セルフアライメント作製技術を用いた 酸化物tftの...

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報告 要約 エキシマレーザーを用いて,寄生容量が小さいセルフアラインInGaZnO(IGZO)薄膜トランジ スター(TFT:Thin Film Transistor)の作製方法を開発した。基板の裏面からエキシマレーザー を照射することによって,ゲート電極をマスクにしてIGZOを選択的に低抵抗化し,その低抵抗 化した領域をボトムゲート型IGZO-TFTのソースおよびドレインとした。本方法は照射強度に対 して広いプロセスマージンを有しており,大面積プロセスへの応用が可能である。 ABSTRACT A method of fabricating self-aligned InGaZnO(IGZO)thin-film transistors(TFTs)with low parasitic capacitance by utilizing excimer - laser irradiation was developed. Excimer - laser irradiation from the back side of the substrate using the gate electrode as a mask selectively reduces the resistance of the IGZO films for their application as source/drain regions in bottom -gate IGZO-TFTs. This method offers a wide process margin with respect to the laser energy density and is applicable to large-area processing. セルフアライメント作製技術を用いた 酸化物TFTの高性能化 中田 博史 藤崎好英 佐藤弘人 中嶋宜樹 武井達哉 山本敏裕 栗田泰市郎 High−Performance Oxide TFTs Utilizing Self−Alignment Fabrication Technology Mitsuru NAKATAHiroshi TSUJIYoshihide FUJISAKIHiroto SATOYoshiki NAKAJIMATatsuya TAKEIToshihiro YAMAMOTO and Taiichiro KURITA NHK技研 R&D/No.145/2014.5 54

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Page 1: セルフアライメント作製技術を用いた 酸化物TFTの …TFTの構造とエキシマレーザーの照射方法を示す。基板 *1 スパッタリングプロセス(成膜方法の一種)によるダメージ。*2

報告

要約 エキシマレーザーを用いて,寄生容量が小さいセルフアラインInGaZnO(IGZO)薄膜トランジスター(TFT:Thin Film Transistor)の作製方法を開発した。基板の裏面からエキシマレーザーを照射することによって,ゲート電極をマスクにしてIGZOを選択的に低抵抗化し,その低抵抗化した領域をボトムゲート型IGZO-TFTのソースおよびドレインとした。本方法は照射強度に対して広いプロセスマージンを有しており,大面積プロセスへの応用が可能である。

ABSTRACT A method of fabricating self-aligned InGaZnO(IGZO)thin-film transistors(TFTs)with lowparasitic capacitance by utilizing excimer- laser irradiation was developed. Excimer- laserirradiation from the back side of the substrate using the gate electrode as a mask selectivelyreduces the resistance of the IGZO films for their application as source/drain regions in bottom-gate IGZO-TFTs. This method offers a wide process margin with respect to the laser energydensity and is applicable to large-area processing.

セルフアライメント作製技術を用いた酸化物TFTの高性能化

中田 充 辻 博史 藤崎好英 佐藤弘人 中嶋宜樹 武井達哉 山本敏裕 栗田泰市郎

High−Performance Oxide TFTs Utilizing Self−AlignmentFabrication Technology

Mitsuru NAKATA,Hiroshi TSUJI,Yoshihide FUJISAKI,Hiroto SATO,Yoshiki NAKAJIMA,Tatsuya TAKEI,Toshihiro YAMAMOTO and Taiichiro KURITA

NHK技研 R&D/No.145/2014.554

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アライメントマージン

ソース

ソース チャネル長

ゲート絶縁膜

ゲート電極

エキシマレーザー

IGZO

(b) ボトムゲート型セルフアライン構造と  エキシマレーザー照射方法

・アライメントマージン不要・S/D電極とゲート電極の重なりは無し

ドレイン

ドレイン

ES層

基板

チャネル長

ゲート絶縁膜

ゲート電極

IGZO

S/D電極とゲート電極の重なり

(a) ボトムゲート型エッチングストッパー(ES)構造

1.はじめに臨場感の高いスーパーハイビジョン映像を家庭で視聴できるようにするために,薄くて軽くフレキシブルな大画面シート型ディスプレーの研究を進めている。薄型化が容易でシート型ディスプレーの実現に有望とされる有機EL(Electroluminescence:電界発光)ディスプレーを駆動するためには,各画素に有機EL素子の発光を制御する薄膜トランジスター(TFT:Thin Film Transistor)を作製する必要がある。当所ではこのTFTとして,アモルファスInGaZnO(IGZO)1)に代表される酸化物半導体を用いたTFTの研究を進めている2)~5)。このTFTは従来のアモルファス(非晶質)シリコンTFTに比べて移動度が高く,このTFTを用いることにより,シート型ディスプレーの大画面化,高精細化の実現が期待できる。IGZO-TFTでは,既存の製造ラインとの親和性の確保や,ソース/ドレイン(S/D)電極形成におけるIGZO膜へのスパッタダメージ*1とエッチングダメージ*2を防ぐことを目的として,1図(a)に示すボトムゲート型エッチングストッパー(ES)構造が幅広く採用されている6)7)。この構造においては,フォトリソグラフィ*3を用いるボトムゲート型ES構造の作製プロセスにおいて,ES層とゲート電極間,ES層とS/D電極間とで2つのアライメントマージン*4を設ける必要がある。これらのアライメントマージンによって,ゲート電極とS/D電極が重なる領域で寄生容量が生じ,高速駆動や大画面化を困難にする。また,各画素の寄生容量のばらつきが有機ELディスプレーの輝度ばらつきの原因になる8)。さらに,ES層とS/D電極間のアライメントマージンの分だけチャネル長が長くなることから高速駆動や高精細化を困難にする。これらの課題を同時に解決するには,ゲート電極をマスクにして半導体を選択的に低抵抗化させた領域をS/D領域として用いるセルフアライン構造が有効である。この構造

は,アライメントマージンを必要とせず,電極間の重なりもなくなることから,寄生容量の低減,短チャネル化が可能である。セルフアライメント作製技術は低温多結晶シリコン

(LTPS:Low-temperature Polycrystalline Silicon)TFTの作製に用いられることがある。この場合は,トップゲート構造においてゲート電極をマスクにしてシリコンに不純物を注入する。また,IGZO-TFTでは,アルゴンプラズマ処理9)*5やIGZOとAlの反応8)を用いて自己整合的にIGZOを低抵抗化する方法が提案されているが,これらは基板裏面からの処理ができないため,ボトムゲート構造には適用できない。ボトムゲート構造としては,裏面露光プロセスを用いた方法10)11)が提案されているが,これらはES層やチャネル保護層をマスクにしてS/D領域を形成することから,ゲート電極をマスクにしたセルフアライン構造とは言えない。今回,エキシマレーザー*6を基板裏面から照射することによって,ゲート電極をマスクにして選択的にIGZOを低抵抗化してS/D領域を形成するボトムゲート型セルフアラインIGZO-TFTの作製技術を開発したので,その概要を報告する。

2.ボトムゲート型セルフアラインIGZO-TFTの作製方法

1図(b)に,ボトムゲート型セルフアラインIGZO-TFTの構造とエキシマレーザーの照射方法を示す。基板

*1 スパッタリングプロセス(成膜方法の一種)によるダメージ。*2 エッチングプロセス(加工方法の一種)によるダメージ。*3 紫外線露光による微細加工技術。*4 既に形成されているパターンとの位置ずれを補償するために設ける

領域。*5 アルゴンプラズマにさらすことによる表面処理。*6 希ガス,ハロゲンガスを用いて生成する紫外光パルスレーザー。

1図 TFTの構造

NHK技研 R&D/No.145/2014.5 55

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レーザーの幅:450μm

XeClエキシマレーザー(ラインビーム)

照射方向

ガラス

走査(45μm間隔)

IGZO, TFT

裏面から照射表面から照射エキシマレーザー

IGZO(50nm)

IGZO(50nm)

ガラス(0.7mm)

ガラス(0.7mm)

エキシマレーザー

レーザー照射強度 (mJ/cm2)

0 100102

103

104

105

106

107

108

200 300 400

シート抵抗 (Ω/□)

上にゲート電極,ゲート絶縁膜,IGZOを順に形成し,基板裏面からIGZO膜に向けてエキシマレーザーを照射する。ゲート電極と重なるIGZO領域はゲート電極に遮断されてレーザーが当たらないが,他のIGZO領域にはレーザーが当たり,急激な温度上昇によって発生する酸素欠損によって低抵抗化される12)~14)。この低抵抗領域はゲート電極と重なりが無いTFTのソース/ドレイン(S/D)領域として用いることができる。この提案する方法はボトムゲート構造だけでなくトップゲート構造にも適用することが可能である。この場合は,基板上にIGZO,ゲート絶縁膜,ゲート電極を順番に形成し,ゲート電極側からIGZOに向かってレーザーを照射する。

3.実験方法エキシマレーザーは高出力の紫外光パルスレーザーであり,LTPS-TFTの作製においてはアモルファスシリコンを結晶化する工程に用いられている。今回,通常のLTPS-TFT作製で用いられるラインビーム型XeCl(キセノン-塩素)エキシマレーザー装置を用いてレーザー照射実験を行った(2図)。レーザーの波長は308nm,パルス幅は50nsである。サンプルを走査しながらレーザーを照射した。走査方向のレーザーの幅は450μmであり,45μm間隔で走査照射したので,サンプルにはレーザーが10回照射されることになる。サンプルの温度は室温とし,空気中でレーザー照射を行った。今回の実験で用いたIGZOはスパッタリング*7により成膜し,レーザー照射前に空気中で,300℃で熱処理を施した。

4.IGZO抵抗のレーザー照射強度依存性IGZO膜へのエキシマレーザー照射の効果を調べるために,IGZOにエキシマレーザーを照射した後,IGZOのシート抵抗を,四探針法*8を用いて測定した。IGZO(厚さ50nm)/ガラス基板(厚さ0.7mm)のサンプルに対し

て,表面から照射,裏面から照射の2種類の照射実験を行った。3図に,IGZOのシート抵抗のレーザー照射強度依存性を示す。表面照射,裏面照射ともに照射強度が上昇するにしたがってIGZOのシート抵抗が減少した。レーザー照射前は107Ω/□*9以上であったシート抵抗が最小で約103Ω/□になった。これはS/Dとして用いるのに十分に低いシート抵抗と言える。シート抵抗が2×103 Ω/□以下になるのに必要なレーザー照射強度は,表面照射で100mJ*10/cm2,裏面照射で150mJ/cm2と違いが見られた。これは裏面照射の場合,レーザーがガラス基板を通過することで一部のエネルギーがガラス基板に吸収されるので,より高い照射強度が必要になることに起因する。今回の実験で用いたガラス基板(厚さ0.7mm)の波長308nmに対する吸収率は約30%であり,これは表面照射と裏面照射のIGZOの低抵抗化に必要な照射強度の違いにほぼ一致する。IGZOの低抵抗化に必要な照射強度を低減するためには,レーザーの波長や基板の材料を変えて基板の透過率を上昇させることや,基板の厚さを薄くするといった工夫が必要になる。裏面照射では,照射強度が125~350mJ/cm2の条件においてIGZOのシート抵抗が104Ω/□以下の低抵抗に保たれた。この結果は,本方法が,照射強度に対して広いプロセスマージン*11を持つ可能性を示している。照射強度350mJ/cm2ではIGZO膜が消失したが,これは高温のためにIGZO膜が蒸発したと考えられる。表面照射でも裏面照射と同様な傾向が見られるが,それぞれのシート抵抗値を

*7 イオンをターゲットにぶつけ,ターゲットから材料を弾き出すことで,その材料を薄膜として形成する成膜方法。

*8 等間隔に並んだ4つの探針を用いて,外側の2探針間に電流を流し,内側の2探針間の電圧を測定することで電気抵抗を求める方法。

*9 オーム/スクエア(シート抵抗の単位)。*10 ミリ・ジュール(エネルギーの単位)。*11 プロセス条件のばらつきの許容範囲。

2図 レーザー照射実験の方法

3図 IGZOのシート抵抗のレーザー照射強度依存性

報告

NHK技研 R&D/No.145/2014.556

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ソース電極

ソース電極

ソース電極

ソース領域

ソース電極

ドレイン電極

ドレイン電極

ドレイン電極

レーザー照射なし(オフセット構造)

ドレイン領域

ソース領域

ドレイン領域

レーザー照射あり(セルフアライン構造)

ドレイン電極

IGZO IGZO

ゲート

ゲートゲート

ゲート

IGZO IGZO

SiO2 SiO2

SiO2 SiO2

W/L=1000μm/180μmVd =1 V

W/L=1000μm/220μmVd =1 V

ゲート電圧 (V)

(a) 従来構造 (b) セルフアライン構造とオフセット構造

ゲート電圧 (V)-15 -10 -5 0 5 10 15 -15 -10 -5 0 5 10 15

10-4

10-5

10-6

10-7

10-8

10-9

10-10

10-11

10-12

10-13

10-4

10-5

10-6

10-7

10-8

10-9

10-10

10-11

10-12

10-13

ドレイン電流 (A)

ドレイン電流 (A)

130μm

実現するための照射強度のしきい値は,ガラス基板によるレーザー吸収が無い分だけ低かった。今回の実験で用いたXeClエキシマレーザーの波長308nmに対するIGZO膜の侵入深さは70nm14)であり,通常のIGZO-TFTで用いられるIGZOの膜厚50nm程度にほぼ等しい。この場合,IGZO膜は効率よく,また,膜厚方向に均一にレーザーエネルギーを吸収することができる。一方で,XeClエキシマレーザーはガラス基板を透過することができる。これらのことから,波長308nmのXeClエキシマレーザーは,ボトムゲート型セルフアラインIGZO-TFTの作製に適していると言える。

5.ボトムゲート型セルフアラインIGZO-TFTの作製

提案した方法を用いてボトムゲート型セルフアラインIGZO-TFTを作製した。4図にTFTの顕微鏡写真と伝達特性を示す。4図においては3種類の構造のTFTを作製した。すなわち,ゲート電極とS/D電極との間に重なりがある従来構造(4図(a))のTFT,エキシマレーザーを基板裏面から照射するセルフアライン構造(4図(b))のTFT,さ

らにエキシマレーザーの照射の効果を評価するために,セルフアライン構造と同じ構造であるがレーザーを照射しないTFT(オフセット構造と呼ぶ)を作製した。3種類の各構造において,まずAlゲート電極,SiO2ゲート絶縁膜(厚さ200nm),IGZO(厚さ50nm)を形成した。その後,セルフアライン構造においては,照射強度150mJ/cm2でエキシマレーザーを基板裏面から照射した。さらに,S/D電極としてMo(モリブデン)をS/D領域の上に形成した。今回のTFTの作製では,メタルマスクを用いて各層を成膜した。この場合,製造ラインで用いられるフォトリソグラフィ・プロセスのような細かいパターン形成はできないが,メタルマスクでIGZOを保護しながらS/D電極を成膜・加工できるので,IGZOへスパッタダメージやエッチングダメージを与えること無く4図(a)の従来構造を作製できる。伝達特性の測定においては,ドレイン電圧( Vd)を1Vにして測定した。チャネル幅( W )とチャネル長( L )は,従来構造ではW/L=1,000μm/180 μm,セルフアライン構造とオフセット構造ではW/L=1,000 μm/220 μmである。セルフアライン構造において,チャネル領域の端からS/D電極の端までの長さは130μmである(4図(b))。

4図 IGZO-TFTの顕微鏡写真と伝達特性

NHK技研 R&D/No.145/2014.5 57

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従来構造の電界効果移動度

レーザー照射強度 (mJ/cm2)

10

8

6

4

2

00 100 200 300 400

電界効果移動度 (cm

2/Vs)

従来構造では電界効果移動度*12は8.2cm2/Vsであった。オフセット構造では,ON電流(TFTがONとなったときのドレイン電流)が従来構造より低減し,電界効果移動度が1.1cm2/Vsと従来構造より小さくなった。これは,オフセット構造ではS/D領域の抵抗が高く,ON電流が低下したことに起因すると考えられる。セルフアライン構造では,ON電流はオフセット構造より大きくなり,電界効果移動度は従来構造と同じ8.2cm2/Vsであった。これは,エキシマレーザー照射によってIGZOの抵抗がS/D領域に適用するのに十分なほど低減したことを示している。レーザーの照射条件を変えてボトムゲート型セルフアラインIGZO-TFTを作製し,それぞれの伝達特性から電界効果移動度を評価した。5図に電界効果移動度のレーザー照射強度依存性を示す。照射強度が100mJ/cm2より小さい場合は,照射強度が大きくなるにつれて電界効果移動度が上昇した。この電界効果移動度の上昇は,チャネル領域の移動度が上昇したわけでなく,S/D領域の抵抗が低下したことに起因する。照射強度が100~350mJ/cm2では,従来構造の電界効果移動度とほとんど同じであった。これは,広い範囲のレーザー照射条件において,IGZOがS/D領域に適用するのに十分なほど低抵抗化されており,レーザー照射強度に対してプロセスマージンが広いことを示している。エキシマレーザー照射によって結晶化した多結晶シリコンを用いるLTPS-TFTにおいて,TFT特性が多結晶シリコンの結晶粒径に大きく依存することが知られている。結晶粒径はレーザー照射強度が上昇するにつれて大きくなるが,ある照射強度を超えると急激に小さくなる。実際のLTPS-TFTの作製プロセスでは,この結晶粒径が小さくなるしきい値の照射強度よりわずかに小さい照射強度が採用されるが,照射強度に対する結晶粒径の変化が大きくプ

ロセスマージンが狭い。このため,レーザーの強度分布の不均一性や照射ごとの強度のばらつきが,LTPS-TFTを大面積に均一な特性で形成することを困難にしている。それに対して今回提案した方法は,レーザー照射強度に対して広いプロセスマージン(100~350mJ/cm2)を有していることから,大面積のプロセスにも適用可能と言える。また,今回用いたエキシマレーザー装置で多結晶シリコンを形成するには約350mJ/cm2の照射強度が必要であるが,提案したセルフアライメントによる方法では100mJ/cm2

と小さい照射強度でもS/D領域の形成が可能であり,レーザーの照射面積を拡大することにより,多結晶シリコンの形成より処理時間を速くすることができる。作製したボトムゲート型セルフアラインIGZO-TFTについて寄生容量を測定した。ゲート電圧(Vg)に-20Vを印加した状態でインピーダンスアナライザーを用いてゲート電極とS/D電極間の寄生容量を測定した。チャネル幅の単位長さあたりの寄生容量を1表に示す。比較のために,計算により導出したボトムゲート型ES構造の寄生容量を同時に示す。この計算において,ボトムゲート型ES構造は1図(a)に示したものであり,ES層は膜厚100nmのSiO2,アライメントマージンは2μmとした。ボトムゲート型ES構造の寄生容量は1.06fF*13/μmであるのに対して,セルフアライン構造では0.1fF/μmと寄生容量を大幅に低減できることが分かった。

6.まとめエキシマレーザーを基板の裏面から照射することによって,寄生容量低減と短チャネル化が可能なセルフアライン酸化物TFTの作製方法を開発し,従来のTFTに比べて寄生容量を低減できることを確認した。IGZOにエキシマレーザーを照射することで,IGZOの抵抗値をTFTのS/D領域に適用できるほど十分に低減することが可能である。レーザー照射強度に対して広いプロセスマージンでセルフアラインIGZO-TFTを作製できる本方法は,大画面・高精細の有機ELディスプレーの実現に向けて有望な技術と言える。

*12 電界効果トランジスターの電流-電圧特性から導出した移動度(電子や正孔の移動のしやすさを示す値)。

*13 フェムト・ファラド(静電容量の単位)。1fFは10-15F。

TFTの構造 セルフアライン構造 ES構造

チャネル幅の単位長さあたりの寄生容量(fF/μm)

0.1(測定値)

1.06(計算値)

1表 セルフアライン構造とES構造のチャネル幅の単位長さあたりの寄生容量

5図 セルフアライン構造のIGZO-TFTにおける電界効果移動度のレーザー照射強度依存性

報告

NHK技研 R&D/No.145/2014.558

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本稿はApplied Physics Lettersに掲載された以下の論文を元に加筆・修正したものである。M. Nakata,H. Tsuji,Y. Fujisaki,H. Sato,Y. Nakajima,T.Takei,T. Yamamoto and T. Kurita:“Fabrication Method

for Self-aligned Bottom-gate Oxide Thin-film Transistorsby Utilizing Backside Excimer-laser Irradiation throughSubstrate,”Appl. Phys. Lett.,Vol. 103,pp. 142111.1 -142111.4(2013)

参考文献 1) K. Nomura,H. Ohta,A. Takagi,T. Kamiya,M. Hirano and H. Hosono:“Room-temperatureFabrication of Transparent Flexible Thin-film Transistors Using Amorphous Oxide Semiconductors,”Nature,Vol.432,pp.488-492(2004)

2) M. Nakata,H. Sato,Y. Nakajima,Y. Fujisaki,T. Takei,T. Shimizu,M. Suzuki,H. Fukagawa,G.Motomura,T. Yamamoto and H. Fujikake:“Low-Temperature Fabrication of Flexible AMOLEDDisplays Using Oxide TFTs with Polymer Gate Insulators,”SID Int. Symp. Digest Tech. PapersVol.42,pp.202-205(2011)

3) Y. Nakajima,M. Nakata,T. Takei,H. Sato,H. Tsuji,Y. Fujisaki,T. Shimizu,G. Motomura,H.Fukagawa,T. Yamamoto and H. Fujikake:“An 8-in. Oxide-TFT-Driven Flexible AMOLED Displaywith Solution-Processed Insulators,”SID Int. Symp. Digest Tech. Papers Vol.43,pp.271-274(2012)

4) M. Nakata,H. Sato,Y. Nakajima,H. Tsuji,Y. Fujisaki,T. Takei,T. Yamamoto and H. Fujikake:“Analysis of the Influence of Sputtering Damage to Polymer Gate Insulators in Amorphous InGaZnO4Thin-Film Transistors,”Jpn. J. Appl. Phys.,Vol.51,pp.044105.1-044105.5(2012)

5) M. Nakata,H. Tsuji,H. Sato,Y. Nakajima,Y. Fujisaki,T. Takei,T. Yamamoto and H. Fujikake:“Influence of Oxide Semiconductor Thickness on Thin-Film Transistor Characteristics,”Jpn. J. Appl.Phys.,Vol.52,pp.03BB04.1-03BB04.5(2013)

6) T. Arai,N. Morosawa,K. Tokunaga,Y. Terai,E. Fukumoto,T. Fujimori,T. Nakayama,T.Yamaguchi and T. Sasaoka:“Highly Reliable Oxide-Semiconductor TFT for AM-OLED Display,”SID Int. Symp. Digest Tech. Papers Vol.41,pp.1033-1036(2010)

7) Y. G. Mo,M. Kim,C. K. Kang,J. H. Jeong,Y. S. Park,C. G. Choi,H. D. Kim and S. S. Kim:“Amorphous Oxide TFT Backplane for Large Size AMOLED TVs,”SID Int. Symp. Digest Tech. PapersVol.41,pp.1037-1040(2010)

8) N. Morosawa,Y. Ohshima,M. Morooka,T. Arai and T. Sasaoka:“A Novel Self-Aligned Top-GateOxide TFT for AM-OLED Displays,”SID Int. Symp. Digest Tech. Papers Vol.42,pp.479-482(2011)

9) J. Park,I. Song,S. Kim,C. Kim,J. Lee,H. Lee,E. Lee,H. Yin,K. K. Kim,K. W. Kwon and Y.Park:“Self-aligned Top-gate Amorphous Gallium Indium Zinc Oxide Thin Film Transistors,”Appl.Phys. Lett.,Vol.93,pp. 053501.1-053501.3(2008)

10)D. Geng,D. H. Kang and J. Jang:“High-Performance Amorphous Indium-Gallium-Zinc-Oxide Thin-Film Transistor with a Self-Aligned Etch Stopper Patterned by Back-Side UV Exposure,”IEEEElectron Device Lett.,Vol.32,pp.758-760(2011)

11)R. Hayashi,A. Sato,M. Ofuji,K. Abe,H. Yabuta,M. Sano,H. Kumomi,K. Nomura,T. Kamiya,M.Hirano and H. Hosono:“Improved Amorphous In-Ga-Zn-O TFTs,”SID Int. Symp. Digest Tech.Papers Vol.39,pp.621-624(2008)

12)M. Nakata,K. Takechi,K. Azuma,E. Tokumitsu,H. Yamaguchi and S. Kaneko:“Improvement ofInGaZnO4 Thin Film Transistors Characteristics Utilizing Excimer Laser Annealing,”Appl. Phys.Express,Vol.2,pp.021102.1-021102.3(2009)

NHK技研 R&D/No.145/2014.5 59

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13)M. Nakata,K. Takechi,T. Eguchi,E. Tokumitsu,H. Yamaguchi and S. Kaneko:“Flexible High-Performance Amorphous InGaZnO4 Thin-Film Transistors Utilizing Excimer Laser Annealing,”Jpn. J.Appl. Phys.,Vol.48,pp.081607.1-081607.7(2009)

14)M. Nakata,K. Takechi,S. Yamaguchi,E. Tokumitsu,H. Yamaguchi and S. Kaneko:“Effects ofExcimer Laser Annealing on InGaZnO4 Thin-Film Transistors Having Different Active-LayerThicknesses Compared with Those on Polycrystalline Silicon,”Jpn. J. Appl. Phys.,Vol.48,pp.115505.1-115505.6(2009)

なか た みつる

中田 充つじ ひ ろ し

辻 博史

2010年入局。同年から放送技術研究所において,酸化物薄膜トランジスター,フレキシブルディスプレーの研究に従事。現在,放送技術研究所新機能デバイス研究部に所属。博士(工学)。

2011年入局。同年から放送技術研究所において,酸化物トランジスター,フレキシブルディスプレーの研究に従事。現在,放送技術研究所新機能デバイス研究部に所属。博士(工学)。

ふじさきよしひで

藤崎好英さ と う ひ ろ と

佐藤弘人

1998年入局。京都放送局を経て,2001年から放送技術研究所において,薄膜トランジスターやフレキシブルディスプレーの研究に従事。現在,放送技術研究所新機能デバイス研究部副部長。博士(工学)。

1999年入局。同年から放送技術研究所において,印刷技術を用いた液晶デバイス,フレキシブルディスプレー,酸化物トランジスターやディスプレー駆動方式の研究に従事。現在,放送技術研究所新機能デバイス研究部に所属。博士(工学)。

なかじまよ し き

中嶋宜樹た け い た つ や

武井達哉

2004年入局。放送技術局を経て,2005年から放送技術研究所において,有機トランジスターやフレキシブル有機ELディスプレーおよびその駆動技術の研究に従事。現在,放送技術研究所新機能デバイス研究部に所属。博士(工学)。

1991年入局。同年から放送技術研究所において,プラズマディスプレーパネル,冷陰極ディスプレー,フレキシブルディスプレーの研究に従事。現在,放送技術研究所新機能デバイス研究部に所属。

やまもととしひろ

山本敏裕く り たたいいちろう

栗田泰市郎

1984年入局。熊本放送局を経て,1987年から放送技術研究所において,プラズマディスプレーパネル,冷陰極ディスプレー,フレキシブルディスプレーの研究に従事。現在,放送技術研究所新機能デバイス研究部上級研究員。

1980年入局。長野放送局を経て,1982年から放送技術研究所において,ハイビジョン,EDTV,方式変換,PDP·LCD,フレキシブルディスプレーなどディスプレーの表示方式・信号処理と画質に関する研究に従事。現在,放送技術研究所新機能デバイス研究部研究主幹。博士(工学)。

報告

NHK技研 R&D/No.145/2014.560