ベンダーエレメントによる不飽和土のせん断弾性係数gの測定と...

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応 用 力 学 論 文 集Vol.11,PP.435-442(2008年8月)土 木学会 ベンダーエレメントによる不飽和土のせん断弾性係数Gの 測定と評価 Measurement and Evaluation of Elastic shear modulus ofUnsaturated soils by Bender element method 川 尻 峻 三*・ 加 藤 正 司**・ 川 口 貴 之***・ 澁 谷 啓**** Shun KAWAJIRI, Shoji KATO, Takayuki KAWAGUCHI, Satoiu SHIBUYA *神 戸大学大学院 博士課程前期課程 工学研究科市民工学専攻(〒657-8501神 戸 市 灘 区六 甲 台町1-1) **博 士(工)神 戸大学大学院 准教授 工学研究科市民工学専攻(〒657-8501神 戸 市 灘 区六 甲 台町1-1) ***博 士(工)函 館工業高等専門学校 准教授 環境都市工学科(〒042-8501函 館 市 戸 倉 町14-1) ****Ph.D博 士(工)神 戸大 学 大 学 院 教 授 工 学 研究 科 市 民工 学 専 攻(〒657-8501神 戸市灘区六甲台町1-1) A consolidation apparatus equipped with a ceramic disk at the pedestal, together with a pair of bender elements (BE) at the top platen and the pedestal has been newly developed for measurhg the variations of the matrix suction s, as well as the elastic shear modulus G of unsaturated soil subjected to one-dimensional compression. In this paper, the effects of the matrixsuction on the elastic shear rmdulus G ofunsaturated soils were carefully examined in the newly developed apparatus. The G-value of two kinds of unsaturated soils was also successfullycharacterixd. Key Words : suction, unsaturated soils, elastic shear modulus, bender element 1,は じめに 2004年 に発生 した 新 潟 県 中越 地 震 で は不 飽 和 状 態 に あ る土構 造 物 お よび 自然 斜面 で数 多 くの被 害が 生 じ て い る.こ れにつ いて佐 々 ら1)は地 震 前 の降 雨が原 因 で あ り,地 震 のみ で も降雨 の みで も発 生せ ず,地 震・ 降雨 の複 合 災害 で あ る と報 告 してい る.こ の ように不 飽 和 状態 にあ る土構造 物 お よび 自然 斜 面 に対 す る降雨 後 の地震 時 の安 全性 を評 価 す るため に は,降 雨 に よ る 水 分 状態 の変 化 に よって生 じ る土 中の サ クシ ョンの変 化 が土の 強度 定 数 や弾性 係 数 な どに及 ぼ す影 響 を明 ら かにする必要がある. 一方で ,地 盤 の変形 予 測 解析 や地 震 応答 解析 にお い て は10-3%以 下程度 の微小 ひずみ レベルで得 られ るせ ん断弾性係数Gや ヤング率Eが 必 要 とな る.こ れ らの 弾性係数の値が解析精度を左右することから,正 確な 評価が必要であ る.ま た近年,せ ん断弾性波の伝播距 離や伝播時間の決定方法など,試 験結果の解釈に関す る幾 つか の問題 点2),3)を有 す るもの の,供 試 体 の変形 と応 力 の直 接 測定 に頼 らず,せ ん断弾性波速度の測定 に よっ てせ ん断 弾 性係 数 を得 るベ ン ダ ーエ レ メ ン ト (以下BEと 略記)試 験 が急速に普及 しつつ ある.し か し,不 飽和土を対象 としたBE試 験結果の報告例は 極めて少な く,不 飽和土の微小ひずみ域 における変形 特 性全般 に関 す る研究例 につ いて も少 ない のが現 状 で ある. そ こで本 研 究 で は,BEを 装 着 した不飽 和 土用 一順 元 圧 密試 験 機 を新 た に 開 発 し,2種 類の地盤材料にお け る 一 定 の 鉛 直 応 力 下 で の サ ク シ ョ ンの 増 加 に 伴 う Gの 変化 を観 察 した.そ して,そ の 結 果 か ら飽 和 ・ 不 飽 和 土 に お け るGの 増 減 を表 現 し う る応 力 パ ラ メ ーターをサ クシ ョンそのもの とサ クシ ョン応力を用 いて検討 した. 2.試 料および試験装置 2.1試 料 お よ び供 試 体 の 作 製 試験 には2種 類 の試料 を使用 した.図-1に 用い た 試 料 の 粒 径 加 積 曲 線 を 示 す.一 つは市販されてい る シ ル ト質 土 のDL-Clay4)(ρs=2.65g/cm3,wL=NP あ る.気 乾 燥 伏 態 の 試 料 に水 を 加 え,飽 和 度3,が100% と な る よ う含 水 比wを30%に 調 整 して,ス ラリー状 態 に し,圧 密 リ ン グ(内 径60mm,高 さ40mm)内 に 投 入 し た もの を 供 試 体 と した.も う一 つ は 兵 庫 県 図-1試 験 に用 い た試料 の粒 径 加 積 曲線 ―435―

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応 用 力学 論 文 集Vol.11,PP.435-442(2008年8月)土 木 学 会

ベンダーエレメントによる不飽和土のせん断弾性係数Gの 測定と評価

Measurement and Evaluation of Elastic shear modulus ofUnsaturated soils by Bender element method

川 尻 峻 三*・ 加 藤 正 司**・ 川 口貴 之***・ 澁 谷 啓****

Shun KAWAJIRI, Shoji KATO, Takayuki KAWAGUCHI, Satoiu SHIBUYA

*神 戸大学大学院 博士課程前期課程 工学研究科市民工学専攻(〒657-8501神 戸市灘区六甲台町1-1)

**博 士(工)神 戸大学大学院 准教授 工学研究科市民工学専攻(〒657-8501神 戸市灘区六甲台町1-1)

***博 士(工)函 館工業高等専門学校 准教授 環境都市工学科(〒042-8501函 館市戸倉町14-1)

****Ph.D博 士(工)神 戸大学大学院 教授 工学研究科市民工学専攻(〒657-8501神 戸市灘区六甲台町1-1)

A consolidation apparatus equipped with a ceramic disk at the pedestal, together with a pair of

bender elements (BE) at the top platen and the pedestal has been newly developed for

measurhg the variations of the matrix suction s, as well as the elastic shear modulus G of

unsaturated soil subjected to one-dimensional compression. In this paper, the effects of the

matrixsuction on the elastic shear rmdulus G ofunsaturated soils were carefully examined in

the newly developed apparatus. The G-value of two kinds of unsaturated soils was also

successfully characterixd.

Key Words : suction, unsaturated soils, elastic shear modulus, bender element

1,は じめに

2004年 に発生 した新潟県中越地震では不飽和状態

にある土構造物および自然斜面で数多 くの被害が生じ

ている.こ れについて佐々ら1)は地震前の降雨が原因

であり,地 震のみでも降雨のみでも発生せず,地 震 ・

降雨の複合災害であると報告している.こ のように不

飽和状態にある土構造物および自然斜面に対する降雨

後の地震時の安全性を評価するためには,降 雨による

水分状態の変化によって生じる土中のサクションの変

化が土の強度定数や弾性係数などに及ぼす影響を明ら

かにする必要がある.一方で,地 盤の変形予測解析や地震応答解析におい

ては10-3%以 下程度の微小ひずみレベルで得 られるせ

ん断弾性係数Gや ヤング率Eが 必要 となる.これらの

弾性係数の値が解析精度を左右することから,正 確な

評価が必要である.ま た近年,せ ん断弾性波の伝播距

離や伝播時間の決定方法など,試 験結果の解釈に関す

る幾つかの問題点2),3)を有するものの,供 試体の変形

と応力の直接測定に頼らず,せ ん断弾性波速度の測定

によってせ ん断弾性係数を得るベンダーエレメン ト

(以下BEと 略記)試 験が急速に普及 しつつある.し

かし,不 飽和土を対象 としたBE試 験結果の報告例は

極めて少なく,不 飽和土の微小ひずみ域における変形

特性全般に関する研究例についても少ないのが現状で

ある.

そこで本研究では,BEを 装着した不飽和土用 一順

元圧密試験機 を新 たに開発 し,2種 類の地盤材料 にお

ける一定 の鉛直応力下でのサ クシ ョンの増加 に伴 う

Gの 変化 を観察 した.そ して,そ の結果か ら飽和 ・

不飽和土におけるGの 増減 を表現 しうる応力パ ラメーターをサ クシ ョンそのもの とサ クシ ョン応力を用

いて検討 した.

2.試 料および試験装置

2.1試 料および供試体の作製

試験 には2種 類 の試料 を使用 した.図-1に 用い

た試料の粒径加積 曲線を示す.一 つは市販 されてい

るシル ト質土のDL-Clay4)(ρs=2.65g/cm3,wL=NP)で

ある.気 乾燥伏態 の試料に水 を加え,飽 和度3,が100%

となるよう含水比wを30%に 調整 して,ス ラリー状

態に し,圧 密 リング(内 径60mm,高 さ40mm)内 部

に投入 した ものを供試体 とした.も う一つ は兵庫県

図-1試 験に用いた試料の粒径加積曲線

―435―

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図- 2試 験システムの概要図

六 甲山山腹で採取され た六甲山まさ土(ρs=2.62g/cm3,

ρdmax=1.94g/cm3,wppt=11.7%,wL=NP)の2mmふ るい

通過分である.所 定の締固め度(Dc=88%)と なる量

の試料 を圧密 リングに投入 し,静 的に締固めた後,

12時 間以上浸水 させ ることでSr≒100%の 供試体を

作製 し,試 験 に用 いた.

2.2不 飽和土用一次元圧密試験機

図-2は 本研究で用 いた試験 システムの概要図で

ある.不 飽和土用一次元圧密試験機 に後述す るBE試

験 システムを組 み込んでいる.試 験 中のデータの取

り込 みお よび制御 は全 てパー ソナ ルコ ンピュー タ

(図-2中(18))に よって自動化 されている.軸 方向

の応力(鉛 直応力бv)は 電空変換機((15))に 接続 され

たベ ロフラムシ リンダー((1))に よって制御 してい

る.軸 力 を計測するための荷重変換機((2))は 軸変

位の測定点 よ り上方 に設置 してい ることにより,測

定 された軸変位 には荷重変換機 の変形 量 を含 まない.

供試体 の吸排水 はビュー レッ ト((10))の 水位 に反映

され,差 圧計((13))に よって測定 され る.し か し,

不飽和土 の場合,ビ ュー レッ トで 測定された吸排水

量が体積変化量 とは異な るため,体 積変化は,載 荷

軸の変位 をダイアルゲージ((3))に よって計測 した

軸変位によ り供試体の直径(60mm)を 一定 として計

算 している.載 荷 キャップにはポーラスメタル((6))

が埋 め込 まれてお り,与 えたセル圧が間隙空気圧 と

して供試体に作用する.排 水経路 は排水用 ビュレッ

ト((10))を 通 じて大気開放 されて いるため,セ ル圧

が供試体 に対す るサクション として与え られ る.ま

た,ペ デスタルには空気侵入値(AEV)が500kPaの

セ ラミックディス ク((7))が 設置 してい る.セ ラミ

ックディスクは水 で飽和 させ るこ とによって,侵 入

して くる空気 は通 さず,セ ラ ミックデ ィス内の水 と

連続 している間隙水だ けを通過 させ る性質 を有 して

い る.

2.3ベ ンダーエレメン ト(BE)試 験

BE試 験 とは片持 ち梁 とした一対 の小 さなピエゾセ

ラミック板を用いて,土 供試体 内に伝播 するせん断弾

性波 を発信 ・受信 させ,こ れ らの記録か らせん断波弾

性波速度 を測定 し,せ ん断弾性係数Gを 求 める試験で

ある.な お,ピ エ ゾセ ラミックは電圧を加 えると変形

(送信用BE)し,逆 に強制的に変形 させ ると電圧 を

生 じる(受 信用BE)性 質があ る.図-3はBE試 験 の

システム と図-2の 供試体周辺 を拡大 した図であ る.

送信用BE(e)へ の電圧波形供給にはファンクシ ョン

―436―

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シンジェネレータ(a),送 ・受信電圧信号の観察 には

デジ タルオシロスコープ(b)を 用 いた.オ シロスコー

プに表示 された電圧信号はUSBデ ィス クに記録 し,後

にパ ソコン(c)を 用 いて伝播時間の同定 を行 った.本

試験機では載荷 キャップに送信用BEが,ペ デスタル

に受信用BEが 装着 されている.こ れ によ り,送 信用

BEに よ り生 じたせん断弾性波 は鉛直方 向に進行 し,

土粒子の振動方向は水平方 向であるため,本 試験で得

られ るせ ん断弾性係数 はGvhに 相当する.一 般に各種

地盤材料 のせん断弾性係数 は異方性 を有 しており,砂

質土中を伝播す るせん断弾性波速度は進行方向と粒子

の振動方向に作用 する応力のみに依存 し,も う一方の

応力には依存 しないといった(応 力)誘 導異方性が存

在す ることが報 告されてい る5戦 また,粘 性土におけ

る弾性係数の異方性は(応 力)誘 導異方性 よりもむ し

ろ堆積構造 によって生 じた固有異方性 に大 き く支配 さ

れ ることが報告 されている7).

BE試 験 にお けるせん断弾性波速度Vsは 次式 によっ

て求めることができる.

(1)

ここで,Lは せん断弾性波の伝播距離,△tは 伝播時間

で ある.ま た,Vsよ り測定 され るGが 次式に より算定

す る.

(2)

ここで,ρtは 土の湿潤密度であ る.

3.試 験方法 ・条件

表-1は 実施 した試験条件の ま とめである.鉛 直応

力の をそれ ぞれ一 定に保 つよう載荷 し,所 定のбvに到

達後,DL-Clayに 関 しては10kPaか ら400kPaま で9

段階,六 甲山まさ土につ いては8kPaか ら300kPaま で

8段 階で段 階的にサクシ ョンsを 与 え,各 段階でのs

を与えた後 に排水量が十分 に落 ち着いた ことを確認後,

BE試 験 を行 った.す なわち,DL-Clayで は3x9=27,

まさ土では3×8=24の 各応力点でBE試 験 を行 った.

所定の5を 与えた後に実施 されたBE試 験で は,1

波長のsin波(10,12,15kHz)お よび矩形波(10Hz)

を送信 し,そ れぞれの送 ・受信電圧波形 を記録 した.

図-4は,六 甲山まさ土 において(бv=50kPa,3=200kPa

で実施 されたBE試 験結 果の例で ある.伝 播距離 は

送 ・受信一 対のBEに おける先端間の距離(tip-to-tip)

とし8),伝 播時間は,受 信波の立ち上が り点は送信用

BEと 初動の向きが一致 する9)こ とや周波数 および波

形 の異 な る送信 波 に よって得 られた受信 波 形 か ら

near-field-effectな どを考慮 し,送 信波 と受信波の立ち

上が り点の時間差(start-to-start)と した10).図-4中

の実線 と矢印は同定 したせん断波の到達点を示 した も

のであり,送 信周波数 ・波形に関わ らずほぼ等 しいせ

ん断弾性波の到達時間が得 られてい るこ とが分か る.

図- 3BE試 験システムの概要図

図- 4BE試 験結果の例

表-1試 験条件のまとめ

―437―

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4.試 験結果および考察

4.1試 験 中における供試体状態の変化

図-5は サクション増加過程 における含水比w,間

隙比e,飽 和度Sr,の 変化 を表 してお り,図-5(a)は

DL-Clay,図-5(b)は 六甲山まさ土の結果であ る.一

般 的にSr~s関 係が水分特性曲線で ある(図-5(a),

図-5(b)参 照).河 井 ら11)は,水 分特性 曲線 は初期

状態 に測定 した間隙比に依存 し,間 隙が小 さければ,

間隙 中の水 を排 出するためには高いサ クシ ョンが必要

であるとしている.す なわち,同 一のサ クシ ョンであ

って も間隙比が小 さい方がSrは 大 き くなる.し か し,

DL-Clayの 結果 を見 る とσvと初期状態の間隙比の関係

に整合性 が無 いがSr~s関 係である水分特性曲線 には

初期状態の間隙比の依存性 は確認で きず,同 一のサク

シ ョンにおいてσvが大 きいほどSrは 小 さ くなる傾 向に

あ ることがわか る(図-5(a)参 照).こ の結果は河井

ら11)の行った試験結果 と異な る傾向を示 している.こ

の ことについて はスラリー状態か ら供試体 を作製 した

点な ど今後十分 に検討が必要である.ま た,w~s関 係

お よびSr~5関 係のs=200kPaの 領域で は,函 に関わ

らず,wお よび3,が 収束 してい る傾 向にあ ることがわ

か る(図-5(a)参 照).六 甲山まさ土 について は,

σvが大きい順 に初期状態 の間隙比の値が小 さい.サ ク

シ ョンの増加 に伴 う間隙比 の変化はDL-Clayに 比較 し

て小 さい こ とが わか る(図-5(b)参 照).ま た,

DL-Clayの 結果 とは異な り同一のサクシ ョンにお いて

はαが大 きく初期状態の間隙比が小 さい方がwお よび

畠 は大きいことがわか る.し か し,本 試験 で与えたサ

クシ ョンの範 囲で はwお よび畠の収束傾向は確認で き

なかった(図-5(b)参 照).

図-6は表-1に 示 した各σvを 一定 に保 ち,3を 段

階的に載荷 させ た際のe~1n(σv十s)関係 とe~1nG関 係

を比較 したものであり,図-6(a)はDL-Clay,図-6

(b)は 六 甲山まさ土の結果であ る.六 甲山まさ土のσv=

200kPaのeが 与 えたサ クシ ョンの2段 階 目で大き く変

化 していることがかわ る.ま た,図-6(b)の まさ土の

結果において,全 ての函で5増 加 の初期段 階でeの 変

化が無い ように見 える部分があ るが,実 際は僅か に供

試体が圧縮 してお り,eは 若干減少 している.し か し,

この ことも含めてe~1n(σv+s)関 係 とe~1nG関 係 は良

く類似してお り,あ る段階のサ クシ ョンか らは片対数

紙上において,(σv十s)とGはeの 減少 とともにほぼ線

形 に増加 してお り,両 者の関係には強 い相 関があるこ

とが分か る.こ の ことよ りGと(σv十s)は 良い対応関係

にあることが推察 され る.

4.2サ クシ ョン応力

サ クションは土 中の水分状態 によりその作用が異な

り,水 分状態 によって は飽和土 における有効応力の増

加 による体積圧縮だけではな く,土 骨格の剛性を増加

させ る作用 もあると考 えられている11).軽 部 ら13),14)は,

この挙動を図-7に 示す ように土中の間隙水状態 をバ

ルク水(図-7(a)参 照)と メニスカス水(図-7(b)

参照)に 分類す ることで説明 してい る.図 中の間隙空

気圧usと 間隙水圧uwと の差である(us-uw)が サクシ ョ

ンdと なる.バ ルク水 に作用す るサ クシ ョンは土骨格

の体積圧縮 に寄与する(バ ルク応 力,ρb).メ ニスカ

ス水 に作用 するサ クシ ョンは土粒子接点 に垂直に働 き,

土骨格の剛性 を高めるように作用す る(メ ニスカス応

力,ρm).す なわち,サ クシ ョンによるせん断強度お

よび剛性の寄与応力成分 はpbと ρmの 和で あるサ クシ

ョン応力Psで 表現で きるとし,ρsを 次式 によ り与えて

い る.

図- 5サ クシ ョン増 加 過 程 に おけ るw,e,s,の 変 化((a):DL-Clay,(b):六 甲 山 ま さ土)

―438―

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図- 6BE試 験 よ り得 られ た各 偶 にお けるe~1n(σv+s)関 係 お よ びe~1nG関 係((a):DL-Clay,(b):六 甲 山 ま さ土)

(2)

ここでSrは 飽和度(%),Sr0は 残留飽和度(%)で あ

る.軽 部 ら14)は三軸圧縮試験の結果 をダイ レイタンシーの影響 を除去するために最大体積圧縮点での応力状

態 をρsで整理す ることによ り,飽 和土 および不飽和土

と排水条件 に関わ らず同一 の破壊規準で評価できる と

している.ま た,加 藤 ら15)は 不飽和土 の一軸試験結果

を破壊時のせん断応力 と久を考慮した拘束応力で整理

す ることによって,供 試体 の締固め方法や含水比 に関

わらず試験結果を同一の破壊線で評価で きるとしてい

る.

図-8は 本試験 よ り得 られ たDL-Clayお よび六甲山

まさ土の ρsと5の 関係であ り,3の 増加 に伴 うρsの変

化 を表 している.DL-Clayの ρsについて はあるsま で

は単調に増加す るものの,明 瞭な ピー クを有 してお り,

それ以降は急激に低下 し,ほ ぼ0に 近づ くことが分か

(a)

(b)

図- 7不 飽 和 土 の間 隙 水状態 とサ クシ ョンの概 念図13),14)

((a):バ ル ク応 力,(b):メ ニ スカ ス応 力)

―439―

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図- 8サ ク シ ョンの増加 に伴 うサ クシ ョン応 力 の変 化((a):DL-Clay,(b):六 甲山 ま さ土))

る.ま た,DL-Clayの 結果 はбvの大 きさによってpsの

ピー ク値 が異 なっている.こ れは,偶 の大 きさよって

水分特 性曲線が異なることが原因 と考え られ る(図-

5(a)参照).一 方,六 甲山まさ土の ρsについては,本

試験条件 の範囲内では5と ともに一貫 した増加傾 向を

示 した.こ の2つ の地盤材料 の違いによる試験結果の

違いは式(2)で 示 した ρsがSrの 関数 となってい るため,

DL-Clayお よび まさ土 において両者 の水分特性が異な

ることが要因である(図-5参 照).

4.3不 飽和土のせん断弾性係数を表現するための

応カパラメーターに関する検討一般 に各種地盤材料のGは 共振法の試験結果 などか

ら次式のような間隙比 と有効応力をそれぞれ独立変数

(パ ラメー ター)と した関数の積か らなる経験式で表

現 され ることが多 い16),17).

(3)

ここで,Aは 実験定数,F(e)は 間隙比関数p'は 平均

有効主応力,OCRは 過圧密比であ り,Prは 無順元化す

るための基準応 力,n,kは 指数で ある.

間隙比関数は,一 般に同一の応力条件下 におけるe

の違いを取 り除 くために用 い られるがJamiolkowski et

al.6)は粘性土を用いた実験か ら適切なf(e)を 選べば ん

≒0と な り,GはOCRに よらず に表現で きることを示

している.

有効応力の関数 については,式(3)中 の(有 効)応 力

パ ラメーターはρ'であるが,先 述 したようなGの(応

力)誘 導異方性を表現す るために鉛直 ・水平方向の有

効応力をそれぞれ独立パ ラメー ター とした関係式 も提

案 されている 軌 本文で対象 とする不飽和土のGを 表

図-9間 隙比関数の検討

現するための応力パラメーターにはBishoPの 有効応

力式18)に 代表 される不飽和土の各種有効応力式か ら

も明 らかなよ うに,少 なか らずサクシ ョンが考慮 され

るべ きだ と考 えられる.そ こで,こ こで は不飽和土の

有効応力 に先述 したρsが寄与す ると考えた場合 とサク

シ ョンその ものが寄与 すると考 えた場合 について比較

し,不 飽和土のせ ん断弾性係数 を表現するのに適 した

応力パラメーターに関 して検討する.

図-9はDL-Clayお よび六 甲山 まさ土 について

(σv+s)=150,250,400,500kPaの 各応力点で得 られ たG

をShibuya and Tanaka19)が 提案 した次式で示すf(e)で

正規化 し,eに 対 して比較 したものである.

(4)

DL-Clayのeは0.75~0.80付 近 に,ま さ土のeは

0.45~0.50付近 に分布 していることがわか る.本 来な ら

ば試料の違いよるeの 違いがGに 影響す るが,得 られ

たGをf(e)で 正規化することで幾分のば らつ きがある

ものの,試 料の違いに関わ らず各応力点でeに よらな

いほぼ共通の値(G/e-15)が 得 られている.こ のことか

―440―

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ら,式(4)は 本研究で使用 した両試料 に とって適切 なf

(e)であ り,土 質の違いに関 して適用範 囲が広 いf(e)で

あることが伺 える20九

図-10は 不飽和土の有効応力に ρsが寄与す ると考

えた場合における(有 効)応 力 に伴 うG/e-1.5の変化 を

示 したもので あ り,(a)は 鉛直(有 効)応 力(計ps,(b)

は静止土圧係数 を0.5と 仮定 した場合の平均(有 効)

主応力2/3σv+psに 対する変化 を両対数紙上 にプロッ ト

した ものである.ま た,図 中にはDL-Clayお よび六 甲

山まさ土 の飽和土供試体 に対 して,σvを50kPaか ら

400kPaま で段 階的に載荷 した際の各応力点におけるG

の値 も示 している.

図中 より,DL-Clayの 不飽和供試体で得 られた試験

結果の一部が,他 の関係 よ りも明らかに上方に位置 し

ていることが分か る.こ れ らの点(計9点)は ρsがs

の増加 に反 して大 きく減少 した以降(s≧200kPa)に 相

当 してお り(図-8(a)参 照),sの 増加 に伴 うGの 変

化 はρsのようにある点で ピークを迎 えることな く,単

調 に増加 していることを意味 している.

図-11は 不飽和土の有効応力にsそ の ものが寄与す

る と考えた場合 におけるG/e-1.5の 変化 を示 したもので

ある((a):σv+5,(b):2/3σv+5).図-6で 示唆 され

た とお り,Gと(σv十s)の 間には良い対応関係があ り,

試料の違いや飽和 ・不飽和供試体の違いによらず一義

的な関係 にあることが分か る(図-11(a)).ま た,

(2/3σv+5)との間にもほぼ同様 な対応関係がある(図-

11(b)).こ の ことか ら,ρsよ りもsを 用 いた応力パ ラ

メー ターの方が広範囲な応力(s)に 対するGの 変化

を表現しうる と考えられ る.た だ し,先 述 したように

本研究で得 られたGはGvhに 相当 し,鉛 直 ・水平応力

のいずれに も影響され る と考 えられている5)6).本研究

で実施 した試験 ではGvhの 増減 に与え る水平応力の影

響 を把握 するこ とは困難であるので,今 後応 力条件が

明確な三軸試験 な どを用いて同様 な試験 を実施 し,こ

れ について更 に検討 してい きたいと考えてい る.ま た,

以上のことは適切なf(e)を 選び,psよ りはむしろsを

用いた応力パ ラメーターを用 いるこ とで,比 較的広範

囲な地盤材料の飽和 ・不飽和状態におけるGを 統一的

に表現で きる可能性を示唆 しているもの と考えられ,

本研究で用 いたf(e)や 応力パ ラメーターの適用範 囲や

妥当性を より詳細 に把握す るためにも,今 後土質や物

性の異な る多 くの試料 を用 いた同様 な試験 を実施 して

いきたい と考 えている.

5.ま とめ

本研究で は,ベ ンダーエ レメン ト(BE)を 組 み込ん

だ不飽和土用一;次元圧密装置 を用いて不飽和土におけ

る微小ひず みレベルでのGを 表現す るための応力パ ラ

メー ターについて検討 した.得 られた結果について以

下 にまとめる.

1)不 飽和土用一次元 圧密装置 にベ ンダーエ レメン ト

図-10G/e-1.5の 変化 にρsが寄 与 す る と考 え た場 合

(a):G/e-1.5~(σv+Ps)関 係,

(b):G/e-1.5~(2/3σv+ρs)関係

図-11G/e1.5の 変 化 にsが 寄 与 す る と考 え た 場 合

(a):G/e-1.5~(σv+s)関 係,

(b):G/e-1.5~(2/3σv+s)関 係

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を組み込 むことによ り,不 飽和土の微小 ひずみ レ

ベルにおけるせ ん断弾性係数を測定することがで

きた.σv一 定で5を 増加 させ た際のeとGの 関係

はбvの大 きさに関わ らず片対数紙上でほぼ線形 で,

e~1n(σv+s)関係 と強い相 関があ る.

2)DL-Clayに ついては3の 増加 に伴 うρsの変化 は明

瞭なピー クを示 し,そ れ以降は急激 に低下 して0

に近づ く.六 甲山まさ土 に関 して は本試験の範囲

内で は一貫 した増加傾向を示 した.

3)Shibuya and Tanakal9)に よって提案 された間隙比関

数 は本研究で用 いた2つ の試料に対 して も適用可

能で あ り,土 質の違いに関 して適用範囲が広い間

隙比関数である と考えられ る.

4)3の 増加 に伴 うGの 変化 はρsのようにある点でピ

ークを迎え ることな く,単 調 に増加 してお り,ps

よりも5を 用いた応力パ ラメーターの方が広範 囲

な応力(s)に 対するGの 変化 を表現 しうるこ とが

確認 された.

5)f(e)で 正規化 されたGとsを 用 いた応力パラメー

ターは試料の違 いや飽和 ・不飽和供試体の違いに

よらず一義的な関係にあることが確認され,適 切

なf(e)を 選 び,sを 用 いた応力パ ラメーターを用 い

ることで,比 較的広範 囲な地盤材料の飽和 ・不飽

和状態にお けるGを 統一的に表現で きる可能性が

示唆 された.

謝辞:本 研究 を進めるにあた り,神 戸大学大学院 河井

克 之助教か ら貴重なご意見 を頂いた.末 筆なが ら,記

して深甚 なる謝意 を表 します.

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(2008年4月14日 受付)

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