用具を使

用することが推奨されています。フェイスマスクやバッグマスクには一方向

弁がついており、救助者の呼気は傷病者の肺に吹き込めますが、傷病者

の呼気は救助者には流れてこないようになっています。

胸骨圧迫を 1~2分持続して行うと疲労を感じなくても圧迫が不十分になります。救助者が複

数いる場合には、1~2分毎を目安に胸骨圧迫の役割を交代して、CPR の質を維持するよう

に努めましょう。交代に要する時間は最小限にするべきです。

6.人工呼吸

人工呼吸ができる場合は胸骨圧迫と人工呼吸を 30:2 の比で行います。感染防護具が手元に

ないなど、ただちに人工呼吸を行なうことができない場合には、胸骨圧迫のみを継続し、人工

呼吸は実施が可能になり次第始めます。胸骨圧迫が中断すると血流が止まり、心臓や脳に行

く血流が低下し、生存率の低下につながります。胸骨圧迫と人工呼吸を交互に行う場合には、

人工呼吸をできるだけ効率的に済ませ、胸骨圧迫の中断を最小限にするべきです。

口対口人工呼吸

気道を確保し、額に当てていた手の親指と人差し指で鼻をつ

まみます。鼻をつまんで、人工呼吸で口から吹き込んだ息が

鼻から漏れないようにします。普通に息を吸い込んで傷病者

の口から空気が漏れないように唇で傷病者の口を覆います。

1回の吹き込みに約 1 秒かけて 2回息を吹き込みます。換気

量は傷病者の胸の上がりを確認できる程度です。

口対マスク人工呼吸

傷病者の頭の横に位置します。傷病者の鼻のつけ根を目安に顔

にマスクを当てます。傷病者の頭側に近い手の親指と人差し指

をマスクに添って当て、マスクを密着させ、他方の手の親指をマ

スクの下縁に当てます。残りの指は、傷病者の下顎縁に添って

当て、下顎を挙上します。頚椎損傷がなければ頭部後屈・あご先

挙上を行います。マスクをしっかりと押しつけ、漏れのないように

密着させます。胸の上がりを見ながら、約 1 秒かけて息を吹き込

みます。

- 12 -

1回目の人工呼吸によって胸の上がりが確認できなかった場合は、気道確保をやり直してか

ら 2回目の人工呼吸を試みます。2回の試みが終わったら(それぞれで胸の上がりが確認で

きた場合も、できなかった場合も)それ以上は人工呼吸を行なわず、直ちに胸骨圧迫を開始

します。

AEDまたは除細動器を装着するまで、ALSを行なうことができる救助者に引き継ぐまでは、脈

の確認はせず、胸骨圧迫と人工呼吸を続けます。明らかに ROSC と判断できる反応(呼びか

けへの応答、普段どおりの呼吸や目的のある仕草)が出現した場合には、十分な循環が回

復したと判断して CPRを一旦中止してよいです。

回復体位(recovery position)

意識のない傷病者は舌根沈下による気道閉塞の可能性があるので気道確保の目的で回復体

位にします。

反応はないが、十分な自発呼吸、脈拍があり、かつ外傷のない傷病者に対して用いられます。

1.傷病者の横にひざまずき、その足を伸ばす。

2.救助者に近いほうにある傷病者の腕を“さよならというときの腕のかたち”にする。

3.傷病者の反対側の腕は胸の前を横切らせ、手の甲を救助者に近い側の頬のところに置く。

4.救助者から遠い側の傷病者の膝を立て、身体を引き寄せる。

5.もう片方の手を傷病者の肩に置き、引き寄せて横向きとする。傷病者の腕はその頬のところ

に置く。

6.上になっている足と膝と股関節をよい角度にする。

7.頭部を後屈し、気道を確保する。上になっている手

の甲を頬に近づける。この手を頭部後屈に使う。必

要ならあご先挙上を行う。

8.呼吸を頻繁にチェックする。

まとめ

1. 強く、速く圧迫する

約 5cm(ただし、6cmを超えない)の深さ

1 分間に 100~120回のテンポ

2. それぞれの圧迫の後、胸壁を完全に元に戻す

3. 胸骨圧迫の中断を最小限にする

4. 過換気を避ける

- 13 -

AED(自動体外式除細動器)

‐ Automated External Defibrillator -

AED の使用は当初、医師、救急救命士、飛行機の搭乗員に限られていましたが、2004 年 7月

1日、厚生労働省は、心停止者に対して救急隊員の到着までの間に現場に居合わせた人が、速

やかに除細動を行うことがより有効であるとの観点から非医療従事者による自動体外式除細動

器(AED)の使用を認めるべきとの方針を打ち出しました。これにより、前提条件なしに、一般市

民がAEDを用いて電気ショックをかけても違法性は問われないという内容が明記されました。

早期除細動の原理

早期除細動は次のような理由により突然の心停止傷

病者には必須となります。

① 目撃者のいる心停止によくあるリズムは心室細動

(VF)である。

② VF に対する最も有効な治療は、電気的除細動で

ある。

③ 除細動の成功の可能性は、時間が経過すると急

に減少する。

④ VFは放置すると数分以内に心静止(Asystole)にな

る。

早期の除細動が高い生存率をもたらします。除細動

が 1分遅れるごとにVFによる心停止の生存退院率は

7~10%ずつ減っていきます。

AED の使用

AEDは傷病者が次の 3つの兆候を示すときのみ使用します。

① 反応がない

② 呼吸がない

③ 脈が触れない(もしくは分からない):熟練者のみ

Heart start FR2

- 14 -

AED の操作手順

1. AEDの電源を入れる。

2. 電極パッドを貼る(CPR は継続します)。

右前胸部と左側胸部にパッドを装着します。

(前胸部と背面、または心尖部と背面でもよい。)

3. 心電図の解析を開始する。

解析中は傷病者に触れない。この間に胸骨圧迫者を交

代します。

4. 除細動が必要と AEDが判断した場合、安全確認をした後、ショックボタンを押す。

安全確認;「自分よし、あなた(換気者)よし、周りよし」

※ 電気ショックに伴うスパークによって火災が発生する可能性があります。ショック時に

高濃度の酸素が傷病者近くに流れないように注意しましょう。

「ショックは必要ありません」のメッセージが表示されたとき

これは、傷病者の心臓のリズムが除細動は必要でないことを意味します。ただちに CPR

を開始します。

5. ショック後、直ちに CPR を開始する。

6. 2分間の CPR 後、AEDはリズムの解析をする。

ROSC後も AEDの電源は切らず、パッドは貼付したままにしておきます。

コラム : 心臓震盪(しんぞうしんとう)とは?

子供の突然死の原因として心臓震盪があります。これは胸部に衝撃が加わったことにより心臓が停止してし

まう状態です。多くはスポーツ中に、健康な子供や若い人の胸部に比較的弱い衝撃が加わることにより起こ

ります。心電図上のT波の頂上から15-30msec(ミリ秒)前のタイミングで衝撃が加わった時に高率に心室細

動(VF)が誘発されます。除細動が唯一の治療法となります。

- 15 -

特殊な状況

① 傷病者が小児の場合

小児には小児用パッドを使用しますが、ない場合は成人

用を代用します。未就学児(およそ 6 歳以下)にはこのパ

ッドを用い、それ以上は成人用パッドを使用します。

AEDは 1歳未満の乳児にも推奨されるようになりました。

② 傷病者の胸毛が濃い。

傷病者の胸毛が濃いときには、電極パッドが胸部の皮膚ではなく、胸毛に張り付いて

しまう可能性があります。そうなると AED は「電極をチェックしてください」、「電極を確

認してください」といったメッセージを出します。電極パッドを胸部に強く押し付けます。それ

でも解決しないときには、すぐに電極パッドを剥がします。電極パッドを貼ろうとしている部

分にまでかなりの胸毛が残っているときには、AED の携帯用ケースに入っているカミソリで

胸毛を剃ります。それから予備の新しい電極パッドを貼り付けます。

③ 傷病者が水中にいるか傷病者の胸が水で濡れている。

水があると、一方の電極パッドからもう一方の電極パッドに向かって電気ショックの

電流が皮膚表面の水を伝わってしまい、エネルギーが心臓のほうに伝わりません。傷

病者の胸部に水がついていれば、すばやくタオルでふき取ります。傷病者が水たまり

や雪の上に横たわっていても、胸部が乾いていれば、そのまま電気ショックを加える

ことができます。

④ 傷病者が植込み型ペースメーカや除細動器(ICD)を付けている。

これらの上に電極パッドを貼り付けると心臓に電気ショッ

クが伝わるのが妨げられるので、貼り付けてはいけません。

電極パッドは膨らみを避けて貼ります。

(ペースメーカ本体付近にパッドを装着して除細動を行ったところ、ペースメー

カあるいは ICD が誤作動したという報告があり、少なくとも 8cm 離すことで明

らかな支障はなかったとの報告があります。ただし、このために貼りつけに手間

取ってショックの実施を遅らせてはいけません。)

⑤ 傷病者が AEDパッドを付ける皮膚の表面に経皮的貼付薬剤かその他の物を付けている。

貼付剤は電流が心臓に伝わるのを妨げるため、電気ショックがうまく伝わらない可能

性があります。また、やけどを起こすこともあります。電極パッドを貼るまえに、貼

付剤を剥がして胸部を拭きます。

- 16 -

医療者用 BLSアルゴリズム

反応なし

呼吸なし

また死戦期呼吸*2

呼吸は?*1

CPR

ただちに胸骨圧迫を開始する

強く(約 5cm で、6cmを超えない)*3

速く(100~120 回/分)

絶え間なく(中断を最小にする)

人工呼吸の準備ができしだい、

30:2 で胸骨圧迫に人工呼吸を加える*4

人工呼吸ができない状況では胸骨圧迫のみを行う

AED/除細動器装着

心電図解析・評価

電気ショックは必要か?

ALS チームに引き継ぐまで、あるいは患者に正常な呼吸や

目的のある仕草が認められるまで CPR を続ける

電気ショック

ショック後ただちに

胸骨圧迫から CPR を再開*5

(2 分間)

ただちに

胸骨圧迫から CPR を再開*5

(2 分間)

気道確保

応援・ALSチームを待つ

回復体位を考慮する

大声で叫び応援を呼ぶ

緊急通報・除細動器を依頼

正常な呼吸あり *1・気道確保して呼吸の観察を行う

・熟練者は呼吸と同時に頸動脈の

拍動を確認する

(乳児の場合は上腕動脈)*2・わからないときは胸骨圧迫を開始する

・「呼吸なし」でも脈拍がある場合は気道確保

および人工呼吸を行い、ALS チームを待つ

必要なし 必要あり

*5強く、速く、絶え間なく胸骨圧迫を!

*3小児は胸の厚さの約 1/3

*4小児で救助者が

2 名以上の場合は 15:2

- 17 -

- 18 -

気道管理

① 気道確保

1. 頭部後屈あご先挙上法

BLSの項(P9)参照

2. 下顎挙上法

頚椎損傷が疑われる場合は、頭部後屈は行わず、下顎挙上

法で気道を確保します。両手で頭の横を持ち、肘を床につけ

ます。両手で下顎角を引き上げるように持ち、下顎を突き出し

ます。唇が閉じてしまうようであれば親指で下唇を押し下げま

す。

下顎挙上法で気道が確保できなければ、頭部後屈・あご先挙

上法に切り替えます。

② 基本的な気道確保器具

1. 口咽頭エアウェイ(Oropharyngeal Airway:OPA)

意識のない患者に対し、通常の気道確保法(頭部後

屈-あご先挙上、下顎挙上など)で気道が開通でき

ない場合に使用します。嘔吐を誘発する可能性があ

るため、意識のある患者や咽頭反射のある患者に

使用してはいけません。

OPA挿入手順

1. 適切なサイズ(口角から下顎角までの長さ)の

OPAを選択します。

2. OPA が硬口蓋に向かうように上向きに口内に挿

入します。

3. OPA が口腔内を通り、咽頭後壁に近づいたとき、

OPAを 180度回転させ、適切な位置に合わせます。

- 19 -

2. 鼻咽頭エアウェイ(Nasopharyngeal Airway:NPA)

基本的な気道補助器具を必要とする患者に対し、

OPA の代替として使用します。OPA と異なり、NPA

は意識のある患者または咽頭反射のある患者にも

使用できます。頭蓋底骨折を合併している患者に

対して NPA を使用し、頭蓋内へ迷入した報告があるため、注意を要します。

NPA 挿入手順

1. 適切なサイズ(鼻の先端から耳たぶまでの長

さ)の NPAを選択します。

2. 水溶性の潤滑剤またはゼリーを使用して、潤

滑にします。

3. NPA を顔表面に対して垂直に、鼻孔から後方

に向けて挿入します。NPA を鼻咽頭の底部

に沿ってゆっくり前進させます。

※ 抵抗を感じた場合は、NPA をわずかに回転させながら挿入します。それでも抵抗を

感じる場合は、もう一方の鼻孔から挿入を試みます。

● バッグ-バルブ-マスク bag-valve-mask

本体の構造

バッグ 成人用は用量 1500~1600ml。

バルブ 陽圧換気を行なうために必要。

一方向弁がついている。

マスク 透明なものが望ましい。

リザーバー 高濃度の酸素を投与するために

は不可欠。

- 20 -

1 人で換気を行なう方法

1. 傷病者の頭側に立ちます。

2. 鼻のつけ根を目安にしてマスクを顔に当てます。

3. E-C 法で下顎挙上を維持して気道を確保し、マスクを密着させます。

・ 頭部を後屈します。

・ 親指と人差し指で“C”の字を作ってマスクの端を押

さえます。

・ 残りの指で“E”の字を作り、下顎角を引き上げて気道を確保します。

4. もう一方の手でバッグを押します。1回の換気に 1秒かけます。換気量は胸の上がりが見える

程度です。過換気は避けます。

5. 人工呼吸のみ行なう場合は、酸素の有無によらず、10回/分(6秒に 1回)換気をします。

頭の下に厚さ 7cm程度の枕を置くと換気がしやすくなります。

2 人で換気を行なう方法

頭側の救助者は、両手の親指と人差し指を使ってマスクをしっ

かり密着させ、残りの指を使って下顎を持ち上げます(E-C

法)。あるいは、人差し指と中指と薬指と小指で下顎を保持し、

母指球でマスクをしっかり密着させます(母指球法)。マスクを

保持しながら首を伸展し、胸部が挙上するのを観察します。

もう1人の救助者は、胸の上がりが見える程度にバッグを 1 秒

かけて加圧します。

リザーバーについて

リザーバーをつけない状態で酸素流量 15ℓ/分一回換気量 600mlで 1分間に 12回換気したと

しても酸素濃度は 54%にすぎません。しかし、リザーバーをつけて同じ条件で換気すると酸素

濃度は 100%になります(下表参照)。心停止で 100%酸素を確実に投与したいときには必ずリザ

ーバーをつけましょう。

コラム : なぜ、過換気にするといけないの?

CPR 中の肺血流量は 25~33%程度です。したがって、正常な状態に比べ、心停止患者では血液を酸素化し

二酸化炭素を排泄するための換気量は少なくて済みます。CPR 中の過換気は必要でないばかりでなく、平

均胸腔内圧が上昇するため、心臓に戻る血液量が減少します。胸骨圧迫で得られるはずの心拍出量が減

少し、生存率が低下することになります。

- 21 -

酸素流量 ℓ/分 換気量(ml)×回数/分 換気量(ml)×回数/分

リザーバーなし 600×12 750×12

10ℓ/分

15ℓ/分

44%

54%

39%

52%

リザーバーあり 600×12 750×12

10ℓ/分

15ℓ/分

100%

100%

100%

100%

輪状軟骨圧迫(Sellick法)

輪状軟骨圧迫は多くの患者で換気を阻害したり、送気圧の上昇を招いたりした。輪状軟骨圧

迫によって食道から咽頭への液体の逆流の頻度を減少させることはできなかったとの報告も

あり、CPR 中に誤嚥予防の目的で輪状軟骨圧迫を行うことをルーチンとするのは推奨されま

せん。

③ 気管挿管

適応 : 患者自身が自分で気道を確保できないとき

そのほかの方法で十分な酸素化が得られないとき

長期にわたり人工呼吸管理が必要なとき

つまり、心肺蘇生時に必ず気管挿管しなければいけないわけではありません。

手技に不慣れであったり、挿管に時間を要する場合には必ずしも必要ではありません。挿管

操作に許される時間は 30秒です。

準備 :

(1) 準備するもの ; 喉頭鏡、気管チューブ、スタイレット、カフ

用注射器、吸引、固定具、枕など

(2) 挿管を行うときには十分な酸素化(バッグバルブマスクと酸

素供給ラインの確認)を行っておく。

(3) チューブのサイズは女性では 7.0~7.5mm、男性では 8.0~

8.5mmを用いるが、緊急時には女性は 7.0mm、男性は 8.0mmを用いるとよい。

(4) カフの点検、喉頭鏡の点検

- 22 -

気管挿管の手技

(1) 頭部の下に枕を入れて頭部を

高くしておく。

(2) 頭部後屈して気道を確保する。

少し頭を高くして頭部後屈あご

先挙上法で気道確保すると声

門が見やすい。(においをかぐ

姿勢=Sniffing position)

(3) 術者の右手の親指と人差し指(あるいは中指)を交差させて上下の門歯をゆっくりと

開く。

(4) 喉頭鏡のブレードで舌を左に寄せ、ブレードの先端を舌根と喉頭蓋との間の喉頭蓋

谷にいれて喉頭鏡を上方に軽く引っ張って喉頭展開すると声門開口部がみえる。

(5) 声門開口部から目を離さないで介助者から気管チューブをもらいカフが声門を通過し

たら、介助者にスタイレットを抜いてもらう。

(6) スタイレットを抜いてもらったら、気管チューブを差し入れる(通常、門歯の位置が男

性:22~23cm、女性:21~22cm)。

(7) 喉頭鏡を抜いて、カフにエアーを 10ml 注入してもらい、術者は左手で気管チューブをしっかり固定しておく。

気管挿管時の胸骨圧迫の中断はできるだけしないようにします。中断する場合はできる限

り短時間(10秒以内)にとどめます。

気管挿管後の確認

(1) 心窩部聴診で胃内への送気音(ゴボゴボ音)が聞こえないこと

(2) 胸郭の上下動があり、左右差がないこと

(3) 左右前胸部・側胸部聴診(4箇所)で呼吸音が正常に聞こえ、左右差がないこと

再度、心窩部の聴診

胸骨圧迫再開

(4) 気管チューブ内に呼気による「くもり」があり、上下していること

(5) リザーバーが膨らんで 100%酸素がつながっていること

(6) 呼気 CO2モニター(カプノグラフィ)で確認(カプノグラフィが使用できない場合は、比色式

CO2検知器や食道挿管検知器(EDD)を使用する)

- 23 -

◎ 呼気 CO2モニター(カプノグラフィ)について

気管挿管してチューブ先端が正しく気管に入っていれば、呼気の CO2を感知する。

挿管患者で CPR 中に呼気終末 CO2値が低い(10mmHg 未満)状態が続く場合は ROSC

の可能性が低い。呼気終末 CO2が 10mmHg 未満である場合は、CPR の質の向上を試み

る。

呼気終末 CO2が急激に増大した場合は、ROSCの指標となる。

挿管の確認が終わったら、気管チューブをテープあるいは専用器具で確実に固定します。

気管挿管下での CPR では、人工呼吸の際に胸骨圧迫を中断せず、人工呼吸と胸骨圧迫を

非同期で行います。この場合の人工呼吸の回数はおよそ 10 回/分(6 秒に 1 回)とし、呼吸

回数が過剰にならないように注意します。

挿管直後や搬送中、患者を動かすたび毎に正しいチューブの位置を確認します。

コラム :挿管患者の急激な悪化の原因として考えられることは?

Displaced tube:チューブの逸脱

Obstructed tube:チューブの閉塞

Pneumothorax:気胸

Equipment failure:機器の故障

- 24 -

④ 声門上気道デバイス

気管挿管以外の代替エアウェイとしてラリンゲアルマスクエアウェイ(LMA:Laryngeal Mask

Airway)と食道・気管コンビチューブ(ETC:Esophageal-tracheal combitube)、ラリンゲアルチ

ューブ(LT:Laryngeal Tube)、i-gel などがあります。これらは病院前救護ではよく使われてお

り、盲目的に留置できるため、直視下気管挿管より容易に習得できます。

声門上気道デバイスが挿入された場合は、適切な換気が可能であれば胸骨圧迫と人工呼吸

は非同期で行います。

ラリンゲアルマスクエアウェイ(LMA) 食道・気管コンビチューブ(ETC)

ラリンゲアルチューブ(LT) i-gel

- 25 -

緊急時の輸液経路

1.まずは末梢静脈から

心肺蘇生時の第一選択は肘正中皮静脈、外頸静脈。スピード、容易さ、安全性が重要です。

2.輸液剤は生理食塩液か乳酸リンゲル液を

生理食塩液は糖液と比較して、より血管内に貯留します。また高血糖は脳蘇生に悪影響を及ぼします。

循環血液量減少が疑われる場合には、500ml の生理食塩水をできるだけ早く投与します。明らかな循

環血液量減少の証拠がなくても、生理食塩水 500ml を投与することは「経験則に基づく輸液負荷」とし

て認められます。

3.薬剤投与後、生食 20ml後押し&上肢挙上

肘静脈からの薬剤投与後、輸液 20mlで後押しする、または輸液を全開投与し、上肢を 10~20秒間挙

上します(全身循環に達するまでに 1~2分を要します)。

4.大量輸液なら末梢静脈から

中心静脈カテーテルより末梢静脈の留置針の方が大量輸液に有利です。口径が同じであれば短いカ

テーテルの方が同時間で大量に輸液を行えるからです。それだけでは足りない場合、一旦心拍再開

した時点で太い口径の中心静脈路を確保しましょう。

静脈路以外の薬剤投与方法

1. 骨髄内投与:骨髄内への薬剤投与により末梢静脈路からの投与と同程度の血中濃度上昇が得られます。

《投与方法》

① 脛骨近位端前面に穿刺針(骨髄穿刺針または 14~18 Gの静脈留置針、もしくは 17~19Gの硬膜

外針)をほぼ垂直か尾側にほんの少し傾ける。

② 骨にあたったらキリで穴を開けるように針を押しながら回転させる。

③ 急に抵抗がなくなった深さで針先を進めるのをやめる。

④ 穿刺針が骨に固定されていたら(針の内筒を抜いて)輸液回路を接続する。

⑤ 三方活栓より 10 mlの生理食塩水を注入し、最初は抵抗があるが急に抵抗がなくなるのを確認す

る。

⑥ 輸液しても穿刺部および周囲が腫脹してこないか確認する。

2.気管内投与 ・・・現在は推奨されていません。

気管内投与できる薬剤:リドカイン、アドレナリン、アトロピン、ナロキソン

《投与方法》

① 静脈内に推奨される投与量の 2~2.5倍量を、生理食塩液または蒸留水 5~10mlに希釈。

② 胸骨圧迫を止める。

③ 薬剤を気管チューブに直接注入。

④ 直ちに換気バッグで数回強く換気。

3.心腔内投与

原則的に禁忌!

- 26 -

モニター

① モニターのつけ方

右上胸部に赤(あ)、左上胸部に黄(き)、左の側腹部に緑(み)

のリード線を装着します(「あきみ」の順)。

最初は誘導をⅡ誘導に設定し、感度が 1倍以上であることを確

認します。

② モニターを読むということ

⑤ 求められている能力は、心電図のエキスパートになることで

はありません。

⑥ ALSにおいてモニターを読むことの目的は、不整脈の診断ではなく、

目の前の患者さんの急変の原因が不整脈によるものか否かを判断することです。

⑦ そのために必要なことは致死的不整脈を認識することです。

③ リズムチェックについて

リズムチェックとは、モニター上の波形確認を行うとともに、必要に応じて脈拍の確認を行うこ

とです。心室細動(VF)や心静止がモニター上で明らかな場合は脈拍の確認は不要です。

④ 鑑別すべき致死的不整脈 ~心停止の 4 つの波形~

1. 心室細動 Ventricular Fibrillation (VF) ・・・・・・・・・・・・・ 除細動の適応

正常の形をした QRSが認められない。リズムは不規則です。

2. 無脈性心室頻拍 Pulseless Ventricular Tachycardia (VT) ・・・・・・・ 除細動の適応

幅の広い QRS で、リズムは規則的です。ただし、脈が触れる場合もあるため注意が必

要です。必ず、脈の確認を行いましょう。

Treat the patient, Not the monitor!

治療するのは患者さん、モニターじゃない!

- 27 -

3. 心静止 Asystole (エイシストリー) ・・・・・・・・・・ 除細動の適応なし

心室の電気活動が完全に消失しており、心電図上は一直線のフラットな状態です。

細かい心室細動(VF)が隠れていることがあるので、リードがはずれていないか、感度

が低すぎないか、Ⅱ誘導になっているかを確認する必要があります。「リード・カンド(感

度)・ユードー(誘導)」(3つのド!!)を確認します。

4. 無脈性電気活動 Pulseless Electrical Activity (PEA) ・・・・・・・ 除細動の適応なし

心電図上は何らかの波形が認められるが、脈が全く触知できない状態をいいます。ただ

し、心室細動(VF)、心室頻拍(VT)を除きます。脈拍を確認しないと PEA の診断はでき

ません。

⑤ モニターの読み方の手順

モニターをつけてまず最初に見なければいけないことは?

(VF/pulseless VTかそれ以外かを区別する)

電気ショックが必要か!?

直ちに電気ショック 直ちに

胸骨圧迫を再開

YES NO

コラム:心静止と心停止の違い

心停止とは、脈が触れない状態、つまり心臓がポンプの機能を果たしていない状態です。心停止は

心静止(Asystole)のみではありません。心停止では、心室細動(VF)もあれば、心室頻拍(VT)もあ

りますし、それ以外の何らかの波形が出ている場合(PEA)もあります。

(図は一例)

- 28 -

電気ショックのアルゴリズム

適切なエネルギー量を選択・・・*1

非同期モードを確認

「~に設定しました。」

充電しながら、安全確認をする。

充電ボタンは・・・

・パドル(右手 or Apex)

・除細動器本体

「充電します、離れてください、1・2・3」・・・*3

患者にパドル、または粘着パッドを密着させる

・右前胸部と左側胸部・・・*2

・パドルを使用する場合は、ペーストまたは、

ジェルパッドを使用

充電完了後、

心電図モニターの波形を確認しながら

両方のパドルの放電ボタンを同時に押す

電気ショック後、すぐに胸骨圧迫から CPR 再開

呼吸や体動がでるまで、または

CPR5サイクル(2分)後、リズムチェック

*3・・安全確認

1:自分が

2:気道管理者が(酸素も)

3:周りすべての人が

患者やベッドから離れていることを目

視で確認

*2・・代替の位置として前胸部と背部、心尖部

と背部も容認される

*1・・二相性では 150~200J

メーカーの推奨するエネルギー量に従う。

適切なエネルギー量が不明の場合は、二相性

での初回エネルギー量は 200J とする。

単相性では 360J

- 29 -

電気ショックについて

① 電気ショックの目的

除細動は心臓に“衝撃を与えて”、VF やその他の心臓の電気的活動を一時的に停止させま

す。心臓に機能する能力が残っていれば、有効な心電図リズムを生じ、適切な血流を供給す

ることが可能になります。 (心臓を「びっくり」させるためではない⇒心静止には禁忌!)

② 早期電気ショックの意義

院外で突然の心停止を発症した傷病者の約 40%に、初回心電図波形で心室細動(VF)が認

められます。倒れてから 1 分以内に CPR と電気ショックを行えば、生存退院率は 90%以上、1

分経過する毎に 7-10%ずつ低下するため、早期の電気ショックが重要になります。

③ 粘着パッドとパドル

粘着パッドは安全かつ有効であり、経胸壁電気抵抗を減らします。パドルよりも粘着パッドの

ほうが心拍再開率および入院率は有意に改善したとの報告があります。

また、充電中に胸骨圧迫を行う場合は、粘着パッドのほうが安全に行えます。

④ 充電中の胸骨圧迫

粘着パッドを使用して電気ショックを行う場合は、充電中も胸骨圧迫を継続します。

パドルで電気ショックを行う場合でも、充電に 10 秒以上を要する場合には、充電中に胸骨圧

迫を継続します。

コラム :単相性と二相性ってどう違うの?

単相性は一方向に電流を流すもので、二相性は一定時間プラスの

電流を流し、次に逆方向(マイナス方向)に電流を流します。二相性

のほうが単相性に比べて少ないエネルギーで除細動が可能であり、

二相性のほうが心筋ダメージを減らせます。

- 30 -

心電図の読み方:5つの “これだけ!” 質問

その① 心拍数の決定

その② リズム分析 1

R-R間隔が整か不整かを判断します。

これにより、不整脈の起源が推測できます。

その③ リズム分析 2

不整脈の存在の認識の重要な鍵となります。

Ⅱ誘導で、上向きの P波がなければ、それは正常洞調律ではありません。

ただし、リードのつけ間違いを除外します。

その④ リズム分析 3

QRSの幅をみます。

QRSの発生源がどこかを推測する手がかりとなります。

狭い:房室結節 広い:房室結節より下

その⑤ リズム分析 4

QRSの前に P波があるか?

PR間隔は一定で正常かどうかをみます。

基本の心電図波形

遅すぎる?速すぎる?普通?

整か、不整か?

P波はあるか?

広いか、狭いか?

P波と QRSの関係は?

- 31 -

心停止アルゴリズム

BLSアルゴリズム

二次救命処置(ALS)

質の高い胸骨圧迫を継続しながら

・可逆的な原因の検索と是正

・静脈路/骨髄路確保

・血管収縮薬投与を考慮

・抗不整脈薬投与を考慮

・高度な気道確保を考慮

VF/無脈性 VT

電気ショック

除細動器・心電図装着

心拍再開後のモニタリングと管理

・吸入酸素濃度と換気量の適正化

・循環管理

・12 誘導心電図・心エコー

・体温管理療法(低体温療法など)

・再灌流療法(緊急 CAG/PCI)

・てんかん発作への対応

・原因検索と治療

CPR:ただちに胸骨圧迫から再開

(心拍再開の

可能性があれば)

脈拍の触知

はい いいえ

いいえ はい

2 分間

- 32 -

VF/Pulseless VT

(心室細動/無脈性心室頻拍)

① 電気ショックと薬剤投与の流れ

薬剤はリズムチェック後、できるだけすみやかに投与します。薬剤投与のタイミングは電気シ

ョックの前でも後でも構いません。この際、薬剤投与のために胸骨圧迫を中断してはいけませ

ん。

電気ショック後は直ちに胸骨圧迫から CPR を再開します。2 分(または 5 サイクルの CPR)ご

とにリズムをチェックして適応があれば再度電気ショックを試みます。

5サイクル、または

2分間のCPR CPR

CPR

抗不整脈薬を考慮

CPR

リズムチェック

血管収縮薬投与

CPR

リズムチェックリズムチェック

CPR

心停止 除細動器到着

電気ショック

コラム:なぜ、リズムチェックは 2 分毎なの?

胸骨圧迫の施行者が約 2 分で疲労すること、またリズムチェックのタイミングは、可能であれば CPR施行者

が交代するのに都合のよいポイントであるという間接的な証拠に支持されています。現時点では、CPR中断

の最適な時間間隔、あるいはそれらが神経学的転帰や生存退院率、ROSC 率に及ぼす影響を検討した研

究はありません。

- 33 -

② 心停止中に使用する血管収縮薬

少なくとも 1 回の電気ショックに対して抵抗性であることを確認してから薬剤投与を行いま

す。

アドレナリン(アドレナリン注 0.1%シリンジ®)1mg 投与 (3~5分ごとに反復投与)

③ 抗不整脈薬

計 2、3回ショックを施行してもVF/無脈性 VTが持続するときは、抗不整脈薬の使用を考慮し

ます。

アミオダロン(アンカロン®):300mg を静脈内投与 (3~5 分以内に 150mg 再投与を考慮す

る)

リドカイン(キシロカイン®):1~1.5mg/kg を静脈内投与 (5~10 分間隔で 0.5~0.75mg/kg

を最大 3回まで)

ニフェカラント(シンビット®):0.3mg/kgを静脈内投与

硫酸マグネシウム補正液(1mEq/ml):10~20ml を 5~20 分かけて投与 (torsades de

pointesのとき)

コラム:ショック後、直ちに CPR のわけは?

最近の二相性除細動器は 1 回目のショックの成功率が非常に高く(85~94%)、1 回だけのショックでVFを停

止できることが多いです。1回目のショック後も持続するようなVFは振幅も小さい(心筋内の酸素その他の必

要成分が不足していることを示す)ことが多いのです。このような患者では CPR、特に効果的な胸骨圧迫を

ただちに開始することによって心筋への血流供給を確保すれば除細動に成功する確率も高まります。実

際、除細動に成功した直後の数分間、多くの患者は心拍を伴わない心電図波形(無脈性電気活動:PEA ま

たは心静止)を呈します。このような患者では直ちに CPR、特に胸骨圧迫が必要です。

- 34 -

Asystole/PEA(Pulseless Electrical Activity)

心静止/無脈性電気活動

① 心静止(Asystole)の診断;心静止とは=心室の電気活動の欠如

心静止と間違えやすいもの

・高度徐脈

・振幅の低い VF

・アーチファクト

・リードの接続の外れ、感度が低すぎる、不適切な誘導の選択(パドル誘導)

本当に心静止かどうかを確認する。

→「リード・カンド(感度)・ユードー(誘導)」(3つのド!!)を確認します。

⑧ リードの接続が外れていないか?

⑨ 感度が低すぎないか?

⑩ Ⅱ誘導になっているか?

② 無脈性電気活動(PEA)の診断

簡単には、VF/Pulseless VT、Asystole以外のどんな波形でも脈が触れなければ PEAにな

ります。

それを診断するのは患者の頚動脈を触れた

あなた自身の指先の感覚と循環のサインの有無なのです。

③ 初期治療

CPR を継続します。(PEA では、モニター上、脈が触れそうな波形が出ることもあるので、リ

ーダーが脈拍の有無と心電図波形を伝えない限り、チームメンバーが「心停止でない」と誤

解して、蘇生が止まってしまう可能性があります)

輸液路の確保と薬剤投与、もし可能なら気管挿管を指示します。しかし、原因疾患が解除さ

れなければ、根本的な解決になりません。

成人の心静止では

アトロピンを考慮血管収縮薬投与

原因検索

CPR

リズムチェック

CPR

心停止

CPR

リズムチェック

除細動器到着

- 35 -

アトロピンについて

心静止(Asystole)では心拍再開と生存入院率の増加に関連していましたが、PEA では生存

率の低下と関連していました。PEA と心静止いずれにもアトロピンのルーチン使用は推奨され

ていません。心静止でアドレナリン投与が無効な場合には考慮してもよいとなっています。

心静止(Asystole)は、死亡確認を意味することが多い波形です。まず、蘇生を開始しないと判

断する条件がないか、確認します。終末期患者の蘇生拒否(「蘇生を試みるな(DNAR:Do Not

Attempt Resuscitation)」)の意思表示ないか? 蘇生努力が適切でない(死後硬直、死斑な

ど不可逆的死の徴候を示している)ことを示すものはないか? これらの基準がハッキリして

いなければ蘇生努力を直ちに開始します。

④ 原因検索

治療可能な病態 10項目(P36参照)について、病歴、身体所見、心電図 QRS波形、検査結

果に基づいて検索します。

病歴を知るためには、カルテを持ってきてもらう、主治医・担当看護師を呼ぶ、家族、搬送し

てきた救急隊、目撃者に確認する、が含まれます(カラダ・カルテ・カゾク)。

⑤ 適切な治療

CPR を継続すると同時に、原因疾患の治療を行います。

⑥ 蘇生努力中止の判断 ―死亡確認としての心静止―

通常心静止は長時間不十分な冠循環が続いた結果、極度に心筋が虚血に陥った状態を表

しています。つまり治療すべきリズムと言うより死亡の確認を表すことの方が多いです。

突然の心肺停止患者に開始した心肺蘇生が有効でない場合、心肺蘇生を終了してよいか

否かを判断する指標で、信頼できるものはまだ開発されていません。通常は、心肺蘇生開

始 15~20 分前後で終了してもよいかどうかを検討し始めます。判断材料としては、目撃者

の有無、無灌流時間(心停止から CPR 開始までの時間)、低灌流時間(心肺蘇生を行った

時間)、治療に対する反応性、原因疾患や病態、治療の経過、心電図波形などがあります

が、患者個々に背景が異なるので一律な決定は危険です。

【蘇生の中止を考慮してよい条件】

1.適切な BLS、ALSが行われているか?(蘇生法の質を再確認する)。

・気管チューブを介して有効な換気が行われているか?

・VFに対し除細動を行ったか?

・アドレナリン、アトロピンが静注されている。

・治療可能な原因を除外、または治療したか?

・上記すべてを行っても、心静止が 5~10分持続しているか?

2.典型的でない臨床所見を確認する。

・溺水や低体温によるものではないか?

・薬剤の過量投与ではないか?

- 36 -

鑑別疾患

5Hs

・Hydrogen(アシドーシス)

・Hypovolemia(循環血液量低下)

・Hyper/Hypo K(高/低 K血症)

・Hypothermia(低体温)

・Hypoxia(低酸素血症)

5Ts

・Tamponade(心タンポナーデ)

・Tension Pneumothorax(緊張性気胸)

・Thrombosis(心筋梗塞)

・Thrombosis(肺梗塞)

・Tablet(薬剤)

高いもの

・高 H+(アシドーシス)

・高カリウム血症

・薬物中毒

低いもの

・低酸素血症

・低体温

・低血圧(出血)

つまるもの

・血管内(心筋梗塞・肺梗塞)

・肺(緊張性気胸〈空気〉)

・心嚢(心タンポナーデ〈血液〉)

・Acidosis(アシドーシス)

・Bleeding(大量出血)

・Cardiac tamponade(心タンポナーデ)

・Drug(薬物中毒)

・Embolism(PE:広範囲の肺塞栓症)

・Freezing(低体温)

・Gas(低酸素血症)

・Hyper/Hypo K(高/低 K血症)

・Infarction(AMI:広範囲の心筋梗塞)

・Jam(緊張性気胸)

低酸素血症

心タンポナーデ

緊張性気胸

低体温

ていさんそ

たんぽ

きんちょう

ていたいおん

大量出血

心筋梗塞

肺梗塞

薬物中毒

アシドーシス

高/低カリウム

しゅっけつ

しん

ぱい

くすり

あし

かり

自分に合う覚え方

で覚えてください

低酸素血症

心タンポナーデ・緊張性気胸

低体温

まず酸素

穿刺が2つ

あたためて

大量出血

心筋梗塞・肺梗塞

薬物中毒・アシドーシス・高カリウム

入れて

溶かして

メイロン考慮

- 37 -

原因へのアプローチと治療

病態 心電図所見 手がかり 治療

循環血液量低下 狭い QRS幅

頻拍 既往、頸静脈の虚脱 大量輸液

肺塞栓症 狭い QRS幅

頻拍

既往、CPR を行っても脈拍触知せ

ず、頸静脈の怒張

外科的塞栓除去、

血栓溶解

緊張性気胸 狭い QRS幅

徐脈

既往、CPR を行っても脈拍触知せ

ず、頸静脈の怒張、気管偏位、呼

吸音の左右差

胸腔穿刺による脱

気、チューブによる

胸腔ドレナージ

心タンポナーデ 狭い QRS幅

頻拍

既往、CPR を行っても脈拍触知せ

ず、頸静脈の怒張 心膜穿刺

アシドーシス 振幅の低下 糖尿病、重炭酸塩反応性の慢性

アシドーシス、腎不全の病歴

換気、炭酸水素ナト

リウム

薬物中毒 様々な変化

特に QT延長

徐脈、現場に残された空き瓶、瞳

孔、神経学的検査

挿管、中毒を引き起

こした薬物ごとに特

定の解毒剤や薬物

を用いる

低体温 J波(Osborne波) 寒冷暴露の既往、体中心部体温 復温

低酸素症 徐脈 チアノーゼ、血液ガス、気道の問

酸素化、換気、高度

な気道確保

高カリウム血症

尖鋭化した T波

P波縮小

広い QRS幅

正弦波 PEA

腎不全、糖尿病の病歴、最近実施

した透析、シャントの有無、投薬の

既往

塩化カルシウム、炭

酸水素ナトリウム、

グルコースおよびイ

ンスリン(P41参照)

低カリウム血症

平坦な T波

突出した U波

広い QRS幅

QT延長

カリウムの異常喪失、利尿薬の使

心停止の場合は硫

酸マグネシウムを追

広範囲心筋梗塞

Q波

ST変化

T波陰転化

既往、心筋マーカー、CPR で良好

な頻拍 血栓溶解療法

- 38 -

心拍再開後の集中治療

救命の連鎖の 4つ目の輪に、心拍再開(return of spontaneous circulation:ROSC)後の集中治療

という項目が含まれています。

ALS のアルゴリズムの中にも心拍再開後のモニタリングと管理という項目があります。実際の現

場では自己心拍再開後の管理も重要です。

心拍再開後のモニタリングと管理について

1. 12誘導 ECG・心エコー

突然の心停止の可逆的な原因として急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)およ

び致死性不整脈は重要です。ROSC後にできるだけ早く 12誘導ECGを記録するべきです。

心エコーは、原因および心機能を評価する上で有用であり、非侵襲的かつ患者の移動な

しに実施できるので、ROSC後に可能であれば実施します。

2. 吸入酸素濃度と換気量の適正化

心停止後に自己心拍再開した成人において、いかなる状況においても、低酸素症は回避

します。また高酸素症も回避しますが、SaO2または PaO2が確実に測定されるまで 100%酸

素吸入濃度を使用します。

3. 循環管理

循環管理目標は患者個人の要素によって異なり、心停止後の状況や既存の合併症等に

よっても影響を受けるため、特定の循環管理目標を推奨する十分なエビデンスはありま

せん。

4. 体温管理療法(低体温療法等)

院外での VF による心停止後、心拍が再開した昏睡状態(質問に対して意味のある応答

がない)の成人患者に対しては、心拍再開後治療のハンドルの一部として体温管理療法

(24 時間以上、32~36℃)を行います。体温管理療法を施行する場合、その持続期間は

少なくとも 24 時間とします。院内心停止および院外の PEA、心静止による心停止後に心

拍が再開した昏睡状態の成人患者には体温管理療法を考慮します。ROSC 後に発熱を

呈する患者の転帰は不良であり、体温管理療法終了後発熱を予防・治療することを考慮

します。

5. 再灌流療法

ROSC後に 12誘導 ECGでST上昇または新たな左脚ブロックを呈した院外心停止患者で

は、早期の冠動脈造影(CAG)とプライマリーPCI の施行を考慮すべきです。ROSC 後にし

ばしばみられる昏睡状態は、緊急 CAG と PCIの禁忌要件とするべきではありません。

- 39 -

6. てんかん発作への対応

てんかん発作が生じたら治療します。てんかん発作には筋活動を伴う痙攣性てんかん発

作に加えて、筋活動を伴わない非痙攣性てんかん発作が含まれます。てんかん発作の予

防はルーチンには行わず、抗てんかん薬は発作に応じて投与します。

7. 原因の検索と治療

心停止に至った原因の検索と治療は ROSC後も引き続いて必要です。原因の治療は、心

停止の再発を防ぎ、血行動態の安定化を図るために不可欠です。

8. その他の治療

ROSC 後の患者において目標血糖値に関するエビデンスはありませんが、ROSC 後の高

血糖は神経学的転帰不良に関連しています。ただし、厳格な血糖コントロールによる低血

糖は有害となりうるため、回避すべきです。

- 40 -

心肺蘇生で用いる薬剤

一般名(商品名) 濃度組成(1A) 適応 投与量 注意

アドレナリン

(アドレナリン注 0.1%

シリンジ○R )

1mg/ml 心停止、アナフィラキ

シーショック

心停止:1mg 急速静注

アナフィラキシーショック:

0.3-0.5mg 皮下注・筋注

心停止時には 3~5

分間隔で追加投与を

行う

バソプレシン

(ピトレシン○R ) 20 単位/ml 心停止

40単位を急速静注、1回の

効果のない場合は初回投

与後 10分以後にアドレナリ

ンへ変更

G2015 から推奨され

なくなった

アミオダロン

(アンカロン○R ) 150mg/3ml

再発性の VF、再発性

の血行動態が不安定

な VT

300mg 静注

初回投与後、3~5 分後に

150mg を 1 回追加投与

塩酸リドカイン

(静注用キシロカイン

2%)

100mg/5ml

心室性期外収縮、心

室頻拍、難治性心室

細動

50-100mg(1-1.5mg/kg)

を緩徐に静注

最大投与量 3mg/kg

または、200mg/時

ニフェカラント

(シンビット○R ) 50mg/V

心室頻拍

心室細動 0.3mg/kg を静注

硫酸マグネシウム 20mEq(2.466g)/20ml

低マグネシウム血症

が疑われる、あるいは

torsades de pointe の

場合

10~20ml を緩徐に静注

硫酸アトロピン 0.5mg/ml

高度徐脈

心停止(心静止・徐拍

性 PEA)

心停止:1mg 急速静注

徐脈:0.5mg

3~5分間隔で追加投

与を行う

総投与量 3mg を越え

ない

アデノシン三リン酸ナ

トリウム

(アデホス○R )

20mg/2ml PSVT

10mgを 1~3秒で急速静注

1~2 分後に 20mgを追加

投与(2 回まで)

ノルエピネフリン

(ノルアドレナリン○R ) 1mg/ml 難治性ショック

0.05-0.1mg急速静注(1Aを

生食にて 20ml に希釈し、

1-2ml 静注)

血管外に漏れた場合

は皮膚壊死を起こす

塩酸ドパミン

(カコージン○R )

100mg/5ml

(0.1%)200mg/200ml

(0.3%)600mg/200ml

難治性ショック、心肺

蘇生後ショック 5-20μg/kg/分

血管外に漏れた場合

は皮膚壊死を起こす

- 41 -

◎高カリウム血症の緊急治療

治療 用量 作用メカニズム 作用発現時間 作用持続時間

グルコン酸カルシウ

(カルチコール○R )

25~50ml 静注 細胞膜で高カリウム毒

性に拮抗効果を示す 1~3 分 30~60 分

炭酸水素ナトリウム

(メイロン 84○R )

1mEq/kgまで投与

15 分後の再投与

その後、必要に応じて 1~2

時間にわたり 5%ブドウ糖液

1L に 100mEq を溶解して

静注

再分配:細胞内へのシ

フト5~10 分 1~2 時間

インスリン+ブドウ糖

10 単位のレギュラーインス

リンと 50%ブドウ糖液 50ml

を静注

その後、必要に応じて 10~

20 単位のレギュラーインス

リンと 10%ブドウ糖 500mlを

1 時間かけて静注

再分配:細胞内へのシ

フト30 分 4~6 時間

フロセミド

(ラシックス○R ) 40~80mgボーラス静注 体外へ排出 利尿開始時 利尿終了時まで

陽イオン交換樹脂

(ケイキサレート○R )

ソルビトールを併用し、15

~50gを経口または経直腸

投与

体外へ排出 1~2 時間 4~6 時間

血液透析 施設ごとのプロトコールに

基づく 体外は排出 透析開始時 透析終了時まで

- 42 -

RRS(Rapid Response System)について

RRS とはその名の通り、患者の変化に「早期対応」し患者の安全を守るシステムです。

院内心停止を起こした患者の 66%で、6 時間前に何かしらの異常所見が見られているとされ、RRS は患者の状態が少しずつ増悪していく場合に「早期に」介入し治療を行うことで、心停止を「未然に防ぐ」ことを目的としています。

倉敷中央病院では 2015 年 10 月 19 日からスタートし、以下に運用を紹介します。

今までは患者の状態が悪化しても相談する窓口はなく、心停止に陥り、コードブルー(スタットコ

ール)で多くの医師・看護師が駆けつけていました。今後は、医師・看護師が、患者の状態が悪

化していると感じた時や、患者のバイタルサインが RRS の起動基準(図 1)にかかる時には、まずは RRS 担当医師(イントラネット救急当直一覧に掲載)に電話をしてください。RRT(Rapid

Response Team)は集中治療専門医師(9 棟、2 棟:循環器内科、3 棟:救急科、1 棟:麻酔科)と集中治療センター看護師で構成されています。皆さんからの報告があれば、チームが現場に伺い、

診察の上解決策を検討・提案いたします。

将来的には 24 時間 365 日の対応を目指していますが、現在は、平日 9~17 時のみの対応となります。

(図 1)RRS 起動基準(倉敷中央病院)

- 43 -

参考書籍と役に立つ URL

〈参考書籍〉

● JRC 蘇生ガイドライン 2015(医学書院)

● American Heart Association 心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドラインアップデート

2015ハイライト

https://eccguidelines.heart.org/wp-content/uploads/2015/10/2015-AHA-Guidelines-Highli

ghts-Japanese.pdf

● AHA心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドライン 2015

● BLSヘルスケアプロバイダー受講者マニュアル(AHAガイドライン 2015準拠)

● ACLSプロバイダーマニュアル(AHAガイドライン 2015準拠)

● ECC(救急心血管治療)ハンドブック G2015

〈役立つ URL〉

● NPO救命おかやま http://npo-ok.umin.jp/

● AHA岡山トレーニングサイト http://plaza.umin.ac.jp/~Okay-AHA/

● 日本 ACLS 協会 http://acls.jp/

● 日本救急医学会 http://www.jaam.jp/index.htm

● レールダル メディカル ジャパン http://www.laerdal.com/jp/

- 44 -

NPO救命おかやま ICLS コーステキスト

第 3 版

2016 年 5月 14日発行

NPO法人救命おかやま