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実素材の触感を加工する振動触覚テクスチャ・ディスプレイ ミクロおよびマクロな粗さ感の加工 Vibrotactile Display for Modifying Texture of Real Materials Modification of Micro and Macro Roughness Sensations ○浅野 修平 岡本 正吾 松浦 洋一郎 永野 光 山田 陽滋 (名古屋大学) Shuhei ASANO, Shogo OKAMOTO, Yoichirou MATSUURA, Hikaru NAGANO and Yoji YAMADA, Nagoya Univiersity This study developed a vibrotactile display to assist in product design. In order to realize realistic sensations, we used real materials such as cloth, paper, wood, and leather for the tactile display. Further, we applied vibrotactile stimuli to modify the roughness sensations of these materials. We verified that our methods could modify the fine and coarse roughness sensations of real materials, while maintaining their original perceptual characteristics. Key Words : Tactile display, Vibration stimulus 1. 緒論 近年,触感は価値であるという認識がさまざまな分野の製品 設計や販売戦略で拡大している.触感によって製品に高級感・親 近感などの印象を演出することができるため,触感は製品設計の 際の重要な要因になっている.このような背景を踏まえ,われわ れは製品設計を支援するための触覚テクスチャ・ディスプレイを 開発する.触覚テクスチャ・ディスプレイとは,布や木のような 素材表面の触感をヒトに呈示する装置である.製品設計の際にこ の触覚テクスチャ・ディスプレイを用いることにより,設計者は 実際にさまざまな素材の触感を体験しながら所望する触感を選 択することが可能になる.これまでに複雑なテクスチャを簡易な 機構で代替的に呈示したり,バーチャルリアリティ・システムで 要求される単一デバイスでの多種のテクスチャ呈示という広範適 用性を目的とした触覚テクスチャ・ディスプレイが開発されてき たが,製品設計の分野での利用を前提としたリアリティの高いも のの開発は今までになされていない. 本研究の目的は,製品設計を支援するための触覚テクスチャ・ ディスプレイ技術の開発である.われわれは,製品設計の支援に 用いることが可能なほどの触感のリアリティを実現するために, 実素材を採用する.さらに,この実素材のテクスチャ(ミクロお よびマクロな粗さ感)を加工するために,振動触刺激を付加する という新たな着想に至った.図 1 に示すように,この技術は,実 素材をなぞる指腹に振動触刺激を加えることにより,実素材の触 感を軽微に加工するものである.広範適用性には,実素材を取り 替えることで対応可能である.例えば,設計者がある製品の筐体 表層の素材に木を用いる場合を考える.その際にわれわれが開発 する触覚テクスチャ・ディスプレイを用いることで,設計者は, 粗さ感が異なる木の触感を体験しながら素材の触感を選択するこ とが可能となる.このように本物の素材に振動触刺激を加えて, その触感を加工しようという試みはこれまでに例がなく,その可 能性は未知である.本研究では,従来の触感呈示技術の実素材へ の適用可能性を確認する.第一に,実素材の粗さ感を加工可能で あるかを確認する.第二に,振動刺激によって実素材の触感が軽 微に加工されることを確認する.つまり,刺激によって実素材の 触感が全く異質なもの,もしくは不自然なものに変化しないこと を確認する. 2. 粗さ感を加工するための振動触刺激 本研究では,素材をなぞる指腹に振動触刺激を呈示すること により,ミクロおよびマクロな粗さ感を加工する.本研究では, 素材表面の突起の間隔が数百 μm から 1 mm 以下の凹凸をなぞ る際に感じられる触感をミクロな粗さ感,素材表面の突起の間隔 1 mm 以上の凹凸をなぞる際に感じられる触感をマクロな粗 さ感と呼ぶ.この 2 種類の粗さ感は知覚メカニズムが異なること Fig.1 Vibrotactile texture display with real materials が知られている [1].皮膚の機械受容器の中で,高周波帯域の機 械刺激に選択的に応答するマイスナ―小体およびパチニ小体の活 動がミクロな粗さ知覚に影響している.またメルケル小体の活動 の空間分布がマクロな粗さ知覚に影響する.以下にミクロおよび マクロな粗さ感を加工する刺激の生成手法をそれぞれ紹介する. 2.1 仮想的な表面空間波長刺激による粗さ感の加工法(ミクロ な粗さ感の加工法) 周期的な表面粗さの変化を振動刺激を用いて指腹に呈示する 手法がある [2][3].この方法により呈示される触感は,キメの 細かい織布を指でなぞるような粗さ感である.図 2 にこの粗さ 感加工法のイメージを示す.われわれはこの手法を用いて,素材 の粗さ感を加工する.素材表面を指でなぞる際に,触覚ディスプ レイが指腹に与える変位を, y 1 (t)= A 1 sin ( 2π x(t) λ 1 ) (1) で決定する.ここで,A 1 は振動刺激の振幅,x(t) はなぞり運動 を行っている実素材上での指の位置,λ 1 は仮想的な素材表面の 空間波長である.本研究では,空間波長を 0.8 mm と設定する ことでミクロな粗さ感を呈示する. この手法は指の速度に応じた刺激を呈示するため,素材をな ぞる速度に応じて,振動刺激の周波数が変化する.また振幅 A 1 を大きくすることで,呈示される変位刺激の粗さ感は強く知覚さ れる.素材をなぞる指腹に正弦波状の変位 y 1 (t) を呈示すること で粗さ感の加工を行う手法をミクロな粗さ感加工法と呼ぶ. λ 1 を大きくすることによって,マクロな粗さ感も呈示可能で あるように思える.しかしながら,以下の 2 点の理由から,マ 䢳䣒䢳䢯䣄䢲䢶 䢳䣒䢳䢯䣄䢲䢶䢪䢳䢫 䣐䣱䢰 ꉈ덈둈꽈땈ꉈ퉈ꉈꉈꉈ둈뉈덈둈ꉈ챈핈콈읈ꉈ안ꉈꉈ푈

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Page 1: H³HÒH³H¯HÄH²H¶ îÉPw îò C»b ü î®Â«µ½ß~à µÓè · Fig.5 Block diagram of entire system Fig.6 Frequency response characteristic of vibrotactile display with output

実素材の触感を加工する振動触覚テクスチャ・ディスプレイ

ミクロおよびマクロな粗さ感の加工

Vibrotactile Display for Modifying Texture of Real MaterialsModification of Micro and Macro Roughness Sensations

○浅野 修平 正 岡本 正吾 松浦 洋一郎 永野 光 正 山田 陽滋 (名古屋大学)

Shuhei ASANO, Shogo OKAMOTO, Yoichirou MATSUURA,

Hikaru NAGANO and Yoji YAMADA, Nagoya Univiersity

This study developed a vibrotactile display to assist in product design. In order to realize realistic sensations, weused real materials such as cloth, paper, wood, and leather for the tactile display. Further, we applied vibrotactilestimuli to modify the roughness sensations of these materials. We verified that our methods could modify the fineand coarse roughness sensations of real materials, while maintaining their original perceptual characteristics.

Key Words: Tactile display, Vibration stimulus

1. 緒論

近年,触感は価値であるという認識がさまざまな分野の製品設計や販売戦略で拡大している.触感によって製品に高級感・親近感などの印象を演出することができるため,触感は製品設計の際の重要な要因になっている.このような背景を踏まえ,われわれは製品設計を支援するための触覚テクスチャ・ディスプレイを開発する.触覚テクスチャ・ディスプレイとは,布や木のような素材表面の触感をヒトに呈示する装置である.製品設計の際にこの触覚テクスチャ・ディスプレイを用いることにより,設計者は実際にさまざまな素材の触感を体験しながら所望する触感を選択することが可能になる.これまでに複雑なテクスチャを簡易な機構で代替的に呈示したり,バーチャルリアリティ・システムで要求される単一デバイスでの多種のテクスチャ呈示という広範適用性を目的とした触覚テクスチャ・ディスプレイが開発されてきたが,製品設計の分野での利用を前提としたリアリティの高いものの開発は今までになされていない.

本研究の目的は,製品設計を支援するための触覚テクスチャ・ディスプレイ技術の開発である.われわれは,製品設計の支援に用いることが可能なほどの触感のリアリティを実現するために,実素材を採用する.さらに,この実素材のテクスチャ(ミクロおよびマクロな粗さ感)を加工するために,振動触刺激を付加するという新たな着想に至った.図 1に示すように,この技術は,実素材をなぞる指腹に振動触刺激を加えることにより,実素材の触感を軽微に加工するものである.広範適用性には,実素材を取り替えることで対応可能である.例えば,設計者がある製品の筐体表層の素材に木を用いる場合を考える.その際にわれわれが開発する触覚テクスチャ・ディスプレイを用いることで,設計者は,粗さ感が異なる木の触感を体験しながら素材の触感を選択することが可能となる.このように本物の素材に振動触刺激を加えて,その触感を加工しようという試みはこれまでに例がなく,その可能性は未知である.本研究では,従来の触感呈示技術の実素材への適用可能性を確認する.第一に,実素材の粗さ感を加工可能であるかを確認する.第二に,振動刺激によって実素材の触感が軽微に加工されることを確認する.つまり,刺激によって実素材の触感が全く異質なもの,もしくは不自然なものに変化しないことを確認する.

2. 粗さ感を加工するための振動触刺激

本研究では,素材をなぞる指腹に振動触刺激を呈示することにより,ミクロおよびマクロな粗さ感を加工する.本研究では,素材表面の突起の間隔が数百 µmから 1 mm以下の凹凸をなぞる際に感じられる触感をミクロな粗さ感,素材表面の突起の間隔が 1 mm以上の凹凸をなぞる際に感じられる触感をマクロな粗さ感と呼ぶ.この 2種類の粗さ感は知覚メカニズムが異なること

Fig.1 Vibrotactile texture display with real materials

が知られている [1].皮膚の機械受容器の中で,高周波帯域の機械刺激に選択的に応答するマイスナ―小体およびパチニ小体の活動がミクロな粗さ知覚に影響している.またメルケル小体の活動の空間分布がマクロな粗さ知覚に影響する.以下にミクロおよびマクロな粗さ感を加工する刺激の生成手法をそれぞれ紹介する.

2.1 仮想的な表面空間波長刺激による粗さ感の加工法(ミクロな粗さ感の加工法)

周期的な表面粗さの変化を振動刺激を用いて指腹に呈示する手法がある [2],[3].この方法により呈示される触感は,キメの細かい織布を指でなぞるような粗さ感である.図 2 にこの粗さ感加工法のイメージを示す.われわれはこの手法を用いて,素材の粗さ感を加工する.素材表面を指でなぞる際に,触覚ディスプレイが指腹に与える変位を,

y1(t) = A1 sin(2π

x(t)

λ1

)(1)

で決定する.ここで,A1 は振動刺激の振幅,x(t)はなぞり運動を行っている実素材上での指の位置,λ1 は仮想的な素材表面の空間波長である.本研究では,空間波長を 0.8 mm と設定することでミクロな粗さ感を呈示する.

この手法は指の速度に応じた刺激を呈示するため,素材をなぞる速度に応じて,振動刺激の周波数が変化する.また振幅 A1

を大きくすることで,呈示される変位刺激の粗さ感は強く知覚される.素材をなぞる指腹に正弦波状の変位 y1(t)を呈示することで粗さ感の加工を行う手法をミクロな粗さ感加工法と呼ぶ.

λ1 を大きくすることによって,マクロな粗さ感も呈示可能であるように思える.しかしながら,以下の 2 点の理由から,マ

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Fig.2 Vibrotactile stimulus to modify micro-roughness sensa-tions

Fig.3 Vibrotactile stimulus to modify macro-roughness sen-sations

クロな粗さ感呈示には不向きである.まず,λ1 を大きくすると触刺激の振動周波数が小さくなる.例えば,10 Hz程度の低周波の振動触刺激によって機械受容器を刺激するためには,数十 µm程の大きな変位が必要となる.このような大きな変位を出力することは振動アクチュエータによっては不適応である.次に,マクロな表面粗さの知覚には,メルケル小体の活動の空間分布が関係する.しかしわれわれが用いるような単一の振動源からなる触覚ディスプレイでは空間分布を呈示することはできない.

2.2 インパルス刺激による粗さ感の加工法(マクロな粗さ感加工法)

素材をなぞる際に指腹にインパルス刺激を呈示することで,粗さ感を呈示できるという報告 [4],[5]がある.この方法により呈示される触感は,素材をなぞる指が突起にひっかかるような粗さ感であり,ミクロな粗さ感とは異なる.図 3にこの粗さ感加工法のイメージを示す.インパルスを減衰正弦波とすると,指腹に呈示される変位は, 

y2(t) = A2 exp(−at) · sin(2πf2t) (2)

で表される.ここで,A2 は振動刺激の振幅, aは減衰係数, f2 は指腹の減衰固有周波数 200 Hzである.指腹の減衰固有周波数は,文献 [6]に基づいて決定した.また,呈示された感覚が不自然にならないように aの値は 5.0 s−1 に設定した.この手法で呈示される刺激は手の動きに依存しない.つまり,

手の速度に関わらず仮想突起の上を指が通過した瞬間にインパルス刺激が呈示される.また刺激の頻度は,空間密度として任意に設定可能である.本実験では 1 impulse/10 mm と設定した.この手法は素材表面に疎に分布した仮想突起を想定しており,疎な表面粗さを呈示する.刺激を高頻度にすることは,インパルスが重畳してしまうために不適応である.刺激の振幅 A2 を大きくすることで,呈示される粗さ感は強く知覚される.素材をなぞる指腹にインパルス状の変位 y2(t)を呈示することで粗さ感の加工を行う手法をマクロな粗さ感加工法と呼ぶ.

3. 触覚テクスチャ・ディスプレイ

3.1 ディスプレイとシステムの概要

本研究で用いる触覚テクスチャ・ディスプレイは,アクチュエータとしてボイスコイルモータ(青山特殊鋼, X-1740)を駆動させることにより振動触刺激を呈示する.ボイスコイルモータの定格電流は 0.96 Aであり,定格電流時における最大推力は

Material

Coil

Aluminum base

Magnet

Acrylic platex

y

Restraint bar

Fig.4 Vibrotactile display based on voice coil motor

Micro

computerD/A

Current

driverVCM

Camera

Human

finger

Control signal

(Force command)

Input current

Tactile

stimulus

Finger

motion

Finger

motion

Tactile display

Fig.5 Block diagram of entire system

-50

-40

-30

-20

-10

0

10

0.1 1 10 100

Observed curve

Approximated curve

Fin

ger

pad

’s d

isp

lace

men

t

[dB

: re

0.0

35

mm

]

Frequency [Hz]

Fig.6 Frequency response characteristic of vibrotactile displaywith output force of 0.425 N

2.42 Nである.図 4に示す触覚テクスチャ・ディスプレイでは,実素材・アクリル板・コイルの駆動する 3つの部品は色をつけて表示し,それ以外の磁石・アルミの土台・2本の振動拘束棒は透明に表示している.拘束棒によりボイスコイルモータの変位は y方向に拘束される.実素材は取り換えることが可能である.出力変位は最大で 4 mmである. ディスプレイシステムを表すブロックダイアグラムを図 5 に示す.指の運動を計測するためにカメラを用いた.参加者の指先に取り付けられた赤色のマーカの位置を,触覚テクスチャ・ディスプレイの真上に設置したカメラで捉え,なぞり運動中の示指の位置を計算した.計算された位置情報に基づいて,ボイスコイルモータが駆動され,指腹を変位させることで粗さ感が加工された.

3.2 ボイスコイルモータおよび指腹の周波数応答特性の補償

電流ドライバ,ボイスコイルモータおよびヒトの指腹を含む系の周波数応答特性をフラットにするため,高周波における周波数応答特性の補償を行った.FFTアナライザ(小野測器,CF-7200)

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Target

displacement

G(s)

ForceCurrentVoltage Displacement

G-1 (s)Current

driverVoice coil

motorFinger

Fig.7 Block diagram of vibrotactile display system

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

0.16

0.18

0.2

1 10 100 1000

Before compensation

After compensation

Freqency [Hz]

Fin

ger

pad

’s d

isp

lace

men

t

[mm

]

Fig.8 Comparison of the frequency response characteristics oftactile display and finger pad

を用いて,ボイスコイルモータへの電流を入力,コイルに接続されたアクリル板の上で静止した指腹の変位を出力とする際の周波数応答特性を計測した.この結果を図 6に示す.指腹の変位は,レーザ変位計(OPTEX FA,CD5-30)のレーザ光をアクリル板の下から指腹に照射して計測した.計測中は触覚テクスチャ・ディスプレイの下に電子スケールを置き,参加者は指腹にかかる負荷をおよそ 100 g に保った.この力は人が物をなぞるときに指にかかる力を想定したものである.この周波数応答特性を用いて,目標変位の補償を行った.補償を行うモデルに用いる周波数応答特性は,計測したデータの高周波帯域を 2 次遅れの伝達関数 で近似した.近似した周波数応答特性 G(s)は, 

G(s) =6× 104

s2 + 800s+ 106(3)

とした.この G(s)をキャンセルする関数 G−1(s) を用いて,周波数応答特性を補償するシステムのブロック線図を図 7に示す.補償された後の周波数応答特性を計測した結果を図 8に示す.

補償される前の特性は,点線で描かれており,補償後の特性は実線で描かれている.特性を近似する際に低周波帯域の誤差が大きかったため 10 Hz以下の低周波での変位はわずかに隆起しているが,10 Hz より大きい周波数帯では変位が概ねフラットになっている.われわれはこのモデルを,振動触刺激の周波数が指のなぞり速度に依存するミクロな粗さ感加工法で用いる.指の速度は一般的に平均して 50–300 mm/sである.ミクロな粗さ感加工法に用いる空間波長 λは 0.8 mmであるため,呈示する刺激の周波数は最低でも 10 Hzより大きい 60 Hz程度になる.そのためミクロな粗さ感加工法でこの補償を用いても問題はない.また,マクロな粗さ感加工法での刺激の振動周波数は 200 Hzと一定であるため,この補償モデルを用いる必要はない.

4. 実素材の粗さ感加工実験

4.1 実験の目的と概要

実素材の粗さ感を加工する手法を 2つの実験から評価した.実験 1では,2種類の粗さ感加工法により,素材ごとにミクロおよびマクロな粗さ感を選択的に加工可能であるかを検証した.実験 2 では,振動刺激により素材の粗さ感が軽微に加工されており,実素材そのものの触感と著しく異なった触感に加工されないかどうか検証した.実験で用いる実素材を図 9 に示す.素材には布(木綿),革(トリヨンレザー),木(モミ),紙(トレーシングペーパー)の触感が異なる 4 種類を用いた.実験中はアイマスクとピンクノイズが流れるヘッドホンにより参加者の視聴

Cotton

5 mm

Taurillon leather

5 mm

Wood

5 mm

Tracing paper

5 mm

Fig.9 Surface of real materials

覚を遮断した.参加者は著者らを除く研究室内のボランティア 3名であった.

4.2 実験 1の方法:ミクロおよびマクロな粗さ感の選択的加工の検証

刺激: 実験 1では,ミクロな粗さ感加工法の振幅(A1)を 1.0,1.3,1.5,2.0 µm,マクロな粗さ感加工法の振幅(A2)を 0.5,1.0,1.5,2.0 mmの四段階にそれぞれ設定した.素材をそのままなぞるという条件も刺激群に加えた.これら 9 種類の刺激を素材ごとにランダムに呈示する.36試行(9刺激× 4素材)を1 セットとし,参加者 1 人当たり合計 4 セット(144 試行)を行った.

タスク: 参加者は利き手の示指に赤色のマーカをつけて,触覚ディスプレイが正面にくるように座った.開始の合図とともにディスプレイ上の実素材をなぞり,知覚したミクロおよびマクロな粗さを回答することを繰り返した.実験 1 ではマグニチュード推定法を用いて参加者は知覚するミクロおよびマクロな粗さの強度を数値で回答した.参加者は,ミクロな粗さおよびマクロな粗さの基準(モジュラス)を与えられた.目が細かい人工芝および周期的な凹凸を有するエンボス紙をそれぞれミクロおよびマクロな粗さ感のモジュラスとした.モジュラスの強度はともに50であった.これらの基準となる素材は 18試行(1/2セット)ごとに参加者に呈示した.

4.3 実験 1の結果

参加者が回答した数値の幾何平均値を素材ごとに表わした結果を図 10と図 11に示す.図 10はミクロな粗さ感加工法の結果である.刺激の振幅が大きくなるにつれて,参加者が知覚するミクロな粗さ感の数値が大きくなるのに対して,マクロな粗さ感は大きく変化しなかった.図 11はマクロな粗さ感加工法の結果である.刺激の振幅が大きくなるにつれて,参加者が知覚するマクロな粗さ感の数値が大きくなるのに対して,ミクロな粗さ感は大きく変化しなかった.以上のことから,われわれが用いた 2 種の振動触覚刺激によりミクロな粗さ感およびマクロな粗さ感を選択的に加工可能であることがわかった.

4.4 実験 2の方法: 呈示刺激による触感加工の度合いの検証

刺激: 実験 2では,実験 1の結果からミクロおよびマクロな粗さ感を加工可能な刺激をそれぞれ採用した.ミクロな粗さ感加工法では振動刺激の振幅が 1.5 µmのもの,マクロな粗さ感加工法では振幅が 1.5 mmの刺激を用いた.これらの 2種類の刺激に加え振動を呈示しないで素材をそのまま呈示する条件も一つの

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0

5

10

15

20

25

30

0 0.5 1 1.5 2 2.5

Per

ceiv

ed m

icro

ro

ug

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ess

Presented amplitude (A1) [µm]

Cotton

Leather

Wood

Paper

0

5

10

15

20

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Per

ceiv

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acr

o r

ou

gh

nes

s

Presented amplitude (A1) [µm]

Cotton

Leather

Wood

Paper

Fig.10 Perceived micro and macro roughness with microroughness presentation method

0

2

4

6

8

10

12

14

0 0.5 1 1.5 2

Per

ceiv

ed m

icro

ro

ug

hn

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Presented amplitude (A2) [mm]

Cotton

Leather

Wood

Paper

0

5

10

15

20

25

30

0 0.5 1 1.5 2

Per

ceiv

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acr

o r

ou

gh

nes

s

Presented amplitude (A2) [mm]

Cotton

Leather

Wood

Paper

Fig.11 Perceived micro and macro roughness with macroroughness presentation method

刺激とした.以上の 3種の刺激を 4つの素材に適用し,合計 12刺激を用意した.

タスク: 実験 1 と同様参加者は利き手の示指に赤いマーカをつけて,ディスプレイが正面にくるように座った.開始の合図とともにディスプレイ上の実素材をなぞり,参加者は対として呈示された刺激の非類似度を数値を用いて回答した.

1

Dimension1

Dim

ension2

-1 -0.5 0 0.5 1-1

-0.5

0

0.5

Cotton

Cotton + micro

Cotton + macro

Wood

Wood + micro

Wood + macro

Paper

Paper + micro

Paper + macro

Leather

Leather + micro

Leather + macro

Cotton

Leather

Wood

Paper

Fig.12 Distance between stimuli based on dissimilarity

4.5 実験 2の結果

実験 2では Torgersonの多次元尺度構成法を用いて,3名の非類似度データの算術平均を刺激間の距離として,刺激を 2次元のユークリッド平面内に配置した.その結果を図 12に示す.第1-2次元の平面では,素材そのもの(白抜き)と素材にミクロおよびマクロな粗さ感加工法を適用した刺激(灰色および黒)が近在している.平面上で近在している刺激は,知覚的に類似している.したがって,振動刺激によって素材の触感が全く異質なものになっておらず,実素材の触感が軽微に加工されていることが確認できた.またマクロな粗さが大きい革およびマクロな粗さ感を加工する刺激を呈示したものは,第 1 次元でより大きい値を示しているため,第 1 次元はマクロな粗さ感を表現していると考えられる.同様にミクロな粗さが大きい布およびミクロな粗さ感を加工する刺激を呈示したものは,第 2 次元でより大きい値を示しているため,第 2 次元はミクロな粗さ感を表現していると考えられる.

5. 結論

われわれは,製品設計の支援に用いることが可能なほどの触感のリアリティを実現するために,実素材を用いた触覚テクスチャ・ディスプレイを考案した.実素材に振動触刺激を付加し,テクスチャのミクロおよびマクロな粗さ感を加工した.このように本物の素材に振動触刺激を加えて,その触感を加工しようという試みはこれまでに例がなく,その可能性は未知であったため,2つの実験から従来の触感呈示技術の実素材への適用可能性を調べた.実験 1 では,実素材のミクロおよびマクロな粗さ感を選択的に加工可能であることを確認した.実験 2 では呈示した粗さ感加工法によって実素材の触感が全く異質なものとならず,軽微に加工されていることを確認した.

文献[1] 永野光, 岡本正吾, 山田陽滋, “触覚的テクスチャの材質感次元構成に関する研究動向,” 日本バーチャルリアリティ学会大会論文集, Vol.16, No. 3, pp. 343–353, 2011.

[2] M. Konyo, A. Yoshida, S. Tadokoro, and N. Saiwaki, “ATactile Synthesis Method Using Multiple Frequency Vibra-tions for Representing Virtual Touch,” Proceedings of the 2005IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots andSystems, pp. 3965–3971, 2005.

[3] T. Yamauchi, S. Okamoto, M. Konyo, Y. Hidaka, T. Maeno,and S. Tadokoro, “Real-Time Remote Transmission of Mul-tiple Tactile Properties through Master-Slave Robot Sys-tem,” Proceedings of the 2010 IEEE International Conferenceon Robotics and Automation, pp. 1753–1760, 2010.

[4] 田中健司, 諸橋隆治, 前田太郎, 柳田康幸, 舘すすむ, “インパルス成分を有する振動刺激によるインタラクティブ触覚ディスプレイ,” 計測自動制御学会論文集, Vol. 33, No. 7, pp. 680–686, 1997.

[5] A. M. Okamura, J. T. Dennerlein, and R. D. Howe, “Vibra-tion Feedback Models for Virtual Environments,” Proceedingsof the 1998 IEEE International Conference on Robotics andAutomation, pp. 674–679, 1998.

[6] R. Lundstrom, “Local Vibrations-Mechanical Impedance ofthe Human Hand’s Glabrous Skin,” Jornal of Biomechanics,Vol. 17, No. 2, pp. 137–144, 1984.

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