hermes-ir | home - 谷 川 義 行...(103) 無隈次元財空間と私有制経済...
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(103)
無隈次元財空間と私有制経済
一般均衡存在命題における諸発展の重要な一形式*)**)
谷 川 義 行
1 イントロダクション
市場経済における価格機構の役割及ぴその厚生的特質を理解することは市
場経済を理解するにあたって本質的な問題であり経済理論において長く重要
な問題でありつづけてきた.L.Walrasを噛矢とする一般均衡理論はそのよ
うな問題に対し極めて精織な分析体系を提供し,市場経済分析における基礎
付けを様々な視点から提供してきた.1950年代における(古典的)一般均
衡理論,60年代から70年代における測度論的一般均衡理論,70年代におけ
る正則経済分析,80年代における無限次元財空間論/不確実性下における
(合理的)期待形成理論/非完備条件付き財市場理論はそのような流れを代
表する重要なテーマである.これら一般均衡分析においてその分析の主要な
対象はArrow-Debreu-McKenzie経済(以下ADM経済)であった.ADM
経済とは条件付き財市場が完備している完全競争市場経済,即ちあらゆる財
の市場が現時点において存在し全経済主体が市場価格を所与のものとして行
動するような経済である.ADM経済は市場経済を分析するに際してその基
準(ベンチマーク)を提供するという意味で重要な経済体系である、
筆者は[14]においてこれら一般均衡における諸展開の内無限次元財空間
*)本稿は,‘無限次元財空間における経済の一般均衡存在定理について’(一橋論
叢1995年12月号所収)の続編であり,主に筆者の修土論文[13]第6章及ぴ7
章に基づいて執筆されたものである、
**)本稿は日本学術振興会の研究援助の下に文部省科学研究補助金を用いて執
筆された.
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(104) 一橋論叢 第115巻 第6号 平成8年(1996年)6月号
を伴うADM経済の均衡存在問題に言及した.均衡存在問題はあらゆる議
論の出発点に当たるものであり経済分析の有効性を説くに当たって極めて重
要な問題である.また,経済分析において空間的・通時的な問題あるいは不
確実性の間題を取りあげる時,財が無数に存在する状況を考えるのは極めて
自然である.従って無限次元財空間はそれ自身重要な経済分析の対象となる.
[14]において筆者が指摘したADM経済における無限次元財空問の理論的
な難点は次の5点であった.即ち,
1)財空間における実行可能な計画全体の集合に対し選好の連続性を許
容する位相とコンパクト性を許容する位相が一般には一致しない、
2) (規準化された)市場価格の集合がコンパクトなものになるか否か.
3) ある消費計画よりも選好される消費計画全体の集合を支持する価格
が存在するか否か.
4) ある生産計画を通って生産集合を支持する価格が存在するか否か.
5)社会的に最適な経済の計画を支持する一律な価格が存在するか否か.
これらの問題を乗り越えるに当たって[14]において指摘した無限次元財空
間における均衡存在のための固有な経済環境は総生産技術における位相的
内点の存在’である.凸環境・連続性等の標準的な経済環境に加えて上述の
内点条件が満たされる時ADM経済は均衡を持つことが保証されるのであ
る.しかしながら内点条件が成立するか否かはあくまでも考察する経済環境
に依存する.この内点条件が成立しないケースは応用上も重要であり,従う
て’総生産集合における内点条件’に代わる代替的な経済環境を摸索するこ
とは理論的にも重要な課題となる.本稿の目的は,その代替的な経済環境と
してA.Mas-Co1e-1が[8][9]において導入した導選好関係(proper prefeト
ence re1ation)・導生産技術(proper production technology)に関する展
望を与えついでその下でADM経済の均衡存在命題を与えることにある.
この点に関して筆者は上述のMas・Cole1lの結果と共にA.AraujoandP.
Monteiro[2]及びW.Zame[15]の緒果に深く立脚することとなった.
詳しくは以下の諸章を参照されたい.本稿の構成は以下の通りである.我々
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無限次元財空間と私有制経済 (105)
はまず第2章において財空間の概念を導入し導選好関係・導生産技術導入の
契機を確認した上でその特徴付けを与え,経済の均衡存在命題を述べる.つ
いで第3章において均衡存在に必要な補題を与え,第4章において最終的な
均衡存在命題の証明を与えることにする1).
2導選好関係・導生産技術・均衡存在命題
財空間における位相構造は均衡存在命題において有限次元・無限次元を問
わず重要な数学構造であるが,他方有限次元財空間においてはその順序構造
はさしたる重要性を持たなかったと言うてよい.財空間における順序構造の
重要性は無限次元財空間において初めて意識されたのである.我々は以下に
おいてそのような1順序構造として1束’の概念に注目し,ついで‘東’の構造
に制約される位相空間線形位相束’を財空間として採用するこ・とにする2).
これらの諸性質は以下で見るように‘総生産技術における位相的内点条件’
が成立しない経済の均衡存在命題において本質的な役割を果たすことになる
のである.財空間となる線形位相東を(五,τ≧)と表記する.また価格の空
間としては位相空問(ムτ)の共役空問戸を採用することにする3).双対
性<ムが〉におけるム上の弱位相・が上の弱*位相をそれぞれσ・σ‡と略記
することにしよう4).
ではまず導選好関係・導生産技術導入の契機を確認することにしよう.イ
ントロダクションにおいて指摘した無限次元財空間のADM経済における
難点は1)を除けぱ全てある種の‘位相的内点条件’と深い関わりを持つ.
我々は[14]において‘生産技術に関する内点条件’を経済が満たす時これ
らの難点がクリアーされることを見た、では,‘生産技術に関する内点条件’
を経済が満たさない時一体何が問題となるのだろうか? 以下の例において
その問題の一端を見ることにしよう.
例3.1[W.Zame[15],p.p.1083]:単純な動学経済を以下のように定義
しよう.まず財空間を数列空問(1,,ll・ll)とする.11={π∈1~軸:Σ二11エ蜆1く。。}
でありl1πll=Σ二11エ而1である.この時11の共役空間は1蜆,即ち{z∈R蜆:
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、(106) 一橋論叢 第115巻 第6号 平成8年(1996年)6月号
任意の〃に対し1π、1くわとなるδ>Oが存在する}である、従って価格の空
聞は(1蜆,σ‡)と考えることができる.価値形式は肌=Σ二1π蜆π蜆で与えられ
る.今1人の消費者及び1人の生産者がいる経済を考える.消費者の特性は
(’1。,弘ω)で与えられる.ω=(4■蜆)とする.〃は効用関数であるがここでは
特に言及しない.生産集合γを(一11。)U{2一凸十1δ此一2■占δ此。1:尾=1,2,…}の
凸包とする.ただしδ比は第尾項のみ1の値をとりその他はOの値を取る数
列とする.γは自由可処分の仮定を満たすから価格は正値汎関数と考えて
一般性を失わない.今μを価格π∈1軸。/{O}における利潤最大化計画とする.
価格は正であるから利潤最大化を与える計画は{2’比十1或一21他δ凸十11ん=
1,2,…}の凸包に含まれると考えてよい.従ってψ=Σ算1{α。(2■川δ危一2■止
δ川)},Σ江1α此≦1,任意のんに対して叫≧Oである.μが実行可能である
ためにはμ十ω≧Oとならなければならない.従って任意のたに対して
μ(尾十1)=2■凸α屹、、一2一比α丘≧4一此11が成立する.換言すればα良十、一α、≦2一ト2
である.これを〃以降の全てのたについて集計するとα蜆≦2■蜆■1を得る.よ
って実行可能性を考慮すればΣ艮1α屹≦1/2でなければならない.生産集合
が凸であることに注意すると任意の2∈{2■川δパ2’此δ川:尾=1,2,…}に対
しμ十(1/2)2∈γである.従って利潤最大化条件からπ{μ十(1/2)z}≦卿即
ちπ≦Oが成立しなければならない.換言すると任意の尾に対し
2π(尾)≦π(た十1)である.π∈1蜆。であることに注意するとこれはπ=0を示
唆し矛盾が生ずる.従って実行可能な生産計画を支持する価格は存在しない
と結論することができる.
以上の例から,経済主体の選択集合が位相的内点条件を満たさない時必ず
しもその経済主体の計画を支持する価格は存在しないことが分かる.(例に
おける生産集合は内点を持たない.又自由可処分の仮定を満たすことにも注
意せよ.)これは消費サイドにおいても同様である.消費計画の上方等位集
合が位相的内点を持たない限りその計画を支持する価格が存在しないことが
ありうる(例えばA.Mas-Cole11[7]における例を見よ).しかしながら個
人の計画を支持する価格の存在は均衡存在のための必要条件であることに注
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無限次元財空闇と私有制経済 (107)
意してもらいたい.従ってこの例は経済の均衡が存在しないことがありうる
ことを示唆するのである.では上述の例において何が問題であったか? 例
を見れぱ分かるように,与えられた生産計画から定まる‘限界変形率/投入
の限界収益’が結果的に無限大に発散することに問題がある.実際今尾十1
期において2一庄単位の財を投入したとしよう.すると尾期において我々は
2’止十1単位の産出を得る.生産技術の定義から我々は尾期においてこの
2■川単位の産出を投入に用いることができる.結果我々は(危一1)期にお
いて2■丘十2単位の産出を得る.以下順次このプロセスを繰り返すことにより
我々は1期において1単位の投入を最終的に得る.逆に言うと尾十1期にお
ける1単位の財の投入の限界的な収益は少なくとも2ト1単位になるのであ
る.従って投入のタイミングを将来に持ち越せば持ち越すほど(即ち危→
。。)投入の限界的な収益は無際限に大きくなるのである.この時,第ん十1
期における財と1期における財の交換比率π(危十1)/π(1)は均衡下にあって
は少なくとも2比■1にならけれぱならない.実際,π(ん十1)/π(1)<2生■1が成
立すると仮定しよう.この時投入物の市場価格は投入物1単位の生産性より
も産出物の単位で計って低いのであるから,生産者は産出物1単位を犠牲に
することによってより多くの投入物を市場において獲得でき結果1単位以上
の産出物を生産技術において獲得しより多くの利潤を稼得できる.即ち生産
者はこの時利潤最大化を達成しておらずπ(尾十1)/π(1)が均衡価格比である
という当初の想定に矛盾することになる.従ってπ(冶十1)/π(1)≧2Hが成
立しなけれぱならない.他方これは例と平行して価格体系が全体として無限
に発散することを示唆する.従って均衡価格は存在しないと結論できる.
従ってこの例から均衡が存在するためには全経済主体の財に関する(ある
種の)限界変形率/代替率が必ず有限確定となるような経済環境が必要であ
ると考えることができる.このようなアイデアを経済主体の特性のレベルで
厳密に表現したものが導選好関係・導生産技術の概念なのである.そこで以
下において消費サイド,生産サイドの順でその定義を与えその特徴付けを与
えることにする.
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(108) 一橋論叢第115巻第6号平成8隼(1996年)6月号
消費者の経済データは消費者特性(X,≧,ω)により与えられる.X⊂ムは
消費集合,≧⊂XXXは選好無差別関係,ω∈ムは初期保有である.>,~
をそれぞれΣから導出される(厳密な)選好関係及び無差別関係としよう.
この時導選好関係は次のように定義される.(以下の定義は,A.Arujo and
P.Monteiro[2],W.Zame[15]における定義を一部修正したも’のである).
定義2,1 [A.Arujo and P.Monteim[2],p.p.420,W.Zame[15],p.
p.1086]:消費者の選好無差別関係≧が消費計画π∈Xにおいて‘導
(proper)’であるとは,π十ω一z∈X,α∈(O,γ),2∈αγならぱπ十α〃一z>π
となるようなOのτ一開近傍γ,〃∈X,γ∈(O,1]が必ず存在することをいう.
定義2.1の意味合いについて少し触れることにする.今仮に選好無差別関
係≧が消費計画π∈Xにおいて導ではないと仮定しよう.すると〃∈X及び
γの任意性から全体の変化が整合的である限り,いかなる極小単位の財2を
πから差し引いたとしても,それを「十分」代替する消費可能な計画は存在
しないということが分かる.従うて我々は消費計画エにおけるzという財
ベクトル1単位の犠牲はいかなる財ベクトルにようても代替することが不可
能であると結論することができる.有限可微分経済においてある計画におけ
る消費者の限界代替率とはその計画から限界的に乖離する時に効用水準を一
定に保つために必要な各財の代替関係を示す比率であウた.そのアナロジー
に基づいて我々は選好無差別関係≧が消費計画”∈Xにおいて導では無い時
”における(ある種の)‘限界代替率’は無限大に発散すると緒論づけること
ができるのである.逆にいうとπにおける(ある種のジ限界代替率’が有
限確定であるためには選好無差別関係≧は消費計画エにおいて導でなけれ
ぱならない.また選好無差別関係≧が消費計画エにおいて導である時その
定義から1単位の(極小な)2という財ベクトルは常に高々α単位の〃とい
う財ベクトルにより代替されることが分かる.即ち消費計画”における
(ある種の)‘限界代替率’は有限確定値αにより常に押さえられるのである.
従ってこれが上に述ぺたアイデァに対応することは容易に理解できよう.
この条件はまたある種の内点条件に対応する.即ち定義から次が成立する.
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無限次元財空闇と私有制経済 (109)
主張2・1:Xは凸集合であるとする.この時‘消費者の選好無差別関係≧
が消費計画π∈xにおいて導である’ということと‘O∈cl,r,r∩x/{O}・←φ
かっ({z}十r)∩X⊂{z∈X1z>π}を満たすある非空なτ一開凸集合rが存在
する’ということは同値である.
証明:選好無差別関係≧が消費計画z∈xにおいて導であると仮定し,γ,
砂,γを定義2.1における開近傍,ベクトル及びスカラーとしよう.τは局所
凸位相であるからγは均等性(balancedness)5)を満たすとして一般性を失
わない.rを{o∈ム:あるα∈(O,γ)が存在してo∈α({o}十γ)}と定義する.
この時〃∈rであるからr∩X/{O}キφは自明である.({到十1『)∩Xの任意
の兀はπ十α〃一z∈X,α∈(0,γ),2∈αγと書けることに注意すると定義2.1か
ら({π}十r)∩X⊂{2∈X:z>エ}が成立する事が分かる.
逆に主張2.1におけるrが存在すると仮定しよう.すると条件から任意
のα∈(0,1)に対しα({砂}十γ)⊂rとなるようなOのτ一開近傍γ,〃∈r∩X/{0}
が存在することが分かる.ここでもγは均等性を満たすとして一般性を失
わない.すると({エ}十α({〃}十γ))∩X⊂{z∈X:z>π}が成立するから,γ=
1とおけぱこれらγ,砂,γが定義2.1の条件を満たすことは容易に分かる.■
このようにして導選好関係には非空な内点を持つ集合1[が対応すること
が分かる.均衡存在命題において数学注定理6.2・数学注定理6.3は本質的
な役割(後述)を果たすのであるがこれらの定理の成立と非空な内点を持つ
開集合の存在は密接な関係がある.従ってこのrが均衡存在証明において
重要な働きをすることは想像に難くないであろう.しかしながら均衡存在の
ために各点で選好関係が導であることを要求するのは弱すぎる.消費計画の
推移に従って限界代替率が無限大に発散しうるからである.そこで我々は定
義2.1を強める.即ち導選好関係にある種の一様性を課すことにする.
定義2.2 [A.Amjo a皿d P.Monteim[2],p.p.420,W.Zame[15],p.
p.1086]:消費者の選好無差別関係≧が一様導選好関係(uniformly proper
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(110) 一橋論叢第115巻第6号平成8年(1996年)6月号
preference)であるとは,任意のz∈Xに対してエ十α〃一z∈Xα∈(O.γ),
z∈αγならば”十ω一2>”となるようなOのτ一開近傍γ,〃∈X,γ∈(O,1]が
必ず存在することをいう.これは‘O∈cl、η1[∩X/{0}キφかつ任意の”∈X
に対して({エ}十r)∩X⊂{2∈X:2>エ}を満たすある非空なτ一開凸集合rが
存在する’ということと同値である.
次に生産サイドに関して言及しよう.生産者の経済データは生産者特性
(γ)により与えられる.γ⊂Lは生産集合である.この時zが束であるこ
とから,任意の生産計画μ∈γはμ=リ十一μ■と一意的に分割されることに
注意しておこう.μ十,ガはそれぞれ生産計画μに対応する産出計画・投入
計画と解釈される.我々は導生産技術を定めるためにまず次の補助的な概念
を導入する.
定嚢2.3 [ム.Mas-Co1611[9],p.p.321]:Zがγの先技術(pre-techno・
logy)であるとは,ZがLの凸部分東であり自曲可処分(Z一五。⊂Z)を満
たし任意のε∈1~。。に対しεγ⊂Zを満たすことをいう。
Zは経済において現れるがしかしながら必ずしも技術的には可能ではない
生産計画全体のリストと解釈される.技術的に可能な生産計画全体のリスト
は言うまでもなくγである 我々は改めて(XZ)を生産者の経済データと
みなし,これを生産技術と呼ぶことにする.この時一様導生産技術は次のよ
うに定義される.(以下の定義はA.Mas・Co1e11が[9コにおいて導入した定
義を一部修正したものである.
定義2.4 [A.Mas-Co1e11[9],p.p.322]:生産技術(K Z)が一様導生
産技術(unifom1y proper production technology)であるとはμ∈Z/K
μ十αo+z∈Kα∈(0,γ)ならば脈αγとなるような0のτ一開近傍γ砂∈ム。/
{O},γ∈(O,1]が必ず存在することをいう、
この条件は〃という財ベクトル1単位を生産技術を通じて生産するために
は最低限1/α単位の2という財の投入が必要であるということを示唆する。
換言すると投入の限界収益は高々αということであり,これが上に述べた
アイデアに対応することも容易に理解できよう.この条件には定義から次の
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無限次元財空間と私有制経済 (111)
内点条件が対応する.
主張2.2:γは凸集合であるとする.この時‘生産技術(γZ)が一様導
生産技術である’ということと‘0∈c1!,r∩五。/{O}・←φかっ任意のμ∈γに
対して({ω一r)∩Z⊂γを満たすある非空なτ一開凸集合rが存在する’と
いうことは同値である.
証明:生産技術(γ,Z)が一様導生産技術であると仮定し,γ,砂,γを定義
2.4における開近傍,ベクトル及びスカラーとしよう.γは均等性を満たす
として一般性を失わない.rを{α∈L:あるα∈(O,γ)が存在してα∈α
({〃}十γ)}と定義する.この時砂∈rであるからr∩L./{O}十φは自明であ
る.({ω一r)∩Zの任意の元はリーα砂一z∈Z,α∈(O,γ),2∈αγと書けること
に注意する.μ=(μ一ω一2)十α〃十zであるからもし〃一αトバγならぱ定
義2.4から脈αγとなり矛盾が生ずる.
逆に主張2,2におけるrが存在すると仮定しよう.すると条件から任意
のα∈(0,1)に対しα({〃}十γ)⊂1[となるようなOのτ一開近傍γ,〃∈r∩
L./{O}が存在することが分かる.ここでもγは均等性を満たすとして一般
性を失わない.すると任意のリ∈γに対し({ω一α({〃}十γ))∩z⊂γが成立
するから,γ=1とおけぱこれらγ,o,ケが定義2.4の条件を満たすことが分
かる.■
Z=1二の時主張2.2は生産集合γが‘内点条件’を満たすことを示唆する.
その意味で一様導生産技術の定義は限界変形率の有限確定の要請を満たすと
ともに‘総生産集合における内点条件’の一般化にもなっているのである.
我々は以下において選好の族及ぴ生産技術の族を一様導選好関係・一様導
生産技術に制限して議論を進める.ADM経済は経済データの集合{(ム,≧1,
ω、),(¥,ろ),(θ、。)1{∈1,ゴ∈∫}である.卜{1,…,刎}は消費者の添数集合,∫=
{1,…,〃}は企業の添数集合である.吃は第{消費者の保有する第ゴ企業の
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(112) 一橋論叢第115巻第6号平成8年(1996年)6月号
利潤に対する請求権であり,任意のゴ∈∫に対しΣ,∈1島r1を満足する.経
済の総資源Σj、∫ωIをωと表記しよう.この時経済の擬均衡は次のように定
義される.
定義2.5:(ム軌π)∈π、、1ぺ×叫、〃×パ/{0}が次の条件a)~d)を満た
す時,それを経済の擬均衡と呼ぷ.
a) Σ、。μ{=Σゴ。〃十ω.
消費者{∈1に対し,B,(π)={2∈ム:楓≦πω‘十Σ〃亀。賜}と定める.
b)各消費者{∈∫に対し,4∈B,(π).
C)各消費者{∈∫に対し,‘任意のZ∈3,(π)に対してZ、≧〆か1ππFπω、
十Σ〃ら醐=min{π:禰∈ム},のいずれかが成立する.
d)各企業ゴ∈∫に対し,任意のリ∈写に対して概≧刎が成立する、
上述のa),b),d)に加えてc’) ‘各消費者{∈1に対し,任意の2ξ3i(π)
に対して”と,z’が成立する時,(z,μ,π)を経済の一般均衡と呼ぷ.擬均衡
(z,μ,π)が経済の一般均衡になるためには消費者の所得が生存水準の下限を
厳密に上回ることが必要である6).
総消費集合Σ{、凶総生産集合Σ〃写をそれぞれX,γにより表記する.
また総資源ωにより生成される順序イデアル7)をム(ω)と表記する.この時
経済が満たすべき諸仮定は以下のようになる.
仮定2.1:財空間(ムτ≧)を伴うADM経済は次の諸仮定を満たす.
各ゴ∈∫に対し,
a.1)X;=L。島).
b.1) ≧,は完備な前順序である.(消費者の選択に関する合理性)
b.2)≧、は乙×Lのτ一閉部分集合である.(選好の連続性)
b.3)任意のムμ∈ム,α∈(O,1]に対し,z>”ならぱα”十(1一α)ひ>,μで
ある (選好の凸性)
b.4)≧。は一様導選好関係である.またこの時〃、∈ム(ω)が成立する.
C)ω‘∈べ.(生存条件) I
d) γはτ一閉集合であり,かつ凸集合である.
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舞限次元財空問と私有制経済 (113).
各ゴ∈∫に対し,
a1) 写はO∈¥満たすτ一閉集合であり,かつ凸集合である.また写は
自由可処分の仮定を満たす.即ち,(写一ム。)⊂耳が成立する.
e.2)生産技術(写,ろ)は一様導生産技術である.またこの時巧∈ム(ω)が
成立する.
実行可能な配分の集合{(ムμ)∈凪、凶×叫、〃:Σ旧4=Σ。∈刈十ω}をλと
表記する.
f) ある五の(ハウスドルフ)局所凸位相‘でσ⊂‘⊂τなるものが存在す
る.この時λは’閉十”一コンパクトである.
経済の凸環境及び連続性の仮定は一般均衡理論においては標準的なもので
ある.実行可能な配分の集合λにおけるコンパクト性の仮定は具体的な財
空間のセットアップを反映しているという意味で整合的な仮定である.また
選好関係≧が一様導選好関係である時,この選好関係≧は〃という方向に対
して単調である.即ち‘任意のπ∈X及びα∈R+。に対しπ十α〃>π,が成立
する.従って〃’∈L(ω)という仮定は経済主体が望ましいと考える方向が社
会の総資源により制約されているということを示すと考えることができる.
劣∈ム(ω)という仮定も同様の含意を持つ.
次の2つの仮定は技術的なものであるが均衡存在にとっては必要な仮定で
ある.
仮定2.2:財空間の原位相τは次の性質を持つノルム1卜11により生成され
るノルム位相である:任意のエ、リ∈Lに対して1π1≧1μ1ならぱllzll≧llμllが
成立する9).
{2∈L:z≧2≧ωという形の集合を(順序≧による)区問と呼ぷ.
仮定2.3:Lにおける任意の区間は‘一コンパクトである.ただし‘は仮定
2.1,f)により与えられた‘と同一なものである.
仮定2,2,2.3を満たす空間として代表的な例は脚注2)で指摘したよう
にヵ一階可積分関数全体の空間,いわゆるLρ一空間である.
以上の諸仮定のもとで次が成立する.
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(114) 一橋論叢第115巻第6号平成8年(1996年)6月号
定理2.1 [A.Araujo amd P.Monteim[2],A.Mas-Co1e11[8],W.
Zame[15]]:ADM経済が仮定2.1~2,3を満たす時,その経済の擬均衡が
存在する.
この命題の構成及びその証明においてはW.Zameの結果を主にしてA.
Araujo and P.Monteiro及ぴA.Mas-Co1el1の上述の結果を併用している.
その対応関係に関しては以下の諸章及び参照文献における論文を参照された
い.この定理2.1の証明が我々の最終目標である.
3 Existence Lemma
我々はある線形部分空間の族に注目し経済をその線形部分空間に限定した
部分経済の列を定義する.そしてその部分経済列に対応する擬均衡列の集積
点が経済全体の均衡になることを示す.ではいかなる線形部分空問の族に注
目すべきか? 我々はW.Zame([15],p.p.1097~を参照)のアイデアに
対応して総資源ωを含むある種のベクトルにより生成される順序イデアル
の族に注目する.これらは線形部分束であり全空間ムの順序構造を保持す
る.その順序構造を保持するということが本質的である.これらの順序イデ
アルにおいて順序構造から生成されるある位相に注目する時我々は総生産集
合がその位相において非空な内点を持つことを見いだすのである.この経済
環境はすでに既知のものであって我々は‘この部分経済における’均衡を見
いだすことになる.その結論と第2章における導選好関係1導生産技術の性
質を組み合わせることにより我々は望ましい結論を得ることになるのである.
ではまず順序構造から導入される位相について言及しよう.〃∈五を〃≧ω
なるベクトルとしL(〃)を〃によウて生成される順序イデアルとする.この
時Z(〃)上の正値汎関数μ:ム(〃)→1~。を任意のπ∈ム(〃)に対しμ(π):inf
{β∈1~。。:β〃≧1∬1}により定義する.この時次が成立する.
補題3.1 [A.Amujo a皿d P.Mo皿teim[2],p.p.418]:1)μ:五(α)→
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無限次元財空間と私有制経済 (115)
灰十はム(〃)上のノルムである.κ凹をノルムμにより導入されるム(〃)上の
位相とする.この時位相空間(L(α),κ凹,≧出)は線形位相束である.ただし
≧阯は≧の五(〃)×L(〃)への制限である.また〃∈int〆ム(〃)十である.
2)τ阯をτのL(〃)上に導入された椙対位相としよう.この時,τ山⊂κ山が
成立する.即ちκ凹はτ出よりも位相として強い.
証明:1)infの性質から任意のムひ∈ム(〃)及びαξRに対しμ(αz)=
1α1μ(”),μ(π十μ)≦μ(z)十μ(μ)が明らかに成り立つ.従ってμ(z):0ならぱ
π=0を示せば十分である.μ(π)=Oかつπ≠Oと仮定しよう.ムは線形位相
東である事に注意すると,γ∩σ=φとなるzのソリッドな開近傍γ及びO
のソリッドな開近傍σが存在する.この時μ(”)=Oは任意のβ∈1~。。に対
してβ〃≧lzlを含意する.他方線形位相の性質から十分小さい全てのβに対
してβα∈σが成立する.従ってσがソリッドであることよりエ∈σとなり
矛盾が生ずる.また任意のムμ∈L(〃)に対し1π1≧1リ1ならぱμ(z)≧μ(リ)で
あるから,κ“は線形東位相である.{π∈ム(〃):μ(π一〃)≦2■1}⊂L(〃)。が成
立するから,〃∈intμ(〃)十である.
2)線形位相束における区間はτ一有界10)であるから任意の0のτ一近傍γ
に対し[一仏〃]⊂αγとなるα∈1~。。が存在する.従ってα■1[一仏α]⊂γ∩ム(〃)
が成立する.故にκ顯はτ山よりも位相として強い.一
ADM経済{(ふ≧‘,ω‘),(写,ろ),(4。):{∈1,プ∈ノ}のム(〃)上の部分経済を
{(凧≧芋,ω二),(写山),(亀ゴ):{∈1,ゴ∈∫}により定義する.ただし刃ニム∩工(〃)、
≧==と。∩五(α)×ム(〃),ωア=ω、十ω,〃≧ω≧O,写凹=写∩ム(α)である.この時
次が成立する.
補題3.2 [A.Ara㎜jo amd P.Momteiro[2],p.p.419~420,T.Bewley
[5],p.p.521~523,W.Zame[15],p.p.1095~1099]:ADM経済が仮定2.
1-a.1)~b.3),c)~e.1),仮定2.3に加えて,次の条件b.4’),e.2’)を満た
1229
(116) 一橋論叢第115巻第6号平成8年(1996年)6月号
すとする:
b.4’)任意の{∈∫に対し,任意のz∈刃に対し2>=エとなる2∈刃が存
在する.
e.2’) あるδ>1が存在して任意のゴ∈∫及びμ∈写”に対しδ〃4が成立
する.
この時ADM経済{(ム,≧、,ω‘),(写ろ),(島ゴ):{∈〃∈∫}のL(〃)上の部分経
済{(珊,≧=,ω7),(写出),(4。):{∈1,ゴ∈刀はρ㌦=1となるような擬均衡(エ“、リ凹,
ρ凹)∈π,、1珂×叫、∫耳”×(ム(〃)、κ凹)一を持つ.ただし(五(〃),κ“ブは(ム(〃)、κ山)
の共役空間である.
補題3.2はW.Zameのアイデアに対応してA.Araujo and P.Monteiro
が与えた部分経済の存在証明に依拠している.しかしながらその構成からそ
の存在証明は結局“総生産集合における位相的内点条件”を満たす経済の均
衡存在証明に帰着される.この経済環境は既に既知のものであってT.
Bewleyの存在証明と平行して均衡を得ることが可能となる.([14]におけ
る均衡存在証明の重要な源泉の1つとしてT.Bewleyの結果がある.)
証明:¥が自由可処分の仮定を満たすこと(仮定2.1.e-1)及びα∈int〆
ム(〃)。(補題3.1.1)からintμ山キφである.従ってこの部分経済における
総生産集合は当然位相κ山において非空な内点を持っ.またこの部分経済の
実行可能な配分の集合は{(ユμ)∈π{、1ムXπ。匡∫写:Σ‘。μ,=Σ〃助十ω十刎ω}
∩(π、、、4×1],、ハ)とL(〃)伽十咀の共通部分である.ただし各ゴ∈1に対し
珂士[O,ηδ〃十ω十刎ω],各ゴ∈ノに対し巧=[一(ω十刎ω)一(η一1)δ仏δ〃]であ
る.前者の集合は局所凸位相の加法及びスカラー倍法に関する連続性及び仮
定2.3からそれ自身∬十冊の‘刷十しコンパクト集合であり,かつそれは
五(〃)㎜十祀に含まれている.故に部分経済の実行可能な配分の集合は‘の相対
位相においてコンパクトである.従ってこの都分経済は原位相をτのム(〃)
上への相対位相としκ凹において総生産集合の内点条件を満たす経済である.
1230
無限次元財空間と私有制経済 (117)
さらにこの部分経済が[14]における定理2.2の他の諸条件を満たすことは
容易に確かめることができる.またこの経済における規準化された価格の空
間は[14]第3章より〃のκ山一近傍γで{〃}十γ⊂ム(〃)、を満たすγを取っ
て{ρ∈(L(〃),κ0)一:ρ炉1かつ任意のd∈Z(〃)十に対しρd≧O}と表現できる.
従ってこの部分経済が補題3・2の条件を満たすような擬均衡を持っと結論す
ることができる.一
b・4’)は非飽和の仮定である.またe.2’)は部分経済における実行可能
な配分の集合のコンパクト性を得るために必要な仮定である.又その証明に
おいて消費集合が順序において下方有界であることが内在的に用いられてい
ることに注意してもらいたい.では以下でこれらの補題を用いることにより
定理2.1を証明することにしよう.
4均衡存在命題の証明
本章における定理2-1の証明は主にA-Araujo and P.Monteiro[2],p.
p.420~p.p.422及びW.Zame[15],p.p.1097~p.p.1104の結果に依存す
る。また拡張された価格の空間のコンパクト集谷への規準化に関しては上述
の2論文と共にA-Mas・Cole1l[8],p.p-1050~p.p.1051の一様導選好関係
の定義に基づいた規準化の手法に啓発されて書かれたのであるが,これは同
時に部分経済における価格の全空間への拡張を与えることになる.
定理2.1の証明:実行可能な財の配分の集合λが‘嗣十蜆一コンパクトであ
ること(仮定2.1.f)選択に関する合理性(仮定2.1.b.1)選好の連続性
(仮定2.1.b.2)選好の凸性(仮定2.1.b.3)及び砂、という方向に対する選
好の単調性(仮定2.1.b.4)から(α。)∈π、。ムで任意の((a,),、ハ(軌、、)∈λ
に対しα。>‘a、となるようなものがある.集合σを{〃∈ム十:〃≧ω十Σ、匡、α、}
により定義し,{五(〃):〃∈σ}をα∈σにより生成される順序イデアル全体
の集合とする.これは集合の包含関係⊂により有向集合となる.σの定義
1231
(118) 一橋論叢 第115巻 第6号 平成8年(1996年)6月号
から任意の〃∈σ及び‘∈∫に対しα。ω、∈L(α)が成立することに注意してお
こう.△×λ⊂R2を(1,o。)×(O,(刎十η)■1)により定める.σ×△×ノ1に自然
な1順序関係を導入するとやはり有向集合になることに注意しておこう11).こ
の時(μδ,λ)∈σ×△×λに対応して生成されるADM経済の部分経済を
{(刃δλ,どδλ,ぺδλ),(rδλ),(色、):{∈〃∈∫}により定義する.ただし双δλ=
ム∩L(ω),≧1棚一≧、∩ム(α)・五(・),ωrδλ一ω,十λ(刎)一’μ凹舳一Y∩1・∈L:δ・
≧2}∩L(〃)である.仮定2.1.b,4)より特に任意の{∈1に対し砂、∈L(ω)と
なることに注意すると,この部分経済が補題3,2の諸条件を満たすことは容
易に確認できる.故にこの部分経済はρ山δλω=1を満たす擬均衡(π胆δ㍉
〃山δユ,ρ凹δλ)∈π、、、刃δλ×叫、/サ凹δλ×(L(〃),κ凹);/{O})を持っ.また生産集合は
自由可処分の仮定を満たすから擬均衡価格は正値汎関数になる.従って
ωチ棚の定義及ぴρ肥δλ〃=1より消費者の所得は厳密に正になり・結果この擬
均衡は部分経済における一般均衡となる.
今,原位相τのム(〃)上の相対位相をτ刮と表記しよう。すると一様導選
好関係・一様導生産技術の定義から我々はρ凹舳がL(〃)上でτ㌧連続である
1二とを示すことができる.この結果は本質的である.ρ別δλの構成そのものは
人工的であるにも関わらず一様導選好関係・一様導生産技術を通じて当初の
経済データと整合的な性質をρ顯δλが持つに到るからである.我々はこれを
補題の形で与えよう.
補題4.1 [A.Amujo amd P.Monteim[2],p.p.421,W,Zame[15],
p.p.1100~1101]:L(〃)上の線形汎関数ρ洲:L(〃)→RはL(〃)上でτ山一連
続である.
証明:各{∈∫及びゴ∈ノに対しK,砂.,γ,巧,〃、、γをそれぞれ一様導選好関係・
一様導生産技術におけるOのτ一開近傍,’ベクトル,スカラーとしよう.γ
を∩{K:冶∈∫または危∈ハにより定める.τは線形東位相であるからγは
凸・ソリッドでありかつ均等性を満たすと想定して一般性を失わない・また
1232
無限次元財空間と私有制経済 (119)
〃=(Σ。∈〃,十Σゴ∈^)と定める.この時z∈ム(〃)∩γを取るとあるα∈R。が
存在してα〃≧lzlが成立する.従って部分経済における実行可能性から
α(λ)一1(Σ,、∫4δLΣ、、〃δLω)≧121が成立する.この時我々は一般性を失
うことなくmaX{孤1尾∈∫または尾∈∫}≦α(λ)11と仮定できる.またΣ‘、∫4δλ
十Σ、。J(ψ凹δλ)■≧Σ,、μ二δλ一Σゴ、〃δLωであるから,我々は次を得る.
α(λ)■1(Σ‘。14δλ十Σ、、/(㌶阯棚)’)≧lzl.…(1)
またム(〃)は線形部分東であるから定理6,1を(1)に適用して,次を得る.
各ゴ∈∫及びゴ∈∫に対し1ε1=α(λ)■1(Σ”ゐ,十Σ、匡∫ら),”ζ舳≧わ、≧O,幼山棚≧ら≧0
となるようなわ‘∈L(〃)十,ら∈ム(ω)十が存在する.…(2)
またγはソリヅドだからα(λ)■1δ、∈γ,α(λ)■1らξγである.…(3)
ここで各{∈/に対しπ芋δλ十(α(λ)一1)一1(〃,一α(λ)一1わ…)とすると(2)からこれ
は刃δλに属し,かつ,仮定2.1.b.4)より4棚十(α(λ)■1)11(〃、一α(λ)一1δ{)
>,エζ棚が成立する.従って擬均衡の条件からα(λ)一がλb,≦ρ㎜δλ〃{が成立する.
・(4)
また各ゴ∈∫に対し幼凹伽一(α(λ)■1)一1(叱一α(λ)■1ら)と定義する.すると仮定2.
1,e.2)からこれは写に属すことが分かる.従って擬均衡の条件から
α(λ)一1ρ出δλら≦ρ】δλ%が成立する.…(5)
(4)(5)をづ,ゴについて集計することにより我々は(2)から
ρ凹δλlzl≦ρ凹δλ〃を得る.…(6)
他方ρ山冊は正値汎関数であるから,1ρ州zl≦ρ凹棚121である.従って(6)よ
り1ρ0δλzl≦ρ出δλ砂を得る.これは線形汎関数ρ阯舖がム(〃)∩γ上で有界である
ことを示唆する.Oの近傍上で有界な線形汎関数は連続であるからρ“δλはム
(〃)上でτ0一連続である.I
次いで我々は価格の集積点を得るために都分経済における価格の全空間へ
の拡張線形汎関数及びその汎関数の所属する全部分経済に共通な規準化され
た価格の空間を獲得しなけれぱならない.それに関して次が成立する.
1233
(120) 一橋論叢第115巻第6号平成8年(1996年)6月号
補題4.2 [A.Mas-Co1el1[8],p.p.1050~1051]:上述のγ,〃を固定す
る.この時任意の部分経済における均衡価格体系ρ“棚:五(〃)→Rに対し,そ
のτ一連続な全空間への拡張線形汎関数π山伽:五→1~でπ洲∈yo,π山棚ド1と
なるものが存在する12).
証明:(”凹δλ,〃州,ρ皿δλ)は対応する部分経済における一般均衡であった.
故に”ζδλ十砂,>μ二δユよりρ凹δ㌦.>Oである.従って我々は改めてρ山伽〃・・1と一
般性を失うことなく仮定できる.すると補題4.1(6)から任意のz∈L(刎)∩y
に対して1ρ凹棚zlく1が成立する.仮定2.2より(ム,τ)はノルムll・l1により
生成される線形位相束であったからγは半径γの開球{エ∈五:llエll〈γ}であ
ると一般性を失うことなく仮定できる.l1ρ山δλl1凹δλ=sup{1ρ凹δλ21:l1211≦1か
っz∈ム(α)}と定めよう.するとllρ凹δλl1胆δλ≦ゲ1である.次にミンコフスキ
ー汎関数13)〆棚:ム→Rを各z∈ムに対しが棚(z)=llρ凹δλl1山δユllzllにより定める.
この時任意のz∈L(〃)に対し1ρ0δλzlく〆δλ(2)である.従って定理6.2より
ρ出δλの全空間Lへの拡張線形汎関数π山δ^:L→1~で任意の2∈ムに対し
1π“机zl≦がδλ(z)を満たすものが存在する.故に任意のz∈Lに対し
1π山δλ(2/11211)1≦γ一1が成立する.これより任意の2∈γに対して1π凹棚zl≦1
を得る.これはπ藺δλ∈γoを示唆する.またπ凹δしはρ山δλの拡張線形汎関数な
のだから当然π阯δ㌦=1である.■
補題4.2より任意の部分経済における(拡張された)均衡価格体系は
γ0n{π∈ム*:πド1}に属すと考えることができる.これは定理6.3より
σ*一コンパクト集合である.かようにして我々は全部分経済に共通な規準化
された価格の空間を得た.これをγヰと記そう.プは0一線形汎関数を含ま
削・から価格の集積点は非O一線形汎関数となることに注意してもらいたい.
かようにして我々は上述の要件を満たす有向点列{(π刊δユ,〃凹δλ,π凹δλ)}
⊂π。、凶×叫、∫写Xプを得た.我々は次の3ステソプを経て有向点列の集
積点を獲得する.
1234
無限次元財空間と私有制経済 (121)
ステップ1:λ→O
(仏δ)∈σ×△は固定されているものとする.この時{(”凹舳,μ咀δλ,π山δλ)}は
30δ×プに属す.ただし3阯δ=[O,(ηδ十閉)α十ωコ閉×[一ω一(閉十η一1)α,δ〃コ”
である.仮定2.3からB山δは‘㎜十蜆コンパクトであり,かつそれはム(〃)㎜十”
に含まれているからそれ自身‘の相対位相においてコンパクトである.従っ
て我々は{(エ凹舳,リ凹δλ,π阯δλ)}からλ→0とすることによって集積点の集合
{(π山δ〃㌣π阯δ)}を得る.仮定2,11a.1),e,1)から(〆㌧皿δ)∈H、、凶×
n。∈/耳となることに注意しておこう.この時局所凸位相におけるスカラー倍
法及び加法の連続性から,λ→Oの時λ〃→0である.従ってΣ、、、”二δ二
Σ、∈/㌶咀δ十ωを得る.当然π’δ∈γ‡である.
ステップ2:δ→oo
〃∈σは固定されているものとする.この時{(π山δ,リ咀δ,π凹δ)}はλ×γ#に
属す.仮定3.1-f)よりλは’舳一コンパクトである.従って我々は{(”“δ,
〆㌔π山δ)}からδ→。。とすることによって集積点の集合{(〆,ゴ,π出)}を得る.
上述と同様にして(z凹,μ山)∈π,∈ム×叫、/写,Σ,、。4=Σ、、∫ψ十ω,π凹∈プで
ある.
ステップ3:
σはそれ自身有向集合であったからλ×プが‘閉十冊×σ*一コンパクトであ
ることより{(z0,μ凹,π山)}から集積点(■,飢π)を得る.当然(ム〃)∈π…、、x×
n〃写,Σ。・μ=Σゴ∈刈十ω(定義2.5.a),π∈プである.
(π,払π)が与えられたADM経済の擬均衡であることを示すのは容易で
ある.実際[14]第4章における主張1及ぴ主張2と全く同様にして,任意
の{∈1及び(砧∈/∈叫。/写に対し乞∈名かつ2>みならぱ磁≧πω,十Σゴ、J易、
巧’及び乞∈ムかつz≧μ…ならぱ朋≧πω,十Σゴ、渇,㎎’が成立する.この2
条件からただちに消費者の予算線における選択(定義2.5.b)及び各企業に
おける利潤最大化(定義2.5.d)が導かれる.また選好の連続性(仮定2.1.
b-2)及ぴ選好の凸性(仮定2.1.b.3)と上述の2条件から擬均衡における
1235
(122) 一橋論叢 第115巻 第6号 平成8年(1996年)6月号
定義2.5.c)(選好の極大化ないしは最低所得水準における否応なしの選択)
が成立することも[14コ第4章における主張3と全く同様にして示せる.か
ようにして(エ,ひ,π)は与えられたADM経済の擬均衡であり均衡存在証明
は完遂した.1
5 結語
本稿の均衡存在命題は上述したように特にρ一階可積分関数全体の空間
(工、一空問)に適合的な命題である.これらの空間においてはLρ一ノルムの生
成する位相は自然な順序関係の下で線形東位相になるからである.これらの
空間においては正象限はそのノルム位相において非空な内点を持たない.そ
れ故、生産集合が自由可処分の仮定を満たしたとしても(総)生産集合が
‘内点条件’を満たすことは一般的には期待できないのであった・この時経
済において何が問題になるのかは例2.1が示すとおりであって,選好及び生
産集合の幾何的形状そのものに間題が内在することになる.消費者の計画及
び生産者の計画の‘ある価格による支持’(難点3,4)の失敗が起こり得る
のである.個人のレベルにおける1支持’の失敗は当然社会全体における計
画の価格による支持’(難点5)をも失墜させる.かようにして経済の均衡
が存在しないことが起こり得る.問題の所在は個人の特性のレベルにある。
それ故その対処として選好の族及び生産技術の族を制限することは極めて自
然な成り行きとなるのである.その時A.Mas-Colel1は問題点のその‘限界
分析’的な本質を鋭く見抜き‘限界分析’上の視点において何を制限すぺき
なのかを導選好関係・導生産技術の仮定により極めて明瞭に定式化したので
ある.経済学的な洞察が同時に幾何的・数学的にはある種の‘内点条件’に
対応する.それ故‘価格のコンパクト集合への規準化’(難点2)をも克服す
るに到るのである.さらにここに無限次元財空間固有の数学的構造(順序構
造)への洞察が加わる時,イントロにおいて上げた全ての難点は解消し本稿
で見たように経済の均衡が存在するのであった.
導選好関係・導生産技術の仮定はADM経済における他の諸仮定と同様一
1236
無限次元財空問と私有制経済 (123)
にして経済データにおける規範的な性質である.経済が満たすべき性質であ
ると同時に,それが欠けて{・る時経済に何が起こるのかに対する有用な洞察
を与える.例えばファイナンスにおける効用関数においてO一消費における
限界効用の無限大への発散(いわゆる稲田の条件)がしばしば仮定される.
しかしながらこの条件は一様導選好関係の仮定と矛盾することが知られてお
り均衡が存在しないことがありうるi4).この視点から改めて証券市場の有り
方や政府・中央銀行の役割を問いかけることも例えぱ可能であろう.
このように一般均衡理論は他の経済理論との接点を保持しつつ様々な経済
的諸問題に対する理論的な解答を与えてきた.しかしながら非完備条件付き
財市場や情報・不確実性の問題あるいは不完全競争の問題等において未解決
な課題に直面し新しいあるいは見落とされている視点を改めて問われている
のもまた事実である.我々はこれらの諸課題に応えるべく理論的な視点をよ
り鋭利にしていかなけれぱならない.無限次元財空間の問題は殊に通時的な
問題/情報・不確実性の問題に直面する時不可避的に現れる経済構造であり
上述の未解決な諸課題とも極めて密接なつながりを持つ.それ故我々は無限
次元財空間を伴うADM経済における経済学的な洞察をそれら諸課題に活
かすことが問われているのである.
数学注
本稿においては線形位相空間論・線形位相束論が用いられている.前者におい
ては例えぱW.Rudin〔12コを,後者に関してはC、凪A1ip1antis and0.Burkins-
haw[1]を参照してほしい.ここでは記号の表記及ぴ使用した数学定理を上げ
るに留める.
(L,τ≧)を線形位相束とする.ムはこの時擬順序≧において束であるから任
意の集合{エ,リ}は最小上界πVリ及ぴ最大下界エ〈リを持つ.エ〉OをT+,
(一エ)VOをゴ,πV(一■)を1エ1により表記する.これらはそれぞれ■の正値,
負値,絶対値と呼ぱれる.また集合{z∈L:エ≧O}はムの正象限と呼ぱれる.
我々はこの集合をム。と表記する.X⊂ムがソリッドであるとは,エ∈Xかつ
1エ1≧1リ1≧Oならぱμ∈Xが成立することをいう.またX⊂五がLの部分東であ
るとはXが東の諸演算に桃・て閉じていることをいう.ωにより生成される順
序イデァルは{z∈Llα1ω1≧1エ1となるα∈R。が存在する}により定義される.
1237
(124) 一橋論叢第115巻第6号平成8年(1996年)6月号
これは線形部分束である.
この時我々は次の3定理を用いる.
定理6.1 [㎜eszの分割定理]:(ムη≧)を線形位相東とするとする、この時
もしリ≧O,2≧O,μ十~≧エ≧Oが成立するならぱ,砂4’≧O,2≧2’≧0、リ’十2’=τ
となる〃’,2’∈ム。が存在する.
定理6.2 [Hahn一肋mchの拡彊定理]:リ:L→R手をミンコフスキー汎関
数13)とし,〃⊂ムをムの線形部分空間とする.この時もし線形汎関数ρ:〃→R
が任意の■∈〃に対し1ρ(エ)1≦〃(エ)を満たすならぱ,任意のエ∈1二に対し
1π(π)1≦リ(エ)となり,かっ,π〃=ρとなるようなρの拡張線形汎関数π1工→1~
が存在する、
定理6.3 [Bamoh-Alaog1皿の定理]:γを工の0におけるτ一近傍とし,γo
を{π∈戸1任意の〃∈γに対し1刷1≦1}により定義する.この時γoはσ申一コン
パクトである.
1)最小限必要な数学上の知識に関しては数学注及ぴW.Rudin[12]・C.D.Ali・
prantis and O.Burkinshaw[1]を参照されたい.
2)線形位相束として代表的な空間はρ一階可積分関数全体の空間いわゆるムρ一空
間であり,ファイナンス理論と密接な関係がある.
3)ADM経済における完全競争の仮定から価格体系は線形性を満たすと想定し
て一般性を失わない.財空間及ぴ価格の空間に関する言及としては例えぱ[14]
等を参照せよ.
4)W.Rudin[12コ参照.
5)任意のα∈[一1,1コに対しα11⊂γが成立することをいう.
6) [14]において言及したように消費者の所得が生存条件を下回るとき需要の連
続性が失われることが知られている.この時経済の均衡が存在しないことがあり
得る.我々が擬均衡に注目する理由はそこにある.
7)数学注参照.
8)束の諸性質を用いる・ためには消費集合のこのような特定化が必要であり一般
性はやや損なわれている.しかしながら経済学的には有意な仮定である、また線
形位相束の性質から消費集合はムのτ一閉集合であり,また凸部分集合であるこ
とに注意せよ.
1238
~~F~;~~5t~t~~~;FF~~ ~ ~A~~ ~ii~!~: (1 25)
9) / /vAP~=F*~}c:~~L・1C~~, c q)~~~~~~~~i~ ~ ~LO :: ~ ~ ~a) / 'VA ~~L~~l~t~(~Z
~~xi~~~~~.'・~~~Z~]1~ z~) ~) c ~ it~~l~:I~ ~~ ;6.
10) XCL ~~ T-~~!~:i~z~)~ ~ ,~~E~:a) O a) 1-~~~~ V ,c5~ ~IC XcaV ~ t~: ~ ~ 5
f~: a eR++ ~~~~E~ ~ ~: ~ ~L' 5 .
11) (u; 6, A) ~ (u'. 6', A') ~, L(u')CL(u), 6~6'. A'~A }c I ~ ~~~)C ~tLi~ I L'.
12) ~i~~! 6. 3 ~~~E~~~..-_.~I.. *
13) l~~~:~FL~]~ p L-R+ ~~~E~~~o) x,yeL ~CC~ aeR ~c~f~ 1)p(ax)= ai
p(x), 2)p(x+y)~p(x)+p(y) (D 2/~~:¥~~:~:ik~tB~, ~:a)~L~1~~t ・ = 7 ;~ ~
-~L~1~~~U~2~;. c*Ll~/ 'vAa)-~~~~f~i.*.I~2~~~.
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