シンガポールのイノベーション・集 化への対...

特集 変化への対応 スタートアップ・エコシステムのさらなる飛躍に向けて Startup Genome Global Startup Ecosystem Ranking 20 調調調National Science and Technology Board Technopreneurship Investment Fund 58 86 Singapore Technologies Corporate Venture Capital Vertex 調Vertex Holdings CEO C チュア・キー・ロック HUA Kee Lock Executive Director Partnership Group なかむら 村 貴 たかき 45 202010

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Page 1: シンガポールのイノベーション・集 化への対 スタトアプ・エコシステムのさらなるに向けて 東南アジアのシリコンバレー シンガポールは、グローバルでも存在感を

特集 変化への対応─スタートアップ・エコシステムのさらなる飛躍に向けて

東南アジアのシリコンバレー

 

シンガポールは、グローバルでも存在感を

放つイノベーション・エコシステムを誇る。

IMD(国際経営開発研究所)の2020年世

界デジタル競争力ランキング(注1)では世界トップ

となり、Startup Genom

e

社のGlobal Startup

Ecosystem Ranking

(注2)においてもTOP20の

常連だ。多くのスタートアップにとって、資

本・人材・パートナーを獲得するハブであり、

成長著しい近隣国で事業展開を行うためのゲ

ートウェイである。

 

背景にあるのは、①有数の資金調達環境、

②豊富な人材、③活性の高いイノベーション

コミュニティー、④ビジョナリーかつ実行に

こだわる政府、⑤確かな知財保護環境の5つ

のポイントだ。

世界トップレベルの

資金調達環境

 

当地は資金調達について高い評価を受けて

おり(注2)、

それを下支えしているのは活発で厚み

のあるベンチャーキャピタル(VC)・エコシ

ステムの存在だ。1990年代半ばにN

ational Science and T

echnology Board

がさまざま

なVC向けインセンティブや投資ファンドを

創設したことがその源流である。特に、199

9年のT

echnopreneurship Investment Fund

は海外VCの呼び込みや現地VCの振興に重

要な役割を果たした。

 

2010年には東南アジア全体のVC投資

は1億5000万米ドル以下、大半は当地向

けであったが、2019年には58倍以上の86

億米ドル超に成長し、他の東南アジア諸国へ

投資先が広がっている点を付け加えておきた

い。当社もエコシステムの発展とともに歩んで

きた。1988年にSingapore T

echnologies

のCVC(Corporate V

enture Capital)とし

て発足、後にテマセク・ホールディングスへ

の組織再編を経て、2008年よりV

ertexとしてスタートを切った。世界の主要エコシ

ステムをカバーするネットワークを構築し、

今日、東南アジアを代表するVCとして35

00億円以上のアセットを保有する。資金供

給とネットワークを活かした成長支援の両輪

で、投資先(200社超)を支援している(注3)。

国内STEM人材と

高度海外人材が集まる

タレントハブ

 

スタートアップにとって資金調達と同様に

シンガポールのイノベーション・

エコシステムの現状、今後の展望

Vertex HoldingsCEO

Cチュア・キー・ロック

HUA Kee Lock

Executive DirectorPartnership Group

中なかむら

村 貴たかき

45 2020・10

p45-47_月刊経団連10月号_特集_Vertex.indd 45 2020/09/17 9:39

Page 2: シンガポールのイノベーション・集 化への対 スタトアプ・エコシステムのさらなるに向けて 東南アジアのシリコンバレー シンガポールは、グローバルでも存在感を

重要な要素が人材だ。先述のIMDランキン

グでは2015年以降₆年連続でタレント部

門世界トップになる等、高い評価を受けてい

る。内訳をみると、高度STEM人材の供給

と有能な海外人材の取り込みの2点が評価さ

れている。

 

当地の教育システムは超競争社会であり、

IT・理数系へ非常に力を入れているため、

教育課程を通じ高度なSTEM人材が輩出さ

れる。海外人材に関しては、治安、住環境、

教育環境、域内移動環境等、優秀な人材を惹

き付ける環境が備わっているのだ。

活性の高い、

イノベーションコミュニティー

 

資本と人材を結び付ける接着剤がコミュニ

ティーだ。現在はオンラインが主流だが、当地

では毎日のようにどこかでミートアップが行

われているほか、国際カンファレンスも多い。

JTC LaunchPad @

One-N

orth

(旧Block71

等のインキュベーション施設やVC主催のコ

ミュニティー活動も盛んだ(注4)。

 

隠れた重要インフラがLinkedIn

やWhats-

App

等のSNSだ。当地では人材の流動性が

高く、ネットワークを広げたいという普遍的

ニーズがある。そのため、LinkedIn

で見ず知

らずの人からの友達申請は珍しくなく、SN

S上で有用なイベントやニュースを察知する

図表1 東南アジアのVC投資額の推移(2010-2020)10,000

9,000

8,000

7,000

6,000

5,000

4,000

3,000

2,000

1,000

0

Investment Amount in USD Millions

2010

15

117123

149345 10 10 128 91

368

1,128 1,333

1,071 1,164

1,565

2,4872,843

8,0308,662

7,119

545

2,007

4,673

1,239

4,358

2,330

6,886

3,016

807

1,497342 834140

2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020, YTD

Singapore Indonesia Southeast Asia

図表2 Vertexのグローバルネットワーク

Vertex Master Fund 2 外部LP投資家

Vertex Master Fund

AUM(USD)

ファンドストラクチャー 投資先一例

テクノロジー/ITに特化 ヘルスケアに特化 どちらにも対応

各地域・国をカバー グローバル市場をカバー

アーリーステージファンド グロースステージファンド

>3.5B

出所:Pitchbook

462020・10

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特集 変化への対応─スタートアップ・エコシステムのさらなる飛躍に向けて

ことも多い。電話番号がわかればW

hatsApp

ですぐにつながる文化があり、出会ってその

ままグループチャットに移行し事業連携の話

を進めていくということも普通で、大抵の起

業家はメールよりもW

hatsApp

を好む。

Vision

とExecution

両輪を備える政府

 

先述の優位性を獲得するためのイニシアテ

ィブを主導し、エコシステムを方向付けてい

るのが政府だ。貿易産業省(MTI)管轄下の

Enterprise Singapore

(ESG)やEconom

ic D

evelopment Board

(EDB)、シンガポー

ル金融管理局(MAS)、情報通信メディア開

発庁(IMDA)、SG Innovate

、A

*STA

R

(シンガポール科学技術研究庁)等の政府機関

が共通ビジョン「Sm

art Nation

」のもと、

テクノロジーによる次世代型インフラとビジ

ネスの構築を後押ししており、主体的にスタ

ートアップや大学機関を巻き込んでいる。

 

例えばSG Innovate

はディープテックの振

興を担い、近年積極的に自動運転スタートア

ップに投資している。AIを組み合わせ全天

候型・高解像度のレーダーを開発した

Hertzw

ell

(注5)はその一例だ。IMDAは政府機

関のデジタル化推進のために、SG D

igital program

me

(注6)を通してスタートアップのソリ

ューション導入を支援している。初のFull-

cycle Autom

ation

を開発し、当地にも拠点

を有するイスラエルのK

ryon

社(注5)は

、RPA企

業のなかで政府認定を受けた数少ない企業の

1つである。また、オンライン中小企業融資

プラットフォームのV

alidus

(注5)は

、GeBiz

と組

み、7000以上もの登録中小企業サプライ

ヤーに対し、迅速に無担保融資を提供してい

る。

 

EDBによるイノベーション拠点誘致施策

や知的財産保護の施策もエコシステムの活性

を高めるうえで重要な役割を担う。特に知財

に関してはW

orld Economic Forum

のGlobal Com

petitiveness Report 2019

(注7)に

おいて、世

界で2位に位置付けられる保護環境を構築し

ている。

After

コロナのシンガポール

 

現在、全世界的に資金調達や雇用(特にテ

ック界隈では)におけるチャレンジがみられ

るなか、シンガポールでは資本・人材の集積、

政府コミットメント、オンラインコミュニテ

ィーへの移行度合い等、A

fter

コロナの世界

においてレジリエントなエコシステムを下支

えする重要な要素をすべて備えている。今後

はBtoB領域、特に政府が注力する知財を生

み出す存在としてのディープテック、AI、

ビッグデータ、次世代製造業、ロボティクス、

アグリテック、イノベーティブフーズ、ブロ

ックチェーンなどの分野が成長していくとみ

ている(2020年2月、政府はStartup SG

Equity

スキームを通じ、3億シンガポール

ドルの追加予算をディープテック領域に充当

すると発表(注8))。

 

IPO環境については発展の余地が大いに

ある(東南アジアのエグジットにおけるIP

O比率は1割以下(注9))。

当面はM&Aによるエ

グジットが主流であり続けると考えられるが、

これは日本企業目線では悪いことではない。

当社としても、有望なスタートアップと日本

企業を結ぶ役割をこれからも果たしていきた

い。

(注1) https://w

ww

.imd.org/w

cc/world-com

petitiveness-center-rankings/w

orld-competitiveness-ranking-2020/

(注2) https://startupgenom

e.com/report/gser2020

(注3) https://w

ww

.vertexholdings.com/jp/

(注4)

当社でも、その一環として起業家向けに全11回のテ

クノプレナーウェビナーを届けている

https://w

ww

.vertexholdings.com/new

s/technopreneur-w

ebinar-series-2020

(注5) https://w

ww

.vertexholdings.com/portfolio/

(注6) https://w

ww

.imda.gov.sg/program

me-listing/

accreditation-at-sgd

(注7) http://w

ww

3.weforum

.org/docs/WEF_T

heGlobalCom

petitivenessReport2019.pdf

(注8) https://w

ww

.startupsg.net/programm

es/4895/startup-sg-equity

(注9) Golden Gate V

entures INSEA

D Southeast A

sia Exit Landscape Sep 2019

https://w

ww

.insead.edu/sites/default/files/assets/de pt/centres/gpei/docs/golden-gate-ventures-insead-sea-exit-landscape.pdf

47 2020・10

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