ダイレクトダイオードレーザによる溶接技術...1 <発振器・システム編>...

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1 <発振器・システム編> ダイレクトダイオードレーザによる溶接技術 Welding technology by Direct Diode Laser ~最新の DDL による溶接について解説~ パナソニック溶接システム(株) 技術部 中川龍幸,向井康士,西村仁志,川本篤寛,藤原潤司 1 はじめに 近年、レーザ発振器とその周辺の光学系、ロボット、 加工装置などの発展はめざましく、各種レーザ加工技 術の実用化が着実に進んでいる。 特に、レーザ光を熱源として溶接・切断等の熱加工 に用いるレーザ加工は、低入熱・高精度・高速加工が 可能であることから、幅広い産業分野での適用が期待 されている。 本稿では、軽量化やコスト削減などに対応するため に様々な応用がなされてきた自動車産業分野の事例 を交え、当社がリモートレーザ溶接用として開発した レーザ溶接ロボットシステム「LAPRISS(ラプ リス)」の最新技術について紹介する。 また、LAPRISSの特長であるダイレクトダイ オードレーザ発振器やトレパニングヘッドを活かし て、レーザ溶接では難しいとされる溶接への取り組み と成果を紹介する。 2 リモートレーザ溶接システム導入への課題 レーザ溶接システムの開発に当たり、調査を行った 結果、多くのお客様が最大の課題として挙げられたの が、ロボット、発振器、ヘッドなど複数の専業メーカ ーの製品を組み合わせてシステムを構成しているこ とあった。システムアップが複雑なだけでなく、個別 の操作コンソールを用いて操作する必要がある。また、 サービスやメンテナンスに関しても窓口が複数ある ため、トラブル発生時の対応に時間が掛かる懸念があ る。 また、実際のワークに合わせた施工検討に多くの工 数や時間を要しており、施工面に対するメーカーの支 援を望む声が多くあった。 このため、当社ではオールパナソニックでトータル ソリューションを提供すべく、レーザ加工に必要な全 ての要素をロボットに統合し、「Laser Processing Robot Integrated System Solution 」の頭文字から 「LAPRISS」(図1)と命名して開発を進めて きた。 図1.LAPRISS外観 2.1 システム導入時の課題 先に述べた通り、お客様がリモートレーザ溶接シス テムを導入する場合、複数メーカーの製品をシステム インテグレートする必要がある。この際、システム内 には複数のコントローラが存在するため、集中制御が 難しい。また、システム構築後は、各装置メーカーに よりサービス、メンテナンス作業が行われるため、施 工不良や装置異常が発生した場合に、原因の解明、解 決に時間を要することがある。 2.2 コスト面の課題 現在普及しているリモートレーザ溶接システムは、

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<発振器・システム編> ダイレクトダイオードレーザによる溶接技術

Welding technology by Direct Diode Laser

~最新の DDLによる溶接について解説~

パナソニック溶接システム(株) 技術部

中川龍幸,向井康士,西村仁志,川本篤寛,藤原潤司

1 はじめに

近年、レーザ発振器とその周辺の光学系、ロボット、

加工装置などの発展はめざましく、各種レーザ加工技

術の実用化が着実に進んでいる。

特に、レーザ光を熱源として溶接・切断等の熱加工

に用いるレーザ加工は、低入熱・高精度・高速加工が

可能であることから、幅広い産業分野での適用が期待

されている。

本稿では、軽量化やコスト削減などに対応するため

に様々な応用がなされてきた自動車産業分野の事例

を交え、当社がリモートレーザ溶接用として開発した

レーザ溶接ロボットシステム「LAPRISS(ラプ

リス)」の最新技術について紹介する。

また、LAPRISSの特長であるダイレクトダイ

オードレーザ発振器やトレパニングヘッドを活かし

て、レーザ溶接では難しいとされる溶接への取り組み

と成果を紹介する。

2 リモートレーザ溶接システム導入への課題

レーザ溶接システムの開発に当たり、調査を行った

結果、多くのお客様が最大の課題として挙げられたの

が、ロボット、発振器、ヘッドなど複数の専業メーカ

ーの製品を組み合わせてシステムを構成しているこ

とあった。システムアップが複雑なだけでなく、個別

の操作コンソールを用いて操作する必要がある。また、

サービスやメンテナンスに関しても窓口が複数ある

ため、トラブル発生時の対応に時間が掛かる懸念があ

る。

また、実際のワークに合わせた施工検討に多くの工

数や時間を要しており、施工面に対するメーカーの支

援を望む声が多くあった。

このため、当社ではオールパナソニックでトータル

ソリューションを提供すべく、レーザ加工に必要な全

ての要素をロボットに統合し、「Laser Processing

Robot Integrated System Solution 」の頭文字から

「LAPRISS」(図1)と命名して開発を進めて

きた。

図1.LAPRISS外観

2.1 システム導入時の課題

先に述べた通り、お客様がリモートレーザ溶接シス

テムを導入する場合、複数メーカーの製品をシステム

インテグレートする必要がある。この際、システム内

には複数のコントローラが存在するため、集中制御が

難しい。また、システム構築後は、各装置メーカーに

よりサービス、メンテナンス作業が行われるため、施

工不良や装置異常が発生した場合に、原因の解明、解

決に時間を要することがある。

2.2 コスト面の課題

現在普及しているリモートレーザ溶接システムは、

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大半がガルバノスキャナヘッドを用いたレーザ溶接

システムであり、高速溶接によりサイクルタイムを大

幅に低減できる反面、イニシャルコスト、ランニング

コストが非常に高くなることがある。

まず、ガルバノモータは一般的なサーボモータと比

べると高価であり、高速かつ高精度の制御が必要とな

るため制御装置もまた、一般的なサーボアンプと比べ

るとはるかに高価である。また、レンズ系も非常に高

額で走査範囲、すなわちレンズの直径が大きくなると

指数関数的に価格がアップする。

スキャニングヘッドは、質量が30 kg程度あり、

へッドを搭載するロボットも中可搬のロボットが必

要となる。動作範囲としては小型ロボットで十分であ

っても、多くの場合50 kg可搬程度の高価なロボ

ットが使用されている。

また、溶接時にはヒュームやスパッタが発生するの

で、高額なレンズをヒュームやスパッタから保護する

ため、一般的にはレンズに保護ガラスを設けているが、

サイズが大きい保護ガラスは高価となる。

このため、保護ガラスの交換頻度を下げるために、

保護ガラスとワークとの間にジェットノズルを設け、

高速にエアを噴出(エアナイフ)させて保護ガラスの

汚れを低減する方法が多く採用されている。しかし、

高速のエアナイフは、大きな面積をカバーするために

は大量の圧縮エアを消費するため、コンプレッサの運

転費用も無視できない場合がある。

2.3 溶接品質の課題

リモートレーザ溶接は、スポット溶接のようなクラ

ンプ機能が無いため、ギャップに対応するためには大

掛かりなジグが必要となる。また、レーザ溶接は、ア

ーク溶接に比べ低ひずみという大きな利点があるが、

通常溶加材を使用せず溶接するため、ギャップ許容範

囲が狭く、接合不良が発生しやすくなる。そのため、

高いジグ精度や、金型やプレスなど前工程でのワーク

の加工精度が要求される。

3 リモートレーザ溶接ロボットシステム

「LAPRISS」の開発

前述のシステム導入への課題を、当社が持つ発振器、

ロボット、ソフトウェア、施工に関する技術を活かし

たトータル・システム・ソリューションの提供で解決

していくことが我々の使命と考え、レーザの走査範囲

を限定した小型軽量のトレパニングヘッドを新たに

開発。動作速度の速い小型ロボットと組み合わせるこ

とで、ガルバノスキャナヘッドに対するコスト面での

優位性とサイクルタイムでのデメリットの緩和を両

立するリモートレーザ溶接ロボットシステム「LAP

RISS」として市場へ投入した。以下にシステムの

主な特長について説明する。

3.1高出力ダイレクトダイオードレーザ発振器

まず1つ目の特長として、高出力リモートレーザ溶

接用として世界で初めて開発した「ダイレクトダイオ

ードレーザ(以降、DDLと記載)発振器」について

説明する。

3.1.1 WBC(波形合成)技術(Wavelength Beam

Combining)

ここで、WBC技術について簡単に説明する。

図2のように、白色光をプリズムに入射すると、波

長により屈折率が異なるために分光現象が起こる。

WBC技術は、この逆の考え方であり、実際にはプ

リズムと同じ役割を担う回折格子へ、僅かに異なる波

長を持った複数のレーザダイオード(LD)の光をそ

れぞれの波長に応じて位置と角度を合わせて入射す

ると一つの光に合成することができる。

このWBC技術は、米国MITリンカーン研究所で

発明された特許技術であり、当社はこの技術の独占的

使用権を持つ米国ボストンのTeradiode社

と業務提携契約を締結し、両社で協力して、この革新

的な技術の普及に現在努めている。1)

図2.WBC波形合成技術

3.1.2 ダイレクトダイオードレーザの種類と比較

図3は、WBC技術を用いた当社DDLと一般的な

DDLを比較したものである。

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一般的なDDLは、主なパワー加算を「空間合成」

しているため、パワー密度はあまり高くないが、その

特徴を活かして、焼き入れ、肉盛り溶接、レーザブレ

ージング等に使われている。一方、当社のDDLは主

なパワー加算を「波長合成」しているため、100 μ

mコアのプロセスファイバが使用でき、パワー密度が

高いのが特徴で、リモートレーザや切断に適している。

図3.DDLの種類

3.1.3 パワー密度が溶接結果に与える影響

ここで、パワー密度の差が溶接結果に与える影響に

ついて図4で説明する。

左側はスポット径が大きくパワー密度が低い場合、

右側はスポット径が小さくパワー密度が高い場合の

断面マクロ写真を示している。

溶込み形状だけを比較すると、両者に大きな差は認

められないが、溶接現象としては大きく異なっている。

左側のパワー密度が低い場合には、上板の溶融域の

外側に大きな熱影響部が形成されているが、右側のパ

ワー密度が高い場合には、熱影響部は非常に少ない。

図4.パワー密度違いによる溶接結果(ギャップなし)

この溶接現象の違いは、図5に示すようにギャップ

がある場合、溶接結果に大きな差となって現れている。

左側のパワー密度が低い場合、溶融金属が熱影響部

直下に流れ込み、のど厚は広くなるが上板のアンダー

フィルが大きくなり、上板が薄肉状態になって継手強

度が大幅に低下する。

一方、右側のパワー密度が高い場合は、熱影響部が

小さく溶融金属が過度に流れ込まないのでアンダー

フィルを軽減でき、強度低下を抑制することができる。

図5.パワー密度違いによる溶接結果(ギャップあり)

これまで行ってきた様々な施工テストの結果をふ

まえ、当社は「パワー密度が高い」レーザが必要と考

え、発振器の性能として、ビーム品質とプロセスファ

イバの径にこだわって開発を進めてきた。

3.2 トレパニングヘッド

次に2つ目の特長として、独自開発した「トレパニ

ングヘッド」について、図6で説明する。

一般的なガルバノスキャナは、図6の構造模式図で

示す通り、ガルバノモータに取り付けたミラーの角度

を変えてレーザビームの方向を制御するものである。

一般的には数百 mmの平面内がレーザの照射範囲

になるが、Fθレンズでビーム角度を補正するタイプ

や焦点距離も制御して3Dに対応したものもある。非

常に優れた性能を有するが、次のような課題があると

考えた。

「大きくて重いため、大型のロボットが必要になる

こと」、「ガルバノモータは特殊なモータであり、高速

かつ高精度の制御を必要とするため非常に高価なこ

と」、「内部の光学系を保護する保護ガラスは消耗品と

なるが、大口径なため、こちらも高価なこと」、「保護

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ガラスの一部分でも汚れてしまうと、その箇所をビー

ムが通るときだけ加工点の出力が変わってしまうの

でメンテナンスの判断が難しいこと」、「この大口径の

保護ガラスをヒュームやスパッタから保護するため

のエアナイフも大型になり、圧縮エアの消費量や騒音

も問題になる場合があること」

これらの課題の多くは「照射範囲が広いこと」に起

因していると考え、大きな位置合わせはロボットで行

い、照射範囲を逆に小さく限定することにした。

これによって、ヘッド部の大きさや重さ、保護ガラ

スの大きさに起因する問題の大部分を解消すること

ができる。

また、ガルバノモータでミラーの角度を変えてビー

ム方向を制御するのではなく、AC(エー・シー)サー

ボモータで平行平板を駆動し、ビームの出射位置自体

をシフトすることにした。これにより、最適な光学設

計により焦点深度を確保することが可能となった。結

果、Fθレンズやフォーカス軸が不要となり、コスト

の大幅削減につなげることができた。

トレパニングヘッドの構造模式図で示す通り、平行

平板とモータを2組設けることで、2リンク機構とし

て平面内の補間制御を行うことができる。

図6.トレパニングヘッドの構造と特長

3.3 システム構成

図7は、LAPRISSのシステム構成である。

レーザ発振器には前述で説明した高輝度高出力D

DLを採用している。

ヘッドは、前述の平行平板をロボットと同じACサ

ーボモータで駆動するトレパニングヘッドを搭載し

ている。

小型・軽量の「トレパニングヘッド」は6 kg可

搬のロボットに搭載可能で、制御装置もロボットの内

蔵外部軸コントローラが使用可能なため、システムの

大幅な小型・省スペース化が可能となっている。

また、トレパニングヘッド内部にある保護ガラスは

工具無しで交換でき、一般的なガルバノスキャナ用の

保護ガラスに比べて小径(30 mm)で安価なため、

メンテナンスコストを大幅に低減できるほか、保護ガ

ラス自体をスパッタやヒュームから保護するエアナ

イフ用ジェットノズルも装備し、圧縮エアの消費量も

一般的なガルバノスキャナに比べて遙かに少ないた

め、コンプレッサの運転費用も大幅に低減できる。

ロボットは、トラブルの多いヘッド周りの制御ケー

ブルや冷却水ホースなどを全てロボットのアームに

内蔵したレーザ溶接専用マニピュレータを準備し、シ

ンプルで信頼性の高いレーザ溶接ロボットシステム

を簡単に構成することができる。

また、コントローラにはレーザ専用ソフトウェアや

コントローラ内蔵外部軸制御機能を装備し、トレパニ

ングヘッド内の特殊光学系を制御すると共に、レーザ

専用通信でレーザ発振器を直接コントロールするこ

とができる。

作業者は、ロボットやトレパニングヘッドのプログ

ラミングに加え、レーザ発振器の出力コントロールを

ティーチペンダントひとつで行うことができる。

図7.LAPRISSシステム構成

4 施工に対する許容範囲を拡大するレーザスピン工

レーザ溶接の特長を最大限に発揮するためには、

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「キーホール型溶接」がポイントである。しかし、レ

ーザ溶接は溶接ビード幅が非常に細いため、施工に対

する「許容範囲」が狭いといった課題がある。以下に

ギャップや狙いずれといった施工の難しさとその解

決方法について説明する。

4.1 ギャップ許容範囲

ギャップ許容範囲について、図8にて薄板の重ね継

手の例で説明する。

左側は、0.5 mmのギャップがある場合の溶接

結果を示す。先ほどの図5よりも薄い板厚0.8 m

mの例だが、ギャップをブリッジするための溶融金属

量が不足し、溶落ちが発生している。

右側は、このような課題を解決するために開発した

「レーザスピン工法」である。アーク溶接で大きな脚

長が必要になる場合に用いられるウィービングと考

え方は同じで、高速のウィービングによりギャップを

ブリッジするための溶融金属量を確保することで溶

落ちを抑制することができる。

図8.レーザスピン工法の効果(ギャップ)

4.2 狙いずれ許容範囲

次に狙いずれ許容範囲について、薄板の突合せ継手

の例で説明する。

レーザ溶接は溶接速度が速いため、アーク溶接に比

べて生産性が高い上、熱ひずみの低減により後工程が

削減できるなど、大きな効果が期待できる。しかし、

アーク溶接に比べてギャップ許容範囲や狙いずれ許

容範囲が極端に狭いことが大きな課題となっている。

この課題に対して、LAPRISSのレーザスピン

工法にて施工検証した結果が図9である。

ギャップなしの場合で2.5倍、ギャップ0.2 m

mの場合では9倍も狙いずれ許容範囲を拡大するこ

とができ、結果として、アーク溶接よりも許容範囲が

拡大し、品質向上も期待できる結果となった。

当社では、レーザ溶接施工における最大の課題は

「施工に対する許容範囲の狭さ」と考え、「レーザ溶

接に適した継手の検討」や「施工に対する許容範囲拡

大のための工法開発」など、お客様と共に様々な検討

を進めている。

図9.レーザスピン工法の効果(狙いずれ)

5 ユーザー導入事例

このレーザスピン工法を応用した施工例を図10

にて紹介する。

図10.レーザスピン工法の施工事例

当社では逆Tジョイントと呼んでいるが、T字継手

を裏側からレーザスピン工法で施工するもので、レー

ザ溶接の特長である深い溶込みとレーザスピン工法

の特長である溶接ビードの拡大によってワンパスで

継手の両側にフィレットを形成するものである。

ギャップ許容範囲や板ずれの許容範囲が広く、薄板

のT字継手に対しては大変有効な施工法である。

現状はボルト締結で接合している製品をレーザ溶

接に置き換える取り組みで、この「逆Tジョイントに

よるレーザスピン工法」をご提案しテストを重ねた結

果、強度は問題なく、施工に対する許容範囲を拡大で

きる上に、フランジの削除で軽量化とコストダウンが

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期待できる結果が得られた。レーザ機器導入の初期投

資はこのようなコストダウンによって短期に回収で

きる見通しである。

6 溶接施工事例

LAPRISSは鉄を加工対象として発売を開始

したが、自動車業界等で適用が広がるステンレスやア

ルミニウム、レーザブレージング溶接への展開も進め

ており、その施工例を紹介する。

図11(a)はSUS430のステンレスのT字継

手(t1.0/t1.0)を溶接速度1.5 m/mi

nでキーホール型溶接した溶接ビードである。熱がこ

もりやすいステンレスでもワンパスでひずみの少な

い溶接が可能である。

図11(b)はSUS304のステンレスの角継手

(t1.0/t1.0)を溶接速度1.5 m/min

でキーホール型溶接した溶接ビードである。良好な熱

引きとシールドガスの滞留を両立させるジグにより、

母材の色目に近いビードを得ることが可能となる。用

途の事例としては、薄板で意匠性が求められる小型外

装部品などに用いられる。

図11. ステンレスの溶接ビード

図12(a)はA1050のアルミニウムの角継手

(t1.5/t0.6)を溶接速度4.5 m/min

で熱伝導型溶接した溶接ビードである。熱が伝わりや

すく、粘性の低いアルミニウムでも熱伝導型溶接に近

い溶接条件により安定した溶接が可能である。用途の

事例としては、軽量で気密性が求められる小型外装部

品などに用いられる。

図12(b)はA5052のアルミニウムの重ね継

手(t1.0/t1.0)を溶接速度3.0 m/mi

nでサークル形状にキーホール型溶接した溶接ビー

ドである。融点が低く、粘性が低いアルミニウムであ

っても、溶落ちのない良好な溶接ビードを得ることが

できる。

図12. アルミニウムの溶接ビード

図13は軟鋼の突合せ(t1.2/t1.2)を溶

接速度2.5 m/minでレーザブレージング溶接し

た溶接ビードおよび断面マクロである。フィラー送給

速度およびレーザ出力(入熱量)の調整を行うことで

余盛量を、更にレーザスピンの回転径の調整を行うこ

とでビード幅を比較的容易に変更できる。用途の事例

としては、熱容量が小さい薄板で気密性が求められる

箇所等に用いられる。

図13. レーザブレージング溶接のビードおよび

断面マクロ

7 おわりに

本稿では、施工面に関してアーク溶接からレーザ溶

接への置き換えを中心に紹介してきたが、スポット溶

接に関してもハイテン等の材質面やギャップ許容範

囲などの施工面の課題まで、幅広く検討を行っている。

また、ブレージングなどのフィラー溶接や亜鉛めっ

き鋼鈑などの溶接、そしてレーザ切断システムへの展

開も順次行っており、これからも新たな価値提供を継

続していく所存である。

最後に、抵抗溶接やアーク溶接からの置き換えにレ

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ーザ溶接を導入し成功させていくためには、当社の新

しいレーザ溶接プロセスだけでは限界がある。設計段

階からお客様と一緒になって、レーザ溶接に適した

『新しいものづくりの形』を作り上げていく必要があ

る。

そうした『新しいものづくりの形』を実現可能にす

る「LAPRISS」の市場浸透を加速し、様々な要

望にお応えしていきたいと考えている。

8 参考文献

1) TeraDiode社資料