フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件 -...

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アジア Vol. 48, No. 2, April 2002 じめに 、フィリピン・ダバオ バジャ Badjao1についてつぎ よう から うこ ある。(1)バジャ 態を 囲に らす他エス ニック・グループ 較し、(2)ら 他エスニック・グループ あいだに する イメージを する。 、バジャ バジャ 、す わち、セブアノCebuano 、タ スグTaosug 、マラナオMaranao 、ラミヌサ Laminusa25 を対 する。 お、 から 態について るこ っておきたい 3題を するために、 づく によって、つぎ よう する。(1)バジャ するため (た ニーズ いよう において あり、(2)ら において 位にあるこ 、さらに、 3)こうした による格 えて、 バジャ バジャ に対する っており、バジャ 活を くされているこ 3 ある。 安が しているダバオ 、ミンダナオ スルーにおける 1970 いし いミンダナオ 、スルー から れてきた。 扱うバジャ 、また バジャ うちセブアノを 3 グループ 、こうした ある。フィリピンを対 する する において、 について まだ く、 そうした ある。 くに イメージ する 、ホロ シアシ スルー バジャ した において、し スグを しバジャ するエスニック・ストラティフィケーション されてきたため あるcf. Stone, 1962; Nimmo, 1972; Warren, 1981。あえて する 、こうした 域における バジャ に対する らが たず 活をしてい るこ 、イスラーム れている、あるい っていて 72 フィリピン・ダバオ におけるバジャ 他エスニック・グループ 較から

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アジア研究 Vol. 48, No. 2, April 2002

はじめに

本稿の課題は、フィリピン・ダバオ市のバジャウ(Badjao)(1)の生活条件についてつぎ

のような視点から分析を行うことである。(1)バジャウの生活実態を周囲に暮らす他エス

ニック・グループの生活実態と比較し、(2)彼らと他エスニック・グループのあいだに存

在する主観的な民族間イメージを検討する。具体的には、バジャウと非バジャウ、すな

わち、セブアノ(Cebuano)、タウスグ(Taosug)、マラナオ(Maranao)、ラミヌサ

(Laminusa)(2)の 5集団を対象とする。なお、紙幅の都合から生活実態については、経済

生活の側面に限ることを断っておきたい(3)。

この課題を探求するために、実態調査の結果に基づく量的分析によって、つぎのよう

な作業仮説を検証する。(1)バジャウは、地域の市場社会に参加するための基本的能力

(たとえば学歴や基本的ニーズ充足に満たないような低い所得水準)の点において絶対的に不利

であり、(2)彼らは他集団との関係においても低い社会経済的地位にあること、さらに、

(3)こうした客観的指標による格差に加えて、非バジャウはバジャウに対する卑賤観をも

っており、バジャウは貧困生活を余儀なくされていること、の3点である。

治安が比較的安定しているダバオ市は、ミンダナオとスルーにおける 1970年代の内戦

ないし近年の政治情勢の悪化に伴いミンダナオ南西部や内陸部、スルー諸島から流出し

た難民を受け入れてきた。本稿で扱うバジャウも、また非バジャウのうちセブアノを除

く 3グループも、こうした人々の例である。フィリピンを対象とする都市民衆の社会経

済に関する研究において、難民の生活条件についての研究はまだ蓄積が少なく、本稿は

そうした試みのひとつである。

とくに民族間イメージの視点を導入するのは、ホロやシアシなどスルー諸島のバジャ

ウを事例とした過去の研究において、しばしばタウスグを頂点としバジャウを最下層と

するエスニック・ストラティフィケーションの存在が指摘されてきたためである(cf.

Stone, 1962; Nimmo, 1972; Warren, 1981)。あえて要約するならば、こうした地域における

当時のバジャウに対する卑賤観は、彼らが陸上家屋をもたず漂泊的な船上生活をしてい

ること、イスラーム教への改宗が遅れている、あるいは信仰をもっていても正統とはみ

72

フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件他エスニック・グループとの比較から

青山和佳

73フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件─他エスニック・グループとの比較から

なせないこと、物質的に簡素な生活をしていること、歴史的にタウスグなどから政治経

済的支配を受けてきたこと、などに拠っていた。1970年代の内戦以降、他地域に流出し

たバジャウは、こうした過去の民族的文脈とは異なる地域へ流入していったのだが、少

なくともフィリピン側へ移動したグループについては新たな卑賤観を負っている場合が

ある。たとえば、近年、ルソン島南部の地方都市近郊に住む少数民族のアエタが「バジ

ャウ=乞食」というステレオタイプを周辺のほかの民族集団とともに共有していること

が指摘されている(玉置 2000; cf. 青山 2001)。これは、マレーシアなどでむしろバジャウ

という呼称がポジティヴなセルフ・アイデンティフィケーションとして使われるように

なってきた事実(Nagatsu, 2001)とは対照的である。

本稿が扱うダバオ市の事例においても、住民のだれもが「バジャウはとくに貧しい」

ことを知っている。しかし、具体的な数値をもって当局にこの問題が取り上げられるこ

とはなかった。たとえば、最小行政単位にあたるバランガイ(barangay)は、2年に1回、

ミニマム・ベーシック・ニーズという世帯悉皆調査を実施する。その結果に基づいてコ

ミュニティの開発プログラムを作成するのだが、フェース・シートには回答者のエスニ

ック・アイデンティティに関する質問はないから、エスニック・グループ別の集計はで

きない。バジャウは政治的に弱体なので、自ら声をあげるということも少ない。こうし

た状況に鑑みて、本稿は、都市貧困層居住区である調査地にあって、その生活改善にあ

たる政府当局がエスニック・グループ間に存在する生活水準の格差や、意識における階

層化の問題を見落としたまま、政策策定を進めていることへ疑問を提起しようとする試

みでもある。

ここで、本稿でいうバジャウと文献におけるサマ(Sama)の関係を整理しておきたい。

まず、バジャウとは、過去の漂海民研究(cf. Lapian and Nagatsu, 1996)では、サマ語

(Sinama)を話す人々のうち、とくに家船生活者として特徴づけられる海サマ(Sama

Dilaut)を指すことが多く、一般には海のジプシーといったイメージで知られる。しかし、

近年の研究では陸地定着化の進行、他民族集団との関係の変化などを背景に、バジャウ

とよばれる人々の実態も変化、多様化しており、もはや実体的観点だけからバジャウと

いう概念を整理することは難しくなっているという現実がある(4)。本稿で「バジャウ」

とよぶ集団も例外ではなく、漂海経験者以外にも、陸に定着して暮らしていたサマ(陸サ

マ)でダバオ市に来てからバジャウとよばれるようになった集団も含まれている(5)。その

ため、バジャウという呼び名だけから彼らの出自を正確に突き止めることはできないが、

ここで大雑把に調査地の「バジャウ」の位置づけを示しておく。まず、サマ語族である

ことは確かである。彼らが話すサマ語は、南部フィリピン、マレーシア領ボルネオ、東

インドネシアで使用され、タウスグ語、マレー語の影響を受けている(Akamine, 1990)。

国家における民族別統計という観点からみると、フィリピン政府公刊の 1995年センサス

では、同国のサマ語系人口は 3つに分かれて記載されている。すなわち、「サマ」(6)は総

人口(6,843万 1,213人)の 0.27 %(推定 18万 4,764人)、「バジャウ」(Badjao/Sama Dilaut)

アジア研究 Vol. 48, No. 2, April 2002

は同 0.25 %(17万 1,078人)、陸サマのサブ・グループである「サマ・ディラヤ」(Sama

Dilaya)は同0.07 %(4万7,901人)である。一方、学術的研究における従来の整理に照ら

すならば、たとえばニンモが提唱し(Nimmo, 1968)、その後、多くのバジャウ研究者に

踏襲されたサマを北方と南方で異なるとする地理上の分類がある。これによれば、本稿

で扱うグループは従来から蓄積が少ないとされる、ホロ(Jolo)やシアシ(Siasi)以北に

分布し、フィリピン内海を移動する北方系サマに該当する(図1)。

本稿の構成はつぎのとおりである。第 1節で調査地の概要を述べる。つづいて質問紙

調査の結果に基づく実証分析を行う。まず、世帯主を例に、地域間移動(第 2節)と生業

転換の状況をみる(第 3節)。さらに、経済生活の実態を概観するために、所得・支出・

負債などの指標を検討する(第 4節)。第 5節では、意識調査の結果に基づいて、民族間

のバジャウ・イメージを確認する。結語として、以上の分析を要約し、作業仮説の検証

結果と政策的含意を述べる。

1.調査地の概要

調査の舞台であるダバオ市は、フィリピン南部のミンダナオ島に位置し、ミンダナオ(7)

の恵まれた自然条件と天然資源(鉱物・水産など)を背景に、フィリピンの一次産業の要

衝、および有数の港湾都市として発展してきた。1995年現在で約百万人の人口を擁し、

単独の政令指定都市としては全国第4位の規模である。95年人口センサスによれば、同

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図1 ミンダナオ・スルー諸島

75フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件─他エスニック・グループとの比較から

市の就業構造は農業志向型交易都市としてサービス業(37.8 %)、商業(19.0 %)と農林業

(25.2 %)が大きく、工業は 8.0 %である。これに建設業 7.6 %、漁業 1.2 %、電気・水

道・ガス業 0.6 %、鉱業 0.4 %が続く。政府公刊の 97年家計所得・支出調査から住民の

所得源をみると、住民をなす20万 2,983世帯のうち主に賃金・俸給から所得を得ている

ものが56.1 %、起業家活動が29.0 %(うち農業6.6 %、非農業22.5 %)であるから、自営業

部門が雇用吸収に一定の役割を果たしていることがわかる。

人口学的にミンダナオ地域を眺めると、約 6割を占めるセブアノのほか、ムスリム諸

族のうち主要 3大グループ(8)が全体の約 15 %、また非ムスリムの少数・先住民も 4 %ほ

どを占めるなど、多民族・文化的多様性をもつことが大きな特徴である(青山 1997)。こ

の多様性は、しばしばキリスト教徒人口と非キリスト教徒人口のあいだの社会経済的格

差として現れる。先住民の貧困問題は、ミンダナオ最大の都市であるダバオ市にあって

は、ビサヤ諸島やミンダナオ他地域から流入する都市移住者の貧困問題の一種として不

法占拠者居住区に顕在しやすい。本稿の調査地も数年後に政府から住民への土地払い下

げが予定されている不法占拠者居住区でイスラ・ベリャ(9)という。ここは、ダバオ市の

東部沿岸に横たわる砂州で、1970年代初め頃から季節風が運ぶ砂が少しずつ堆積してで

きたものである。人が住みはじめるようになったのは70年代半ばであり、スルーからの

バジャウが最初の移民であったといわれている。調査時点では、9ヘクタールの面積に

約 1,300世帯・計 1万人ほどが暮らす。人口の言語族別内訳では、ムスリム諸族(マラナ

オ、タウスグなど)が全体の 6割を占め、ダバオ市全体では圧倒的多数を占めるセブアノ

語系キリスト教徒人口を上回っていることが特徴である(10)。調査地を管轄するバランガ

イ(末端行政単位)も首長ほか、8人の評議員のうち 7人をマラナオが占めており、市内

でもムスリム優勢地区とみなされている。

イスラ・ベリャには、ふたつのバジャウ居住地がある。ともに海岸沿いであり、満潮

時には 1メートルから 2メートル近くまで海水が満ちることもあるため、住居は杭上家

屋である。ひとつはアラスカとよばれ、砂州の北東に位置する 1ヘクタールほどの地域

である。この地区では、広場を中心に杭上家屋が向かいあうかたちで建てられており、

隣接する非バジャウ系住民居住区に対して閉じた構造になっている。もうひとつはアリ

ーナ・ピカスとよばれ、ピカス(反対側)という名前の通り砂州の南東にある。こちらは

セブアノやタウスグなど非バジャウ系住民居住区の中の海岸沿いに小さなバジャウ集住

地として存在しており、外部に対してもむしろ開いた構造をもつ。

本稿で使用する資料は、イスラ・ベリャに居住するサマ語集団でダバオ市においては

広く「バジャウ」と他称・自称される集団(合計184世帯)、および隣接する2地区に生活

する非バジャウの4つの集団(合計180世帯)に対して、1997年8月初旬─ 99年3月末ま

で継続的に行われたフィールドワークによって収集されたものである。具体的には、(1)

基礎的世帯調査、と(2)自己イメージ・民族間イメージ調査を世帯悉皆質問紙調査(家庭

訪問、面接・他計式)の方法で行った。インタヴューは原則としてセブアノ語で行ったが、

アジア研究 Vol. 48, No. 2, April 2002

必要に応じてサマ語の通訳を使った。

住民の基本的属性は表 1の通り。なおバジャウ地区住民の自称はサマであるが、以下

の分析では便宜上、これをバジャウとよぶ。

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 表 1 住民の基本的属性:バジャウ地区と非バジャウ地区�

バジャウ地区 非バジャウ地区�

世帯数・人口�

 合計 184���� 180

  (アラスカ) (172)�

  (アリーナ・ピカス) (12)�

 1世帯当たりの構成員数(平均) 5.3���� 5.7

 1世帯当たりの子供の数(平均) 3.5���� 3.9

 地区総人口 981���� 1,044

性別(対総人口比率)�

 男子 51.7%���� 48.1%

 女子 47.5%���� 51.5%

年齢 男子 女子 男子 女子�

 平均年齢 22.3歳 22.8歳 22.4歳 22.9歳�

 年齢構成(対総人口比率)�

   0─ 6歳 21.0%�� 22.1%�� 18.6%�� 13.7%

   7─15歳 20.4%�� 16.6%�� 22.9%�� 27.1%

  16─29歳 29.4%�� 32.5%�� 26.0%�� 28.5%

  30─49歳 20.6%�� 21.7%�� 26.2%�� 26.1%

  50歳以上 8.6%�� 7.1%�� 6.3%�� 4.6%

就学経験年数(7歳以上対象) 男子 女子 男子 女子�

 平均 1.2年 0.9年 7.0年 7.0年�

 最頻値 0.0年 0.0年 6.0年 6.0年�

セルフ・アイデンティフィケーション(対総人口比率)�

 サマ 97.8%���� 0.1%

  (陸サマ) (65.1%) (0.1%)�

  (海サマ) (32.7%) ─�

 ラミヌサ 1.5%���� 6.6%

 セブアノ 0.5%���� 51.7%

 アタ�� 0.1% ─�

 タウスグ ─���� 20.5%

 マラナオ ─ 17.4%

 その他 ─ 3.6%

宗教(対総人口比率)�

 伝統的・土着信仰(オンボ) 80.3% ─�

 イスラーム教 10.8%���� 44.5%

 キリスト教 8.9%���� 44.9%

  (ボーン・アゲイン・クリスチャン) (4.8%) (0.4%)�

  (ローマン・カソリック他) (4.1%) (40.9%) �

出生地(対総人口比率)�

 ダバオ市以外 68.7%���� 54.9%

 ダバオ市 31.3%���� 45.1%

 (出所)��

 筆者のフィールド調査より作成.� (注)� 回答不明を含まないため合計は必ずしも100%とならない.

77フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件─他エスニック・グループとの比較から

2.地域間移動

1.性別・年齢と移住者・非移住者の別 

表 2は、世帯主を取り上げ、エスニック・グループ別にその属性と地域間移動の特徴

を概観したものである。どのグループでも世帯主は男子が多く(全体の 90.7 %)、マラナ

オとラミヌサは 100.0 %、タウスグは 94.3 %に相当する。この調査では、被調査者が世

帯主とみなす世帯構成員を当該世帯の世帯主としたが、通常、男子が世帯主とされた。

世帯主が女子の場合、その世帯は未婚者、離婚/別居者、未亡人などを筆頭とする。世

帯主が女子である比率が高いのは、バジャウ(10.9 %)(11)とセブアノ(12.5 %)であった。

また平均年齢は全体で 40歳前後である。バジャウとマラナオでは若干若く、それぞれ

38.6歳、36.1歳であった。

出生地をみるとダバオ市以外が全体の93.1%を占め、エスニック・グループの別にか

かわらずほとんどが移民世帯である。バジャウ 94.4 %、タウスグ 97.1%、ラミヌサ

92.6 %、マラナオ94.1%に対して、セブアノは88.4 %とやや少ない。これはイスラ・ベ

リャで出生したというよりも、ダバオ市内の他地域からイスラ・ベリャに転居した者と

思われる。市内出身者はここでは移住者として扱わない。

2.移動回数と出生地

住所変更をともなう移動回数(市外から)の平均値は全体で 1.9回である。セブアノ、

タウスグ、ラミヌサの2回以上に対して、バジャウとマラナオでは1.4回と少ない(表2)。

とくに「バジャウ」(サマ)については、文献でしばしば漂海民や海のジプシーとよばれ

るわりには移動回数が少なくみえるかもしれない。これは本格的な転居をきめる前のト

ライアルとしての移動や、ダバオ市を一種の停泊地としての一定地域内における短期的

あるいは周遊的移動を数えていないためである。陸地定着化が進んでいるとはいえ、彼

らの移動性は高く、彼ら自身も年代順に移動歴を正確に把握しているわけではないので、

そのすべてを質問紙のような定型的・量的調査方法で捕捉することは難しい。ここでの

バジャウの回答は、おおまかにいって「(いくつかの場所を訪れたが)自分の家を建てて拠

点とする場所を1─2回変更した」という意味であろう。逆に、非バジャウの4グループ

は、完全に定着性であるからこそ、年代順に移動歴を明確に回答できるといえる。

出生地(12)を地方別にみると(表2)、エスニック・グループ別に大きな違いがみられる。

端的にいって、バジャウ、タウスグ、ラミヌサの 3者はスルー系である。そのうち、バ

ジャウでは西ミンダナオ地方(80.0 %)が多く、その大半が港湾都市のサンボアンガ市を

含む南サンボアンガ州である(13)。タウスグとラミヌサはムスリム・ミンダナオ自治地方

が多く(それぞれ 44.1%、88.0 %)、ともにスルー州出身者の比率が高い(14)。タウスグでは

アジア研究 Vol. 48, No. 2, April 200278

 表 2 世帯主の属性と地域間移動:エスニック・グループ別�

合計 セブアノ タウスグ ラミヌサ マラナオ�

世帯数合計 364� 180� 96� 35� 27� 17

性別� 男子 90.7%� 89.1%� 87.5%� 94.3%� 100.0%� 100.0%� 女子� 9.3%� 10.9%� 12.5%� 5.7%� 0.0%� 0.0%

年齢� 平均値 40.0歳 38.6歳 41.2歳 41.7歳 43.7歳 36.1歳� 標準偏差� 13.6075� 14.8986� 11.6635� 9.5356� 16.1460� 9.6688�

出生地� ダバオ市� 6.9%� 5.6%� 11.6%� 2.9%� 7.4%� 5.9%� ダバオ市以外� 93.1%� 94.4%� 88.4%� 97.1%� 92.6%� 94.1%

移動歴(母数:移住者) (338) (170) (84) (34) (25) (16)� 住居変更をともなう移動回数(市外)a

  平均値 1.9回 1.4回 2.7回 2.5回 2.3回 1.4回�  標準偏差 1.2075� 0.6854� 1.414� 1.6002� 0.8744� 0.7188�

出生地(地方別)b

 西ミンダナオ地方 45.5%� 80.0%� 10.0%� 17.6%� 4.0%� ─� ムスリム・ミンダナオ自治地方 22.2%� 12.4%� ─� 44.1%� 88.0%� 100.0%� 南ミンダナオ地方 16.5%� 2.9%� 40.0%� 26.5%� 4.0%� ─� 中央ビサヤ地方 6.3%� 1.8%� 21.3%� 2.9%� ─� ─� 中央ミンダナオ地方 2.4%� ─� 5.0%� 8.8%� 4.0%� ─ 北ミンダナオ地方 1.8%� ─� 7.5%� ─� ─� ─� カラガ地方 1.5%� 1.8%� 2.5%� ─� ─� ─-� 東ビサヤ地方 1.5%� ─� 6.3%� ─� ─� ─� 西ビサヤ地方 1.5%� ─� 6.3%� ─� ─� ─� 南タガログ地方 0.6%� 0.6%� 1.3%� ─� ─� ─� 中部ルソン地方 0.3%� 0.6%� ─� ─� ─� ─�

出生地から転出した理由c� 治安の悪化 40.5%� 68.2%� 7.2%� 29.4%� 8.0%� 13.3% 転入先で仕事を探すため 19.3%� 2.4%� 43.4%� 29.4%� 32.0%� 33.3% 生活苦� 14.6%� 13.5%� 15.7%� 8.8%� 24.0%� 13.3% 転入先で住居を探すため 6.9%� 1.2%� 3.6%� 11.7%� 16.4%� 33.3%� 親の転居に同伴 5.7%� ─� 15.7%� 5.9%� 12.0%� 6.7%� 親族の呼び寄せ 4.5%� 8.8%� ─� ─� ─� ─� 結婚にともなう転居 3.9%� 2.9%� 7.2%� ─� 4.0%� ─� 転入先で教育を受けるため 2.4%� ─� 6.0%� 5.9%� ─� ─� 転勤・異動 0.6%� ─� 1.2%� 2.9%� ─� ─� 漁場を探すため 0.3%� 0.6%� ─� ─� ─� ─� 高潮に被災 0.3%� 0.6%� ─� ─� ─� ─�

現住所に関する情報の入手方法d� 家族・親族 74.6%� 82.4%� 57.1%� 70.6%� 84.0%� 75.0%� 友人・隣人 16.0%� 2.4%� 41.7%� 29.4%� 12.0%� 18.8% 自分でみつけた(パイオニア移住者) 8.6%� 15.3%� 1.2%� ─� 4.0%� 6.3%

現住所への転入時期e� 1965─69年� 7.1%� 1.8%� 13.1%� 11.8%� 20.0%� ─ 1970─74年� 7.4%� 10.6%� 3.6%� 2.9%� 8.0%� ─� 1975─79年� 14.8%� 8.8%� 21.4%� 11.8%� 32.0%� 25.0% 1980─84年� 19.5%� 11.8%� 23.8%� 32.4%� 24.0%� 37.5% 1985─89年� 15.1%� 15.3%� 17.9%� 8.8%� 4.0%� 18.8% 1990─94年� 23.4%� 31.2%� 14.3%� 29.4%� 4.0%� 18.8% 1995─99年� 12.7%� 20.6%� 6.0%� 2.9%� 8.0%� ─�

非バジャウ�

 (出所)��

 筆者のフィールド調査より作成.�

 (注)�「合計」には「その他のエスニック集団」(度数9)を含む.回答不明を含まないため合計は必ずしも100%とならない.�a.�分散分析結果:自由度5,F値19.926,有意確率0.000.�b.�ピアソンのカイ二乗:自由度50,有意確率(両側)0.000.�c.�ピアソンのカイ二乗:自由度70,有意確率(両側)0.000.�d.�ピアソンのカイ二乗:自由度15,有意確率(両側)0.000.�e.�ピアソンのカイ二乗:自由度30,有意確率(両側)0.000.�

バジャウ�(サマ)�

79フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件─他エスニック・グループとの比較から

南ミンダナオ州(26.5 %)も比較的多いが、これはダバオ市対岸にあるサマール島を含む

北ダバオ州からの移住者であり、つぎに多い西ミンダナオ地方(17.6 %)はすべて南サン

ボアンガ州からの移住者である(15)。一方、マラナオもムスリム・ミンダナオ自治地方が

多い(100.0 %)が、これは内陸都市のラナオ市を含む南ラナオ州が主である(16)。セブア

ノは、南ミンダナオ地方(40.0 %)、中央ビサヤ地方(21.3 %)を中心とする(17)。いずれの

エスニック・グループも伝統的に当該グループの人口比率が比較的高い地域の出身であ

る。移住したダバオ市においては、多数派であるセブアノに対して、バジャウ、タウス

グ、マラナオ、ラミヌサは少数派という立場を共通とする。

3.転出理由

出生地が異なる以上は当然かもしれないが、転出理由もエスニック・グループでばら

つきがみられる(表 2)。スルー系では「治安の悪化」が多い。とくにバジャウでは

68.2 %にのぼり、難民の印象がいっそう強い(18)。回答者の多くが用いた「ゲラ(gira: 戦

争)」という言葉からは、1970年代初頭から 10年以上も続いたムスリム分離独立派とフ

ィリピン政府軍の武装紛争によるスルー諸島・サンボアンガ地域における治安の悪化が

想起される。個人の経験はさまざまであるが、多くの場合、直接紛争に巻き込まれたの

ではなく、紛争激化にともない避難民となったタウスグなどムスリム諸族が比較的平和

であったサマの居住区に流入したために、二次的避難民として流出に追い込まれたよう

である(cf. Nimmo, 1990a; 1990b)。また転入時期が 85年以降の場合には、バジャウのい

う「治安の悪化」は「海賊行為の多発(daghang tulisan)」として語られることが多い。海

賊行為の主体はホロアノ(Joloano)とされ、具体的にはタウスグやヤカンなどのムスリ

ム諸族である。同じスルー系でも、タウスグやラミヌサでは「転入先で仕事を探すため」

(それぞれ 29.4 %、32.0 %)、「転入先で住居を探すため」(同 11.7%、16.4 %)など、背後に

は紛争の影響があったかもしれないにしろ、バジャウにくらべて明確な社会経済的動機

をもっての移住となっている。内陸系ムスリムであるマラナオもまた紛争地域の出身で

あるが、転出理由は「転入先で仕事を探すため」(33.3 %)、「転入先で住居を探すため」

(33.3 %)などとなっている。一方、セブアノの場合、紛争地域からの難民ではないから、

経済的動機が主であり、「転入先で仕事を探すため」(43.4 %)、「生活苦」(15.7 %)などが

あげられた。

4.現住所への転入にあたっての情報収集経路と移動時期

現住所に関する情報源は、フィリピンのような低開発諸国に典型的にみられるように、

「家族・親族」(全体の 74.6 %)と「友人・隣人」(同 16.0 %)で 9割以上になる(表 2)。し

ばしばそれは先に移住していた者であり、移住前の情報ばかりでなく、移住後には一時

的滞在先や雇用情報を提供することも多い。エスニック・グループ別にみた特徴として

は、セブアノでは「家族・親族」(57.1%)と「友人・隣人」(41.7 %)が拮抗しているの

80

に対し、他の4グループでは「家族・親族」など血縁者に頼る場合が7─8割と高い。バ

ジャウでは「友人・隣人」(2.4 %)への依存度は低く、「家族・親族」(82.4 %)に頼るか、

さもなくば「自分でみつけた」(15.3 %)という場合が多い。調査地においては、このパ

イオニア性あるいは独立性はバジャウに特徴的である。ただし、バジャウのパイオニア

移住者は必ずしも出身地が同じではない。バジャウ地区は特定出身地の支村ではなく、

出身地が異なるバジャウの混住地なのである。

現住所への転入時期は、どのグループも 1970年代前半まではまだ少なく、75年以降

が 7割以上である。セブアノ、タウスグ、ラミヌサで 75─84年の期間における移住者の

比率が高いのは、多くが初めはイスラ・ベリャ隣接地区に転入してきたものの、そこで

火災に遭ったために空いている土地を求めて調査地に流入してきたためである。セブア

ノ、タウスグ、マラナオ、ラミヌサは遅くとも 94年頃までには移住のピークをむかえ、

それ以降一段落している。これに対して、バジャウは90年代に移住してきた者が5割強

もおり、20.6 %は95年以降の新規移住者であることが特徴的である。

ここで付け加えておくと、現在、バジャウはイスラ・ベリャ総人口のうち約 1割を占

める少数派である。ただし、ダバオ市全体ではバジャウの人口は 1%にも満たないこと

を考えれば(19)、イスラ・ベリャにおけるバジャウのプレゼンスは相対的に大きい(20)。初

期においてはアリーナ・ピカスに流入したバジャウのほとんどが80年代半ば、高潮を理

由に砂州北東部のアラスカ地区に集団移住した。1980年代以降、出生地のプッシュ要因

が解決しない一方で、イスラ・ベリャに定着したバジャウが情報や転居直後のシェルタ

ー提供機能を果たすことで親戚・友人を介した流入が続いて現在に至っているために新

規移住者が減少しないと考えられる。

3.生業転換の状況

1.就業状態の変化 

表 3は、世帯主の出身地における主たる生業と調査地における現在の生業をエスニッ

ク・グループ別にまとめたものである。全体的に移住前は、非労働力状態か失業状態に

あった者の比率が高い(23.7 %)。学生だった者は、とくにセブアノ(25.0 %)やマラナオ

(12.5 %)で多くなっている。非バジャウでは出身地で働いていなかった者が多いことに

なるが、バジャウでは非労働力状態や失業状態にあった者は 8.8 %、学生だった者は

1.2 %にすぎない。バジャウの世帯主は移住前も現在も就業率があまりかわっていないこ

とが特徴である。次節以降で、バジャウは非バジャウと比較して低所得であり、一般に

貧困であることが明らかになるが、就業率でみる限りは非バジャウよりも働いているよ

うにみえる。問題は生業の分布と転換状況である。

アジア研究 Vol. 48, No. 2, April 2002

81フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件─他エスニック・グループとの比較から

2.非バジャウの生業転換

非バジャウの世帯主で現在働いていないと回答した者はほとんどなかった。移住前に

は無職であったものの、ダバオ市移住後は何らかの仕事を見つけたのである。全体に自

営業(非農業)の比率が高い。エスニック・グループ別にみると、とくに自営業が多いの

はラミヌサ(80.0 %)とマラナオ(69.0 %)で、ともに「バイ・アンド・セル」(それぞれ

72.0 %、31.3 %)を含む行商・露天商が中心である。「バイ・アンド・セル」とは文字通り

物を売り買いすることで利益をあげる商売で、この場合には、ムスリム系商人から仕入

れた小間物(サングラス、ヘア・アクセサリ、ベルト、履物など)をダバオ市内や近隣諸都市

を移動しながら売り歩く。この業種はタウスグにもみられ(5.9 %)、一般にムスリム系に

特徴的な職種といえるが、一部セブアノにもみられた(4.8 %)。セブアノで自営業に就く

者は 52.7 %で、最も多いのは大工(10.7 %)である。自営業以外の生業に就いている者

は、セブアノでは賃金労働者(32.1 %)、タウスグでは賃金労働者(26.4 %)と漁師

(23.5 %)、マラナオでは賃金労働者(12.6 %)と専門職・公務員(12.6 %)に多い。賃金労

働者のほとんどは労働基準法適用外であるような従業員規模10人未満の事業所に雇われ

ているか、日雇いのような臨時雇用である。したがって、ここで自営業主と賃金労働者

とを比較して、雇用機会の安定性や所得の高さの点でどちらがより良いということはで

きない。ただ、だれかに雇われて働くということは、雇用主やほかの従業員とのコミュ

ニケーション能力が不可欠となる。ダバオ市の多数派がセブアノであることを考えると、

ここで就いている職種の数において、セブアノのほうが他のグループよりも多いのは、

そのためかもしれない。逆に、非セブアノの場合には、賃金労働よりも自営業のほうが

参入しやすいということであろう。

3.バジャウの生業転換

このようにダバオ市に移住後はさまざまな生業に就くようになった非バジャウにくら

べ、バジャウの生業転換は緩慢である。ほとんどの世帯主は出身地で漁師であった

(74.1%)。漁師の比率は現在 51.2 %であるが、これはむしろ緩やかな変化にみえる。ひ

とつの証左として、表 3には世帯主の父親が就いていた生業を併記した。非バジャウで

は、親から子へと世代を経るにつれて漁業を含む農業部門への就業が激減し、かわって

非農業部門への就業が増加している。とくにセブアノ、ラミヌサ、マラナオではダバオ

市に移住してきた子世代で農業部門に働いている者はほとんどいない。いまも漁業を続

けているタウスグであっても、父世代の67.6 %から子世代では23.5 %まで大きく減少し、

農業に限れば皆無となった。こうした世代間の職業移動は、バジャウにはほとんどみら

れない。父親が漁師だった者は 62.9 %、地域間移動を経験した子世代にあっても 5割は

漁師なのである。職業移動はしばしば階層移動に結びつくとすれば、バジャウの場合、

世代間でそうした階層移動もみられないということになろう。

82アジア研究 

Vol. 48, N

o. 2, April 2002

 表 3 生業の転換:父親の主たる生業,本人の出生地・現在の生業,エスニック・グループ別�

バジャウ(サマ)�合計� セブアノ� タウスグ� ラミヌサ� マラナオ�

非バジャウ�

本人�

父親b 移住前� 現在�

本人�

父親b 移住前� 現在�

本人�

父親 移住前� 現在�

本人�

父親 移住前� 現在�

本人�

父親 移住前� 現在�

本人�

父親 移住前� 現在�

283� 338� 338� 116� 170� 170� 84� 84� 84� 34� 34� 34� 25� 25� 25 100.0� 100.0� 100.0� 100.0� 100.0� 100.0� 100.0� 100.0� 100.0� 100.0� 100.0� 100.0� 100.0� 100.0� 100.0 7.4� 32.9� 4.7� 17.2� 10� 7.1� 0� 65.5� 3.6� 0� 44.1� 0� 0� 48� 4 7.4� 23.7� 4.7� 17.2� 8.8� 7.1� ─� 40.5� 3.6� ─� 35.3� ─� ─� 44.0� 4.0� ─ 9.2� ─� ─� 1.2� ─ � ─ 25.0� ─� ─� 8.8� ─� ─� 4.0� ─ 65.7� 50.6� 29.3� 68.1� 75.9� 51.2� 67.8� 20.3� 2.4� 67.6� 32.3� 23.5� 44.0� 32.0� 0.0 37.8� 43.8� 29.0� 62.9� 74.1� 51.2� 7.1� 2.4� 1.2� 44.1� 29.4� 23.5� 44.0� 32.0� ─ 27.9� 6.5� ─� 5.2� 1.8� ─� 60.7� 16.7� ─� 23.5� 2.9� ─� ─� ─� ─� ─ 0.3� 0.3� ─� ─� ─� ─� 1.2� 1.2� ─� ─� ─� ─� ─� ─ 16.7� 12.0� 45.0� 5.2� 10.1� 33.0� 19.1� 12.0� 52.7� 26.3� 17.6� 40.9� 40.0� 20.0� 80.0 4.9� 1.8� 2.4� 1.7� 1.8� ─� 1.2� ─� ─� 8.8� 2.9� 17.6� 28.0� 8.0� 4.0 3.9� 1.2� 3.6� ─� ─� ─� 10.7� 2.4� 10.7� 5.9� 5.9� 2.9� ─� ─� ─ 1.4� ─� 1.8� ─� ─� ─� ─� ─� 6.0� ─� ─� ─� 4.0� ─� ─ 1.1� 2.4� 8.6� ─� ─� ─� 1.2� 1.2� 4.8� ─� 5.9� 5.9� ─� 8.0� 72.0 0.7� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 2.9� ─� ─� 4.0� ─� ─ 0.7� 0.9� 9.5� 1.7� 1.8� 18.8� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─ 0.4� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 2.9� ─� ─� ─� ─� ─� 0.4� ─� 0.3� ─� ─� ─� ─ ─� 1.2� ─� ─� ─� ─� ─� ─ 0.4� ─� 1.2� ─� ─� 0.6� 1.2� ─� 3.6� ─� ─� ─� ─� ─� ─ 0.4� ─� 0.9� ─� ─� ─� 1.2� ─� 1.2� ─� ─� 2.9� ─� ─� ─ 0.4� ─� ─� 0.9� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─ 0.4� 0.6� 1.2� ─� ─� ─� ─� ─� 1.2� 2.9� ─� ─� ─� ─� ─ 0.4� 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 2.9� ─� ─� ─� 4.0� ─� 0.4� 0.3� ─� 0.9� 0.6� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 0.4� ─� ─� ─� ─� ─� 1.2� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─�� 0.4� ─� ─� ─� ─� ─� 1.2� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─ 0.6� 1.2� ─� 3.5� 2.4� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─ 0.3� 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─ ─ 0.3� 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� 1.2� ─� 2.9� ─� ─� ─� ─ ─ 0.3� ─� ─� 0.6� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─ ─ 0.3� 0.6� ─� ─� ─� ─� 1.2� 2.4� ─� ─� ─� 4.0� ─ ─ ─ 0.3� ─� ─� 0.6� ─� ─ ─ ─� ─ ─ ─� ─ ─ ─ ─ 0.3� 0.6� ─� 0.6� ─� ─� ─� 1.2� ─ ─ 2.9� ─ ─� ─ ─ 0.3� 0.6� ─� ─� ─� ─� 1.2� 1.2� ─� ─� 2.9� ─ ─ ─ ─ 0.3� 0.3� ─� ─� ─ ─� 1.2� 1.2� ─� ─� ─� ─� ─� ─ ─ 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� 1.2 ─ ─� ─� ─� ─� ─� ─ ─ 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� 1.2 ─� ─ ─ ─� ─ ─ ─ ─ 0.3� ─ ─ ─ ─� ─� 1.2 ─� ─ ─ ─� ─� ─� ─ ─ 0.3� ─� ─� 0.6� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─ ─ ─ ─ ─� 0.3� 0.6� ─� ─� ─� ─� 1.2� 1.2� ─� ─� 2.9� ─� ─� ─� ─� ─� 5.0� ─� ─� 9.4� ─� ─� ─ ─ ─� ─ ─ ─ 4.0� ─� ─� 0.3� ─ ─ ─ ─� ─� 1.2� ─� ─� ─� ─ ─ ─� ─� ─� 0.3� ─� ─� 0.6� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� 1.2� ─� ─ ─ ─� ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

16� 16� 16 100.0� 100.0� 100.0 0� 56.3� 0 ─� 43.8� ─� ─� 12.5� ─ 50.1� 6.3� 6.3 6.3� ─� ─ 43.8� ─� ─� ─� 6.3� 6.3 37.6� 31.4� 69.0 6.3� ─� ─ ─� ─� ─ 18.8� ─� 6.3 12.5� 18.8� 31.3 ─� ─� ─ ─� ─� ─ ─� ─� ─� ─� ─� ─ ─� ─� ─ ─� ─� ─ ─� ─� ─ ─� 6.3� 18.8 ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─�� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 6.3� 6.3 ─� ─� ─ ─� ─� ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─� ─ ─ ─ ─ ─� ─� ─ ─� ─� ─ ─ ─ ─ ─� ─� ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─� ─ ─ ─� ─ ─ ─� ─� ─� ─�� ─� ─� ─� ─ ─ ─

合計(n, 移住者のみ対象:人)

(%)生業

 非労働力状態/失業状態a

 学生

農業・漁業

漁師農業半農半漁

自営業(非農業)

魚販売人大工サリサリ・ストア(雑貨店)経営者バイ・アンド・セル行商人バティック販売人真珠・貝殻販売人金製品販売人ココナッツ材販売業者チチャリア(スナック)行商人テーラーメカニック露天商ジュエリー職人パール・コーラル・ダイバーキャトル・レイジング労働者手配人マット織り(内職)Tシャツ販売店経営者金細工職人グソ(海藻)養殖人個人運転手洗濯婦トライシカッド(ペティ・キャブ)運転手トライシクル運転手廃品回収人バティック縫製職人非合法賭博元締め船大工フルーツ・スタンド販売人溶接工ウカイウカイ(古着)販売人衣料品販売店経営者オルガン奏者・歌手シップ・レスキュー業者住宅賃貸業者

83フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件─

他エスニック・グループとの比較から

─� ─� 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� 1.2� ─� ─ ─ ─� ─ ─� ─� ─� 0.9� ─� ─� ─� ─� ─� 2.4� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 0.3� ─� ─� ─� 1.2� ─� 1.2� ─� ─� ─� ─� ─ ─� ─� ─� 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 2.9� ─ ─ ─� ─� ─� 0.3� ─� ─� 0.6� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 0.6� ─ ─ ─ ─� ─� 2.4� ─� ─� ─ ─ ─� ─� ─� ─� 0.3� ─ ─ ─ ─� ─� 1.2� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 0.6� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 0.3� ─ ─ ─ ─� ─� 1.2� ─� ─� ─� ─ ─ ─� ─� ─� 0.3� ─ ─ ─ ─� ─� 1.2� ─� ─� ─ ─ ─� ─� ─� ─� 0.3� ─ ─ ─ ─� ─� 1.2� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 0.3� ─� ─� 0.6� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 0.3� ─ ─ ─ ─� ─� 1.2� ─ ─ ─� ─ ─ ─ 2.6� 3.0� 9.6� 0.9� 3.6� 1.8� 4.8� 2.4� 32.1� 0.0� 5.8� 26.4� 0.0� 0.0� 4.0 1.1� 0.9� 2.7� ─� 1.2� 0.6� 2.4� 1.2� 8.3� ─ ─ ─� ─ ─ ─ 0.4� ─� ─� 0.9� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─ 0.4� ─� ─� ─� ─� 0.6� 1.2� ─� 7.1� ─� ─� 8.8� ─� ─� ─ 0.4� 0.3� 0.6� ─� 0.6 ─ ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 4.0 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� 1.2� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─ ─ 0.6� ─� ─� 1.2� ─� ─� ─� ─� ─� 2.9� ─� ─� ─� ─ ─ 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� 1.2� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─ ─ 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 2.9� ─� ─� ─� ─ ─ 0.3� ─� ─� 0.6� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─ ─ 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 2.9� ─� ─� ─�� ─� ─� 1.5� ─� ─� ─� ─� ─� 4.8� ─� ─� 2.9� ─� ─� ─� ─� ─� 3.3� ─� ─� ─� ─� ─� 8.3� ─� ─� 11.8� ─� ─� ─� ─� ─� 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� 1.2� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� 1.2� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 0.3� ─� ─� 0.6� ─ ─ ─ ─ ─ ─� ─ ─� ─� ─� ─� 0.3� ─ ─ ─� ─� ─� 1.2� ─ ─ ─� ─ ─ ─� ─� ─� 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─ 2.5� 0.3� 0.9� 0.0� 0.0� 0.0� 3.6� 0.0� 0.0� 2.9� 0.0� 2.9� 8.8� 0.0� 0.0 1.4� ─� ─� ─� ─� ─� 1.2� ─� ─� 2.9� ─� ─� 8.8� ─� ─ 0.7� ─� 0.3� ─ ─ ─ 1.2� ─ ─ ─� ─� ─� ─� ─� ─� 0.4� ─� ─� ─� ─� ─� 1.2� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─ ─� 0.3� 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 0.3� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 2.9� ─� ─� ─ 5.7� 0.3� 4.5� 8.7� 0.6� 5.9� 3.6� 0.0� 4.8� 2.9� 0.0� 0.0� 6.0� 0.0� 4.0 2.8� ─� 3.3� 6.9� ─� 5.9� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 4.0 1.8� ─� ─� ─� ─� ─� 3.6� ─� ─ 2.9� ─� ─� 2.0� ─� ─� 0.4� ─� ─� ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─� 4.0� ─� ─ 0.4� ─� ─� 0.9� ─ ─ ─� ─� ─� ─ ─ ─ ─ ─ ─ 0.3� ─� ─� 0.9� ─ ─ ─ ─� ─� ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ 0.3� ─� ─� 0.6� ─� ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─� ─� ─� 0.9� ─� ─� ─� ─� ─� 3.6� ─ ─ ─� ─ ─ ─� ─� ─� 0.3� ─ ─ ─ ─ ─ 1.2� ─ ─ ─ ─ ─ ─�

─ ─ ─� ─ ─ ─� ─� ─ ─� ─ ─ ─� ─� ─� ─� ─� ─ ─� ─� ─� ─� ─� ─� 6.3� ─ ─ ─� ─ ─ ─� ─ ─ ─� ─� ─� ─� ─ ─ ─ 0.0� 0.0� 12.6 ─ ─ ─ ─� ─� ─ ─� ─� 6.3 ─� ─� ─ ─� ─� ─ ─� ─� ─ ─� ─� ─ ─ ─ ─ ─� ─� ─ ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─ ─ ─� ─� ─� 6.3 6.3� 6.3� 12.6 ─� ─� ─ 6.3� ─� 6.3� ─� ─� ─ ─� 6.3� 6.3� ─� ─� ─ 6.3� 0.0� 0.0 ─� ─� ─ 6.3 ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─� ─ ─ ─�

 (出所)��

 筆者のフィールド調査より作成.�

 (注)�回答不明を含まないため合計は必ずしも100%とならない. �a. 非労働力状態:主婦,高齢者や15歳未満で就学も就職もしていない者など,失業状態:15歳以上の者で求職していた者. �b. バジャウ(サマ)については,世帯主の両親に関する調査を一部の世帯で実施しなかったため,サンプル数が少なくなっている.�

住宅賃貸業者石工タバコ行商人バーター貿易はしけ運搬人バッグ職人バナナ・ディーラービーズ職人美容師ビリヤード・ホール経営者プラスチック販売店経営者ブリキ職人野菜ディーラー

賃金労働者

その他の日雇い労働者フィッシュポンド・ケアテーカー料理人建設労働者トゥバ(ココナッツ・ワイン)配達人港湾労働者ウェイター梱包労働者魚屋労働者販売手伝いジープニー運転手(雇われ)警備員印刷業手伝い工場労働者集金人タクシー運転手荷役人(港湾以外)

専門職・公務員

教師公務員PLDTオペレータイスラーム学校教師警察官

その他の収入源をもつ者

物乞い兵士MNLFメンバー伝統的医療者バジャウのイマーム助産婦(伝統的)年金生活者聖職者(キリスト教に改宗した牧師)

84

緩慢とはいえ、移住前の漁師比率と現在のそれでは 2割以上のちがいがあるから、非

漁業へ転換した者も確かにある。非農業の生業では、非バジャウと同様に自営業の比率

が高い(33.0 %)。しかし、職種の分布は非バジャウとはかなり異なり、かつ限定的であ

る。多い順に、「貝殻・真珠販売人」(18.8 %)、セブアノ語でウカイウカイ(ukay-ukay)

とよばれる古着を売る「古着販売人」(9.4 %)、「マット織り」(2.4 %)であった。このう

ち、マット織りは主婦が自宅用につくるもので余分にできれば親戚や隣人に譲るものな

ので、生業というほどのものではない。貝殻・真珠販売業と古着販売業はバジャウが従

事する場合、ほとんど行商であり、就業形態の点では当地におけるバジャウに特徴的な

生業である。真珠も古着も地場の製品ではなく、港湾として物流の要衝であるダバオ市

に移入してくる製品である。ダバオ市は地場人口の規模が大きいうえに、ミンダナオ有

数の観光地であるから、貝殻・真珠販売業や古着販売業はこうしたダバオ市の都市とし

ての性格に適した生業のようにみえる。

ダバオ市でバジャウが就いているもうひとつの特徴的な生業は、「物乞い」(5.9 %)で

ある。一見、非生産的で不適応な状態にみえるがそうではない。ダバオ市内には大小多

くの公設市場があり、豊富な生鮮食料品が毎日取引されているため、金銭だけではなく、

食糧を乞うことが可能である。本稿では質問紙調査で集めたデータを使っているために、

回答に抵抗感があろう物乞いについては過少申告になっていると思われる。観察によれ

ば、実際、市場(いちば)や大通りで恒常的な物乞いをすることで糊口をしのいでいるバ

ジャウは少なくない。この背景には、漁業の衰退がある。質問紙調査で現在も漁業を生

業としていると回答した者のうちには、現実には「現在も漁業を生業と考えている」と

いったほうが正確であって、市場交換どころか自給水準にも満たないような低生産性に

陥っていることもまれではない(21)。そのような場合、非漁業に速やかに転換できなけれ

ば、世帯構成員がばらばらに物乞いを展開し、なんとか生き残っていくことになるので

ある。

バジャウの生業転換は非バジャウにくらべて、世代間の職業移動も少なければ、ダバ

オ市における非漁業自営業の職種も極端に少ないことが特徴である。また、こうした生

業分布の特徴は、当然、経済生活の水準を示す諸指標にも反映されてくる。これを次節

で検討したい。

4.経済生活の水準(22)

1.所得 

現在、就業している世帯主 335人の 1日当たり所得は平均 177.7ペソ(23)である(表 4)。

単位を 1日当たりとしたのは、被調査者の 76.3 %が生業からの所得を 1日当たりの純益

アジア研究 Vol. 48, No. 2, April 2002

85フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件─他エスニック・グループとの比較から

(自営業)か日当(賃金労働者)として答えたためである。比較のために、週給(11.9 %)

や月給(11.9 %)とした者は日当に換算した。1日当たり労働時間は平均9.0時間、1週間

当たりの就業日数は平均6.25日で、ともに賃金支払い単位や職種とは相関がなかった。

エスニック・グループ別にいくつかの統計的な分析をしてみよう。まず 1日当たりの

生業からの平均所得では、高い順に、マラナオ 278.5ペソ、ラミヌサ221.5ペソ、セブア

ノ194.8ペソである。5グループのうちでバジャウは最も低く、153.9ペソであった(表4)。

申告された 1日当たり所得の最低値がバジャウでは 6ペソという値があるが、これは女

子の世帯主がマット織りをしている場合である。どのエスニック・グループにおいても

標準偏差が大きいことからもわかるように、賃金のばらつきが大きい。

ここで世帯主のうち移住者(325人)を対象に 1日当たりの所得の決定要因について若

干の考察をしておこう。表 5は、従来の移住者に関する研究において説明変数としてあ

げられてきた、年齢、就学年数(教育水準)、都市滞在年数(ダバオ市居住年数)、エスニシ

ティ(バジャウか非バジャウかの別)による重回帰分析を試みた結果である。自由度修正済

み決定係数が 0.062とモデルの当てはまりはよくないが、これをみると、就学年数が所

得決定に与える影響があることが示唆される。年齢は符号が通常の仮説と逆(24)、都市滞

在年数も符号が逆(25)かつ統計的に有意ではなかった。エスニシティは係数(β)をみる

 表 4 世帯主の生業からの1日当たり平均所得:エスニック・グループ別�

エスニック・グループ 平均値 度数 標準偏差 最小値 最大値�

合計 177.7� 335� 124.7512� 6.0� 700.0

バジャウ(サマ) 153.9� 166� 123.5355� 6.0� 600.0

非バジャウ�

 セブアノ 194.8� 87� 114.7040� 32.0� 640.0

 タウスグ 169.6� 32� 98.6848� 40.0� 560.0

 マラナオ 278.5� 17� 172.6464� 50.0� 700.0

 ラミヌサ 221.5� 24� 128.0010� 60.0� 480.0

 (出所)� 筆者のフィールド調査より作成.�

 (注)� 回答不明を含まないため合計は必ずしも100%とならない.分散分析結果:自由度5,F値4.611,有意確率0.000, R二乗0.020,イータ二乗0.065.

(単位:ペソ)

 表 5 世帯主の生業からの1日当たり平均所得水準に与える影響線形重回帰分析の結果�世帯主かつ移住者(n=325人)

非標準化係数 標準化係数�

モデル B 標準誤差 β t 有意確率

(定数) 166.596�� 30.464�� 5.469� 0.000

エスニシティ�(0=バジャウ,1=非バジャウ) 27.588�� 20.871� 0.111� 1.322� 0.187

年齢 -1.031�� 0.551� -0.109� -1.871� 0.062

就学年数 4.274�� 2.243� 0.156� 1.905� 0.058

ダバオ市居住年数 -0.496�� 0.757� -0.0400� -0.655� 0.513

 (注)� R二乗0.074(自由度修正済みR二乗0.062). � 分散分析結果(回帰):自由度4,F値6.385,有意確率0.000.

86

と、バジャウよりも非バジャウが有利であることが示唆されるが、有意確率が 0.187で

あり、統計的な意味は弱い。ただし、この分析は就業形態や業種の実態を考察していな

いので、詳しくはそうした特質を抽出する作業を踏まえたうえでの議論が必要となる。

事実として、バジャウは非バジャウとくらべて決定的に教育水準が低い(表 1)。就学

年数の平均は非バジャウでは男女ともに 7.0年であるのに、バジャウでは男子で 1.2年、

女子で0.9年にすぎず、最頻値にいたっては0.0年であった(26)。ほとんど学校に通ってい

ないバジャウでは、読み書き算数など基本的な学習をする機会がないという問題以外に、

国語であるフィリピーノ語、地域共通語であるセブアノ語、公用語である英語などを学

ぶ機会がないという問題もある。つまり、一般的な解釈において、バジャウは非バジャ

ウよりも人的資本において劣る。バジャウと非バジャウとの平均所得の格差は、能力あ

るいは生産性一定のもとでエスニシティによる差別があるのではなく、労働市場の外で

すでに決まっている能力差―ここでは学歴―のために、バジャウと非バジャウでは

就業する機会に質的な違いがあるためと推察されよう。

表 6は、生業別に 1日当たり平均所得をまとめたものである。上から下へ、高い順に

列挙してあり、太字の業種はバジャウに特有のものである。バジャウが就いている生業

には 1日当たり 300ペソ以上も稼げるような高収入のものはなく、非バジャウとの関係

において相対的に低い所得の就業機会に就いている。さらに、バジャウの内部に目をむ

けると、彼らに特有の生業にあっても所得の点でばらつきが大きい。平均所得が高い順

に、貝殻・真珠販売人で 248.2ペソ、古着販売人 175.0ペソ、漁師 139.2ペソ、物乞い

49.5ペソ、マット織り 8.5ペソである。このうち、貝殻・真珠販売人と漁師では、標準

偏差や最小値と最大値の乖離が大きい。質問紙調査では把握しきれなかったが、このふ

たつの生業はその内部に生産性の格差がある。具体的には、貝殻・真珠販売人では行商

かホテル販売かという就業形態の違い、漁師ではパナ(pana: 突き漁)を主とするか、パ

ラングレ(palangre: 延縄漁)・ボボ(bubu: 魚伏籠)を主とするかという漁法の違いを反映

するものである(27)。

つぎに、配偶者の生業からの所得を検討しよう。世帯主のほか配偶者も働いているの

は 123世帯で、配偶者(女子)の生業からの 1日当たり平均は 153.3ペソである(表 7)。

共稼ぎ世帯の比率は、全体で 31.3 %であった。エスニック・グループ別にみると、セブ

アノで 40.9 %、タウスグで 44.1%、マラナオで 32.0 %、ラミノサ 17.6 %、バジャウ

24.4 %である。バジャウでは共稼ぎが少なくみえるが、これは実際にはかなりの女子が

日常的に行っている物乞いが過少申告になっているためである。

平均所得をエスニック・グループ別にみると(表 7)、非バジャウに限ればラミヌサ

207.2ペソ、マラナオ 180.2ペソ、タウスグ 180.0ペソ、セブアノ 171.4ペソである。世

帯主のそれに比べてばらつきが小さいが、これは女子の場合、男子よりも限られた職種

に就いているためであろう。一方、バジャウの配偶者が稼ぐ 1日当たり所得の平均は非

バジャウよりかなり少なく、119.0ペソであった。ここでもやはりバジャウと非バジャウ

アジア研究 Vol. 48, No. 2, April 2002

87フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件─他エスニック・グループとの比較から

 表 6 世帯主の生業からの1日当たり平均所得:生業別�

       生業 平均値 度数 標準偏差 最小値 最大値�

       合計 177.7� 335� 124.7512� 6.0� 700.0

Tシャツ販売店経営者 700.0� 1�シップ・レスキュー業者 640.0� 1警察官 560.0� 1�野菜ディーラー 500.0� 1ココナッツ材販売業者 480.0� 1海外出稼ぎ労働者(ウェイター) 400.0� 1フィッシュ・ボール販売人 325.0� 2� 35.3553� 300.0� 350.0衣料品販売店経営者 300.0� 1�タクシー運転手 300.0� 1�はしけ運搬人 300.0� 1�プラスチック販売店経営者 300.0� 1�サリサリ・ストア経営者 287.9� 7� 167.0294� 100.0� 500.0�ジープニー運転手 256.0� 5� 153.8831� 100.0� 500.0�貝殻・真珠販売人 248.2 38 167.2687 40.0 600.0�バイ・アンド・セル行商人 247.1� 31� 122.507� 60.0� 500.0�公務員 240.0� 1バーター貿易 240.0� 1�露天商 240.0� 4� 108.3205� 160.0� 400.0メカニック 230.0� 2� 98.9949� 160.0� 300.0バッグ職人 225.0� 2� 106.0660� 150.0� 300.0魚販売人 222.5� 8� 139.0529� 80.0� 500.0�イスラーム学校教師 212.0� 1金細工職人 200.0� 1その他の行商人 200.0� 1�半農半漁 200.0� 1�溶接工 200.0� 1�テーラー 196.7� 3� 45.0925� 150.0� 240.0�年金生活者 180.0� 4� 151.4376� 80.0� 400.0�ブリキ職人 180.0� 1�古着行商人 175.0 2 35.3553 150.0 200.0�トライシクル運転手� 175.0� 2� 35.3553� 150.0� 200.0大工 162.7� 12� 17.9913� 144.0� 200.0�販売手伝い 160.0� 1石工 153.3� 3� 30.5505� 120.0� 180.0個人運転手 150.0� 2� 70.717� 100.0� 200.0スナック販売人 150.0� 2� 0.0000�警備員 144.3� 11� 33.9767� 68.0� 200.0清掃人 140.0� 1漁師 139.2 102 96.389 20.0 500.0�その他の日雇い労働者� 135.0� 10� 24.8813� 100.0� 180.0料理人 131.3� 13� 22.7815� 80.0� 155.0�印刷業手伝い 129.0� 1工場労働者 128.0� 1バナナ・ディーラー 128.0� 1集金人 120.1� 1�ビリヤード・ホール経営者 120.1� 1�廃品回収人 119.6� 2� 27.7186� 100.0� 139.2建設労働者 108.0� 2� 16.9706� 96.0� 120.0ビーズ職人 105.0� 2� 77.7817� 50.0� 160.0�タバコ行商人 100.0� 1�トライシカッド(ペディ・キャブ)運転手� 100.0� 2� 0.0000荷役人(港湾以外) 100.0� 1�美容師 96.0� 1物乞い 49.5 11 23.7123 30.0 100.0�家具職人 48.0� 1住宅賃貸業者 32.0� 1マット織り 8.5 4 2.5166 6.0 12.0

 (出所)��

 筆者のフィールド調査より作成.�

 (注)� 太字がバジャウに典型的な生業で,非バジャウの就業者は含まない.非バジャウは,セブアノ,マラナオ,タウスグ,ラミヌサ(シアシ系サマ)からなる.�

(単位:ペソ)

88

では就業機会に質的な違いがあることが影響している。

これらについて、生業別に 1日当たり平均所得をまとめた表 8をみてほしい。まず、

全体について世帯主よりも職種が少なく、300ペソ以上の高収入が得られる仕事はホス

テスと海外出稼ぎ労働者を除けば 4つしかない。つぎに、太字で示したバジャウに特有

の生業をみてみると、貝殻・真珠販売人に就いているとした 1名を除けば、大半は古着

販売人に集中しており、その1日当たりの所得は平均139.4ペソである。ここでも同じ古

着販売人であっても最小値 20ペソ、最大値 300ペソと格差があり、商売のやり方次第で

所得格差が生じることが示唆される。また、物乞いはここでは 2人しかいないが、とも

に40ペソを稼ぐとしている。

ここでみる限り、調査地の就業状況において、バジャウの女性は必ずしも最低の収入

しか得られない生業に就いているわけではない。しかし、だからといって問題がないと

はいえない。実質的に古着販売人という 1職種に集中していることは、比較的さまざま

な職種に就いている非バジャウと比べて極端に就業選択の自由がないことを示している

からである。

2.支出(28)

(1) 基礎的な支出項目

表 9は、支出水準はともかく、ある項目に何らかの現金支出をしているかどうか、た

ずねた結果である。ここで基礎的な支出として、食費、照明、水道、調理用燃料、交通

費をみると、すべての項目についてバジャウでは全体の平均より支出している世帯の比

率が低く、多くの項目でほとんどの非バジャウ・グループを下回っている。平均支出額(29)

についても考慮しながら(表10)、両グループの比較をしてみよう。

バジャウで食費を支出している世帯が 91.7 %ということは、逆に食事代を費やさずに

暮らしている世帯が 1割近くもいるということである。これはにわかに信じがたいが、

食費ゼロと申告したバジャウの世帯は、若年か高齢、あるいは健康上の問題などから自

ら食糧を調達できず、親戚や隣人に食べさせてもらっているか、あるいは自ら物乞いし

アジア研究 Vol. 48, No. 2, April 2002

 表 7 配偶者の生業からの1日当たり平均所得:エスニック・グループ別�

エスニック・グループ 平均値 度数 標準偏差 最小値 最大値�

合計 153.3� 123� 107.8634� 2.0� 700.0

バジャウ(サマ) 119.0� 51� 80.7918� 2.0� 300.0

非バジャウ�

 セブアノ 171.4� 42� 92.6583� 32.0� 400.0

 タウスグ 180.0� 13� 175.4993� 28.0� 350.0

 マラナオ 180.2� 6� 131.0862� 28.0� 350.0

 ラミヌサ 207.2� 9� 127.0970� 50.0� 400.0

 (出所)��

 筆者のフィールド調査より作成.�

 (注)� 回答不明を含まないため合計は必ずしも100%とならない.分散分析結果:自由度5,F値2.037,有意確率0.000, R二乗0.046,イータ二乗0.080.

(単位:ペソ)

89フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件─他エスニック・グループとの比較から

て糊口をしのいでいる、という可能性が考えられる。表10で支出額をみると、バジャウ

では 1日平均 107.2ペソ、非バジャウでは 121.1ペソである。ここで単位が 1日当たりか

ら 1ヵ月当たりまで与えられているのは、調査中、回答者によって支出を把握する期間

が異なったためである。バジャウはすべて 1日単位での回答であったが、非バジャウで

は1週間当たりと1ヵ月当たりである程度予算をたてて支出したと回答した者が 5件ずつ

あった。より長い期間を考えながら支出できるということは、かんたんにいえば、その

日暮らしではなく、まとめ買い― 1単位当たりの購入費は安く―できるということ

 表 8 配偶者の生業からの1日当たり平均所得:生業別�

      生業 平均値 度数 標準偏差 最小値 最大値�

      合計 153.3� 123� 107.8634� 2.0� 700.0

GRO(ホステス) 700.0� 1�

海外出稼ぎ労働者(家事労働者) 300.0� 2� 84.8528� 240.0� 360.0

貝殻・真珠販売人 300.0 1�

バイ・アンド・セル行商人 300.0� 2� 141.4214� 200.0� 400.0

美容師 300.0� 1�

プト行商人 300.0� 1�

ドレス・メーカー 260.0� 2� 28.2843� 240.0� 280.0

タバコ行商人 250.0� 1�

露天商 233.3� 3� 76.3763� 150.0� 300.0

サリサリ・ストア経営者 227.8� 18� 102.5874� 80.0� 400.0

食堂 210.0� 2� 127.2792� 120.0� 300.0

フィッシュ・ボール販売人 200.0� 1�

漁師 200.0� 2� 56.5685� 160.0� 240.0

魚販売人 166.7� 3� 28.8675� 150.0� 200.0

秘書 160.0� 1

集金人 150.0� 1

その他の臨時雇い 146.5� 3� 48.7173� 104.6� 200.0

古着販売人 139.4 42 71.0222 20.0 300.0�

廃品仕切り場手伝い 130.0� 1�

ビーズ職人 130.0� 2� 42.4264� 100.0� 160.0

清掃人 122.5� 2� 3.5355� 120.0� 125.0

教師 120.0� 1� 17.9913� 144.0� 200.0

販売担当職 105.0� 4� 40.2078� 50.0� 135.0

家具塗装職人 100.0� 1�

野菜ディーラー 100.0� 1

魚販売人手伝い 80.0� 2� 0.0000

政府臨時雇い 80.0� 1

工場労働者 68.0� 2� 16.9706� 56.0� 80.0

コンピュータ入力手伝い 50.0� 1

洗濯婦 49.8� 5� 27.2494� 28.0� 96.0

フルーツ販売人 45.0� 4� 10.0000� 30.0� 50.0

物乞い 40.0 2 0.0000�

プロック・リーダー 8.0� 1

マット織り 5.4 1 5.0000 2.0 12.0

 (出所)��

 筆者のフィールド調査より作成.�

 (注)� 回答不明を含まないため合計は必ずしも100%とならない.太字はバジャウに典型的な生業で,非バジャウの就業者は含まない.�

(単位:ペソ)

90 アジア研究 Vol. 48, No. 2, April 2002

 基礎的支出項目�

 表 10 平均支出額:項目別,バジャウ・非バジャウ別�

食費 電気 水道 調理用燃料a 交通費b

エスニック・グループ

単位 度数 平均支出額 度数 平均支出額 度数 平均支出額 度数 平均支出額 度数 平均支出額�

バジャウ(サマ) 1日当たり 168� 107.2� 73� 3.7� 160� 6.5� 158� 8.4� 133� 15.4

1週間当たり� ─� ─ 2� 50.0� ─� ─ 3� 18.7� 14� 21.6

  1ヵ月当たり� ─� ─ 74� 97.9� 6� 153.3� 3 215.0� ─� ─

  1行事ごと� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─

非バジャウd  1日当たり 170� 121.1� 4� 7.8� 35� 8.6� 75� 10.6� 141� 20.3

1週間当たり� 5� 370.0� 4� 175.5� 4� 43.8� 65� 26.5� 31� 67.3

  1ヵ月当たり 5� 2,260.0� 166� 184.3� 139� 121.9� 168� 169.0� 4� 77.5

  1学期当たり� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─� ─�

 (出所)� 筆者のフィールド調査より作成.�

 (注)� a. ガス,薪,木炭など.b. 通勤,通学,買い物など日常生活で必要となる交通費.c. 授業料,教科書代など就学に関係するすべての費用.d. セブアノ,タウスグ,マラナオ,ラミヌサの合計.�

(単位:ペソ)

 その他の支出項目�

タバコ 酒 賭博 教育費c

エスニック・グループ

単位 度数 平均支出額 度数 平均支出額 度数 平均支出額 度数 平均支出額�

バジャウ(サマ) 1日当たり 67� 16.6� 27� 31.1� 15� 23.7� 18� 17.8

1週間当たり 3� 15.7� 5� 30.5� 13� 53.8� 4� 122.5

  1ヵ月当たり� ─� ─ 5� 88.0� 3� 183.3� 1� 1,200.0

  1行事ごと� ─� ─� ─� ─� 4� 450.0� ─� ─

非バジャウ  1日当たり 101� 13.4� 15� 17.1� 3� 26.7� 40� 60.5

1週間当たり� 6� 25.0� 55� 44.1� 13� 72.7� ─� ─

  1ヵ月当たり 2� 245.0� 19� 72.6� 5� 162.0� 41� 760.0

  1学期当たり� ─� ─� ─� ─� ─� ─� 39� 752.0

 表 9 支出の有無:エスニック・グループ別�

何らかの支出があると回答した世帯の比率(%)�エスニック・グループ

母数 食費 電気 水道 調理用燃料a 交通費 タバコ 酒 賭博 教育費b�

合計 364� 95.6� 88.7� 94.5� 90.9� 89.0� 49.2� 40.4� 15.4� 65.6

バジャウ(サマ) 180� 91.7� 81.8� 90.6� 88.9� 80.6� 38.3� 32.2� 19.4� 25.6

非バジャウ�

 セブアノ 96� 100.0� 96.9� 99.0� 96.9� 99.0� 53.1� 56.3� 14.6� 96.7

 タウスグ 35� 100.0� 91.4� 97.1� 88.6� 100.0� 68.6� 31.4� 5.7� 85.2

 マラナオ 17� 100.0� 100.0� 100.0� 88.2� 100.0� 58.8� 29.4� 5.9� 90.0

 ラミヌサ 27� 96.3� 96.3� 96.3� 85.2� 92.6� 59.3� 48.1� 11.1� 90.5

 (出所)� 筆者のフィールド調査より作成.�

 (注)� 回答不明を含まないため合計は必ずしも100%とならない.a. ガス,薪,木炭など.b. 7歳─20歳の子供がいる世帯のみを対象.母数は合計214(サマ87,セブアノ69,タウスグ27,マラナオ10,ラミノサ21).ピアソンのカイ二乗は自由度5で,漸近有意確率は項目ごとに,食費:0.016,電気:0.001,水道:0.047,調理用燃料:0.193,交通費:0.000,教育費:0.000,タバコ:0.000,酒:0.002,賭博:0.258.�

91フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件─他エスニック・グループとの比較から

である。こうした支出行動は安定した収入の裏返しでもあり、バジャウにはみられなか

った。

電気代では非バジャウ・グループでは 9割以上の世帯で支出があるのに、バジャウで

は81.8 %と、10ポイントほど低い。これはそのまま両グループの電力化水準の格差を示

す。バジャウでは照明器具を含む家電製品を使っていない世帯が非バジャウよりも多い。

表 10をみると、電力会社と正規に契約し、メーターを所有している場合、支払いは1ヵ

月ごとのため、1ヵ月当たりで支払い額を答えた者が多い。非バジャウではほとんどが

これに該当し、月平均 184.3ペソの支出である。バジャウでは、1ヵ月当たりと答えた者

は約半数の74件、平均97.9ペソだった。またバジャウでは、電気代を1日当たりの支出

額とした者が73件もあった。これは、正規契約をしている世帯から非合法に電線を引き

入れている場合などに、1日あるいは1週間単位で支払い額を決めていることがあるため

である。つぎにみる水道と同様に、正規契約をしていないとかえって単位当たりの支出

は高くなる。

水道代(飲料水・生活用水)も非バジャウでは 100 %近い世帯で支出があるのに、バジ

ャウでは 9割弱と少ない。水道は、非バジャウの場合には水道局と個人が正式にメータ

ー契約して設置した水道管を隣人と共同使用していることが多い。一方、アラスカ地区

のバジャウ住民ではこうしたメーター契約をしている個人は皆無である。かわりに、地

区内にはタウスグ経営のサリサリ・ストア(雑貨店)、隣接地区にはセブアノ経営のサリ

サリ・ストアがあるので、彼らはこれらの非バジャウの店から必要に応じて水を購入し、

プラスチック製ガロン容器などで自宅まで運搬して使っている。価格は店によって異な

るが、だいたい1ガロン(約3.8リットル)25─50センタボ(30)である。表10をみると、バ

ジャウでは大半にあたる 160件、非バジャウでも 35件で支払い単位が 1日当たりで、そ

の多くはこうした水の購入をしている。水道管利用よりも単位当たりのコストが高いば

かりでなく、水運搬にかかる時間や労力など機会費用も大きい。水道は、トイレや洗濯

場、台所の施設状況との関係も深く、バジャウではこうした衛生水準も低いことが示唆

される。

調理用燃料費を支出しているとした世帯の比率は、バジャウと非バジャウで統計的に

有意な差はない。燃料費ゼロのケースとしては流木などを燃やして煮炊きに使うことが

考えられるが、表 9の結果から多くの家庭では何らかの燃料を購入しているといえる。

表10は、こうした燃料の支出構造がバジャウと非バジャウでかなり違うことを示す。バ

ジャウでは、ほとんどが 1日単位で支出しており(平均 8.4ペソ)、具体的には木炭や薪を

購入している。非バジャウでは、1日単位が 75件のほか、1ヵ月単位が 168件(平均

169.0ペソ)に達している。これはガスをボンベで購入して使っていることが多い。ガ

ス・ボンベの利用は、木炭や薪に比べ調理効率が高いという利点がある。バジャウの家

庭では多くの場合、女性が食事の仕度をするが、彼女たちが木炭や薪を使って調理する

ところを観察すると、実際、品数は主食のほかに 1品と少ないにもかかわらず、長い時

92

間が費やされている。

交通費でもバジャウと非バジャウの支出格差は同様である。ここでは、買い物や通

勤・通学など日常生活にかかる交通費をきいた。大半はジープニー(jeepney)(31)への支

出である。バジャウでは支出があるとした世帯は 80.6 %だから、2割近くの世帯では交

通費を使っていないことになる。この背景としては、彼らの日常生活の行動範囲が狭く

て歩いていける範囲ですませているか、非バジャウならジープニーで移動する距離―

たとえばイスラ・ベリャから車で10分ほど離れた公設市場など―を交通費節約のため

に歩いてすませている、などが考えられる。表10をみると、支出水準もバジャウのほう

が非バジャウより低くなっており、それぞれ1日平均15.4ペソ、20.3ペソである。

(2) 奢侈的な支出項目

表 9によれば、タバコと飲酒に何らかの現金支出をしている世帯の比率は、バジャウ

より非バジャウのほうが高い。タバコではバジャウが 38.3 %であるのに対して、非バジ

ャウではおしなべて 50 %以上である。ただし、表 10をみると支出水準はあまり差がな

く、バジャウで 1日平均 16.6ペソ、非バジャウで13.4ペソであった。飲酒ではバジャウ

で 32.2 %の世帯に支出があり、非バジャウではセブアノとラミヌサでは5割前後、タウ

スグとマラナオでは 3割前後であった(32)。飲酒代の支出がある世帯についてみれば、そ

の平均支出額はバジャウのほうが非バジャウよりも 1日当たり(それぞれ 31.1ペソ、17.1

ペソ)や1ヵ月当たり(同88.0ペソ、72.6ペソ)では、むしろ高い。なお、非バジャウでは

飲んでいる酒の種類はラムやビールが多いが、バジャウではほとんどがÔTubaÕとよばれ

るココナッツ酒である。

賭博はここでの結果をみる限り、バジャウのほうが非バジャウよりも支出している世

帯比率が高い。バジャウ19.4 %に対して、セブアノ14.6 %、タウスグ 5.7 %、マラナオ

5.9 %、ラミヌサ 11.1%であった。平均支出額は、バジャウで 1日23.7ペソ、あるいは1

週間当たりで53.8ペソ、非バジャウでそれぞれ26.7ペソ、72.7ペソであった。バジャウ

の場合、賭博に現金をつかう単位としては「一行事当たり」というのがある。これは不

定期に行われる結婚式や年一回のハリラヤ(Hari Raya)(33)の祭りに催されるギャンブル

を指している。なお、調査地で行われている非合法賭博はバジャウと非バジャウでは種

類がちがう。非バジャウでよく行われるのは、ÔLast TwoÕとよばれる、プロ・バスケッ

ト・リーグ試合得点結果の下二桁の数字を当てる賭である。掛け金は5ペソからで、週2

─ 3回行われる。元締めが朝や夕方に個々の家庭をまわって掛け金を集金、賞金を分配す

る形式がとられる。一方、バジャウではÔtikamÕとよばれるサイコロと文字盤を組み合わ

せたものや、トランプ・カードを使うものが多い。バジャウ地区の広場で日中催されて

いるものについては地区外に住むタウスグの経営であるが、散発的に個々の家庭や隣人

同士で行うものもある。いずれにしても、Last Twoとは異なり、25センタボ程度と少額

から参加でき、その場ですぐに結果がでることが特徴的である。バジャウ地区に何度か

通えば、こうしたギャンブルは日常的な光景であることがすぐにわかる。子供が遊びと

アジア研究 Vol. 48, No. 2, April 2002

93フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件─他エスニック・グループとの比較から

してやっていることも多い。実際には質問紙調査に申告しなかったバジャウ世帯のかな

りにおいて、賭博への支出はあると考えられる。

(3) 教育への支出

バジャウと非バジャウとの格差が最も大きかったのが、この項目であった。表 9によ

れば、7歳から 20歳までの子供がいる世帯のうち、何らかの教育関連支出をしている世

帯の比率は、キリスト教徒であるセブアノで 96.7 %、イスラーム教徒でもタウスグ

85.2 %、マラナオ 90.0 %、ラミヌサ 90.5 %と高かった。これに対して、バジャウでは

25.6 %にすぎない。ここではたとえ公立の学校に通っていて授業料が無料だったり、非

政府組織(NGO)からの奨学金で教科書代や諸経費を支給されていたりするにせよ、親

 表 11 住民の平均就学年数:エスニック・グループ別・年齢層別�

エスニック・グループ 年齢層 度数 平均就学年数�

全体 7─16歳 434� 3.1

17─29歳 583� 4.8

30─49歳 476� 4.9

50歳以上 133� 2.8

合計 1,626� 4.2�

バジャウ(サマ) 7─16歳 179� 1.3

17─29歳 302� 1.3

30─49歳 206� 0.6�

50歳以上 76� 0.3�

小計 763� 1.0

セブアノ 7─16歳 255� 4.3

17─29歳 281� 8.6�

30─49歳 270� 8.2�

50歳以上 57� 6.2

小計 863� 7.0

タウスグ 7─16歳 53� 4.5�

17─29歳 59� 7.4

30─49歳 55� 8.1

50歳以上 9� 4.2

小計 176� 6.6

マラナオ 7─16歳 52� 4.0

17─29歳 53� 9.4

30─49歳 48� 7.7

50歳以上 9� 3.4�

小計 162� 6.8

ラミヌサ 7─16歳 17� 3.9

17─29歳 18� 7.2

30─49歳 16� 9.8

50歳以上 2� 8.0

小計 53� 7.0

 (出所)� 筆者のフィールド調査より作成.�

 (注)� 全体には「その他のエスニック・グループ」(度数35,平均6.9年)を含むが,ここでの議論に直接関係ないので記載を省いた.分散分析結果:自由度5,F値306.118,有意確率0.000.

94

が負担しなければならない若干の費用(通学にかかる交通費、弁当・おやつ代、諸々の行事代

など)も含めてきいているので、支出ゼロ世帯は子供が学校に通っていないとみなしてよ

い。バジャウでは未成年者がいる世帯のうち 7割では、子供に学校教育を受けさせてい

ないことになる。たとえ学校に通わせていたとしても、バジャウの支出水準は低く(表

10)、1日平均 17.8ペソにすぎない。このほとんどがキリスト教に改宗したグループに属

し、教会からの援助で地元の公立小学校低学年に子供を通わせているものである。バジ

ャウで1件だけある1ヵ月当たり1,200ペソというのは、バジャウの中で最富裕の家族が

子供たちを中等・高等教育まで進ませている例外的ケースである。一方、非バジャウの

場合、1日当たりの支出(平均 60.5ペソ)40件のほか、1ヵ月当たり(平均 760.0ペソ)41

件、1学期当たり(平均 752.0ペソ)39件という回答があった。このばらつきは、公立か

私立か、初等教育か中等、高等教育かなどで支払いの時期や額が異なることによる。

バジャウの教育支出が少ないことは、非バジャウにみられる世代間の学歴改善(就学年

数の伸長)効果がバジャウではあまりみられないという事実にも反映される(表 11)。バ

ジャウも、タウスグやラミヌサと同じスルー系難民であるのに、出身地においても現在

の居住地においても、教育機会に恵まれてこなかったことがわかる。

3.負債

ここでは過去 1ヵ月における負債についてきいた。当初は累積負債額について質問す

る予定だったが、バジャウの被調査者では 1ヵ月という単位で金銭の管理をしているこ

とがまれで、負債についても「借りたときは、1日だいたいこれくらいの金額だった」

という回答をすることが少なくなかった。以下では、借入行動においても支出行動と同

様に、バジャウのほうが非バジャウよりも小口な傾向が読み取れる。

表12はまず、エスニック・グループ別に何らかの負債がある世帯比率をまとめたもの

である。非バジャウのセブアノ 58.3 %、タウスグ 51.4 %、マラナオ 41.2 %、ラミヌサ

74.1%に対して、バジャウでは 78.9 %と高かった。また、バジャウと非バジャウでは負

債の内容に大きなちがいがある。表 13は負債額をみたものであるが、バジャウの場合1

日当たりでの回答が 40件あり、平均 107.8ペソであった。またバジャウのうち 1ヵ月当

たり(累積)で回答した96件では、平均3,136.5ペソである。これに対して非バジャウの

場合、1週間当たりや 1ヵ月当たりの負債額を答えることが多く、平均はそれぞれ240.7

ペソ、3,665.8ペソであった。

表14は負債の主たる目的をまとめたものである。バジャウ、非バジャウともに最も多

いのは、基礎的消費のための小口の借金だった(それぞれ 49.0 %、55.7 %)。これは食糧や

燃料などを買うための現金借入のほか、サリサリ・ストアからの付けでの購入が含まれ

る。これ以外の目的ではバジャウと非バジャウでかなり異なってくる。バジャウの場合、

基礎的消費につぐ目的は、古着販売業の資本(14.7 %)、医療費(11.2 %)、漁船建造・購

入費(9.1%)、旅費(4.9 %)、葬式費用(4.2 %)の順である。古着や漁船などは調査地の

アジア研究 Vol. 48, No. 2, April 2002

95フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件─他エスニック・グループとの比較から

 表 12 負債の有無(過去1ヵ月):エスニック・グループ別�

エスニック・グループ 度 数 負債のある世帯の比率�

合計 364� 68.4

バジャウ(サマ) 249� 78.9

非バジャウ

 セブアノ 96� 58.3�

 タウスグ 35� 51.4

 マラナオ 17� 41.2

 ラミヌサ 27� 74.1

 (出所)� 筆者のフィールド調査より作成.�

 (注)� 分類不明を含まないため合計は必ずしも一致しない.ピアソンのカイ二乗:自由度5,漸近有意確率(両側)0.000.�

負債の金額�エスニック・グループ

単位 度数

平均値 最小値 最大値�

バジャウ(サマ) 1日当たり 40� 107.8� 30.0� 200.0

1週間当たり 6� 1,291.7� 50.0� 7,000.0

  1ヵ月当たり� 96� 3,136.5� 100.0� 30,000.0

  累積� 1� 1,000.0� 1,000.0� 1,000.0

非バジャウ  1日当たり� 4� 1,287.5� 50.0� 3,000

1週間当たり� 29� 240.7� 50.0� 1,000

  1ヵ月当たり� 73� 3,665.8� 100.0� 46,000

 (出所)� 筆者のフィールド調査より作成.�

 (注)� 分類不明を含まないため合計は必ずしも一致しない.非バジャウ:セブアノ,タウスグ,マラナオ,ラミヌサの合計.�

(単位:ペソ)  表 13 負債の金額(過去1ヵ月):バジャウ・非バジャウ別�

合計 バジャウ(サマ) 非バジャウ�

度数 249� 143� 106

目的�

基礎的消費 51.8� 49.0� 55.7

商売の資本 12.4� 0.7� 28.3

医療費 7.2� 11.2� 1.9

漁船建造/購入費 5.6� 9.1� 0.9

古着販売業の資本 2.8� 14.7� 0.9

旅費 2.8� 4.9� ─�

住居費 2.8� 1.4� 4.7

教育費 2.8� 0.0� 6.6

葬式費用 2.4� 4.2� ─�

漁船操業費(ガソリン等) 1.6� 2.8� ─�

その他(耐久消費財購入など) 0.8� 0.7� 0.9

貝殻・真珠販売業の資本 0.2� 1.4� ─�

 (出所)��

 筆者のフィールド調査より作成.�

 (注)� 分類不明を含まないため合計は必ずしも一致しない.非バジャウ:セブアノ,タウスグ,マラナオ,ラミヌサの合計.ピアソンのカイ二乗:自由度11, 漸近有意確率(両側)0.000.�

(単位:%)  表 14 負債の主たる目的:バジャウ・非バジャウ別�

96

バジャウ特有の生業に関わる支出で、借金をしてさえニーズを満たそうとする意欲があ

らわれている。旅費とは、観光旅行や帰省の費用ではなく、ダバオ市外に物乞いや行商

ででかける場合や各地に散らばる親族をたずねる費用であることが多い。また葬式は、

バジャウの生活の中で突発的かつ緊急(34)の支出を迫るもので、身内からの集金で間に合

わない場合には借金をすることになる。他方、非バジャウでは、商売の資本(28.3 %)、

教育費(6.6 %)、住居費(4.7 %)などのために借入がなされることが多い。

借入先は、信用市場へのアクセスをみるという意味で重要である。調査地のような都

市貧困層居住区では一般に、インフォーマルな金融制度の利用が多く、さらにそれは血

縁や地縁を基礎にしていると考えられる。

表 15によれば、セブアノの 67.9 %、タウスグの 55.6%、マラナオの 85.7 %、ラミヌ

サの 55.0%が自分と同じエスニック・グループの者を主たる債権者としている。バジャ

ウではその比率がやや低いから(43.7 %)、エスニック・グループ内部での資金調達能力

が劣ると考えられる。その分、バジャウはセブアノ(33.8%)やタウスグ(12.0%)を中

心に非バジャウから借入を行わざるを得ないが、一方で政府―たとえばダバオ市社会

サービス開発局(City Social Services and Development Office: CSSDO)―のローンなどは

あてにしていないようだ。政府からの借入が主たる債権者にあげられているのは、セブ

アノ(8.9 %)とラミヌサ(10.0 %)に多かった。

エスニシティによって借入先は異なっている。表 16に示されるように、同じエスニッ

ク・グループから借入をする傾向の強い非バジャウの場合、債権者は家族・親戚や友

人・隣人など近しい個人であるか、スラム地域にあって備蓄機能をもつサリサリ・スト

アであることがほとんどである。そうでなければ、セブアノでは市民団体や協同組合

(28.3 %)、タウスグでは商売における委託元(16.7 %)に頼ることもある。これに対して、

バジャウでは家族・親戚や友人・隣人に頼る傾向は否定できないものの、その水準は非

バジャウの場合より低い。バジャウで顕著なのは質屋からの借入である(28.9 %)。つま

アジア研究 Vol. 48, No. 2, April 2002

 表 15 主たる債権者のエスニック・グループ:エスニック・グループ別�

セブアノ タウスグ マラナオ ラミヌサ チャイニーズ 政府 その他a�

合計 249� 249.0� 41.4� 14.5� 5.6� 4.8� 4.4� 2.8� 1.6

バジャウ(サマ) 142� 43.7� 33.8� 12.0� 3.5� ─� 7.0� ─� ─�

非バジャウ�

 セブアノ 56� ─� 67.9� 12.5� 3.6� 1.8� 1.8� 8.9� 3.6

 タウスグ 18� ─� 33.3� 55.6� 5.6� ─� ─� ─� 5.6

 マラナオ 7� ─� 14.3� ─� 85.7� ─� ─� ─� ─�

 ラミヌサ 29� ─� 30.0� 5.0� ─� 55.0� ─� 10.0� ─�

非バジャウ

債権者のエスニック・グループ�

 (出所)� 筆者のフィールド調査より作成.�

 (注)� 分類不明を含まないため合計は必ずしも一致しない.a. NGOs, civic organizations, cooperatives. ピアソンのカイ二乗:自由度35,漸近有意確率(両側)0.000.

(単位:%)

バジャウ�(サマ)�

度数�

97フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件─他エスニック・グループとの比較から

り、近しい個人を頼るよりは、むしろ街で経営している、必ずしも顔のみえる関係では

ない商業的な金貸しに行く。質入れするのは、指輪などの宝飾品―しばしば金製品

―や腕時計などであり、こうした換金性の高い資産は移動性の高いバジャウにあって

伝統的な富の貯蓄手段と考えられてきた。また、払えなければ質草を流してしまえばよ

い、という点で後腐れのない負債である。金銭の貸し借りをひとつの軸とした継続的取

引関係がないということである。一方、雇用契約や商品売買契約との複合契約としての

借入行動もバジャウの場合、希薄である。魚の仲買人や真珠卸売り業者から長期契約を

前提とした信用供与を受ける者もあるが(2.8 %)、まれである。フォーマルな貸し手であ

り、低利で小口融資を提供する協同組合や非営利組織からの借入は1.4 %にとどまった。

同じバジャウの家族・親戚、友人・知人などや、非バジャウであっても質屋のみから借

入をしている以上、バジャウの借入額には限界がある。ここでは直接取り上げなかった

が、非バジャウにしばしばみられる講のようなインフォーマル金融への参加もバジャウ

の場合にはまれであるから、全体としてバジャウの信用市場へのアクセスはかなり制限

的といえよう。

5.民族間イメージ(35)

1.非バジャウによるバジャウのイメージ 

(1) バジャウのイメージ

前項まで、基本的属性や所得・支出、住居や耐久消費財などの指標を用いて、バジャ

 表 16 主たる債権者の属性:エスニック・グループ別�

合計 セブアノ タウスグ マラナオ ラミヌサ�

度数 249� 142� 56� 18� 7� 20

債権者の属性�

家族・親戚 30.5� 38.0� 55.7� 27.8� 42.9� 15.0�

雑貨屋(サリサリ・ストア) 19.3� 7.7� 4.7� 11.1� 42.9� 45.0

友人・隣人 18.5� 16.9� 0.9� 38.9� 14.3� 10.0

質屋 17.3� 28.9� 0.9� ─� ─� 10.0

private lendersa� 4.0� 3.5� ─� ─� ─� 5.0�

販売委託者/魚仲買人/雇用主� 4.0� 2.8� 1.9� 16.7� ─� ─

市民団体/協同組合 2.4� 1.4� 28.3� 5.6� ─� ─

政府(CSSDO,SSS等) 2.4� ─� 6.6� ─� ─� 10.0

lending associations� 1.2� ─� ─� ─� ─� 5.0

非バジャウ�

債務者のエスニック・グループ�

 (出所)��

 筆者のフィールド調査より作成.�

 (注)� 分類不明を含まないため合計は必ずしも一致しない.a. 個人の金貸し業者で,自宅で経営することもある.必ず利子をとる.ピアソンのカイ二乗:自由度45,漸近有意確率(両側)0.000.

(単位:%)

バジャウ�(サマ)�

98

ウと非バジャウの生活水準を比較してきた。こうした客観的指標は、バジャウの社会経

済的福祉が非バジャウよりも低いことを示している。移民世帯を主とする不法占拠者居

住区で住民全体が貧困状態にある中で、バジャウは他のエスニック・グループとくらべ

て一層貧しいのである。

周囲にくらべて極端に物質的に貧しいという事実は、しばしば、非バジャウのバジャ

ウに対する蔑視的なイメージに結びつく。表 17は、いくつかの具体的なイメージを項目

とし、それにバジャウがどの程度当てはまると思うか、という主観的調査を非バジャウ

に対して実施した結果である。サンプルは前項までの客観的調査と同じである。数値が

1に近づくほど該当度が高く、3に近づくほど低くなるという尺度評価を用いた。

イメージ項目は 11ある。そのうちポジティヴな項目は 8つで、「誠実さ」、「清潔さ」、

「親しみやすさ」、「気前のよさ」、「信心深さ」、「働き者」、「知識深さ」、「結婚相手として

の適性」などである。結果をみると「働き者」以外の項目では、セブアノ、タウスグ、

マラナオ、ラミヌサによるバジャウの評価は平均値 2.5を上回っており、バジャウがも

つポジティヴなイメージについて低い評価を下した。

ところで、質問は基本的にセブアノ語でなされたが、非バジャウとバジャウでは言葉

の解釈が違うことがあった。たとえば、非バジャウのいう「清潔さ」とは、住環境や服

装が衛生的であるか、という物理的側面に関する評価である。同様に、「信心深い」とい

う場合には、礼拝所(教会やモスク)をもち、そこで祈るという目にみえる実践が重視さ

れていた。

他方、ネガティヴな項目は、「尊大さ」、「トラブルメーカー」、「自分勝手さ」の 3つで

ある。前者ふたつでは平均値が 2以上で、非バジャウはクリスチャン(セブアノ)もムス

リム(タウスグ、マラナオ、ラミヌサ)も、バジャウのことを、尊大ではなく、他者に喧嘩

アジア研究 Vol. 48, No. 2, April 2002

 表 17 非バジャウによるバジャウのイメージ:�エスニック・グループ別(尺度の平均値)�

セブアノ タウスグ マラナオ ラミヌサ�

度数 95� 35� 17� 26

誠実さ� 2.5579� 2.6571� 2.7059� 2.5000

清潔さ� 2.7684� 2.6571� 2.7059� 2.8846

親しみやすさ 2.4947� 2.5714� 2.5882� 2.6538

気前のよさ 2.6105� 2.4857� 2.6471� 2.6154

信心深さ� 2.7368� 2.5429� 2.7647� 2.5769

働き者 2.2842� 2.3714� 2.4118� 2.3077�

知識深さ� 2.8526� 2.8000� 2.7647� 2.7308

結婚相手としての適性 2.5895� 2.5143� 2.5882� 2.5385

尊大さ� 2.4526� 2.0571� 2.4706� 2.6923

自分勝手さ 1.9895� 1.9143� 1.7647� 2.0769

トラブルメーカー� 2.3895� 2.1714� 2.1176� 2.4615

 (出所)��

 筆者のフィールド調査より作成.�

 (注)� 尺度1:非常に当てはまる,2:まあまあ当てはまる,3:あまり当てはまらない.

99フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件─他エスニック・グループとの比較から

を売りつけるようなトラブルメーカーではない、いわばおとなしいグループとみなして

いる。「自分勝手さ」では、ラミヌサをのぞいた非バジャウが 2未満の平均値となってい

ることを考えれば、おとなしいがいいなりにはならない、というのが対バジャウ・イメ

ージなのかもしれない。

(2) バジャウの貧困改善のために―非バジャウの見方

この調査では非バジャウがバジャウを蔑視していることが予想されていたため、同時

に、「バジャウの生活水準向上のためには何が必要と思いますか」という質問を自由回答

方式で行った。回答の累積度数は491で、多かった順に、「生業プロジェクト」(46.8 %)、

「教育」(33.6 %)、「価値形成のためのグループ・コンサルテーション」(6.3 %)、「漁業に

よる生計改善」(5.7%)、「衛生・保健・家族計画」(3.9 %)、「定住するように住宅を供与」

(1.0 %)、「デイケア・プログラム」(1.0 %)、「宗教をもつこと」(0.6 %)、「社会組織化」

(0.4 %)、「社会による認知」(0.4%)、「物乞いをやめること」(0.4 %)、「賭博をやめること」

(0.4 %)であった。つまり、多くの非バジャウは、バジャウは経済力と教育をつけること

が先決だと考えている。「社会による認知」という限られた回答を除けば、非バジャウに

よるバジャウに対する蔑視がさして問題とは考えていないようだ。経済学的にいえば、

市場的な競争力―すなわち生産性―を高めて市場的結果(金銭的報酬など)を得られ

るように人的資本を改善すれば、バジャウの貧困も解決するであろう、という発想であ

る。一方、「価値形成のためのグループ・コンサルテーション」、「衛生・保健・家族計画」、

「定住するように住宅を供与」、「宗教をもつこと」などには、現在もっている文化や価値

観のままでバジャウが社会的に上昇することはできない、という非バジャウの見方が示

唆されよう。

2.バジャウの自己イメージと非バジャウのイメージ

(1) ポジティヴな自己イメージ

表18は、バジャウの自己イメージをまとめたものである。これによれば、非バジャウ

がバジャウにかなり否定的なイメージをもつのに反し、バジャウ自身のセルフ・イメー

ジはむしろポジティヴなことが明らかである。

「誠実さ」、「親しみやすさ」、「気前のよさ」、「働き者」などの好ましい項目では、評価

の平均値は概ね2未満、つまりよく当てはまると考えられていた。「結婚相手」としては、

同じバジャウが最も好ましいとされている。これは「よく分かりあえるし、喧嘩したり、

ばかにされたりしなくてよいから」という説明が多かった。一方、好ましくない項目の

「尊大さ」、「自分勝手さ」、「トラブルメーカー」では、平均値は2.7以上で、あまり当て

はまらないという評価である。

自己評価が低かった項目は、「清潔さ」、「信心深さ」、「知識深さ」であった。これに対

しては反発するバジャウもあり、それは言葉の捉え方による場合もあった。たとえば

「清潔さ」については「バジャウはムスリムとちがって人を殺さない。だから彼らよりず

100

っと潔癖だ」という答えがあった。「信心深さ」についても「バジャウはモスクや教会に

行かないが、毎日、家で神に祈っているから、ほかのグループに負けないくらい信心深

い」という答えがあった。また、「知識の深さ」については、大方の回答者が「バジャウ

は学校に行かないから物を知らない」としつつも、中には「学校に行かなくても魚をと

ったり、船を操ったり、生活の知恵はたくさんある」と主張する者もあった。

さらに、多くの非バジャウが「バジャウは怠け者。生活向上には生業が必要だ」と提

案しているにもかかわらず、ここでバジャウが自己を「働き者」と評価していることは

興味深い。聞き取りによれば、彼らがいう働き者とは「日々の糧を休みなく探し続けて

いる状態にある者」である。その結果、どのくらい現金あるいは食糧を確保できたかと

いうことはあまり問題ではない。これは、非バジャウの考える「勤労・勤勉」のイメー

ジ――より高い生産性、効率、報酬を目指して努力を続ける――とは大きなずれがある。

「バジャウは働かないから貧困である」のではなく、「バジャウは一生懸命働いているの

にもかかわらず貧困である」というのが彼ら自身の理解である。

(2) 非バジャウのイメージ

表18にはまた、バジャウによる非バジャウのイメージについても併記した。一見して、

バジャウがキリスト教徒であるセブアノに相対的に好意的なイメージを抱いていること

がわかる。バジャウからみて、セブアノは「誠実で、清潔で、親しみやすく、気前よく、

信心深く、最も働き者で知識が豊富である。また、慎み深く、自分勝手ではなく、トラ

ブルメーカーでもない。結婚相手として同じバジャウのつぎに好ましい」という良いイ

メージである。聞き取りによれば、物乞いや物売りは対象がセブアノの場合のほうが、

罵られたりすることもなく気が楽で、そういう意味でもセブアノが多数のダバオ市は生

アジア研究 Vol. 48, No. 2, April 2002

 表 18 バジャウによる自己イメージ・非バジャウのイメージ:�エスニック・グループ別(尺度の平均値)�

セブアノ タウスグ マラナオ ラミヌサ�

度数 147 147 147 147 147

誠実さ� 1.3673� 1.3537� 2.8163� 2.8776� 1.9048

清潔さ� 2.4694� 1.1429� 2.2993� 2.2857� 2.1973

親しみやすさ 1.5034� 1.1905� 2.8163� 2.8163� 1.1905

気前のよさ 1.6054� 1.0272� 2.8367� 2.8707� 1.9592

信心深さ� 2.7619� 1.5238� 1.5986� 1.5102� 2.2789

働き者 1.8095� 1.2789� 2.4218� 2.3673� 2.0612�

知識深さ� 2.6803� 1.1633� 2.0272� 1.8707� 2.3197

結婚相手としての適性 1.2925� 1.3946� 2.8707� 2.8912� 2.1565

尊大さ� 2.7823� 2.5578� 1.1973� 1.2109� 2.0816

自分勝手さ 2.7483� 2.6122� 1.1429� 1.1293� 2.1973

トラブルメーカー� 2.7891� 2.7007� 1.1769� 1.2177� 2.1088

 (出所)��

 筆者のフィールド調査より作成.�

 (注)� 尺度1:非常に当てはまる,2:まあまあ当てはまる,3:あまり当てはまらない.バジャウについては一部の世帯でこの質問項目を実施しなかったため,悉皆調査となっていない.

バジャウによる非バジャウのイメージ�バジャウの�自己イメージ�

101フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件─他エスニック・グループとの比較から

活しやすいという。もう一点、「セブアノはタウスグやマラナオとちがって、バジャウに

干渉してこない」という理由もあげられた。

つぎにイメージが良いのが、バジャウと同じサマ語系のラミヌサである。全体的に対

セブアノと同じように好意的な評価であるが、「信心深さ」がセブアノ、タウスグ、マラ

ナオのいずれよりも低かった。調査地ではイスラーム教徒としてバジャウと自らを弁別

しているのに、バジャウからみればその信心度が低く評価されている。理由は、調査地

ではラミヌサの支配力は弱く、モスクなど礼拝所をもたないことがひとつあげられた。

バジャウは、ムスリム 3グループのうちでもラミヌサに最も親近感を抱いており、ラミ

ヌサであれば結婚してもかまわないという回答状況になっている。同じサマ語を話すこ

とを理由にあげる者もあった。

他方、タウスグとマラナオに対する評価は全体に低い。一言でいえば、「不誠実で、潔

癖でなく、親しみにくく、けちで、尊大、自分勝手、好戦的」である。聞き取りによれ

ば、回答者の多くは以前に「ホロアノ」(Joloano: イスラーム教徒であるタウスグやヤカンを

実体とする)の海賊行為を被り、中には家族や親戚が命を落としたケースもある。調査地

ではタウスグのバジャウに対する嫌がらせをきいたことはほとんどないが、以前の経験

が集団的記憶として残っているようだ。マラナオについては、調査地に移住してから政

治的・経済的干渉を受けることがあった(36)。こうした経験が、このふたつのグループに

対するバジャウの嫌悪感、あるいは敵対心の背景と考えられる。

「働き者ではない」という評価についての聞き取りでは、「ムスリムのように路上で露

店を開いてただ座っているだけの商売は怠け者のすることだ」という説明が少なくなく、

勤労観の捉え方の違いがあった。こうしたネガティヴなイメージのもと、タウスグやマ

ラナオは「バジャウの結婚相手として好ましくない」という。ただし、彼らは「信心深

く、知識もある」としており、ムスリムのバジャウに対する優位性を認める側面もあっ

た。

結 語

以上の分析結果から、冒頭で立てた作業仮説はつぎのように検証された。

仮説(1) バジャウは、地域の市場社会に参加するための基本的能力の点において絶対

的に不利である:スルー・サンボアンガ地域の内戦・治安悪化を背景に難民的性格をも

ってダバオ市に流入してきたバジャウは、セブアノ、タウスグ、マラナオ、ラミヌサな

どの非バジャウ・グループと比べて、学歴が極端に低く、市場社会に参加するための基

本的能力が著しく低い。それに加え、都市移住にともなう生業転換―第 1次産業部門

からそれ以外へ―は非バジャウに比べて非常に緩慢であった。実際、彼らは、労働市

場では参入に必要なスキルが低く、かつバジャウに特殊的な限られた生業―漁業、貝

102

殻・真珠販売業、古着販売業、物乞い―についていた。

仮説(2) 彼らは他集団との関係においても低い社会経済的地位にある:経済生活の水

準を示す諸指標―所得・支出・負債―は、軒並み非バジャウを下回り、この側面に

おける貧困は否定しがたい。非バジャウとの社会経済関係は限られており、とくに生業

や信用の点での長期的取引関係はみられない。そのため、内部あるいは個々人のもてる

資源に依存せざるを得ず、不安定な社会経済生活を送っている。

仮説(3) こうした客観的指標による格差に加えて、非バジャウはバジャウに対する卑

賤観をもっており、バジャウは貧困生活を余儀なくされている:主観的調査による民族

間イメージの把握によれば、非バジャウはバジャウに対してネガティヴで蔑視的なイメ

ージを抱いており、その傾向はとくにムスリムのマラナオとタウスグで顕著である。非

バジャウはバジャウが生活水準を向上させるには、生業や教育の点で自分たちに追いつ

くべく人的投資を行うことが何より必要だという。それには新たな価値観の形成が必要

だとする。これとは対照的にバジャウの自己イメージはポジティヴであり、自分たちは

働き者であると考えており、非バジャウとバジャウでは「生活水準の向上」をめぐる考

え方にずれがあった。

こうした状況は、都市貧困層居住区である調査地で、バジャウにとくに顕著な問題で

あるが、いままで実態調査によって量的に把握されたことはなかった。政府当局はエス

ニック・グループ間に存在する生活水準の格差や、意識における階層化の問題を見落と

したまま、政策策定を進めてきた。今回の結果は、政策担当者が当地域で貧困緩和政策

を策定する際には、こうしたバジャウ独自の問題があることを考え合わせるべきことを

示唆している。もっとも、問題の存在がデータによって裏付けられたからといって、た

だちに解決に向かうとはいえない。現実には、バランガイのメンバーがほとんどマラナ

オで占められていることから、政治的に弱体なバジャウが自ら政策誘導を図ることは難

しい。互いに敵対心をもっているとなればなおさらである。この場合、調査地内に存在

するエスニック関係に対してできるだけ中立的な立場をとれる外部者の介入が役立つか

もしれない。たとえば、バランガイより上位の行政単位(たとえば市)や外部からの開発

援助機関、NGOなどである。介入に際しては、無論、当地のエスニック環境におけるバ

ジャウの微妙な立場を理解する努力が欠かせない。

最後に、バジャウのような少数民族を都市という環境で扱う場合、文化変容の問題は

それ自体、重要な意義をもつが、今回は経済生活の実態しか探ることができなかった。

バジャウが非バジャウに接触する中で生活全般にどのような変容が生じたのか、という

問題についてはさらなる資料収集が必要であり、今後の課題としたい。

*フィールドワークの一部は、富士ゼロックス小林節太郎記念基金・小林フェローシップから研究助成を受けて実施された。また本稿作成にあたっては、レフェリーによるコメントに多くを負っている。記して深く感謝したい。

アジア研究 Vol. 48, No. 2, April 2002

103フィリピン・ダバオ市におけるバジャウの生活条件─他エスニック・グループとの比較から

(注)(1) ダバオ市における地域共通語であるセブアノ語での標準的な表記に基づく。なお、以下、本稿の本文中でイタリック体表示のものはサマ語である。

(2) 言語集団的には「バジャウ」と同系で、シアシ系サマに分類されるが、調査地ではモスクなどの礼拝所を有し、礼拝に参加しているイスラーム教徒であるという社会行動様式の違いを強調することで「バジャウ」との弁別を図っている。このほか、「バジャウ」であるほかのサマ語集団とくらべて、すでに海岸沿いの杭上家屋で暮らすことをやめていること、学歴が相対的に高いことの2点でも異なっている。

(3) 経済生活のほか、政治生活、宗教・信仰生活などの面を含むケース・スタディについては拙稿を参照(青山2001)。

(4) エスニック・アイデンティティに関する関係論的なアプローチから近年のバジャウあるいはサマを論じた研究として、マレーシアの事例を扱ったNagatsu(2001)、フィリピンの事例を扱った青山(2001)がある。歴史的には、家船生活者の自称はサマであって、「バジャウ」というのは他の優勢民族による彼らに対する蔑称であったのだが、これらの研究は、他称であった「バジャウ」という名称が、いまやコンテクストに応じて自称されるケースが現れてきていることが報告されている。その主体には家船経験者ではないサマも含まれる。つまり、従来、バジャウという民族名称を実体的に規定してきた要素(たとえば家船生活)と「バジャウ」とよばれる人々の実態とのあいだに乖離が生じているのである。

(5) 彼らのセルフ・アイデンティフィケーション(陸サマ/海サマ)や出自については、本稿表1、2を参照。(6) センサスの表記では、正確にはSama(Samal)。サマとサマルの区別については、(1)サマ語族間での他称と自称、(2)スルーでの非サマ語族に対する他称、(3)調査地での非サマ語族によるサマ語族に対する他称、(4)分析の便宜上、研究者が用いてきた呼称など、それぞれのレヴェルで異なった議論がある。

(7) ここではスルー諸島を含む。(8) タウスグ、マラナオ、マギンダナオ(Maguindanao)。(9) プライバシー保護のため、調査地は仮名とする。(10) 1995年人口センサスによれば、ダバオ市総人口 100万 2,922人のうちセブアノは 76.4 %を占める。これに対してフィリピンにおけるムスリム三大主要グループのうち、タウスグは 0.65 %、またマラナオは 0.41%にすぎず、マギンダナオは 0.1%未満である。ダバオ市の文脈では、非キリスト教徒系人口はマイノリティとなる。ここで、ダバオ市のサマは国家レヴェルでは先住民のカテゴリに該当するが、本稿の以下の分析で明らかなようにダバオ市は彼らの先住地ではないという点で、いわゆるダバオのネイティヴの先住民(たとえばマノボ、バゴボ等の内陸少数民族)とは異なっている。ダバオにおける先住性を基準とするならば、セブアノに代表される北方クリスチャン、マラナオ、マギンダナオ等の低地ムスリム、サマ、ラミヌサ、タウスグ等スルー系民族はすべて移民である。

(11)「治安の悪化」を理由に出生地を転出したサマの場合、未亡人は少なくないのだが、子供や兄弟と同居して扶養家族となっていることが多く、ここでの統計では拾えなかった。

(12) 本節では出生地を出身地とみなす。(13) 州(province)別集計結果では、サマ移住者の 78.7 %が南サンボアンガ州、12.6 %がスルー州、ボホール州・セブ州・スリガオ市が3.9 %、ミンダナオ島内その他の諸州が3.5 %、その他の地域が1.2 %であった。

(14) 同様に、タウスグ移住者の 38.2 %とラミヌサ移住者の 100.0 %がスルー州出身であった。調査では出身の市町村までたずねており、タウスグではホロ島、ラミヌサではシアシ島・ラミヌサ集落という回答が多かった。

(15) 同様に、タウスグ移住者の17.6 %は北ダバオ州、またほかの17.6 %は南サンボアンガ州の出身であった。(16) 同様に、マラナオ移住者の84.0 %は南ラナオ州の出身であった。(17) 同様に、セブアノ移住者の20.5 %が北ダバオ州、10.8 %が東ダバオ州、6.0 %が南ダバオ州などのダバオ市近隣地域の出身である。中央ビサヤ地方では、ボホール州(10.8 %)、セブ州(6.0 %)が多い。

(18) サマ、タウスグ、ラミヌサ、マラナオは、概して内紛によって出身地における社会経済生活の継続が難しくなり流出した難民と思われるが、サマが転出理由としてとくに「治安の悪化」を直接あげて、経済的動機をあげなかったのは、他のグループに比べて、(1)もともと生活が苦しい、(2)仕事を探すという発想がうすい、ことなどがあるのではないかと推察される。

(19) 1995年人口センサスによれば、ダバオ市総人口のうち、バジャウ/サマ・ディラウトは 0.05 %、サマ(サマル)は0.29 %、サマ・ディラヤは0.01%未満と報告されている。

(20) イスラ・ベリャにおけるバジャウが集住する契機は、移住がはじまった初期に、バジャウの女性とマラナオの男性が結婚し、この男性が調査地でバランガイ・キャプテンに選出されるなど政治的権力があったため、バジャウが彼の庇護を求めたことにある。このマラナオの男性はすでに死亡しているが、現在はその息子(バランガイ議員)が調査地のバジャウに影響力をもっている。バジャウはしばしば文字を書けないため選挙に動員されることはあまりなく、またマラナオとの雇用関係もないが、このマラナオ一家がバジャウ居住区でサリサリ・ストア(雑貨店)の独占的経営をしていることがひとつの利権といえる。

104

(21) 伝統的生業である珊瑚礁空間での漁業放棄がなぜ生じたのかという疑問については、本稿は、(1)出生地側での実態調査を実施していないこと、(2)主たる漁場であるダバオ湾の環境変化に関する十分な統計資料が未入手であること、という理由から議論できない。筆者のフィールドワークの範囲では、(1)漁場における治安の悪化、(2)過去におけるダイナマイト漁による珊瑚礁破壊と漁業資源の減少、(3)資本供給者の減少、などの諸要因が考えられる。一方で、ダバオ市にあるBureau of Fisheries and Aquatic Resources, Department ofAgriculture、南ミンダナオ地方事務所のAnnual Production Reportによれば、1997─99年の期間においてダバオ湾の漁獲量は上昇トレンドにあった。このレポート作成責任者であるホセ・ビラヌエバ氏の指摘によれば、バジャウが漁業継続困難に陥っているのは、漁場選択と漁法・漁具選択について、技術力、資本力の制約から、最適な状態にないのではないか、という(2001年8月24日のインタヴュー調査による)。いずれにしても、漁業から非漁業への生業転換は、新しい生業により良い機会を積極的に見出したというよりも、伝統的生業の継続困難によって転換を迫られた可能性が大きい。

(22) 本稿では所得、支出などフローの面に焦点を当てた。実際の調査では、住宅設備の内容や耐久消費財の保有についてのデータも収集した。結果の詳細は紙幅の制約から割愛するが、端的にいって、インフラやストックの面でもバジャウは非バジャウよりも不利な状態にあった。

(23) 1999年11月現在、為替レートは1米ドル=約40ペソ。ちなみに1999年11月現在、ダバオ市の非農業部門の法定最低賃金は1日 158ペソである。ここでの平均は最賃よりも高いが、それはただちにより良好な雇用機会を意味しない。最賃が支払われるのは比較的大きな事業所である。その場合、調査地における小さな自営業とくらべて、時間外手当やボーナス(1ヵ月分なのでしばしば 13ヵ月とよばれる)、その他の付加給付の充実、支払いの安定性など総合的な雇用条件が良いと考えられる。なお、ダバオ市を擁する南ダバオ地方の貧困線は 1997年で 1人当たり年間所得 1万 440ペソであった。ここで貧困線とは、栄養その他の基本的ニーズを満たすのに必要な所得とされる。

(24) 一般に年齢が高いほど賃金は高くなると考えられているので仮説通りであれば符号はプラスにならなければならない。

(25) 一般に都市滞在年数が長くなるほど就業確率が高まると考えられているので仮説通りであれば符号はプラスにならなければならない。

(26) フィリピンにおける教育制度は、6・4・4制。たとえばここでいう就学年数 7年とは初等教育を終えて、中等教育を1年受けた段階に相当する。

(27) バジャウ内部の不平等については拙稿参照(青山 2001)。(28) 世帯ごとに構成員の数や属性構成によって支出構造や水準が異なる可能性があるが、少なくとも構成員数についてはグループごとに統計的に有意な差はなかった。教育費を別に、すべて過去1ヵ月をリファレンスとしている。

(29) 以下でいう平均支出額の計算では、支出ゼロや不明のケースを除いている。(30) 1ペソは100センタボ。(31) ジープの荷台を客席に改造した乗り合いバスのような、フィリピンでポピュラーな公共交通機関。路線上であれば、どこでも乗り降りできる。最短距離(2.5キロ区間)の運賃は、調査時点で3ペソ。

(32) ラミヌサ、タウスグ、マラナオはイスラーム教徒であり、本来、飲酒はタブーのはずだが、調査地では実際にはたしなむようだ。

(33) イスラーム教徒が1ヵ月にわたるラマダン(断食)明けに催す祭り。調査地のバジャウは非イスラームなのでラマダンはしないが、ハリラヤの当日は周囲のムスリムをまねてか自分たちなりに祭りをする。

(34) 周囲のムスリムから影響を受けたためか、クリスチャンのように何日も遺体を安置することなく、逝去後1日以内に埋葬するのがきまりである。

(35) 以下での調査設計は、スルーにおける「タウスグ、サマル、バジャウ」の民族間イメージを研究したStone(1962)に拠っている。

(36) マラナオからの干渉については本稿注(20)参照。

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(あおやま・わか 東京大学大学院経済学研究科)