小中学校向け校務支援サービスへの取組み~fujitsu...

6
FUJITSU. 65, 3, p. 8-13 05, 20148 あらまし 全国地方自治体の教育委員会および小中学校は,文部科学省および総務省の施策のも と,教育へのICT活用を本格化してきている。2013年に文部科学省が公表した「学校にお ける教育の情報化に関する調査結果」によれば,教職員一人1台の情報端末環境は全国的 にほぼ整備されてきている。また,校務文書に関する業務をシステム化している小中学 校は60%を超えることが分かっている。今後は児童生徒一人1台の情報端末を整備する計 画も進められており,教育へのICT活用は更に推進されるものと考えられる。このよう な流れの中で,富士通は,2013年春に,長年培ってきた校務業務のノウハウを集約した SaaS型の「FUJITSU 文教ソリューション K-12 校務支援」サービスをリリースした。こ れは,現在主にパッケージ・ASP・プライベートクラウド型などで導入されている校務 支援システムの運用形態へ一石を投じる先進的な試みである。 本稿では,小中学校業務のシステム化について考察し,「FUJITSU 文教ソリューショ K-12 校務支援」サービスへの取組みと期待される効果について紹介する。 Abstract Under the measures and policies of the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology and the Ministry of Internal Affairs and Communications, the education boards in local governments and elementary and junior high schools in Japan have started making full-scale use of ICT for their education. According to the Results of a Survey on Educational Informatization in Schools released by the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology, the objective of one information terminal per member of teaching staff has almost been achieved in all parts of the country. In addition, it was found that more than 60% of elementary and junior high schools have already computerized their documents on school affairs. The plan to have one information terminal per school child or student is now underway and further promotion of ICT use for education is expected. With such informatization progress, in the spring of 2013, Fujitsu released SaaS-type FUJITSU Education Solution K-12 School Business Supportservices by integrating the school business know-how it has accumulated for many years. The service is a forward-looking trial to cause a stir in the existing school business operation forms mainly provided with packages, ASP, and private cloud etc. In this paper, we will consider the computerization of elementary and junior high schools affairs and introduce the working of FUJITSU Education Solution K-12 School Business Supportservices and their expected effects. 戸口 亨 小中学校向け校務支援サービスへの取組み FUJITSU 文教ソリューション K-12 校務支援~ Working on School Business Support Services for Elementary and Junior High Schools: FUJITSU Education Solution K-12 School Business Support

Upload: trinhdat

Post on 05-Apr-2018

244 views

Category:

Documents


9 download

TRANSCRIPT

Page 1: 小中学校向け校務支援サービスへの取組み~FUJITSU …img.jp.fujitsu.com/downloads/jp/jmag/vol65-3/paper02.pdf · fujitsu. 65, 3( 05, 2014) 9 小中学校向け校務支援サービスへの取組み~fujitsu

FUJITSU. 65, 3, p. 8-13 (05, 2014)8

あ ら ま し

全国地方自治体の教育委員会および小中学校は,文部科学省および総務省の施策のも

と,教育へのICT活用を本格化してきている。2013年に文部科学省が公表した「学校における教育の情報化に関する調査結果」によれば,教職員一人1台の情報端末環境は全国的にほぼ整備されてきている。また,校務文書に関する業務をシステム化している小中学

校は60%を超えることが分かっている。今後は児童生徒一人1台の情報端末を整備する計画も進められており,教育へのICT活用は更に推進されるものと考えられる。このような流れの中で,富士通は,2013年春に,長年培ってきた校務業務のノウハウを集約したSaaS型の「FUJITSU 文教ソリューション K-12 校務支援」サービスをリリースした。これは,現在主にパッケージ・ASP・プライベートクラウド型などで導入されている校務支援システムの運用形態へ一石を投じる先進的な試みである。

本稿では,小中学校業務のシステム化について考察し,「FUJITSU 文教ソリューション K-12 校務支援」サービスへの取組みと期待される効果について紹介する。

Abstract

Under the measures and policies of the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology and the Ministry of Internal Affairs and Communications, the education boards in local governments and elementary and junior high schools in Japan have started making full-scale use of ICT for their education. According to the Results of a Survey on Educational Informatization in Schools released by the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology, the objective of one information terminal per member of teaching staff has almost been achieved in all parts of the country. In addition, it was found that more than 60% of elementary and junior high schools have already computerized their documents on school affairs. The plan to have one information terminal per school child or student is now underway and further promotion of ICT use for education is expected. With such informatization progress, in the spring of 2013, Fujitsu released SaaS-type “FUJITSU Education Solution K-12 School Business Support” services by integrating the school business know-how it has accumulated for many years. The service is a forward-looking trial to cause a stir in the existing school business operation forms mainly provided with packages, ASP, and private cloud etc. In this paper, we will consider the computerization of elementary and junior high schools affairs and introduce the working of “FUJITSU Education Solution K-12 School Business Support” services and their expected effects.

● 戸口 亨

小中学校向け校務支援サービスへの取組み~ FUJITSU 文教ソリューション K-12 校務支援~

Working on School Business Support Services for Elementary and Junior High Schools: FUJITSU Education Solution K-12 School Business Support

Page 2: 小中学校向け校務支援サービスへの取組み~FUJITSU …img.jp.fujitsu.com/downloads/jp/jmag/vol65-3/paper02.pdf · fujitsu. 65, 3( 05, 2014) 9 小中学校向け校務支援サービスへの取組み~fujitsu

FUJITSU. 65, 3 (05, 2014) 9

小中学校向け校務支援サービスへの取組み~ FUJITSU 文教ソリューション K-12 校務支援~

省が実施している。2013年公表の調査結果(2)によると,校務文書に関する業務でシステムを活用している小中学校は19 469校あり,全体の64%の割合となっている{図-1(a)}。この数値は,同調査における小中学校教職員の校務用コンピュータ整備率105.3%に比べると随分と差がある。このことから,コンピュータが導入されているものの,校務のシステム化までは行われていない学校が数多く存在していることが分かる。同調査では,システムの運営形態についてもアンケート結果を公表している。ここでいう「システム」とは,校務文書に関する業務,教職員間の情報共有,家庭や地域への情報発信,服務管理上の事務,施設管理などを行うシステムを指しており,校内に存在する可能性のある全システムを対象としている。結果を見ると,従来型ネットワーク(注3)が15 342校,プライベートクラウド(注4)

が6439校,パブリッククラウド(注5)が812校となっており,全小中学校に対する割合は,それぞれ,50%,21%,3%となっている{図-1(b)}。本稿で紹介する本サービスの運用形態はSaaSであり,パブリッククラウドに該当する。アンケー

(注3) 学校や教育委員会などに設置されたサーバなどによって特定の組織・機関内でシステムを構築・運用している形態としている。1台1台のコンピュータにソフトウェアやデータなどを保持したりハードウェアを接続したりして利用する形態も含まれる。

(注4) 限られたグループのメンバーが利用することを前提に,学校や教育委員会などが構築・運用しているクラウドを指す。

(注5) 不特定多数の利用者を対象に広くサービスを提供するため,通信関係の企業などが構築・運用しているクラウドを指す。

ま え が き

2011年4月に文部科学省が発表した「教育の情報化ビジョン」には,今後2020年度に向けて国が取り組む,教育の情報化に関する推進方策が書かれている。その中の一つに「全ての学校に校務支援システムを普及(クラウド・コンピューティング技術の活用等)」する,という施策が掲げられている。本稿で紹介する「FUJITSU 文教ソリューション K-12(注1) 校務支援」サービス(以下,本サービス)は,この国策に対応する製品として2013年春に富士通がリリースしたサービスである。富士通の校務業務に関する本格的な情報収集は,

2002年の教職員向けグループウェアシステムの販売開始から始まる。サポート作業の一環として学校教育現場へ繰り返し訪問する中で,出席簿・通知表・指導要録などのデータフローを分析し,校務という業務について学んだ。そして,ICT化により校務をどのように効率化できるかを複数のお客様とともに考え,検証してきた。それらの知見を集約し,校務システムのソリューション提供を2006年から開始している。本サービスでは,このように長年の業務分析を基にして開発を続けてきたシステムを,SaaSとして運用可能な形に最適化し,提供している。

校務支援システム整備の現状

校務とは,文字どおり学校内で行われている業務のことをいう。成績処理や時間割作成などの教務関連事務,指導要録(注2)や出欠などの学籍関連事務,健康観察などの学校保健関連事務がその中に含まれる。教職員はこれら校務を長年,紙とペンにより行っていたため,多くの労力を割いてきた。特に通知表作成や成績関連資料の作成に関して,強い負担感を感じていた。(1)ところがここ数年で教職員一人1台の情報端末の整備がほぼ完了し,紙とペンによる運用も一変しつつある。校務のシステム化に関する実態調査は文部科学

(注1) 幼稚園から小学校,中学校,高等学校を卒業するまでの教育期間を意味する用語である。「ケー スルー トゥエルブ」と読む。

(注2) 児童生徒が学校に在籍している間の学籍情報や評価情報が記載される文書。学校で保存が義務付けられた公簿である。

ま え が き

校務支援システム整備の現状

図-1 小中学校におけるシステムの活用用途と運営形態の割合

(a)システムの活用用途 (b)システムの運営形態

従来型ネットワーク

50%プライベートクラウド

21%パブリッククラウド

3%

システム未整備26%

校務文書に関する業務で活用64%

そのほかの業務で活用

10%

システム未整備26%

Page 3: 小中学校向け校務支援サービスへの取組み~FUJITSU …img.jp.fujitsu.com/downloads/jp/jmag/vol65-3/paper02.pdf · fujitsu. 65, 3( 05, 2014) 9 小中学校向け校務支援サービスへの取組み~fujitsu

FUJITSU. 65, 3 (05, 2014)10

小中学校向け校務支援サービスへの取組み~ FUJITSU 文教ソリューション K-12 校務支援~

する。(6) 回送と承認状態各機能から出力した各種公簿を回送・承認し,ステータスを確認する。(7) 便利機能各機能で登録したデータを検索し,帳票やCSV形式のデータで出力する。(8) 個人の記録児童生徒ごとの日々の気づき情報を蓄積する。また,各種機能で入力したデータを児童生徒単位で参照する。(9) 学校保健健康診断票の出力,保健室来室状況および体力テスト情報を管理する。(10) 運用管理教職員・児童生徒・各種マスタの情報管理,システムの権限設定などを行う。次章以降では,三つのコンセプトに対応する,本サービスの具体的な取組みについて紹介する。

手軽に始められるサービス

一つ目のコンセプトである「手軽に始められるサービス」に対応する施策としては次が挙げられる。● お客様にとっての効果を提示

SaaSで本サービスを導入することにより,お客様から見て,どのような効果が期待できるかを分かりやすく提示している。例えば,ハードウェアやソフトウェアの初期投資は必要ないため,コスト効率化につながる。サービスの維持管理に必要なサーバ管理やシステム運用は,ICTリテラシーを備えた富士通の専門技術者が行うため,お客様側での専門知識の維持管理の必要性が軽減される。データは富士通データセンターで維持するためセキュリティが確保されるといったことである。● ガイドラインを考慮本サービスは,総務省が2010年に公開した「校務分野におけるASP・SaaS事業者向けガイドライン」(3)に対応して,サービス内容を精査している。ガイドラインは富士通のようなサービス提供事業者やお客様が考慮すべき項目について網羅的に記載されている。第三者の視点からサービス内容

手軽に始められるサービス

トの調査結果から見ても,全学校の3%の割合しか占めておらず,先進的な取組みと言える。なお,総務省は,校務分野のサービス運用形態について,「民間委託型ASP・SaaS」(前述のプライベートクラウドとパブリッククラウドを指す)が,コスト効率性,リテラシー対応およびセキュリティ対応の観点から見て,今後主流になると想定している。(3)

本サービスのコンセプトと機能

● コンセプト前章で述べたような状況の中,富士通は,本サービスのコンセプトを次のように三つ掲げ,SaaSでのシステム普及を目指している。(1) 手軽に始められるサービスお客様が校務のシステム化を手軽に行えるようにする。(2) 現状業務を最大限に効率化データ入力の手間を限りなく減らし,データ転記,数値集計などの定型作業を自動化することで業務の効率化を実現する。(3) 教育的な新たな視点の提供集中DBにデータを蓄積することで,現状では実現できなかったようなデータの横断的な表示を可能とし,新たな視点でデータ分析を行うための基盤を提供する。● 機能上記コンセプトのもと,本サービスには次のような基本機能がある。(1) 出欠情報児童生徒の出欠情報を入力し,出席簿や各種帳票を出力する。(2) 指導計画授業の計画を入力し,授業進捗状況や週案を出力する。(3) テスト記録児童生徒のテスト結果情報を入力し,集計データを出力する。(4) 通知表児童生徒の評価情報を入力し,通知表や各種帳票を出力する。(5) 指導要録児童生徒の評価情報を入力し,指導要録を出力

本サービスのコンセプトと機能

Page 4: 小中学校向け校務支援サービスへの取組み~FUJITSU …img.jp.fujitsu.com/downloads/jp/jmag/vol65-3/paper02.pdf · fujitsu. 65, 3( 05, 2014) 9 小中学校向け校務支援サービスへの取組み~fujitsu

FUJITSU. 65, 3 (05, 2014) 11

小中学校向け校務支援サービスへの取組み~ FUJITSU 文教ソリューション K-12 校務支援~

情報を転記する(同図⑤)。このようにいくつかの集計確認とデータ転記作業とが,業務の中に含まれている。この処理を本サービスで実施すると,図-3の破線部の処理が自動化できる。また,中点破線部の処理が簡単なボタン操作で実行できるようになる。テスト情報・成績情報のデータフローについても,これと同様の業務分析を実施している。テスト結果の入力さえすれば,基準に従って成績の評価まで導き出す,というような処理の自動化を図っている。これらは,業務負荷削減とミスの低減という効果につながる。また,文書の作成基準が統一されるため,校務の質の向上へとつながっていくことが期待される。● 簡易入力へのこだわり本サービスは,システムへのデータ入力の手間が極力抑えられている。一般的に,システムへ多くのデータが蓄積されることで,2次加工が可能なバリエーションが増えるため,後の多種多様なサービス展開へとつなげやすい。そのための第一ステップとして,データをできる限り簡易に入力できるようにしている。具体的には,マウスクリックでのデータ入力や,

OAソフトなどに入力したデータをコピーしてシステム上に貼り付けられる仕組みを提供している。

をチェックしておくことで,お客様が導入をスムーズに行えるようにしている。● お客様の手でカスタマイズが可能な仕組み本サービスではお客様の手でカスタマイズが可能な仕組みを提供している。校務の中で多くカスタマイズが発生する業務は,通知表作成業務である。通知表は学校での発行や保存が法令で義務付けられた公簿ではなく,コミュニケーションの円滑化のために発展し,広く浸透した文書である。そのため,学校として校長の判断で独自に変更を加えてきたという歴史がある。本サービスでは,特に高頻度で変更される表紙については,手軽に画像編集ソフトで変更可能な仕組みを設けている。また,データ項目の追加・削除やフォーマットを大規模に変更する場合は,専用ソフトウェアを用いて,詳細に編集可能な仕組みを設けている(図-2)。

現状業務を最大限に効率化

二つ目のコンセプトである「現状業務を最大限に効率化」するための施策を紹介する。イメージが湧くように,ここでは図-3に示す出欠情報のデータフローを例にして説明する。● 転記作業の自動化と効率化朝,学級担任が教室で出欠を取り,紙に控える

(同図①)。放課後には学級ごとに集計し(同図②),月末には児童生徒ごとに集計する(同図③)。この時点で1か月分の出席簿帳票を作成する。更には,学期末に通知表(同図④),学年末に指導要録へと

現状業務を最大限に効率化

②編集

①ダウンロード

富士通中学校

通知表

富士通中学校

通知表

士通・表紙編集の場合 →画像ソフトで変更

・全体編集の場合 →専用ツールで変更

お手軽

詳細

データセンター③アップロード

図-3 出欠情報データフローとシステム化による自動化範囲図-2 通知表のカスタマイズ

出席簿

①朝の点呼と記入

②日ごとのクラス集計

③1か月の集計・児童生徒ごと・クラス全体

④通知表への データ転記

通知表⑤指導要録への データ転記

指導要録

システム化により処理が自動化

簡単ボタン操作

出欠情報

出欠情報

日ごとの集計値

児童生徒ごとの集計データ児童生徒ごとの集計データ

児童生徒ごとの集計データ児童生徒ごとの集計データ

出欠情報1か月の集計値

Page 5: 小中学校向け校務支援サービスへの取組み~FUJITSU …img.jp.fujitsu.com/downloads/jp/jmag/vol65-3/paper02.pdf · fujitsu. 65, 3( 05, 2014) 9 小中学校向け校務支援サービスへの取組み~fujitsu

FUJITSU. 65, 3 (05, 2014)12

小中学校向け校務支援サービスへの取組み~ FUJITSU 文教ソリューション K-12 校務支援~

● 柔軟なデータ検索本サービスは,集中DBの利点を生かして,登録したデータを,様々な形で検索できるような機能を提供している。また,それらのデータはダウンロード可能なため,端末上でデータ集計を行うなど自由に加工ができる。近年,児童生徒に関連する社会問題が発生することも多く,教育委員会や学校の責任が問われることが増えてきている。本サービスを利用すると,日々蓄積されたデータをリアルタイムに出力可能なため,タイムリーな情報の分析ができるようになる。

今後の課題

富士通は,全国の小中学校へ本サービスを普及させていくための課題を次のように考えている。近いうちに学校には児童生徒一人1台端末が整備されていく。当然,授業の場でも端末が活用され,作成した成果物や教職員が授業中にチェックした内容など,評価に関わるデータも収集・蓄積可能になる。そしてこれらは授業ポートフォリオという形でサービス化されると推察される。一人ずつを見つめる仕組みを用意している本サービスから,授業の状況を参照できるようにすれば,更に多角的な視点から児童生徒を見つめることができる。このように,授業ポートフォリオなどの外部システムと連携を図っていくことが一つの課題である。また,システムのセキュリティポリシーについて更に分かりやすくお客様に説明していく必要があると考える。教職員や教育委員会職員,保護者には,ASP・SaaSを用いて教育情報を外部に保管

今後の課題

現状,教職員自作のOAソフトでデータを作成することも多く,それらのデータをシステム上にコピーするという運用を効率化するために実現した。また,紙上で採点したテストの点数を電子データ化する「採点結果読み取りツール」機能を提供している。従来は,赤ペンでテスト採点を実施した後,採点結果を紙やコンピュータに控え,集計を行い各教科の成績を導き出していた。本機能を利用すると,採点した結果の点数記載部分を電子データに変換し,集中DBへデータを格納できる。更には,一度,データを保存すれば,成績を導き出すための元データとして活用できる。作業効率化の観点でかかる時間を試算すると次のようになる。図-4のように,一人あたりのテスト結果の控えに15秒かかる(注6)とすると,1学期あたりでテスト入力にかかる時間は,15秒×40人×30回で5時間である。これを本機能で実行すると1クラスあたり2分×30回で1時間に削減できる。当然実施するテスト数が増えれば増えるほど,この差は広がり,より作業が効率化できることになる。

教育的な新たな視点の提供

三つ目のコンセプトである「教育的な新たな視点の提供」に関する取組みを紹介する。● 一人ずつを見つめる仕組み紙とペンにより校務が運用されていた時代では,担任が年間を通して作成した膨大な量のテスト結果や各学期の通知表情報,児童生徒に対する日々の気づきの情報を次年度へ引き継ぐことは困難であった。また,データをOAソフトで入力している場合も,ファイルがバラバラになったり,入力項目が統一されていなかったりして,学校全体で明確な基準を持った引継ぎは困難であった。本サービスは集中DBに情報を蓄積しているため,年間で蓄積した情報を全て次年度に引き継ぐことが容易になる。具体的には,児童生徒一人ずつのノートとして様々な情報を一元的に参照できる「個人の記録」という機能を用意している。この仕組みは教職員が児童生徒を多様な視点から見つめ直し,指導するための素地となるものである。

(注6) 15秒かかるとしているのは一人あたり複数の評価観点の点数を控える必要があるため。

教育的な新たな視点の提供

15秒×40人=10分10分×約30回(テスト数)       =5時間

読み取り=2分2分×約30回(テスト数)       =1時間

図-4 採点結果読み取りツールによる学期ごとのテスト結果入力時間にかかる時間の変化試算

Page 6: 小中学校向け校務支援サービスへの取組み~FUJITSU …img.jp.fujitsu.com/downloads/jp/jmag/vol65-3/paper02.pdf · fujitsu. 65, 3( 05, 2014) 9 小中学校向け校務支援サービスへの取組み~fujitsu

FUJITSU. 65, 3 (05, 2014) 13

小中学校向け校務支援サービスへの取組み~ FUJITSU 文教ソリューション K-12 校務支援~

感じとっていただいている。これらの感動を,小中学校教育に関わる全国の教職員に広めていくためにも,日々システムの改善に努めていきたい。

参 考 文 献

(1) 財団法人コンピュータ教育開発センター:教員事務負担軽減システム要件調査-概要版-.p.4,2004.

http://www.cec.or.jp/e2a/pdf/kyouinjimu.pdf(2) 文部科学省:平成24年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果.2013.

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/1339524.htm

(3) 総務省:校務分野におけるASP・SaaS事業者向けガイドライン.p.8-14,2010.

http://www.soumu.go.jp/main_content/000085254.pdf

することに対して不安感があるという。(3)これら不安感を払拭するためにも,本サービスが十分なセキュリティ対策を実施していることを,理解しやすい形で伝えていくことが課題である。

む  す  び

本稿では「FUJITSU 文教ソリューション K-12 校務支援」サービスへの取組みと,その期待される効果について述べた。今後SaaS型も含めて校務支援システムの導入は活性化し,全国の全ての教育委員会および学校に普及することが予想される。本サービスは,シンプルな機能構成でありながらも,お客様の得られる効果や価値を深く考えながら提供しているものである。先行して個別システムを導入してきたお客様においては,集中DBにデータを蓄積することにより得られるメリットを

む  す  び

戸口 亨(とぐち とおる)

ヘルスケア・文教システム事業本部次世代教育ソリューション統括部 所属現在,K-12校務支援の企画開発に従事。

著 者 紹 介