ボイラ給水ポンプ用流体継手...ボイラ給水ポンプ用流体継手 エバラ時報...

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エバラ時報 No. 252(2016-10) ─  ─ 17 2ɽମܧखͷཁ 流体継手は,駆動機(電動機等)と被動機(ターボ機 械等)の間に設置され,入力回転速度を一定のまま,出 力回転速度を変化させる,回転速度制御機械である。 その主な特長を,次の(1)から(3)に示す。 (1)プラント負荷に合わせて出力回転速度を制御するこ とによって,運転電力を削減することが可能である。 (2)油を介して動力伝達を行うため,駆動機及び被動機 の衝撃を吸収することが可能である。 (3)被動機を無負荷に近い状態で起動できるため,大き な慣性モーメントを有したターボ機械においても, 特別な駆動機設計や電気設備を必要としない。 2-1ɹجߏ 流体継手は,基本的にインペラとランナの2要素によっ て構成される。インペラは,駆動軸に連結されており, ポンプ羽根車とも呼ばれる。一方,ランナは,被動軸と 連結され,タービン羽根車とも呼ばれる。 インペラ及びランナは,1 に示すとおり,放射状の 直線翼をもった羽根車で,これらが互いに向かい合って 地球温暖化が問題となり,CO 2 排出量の削減が求められる中,各種プラントで使用されるターボ機械には,いかに運転 電力を削減するかの命題が課せられている。また,運転電力費用の削減は,企業経営の観点から見ても重要課題であり, 運転効率の改善が求められる。これらの課題を解決する一つの手段として,ターボ機械の回転速度制御が行われるように なり,数多くのプラントにおいて流体継手が使用されている。ここでは,流体継手の動作原理,及び高圧ポンプに使用さ れる大容量・高速型流体継手の例として,電動機駆動ボイラ給水ポンプ用流体継手の構造,特徴について,説明する。 At the time when global warming is becoming a serious issue requiring our efforts to reduce CO 2 emission, various industrial plants are confronted with a challenge of how they can reduce operation power consumption of turbo machinery. Since reduction in the oper- ation power cost itself is an important issue from the viewpoint of corporate management, those plants are required to improve the operation efficiency. As one solution to these issues, control of rotation speed of turbo machinery became popular, and now, many plants use fluid couplings. In this paper we explain working principles of fluid couplings and the structure and features of the fluid cou- pling for electric motor driven boiler feed pumps as an example of large capacity, high speed fluid couplings used for high pressure pumps. Keywords: Fluid coupling, Boiler feed pump, High pressure pump, Carbon dioxide emission reduction, Rotating speed control, Impeller, Runner, Scoop tube, Electro-hydraulic servomechanism ʤղઆʥ ϘΠϥڅਫϙϯϓ༻ମܧFluid Coupling for Boiler Feed Pump 形 谷 吉 則 Yoshinori KATAYA 風水力機械カンパニー カスタム事業統括 富津工場  横型ポンプ設計室 1ɽ Ί ʹ 1970 年代のオイルショックに端を発した燃料費の高騰 から,各種プラントの運転効率向上は,各企業の重要課 題の一つとなった。これを解決する手段として,ターボ 機械の回転速度制御を行うプラントが増加し,数多くの 流体継手が採用されるようになった。また,近年では, 地球温暖化対策への世界的な取組みが行われ,CO2 排出 量の削減が各企業へ求められる中,様々な分野において ターボ機械への流体継手の採用が進んでいる。 本稿では,流体継手の動作原理,並びに高圧ポンプに 使用される大容量・高速型流体継手の例として,電動機 駆動ボイラ給水ポンプ用流体継手の構造及び特徴につい て説明する。

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Page 1: ボイラ給水ポンプ用流体継手...ボイラ給水ポンプ用流体継手 エバラ時報 No. 252(2016-10) 19 配置することによって,小型化,軽量化が図られている。大きな動力を伝達するとともに,高回転速度で使用され

エバラ時報 No. 252(2016-10)─  ─17

2.流体継手の概要

流体継手は,駆動機(電動機等)と被動機(ターボ機械等)の間に設置され,入力回転速度を一定のまま,出力回転速度を変化させる,回転速度制御機械である。

その主な特長を,次の(1)から(3)に示す。(1) プラント負荷に合わせて出力回転速度を制御するこ

とによって,運転電力を削減することが可能である。(2) 油を介して動力伝達を行うため,駆動機及び被動機

の衝撃を吸収することが可能である。(3) 被動機を無負荷に近い状態で起動できるため,大き

な慣性モーメントを有したターボ機械においても,特別な駆動機設計や電気設備を必要としない。

2-1 基本構造

流体継手は,基本的にインペラとランナの2要素によって構成される。インペラは,駆動軸に連結されており,ポンプ羽根車とも呼ばれる。一方,ランナは,被動軸と連結され,タービン羽根車とも呼ばれる。

インペラ及びランナは,図1に示すとおり,放射状の直線翼をもった羽根車で,これらが互いに向かい合って

 地球温暖化が問題となり,CO2 排出量の削減が求められる中,各種プラントで使用されるターボ機械には,いかに運転電力を削減するかの命題が課せられている。また,運転電力費用の削減は,企業経営の観点から見ても重要課題であり,運転効率の改善が求められる。これらの課題を解決する一つの手段として,ターボ機械の回転速度制御が行われるようになり,数多くのプラントにおいて流体継手が使用されている。ここでは,流体継手の動作原理,及び高圧ポンプに使用される大容量・高速型流体継手の例として,電動機駆動ボイラ給水ポンプ用流体継手の構造,特徴について,説明する。

At the time when global warming is becoming a serious issue requiring our efforts to reduce CO2 emission, various industrial plants are confronted with a challenge of how they can reduce operation power consumption of turbo machinery. Since reduction in the oper-ation power cost itself is an important issue from the viewpoint of corporate management, those plants are required to improve the operation efficiency. As one solution to these issues, control of rotation speed of turbo machinery became popular, and now, many plants use fluid couplings. In this paper we explain working principles of fluid couplings and the structure and features of the fluid cou-pling for electric motor driven boiler feed pumps as an example of large capacity, high speed fluid couplings used for high pressure pumps.

Keywords: Fluid coupling, Boiler feed pump, High pressure pump, Carbon dioxide emission reduction, Rotating speed control, Impeller, Runner, Scoop tube, Electro-hydraulic servomechanism

〔解説〕

ボイラ給水ポンプ用流体継手Fluid Coupling for Boiler Feed Pump

形 谷 吉 則*

Yoshinori KATAYA

  * 風 水力機械カンパニー カスタム事業統括 富津工場  横型ポンプ設計室

1.は じ め に

1970年代のオイルショックに端を発した燃料費の高騰から,各種プラントの運転効率向上は,各企業の重要課題の一つとなった。これを解決する手段として,ターボ機械の回転速度制御を行うプラントが増加し,数多くの流体継手が採用されるようになった。また,近年では,地球温暖化対策への世界的な取組みが行われ,CO2 排出量の削減が各企業へ求められる中,様々な分野においてターボ機械への流体継手の採用が進んでいる。

本稿では,流体継手の動作原理,並びに高圧ポンプに使用される大容量・高速型流体継手の例として,電動機駆動ボイラ給水ポンプ用流体継手の構造及び特徴について説明する。

Page 2: ボイラ給水ポンプ用流体継手...ボイラ給水ポンプ用流体継手 エバラ時報 No. 252(2016-10) 19 配置することによって,小型化,軽量化が図られている。大きな動力を伝達するとともに,高回転速度で使用され

ボイラ給水ポンプ用流体継手

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構成されており,この内部に油を充填するための回転体ケーシングが設けられている。

2-2 作動原理

流体継手は,駆動軸の動力を油の速度エネルギーに変換後,その油の速度エネルギーによって被動軸に動力を伝達しており,図2に示すように,いわばポンプとタービンを効率良く,一体のケースに収めたものである。インペラは駆動軸が回転するとポンプとして働き,その中の油に遠心力を与える。この速度エネルギーをもった油がタービンとして働くランナに流れ込むことによって,回転力を伝達する。このインペラからランナへ油が流れるには,インペラとランナの間に回転速度差(スリップ)が必要である。このため出力側の回転速度は入力回転速度よりも若干遅くなる。

2-3 変速原理

前述のとおり,流体継手は油の速度エネルギーによって動力を伝達しており,インペラからランナへの循環油流が多い場合には,大きな動力伝達が行われ,その結果,出力回転速度は上昇する。逆に,循環油流が少ない場合

には,伝達動力は小さくなり,出力回転速度は低下する。インペラからランナへの循環油流は,継手部内に充填されている油量によって決定される。任意の出力回転速度で運転される流体継手においては,図3に示すように,スクープチューブで継手部内の油をすくい取り,充填される油量を調整することによって,出力回転速度の制御が行われる。

スクープチューブが回転体軸心に最も近い位置において,出力回転速度は最大となり,外周方向へ移動するに従い,出力回転速度は低下する。

3.電動機駆動ボイラ給水ポンプ用流体継手

3-1 構造

火力発電所における電動機駆動ボイラ給水ポンプの駆動用として使用される,大容量・高速型流体継手(GCH型)の構造を図4に,外観写真を図5に示す。〔1〕増速歯車

ボイラ給水ポンプの回転速度は,電動機回転速度よりも速いため,増速歯車をケーシング内に内蔵している。歯車は,歯面に浸炭処理を行うとともに,高精度研削仕上げを行い,十分な負荷容量と耐久性をもたせている。また,大容量に使用される場合には,ダブルヘリカル形が採用される。〔2〕インペラ,ランナ

動力伝達部であるインペラ及びランナは,高速軸側に

回転体ケーシング

ランナ

被動側

駆動側

インペラ

図1 流体継手の基本構造

回転体ケーシングランナ

被動側駆動側

(a)最高回転速度位置

(b)最低回転速度位置

インペラ

スクープチューブ

図3 流体継手の変速原理

回転体ケーシング

ランナ

高架水槽

水槽

被動機

タービンポンプ

電動機

インペラ

図2 流体継手の作動原理

Page 3: ボイラ給水ポンプ用流体継手...ボイラ給水ポンプ用流体継手 エバラ時報 No. 252(2016-10) 19 配置することによって,小型化,軽量化が図られている。大きな動力を伝達するとともに,高回転速度で使用され

ボイラ給水ポンプ用流体継手

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配置することによって,小型化,軽量化が図られている。大きな動力を伝達するとともに,高回転速度で使用されるため,鍛鋼材料を用い,信頼性を高めている。〔3〕軸受

流体継手の軸受には,歯車のかみ合い反力による荷重,並びに,インペラ及びランナで発生するスラスト荷重が負荷されるとともに,高回転速度で使用されるため,強制給油型のすべり軸受が採用されている。〔4〕スクープチューブ

電動機駆動ボイラ給水ポンプは,任意の出力回転速度での運転が行われるため,スクープチューブを有している。

スクープチューブ先端部は,高速回転する油をすくい取るため,特殊合金を使用し,耐浸食性を高めている。

〔5〕油ポンプ

本流体継手には,各軸受への潤滑油供給を行うための主油ポンプ及び補助油ポンプ,並びに,継手部への給油を行うための作動油ポンプの合計3台の油ポンプが設置されている。主油ポンプ及び作動油ポンプは,駆動軸と連動しており,補助油ポンプは,小型の電動機によって駆動される。安定した油の供給を行うため,それぞれのポンプには歯車ポンプが採用されている。

3-2 スクープチューブ操作機構

スクープチューブを操作する機構として,独自の技術である,エレクトロ-ハイドロサーボ機構を採用しており,これによって小型化及び高い信頼性を実現している。

エレクトロ-ハイドロサーボ機構の作動原理を,以下に示す。

3-2-1 減速動作(図6)

アクチュエータが“X”方向に回転すると,加圧室である“A”室と“D”室が,ロータリパイロットに加工された溝“C”によってつながり,“D”室の圧力が上昇する。

“D”室は,“A”室に対して内部のピストンが約2倍の受圧面積を有しているため,ピストンは本図左側に移動する。この動作に伴い,ピストンに連結されているスクープチューブは回転体外周側[図3(b)]に移動し,出力回転速度は低下する。

3-2-2 増速動作(図7)

アクチュエータが“Y”方向に回転すると,“D”室とドレンポートが,ロータリパイロットに加工された溝“E”によってつながり,“D”室の圧力が低下する。“A”室

回転体ケーシング

ランナ

作動油ポンプ

補助油ポンプ

インペラ

スクープチューブ操作機構

スクープチューブ

出力軸(被動側)

主油ポンプ駆動軸

増速歯車

図4 ボイラ給水ポンプ用流体継手構造

図5 ボイラ給水ポンプ用流体継手外観

回転体ケーシング

ランナ

“Y”方向

インペラ

ロータリパイロット操作油圧

溝“E”“A”室F:ドレンポート

ドレン

ピストン

“D”室

増速歯車

図7 増速動作

回転体ケーシング

ランナ

“X”方向

インペラ

ロータリパイロット操作油圧

溝“C”

“A”室

B:油圧ポート

ピストン

“D”室 アクチュエータ

増速歯車

図6 減速動作

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ボイラ給水ポンプ用流体継手

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は常に加圧されているため,ピストンは本図右側へ移動し,これに連結されているスクープチューブは回転体軸心側[図3(a)]に移動し,出力回転速度は上昇する。

3-3 作動油系統

継手部への油の給油は,駆動軸と連動する作動油ポンプによって行われる。作動油系統は,図8に示すように,循環閉回路を形成することで,油タンク容量の小型化,増速応答性の向上が図られている。また,スクープチュー

ブの位置と連動した油量調整弁で回転体への給油量を調節するようにしたことによって,運転効率の向上,回転速度の安定した制御を実現している。

3-4 潤滑油系統

図9に示すとおり,各軸受への潤滑油給油は,駆動軸と連動する主油ポンプによって行われる。始動時又は主油ポンプの故障等による給油圧力低下時には,電動機駆動の補助油ポンプによって潤滑油の供給が行われる。この潤滑油系統によって,ボイラ給水ポンプの軸受及び主電動機の軸受への潤滑油供給が行われ,別途,潤滑油装置は不要である。

4.ボイラ給水ポンプ用流体継手の動向

電動機駆動ボイラ給水ポンプ用流体継手における定格伝達動力の推移を,図10に示す。ボイラ給水ポンプの大容量化,高圧化に伴い,伝達動力は年々増加しており,この傾向は今後も継続していくものと考えられる。

一方,IPP(独立系発電事業者)事業向け発電所建設の増加によって,小容量型流体継手の需要も生まれている。

5.お わ り に

本稿では,火力発電に用いられる電動機駆動ボイラ給水ポンプ用流体継手について説明したが,流体継手は様々なプラントにおけるターボ機械の回転速度制御用として使用されており,運転効率の改善に寄与している。今後,更なる改良,適用範囲の拡大を行い,環境負荷の低減並びに生産性の向上に貢献していく必要がある。

エレクトロ-ハイドロサーボ

作動油クーラ

作動油ポンプ

ランナ 油量調整弁

電動機側

BFP側

油タンク スクープチューブ

ケーシング

増速歯車

図8 作動油系統定格伝達動力 kW

1980年代

14000

12000

10000

8000

6000

4000

2000

01990年代 2000年代 2010年代

図10 定格伝達動力の推移

エレクトロ-ハイドロサーボ

潤滑油クーラ

ツインフィルタ電動機側

潤滑油(電動機へ)(電動機から)

BFP側

潤滑油(BFPへ)

(BFPから)

油タンク

主油ポンプ

補助油ポンプ

ケーシング

図9 潤滑油系統