iabse guidelines design competitions (japanese)

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IABSE International Association for Bridge and Structural Engineering 橋梁デザインコンペティション実施ガイドライン Guidelines for Design Competition for Bridges ISBN978-4-9908317-0-7

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IABSE Guidelines Design Competitions (Japanese)

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Page 1: IABSE Guidelines Design Competitions (Japanese)

IABSE International Association for Bridge and Structural Engineering

橋梁デザインコンペティション実施ガイドライン Guidelines for Design Competition for Bridges

ISBN978-4-9908317-0-7

Page 2: IABSE Guidelines Design Competitions (Japanese)

Guidelines for Design Competition for Bridges © 2013 by International Association for Bridge and Structural Engineering (IABSE) c/o ETH Hönggerberg, CH-8093 Zürich, Switzerland

All rights reserved. No part of this book may be reproduced in any form or by any means, electronic or mechanical, including photocopying, recording, or by any information storage and retrieval system, without permission in writing from the publisher.

Translation copyright © 2015 Yoshiaki Kubota

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International Association for Bridge and Structural Engineering

本ガイドライン作成に協力したアーキテクト

Poul Ove Jensen Dissing + Weitling、デンマーク

Keith Brownlie Brownlie Ernst Architects、イギリス

Martin Knight Knightarchitects、イギリス

Cezary Bednarski Studio Bednarski、イギリス

IABSE WG3 委員

Naeem Hussain (委員長) Arup、ディレクター 香港

Hussein Abbas コンサルタント エジプト

Roger Buckby Halcrow、シニアコンサルタント イギリス

Jose Turmo Coderque カタルーニャ工科大学、准教授 スペイン

Brian Duguid Mott Macdonald、アソシエイト・ディレクター イギリス

Ian Firth Flint & Neill、ディレクター イギリス

Niels Gimsing デンマーク工科大学、名誉教授 デンマーク

Sun-Won Kim BnS Engineering、社長 韓国

Angus Low Arup、ディレクター イギリス

Guido Morgenthal バウハウス大学、教授 ドイツ

Georg Pircher SOFiSTik、ディレクター オーストリア

Mike Schlaich Schlaich Bergermann & Partner、ディレクター ドイツ

Dong Xu 同済大学、教授 中国

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知恵を競い合うこと -インフラのさらなる価値向上への期待

IABSE日本グループ代表 藤野 陽三

IABSE の 『Guidelines for Design Competitions for Bridges』 の日本語版が出版されることとなった。そのことの意味と今後への期待を以下に述べておきたい。

まず、わが国の社会基盤(インフラ)分野に不足しているもののひとつとして、“洗練されたデザイン”をどうしても挙げなければならない。なぜデザインが洗練されないのか、理由はいろいろあると思うが、ひとつには、“デザイン”への誤解があると思われる。人によっては、“デザイン”を単なる装飾であり、施工や維持管理が面倒なものをわざわざ費用をかけて整備することであると考えているかもしれないし、またある人は、“デザイン”とは感覚的で定性的なものであるから技術者が扱うべき対象ではないと考えているかもしれない。あるいはまた、美しさという崇高なものは自分には判断できないしそのセンスもないと考えている人も少なからずいることだろう。

もちろん、国や自治体の財政に無駄遣いできるようなお金はないが、投資すべきお金という意味では、インフラの場合、災害復旧など緊急の場合を除いて、実はその多くが将来社会への投資である。では、どのようなことに投資すべきだろうか。

言うまでもなく、インフラは社会経済活動の礎であるが、それは単なる物理的構築物ではなく、その前提として、人間が人間らしく生きるための装置として社会環境を下から支えるものでなければならない。その意味で、インフラは物理的機能を満たすと同時に、人々の日常や心理的側面に対しても悪い影響を与えないように注意を払いつつ、むしろできるだけ良い影響を残すようなものとすべきなのである。これは当然であろう。その思いを、私は常々、土木工学を志す学生に、絵を描きたくなるような橋、ダム、インフラや街を造り、残そう、という形で言っている。

何に投資すべきかという問題について、わが国の現状としては、まずインフラの維持管理は喫緊の課題である。防災・減災の対策も急がねばならない。地方も同様だが、特に首都圏の効率的な道路ネットワークはいまだ完成していない。しかし、これらの問題を考えると同時に、先に述べたインフラがつくりだす環境の質についてもよく考えなければならない。利害が対立しがちな公共事業整備において、一部の人にとっては迷惑にならざるを得ないような施設もあるかもしれないが、できるだけ、より多くの人々に受け入れられ親しまれるものをつくるべきである。インフラ投資は、その物理的・量的側面だけに着目して行うのではなく、また、単一機能の充足だけを考えるのではなく、将来社会を見据えた幅広く総合的な価値向上のための投資でなければならない。おそらくそれが長期的には最も合理的な選択となるだろう。そしてそれは、時代の後を追うものではなく、その先をいくものでなければならない。

人々に親しまれ大切に思われる、質の高いインフラは、その存在自体が人々を結びつけ、また、環境の持続性を高める可能性を有している。なぜなら、その存在を大切に思い価値を感じるならば、それを後世にも大切に引き継いでいこうという気持ちが自然に生まれるからである。一方で、世の中が便利で安全・快適になるにつれ、インフラの重要性は人々の意識から次第に遠ざかり忘れられていく。実際には、その重要性は以前より増しているに違いないのであるが、意識からは遠ざかる。つまり、逆に言うと、人々がインフラを大切だと思うためには、意識においてインフラと一定の“近さ”を保っておくことが必要なのである。インフラの長い歴史を振り返っても、かつてそれらは人々の生活のもっと身近なところにあった。人々は否応なくそれを意識し、大切に思い、それゆえに長く維持管理して後世に残そうと、当然のごとく思っていたはずである。文化財や絵画の修復士が自らの仕事に誇りをもって、その価値を後世に残そうと日々粛々と仕事をするように、長期にわたって人々の利便に供されるインフラもまた、その価値を後世に引き継いでいくべき存在であり、その仕事に誇りを持てるものでなければならない。それにはやはり、社会全体として一定の“心理的な近さ”も必要なのである。

これらのことに加えて、目をさらに海外に転じてみると、“デザイン”という統合的なパッケージが競争力としてますます重要になってきている。日本の高度な要素技術は間違いなく国際競争力の源泉になり得るが、実際に競争に勝つためには、要素技術のアピールだけでなく、それらを統合し、魅力的なデザインとして提示することも必要になってくる。日本の橋梁技術は、まだその点が弱いと感じる。

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このように、国内においても海外においても、インフラとしての対象物をひとつの優れたデザインへとまとめあげる能力は、紛れもない“技術”であり、“戦略”である。単なる装飾や感覚的な議論、美学とは次元を異にしている。そしてその能力は、インフラの意味を知り、その仕事に誇りをもち、セクショナリズムを超えた幅広い視野をもつ意欲ある技術者たちの努力の内に宿るのであって、決して哲学的な美を語るだけの論者や芸術家の内に宿るものではない。ひとつのデザインをまとめあげる過程には、多くの真剣な議論が必要となるが、そこからまた新たなイノベーションが生まれてくるのである。

ここに、デザインの技術を大いに引き出し、知恵を競い合うこと、すなわちデザインコンペティションの意味と可能性を見出すことができるだろう。さらにそれを正しく運用・実施するために、本ガイドラインは大いに参考になる。技術者諸氏には、ぜひ“デザイン”を専門外のこととは思わずに、積極的にスキルを磨いていただきたいし、そのために造形分野の専門家との議論やすり合わせも試みていただきたい。また、発注機関である行政には、民間の能力を最大限に引き出すための仕組みについて、ぜひ本ガイドラインを参考にしていただきたい。本ガイドラインには、インフラのさらなる価値向上に向けたデザインコンペティションの実施のための具体的なヒントが多く含まれている。これからのわが国に、より洗練されたデザインの橋梁が多く生まれることを期待して、推薦の結びとしたい。

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日本語版へのまえがき

IABSE ワーキンググループ3 座長 Naeem Hussain

このたび、IABSE の 『Guidelines for Design Competition for Bridges』 の日本語版が出版されることになったことを大変嬉しく思っている。日本では、これまで長大橋やエポックメイキングな橋梁が数多く建設されてきた。そのため日本には、耐震設計や耐風設計をはじめとする高度な橋梁技術の蓄積があると同時に、高品質の建設技術がある。それらはいずれも世界に誇るべき優れた技術である。

このような技術的達成とともに、もし今後の日本の橋梁技術が、その土地の歴史的・文化的・景観的文脈に沿った美しい橋梁の実現に向けて、更なる努力を積み重ねてゆくとするならば、その技術は今よりもさらに強力で次元の高いものとなるに違いない。デザインコンペはさまざまなイノベーションを生み出す。そして、美しさと技術的洗練、経済性を同時に満たす橋梁を実現するためのひとつの有力な方法である。

橋梁のデザインコンペにはいくつかの方法があるが、本ガイドラインは、それらのコンペを成功裏に導くため、とくに発注機関に向けて執筆を行ったものである。本ガイドラインが、日本でのデザインコンペの実施において役立てられることを願っている。

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訳者まえがき

本ガイドラインは、国際構造工学会(IABSE:International Association for Bridges and Structural Engineering)が 2013年に出版した 『Guidelines for Design Competition for Bridges』 の全訳です。IABSEはスイスに本部をおく国際的な学術団体で、構造工学に関する学会組織としては世界で最も長い歴史と伝統を誇っています。また、土木と建築の両分野を包含し、世界の構造工学の発展において常に中心的な役割を果たしてきました。その IABSE より、橋梁のデザインコンペティション(以下、デザインコンペ、または単にコンペ)の実施に関するガイドラインが発表されました。この背景には、近年の世界的な都市再生のうねりの中で、都市戦略に位置づけられる魅力的な橋梁デザインのあり方についての関心の高まりや、社会がますます複雑・高度化してゆく中での合理的な橋梁調達方法の模索、さらには、国際コンペや国際調達などによりグローバル化が進むビジネス環境や、QoL(Quality of Life)に対する人々の要求など、現代特有の様々な問題が顕在化してきたことが要因していると考えられます。このような環境変化の中で、コンペの歴史の長い欧州諸国においてさえ、その実施に多少の混乱が見られるようにもなってきました。また、建築物と橋梁の違いを十分理解していない建築家や自己表現を好む芸術家との協働において、満足できない結果やトラブルが生じる事例も出てきているようです。しかしながら、デザインコンペという調達方法自体を縮小しようとか廃止しようという動きにはなっていません。それだけ、“デザインを競争する”ということには大きな利点が存在すると考えられているのです。したがって、いかにすれば適切にデザインコンペを運用することができるかという実施方法についての議論が、近年活発になされてきました。本ガイドラインは、その国際的な議論の成果がコンパクトにまとめられたものです。

日本では、橋梁のデザインをコンペで決定すること自体、まだあまり一般的でありませんが、世界、とりわけ欧州では、橋梁をはじめとする重要な土木施設や公共施設の設計にデザインコンペが用いられてきたケースが少なくありません。その歴史は古く、たとえば、16 世紀、イタリアは水の都ベネチアに建設され、今なお、その華やかな姿で観光客を魅了し続けているリアルト橋(1591 年竣工)のコンペには、建築史にその名を残すアンドレア・パッラーディオが参加していたほか、あのルネサンスの偉大な芸術家ミケランジェロまでもが参加していたといわれています。しかし、この一流の相手たちに勝ったのは、当時それほど有名ではなかった建築家アントニオ・ダ・ポンテでした。また、19 世紀、鉄道やトンネル、船舶、橋梁など様々な工学分野に多大な功績を残したイギリスの技術者イザムバード・キングダム・ブルネルは、24 歳の若さでブリストルのエイヴォン渓谷に架ける橋梁のコンペに挑戦し、当時の土木界の第一人者トーマス・テルフォードに技術的限界を超えると言われながらも、スパン 214m(塔頂間隔)の大胆な吊橋のデザインを提案し、慎重な検討の末、見事採用されるに至りました。完成後 150 年が経過した今も、この吊橋は周囲の風景に溶け込んで、大変優美な姿で人々を楽しませています。

橋梁は、相当に大きな荷重を支えながら相当に大きなスパンを一跨ぎにしなければならないため、大規模ドームやコンサートホールを建築するよりもさらに厳しい物理的条件に晒されることも少なくありません。変動する活荷重や自然の外力に対応できなければならないのはもちろんのこと、メンテナンスも考えながら、施工やコストとの折り合いをつけなければなりません。その上で、100 年以上の長きにわたって美しさを保持しなければならないのです。つまり、橋梁のデザインとは、突き詰めれば、科学・芸術・時間の 3 要素を高度なレベルで融合させた実用物をデザインすることだともいえるでしょう。しかも、それを一定の社会制度の中で実現しなければならないので、より正確にいうならば、科学・芸術・時間・社会の4要素を融合させた実用物となります。その造形は、もちろん装飾や虚飾ばかりでは成り立ちませんが、だからといって、唯一絶対の無機質な解しかあり得ないというわけではありません。さまざまな造形の可能性がある中で、上に述べた要素の融合を深く追求し、統合することから見えてくる妥当な解があるはずです。このように考えると、本来、橋梁のデザインは、あらゆるデザイン分野の中で、かなり難易度が高く、かつ深く研ぎ澄まされたもののひとつになり得ることが分かるでしょう。しかし、それだけに、挑戦のし甲斐があり、それゆえに、その最高の作品は、人間の叡智が結晶した総合芸術にもなるのです。

毎年、世界各地で多くの橋梁デザインコンペが実施されています。本ガイドラインにも多くの魅力的な橋梁の写真が掲載されていますが、これらの橋梁はすべてコンペによって実現したものです。橋梁は、都市や地域のシンボル的存在となることが半ば宿命づけられていることも少なくありませんが、長期的に見れば、公共財である橋梁のデザインが、優美で人々に好まれる存在となることの社会的貢献は極めて大きいといえるでしょう。コンペを通してデザインの優れた橋梁を調達することは、地域のイメージを向上させ、愛着や誇りを回復し、地域経済の活性化にも資することができるのです。そしてさらに、そのデザインが普遍的な美しさと魅力を備えているならば、その価値はより長期にわたって持続します。次第にその影響は周囲にも波及し、街の姿はより魅力を増していくことでしょう。そのような可能性のある多くの場所において、本来、橋梁とは、実用に供されながらも、同時に、都市における第一級の芸術作品でもなければならないのです。本ガイドラインで紹介されている多くの橋梁がそのことを伝えてくれます。

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一般に、公共財は、それがいかに重要なものであったとしても、市場原理のみを通じては過少供給の傾向となることが知られています。そのため、行政は必要な公共財が社会に適切に供給されるよう、様々な対策を講じなければなりません。それが行政機関が存在することの重要な意義のひとつでもあります。安全であることや長持ちすることと同様に、美しさもまた立派な公共財であるわけですから、長期的に地域の資産となるような美しい橋梁がつくられるよう、その調達において、行政が適切なマネジメントを行う必要があるのです。デザインコンペはその有力な方法のひとつであると考えられます。

実のところ、優れたものをつくるためには、競争というシステムが原理的に不可欠というわけではありません。優れた設計者がいて、その能力を最大限発揮することができるならば、競争がなくても優れたものは生み出されます。しかし、現代の社会経済システムや、公共事業をとりまく官民の関係性を前提とするならば、優れた設計者の存在だけでは、景観のような純粋公共財的な価値を生み出すことは相当に困難であると言わざるを得ません。2003 年、国土交通省により制定された『美しい国づくり政策大綱』には、“美しさの内部目的化”が謳われましたが、国土整備におけるこの優れた理念を理念のレベルに留めるのでなく、実質的な行動として広く普及させるためには何が必要となるでしょうか? それは個々の計画者や設計者自身の哲学や思想、努力に還元すべきような倫理的問題というよりも(それはもちろん大切ですが)、実はむしろ、美しさが生まれる仕組みを市場取引の内部に取り込むこと、つまり、美しさという価値を“市場に内部化”することが、その実質において、“美しさの内部目的化”を達成する具体的方法にほかならないのです。ここに、公共施設や公共空間の整備において“デザインを競争する”ことの根本的意義と利点があるのです。もし現代において、デザインの競争を“しない”のであれば、戦前につくられた数々の名橋がそうであったように、行政自身がきちんとしたデザインマネジメントを自らの手で行うべきなのです。 わが国の土木分野において、デザインに競争性が十分導入されてこなかったことは、魅力ある公共空間の創造およびその価値の最大化を目指す上で大きな障害となってきました。これまでデザインコンペを試行的に行った自治体もありますが、コンペを適切に運用するための情報が十分整備されていない状況であったことから、それぞれが試行錯誤的に方法を模索しながらの実施となり、必ずしも合理的・合目的的に実施されてきたとは言い難い側面があります。このような状況を脱し、デザインコンペを合理的な公共調達の一手法として確立するためには、公共調達におけるデザインコンペの位置づけを明確にすると同時に、発注者とコンペ参加者の利害を一致させながらも社会全体の便益を最大化させるような仕組みを確立し、そこに一定の規範的道筋を整える必要があるでしょう。そのような制度的基盤の上に立ってこそ、デザインの競争によるイノベーションと洗練、そして人々に親しまれる豊かな空間づくりが適切に促されるのです。

一方、コンペの運用方法が不適切であると、コンペによって選ばれた案が、後になって思わぬ不具合を呈したり、予想に反して不格好なものとなったりする可能性があります。あるいは、建設費が当初計画よりも大幅に増加してしまう可能性もあります。つまり、デザインコンペでは、それぞれの案がどのような魅力を有し、どのようなリスクを含むのか、選定時によく見定めなければなりませんし、様々なリスクを回避、あるいは軽減できる仕組みをあらかじめ考えておく必要があります。さらに、デザインコンペには、どうしても、現実を覆い隠し、美しく見せるために誇張・理想化された“完成予想図”や、思考の深さや感性の豊かさを装うかのように綴られた詩的で情緒的な“コンセプト”など、さまざまなレトリックがつきものです。それだけに、提案の奥にある、真の姿を見通す眼力が審査員には求められます。そして、選定理由を明確にし、現在と未来の人々に対してしっかりとした説明責任を果たさなくてはなりません。つまり、デザインコンペでは、コンペ参加者だけでなく、審査員もまた(あるいは審査員こそが)実力を試されることになるのです。そのような真剣勝負の場があってこそ、デザインへの理解や能力の向上が促され、さらには、デザインに対する批評文化もようやくそこから育つことができるのです。

本ガイドラインは、橋梁を対象として書かれたものですが、橋梁以外の公共施設にも参考になる点が少なくありません。かなりの部分は、橋梁以外にも適用できるはずです。また現在、日本の土木学会においても、土木デザインに競争性を導入するためのガイドライン整備に向けた検討が進められています。土木学会より、わが国オリジナルのガイドラインが出版されるまでは、内容のすべてが日本の状況に即したものとは限りませんが本ガイドラインを参考にしていただき、そのエッセンスを理解し、より価値の高い公共空間整備に向けてお役に立てていただきたいと願っています。 翻訳は、できるだけ原文に忠実に行っていますが、読みやすさに配慮して部分的に意訳した箇所もあります。また、必要に応じて、ページの下部に訳注を付しています。そちらも適宜ご参照ください。

2015年 4月 京都大学大学院工学研究科

准教授 久保田 善明

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CONTENTS はじめに 14 1 本ガイドラインの目的 18

2 なぜデザインコンペを行うのか? 20 3 デザインコンペが適さないケース 22 4 コンペの関係主体とそれぞれのモチベーション 24 4.1 主催者 24 4.2 主催者が依頼するアドバイザー 24 4.3 実績のあるコンペ参加者 24 4.4 新たに挑戦するコンペ参加者 24 4.5 施工会社(デザインビルドの場合) 24 4.6 審査員 24

5 コンペの形式 28 5.1 デザインチームの選定(競争的対話) 28 5.2 デザインの選定(指名コンペ) 29 5.3 デザインの選定(アイデアコンペ) 30 5.4 デザインの選定(オープンコンペ) 30 5.5 デザインビルドの請負業者の選定 32 5.6 状況に応じてカスタマイズされたコンペティション方式 33 5.7 法的ルール 33

6 成功するコンペとは 36 7 失敗するコンペとは 40 8 コンペの各段階 44 8.1 計画、フィージビリティ・スタディ、コンペの前に行うべきこと 44 8.2 コンペ要項の作成 44 8.3 知的財産の問題 49 8.4 広報 49 8.5 参加募集の案内書類 49 8.6 コンペ参加者の選定 49 8.7 審査員の選定 49 8.8 コンペの期間 50 8.9 提出書類の受領と開封 50 8.10 審査プロセス 50 8.11 最優秀者の発表 50 8.12 パブリシティ 50 8.13 橋梁の設計および設計施工に進むための最優秀者への業務委託 50

9 考慮すべきその他の事項 54 9.1 誰がコスト計算を行うべきか 54 9.2 コンペは橋梁に限定すべきか、より広範な内容とすべきか 54

9 参考データ.本書で紹介した橋梁 57

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IABSE Guidelines for Design Competition for Bridges

Preface

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橋梁を調達する際、発注者である公的機関や行政組織は、通常、バリュー・フォー・マネー(VFM:value for money)の達成を示すことが求められる。VFM は、しばしば建設コストを最小にすることと理解されがちだが、発注者は次第に美的なクオリティを重視するようになってきている。また、それをデザインコンペによって調達しようという動きも増えてきている。

近年、発注者や一般市民は、都市開発の内容そのものや美しい建築による都市環境の質的向上に大きな関心を払うようになってきた。このような関心は、建築だけでなく橋梁や他の土木構造物にも同様に向けられている。そしてアーキテクトが橋梁のデザインに関わる機会も増えている。発注者はランドマークとなるような構造物に対する思いを実現するため、また、革新的で見た目にも魅力ある橋梁を建設するため、次第にデザインコンペを利用するようになってきた。

デザインコンペにはさまざまな種類がある。たとえば、デザインのみのもの、すなわち、コンペで選ばれた者はその後の設計だけを行い、工事は従来どおりの入札によって施工会社に発注されるパターンである。あるいは、デザインビルド方式にもとづくもの、すなわち、最優秀として選ばれるにふさわしい質のデザイン提案がなされているものに対して、設計・施工一括で発注するパターンなどである。

デザインコンペの実施件数の増加は、創造的で美しい提案を行う上で、エンジニアとデザイナーの協働を促してきた。残念ながら、これは時折、美しいパース図と見せかけの複雑なデザインに陥ってしまい、構造的欠陥や予算オーバー、施工やメンテナンスの困難さなどの問題を引き起こすこともある。しかし、正しい枠組みで検討を行うならば、発注者のあらゆる要望を満たすようなデザインも可能であり、それは真の VFM を創出する。

これまでも、トラブルが生じたり、不満足な結果をもたらしたりするデザインコンペが少なからず存在していた。コンペの主催者である発注者が過去にデザインコンペを実施したことがなく、今後もおそらく実施しないような場合には、このようなことが生じやすい。

コンペには経験あるエンジニアやデザイナーも参加するが、橋梁デザインの経験がほとんどあるいは全くない参加者が含まれている場合もある。その結果、見た目には魅力的だが、構造特性、コスト、架橋地点の環境条件や他の制約条件に対する配慮に欠けたデザインが選定されてしまうこともある。このようなデザインが選ばれる背景には、主催者側の知識不足、コンペ参加者の経験不足、コンペのルール自体の不備、あるいは、審査員に経験や知識がない場合など様々である。しかし、適切に計画され運用されるならば、多くのコンペにおいて、能力ある若手と経験あるエンジニアやデザイナーがうまくチームを組んで新しいアイデアの提案を生み出すことも可能である。

良くないデザインが選ばれないようにするルールやシステムを整備している国もあるが、そのような国でさえ、満足な結果を招かないようなデザインが選ばれることもある。

発注者がデザインコンペを通じて満足な結果を得ることができるように、IABSE(国際構造工学会)のエンジニアとデザイナーで構成された 2 つのグループが、このガイドラインの執筆に中心的に関わった。ひとつ目のグループは、2006年にブダペストで開催された IABSEの「“橋梁のデザインコンペティション実施ガイドライン”に関するセミナー」で提案を行ったグループであり、それはガイドライン執筆ワーキンググループ 3(WG3)として IABSE組織内に設置されることとなった。ふたつ目のグループは、2007年 7月にイギリスで開催され

はじめに

14

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た IABSEヘンダーソン・コロキウムにおいて、上記とは別に検討を進めていたイギリスのグループである。ヘンダーソン・コロキウムには、イギリスの国内外から経験あるエンジニアやデザイナーが出席しており、WG3からも 3 名が出席していた。WG3 は 2007 年 9 月にドイツのワイマールで初めて会合を開いたが、会議の中で、WG3 の目的がヘンダーソン・コロキウムでイギリスのグループが目指していたものに近いことが明らかとなり、WG3 はヘンダーソンの参加者が準備していた内容を IABSE ガイドラインに組み込むことに同意した。

これまで、橋梁を対象としたデザインコンペの実施を検討している発注者が利用可能な国際的なガイドラインは存在しなかった。建築と地域計画については、ユネスコが 1978 年に国際デザインコンペに関するガイドラインを出版しているが 1、それは橋梁にはほとんど適用できないものであり、今回のガイドラインはその意味においても有用なものである。

Naeem Hussain IABSE ワーキンググループ3 座長

ヒューム・アーチ橋 Hulme Arch Bridge マンチェスター、イギリス

1 UNESCO, Revised Recommendation concerning International Competitions in Architecture and Town Planning,1978: http://portal.unesco.org/en/ev.php-URL_ID=13134&URL_DO=DO_TOPIC&URL_SECTION=201.html

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Page 16: IABSE Guidelines Design Competitions (Japanese)

エヴレ・スン橋 Øvre Sund Bridge ドランメン、ノルウェー

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Page 17: IABSE Guidelines Design Competitions (Japanese)

IABSE Guidelines for Design Competition for Bridges

Purpose of the Guidelines

1

Page 18: IABSE Guidelines Design Competitions (Japanese)

本ガイドラインは、橋梁建設がメインとなるプロジェクトのために書かれているが、橋梁へのアプローチ区間やランドスケープデザインなど、関連する項目も含んでいる。本ガイドラインの目的は、発注者への利便性である。つまり、発注者がデザインコンペの実施によって、より優れた橋梁を調達するための枠組みを与えることである。

そもそもデザインコンペには、創造性とイノベーションを促す作用がある。そして発注者独自のニーズを満たすデザインを選定する際にも役立てられる。

本ガイドラインは、一般性の高い記述となっているが、これは発注者の要求に応じてアレンジしやすいものであることを意図したためである。

デザインコンペは、参加者にとって相当な時間とコストを要する仕事である。本ガイドラインにもとづくことにより、参加者の提案が専門的で公正な審査によって判断され、参加者のアイデアが適切な報いを受けるようになることが期待される。

1)有効性、2)よく練られた要項とオープンでしっかりした審査プロセス、3)明確なルール、4)公平な運用、これらは一般市民や地元の有力者、投資会社、他の重要なステークホルダーらに対する信頼性を高め、内容を保証するために不可欠な要素である。

ネスシオ橋 Nesciobrug アムステルダム、オランダ

1.本ガイドラインの目的

18

Page 19: IABSE Guidelines Design Competitions (Japanese)

IABSE Guidelines for Design Competition for Bridges

Why use a Design Competition

2

Page 20: IABSE Guidelines Design Competitions (Japanese)

デザインコンペを通じて橋梁を調達するのが適しているのは、およそ以下のような場合である。

● 橋梁がランドマーク性の高い場所や記念碑的な場所、あるいは、環境的・政策的に重要な場所に架けられる場合。

● 橋梁が地域づくり文化の一端を担う場合。● 橋梁がエリア開発事業の一部となっており、開発主体が外観的にユニークで美しい橋梁によって開発事業のプロモーションを行いたいと考える場合。

● 人々の注目を浴びる革新的な橋梁を予算内でつくりたいと考える場合。● 観光マップにも掲載されるようなランドマークとして注目を浴びさせたい場合。● 長期的視点から橋梁のデザインを考えたい場合。● 架橋地の景観をより良くしたい場合。● 最高の VFM を達成したい場合。● 特殊な制約条件や現場条件、予算、プロジェクトの位置づけ、事業の実施運営において、通常とは異なる解決策が求められている場合。

● ユニークで美しい橋梁を調達したい場合。● 事業にふさわしい設計組織を選定したい場合。

オーレスン・リンク Øresund Link コペンハーゲン(デンマーク)~マルメ(スウェーデン)

2.なぜデザインコンペを行うのか?

20

Page 21: IABSE Guidelines Design Competitions (Japanese)

IABSE Guidelines for Design Competition for Bridges

When a Design Competition is not appropriate

3

Page 22: IABSE Guidelines Design Competitions (Japanese)

2章で示したどの項目にも該当しないか、以下に該当する場合、橋梁の調達にデザインコンペを用いない方がよい。

● 標準的な橋梁が適当と考えられるような場所に建設される場合。● 技術的に何ら特別なことが必要でなく、美しさも重要な要件とならない場合。● 審査員によって選ばれた案が、主催者側が最良と思わない案になってしまったり、受け入れ難いと感じるものとなってしまうリスクを主催者側が負えないと考える場合。

● 橋梁の調達全体に対する発注者の予算の中で、コンペの実施に必要な経費を十分確保できない場合。

● 主催者がすでに適当な設計者を決めている場合。● コストが第一の支配要因である場合。● 主催者が、橋梁建設のための十分な財源を有していないか、確保する目途が立っていない場合。

ティンカウ橋 Ting Kau Bridge 香港、中国

3.デザインコンペが適さないケース

ゲーツヘッド・ミレニアム橋 Gateshead Millennium Bridge ニューキャッスル、イギリス

22

Page 23: IABSE Guidelines Design Competitions (Japanese)

IABSE Guidelines for Design Competition for Bridges

Parties and their motivations

4

Page 24: IABSE Guidelines Design Competitions (Japanese)

デザインコンペに関係する各主体がコンペに期待することとして、以下のようなものがある。

4.1 主催者 ● 優れたデザインの橋梁を調達したい。● 公共空間の質に対するコンペ主催者の関心度の高さを示したい。● 検討プロセスにパブリックインボルブメント(PI)を導入したい。● 事業または架橋地周辺の知名度を高めたい。● 主催者自身の知名度や評価を高めたい。

4.2 主催者が依頼するアドバイザー 主催者が依頼するアドバイザーとは、主催者に直接雇用されたアドバイザーであったり外部のコンサルタントであったりするが、コンペの仕様作成、技術的確認、積算などに関わる。彼らはコンペを通じて優れた橋梁ができあがることを願っている。アドバイザーは、コンペの審査において、投票権のある、または、ない審査員として関わることがある。

4.3 実績のあるコンペ参加者 ● コンペに勝って仕事を受託したい。● 自らの能力と革新的なデザインを示したい。● 能力の高い設計者(またはチーム)としての名声を維持したい。● 橋梁デザインの第一線にいる設計者(またはチーム)であることを示したい。● チームメンバーの能力を高める機会にコンペを活用したい。● 他チームとの関係性を構築したい。

4.4 新たに挑戦するコンペ参加者 ● コンペに勝って仕事を受託したい。● 能力が高く革新的な設計者(またはチーム)としての名声を獲得したい。● トップレベルの相手と競っていることを示したい。● チームメンバーの能力を高める機会にコンペを活用したい。● プロジェクト実績のポートフォリオを作成したい。● 他チームとの関係性を構築したい。

4.5 施工会社(デザインビルドの場合) ● 工事契約をとりたい。● 優れたデザインの橋梁建設プロジェクトをマネジメントし施工する能力のある企業であることを示したい。

4.6 審査員 ● 優れたデザインの橋梁の選定に貢献したい。● 自分が代表する団体や立場の要望を反映したい 2。● 橋梁デザインの専門家としての認知度を高めたい、または維持したい。● 仕事上のネットワークを広げたい。

2 審査員には、住民代表、商工会代表など、特定の集団を代表して選出された委員が含まれることもある。

4.コンペの関係主体とそれぞれのモチベーション

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ロンドン・ミレニアム橋 London Millennium Footbridge ロンドン、イギリス

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IABSE Guidelines for Design Competition for Bridges

Types of competition

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コンペの形式は、地方によっても国によってもさまざまであり、発注者が優れたデザイン組織や優れたデザイン、あるいはその両方を選び出すのに有効な仕組みとして、個々にカスタマイズされ得るものである。

コストの上限が厳格に決められている場合、デザインを重要な要素としたデザインビルドの入札を検討する必要がある 3。

コンペの形式には以下のようなものがある: ● 【参加資格による分類】 オープンコンペ、選抜コンペ、指名コンペ● 【選定回数による分類】 シングルコンペ、多段階コンペ● 【提案目的による分類】 アイデアコンペ、フルデザインコンペ

これらは以下のようにも分類することができる: ● デザインチームの選定● デザインの選定(指名コンペ)● デザインの選定(アイデアコンペ)● デザインの選定(オープンコンペ)● デザインビルドにおける施工会社の選定

5.1 デザインチームの選定(競争的対話) 具体的なデザインよりも組織がもつデザイン能力を重視し、有能な設計チームをうまく選定する方法として、競争的対話方式(competitive interview または competitive dialogue)による選定がある。

この方法は、発注者が広範な内容を含むデザインコンペの実施に要する時間や資金を有していない場合や、橋梁全体に求められる性能や仕様を明確に定義することが困難な場合、あるいは、発注者が設計チームと打合せを重ねながらデザインを検討したい場合などに用いられる。

3 デザインコンペによってデザインを選定する場合、工事数量やコストの見積りは、通常、概算レベルとなる。しかも、コンペに勝つことが当面の目標であるコンペ参加者には、それを少ない目に見積ろうとする動機が働く。その結果、コンペで選ばれた案が、詳細設計や施工の段階になって大幅なコストアップが明らかとなる場合がある。そのため、発注者にとってコストの上限が最初から厳しく決められている場合には、デザインビルドによる総価契約方式を採用することにより、予算の上限を超えないことを担保することも有力な選択肢である。

5.コンペの形式

トレードストン歩道橋 Tradeston Footbridge グラスゴー、イギリス

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さらに、指名コンペのように、最大 4 チーム程度までの組織を指名し、できる限り質の高いデザインを追求するために対等性と公平性にもとづく競争的対話への参加を要請する場合もある。しかし、この場合、チームはデザイン案を提出する必要はない。チームは以下のような項目にもとづいて選定される必要がある。

● 特定のプロジェクトに対する経験やアプローチ方法● プロジェクトの中で、その設計チームとうまく仕事ができるという自信を発注者がもてるかどうか● 設計チームに対する信頼● 予算に計上している設計費の金額

もし、設計チームがエンジニアとアーキテクトで構成されているなら、橋梁の設計や施工の経験がある人物がチームのリーダーになるべきであり、その人物とは、通常エンジニアである 4。

5.2 デザインの選定(指名コンペ) すでに一定の評価を得ている設計組織の中からデザインを選定したい場合、指名コンペが行われる。

デザインチームの指名にはさまざまな方法がある。

4 デザインチームのリーダーは、プロジェクトのあらゆる段階で生じ得る様々な問題に対して、自らの判断に責任をとれる人物でなければならない。その意味で、高度な技術的判断を要する橋梁のプロジェクトにおいては、エンジニアリング能力に欠けるアーキテクトはリーダーとして不適格である。しかし、エンジニアリングに対する深い造詣があるならば、たとえ肩書はアーキテクトであってもリーダーとなることは可能であろう。逆に、エンジニアリングのことしか知らず、それ以外の知識や教養に欠けるエンジニアも、このようなプロジェクトのリーダーとして、やはり不適格である。

ロックメドウ橋 Lockmeadow Bridge メイドストーン、イギリス

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● 発注者が実績などを考慮して設計組織を指名● プロジェクトの概要を公告し、興味を示した設計組織に類似業務の経験等の技術者情報の提出を求め、それにもとづき指名。実質的に多段階のコンペでもあり、参加資格の範囲を限定したオープンコンペでもある。

コンペ参加者として指名する組織は最大でも6つ程度とするのがよい。また、発注者の要請に応じて案を提出した組織には、きちんと対価を支払わなければならない 5。最優秀提案者に詳細設計を委託する場合、コンペの報奨金を設計費に加算して支払う必要がある。最優秀提案者に詳細設計を委託しない場合、報奨金額は設計者から発注者に著作権が譲渡されることに対してコンペ提案の分量や範囲に相応する額を支払う必要がある。

5.3 デザインの選定(アイデアコンペ) プロジェクト初期段階で、発注者が自由度の高い緩やかな条件でさまざまな可能性とアイデアを模索したい場合、オープンアイデアコンペか指名アイデアコンペが適している。

オープンアイデアコンペは、エンジニアやアーキテクトなどの高度な専門家だけでなく、学生などにも開かれている。上位 6位程度までのデザインに報酬が与えられるべきである。

オープンアイデアコンペは、2段階以上のコンペとすることも可能である。つまり、1次選定で複数のデザインを選定し、それらを 2次選定以降のプロセスで発展させる方法である。

オープンアイデアコンペは、土木または建築分野のプレス、あるいは、他のメディアを通じて、国内外に広報することが可能である。オープンアイデアコンペでは、どのような設計チームもコンペ要項を入手し、案を提出することが可能なようにすべきである。

次節で述べるオープンコンペも同様だが、オープンアイデアコンペは、相応な報酬がない限り、実務者にはあまり魅力的でない。

5.4 デザインの選定(オープンコンペ) 実際に施工する予定があり、かつ、さまざまな可能性の中から幅広くデザインを募集したい場合、オープンコンペが適している。しかし、非常に多数のエントリーがあった場合に、これらを精査する発注者の業務が膨大となる可能性があることは認識しておく必要がある。それゆえ、発注者は、いかにして広告し、コンペのルールを設計し、エントリーを受け付け、保管し、カタログ化し、判断するかをよく考えておく必要がある。

オープンコンペはデザインの可能性を幅広く集めるのに適している。この種のコンペに集まるデザインは、アイデアの質も玉石混交であるが、中にはレベルの高いものも含まれている。

もし、デザインに対してより詳細な検討を求めるか、あるいは、提出された案の中で可能性あるデザインチームへの競争的対話の実施が必要な場合、コンペの 2 段階目を実施することになる。1 段階目で一定数のデザインが選定され、それらは 2段階目に向けてさらに内容が詰められることとなる。

5 指名してデザインを検討させたことに対する報酬について述べられている。わが国では、昨今、「指名」そのものへの批判が強くなっているが、原則論としては、それなりのボリュームの仕事を指名して依頼したのだから、当然対価を支払うべきということになろう。

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1 回のみの審査で最優秀案を決めてしまう場合、公正の観点から、1 等だけでなく 3 等程度までの案に対して賞金を支払うのがよい 6。

2 段階の審査を行う場合、1 段階目で 4 案か 5 案程度に絞り、その後内容を詰めて 2 段階目を実施する。詳細設計に移される最終案の選定は 2 段階目の最後に決定されるが、コンペ参加の報酬は、2段階目の参加者全員に支払われる必要がある 7。

オープンコンペは、建築または土木分野のプレス、あるいは、他のメディアを通じて、国内外に広報することが可能である。オープンコンペでは、どのような設計チームも、コンペ要項を入手し、参加できるようにすべきである。

しかし、オープンコンペは熟練した審査員による正当な審査が行われない限り、また相応な報酬がない限り、さらに最優秀提案者が詳細設計業務を請負うことが約束されていない限り、実務者にはあまり魅力的でないということは理解しておく必要がある。

6 多段階で審査を行った方が、より正当に最優秀とすべき案を選出しやすい。1回のみの審査では、デザインの価値を十分正当に審査できない可能性がある。つまり、1回の審査で最優秀案を決めてしまう場合には、そのような審査結果のブレの可能性が、コンペ参加者にとっては良い提案をしても選ばれないかもしれないリスクとなり、参加意欲を低減させる。そこで、2等や3等にも賞金を与えることで参加者の感じるそのようなリスクを軽減し、より多くの参加者を惹きつけることができれば、コンペ全体のレベル向上も期待できるようになる。なお、本ガイドラインでは、コンペ参加者に支払われる報酬の重要性が繰り返し強調されている。これはコンペという方式が社会にもたらす多額の取引コストを踏まえたものである。つまり、ひとつのデザインを選定するために、実は社会全体として多額の取引コストが発生しているにも関わらず、発注者が立場の優位性や目先の利得によって社会に対して適切な報酬を還元しないことが、参加者の参加意欲を減退させ、それがコンペ自体の質にも反映し、結局のところ、コンペの目的や目指すべきレベルを損なう結果となりかねないことを回避するためである。 7 2段階目で負けてしまった者に対して、もし何ら報酬や賞金が支払われなければ、2段階目進出という一定の評価を得たにも関わらず、その結果は 1段階目で負けるよりも多くのコストを支払わされたという結果に終わり、公正さに欠く。

九堡橋 Jiubao Bridge 杭州、中国

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5.5 デザインビルドの請負業者の選定 設計だけでなく施工もあわせて計画することが求められる場合、デザインビルドの枠組みでは、設計者と施工者がチームを組むことが必要となる。

この方法で施工を前提として選定されるデザインは、以下のような多くの項目について検討することが必要である。 ● 橋梁形式● 要項が規定する、環境、政策、その他の問題についての検討● 技術的な利点● 施工性● 維持管理性、および、ライフサイクルコスト● 美観● 初期コスト● 設計者の実績● 施工者の実績

デザインビルドのチームは以下のようなプロセスを通じて選定される。つまり、発注者がプロジェクトの概要を知らせ、候補となる設計組織を指名し、担当者や類似業務についての詳細を提出するように求め、提出された設計組織のリストから指名するチームを複数選定する。 デザインビルドで指名する数は 3~4 程度とするのがよい。また、発注者の要請に応じて案を提出した組織には、きちんと対価を支払わなければならない。さらに最優秀提案者には、報奨金を設計費および施工費に加えて支払う必要がある。

コンペ主催者は、コンペで最優秀となったチームの施工会社と契約することとなる。当然、設計と施工に必要な予算を確保できていなければならない 8。デザインビルドの契約が前提となっていなければ、施工会社がコンペに興味を示すことはない。

発注者にとって、デザインの質が主要な関心事であるという前提に立つと、最優秀の選定にあたっては、質に関する評点と質を踏まえたコストの評点の組み合わせが主な決定要因となるということを基本に考えておかなければならない。これについては 8.2.3 を参照のこと。

デザインの中身が選定プロセスの一部でしかないような 2 段階の選定プロセスや競争的対話を含む選定プロセスを採用する場合 9、デザインの質に対して発注者が関与することも可能である。

もし、コスト低減が唯一重要な関心事である場合、以上(5.1~5.1)のガイドラインは、発注者の調達戦略として適さない。

8 これは当然のことだが、国によっては、発注者が十分な予算を確保していないケースもあり、トラブルの原因となっている。 9 デザイン提案の内容だけですべてが決定されるのではなく、他の要因も考慮される場合。

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5.6 状況に応じてカスタマイズされたコンペティション方式 多くの発注者は、以上に概要を述べてきた方法を複数組み合わせて、計画中のプロジェクトに適する方法を検討しようとするだろう。以下に、いくつかの可能性ある組み合わせを紹介する。

5.6.1 設計チームを選抜するため最初に競争的対話を実施し、その後、デザインを決めるための指名デザインコンペを行う。

5.6.2 提出された実績のみから、あるいは、競争的対話により多数の設計チームを指名し、コンペへの参加を依頼する。その後、コンペを実施し、その最優秀提案者に設計 10を完成させるように依頼する。それから橋梁の標準配置と概略寸法が、発注者および関係する公的機関により承認される。その後、固定価格(Fixed Price)、または、固定価格プラス単価項目契約(Fixed Price Plus Re-measurable Items)により、デザインビルド方式にて工事契約を締結する。施工会社は詳細設計と工事を請負う。

5.6.3 競争的対話を通じて設計チームを 1チーム選定し、そのチームに多数のデザイン案を作成するように依頼する。そのデザイン案の中からひとつ、または、複数のデザインについて、さらに完成レベルまで検討するように依頼する。その後は、5.6.2 と同様の手続きとなる。

5.7 法的ルール パブリックセクターが直轄、または、出資して行う多くのプロジェクトでは、その国の細かな手続きのルールや法律、条例にしたがわなければならない。コンペは、適切な手続きの運用や本ガイドラインが示す内容などとともに、決められたルールの中で進められなければならない。

10 コンペの最優秀提案者は、基本設計レベルのデザインを完成させる。

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IABSE Guidelines for Design Competition for Bridges

The components of a successful

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competition

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コンペを成功に導くためには、従うべきいくつかの定石が存在する。それらは以下のような要素を含んでいる。

● 美的に優れた構造● 都市部であれ郊外部であれ、その地域のコンテクストと風景の中に適切に埋め込まれたデザイン● 市民や社会からの称賛● 楽しみや喜び● 適切なコスト● 発注者の予算内で、なおかつ工期内に収まっていること● 最短、かつ/または、適切な設計と施工期間であること● 全体の耐久性と構造安定性● 点検とメンテナンスが容易で、維持管理コストが安いこと● 最小限、かつ/または、妥当な環境へのインパクト● 適切なサステナブルデザイン● そのプロジェクトに人々が注目し、資金を呼び寄せるような広報を行っていること

そして、コンペを成功に導く定石とは以下のとおりである。

6.1 発注者がコンペを行う理由や目的を明確に理解していること。

6.2 発注者が自身のニーズと事情に最も適したコンペ形式を選定していること。

6.3 コンペ形式が過度なコスト上昇を招くことなくすべての要望を満たすように選定されていること。

6.4 店舗などの商業的提案を含む場合、何が可能で何が可能でないかを明確に示していること。

6.成功するコンペとは

トリ・カントリーズ橋 Tri-Countries Bridge ヴァイル・アム・ライン、ドイツ

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6.5 リスク分担の公正さと合理的なバランスが図られており、発注者とコンペ参加者の双方にメリットがあること。

6.6 発注者がフィージビリティ・スタディを行い、要求事項を明確にしていること。要求事項は、入念な調査にもとづいた評価基準、意向、要望、予算など必要な情報を含むこと。

発注者は、実績があり信頼できる第三者的立場のコンサルタントに、コンペの要求事項と要項のとりまとめ、提出物の精査、審査員への技術的説明や概算コストのアドバイス等を依頼するとよい。

6.7 発注者は、次に示すような包括的かつ適切なデータを提供すること:関連法規、地域計画戦略、土地利用状況、歴史的コンテクスト、地理、地質、土地調査、環境および文化的コンテクスト、平面図、地形測量データ、水文データ、技術的規制、承認手続き、コンペのルール、工程表、支払い方法など。

6.8 コンペ参加者には、発注者の要求事項と意向に関する全体方針が示されている必要がある。

6.9 提案されたデザインが、しっかりとした技術的裏付けに支えられており、かつ、設計者がそのデザインについて構造的に問題なく、かつ、施工可能であることを説明することができること。

6.10 発注者が応募内容について審査できる能力と知識を有する審査員を選定していること。8.7 節を参照。

6.11 審査員は可能な限り早期に決定され、発注者の要求事項について理解し、要項の内容および発注者の要求事項について同意していなければならない。

可能であれば、要項作成の基本方針や大目標の執筆にも審査員が関わること。しかし、それらは審査員と発注者が合意可能な内容に絞られるべきである。

6.12 審査員が、公平かつ透明な方法で、発注者の選定基準と要求事項に従って推奨案を選定していること。

6.13 要項からは逸脱するが要項が求めるレベルを上回る利点を有するデザインが提案されている場合、それを推奨する理由を審査員が説明できること。

6.14 発注者に依頼された第三者的立場のコンサルタントは、技術的妥当性の観点からデザインを精査し、コスト評価および審査員より出された疑念に対して、審査員に専門的な支援を行う必要がある。

6.15 少なくともひとつの応募案が、上記の精査手続きを通過していること。

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6.16 精査手続きを通過した応募案のうち少なくともひとつが、要求事項の全てを確実に満たしており、さらに、独自のアイデアを明確に述べていること。

6.17 最終的に選ばれたデザインが、市民に積極的に受け入れられること。

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IABSE Guidelines for Design Competition for Bridges

The ingredients of an unsuccessful

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design competition

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7.1 発注者が、コンペの目的を明確には理解していない場合。また、矛盾する要求事項を同時に提示している場合。

7.2 発注者が、不適切または誤ったデータを提供している場合。また、実施要項の内容が希薄である場合。

7.3 コンペの賞金が不十分なため、真面目で良い仕事をする設計者や設計チームを惹きつけられない場合。賞金が不十分であると、提出されるデザインも内容が薄く適切でないものばかりが多く集まる 11。

7.4 発注者が、当該コンペの審査に求められる能力を有さない審査員を選んでしまった場合。また、提出されたデザインを吟味し、その工学的裏づけと概算の建設コストに対する公平な評価を行うのに適した審査員を選ばなかった場合。 どのような審査員が適しているかは、第三者的立場のコンサルタントが提示してくれるであろう。

7.5 審査員が、構造上の問題や他の工学的側面を無視し、ただ見た目の面白さだけでデザインを選んでしまった場合。

7.6 審査員が、発注者の予算に合わないデザインを選んでしまった場合。 実際にかかるコストは(当初想定していなかった)技術的要件を満たすために新たに必要となったコスト分を含めると、当初の予算を上回ってしまうことがある。

11 応募者は、コンペ参加にあたって、それなりの費用対効果を考えながら作業を行うため、報酬が不十分と分かっている場合、実績づくりを目的とする場合を除いては、通常、最初からそのようなコンペには参加しないか、あるいは、参加したとしても必要以上に労力をかけることはない。

7.失敗するコンペとは

フォース・リプレイスメント・ クロッシンング Forth Replacement Crossing エジンバラ、イギリス

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この問題への対策としては、応募内容について十分な技術的精査を行うことである。また、その建設コストが標準的な積算の方法にもとづき第三者的立場のコンサルタントによって評価されることである。その他の対策としては、デザインビルド方式 12でデザインコンペを実施することである。

7.7 審査員が、要項に書かれている事項に対して最善のデザインを選定しなかった場合。 このようなことを避けるためには、すでに要項作成段階から発注者と数人の審査員をしっかりと巻き込んでおくことである。他の審査員はこの後で呼ばれることになるが、要項の内容と発注者の意向については承諾することが条件となる。

7.8 発注者が、審査員や第三者的立場のコンサルタントからのアドバイスを受け入れないか尊重しない場合。

7.9 デザインに必要不可欠な情報が要項内に示されていない場合。 このような場合には、コンペで選ばれたデザインが、コンペ後に入手したデータと整合しないことが後で判明することがある。その結果、選ばれたデザインを断念せざるを得なくなるか、相当な変更を強いられることとなる。このようなことを避けるためには、必要となるすべての関連データを入手し、要項の中に確実に示しておくことである。

7.10 コンペで選ばれたデザインが、敗れたデザインのアイデアや要素を後から取り込んでしまった場合。 デザインコンペでは、敗れたデザインの中にも、勝ったデザインに含まれていない多くの優れたアイデアが存在することも多いが、通常はそれらを断念しなければならない。敗れたデザイナーの優れたアイデアを勝ったデザインの中に取り込むことは、一見、論理的で理解できるが、敗れたデザインに対して不公平である。

このようなことを避けるためには、コンペ参加者の知的財産権を尊重し、彼らがコンペの提出要件を完全に満足していれば、その努力に対して適切な報酬を与えることである。あるいは、もし敗者

12 設計・施工一括とすることで全体コストに上限を与える。9.1 および訳注 23 を参照。

ダヌーベ橋 Danube Bridge リンツ(Linz)、オーストリア

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のデザインが1等のデザインに取り込まれる場合には、敗者に対して十分かつ公正な補償をしなければならない。デザインの著作権に対する要件は、正当な手続きを経て設計者から買い上げられるものでない限り、コンペ参加者に帰属すべきものである。

ドンマン橋 Dongman Bridge 瀋陽、中国

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IABSE Guidelines for Design Competition for Bridges

The stages of a competition

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8.1 計画、フィージビリティ・スタディ、コンペの前に行うべきこと

これは以下の事項を含む。

● 橋梁を含むプロジェクト全体に関する発注者側の計画● 架橋場所を特定し、景観設計と地域のコンテクストに対する要求事項を特定すること● 研究や調査にもとづき特定された環境・政策的問題など● 研究や調査にもとづき特定された物理的・社会的問題● プロジェクトに対して一般市民の支援を得るために行われる広報活動● 政治・行政の関わり方の確立。資金はどのように供給されるべきか。デザインの調達戦略は明確か● ステークホルダーを特定し彼らと話し合うこと。彼らの関心を理解し検討すること。彼らにも関わってもらうこと

● 地形測量、土質工学的調査、環境調査、設備情報のようなデータを包括的に収集すること● 有能な橋梁コンサルタントと契約し、基本計画の作成に協力してもらい、橋梁の必要性を明確化し、発注者と共同で橋梁の要求事項を明確化すること

● コンペを実施する理由を明確にすること● 要項の執筆とコンペの実施に必要なスタッフの確保、あるいは、第三者的立場のコンサルタントの選定● コンペの種類の選定● コンペの審査員の選定と任命

8.2 コンペ要項の作成

これは、理念、仕様、現地に関連するデータの一式、および、より広いコンテクストを含み、以下のようなものである。

● 発注者の要求および目的・意図についての明確な定義。美観、構造的合理性、維持管理性、予算、ライフサイクルコスト、また、それらに付随する重要事項を含むこと

● 歴史的、文化的、環境的コンテクスト● 技術的要求事項、各種基準、航路限界や現地へのアクセスなどの特別な要求事項● 重要なステークホルダーの要求事項を明確に記述すること● 要求事項に矛盾がないようにすること。これはさまざまな組織やステークホルダーから出されるあらゆる要求事項を検討し、矛盾点の解決を図ることを意味すること

● 国内、あるいは、国際的な法的枠組みについて検討すること。それは、『建設(設計、マネジメント)規則』(CDM:Construction(Design Management)13)の規制、あるいは、当該国内の労働安全衛生の規制などを含むこと

● 地形測量、土質工学的調査、環境調査、設備情報のようなデータが含まれていること(6.7を参照)

以上のリストは、理想的、あるいは、それに近いものであるが、要項の中に含まれるべきものである。

13 イギリスの安全施策の規制であり、現在は、『建設(設計、マネジメント)規則 2007』が発効している。イギリス全土における建設、解体、メンテナンスに関わる工事では、基本的にこれに準拠することが義務づけられている。

8.コンペの各段階

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8.2.1 予算の確定 デザインコンペ、詳細設計、建設工事を含む予算のベースラインは、以下の事項を考慮して決定されなければならない。

● 範囲の定義。何がコンペに含まれるのか。ランドスケープや景観照明の範囲など明確に● フィージビリティ検討用の設計を行い、それにもとづき必要な予算額を算定できる有能な橋梁コンサルタントと契約すること。これを比較の基準として、同様の前提を有する提案に対して、そのデザインの特殊性や施工への要求事項に応じた予算の割増しを行う

● 設計の要求事項にもとづいて、現実的な設計費を確定する● クロスチェックを行い、使用可能な予算が発注者の要求事項に見合ったものかどうかのリスクアセスメントを行う。その結果にもとづき、要項に記載すべき要求事項を作成する

● 非現実的な安価な予算を設定すると、発注者の要求や目的・意図を満たさない結果に陥ってしまうため、予算に関して非現実的な設定をしてはならない。これはデザインコンペが失敗する主要な要因のひとつである

● 調達に関する規制と代替となる財源についての発注者の検討に、第三者的立場のコンサルタントも協力する

● さまざまな規模や複雑さをともなう橋梁の設計に対応するためには、エンジニアやアーキテクトは、過去に同様のプロジェクトに従事して経験を積んでおく必要があるということを考慮する必要がある。適切な経験を積んだエンジニアやアーキテクトは、国内外にそれほど多くはいない。これは経験を積む環境と関連するからである 14。しかし、また新たな才能が現れ、技術の発展とイノベーションに貢献するかもしれない。このような状況にも配慮して、若手育成のためにもオープンコンペやアイデアコンペを通したデザインの実現に向けての適切なルールが確立されるべきである。これは助言や批評、あるいは、より経験豊富な橋梁デザイナーとの協働の形式となる場合もある 15

8.2.2 提出物に関する要求事項の確定

● 提出物の分量は必要最小限とすべきである。提出要件は、現実的、かつ、検討に必要な時間と適切な報酬が付与されたものでなければならない。重要な提出物の分量に上限を設けること、および、比較のためにコンペ参加者の間で提出物の分量に一貫性を与えることは、多くの提出物を入手することよりも重要である

● プレゼンテーションの競技ではなくデザインの競技であるということを意識して、図面やイメージ図の枚数とサイズを決める

● 3次元の模型が必要かどうか● コンピュータグラフィックス(CG)や鳥瞰飛行の動画が必要かどうか

14 美しさと機能性を兼ね備えた橋梁デザインに習熟するためには、専門的で高度な工学技術のほか、文化や社会の理解、審美性の判断や表現技法など、全く異なる分野を横断的に扱える幅広い知識と経験が必要となる。その意味で、橋梁デザインは、数多くのデザイン分野の中でも一通りの事項を習熟してスタートラインに立つまでのハードルが最も高い分野のひとつである。しかし、十分な習熟の機会は欧州諸国においても決して豊富ではなく、自らの意志で経験と研鑚を積み重ねることを前提としながら、どのような仕事と巡り合えるかという環境も重要であり、そのような蓄積を積んできた優れたエンジニアは大変貴重な存在となっている。ここでは、技術に対するフィーの考え方として、そのような背景も考慮する必要があるとの見解が述べられている。 15 若手自らの意志や環境に任せておけば勝手に成長し技術に習熟するようになると期待するにはかなりハードルの高い分野であるため、社会として有能な若手を育てる仕組みが必要であり、オープンコンペやアイデアコンペはそのような意味にも役立てられる。

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● 適切な技術計算や施工順序の検討を証明する技術報告書の提出を求めるかどうか● コンペ参加者によるプレセンテーションの必要条件● コストの見積り。いかに詳細に行い、いかに精度の高さを証明するか● 報酬は、詳細さのレベル、および、求められる情報をカバーするのに十分なものでなければならない。また、経験豊富なデザイナーがコンペに参加するためのインセンティブとなるものでなければならない。8.2.5 も参照のこと。

デザインコンペでは、詳細設計費の相場が設計者を決定する支配要因となってはならない 16。設計費は、発注者が求める質の達成に向けて、デザイナーが設計を請負うのに十分な額であるべきである。

● 発注者の定めた予算内で詳細設計を行うことがコンペの条件として課された場合、見積られた設計費は、厳封された封筒に入れて提出されなければならない。そして、最優秀デザインの選定結果が明らかになった時点で、最優秀に選ばれた参加者の封筒のみが開封される。

● 提出が求められる書類の分量は、想定されるエントリー数に対してバランスの取れたものとすべきである。それにより、審査員が各エントリーの内容すべてについて検討するのに十分な時間を費やすことができる。

● 提出物は、完全な匿名、すなわち、コンペ参加者が特定され得ない状態となっている必要がある。これは審査員の先入観が審査に影響しないことを確実にするためである。あるいは、匿名とせずに、コンペ参加者が提案内容を審査員に説明する場を設け、そのうえで審査を行うという方法もある。

16 一般的傾向として、コンペで選ばれた案の詳細設計は、標準的な案の詳細設計よりも検討事項が多く難易度が高くなる。したがって、詳細設計費が不十分であると、デザインの質を確保することが困難となってくる。したがって、詳細設計費の多寡で受注者を決めるようなことになると、そもそもデザインコンペを実施する意味自体が不明なものとなってしまう。デザインコンペでは、美しく描かれたイメージ図の評判ばかりが先行しがちであるが、最終的な質は詳細設計の質に依存するというものづくりの鉄則を発注者や審査員は十分心得ておかなければならない。そこを軽く考えてしまうと、デザインが洗練されることなく、せっかくコンペまでして選んだ案が中途半端なクオリティで出来上がってしまい、コンペを行った意味自体を失いかねない。発注者は十分な額の詳細設計費を準備しておくと同時に、詳細設計を委託するコンペ勝者には施工時のデザイン監理にも関与させ、デザインのバリューチェーンを確実に担保することが必要である。

ムルデ川に架かる橋 Bridge across the Mulde River ポーフ、ドイツ

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8.2.3 審査および評価の基準 以下の内容を含む評価基準を設定する。

● 要項の精神にもとづいたコンプライアンスの徹底● 環境への配慮、美観、地域のコンテクストへの埋め込み、技術的健全性、イノベーション、施工性、点検とメンテナンス性、全体計画、ライフサイクルコスト、(もし評価されるのであれば)設計者や施工者の経験、などを含む現実的な基準

● 評価システム、および、上記の各項目に振り分けられた重みづけのパーセンテージは、要項に明記される必要がある。審査員が各項目に付けた点数は、公開され、透明性が確保されなければならない。

● 評価システムの選定は、デザインビルドの入札においてとくに重要である。デザインの質を直接評価する場合、審査員は最高点と最低点を狭い幅で評価する傾向がある。それはアウトカムに対して小さな効果にしかならない。入札者がデザインの質を最大限に考慮することを確実にするために、各提案は、デザインの質的部分の配点に対して 100%の得点を得る最上位の提案から 0%の得点となる最下位の提案までの幅によって評価されるべきである。

8.2.4 工程表 内容とつり合った現実的な工程表の作成。

● 各フェーズにどれだけの時間を与えるか。長すぎず、短すぎず。● 発注者の意図。より詳細な情報を求める場合、より多くの時間を必要とする。● 要項において、デザイン案を検討する時間を与えるのと同様に、プレゼンテーションのための資料を準備する時間も与える必要がある。

● すべての調達事項およびプロジェクトのプログラムを作成する。

工程表には、コンペ参加者からの質問を受け付ける期間についても明記しておくべきである。

8.2.5 賞金 真面目で経験豊富な設計チームをコンペに惹きつけるためには、適切で公正な賞金がコンペ参加者に支払われることが極めて重要である。賞金金額を決めるに際して、考慮すべき事項を以下に述べる。

● 賞金と設計費は別である。設計費は委託する仕事に対して支払われるものであるのに対し、賞金はデザインコンペに参加するための投資が無駄に終わってしまうことへの高いリスクを背負ったことに対する報奨金である。

● コンペには、コンペ参加企業が抱えるベテラン人材や最高レベルの専門技術が戦略的に投入されていることを知っておく必要がある。

● アイデアのみのコンペなのか、次のステージ(詳細設計等)の契約が予定されているコンペなのかについて、もし、コンペの最優秀提案者と次のステージの約束をする意向がないのであれば、アイデアのみのコンペへの報奨金は十分高く設定しておく必要がある 17。そして、コンペの

17 アイデアのみのコンペをイベント的に行うだけで提案内容の質をあまり重視しないのであれば、報奨金は必ずしも高くする必要はない。しかし、アイデアのみのコンペであってもレベルの高い提案を求めようとするならば、十分な報奨金を与えないと実力あるチームに参加のインセンティブは働かない。

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参加者には次のステージの契約が約束されたものでないことを知らせておく必要がある。 ● 賞金金額は、必要な提出資料の作成、および、設計チームに配置されるマンパワーや、パース図、鳥瞰飛行の動画、立体模型等のコストの見積りを反映した額とする必要がある

● ショートリスト(最終選抜)の中から案を選定するようなデザインコンペの場合、ショートリストに選ばれたコンペ参加者全員に対して、それが最低限の提出基準を満たしている限り、適切な報奨金が支払われるべきである 18。

● コンペへの参加経費をすべてコンペ参加者の持ち出しとする方法は、設計チームがコンペに要した費用を取り戻すことができないため原則的に避けられるべきである。この方法は、1段階目の審査を通過したコンペ参加者にとって、次の段階で契約を勝ち取ることを前提とし、その後の段階(詳細設計等)で当初の費用のいくらかを取り戻さなければならないことを意味する。デザインコンペに相当な費用をかけなければならない上に、その後のプロセスへの保証がないので、この方法は参加者にとって魅力がない。この方法が採用される場合、有能なデザイナーをコンペに惹きつけるためには、その後の賞金を十分に高くしなければならない 19。

より詳細なレベルの提出物を求めるコンペについては、適切な賞金金額を、全体の設計費(詳細設計費)に対する一定割合として設定することも可能である。それは施工費に対する一定割合として設計費を設定する従来の方法と同様に、概略設計段階(コンペの段階)に対しても適用することが可能である。

18 訳注 7 を参照。 19 コンペの賞金と設計費は別とする必要性がここでも述べられている。

イ・スンシン大橋 Yi Sun-sin Bridge 全羅南道、韓国

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8.3 知的財産の問題 以下を踏まえて、知的財産権について明確にしておく。

● デザイナーの著作権を尊重する● 最優秀に選ばれた者だけでなく、すべてのコンペ参加者がデザインの著作権を有する●最優秀以外のコンペ参加者が提案した何らかのアイデアが、その後のデザイン段階で使用され、しかも、オリジナルの案を提案したコンペ参加者がその段階に加われないような場合、その参加者には適切な補償がなされなければならない。

8.4 広報 エントリー募集の公告

公告は国内、または、国際的な専門のプレスを通じて行うことができる。また、大使館や領事館の通商部に知らせることや、EU官報(Official Journal of the European Union)や各国の同種の媒体に公告することも可能である。

8.5 参加募集の案内書類 参加募集の案内書類は、本来、本ガイドラインで示されているさまざまな点を考慮し、適切に編集される必要がある。資料には、必要な情報、採点基準、選定の仕組みを明確に記述しなければならない。

8.6 コンペ参加者の選定 コンペ参加者は、コンペの種類と公表された選定基準を考慮して選定されなければならない 20。

8.7 審査員の選定 審査員の人数を制限し、以下を考慮して選定する。

● プロジェクトに求められる専門分野の幅に応じたメンバー構成とする● 広範な分野からの代表制とする● 発注者からの代表を含む● ステークホルダー、および、地元の問題をよく理解したメンバーを含む● 橋の設計、施工、メンテナンスに特有の問題を理解し、実際にそれを経験したことのあるメンバーを含む

● 美観、および、都市環境や公共分野の質的問題について定評あるメンバーを含む● バックグラウンドが景観やデザインのメンバーとエンジニアリングのメンバーとのバランスを図る● 審査員の過半数はエンジニアであるべきである● 橋の施工や積算の経験のあるメンバーを含む● 橋の点検やメンテナンスの経験のあるメンバーを含む● デザインコンペに参加した経験のあるメンバーを含む● 有名芸能人や特定の目的をもつ利益団体の起用は避ける● コンペ参加者に定評のある審査員を選ぶ● 十分な経験とハイレベルな審査員を獲得するために、審査員には十分な謝金を支払う

20 オープンコンペの場合、参加者の選定は不要。

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審査員の構成は、7章の「失敗するコンペとは」にもとづきよく検討する必要がある。

いくつかの国では、審査員選定の行政手続きが定められている。本ガイドラインが推奨する方法は、各国の特性をふまえて適切に適用することが可能である。

8.8 コンペの期間 提出要件にもとづいて、コンペの期間には十分な時間が与えられるべきである。

8.9 提出書類の受領と開封 提出書類は、最低限の条件を満たしているかどうか確認すること。 提出書類は、原則的に、匿名性が守られなければならない。発注者のプロジェクトマネジャーのみがコンペ参加者を知ることが許されると同時に、そのプロジェクトマネジャーは、提出物に不備がないかを審査の事前に確認する。プロジェクトマネジャーはプロセスを管理し、決して審査そのものに加わってはならない。

また、プロジェクトマネジャーは、設計費の提案も受け取るが、1等が発表された後に開封するため安全に厳封を保持しなければならない。

8.10 審査プロセス 提出書類の評価は、評価基準に対してなされなければならず、また、7 章で述べた“失敗するコンペとは”に照らして判断されなければならない。

審査員が、評価基準に適合しない計画を推薦しようとする場合には、その審査員は、なぜそれを推薦するのか、自らのコメントや批評をとりまとめたレポートを作成する必要がある。

8.11 最優秀者の発表 最優秀者の発表は、デザインに対する審査員のコメントや批評文とともになされるべきである。結果発表は、落選したデザインへのコメントや批評も含まれるべきである。

8.12 パブリシティ 応募作品と最優秀案は、以下を達成するための管理されたプロセスにおいて公表される必要がある。

● 展示会、プレス、TV、インターネット等を通して一般に周知し、最優秀に選ばれたデザインを受け入れてもらう

● 設計を委託・調達する組織と設計者について周知を図る● 実際に橋梁を建設するために、いかなる政策的・資金的要件にも役立つようにする

8.13 橋梁の設計および設計施工に進むための最優秀提案者への業務委託 ここがデザインコンペのゴール地点であり、以降は実施段階に移る。

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グラシス橋 Gracis Bridge インゴルシュタット、ドイツ

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IABSE Guidelines for Design Competition for Bridges

Other issues that need to be addressed

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9.1 誰がコスト計算を行うべきか 通常、コンペの各参加者には自らの手でコスト計算を行うことが求められる。しかし、橋梁の建設コストが発注者の予算内に収まっているように見せようとする行為は、コンペ参加者にとって自然な傾向ともいえる 21。この問題を克服するためには、発注者が経験豊富な橋梁コンサルタントやコストコンサルタントと契約し、提案されたすべてのデザインに対してコスト評価を行うことである。このようにすれば、提出されたすべての案のコストが同一の尺度で示されるため、発注者がより適切に評価できるようになる。このようにして発注者(またはそのコンサルタント)が自らコスト計算を行うならば、発注者にとってのコスト調整はより行いやすいものとなる。しかし、発注者がコストの上限をかなり低く設けている場合には、この方法はうまく機能しないかもしれない 22。最優秀デザインを選定するにあたって、コストは複数の決定要因のうちのひとつであるという考え方で行う場合には、コスト評価をうまく行うことができるだろう。

デザインは新たな施工法の開発を促す場合もある。そのことのメリットは、発注者と契約するコストコンサルタントや発注者チームにはあまり認識されていないことが多い。このメリットを逃さないためには、コンペ参加者に自らのデザインについてその施工法を説明するように求めるとよい。可能であれば、プレゼンテーションやインタビューの中で、その詳細な説明を求めるとよい。

デザインビルドのコンペにおいて、総価契約(lump sum fixed price) 23や上限予算(capped budget)がコンペの条件である場合、コントラクターの入札価格は、リスク対応コストを十分保証した金額に設定される。

9.2 コンペは橋梁に限定すべきか、より広範な内容とすべきか 優れたデザインは、しばしば橋梁と周囲の環境や景観、建築物、その他の視覚的相互作用の結果として表れる。一方、コンペの対象範囲が広い場合、あるチームが素晴らしい橋梁デザインを提案し、別のチームが橋梁以外の部分について素晴らしいデザインを提案した場合、1等の選定は悩ましくなる。一般的には、橋梁のコンペでは橋梁にフォーカスするのがより良い方法であると考えられるが、橋梁デザインに向けた提案内容が橋梁以外への提案を含んでいたり、少なくとも橋梁の周辺環境や景観、関連するコンテクストに示唆を与えたりすることは重要である。より広範な“視覚的相互作用”のデザインは、随意契約や競争的対話を通じた方が、うまく獲得することができるだろう。

21 コンペ参加者にとっては、まずコンペに勝つことが最重要課題であって、その目的のもと、コストの問題は比較的楽観的予測にもとづいて見積もられる傾向があることに注意が必要である。 22 発注者の予算が安価な仕様の設計にもとづいて見積もられ、それが予算の上限として設定された場合、コンペ参加者にとっては、低コストということ以上の価値を提案することが困難となる場合が想定される。つまり、他のさまざまな付加価値の可能性を排除してしまう可能性が高くなる。このことは、多くの案の中から最優秀案の候補となり得る提案を、デザインに対する総合的判断ではなく、コストのみの観点から絞り込んでしまうことを意味する。その上限コストが低ければ低いほど、そのスクリーニングを通過する案の数は当然絞られてしまう。 23 固定金額契約、あるいは、ランプサム契約ともいい、契約金額として約定された固定金額で契約上の義務を請負う契約である。契約当事者間の合意がない限り、原則として金額変更はなされない。発注者にとっては、予算を当初から確定できるというメリットがあるが、想定されるリスクへの対応コストをあらかじめ予算に見込むことになるため、多少割高になる傾向がある。受注者にとっては、リスク対応コストを負担することが避けられないため、見積り段階でのリスクマネジメントが不可欠となる。

9.考慮すべきその他の事項

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タミナ・キャニオン橋 Tamina Canyon Bridge ザンクト・ガレン、スイス

ストーンカッターズ橋 Stonecutters Bridge 香港

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【表紙】 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 橋梁名 :ストーンカッターズ橋(Stonecutters Bridge) 所在地 :香港 形式 :道路橋、斜張橋 発注者 :Transport Department 最優秀提案者 :Halcrow + Flint & Neil + SMEDI + Dissing & Weitling エンジニア :Arup + Cowi 施工者 :前田建設工業 + 日立造船 + 横河ブリッジ + Hsing Chong コンペ形式 :2段階デザインコンペ(First Submission + Shortlisted Submission) 竣工年 :2010

9章にも掲載

【はじめに】 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 橋梁名 :ヒューム・アーチ橋(Hulme Arch Bridge) 所在地 :マンチェスター(イギリス) 形式 :道路橋、アーチ + 複合デッキ 発注者 :Hulme Regeneration Ltd. エンジニア :Arup 建築家 :Wilkinson Eyre Architects 施工者 :Henry Boot Construction (UK) Ltd. コンペ形式 :2段階デザインコンペ(Prequalification + Shortlisted Teams) 竣工年 :1997

橋梁名 :エヴレ・スン橋(Øvre Sund Bridge) 所在地 :ドランメン(ノルウェー) 形式 :桁橋 発注者 :Norwegian Public Road Administration エンジニア :Multiconsult 建築家 :Bovim/Fuglu/Svingen 施工者 :Storm Gundersen コンペ形式 :指名コンペ 竣工年 :2011

【1】 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 橋梁名 :ネスシオ橋(Nesciobrug) 所在地 :アムステルダム(オランダ) 形式 :歩行者自転車橋、吊橋 発注者 :City of Amsterdam エンジニア :Arup 建築家 :Wilkinson Eyre Architects 施工者 :Van Hattum en Blankevoort + Van Splunder Funderingstechniek

+ Heerema コンペ形式 :有償指名コンペ

参考データ. 本書で紹介した橋梁

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竣工年 :2003

【2】 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 橋梁名 :オーレスン・リンク(Øresund Link) 所在地 :コペンハーゲン(デンマーク)~マルメ(スウェーデン) 形式 :道路+鉄道橋、桁橋 + 斜張橋 発注者 :Oresundskonsortiet エンジニア :Arup + SETEC + Gimsing & Madsen + ISC 建築家 :Georg Rotne 施工者 :Skanska AB + Hochtief AG + Hojgaard & Schultz A/S

+ Monberg & Thorsen A/S コンペ形式 :2段階デザインコンペ(Prequalification + Shortlisted Teams) 竣工年 :2000

【3】 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 橋梁名 :ゲーツヘッド・ミレニアム橋(Gateshead Millennium Bridge) 所在地 :ニューキャッスル(イギリス) 形式 :歩行者自転車橋、アーチ橋 発注者 :Gateshead Borough Council エンジニア :Gifford UK 建築家 :Wilkinson Eyre Architects UK 施工者 :Volker Stevin/Harbour and General コンペ形式 :2段階デザインコンペ(Open + Shortlisted) 竣工年 :2001

橋梁名 :ティンカウ橋(Ting Kau Bridge) 所在地 :香港 形式 :道路橋、斜張橋 発注者 :Highways Department Hong Kong エンジニア :Schlaich Bergermann & Partner 施工者 :Ting Kau Contractors JV:

Cubiertas y Mzov S.A.(マドリッド) + Downer & Co. (香港) + Entrecanales y Tavora S.A.(マドリッド) + Paul Y Construction Co.(香港) + Ed. Züblin AG(シュツットガルト)、Freyssinet(ヴェリジー)

コンペ形式 :デザインビルド(デザイン・クオリティ評価を含む) 竣工年 :1998

【4】 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 橋梁名 :ロンドン・ミレニアム・ブリッジ(London Millennium Bridge) 所在地 :ロンドン(イギリス) 形式 :歩道橋、吊橋 発注者 :Southwalk London Borough Council エンジニア :Arup 建築家 :Foster & Partners 施工者 :Monberg & Thosen / Sir Robert McAlpne JV コンペ形式 :オープンコンペ(221 エントリー) 竣工年 :2000

【5】 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 橋梁名 :トラスデン歩道橋(Tradeston Footbridge) 所在地 :グラスゴー(イギリス) 形式 :歩行者自転車橋、“アローヘッド”・フィンバック橋 発注者 :Glasgow City Council エンジニア :Halcrow

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建築家 :Dissing + Weitling Architects 施工者 :BAM Nuttall コンペ形式 :デザインビルド(デザイン・クオリティ評価を含む) 竣工年 :2009

橋梁名 :ロックメドウ橋(Lockmeadow Bridge) 所在地 :メイドストーン(イギリス) 形式 :歩道橋、斜張橋、アルミデッキ 発注者 :Maidstone Borough Council エンジニア :Flint & Neill 建築家 :Wilkinson Eyre Architects UK 施工者 :Christiani & Nielsen コンペ形式 :指名コンペ 竣工年 :1999

橋梁名 :九堡橋(Jiubao Bridge) 所在地 :杭州(中国) 形式 :道路橋、アーチ橋 発注者 :Hangzhou Urban Construction Investment Group Co. Ltd.

Hangzhou Urban Infrastructure Construction and Development Corporation エンジニア :Shanghai Municipal Engineering Design Institute Co. Ltd. 施工者 : Second Harbour Engineering Company Ltd. of China Communications Construction

Corporation (CCCC) Road & Bridge International Co. Ltd. コンペ形式 :多段階コンペ(デザイン案、および、デザインチームの選定) 竣工年 :2011

【6】 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 橋梁名 :トリ・カントリーズ橋(Tri-Countries Bridge) 所在地 :ヴァイル・アム・ライン(ドイツ) 形式 :歩道橋、アーチ橋 発注者 :City of Weil am Rhein エンジニア :Leonhardt Andrä & Partner GmbH 建築家 :Feichtinger Architects 施工者 :MAX Bögl GmbH & Co. KG コンペ形式 :参加制限/指名コンペ 竣工年 :2007

【7】 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 橋梁名 :フォース・リプレイスメント・クロッシング(Forth Replacement Crossing) 所在地 :エジンバラ(イギリス) 形式 :道路橋、斜張橋 発注者 :Transport Scotland エンジニア :Arup 建築家 :Dissing + Weitling 施工者 :FCBC コンペ形式 :競争的対話によるデザインチームの選定 竣工年 :2016

橋梁名 :ダヌーベ橋(Danube Bridge) 所在地 :リンツ(オーストリア) 形式 :道路橋、吊橋 発注者 :Amt der Oberösterreichischen Landesregierung エンジニア :Schlaich Bergermann & Partner

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建築家 :gmp・Architekten von Gerkan, Marg & Partner 施工者 :tbd コンペ形式 :指名コンペ(事前資格審査あり) 竣工年 :2014

橋梁名 :ドンマン橋(Dongman Bridge) 所在地 :瀋陽(中国) 形式 :道路橋、アーチ橋 発注者 :Shenyang Urban Construction Project Office

Transportation Bureau of Donling District of Shenyang エンジニア+建築家 :The Architectural Design & Research Institute Co. Ltd. of Tongji University 施工者 :Shenyang Municipal Group Co. Ltd. コンペ形式 :アイデアコンペ 竣工年 :2013

【8】 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 橋梁名 :ムルデ川に架かる橋(Bridge across the Mulde River) 所在地 :ポーフ(ドイツ) 形式 :道路橋、桁橋 発注者 :Landesbetrieb Bau

Niederlassung Ost エンジニア :Leonhardt Andrä & Partner GmbH + Hyder Consulting GmbH 建築家 :JSK Dipl.-Ing. Architekten 環境専門家 :Plan T Planungsgruppe Landschaft & Umwelt 施工者 :tba コンペ形式 :参加制限コンペ(事前資格審査後のショートリスト) 竣工年 :2015

橋梁名 :イ・スンシン大橋(Yi Sun-sin Bridge) 所在地 :全羅南道(韓国) 形式 :道路橋、吊橋 発注者 :全羅南道 エンジニア :Yooshin Corporation 施工者 :Daelim Industrial Co., Ltd コンペ形式 :オープンコンペ(基本設計にもとづくターンキー方式)によるデザインビルドの施工者選定 竣工年 :2012

橋梁名 :グラシス橋(Gracis Bridge) 所在地 :インゴルシュタット(ドイツ) 形式 :道路橋、ケーブルサポート・コンクリート桁 発注者 :Stadt Ingolstadt エンジニア :Schlaich Bergermann & Partner 建築家 :Schlaich Bergermann & Partner + Ackermann & Partner + Peter Kluska 施工者 :ERA Bau AG + Preussag-Spezialtiefbau GmbH + Pfeifer Seil & Hebetechnik GmbH コンペ形式 :指名コンペ 竣工年 :1998

【9】 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 橋梁名 :タミナ・キャニオン橋(Tamina Canyon Bridge) 所在地 :ザンクト・ガレン(スイス) 形式 :道路橋、アーチ橋 発注者 :Conton St. Gallen エンジニア :Leonhardt Andrä & Partner GmbH

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施工者 :tba コンペ形式 :オープンコンペ 竣工年 :2016(予定)

橋梁名 :ストーンカッターズ橋(Stonecutters Bridge) 表紙データ参照

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IABSE について: 国際構造工学会(IABSE:International Association for Bridge and Structural Engineering)は非営利の学術団体として 1929 年に設立された。現在は、90 ヶ国以上から 3,900 人を超える会員を抱える。IABSE のミッションは、構造工学に関する全世界的な学術交流と実務の促進である。IABSEは国際会議の開催、および、学術誌“Structural Engineering International”を年 4回出版するとともに、会議報告書や SED シリーズなど特定テーマの研究論文の出版も行っている。さらに、構造工学分野での顕著な業績に対して毎年表彰を行っている。

翻訳者:久保田善明 京都大学准教授(工学研究科社会基盤工学専攻、および、経営管理大学院経営研究センター)、 博士(工学)、技術士(総合技術監理部門)、技術士(建設部門:鋼構造およびコンクリート)、一級土木施工管理技士、 IABSE会員。

※ 本ガイドラインのオリジナル版(英文)は、IABSE 本部より入手することが可能です。詳しくは、IABSE 本部のウェブサイトをご確認いただくか、本部に直接お問い合わせください。(IABSE公式ウェブサイト http://www.iabse.org/)

橋梁デザインコンペティション実施ガイドライン

発行 2015年 4月 9日 著者 IABSE WG3 訳者 久保田 善明 発行者 京都大学景観設計学研究室

〒615-8540 京都市西京区京都大学桂 C1-1-201 京都大学大学院工学研究科 社会基盤工学専攻 電話(075)383-3326

©久保田善明 2015 ISBN978-4-9908317-0-7

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IABSE Guidelines for Design Competition for Bridges

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