遺跡gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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1 遺跡GISモデリングにおける 「編年時間参照系」 第2回 時間GIS研究会 - 時間を取り巻く諸問題 - 2013年 2月 23日 村尾 吉章 日本アイ・ビー・エム株式会社 奈良大学文学部地理学科非常勤講師

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Page 1: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

1

遺跡GISモデリングにおける

「編年時間参照系」

第2回 時間GIS研究会 - 時間を取り巻く諸問題 -

2013年 2月 23日

村尾 吉章

日本アイ・ビー・エム株式会社奈良大学文学部地理学科非常勤講師

Page 2: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

2

はじめに

共同執筆者:

奈良大学 碓井照子

奈良文化財研究所 森本晋

(株)かんこう 清水啓治

同志社大学 藤本悠

京都大学大学院 清野陽一

ナカシャクリエイティブ(株) 玉置三紀夫

奈良文化財研究所 山本由佳

日本アイ・ビー・エム(株) 村尾吉章

本日のお話は,2008年度,2009年度,2012年度GIS学会研究発表大会で発表した内容およびその後の研究成果をベースとしています。

タイトル: -遺構情報モデルへの時間スキーマ適用法の検討-考古遺物の時間属性表現を目的とした地理情報標準準拠の

編年参照系モデル-地理情報標準に準拠した遺構情報モデルのRDBへの実装

Page 3: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

3

説明内容

1. 遺跡情報と時間属性

2. 編年の取り扱い方

3. 編年時間参照系モデルの実装方法

4. 編年時間参照系モデルの有効性と意義

Page 4: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

4

1.遺跡情報と時間属性

Page 5: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

5

遺跡データ とGIS

遺跡調査

遺構図

遺跡分布図

GISを活用した遺跡データの情報化が必要

これまでの情報化の課題点

• 図面を再現するCADシステムでは研究目的に合わない。

• 地図と整合のとれた情報管理ができていない。

• オブジェクト(考古学的地物)を分類した管理ができていない。

• 過去のデータを活用できない。

• 研究者間でデータ交換できない。 歴史的データでは

時間特性の管理が必須

Page 6: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

6

遺構情報の情報化と GIS

明確で妥当なオブジェクト分類を行う。

位置や形状を含んだ属性情報や時間軸の属性情報を共通の整理手法

のもとで管理する。

長期保管,履歴管理,複数の調査データの統一管理,研究者間のデー

タ交換や情報共有を可能とする。

情報処理技術を利用した情報分類・検索・分析を容易にし,自動化への

道を拓く。

地理情報標準によるGISモデリング技術を遺構情報に適用

Page 7: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

7

国際規格 ISO 19100シリーズ

• Geographic Information / Geomatics (地理情報 / 地理情報科学) の標準化を図るため,ISO(国際標準化機構)に1994年に専門委員会(TC211)が設立された。

• 現在, TC211には Pメンバー 32カ国,Oメンバー31カ国が参加

• TC211で開発された各規格は,19100番台の番号が割り当てられた規格シリーズとなっている。

• ISO 19100シリーズでは,既に,改訂版も含め56種類の国際規格をリリースしている。

• 地球上の位置と直接・間接の関係をもった事物や現象に関する情報や,それらに対する処理機能,ツール,サービスなどについての仕様を,体系的に整理し定義している。

【参考】

Page 8: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

8

ISO 19100シリーズとJIS規格(抜粋)

ISO規格番号 JIS規格番号 タイトル

ISO/TS 19103:2005 - 概念スキーマ言語

ISO 19105:2000 JIS X 7105:2001 適合性と試験

ISO 19107:2003 JIS X 7107:2005 空間スキーマ

ISO 19108:2002 JIS X 7108:2004 時間スキーマ

ISO 19109:2005 JIS X 7109:2009 応用スキーマのための規則

ISO 19110:2005 JIS X 7110:2009 地物カタログ化法

ISO 19111:2007 JIS X 7111:2004 座標による空間参照

ISO 19112:2003 JIS X 7112:2006 地理識別子による空間参照

ISO 19113:2002 JIS X 7113:2004 品質原理

ISO 19114:2003 JIS X 7114:2009 品質評価手順

ISO 19115:2003 JIS X 7115:2005 メタデータ

ISO 19117:2012 - 描画法

ISO 19118:2011 JIS X7118 符号化

ISO 19123:2005 JIS X7123 被覆の幾何と関数に関するスキーマ

ISO 19141:2008 - 移動体地物のためのスキーマ

ISO 19136:2007 JIS X7136:2011 GML

ISO 19155:2012 JIS X7155:2011 場所識別子(PI)アーキテクチャ

規格番号斜体:発行予定

【参考】

Page 9: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

9

ISO 19100 による地理空間情報作成プロセス

地理空間情報作成対象の世界(論議領域)

UMLを利用

地物型の抽出

設計

応用スキーマ 符号化仕様導出

ISO 19109 応用スキーマのための規則ISO 19107 空間スキーマISO 19108 時間スキーマISO 19110 地物カタログ化法 など

ISO 19118 符号化 本体 (基本概念)

ISO 19118 符号化 附属書 (符号化規則)

ISO 19136 GML (符号化規則)

XMLを利用

データ取得

符号化

地理空間情報仕様GFM 規定

【参考】

Page 10: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

10

地理空間データの設計

XX 病院

XX 公園

XX 病院

XX 公園

ISO 19100 による規定

応用スキーマを記述するルール

空間属性・時間属性などを定義するための部品

地物の抽出

これにより、業務システムの一環としてGIS技術を利用することが可能になる。

属性・機能・振舞い・表現方法などが共通するものを集約し

て地物とする。

架設

名称住所

電話番号

建 物

名称面積施設住所

公 園

名称電柱種別付属設備所有者工事日

電 柱

名称電線種別被覆加工電話番号

電 線引込

接続

名称診療科目診療時間

病 院

面要素線要素

点要素

面要素

応用スキーマ

応用スキーマは、地理情報を分類しその構造をUMLクラス図で記述したもの。

遺構情報にもこの技術を適用できる。

【参考】

Page 11: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

11

遺構情報モデル (骨格部分)

調査報告書に対応

各遺構図に対応

個々の遺構の図形に対応

遺構を高さで分類(共通の分類尺度)

遺構のグループ化

すべての調査担当者が作成する

調査報告書の「遺構図」をベースに

遺構情報を整理

穴遺構 盛上げ遺構 平面遺構

遺跡

調査成果

遺構図

遺構平面図 遺構断面図

遺構図形

遺構素 遺構群

0..*

0..*

0..*

1..*調査区図形 撹乱図形 参照図形

Page 12: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

12

遺構図例と各クラスへの割当て

発掘区壁

撹乱構造物

土木ケバ

別の遺構図

遺構図間関係点(この場合は,明示されていない)

遺物位置 穴遺構

別の遺構図平面遺構

盛上遺構

Page 13: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

13

遺構情報にとっての時間的特性

遺構情報モデルの時間的特性に関する特徴:

発掘調査の内容に対して,できるだけ研究者の主観を入れない状態で

の客観的な情報化を目指す。

→ 時間的特性も客観的な情報と研究者の主観とを峻別する。

一回の発掘調査成果を対象としているため,ほとんどの遺構にとって時

間属性は共通。

個々の遺構の時間属性が,客観的に明確になることは少ない。

(同時に発掘された土器の編年や木簡によって,遺構の年代特定が可

能となる場合もある。)

Page 14: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

14

遺構の時間属性

年代特定

暦年参照

時代参照

編年参照

編年: 2つの事象の時間関係を明らかにして配列すること。また,その配列。

710年,天平3年など

平安時代,鎌倉時代など

神宮寺式土器,鬼高式土器など

これらの時間属性をどのように表現すればよいか?

Page 15: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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地物の定義例

ビルディング

名称: 文字列型

住所: 文字列型

延床面積: 実数型

階数: 整数型

地下階数: 整数型

室数: 整数型

所有者名: 文字列型

所有者住所: 文字列型

テナント: テナント情報 [0..*]建物構造: 文字列型

竣工年月: TM_Instant営業開始年月: TM_Instant位置: GM_Point1階形状: GM_Surface

時間属性

空間属性

Page 16: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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時間属性に関する標準データ型

種別 意味 クラス名 説明

時間幾何

要素

時点 TM_Instant1つの時間位置情報だけで表現したいときに用いる部品

期間 TM_Period2つの時間位置情報によって示すことのできる範囲で表現したいときに用いる部品

時間位相

要素

時間ノード TM_Node時間的な位相を表現したいときに、つながり関係をもつ交点として扱うべきときに用いる部品

時間エッジ TM_Edge時間的な位相を表現したいときに、ノード間をつなぐものとして扱うべきときに用いる部品

Page 17: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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時間に伴う地物の変化

≪Feature≫

+存在期間:TM_Period

建 物

新旧それぞれの建物の情報を,

時間属性の設定により

別インスタンスとして保持できる

1954年4月~1997年9月 2001年7月~

建物インスタンスA 建物インスタンスB

Page 18: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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時間位置情報と時間参照系

時間位置は時間参照系のもとで特定される。

時間位置情報(TM_Position)

時間参照系(TM_ReferenceSystem)

2008年10月23日,710年

平成20年10月23日,和銅3年

奈良時代,平安時代

聖武天皇Ⅱ期,平城宮第Ⅴ期

縄文時代前期,古墳時代後期

ジュラ紀,白亜紀,新生代

時間的な位置を表現するための方法を定義する。

時間座標参照系(グレゴリオ暦,協定世界時)

暦参照系(和暦)

暦参照系(時代定義)

暦参照系(時代定義)

順序時間参照系

順序時間参照系

Page 19: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

19

時間位置情報

暦日

時刻

順序時間位置

時間座標位置

時間位置情報

Page 20: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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時間参照系

時間座標参照系

順序時間参照系 暦参照系

時計参照系

Page 21: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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時間参照系 - 時間座標参照系

時間座標参照系

時間位置情報(TM_Position)

時間参照系(TM_ReferenceSystem)

2008年10月23日,710年 時間座標参照系(グレゴリオ暦,協定世界時)

グレゴリオ暦であれば,date8601を直接使用してもよい。

Page 22: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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時間参照系 - 暦参照系と時計参照系

暦参照系

時計参照系暦年代

時間位置情報(TM_Position)

時間参照系(TM_ReferenceSystem)

平成20年10月23日,和銅3年奈良時代,平安時代

聖武天皇Ⅱ期,平城宮第Ⅴ期

暦参照系(和暦)

暦参照系(時代定義)

暦参照系(時代定義)

Page 23: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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時間参照系 - 順序時間座標系

順序時間参照系

順序年代

縄文時代前期,古墳時代後期

ジュラ紀,白亜紀,新生代

順序時間参照系

順序時間参照系

時間位置情報(TM_Position)

時間参照系(TM_ReferenceSystem)

Page 24: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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遺構の時間属性

年代特定

暦年参照

時代参照

編年参照

編年: 2つの事象の時間関係を明らかにして配列すること。また,その配列。

710年,天平3年など

平安時代,鎌倉時代など

神宮寺式土器,鬼高式土器など

「編年参照」 は,どのように表現すればよいか?

時間座標参照系,暦参照系でよい。

暦参照系で暦年代を定義すればよい。

Page 25: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

25

遺構間の時間関係

時間関係

同時存在

継承

遷移

対応

複数遺構の時間的同一性,同時代性など

時代性の異なる複数遺構の機能継承性など

種類の異なった遺構類型への時間的変化など

遺構間の時間に関する一般的な関係付け

時間幾何情報の比較でよい。

時間関係で表現可能。

時間位相,時間関係で表現可能。

Page 26: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

26

遺構情報への時間的特性の割り当て

遺構情報への時間的特性の割り当て:

• 遺構をグループ化し,意味づけすることから始まる。

• 土器の編年などによる共通的な時間属性を,周辺の遺構に割り当てる。

• 研究者の判断を付加することにより時間関係が明確に定義される。

• 複数の調査成果を横断的に検討することによって明らかになる時間関係

も多い。

Page 27: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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遺構情報への時間的特性の割り当て

• 遺構をグループ化し,意味づけすること

から始まる。

• 土器の編年などによる共通的な時間属

性を,周辺の遺構に割り当てる。

• 研究者の判断を付加することにより時

間関係が明確に定義される。

• 複数の調査成果を横断的に検討するこ

とによって明らかになる時間関係も多い。

遺構情報に時間特性を付加する上での機能要件

遺構を自由にグループ化できる必要がある。

グループ化したものに時間属性を割り当てることができる必要がある。

グループ化したものに時間関係・時間位相を定義できる必要がある。

調査成果をまたがってさまざまな定義ができる必要がある。

必要とされる機能要件

Page 28: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

28

穴遺構データの例

柱穴の遺構から,適切に抽出したものをグループ化することにより,建物の存在や形状が推定できる。

Page 29: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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複数の遺跡・遺構間の関連づけ

遺構グループ間で関係づけ

遺構のグループ化,遺構間の関連づけなどは,調査担当者や研究者の主観にもとづく部分が少なくない。

Page 30: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

30

遺構情報モデルへの時間的特性の追加

発掘調査結果としての客観的情報 研究成果としての解釈情報

+ 論理遺構+ 遺構図形

0..*0..*遺構図形

遺構群

+ 構成要素

1..*

遺構素

遺跡

調査成果

+ 調査成果0..*

遺構図

+ 遺構図0..*

+ 遺構図形0..*

穴遺構 盛上げ遺構 平面遺構

遺物位置

+ 付加属性 [0..*] : 付加属性値

+ 説明 [0..1] : CharacterString+ 存続期間 : TM_Period+ 識別名 [0..1] : CharacterString+ 論理遺構種別 : 論理遺構種別

論理遺構

+ 墓 : + 古墳 : + 建築物以外の建造物 : + 建築物 :

<<CodeList>>論理遺構種別

+ 集合

+ 部分

0..*

0..*

+ 付加属性 [0..*] : 付加属性値

+ 説明 [0..1] : CharacterString+ 主題 : CharacterString

研究主体

+ 論理遺構 0..*

+ 面 [0..1] : GM_Surface+ 線 [0..1] : GM_Curve+ 点 [0..1] : GM_Point

論理遺構図形

+ 論理遺構図形0..*

+ 付加属性 [0..*] : 付加属性値

+ 説明 [0..1] : CharacterString+ 時点 [0..1] : TM_Instant

論理遺構時間ノード

+ 論理遺構時間ノード0..*

TM_Edge

+ 時間エッジ0..1

TM_Node

+ 時間ノード0..1+ start

+ end

+ 後続

+ 先行

0..*

0..*

時間関係

Page 31: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

31

平城宮内裏における建物の変遷

時 期 紫宸殿 宜陽殿 春興殿

平城宮第Ⅰ期(元明・元正)

SB460 - -

平城宮第Ⅱ期(聖武 平城宮還都まで)

SB450A SB440 SB650

平城宮第Ⅲ期(聖武 平城宮還都以降)

SB450A SB440 SB650

平城宮第Ⅳ期(孝謙・淳仁・称徳)

SB450B SB440 SB650

平城宮第Ⅴ期(光仁)

SB447 - SB650

平城宮第Ⅵ期(桓武以降)

SB447 - SB650

【事例】

Page 32: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

32

平城宮内裏における建物の変遷

平城宮第Ⅱ期 (740~745)

平城宮第Ⅴ期 (770~780)

【事例】

紫宸殿は,別の場所に移った。

宜陽殿は,取り壊された。

春興殿は,同じ建物のまま残っている。

「奈良国立文化財研究所学報第50冊 平城宮発掘調査報告 XⅢ」より

論理遺構の時間関係によって表現できる。

論理遺構の時間属性によって表現できる。

Page 33: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

33

遺構情報にとっての時間的特性(まとめ)

遺跡調査成果情報は,基本的には同一の時間的特性をもつ。

研究者による論理的視点において,時間的特性が重要となる。

• 遺構調査に関する情報の時間的特性は,研究者の解釈に基づいて設定され

る要素が多い。

• 同じ事象に対して,複数の論理的視点による整理を可能にする。

• 研究者の論理的視点もデータ交換可能である必要がある。

遺構情報に関する時間的特性の管理要件に対して,地理情報標準の

「時間スキーマ」で対応可能である。

• 順序時間参照系の適用が必要である。

• 時間幾何だけではなく,時間位相・時間関係を活用する必要がある。

• 編年については, ... 対策が必要 !

Page 34: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

34

2.編年の取り扱い方

Page 35: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

35

編年とは

『編年とは,遺構や遺物を時間と空間の系列に沿って配列する作業,または,

その作業によって作成された遺構や遺物の序列をいう。』

(田中琢,佐原真 編 『日本考古学事典』,P.795,三省堂)

編年とは: 2つの事象の時間関係を明らかにして配列すること。また,その配列。

考古学における「編年」とは:

Page 36: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

36

遺構の年代特定

奈良文化財研究所編(1991)「長屋王邸・藤原麻呂邸の調査本文編」(学報第54 冊平城京左京二条二坊・三条二坊発掘調査報告) より

ある土層から土器が出土されると,同じ層はその土器と同時代である可能性が考えられる。

Page 37: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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土器による遺構の年代特定

• 土器には型式があり,人の営みと関連がある。

• 土器の型式は多様に変化する。

• 土器の型式を分類することができる。

• 土器は分布することが多い。

• 土器は朽ちずに土中に残っている。

土器の編年(型式の変化)を,遺構の時間軸として利用できる。

Page 38: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

38

土器の編年(例)

http://www.geocities.jp/thirdcenturyjapan/doki/doki.html より

Page 39: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

39

編年の管理要件

編年は,ユニークな名称をもち,これで識別する。

編年は,多くの場合,絶対年代を特定できない。

しかし,時として特定できる場合もある。

開始年・終了年もあいまいであり,範囲で指定することも多い。

編年は研究の過程で細分化されるため階層化が必要である。

編年参照系内では,各編年の順序は固定である。

異なった編年参照系にある2つの編年間には時間関係が定

義できる。 ただし,その関係は新しい事実の発見や研究者の

意図によって変更できることが必要である。

Page 40: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

40

編年時間参照系モデル(部分)

TM_OrdinalReferenceSystem

+ end : DateTime[0..1]+ begin : DateTime[0..1]+ name : CharacterString

TM_OrdinalEra

+ component

+ system

1..*

1

Structure

+ 終了時期 : 編年時期[0..1]+ 開始時期 : 編年時期[0..1]+ 開始事象 : CharacterString[0..1]

編年要素

+ domainOfValidity : EX_Extent[0..*]+ name : RS_Identifier

TM_ReferenceSystem

+ 備考 : CharacterString[0..1]+ 地域 : SI_LocationInstance[0..1]

編年参照系

+ name : CharacterString

編年集合体

+ 編年集合体

1..*

0..1

+ component

+ system

1..*

0..1

{StructurallyOrdered}

+ 下位

+ 上位

0..*

0..1

編年を階層的に定義する

際に用いる。

編年参照系内では,編年

要素は時間順序に基づい

て定義される。

順序時間参照系

順序年代

地理情報標準に準拠した編年時間参照系を定義。

Page 41: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

41

編年時間参照系モデル(部分)

+ end : DateTime[0..1]+ begin : DateTime[0..1]+ name : CharacterString

TM_OrdinalEra

+ 終了時期 : 編年時期[0..1]+ 開始時期 : 編年時期[0..1]+ 開始事象 : CharacterString[0..1]

編年要素

+ 事象 : CharacterString[0..1]+ 位置 : TM_Instant

<<DataType>>確定時間位置

+ 確定時間位置0..*

+ 時間関係 : 編年要素間関係列挙型

<<DataType>>編年要素間関係

+ other

1

時間関係

+ 編年要素間関係0..*

+ 期間 : TM_Period+ 時点 : TM_Instant

<<Union>>編年時期

+ 下位

+ 上位

0..*

0..1

土器型式などが

これに対応する。

編年の期間内で,何かの事象

などにより絶対年代が確定し

た際には,この要素で示す。

他の編年参照系の編年

要素に対して時間関係

を表す際に用いる。

時点が特定できる場合は

「時点:TM_Instant」,範囲

で指定する場合は「期間:TM_Period」を使用する。

編年を階層的に定義する

際に用いる。

+ Overlaps : + OverlappedBy : + MetBy : + Meets : + Equals : + Ends : + EndedBy : + During : + Contains : + BegunBy : + Begins : + Before : + After :

<<Enumeration>>編年要素間関係列挙型

Page 42: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

42

編年時間参照系モデルの適用例

編年参照系

編年要素

階層化した編年要素

編年要素間関係の例

編年集合体例)土器の編年

Page 43: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

43

遺跡情報の時間検索

遺跡A01遺跡A02遺跡A03

近畿編年長原式

第Ⅰ様式0 1 2 3

第Ⅱ様式0 1 2

北九州編年 板付Ⅰ式 城ノ越式板付Ⅱ式

遺跡B01遺跡B02遺跡B03

近畿編年と北九州編年との相対的な時間関係は,下図のようになる。(幅は不明)

名称=長原遺跡

住所=大阪市平野区長吉長原2丁目

調査区=NG06-3年代=長原式(近畿編年)

遺跡の属性(例)

Page 44: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

44

遺跡情報の時間検索

遺跡A01遺跡A02遺跡A03

近畿編年

近畿編年「長原式」の時期に存在した遺跡を検索すると,3遺跡が該当する。

長原式

第Ⅰ様式0 1 2 3

第Ⅱ様式0 1 2

北九州編年

遺跡B01遺跡B02遺跡B03

板付Ⅰ式 城ノ越式板付Ⅱ式

Page 45: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

45

遺跡情報の時間検索

遺跡A01遺跡A02遺跡A03

近畿編年長原式

第Ⅰ様式0 1 2 3

第Ⅱ様式0 1 2

北九州編年

遺跡B01遺跡B02遺跡B03

近畿編年「第Ⅰ様式2期」以降の遺跡を検索すると,4遺跡が該当する。

板付Ⅰ式 城ノ越式板付Ⅱ式

Page 46: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

46

3.編年時間参照系モデルの実装方法

Page 47: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

リレーショナルデータベース

47

データの基本構成は表形式になっている (概念的に)

町丁目コード 市名 町丁目名 緯度 経度 人口 世帯数

292014720 奈良市 山陵町 xxxxxx xxxxxx xxxxx xxxxx

292014760 奈良市 秋篠町 xxxxxx xxxxxx xxxxx xxxxx

29201725001 奈良市 右京一丁目 xxxxxx xxxxxx xxxxx xxxxx

29201725002 奈良市 右京二丁目 xxxxxx xxxxxx xxxxx xxxxx

: : : : : : :

行(ロー)

列(カラム)EXCELの表のようなもの

カラムごとにデータ型を定義する。

主なデータ型

数値型 INT (整数)FLOAT (浮動小数点数)

文字列型 CHAR (固定長)VARCHAR (可変長)

日付型 DATE (日付)TIME (時刻)

一行が,一つのレコード,一列が,一つのデータ項目

Page 48: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

ユーザー定義データ型(UDT)とは

48

基本データタイプとは別のデータタイプを定義できる。

市町村名 面積 人口 X座標 Y座標

(CHAR型) (FLOAT型) (INTEGER型) (DOUBLE型) (DOUBLE型)

POINT型を定義すると,(X, Y)座標値を一体のデータとして取り扱うことができる

市町村名 面積 人口 位置

(CHAR型) (FLOAT型) (INTEGER型) (POINT型)

CREATE TYPE POINT ( X INTEGER,Y INTEGER);

Page 49: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

ユーザー定義関数(UDF)とは

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RDBMSエンジン内で実行するユーザー関数を定義できる。

SQL文の中で関数を呼び出すことが可能。

select name, addr, position from customer cwhere distance(c.position, (x,y) ) < 10;

クライアント

エージェント・ユニット

エージェント・プロセス

UDFプロセス

リクエスト(SQL)

結果出力

RDBMS中枢機能

DB

(distance など)

Page 50: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

編年時間参照系のデータベース上への実装(例)

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RDBでの実装イメージ

遺構テーブルID 住所 位置 年代

年代 = 「近畿編年の長原式」

編年参照系テーブルID 名前 適用範囲

編年要素テーブルID 名前 参照系

近畿編年 長原式

Page 51: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

編年時間参照系実装のための物理モデル(例)

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NOT NULL INT ElementID

TM_ChronoTimeRange EndTime TM_ChronoTimeRange StartTime

(FK) INT ReferenceID NOT NULL VARCHAR (100) ElementName

編年要素(TM_ChronoElement)

(FK) INT OrgElementID

INT RelationType INT DestElementID

編年要素間関係(TM_ChronoElementRelationship)

RelationType:0=集約(細分化)1=時間関連(after)2=時間関連(before)3=時間関連(begins) :

NOT NULL INT ReferenceID

VARCHAR (100) ChronoGroupName VARCHAR (100) GeoAreaName

NOT NULL VARCHAR (100) RefName

編年参照系(TM_ChronoReferenceSystem)

実装の際には,StartTimeFrom, StartTimeTo,EndTimeFrom,EndTimeToを直接定義する

TM_Instant ChronoTimeTo TM_Instant ChronoTimeFrom

編年時期(TM_ChromoTimeRange)時点の場合は,FromとToとは同じ値を

設定する。

Page 52: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

UDTの定義(例)

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UDT定義:

①編年要素型…地物の時間属性値として指定できる。(TM_ChronoTime型)

②編年時期型…編年要素の開始時期・終了時期を表現するために利用する。(TM_ChronoTimeRange型)

調査成果テーブルID 調査名 調査年月

「調査年月」属性 データ型=Date型

調査年月=”2013/02/01”

遺構テーブルID 遺構名 年代

「年代」属性 データ型=TM_ChronoTime型

年代=”長原式, 10” 10 は近畿編年のIDとする。

Page 53: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

UDFの定義(例)

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UDF定義:① TM_ChronoTimeType (elementName: VARCHAR, refID: INT) : TM_ChronoTime

編年要素名をTM_ChronoTime型に変換する。refIDは編年参照系IDだが,編年要素名の定義に重複がなければ特に指定しなくてよい。(0 を指定)

② TM_ChronoTimeName (chronoTime: TM_ChronoTime) : VARCHAR編年要素型データを編年要素名に変換する。

③ TM_ChronoCompare (chronoTime1: TM_ChronoTime,chronoTime2: TM_ChronoTime ) : INT

編年要素型を比較する。結果=1:初めの要素のほうが新しい

=0:両方が同じ時期=-1:初めのほうが古い=98:関連は定義されているが時期の前後関係は不明=99:関連が定義されていない

Page 54: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

SQL文による編年時間参照系モデルの実装(例)

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①テーブル作成CREATE TABLE SampleTbl1

(FeatureID VARCHAR(30) NOT NULL Primary Key,AttrName VARCHAR(50),PeriodName TM_ChronoTime,AttrSize FLOAT);

遺構テーブルID 住所 位置 年代

Page 55: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

SQL文による編年時間参照系モデルの実装(例)

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②データの追加INSERT INTO SampleTbl1 (FeatureID, AttrName, PeriodName, AttrSize)

VALUES (‘地物1’, ‘名称1’, TMChronoTimeType(‘長原式’, 10), 12.7);

リクエスト(SQL)

遺跡情報 UDFプロセス

標準エージェントプロセス

SQLコマンド

遺構テーブルID 住所 位置 年代

RDBMS

近畿編年のID

Page 56: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

SQL文による編年時間参照系モデルの実装(例)

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③データの検索SELECT FeatureID, AttrName, TM_ChronoTimeName(PeriodName), AttrSize

FROM SampleTbl1 WHERE TM_ChronoTimeCompare

(PeriodName, TM_ChronoTimeType('長原式', 10)) <= 0;

リクエスト(SQL)

UDFプロセス

標準エージェントプロセス

SQLコマンド

遺構テーブルID 住所 位置 年代

RDBMS

結果出力検索結果

Page 57: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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4.編年時間参照系モデルの有効性と意義

Page 58: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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編年参照系モデルのメリット(1)

編年のモデル化について

• 編年を時間参照系として活用するしくみが定義できた。

• 編年時間参照系をRDBで標準的に実装することが可能になった。

• 異なった編年参照系の相互関係を明確に定義できる仕組みが提

供可能となった。

• 編年間の整合性チェックや,特定の編年要素に関する影響範囲を

明らかにできるようになる。

• 多くの研究者の合意がとれた標準的な編年と,個別に研究段階の

編年を同じ仕組みの元で定義し,利用できることによって,編年の

研究を幅広くサポート可能となる。

• 編年を情報システムで取り扱うことが可能になり,編年をサポート

するシステム構築が可能になった。

Page 59: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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編年参照系モデルのメリット(2)

遺構・遺物の時間属性表現について

• 遺構・遺物に対して,編年を時間参照系として用いた時間属性の設

定が,地理情報標準に準拠した形で可能になった。

• 調査報告書の自動作成など,遺跡調査業務への情報技術活用の

足がかりとなる。

考古学データ全般について

• 考古学研究にふさわしい時間参照系が設定できるようになった。

Page 60: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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編年時間参照系モデルを過去の情報に適用することの意義

時代区分など,常識とされてきた分類方法の変化に対応しやすい

• 時代区分は編年として定義できるので,時代区分の変更は編年の

定義の変更に置き換えることが可能。

• 過去のさまざまな事象に関する蓄積データは,基本的に変更しない

で時代区分だけ変更することが可能。

編年も含め,過去の情報に対して情報技術活用のチャンスが増える

• 編年時間参照系モデルは情報システムで実装可能であり,さまざま

な処理に情報技術を活用できる。

• 複数の時代区分のなかで生じたかもしれない論理矛盾を指摘可能

になる。

Page 61: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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日本史時代区分

奈良時代 平安時代 鎌倉時代 室町時代 安土桃山時代

江戸時代 明治時代 大正時代 昭和時代 平成時代

古墳時代 飛鳥時代縄文時代 弥生時代旧石器時代

南北朝時代 戦国時代

☆☆☆☆☆

710 794

710

1185 1333 1573 1603

1603 1868 1912 1926 1989

時代区分は,編年のひとつ(ただし,編年の場合は時代が粒度の単位)

開始時期・終了時期は定まらない

Page 62: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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日本の経済史

高度経済成長期

低成長期

戦後混乱・復興期

ある事象を集めて,

編年との組み合わせのもとで分析すると,

新しい情報価値が生み出される。

安定成長期

バブル経済期

バブル崩壊

分類は,ウィキペディア 「日本の経済史」による。

いざなみ景気

世界金融危機

編年の設定は,研究者によりまちまち。

Page 63: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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編年時間参照系モデルの位置づけ

事象

履歴としての客観的情報 研究のための解釈情報

編年参照系A

編年参照系B

適用して新たな

情報価値を

生み出す

(地理空間情報でなくてもよい)

編年時間参照系モデルは,客観的に集められた履歴情報に対して,時間軸における任意の分類法を提供する。その分類により分析した結果から,新たな情報価値を生み出す。

Page 64: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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編年時間参照系モデルを現代の情報に適用することの意義

現代の情報への適用について

• 現代の情報についても,集約し分析する段階で時間的分類が必要となる。

その際に,この編年参照系を適用できる。

(建築史学,美術史学,社会学,哲学,系統生物学,地球惑星科学 など多方面)

• 現代の情報を収集・蓄積する作業は粛々と進めればよく,編年による分類

を想定する必要はない。

• 編年時間参照系は,研究者が研究の視点にもとづいて定義すればよい。

• 蓄積されている履歴情報に対して,ある編年時間参照系による編年の分

類を適用し分析することが可能。その結果,新しいモノが見えてくる。

Page 65: 遺跡Gisモデリングにおける編年時間参照系 村尾

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まとめ

現代のデータも蓄積・保存すると歴史データになる。

歴史データに対して,研究視点をもつと分類が必要になる。

時間軸での分類は,すなわち編年である。

編年時間参照系は,今後の情報処理に役立つはず。

編年時間参照系はデータベースで直接実装可能である。