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食道・胃接合部と一酸化窒素(NO) 1 秋田県では 2007 年の調査開始当初は食道癌のほとんどが 扁平上皮癌であったが,近年は腺癌が増加している。食道腺 癌は逆流性食道炎からバレット食道というシークエンスで発 生することが知られている。逆流性食道炎の傷害因子として 胃酸や胆汁酸が注目されているが,我々は一酸化窒素(NOに注目して研究を行ってきた。 胃内で発生する NO は食事中に含まれる硝酸塩が元となっ て発生する。硝酸塩は口腔内細菌により亜硝酸塩に変換され て嚥下され,小腸で吸収されて25%が唾液中に再分泌される。 この硝酸塩の腸~唾液再循環は食後数時間持続する。亜硝酸 塩は酸と接触すると化学反応によって NO に変換される。そ こで我々はヒトの体内では食道・胃接合部で亜硝酸塩が酸と 接触して NO が発生すると推測し,健常ボランティアに硝酸 2mmol を投与し胃内 NO 濃度を測定したところ,食道・胃 接合部で限局性に 30μM という高濃度の NO が検出された。 これは組織傷害を惹起する可能性のある濃度であり,しかも 食後23時間にわたり継続的に発生していることがわかった。 そこで NO の組織中での濃度を, NO トラップ試薬を用いて ラットで検討した。ラットの組織中 NO 濃度は食道・胃接合 部の粘膜層で高濃度であった。次にラット胃粘膜を摘出して 漿膜側と粘膜側に分け,粘膜側に酸性条件で亜硝酸塩を曝露 して NO を発生させたところ,密着結合関連蛋白である Occludin NO 曝露により消失した。同様の実験で食道粘膜 において細胞間隙が開大することが示され,逆流性食道炎な どに至る最初の段階になるのではないかと考えられた。 ラット食道炎モデルを用いた慢性曝露実験では,逆流性食 道炎モデルにアスコルビン酸と亜硝酸を投与して NO に曝露 させたところ,食道炎による組織傷害が著明に増悪した。同 様にバレット食道モデルも NO 曝露によってバレット食道の 発生が促進されたことから, NO が食道の炎症やバレット食道 の発生に関係していることが示唆された(図112NO による食道粘膜傷害は雌ラットに比較して雄ラットで 顕著に現れることから,エストロゲンに注目して実験を行っ た。卵巣を摘出した雌ラットでは食道粘膜傷害は増悪するが, エストロゲン製剤の投与により傷害は抑制され,生理活性が ないエストロゲン α には抑制効果がないことから,エストロ ゲンが食道粘膜傷害を抑制することが示された。さらに,食 道粘膜側に酸性条件で亜硝酸塩を曝露して NO を発生させる 実験においては,エストロゲン投与で粘膜抵抗が上昇し,透 過性が低下することが示され,食道粘膜バリア機構をエスト ロゲンが増強させることが示唆された。また,エストロゲン 投与によって酸曝露による細胞間隙の開大は抑制された。 バレット食道発生の分子生物学的機序の 1 つとして, NO 露により AKT がニトロ化され, SOX2 発現抑制とともに CDX2 発現が増強されることが明らかになっている。 特発性潰瘍の発生頻度 2 胃・十二指腸潰瘍の 2 大要因であるH. pylori 感染や NSAIDs 内服に因らない特発性潰瘍は,現在有効な再発予防策がなく, 出血を繰り返すなど,臨床的に問題となっている。特発性潰 瘍の頻度は世界的に増加しており,H. pylori 感染率低下によ る相対的な増加もあるが,特発性潰瘍数自体が増えていると いう報告もある。 出血性潰瘍発生数は東日本大震災後の 1ヵ月間に急増し, 前年同時期に比べ 1.5 倍に増加したが, H. pylori 感染率および NSAIDs 内服率は有意に低かった。H. pylori NSAIDs 内服で 潰瘍成因を 4 つに分類すると,震災後はH. pylori NSAIDs 内服ともに陰性が 13%から 23%に増えており,純粋なスト レス潰瘍の可能性が考えられた。 特集●「1st GAST SUMMIT JAPAN 学術講演会ハイライト」 2 PROFILE Katsunori Iijima いいじま・かつのり● 1992 年東北大学医学部 卒業。1992 年福島県いわき市立磐城共立病院 内科研修。 1995年東北大学医学研究科大学院。 1999 4 月帯広第一病院内科。同年 10 月英 国グラスゴー大学留学。2001 年磐城共立病院 消化器内科。2002 年東北大学病院消化器内 科医員。2004 年同助手(助教)。2012 年同 講師。2015 年秋田大学大学院医学系研究科 消化管内科教授。2016 10月より現職。 【専門領域】上部消化管 胃・食道酸関連疾患診療・研究の最前線 飯島克則 秋田大学大学院医学研究科消化器内科・神経内科学講座 教授 Vol.12 No.2 2017.2 (106) 22 SAMPLE Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.

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胃・食道酸関連疾患診療・研究の最前線●飯島克則

特集● 「1st GAST SUMMIT JAPAN学術講演会ハイライト」 2

食道・胃接合部と一酸化窒素(NO)

1 秋田県では2007年の調査開始当初は食道癌のほとんどが扁平上皮癌であったが,近年は腺癌が増加している。食道腺癌は逆流性食道炎からバレット食道というシークエンスで発生することが知られている。逆流性食道炎の傷害因子として胃酸や胆汁酸が注目されているが,我々は一酸化窒素(NO)に注目して研究を行ってきた。 胃内で発生するNOは食事中に含まれる硝酸塩が元となって発生する。硝酸塩は口腔内細菌により亜硝酸塩に変換されて嚥下され,小腸で吸収されて25%が唾液中に再分泌される。この硝酸塩の腸~唾液再循環は食後数時間持続する。亜硝酸塩は酸と接触すると化学反応によってNOに変換される。そこで我々はヒトの体内では食道・胃接合部で亜硝酸塩が酸と接触してNOが発生すると推測し,健常ボランティアに硝酸塩2mmolを投与し胃内NO濃度を測定したところ,食道・胃接合部で限局性に30μMという高濃度のNOが検出された。これは組織傷害を惹起する可能性のある濃度であり,しかも食後2~3時間にわたり継続的に発生していることがわかった。 そこでNOの組織中での濃度を,NOトラップ試薬を用いてラットで検討した。ラットの組織中NO濃度は食道・胃接合部の粘膜層で高濃度であった。次にラット胃粘膜を摘出して漿膜側と粘膜側に分け,粘膜側に酸性条件で亜硝酸塩を曝露してNOを発生させたところ,密着結合関連蛋白であるOccludinはNO曝露により消失した。同様の実験で食道粘膜において細胞間隙が開大することが示され,逆流性食道炎な

どに至る最初の段階になるのではないかと考えられた。 ラット食道炎モデルを用いた慢性曝露実験では,逆流性食道炎モデルにアスコルビン酸と亜硝酸を投与してNOに曝露させたところ,食道炎による組織傷害が著明に増悪した。同様にバレット食道モデルもNO曝露によってバレット食道の発生が促進されたことから,NOが食道の炎症やバレット食道の発生に関係していることが示唆された(図1)1)2)。 NOによる食道粘膜傷害は雌ラットに比較して雄ラットで顕著に現れることから,エストロゲンに注目して実験を行った。卵巣を摘出した雌ラットでは食道粘膜傷害は増悪するが,エストロゲン製剤の投与により傷害は抑制され,生理活性がないエストロゲンαには抑制効果がないことから,エストロゲンが食道粘膜傷害を抑制することが示された。さらに,食道粘膜側に酸性条件で亜硝酸塩を曝露してNOを発生させる実験においては,エストロゲン投与で粘膜抵抗が上昇し,透過性が低下することが示され,食道粘膜バリア機構をエストロゲンが増強させることが示唆された。また,エストロゲン投与によって酸曝露による細胞間隙の開大は抑制された。 バレット食道発生の分子生物学的機序の1つとして,NO曝露によりAKTがニトロ化され,SOX2発現抑制とともにCDX2

発現が増強されることが明らかになっている。

特発性潰瘍の発生頻度

2 胃・十二指腸潰瘍の2大要因であるH. pylori感染やNSAIDs

内服に因らない特発性潰瘍は,現在有効な再発予防策がなく,出血を繰り返すなど,臨床的に問題となっている。特発性潰瘍の頻度は世界的に増加しており,H. pylori感染率低下による相対的な増加もあるが,特発性潰瘍数自体が増えているという報告もある。 出血性潰瘍発生数は東日本大震災後の1ヵ月間に急増し,前年同時期に比べ1.5倍に増加したが,H. pylori感染率およびNSAIDs内服率は有意に低かった。H. pyloriとNSAIDs内服で潰瘍成因を4つに分類すると,震災後はH. pyloriとNSAIDs

内服ともに陰性が13%から23%に増えており,純粋なストレス潰瘍の可能性が考えられた。

Workshop 「わが国から胃癌を撲滅するための新しい試み」特集●「1st GAST SUMMIT JAPAN学術講演会ハイライト」

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P R O F I L E

Katsunori Iijimaいいじま・かつのり●1992年東北大学医学部卒業。1992年福島県いわき市立磐城共立病院内科研修。1995年東北大学医学研究科大学院。1999年4月帯広第一病院内科。同年10月英国グラスゴー大学留学。2001年磐城共立病院消化器内科。2002年東北大学病院消化器内科医員。2004年同助手(助教)。2012年同講師。2015年秋田大学大学院医学系研究科消化管内科教授。2016年10月より現職。【専門領域】上部消化管

胃・食道酸関連疾患診療・研究の最前線飯島克則秋田大学大学院医学研究科消化器内科・神経内科学講座 教授

Vol.12 No.2 2017.2(106)22 SAMPLECopyright(c) Medical Review Co.,Ltd.