カンボジアの環境に対する市民意識と環境関連政策...

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カンボジアの環境に対する市民意識と環境関連政策 日本貿易振興機構 海外調査部

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カンボジアの環境に対する市民意識と環境関連政策

日本貿易振興機構

海外調査部

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地球温暖化問題への関心を受け、各国では環境関連政策の整備が進み、政府の啓発活動に

伴い市民の環境に対する意識が高まりつつある。

環境意識の高まりは地球温暖化問題だけに向けられているものではなく、健康、安心・安

全、居心地の快適さ、バリアフリーなどへの関心と相まっており、意識の高まりに伴い、市

場が大きく変化する兆しを見せている。こうした動きは先進国だけでなく新興国でも見られ、

特に台湾や ASEAN ではビジネス環境の急転が見込まれている。サッカー・ワールド・カッ

プとオリンピックを控えているブラジルでも、政府や自治体は市民に対する環境教育にいっ

そう力を入れるようになった。

こうした世界的なトレンドを受け、ジェトロでは、主要 30 カ国・地域を選び、市民の環境

への意識および環境関連政策について、概要を取りまとめることとした。

環境関連政策としては、(1)電力・エネルギー、(2)廃棄物処理、(3)交通、(4)住宅・建築をと

りあげた。また、ビジネスの参考として、環境関連の経済指標および当該国・地域の気候関

連情報についても盛り込むこととした。

本レポートは、この一連の調査のカンボジア版である。

なお本レポートは、 環境政策関連のデータベースを運用する民間のシンクタンク、Enhesa,

Inc.1に委託した調査の報告書「Environmental Policy Research 2010 」を基に、ジェトロが

編集・改訂を行ったものである。

2011 年 2 月

海外調査部

「環境に対する市民意識と環境関連政策」レポート掲載国・地域一覧

EU、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、スウェーデン、ハンガリー、ポーラ

ンド、デンマーク、チェコ、サウジアラビア、UAE、インド、シンガポール、マレーシア、

インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、カンボジア、台湾、中国、韓国、オーストラ

リア、カナダ、米国、メキシコ、ブラジル、チリ。

1 www.enhesa.com

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1. 位置・気候2

カンボジアはメコン河の中下流域に位置し、181,035km2の面積を持つ。緯度は北緯 10~15

度の間に位置している。カンボジアは国境を主として山岳地帯に囲まれているが、国土の大

部分はメコンデルタとトンレサップ(湖)氾濫原の一部を形成しており、多くの地域で標高

100m 以下となっている。

古くからカンボジアの国土は森林地帯に覆われ、1976 年の時点でも国土のおよそ 75%を森

林地帯が占めた。しかしそれ以降、カンボジアでは急速に、深刻な森林破壊が進んだ。現在、

カンボジアの国土を占める森林地帯はおよそ 60%とされている。

カンボジアは熱帯モンスーン気候で、5 月から 10 月にかけて雨期が到来し、特に 9 月から

10 月にかけては激しい雨が降る。11 月から 4 月にかけては乾期となる。

降水量は、メコン川やトンレサップ湖が存在する中央の平野部で平均 1,200~1,500mm、

山岳地帯で平均 1,500~2,500mm となっている。気温は最低 10℃から最高 38℃になり、年

間平均は 28℃である。1 月は最も涼しく、この月の最高気温は約 21℃である。雨期が始まる

直前の 4 月が、気温が最も高くなる。

2. 環境に対する市民意識3

クメールルージュ政権(1972~1975)とそれに続く内戦(1975~1997)を経験したため、

カンボジアでは、公教育が大きく立ち遅れた。このことは、環境に対する国民意識の水準に

も影響を与えた。国民の暮らしは林業や漁業に大きく依存し、森林伐採や魚の乱獲といった

問題は国民生活に大きな影響を与えるため、これを憂慮する声が上がることはある。しかし、

環境に関して高い水準の知識が普及するには至っていない。

環境教育が公立学校のカリキュラムに組み込まれているという点で、教育・青少年・スポ

ーツ省は環境教育について間接的に責任を担う。しかし、環境に対する意識の向上への取り

組みについて責任を正式に担っているのは、環境省の教育・情報・通信庁である。

政府は「行動計画(2000~2005)」を策定し環境への啓蒙活動を進めた。現在は

「ASEAN 環境教育行動計画(2008~2012)4」に則って引き続き市民の啓発に努めている。

この計画では、対象分野としてフォーマルセクター、インフォーマルセクター、人材能力の

構築とネットワーキング、協力、情報通信が挙げられている。取り組みを進めるに従い、市

民による環境活動は、極めて低い教育水準と貧困は言うまでもなく、人材・能力と資金の不

足が大きな課題になっている事実が浮かびあがっている。

政府が環境に関する啓蒙・啓発を進めているのは事実であるが、数多くの内外の NGO によ

る多彩な活動と二国間および多国間で行われる資金供与が、環境に対する意識の向上と情報

へのアクセスを可能にしている。

2 The Atlas of Cambodia: National Poverty and Environment Maps (Save Cambodia’s Wildlife, 2006) https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/geos/cb.html http://lcweb2.loc.gov/frd/cs/khtoc.html http://www.adb.org/Water/NARBO/2004/Training-Program/country-report-CAM-MWRM.pdf

3 http://www.adb.org/Documents/Reports/Consultant/33418-CAM-TACR.pdf http://enviroscope.iges.or.jp/contents/eLearning/ee/pdf/case_studies_cambodia.pdf http://www.env.go.jp/en/earth/ecoasia/congress/2004jun_2/pdf/05.doc

4 http://environment.asean.org/index.php?page=overview http://www.sprep.org/att/irc/ecopies/pacific_region/533.pdf

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環境意識向上を目的とした活動は、天然資源の管理を計画の中に組み込んでいる。こうし

た計画の例として、トンレサップ環境管理計画5、クープレーエキスプレス移動環境教育隊6、

カルダモン計画7などがある。また、環境のための仏教徒協会(Association of Buddhists for

the Environment; ABE8)を通じて、僧侶のグループによる環境に対する意識の向上への取り

組みも見られる。

3. 環境関連政策

環境省(MOE)は環境政策について全体的な責任を担っている。Law on Environmental

Protection and Natural Resource Management9(1996 年)は、この省の責任のもと施行さ

れている。この法律は、Sub-decree on EIAs に従って環境に対する影響の評価(EIA)を実

施することが求められるすべての経済活動を規定している10。対象となるのは工業、農業、観

光、およびインフラに関連する様々な活動と計画である。

この他、次の省も環境政策とそれに関連する経済政策の推進に関わっている。

1)農業・林業・漁業省(MAFF)

2)工業・鉱業・エネルギー省(MIME)

3)公共事業・運輸省(MPWT)

4)カンボジア開発評議会(CDC)

5)計画省(MOP)

これらの省は EIA の実施が求められるあらゆる活動について責任を担っている他に、指定

の国家機関(DNA)による委員会を構成している。この団体は、カンボジアのクリーン開発

メカニズム(CDM)の評価と承認を行っている11。

CDC はカンボジアで行われるすべての経済活動を監督している。CDC は、カンボジア政

府とその機関、寄付者またはカンボジアでの経済活動を希望する企業との間を仲介し、調整

を図る政府機関である12。CDC は、次のような役割を担っている13。

1)外国からのカンボジアへの投資の承認。

2)03 年の Law on Investment に基づく直接投資を誘致するための一連の施策管理。

3)投資者を代行した必要な許可と承認の取得、および政府と投資者の間の調整。

①環境への悪影響が懸念される投資案件、②投資額が 5,000 万米ドル以上のインフラ譲与

が行われる案件、③天然資源や鉱物資源の利用が行われる案件といったケースでは、CDC は

閣議に提案書を提出して最終的な承認を得る必要がある。

5 http://www.livelearn.org/projects/c_index.asp 6 http://www.wildlifealliance.org/environmental-education/ 7 http://www.cardamom.org/ 8 http://www.conservation.org/Event%20Documents/CI%20Cambodia%20and%20Association%20of%20Buddhists 9 http://www.camnet.com.kh/moe/EnvironmentLow.htm 10 http://www.camnet.com.kh/moe/sub_EIA.htm 11 http://enviroscope.iges.or.jp/modules/envirolib/upload/984/attach/cambodia_final.pdf; http://cd4cdm.org/Asia/Manila%20Forum/1_Thy.pdf 12 http://www.cdc-crdb.gov.kh/ 13 http://www.state.gov/e/eeb/rls/othr/ics/2010/138045.htm

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(1)電力・エネルギー政策14

カンボジアは、アジアで電化が最も遅れている国の一つで、電力を使用している市民数は

全人口の 12%に過ぎない。この 9 割が都市部の住人である。

カンボジアでは経済開発が進むに連れて電力需要が高まっており、この国が発展を進める

上で電力は重要な要素となっている。

カンボジアでは送電線が全国規模では敷設されていない。電力が使用できる地域では個々

の電力供給会社が電力を供給しているが、電力使用者の大部分が集中している首都プノンペ

ンでも電力供給の質と信頼性は低い。

電力の 90%は、輸入した化石燃料を使用して稼動する発電機によっている。このためカン

ボジアの電気料金は世界で最も高い水準にある。

エネルギー供給の大部分(約 7 割)はバイオマスによってまかなわれ、実質的にそうした

資源は薪が大部分を占めている。

エネルギー供給において水力発電が担っている役割は極めて小さい(約 0.4%)。まとまっ

た容量の水力発電は、設備容量 13MW の施設が 2 つ存在するに過ぎない。

政府は、1999 年から 16 年までを描いた電力部門の戦略を通して、エネルギー政策を推し

進めている。しかし、政府の政策には具体的な方策が示されておらず、全体的な方向性が示

されているに過ぎない。

政府は専ら、民間資本を誘致し経済成長を刺激するため、発電量を増やすことに力を入れ

ている。石油に大きく依存する現在の状況を脱却し、石炭と水力による発電に移行する意思

を強く打ち出している。水力発電の技術は急速に発展しているが、プロセスの不透明さと提

案された計画が社会と環境にもたらす影響について、立地に近い市民の間で大きな不安が広

がっている。水力は現在 4 つの発電施設が建設されているほか、42 の計画が存在しており、

最終的な設備容量は 1,825MW に到達する計画となっている。しかし、これらすべての設備

が実現するには相当の時間がかかる。

エネルギー部門全般、具体的には「グリーンエネルギー」への投資の促進を目的とした刺

激策の多くは、CDM のプロセス、および外国からの直接投資を刺激する上述の総合的な制

度を通して行われる。固定価格買い取り制度といった政府による支援策は、現在のところ、

存在しない。

(2)廃棄物処理政策

固形廃棄物処理政策は、廃棄物を家庭廃棄物と危険廃棄物に分類する Sub-Decree on Solid

Waste Management15(1999 年)に従って推し進められている。環境省はこの法令の施行に

ついて責任を担っている。同省はガイドラインとライセンスを発行し、あらゆる固形廃棄物

の管理を制御、監視、および監督している。

14 http://go.worldbank.org/C1KN2PJ7M0 http://www.investincambodia.com/power.htm http://www.reeep.org/index.php?id=9353&text=policy&special=viewitem&cid=30 https://cambodia.usembassy.gov/media2/pdf/cambodian_power_development_plans.pdf http://www.docstoc.com/docs/9859974/Cambodia-Energy-Sector-Strategy-Review http://www.winne.com/asia/cambodia/2004/cr02.php

http://www.internationalrivers.org/files/Cambodia%20hydropower%20and%20Chinese%20involvement%20Jan%202008.pdf

15 http://www.camnet.com.kh/moe/sub-decree_SWM_English.htm

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市町村で発生する廃棄物の集積作業は、民間企業が自治体を代行しているか、自治体が直

接行っている。リサイクルや回収の制度やゴミの削減などに関する「グリーン」活動を推進

するためのインセンティブは、公式には定められていない。一方で、道路脇のゴミ置き場や

ゴミ集積場からリサイクル可能な価値のある物品を持ち出す者は後を絶たない16。

ゴミの発生に関して国がまとめたデータは存在しないが、プノンペンで発生する家庭ゴミ

についての調査によると、そうしたゴミの 63.3%が台所から出る生ゴミ、15.5%がプラスチ

ック、6.8%が草木、6.4%が紙や段ボール、0.06%が金属やゴム、0.01%が皮革で、年間に発

生するゴミの量は急速に増加している17。

カンボジアは 3R ゴミ戦略の策定で海外からの支援を受けたが、現在は廃棄物の管理に関

する国の戦略は存在せず、あらゆる戦略の遂行を阻む障壁が数多く存在している18。

危険廃棄物の管理は事実上、その廃棄物の「所有者」(工場など)が責任を持って行わな

ければならない。しかし、市場、診療所、病院などの公的施設、あるいは家庭で発生した危

険廃棄物の管理について、地元当局が責任を担わなければならない場合がある。

(3)交通政策

紛争を経験したカンボジアでは、輸送インフラ整備が今もなお遅れている状態にあり、イ

ンフラ整備は国の発展に向けた大きな課題となっている。

輸送は主として道路を経由して行われる19。トンレサップ湖、メコン川、トンレバサック川

をはじめとする水路、およびそれらの川の支流も輸送経路として活用されている。

カンボジア最大の国際港はシアヌークビルに存在し、それに次ぐ国際港はプノンペン(メ

コン川流域)に存在し、ベトナムとの貿易活動の多くがこの二つの港を経由して行われてい

る。また、カンボジアの国際空港はプノンペンとシエムレアプに存在する20。

世界銀行、アジア開発銀行(ADB)、国際協力機構(JICA)、および中国政府などの大手

の支援者により、道路による輸送活動のインフラを改善するための大規模な計画が進められ

ている。国内の幹線道路網は満足できる水準にまで高められているが、各州の農村地帯の道

路網(国内の道路網の約 7 割を占める)は依然として極めて劣悪な状況にある21。

カンボジアの鉄道網は、全長約 640km に及ぶ 2 つの単線区間により構成されている。北部

の区間はプノンペンからタイ国境付近のポイペトに至り、南部の区間はプノンペンからシア

ヌークビルに至る。カンボジア王国鉄道によって運営されているが、鉄路・信号システム、

列車ともに整備が満足に行われていないため実質的に利用できる状態ではなく、利用してい

るのはむしろ、沿線居住者が勝手に人や物資を運ぶ「バンブートレイン」である22。

カンボジアでは、オートバイは極めて広く利用されており、06 年の時点で 68 万台に達し

ている23。自動車も増えつつあり、24 万 7,300 台が走る24。

16 http://www.env.go.jp/recycle/3r/en/asia/02_03-1/09.pdf 17http://wmr.sagepub.com/content/early/2010/09/01/0734242X10380994.abstract http://enviroscope.iges.or.jp/modules/envirolib/upload/2637/attach/national_3r_strategy_development(fullversion).pdf 18 http://enviroscope.iges.or.jp/modules/envirolib/upload/2637/attach/national_3r_strategy_development(fullversion).pdf 19 http://www.adb.org/Documents/Reports/Arrive-Alive/Country-Reports/ctry-rep-02-cam.pdf 20 http://go.worldbank.org/XUTCC2MWU0 21 http://www.adb.org/Documents/Reports/SAPE/CAM/SAP-CAM-2009-34/SAP-CAM-2009-34.pdf 22 http://www.adb.org/Documents/Reports/Arrive-Alive/Country-Reports/ctry-rep-02-cam.pdf http://www.adb.org/Media/Articles/2010/13369-cambodian-railroads-projects/default.asp 23 http://www.nis.gov.kh/nis/yearbooks/Yearbook06.htm#TRANSPORT AND COMMUNICATION 24 http://www.cleanairnet.org/caiasia/1412/csr/cambodia.pdf

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オートバイを利用する者が多いことの理由として、価格が安価であることと、国内の道路

の多くが自動車には不向きであることを挙げることができる。

カンボジアの交通網の安全性の水準は低い25。公共の交通機関として、民間のバス会社が提

供するサービスはあるが、その他には自家用車を使用した「タクシー」、三輪タクシー、オ

ートバイ、および舟などが値段を交渉した上で利用できる程度で、公共交通機関として整備

されているとは言いがたい。物資も同様に旧式のトラックや舟、オートバイ、動物に引かせ

た荷車を使って運ばれている26。

カンボジアでは、運輸分野に関する政策の決定は、公共事業・運輸省、および道路網全体

の約 7 割を占める農村地帯の道路網の整備を担当する農村地帯開発省に任されている。

輸送ネットワークはカンボジアのインフラを支える重要な部分であり、このリソースに対

する需要が高まっているが、道路網に関する調整作業、計画、および明確、包括的かつ戦略

的な政策が早急に策定されることが望まれている27。

政府は鉄道、国道、および国際空港の運営において海外との協力関係を含め、民間部門と

公的部門との協力関係を深めて交通インフラの整備と管理に努めている28。

(4)住宅・建築政策

カンボジアでは、各家庭の資産状況に応じて様々な住宅が建設されている。最も貧しい家

庭では、竹を使用してワンルームの単純な小屋を建てている。より裕福な家庭では、2、3 の

部屋に区切られた伝統的な木造建築の家を建てている。

多くの家庭はコンクリートの建物を建てることを望んでいるが、そうした家を建てること

ができるのはわずか一握りの家庭に過ぎない29。都市の中心部ではコンクリートの建造物がよ

り一般的に見られる。2007 年のデータによると、カンボジアの住宅軒数は少なくとも 280 万

に及んでいる30。

住宅・建築分野に対しては、1994 年の Law on Land Management, Urban Planning

and Constructions、および 01 年の Land Law が適用される。外国人は土地を所有すること

はできないが、譲渡または賃貸によって管理される土地に建設された建物を所有することが

できる。ただし資格を有する投資者(CDC)により所有される建物を他の外国人に譲渡する

ことが可能なのか、あるいは CDC の承認が下された計画に含まれない他の建物を投資者が

所有することができるのかといった問題について不明確な部分が存在している31。

建物/住居を建築するとき、または大きな改修を行うときは、建設許可を取得しなければ

ならない。州または市の関係機関に申請を行って、公共事業・運輸省による判断を仰がなけ

ればならない32。また、3,000 平方メートルを超える商業施設の場合、土地管理・都市化・建

設省に申請を行わなければならない33。

25 http://www.adb.org/Documents/Reports/SAPE/CAM/SAP-CAM-2009-34/SAP-CAM-2009-34.pdf 26 http://go.worldbank.org/XUTCC2MWU0 27 http://www.adb.org/Documents/Reports/SAPE/CAM/SAP-CAM-2009-34/SAP-CAM-2009-34.pdf 28 http://www.adb.org/Documents/Reports/SAPE/CAM/SAP-CAM-2009-34/SAP-CAM-2009-34.pdf 29 http://www.nis.gov.kh/nis/CSES/NIS_CSES_Report_Housing_final200809.pdf The Atlas of Cambodia: National Poverty and Environment Maps (Save Cambodia’s Wildlife, 2006) 30 http://www.nis.gov.kh/nis/CSES/NIS_CSES_Report_Housing_final200809.pdf 31 http://www.state.gov/e/eeb/rls/othr/ics/2010/138045.htm 32 http://www.bnglegal.com/uploads/reports/Guide%20to%20Business%20in%20Cambodia.pdf 33 http://www.gocambodia.com/laws/land_construction.asp; http://www.bonnarealty.com/document/laws/14_ANK_86_97_Co

nstruction_Permit_E.pdf

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これまでのところ、一般の住居であれ商業施設であれ、環境に配慮した建物の建設を促進

するための国としての基本計画は策定されていない。

(5)環境関連政策に関わる海外からの支援

カンボジアは海外からの大規模な支援を受けている。08 年の政府開発援助は 7 億 4,281 万

ドルに達した34。こうした支援を利用した計画は数多く進められている。

この他にも、NGO セクターとその他の寄付者によって「インフォーマルな」構想が数多く

推進されている。

輸送インフラには多額の支援が投入されている。ADB はこれまでにこの分野に多額の資金

を投入し、これからもこれを続ける予定である。現在、運輸分野においては鉄道の復興35と農

村地帯の道路網の改善36に力が注がれている。

また世界銀行も運輸分野において大胆な計画を展開している37。JICA は複数の道路整備計

画、ならびに港の開発と拡張に関する計画に資金を投入している38。その他の計画については

情報が限られているが、公共事業・運輸省のウェブサイトは新しい情報を一覧表示して、こ

うした計画の存在を知らせている39。現在、中国はこうした計画の多くに資金を積極的に投入

している。

廃棄物の処理に関する分野で目を引くものとしては、以前に JICA が支援していた「プノ

ンペン市における固形廃棄物の管理強化」(06 年 10 月~08 年 3 月40)を挙げることができ

る。

環境政策に関連する最も重要な計画として、エネルギー分野/炭素取引気候変動に含まれ

るものを挙げることができる。カンボジアは、京都議定書に基づく策定された開発途上国が

承認を受けた排出削減計画から炭素排出削減クレジット(CER)を得る仕組み「クリーン開

発メカニズム(CDM)」を採用している。これらのクレジットを売却することで、政府は収入

を得ている41。地球環境戦略研究機関(IGES)はこの分野におけるカンボジアの能力開発を

支え、技術支援を提供している42。

CDM への対応は環境省の気候変動庁が担当している43。カンボジアでは CDM の執行委員

会のレベルで行われる計画が 4 件登録され、7 つの CDM 計画が DNA の承認を得ている44。

承認を受けた計画として、バイオガス、バイオマス、水力、および廃棄物/加熱ガスの利

用に関する計画がある。CDM の計画は、カンボジアでは農業分野に対して最も大きな潜在

力を持っている45。

34 http://www.google.com/publicdata?ds=wb-wdi&met=dt_oda_alld_cd&idim=country:KHM&dl=en&hl=en&q=cambodia+o

da 35 http://www.adb.org/projects/project.asp?id=37534&p=camproj 36 http://www.adb.org/Cambodia/projects.asp browse projects: Transport and ICT 37 http://web.worldbank.org/external/projects/main?pagePK=64283627&piPK=73230&theSitePK=293856&menuPK=293887

&Projectid=P106603 38 http://www.jica.go.jp/cambodia/english/office/others/pdf/map02.pdf 39 http://www.mpwt.gov.kh/index.php 40 http://gec.jp/gec/jp/Activities/ietc/fy2010/e-waste/ew_3-3.pdf 41

http://unfccc.int/kyoto_protocol/mechanisms/clean_development_mechanism/items/2718.php 42 http://www.iges.or.jp/en/cdm/programme.html 43 http://www.camclimate.org.kh/ 44http://enviroscope.iges.or.jp/modules/envirolib/upload/984/attach/cambodia_final.pdf 45 ibid

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ADB はエネルギー部門にも融資を行っており、これからも融資と技術支援を続けてゆくと

している。これらの計画は主に、大メコン圏46に向けた戦略の一環として行われる国際的な電

気接続網を含むカンボジア国内の送電・配電網を改善することを主眼に置いている47。

エネルギー部門のもう一つの重要な計画として、世界銀行による支援を受けた、水力と太

陽エネルギーを利用する農村地帯の電化と送電網の改善計画がある48。

カンボジアでは資金的課題から公的機関による発電・送電設備の充実が困難なため、企業

および個人世帯は独立して発電を行っている。発電源として、安価で環境に優しいバイオマ

スを使用した SME 再生エネルギーもある。こうした再生可能エネルギーの利用は石油によ

る発電からの転換を進める政府にとっても好ましいものとされている49。

4. 経済指標

①鉄道総延長 640 km (2009年)②鉄道旅客輸送キロ N/A③鉄道貨物輸送キロ N/A④高速道路・アウトバーン総延長 N/A⑤国道総延長 2,002 km (2002年)⑥水路総延長 N/A⑦住宅戸数 2,530,000 戸 (2004年)⑧住宅建築着工許可件数 N/A⑨非住宅建築着工許可件数 N/A⑩乗用車登録台数 247,322 台 (2005年)⑪商用車登録台数 37,259 台 (2005年)⑫乗用車普及率(1,000人あたり) 17.9 台 (2005年)⑬商用車普及率(1,000人あたり) 2.7 台 (2005年)⑭廃棄物量 N/A⑮廃棄物埋め立て処理率 N/A⑯廃棄物焼却処理率 N/A⑰水資源使用量(地表水)    4.08 k㎥ (2000年)⑱一人当たり水使用量 290 ㎥ (2000年)⑲CO2排出量    4.6 百万トン (2008年)⑳CO2一人当たり排出量 0.31 トン (2008年) 注:鉄道は貨物のみで、実質的に定時運行は確保されていない。

国道は幹線のみ。その他の国道を含めると 4,700km。これに加え 5,700kmの州道がある。

出所:①⑤ADB、⑦⑩~⑬カンボジア国立統計研究所、⑰⑱WWO、⑲⑳IEA

以上

添付資料:カンボジアの気象データ

46 http://www.adb.org/GMS/default.asp; http://www.adb.org/gms/sector-activities/energy.asp

47 http://www.adb.org/Cambodia/projects.asp browse projects: Energy 48 http://web.worldbank.org/external/projects/main?pagePK=64283627&piPK=73230&theSitePK=40941&menuP

K=228424&Projectid=P064844 49 http://www.greenbiz.com/blog/2010/04/08/turning-rice-husks-cheap-green-energy-cambodia

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気象データ

表 1 プノンペンの気象学的情報(1997 年から 2001 年までの 5年間の月別平均値に基づく)

Month

Mean Temperature oC Mean Total Rainfall

(mm)

Mean Number of Rain

Days Daily

Minimum

Daily

Maximum

Jan 21.9 31.5 25.5 2.8

Feb 23.0 32.8 11.5 2.4

Mar 24.1 34.9 58.0 5.2

Apr 25.0 34.9 101.0 8.6

May 25.3 34.3 111.6 16.4

Jun 25.0 33.5 177.1 16.6

Jul 24.7 32.5 195.9 19.6

Aug 24.6 32.5 172.0 21.4

Sep 24.3 32.3 248.8 19.8

Oct 23.8 31.1 318.9 24.0

Nov 22.7 29.9 135.0 11.8

Dec 21.7 30.1 80.3 4.8

出所:WMO50

表 2 シエムレアプの気象学的情報(1997 年から 2001 年までの 5 年間の月別平均値に基づく)

Month

Mean Temperature(oC) Mean Total Rainfall

(mm)

Mean Number of Rain

Days Daily

Minimum

Daily

Maximum

Jan 19.7 32.0 0.7 0.8

Feb 20.8 33.3 3.5 2.0

Mar 26.1 34.6 28.0 3.8

Apr 25.1 35.5 61.2 8.0

May 25.4 35.2 175.9 17.2

Jun 24.8 33.5 221.3 20.4

Jul 24.8 32.7 236.6 21.8

Aug 25.0 32.0 151.0 19.2

Sep 24.5 32.2 276.1 21.4

Oct 23.9 31.3 248.0 21.4

Nov 22.4 30.6 81.7 10.4

Dec 20.3 31.0 10.1 3.0

出所:表 1に同じ51。

50 http://worldweather.wmo.int/145/c00348.htm 51 http://worldweather.wmo.int/145/c00347.htm

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表 3 カンボジアの各州における気温(単位 oC)

Provinces and

Town

April Highest

for the

year

January Lowest

for

the

year

Mean Lowest Mean Highest

Max Min Max Min

Battambag

Siem Reap

Stoeng Treng

Pursat

Kompong Cham

Phnom Penh

Svay Rieng

Kampot

Kampong Som

35.9

34.7

35.0

35.1

34.9

35.0

35.5

32.7

31.8

24.3

24.3

25.0

24.5

24.9

24.7

24.7

24.6

25.5

19.8

18.0

20.0

19.8

20.6

17.9

21.6

19.0

20.7

41.0

40.3

41.4

39.5

39.3

40.5

38.4

37.2

35.5

30.1

29.9

29.5

29.6

29.8

30.0

31.1

30.4

30.6

19.9

19.5

19.0

21.0

21.2

21.8

21.7

22.5

25.7

34.8

34.2

34.0

32.8

34.8

34.8

34.5

33.2

32.7

10.4

9.5

9.5

14.6

13.4

133

12.2

14.7

15.0

出所:ADB52

52 http://www.adb.org/Water/NARBO/2004/Training-Program/country-report-CAM-MWRM.pdf

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表 4 1994年から 2004年までに特定の観測所で記録された年間の平均降雨量

Station 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004

Millimeter

Average 1,559.0 1,697.4 1,429.9 1,448.2 1,400.0 1,926.1 1,973.5 1,710.7 1,405.6 1,533.1 1,414.1

Porchen Tong

(PP) 1,223.5 1,413.3 1,338.2 1,306.5 1,380.9 1,593.1 2,155.1 1,486.7 1,221.5 1,326.5 1,221.9

Tonle Bassac 1,743.7 1,359.0 1,003.0 981.1 1,006.7 1,285.2 1,473.9 1,386.5 1,013.5 1,149.8 1,097.7

Kandal 1,518.3 1,387.1 1,318.2 1,099.8 1,125.2 1,593.7 1,735.1 1,188.3 1,186.9 1,477.4 1,048.4

Prey Veng 1,036.1 1,471.2 1,507.1 1,119.2 1,585.9 1,641.9 1,271.3 1,477.2 1,414.8 1,618.0 1,104.7

Takeo 819.6 1,193.1 604.0 1,166.2 1,539.3 1,598.6 1,525.6 1,107.7 1,378.5 1,088.7

Kompong Thom 1,857.1 1,855.9 1,797.9 1,085.2 1,322.6 1,743.8 1,769.9 1,631.7 1,483.6 1,385.9 1,206.1

Siem Reap 1,123.7 1,766.4 1,197.0 1,534.4 1,240.2 1,386.5 1,593.7 1,557.7 1,166.7 1,271.2 1,610.4

Battambang 1,318.0 1,364.7 1,355.9 1,112.5 876.2 1,299.3 1,384.4 886.1 1,182.5 1,058.3 993.8

Banteay

Meanchey 1,359.0 998.4 1,116.7

Pursat 1,303.4 1,966.8 1,557.4 1,218.6 1,407.2 1,732.9 1,562.4 1,201.9 1,368.3 1,485.4 1,133.8

Kompong

Chhang 1,539.3 1,367.7 1,009.4 770.0 1,256.0 1,037.4 1,574.3 1,184.5 1,118.1 1,178.7 1,121.5

Sihanoukville 3,564.7 3,190.4 1,979.3 2,217.2 1,878.3 3,614.0 3,536.0 3,284.2 2,892.1 2,838.8 2,622.6

Kampot 1,927.6 1,699.0 1,207.9 1,885.3 1,188.8 2,471.6 2,189.1 2,295.8 1,503.1 2,111.0 1,447.3

Koh Kong 3,097.7 2,480.8 3,649.9 3,791.4 3,358.8 2,310.0 2,952.8 3,548.1

Kompong Speu 662.4 1,134.6 1,374.4 887.1 1,120.4 1,633.4 1,863.8 1,623.2 729.9 882.0 921.0

Stung Treng 1,795.7 1,797.9 1,352.5 2,193.7 1,554.5 2,207.5 2,414.6 1,867.6 1,307.4 1,466.5 1,487.6

Kratie 1,490.5 1,878.7 1,340.8 1,752.4 1,537.6 2,530.2 2,093.6 1,938.6 1,694.2 1,573.2 1,571.1

Svay Rieng 1,629.4 1,892.2 1,757.2 1,884.5 1,789.5 1,873.0 2,133.6 1,588.4 1,551.5 1,600.4 1,379.0

Kampong Cham 1,949.5 1,612.7 2,019.7 1,317.5 1,283.8 1,836.9 1,382.1 1,310.0 1,094.9 1,376.7 1,146.8

Rattanakiri 2,351.9 2,119.8

出所:カンボジア国立統計研究所53

※日照時間情報

シエムレアプでは、午前 5:30から午後 6:30までの日照時間が約 13時間とされている54。

53 http://www.nis.gov.kh/nis/yearbooks/Yearbook06.htm 54 http://www.angkor-visit.com/siem_reap_weather.html

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