コメント:著作権研究者、そして 利用者としての大学研究者の立...
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コメント:著作権研究者、そして 利用者としての大学研究者の立場から
2014年11月14日 生貝直人 東京大学附属図書館新図書館計画推進室・
大学院情報学環 特任講師 東京藝術大学総合芸術アーカイブセンター
特別研究員
全国歴史資料保存利用期間連絡協議会 第40回大会 「アーカイブズ資料の広範な公開をめざして」
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h@p://ikegai.jp/JSAI2014.pdf
「本家」ヨーロピアナとは?
• h@p://europeana.eu 全欧州2,300以上の図書館・美術館・博物館・文書館等が参加、3,000万以上の文化遺産デジタルアーカイブが見られる・使えるポータル
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「日本版」ヨーロピアナ(仮)に向けて
• 「日本の全部の図書館・美術館・博物館・文書館」の所蔵品が、全部ひとつのポータルからデジタルで見える・使えるようにできないか?
• デジタル化費用、著作権の壁、メタデータ作り、課題は多い。しかし、利用者としては「欲しい」。
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なぜ、日本版ヨーロピアナが必要なのか?
• ①若い人たちに文化資源の価値を伝えるために – iPhoneやグーグル、Facebookでしか文化的生活を送らな
い世代に、いかにして「文化資源や文化施設を税金で維持する」ことの価値と必要性を伝えるか?
• ②文化施設に直接来(られ)ない人たちのために – 東京オリンピックに向けて、日本に来訪する1000万人は
元より、ネットで日本文化に関心を持つ80億人に、いかに日本の文化を伝えるか?そして肢体・視覚等障碍者、高齢化社会への対応は?
• ③我々が我々自身の文化を知るために – 我々は、そもそも我が国の地域の文化資源を本当に十分
に知っているか?世界の人たちにそれを説明できるか? 4
東京大学附属図書館 新図書館計画 h@p://new.lib.u-‐tokyo.ac.jp/
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書籍900万冊、学術論文、研究室等が保有する膨大な 知識とビッグデータのデジタル化と活用
東京藝術大学総合芸術アーカイブセンター h@p://archive.geidai.ac.jp/
6 美術・音楽・文書・講義映像等のデジタル化と公開
日本版ヨーロピアナ(仮)のネットワーク構造
統合プラットフォーム (狭義の日本版ヨーロ
ピアナ)
全国の文化施設・大学・企業アーカイブ
地域アグリゲータ (大規模文化施設等)
分野アグリゲータ (大学・学協会等)
独立 ポータル
独立 ポータル
Europeana DPLA
再利用・創造的利用 (技術者、研究教育機関、企業、
メディア…)
閲覧・発信 (国内・海外、80億人)
還元
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その中での「大学・図書館」の役割 ①大学の知識を統合し、デジタル化し、公開する
②世界の知識を活用し、価値を付け、世界に還元する
全国の文化施設・大学・企業アーカイブ
①大学の知識を統合し、 デジタル化し、公開する
独立 ポータル
独立 ポータル
Europeana DPLA
②世界の知識を活用し、 価値を付け、世界に還元する
閲覧 (国内・海外、80億人)
還元
統合プラットフォーム (狭義の日本版ヨーロ
ピアナ)
地域アグリゲータ (大規模文化施設等)
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デジタルアーカイブの大学利用例 MOOCs等オンライン講義
多様な資料間の 連携システム
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夏目漱石の 読書空間再現
デジタルキュレーション
なぜ、大学図書館が デジタルアーカイブを重視する必要がある?
• ①図書館は「あらゆる知識を」提供する必要 – 所蔵する本に加えて、世界で公開されているデジタルアーカ
イブの知識、そしてビッグデータの統合的提供
• ②大学の知識を「世界に発信する」拠点となる必要 – 研究成果や学術資源の編集・公開、特に英語の発信を強化
しなければ、ハーバードにもオックスフォードにも勝てない
• ③あらゆる知識を「使える人」を育てる支援 – あらゆる知識を読み、編集し、応用し、新しい知識を生み出
す人々を育成する拠点としての、リテラシー教育基盤
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デジタルアーカイブと法制度: アーカイブ「構築者」の立場から
• ①著作権処理、特に権利者不明の孤児作品 – 著作権法67条「裁定制度」。EUでは公的な文化施設
の要件を大きく緩和(供託金不要、相互承認、データベース構築)
• ②公開以前の、「保存のための複製」 – 著作権法31条2項、国立国会図書館のみに適用され
る「保存のための複製」を、他の文化施設に拡大することはできないか(米・EUでは相当程度可能)
• ③個人情報・プライバシー – 歴史資料に関して、基準共通化は進みつつある
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デジタルアーカイブと法制度: アーカイブ「利用者」の立場から
• ①再利用条件や著作権情報自体の不記載改善
• ②著作権・利用規約共に、多くは再利用が困難 – EUや米国の施策を参考に、公的機関の作成したデータに
ついては、原則「オープンデータ」として再利用可能にするべきではないか
– サイトに記載されたのみの利用制限の有効性は
• ③特に国外からは、利用条件の理解自体困難 – クリエイティブ・コモンズのような、国際的に共通化された
確認容易なライセンスの原則適用 – 多くの場合は著作権保護の有無の判断自体が困難。適
切なメタデータとしての権利情報付与
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ヨーロピアナの権利表記 • ①メタデータ(作品情報等)は原則完全権利放棄(CC0) • ②作品自体のデータに関しても、クリエイティブ・コモンズ
等の再利用可能ライセンス適用を推奨し、3,000万データ中1,000万点以上が既に適用
• ③権利記述共通化により、著作権や利用条件ごとの一括検索・確認が可能
PDマーク: 著作権保護期間満了表記
CC0: 著作権等の完全放棄
通常のCCライセンス
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クリエイティブ・コモンズの特徴: 世界中の言語・法制度・技術に対応した
三層構造のライセンス記述
①コモンズ証: 誰もが読んで分かるライセンス 条件の各国語による要約記述 (human readable)
②ライセンス本文: 各国の著作権法に適合する形で 許諾内容や免責を詳細に記述した ライセンス本文(lawyer readable)
③メタデータ: RDF構文で記述されたメタデータ (machine readable)
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PDアーカイブと自由利用ライセンスの論点①: 所蔵作品の第三者性
• 文化施設の所蔵作品は「誰かが創造したもの」。たとえ著作権等の問題がなかったとしても(PD等)、「他の誰かが創造した作品」を、データ化し、完全に自由利用とすることの意味を考える必要 – あるいは寄贈・寄託・貸与された作品等をどうするか – 東寺百合文書の完全CC-‐BY化は、それが元来公的性
質の高い文書であること、そして「8世紀から18世紀までの約1千年間」 という年代が、日本初の「ヨーロピアナ水準」を実現たらしめたという側面も重要
• メタデータは文化施設のスタッフ自身が作成することが多いため、統合可能性という観点からも、ヨーロピアナやDPLA同様CC0が望ましい
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PDアーカイブと自由利用ライセンスの論点②: 文化施設の運営原資
• 欧米でも一般的な「非営利利用や学術利用は無償だが、営利利用については一定の許諾や対価を要する=CC BY-‐NC」 条件をどう捉えるか
• 完全な無料を原則とする図書館法17条と異なり、博物館法23条では入場料等の徴収を認めている
• こうした自主財源確保の努力自体が、運営や展示の多様性、そしてキュレーションという表現行為の「国家からの距離」を担保している側面もある。同様の自主財源の議論を、デジタルアーカイブでも行うべきではないか? – 特に大規模・高精細のデータは高い費用がかかる
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PDアーカイブと自由利用ライセンスの論点③: それでもオープン化は不可避ではないか
• 国立国会図書館「大蔵経」問題: – 著作権が切れていたとしても、それにより利益を
得ている団体等が存在する限り、無償での再利用は回避されるべきか否かという問題提起
• 文化施設は、「著作権が切れた作品を自由に利用する」ことを必要とする一方で、
• 多くの文化施設自身が「著作権が切れた作品を再利用不可能としている」ことの是非 – 事実大蔵経問題後、近代デジタルライブラリー公
開作品の再利用は適切にも許諾不要とされた 17
参考:『アーカイブ立国宣言』刊行
• 2014年11月、ポット出版 • 「アーカイブ立国宣言」編集委員
会編, 福井健策、吉見俊哉監修 • 青柳正規、御厨貴、森川嘉一郎、
細井浩一、長坂俊成、石橋映里、 岡島尚志、宮本聖二、森まゆみ、 花井裕一郎、淺野隆夫、植野淳子、藤本草、植村八潮、松永しのぶ、中川隆太郎、眞籠聖 著
• 定価:2,300円 + 税
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