インスタンス文書って何? -実際の電子財務諸表- …...2007/10/06 ·...
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電子開示基礎講座
XBRLがやって来た!!
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インスタンス文書って何? -実際の電子財務諸表-公認会計士 五木田 明
1. はじめに前回はタクソノミ(標準ひな型)についてお話
ししましたが、今回はXBRLを構成するもう一つのインスタンス文書について解説します。
「XBRL=タクソノミ+インスタンス文書」であり、不可分のものとして取り扱われます。
なお、もし日本においてタクソノミがただ一つだけ存在し、科目などの追加もできず、これ以外のものが使用できないとすれば、そのタクソノミに基づいて作成したインスタンス文書のみが各社固有のものとして存在するわけですが、現実には会社固有のタクソノミが作成され、それに基づくインスタンス文書が作成されるので、会社固有の「タクソノミ+インスタンス文書」が存在することとなります。
2. インスタンス文書インスタンス文書とは、タクソノミに基づいて
具体的な財務諸表数値などのデータを入力し、出力した文書(拡張子は「.xbrl」)をいいます。タクソノミで定義されたすべての科目を使用することはなく、実際に数値データなどが入った科目のみを出力するので、インスタンス文書の内容は単純です。
実際のインスタンス文書(サンプル)の一部<図1>とHTML表示画面<図2>を例示します。
3. やっぱりタクソノミ <図1>のインスタンス文書を見ると分かり
■図1 インスタンス文書の一部
<edn-t-ct:TotalCurrentAssetscontextRef="Prior1YearConsolidatedInstant"decimals="ー3"unitRef= "JPY">30000000</edn-t-ct:TotalCurrentAssets><edn-t-ct:TotalCurrentAssetscontextRef="CurrentYearConsolidatedInstant"decimals="ー3"unitRef="JPY">30000000</edn-t-ct:TotalCurrentAssets><edn-t-ct:TotalPropertyPlantAndEquipmentcontextRef="Prior1YearConsolidatedInstant"decimals="ー3"unitRef="JPY">30000000</edn-t-ct:TotalPropertyPlantAndEquipment>
2004 2005 資産の部 Assets流動資産 Current assets流動資産合計 Current assets total 30,000 30,000固定資産 Fixed assets有形固定資産 Property, plant and equipment有形固定資産合計 Fixed assets total 30,000 30,000
ますが、次の情報に分解されます。
<edn-t-ct:TotalCurrentAssetscontextRef ←流動資産合計の始まり="Prior1YearConsolidatedInstant"decimals ←前期(Prior Year)の数値(decimals) データ="-3"unitRef="JPY"> ←日本円(JPY)で千円単位(-3)で表記30000000 ←実際の値(単位未満をゼロで埋める)</edn-t-ct:TotalCurrentAssets> ←流動資産合計の終わり
この情報から「流動資産合計 30,000」と表示するためには、コンピューター処理のための要素名(ID)である「TotalCurrentAssets 」を解釈する必要があり、その辞書がタクソノミです。インスタンス文書の情報を解釈して処理するためには、タクソノミが欠かせません。
コンピューターはインスタンス文書のIDを読み、タクソノミという辞書を引きながら情報の内容を判断して、転記、計算、表示といった次工程の処理を行います(<図3>参照)。
4. 見せる財務諸表から 使う財務諸表へ
インスタンス文書から従来の報告式などの財
務諸表を作成するためには、データの表示位置などを規定したスタイルシートを用意して変換し、画面表示させます。日本語ラベルを用いれば日本語で、英語ラベルを用いれば英語で財務諸表を表示できます。しかし、これはまったく意味を成さないかもしれません。なぜならば、XBRLは、この見るという行為を必要としないからです。
利用者がインスタンス文書を自らの分析システムに読み込むと、システムは分析に必要なデータをインスタンス文書から自動的に読み取り、切り取り、 処理します。 利用者は、EDINETからインスタンス文書(と企業拡張タクソノミ)を自社システムにダウンロードする作業を行うのみとなります。このダウンロードでさえ、各社のインスタンス文書が保存されているEDINETサーバーのURL(Uniform Resource Locator:インターネット上の情報の存在する番地)があらかじめ登録されていれば、システムが自動的にURLを探し出し、ダウンロードし、保存してくれます。利用者は、システムさえ起動しておけば、財務情報が公開されると同時に、その会社の分析結果が画面に表示され、投資判断を行うことができるようになります( <図4>参照)。
一見、夢物語のような話ですが、XBRLは、この夢を実現する格好のツールになり得るといえます。
AccountsReceivableTrade
現金及び預金
Cash and deposits
受取手形
Notes receivable trade
売掛金
Accounts receivable trade
有価証券
Marketable securities
NotesReceivableTrade
CashAndDeposits
MarketableSecurities
■図3 IDをタクソノミにより変換するイメージ
■図2 あるスタイルシートにより変換されたHTML表示画面
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5. 作成者のIR意識革命利用者側のメリットばかりが先行してしまい
ましたが、作成者側のメリットはあるのでしょうか。なんだか難しい技術仕様を覚えたり、タクソノミやインスタンス文書を作成する手間が増えたり、場合によってはシステムの改変が必要になるとか、コスト増であるとか、デメリットばかりが聞こえてきそうです。
しかし、XBRLは財務情報の作成者側と利用者側が相互に情報交換が可能なデータを提供することにより、 資本市場における開示情報の信頼性の確保を実現するために生まれました。世界中の規制当局、中央銀行、証券取引所は、このメリットを享受すべく採用を急いでいるものであり、 直接金融市場に参加してい
る会社にとって避けて通れない革新的ツールと考えられます。
会社は、 会社法、 証券取引法(金融商品取引法)などの要請に従い、さまざまな形でのディスクロージャーを求められ、自社のウェブサイトにおけるIR情報の充実に努めていると思われます。そして、情報発信の都度、元は同じ情報であるにもかかわらず、あるときは決算短信、あるときは計算書類、そして株主総会直後の有価証券報告書の提出と電子公告での要約された財務諸表と、 形を変えて表現されます。しかも、そのたびに試算表から組替表を作成して、 計算チェックをして、転記をして、印刷校正をしてと、同じ作業が繰り返されます。もし、開示データの元がXBRLで作成されており、決算短信用、計算書類用、有
価証券報告書用、 電子公告用などのスタイルシートが用意されていれば、一瞬で作成することが可能となります。
利用者がメリットを享受するための工夫は、作成者側にかかっています。会社のIR担当部門ではXBRLを研究し、自社のIR優良企業のイメージを高めるチャンスともいえます。
6. おわりに今回は、実際の財務諸表数値がXBRLで表
現されたもの、インスタンス文書の中身と標準ひな型であるタクソノミとの関係、利用者や作成者のメリットなどを織り交ぜて説明しました。
最後にもう一度、インスタンス文書と財務諸表の一部をお見せしますが、XBRLは従来の
■図4 必要な情報のみ転記し、計算するイメージ
資産の部流動資産現金及び預金受取手形売掛金有価証券商品製品短期貸付金未収入金
貸倒引当金
567,123112,345
1,100200
8,7651,0002,345
800555222
△123
流動資産 112,345
資産 567,123
固定資産 345,123
売上高 2,345,123
分析
■図5 インスタンス文書のイメージ
インスタンス文書
<ForeignExchangeLosses> 1234</ForeignExchangeLosses>< ImpairmentLoss > 2000</ImpairmentLoss >
HTML(表示)営業外費用 為替差損 1,234特別損失 減損損失 2,000
財務諸表を再現できるにもかかわらず、インスタンス文書の内容は、財務諸表とは似ても似つかないもののように見えます(<図5>参照)。
コンピューター処理のためのIDが英語表記であるため、インスタンス文書で会社の財務内容を確認することはできますが、あまり現実的ではありません。従来、人間が目で見て、読んでいたものが財務諸表であるならば、インスタンス文書はコンピューターが読む財務諸表であるといえます。 財務諸表に基づく投資判断などに人間の目が入らないことが想像されるため、インスタンス文書そのものの信頼性について考える必要が生じます。
次回は、XBRLの信頼性を担保する必要性について問題提起をしてみたいと思います。
総資本利益率