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89 オールド・ニューケインジアンによる 有 効 需 要 の 原 理 の ミ ク ロ 的 基 礎: 独占的競争経済における 「貨幣所得外部性」 による価格伸縮の一般的乗数の導出 モデル ・実装編 一 MonopolisticCompetitiveMacro-Economy intheSpiritofKeynes:' MarshallianMicrofoundation,MoneyIncomeExternalityand GeneralizedMultiplierwithPriceFlexibility HidetakaOhara 1は じめに 2先 行研究 3完 全競争において貨幣所得外部性を体現 し た 佐 藤(1955)の 乗数分析 4ニ ューケインジアンのマイクロファウンデーション 4.lBlanchard・Klyotakiモ デル 4.cBlanchard-Kiyotakiモ デルの 「ケ イ ンズ」 化 案 5本 稿のモデル 5.1モ デル 5.2一 般化乗数の性質 5.3CooperandJohn(1988)の 「乗数効果」とケインズ的乗数の違いの考察 5.4本 稿 の モ デル の問 題 点 と解 決 の試 み 6む すびにかえて一今後の課題一 1は じめ 本 稿 は 前 編 小 原(2005)の 序説 ・理 念 編 の次 の課 題 の 論 文 と して,元 々,価 格伸 縮 の ミク ロ的 基 礎 を 持 っ て い た ケ イ ン ズ の 有 効 需 要 の 原 理 を,原 典 に則 っ た形 で,定 式 化 す る(モ デ ル 実 装) こ と が 目 的 で あ る 。 本 稿 を 読 む に 当 た っ て,前 編 小 原(2005)の 長 文 を 全 部 読 め と は 言 え な い が, 読 者 の 方 は,少 な く と も,前 編 小 原(2005,p.222)の 図1の 有効需要のミクロ的基礎のメカニ

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Page 1: HidetakaOhara - 明治大学 · は扱いが困難であり,い わゆるルーカス批判を克服した,具 体的なミクロ的構造パラメーターに よる有効需要均衡の具体的定式化は困難である。より具体的には,前

89

オール ド・ニ ューケイ ンジア ンによ る

有効需要 の原理 の ミクロ的基礎:

独 占的競争経済 におけ る 「貨幣所得外部性」

によ る価格伸縮 の一般 的乗数 の導 出

一 モデル ・実装編 一

MonopolisticCompetitiveMacro-Economy

intheSpiritofKeynes:'

MarshallianMicrofoundation,MoneyIncomeExternalityand

GeneralizedMultiplierwithPriceFlexibility

小 原 英 隆HidetakaOhara

目 次

1は じめ に

2先 行 研 究

3完 全 競 争 に お い て 貨 幣 所 得 外 部 性 を 体 現 した佐 藤(1955)の 乗 数 分析

4ニ ュ ー ケ イ ン ジア ンの マ イ ク ロ フ ァ ウ ンデ ー シ ョ ン

4.lBlanchard・Klyotakiモ デ ル

4.cBlanchard-Kiyotakiモ デ ル の 「ケ イ ンズ」 化 案

5本 稿 の モ デ ル

5.1モ デ ル

5.2一 般 化 乗 数 の 性 質

5.3CooperandJohn(1988)の 「乗 数 効 果 」 と ケ イ ンズ 的乗 数 の 違 い の 考 察

5.4本 稿 の モ デル の問 題 点 と解 決 の試 み

6む す び にか え て一 今 後 の課 題一

1は じ め に

本 稿 は 前 編 小 原(2005)の 序 説 ・理 念 編 の次 の課 題 の 論 文 と して,元 々,価 格伸 縮 の ミク ロ的

基 礎 を 持 って い た ケ イ ンズ の有 効 需 要 の原 理 を,原 典 に則 っ た形 で,定 式 化 す る(モ デ ル 実 装)

こ と が 目的 で あ る。 本 稿 を 読 む に当 た って,前 編 小 原(2005)の 長 文 を 全 部 読 め とは 言 え な いが,

読 者 の 方 は,少 な く と も,前 編 小 原(2005,p.222)の 図1の 有 効 需 要 の ミク ロ的 基 礎 の メ カニ

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90『 明大商学論叢』 第88巻 第1号(90)

ズ ム だ け は 理 解 して お い て い た だ き た い。

前 編 小 原(2005)で 詳 述 した よ う に,Clower(1989),佐 藤 和 夫(1955)な どの ケ イ ンズ解 釈

の 通 り,ケ イ ンズ の 有 効 需 要 の 原 理 は,マ ー シ ャ リア ン完 全 競 争 の ミク ロ的 基 礎 づ け を元 々持 っ

て い た の で あ り,価 格 の 硬 直 性 は 仮 定 さ れ て いず,価 格 は 全 く伸 縮 的 で あ る。Clowerと 佐 藤 和

夫 は,グ ラ フ スキ ー ム に よ って,小 原(2005)で 述 べ た 「貨幣 所 得 外部 性 」 に よ り,有 効 需 要 の

ミク ロ 的基 礎 は,マ ー シ ャ リア ンの需 給 均 衡 に,所 得 を通 じた 外部 性 を 総 需 要 価 格 に統 合 して,

マ ク ロ理 論 に 発 展 させ た もの と して整 合 的 に理 解 で き る とい う こ とを 示 した 。 有 効 需 要 の 原 理 と

は,ア ドホ ック な固 定 価 格 下 の 数 量 調 整 に お ける 需 要 制 約 や,45度 線 分 析 の よ う に,需 要 に供

給 が つ い て くる とい う こ とで は な く,利 潤最 大化 と効 用 最 大 化 とい う最 適 化 原 理,主 体 均 衡 の ミ

ク ロ的 基 礎 を 統 合 した 需 給 均 衡 概 念 で あ る。 前 編 の貨 幣所 得外 部 性 に よ る有 効 需 要 の ミク ロ的 基

礎 の解 釈 は,テ キ ス トに あ か ら さ ま な直 接 の 証拠 が な い の が 弱 点 だ が,前 編 小 原(2005)4.5節

で も述 べ た よ う に,『 一 般 理 論 』 を め ぐる数 々 のパ ズル が 全 て 解 け る とい う強 み が あ る。 例 え ば,

ケ ンブ リ・ッジ大 学 に い て,費 用 論 争 や ス ラ ッ フ ァの不 完 全 競 争 論 を 知 って い た ケ イ ンズが なぜ,

『一 般 理 論 』 に お い て 完 全 競 争 を採 用 した のか のパ ズ ル は,ケ イ ンズ は,意 図的 ・戦 略 的 に,新

古 典 派 貨 幣 理 論 の コ アで あ る,中 立 貨 幣命 題 を崩 す た め に,敢 え て 相 手 の ホ ー ム グ ラ ウ ン ドに飛

び込 ん で,価 格 が 完 全 に伸 縮 的 な完 全 競 争 で 期待 錯 誤 が な くて さえ も,と い う設 定 を置 い た と解

釈 す る と,整 合 的 にパ ズル が 解 け る とい う こ とを小 原(2005)第2節,第4.2,4.5節 で 示 した 。

そ の意 味 で,Hart(1982)に 始 ま りBlanchardandKiyotaki(1987)な どの 固 定 価 格 を仮 定

しな い ニ ュー ケ イ ン ジ ア ンの,い わ ゆ る マ イ クロ フ ァ ウ ンデ ー シ ョ ンは,新 しい不 完 全 競 争 モ デ

ル を導 入 して い る と こ ろが ケ イ ンズ の原 典 と は異 な るが,ケ イ ンズ 自身 の有 効 需 要 の定 式 化 に近

い と い え る。 問題 は,小 原(2005,第3節)に 述 べ た よ う に,ケ イ ンズ の原 典 と異 な った総 需 要

の 定 義 」意 味 論 と定 式 化 に あ り,新 古 典 派 的 性 質 が 出 て しま った 面 が あ る こ と で あ る。 他 方,

Clower(1989),佐 藤 和 夫(1955)の 完 全 競 争 の下 で は,前 編 の よ うに グ ラ フ に よ る概 念 説 明 は

う ま くい って も,宗 全 競 争 で は各 産 業 に無 限 数 の原 子 的企 業 が 存 在 す る こ と か ら,テ クニ カ ル に

は扱 い が 困 難 で あ り,い わ ゆ る ル ー カ ス 批 判 を克 服 した,具 体 的 な ミク ロ的 構 造 パ ラ メ ー タ ー に

よ る有 効 需 要 均 衡 の 具 体 的 定 式 化 は 困難 で あ る。 よ り具 体 的 に は,前 編 小 原(2005)の 課 題 で述

べ た よ う に,Clower(1989)一 佐 藤(1955)は,不 十 分 な点 と して,マ ク ロ メ カ ニ ズ ム の鍵 で あ

る個 別 需 要 曲 線 の シ フ ト幅 の定 量 面 に つ い て は,全 く触 れ て い な いか,全 くア ドホ ッ クに与 え て

い る。 した が って,有 効 需 要 均 衡 の 数量 的 表 現 も与 え られ て い な い。 そ の点,テ クニ カ ル に は,

BlanchardandKiyotaki(1987)の チ ェ ンバ リン流 の独 占的 競 争 モ デ ル は,し っか りと した ミ

ク ロ的 基 礎 づ け を持 ち,ケ イ ンズ に 忠 実 な 有 効需 要 均 衡 の 定 式 化 も潜 在 的 に は十 分 可 能 で あ る と

筆 者 は 考 え た の で あ る。

そ こで,本 稿 で は,よ く言 え ば,「 温 故 知 新 」 と い う こ とで,ケ イ ンズ の 有 効 需 要 の原 理 の 精

神 に則 りな が ら,敢 え て ニ ュー ケ イ ンジ ア ンのテ クニ カル に優 れ た モ デ ル と 「つ ぎ木」 す る こ と

を考 え た い。 つ ま り,前 編 小 原(2005)の よ うに,ケ イ ンズ 自身 の理 論 に戻 った上 で,ニ ュー ケ

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(91)オ ー ル ド ・ニ ュ ー ケ イ ンジ ア ンに よ る有 効 需 要 の原 理 の ミク ロ的 基 礎91

イ ンジ ア ン と の 接 合 を は か っ て み た い。 この 試 み は,地 味 で 渋 い が,作 物 の 品種 改 良 に,原 種

(ケ イ ンズ 『一 般 理 論 』)と の掛 け合 わ せ を利 用 しよ うとい うこ とで あ る。 具 体 的 に は,Blanchard

andKiyotaki(1987),岩 井(1987)の 独 占的 競 争 の 枠 組 み で,貨 幣所 得 外 部 性 な どのClower

(1989)一 佐 藤 和 夫(1955)メ カ ニ ズ ム を取 り入 れ て,真 に ケ イ ンズ に忠 実 な有 効 需 要 均 衡 の ミク

ロ的 基 礎 の 定 式 化 を実 現 した い。 例 え ば,テ クニ カ ル に 優 れ,多 数 財 の ミク ロ的 基 礎 が あ りな が

ら消 費 総 額 と貨 幣貯 蓄 の 選 択 で は,ケ イ ンズ 型 消 費 関 数 を体 現 で き る コ ブ=ダ グ ラ スーCES効 用

関 数 を 用 い て,需 要 関 数 を定 式 化 す る(第42節,第5節)。 そ こ に,前 編 小 原(2005)第4節

のClower一 佐 藤 の メ カ ニ ズ ム の 個 別 需 要 カ ー ブ の シ フ トを体 現 す る の で あ る。 独 占 的競 争 の一

般 的 な フ レー ム ワー ク に,ケ イ ンズ 的 な 有効 需 要,そ の ミク ロ的 基 礎 と して の 「貨 幣 所得 外 部 性 」

を導 入 す る とい う こ とで あ る。

ま ず,本 稿 の 題 名 の ケ イ ン ジア ンの前 に付 い た 「オ ー ル ド」 で あ る が,こ れ は,小 原(2005)

に示 され た ケ イ ンズ の原 典 に忠 実 な,と い う こ と に加 え て,Tobin(1993)の 副 題 に宣 言 され た

「オ ー ル ド ・ケ イ ン ジア ン ビュ ー」 を意 味 し,ト ー ビ ンの ニ ュ ー ケ イ ンジ ア ンへ の 懐 疑 的態 度 を

継 承 して い る とい う意 味 もあ る。 トー ビ ンは,ケ イ ン ジア ンの マ ク ロ経 済 学 は,名 目賃 金 や 財価

格 の硬 直 性 を主 張 も して い な い し,必 要 と も して い な い(pp.46,48),「 中心 的 な ケ イ ンズ の命

題 は,名 目価 格 硬 直 性 で は な く,有 効 需 要 の原 理(Keynesl936,『 一 般 理 論 』 第3章)で あ る」

(p.46)と 主 張 して い る。 これ らに は,賛 同す るq>。.

(1)た だ し,ト ー ビ ンは,ケ イ ンズ 『一 般 理 論 』 に文 字 ど お り忠 実 に な る こ と は意 図 しな い と明 言 して い

る(p.46)。 他 方,前 編 小 原(2005)か ら筆 者 は,ケ イ ン ズ に忠 実 な マ ク ロ経 済 学 の意 味 論 を 主 張 して

い る の で あ る か ら,実 は,根 本 的 に見 解 が 異 な る のか も しれ な い。 トー ビ ン は,オ ール ド ・ケ イ ンズ理

論 の本 質 を,需 要 制 約,乗 数 を数 量 調 整 とみ な して い る点 で(pp.46,50),前 編 小 原(2005)の ケ イ ン

ズ解 釈 に反 す る。

ま た,ト ー ビ ンが,ケ イ ンズ理 論 は,労 働 者 の 「貨 幣 錯 覚 」 に依 存 して い な い(pp.48,56)と い う

点 で,賛 同 す る が,価 格 の 調 整 機 能 の 不 完 全 性 に ケ イ ンズ の本 質 が あ り,不 完 全 競 争 や 独 占的 競 争 の必

要 性 を説 く所 に は,賛 同 しが た い。 ケ イ ン ズの 有 効 需 要 の理 論 は,完 全競 争 で も,不 完 全 競 争 で も成 立

す る。 む しろ,ケ イ ンズ は,戦 略 的 仮 定 で 敢 え て,新 古 典 派 の コア な い しホ ー ム グ ラ ウ ン ドで あ る,価

格 伸 縮 の完 全競 争 で も,完 全 雇 用 に な.らな い こ と を示 した の で あ る。Tobin(1993,pp.56-57)に は,

ケ イ ンズ 『一 般 理 論 』 の財 市 場 は,マ ー シ ャ リア ン部 分 均 衡 の マ ク ロへ の適 用 で あ り(p.5F),"Seek-

ingtowinthegameonhisopponents'homefield,Keynespretendedtobeassumingpurecompe-

titioninallmarkets."と い う一 文 が あ り,筆 者 の見 解 に 近 い よ う に も見 え るが,前 者(p.58)で は,"mindless"(思 慮 に欠 け た)と い う形 容詞 が

,マ ー シ ャ リア ンの 「適 用」 に 付 い て い て,マ ー シ ャ リア

ンの 応 用 で あ る こ とを 否 定 的 に み な して い る点,後 者 で は,pretend=見 せ か け る,と い う言 葉 を使 っ

て い る こ と と を合 わせ る と,マ ー シ ャ リア ンの部 分 均 衡 プ ラ ズ貨 幣 所 得 外 部 性(マ ク ロ的 な相 互 依 存 関

係)と い う小 原(2005)の 有 効 需要 の 原理 の 解釈 の,後 者 の 部 分 に トー ビ ンは気 付 い て い ない で,ケ イ

ン ズ は,部 分 均 衡 論 に と どま って い るか の よ うな 解 釈 を して お り,か つ,前 後 の 文 脈 か ら全 体 的 に判 断

して,ト ー ビ ンの見 解 は,筆 者 の ケ イ ンズ 解 釈 と は根 本 的 に異 な っ て い る よ うで あ る。

ま た,Tobin(1993,p.52)は,ケ イ ン ズ の長 期 失 業 理 論 は,1930年 代 の 時代 特 殊 な 状 況 に 当 て はま

る理 論 に過 ぎず,戦 後 の 需要 過 剰,供 給不 足 の イ ン フ レ と,需 要 不 足 の不 況 の レ ジー ム が スイ ッチ ン グ

す る,両 サ イ ドで ワ ル ラ ジア ン市場 均 衡 を 逸 脱 す る状 況 にあ て は あ る に は,理 論 の 改善 が 必 要 で あ る と

の 趣 旨が 書 か れ て い る が,確 信 は な い が,借 越 な が ら反 論 した い。 トー ビ ンは,価 格 の 完 全 硬 直 性 が ケ

イ ンズ 理 論 で は な い と は して い る が,あ る程 度 の 市 場 の 不 完 全 性,価 格 の硬 直 性 を ケ イ ン ズ的 と して い

るの で,こ の よ う な見 解 が 出 て き て しま った の で あ ろ うが,私 見 で は,小 原(2005)の よ うに,ケ イ ン

ズ の 有 効 需 要 の 原 理 は,不 均 衡 の需 要 制約,数 量 調 整 で はな く,完 全 な価 格 伸 縮 下 で の,経 済 学 の原 点

で あ る需 要 曲 線 と供 給 曲線 の シ ンメ トリー に よ る 需 給 均 衡 で あ るか ら,別 に,戦 後 の 需 要 過 剰,供 給不

足 の イ ン フ レの レジ ー ム に対 して も,適 用 可 能 な 一 般 的 モ デ ル ρ はず で あ る。 前 編 と本 稿 で 明 ら かに さ

れ た ケ イ ン ズの 総 需 要 価 格 ス ケ ジュ ー ル と総 供給 価 格 ス ケ ジ ュ ール の交 点 に よ る マ ク ロ理 論 を,イ ン フ

レー シ ョン,デ フ レー シ ョ ンの分 析 に 応用 す る こ とを 今 後 の 課 題 と した い。 本 稿 の 終 節 末 尾 参 照 。

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92『 明大商学論叢』 第88巻 第1号(92)

Tobin(1993,p.47)は,ケ イ ンズ の景 気 循環 理 論 で は,設 備 投 資 を は じめ と した 「実 質 」 総

需 要 の 変 動 が そ の 本質 で あ り,「 ケ イ ンズ は,彼 の 循 環 モ デル が,「 生 産 の 変 動 は主 と して 名 目総

需 要 の 変 化 に よ って 引 き起 こ され る(Ball,RomerandMankiw1988,p.2)」 モ デル の一 つ で あ

る と描 写 され て い るの を 見 た な らば,唖 然 とす る こ とで で あ ろ う(Tobin1993,p.47)」 と述 べ て

い る の に は,筆 者 も大 賛 同 せ ず に は い られ な い。 飯 田(2002,p,126)も,二-一 ケ イ ンジ ア ン

で は,「 名 目需 要 の変 動 ば か りが 強 調 され 過 ぎて」 お り,「 実質 総需 要 の 変 動 が 主 に実 質 生 産 量 の

変 動 に帰 結 す る」 とい う伝 統 的 な ケ イ ンズ経 済学 の考 え方 に意 味 を 見 出 して お り,筆 者 も これ に

賛 同 す る所 で あ る。 吉 川(2000)も 指 摘 され て い る よ うに,ニ ュー ケ イ ン ジ ア ンの記 念 碑 的 な,

MankiwとRomer編 の2冊 組 の 論 文 集 の 序 文 にお いて,マ ネ タ リズ ム もニ ュー ケ イ ン ジア ン も,

マネー サプ ライの増加 が,実 質 経済 変 数 に影響 を与 え るか に関連 した研 究 を して お り,「大 部 分 のニ ュー

ケ イ ン ジ ア ン経 済 学 者 は,新 しい マネ タ リズム経 済 学 者 と呼 ぶ こ と もで き よ う」(Mankiwand

Romerl991,Vol.1,p.3)と い う一 句 は,ケ イ ン ジ ア ンの 自滅 行為 とい うか,本 当 に ナ ンセ ンス

と しか 言 い よ うが な い。 ケ イ ンズ的 な マ ク ロ経済 学 の発 展 と して意 味 論 と方 向性 が,全 く間;違っ

て い る と思 う。 た だ,ケ イ ンズ 自身 の原 典 が 名 目価 格 の硬 直 性 を理 論 の よ りど こ ろ とは して い な

い と い う点 で,筆 者 は,価 格 硬 直 性 に頼 るニ ュー ケ イ ン ジア ン に賛 同 しな い で,オ ー ル ド ・ケ イ

ン ジ ア ン と名 乗 るが,し か し,モ デ ル ビル デ ィ ング の テ クニ カ ル な 面 は,優 れ た ニ ュー ・ケ イ ン

ジ ア ンの手 法 を 継 承 して い るの で,題 名 に は ニ ュ ー ゲ イ ン ジア ン も入 れ て あ る の で あ る。

吉 川(2000)の 指 摘 一 ニ ュ ー ケ イ ン ジア ンや リ フ レ派 を 含 め た最 近 の マ ク ロ経 済 学 が,総 需 要

の 変 動 を,名 目貨 幣量 の 増 大 と混 同 して い るが,マ ク ロ経 済 学 は実 質 総 需 要 を こそ考 え るべ きで

あ る,と い う指 摘 に 筆 者 は賛 同 して い る。 上 記Tobin(1993)も 同 様 の こ とを 述 べ て い る。 筆

者 は,次 の根 拠 の よ う に,マ ネ ー サ プ ライ の 増加 と実 質 総 需 要 の 増 加 と は一 致 しな い こ とが 多 い

と考 え て い る。 そ もそ も,経 済 学 の コア は,需 要 曲線 と供 給 曲 線 で あ り,総 需 要 は,人 々の 自由

な 欲 求 を 反 映 した主 体 均 衡 の集 ま りで あ り,効 用 関数 か ら導 か れ 牟 需 要 曲線 に基 づ く実質 的 な 財

需 要 で考 え るべ きで あ り,社 会 主 義 計 画 経 済 の物 動 思 想 の よ う に,中 央 銀 行 が お金 を 増 刷 して,

人 為 的 に お金 を流 せ ば,そ れ に 比例 して,マ ク ロ的 に家計 が 物 を多 く買 う は ず だ とい うの は おか

しい の で は な い か。 具 体 的 に は,た とえ フ ロ ーの 貨 幣 数 量 式 が 成 立 した と して も,新 古 典 派 の

Robertson(1926)の 貨 幣 分 析 の よ うに,貨 幣供 給 量 を増 や して も,消 費者 側 で,保 蔵(Hoard-

ing)と して,遊 休 貨 幣 残 高 に 入 って しま って,財 の 購 入 に は つ な が らな い こ とが 理 論 的 に あ り

う る(2)。現 実 に も,日 本 の1995年 か らの デ フ レで は,こ れ が 起 こ って い た と筆 者 は見 て い る。

(2)リ フ レ派 は,だ か らこそ,日 銀が しっか りとコ ミッ トして,イ ンフ レ率 がプ ラス2%か3%に な るま

で,国 債買 いオペ を無制 限に行 い,マ ネーサ プライを増加 させて,民 間経済主体 の期待イ ンフ レ率 をプ

ラス にし,イ ンフ レに レジーム シフ トすれ ば,遊 休 貨幣残 高で は損をす るので,消 費にあぶ り出 されて

来 るという多段構 えの議論 を持 って,待 ち構 えてい るであ ろう。 しか し,そ うしたイ ンフ レ政策成功 シ'

ナ リオ には,種 々のイ ンフ レ下 の人為的低金利政策 の副作用や,企 業が実質低 金利 だか らと言 って,国

内投資 を大 幅増す るか ど うか(海 外へ需要 が漏出 しないか),家 計が人為 的低 金利下の イ ンフレに よる

現預 金の減価 に対 して素直 に国内消費支出 を増やすか(他 の代替物漏 出の可能 性はないか[『 一般理論』

訳pp.354-358に おけるケ イ ンズの ゲゼルの スタ ンプ貨 幣への批判参 照])に つ いて,あ ま りに楽観的

す ぎると,私 見で は考 えてい る。実質金利 さえ下がれば,国 内投資が増大す るはずだ とい う リフ レ派の

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(93)オ ール ド ・ニ ューケイ ンジア ンによる有 効需 要の原理 の ミクロ的基礎93

筆者は,経 済学の原点である,需 要と供給の原理に戻るべきだと思 う。上記,吉 川東大教授の言

われる通 り,中 央銀行 による名 目貨幣量の注入フローや貨幣ス トック量ではなく,「実質」総需

要の分析が不可欠であると考えるのである(貨 幣の問題については終節参照。)。「実質」総需要

の分析には,本 稿のモデルのような,消 費者主権の効用関数の ミクロ的基礎に基づいたマクロモ

デルが必要であると考える。

大前提 は,経 済理論 の基本 もわか って いない し,計 量 的実証 的研究 もや った ことがない し,企 業 の投資

決意 の実務 もわか っていない証拠 を露呈 しているのである。実質金 利の下落は,確 か に理論的 に定性的

には投 資は減 ることはな く,少 しは増え るであろう。 しか し,た い した効果はな いか も しれ ない。 とい

うのは,金 利 の低下 は,設 備投資決意の要 因の一 つにすぎないか らだ。例えば,教 科書 に も載 っている

ケイ ンズの投 資の限界効率表の よ うに,投 資 には資金供給側 の コス トだ けではな く,投 資 「需要」側の

将来 利潤率 な どが,そ して現実 の企業 では こちらの方が重 要なの であ る(UedaandYoshikawaの 投

資 の実 証研究 を参 照)。 私見 では,バ ブル崩壊後 の 日本 では,名 目金 利下落 の効果 以上 に,ケ イ ンズの

投 資の限界効率表が下方 シフ トしてきたので」設 備投 資が低 迷 して きた と判断 している。 また,投 資 の

計量実証 をやればす ぐわか ることだが,利 潤率 のよ うな需要 側の変数は ほとん ど常 に有意 だが,た いて

いは,利 子率は有意 に出ない。現実経済 では,ハ ロッ ド達のオ ックスフォー ド経済調査以来 の投 資の利

子 非弾 力性が存在す るのである。 また,実 務 を知 らない リフレ派は,そ れで も絶対,実 質金利 が下 がれ

ば,国 内投資 は増え るとい うのな らば,今 こそ大 学発 ベ ンチ ャーが国家国民か ら求 め られてい る時代 で

あ る,そ こで 「まず 院よ りは じめよ」 である,せ こい原稿料稼 ぎや ネ ッ トでの売名行為 を してい る暇が

あ った ら,リ フレ派 の学者 が先 頭 にた って,(金 利低下で絶対儲 か るはずの)新 規事業 の設備投 資をす

れば よい。救国 を したいな らば,偽 善 的な口先でな く,行 動で救国 の態度 を示す べきだ。

上記 の 「イ ンフ レの副作用」 について具体 的にあ げる と,リ フ レ派 も・10%以上 の高 インフ レは リフ

レ派 もよ くな いと認 めている。 しか し,日 銀の コ ミッ トメン トによって 「期待」 に働きかけ るべ きだな

どと,「期待」「期待」 と言 う割には,日 本の リフレ派 は,期 待の経済理論 モデルにおけ る意 味を不勉強

この上 ない。期待 のつまみ食い的 ご都合主義的利用が存在す ると思 う。 さ らに具 体的に重要なの は,後

述 注(11)の よ うな経 済 学 「ツー ル ボ ック ス」 観 に基 づ き,合 理 的期 待 に も とづ い たSargentand

Wallace(1981)の 有名な 「マ・ネタ リズムの不愉快な数理」 を応用 して,現 在の 日本 の財政状 況を現状

分析 と してプラスす ると,や は り;リ ラ レ派 も 「不愉快」 にな らざるを得 ないであ ろう。 とい うのは,

リフ レ派 は,タ ーゲ ッ ト以上 のイ ンフ レ率になれば,そ れ こそ,世 界各 国で成功 して きたインフ レ抑制

のためのイ ンフ レ ・ターゲ ッテ ィングを発動すれば,こ とは簡単,と 考 えてい るようだが,そ れは他の

先進国 の話 であ り,日 本 には財政 の特殊性が あるのである。SargentandWallace(1981)の 政府 ・中

央銀行 を合 わせた統 合政府の予算制約式 を使 ったモデルの,金 利上 げがかえ って インフ レを加速す る逆

説 的な累積過程 が もろに当ては まって しまうのだ。 したが って,日 本では,市 場参加者 の大半 が合理的

期待 を してい る場 合,イ ンフレ ・ター ゲ ッティ ングによ って も,・イ ンフレの抑制 はで きない。.よって,

リフ レ派 は,暗 黙 に国民 は適応的期待 を して いる,貨 幣錯覚 を してい る,と 仮定 して いることになる。

SargentandWallace(1981)に ついては次の機会 に詳 しく述べ たい。

リフ レ派 が理想 的ケース とする3%程 度 のゆるやかなイ ンフ レで も,副 作用 は存 在す るのではないか。

私 見では,イ ンフ レは複利効果で 国民 の財産 の実質価値 を下 げ るので,例 えば政府債務 を十分減少 させ

るよ うな3%の イ ンフレが約15年 間続 く(ltoh,単otoshigeandNaokiShimoi2000,こ れ も,例 え

ば井堀(2001)が 指摘 されて いるよ うに,リ フ レ派 のイ ンフレ課 税 による政府債務軽減 は,ノ ーベル経

済学賞受賞 のプ レスコ ッ トの提 出概念であ るtimeconsistencyか らも否 定 され,そ もそ も 「主流 の」

経 済学の認証 を受 けていないであ る。)と す ると,物 価 は約50%上 が り,預 金 の実質価値は,約2/3に

な って しま うのだ。 この ことを国民 に正直 に リス ク開示 してい る リフ レ派 を私 はいまだ知 らない。確 か

にデ フレは よ くな い,し か し,イ ンフ レもデメ リッ トがあ ることを国民一般 に知 らせて,主 権 在民に判

断を仰 ぐべ きではな いだ ろうか?つ まり,教 科書 に出て くるイ ンフ レの所得分配 の不公平,「 債務者

利得」で,そ の分,国 家 や企業 が債務 が軽 くな るだけであ る。その分,国 民 が貧 しくな る。 つま り,リ

フレ派 は,注 の(ll)で 述 べるよ うに,主 流学 会での専門家 との議論 を避 けて,い きな り一般 国民へのマ

スコ ミを通 じた りフ レ派 の啓蒙 を図 ってい るようだが,実 は,リ フ レ派 こそが,確 かに救国の士ではあ

るが,売 「民」奴,一 般大衆 の敵 なのであ る。加えて 日本で は少子高齢化 によ って,非 生産者 階級が実

質選挙権の過半 を占める時代 にな ってゆ くので ある。私学の雄 出身者 が多 い リフレ派なのに,民 を搾取

す る政策を触 れ回 るな ど,一 体 在野精神は どうな って しまったの か?懸 命 に巨大経済の舵取 りを して

いる財務他 の国家官僚 のほ うがよ ほど現実の経済全体 を理解 して,実 際の行動 で努力を してい るのでは

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94「 明大 商学 論叢』第88巻 第1号 .(94)

Robertson(1926)の 言 うAbortiveな 貯 蓄(AbortiveLacking)と い うの が マ ク ロ の現 実

で は あ り う る と思 う の で あ る(詳 し くは小 原1998,1997参 照)。 これ は,理 論 的 に は 不 均 衡 状 態

で あ り,ス ラ ックネ スが あ る状 態 で あ り,一 般均 衡 モ デ ル と して 閉 じて い な いCし か し,そ れ だ

か ら こそ,マ ク ロの 意 味 論 と して は,貯 蓄 が 必 ず しも投資 にな らな い=Abortiveと い う こ とで,

セ ー の法 則 を 打 破 で き る の で あ る。 前 編 小 原(2005 ,pp.218-220)で も書 い た よ うに,ニ ュー ケ

イ ンジ ア ン も新 しい 古 典 派 マ ク ロ も,一 般 均 衡 モ デ ル を 閉 じる とい う ア カデ ミ ック な形 式 美 の た

め に,マ ク ロ一 般 均 衡 で は,貨 幣 は ど こか に均 衡 状 態 で保 有 され て い るは ず だ,と い う本 末 転 倒

の 論 理 で,上 記,遊 休 貨 幣 残 高 は,ス ラ ッ クネ ス で はな く,producer-consumerの 自発 的 な意

思 決 定 の 主 体 均 衡 の 貯 蓄=投 資 と な り,全 て の 貯 蓄 は投 資 と して生 か さ れ る と い う,い わ ゆ る

「セ ー の 法則 」 が 暗 黙 に仮 定 さ れ て しま って い るの で あ る(具 体 的 に は,第2節 参 照)。

本 稿 の モ デル は,企 業=生 産者(生 産 量,雇 用 量 と投 資 の意 思 決 定 主 体)と,労 働 者(消 費 と

貯 蓄 の 意 思 決 定 主 体(3)).と を 区別 して お り,セ ー の 法 則 に は,は ま って い な い。 ま た,本 稿 は,

ないか。 リフ レ派 は,構 造改革 な どの 「しば き」は よ くない と主張 して いるが,3%の 長期 イ ンフレは,

大衆 か ら実質財産を知 らぬ 間に奪 う,大 衆への卑怯な 「しば き」 に他な らないのだ。 リフレ派は,不 良

債権 の早 期処理の ような 「しばき」 政策はよ くない とする一 方,イ ンフ レによる名 目金利上昇 によ る銀

行 の破綻 につ いては,そ ん なALM .も満足 に していない銀行 はつぶ れて しまえ,と,一 転 して 「しばき」派 にな る矛盾 を抱 えてい る。 また リフ レ派 は,大 衆 が財産を失 うのは預 金 に置 いてお くか らで,(イ ン

フ レに強 い?こ れ も疑 問。1970年 代 か ら82年 の米 国高イ ンフレ期 には株価 は ほとん ど上 が らなか っ

た。 国民 への リス ク開示が不可欠)株 や土地 な どの実物 資産 へ投 じないのが悪い と主張 している。 しか

し,私 見 では,国 民全体が気づ いて,合 理 的期待 をす るよ うにな り,損 をす る預金や郵便貯金 を下 ろす

行動 に出た らどうな るのか?国 債 への間接的な買 い支 えがな くな るであ ろう。他方で リフ レ派 は,イ

ンフ レによ り名 目金利 が上 昇す るフィ ッシャー効果 は,(定 義 の未統一 な)「 流動性の罠」や不完全雇用

の間 は発生 しない とい う理 論的 に も,実 証 的に も証明 されて いない,え せ経済理論や専門用語 で,大 衆

を 目 くらま しに してい る。 国民の ほか に,外 資系 を中心 と したプロの投資家は,む ざむ ざ リフ レ派 の猿

知 恵の鴨 とな り,イ ンフレ課税を甘受す るであろうか,彼 らは,金 融市場 において,不 完全雇用 とは関

係 な しに,金 融論 の基 本であ る 「期待仮説」 に基づ いて行動 し,金 利が上昇 す る可能性 もあ る。話 を戻

す と,日 本の リフ レ派 はいわば 「靴紐で空 を飛べ る理論」の机上の空論 なのであ る。右 足の靴紐を引 っ

張 って右足を上 げて,右 足 が地面 につか ないうちに,左 足の靴紐 を引っ張 って左 足を上 げ ると,両 足が

地 面か ら浮 いている!こ れを繰 り返せば,靴 紐で どん な高 くにも空 を飛 べるはず……。 リフ レ派は,マ

ネー増加で実質金利が下 がれば国内設備投資が増大 し,景 気が よ くなれば,株 価 も上が り,資 産効果で

さ らに景気が よ くな り,税 収 も増 え るし,よ いこと尽 くめの ように主張 しているが,し か し,も し途中

で,国 民が合理的で あ り,イ ンフレで価値が下が る預金 を解約 して しま うと,リ フレ派 め拠 り所た る低

金利 維持の前提で さえ も,自 ら崩 れて しまうのであ る。 リフ レ派が,イ ンフ レ ・ターゲ ッ トを散発的 に

批判 してい る論客を当 て馬 に批判 す ることで しか 自らの正当性を主張 できず,建 設 的に 日本経済を リフ

レで再生 させ ることを証明 するよ うな合理的期待 と整 合的な静学的or動 学 的一般均衡 モデルを作れな

いのは,上 記 のよ うな 「か らくり」,矛 盾,非 整合性,国 民へ の欺 隔が存在す るか らだ と,筆 者 は見 ている。 リフレ派は,人 の批判 をす る前に,自 分 らで整 合的な一般均衡 モデル を作 るべきであ る。 もちろん確 かに,リ フレ派の政策 が成功 す る可能性 もあ る。 しか し,そ れ は日本国民が愚 か,非 合理 的であ りつづ け,貨 幣錯覚 を してお り,イ ンフ レが長期続いて も,預 金 にお金 を置 いた ままに してお く時であ る。

日本 の リフレ派は,マ ネタ リズムの本流 や合理的期待 の 自由選択主 義が最 も批判 している所 の,国 民 の

貨幣錯覚 に依存 した,少 数 のエ リー トが固定パ ラメーターによ って国民を 自由に操 り,国 民経済 の コン

トロールを行 うとい う社会工学 的驕 りの思想 なのであ る。 リフ レについ ては,注5 .11,12も 参照。 き

りが ないので,リ フレのイ ッシューについては,別 の機 会に扱いたい。

(3)労 働供給量 の意 思決定につ いて は,前 編小 原(2005)に 引き続 き,ケ イ ンズ 『一般理論』 の趣 旨や,

Robertson(1926,1915)[小 原1997に は,Robertsonも 不完全雇用を指摘 していたことを示 してい る。]

を反 映 して,労 働者 が 自由 に決 あ られず(古 典派 の第二 公準 の否定),企 業の生産量決意 か らの派生需

要で受動 的に決まる ことを仮定 して いる(ケ イ ンズの古典派 の第一 公準の是 認)。

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(95)オ ール ド・ニ ューケ インジアンによる有効需要 の原理 の ミクロ的基礎95

新 しい マ ク ロ理 論 に対 す る吉 川 批 判 を克 服 して お り,ヘ リコ プ タ ー マ ネ ー で名 目貨 幣量 を 増 大 さ

せ る とい う架 空 実 験 で は な く,消 費 者 の効 用 関 数 に基 づ い た実 質 需 要 の変 動 が,乗 数 効 果 の 本質

とな って い る。

な お,本 稿 の モ デ ル は,い わ ゆ るIS-LMの うち,IS部 分 の み で あ り,IS-LMのLM部 分 が

な い が,こ れ は,次 の 二 つ の方 法 で正 当 化 で き る。 一 つ は,FRBやBundesbankの 金 融 政 策 の

実 務 行 動 に基 づ い たDavidRomer(2000)の 「LM曲 線 な しの ケ イ ン ジ ア ンマ ク ロ経 済 学 」 と

い うIS-LMに 代 替 す る フ レー ム ワー ク の 金 融 メ カ ニ ズ ム 部 分 と,本 稿 の 財 市 場IS部 分 は 接 合

可 能 で あ る と い うこ とで あ る。 ま た,決 して 本 稿 は,流 動 性 選 好 を 否 定 して い るわ けで は な く,

LMサ イ ドの 流 動 性 選 好 に よ る意 思 決定 で,金 利 が 決 ま り,投 資 が 決 ま り,ISサ イ ドの 諸 変 数

を 本 稿 の ミク ロ基 礎 モ デ ル で 決 め る こ と もで き る。 よ って,貨 幣 金 融 面 に関 して 本 稿 は問 題 が な

い と思 われ る。

結 論 的 に は,本 稿 の モ デ ル は,BlanchardandKiyotaki(1987)モ デ ル を ケ イ ンズ 自身 の有

効 需 要 原 理 に則 った形 に 変 え る と,完 全 競 争 だ け で な く独 占 的競 争 の 世 界 で も有 効 需 要 の 原 理 は

成 立 す る こ とが示 され る。 ケ イ ン ズの 有 効 需 要 の初 期 均 衡 を,効 用 関 数 や 生 産 関 数 に お け る ミク

ロ的 構 造 パ ラ メ ー タ ー に よ って,完 全 に定 式 化 す る こ とが で き た。 また,実 質 と名 目,収 穫 の程

度(収 穫 逓 増,一 定,逓 減),ラ ー ナ ー の 独 占度 の違 い を 明 示 的 に取 り入 れ た,従 来 よ り一 般 的

な ケ イ ンズ 的乗 数 を 得 る こ とが で きた 。

本 稿 の構 成 は以 下 の 通 りで あ る。 第2節 で は,多 数 の ニ ュー ケ イ ン ジア ンの研 究 文 献 の 中 か ら,

本 稿 の モ デ ル に近 い,独 占的 競 争 モ デル に よ る一 般 的乗 数 の 定 式 化 を試 み た 文 献 を選 ん で,批 判

的 に検 討 す る。 第3節 に おい て は,先 駆 的 な佐 藤 和 夫(1955)の 有 効 需 要 の ミク ロ的基 礎 づ け の

定 式 化 を説 明 し,そ の 画 期 性 と そ の未 到 達 点 を 明 らか に す る。 第4節 に お い て は,ニ ュー ケ イ ン

ジ ア ンの 傑 作 で あ り,本 稿 の モ デル の ヒ ン トと な る,BlanchardandKiyotaki(1987)の モ デ

ル の要 点 を説 明 し,反 面,そ の ケ イ ンズ の精 神 との相 違 を指 摘 す る。 第5節 で は,本 稿 の新 しい,

ケ イ ンズ の 有 効 需 要 の 精 神 に基 づ い た独 占 的競 争 ミク ロ的 基 礎 づ け モ デ ル を説 明 す る。 得 られ た

一 般 的 乗数 の 性 質 も検 討 す る。 ま た,収 穫 一 定 下 で,利 潤 か らの消 費 性 向が 正 の場 合 の一 般 的乗

数 に つ い て も導 出 した。 第6節 は,む す び に代 え て,今 後 の 課 題 につ い て述 べ た。

2先 行 研 究

ニ ュー ケイ ンジア ンの 多 数 の文 献 の 中 で も,本 稿 の 問 題 意 識 に比 較 的 近 く,ケ イ ンズの乗 数 との

関 連 を強 く意 識 して,独 占 的 競 争 下 にお け る一 般 的 乗 数 の 導 出 を 試 み た研 究 と して,Dixonや

Heijdraの 一 連 の研 究 があ る。 だい たい,先 行 研 究 は,皆,本 稿 と異 な り,新 古 典 派 の よ うに,一

般 均 衡 モ デル を 閉 じて,均 衡 財政 乗 数 だ け を見 て,効 果 があ るか ど うか を見 るの が通 例 であ るが,

その 大 半 に おい て,財 政 支 出 増 加 に よ って,独 占 的 企 業 の 準 レ ソ ト利 潤 部 分 が増 え,そ れ がpro-

ducer・consumerの 仮 定 では,株 主 で あ る消 費者 の所 得 とな り,消 費 が 増 え て,乗 数 過 程 が起 こる

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96『 明大商学論叢』第88巻 第1号(96)

というパターンである。 しかし,筆 者は,独 占利潤がケインズ効果を生むとは,下 記のように,所

得分配上現実的ではないし,ケ インズの趣 旨とも全 く異なる乗数効果と言わざるを得ない。

この点で,本 稿のモデルはその正反対である。予め,本 稿のモデルの問題点の開示でもあるが,

本稿の収穫可変を許す一般的モデルでは,賃 金所得のみか ら消費支出がなされ,他 方の利潤はす

べて貨幣の国民経済循環からの漏出leakageと して,ロ バー トソンの保蔵Hoarding,貨 幣の遊

休残高に加わることになっている。ただ し,.収穫一定のモデルでは,第5.4節 のように,利 潤か

らの消費性向が正で,労 働所得からの消費性向と異なる場合の一般的乗数 も導出してはいる。利

潤か らの消費性向ゼロは,一 般均衡を閉じるということを重視するニュー ・ケインジアン,新 古

典派マクロか らすると,非 常に問題視 されよう。これは しか し,逆 にケイ ンズの精神に忠実なモ

デル化 ということもできると思う。また,逆 に,労 働所得階級 と利潤所得階級をはっきり分け,

消費性向が全 く異なるという構造は,ポ ス ト・ケインジアンのマクロ分配論(カ レツキ,パ ジネッ

ティ)に も共通する構造 として前向きにも捉えられよう。ケインズは,新 古典派のような抽象的

な均一的経済エージェントではな く,現 実社会の階級を導入 し④,金 利生活階級(レ ン トナー階

級)の 「安楽死」 と,生 産者階級(企 業者階級と労働者階級)の 復活を強 く主張 していたのであ

る。 けだ し,確 かに,利 潤は,株 式会社の原理から言うと,株 主のものである。ニューケイ ンジ

アンや新古典派マクロでは,株 は,究 極的には家計 「部門」が持っているとされるから,利 潤も,

家計の所得に入 り,本 節上記の先行研究のように,労 働者の所得拡大ではなく,独 占的企業の超

過利潤の増大が,「家計」所得を増大させ,乗 数効果をもたらす鍵 とな ってしまっている。 しか

し,現 実の先進国経済では,家 計部門が株式を保有 してはいるが,内 実は,新 古典派モデルのよ

うに,ほ ぼ平等 ・均一に国民が株式を保有するような大衆株主資本主義となっているわけではな

く,少 数の富裕資産者階級が個人の株式保有のほとんどを占めており,彼 らの消費性向は極めて

低いと思われる㈲。本稿は,階 級差をマクロ経済モデルの重要なビルディング ・ブロックとして

(4)ケ イ ンズが,貨 幣マ クロ理論 のモデル化において,階 級 を導入 してい るの は,r貨 幣改革論』(1923),

『貨 幣論 』(1930)の 段階か らで あ り,小 原(1999)で は,従 来のケイ ンズ研究で見過 ごされ てきた階級

差 と所得分配 の変 動が 『貨 幣論 』 のWindfallProfit/Lossに よ る供給 メカニズ ムの コア と して存在 す

るこ とことを示 した。

(5)家 計 の金融 資産の4割 近 くを株で 占め るアメ リカは,日 本 のお手本 とされ るが,実 態は,下 流階級 や,

離婚家 庭だ と,貯 蓄率 はマイナスの こともあ り,中 産階級 で も,401K年 金 や投 資信託で間接的 に株 を

保有 してい るのが大半 であ り,株 式数 か ら保有者の 内訳 を見 れば,極 めて少数の大富豪一 ビッグ ビジネ

スの創業家 一族の子 孫や ウォー レン ・パフ ェッ ト氏 のよ うな人 々が,巨 大 な株式資産を保有 して いて,

家計全体 の株式保有 の平均 を上 げているのにすぎな い。彼 ら大富豪 には,一 生贅沢 して も使 い切れ ない

ほどの資産 と収益 があ り,消 費性 向は低 い と推測 され る。 端的な例 として,資 産運用 で世 界No.2の

富豪 にな った とされるパ フェッ ト氏だが,あ ま りに質素 な生 活を しているので,そ の息子 はパ フェ ッ ト

が大富豪であ ることを大人になるまで気づかなかったという逸話がある。 日本で も,株 で億万長者 とな っ

た 山本一 郎氏 も,「 もったいない」 とい う節約 した生活 で有 名であ る。投資顧 問の フ ァン ドマネ ジ ャー

で,2004年 度納税 額全国一位 で,推 定年 収100億 円 であ った清原氏 も広 めの ワ ンルー ムマ ンシ ョンに

暮 ら してい るらしい。少 し広げて,上 級 の投資家は,株 価上昇で儲 か って も,さ らに再投資す るのが常

であ る。私見 では,株 価上昇 の個人消費への資産効 果 は,疑 問で ある と思 う。

日本のイ ンフレター ゲッ ト政策論者 には,マ ネーを ジャブジャブに供給す ることによって,ポ ー トフォ

リオ ・バ ラ ンス効果 で,株 価が上 が り,消 費 に富効 果,資 産効果が働 くことを期 待 してい る岩田規久男

教授の一派 があるが,あ ま り期 待で きな いので はな いか?そ れ よ り,人 為 的な株 価上 昇政策は,フ ァン

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(97)オ ール ド ・ニ ュー ケイ ンジア ンによる有効需 要の原理の ミクロ的基礎97

導 入 す る と い うケ イ ンズ の精 神 に 則 り,や や 誇 張 だが,利 潤 か らの消 費 性 向 は ゼ ロ と して,労 働

者 階 級 の 所 得 メ カ ニ ズ ム を乗 数 過 程 の 中 心 に据 え て い る。 少 な くと も,利 潤 か らの 消 費 性 向 は,

一 般 労 働 者 階 級 よ りは小 さい こと は現 実 の 経 済 で は言 え る と思 う。 よ っ て,本 稿 の モ デ ル は,現

実 を 単 純 化 した第 一 次 接 近 モ デル と して,正 当 化 で き よ う。 ま た,利 潤 か らの正 の 消 費性 向 を取

り入 れ た モ デ ル分 析 も,第5.9節 に お い て,行 って い る。 と もあれ,本 稿 の モ デ ル は,独 占的企

業 の 準 レ ソ トの 増 大 に,乗 数 メ カ ニ ズ ム が 負 って しま って い る先 行 研 究 に比 べ て,現 実 性 とい う

面 で 優 れ て い る と思 う。

そ れ で は,具 体 的 に本 稿 に近 いニ ュ ー ケ イ ン ジア ンの マ イ ク ロ フ ァウ ンデ ー シ ョ ンモ デ ル を見

て お こ う。 まず,DixonandPhillip(1996)は,独 占 的競 争 で,参 入 自由 の長 期 均 衡(利 潤=0)

の ケ ー ス も検 討 して い る の が オ リジ ナ リテ ィで あ る。DixonandPhillip(1996)に よ る と,先

行 研 究 のMankiw(1988),Startz(1989)と も共 通 す るニ ュー ケ イ ン ジア ン の独 占的 競 争 モ デ

ル の性 質 は,乗 数効 果 は,短 期 独 占度 が 高 い ほ ど,大 き くな る とい う こ とで あ る。 政 府 支 出 の増

大 → 独 占 的利 潤 の増 大→ 消 費 の増 大 で あ る。 私 見 で は,上 述 の よ うに,こ れ は ケイ ンズ モ デ ル と

して は ナ ンセ ンス と思 う。

DixonandPhillip(1996)は,先 行 の 両 者 が 収 穫 一 定,コ ブ=ダ グ ラ ス効 用 関 数 を仮 定 して

い る の に対 し,効 用 関数 や,生 産 技 術 の 方 も,U字 型 の 平 均 費 用 曲 線 ま で 拡 張,一 般 化 してい

る。 しか し,古 典 派 の第 二 公 準 が肯 定 され,労 働 市 場 の 完 全 競 争 を仮 定 し,ケ イ ン ズ的 意 味 での

漏 出,leakageに 相 当 す るの は,余 暇 で あ る。 閉 じた 一 般 均 衡 を重 視 す るた め,財 政 支 出Gは,

T税 で 全 額 フ ァイ ナ ンス され た均 衡 財 政 乗 数 を 導 出 した結 果,'乗 数 は,0以 上1以 下 と出 た 。 ま

た,Dixonの 一 般 化 さ れ た モ デ ル で は,短 期 独 占度 が高 い ほ ど,乗 数 効 果 が 大 き くな る とは 限 ら

な い と 出た 。 そ の直 感 的 説 明 は,ト レー ドオ フが 生 じるか らで,労 働 の限 界 生 産 が上 が る と,実

質 賃 金 が下 が り,マ ク ロの 消 費 に下 落 効 果 が 働 くか らで あ る。DixonandPhillip(1996)は,

独 占度 と乗 数 の 関 係 が 転 換 す る所 の境 界 条 件 を 定式 化 した。

日付 が 戻 る が,DixonandRankin(1994)の,ニ ュ ー ケ イ ン ジア ンの 不 完 全 競 争 モ デ ル の

論 文 の サ ー ベ イ論 文 で は,独 占度 が 高 い ほ ど,教 科 書 の 均 衡 予 算 乗 数 で あ る1に 近 づ くと い う

(p.190bottom)。 そ の 直 感 的説 明 は,独 占 度 が 上 が る と,実 質 賃 金 が 下 落 し,労 働 供 給 へ の所

得 効 果 が 生 ず るか らで あ る。 しか し,こ れ は,ケ イ ンズ の古 典 派 の 第 二 公 準 を 肯 定 した労 働 供給

側 の最 適 化 メ カ ニ ズ ム に依 存 して お り,本 稿 後 述 の一 般 的乗 数 の 性 質 と全 く逆 で あ る。 本 稿 の モ

ダメ ンタルズ(企 業の将来収益 稼得能力の向上)に 基づ かない株 価 ミニバブル とな り,後 が,怖 いので

ある。 つ ま り,中 長期 的にはバ ブル反動 の崩壊 によ る負の スパイ ラルが待 ってい る。1989年 か らの株

価 バブル崩 壊,1991年 か らの地価 バブル崩壊 は,日 本経済 が絶好調で,世 界最強 の体力 があ った から,

なん とか持 ち こたえる ことがで きたが,今 の 日本経済 では,ミ ニバブルの崩壊 で きえ耐え る力が あるの

か ど うか疑 問であ る。岩 田先生 や聞 く所 によると浜 田先生 な どイ ンフ レ派は,マ ネーサ プライ大増大を

「や ってみな けれ ばわか らない」 と主張 されてい るようだが,経 済学者 として恥ずべ き無責 任な政策提

言 と言 わざるをえない。 亀井派勝手 連筋の,大 幅財政支 出で も,斎 藤誠教授 の名 目金利上げ政策 であ っ

て も,「や って みな ければわか らな い」 には,変 わ りがないのだ。現代 医学 が末期ガ ンを治 せな いよう

に,経 済学者 も,良 心 か ら,わ か らない もの はわか らない,治 せない ものは治 せない と告 白した方が正

直な ので はないか。注2,ll,12も 参 照。

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98『 明大商学論叢』 第88巻 第1号(98)

デ ル で は,第5.2節 の よ う に,独 占度 が 下 が り,競 争 が激 し くな る ほ ど,乗 数 が大 き くな り,教

科 書 の 減 税 の 乗 数 に 近 づ くとい う結 果 が 出 て い る。 筆 者 は,本 稿 の 乗 数 の 方 が現 実 的 で あ る と思

う。DixonandRankin(1994,p」93)に よ る と,ミ ク ロ ベ ー ス がDixit-Stiglitz型 のCES型

関 数 の モ デ ル で あ る と,長 期 独 占的 競 争 で企 業 の 参 入 が入 って も,独 占競争 度 が 下 が らな い と い

う(SeeHart1985)。

他 方,DixonandRankin(1994)の サ ーベ イ に も,と りあ げ られ て い る よ うに,ニ ュー ケ イ

ン ジ ア ンの 失 業 理 論 の もう一 つ の流 れ と して は,Weitzman(1982)を は じめ と した 収穫i逓増 型

モ デ ル が あ る。Pagano(1990)は,Weitzmanモ デ ル を世 代 重 複 モ デ ルOLGに 拡 張 し,減 税

は 金 利 上 昇 を もた ら し,産 出 高 の 下 落 を招 く との 結 果 を 出 して い るの は,現 状 の 日本 経 済 の 政 策

上,興 味 深 い。 その 他,DixonandRankin(1994)で は,ミ ク ロの 価 格 硬 直 性 か らマ ク ロの 硬

直 性 を 理 論 的 に導 出 して い る。AndersenandHviid(1990)は,メ ニ ュー コ ス トと は異 な る,

不 確 実 性 と情 報 の非 対 称 性 に 基 づ く名 目硬 直 性 を 提 示 して い る。

他 方,Heijdra(1998)で は,独 占的 競 争 の動 学 的一 般 均 衡 モ デル の構 築 を 行 って い る。 新 古

典 派 マ ク ロ のRealBusinessCycleモ デ ル も1特 殊 ケ ー ス と して 含 む よ うな,動 学 的 マ ク ロ一

般 均 衡 モ デ ル の ベ ンチ マ ー クモ デル と して,Short・run,Transition,Long-runの 全 て を扱 え る

よ うな 一 般 的 な モ デ ル で あ る。 す ば ら しい。 しか し,筆 者 が 意 味 論 的 に 問題 だ と思 うの は,貯 蓄

は漏 出 で な く,全 て 株 式 購 入 に 回 る こ とが 仮 定 さ れ て い る こ と で あ る(p.661)。 これ で は セ ー

の 法 則 に もろ に は ま り,ケ イ ンズ 的 と は言 え な い。 これ は,現 在 の動 学 一 般 均 衡 モ デル(DGE)

の 走 りで あ ったRealBusinessCycleモ デ ル の原 型 で あ・る ラ ム ゼ イ型 の 最 適 成 長 モ デ ル が そ う

で あ った こ とか ら来 て い る の で あ ろ う。 吉 川 教 授 が 再 三 指 摘 して い る よ うに,高 度 成 長 期 の経 済

成 長 論 全 盛 の 頃 も,ラ ム ゼ イ型 の 動 学 的最 適 化 成 長 理 論 は存 在 して い た が,そ れ はCommand

Optimumで,あ くま で 社会 主 義 経 済 の場 合 の思 考 実験 的 な 「最 適 成 長 論 」 と して,マ ク ロの新

古 典 派 的成 長 論 な ど と は別 個 の分 野 と して 存 在 して い た が,そ の 場 合 は確 か に,計 画 経 済 だか ら,

貯 蓄=資 本 蓄 積 で構 わ な い 。 しか し,RealBusinessCycleモ デ ル の熱 狂 的 流 行 か ら,厚 生 経 済

学 の第 一 定 理 の 利 用 に よ り,完 全 競 争 均 衡 は,CommandOptimumと 一 致 す る か ら,現 実 の成

長 論 も,ラ ムゼ イ型 にす る の が流 行 して きた 。 そ の 時 点 か ら,マ ク ロ経 済 学 の意 味 論 が無 視 され

て,な し崩 し的 に,セ ー の法 則 に依 存 した マ ク ロモ デ ル ば か りが 登 場 す る こ と に な った。

Heijdra(1998)も,上 記Dixonな ど と 同 じ く.,古 典 派 の 第 二 公 準 を認 め,RealBusiness

Cycleモ デ ル の,異 時 点 間め 労 働 一余 暇 の 最 適 選 択 を ベ ー ス と して い る。 論 文 題 名 に もあ る通 り,

異 時 点 間 の 労 働 の代 替 が 鍵 と な って しま って い る。 こ う したRealBusinessCycleモ デ ル の ベ ー

ス に,Heijdraは,ニ ュ ー ・ケ イ ン ジア ンの 独 占的 競争 のdistortionを 統 合 した わ け で あ る。 か

つ,上 記Weitzman(1982)の 収 穫 逓 増 も統 合 して,RealBusinessCycleモ デ ル に お け る実 証

的 パ ズ ル の 解 決 を 図 って い る。Heijdraの 壮 大 な モ デ ル は,本 稿 の課 題 で あ る投 資 財 産 業 も完 全

競 争,収 穫S一定 で導 入 して いて,生 産 関 数 に 労働 だ け で な く資 本Kも 入 って い る(p.66:)。 つ

ま り,従 前 の ニ ュー ・ケ イ ンジ ア ンの静 学 モ デ ル に 対 して,貯 蓄 と資 本 蓄 積 が 入 って い る動 学 的

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(99)オ ール ド・ニ ューケ イ ンジア ンによる有効需要 の原理 の ミクロ的基礎99

成 長 モ デ ル で あ るの が 特 徴 で あ る。 政 府部 門 も テ クニ カル に精 緻 に定 式 化 され て お り,公 共 財 の

CES生 産 関数 を 持 つ。 政 府 支 出 は公 共 財 の 生 産 を して い る とみ な す 。 な お,こ こで は,消 費 財,

投 資 財,公 共 財 の 三 つ の 財 の需 要 弾 力 性 が 同 じと仮 定 され て い るが,こ の需 要 の弾 力 性 の違 い の

影 響 を 分 析 した の が,Gali(1994)で あ る。 これ につ い て は後 述 す る。

Heijdra(1998,p.665)で は,即 時,参 入 自由 の ケ ー ス を 扱 い,ゼ ロ超 過 利 潤 とな り,1企 業

あ た りの 生 産 量 は同 じで,財 の多 様 さが マ ク ロの 生 産量 を 決 め る こ と に な る。 解 釈 す るに,こ れ

は,カ ー ン,マ ー シ ャル の 「短 期 」 の想 定 で,既 存 企 業 の生 産量:の増 減 が マ ク ロ変 動 とな る,ケ

イ ンズ 自身 の モ デ ル や,本 稿 の モ デ ル とは 全 く異 な る モ デ ル で あ る。Heijdra(1996,P.1285)

で は,静 学 モ デ ル で,こ の影 響 を詳 し く分 析 して お り,総 需 要 が 増 大 す る と,財 の多 様 性 が 増大

→ 参 入 → 一 般 物 価 水 準 下 落 → さ ら に総 需 要増 大 とい う累 積 的 因 果 関 係 が 指 摘 され て い る。 しか し,

Blanchard・Kiyotakiモ デ ル も そ うで あ るが,現 下 の 先 進 国 経 済 に お い て,デ フ レ に よ る マ クロ

産 出 の拡 大 とい うの は リア リテ ィが な いの で はな いか 。 もっ と も,Heijdra(1998,p.692)で は,

参入 な しの場 合 を も扱 い,乗 数 は独 占度 が低 い方 が,つ ま り,完 全 競 争 の ほ うが大 き い とい う,

上 記,Startz(1989)と 逆 の 結 果,本 稿 と 同方 向 の結 果 が 出 て い る。

他,ニ ュー ケ イ ン ジ ア ンの 別 な研 究 の方 向性 と して,独 占的競 争,収 穫 逓 増 下 の複 数 均 衡 モ デ

ル と して,ケ イ ンズ の ア ニ マ ル ・ス ピ リ ッ トのSelf-Fulfilligな 性 質 の モ デル 化 を 行 った 優 れ た

論 文 と して,Kiyotaki(1985)が あ る 。 複 数 均 衡 モ デ ル の ニ ュ ー ケ イ ン ジ ア ンのCooperand

John(1988)に つ い て は,第5.3節 で 詳 述 した い。 独 占 的競 争 の 一 般 均 衡 モ デ ル に 関 して の 優れ

た サ ー ベ イ と して,Matsuyama(1993),松 山(1994)が あ る。 ま た,日 本 語 の ニ ュー ・ケ イ

ン ジア ンの硬 直 性literatureの サ ー ベ イ と して は,飯 田(2002)が 優 れ て い る。 飯 田(2002)は,

ケ イ ンズ 的 帰 結 を 得 る に は,名 目で な く,実 質 硬 直 性 の必 要 性 を 指 摘 して い る点 が 特 徴 で あ る。

さ ら に,独 占的 競 争 の 一 般 均 衡 の 動 学 的 モ デ ル の定 番 と実 証 の サ ー ベ イ と して は,Rotemberg

andWoodford(1995)が あ る(6)。資 本 蓄 積 が 入 った動 学 的 モ デ ル とい う点 で,Rotembergand

Woodford(1995)は 本 稿 よ り明 らか に優 れ て い る が,pp.246-247の よ う に,複 合 財 の 仮 定 が

さ れ て い る。 これ は,前 編 小 原(2005)第4。2節 で述 べ た よ うに,ケ イ ン ズ モ デ ル は,Casarosa

(1981)の よ うな1財 モ デ ル で は駄 目で,多 財 モ デ ル で な けれ ば な らな い と い うこ と,ま た,平

井 .(1981,2003)の 異 質一 期 待 ア プ ロー チ に よ る ケ イ ンズ解 釈 に 反 す る もの で あ り,意 味 論 的 に

は 問 題 が あ る。 ま た,RotembergandWoodford(1995,p.254)で は,ケ イ ンズ の 古 典 派 の第

二 公 準 の肯 定 が行 われ,p。262で は,政 府 の支 出増 で,家 計 の富 が 直 接 的 に瞬 時 に下 が り,ま た,

(6)全 体 に,RotembergandWoodford(1995)は,マ ク ロ産 出 の 決 定 よ りは,価 格 マ ー クア ッ プの.循

環 変 動 に主 体 を 置 い て い る。Hall(1987,1988)に よ って,ソ ロ ー 残 差 の 内 生 的 コ ン ポ ー ネ ン トは,

RealBusinessCycleモ デ ル の 技 術 的 シ ョ ッ ク とは無 関係 で あ る と い う実 証 結 果 が示 され た の を受 けて,

RotembergandWoodford(1995)は,RBCの 建 設 的 代 替 モ デ ル と して,新 古 典 派 の 動 学 的 成 長 モデ

ル に,不 完 全競 争,収 穫 逓 増 下 を統 合 して,政 府 支 出 の増 加 が,プ ラ ス の ソ ロー 残 差 を 生 み 出す ことを

示 した(p.244)。 こ れ は,数 々 の 点 で,新 古 典 派 的 モ デ ル を ベ ー ス に,最 小 限 の現 実 的 仮 定 で,反 新

古 典 派 的(ケ イ ンズ 的?)結 果 を 出す と い う意 味 で,精 神 的 に典 型 的 な ニ ュー ケ イ ンジ ア ンで あ ると言

え る。

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100『 明大商学論叢』第88巻 第1号(100)

政 府 支 出 増 加 は,利 子 率 上 昇 の クラ ウ デ ィ ング ア ウ ト効 果 の効 果 も もた ら し,実 質 賃 金 率 を下 げ,

労 働 供 給 を増 加 させ る とい う所 に は,新 古 典 派 マ ク ロ の臭 い を強 く感 じ ざ るを 得 な か った 。 反 新

古 典 派 的結 果 と して は,RotembergandWoodford(1995,p.273)で は,不 完 全 競 争,収 穫 逓

増 の 動 学 的成 長 モ デ ル に は,期 待 がSelf-FulfillingなSunSpot均 衡 の複 数 均 衡 が 出 て くる こ と

が 示 され て い る。

本 節 を ま と め る と,Dixonの 一 般 的 乗 数 も,Heijdra(1998,1996)の そ れ も,一 般 均 衡 を 閉

じる形 式 美 か ら,セ ー の 法 則 に は ま り,貨 幣 貯蓄 の 漏 出1eakageと して の 把 握 が な く,ま た,

古 典 派 の 第 二 公 準 の肯 定 に よ り,一 般 的 乗 数 に,消 費 性 向 だ け で な く,労 働 供 給 関 連 の パ ラ メ ー

タ ー が 入 った 所 が一 般化 に す ぎ ず,意 味論 的 に ケイ ンズ 的 な一 般 的乗 数 と は全 く言 え な い と思 う。

本 稿 の 独 占的 競 争 の一 般 的乗 数 は 決 して,ニ ューケ イ ン ジア ンで す で にや り尽 くされ た モデ ル の,

別 の 解 き 方 を 提 示 して い る の に 過 ぎな い(本 稿 の 原 始 的 草 稿 へ の1993マ ク ロ ワ ー ク シ ョッ プ で

のK。G西 村 教 授 の コ メ ン ト)よ う な ほ とん ど無 意 味 な 努 力 で は な く3そ れ ど こ ろ か,借 越 な が

ら,先 行 研 究 の ニ ュー ケ イ ンジ ア ンに も真 っ向か ら挑 戦 的 な意 味 が あ る と思 わ れ る。 も ち ろん,

第4.1節,第5.4節 ケ ー ス(11)で も述 べ る よ うに,B-Kモ デ ル に は,テ クニ カル に は 問題 が 全 く

な い 。 こ こで言 って い るの は,、ケ イ ンズ の原 典 に忠 実 か ど うか とい う意 味論 で あ る。 以 下,繰 り

返 し述 べ る よ う に,B-Kは,モ デ ル と して テ クニ カル に は,完 壁 で あ る。 た だ,解 釈 の 余 地 が

入 る 「ケ イ ンズ 的」 とい う点 に お い て,本 稿 と異 な る の で あ る。

そ もそ も,こ れ らニ ュ ー ケ イ ン ジ ア ンの問 題 点 は,Dixon(1987)の 彼 の この 分 野 で の 最 初 の

論 文 の 題 名"ASimpleModelofImperfectCompetitionwithWalrasianFeatures"に,ワ

ル ラ スが 入 り,ケ イ ンズ が 入 っ て い な い こ と に も如 実 に現 れ て い る よ う に,第 一 目的 は,あ くま

で 新 古 典 派 マ ク ロの拡 張 ・発 展 と して,ワ ル ラス実 物 一 般 均衡 モ デ ル を 不 完 全 競 争 下 に も拡 張 す

る こ と に あ り,ケ イ ン ズ的 性 質 は,た ま た ま出 て来 て,論 文 の 手柄 に加 え た よ う な,あ くま で そ

の 副 産 物 に過 ぎな い。 彼 らに ケ イ ンズ マ ク ロの ミク ロ的 基 礎 を 求 め て も,期 待 で き な い で あ ろ う。

3完 全競争 において貨幣所得外部性 を体現 した佐藤(1955)の 乗数分析

ここでは,後 に展開する独占的競争 ミクロ的基礎モデルの準備として,完 全競争でしかも線形

モデルの強い簡略化の仮定はあるが,貨 幣所得外部性のあるミクロ的基礎のある有効需要の数式

化の先駆 として,佐 藤和夫(1955)の ミクロ的基礎のある有効需要モデルを説明してお く。読者

の方は,前 編小原(2005,p.222)の 図1を 再参照 していただきたい。

ケインズの乗数の ミクロ的基礎は,い わゆる 「短期」の条件下で,供 給条件不変 として,外 生

的な需要増加 ショックで需要曲線のシフ トがある場合である。この時,前 編小原(2005)の よう

な貨幣所得外部性が働き,所 与の産出水準に対する個別財需要曲線(佐 藤1955の 用語では以下

「基本需要曲線」)が すべて右方ヘシフ トすることによって,乗 数効果が生ずる。

まず,佐 藤(1955)の 乗数分析のテクニカルな前提について列挙 してお く。以下のような線形

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(101)オ ール ド・ニューケイ ンジア ンによる有 効需要の原理の ミクロ的基礎101

の 簡 易 的 仮 定 を置 く。

1)マ ク ロ的 な初 期 状 態 は 均 衡 状 態(90,pa)に あ る とす る。 つ ま り,小 原(2005)の 図1-cの

よ うに,総 需 要 価 格 ス ケ ジ ュ ール(刀 カ ー ブ)と 総 供給 ス ケ ジュ ー ル(Zカ ー ブ)の 交 点 に

あ る。 当然,図1-bの よ うに,基 本 需 要 曲 線 と も交 点 の 実 質 産 出 レベ ル は 共 通 で あ る。

2)2カ ー ブ は,傾 き1の 直 線 と仮 定 す る。

F-Pa=1(y-yo)(1)

3)基 本 需 要 曲 線 も必 要 な範 囲 で線 形 とす る。 傾 きは 鋭 で あ る。

p一 ρo=一 〃z(㌢一〃o)・(2)

4)貨 幣所 得 外 部 性 に伴 う基 本 需 要 曲線 の シ フ トは,勾 配 不 変 の ま ま平 行 移 動 す る とす る。 つ

ま り,こ の 仮 定 は,産 出水 準 の増 大 に伴 い,同 じ価 格 で 測 っ た需 要 の価 格 弾 力 性 は逓 減 す る

こ とを 意 味 す る。

5)基 本 需 要 曲 線 の シ フ ト幅 も ア ドホ ック に与 え る。 所 与 のyの 産 出 レベ ル に対 応 す る基 本 「

需 要 曲線 は,貨 幣 所 得(=総 供 給 価 格)の,初 期 均 衡 所 得 か らの乖 離 の実 質 値 に,消 費 性 向

を乗 じた 分 だ け,初 期 均 衡 の位 置 か ら シフ トす る。 まず,上 記 の 所 得 の乖 離 の実 質 値 は,

♪学 腕 一(〃 一〃o)+(p一 身)飾(・)

つまり,左 辺の所得効果は,右 辺第1項 の産出効果と右辺第2項 の価格効果に分解 される。後者

の価格効果は,上 記のような,徹 底 した線形の簡略化の仮定にもかかわ らず,非 線形項 となる。

ここには,価 格上昇に伴う所得増分の実質額であり,価 格一定の教科書乗数とは異なり,ミ クロ

的基礎の価格変動の効果が入っているのである。次に,こ れを使って,基 本需要曲線のシフト幅

を定式化する。 カーンの乗数の消費係数をαと置 くと,ρ における基本需要曲線の方程式 は,

・一角 一 一(ρ ρ一Poyo"一9・一Qガ)(・)

一 一((b-y。)一 ・(酬 一・(♪『劉 《 ・)

と な る。

以 上 で,仮 定 を 終 わ り,ミ ク ロ レベ ル の総 需 要 価 格 ス ケ ジ ュー ル 曲 線(Dカ ー ブ)の 導 出 に入

る と,前 編 小 原(2005)の 図1-bの よ う に,任 意 の産 出 レベ ル か ら垂 線 を 立 て て,マ ー シ ャル

の需 要 価 格 を 見 るか ら,上 記 基 本 需 要 曲 線 の方 程 式 に,y=yを 代 入 す る と,yに お け るマ ー シ ャ

リァ ンの 需 要 価 格 は,

一拓一{(1一 ・)四 一・(ガ一夕)駒}(・)

とな る。 前 編 小 原(2005)に も書 い た よ う に,総 需 要 価 格 ス ケ ジ ュ ー ル のDカ ー ブ は,供 給 条

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102『 明大商 学論叢』 第88巻 第1号(102)

件 に も依 存 す る た め,数 式 の 便 宜 上,こ れ か ら,上 記Zの 供 給 曲 線 の 式 を 使 って,pを 消 去 し,

ま た,yを 一 般 的 な 変 数yに 置 き換 え 直 す こ とに よ って,総 需 要 価 格 ス ケ ジ ュ ー ル のDカ ー ブ

の方 程 式 が,仮 定 で 与 え たパ ラ メ ー ター に よ って,次 の よ う に求 ま る。

・一拓 一一{(1一 ・)(・一輪(、(鑑 鐸,。)}(・)

…一@一 諾 李〉(・)

このLカ ー ブ は,上 述 の よ うに 再 三 に及 ぶ線 形 の 簡 略 化 の 仮 定 に もか か わ らず ,直 線 で な く,

非 線 形 効 果 が 入 って い る。 こ の 後,佐 藤(1955)は,こ のDカ ー ブ の傾 き を微 分 して,供 給 曲

線 と の マ ー シ ャル の価 格 理 論 の安 定条 件 に よ って,マ ク ロ均 衡 の安 定 条 件 を 出 して い るω。 ま た,

佐 藤(1955)は,前 編 小 原(2005)第4.2節 で述 べ た よ うに',基 本 需 要 曲線 の 価 格 弾 力 性 が1以

下 で も・}定 の 条 件 下 で マ ク ロ レベ ル の総 需 要価 格 ス ケ ジ ュー ル が 右 上 が りに な る こ と も示 され

て い る の は画 期 的 な こ と で あ る。 な お特 に,1=0で,収f定 で,供 給 曲 線 が水 平 な 場 合 ,D

カ ー ブ は

1)一i)0=一 〃Z(1一 α)(y一 ㌢0)(9)

と直 線 とな る。 したが って,こ の 佐 藤(1955)の 価 格 効 果 を含 ん だ一 般 化 され た 乗 数 分 析 は,教

科 書 的 な 線 形 の 乗 数 を特 殊 ケ ー ス と して 包 括 して い る。

以 上 の よ う に,佐 藤(1955)の 有効 需 要 の ミク ロ的 基 礎 の 定 式 化 は,価 格 固定 を仮 定 しな い 一

般 的 乗 数 過 程 の ミク ロ的 基 礎 と な って お り,先 駆 的 で す ば ら しい もの が あ る が,完 全 競 争 とい う

テ ク ニ カ ル に困 難 な 条 件 下 で,多 くの線 形 化 の 仮定 や ,個 別 需 要 曲 線 の シ フ ト幅 を ア ドホ ック に

与 え て い る とい う意 味 で,ミ ク ロ 的基 礎 と して 完全 で は な い。 また,マ ク ロ理 論 と して も,佐 藤

(1955)で は,初 期 マ ク ロ均 衡(y。,P.)を 仮 定 した 上 で の 「変 分 」 と して の 乗 数 の 定 式 化 に は 驚

くべ き先 駆 性 が あ った が,初 期 マ ク ロ均 衡 を ア ドホ ッ クに ブ ラ ックボ ッ ク ス化 して い た点 は,ケ

イ ン ズ革 命 の根 本精 神 で あ る,持 続 的 失 業 を証 明 した不 完 全 雇 用 均衡 が 示 され て い な い こ とに な

る(小 原2005,第2節 参 照)。 国 民 所 得,outputasawholeの 初 期 値 を 理 論 的 に 表現 す る こ と

の重 要 性 は,な ぜ 失業 が存 在 し,持 続 して い るか を説 明す る こ とに もな るの で あ る。 そ こで,我 々

は次 に,BlanchardandKiyotaki(1987)の 独 占 的 競争 の ミク ロ的 基 礎 モ デ ル の テ ク ニ カル に

高 度 な 定 式 化 に,そ れ らの克 服 の ヒ ン トを 得 る こ と に した い。

(7)実 質 的 には,均 衡 の近 傍 に お い て 便 宜 上,上 記 の非 線形 の 価 格 効 果 を(P一 ρo)/ρo(分 母 の 置 き換 え)

の線 形項 に置 き換 え(佐 藤1955p.73,n10 ,p.88,nll),Dカ ー ブ を 線 形 化 して,最 終 的 な安 定 条 件

を 出 して い る。

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(103)オ ー ル ド ・ニ ュ ー ケ イ ン ジア ンに よ る有 効 需 要 の 原 理 の ミク ロ 的基 礎103

4ニ ューケ イ ン ジア ンのマ イ ク ロフ ァウ ンデー シ ョン

本 稿 の ニ ュー ケ イ ン ジ ア ンに関 す る対 象 範 囲 限定 を書 い て お く。 本 稿 は,ニ ュ ー ケ イ ン ジア ン

の 中 で も,貨 幣 金 融 面 の モ デ ル で あ る所 のBlinderな どのeffectivesupplyfailureの 議 論 は,

対 象 外 とす る。BernankeandBlinder(1988)は,IS-LMモ デル に,銀 行 信 用 を 加 え た もので

あ る。 財 市 場 に 関 して は,旧 来 の 固定 価 格 の ま まで あ る(小 原2005,第3.2節 参 照)。 また,ニ ュー

ケ イ ンジ ア ンの 中 の 財 市 場 に 関 す る モ デ ル の 中 で も,S-spolicyな どの 別 な 価 格 調 整 の モ デル

に 関 して は,BlanchardandFischer(1989)第8章 の ガ イ ドを参 照 して い た だ き た い。

Iwai(1981)(内 容 を 平 易 に した 日本 語 版 が 岩 井(1987))は,ヴ ィ ク セル が新 古 典 派 の 伸 縮

価 格 を突 き 詰 め て 極 め る こ と に よ っ て見 出 した,不 均 衡 累 積 過 程 と して,価 格 の 調 整 でか え って

経 済 が不 安 定 にな る と い う逆 説 的 ヴ ィジ ョ ンを,独 自の壮 大 な 独 占的 競 争 モ デル に体 現 し,全 て

が伸 縮 的 な 経 済 は不 安 定 す ぎ,貨 幣 賃 金 の硬 直 性 が む しろ 経 済 を 中 間 安 定 状 態 にす る と い う,ケ

イ ンズ の 貨 幣 賃 金 の 硬 直 性 の仮 定 や 『一 般 理 論 』 第18,19章 に頻 出 す る ケ イ ンズ の 「中 間 安 定

状 態 」 の記 述 を モ デ ル と して 見 事 に体 現 した壮 大 な 理 論 で あ る。 一 方,Iwai(1981)は,ア ナ

リテ ィカ ル な 面 で は,そ の過 程 で構 築 した所 の独 占 的競 争 の ミク ロ的 基 礎 に基 づ い た マ ク ロモ デ.

ル の構 築 は,ニ ュ ー ケ イ ンジ ア ンの先 駆 と言 え る。 しか し,企 業 主 体 の(第2節 参 照)マ ク ロモ

デ ル とい う点 で,ニ ュ ー ケ イ ン ジア ンよ り も優 れ て い る と思 う。 これ は,本 稿 の 一 つ の お手 本 で

あ る。

実 は,ニ ュー ケ イ ンジ ア ンの流 行 の前 に,ケ イ ンズ理 論 の ミク ロ的 基礎,い わ ゆ るマ イ ク ロ フ ァ

ウ ンデ ー シ ョ ンに お い て は,日 本 人 が 比 較 的 早 くか ら取 り組 ん で お り,Iwai(1981)の 前 に も,

Nikaido(1975),Negishi(1979)な ど が 先 駆 者 と して有 名 で あ る。1980年 代,欧 米 で も,ケ

イ ン ズ経 済 学 の ミ ク ロ的 基 礎 は飛 躍 的 発 展 を遂 げ,ニ ュー ケ イ ン ジ ア ンの経 済 学 と呼 ば れ る1

分 野 と な り,1991年 に は,MankiwandRomer編 集 の 同 名 の論 文 集 も2冊 組 で 出 た 。 ま た,

Nishimura,K.G.(1992)の モ ノ グ ラ フ本 は,不 完 全 競 争 とLucas以 来 の不 完 全 情 報 と を統 合

して お り,い わ ば不 完 全 性 の ダ ブ ル タ ー ボ チ ャー ジ ャー で あ り,ニ ュー ケ イ ンジ ア ンの テ クニ カ

ル 面 で の 究 極 で あ る。 た だ,Nishimura(1992)の 不 完 全 情 報 不 完 全 競 争 は ア ナ リテ ィ カル に

は最 高 峰 な の で あ る が,ケ イ ンズ の 原 典 の 解 釈 と して は,前 編 小 原(2005)第2節,第3.3節

(特 にp.220)の よ う に,「 た と え期 待 が実 現 され た と して も」 とい う完 全 情 報 の 単 純 な世 界 の方

が新 古 典 派 批 判 の意 味 は強 い と い うこ と が一 方 に あ るの で,不 完 全 競 争 に,ル ー カ ス の不 完全 情

報 を統 合 した ら,最 高 に ケ イ ンズ 的 とは言 え な い で あ ろ う。

前 編 小 原(2005)第2節 で の有 効 需 要 の原 理 の解 釈 の 是 非 を 別 と して も(つ ま り不 完 全 競 争 が

『一 般 理 論 』 の意 図 で は な い こ とを 不 問 にふ して も),ニ ュー ケ イ ン ジア ンの モ デ ル 自体 に も問題

が あ る よ う に私 に は思 え る。 こ れ に つ い て は,前 編 小 原(2005)第3.3節 に お い て 詳述 した 。

さて,前 向 きな 建 設 的 に考 え る と,ニ ュー ケ イ ン ジア ンの 中で も,Blanchard・Kiyotakiモ デ

Page 16: HidetakaOhara - 明治大学 · は扱いが困難であり,い わゆるルーカス批判を克服した,具 体的なミクロ的構造パラメーターに よる有効需要均衡の具体的定式化は困難である。より具体的には,前

104『 明大商学論叢』第88巻 第1号(104)

ル は,独 占 的 競 争 の マ イ ク ロ フ ァウ ンデ ー シ ョン と して,テ クニ カ ル には よ くで き て い て,完 壁

.で あ る し,概 念 的 に も,"Aggregatedemandexternality"を 主 張 して い る点 で ,前 編 と本 稿

の 「貨 幣 所 得 外 部 性」 に よ る有 効 需 要 の原 理 と最 も密 接 な モ デ ル と して,次 第 で 詳 し く検 討 す る。

本 稿 モ デ ル の 着 想 は,Blanchard・Kiyotakiモ デル が,新 古 典 派 的一 般 均 衡 で や って い て,Non-

producedgoodsの 変 化 に よ る実 物 資 産 効 果 に大 き く依 存 して い る(小 原2005,3.3節),ま た

本 質 的 に ケ イ ンズ の乗 数 が な い,と 判 断 した こ と に始 ま る。

4.lBlanchard・Kiyotakiモ デ ル

本 節 で は,Blanchard-Kiyotakiモ デ ル(以 下B-Kと 略 す)の 優 秀 性 と,ケ イ ンズ モ デ ル と

して の 問 題 点 に つ い て モ デ ル の 数 式 に踏 み 込 ん で 説 明 した い。 前 編 小 原(2005)第3 .3節 で は,

verbalに しか検 討 して い な い の で,こ こで は,具 体 的 な数 式 モ デ ル を 明示 しつ つ,検 討 を行 う。

B-Kは,pixitandStiglitz(1977)の 独 占的競 争 の 枠 組 を マ ク ロ に応 用 した もの で あ る。 静

学 的,短 期 の設 定 で あ り,企 業 数 は所 与 とす る。 各 企 業 は原 子 的 に小 さい が,製 品 は 差 別 化 され

て お り,チ ェ ンバ リ ン的個 別 需 要 曲 線 を 持 ち,独 占的 競 争 が行 われ て い る。 ノー テ ー シ ョン と し

て は,m種 の 財,mの 企 業,y家 計 が あ る とす る。

労 働 者 の 労 働 供給 サ ー ビス も,差 別化 され,DixitandStiglitz(1977)の 意 味 で 異 質 で あ る。

B-Kで は,労 働 が差 別 化 さ れ て い て,企 業 に対 して独 占力 を持 ち,労 働 市 場 も独 占 的 競 争 で,

財 市 場 と シ ン メ トリ ック に な って い る。

家 計 に 関 して は,モ デ ル 化 の テ クニ ック と して,CES一 コ ブダ グ ラ ス効 用 関 数 を用 い る。Iwai

(1981,1987)もCES効 用 関 数 を 用 い て い る。 財 へ の 消 費 量 全 体 を表 す イ ンデ ッ クス と貨 幣 保 有

の 実 質 値 との 間 で,コ ブダ グ ラ スの 関 係 に あ る。 つ ま り,両 者 の 間 で,所 得 に 占 め る シ ェア は常

に 一 定 と な る。 これ に よ り,所 得 の うち常 に一 定 割 合,消 費 に 回 す とい うケ イ ンズ 的 マ ク ロ消 費

関 数 に似 た もの が,効 用 関数 レベ ル か ら体 現 で き る の で あ る。

CES一 コブ ダ グ ラス 効 用 関 数 は,

U一(滴 ・γ閣 一γ一aN,(1・)

で あ り,こ こ に,

 C;一(mB-1C'it6

i=1)B-1(11)

 P一 儲

1君レθ戸(12)

で あ る。 ル4は,ブ の 貨 幣 需 要 で あ る(ス ーバ 「 ス ク リプ トのaはdemandの .d)。 仮 定 と して,

代替の弾力性

θ.>1(13)

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(105)オ ール ド・ニ ューケイ ンジア ンに よる有効需要の原理 の ミクロ的基礎105

で あ る。 前 編 小 原(2005)第4.2節 で詳 述 した よ う に,本 稿 で 第5節 で扱 うモ デ ル な どで も,ミ

ク ロ的 面 か ら,独 占 的競 争 で の 価 格 決 定 の 内点 解 を得 るた め にだ けに テ クニ カル に代 替 の弾 力性

(他 の 企 業 一 定 に して 部 分 均 衡 にす れ ば需 要 の 価 格 弾 力 性)が1よ り大 きい と仮 定 す るが,こ れ

は,Casarosa(1981)の よ うに,後 知 恵 で マ ク ロ分 析 上 の 必 要 性 か ら来 る恣 意 的 仮 定 で は な く,

ミク ロ面 で 当然 の前 提 で あ る。 前 節 佐 藤 和 夫(1955)の よ う に,完 全競 争 の 場 合 は需 要 の価 格 弾

力 性 が1よ り大 き い とい う仮 定 は 必 要 な い 。 ま た,仮 定 と して,消 費 と貨 幣 保 有 の シ ェア で あ る

γに つ い て,

0<γ<1(14)

である。

家計ブの予算制約式は,

お ハΣP,C+,+ル ろd=町 ハ弓+M;+ΣV,≡K(15)

f=1ピ=1

とな る。 こ こに,v,.,は,7家 計 炉持 つ ∫企 業 の企 業 価 値(利 潤)で あ る。 つ ま り,B-Kも,本 稿

第2節 で批 判 した所 のproducer・consumerの 代 表 的 エ ー ジ ェ ン トの モ デ ル で あ る。

家 計 の主 体 均 衡 につ い て は,効 用 関 数 がWealthKな い し,㎎ 罵 に つ い て,一 次 同次 な の で,

TwoStageMaximizationカs可 能 で あ る。 ま ず,H;所 与 で,労 働 不 効 用 を 除 い た効 用最 大 化 を

行 な っ て よ い こ とに な る。

第1ス テ ー ジ の効 用 最 大 化 に よ り,家 計 ブの第Z財 へ の消 費 需 要 は,

C;;_(号 烏 劫,(16)

酵 一(1一 γ)罵(17)

で あ る。 こ の個 別 消 費者 の 第 歪財 へ の 需 要 で は,所 得 弾 力性 は1』とな って お り,こ れ が 次 の式 の

よ う に,市 場 需 要 へ の集 計 を 簡 単 に して くれ る の で あ る。Blanchard・Kiyotakiモ デ ル は,マ イ

ク ロ フ ァウ ンデ ー シ ョ ン と して,テ ニ ク カル に実 に よ くで き て い る。

家 計 に関 して 足 し込 む こ と に よ って,第 ∫財 へ の 市 場 需 要 曲線,す な わ ち,企 業 乞が直 面 して

い る個 別 需 要 曲 線 は,第 ゴ財 へ の市 場 需 要 を}ダ とお くと,

Yd一、亀 ・、一(即 諾 罵,(18)

と求まる。個別企業需要曲線 は家計の第2財 への需要を集計 したものでテクニカルにはよいが,

』本当は,例 えば自動車なら自動車の1産 業 に多数の企業がいれば,市 場需要をまた企業間に分割

する手続きが必要であるが,こ こでは簡単のため,製 品差別化を経済全体で一段階フラットに捉

えて,1財 につき1企 業とする。

これに,総 需要の定義

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106『 明大商学論叢』 第88巻 第1号(106)

y≡ 圭、亀 、亀 君C・ 一歩 、重1γ葛(19)

を 代 入 す る と,

蝋 号路(・ ・)

とな る。 さ ら に,マ クロ の貨 幣 ス トックの 均 衡 条件 か ら,以 下 の続 き の よ う に変 形 で き る。 ま ず,

マ ク ロの 貨 幣 量 を,サ ブ ス ク リプ トゴが な い ノー テ ー シ ョンで 表 す とす る と,貨 幣 供 給 の方 は,

ねM≡ ΣM・(21)

r=1

と定義 される。貨幣需要の方は,

ハM`≡

、;1ψ(22)

と定義 される。貨幣需要の(17)式 を家計について足 し込めば,マ クロの貨幣需要は,

Md一(1一 ・)、銅 一 ≒ γpy'.(・3)

マ ク ロ の貨 幣 ス トッ クの 均 衡 条 件 か ら,ル 〆=皿 よ り,

nl -EH

>=1=1一,N1・.(24)

よ って,産 出 の 方 に は,

y-1≒MP(25)

という関係が存在する。 ここには,私 見では,ケ イ ンズに忠実なという基準からは,後 述のよう

に問題点があるbこ れ らを(20)式 に代入すると,

i9_≒M

P(・6)

と,企 業 ゴが直面している個別需要曲線が求まる。

次に企業側の労働市場における費用最小化問題を解 く。

り Y,一(n(a一:Σ 妬 ・・

ゴ=1))百 万(27)

これが生産関数であ り,効 用関数 と同様,独 占的競争を扱いやすいCES型 となっている。

一方,企 業 歪の利潤は

V,=瑠 一、;1隅(28)

で あ る。 費 用 関 数 は,

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(107)オ ー ル ド ・ニ ュー ケ イ ン ジ ア ンに よ る有 効 需 要 の 原 理 の ミク ロ 的基 礎107

カ  、;、隅=・ 万 曜 α(29)

で,こ こ に,

W≡(n-EW'一n;=i・)t-a(・ ・)

した が って,第 ゴの 差 別 化 さ れ た 労働 へ の 需 要 曲 線 は,

加入弓=Σ 八房.(31)

f=1

一(紛 冤 鞭(・ ・)

と求 ま る。'

こ う して費 用 最 小 化 が 求 ま っ た の で,次 に 企 業 乞の利 潤最 大 化 を 行 う。君 に つ い て 微 分 した一

階 の条 件 は,

 P

P一(θ 。τ≒ 。m(1一・・里y・ ・一・θ一1P)卜   )(33)

こ れ が,Blanchard-Kiyotakiの い う"PriceRule"で あ る 。 価 格 に 関 してSymmetricEqua-

tionと し て,

P,=F(34)

す る と,

P

W一,皇1・ 青 ・m(1一 ・)Y(・  1)(・ ・)

この 財 市 場 の 均 衡 か ら導 か れ た労 働 ブへ の 派 生 需 要 曲線 の も とで,(独 占的 競 争 の)家 計 は,

名 目賃 金 と労 働 供 給 量 を決 定 す る。 これ が 効 用 最 大 化 の 第2ス テ ー ジで あ る。

名 目賃 金 に関 して もSymmetricEquationと して,

W,一w(36)

す る と,

W

P一(。a-1)κ ゼ(をD・(・ ・)

こ こに,κ は定 数 で あ る。

こ う して,DixitandStiglitz(1977)の 意 味 で の 独 占的 競 争 の 下 で の マ ク ロ一 般 均 衡 問 題 が

解 か れ た。Blanchard・Kiyotaki(1987)は,テ クニ カル に は完 壁 で あ る。

以 下 で は,BlanchardandKiyotaki(1987)(以 下 「B-K」 モ デ ル と略 す こ と が あ る)の 問題

点 に つ い て 述 べ る。

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108『 明大商学論叢』第88巻 第1号(108)

B-Kで は,上 記(35)式 と(36)式 に よ っ て,実 質 賃 金 と実 質 産 出 の 二 次 元 グ ラ フの ス キ ー ム で

普 通 の 労 働 市 場 の グ ラ フ ス キ ー ムの よ うに解 釈 して い る が,や や 問 題 が残 る。 そ もそ も,B-K

モ デ ル の 総 需要 に関 して,(25)式 の よ うに,総 需要 が貨 幣 の実 質残 高 の初 期 賦 存量 の乗 数 倍 とな っ

て い る点 で,意 味論 的 に は,貨 幣 ス トッ クの実 物 資 産 効 果 に依 存 して お り,総 需 要 が 事 実 上 ,平

均 物 価 水 準Pで しか動 か な い構 造 に な って い る点 で,「 ケ イ ンズ 的 」 と は い え な い と筆 者 は鱈 越

な が ら思 う。 前 編 小 原(2005)第3.3節 で は,こ の 原 因 は,貨 幣 ス トック の均 衡 式 に あ るの で は

な い か と述 べ た 。 この 関係 式 は,実 は一 般 均 衡 で も維 持 さ れ る 関係 で,上 記 後 半 の ミク ロ の最 適

化 の価 格 均 衡 を 解 くま で もな く,(25)式 の よ うに,貨 幣 ス トッ ク量 の均 衡,貨 幣 市 場 の 均 衡 か ら,

財 全 体 で の乗 数 効果 は,減 税 の 乗 数 に一 致 す る とわ か って い る の で あ る。 つ ま り貨 幣 の 均 衡 が 成

立すると自動的に財市場 も均衡するという貨幣のワルラス法則(批 判については小原2005,p.

219参 照)の よ うに,「 消 去 法 」 「残 余 法 」 的 に,財 市 場 の均 衡 もわ か る構 造 な の で あ る。 テ クニ

カ ル な ミク ロ の 均衡 の解 法 は 別 と して,我 々が 関心 の あ る ケ イ ンズ 的 マ ク ロ的 な 乗数 効 果 の 大 き

さ は既 にわ か って しま っ て い る の で あ る。 しか し,我 々が 知 りた い の は,財 市 場 内部 に お け る貨

幣 所 得 外 部 性 に お け る需 要 と供 給 の相 互 依 存 の ミク ロ的 基 礎 を 積 み上 げ た上 で の有 効 需要 均 衡 の

初 期 均 衡 定 式 イしとそ の 乗 数 効 果 の大 き さの 定 式 化 で あ る。

つ ま り,B-Kに お い て は,名 目 タ ー ム の 集 計 的 均 衡 条 件 を,主 体 均 衡 よ り先 に 使 って い る。

B-Kで は,先 に上 記 の集 計 的 均 衡 を使 って,個 別 企 業 の 需 要 曲 線 に代 入 す る手続 き を と って い る。

そ の後 で,主 体 均 衡 の利 潤 最 大 化 の 条 件 が 解 か れ る。 つ ま り,B-Kで は,貨 幣所 得 外 部 性 に よ

る個 別 財 需 要 曲 線 の シ フ トが 入 って お らず,個 別 需 要 曲 線 は,マ ク ロ均 衡 と対 応 す る位 置 に 固定

され て しま って い る。 後 述 の 本 稿 の モ デ ル で は,本 当 に主 体 均 衡 か ら積 み 上 げ て ゆ くの で,マ ク

ロ均 衡 以 外 の ケ ース の個 別 需 要 曲 線 の シ フ トを描 く こ とが で き る。 もっ と も,こ こ に は載 せ な い

が,筆 者 の再 計 算 に よ って,B-Kの 手 続 き で も,主 体 均 衡 か ら順 番 に解 い て も,マ ク ロ均 衡 に

お け る値 は,全 く同値 に な る こ とが確 か め られ た(均 衡 は 自己 実現 され る の で大 丈 夫 な の であ る)

の で,B-Kは,テ クニ カル に は全 く問題 は な い の で あ る。 しか し,後 述 第5節 に お い て本 稿 が提

出 す る モ デ ル で は,Clower一 佐 藤 和 夫 の メ カニ ズ ム に忠 実 に,ま ず 主 体 均 衡 か ら始 め て,個 別

財 の 市 場 均 衡 へ と進 み,最 後 に名 目所 得,実 質 産 出量 を 出 して い る。 そ うす る こ と に よ って,マ

ク ロ均 衡 以 外 の ケー ス の個 別 需 要 曲 線 の シフ トを も描 くこ とが で き る。

前 編 小 原(2005)第3.3節 で 述 べ た よ う に,ニ ュ ニケ イ ン ジア ンの ミク ロ 的 基礎 づ けの モ デ ル

に お い て は,財 市場,労 働市 場,貨 幣 市 場 を コ ンパ ク トに全 て兼 ね備 え た,ミ ク ロ経 済 学 の一 般

均 衡 モ デ ル を最 小 限 の形 で 閉 じ るた め,ニ ュメ レー ル と して,non-producedgoodsが 導 入 さ

れ るが,結 局,ピ グ ー効 果,'実 物 資 産 効 果 が乗 数 効 果 を作 る だ け とい う こ と にな る。 もっ と も,.

こ の 点 は ケ イ ン ズを ど う捉 え るか の ビジ ョ ンの違 い(単 に理 論 的 エ クサ サ イ ズ と して 論 文 の ネ タ

と して ケ イ ンズ を借 りる か)と い う こ とで あ り,善 悪 はつ け られ な い。 しか し,本 稿 で 我 々 は,

ケ イ ン ズ に で き るだ け忠 実 な モ デ ル を 作 る こ とを 目標 と して い る。 こ こで,原 典 か らの ケ イ ンズ

解 釈 に よ り,有 効需 要 と い う財市 場 の 定 式 化 を第一 と して,貨 幣 市 場 は枠 外 に置 い て お い て,財

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(109)オ ール ド・ニ ューケイ ンジア ンによる有効需要 の原 理の ミクロ的基礎109

市 場 の み に集 中す る。 筆 者 は 「貯 蓄 は必 ず しも支 出 され な い」 とい う漏 出 の認 識 こそ が ケ イ ンズ

革 命 の 核 心 で あ る と考 え て い る。 第2節 や前 編 小 原(2005)第3.3節 で 詳 し く述 べ た よ う に,モ

デル の 体 系 美 に こ だ わ り,ミ ク ロ経 済学 の 一 般 均 衡 モ デル を閉 じる と,ワ ル ラス法 則 の誤 った貨

幣 ヴ ァー ジ ョ ンに よ って,財 市 場 の 均 衡 の た め に は,そ の 他 の 市 場,投 資 と貯 蓄 の市 場(ま た は

non-producedgoodsの 市 場)も 均 衡 しな け れ ば な らず,生 じた 貯 蓄 はす べ て どこ か に受 け取 ら

れ ね ば な らな い と い う こ とに な り,モ デ ル全 体 の 中 で は,貯 蓄 が 同量 の投 資 を産 む とい うセ ー の

法 則 の 因 果 関 係 が 生 じて しま う。 そ うな る と,事 前 的 に貯 蓄 が 同量 の投 資 を産 む とは 限 らな い と

い う総 需 要 か らの 「漏 出」,投 資 が 貯 蓄 を決 め る,セ ー の法 則 の 打 破 と い うケ イ ン ズ 的因 果 関係

は モ デ ル か ら消 され て しま う。 よ って,こ こで は一 般 均 衡 に お け る貨 幣 市 場 を 無理 矢 理 に 閉 じず,

ケ イ ンズ の 原 典 に忠 実 に,フ ロー の 貨 幣 所 得 か ら貯 蓄 へ の 漏 出leakageが あ る こ とを 仮 定 す る。

既 存 の マ ク ロ理 論 家 は,こ の 閉 じて い な い モ デ ル,遊 休 貨 幣 残 高 と い う ス ラ ッ クネ ス が存 在 す る

モ デ ル が,ナ イ ー ブ過 ぎ て許 せ な い か も しれ な い が,ハ イ テ クの ニ ュ ー ケ イ ン ジア ンで も,1990

年 代 中盤 以 降 の マ ク ロ モ デ ル に お い て は,貯 蓄 フ ロー の 漏 出 か らの遊 休 残 高 状 態 は,い わ ゆ る

「在 庫 運 用technology」 と呼 ば れ る,テ ク ニ カ ル な 正 当 化 が 立 派 に な され て い る の で あ る。

Bernanke,GertlerandGilichrist(1996,1994)系 の モ デ ル に お い て は,漏 出leakageし て遊

休 残 高 と して 滞 留 す る貨 幣 の存 在 の テ ク ニ カ ル な モ デ ル 化 と して,貯 蓄 の うち,資 本 投 資 に行 か

な い 部 分 を 明 示 的 に意 識 し,そ れ らは,「 在 庫 運 用technology」 に 回 され,事 実 上,ゼ ロ収 益

率 に近 い,つ ま り,遊 休 貨 幣 残 高 に近 い形 で モ デ ル化 され て い るの で あ る。

ま た,も と も と,ケ イ ン ジア ンの モ デ ル は,ミ ク ロ経 済 学 の 閉 じた一 般 均 衡 モ デ ル とは 異質 の

もの で あ り,IS-LMモ デ ル を は じめ と して,皆 短 期 の モ デ ル で あ り,均 衡 と い って も実 は各 期

フ ロー の 貨 幣 貯 蓄 が 蓄 積 され て ゆ き,遊 休 貨 幣残 高 の 行方 に つ い て は不 問 と な って い るの で あ る

(新 開1967)。

本稿 の モ デ ル は,労 働市 場 に お い て も,『 一 般 理 論 』 原典 に忠 実 に,B-Kモ デ ル と違 い,労 働

者 は 同 質 とす るC『 一 般 理 論 』 で は,wageunitの 工 夫 に よ って 労 働 者 は 同質 と して いた 。 本 稿

の モ デル で は,B-Kの よ う に 労 働 が 差 別 化 され て い て 企 業 に対 して 独 占 力 を 持 つ とい う こと は

な い 。 こ ち らの ほ うが 現 実 的 で あ ろ う。B-Kが 労 働 市 場 に独 占 的競 争 を導 入 した の は,テ ニ ク

カ ル にr財 市 場 のDixitandStiglitz(1977)の 独 占 的競 争 と シ ンメ ト リー を作 り,モ デ ル を美

し くす る ため にす ぎ な いか も しれ な い。 しか し,『 一 般 理 論 』 の 原典 か らは乖 離 して い る。 従 っ

て,後 述 の 本 稿 の モ デ ル で は,労 働市 場 の,財 市 場 と シ ンメ トリ ックな独 占的競 争 は導 入 しない。

本 稿 の モ デ ル で は,ケ イ ンズの 相 対 賃 金 仮 説 に忠 実 に古 典 派 の 第一 公 準 を肯 定 し,第 二 公 準 を否

定 す る こ とに す る。

ケ イ ンズ 自身 の 有 効 需 要 は,企 業 に産 出量 を コ ン トロー ル す る能 力 が 与 え られ て い る こ とに根

幹 が あ る と考 え る。 前 編 小 原(2005)で 指 摘 した よ う に,Hart(1982)で は,さ らに極 端 に,

労 働 組 合 が 企業 の反 応 を 見 越 して,労 働 供 給 を制 限す る とい うよ う に,モ デ ル の構 造 を転 置 され

て し ま っ て い る。 つ ま り,Hart(1982)で は,古 典 派 の第 二 公 準 が 全 面 に押 し出 さ れ て い る。

Page 22: HidetakaOhara - 明治大学 · は扱いが困難であり,い わゆるルーカス批判を克服した,具 体的なミクロ的構造パラメーターに よる有効需要均衡の具体的定式化は困難である。より具体的には,前

llO'『 明大商学論叢』第88巻 第1号(llO)

岩 井(1987)も,ケ イ ンズ の 原 典 と 同様 に,企 業 主 体 の モ デ ル で あ る の で,そ の 路 線 を踏 襲 した

い 。 私 と して は,欧 文 題 名 に あ る"inthespiritofKeynes"の 有 効 需 要 を モ デル に体 現 す る た

め に は,国 民 経 済循 環 の 貨 幣 の サ ーキ ュ ラ 「 フ ロー の図 に お い て,企 業 を起 点 と して み る とい う

こ とが 必 要 で あ る と思 う。

4.2Blanchard・Kiyotakiモ デ ル の 「ケ イ ンズ 」 化 案

Blanchard-Kiyotakiモ デ ル の ケ イ ン ズ に忠 実 化 と して,考 え られ る具 体 的 な 改 良 と して は,

次 の よ うな もの が考 え られ よ う。

ま ず,第4.1節 で批 判 さ れ た貨 幣 ス トック の均 衡 式 を入 れ な い こ と で あ る。 つ ま り,第1節 で

上 述 の よ う に,貨 幣 市 場 は敢 え て入 れ な い。 もち ろ ん,テ クニ カル な 面 で,新 古 典 派 的 な完 全 に

閉 じた一 般 均 衡 か ら は,一 歩 遠 ざ か る こ とに な る。 しか し,本 稿 で は,何 よ りも,ケ イ ンズ の原

典 に忠 実 な 財 市 場 の 定 式 化 を 第 一 目的 とす るの で,正 当化 され る。 貨 幣 は,価 値 尺 度,支 払 い手

段 と して の み登 場 す る。 もち ろん,モ デ ル の背 景 と して,貨 幣 ス トッ クを いれ て もよ い が,蓄 積

され 続 け て,ス ラ ッ クな 遊 休 残 高 と して滞 留 し,取 り崩 さ れ て 消費 や 投資 に使 わ れ る こ とが な い

と仮 定 す る こ と にな る。

繰 り返 す が,ケ イ ンズ の め ざ したセ ーの 法 則 の な い マ ク ロモ デ ル とは,一 般 均 禽 的 に マ ク ロの

相 互 依 存 関係 を重 視す るので は あ るが,漏 出 フ ロー と して の貯 蓄 の あ る短 期 の モ デル で あ る。 ニ ュー

ケ イ ン ジ ア ンが 模範 とす る ミク ロ一般 均 衡 に は,漏 出 フ ロ ー と して の貯 蓄 が な い。 しか し,ケ イ

ンズ 的 な マ ク ロの基 本 原 理 とは,投 資 か らの因 果 関 係 で あ る所 の 投 資 ・貯 蓄 バ ラ ンス で あ った は

ず な の で あ る。

そ こで,本 稿 の モ デル で は貨 幣市 場,貨 幣 ス トッ クは 捨 象 し,フ ロ ー の貨 幣 所 得 か ら貯 蓄 へ の

漏 出leakageが あ る こ とを 仮 定 す る。 投 資 財 産業 や 政 府 支 出 は,そ の 貨 幣 所 得 か らの 消 費 財 総

需 要 へ の 注 入injectionと い う形 で の み 登 場 す る と前 提 す る。 この よ うな い くつ か の単 純 化 の仮

定 に依 存 す る と い う と,新 古 典 派 マ ク ロ.学者 か らは,経 済 にお い て,貨 幣 は な くな らな い の で,

貨 幣 は ど こか に受 け取 られ な け れ ば な らず,貨 幣 ス トッ クの 均 衡 式 は正 しい と強 く批 判 を受 け る

も の で あ る。1993マ ク ロ ・ワー ク シ ョ ップ で は,現 に そ うな った。 しか し,こ こは譲 れ な い と

こ ろ で あ る。

な ぜ な ら,マ クロの 教 科 書 で最 初 に習 う国 民経 済 循環 の 貨 幣 の サ ー キ ュ ラー フ ロ ー の 図 の よ う

に,貨 幣 は,circularflowと して,財 の取 引 で は,家 計 か ら企 業 へ,生 産 要 素 の 取 引 で は,企

業 か ら家 計 へ と流 れ て い る。 この 立 体 的構 造 を まず し っか りモ デ ル に 入 れ る方 が 先 決 で あ る と私

は 考 え て い る。 貨 幣 の 価 値 保 蔵 機 能 の 初 期 貨 幣 ス トッ ク を入 れ な い の は,小 原(2005)や 上 記

B-Kモ デ ル で み たよ うに,体 系 美 の た め に貨 幣 ス トック を入 れ る と,肝 心 の マ ク ロ分 析 の意 味 論

を お か し くす る こ とが あ るか らで あ る。B-KやHeller(1992)で は,価 値 保 蔵 と して の 貨 幣 が

登 場 す る が,そ れ は よ い の あ るが,そ れ の み で あ る のが 大 き な欠 点 で あ る と私 は思 う。 それ らの

モ デ ル で は,初 期 賦存 と して,あ る貨 幣 量 が政 府 か ら与 え られ て,期 末 に そ れ と同 じ貨 幣 量 を持

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(lll)オ ール ド ・ニ ューケイ ンジア ンによる有効需 要の原 理の ミクロ的基礎lll

つ よ うに一 般 均 衡 が成 立 す る。B-KやHeller(1992)の モ デ ル で は,実 は貨 幣 は決 して 使 用 さ

れ る こ とは な い。 結 局,フ ロー の所 得 は,所 得 は 全 額 消 費 に使 わ れ る こ とに な り,セ ー の 法 則 に

は ま って しま う ので あ る。 貨 幣 の 初期 資産 が い くら存 在 して ど こ に保 有 され て均 衡 す るは ず だ と

い う問 題 と は全 く別 に,今 期 生 ま れ た 貨 幣所 得 の フ ロー が,一 部 漏 出 し,す べ て 消 費 され な い と

こ ろに,貨 幣 経 済 の マ ク ロ の根 本 問題 が 存 在 す る。

本 稿 の モ デ ル とB-Kの 第2の 大 枠 の違 い と して,効 用 関 数 に レ ジ ャ ー(労 働 不 効 用)は,入

れ な い。 家 計 に おい て財 へ の消 費 と レ ジ ャー の 同 時最 適 化 は して い な い。 古 典 派 の 第一 公 準 で,

雇 用 量 は 労 働 需 要 曲 線 上 で の み決 ま る こ とか ら,労 働供 給 曲 線 に反 映 さ れ る 消費 者 の レ ジ ャー最

適 化 は,モ デ ル に参 加 して こ な い。 こ れ は,ケ イ ンズ の 第 二 公 準 否 定 に則 る とい う こ とで,ケ イ

ンズ に 忠実 とい う本 稿 の 目的 で は一 応 正 当化 で き る で あ ろ う。 ま た,上 述 の よ うに,労 働 者 は,

B-Kの よ う に差 別 化 さ れず,同 質 とす る。B-Kの よ うに 労 働 が 差 別 化 さ れ て い て 企 業 に対 して

独 占力 を持 つ とい う こ と はな い。 これ は現 実 を 反 映 した と い う こ とで もあ り,な に よ り も,Hart

(1982)と 違 い,企 業 が 「ヴ ェ ール 」 で な く,岩 井(1987)モ デ ル の よ う に,企 業 主 体 で マ ク ロ

産 出:量が 決 ま る と い う 『一 般 理 論 』 の ヴ ィ ジ ョ ンを モ デ ル に反 映 させ る た め で あ る。B-Kは,

CES生 産 関数 を用 い て い るが,労 働 を差 別 化 しな い本 稿 の モ デ ル で は,コ ブ=ダ グラ ス よ り もっ

と単 純 化 した 生 産 関数 を 用 いて 単 純 化 す る こ と が考 え られ よ う。 また,「 一 般 理 論 』 の 第3章 に

忠 実 で あ る か らに は,ケ イ ン ズの いわ ゆ る賃 金 単 位 に よ って,短 期 的 に貨 幣 賃 金 の硬 直 性 の仮 定

を 設 定 して よ い。 す る と,費 用 関 数 か ら限 界 費 用 は容 易 に求 ま る こ と にな る。

本 稿 の モ デ ル で は,財 市 場 の み に独 占的 競 争 を設 定 し,企 業 が 「ヴ ェー ル 」 で な い企 業 主 体 の

マ ク ロ モ デ ル と す る と,ワ ル ラ ジ ア ンの せ り人 の い な い 独 占的 競 争 で は,各 企 業 はdemand

curvetakerで あ る と い え る。 つ ま り,こ こで 扱 う静 学 で は,個 別 企 業 需 要 曲 線1本 に対 して,

利 潤 最 大 化 に よ り最 適 な価 格 と数 量 が 同 時 決 定 され る。

予 算 制 約 式 に 関 して も,B-Kは ミク ロ経 済 理 論 と して は全 く問 題 は な いが,ケ イ ンズ 的 な ビ

ジ ョンか らす る と,す で に外 れ て い る と もい え る と思 う。変 更案 と して は,消 費 者 の 所 得 は フロー

の 所 得 の み とす る。

こ こで,本 稿 独 特 の,あ る意 味 で は 問題 の あ る仮 定 だ が,企 業 利 潤 は家 計 に は 渡 らず,利 潤 か

らの 消 費 性 向 はゼ ロ と仮 定 す る。 これ は,第2節 冒 頭 で 既 に述 べ た こ とで あ るが,ニ ュー ケイ ン

ジア ンの ミク ロ的基 礎 モ デ ル で は,い わ ゆ るproducer-consumerの 想 定 に よ り,株 式 を通 じて,

究 極 的 に全 体 的 に は,企 業 を所 有 して い るの は 家計 に他 な らな い の で,利 潤 も家計 に入 る と仮定

さ れ て い る こ とが ほ とん ど で あ る。 そ れ は原 理 的 に は 間 違 って い な い が,抽 象 的 な 非現 実 的 仮定

と思 う。 しか し,再 三 述 べ て い る よ うに,マ ク ロモ デ ル 的 に も,企 業 が株 主 と して の家 計 に従属

して い るな らば,企 業 主 体 で マ ク ロ産 出量 が決 ま る とい う ケ イ ンズ の根 本 ヴ ィ ジ ョンが モ デ ル か

ら失 わ れ て しま うた め で あ る。 現 実 の 経 済 で は,企 業 の生 産 の 意 志 決 定 と,労 働 者 ・消 費 者 の意

志 決 定 が 同一 とは考 え られ な い。 ま た,日 本 で は株 式 持 ち合 い も未 だ に多 く,上 述 の よ うに,株

式 を も って い る個 人 には 偏 りが あ る現 実 を反 映 して い る こ とで 少 しは正 当化 さ れ る と思 う。 こ う

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ll2『 明大 商学論 叢』第88巻 第1号(112)

して,企 業 と家 計 の意 思 決定 主 体 の 決 定 的 な差,階 級 差,所 得 分 配 の 問題 を導 入 す る こ とで,モ

デ ル が ケ イ ンズ 的 にな ろ う。 ま た,上 述 の よ うに,monetarycircularflowの 把 握 の観 点 か ら,

マ ク ロ的 な漏 出1eakage,投 資 ・貯 蓄 バ ラ ンス の問 題 を取 り入 れ るた め,ま さ に今 期 の 賃 金 所 得

フ ロー か ら,消 費 され ず に貨 幣 の ま ま で あ る部 分(漏 出leakage)が 発 生 す る とい う設定 にす る。

貨 幣 貯 蓄 へ の 漏 出 の一 方 で,市 場 需 要 関 数 の と こ ろで,投 資 財 産 業 の労 働 者 か らの 消 費 財 需 要

が 注 入injectionと して加 わ って く る。/は 投 資 財 産 業 の 総 労 働 所 得 と して,定 義 され る。 こ こ

で は,投 資 財 産 業 の利 潤 は ど うな る とか に こだ わ らず,と にか く,ケ イ ンズ 的 な貨 幣 フ ロー の 漏

出 が存 在 す る下 で,正 の 有 効 需 要 「均 衡 」 産 出 量 の モデ ル 化 に は,消 費 財 の フ ロ ー所 得 以 外 か ら

の 「独 立 投 資 」 の よ う なinjection,inflowの 導 入 が 必 要 で あ る。 ちな み に,マ ク ロの 教 科 書 と

同 じで,企 業 の コス ト支 払 い が売 上 に な って 返 って 来 るに して も,独 立 消 費 や独 立 投 資 の よ うに

外 的 なInflowが ゼ ロ で は,貨 幣 貯 蓄 へ の 漏 出leakageが あ るの で,企 業 全 体 と して は生 産 して

も損 失 を生 む だ け にな り,均 衡 産 出量 は ゼ ロに な って しま う。'

5本 稿のモデル

5.1モ デ ル

Dixit-Stiglitz(1977)とBlanchardandKiyotaki(1987)の 独 占的 競 争 モ デ ル を ケ イ ンズ の

有 効 需 要 の 趣 旨 に沿 う よ うに 改 造 す る。 経 済 に は,B-Kモ デ ル と同 じよ うに,m種 の 製 品 差 別

化 され た財 と同 数 の 企 業 と,r個 の家 計 が あ る とす る。 企業 数 は 大 変 大 き な数 で,個 別1企 業 の

動 きは,マ ク ロ的 に は ネ グ リジ ブル な影 響 しか な い とす る。

第2節 で 紹 介 した先 行 研 究 のHeijdra・(1998)な どと異 な り,ケ イ ンズ に忠 実 に,短 期 の想 定 で,

参 入 は な く,企 業数 鋭 は 一 定 とす る。 既 存 め 各企 業 の生 産 量 の上 下 が マ ク ロ産 出量 を変 え る。

財 へ の需 要 の 定 式 に関 して は,B-Kモ デ ル と同 じ く,テ クニ カ ル に 扱 い 易 く,後 述 の よ う に

現 実 的 な ケ イ ンズ型 消 費 関数 の 解 釈 もで き る,CES一 コ ブダ グ ラ ス効 用 関 数 を導 入 す る。

U一(2η 了=BC)'(P)一r(38)

こ こ に,  q

、一(mB一]C=Jgi=1)B-1,(39)

P一(  み ゑ 君1一・)'一θ・(・ ・)

で あ る。M;`は,ブ の貨 幣 需 要 で あ る(ス ー パ ー ス ク リプ トのaはdemandのa)。 仮 定 と して,

個 別 財 閥 の 代 替 の弾 力 性

θ>1(41)

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(113)オ ール ド・ニューケイ ンジア ンによ る有効需要の原理の ミクロ的基礎113

が 仮 定 さ れ て い る。 これ は 前 節 で 述 べ た よ う に,ミ ク ロ理 論 か ら独 占的競 争 に不 可 欠 な仮 定 で あ

る。 ま た,仮 定 と して,消 費 と貨 幣 貯 蓄 の シ ェ ア,す な わ ち ケ イ ンズ の 消 費 性 向 で あ る γは,

0〈 γ<1(42)

とする。

上記のB-Kの 定式化と比較すると,貨 幣の実質残高ス トックMに 替えて,本 稿ではフローの

貨幣貯蓄Sが 入っている。再三述べているように,貨 幣ス トックの静学的均衡は考えず,ケ イ

ンズの原典に忠実な漏出としてのフローの貨幣貯蓄を入れてきている。CESの 各財消費のまと

まりと,貨 幣貯蓄部分がコブダグラスの関係になっているので,コ ブダグラス関数のシェア一定

の性質によって,所 得の一定割合が消費と貯蓄に分けられるというケインズ型消費関数がうまく

体現されている。 もっとも,消 費全体 と貨幣貯蓄の選択において,コ ブ=ダ グラス型を利用 して

いて,消 費総額 と貨幣貯蓄のシェアーが常に一定であることは,新 古典派マクロの最適化至上主

義からすると,弱 点だが,こ れは,ケ インズの消費の心理法則に忠実であるということ,ロ ーテ

クの実証研究ではサポー トされることで一応正当化 してお く。つ まり,上 は,CES一 コブダグラ

ス型消費関数のメリットにより,個 別財レベルでは弾力性1以 上の独占的競争の相対変動の ミク

ロ的基礎を もちつつ,よ り大きな消費総額 と貨幣貯蓄の選択に関 しては,ケ インズ型消費関数に

ちょうど,な っているのである。 これはケインズに忠実という我々の目的にうまく使える。

また,ケ インズの原典に忠実な古典派の第二公準の否定により,効 用関数か ら,労 働不効用が

除かれている。家計ブの予算制約式は,

のΣ 君Cヴ 十S;=㎎ ハ弓≡H(43)

∫=1

とする。上記のB-Kの 定式化と比較す ると,前 節で上記のように,貨 幣ス トック残高は対象外

とし,企 業利潤はさしあたり家計の手に入 らず,家 計の今期のフローの所得は,労 働所得のみと

す る。労働は同質として,貨 幣賃金は固定 とす る。 これらもケインズの原典に忠実さから正当化

されると思 う。

以上の枠組みの下で,Dixit-Stiglitz(1977)の 独占的競争モデルを展開すると,効 用最大化

により,家 計ブの第 ∫財への家計別の個別財消費需要は,

・r一(PP)一BmPH;・(44)

S;=(1一 γ)H;(45)

で あ る。 上 記B-Kの メ リ ッ トの 利 用 で,こ の個 別 消 費 者 の 第 ∫財 へ の需 要 で は,所 得 弾 力 性 は1

と な って お り,以 下 の よ う に,市 場 需 要 へ の集 計 を簡 単 に して くれ るの で あ る。

前 節 で 述 べ た よ う に,B-Kと 異 な り,独 立 投 資 の 注 入 と貨 幣貯 蓄 へ の 漏 出 を 仮 定 して い るの

で,独 立 投 資 か らの 消 費 需 要 と して,上 記 と 同一 な効 用 関数 を も った 消 費 者 が,こ の 消 費 財 産 業

の モ デ ル外 部 の 投資 財産 業 にい て,総 計1だ け の 労 働 所 得 を得 て い る とす る。

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ll4『 明大商学論 叢』第88巻 第1号(114)

家 計 に関 して 足 し込 む こ と に よ って,第 歪財 へ の 市 場 需 要 曲線,す な わ ち,企 業 ∫が直 面 して

い る個 別 需 要 曲 線 は,第 ∫財 へ の 市 場 需 要 を}ぞ と お く と,

ピ ー ゑ ・_;一(P;arP)mF(nEH,i =i+1)(46)

と求まる。

企業の生産サイ ドは,B-Kと はが らりと変える。まず,ケ インズ 『一般理論』に忠実に,労

働は同質で,貨 幣賃金Wは 固定とする。B-Kよ りも単純な生産関数を仮定する。 しかし,収 穫

の程度については,.教 科書乗数の収穫一定以外のケースを含むように一般化 しておく。

1⊥Y,=sN;(47)

こ こ に,α>1な らば,収 穫 逓 減,a=1な らば収 穫 一 定,ま た 独 占的 企 業 の 利 潤 最 大 化 の2階

条 件 に よ り,収 穫i逓増 も,α 〉(θ 一1)/θ ま で許 容 され る。

古 典 派 の第 一 公準 の具 体 形 と して,労 働 需 要量 は,財 の生 産 水 準 か ら派 生 的 に決 ま り,

1>1=δ}Id(48)

で あ る。 費 用 関数 は,

臓 ・=δW}7α,限 界 費 用=α δW}1α一1(49)

で あ る。 企 業 の 利潤 は,

v=P,Yd-W!>1・(50)

.とな る。

次 に,一 般 均 衡論 のB-Kモ デ ル で は ほ とん ど考 え られ て い な い面 に 進 み,B-Kと は 侠 を 分 か

つ 。 す な わ ち,前 編 小 原(2005)で 明 らか に され た 「貨 幣 所 得 外 部 性 」 の 定 式 化 に 進 ん で 行 く。

国 民 経 済 の 貨 幣 の サ ー キ ュラ ー フ ロ ー を考 え る と,企 業 と家 計 の 間 に は,上 記 の生 産 以 外 に,も

う一 つ の 関係 が あ る。 企 業 が 利 潤 最 大 化 の た めの生 産 の た め に労 働 者 を雇 うが,そ の 対 価 と して,

労 働 者 に要 素 所 得 が 支 払 わ れ る。 マ ク ロで は,全 企 業 の 総 労 働 費 用 の支 払 い=労 働 者 の 総 所 得

と い う 関係 が 存 在 し,そ の 要 素 貨 幣 所 得 か ら財 へ の 需 要 が生 まれ る の で あ る(See小 原2005,

第4.2節 需 要 と供 給 の 相 互 依 存 関 係)。 式 の上 で は,す な わ ち,

  カ ず  カ

、Σ1㎜;・=、 Σ1㎜;一aδW、;1耳 α=、;μ(51)

(51)式 を,市 場需要曲線(46)式 に代入すると,

Yd一、亀 ら 一(P;a7P)mF(・ 哺 珊+・)(52)

となる。 この式において こそ,有 効需要の本質である 「貨幣所得外部性」が体現 されているので

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(115)オ ール ド・ニューケイ ンジア ンによ る有効需要の原理の ミクロ的基礎115

あ る。 この式 は,自 企 業 の 生 産 を 増 大 させ れ ば,所 得 が増 大 な い し自財 へ の 需 要 曲 線 が上 方 シフ

トす る とい うの で は な く,所 得 な い し自財 へ の個 別需 要 曲 線 は,自 分 以 外 の 他 の 企 業 の供 給 レベ

ル の 決 意 に依 存 して い る こ とを 表 して い る。 す な わ ち,多 財 モ デ ル の 中 で,StrategicCompli-

mentsの 条 件 下 で,一 斉 に全 産 業 で生 産 レベ ル を 上 げ る と,経 済 に お け る賃 金 支 払 い総 額=貨

幣所 得 が 増 え,貨 幣 所 得 外 部 性 に よ って,各 企業 の個 別 財 需 要 曲 線 も右 方 ヘ シフ トさ せ て環 流 し

て くる こ とが 式 に明 瞭 に現 れ て い る。 も ち ろん,StrategicComplimentsの 条 件 が な く,1企 業

で 産 出量 を増 大 さ せ て も,当 初 の 仮 定 の よ う に,1企 業 に よ る マ ク ロ産 出 へ の 影 響 は ネ グ リジブ

ル な もの で あ り,自 分 の 財 へ の 需 要 増 大 の環 流 効 果 は期 待 で き な い。 つ ま り,1企 業 だ け で 産 出

を 増 大 す るイ ンセ ンテ ィブ は な い。 しか し,後 述 す る よ う に,ニ ュ ー ケ イ ン ジア ンの 従来 か らの

literatureと は異 な り,CoordinationFailureの 複 数 均 衡 で はな く,ケ イ ンズ に忠 実 な 唯 一 均衡

で あ る(小 原2005,第4.1節 参照)。

ま た,こ の 式 は,第3節 の佐 藤(1955)な どの,多 くの 線 形 を仮 定 した ア ドホ ッ クな 需 要 曲線

シ フ トと は異 な り,こ こで は,貨 幣所 得 外部 性 の 大 き さ=個 別 財 需 要 曲線 の シ フ ト幅 が,効 用 関

数 や 生 産 関 数 に お け る ミク ロ的基 礎 の構 造 パ ラ メ ー タ ー に よ って,明 確 に定 式 化 され て い るの が

長 所 で あ る。 収 穫 一 定 も仮 定 され て お らず,一 般 的 な乗 数 の大 き さ の定 式 化 が 可 能 で あ る。 以下,

この モ デ ルの マ ク ロ均 衡 を解 け ば,有 効 需 要 の 原 理 の初 期 マ ク ロ均 衡 の定 式 化 と,一 般 的 乗 数 分

析 が 可 能 に な る は ず で あ る。

さ て,(52)式 は,独 占的 競 争 モ デ ル の祖 チ ェ ンバ リ ンの4dカ ー ブに 相 当 す る。 個 別 企 業 は,

44カ ー ブ ・テ イ カ ー と して 行 動 し,44カ ー ブ1本 に対 して,最 適 な価 格 と産 出量 を 反 応 す る。

44カ ー ブ を完 全 競 争 に お け るマ ー シ ャル の 個 別 財需 要 曲 線 と見 立 て れ ば,前 編 小 原(2005)の,

貨 幣 所 得 外 部 性 に よ る個 別 需 要 曲 線 の シ フ トとマ ー シ ャル 的調 整 過 程 の トラ イ ア ン ドエ ラ ー に よ

る均 衡 へ の 収 束 過 程 が独 占 的競 争 で も成 立 す る と考 え られ る。 チ ェ ンバ リ ンの44カ ー ブ との違

い は,ミ ク ロ理 論 で はd=d(P;P)と,所 得(予 算 制 約)は 所 与 で,磁 カ ー ブ の シ フ トパ ラ

メ ー タ ー は,全 体 の平 均 物 価 水 準Fの 一 つ の み で あ る。 他 の企 業 の 価 格 水 準 に よ る 需 要 の奪 い

合 い が 入 って く るの で,4dカ ー ブの 位 置 は,他 の 企 業 の価 格 水 準 が決 ま って 初 め て,決 ま る も

の で あ る。

と ころ が,本 稿 の モ デル で は,マ ク ロ的 な 円環 構造 で あ る所 の 「貨 幣 所 得 外 部 性 」 を取 り入 れ

る。 その た め,本 稿 の4dカ ー ブ は,平 均 物 価 水 準 と,全 体 の 産 出水 準 に対 応 した所 得 水 準 とい

う二 つ の シ フ ト ・パ ラ メ ー タ ー を持 って い る。 す な わ ち,

耳d=Y`(P;;P,H(Y))(53)

で あ る。 第2シ フ トパ ラ メー タ ー は経 済 全体 の平 均 生 産 水 準 に依 存 して,所 得 と予算 制約 が決 ま っ

て,個 別 財 需 要 曲 線 を シフ トさ せ る とい う貨 幣 所 得 外 部 性 を表 して い る。 ま さ に これ は,前 編小

原(2005,第4.2節)で 問 題 とな っ た,平 井(2003,1981)が 提 起 した ケ イ ンズ が 需 要 の 各 産 業

へ の 配 分 比 率 一 定 とい う恣 意 的 な仮 定 を して い るか と い う問題 に は っき り と答 え を 与 斥 る こ とに

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ll6『 明大商学論叢』第88巻 第1号 .(116)

な るの で,以 下 の よ うな2ス テ ップ で,じ っ くり と問題 を解 く こと に した い。 以 下 で 見 るよ うに,

有 効 需 要 分 析 で は,ス テ ップ1と して,第1シ フ トパ ラ メ ー タ ー の相 対 価 格 の変 動 に よ る需 要 の

取 り合 い は各 期,競 争 均 衡 で 釣 り合 い が とれ た 「一 義 的 」(byケ イ ンズ 『一 般 理 論 』 訳p.285)

な値 に 決 ま った上 で,ス テ ップ2と して,ケ イ ンズ に本 質 的 な 貨 幣 所 得 外 部 性 に よ る個別 需 要 曲

線 の シ フ トが 主 役 と して所 得 メ カ ニ ズ ム が 起 こる の で,ケ イ ンズの 有 効 需 要 均 衡 は,マ ク ロ的 に

も,ミ ク ロ的 基 礎 と して も,全 く整 合 的 な こ とが証 明 され るの で あ る。 実 は均 衡 に お け る価 格 と

産 出 の 値 を 求 め るだ けな らば,二 つ の 未 知 数 につ い て な の で,連 立 方 程 式 を解 け ば す ぐ解 け る

(1993マ ク ロ ワ ー ク シ ョ ップ に お け るK.G.西 村 教 授 の御 批 判)が,こ の理 由 で,本 稿 で は相 対

価 格 変 動 を まず 解 いて,そ の 後,貨 幣所 得 外 部性 を解 く とい う ゆ っ く り した 解 法 を と る。

ス テ ッ プ1:ま ず 全体 の 産 出 レベ ルy,所 得 ・予 算 制 約H(Y)をgivenと して,超 短 期 的 に

価 格 競 争 が起 こ り,直 ち に一 時 的価 格 均 衡 の 近傍 に 達 す る とす る。Pの 価 格 均 衡 を 見 つ け る。 こ

れ は,普 通 の ミク ロで の 独 占的 競 争 均 衡 に似 た もの で あ る。 具 体 的 に は,ミ ク ロ対 マ ク ロ の反 応

曲 線 を 考 え,個 別 主 体 の利 潤 最 大 化 の 君*が お 互 い 全 体 と して コ ン シ ス テ ン トに な る 不 動 点

P瞥=P**を 求 め る。 シ ンメ トリ ッ ク な均 衡 とな る。 この 不 動 点 の 利 用 は,Hart(1985)の 利

用 で あ る。

ス テ ップ2:ス テ ップ1の 利 潤 最 大 化 のP,*と 同 時 に,個 別 産 出量Y*,し た が って平 均 産 出

レベ ルy*も 決 ま る。 も し,こ の平 均 産 出 レベ ル が 元 の平 均 産 出 レベ ル よ り も大 き け れ ば,国 民

経 済 の 貨 幣 の サ ー キ ュ ラー フ ロ ー上 で,貨 幣所 得 外 部 性 を 引 き起 こ して,4dカ ー ブ が上 ヘ シ フ

トし,再 び ス テ ップ1の 価 格 競 争 の プ ロセ スが起 こ る。 再 び ミク ロ対 マ ク ロ の反 応 曲線 を 考 え,

平 均 産 出 レベ ルY*の 不 動 点 が 存 在 す れ ば,マ ク ロ的 均 衡 産 出量(有 効 需 要 産 出 量)と な る。 つ

ま り,ス テ ッ プ1,2の オ ー バ ー ・オ ール な効 果 を 含 ん だ産 出量 の 不 動 点 が 有 効 需 要 「均 衡 」 産

出量(前 編 小 原(2005)第4節 参 照)で あ る。 テ クニ カル に具 体 的 に は,ス テ ッ プ1で,Pをy『

で 表 す こ と に よ り,44カ ー ブをdd(F**(Y),H(Y))と す れ ば,ス テ ップ2に お い て は,産 出

レベ ルyの 動 き によ る需 要 曲 線 の シ フ ト(貨 幣 所 得 外 部 性)に 集 中 で き る こ と にな る。

次 に ス テ ップ1の 計 算 に具 体 的 に入 る。

1)初 期 平 均 価 格 と してP(0)を 置 く と,磁 カ ー ブ が1本 定 ま る。

2)利 潤 最 大 化 の個 別 財 価 格P,*(1)が 定 ま る。

3)シ ンメ トリーの 前 提 に よ り,皆 同 じ価 格 で 価 格 均 衡 に な る。 それ は す な わ ち,B-Kモ デ

ル に もあ っ た よ う に,CES効 用 関数 の 独 占的競 争 の枠 組 み で は,

ユP(1)≡(÷ ゑ 翠 一・)i=e一 理(1)(・4)

とな る よ うな、 つ ま り、F(0)=F(1)=P*(1)と な る不 動 点 と して の 平 均 価 格 水 準 を 求 め た い。

独 占 的企 業 の 利 潤最 大 化 の 主 体 均 衡 の価 格 の式 を求 め た い の で,(50)式 の 利 潤 の 式 を持 ち 出 し

て,(49)式 の 費 用 関数 を 代 入 して,第 歪企 業 の 利潤 の 式 は,

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(ll7)オ ー ル ド ・ニ ュー ケ イ ン ジア ンに よ る有 効 需 要 の原 理 の ミク ロ的 基 礎ll7

v,.=P;】{4-1暇 ・(55)

一P;((PP)誹 言)一 ・W((P;P)_9r¥omP/¥'H(56)

自分 の価 格 に つ い て利 潤最 大 化 す る の で,1階 の 条 件 と してP,に つ い て 微 分 して,岩 井(1987)

の よ うに,各 企 業 は微 少 な 存 在 とい う前 提 な の で,平 均 価 格Fは 所 与 とで き る。 ま た本 稿 の 仮

定 に よ り,賃 金WはB-Kと 異 な り所 与),項 を 整 理 す る と,次 の よ うな式 が得 られ る。

(P;・(1))+  1)一,磐1δ 吻(ym)α 一'五 位一')(P(・))(  θ  )(・ ・)

ス テ ップ1で は,不 動 点P**=Pi*(1)を 求 め れ ば よ い の で,こ れ を 上 式 に代 入 して,

ユP'・ 一[、9a16W¥

m¥a一 歴 一a.(58)

こ こで は,ま だ マ ク ロの 反 響,貨 幣 所 得 外 部 性 を考 え て い な い,部 分 均 衡 な の で,固 定 され た

各 所 得 水 準,予 算 制 約 のHに 対 して,価 格 均 衡P**が 一 意 に 定 ま る こ とが わ か った(上 述 の よ

うに,θ>1)。

次に,ス テップ2に 進む。以上で,各 瞬間の相対価降変動については均衡が得 られたので,次

は,産 出 レベルの変動による貨幣所得外部性の効果を入れた上でのマクロ均衡を解きに行 く。さ

て,各 所得,予 算制約のπ は,働 いた分の労働所得に依存するか ら,前 期の内生変数である全

産業の実質産出 レベルに依存 している。他方で,上 の定義のように,個 別企業の生産の合計を,

企業数掛ける平均産出 レベルyで もって置き換えることができる。

の ハH(Y)コ δWΣ}7α 十i=δV「 〃zy『α+1(59)'

i=1

ス テ ップ1で 得 られ たF**を 代 入 す る こ と に よ り,企 業2の 直 面 す る44カ ー ブ は,相 対 価格 変

動 が 調 整 済 み の 価 格 均 衡 を 内包 した もの とな り,▼

・… カ ー ブ ・Y`一BP,rP**mP'.(〃Lδ1〃yα 十1)(・ ・)

とな る 。 とこ ろ が,不 動 点P**に よ り,P;に つ いて の1階 の条 件 を 解 い た最 適 なP,*は,P料 に

一 致 す る よ う に で き て い る。 よ って,召 料 と同 時 に 決 ま る不 動 点 産 出 量Y,**は,(60)にPI=

P'*を 代 入 したYの 不 動 点 を求 め れ ば,す ぐ求 ま る。 つ ま り,ス テ ッ プ1で 解 か れ た価 格 均 衡

の 磁 カ ー ブだ けを 考 え れ ば,我 々 は,産 出 の変 動 に よ る貨 幣 所 得 外 部 性 にの み注 目す れ ば,よ

いの で あ る。(上 記 利 潤 を 耳 につ いて 微 分 して も同 じ結 果 が得 られ る。)

Ψ*__rmP*.(呪 δwyα 十1)(61)

これ に,(58)式 を代 入 す る と,

 Ψ ・一[θ 一1(θαδIF)(Ym)(m・ 瞭+・)]a(62)

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118『 明大商学論叢』 第88巻 第1号(118)

の よ うに,ス テ ップ1の(58)式 の お か げ で 価 格均 衡 が 解 決 済 み な の で,企 業2の 産 出 レベ ル は,

内 生 変 数 と して は,平 均 産 出 レベ ル1'の み に よ っ て記 述 す る こ とが で き 規 これ は,Yに 対 す

る個 別 産 出 レベ ル 耳 の 反 応 関数 と解 釈 で き る。 貨 幣所 得 外 部 性 に よ っ て,さ ま ざ ま な 個 別 需 要

曲線 の シ フ トが 起 こ るわ けだ が,マ ク ロ均 衡 は,そ の反 応 曲線 の 不 動 点 と して 求 め る こ とが で き

る。 当 初 の設 定 の よ う に,各 企 業 は シ ンメ トリ ック に 同質 で あ る こ とを 利 用 して,有 効 需 要 の原

理 の マ ク ロ均 衡(不 動 点)は,(62)式 で,Y'*=Yと お い て,

匹((θ 一1θα)γ)Y`・(繍)1(63)

を解 けばよいことになる。 これをYに ついて解 くと,有 効需要均衡の平均実質産出「レベルfED

が得 られる。

鐸一[応 伽 ⊥'一

とな る。 これ が 有 効 需 要 均 衡 に お け る1企 業 当 た りの 平 均 実 質 産 出量 で あ る。 上 記(47)の 所 で,

θ と α に つ い て は 条件 を 課 して あ る の ぞ,

θα>1(65)

(θ一1)

と う ま くな って お り,か つ,消 費 性 向 の α は,0〈 γ〈1な の で,有 効 需 要 均 衡 産 出 レベ ル に は

正 の 解 が一 つ 存 在 す る こ とが 言 え る。 これ で 有効 需 要 均 衡 の存 在 と唯 一 性 が 証 明 で.きた。

さ らに,一 般 的乗 数 へ 向 けて,も う一 歩 進 めて,消 費 財 セ ク タ ー全 体 の 有 効 需 要 均 衡GDPの

cEDを 求 め る と,

(消 費 財 セ ク タ ー の産 出)=規P**(アEP)・f即(66)

よ り,

G.ED-rI

i一(e-1)rBa・(s7;

す な わ ち,価 格 伸 縮 で ミク ロ的 基 礎 の あ る一 般 的 乗 数 の値 は,

1一(γθ一1),一 ⊥.1(B-1)(・8)θα γ θα

とな る。

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(119)オ ー ル ド ・ニ ュ ー ケ イ ン ジア ンに よ る有 効 需 要 の原 理 の ミク ロ的 基 礎119

5.2一 般 化 乗 数 の性 質

上 記 に求 ま った一 般 化 乗数 は,価 格 固 定 を仮 定 しな い で,収 穫可 変 の場 合 を 包括 し,か つ,し っ

か りと した ミク ロ的 基 礎 を 持 ち,ミ ク ロ の効 用 関 数,生 産 関数 に お け る構 造 パ ラ メ ー ター に よ っ

て 規 定 さ れ て い る。 具 体 的 に は,そ の一 般 化 乗 数 は,代 替 ρ 弾 力 性 θ,収 穫 の 程 度 の逆 数 α,消

費 性 向 γに依 存 して い る。

まず,上 記(67)の よ うに,有 効 需 要 均 衡 の 国民 所 得 水 準 は,数 式 上 で 相 殺 され て,貨 幣 賃 金 水

準Wに は 依 存 しな い 。 『一 般 理 論 』 第19章 で論 じ られ た貨 幣 賃 金 の 変 動 の,国 民 所 得 水 準 へ の

影 響 に 関 して は,本 稿 の モ デル で は 中立 的 と言 え る。 『一 般 理 論 』 第19章 の 貨 幣 賃 金 に関 す る ケ

イ ンズ の 言 説 と も整 合 的 で あ る。 これ は,ケ イ ンズ が,『 一 般 理 論 』 の 前 半 で は,ま だ貨 幣 賃 金

は一 定 と仮 定 して モ デ ル 構 築 して お い て,『 一 般 理 論 』 第19章 で は じめ て,こ の仮 定 を外 して貨

幣 賃 金 の変 動 の 影 響 を 考 察 す る と い う二 段 構 造 に な って い る こ と に も,忠 実 で あ る。

次 に,ParadoxofThriftは き っ ち り と は言 え な い 。 本 稿 の ノー テ ー シ ョン だ と,貯 蓄 性 向

1二 γを上 げ る と,個 別 主 体 の 意 図 と して は 貯 蓄 額 が増 え そ うだ が,消 費 が 減 る こ と に よ って,

産 出,要 素 所 得 が減 少 し,経 済 全 体 の貯 蓄 総 額 は,一 定 の'ままで あ る とい うモ デ ル結 果 が 出 れば,

貯 蓄 の パ ラ ドック スが 成 立 す る。 しか し,労 働者 が 行 う総 貯 蓄 額 は,

=(17)〃zδW「(y醍))α 十(1一 γ)1(69)

一Ci-r;(卜輌m

とな り,こ れ を消 費 性 向 γで微 分 す る と,

θ一1 -1

θα 〈0(71)

(1一(B一]Ba)γ)2

とな るが,こ れ は,

θ一1 〈1(72)

θα

で あ るか らで あ る。 つ ま り,貯 蓄 の パ ラ ドック ス は ぴ った り とは成 立 しな い 。

次 に,そ れ ぞ れ の構 造 パ ラ メー タ ーの 値 に よ って,一 般 化乗 数 が ど う変 化 す るか の性 質 を探 る

こ と に しよ う。

まず,代 替 の 弾 力 性 θに つ い て で あ る が,こ れ は上 記,個 別44カ ー ブ の価 格 弾 力 性 に も関 連

して い る。 繰 り返 しに な る が,θ>1は,独 占的 競 争 企業 の 利 潤 最 大 化 の1階 の 条 件 で あ る ラ ー

ナ ー の式

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120『 明大商学論叢』第88巻 第1号(120)

君 θ云1一 限界費用 ・(73)

で正 の解が存在するために,ミ クロ面から仮定されていただけである。前編小原(2005)第4,2

節で詳述 したようにケインズの有効需要均衡では,平 井(2003,1981)の ように,財 の配分比率

一定=個 別財需要の価格弾力性 は1に 等 しいというミクロとマクロの分断が存在 し,『一般理論』

第3章 の有効需要の原理は成立 しない,と いう平井(2003,1981)の 錯覚を陽表的に否定できた

ことが重要である。つまり,本 稿のモデルによって,1以 上の価格弾力性における相対価格変動

を競争均衡として 「一義的」に決めながら,貨 幣所得外部性が働いて,有 効需要均衡が成立する

ということで,ケ インズの有効需要の原理は全くを以て,整 合的であることが証明されたのであ

る。

さて,本 節の本題に戻ると,代 替の弾力性は,上 記の式から,ラ ーナーの独占度 と対応している。

すなわち,θ が小さくて,1に 近いほど,ラ ーナーの独占度は高くなるのだが,本 稿の一般的乗数

は,ラ ーナーの独占度が高いほど,有 効需要均衡産 出レベルは低 くなる。この理由の経済学的直感

的意味づけは,代 替の弾力性が小さいほど,独 占度が高 くなり,ミ クロ経済学の教科書の通 り,

所与の需要曲線に対する独占的企業の利潤最大化(主 体均衡の)産 出レベルが低 くなり,そ こか

ら,労 働者への派生需要量が小さくなり,そ の分,貨 幣所得外部性が小さくなるからだと考えられ

る。 これは,第2節 のニューケインジアンの先行研究の,独 占度が高いほど乗数が大 きいという大

半の結果とは,全 く逆の結果が出ている。こちらの方が,現 実的であると自負している。

逆 に,代 替の弾力性をどんどん大 きくして行 くと,一 般的乗数の興味深い性質が得 られる。

θを無限大に近づけて行 くと,一 種の擬似的完全競争状態にす ることができるが(た だし,代 替

の弾力性が無限大では財は1種 類 しかないことにな り,製 品差別化の独占的競争や,多 財の完全

競争ではなくなる),そ の場合乗数の値は,

γ(74)

α一γ

とな り,収 穫の程度 αに依存するところが教科書の減税乗数とは異なるが,さ らに収穫の程度

を収穫一定 α=1と すると,

γ(75)1一γ

であり,教 科書の減税の乗数に一致するのである。つまり,教 科書の乗数は,完 全競争で,収 穫

一定を仮定 したものとして,本 稿の ミクロ的基礎のある一般化乗数の一つの特殊ケースとして包

括することができたわけである。本稿の一般化乗数は,収 穫の程度 とラーナーの独占度めグラデー

ションを可変として含んだ,ま ざに一般化された乗数 と言えるわけである。

なお,こ の乗数が,マ クロ教科書の投資乗数である,

1(76)1一γ

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(121;オ ール ド・ニ ューケイ ンジア ンによる有効需要 の原理 の ミクロ的基礎121

で な く,減 税 の乗 数 と一 致 す る理 由 は,教 科 書 の よ う に,ナ イ ー ブ に,マ ク ロ 的塊 の 集 計 数 量

(多 財 の 区 別 な く,金 額 と して,塊 と して の 集 計 的 消 費)と して,独 立 投 資 の 注 入 が 即 す ぐに 消

費 支 出 に加 え られ るの と違 って,ミ ク ロ的 基 礎 モ デ ル に お い て は,第4節 のB-Kモ デル も同様

で あ るが,個 別 財 へ の配 分 を主 体 均 衡 で合 理 的 に 決 め るた め に,独 立 投 資 の注 入 が,一 旦,所 得

と して 消 費 者 に受 け止 め られ て か ら,消 費 者 の 効 用 関 数 に基 づ い て,合 理 的意 思 決定 と して,各

差 別 化 製 品 に配 分 さ れ る か ら,国 民 経 済 循 環 の 貨 幣 の サ ー キ ュラ ー フ ロ ー上 の所 得 の 段階 か ら入

る た め,一 回 余 計 に貨 幣 所 得 循 環 を通 る た め,支 出 の 前 に貨 幣 貯 蓄 へ の漏 出 が早 く一 回入 り,減

税 の乗 数 と等 し くな る と考 え れ ば,整 合 的 で あ る と思 う。 よ って,本 稿 の乗 数 の特 殊 ケ ー スは,

ケ イ ン ジア ン教 科 書 の減 税 の乗 数 と一 致 す る の で よ い。

今 度 は,収 穫 の程 度 の 一 般 化 乗 数 へ の影 響 を考 え て み よ う。 次 ペ ー ジ の図1の,1企 業 あ た り

の産 出量 の 反 応 曲 線 の グ ラ フ を見 て い た だ き た い。

ま ず,α=1の 収 穫 一 定 の ケ ー ス で は,図1一(a)の よ うに,上 記(62)式 の産 出 レベ ル の反 応 曲

線 が 線 形 に な り,そ の 反 応 曲線 と,45度 線 の 交 点 に よ って均 衡 産 出=有 効 需 要 均 衡 が 求 ま る。

これ は,α=1で は,限 界 費用 が定 数 に な り,本 稿 の モ デ ル セ ッテ ィ ング の弾 力 性 一 定 の4dカ ー

ブ と組 み 合 わ さ れ る と,貨 幣 所 得 外 部 性 な ど に よ って44カ ー ブ が どこ に シ フ トしょ うが,利 潤

最 大 化 価 格 は一 定 とな り,そ の 結 果,マ ク ロの 平 均 価 格Pも 一 定 とな るか らで あ る。 上記 ステ ッ

プ1は,収 」 定 の 場 合,価 格 均 衡 が

P**一 θ δw(77)θ一1

とな り,上 記,(62)式 の 反 応 曲線 は具 体 的 に は,

Y'・ 一e-e'7Y+(θ 一1θδw)71m(78)

の よ う に,線 形 と な る。 思 うに,45度 線 の 意 味 が か な り異 な るが,本 稿 の 有 効 需 要 均 衡 は,サ

ミュエ ル ソ ンの45度 線 分 析 を も,特 殊 ケ ー ス と して包 括 す る,一 般 化 さ れ た もの で あ る と言 え

る の で は な い か と思 う。 収 穫 一 定 の 限定 的 ケ ー ス に お け る有 効 需 要 均 衡 の産 出量 と乗 数 は,

y・・一1`1(79)

(θ(1-E),一1)・ 隔

乗 数 一,B'7一(B-1)γ(・ ・)

とな る。

収 穫 逓 減 につ いて は,解 析 的 に解 け ず,図1一(b)が 一 例 で あ る が,(64)式 か(67)式 を α で微 分

して も明 らか で あ るが,収 穫 逓 減 で あ る ほ ど,均 衡 実 質 産 出 量,一 般 化 乗 数 の値 は小 さ くな る。

こ れ は経 済 学 的 に,直 感 的 に整 合 的 な結 果 で あ る。

収 穫 逓 増 α 〈1の ケ ー ス につ い て は,図1一(c)が そ の 一 例 で あ る。 た だ し,収 穫 逓 増 の場 合,

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122『 明大商学 論叢』第88巻 第1号'(122)

耳**

(θ 一1θδ1〃)素・

0

ノノ1

/ノ1ノ  

ノ!1/1

/1ノ

ノ1ノ  

!ノ1〆1

/1!

ノ1/1

ノノ  

/45。1

!!

!/

//

/!

ノ!

!!

/〆

ノ■

!/

fEDY

図1一(a)収 穫 一 定 の ケー ス(α=1)

耳**

0

450線,ノ!!

ノ ノノ ノ!

ノ!!!1

;/,!1〆 、_(θ 一1)γ

/12θノ'1

〆ノ

ク'漸 近 線

アEOY

図1一(b)収 穫 逓 減 の ケ ー ス(α=2の 例)

Y'*

0

054

アEDY

図1一(・)収 穫 逓増 ・ケー・(・1-2の 例)

図1収 穫 の程度 と有効需要均衡産出量

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(123)オ ール ド・ニ ューケイ ンジアンによる有効需要 の原 理の ミクロ的基礎123

上 記(47)式 の 所 で述 べ た よ うに,労 働 量 に 関 す る利 潤 最 大 化 の2階 の条 件 に よ り,代 替 の 弾 力性

との 関 係 で 逓 増 の程 度 に は 限界 が あ る。 特 に,上 記 の 代 替 の 弾 力 性 が無 限大 の時(一 種 の擬 似 的

完 全 競 争 の場 合),常 に α>1と な らね ば な らず,収 穫 逓 増 は 除 外 され る。 しか し,適 当 な範 囲

内 で,収 穫 逓 増 下 で の有 効 需 要 均 衡 を 示 す こ とが で き る。 収 穫 逓 増 につ い て は,次 の段 落 以 下 で,

詳 し く述 べ た い。

本 稿 の モデ ル は,収 穫 逓 増 の ケ ー ス の有 効 需要 の 原 理 を 定 式 化 で き た こ と も画 期 的 で あ る と思

う。 もち ろん,上 記,利 潤 最 大 化 の2階 の条 件 に よ り,均 衡 と両 立 す る収 穫 逓 増 の範 囲 に 制 限 が

あ る もの の,収 穫 逓 増 と有 効 需 要 の原 理 の 関 係 を 研 究 した先 行 研 究 の高 木(1990)で は,収 穫逓

増 や 収 穫 一 定 で さ え も ケ イ ンズ の有 効 需要 の理 論 も,全 て の 完 全 競 争 の均 衡 論 も崩 壊 す る と見

な され て い る か らで あ る(8)。高 木(1990)が 誤 った 理 由 と して は,前 編 小 原(2005)の よ うな戦

略 的 純 粋 論 理 批 判 と して ケ イ ンズ解 釈 を せず,ポ ス ト ・ケ イ ン ジア ン的 に 『一 般 理 論 』 は 悪 い意

味 で 残 津 と して,マ ー シ ャル の 価 値 論 を 踏 襲 して しま っ た と見 な して い る こ と と(第1節 の

Tobin1993と 似 て い る),ミ ク ロ的 な価 格 理 論 と して,収 穫 逓 減 な ら,供 給 制 約 で あ り,収 穫逓

増 な ら,ス ラ ッフ ァ的 な需 要 制 約 とい う レ ッテ ル 張 りを して しま って い る か らで あ ろ う。 現 実 の

経 済 で の 寡 占大 企 業 が需 要 制 約 下 に あ る とい う こ と と,ケ イ ンズ 『一 般 理 論 』 の よ うに,純 粋論

理 の 世 界 で,新 古 典 派 の貨 幣 中立 命 題 を根 底 か ら否 定 す る とい うこ と は次 元 が 異 な る こ とで あ る。

また,前 編 で も本 稿 で も述 べ た よ うに,ケ イ ンズ の 有 効 需 要 を需 要 制 約 とい う ワ ンサ イ ドで 見 る

こ とが そ もそ も誤 りで あ り,有 効需 要 とは,需 要 曲 線 と供 給 曲 線 が マ ク ロ的 な貨 幣所 得外 部 性 で

統 合 され た,需 給 「均 衡 」 で あ る。 本 稿 の収 穫逓 増 の ケ ー ス は,特 に,外 生 的 に一 方 的 な 需 要 制

約 も な く,需 給 均 衡 と して,有 効需 要均 衡 が 定 式 化 と図 示 出来 て い る(図1一(c))。

ま た,完 全 競 争 の 収 穫 逓 増 で も,Casarosa(1981)以 来 の ケ イ ンズ文 献 の よ うに,産 業 の 需

要 曲 線 を考 え れ ば,無 限 に 財 を 売 れ るわ けで はな く,需 要 制 約 が入 って い る。 ミク ロ経 済 学 の 教

科 書 に あ る次 ペ ー ジの 図2一(a)の よ うに,ケ イ ンズが 踏 襲 した マ ー シ ャル 的 調 整 過 程 で は,収 穫

逓 増 で も,産 業 の供 給 曲線 の傾 きが,需 要 曲 線 の 傾 き よ り も緩 け れ ば,安 定 的均 衡 が 唯一 存 在 す

る。 た だ し,ケ イ ンズ研 究者 に と って 深 刻 な の は,ミ ク ロ経 済 学 の初 歩 の マ ー シ ャ、ル 的調 整 過 程

と ワ ル ラ ス的 調 整 過 程 で は,収 穫逓 増 で,供 給 曲 線 も右 下 が りに な る場 合,安 定 と不 安 定 が 逆 に

な っ て しま う こ とで あ る。 図2の よ う に,ケ イ ンズ 『一 般 理 論 』 に忠 実 な マ ー シ ャル 的調 整 過 程

の 場 合,収 穫 逓 増 下 で も,供 給 曲線 の傾 きが 需 要 曲 線 の傾 き よ り も浅 け れ ば,均 衡 が 安 定 的 で あ

るが,ワ ル ラ ス 的調 整 過 程 で は,せ り人 が 発 散 方 向 に価 格 を動 かす の で,不 安 定 とな る。 前 編 小

原(2005,p.236)で 述 べ た よ う に,ワ ル ラ ス 的調 整 過 程 に よ る ケ イ ン ズ有 効 需 要 の ミク ロ的 基

礎 で あ るWeintraub(1957)やDavidsonandSmolensky(1964)で は,駄 目な理 由 が 収 穫i逓

増 の扱 い に もあ る とい う こ とで あ る。 ケ イ ン ズ有 効 需 要 の原 理 の基 礎 は,や は り マー シ ャ リア ン

で な け れ ば な らな い の だ。

(8)高 木(1990)は,収 穫 逓増で も,需 要制約の不完全競争 は許 される とされている。 高木(1990)は,

収穫逓増 の場 合の代替理論 については,カ ル ドアの い くつ かの試論 を紹介 しているに留ま ってい る。

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124『 明大商学論叢i』第88巻 第1号(124)

晶(需要価格供給価格)

0

超過利潤{i

iIlIlIl

i・ii}撤slIl曇Il

}ilDlll

lll

lII

ll;

一一 一一一一>9・ 〈 一一一 一一一14数 量

図2一(a)マ ー シ ャル 的 調 整 過 程(安 定)

P

雛 格↑

辮 格↓

超過需要

超S

禦\ ゐ

0

← 一 一一>4

図2一(b)ワ ル ラス的調整過程(不 安定)

図2弱 い収穫逓増下の マーシ ャル的調整過程 とワルラス的調 整過程

ま とめ る と,本 稿 で は,テ ク ニ カ ル に 優 秀 なニ ュー ケ イ ンジ ア ンの独 占 的競 争 の ミク ロ的 基 礎

モ デ ル 上 で,ケ イ ンズ の 有 効 需 要 の 原 理 に 忠 実 な,Clower一 佐 藤 の 貨 幣 所 得 外 部 性 の メ カ ニ ズ

ム を統 合 して,有 効 需 要 の 初 期 マ ク ロ均 衡 と一般 化 され た乗 数 の,ミ ク ロ構 造 パ ラメ ー タ ー に よ

る数 量 的 表 現 を初 めて 実 現 した。 上 記 の よ う に,』本 稿 の 一 般 化 乗 数 は本 稿 の一 般 化 乗 数 は,収 穫

一 定 と は 限 ら な.い可 変 の 収 穫 の 程 度 と,完 全 競 争 を一 特 殊 ケ ー ス と して 含 む ラ ー ナ ーの 独 占度

の グ ラ デ ー シ ョ ンを包 括 した,ま さに一 般 化 され た 乗 数 と して の性 質 が 存 在 す る で あ る。 また,

本 稿 の 一 般 化 乗 数 は,主 体 均 衡 → 市 場 均 衡 → マ ク ロ均 衡 と い う最 適 化 の ミク ロ的基 礎 に基 づ い て

お り,価 格 固 定 の下 で 抽 象 的 な集 計 数 量 だ けを扱 った 教 科 書 的 乗 数 と は異 な つ・て,価 格 が 伸 縮 的

な の で,マ ク ロ産 出の 変 動 を物 価 水 準 の 変 動 と産 出 量 の 変 動 に き ち っと分 解 で き る。

ま た,Clower一 佐 藤 の マ ー シ ャ リア ンの メ カニ ズ ム で は,BlanchardandKiyotaki(1987)

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(125)オ ール ド・ニ ューケイ ンジアンによる有効需要 の原理 の ミク ロ的基礎125

モ デ ル と は異 な り,比 較 静 学 だ けで は な く⑨,不 均 衡 状 態 で も動 学 過 程 を も扱 う こ と が で き る。

これ は,Clower一 佐 藤 メ カニ ズ ム で は,上 記 の マ ー シ ャル 的 調 整 過 程 で あ る か らで あ る。 つ ま

り,Clower一 佐 藤 メ カニ ズ ム で は,均 衡 の安 定 性 の 証 明 も,verbalな らば,す ぐ行 え る。 これ

が ケ イ ンズ 『一 般 理 論 』 で,均 衡 へ の収 束 プ ロセ スや 均 衡 の安 定 性 や不 均 衡 の ケ ー ス につ いて,

簡 単 に済 ませ て い る理 由 と推 測 され る。 そ の 意 味 で も,本 稿 モ デ ル解 明 は,ケ イ ンズ の 原 典 と整

合 的 で あ る。

5.3CooperandJohn(1988)の 「乗 数 効 果 」 とケ イ ンズ 的 乗 数 の 違 い の 考 察

上 述 の よ うに,本 稿 の モ デ ル で は,収 穫 逓 増 下 で さ え も,安 定 的 均衡 が 唯 一 存 在 す る こ との意

味 を,ニ ュー ケ イ ン ジア ン理 論 群 を整 理 した と言 わ れ る,有 名 なc60perandJohn(1988)の

ケ イ ンズ=複 数 均 衡 論 と の比 較 に お い て,検 討 した い。 本 稿 が,CooperandJohn(1988)に

対 して ど うい う位 置 に あ る'かを 簡 単 に触 れ て お き た い。 ま ず一 番 大 事 な こ と を述 べ て お く と,前

編 小 原(2005)第3.3節 の よ うに,StrategicComplimentsの 条 件 を 利 用 した外 部 性 を ケ イ ンズ

的 の 本 質 とす る点 に お い て,両 者 に共 通 性 が 見 られ るが,本 稿 の モ デ ル は,小 原(2005)の 第

4.3節 で 示 した よ う に,ケ イ ンズ の 原 典 に 忠 実 に,有 効 需 要 均 衡 に は 唯 一 均 衡 が存 在 す る の で,

CooperandJohn(1988)のCoordinationFailureの 複 数 均 衡 と して の ケ イ ン ズ把 握 と は全 く

意 味 論 が 異 な る こ とで あ る。

詳 論 に 入 る と,CooperandJohn(1988)は,寡 占の ゲ ー ム の設 定 で,戦 略 的 に 主 体 が行 動

す る状 況 を扱 って い る。 ニ ュー ケ イ ン ジア ンの 本 質 をCoordinationFailureと い う概 念 で 包括

しよ う とす る。Clower一 佐 藤 の モ デ ル は,ゲ ー ム に な らな い完 全 競 争 の原 子 的atomisticな 経

済 主 体 な ので 異 な る。 しか し,市 場 せ り人 が い る ワル ラ ジア ンで な く,マ ー シ ャル 的 調整 過 程 な

ので,企 業 に需 要 期 待 の主 体 性 が認 め られ て お り,ま た,産 業 単 位 で は 需要 曲線 を 定 義 で き るか

ら,他 の 全 て の 企 業(産 業)の 行 動 を 所 与 と した とき のbestresponseと い う形 で,反 応 関 数

が描 け る。Clower一 佐藤 の モ デ ル をCooperandJohn(1988)の 示 した 定 理 に 当 て は め て 考 え

る こ と もで き よ う。

CooperandJohn(1988)の 定 理6で は,StrategicCompliments(反 応 曲 線 の 傾 き が正)

が,乗 数 効 果 が 存 在 す る必 要 十 分 条 件 で あ る こ とが証 明 され て い る。 しか し,こ こ で定 義 された

乗 数 効果 とは,プ レー ヤー が 一 人 だ けで,戦 略変 数 を 増大 させ た 場 合 よ り も,全 員 で や った方 が

経 済 全体 の ペ イ オ フ増 大 効 果 が 大 き い とい う抽 象 的 な意 味 で あ る。 も ち ろん,こ れ は何 らか のパ

レー ト非 効率 性 を 反 映 して い る と解 釈 さ れ,パ レー ト最 適 性 しか 認 め な い新 古 典 派 マ ク ロ と比 較

す れ ば,十 分 ケ イ ン ズ的 と も言 え る。 た だ し,StrategicComplimentsだ け な ら,本 稿 第4.1

節,前 編 小 原(2005)第3.3節 で批 判 したBlanchard・Kiyotakiモ デ ル も,満 た して お り,乗 数

効 果 を 持 つ こ と に な る。 しか し,借 越 な が ら,本 稿 で 示 した もの が,ケ イ ンズ 自身 の い わ ゆ る投

(9)Iwai(1981),岩 井(1987)は 例 外 的 に,不 均 衡 状 態 で も動 学 過 程 を も扱 う こ とが で き て い る。

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126『 明大商 学論叢』第88巻 第1号(126)

資乗 数 で あ る で あ る一と主 張 した い 。 乗 数 と は,支 出 の変 化 に対 す る マ ク ロの産 出 量,雇 用 量 の 変

化 を 表 す 。 これ に対 して,CooperandJohnの 乗 数 効 果 は,も っ と広 い概 念 と い うこ とが で き

る。 例 え ば,StrategicComplimentsは,B-Kモ デ ル の よ う に,価 格 変数 につ い て も適 用 で き

る。 た だ,CooperandJohn(1988)の 乗 数 効 果 を も って,ケ イ ンズ 的 モ デ ル と言 う こ と は で

き な い,と い う こ とだ け は指 摘 して お きた い。

CooperandJohn(1988)や そ の他 の文 献 は,multipleNashequilibriaの 存 在 を示 し,低 レ

ベ ル の方 の 均 衡 を ケ イ ンズ 的 均 衡 と解 釈 しよ うと して い る。CooperandJohn(1988)の 定 理1

で は,StrategicCompliments(反 応 曲 線 の傾 き が 正)が,multipleNashequilibriaの 必 要

条 件 で あ る こ と が述 べ られ て い る。 十 分 条 件 は,Nash均 衡 で の反 応 曲 線 の 傾 き が,1に 等 しい

か,よ り大 き い こ とで あ る。Clower一 佐 藤 和 夫 の メ カニ ズ ム も,「 貨 幣 所 得 外 部 性」 は,産 出量

に 関 して反 応 曲 線 の傾 き は正 で あ る の で,一 種 のStrategicComplimentsを 満 た して い る。 し

か し,均 衡 で の反 応 曲 線 の傾 き は,セ ー の法 則 の ケ ー ス を除 い て,必 ず1よ り小 さい の で,均 衡

は一 つ で あ る。 しか し,財 政 支 出水 準 と投 資 水 準 に よ って,均 衡 国民 所 得 はい くつ も決 ま り う る。

経 済 活 動 水 準 が 自然 失 業 率 の レベ ル で 唯 一 定 ま る と い う新 古 典 派 に対 して,MultipleEquilibria

の 理 論 は,失 業 と並 存 す る均 衡 は い くつ もあ る とい う ケイ ンズ の不 完 全 雇 用 均 衡 と整 合 的 とい え

る。

しか し,CooperandJohn(1988)は,閉 じた 一 般 均 衡 モ デ ル の 中 で,純 粋 な 経 済主 体 の 反

応 を ゲ ー ム論 が ら分 析 した もの で あ る 。 彼 らは,何 らか のCoordinationFailureと して ケ イ ン

ズ 的 均 衡 を 把握 す る。 私 と して は,そ れ で は 実物 理 論 の み で あ り,貨 幣 的 経 済 理 論 と して の ケ イ

ンズ が 欠 け て しま うの で,批 判 した い 。Clower一 佐 藤 の 有効 需 要 の モ デル の均 衡 は,「 貯 蓄 は必

ず し も支 出 され な い」 とい う マ ク ロ的 貨 幣circularflowの な か で の 「漏 出」leakageと して の

存 在 が その 根 本 に あ る とい う点 で,異 な る。 上 述 の よ うに,ニ ュー ケ イ ン ジ ア ン は,閉 じた一 般

均 衡 モ デ ル を使 うの で,完 全 競 争 で 価格 が伸 縮 的 で あ ると,パ レー ト最 適 に な って しま う。 ニ ュー

ケ イ ン ジ ア ンの モ デ ル で は,不 完 全 雇 用 均 衡 を不 完 全 競 争 の 中 で しか示 せ な い。 一 つ の 原 因 は,

貨 幣 の サ ー キ ュ ラ ー フ ロー の 中 で の 「漏 出」leakageが な いか らで あ る。 我 々 の有 効 需 要 モ デ ル

は,完 全 競 争 で価 格 が伸 縮 的 で あ って も成 立 す る とい う意 味 で,逆 に,よ り一 般 的 な もの で あ る。

前 編 小 原(2005)第4.3節 に お け る 『一 般 理 論 』 の テ キ ス ト検 証 に お い て,学 説 史 的 に も,ケ

イ ンズ 自身 の有 効 需 要 の 原理,あ る い は非 自発 的失 業 均 衡 は,multipleNashequilibriaと は 違

う もの で あ'り,本 稿 の モ デ ル の よ うに,唯 一 均 衡 で あ る と い う のが 正 しい と筆 者 は考 え る。 しか

し他 方 で,CoordinationFailureのmultipleNashequilibriaは,ケ イ ンズ を超 え た 新 しい 理

論 で あ る可 能性 を持 って い る。 前 編 小 原(2005)で 述 べ た よ うな ニ ュー ケ イ ン ジア ンの 問題 点 を

克 服 し,「 貨 幣 所 得 外 部 性 」 の メ カ ニ ズ ム を入 れ て も,な お か つ,multipleNashequilibriaが

存 在 す るな ら,ま さ にそ れ は ニ ュ ー ケ イ ン ジ ア ンの 「ニ ュー 」 に値 す る こ と に な る。

した が って,本 稿 の 「貨 幣 所 得 外 部 性 」 を も って,多 彩 な ニ ュー ケ イ ンジ ア ンの理 論 モ デ ル を

再 検 討 す る こ とは意 義 の あ る こ と と思 う。

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(127)オ ー ル ド ・ニ ュ ー ケ イ ン ジア ンに よ る有 効需 要 の原 理 の ミク ロ的 基 礎127

5.4本 稿のモデルの問題点と解決の試み

と こ ろ で,本 稿 の モ デ ル に は 重 要 な 恣 意 的 仮 定 が 含 ま れ て い る こ と も認 あ な け れ ば な ら な い。

そ れ は,モ デ ル の 当初,企 業 利 潤 も,貨 幣 貯 蓄 と 同 じ く,漏 出1eakageと して い た 仮 定 で あ る。

こ こに は 載 せ な い が,計 算 す る と,企 業 利 潤 が,B-Kモ デ ル と 同様 に家 計 の 所 得 に入 り消 費 さ

れ る とす る と,収 穫 一 定 α=1の 特 殊 ケ ー ス以 外 は,解 析 的 に解 け な い。 そ の原 因 は,上 記 ス

テ ップ1の 最 適 価 格 が,右 辺 の 式 の 所 得Hに 入 って き て,H所 与 と して 段 階(ス テ ップ)を 踏

ん だ不 動 点 の導 出 が で き な い こ とが 一 因 で あ る。 経 済 学 的直 感 の説 明 は,利 潤 の 分 配 か ら の消 費

支 出が あ る と,企 業 が皆 で価 格 を 上 げ る と,家 計 の所 得 も増 え て,価 格上 昇 を 部 分 的 に 自 己実 現

させ て しま い,セ ー 法 則 の 中 立 均 衡 的 要 素 が 出 て くる こ と が考 え られ る。

な お,後 述 の よ う に,利 潤 か らの 消 費 性 向 が 労 働 所 得 か ら の消 費 性 向 と等 しい 場 合,B-Kモ

デ ル の ケ ー ス に 対応 す る こ と にな る。 教 科 書 的 減 税 の乗 数 と同 じ乗 数 の 値 が 常 に 出て きて,乗 数

の値 は もは や,収 穫 の 程 度 や 代 替 の 弾 力 性 に は依 存 しな くな る の で あ る。 しか し,そ れ は,収 穫

一 定 の 限定 され た ケ ー スの み で あ り,本 稿 の モ デル は,よ り一 般 的 な 乗 数 で あ る。 しか し逆 に,

例 え ば,本 稿 の モデ ル で は,カ レツ キ 的 に,よ り一 般 的 に,両 者 の 消費 性 向 が等 し くな い場 合 も,

考 え られ る こ とが メ リ ッ トで あ る。 本 格 的 課 題 と して は,現 代 の マ ク ロ理 論 が 解 析 的 に解 け な い

場 合 の数 値 シ ミュ レー シ ョンcalibrationを 行 い た い。

さ しあ た りの 解 決 の 糸 口 と して,ま ず,有 効 需 要 均 衡 時 の 国民 所 得 の 構 成 や,所 得 分 配 につ い

て調 べ て み た。 こ こ に は載 せ な い が,簡 単 な 計 算 に よ り,独 立 投 資1を 所 与 とす る と,消 費 財 セ

ク タ ー の利 潤 総 額 は,ラ ー ナ ー の独 占 度 と 関連 す る θ に依 存 しな い こ とが わ か る。 ラー ナ ー の

独 占度 あ る い は θが上 昇 して,マ ー ジ ンと い うか 価 格 の 面 で は,利 潤 の 増 大 要 因 が あ る が,マ

ク ロ的 に は,消 費 需 要 ひい て は企 業 の生 産 量 が 減 少 して,相 殺 され て しま う。

他 方,消 費 財 部 門 の 分 配 率 は,ラ ー ナ ー の独 占度 と関 連 す る θ に依 存 す る。 これ は,利 潤 総

額 は無 関 係 だ が,労 働 所 得 が θの 影 響 を 受 け る か らで あ る。 しか し,分 配 率 は,W,貨 幣 賃 金

率 に は影 響 され な い とい う興 味 深 い結 果 が得 られ て い る。

次 に,利 潤 か らの 消 費 支 出 を取 り入 れ た場 合,収 穫[一定 に 限 定 され るが,本 稿 の モ デル が解 析

的 に解 け る場 合 に,パ ラ メー タ ー の様 々 な場 合 の ケ ー ス 別 の 有 効 需 要 均 衡 の 性 質 を そ れ ぞ れ を載

せ て お き た い 。 場 合 分 け と して は,特 に,労 働 所 得 か ら の 消 費 性 向 を カ レ ツ キ モ デ ル 的 に,

γ=1と した場 合 を取 り上 げ,ケ イ ンズ 的 消 費 関 数 の ケ ー ス0<γ<1の ケ ー ス と比 較 す る。 こ

こか ら,ψ を消 費 財 部 門 の 企 業 の 利 潤 か らの消 費 性 向 とす る(0〈 ψ 〈1)。

まず,独 立 投 資 の 注 入 な しの ケ ー ス。

1)ψ=γ=1の ケ ー ス:こ れ は,国 民 所 得 の サ ー キ ュ ラー フ ロ ー上 で の 漏 出leakage(前 編

で も本 稿 で もケ イ ン ズ的 の 本 質 の重 要 部 分)が 全 く存 在 しな い 場 合 で あ る。 こ の場 合 の み,収 穫

一 定 で な く,α が何 で も,解 け,マ ク ロ産 出量 は,ど こ で も自 己実 現 す る,つ ま り,ケ イ ンズ が

言 った セー の法 則 の 中立 均 衡状 態 で あ る。 ケ イ ンズの 言 うよ うに,こ の場 合 は,経 済 の生 産 限界=

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128『 明大商学論叢』 第88巻 第1号(128)

完 全 雇 用 ま で 生 産 量 は 上 昇 しよ う。 貨 幣 貯 蓄 へ の 漏 出が な い と,た とえ,独 立 投 資 の注 入infec-

tionが な くて も,完 全雇 用 均 衡 が 成 立 して しま う こ とが わ か った 。 新 古 典 派 マ ク ロ の非 現 実 性

を如 実 に語 って い な い だ ろ うか 。

2)0<ψ<1,γ=1の ケ ー ス:正 の有 効 需 要 産 出量 は存 在 しな い。

3)ψ=o.γ=1の ケ ー ス1利 潤 か らの 消 費支 出 が な い本 稿 の モ デ ル と 同一 で,独 立 投 資 が

ゼ ロ だ か ら,正 の有 効 需 要 産 出量 は 存 在 しな い。

4)ψ=1,0く γ〈1の ケ ー ス:正 ゐ有 効 需要 産 出量 は 存 在 しな い 。

5)0〈 ψ<1,0〈 γ<1の ケ ー ス:1Eの 有 効 需 要 産 出量 は存 在 しな い。

6)ψ=0,0〈 γ<1の ケ ー ス:利 潤 か らの 消 費 支 出 が な い本 稿 の モ デ ル と 同 一 で,独 立 投

資 が ゼ ロだ か ら,正 の 有 効 需 要 産 出量 は存 在 しな い。

上 記 は,1)の セ ー の法 則 の 場 合 以 外 は意 味 が な いが,次 に,マ ク ロ経 済 学 的 に興 味 深 い,独

立 投 資 が 正 の場 合 の ケ ー ス を 検 討 して お こ う。

7)ψ;γ=1の ケ ー ス:こ れ は上 記1)と 同様,国 民 所 得 の サ ー キ ュ ラ ー フ ロ ー上 で の 漏 出

leakageが 全 く存在 しな い場 合 で あ るが,均 衡 解 は存 在 しな い。

8)0〈 ψ<γ=1の ケ ー ス:労 働 者 の み 生存 賃 金水 準 で,所 得 のす べ て を 消 費 す る カ レツ キ

的 ケ ー ス で あ る。

yEO一(θ 一11(811一 ψ)δw〃z)

乗 数 一1皇 ψ(82)

9)ψ=0,γ=1の ケース:本 稿の利潤か らの消費性向がゼ ロのモデルで,極 端に労働所得

からの消費性向が1と する特殊ケースである。

yED一 轟 轟・.(83)

乗数=θ'(84)

10)ψ=1,0〈 γ〈1の ケ ー ス:利 潤 か らの 消 費 性 向 が 賃 金 か らの よ り も高 く,100%で あ

る こ と は,非 現 実 に も思 え るが,政 府 支 出 か らの消 費 性 向 が100%と い うの は あ りえ るで あ ろ う。

1を 独 立 政 府 支 出 と考 え ば よ い。 た だ し,そ れ で も,企 業 の 利 潤 に100%法 人 税 をか け て 政 府 の

もの に す る な どの非 現 実 的仮 定 はや は り必 要 で あ る。

γED一(1 一,1、隔 ・(85)

乗 数 一(γ ・θ1一γ)(θ一1)(86)

と な る。

ll)0〈 ψ=γ 〈1の ケ ー ス:通 常 の消 費 性 向 レベ ル で,労 働 所 得 か ら の 消費 性 向 と,利 潤

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(129)オ ー ル ド ・ニ ュ ー ケ イ ン ジア ンに よ る有 効 需 要 の原 理 の ミク ロ的 基 礎129

か ら の 消 費 性 向 が ち ょ う ど 同 じ ケ ー ス だ か ら,BlanchardandKiyotaki(1987)の ケ ー ス に 対

応 す る 。

y即 一(7(B-1)11-r)B6Wm(・ ・)

乗 数 一 γ(88)1一 γ

とな る。 乗 数 に,ラ ー ナ ー の 独 占度 の影 響 が な い と こ ろが こ のBlanchard-Kiyotakiケ ー スの特

徴 で あ る。

本 稿 の モ デ ル は 収 穫 一 定 の 下 で,(ll)の 特 殊 ケ ー ス の 下 で は,Blanchard-Kiyotakiモ デ ル に

degenerate(退 化)し て し ま った わ け だ が,Blanchard-Kiyotakiモ デ ル は,第4.1節 の 後 半

p.108で も指 摘 した よ う に,本 稿 の よ うに ケ イ ンズ に 忠 実 に,貨 幣 所 得 外 部 性 と い うStrategic

Complimentsの マ ク ロ メ カニ ズ ム を 中 心 に,個 別 マ ー シ ャ リア ン部 分 均 衡 の 集 計 を積 み上 げ て

ゆ くの とは 異 な って,シ ョー トカ ッ トと して,先 に集 計 的 均 衡 を解 いて,そ れ を個 別 企業 需 要 曲

線 に代 入 す る と い う手 続 き を と って い る。 こ こ には 載 せ な いが,計 算 に よ り,均 衡 は 自己 実現 さ

れ るの で,OKで あ る。 ただ し,上 述 の よ う に,収 穫 一 定 以 外 の ケ ー ス で 利 潤 か らの 消費 支 出 が

あ る場 合 に つ い て は,本 稿 の モ デ ル は,Blanchard-Kiyotakiモ デ ル にdegenerate(退 化)は し

な い。 本 稿 の モ デ ル は,Blanchard・Kiyotakiモ デ ル の,別 な愚 鈍 な 解 き方 を した と い う こ とに

と ど ま らず,意 味 が あ る と思 う。 そ して,収 穫 一 定 以 外 の 場 合 で は,本 稿 の モ デ ル の 方 が,解 析

的 に解 けな い欠 点 は あ る が,Blanchard-Kiyotakiモ デ ル よ り も一 般 性 が あ るの で は な いか 。

12)0〈 ψ 〈 γ〈1の ケ ー ス:通 常 の 消 費 性 向 レベ ル で,労 働 所 得 か らの 消費 性 向が 利 潤 か

らの 消 費 性 向 よ り大 き い ケ ー ス だ か ら,現 実 的 パ ラ メー ター の ケー ス と言 え よ う。 収 穫一 定 の 限

定 付 きだ が,上 記 の 本 稿 モ デ ル の課 題 を ク リア ー した ケー スで あ る。

y切 一{,((θ 一1)γ1一 γ)十(γ一ψ)}、隔 ・(89)

乗 数 一 、(1 一,B'7)+(,一 ψ)(・ ・)

とな る。 収 」 定 α=1の 限 定 付 きだ が,利 潤 か らの正 の 消 費 性 向 ψ も含 め た意 味 で は,本 稿

で,最 も現 実 的 で,一 般 的 な乗 数 で あ る。

13)ψ=0,0<γ<1の ケ ー ス:利 潤 か らの 消費 支 出が な い本 稿 の モ デ ル の収 穫 一 定 の特 殊

ケ ー ス と同 一 で あ る。 こ の場 合 の乗 数 に つ い て は,す で に前 の5.1節 で上 述 した。

今 後 の課 題 と して,消 費 財 部 門 の利 潤 の 処分 や,投 資 財 産 業 の 定 式 化 を 内生 的 に定 式化 し,き

ち っ と した2部 門 モ デル を構 築 す る必 要 が あ ろ う。 投 資 の フ ァ イ ナ ンス とい う金 融 面 の課 題 も出

て くる。 本 稿 で は,貨 幣 の サ ー キ ュ ラー フ ロ ー へ の注 入injectionで あ る,投 資(or政 府 支 出,

独 立 消 費)は,独 立 投 資 と してlumpsomeに す ぎ な か った が,第2節 の ニ ュ ー ケ イ ン ジア ンの

先 行 研 究 で は,Kiyotaki(1985),Heijdra(1988),Gali(1994)な ど,一 部 で ・ 投 資 財 産 業 や

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130『 明大商 学論叢』第88巻 第1号(130)

政 府 の公 共 財 生 産 をCES型 関数 で,消 費 財 部 門 と シ ンメ トリ ック に定 式 化 して い る モ デ ル が 存

在 して い る。 テ クニ カ ル に は,CES型 関数 に した 方 が扱 い易 い で あ ろ う。

6む すびにかえて一 今後の課題一

上 記 よ り大 き な視 点 で の今 後 の 課 題 と して は以下 が 挙 げ られ る。

さ ら に 欲 を 言 え ば,こ の 定 式 化 は,Representativeagentと い う抽 象 的 な経 済 主 体 を設 定 す

る ニ ュ ー ケ イ ン ジア ン とは 異 な り,階 級 間 の所 得 分 配 に関 わ って い るの で,い わ ゆ るPasinetti

の マ ク ロ分 配 方 程 式 の ミク ロ 的 基 礎 づ け や カ レツ キKaleckiの 分 配 理 論 と の連 関 の 探 求 も期 待

され る。

ま た,第 二 の課 題 は,.実 現 は難 しい の だ が,や は り,有 効 需 要 の 原 理 と消 費 財,投 資 財 の2部

門 モ デ ル との 統 合 で あ る。 つ ま り,ミ ク ロ的 基 礎 の あ る 有 効 需 要 のISモ デ ル と,マ ネ タ リー ・

サ ー キ ュ ラー ・フ ロー に お け る,Clower(1967)一Kohn-Tsiangeds.(1988)系 の フ ァ イ ナ ン

ス制 約,投 資 の真 の意 味 で の フ ァイ ナ ンス との統 合 で あ る。 ニ ュー ケ イ ンジ ア ンは,ミ ク ロ 的基

礎 の あ る ニ ュ ー ク ラ シ カル マ ク ロ と同様 に,閉 じた一 般 均 衡 モ デ ル に固 執 した た め に,誤 った貨

幣 の ワル ラ ス 法 則 の 発 動(小 原2005,第3.3節)(10)か ら,non・producedgoodsや 貨 幣 の 実 質 残

高 効 果 が,モ デ ル の ケ イ ン ズ的 現 象 の 源 泉 とな って しま って い る。 読 者 の 方 々 は,Patinkinの

貨 幣 に 関 す る ワル ラ ス法 則 に対 す るTsian(1966,1989)に よ る批 判 の意 味 を もう一 度 詳 し く検

討 して い た だ き た い。

ま た,根 本 的 す ぎ るイ ッシ ュ ー だ が,消 費 財産 業 と投 資 財産 業 を平 板 に並 べ て 加 え て マ ク ロ の

GDPと い うの は ど う か と最 近 考 え て い る。 この風 習 は,浅 学 な が ら筆 者 が 見 る と こ ろ;ど う も

ケ イ ンズ 『一 般 理 論』 よ り後 の 風 習 で あ る が,『 一 般 理 論 』 以 前 の ロバ ー トソ ンや ハ イ エ クの 時

代 の 貨 幣 理 論 と呼 ばれ て い た(実 質 的 な)マ クロ理 論 は,マ ク ロ経 済 を 一 つ の 迂 回 生 産 過 程 と し

て 把 握 して,最 終 消費 財 と生 産 財 を 平 板 に並 べ ず,立 体 的 に区 別 して い た 。Morishima(1992)

の い う,生 産 の パ イプ ライ ンで あ る。

ケ イ ン ズ 「貨 幣論 』 やRobertson(1926)や,い わ ゆ る ハ イ エ ク の三 角 形 の マ ク ロ迂 回生 産

の 枠 組 で は,生 産 期 間途 上 にあ る迂 回生 産 上 の労 働 を支 え るた め,生 産 に は固 定 資 本 ,土 地,労

働 だ け で な く,経 営 資 本(WorkingCapital)=賃 金 基 金(『 貨 幣 論 』 第2巻 第28章)と い う も

の が 必 要 と な る。 誤 解 が な い よ う に 注 意 だ が,経 営 資 本 は,ホ ー ト リ ー に始 ま り,現 代 も

Blinderな どが モ デル 化 して い る物 的 な在 庫 資本 と は,異 な る資 本 概 念 で あ る(『 貨 幣 論 』 で は

理 論 の 枠 内 に も ち ろん 在 庫 資 本 も入 って い る が,経 営 資 本 とは 区別 され て お り,ケ イ ン ズ は ホ ー

トリ』 の 在 庫 資 本 変 動 中 心 の景 気 循 環 理 論 を批 判 して い るの で あ る)。 そ して,経 営 資 本 の 増 減

は,ケ イ ンズ 『貨 幣論 』 に お い て も,循 環 の説 明 に お いて,現 代 の主 流 の設 備 投 資=固 定 資 本 投

GO)財 市場 内部 での ワルラス法則は もちろん支持す る。

Page 43: HidetakaOhara - 明治大学 · は扱いが困難であり,い わゆるルーカス批判を克服した,具 体的なミクロ的構造パラメーターに よる有効需要均衡の具体的定式化は困難である。より具体的には,前

(131)オ ー ル ド ・ニ ュー ケ イ ン ジ ア ンに よ る有 効 需 要 の原 理 の ミク ロ的 基 礎131

資 よ り さえ も,重 視 され て い る の で あ る1『 貨 幣論 』 第1巻(pp.252-253,訳p.288)に 日 く,

「信 用 循環 の 最 も特 徴 的 な 第 二 の局 面 は,経 営 資 本 に お け る投 資 の 増 大 に基 づ くもの で あ る。 そ

の上,わ れ わ れ が 総 雇 用 量 と総 経 常 産 出量 の膨 張 ま た は 収 縮 を取 り扱 わ な け れ ば な らな い よ うな

場 合 に は い つ で も,問 題 とな る もの は 固定 資本 で は な く,む しろ経 営 資 本 に お け る投 資率 の 変化

で あ り,し た が って い か な る場 合 に も,前 の期 間 の 沈 滞 か らの 回復 を特 徴 づ け て い るの は,経 営

資 本 に お け る投 資 の 増 加 で あ る。」 と あ るの で あ る。

一 方 ,ニ ュ ー ケ イ ン ジ ア ンのHeijdra(1998)な どは,上 記 の よ う に,投 資 財 産 業 の 内 生 的定

式 化 は テ クニ カル に は見 事 に達 成 して い るが,実 は,モ デル 構 造 の テ ク ニ カ ル な都 合 の シ ンメ ト

リー の ため に,差 別 化 さ れ た最 終 消 費 財 を シ ン メ トリー にCES関 数 に投 入 して,「 物 的 」 投 資 財

が 生 産 さ れ る と い う非 現 実 的 な設 定 にな って い る。 そ れ に 対 して,Robertson(1926)は,『 貨

幣 論 』 の経 営 資 本 に 相 当 す る迂 回生 産 を支 え る資 本 の こ と を流 動 資 本CirculatingCapitalと い

み じ く も名 付 け て い るの で あ る。 経 営 資 本 は,社 会 的 に迂 回生 産 を支 え るた め に,生 産 期 間の 間

に一 定 量 が 拘 束 さ れ,短 期 で 開放 され,ま た 再 利 用 され る とい うよ うに,そ の 循 環 を 繰 り返 す 流

動 的 な短 期 的 資 本 で あ り,現 代 マ ク ロ モデ ル の 物 的 な固 定 資 本 と も,在 庫 資 本 と も異 な り,絶 え

ず 社 会 を循 環 して い る流 動形 態 の 資 本 で あ る。 物 は異 な る が,経 営 資 本 は,イ メー ジ的 に は いわ

ば,ケ イ ンズ が 『一 般 理 論 』 出版 後 の貨 幣理 論 の修 正 を な した,い わ ゆ るfinancemotiveに お

け る"revolvingfund"(回 転 資 本)の 描 写 に 近 い と思 わ れ る(Keynesl937a,b,な お,fi-

nancemotiveに つ いて 詳 細 はOhara2000を 参 照 して い た だ け る と幸 いで あ るう。 そ こで,前 編

小 原(2005)第5.1節 で 触 れ た所 の,『 一 般 理 論 』 以 降 消 え て しま った 迂 回生 産,経 営 資 本 概 念

の復 活 を考 え た い ㈲ 。

(ll)ま だ世界大恐 慌を知 らないRobertson(1926)は,当 時時 点の資本主義 経済最 大の危機 と して,ド

イツの1923年 のハ イパ ー ・イ ンフ レー シ ョンの解明 に注 力 して い る。Robertson(1926)は,そ の危

機 は,経 営資本の不足 と,そ の人為的 フ ァイナ ンスのための貨幣量増大→強制貯蓄 によるイ ンフレ加速

の累積過 程で起 こった と して いる。 これ は,ヴ ィクセルの不 均衡累積過程 と並 び称 してよい,累 積過程

であると思 う。私見で は,敗 戦直後の 日本 の高イ ンフ レもソ連崩壊後 のロシアも,迂 回生 産体系 の崩壊,

中間生産 物過 程の崩壊 によ り,ロ バ ー トソ ン流 の経営資 本の供給の不足でかな り説明 がつ くのではない

か と考 え ている。 リフ レ派 は,Robertson(1926)の よ うに,世 界大恐慌 を説明 できない経済理論 は

全 く意 味がない と考え,自 らのマネタ リズムの立場 か らの世 界大恐慌期の経済史 的研究 の議論 に話を摩

り替 えて,当 て馬 に勝 ったことで,溜 飲 を下 げている。 しか し,そ れ は医学 にた とえれば,癌 を治せな

い治療 法 は全 く意味が ないと言 うのと同 じくらい傲慢 な考 え方で ある。癌=大 恐慌 に効 かな くて も,別

な病気=高 イ ンフ レ(世 界 で しば しば起 こっている)な どに使 えれば よいのではな いか?リ フ レ派 は,

自称,主 流の経済学 を名乗 りなが ら,日 本 で主流 であ る日本経済学会で の報告 も学会誌掲載 もしていな

いで,な ぜか!経済学史学 会が本拠 の人 がほ とん どであ る。 しか し,経 済学 史の大 家,根 岸隆先生 のお

考 えのよ うに,経 済学史学会 こそ,現 代理論 モデル家 達がバ イアスのか か った経済理論 の流行 に,は ま

りがちで ある傾 向を,タ ー ンやラカ トシュな どの科学 史を踏 まえて,経 済学 の 「多様性」 を冷静 に諭 す

べ き立 場の,真 理追究 の 「学者 の中の学者」 のはずであ る。 それが,リ フ レの議論 を 自称主 流 と称 し,.

経済理論 の専 門学会 での検証 を避 けて,唯 我独尊 のよ うな印象をマス コ ミを通 じて,原 稿料 を稼 ぎつつ,一般国民 に広 めようと している。 したが って,私 は経済学史学会 を退会 し,リ フレ派が傲慢な うちは,

二度 と戻 るつ もりはない。彼 らには,歴 史ぺの謙 虚 さや真理追究 の学徒 として,批 判 しつつ も,実 証 の

観点か ら考え直 して,お 互 いを高 める とい う姿勢がな く,絶 対 に自分 の解釈 や理論 でいいのだ と,聞 く

耳を持た ない。 これ では,学 会の存在 自体 がナ ンセ ンスなの である。

経済学 とは私見 では,小 宮隆太 郎東大名誉教授のお っ しゃ られ たよ うに,何 とか派 とか一派閥 とか,

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132『 明大商学論叢』第88巻 第1号(132)

こ れ に 関 して は,現 代 理 論 モ デ ル に お け る ヒン トと して は,Morisima(1992)で 提 示 され た,

投 資 の 建 設 ラ グ プ ラ ス フ ァイ ナ ンス の モ デ ル な ど を取 り入 れ た モ デ ル や,Basu(1992)の 中

間 財 を入 れ た モ デル が あ げ られ る。 日本 で は,久 留 米 大 学 の松 尾 氏(2005,1994)が,日 本経 済

の べ ー ム=バ ベ ル クの 生 産 期 間 を実 証 的 に 求 め る試 み を して い るの で,重 要 な 参 考 研 究 と した

い 。 この 点 で も,学 説 史 研 究 と,現 代理 論 モ デル研 究 の統 合 が必 要 とされ よ う。 ボ エ ー ム ・バ ヴ ェ

ル ク研 究 の 第 一 人者 塘 茂 樹 京 都 産 業 大 学 教 授 や,ハ イエ ク研 究 の 江 頭(1999)や 尾 近 ・橋 本

(2003),初 期 モ ル ゲ ン シ ュ テル ンに造 詣 の 深 い 中 山智 香 子 教 授 な ど,オ ー ス トリア ンの マ ク ロ側

の 研 究 者 達 との 協 力 関 係 を 作 っ て ゆ き た い。 ケ イ ンズ 『貨 幣論 』 刊 行 後,エ コ ノ ミカ誌 上 の論 争

に な り,『 一 般 理 論 』 刊 行 と その 熱 狂 的 流 行 に至 っ て,ハ イ エ ク は,貨 幣 理 論,マ ク ロ 自体 を や

め て しま い,経 済 哲学 へ と 向 か う。 そ の よ うな,い わ ば,水 と油,磁 石 のN極 とS極 の よ うな

ケ イ ンズ と ハ イ エ クで あ るが,傑 出 した経 済 学 者 の 両 者 の理 論 の統 合 が や は り求 め られ て い る の

で は な い か?

今 ひ とつ の拡 張 課題 は,金 融 政 策 の 貨 幣 的 経 済 学 へ の拡 張 で あ る。 第1節 にお い て オ ー ル ド ・

ケ イ ンジ ア ン ・マ ニ フ ェス トの 箇 所 で も述 べ た よ う に,名 目価 格 硬 直 性 を 「仮 定 」 し(彼 らは一

応,メ ニ ュー コ ス トな どで説 明 して い る が,メ ニ ュー コス ト自体,全 くア ドホ ックな 仮 定 で あ り,

名 目価 格 硬 直 性 を仮 定 して い る の も同 然 な の で あ る),マ ネ ー サ プ ラ イ の 増 加 の 実 質 変 数 へ の 影

響 を 貨 幣 の非 中 立性=ケ イ ン ジ ア ンと して 喜 び,名 目総 需 要 の 変 動 だ け を見 て い る 「ニ ュ ー マ ネ

タ リス ト」(MankiwandRomer1991,Vol。1,p.3)と して の ニ ュー ケ イ ンジ ア ンで は,現 実 の

金 融 政 策 へ の 使 用 に耐 え う る ケ イ ンズ 的 理 論 とは言 え な い。 第2節 のHeijdra(1996)に 関 す る

批 判 の 箇 所 で も述 べ た が,BlanchardandKiyotaki(1987)モ デ ル で は,企 業 が 皆,個 別 製 品

価 格 を 下 げ れ ば,一 般 物 価水 準 が 下 が り,実 質 貨 幣 残 高 が 増 大 し,総 需 要 が増 大 して,マ ク ロ の

実 質 所 得 も増 大 す る。 確 か に,理 論 的 に は,ミ ク ロ的 基 礎 を備 えつ つ,ケ イ ンズ 的 な 結 果 を 出 し

た画 期 的 な論 文 に は違 い な い。 しか し,こ れ は素 朴 にみ る と,デ フ レに よ る 消費 増 加 の,産 出増

大 で あ り,こ こ10年 近 く,緩 や か な デ フ レと経済 停 滞 が続 い て い る現 代 日本 の リア リテ ィ と は

一 致 しな い よ う に思 え る。 本 稿 で は,そ のBlanchardandKiyotaki(1987)モ デ ル の テ クニ カ

ル に優 れ た点 は継 承 し,意 味論 的 に 前 編 小 原(2005)の,ケ イ ンズ に忠 実 な有 効 需 要 の 原 理 の 意

味 論,解 釈 を統 合 して,ミ ク ロ的 基 礎 の あ る有 効 需 要 モ デル を 構 築 して い る。 本 稿 の モデ ル は,

一 人 の大経 済学者が全 て正 しい と盲信す るのではな く,経 済学全体 を,「 ツールボ ックス」 として捉え

るべ きで あ り,マ ネタ リズムで も,ケ イ ンズで も,一 つで万能な理論 などな く,そ の時代時代の経済学

者 が己の良心 と責任 で,・現実 に合 った経済の処方箋を使い分 けて ゆ くしかない と考 えてい る。現在わ た

くしは,あ る部分 ではケイ ンズが使 える し,あ る部 分ではM.Friedmanが 使え る し,ま たあ る部 分で

は,合 理的期 待のSargent,Wallaceが 有 効であると考 えてい る。

またそ もそ も,リ フ レ政策 が,経 済の癌=世 界大恐慌を治せたか も議論 の余地 がある。 日経賞の講評

の最後 の嫌 味 にもあ ったよ うに,『 昭和恐 慌の研究』 は労作 ではあ るが,我 田引水 的なバ イアスが存在

す る。 日本 だけではない,マ ネタ リズムの ご本尊であ るM.FriedmanandSchwartsの 大恐慌期の計

量 研究 で さえ も,計 量経済 学の専 門家Hendryか ら,後 知 恵の恣意 的な データハ ン ドリング(ご 都合

主 義的な貨 幣の定義)を 指摘 され ているが,い まだM,Friedmanは 正面か らの解答 を していないので

あ る。 この問題 につ いて,次 の機 会に詳 しく報告 したい。 リフレにつ いては,注2,5,12も 参照。

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(133)オ ール ド・ニ ューケイ ンジアンに よる有効需要 の原理 の ミクロ的基礎133

効 用 関 数 レベ ル の パ ラ メ ー タ ー に も とつ く ミク ロ的 基 礎 で 構 築 され て い る の で,い わ ゆ る経 済 政

策 へ の ル ー カ ス批 判 を克 服 して い る。 本 稿 の モ デ ル で は,物 価 上 昇 と産 出拡 大 が 伴 う点 で,現 実

的 で あ る。

グ ラ ン ドビュ ー と して は,私 見 で は,金 融 政 策 の解 明 に は,絶 対 価 格,一 般 物 価 水 準 とい う も

の を,ヴ ィ ク セル 以 来 の意 味論 か ら,根 本 的 に定 式 化 しな おす こ とが 必 要 で あ る と思 う。 ヴ ィク

セ ル は,相 対 価 格 の一 般 均 衡 モ デ ル で の 決定 と,マ ク ロの 物 価 水 準 の決 定 は,全 く異 な る メ カ ニ

ズ ム と見 な し,前 者 を振 り子 にた とえ,後 者 を,水 平 面上 の 円筒 の 動 きに た とえ たの で あ る(ヴ ィ

クセ ル 『利 子 と物 価 』,訳pp.123-124)。 筆 者 は,イ ン フ レや デ フ レが,マ ネ タ リス トや イ ン フ

レ ・タ ー ゲ ッ ト論 者 の原 点 的 信 条 で あ る,「 貨 幣 的 現 象 で あ る」 と い う言 説 を否 定 は しな い が,

しか し,イ ン フ レや デ フ レは,貨 幣 的 現 象 「だ け で は な い」 と考 えて い る。 イ ン フ レや デ フ レは,

貨 幣 の量 や流 れ の影 響 を受 け て い る と同 時 に,市 場 経 済 の 根 本 で あ る所 の,実 物 的 な 需要 と供 給

の 影 響 を受 け て い る実 物 的 現 象 で もあ る 。D.H.Robertson(1926)の 分 析 を 見 て も,絶 対 価格,

一 般 物 価 水 準 とは,実 物 と貨 幣 の結 節 点 で あ るか らで あ る。 絶 対 価 格,一 般 物 価 水 準 の理 論 とは,

ヴ ィ ク セ ル に よ り始 ま った が,現 在 で も解 決 され て い な い経 済 学 の難 題 な の で あ る。

ケ イ ンズ は,『 一 般 理 論 』 の 第4章 「単 位 の測 定 」 と い う準 備 的 な章 にお い て,〔 自 ら 『貨 幣論 』

第2編 に お い て 当 時 の 物 価 指 数 論 を集 大 成 し,『 貨 幣 論 』 の 循 環 理 論 モ デ ル の 中心 変 数 と した 所

の(小 原1999参 照)〕,集 計 的 物 価 指 数 の概 念 を 否 定 した が,実 は,『 一 般理 論 』 で も,第21章

「物 価 の理 論 」 にお い て,一 般 物 価 水 準 の議 論 を して い る。 しか し,こ の 箇 所 につ い て は,い く

らケ イ ンズ とい え ど も,是 々非 々で 臨 まね ば な る ま い。 『一 般 理 論 』 第21章 第6節 の ケ イ ンズの

物 価 水 準 に関 す る 種 々の 弾 力 性 を組 み 合 わ せ た,「 短 期 に お け る貨 幣量 の 変 化 の物 価 に及 ぼす 影

響 の仕 方 」 の 分析 は,ケ イ ンズの 混 乱 が,塩 野 谷 教 授 の 日本語 訳 注 に も誤 植 が 多 く指 摘 さ れ て い

る こ とに も現 れ て お り,経 済 学 的 に も,意 味 の少 な い もの で あ った と言 わ ざ るを 得 な い。 循 越 な

が ら,総 量 が は じめ に決 ま っ た総 所 得 変 動 と い う,い わ ば 大 き さの 決 ま っ た 「パ イ」 を 価 格 変 動

と数 量 変 動 に後 か ら分 解 ・配 分 す る だ け の,い わ ば 「残 余 法」,「消 去 法 」 的 物 価 水 準 の 決 定 モ デ

ル で あ る。 他 に現 代 の マ ク ロ モ デ ル もほ とん ど が,物 価 水 準 決 定 に関 して は,内 生 的 決 定 と言 っ

て も,「 残 余 法 」,「消去 法 」 的物 価 水 準 の 決 定 モ デ ル で あ る。 ケ イ ン ズ で さ え も こ うで あ る よ う

に,一 般 物 価 水 準 の貨 幣 的 経 済 理 論 は,ケ イ ンズ で す ら未 解 決 で 残 したの で あ る。 何 と か,本 稿

の モ デ ル の よ う に,各 産 業,各 産 業 間 の需 要 と供 給 を,マ ク ロ的 な 外 部 性 の相 互 連 関 を取 り入 れ

な が ら,マ ク ロ ま で積 み上 げ,総 生 産 量 や一 般 物 価 水 準 は 同 時 決 定 さ れ,い わ ば 国民 所 得 とい う

「パ イ の大 き さ」 も,内 生 的 に決 ま って ゆ くよ う な マ ク ロモ デ ル を作 れ な い もの だ ろ うか?

経 済 理 論 で 完 壁 に解 決 して い る の は,実 物 的一 般 均 衡 モ デ ル に お け る相 対 価 格 の決 定 だ け で あ

る。 ニ ュ メ レール に よ り決 め る絶 対 価 格 は,理 念 上,概 念 的 に は絶 対 価 格 を決 定 で き て も,現 実

へ の 適 用 性 はな い に 等 しい。 貨 幣 経 済 に お い て は,吉 川(2000)や 飯 田(2002,p.127)が 指摘

して い る よ うに,現 実 の イ ン フ レー シ ョンは,デ ノ ミや ハ イパ ー イ ン フ レ以 外 で は,マ ネ ー サ プ

ライ の増 大 が 各 産 業部 門 に均 等 な影 響 を与 え るの で は な く,非 対 称 的 な 波及 過 程 を見 せ る。 マネ ー

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134『 明大商学論叢』 第88巻 第1号(134)

サ プ ライ の増 大 や,そ の他 の イ ンフ レー シ ョ ンは,マ ネ タ リス トの教 義 とは違 って,絶 対 価 格 だ

け で な く,財 の相 対価 格 を も輩 化 させ る の で あ る。 こ の点,本 稿 の モ デ ル は,個 別 財 の 需 給 均 衡

に基 づ い て い る か ら,供 給 要 因 の 変 化 も,実 物 需 要 要 因 の変 化 を も包 括 して い るの で,コ ス ト ・

プ ッ シ ュ ・イ ン フ レー シ ョ ン,デ ィ マ ン ド ・プル ・イ ンフ レー シ ョ ン どち らに も対 応 で き る強 み

が あ る。 本 稿 で 明 らか に され た ケ イ ンズ の ミク ロ的 基 礎 付 け の存 在 す る総 需 要 価 格 ス ケ ジ ュ ール

と総 供 給 価 格 ス ケ ジュ ール の交 点 に よ る マ ク ロ理 論 を,イ ンフ レー シ ョ ン,デ フ レー シ ョン と い

う貨 幣 と実 物 両 面 を併 せ 持 った現 象 へ の 分 析 に応 用 す る こ と を今 後 の課 題 と した い。

た だ し,そ の場 合,第1節 で は,い わ ばIS-LMの .財市 場IS部 分 の モ デ ル と して 正 当 化 して

い た本 稿 モ デ ル に,貨 幣 の 需 要 と供 給 に つ い て の フ ロー ・ス トック モ デル を統 合 す る こ とが 求 め

ら れ る。 ま た,『 一 般 理 論 』 の ス ト ックの み の貨 幣 市 場 で は駄 目で,ケ イ ンズ が 『一 般 理 論 』 後

の修 正 で提 出 したfinancemotiveを 現 代 化 したKohn-Tsiang(1988)流 の"FinanceConstraint"

や 普 及 して い るcash-in-advanceのlitertureの,ス トッ ク ・フ ロー統 合 モ デ ルが 求 め られ る。 本

稿 モ デ ル に お い て,さ しあ た り短 期 と してleakageと な り,遊 休 貨 幣 残 高 に 滞 留 と い う こ とで

済 ませ て い る貯 蓄 の 中 長 期 的 影 響 を考 え るた め に は,投 資財 産 業,投 資 の フ ァイ ナ ンス だ け で な

く,金 融 資 産 市 場 の一 般 均 衡 分 析 の導 入 が 課 題 で あ ろ う。Tsiang(1989)が 一 つ の ヒ ン トで あ る。

マ ク ロ的 な イ ン フ レ下 に お け る個 別 相 対 価 格 の不 均 一 な上 昇,破 行性 につ い て は,個 別 価 格 の

ば らつ き(RPV:RelativePriceVariability)の マ ク ロの イ ンフ レ率 へ の影 響 な ど,マ ネ タ リ

ズ ム と は全 く逆 の 因果 関 係 な ど も,最 新 の研 究 だ と例 え ばBanerjeeandRussell(2005)な ど,

実 証 研 究 は 多 く積 み上 げ られ て い るが,ミ ク ロ的基 礎 か ら物 価 水 準 の 内定 的決 定 に基 づ いた 所 の,

包 括 的 な マ ク ロ理 論 モ デ ル は,ま だ それ を知 らな い。

浅 学 の 筆 者 で も,い くつ か の 優 れ た 研 究 が 提 出 さ れ て い る の は知 って い る 。 まず,Ballと

Mankiwの 一 連 の 業績 で あ る。BallandMankiw(1995,1992b)は,MiltonFriedman(1975)

を は じめ と した,現 代 の リ フ レ論 者 に も見 られ る,マ ネ タ リズ ム に よ る相 対 価 格 の 変 化 と絶 対 価

格 の 区 別 の 議 論(オ イ ル シ ョッ クは 相 対 価 格 体 系 に は影 響 を与 え る が,絶 対 価 格=平 均 一 般 物 価

水 準 は,マ ネ ー サ プ ラ イ で 決 ま る)に 対 して,ニ ュー ケ イ ン ジア ンの 立 場 か ら挑 戦 して い る(12)。

BallandMankiw(1995,1992b)は,ト レ ン ド ・イ ンフ レ と,メ ニ ュー コス トに よ る 価格 硬

(12)相 対価格 の変化 と絶対価格 の区別 とい うの は,今 も昔 もマネタ リズムの強力 な論争 の武器 であ り,上

記 のM.Friedman(1975)の ように,第 一 次オイル シ ョックで石 油関連価格 が大 幅に上昇 して も,マ

ネーサ プライをきちっと引 き締 めて さえいれば,ど こか他の財価格が下が るはず で,一 般物 価水準の安

定 が保 て る,と 主張 していた し,ま た現代 日本 の リフレ論者で も,例 えば,中 国発 デフ レは誤 りで あ り,

中国か らの財価格が下落 して も,他 の財の価格が上 が るので,絶 対価格 は下が るとは限 らない との議論

が頻 繁 に聞か れる。 しか し,私 見 では,本 稿の ように,経 済学の原点で ある需要 と供給 の原理 か ら考え

れば,石 油 はエネル ギーと してだけではな く,投 入 一産出構造 と して,ナ フサが 日常 的な財のほ とん ど

全 ての原料 として使 われ るので,(実 務的 には 自明だが,経 済理論 的 には,原 料 コス トを両辺 で相 殺す

る と前提 して,資 本(κ)と 労働(ム)と 技 術革新のみ で構成 されてい る生産関数 を根本か ら改変 しな

ければな らな いが)ミ クロ的 な各産 業の供給曲線の上方 シフ トにな り,本 稿の総供給価格 スケ ジュール

を もシフ トさせ,一 般物価水準 に も,実 物面か ら上 昇圧力の影響を与えて 当然で ある。繰 り返 すが,貨

幣所 得外部性 により,総 需 要価格 スケジュール も,供 給側の条件 に依存 して いるのであ るか ら,Milton

Friedmanの よう に,他 の 財 価 格 が ち ょ う ど石 油 価 格 の 上 昇 を 相殺 す る よ う に下 落 して くれ る

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(135)オ ール ド・ニューケイ ンジア ンによ る有効需要の原理の ミクロ的基礎135

直 性 を ア ドホ ックに仮 定 して い るが,相 対 価 格 の変 化 が,一 般 物 価 水 準 に影 響 を 与 え る と い うマ

ネ タ リズ ム に な い 因 果 関 係 の モ デ ル化 と,4-digit産 業 分類 のPPIに よ る詳 細 な 実 証 研 究(1949-

1989)を 行 って い る。BallandMankiw(1995,1992b)の 鍵 は,従 来 注 目 さ れ て き.たRPV

(RelativePriceVariability)の よ う な2次 の モ ー メ ン トに加 え て,個 別 価 格 変 動 の3次 の モ ー

メ ン トで あ るskewnessに あ る。 こ れ に よ り,オ イル シ ョ ッ ク期 だ け で な く,1952年 の,Okun

で さ え も ミス テ リー と した急 激 なデ ィス イ ン フ レー シ ョンの 説 明 に も成 功 して い る。

しか し,BallandMankiw(1994,p、253,1992a,p.12)の よ う に,対 数 線 形 の 貨 幣 数 量 式 を

天 下 り的 に仮 定 して しま って お り,第1節 で紹 介 した,総 需 要 の変 動 を,名 目需要 す な わ ちマ ネ ー

サ プ ライ の変 動 と混 同 して い る とい う,吉 川(2000),飯 田(2002)の 批 判 を免 れ て いな い。 だ

か ら,BallandMankiw(1994,p.248)の よ う に,価 格 の 硬 直 性 が あ るた め に,総 需 要 の減 少

は産 出量 を 大 き く下 げ る[価 格 が完 全 伸 縮 な らば,マ ク ロ数 量 は マ ネ タ リズ ム の よ うに長 期 は一

定],と い った よ うな,名 目総 需 要 は,マ ネ ー サ プ ラ イ の量 で い わ ば パ イ の 大 き さ決 ま って いて,

そ の 決 ま った パ イ を後 か ら価 格 変 動 と数 量 変 動 に 配 分 す る だ け の,い わ ば上 記 の 「残 余法 」,「消

去 法 」 的 数 量 調 整 に しか な って お らず,貨 幣数 量 説 の思 考 に は ま って い るの で はな い か。 た だ し,

BallandMankiwに よ る実 証 に は疑 い な く価 値 が あ る。

そ の 後 に 相 対 価 格 変 動 を 扱 っ た理 論 モ デ ル にAoki,Kosuke(2001)が あ る。Aoki(2001)

は,エ ネ ル ギ ーや 食 料 を想 定 した価 格 伸 縮 的 部 門 と,ニ ュ ー ケ イ ン ジア ン的 な価 格 硬 直 的 部 門 か

らな る,二 部 門 モ デ ル に 特 徴 が あ る。 つ ま り,Aoki(2001)は,Clarida-Gali-Gertler・Roberts-

Woodfordに よ る ニ ュー ケ イ ン ジ ア ンの 一 部 門 の 価 格 硬 直 性 が あ る動 学 的 最 適 化 一 般 均衡 モ デ ル

を,価 格 硬 直 性 の存 在 す る二 部 門動 学 一 般 均 衡 モ デル に拡 張 ・発 展 さ せ た の で あ る。 そ の 結 果,

個 別 部 門 の イ ンフ レが,マ ク ロ全 体 の イ ン フ レー シ ョ ンへ 波 及 して ゆ く様 を ミク ロ的 基 礎 の あ る

動学 的 モ デ ル で定 式 化 し,マ ネ タ リズム には な い メカ ニ ズ ム を定 式 化 で き た功 績 は大 き い。 また,

p.64の よ う に,イ ン フ レ期 待 が入 って 駆 る ニ ュ ー ケ イ ン ジ ア ン ・フ ィ リ ップ ス カ ー ブ が 内 生 的

に導 出 さ れ,Aokiモ デ ル で は,相 対 価 格 の 変 動 が短 期 ニ ュ ー ケ イ ン ジ ア ン ・フ ィ リッ プ ス カー

保証 は全 くないので ある。 また,貨 幣理論 的に も,上 述の ロバー トソ ンな どのスラ ックネ ス,バ ッファー

で あるス トック としての貨幣保蔵Hoarding=遊 休貨幣残高の増減 を考慮 に入 れる と,必 ず しも他の財

の価格がマネタ リズムのよ うに安定化の シー ソー役 を演 じて くれる保証 はない と考 えている。石油 ショッ

クによる実物 コス ト・プ ッシュイ ンフレに よって,貨 幣残高 が実質 目減 りす ることが期待 ・予想 されれ

ば,家 計 は,遊 休 貨幣残 高を減 らして,そ れが一部財需要 に回れ ば,マ クロ一般 のイ ンフ レを増強す る。

それ が中央銀行 の金 融引き締めの フローへの効果 を上 回る ことがあ りえ る。 また,イ ンフ レにな れば,

商人 が財 の買 占めの仮 需要を作 って,ま す ます イ ンフ レが加速 される累積過程 に入 る。

他方,現 代 日本 のよ うな しつ こいデ フレの下,少 子高齢化 によ る老 後 ・年金不安の状況 においては,

中国 の安 い製 品で浮いた分の所 得を も,予 備的貯蓄 として,遊 休 貨幣残高に溜め込む行動 も大 いにあり

え,現 に家計調査 での勤労世帯の貯蓄率は高 いままであ り,日 銀のマネーサ プライへの コ ミッ トメン ト

の程度 の影響 は別に して も,リ フレ派の主張 のよ うに,マ ネーサ プライ さえ人工的 に増大 されれ ば他の

財価格 が相殺 的に上 が る保証は全 くな いので はないか。私 見では,現 代 日本で は,労 働者階級 の将来不

安 によ って,投 機 的貨幣需要よ りも,ケ イ ンズが2番 目に挙げていた予備的貯蓄の流動性選好 の重要性

が増 してい ると思 う。 ただ し,深 刻 に も,所 得が低 くて,2割 の世帯 が貯蓄 ゼ ロにな って おり,予 備的

貯蓄 で将来 に備 えた くて も備え られな い階層 が増 えてきている。 きりがないので,詳 しくは次 の機会 に

述べ たい。 リフ レについては,注2,5,11も 参照。

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136'『 明大商学論叢』第88巻 第1号(136)

ブを シ フ トさ せ る とこ ろ もテ クニ カル に は興 味 深 い。 政 策 的 含 意 も,イ ンパ ク トが あ る もの で,

硬 直 的 価 格 部 門 の 物価 水 準 の み を コ ア ・イ ン フ レ率 と見 な して,イ ンフ レ ・タ ー ゲ ッテ ィ ン グが

望 ま しい と い う もの で あ る。 しか し,p.60の よ う に,価 格 硬 直 性 の あ る部 門 で は,毎 期 す ぐに

で は な く,外 生 的 に ラ ンダ ム な間 隔 で 価 格 が 改訂 され るだ け,と い うの は,Woodfordら の ニ ュー

ケ イ ン ジ ア ン動 学 モデ ル の 常 道 な の で あ ろ う。 も っ と も,こ れ は,GordonやTobinら の,価

格 が永 久 に硬 直 ・固定 で あ る一 つ前 の 世 代 の モデ ル よ りは,内 生 性 が 進 ん で お り,ま た伸 縮 価 格

部 門 は,完 全 競 争 であ る必 要 は な く,即 時 に毎期 毎 期,価 格 が 改 訂 され る と こ ろ の み が必 要 で あ

る とい う意 味 で,RBCに 対 して も,一 般 性 が あ る。 しか し,自 分 で は ハ イ テ ク の動 学 モ デ ル を

構 築 で き て い な い者 が 批 判 を あ げつ ら って も負 け犬 の遠 吠 え に しか な らな いの は重 々 わ か って い

るが,p.58,n,6で は,部 門 間 の代 替 の 弾 力 性 が1と 仮定 され て い るの は ど うか。 つ ま り,コ ブ=

ダ グ ラ ス型 関 数 の 特 徴 と して,各 部 門 の 需要 シ ェア が常 に一 定 とな って い る。 本 当 に.,二 部 門 間

の 相 互 依 存 関 係 が 本 質 的 に モ デ ル に 入 って い るの か(1:)。ま た,p .63で は,総 需 要 シ ョッ ク は,

RealBusinessCycleの 技 術 的 シ ョ ッ ク とパ ラ レル に,効 用 関 数 に 直 接 入 っ て い る。 こ れ も,

Woodfordら の ニ ュー ケ イ ン ジア ン の動 学litertureの 常 道 で,現 実 の 抽 象 化 の 簡 単 化 と して 必

要 な の か も しれ な い が,静 学 で も よ いか ら,本 稿 の よ う に,現 実 的 な設 備 投 資 な どへ の 貨 幣 支 出

の 増 加 が,3ペ ー ジ前p.133の よ う に,ミ ク ロ レベ ル か ら内生 的 に マ ク ロ に波 及 す る こ とを モ デ

ル 化 で き な い の で あ ろ うか。 ま た,本 稿 の理 論 的 な 一 般 的 乗 数 に関 連 して,Garcia・Mila(1989)

や,堀etal.(1998)の よ う に,乗 数 の大 き さ の実 証 研 究 も行 い た い。

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(13)も っ と も,本 稿 も,第5.1節 で上 記 の よ う に,消 費 全 体 と貨 幣貯 蓄 の 選 択 に お い て,コ ブ=ダ グ ラ ス

型 を利 用 して お り,弱 点 だ が,こ れ は,テ クニ カル にBlanchard-Kiyotakiモ デ ル の踏 襲 で あ る こ と と,

ケ イ ンズ の 消 費 の心 理 法 則 に 忠 実 で あ る とい うこ と,ロ ー テ ク の計 量 経 済 学 の 実 証 研 究 で は サ ポ ー トさ

れ る こ と で一 応 正 当 化 して あ る。

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