ロシア:欧米による追加制裁と ロシアの石油ガス開発の将来 …...9 月12...

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2014/10/24 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資 源機構 海外石油天然ガス動向ブリーフィ ング 1 1 ロシア: 欧米による追加制裁と ロシアの石油ガス開発の将来展望 2014年10月23日 本村 真澄 2 追加制裁に至るウクライナ情勢 828日:露軍による越境攻撃の可能性 829日:プ大統領、宇に親露派との交渉を要請 91日:ミンスク和平会議、作業部会設置 露、宇、OSCE、ドネツク・ルガンスク両「人民共和国」 93日:プ大統領の7項目提案、即時停戦 95日:ミンスクで停戦合意 912日:EU、米が対露追加制裁 916日:宇議会はドネツク州とルガンスク州に特 別な地位を付与。①両州独自の地方議会選挙、 ②両州の露行政機関との関係強化の承認

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Page 1: ロシア:欧米による追加制裁と ロシアの石油ガス開発の将来 …...9 月12 日:5 社(Gazprom,Lukoil, GazpromNeft, Surgutneftegaz, Rosneft)に対する大水深・北極海・

2014/10/24

独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 海外石油天然ガス動向ブリーフィング 1

1

ロシア: 欧米による追加制裁とロシアの石油ガス開発の将来展望

2014年10月23日

本村 真澄

2

追加制裁に至るウクライナ情勢

• 8月28日:露軍による越境攻撃の可能性

• 8月29日:プ大統領、宇に親露派との交渉を要請

• 9月1日:ミンスク和平会議、作業部会設置

– 露、宇、OSCE、ドネツク・ルガンスク両「人民共和国」

• 9月3日:プ大統領の7項目提案、即時停戦

• 9月5日:ミンスクで停戦合意

• 9月12日:EU、米が対露追加制裁

• 9月16日:宇議会はドネツク州とルガンスク州に特

別な地位を付与。①両州独自の地方議会選挙、②両州の露行政機関との関係強化の承認

Page 2: ロシア:欧米による追加制裁と ロシアの石油ガス開発の将来 …...9 月12 日:5 社(Gazprom,Lukoil, GazpromNeft, Surgutneftegaz, Rosneft)に対する大水深・北極海・

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独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 海外石油天然ガス動向ブリーフィング 2

3

EU、米、日による対露制裁の内容

制 裁 EU 米 日本

第1次

(クリミ

ア 併 合

へ の 対

応)

3月6日:3段階の対露制裁。まずは

露とのビザ交渉凍結

3月17日:露、クリミア当局者ら21

名の資産凍結・渡航禁止

3月21日:12名の資産凍結・渡航禁

3月6日:露政府高官・軍関係者等の

資産凍結・渡航禁止

3月17日:7名の資産凍結・渡航禁止

追加、Yanukovichなど

3月20日:20名の資産凍結・渡航禁

止追加、Tymchenkoも

3月 18日:査

証緩和凍結、

投資・宇宙・

安全保障での

協定交渉の凍

第2次 5月12日:13名、2社の資産凍結・渡

航禁止

4月28日:Sechin社長を含む7名17

社の資産凍結・渡航禁止

4月29日:23

名の査証停止

第3次

(マレー

シ ア 航

空 機 撃

墜 で 強

化)

7月12日:追加資産凍結渡航禁止

7月16日:EIB, EBRDの融資禁止

7月31日:大水深・北極・シェールオイル用

機材の輸出は事前認可。ガスは非対

象、8月1日前の契約は不問。90日超

の調達禁止(Sberbank, VTB)

7月16日:経済制裁。90日超の資金

調 達 禁 止 (Gazprombank, VEB,

Rosneft, Novatek)

8月6日:大水深・北極海・シェール

用機材の米国から輸出禁止。3銀行

と統一造船の米市場調達禁止

8月5日:クリ

ミア , 東部の

不安定化に関

与する企業の

資産凍結、輸

入制限

第4次

(ウクラ

イ ナ 東

部停戦)

9月12日:大水深・北極・シェールオイル事

業への掘削・テスト・検層等のサー

ビ ス の 禁 止 。 Rosneft, Transnft,

Gazpromneft に対する30日超の資金

調達の禁止。

24名の資産凍結・渡航禁止。

9 月 12 日 : 5 社 (Gazprom,Lukoil,

GazpromNeft, Surgutneftegaz,

Rosneft)に対する大水深・北極海・

シェール事業を支援する機器,サービ

ス,技術の提供禁止。5銀行の30日超

の調達禁止。Transneft

GazpromNeftの90日超の社債禁止。

9月26日までの猶予。

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EUによる追加制裁の内容

• 深海や北極圏での油田探査、ロシア国内でのシェールオイル事業への以下のサービス(services)の提供の禁止(prohibited)

– i)掘削, ii)坑井テスト, iii)検層と仕上げ, iv)特殊船舶の提供

– 上記禁止事項は2014年9月12日以前の契約や枠組み合意には適用されない

• Rosneft, Transneft, Gazprom Neftの3社に対して、30日を超える満期の金融取引の禁止

• チュメゾフ他議会幹部24人の資産凍結、渡航禁止

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独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 海外石油天然ガス動向ブリーフィング 3

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米による追加制裁の内容

• エネルギー関連5社(Rosneft,Gazprom, GazpromNeft, Lukoil, Surgutneftegaz)に対しての大水深、北極海、シェール事業で

の探鉱・生産を支援する機器類、サービス(金融関係を除く)技術の米国からの提供、輸出、再輸出の禁止(prohibition)– ロシアの長期的な将来のプロジェクトへの技術的チャレンジを困難にさせることが目的

• 5行(モスクワ銀行, Gazprombank, 農業銀行, VEB, VTB)およびSberbankに対する米金融市場での30日以上の債権、株式等による資金調達の禁止。

• GazpromNeft、Transneftの満期90日以上の社債取引の禁止

• 米国企業はこれら5社との対象となる取引を縮小するための猶予として、9月26日までが認められる。

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カラ海東Prinovozemlesk-1鉱区

(JOGMEC作成)

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ExxonMobil-Rosneft事業への影響

• 8月6日:米による経済制裁

• 8月9日:カラ海東Prinovozemlesk-1鉱区にてUniversitetskaya-1号井開坑、米政府の反応なし

• 9月12日:EU・米による追加経済制裁

• 9月19日:掘削の停止

• 9月27日:Rosneftが石油の発見を発表、EMは沈黙

Universitetskaya-1号井の掘削状況(Rosneftのwebsiteより)

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Universitetskaya-1号井の成果

• 2014年で最も重要な石油発見

• 緯度:北緯74度、世界最北の石油掘削井

• 掘削期間:約40日

• 水深:81m

• 垂直坑井深度:2,113m

• 口径:8 1/2”(@600m)

• 鉱区内資源基盤評価:

–石油1億トン超;シベリアン・ライトに近い性状

–ガス3,380億m3(12兆cf)

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独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 海外石油天然ガス動向ブリーフィング 5

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石油鉱床 根源岩

ケロジェンからの原油の生成は、埋没深度の増大とともにケロジェンから未熟成のガス、次いで石油が生成される。

埋没深度が大きくなると、ケロジェンの熟成はさらに進み、ガスを生成するようになる。

油の生成に適した深度として「オイルウィンドウ」という言葉が使われる。

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北極海の未発見石油埋蔵量

地質区レベルで100億

バレル以上が見込めるのはアラスカ・ノーススロープのみ。他の殆どの地域は10億~100

億バレル(出典:米地質調査所2008年)

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米国地質調査所による報告(2008年7月)

• 未発見資源量

–石 油: 900億バレル (世界の13%)

–天然ガス: 1,670兆立方フィート (世界の30%)

• 既発見埋蔵量

–石 油: 400億バレル (世界の3%)

–天然ガス: 1,100兆立方フィート (世界の17%)

• ロシアは北極沿岸5カ国の中で面積、氷の条件、資源ポテンシャルの点で最も恵まれている

• ロシア・カラ海での石油発見により、上記未発見石油資源量は再評価の必要あり

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外国石油企業の動向

• ExxonMobil:カラ海とシェール事業は停止

–最も影響を受けた企業

• Shell:制裁内容を検討中。

–サルィム油田等のシェールオイル事業に懸念

– Sakhalin-2について言及ないが、事業継続

• Statoil:Rosneftとの関係は不変だが微修正

–マガダン政府によれば、2016年にMagadan-1鉱区で掘削する計画に変更はないとのこと

• Schlumberger:欧米系社員は帰国、ロシア人で代替。最初に影響を被った形。

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ExxonMobil R/D Shell Statoil Total Eni BP国 米 英蘭 ノルウェー 仏 伊 英主要な事業

・Rosneftと2011年協力で合意。Bazhenovシェールオイル、北極海・黒海開発、極東でのLNG事業

・Gazpromと2010年協力協定。北極海開,S-2 LNG

GazpromNeft

Bazhenov開発

・Rosneftと 2012年協力 ,Barents

海、オホーツク海探 鉱 、 重 質 油シェールオイル開発

・ Novatek とYamal LNGを推進、ハリヤガ油田のPS契約

・Rosneftと2012年協力協定。バレンツ海と黒海で探鉱。South Stream で協力

・ BP 株 式19.75%をTNK-BPを売却して取得

(FTの原図にJOGMEC加筆)

ロシアに参入している欧米メジャーズ

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ロシア企業の動向

• Rosneft:西シベリアVankor油田の10%をCNPC,他の10%を印ONGCへ譲渡の方向

–北極海に関しては独自事業を模索

• GazpromNeft:Shellとの事業は慎重に対処

–独自事業のKrasnolenin油田シェールオイル事業は積極的に対応

–南Priob油田でのBazhenov-Abalak層開発

• Gazprom:トルコ向けBlue Streamのガス輸出量を年間160億m3から190億m3へ拡大

– EUの対露依存軽減策に対抗

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5

1

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西シベリアの主要油ガス田

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世界の非在来型資源分布

(JOGMEC作成)

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投資対象としてのロシアの特徴

• 現状で世界の主要産油国で外資の進出が可能なのは、ロシア、リビア、ベネズエラ程度

• 税制等の予見可能性ではやや問題はあるがこれらの国の中ではロシアは比較優位性あり

• ロシアは地質的な特性から、新規探鉱で大規模埋蔵量を確保できる国

• 更にメジャーズにとっては、大水深、北極圏、シェールオイル分野において、高度技術の適用余地が大きく、長期的な取り組みが可能

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国際石油企業(IOC)の考え

• 前BP社長Tony Hayward:(FT, 2014/9/15)

ロシアの石油部門に対する国際的制裁で、西側にとってのリスクが上積みされつつある。制裁により投資は減少し、世界第3位の産油国ロシアによる原油供給に打撃を与えている

2005年以降、世界の原油生産の増加をもた

らしたのは米国であるが、米国の増産が長く続く保証はない。対露制裁により、数年後に石油増産を唯一可能にできるシェール層や北極海からの増産が困難になる恐れがある。

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ガス供給協議の進展

• 6月16日:ウクライナへのガス供給を前払い制

• 9月26日:Novak(露), Prodan(宇), Oettinger (EU)の協議で宇が既往購入分のガス代金$31億を支払うことを前提に、露が50億m3のガスを$385/1,000m3で供給という打開案。

–未払い額を$53億から$45億に減額

–宇は$31億をIMF融資で年内支払、$14億は未定

• 10月17日:ミラノで露, 宇, 独, 仏の首脳協議

• 10月21日:Novak, Prodan, Oettinger 協議

• 同日:宇政府はEUにEur20億の融資要請