スピードトレーニング 解明と方法 - kolespo5...

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ライプチヒ学派のスポーツトレーニング科学 INHALT(目次)3.トレーニング 18 スピードトレーニングの課題 エレメンタルスピードトレーニング(ESトレーニング) ESトレーニングにおける促通形式 動作抵抗の軽減化(アシステッド) 動作抵抗の増大化(レジステッド) 時空的制限 電気刺激(EMS) 動作感覚と筋運動感覚の発達 イメージ動作効果とメタファー(比喩) 促通形式の組みあわせ スピードトレーニングにおける負荷構成 エクササイズの種類 スピードトレーニングにおける負荷調整 短時間プログラム操作に適応した技術トレーニングと筋力トレー ニング ジュニア期におけるスピードトレーニング 陸上競技種目におけるジュニアトレーニングの重要点 4.スピード診断 33 スピード診断システム 反動性動作におけるスピード診断 非反動性動作におけるスピード診断 周期性動作におけるスピード診断(ピッチスピード) 反応のスピード診断 複合スピード(スプリント)の診断 競技種目別のスピード診断 陸上競技におけるスピード診断 自転車競技におけるスピード診断 サッカーにおけるスピード診断 ハンドボールにおけるスピード診断 バレーボールにおけるスピード診断 野球におけるスピード診断 1.パフォーマンス向上を担う スピード要因:エレメンタルスピード 勝敗を左右する接地時間(支持時間) タイムプレッシャーの克服 神経筋システムの構成と機能 解明がすすむパフォーマンスの前提 エレメンタルスピードの形態 その1:反動性スピード エレメンタルスピードの形態 その2:非反動性スピード エレメンタルスピードの形態 その3:周期性スピード 種目別にみるピッチスピード エレメンタルスピードの形態 その4:反応スピード 選択反応と単一反応 全競技種目に不可欠なエレメンタルスピード 反動性動作における筋の出力 精確な筋操作 リクルートと同調 脊髄に保存されるプログラム スピードの形態的な前提 技術的な対案 2.時間プログラムとその属性 13 時間プログラムとは 短時間プログラムと長時間プログラム 反動性スピードにおける時間プログラム 非反動性スピードにおける時間プログラム 周期性スピードにおける時間プログラム 反応性スピードにおける時間プログラム 時間プログラムの属性 神経筋の形態特性の現れとしての時間プログラム 汎用性の高い時間プログラム 種目専門動作別に異なる時間プログラムの規準 運動負荷が高くても低下しない時間プログラム 技術の空間指標を左右する時間プログラム - - - - - - SCHNELLIGKEITSTRAINING < > Dr.habil Gerald VOSS 長時間プログラム 支持時間 > 140 ms 短時間プログラム 支持時間 < 140 ms

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Page 1: スピードトレーニング 解明と方法 - KoLeSpo5 走タイム向上をもたらします(Mann 1999)。そのさいのピ ッチ数はストライドを不変とすると、約5%増加します。

ライプチヒ学派のスポーツトレーニング科学

INHALT(目次):

3.トレーニング 18

スピードトレーニングの課題

エレメンタルスピードトレーニング(ESトレーニング) ESトレーニングにおける促通形式

動作抵抗の軽減化(アシステッド)

動作抵抗の増大化(レジステッド) 時空的制限

電気刺激(EMS)

動作感覚と筋運動感覚の発達 イメージ動作効果とメタファー(比喩)

促通形式の組みあわせ

スピードトレーニングにおける負荷構成 エクササイズの種類

スピードトレーニングにおける負荷調整

短時間プログラム操作に適応した技術トレーニングと筋力トレーニング

ジュニア期におけるスピードトレーニング

陸上競技種目におけるジュニアトレーニングの重要点

4.スピード診断 33

スピード診断システム 反動性動作におけるスピード診断

非反動性動作におけるスピード診断

周期性動作におけるスピード診断(ピッチスピード) 反応のスピード診断

複合スピード(スプリント)の診断

競技種目別のスピード診断 陸上競技におけるスピード診断

自転車競技におけるスピード診断

サッカーにおけるスピード診断 ハンドボールにおけるスピード診断

バレーボールにおけるスピード診断

野球におけるスピード診断

1.パフォーマンス向上を担う

スピード要因:エレメンタルスピード 1

勝敗を左右する接地時間(支持時間) タイムプレッシャーの克服

神経筋システムの構成と機能 解明がすすむパフォーマンスの前提

エレメンタルスピードの形態 その1:反動性スピード

エレメンタルスピードの形態 その2:非反動性スピード エレメンタルスピードの形態 その3:周期性スピード

種目別にみるピッチスピード

エレメンタルスピードの形態 その4:反応スピード 選択反応と単一反応

全競技種目に不可欠なエレメンタルスピード

反動性動作における筋の出力 精確な筋操作

リクルートと同調

脊髄に保存されるプログラム スピードの形態的な前提

技術的な対案

2.時間プログラムとその属性 13

時間プログラムとは

短時間プログラムと長時間プログラム 反動性スピードにおける時間プログラム

非反動性スピードにおける時間プログラム

周期性スピードにおける時間プログラム 反応性スピードにおける時間プログラム

時間プログラムの属性

神経筋の形態特性の現れとしての時間プログラム 汎用性の高い時間プログラム

種目専門動作別に異なる時間プログラムの規準

運動負荷が高くても低下しない時間プログラム 技術の空間指標を左右する時間プログラム

スススピピピーーードドドトトトレレレーーーニニニンンングググ ---解解解明明明ととと方方方法法法---

SCHNELLIGKEITSTRAINING

< 講 演 集 > Dr.habil Gerald VOSS

長 時 間 プ ロ グ ラ ム

支 持 時 間> 1 4 0 m s

短 時 間 プ ロ グ ラ ム

支 持 時 間< 1 4 0 m s

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ハルトマン(2008)を修正(綿引&高橋:2009)

スポーツのパフォーマンス前提(エレメンタルスピードの位置づけ)

情 報 エネルギー

コオーディネーション系パフォーマンス前提

技術スキル技 術

コオーディネーション

コンディション系パフォーマンス前提

スピード 力 持 久

可 動 性

受動的 能動的

エレメンタルスピード

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児童/青尐年の“感 受 期”(もっとも有効な発達時期) 1997年・HARTMANN

最 大 力

無酸素性持久

有酸素性持久

瞬 発 力

スピード(ES)

動作学習能力

コオーディネーション/可動性

年 齢 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18

男子

女子

児童・前期 児童・中期 児童・後期 青尐年・早期 青尐年・後期

„晩期型能力“

発達中立型能力

„早期型能力“

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そもそも「スピード」と言うばあい、これまで長い間、

「速く走る」ということと同義的に見なされてきました。

私たちは、こうした考え方に疑問を抱き、スピードとは

なにか、その根幹部分を探ろうと研究してきました。な

ぜなら、「速く走る」ということは、複合的なスポーツ

パフォーマンス、つまり、スピード性や力(筋力)など

たくさんの能力が複雑に絡んで体現されたパフォーマン

スだからです。

北京オリンピックの陸上100mスプリント種目・決勝

を想い出してください。ボルトは、スタート時点から優

位だったのではなく、後半のトップスピードに勝利の要

因があることに気づきます。その時の接地時間がひじょ

うに短いという特徴があります。その意味で、「速く走

る」というのはスピードと同じではないとしつつも、ス

プリントにはスピード性がおおいに関与しているという

のは確かです。

スポーツ器具や対戦相手、また自身の全身または身体部

分を瞬時に加速することは、パフォーマンスを決する主

たる要因であり、全てのスポーツ動作に共通しています。

そのような加速を実現するには、高いレベルの筋緊張が

不可欠です。

生体は、随意に実現できる最大筋緊張を発揮するために

は、アイソメトリック(等尺性)の条件下で約500ミリ

秒(0.5秒)が必要です。しかし、ことスポーツパフォーマ

ンスの実施となると、ほとんどのばあい、筋緊張の発揮

に与えられている時間はほんの僅かです。このことは、

身体構造と四肢の長さが限定されていることにも関係し

ます。だから、動作速度を高めようとすれば、加速のた

めに与えられている軌道(加速軌道)をいかに速く活用で

きるかが重要になり、したがって問題は、より短い時間

内に高いレベルの筋緊張を達成することにあります。

スポーツパフォーマンスを最大化するということは、タ

イムプレッシャーという点を考慮してみると、大量のエ

ネルギーをいかに速く調達するかにかかっています。よ

うするに、最短時間のうちに、筋内のエネルギー物質を

できるだけ大量に筋の力学的な活動へと転換することが

必要になります。このように転換される化学的エネルギ

ー量がどれくらいかは、以下の2点にかかっています:

a) 関連する神経筋の構成因子の属性(つまり、既存の神

経筋物質)

b) そうした神経筋の構成因子の働きないし共同作用

[勝敗を左右する接地時間(支持時間)]

それでは、そのような根幹にあるエレメンタルスピード

にはどのような形態があるのでしょうか。アメリカの研

究者らも、その点について実験分析をおこない、いくつ

かの特徴を導いています(次頁図)。タイムが10秒2な

いし3ていどの平均以下のランク(左)、10秒0から2

ないし3ていどまでの平均ランク(中央)、そして10秒

0以内のトップランク(右)の3人のスプリントを比較し

てみると、まず、それぞれのタイムは異なっているにも

関わらず、遊脚時間は同じという結果がでたのです。そ

うすると、図を見ればお分かりのように、接地時間(支持

時間)の違いがタイムの差をもたらしたと判断できます。

つまり、トップランクの選手の接地時間は70ミリ秒く

らいです。そして、ドイツあるいは日本のトップスプリ

ンターのばあいは90ミリ秒の接地時間と言われていま

す。これが、エレメンタルスピードのひとつの形態をし

めしています。

私たちは、スピードの問題は、そもそもタイムプレッシ

ャーを克服する場と関係していると考えています。

たとえば陸上スプリントなどでも、ステップのピッチ数

が増すと、それに応じて支持時間が比較的短いという特

徴があります。100mスプリントでは、そのピッチ総

数を50歩としたばあい、支持時間がたった100分の

1秒短くなっただけで、100分の50秒(0.5秒)の

1.パフォーマンス向上を担うスピード要因: エレメンタルスピード

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走タイム向上をもたらします(Mann 1999)。そのさいのピ

ッチ数はストライドを不変とすると、約5%増加します。

つぎに走り幅跳びの例ですが(右写真)、

9メートルの記録を出すには、その助走

速度はだいたい秒速11.5mの速度が

必要と言われています。そうすると、そ

の踏切動作においては、一定の制限時間

内に重心移動をおこなうことを余儀なく

されますから、この移動動作をすばやく

こなすため、踏切時間は短くなります。

つまり、質の高い踏切を一瞬の短時間内

に実施しなければなりません。たとえば、

8mという同記録をもつ選手たちを比較

してみると、踏切の接地時間はさまざま

です。踏切に必要な接地時間が100ミ

リ秒の選手、また130ミリ秒の選手もいます。そうす

ると、現状の8mから8.5mにあるいは8.8mに記

録を伸ばしたいなら、尐なくとも踏切の接地時間を短く

するトレーニングが欠かせないメニューになるのです。

しかも、この接地時間を短くするというのは、私の指導

経験からみても、歳を増すにつれ難しくなるのです。

世界トップクラスの助走速度は秒速11mです。そうす

ると、踏切板に接地して離れるまでの踏切動作に与えら

れている時間はおよそ100ミリ秒です。この時間内に

踏切を遂行できなければ、目指す跳躍距離に達するだけ

の踏切インパルスは小さくなり、逆に精確に踏み切ろう

として助走速度を減らすと、トップクラスの跳躍に対応

するだけの水平速度が得られなくなってしまうのです。

このような関係は、陸上の他の跳躍系種目でも、器械体

0

20

40

60

80

100

120

140

平均以下 平均的 最優秀

遊脚時間

支持時間

USAトップスプリンター(100m走)の遊脚時間と支持時間(接地時間)

いずれも遊脚時間は同じであり、支持時間の差が成績に反映している! (Mann 1999)

タイムプレッシャーの克服

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操やフィギュアスケートあるいはやり投げなど実に多く

の種目に当てはまります。重量挙げ競技においても、バ

ーを垂直に持ち上げる

加速軌道は限定されて

おり、その軌道上で、

言い換えると短い時間

内に大きな力のインパ

ルスを産み出さなけれ

ばならないのです。

競泳では、クロール泳

法を見ると、いわば6

ビート(1ストローク当

たり6回のキック)が傾

向です。そのさい、下

肢の筋活動時間は1キ

ックにつき170ミリ

秒に相当します。

カヌー競技・レーシン

グ種目のとくにカヤックのばあいでも、ストローク数(ピ

ッチ数)が増加傾向にあります。比較的短かい距離種目で

は、そのピッチ数は1分当たり160強になり、ピッチ

当たり200ミリ秒に相当します。

[タイムプレッシャーの克服]

このようにスピード系パフォーマンスはかならず、高い

タイムプレッシャー下で効果的なエネルギー代謝を可能

にするという、基礎的なパフォーマンス前提を基軸に成

り立っています。このパフォーマンス前提を私たちは、

エレメンタルスピード(略;ES)と表現しています。そ

れは主として、神経筋システムの機能に起因しています。

エレメンタルスピードは、選手がベストパフォーマンス

を実施しようとすれば、避けることのできないタイムプ

レッシャーの克服に直接役立つものの全てであるという

ことができます。ただし、こうしたタイムプレッシャー

の変換や転調を意図するスポーツ技術バリエーションは

別のテーマです。

このように、陸上競技のスプリントをスピードと同一視

してはならないのです。スプリントは、さまざまなパフ

ォーマンス前提を基礎にして成り立つスピード系のパフ

ォーマンスなのです。そしてエレメンタルスピードは、

その根幹に位置するスピード前提なのです。

[神経筋システムの構造と機能]

神経筋の中心的な構成因子は、いわゆるモーターニュー

ロンプールにある運動前角細胞(モーターニューロン)で

す。モーターニューロンが筋線維を刺激操作します。比

較的大きな働きをする腓腹筋(ふくらはぎの部分にある)な

どでは最大1600の筋線維が、そのいっぽう、せん細

な働きをする眼輪筋などでは約10の線維が操作される

と云われています。さらにモーターニューロンは、神経

線維、筋線維タイプその他の構成因子の属性をも特定し

ています。その理由から前角細胞は、遠心性神経線維と

運動終板、そしてひとつの前角細胞によって処理される

全筋線維を含めて、運動単位と称されています。

[解明がすすむパフォーマンスの前提]

以上述べた点を一般論として整理しましょう。成就され

たスピード系パフォーマンスを検証してみると、その内

部は、たんにスピード性という前提だけではなく、その

パフォーマンスを構成するさまざまな前提がたがいに緻

密に複合化した構造体を呈しているということです。こ

のようにさまざまなパフォーマンス前提の基本部分は、

解明がすすんでおり、そこにさらなる発達向上の余地が

あたえられているのです。なかでも、陸上100mスプ

神経筋システムの構成因子

構成因子 機 能

運動に有用な外部受容器 外から受けるさまざまな刺激についての情報を与えるセンサー

固有感覚受容器 関節の位置と状態ならびに筋緊張にかんする情報を与えるセンサー。例;筋紡錘

運動前角細胞

(モーターニューロン)

遠心性神経と運動終板、筋線維とともに運動単位を構成する中心的な運動神経細胞

求心性神経線維 筋の感覚受容器から脊髄内の神経細胞に情報を伝達する神経線維

遠心性神経線維 前角細胞から筋に情報を伝達する神経線維

運動終板を含むシナプス 神経細胞同士ないし神経細胞から他の器官へと転移する器官

筋線維 運動を成就する器官; ひとつの前角細胞がつねに、筋肉内に存在する複数の筋線維を操作処理する。

興奮性と抑制性のインターニューロン

脊髄内の神経細胞。中枢神経系のより高位の領域とつながって、前角細胞にたいして抑制的または興奮的に作用する

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リント競技のパフォーマンスを考察してみると、結果に

およぼすスピードの役割は小さな一部分にすぎないけれ

ど、重要な役割をもっているといえるのです。

以前においては、パフォーマンスを因子ごとに分析する

ことは困難でしたが、現在では、科学技術の進歩のおか

げで、パフォーマンスを構成する基礎的なパフォーマン

ス前提を解明することが可能になりました。以前は、ス

トップウォッチを用いて“ミリ秒”という単位のスピー

ド因子を発見することはできなかったのです。

スポーツパフォーマンスの構造内部をより深

く覗くには、それに応じて、スポーツ科学の

手法にも新しいアプローチが必要です。そし

て、もっとも大切なことは、解明された事実

からトレーニングの結論が、つまり具体的な

方法論が導かれなければなりません。そして、

トップパフォーマンスのレベルになると、そ

のパフォーマンス構造はさらに多重化した様

相を呈しています。つまり、一定のパフォー

マンスレベルまではほぼ共通する因子にもと

づいて発達できるが、世界トップクラスのパ

フォーマンスとなると、それぞれ異なるベース(各選手の

特性に応じた基礎)にもとづいて成就しているということ

です。つまり、トップ選手のパフォーマンス構造は全て

が一概に同じではないということです。

すでに、スピードの定義については述べたとおりです。

要するにスピードとは、タイムプレッシャーの克服なの

です。タイムプレッシャーの様相は、全てのスポーツパ

フォーマンスにおいて確かめることができます。それは

陸上競技のみならず、格闘系やゲーム系などあらゆるス

ポーツに共通しています。このことから見ても、スピー

ドは、たんに投げるとか走るとか打つなどの動作の速度

というより、まず何よりも、極度に短い時間内に課題を

克服することを指します。もちろん、そのさい、あれこ

れの体部位の速度が一定の役割を演じますが、主要な局

面は“短時間”が占めていることは明らかです。

[エレメンタルスピードの形態

その1:反動性スピード]

それでは、どのようなスポーツ動作にこうした時間的な

もの、すなわちスピード性が内包されているのでしょう

か。

まず第1に、反動性動作があります。既述の走り幅跳び

などのように、ある動作から踏み切る動作がそれに該当

します。そこではかならず、まず踏み切るまでの身体速

度があり、前活性化された筋は、体重を制するためさら

に伸張します。緊張した筋が伸張するということは、反

動性動作における典型的な現象です。外見的には膝関節

を軸とする屈曲と伸展の体勢に見てとることができます

(下写真)。このように、脚の伸展相のつぎに筋がふたた

び短縮します。この高跳びのように、踏切時の狙いは身

体重心の方向転換にあるので、それは、急激な筋伸張と

引き続く筋収縮によって達せられるのです。

スピードとは:

スピードとは、スポーツパフォーマンス遂行中に

発生するタイムプレッシャーの克服に役立つ全て

のことがらを意味する。

エレメンタルスピードの4つの形態:

反動性動作におけるスピード形態:反動性スピード

非反動性動作におけるスピード形態:非反動性スピード

周期性動作におけるスピード形態:周期性(ピッチ)スピード

反応におけるスピード:反応スピード

走り高跳び・踏切動作の反動的な特性

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実際のトレーニングにおいてその効果を確かめるために

よく実施されるのがドロップジャンプテスト(38頁参

照)になります。これは、比較的単純な反動性の動作です。

踏み台に立ち、そこから身体を自然落下させると、助走

に相当する落下速度が生じます。そして、床面に接地す

るや否や、上に向かって踏み切るのです。床面にはコン

タクトプレートが設置されており、そのさいの接地時間

と跳躍した高さが計測されます。この跳躍高には力とい

う因子が作用しますが、力の測定を別個に行なう手間を

省けるのです。この2つの数

値から、かんたんな計算

式によってパフォーマンス

効率が割り出され、それが

ドロップジャンプという動

作の成績を表わします。

このように、パフォーマン

ス効率も判断材料とされま

す。というのも、とくに子

どもたちのなかには、支持

時間が短くても跳躍力の弱

い子もいるからです。この

ように、身体の根幹にある

エレメンタルスピードの形

態は、かならず複合パフォ

ーマンスというかたちで発

現します。わたしたちは、

そのなかからスピードを成

す要素(エレメント)を抽出

しなければならないのです。そうすると私たちはトレー

ニング現場で即座に、いかに短い接地時間でいかに高く

ジャンプしたのかを判断でき、該当者にその情報をフィ

ードバックできるのです。たしかに、バイオメカニクス

などの専門的な施設などには、これと同じことを計測で

きる高価な器具がありますし、それを使いこなす専門家

も配置されています。しかし、このテスト法は、比較的

安価でしかも操作がかんたんで、コーチが普段のトレー

ニングにおいて、数分でセッティングして実施できると

いう利点があります。

それでは、接地時間(支持時間)が短時間にすばやく踏み

切る選手とそうではない選手とのあいだの違いはどこに

あるのでしょうか。右上の図は、ドロップジャンプの筋

電位グラフをしめしています。曲線部分は、多くのテス

トデータを平準化した、筋操作の経過を表わしています。

私たちは、床面に接する直前に筋の操作が開始している

ことを見てとることができます。140ミリ秒以内の短

い時間で踏み切ることのできない選手のばあいは、つま

り踏切のさいに140ミリ秒より長い接地時間(長時間

プログラム)を示す選手のばあいは、左側の曲線のよう

に、筋操作が一時中断し、ふたたび再開していることが

わかります。つまり筋電位の上昇がスムーズではないの

です。その結果として、筋電位のピークは支持時間の後

半でようやく到達しています。それにたいして、支持時

間が140ミリ秒以下の選手(短時間プログラム)のばあ

いは、筋操作が始まると同時に一気に最大に導いており、

そのピークはすでに支持時間の前半部分で達成されてい

ます。つまり、最大の筋操作は、床に接して筋がふたた

び伸張する時点において成し遂げられているのです。

指導者はこのような結果を踏まえて、長時間プログラム

から短時間プログラムへの発達を促すわけですが、それ

をたとえば、40ミリ秒早めに筋操作をやりなさいと指

示しても、どうしたら良いのか誰も判りません。このよ

うな領域は意識によって操作することができないからで

す。したがって、まず私たちにとっては、体質的に“短

時間プログラム”を備えている選手を探すことはタレン

ト発掘という意味で大切です。そしてもう一方で、指導

者にとっては、この時間プログラムを「長時間」から「短

時間」に改善してゆくトレーニング方法の手がかりをえ

ることが欠かせないのです。

©Voß 2008

ドロップジャンプにおける筋操作の長時間プログラムと短時間プログラム

短時間プログラム

支持時間 < 140 ms

長時間プログラム

支持時間 > 140 ms

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[エレメンタルスピードの形態

その2:非反動性スピード]

つぎにエレメンタルスピードの2つめの形態について。

それは非反動性動作スピードです。非反動性の動作のス

ピード形態は、あらかじめ定まった前緊張状態あるいは

静止状態から実施され、その個別動作の終速度を最大に

することを目指す動作に重要となります。ようするに、

筋緊張を増大するための瞬間的な筋伸張が介在しない動

作を指すのです。したがってそれは、非反動性という特

徴をもっています。

その典型例として、スキージャンプや水泳のスタート、

陸上トラックのクラウチングスタートなどのように静止

体勢から踏み切る動作があります。また、格闘系では、

ボクシングのパンチ動作などがあります。反動性のパン

チは、それだけカウンターされる危険が増すのです。さ

らに水泳のスタート以外でも、手で水をキャッチし加速

するという動作がそれに該当します。

やはり、非反動性動作においても、スピードは、関係す

る筋線維ないしは運動単位をいかに大量に、それを同調

化して活性できるかにかかっています。それは、急勾配

の加速力、あるいは抵抗にたいする筋緊張をいかに速く

形成するかという点に現れます。このようにしてのみ、

限られた加速軌道に起因するタイムプレッシャーに効果

的に立ち向かうことができるのです。

私たちは以前、自転車ロードレース種目におけるスプリ

ント系選手を診断しました。かれは持久系トレーニング

のさい、毎分100サイクル(1周当たり600ミリ秒)の

強度のペダリングを行ないます。そして、筋はペダル円

周の4分の1に相当する軌道でしか稼働しません。そう

すると、かれの持久トレーニングでは、筋は1周あたり

わずか150ミリ秒間しか稼働していないことになりま

す。

試合ではたいていのばあい、ゴールに向かうスパート局

面では毎分135サイクルと言われています。というこ

とは、ロード系スプリンターは、力の発揮に与えられて

いる1周あたりの時間は135ミリ秒しかないことを意

味します。ちなみに、バンク系のケイリン選手のばあい

は最大で毎分160サイクルにたっしますが、その時の

筋稼働時間は1周あたり90ミリ秒しかありません。

そのロード系スプリンターの話に戻しますが、かれのチ

ェックを行なった結果がグラフ(下図左)に示されていま

す。テスト内容は、測定バイクに乗り、抵抗を100ワ

ット(ペダルを固定)にして、可能なかぎり瞬時に最大の

力をペダル踏み込み動作で発揮するというものです。曲

線はそのさいの力と時間の経過をしめしています。この

グラフをみると、150ミリ秒後に達した力は約100

0ニュートンです。この結果はわれわれが期待した数値

からは大幅に务っていました。改善方針を立て、トレー

ニングサポートを行ないました。そうして、このグラフ

(下図右)が2年後にチェックした結果になります。ひと

つは、最大力も明白に向上したのですが、しかしそれ以

上に大事なポイントは、筋電位の上昇がより急勾配に、

つまりより短い時間内にスムーズにピーク付近まで達し

たということです。その結果、150ミリ秒後にたっし

た力は1800ニュートンまで向上しました。これは、

非反動性スピードが筋力トレーニングによっていかに形

成されたかを示す一例です。

[エレメンタルスピードの形態

その3:周期性スピード]

つぎに、3つめのエレメンタルスピードとして、ピッチ

スピード(周期性動作スピード)があります。たとえば、

陸上スプリント種目のように、そのスピードパフォーマ

ンスは高いピッチ数によるという特徴もあります。また、

自転車競技も然りです。

測定バイクによる等尺性最大力の計測グラフ

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周期スピード系動作および瞬発力系動作(反動性と非反動

性)においては、2つのスピード形態が現われます。ひと

つは各個別インパルスの非周期性スピード要素で、もう

ひとつは時間単位あたりに生じる動作反復の最大頻度数

です。個別周期を最大限に速く反復するというポイント

は、連続して瞬時の新たな駆動インパルスを(つまりタイ

ムプレッシャーの下で)放つことが必要なときには不可欠

となります。この現象の背後には独自のスピード形態が

潜んでいるのです。それは前者に述べた非周期性要素の

時間的持続性からも影響を受けます。このような個別周

期は、いっぽうの駆動相と他方の復元相ないし弛緩相の

2つから成り立っています。つまり、興奮と制止の絶え

間ない切り替えです。両者の時間の合計が、その個別周

期の持続時間(T)であり、それが周期(ピッチ=f)を特定し

ます:

f=1/T

しかし、スポーツパフォーマンス内の運動周期は、動か

される身体部位あるいはスポーツ器具自体の重さがある

ため、複合的な特性を帯びています。このことは、とく

に空間的に大きな動作を実施するさいの力の前提とピッ

チ数の関係を見れば明らかです。しかし、そのように大

きな空間を占める動作にも関わらず、とくに高いピッチ

数に達する選手は、極端に小さな空間を占める動作にお

いてもひじょうに高いピッチ数に達するという特徴があ

ります。この極度に小さな動作はタッピングと称されま

す。タッピング動作は、交互に、つまり連続的な周期動

作として実施されます。このタッピング周期(ピッチ)の

計測結果は、タイムプレッシャー下での絶え間ない個別

インパルスによっていかに持続的なエネルギーの流れを

確保できるか、その力量を表わしています。

[種目別にみるピッチスピード]

それぞれの種目の特性に応じて、このようなピッチスピ

ードを計測する専門的な動作テストがあります。自転車

選手のばあいは、自転車エルゴメータで、抵抗をゼロに

して6秒間にわたってペダリングして、そのサイクル数

を計測するというのもあります。私たちがこれまで計測

した数値は、6秒間で28サイクルが最大でした。つま

り、毎分280サイクルに相当します。しかし実際には

160あれば十分なのです。これは明らかに、こうした

超潜在力があれば、このように比較的低くてすむピッチ

数をパフォーマンスに転換することが可能となるからで

す。しかし、ピッチスピードに示されるスピード前提に

かんしては、それが比較的大きな空間におよぶピッチ動

作においては、力に依存することも知っておかねばなり

ません。たとえば、重たい下肢を加速したり減速したり

するには一定の力が必要になります。この理由から、私

たちはピッチスピードの計測のためになるべく力を必要

としない、純粋なピッチスピード能力を把握するために

タッピングテストを選んだのです。そのテストには立位

と座位のものがあり、一定の時間内に何回のステップ数

になるかを計測します。その計測データに応じて、スピ

ードのタレント性の程度も現れてきます。オーストリア

に移住したカナダ人のハードルランナー、マイク・ネー

クロイがこのテストを初めておこなったさい、1秒あた

り15.3回のピッチ数でした。また、88年のソウル

オリンピックで優勝した自転車競技のロードスプリンタ

ー、ルッツ・ヘスリッヒは現役当時、かれのパフォーマ

ンスは力というよりむしろスピード性に起因する勝利が

特徴でしたが、かれが昨年(当時49歳)、私たちの研究

所を訪れたさいに、まったく未経験だったタッピングテ

ストを試してもらったところ、1秒あたり14.9回の

ピッチ数を示しました。

ここで再度注意しておきますが、タッピングが良い数値

であるからと言って、それが直接的にたとえば「速く走

る」ということにつながらないということです。「走る」

という動作にはさらに他の諸要因が前提となりますし、

それらが複合化したものに因るのです。もちろん、タッ

ピング数値は、速く走るための前提条件のひとつである

ことは確かであり、さらにそのタイムを世界トップラン

クに引き上げるという目的から見れば、ぜったい必要な

前提です。ということは、日本やドイツのように10.

タッピングテスト

Page 11: スピードトレーニング 解明と方法 - KoLeSpo5 走タイム向上をもたらします(Mann 1999)。そのさいのピ ッチ数はストライドを不変とすると、約5%増加します。

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2秒とか10.3秒のランクとなると、なかにはピッチ

数の尐ない選手もいるのです。

[エレメンタルスピードの形態

その4:反応スピード]

最後の4つめのエレメンタルスピードの形態は、反応ス

ピードです。

反応スピードは、反応時間に相当します。反応スピード

というと、よく運動動作も含められて考えられがちです。

そのばあいの反応スピードでは、運動要素が独自の基礎

的パフォーマンス前提となっているため

に、複合化してしまうのです。つまり、

エレメンタルな(根幹的な)反応スピード

は、運動動作開始までの刺激生起の持続

時間のみを指しています。動作開始に至

るまでの刺激生起の時間が短縮すればす

るほど、そのパフォーマンスに存在する

タイムプレッシャーに効果的に立ち向か

う可能性が大きくなるのです。

反応時間に重要な役割を演じるのが、刺

激を受け入れる受容器官(レセプター)です。

こうした刺激センサーは、代表的に3つの

形態に区別されています―触覚‐皮膚、聴覚‐耳、視覚

‐眼。スポーツにおいては、同時に固有感覚受容器のセ

ンサーも重要な役割を担っています。それは、筋や腱、

結合組織に位置しており、筋緊張や筋長、関節角度の変

化を知覚します。そのほかにも、人間の平衡器である前

庭器官をとおして身体の姿勢と運動にかんする情報が付

け加わります。このような反応の多く、とりわけ固有感

覚受容器のシグナルにたいする反応は意識から独立して

進行します。

ほとんどのばあい、受容器官のほうが優位にあります。

水泳競技や陸上競技などのスタートにおいては聴覚の受

容器、そしてボクシングでは主に視覚、またレスリング

においては触覚の受容器官も大事な役割を演じています。

[選択反応と単一反応]

私たちは反応スピードを、複合的(あるいは選択性)反応

スピードと基礎的(あるいは単一性)反応スピードの2種

類に区分しています。基礎的反応の特徴はスプリントの

スタートのように、あらかじめ定まっている刺激にたい

する応答という状況に該当しています。その他の競技種

目にかんしては選択性反応、とくにアンティシペーショ

ンという意味で重要となります。本来、人間の反応時間

は100ミリ秒以上であると言われていますから、スプ

リントなどのスタート動作のフライング測定装置は10

0ミリ秒に設定されています。つまり、100ミリ秒以

下で体が動くとその選手はフライングになります。です

から、スプリンターの良好なスタート反応というのは1

10から130ミリ秒とされています。ジュニアユース

のなかにも、140ミリ秒ていどの反応時間の選手が尐

なからずいます。このような反応時間は、脳の決定から

実施に至るまでの神経系のいくつの接合部、すなわち決

定から実施までにいくつの中継点をたどるのかに左右さ

れるのです。

わたしたちが行なった反応時間の測定結果は選手間でひ

じょうに大きな開きが出ました。140ミリ秒から28

0ミリ秒という開きでした。もちろんここでは、選手の

集中力というポイントも大きな原因の一つであることは

確かですが、しかし同時に中継点、つまりいくつのシナ

プスをたどるのかということも見逃してはならないので

す。ちなみに、このような反応を改善するもっとも効果

が上がるのがのちに述べるEMS法(電気刺激)です。そ

して、格闘系やゲーム系のスポーツにおいては、複合的

な反応が優勢的です。ここではつねに決断という要素が

絡んでいます。その点、基礎的反応においては決断要素

はありません。しかし、実際にはそのような単一的な反

応においても、途中で正しさをたしかめるために検証が

介在して、転送回路が長くなる人が尐なくないというの

複合的反応スピードと基礎的反応スピード

基礎的な反応(単一反応) 複合的な反応(選択反応) ➪既定の刺激‐応答‐関係 ➪認知的な決断が必要 ➪決断的な要素がない ➪複数の解決プログラムが選択

のために供されている ➪可能なかぎり尐ない中継 ➪同様に可能なかぎり尐ない

点(シナプス=神経接合部) 中継点を経由するが、基礎 を経由する 的な反応のばあいより多い

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も事実です。この転送回路が長いというこ

とは、それだけ多くの中継点(シナプス=神

経接合部)を経由することを意味します。し

たがって、ここではいかに尐ない中継点を

経由できるかということ、すなわちいかに

反応の転送回路を短くできるかということ

が問われています。複合的な反応において

はつねに認知系を媒介とする決断が不可欠

です。野球でいえば、バッターは、ピッ

チャーからの投球の球種や軌道を読みとり、

どのように打つかを決断します。つまり、

バッターは高速で向かってくるボールの軌

道を読みとり、それに応じた打撃動作を導

入実施していかねばなりません。このよう

な状況はすべての格闘系・ゲーム系スポーツに共通して

います。ということは、そのような状況における解決策

(解決プログラム)が複数備わっており、そのうち一つを

取捨選択する反応が問われるのです。選手はどうすべき

かを考えるのではなく、あのプログラムかあるいはこの

プログラムかを決めるのです。そして、じっさいにはそ

うした複合的な反応のほうが、単一の基礎的反応よりす

ばやい選手もいるのです。

[全競技種目に不可欠なエレメンタルスピード]

以上述べてきたエレメンタルスピードの4つの形態は、

とくにゲーム系と格闘系の種目にとってどのような意味

をもつのでしょうか。

まず一つめとして、エレメンタルスピードは複合的な動

作を実施するための基礎であるということです。つまり、

このような基礎をぬきにした複合的動作は成立しないの

です。二つめとして、推進性の動作形態つまり前に向か

う動作のばあい、ゲーム系や格闘系のばあいはストライ

ドより、むしろピッチスピードが優勢であり、有利であ

るということです。それは、たとえば急激な方向転換な

どのように、高いピッチスピードであれば、床面におけ

る反応をより素早く変更できるからです。ですから、サ

ッカーでもスピードが問われるものの、100mを10

秒で走れる選手は必要ではないのです。さらにみっつめ

として、反応は、とくに固定的な、いわば「定番」の技

術解決策を行使するさいに重要な役割をもっています。

4つめとして、反動性や非反動性の動作スピードは、各

アクションの速さを向上させ、瞬発力(パワー)の向上を

促す基礎となります。たとえば、サッカーでもヘディン

グアクションのばあい、ヘッドの移動が0.5秒遅れれ

ばミスの確率は高くなるのです。

[反動性動作における筋の出力]

この反動性と非反動性とを別の観点から比べてみます。

つまり、筋そのもののパフォーマンスから考えると、反

動性の動作形態のほうが効率性が高いのです。反動性動

作のさいの筋緊張は、随意によって最大可能となる分量

以上に達するのです。したがって人間は、ごく自然に反

動性の動きができるところではそうしているのです。ち

なみに、人間の動きの8割が反動性であるといわれてい

ます。

陸上の走り幅跳びの例に戻りますが、助走速度にもとづ

き、身体は高速で踏切板に踏み入ります。そうすると、

本来の筋短縮の前に、一瞬の筋伸張が起きます。この伸

張局面は筋を活性させ(予備刺激)、その結果、伸張段階

において筋と腱が引き合う緊張が生じ、随意に達成可能

な数値を約30から40%ほど上回る緊張が可能となり

ます(de Marées 2002)。筋伸張反射が発生し筋への刺激

伝達をさらに強めることにもなります。

筋の緊張発揮は、主に「堅固さ」しだいであり、それは

以下のポイントに左右されます:

-筋の前活性化

-筋線維タイプ

-筋の開始長

-伸張速度。

モーターニューロンプールから発する筋群への刺激伝達

(神経支配)が同調化すれば、このプロセスは効果的に経

過します。このようにして、助走速度が増す結果、踏切

ゲーム系種目と格闘系種目にかんするスピード

➪エレメンタルスピードは、それ相応の動作バリエーションを

内包した複合的なスピードを形成する前提である

➪推進的なスピード形態では、ステップ間隔よりもピッチスピ

ードの重要度が増す

➪とりわけ「定番」のテクニックによる解決においては、反応

スピードが重要な役割を担う

➪反動性あるいは非反動性の形態としての動作スピードはい

ずれも、瞬間的な個別アクションと瞬発力(パワー)およびピ

ッチスピードを促すベースとなる

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動作に与えられた時間が減尐したとしても、効率の高い

伸張-短縮-サイクルの踏切を遂行できるのです。

[精確な筋操作]

動作の遂行は、つねに短時間でこなすということが狙い

ですが、そのさい、絶対的な持続時間(動作時間の合計)

にかんしては、「時間プログラム」だけではなく、その

他の要因に関係します。したがって、スピードトレーニ

ングの狙いは第1に、スピードのタレント性をもってい

る子どもたちを発掘すること、そして第2として、その

スピード因子を一貫性指導(長期的パフォーマンス育成)の

トレーニング計画において目的意識的に導入してゆくこ

とです。たしかに私たち指導者としては、たとえば15

歳くらいの選手の競技成績が上位に上がれば喜ばしいこ

とですが、かれが将来を担うタレントであるかどうかは

別の話です。むしろ大切なことは、そのパフォーマンス

が良いか悪いかではなく、それが将来パフォーマンスを

見通せる“パフォーマンス前提”という基礎とどのよう

に関連しているかを知ることなのです。この年齢層にお

いては、結果のみを基準とする絶対的パフォーマンスの

評価はさして重要ではないのです。そして、スピード前

提がどの程度強化されねばならないか、具体的にはどの

程度時間プログラムが短くなければならないかという問

題は、トップパフォーマンス年齢時になってから、個性

にあわせて解決していくことが必要なのです。だから、

青尐年児童においては、将来のパフォーマンス発達を保

証する基本前提、つまり精確な筋操作を身につけ、その

基礎にもとづいて各種のトレーニングをおこなうことが

極めて大切です。しかし、現状を見ると早熟タイプの選

手が支配的で、とくに13歳前後では、パフォーマンス

を評価規準とする傾向が顕著です。そうすると、生物学

的には最大5年までの早熟タイプがいますから、「18

歳」の選手と競争すれば、ほとんどの子供のパフォーマ

ンスが务るのはごく当然です。そしてそのいっぽう、早

熟タイプの選手で、世界トップクラスに仲間入りする選

手はほぼ皆無であるというのが事実です。

[リクルートと同調]

それではつぎに、リクルート(リクルーティングないし動員)

というテーマについてふれておきましょう。私たちは、

筋にはその活動が瞬時に増大するという特性があるとい

うことを知っています。これは、リクルートによっても

たらされた結果です。 つまり、力を一気に発揮しよう

とすれば、その動作に関与する筋線維をなるべく多くリ

クルートしなければなりません。そして、医学者が通常

“リクルート”とみなしているヘネマンの原理、すなわ

ち、まず最初に遅筋線維から、そのつぎに速筋線維がリ

クルートされるという説は、ことスポーツにおいてはそ

の様相が異なります。

たとえば、ここに空っぽのフタ付きバケツがあるとしま

しょう。しかし私は水が入っているものと思いこんでい

たとすると、そのバケツを持ち上げるさい、余計にたく

さんの筋線維を動員してしまいます。そして、バケツが

空なのかどうか判らないときは、まず注意してゆっくり

と持ち上げていきます。そのとき、まず遅筋線維から動

員し始め、持ち上げることができるまで筋線維がますま

す動員されていきます。しかし、タイムプレッシャーが

支配するスポーツにはこのような選択の余地や可能性が

与えられていません。慣習的なリクルートの順序は、ま

さに逆であり、ようするに速筋とか遅筋にかかわりなく

可能な線維はすべて一気にリクルートしなければならな

いのです。そのさい、速く収縮する筋線維(FT線維)が

最初から高い刺激閾を有していることが肝心です。

ようするにその説は、瞬時の筋稼働とタイムプレッシャ

ーのもとで大きな力の発揮を迫られるところでは通用し

ないのです。この条件では、速い線維も最初からリクル

ートされるという見方が定着しています。リクルートの

こうしたメカニズムはとくに操作プログラムに依存して

おり、その習得やトレーニングが可能です。このメカニ

ズムは、先行する筋伸張のさいに活性される筋紡錘など

の構成因子によっても促されます。

スポーツでは高いリクルート率が求められます。つまり、

可能なかぎり全ての筋線維を関与させることが大切です。

リクルート率の最大は一般の成人で30パーセント、世

界トップ選手は95パーセントといわれています。

ただし、注意してほしいのは、持久系種目の選手のばあ

いは、筋線維の動員をなるべく尐なくすることが必要で

リクルート率の改善 筋量増大(筋肥大)

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あり、そのようにして、その他の線維が回復できるよう

にして筋動員を交替するという、いわばセレクション的

な動員になります。パワー(瞬発力)系種目の選手のばあ

いはそれができません。もちろん、たとえばマラソン選

手にとっても、とくに30キロすぎになるとスピード性

が要求されます。しかし、ここでは「リクルート」に注

目しているという点に注意してください。

[脊髄に保存されるプログラム]

このように動作の開始時点に、モータ

ーニューロンプールにおける大量のモ

ーターニューロンを同調的に高い放電

ピッチによって活性化することができ、

短時間内に大量のエネルギーが動作遂

行に供給されます。この経過は、脊髄

内に保存されているプログラムにした

がって操作されるのです。このプログ

ラムの進行経過は、意識的に影響を及

ぼすことができません。そしてまた、

このようにエレメンタルな(根幹的な)

プログラムは、ある種の複合的なスポ

ーツ技術によって操作するというプロ

グラムと同一ではありません。複合的

なスポーツ技術は、中枢神経系の階層

的により高次の領域に、筋間どうしの

複合的な運動プログラムとして保存さ

れているのです。それが、特定の運動

課題のさいに筋間の共同作用を操作す

ることになります。そのさいにも、た

しかに脊髄内のエレメンタルなプログ

ラムに遡及して、そのつど多様な動作に活用されてその

まま筋間どうしのプログラムに取り込まれることも起き

ます。

そして、このリクルートはできるだけ同時的にシンクロ

ナイズ(同調化)されることが必要です。まず速筋線維か

ら始まる高いリクルート率を同時的に同調させるという

ことです。

ようするに、リクルートと同調という点において問題と

なるのは、前者は活性化された運動単位の数量であり、

後者はその活性プロセスの同時性です。そして周期化に

おいては、神経系が発するインパルスの周期(ピッチ)が

変動します。高い周期であれば、とりわけ速い線維が活

性されるかあるいは活性水準が高く保持されます。

このようなプログラムは、既述のように中枢神経系(大脳)

だけに保存されるわけではありません(下図)。

大脳から筋線維までの距離が長すぎるのです。脊髄には

モーターニューロンが無数に蓄えられており、筋を操作

するこのようなモーターニューロンがたがいに密になっ

て独立したプールに存在しています。肝心なのは、ある

モーターニューロンが活性され始めると同時にその他の

モーターニューロンが同調して活性されることなのです。

そして、このプログラムはモーターニューロンが蓄えら

れているプールに保存されるのです。

[スピードの形態的な前提]

つぎに、スピードにとって重要な形態(モルフォロギー)

的な前提、つまり身体構造の前提について。

まず、速筋と遅筋の割合がどうなのかという、筋線維の

組成という点があります。つまり、速筋線維が多ければ

多いほど、それだけ多くの速神経をもっていることにな

ドイツ語訳

Hirnstamm: 脳 幹

Afferenzen: 求心性

Efferenzen: 遠心性

Interneuron:

インターニューロン

Motoneuron:

モーターニューロン

Haut: 皮 膚

Sehne: 腱

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ります。その結果、神経伝達速度も高くなります。瞬時

的にぴくぴく稼働する筋肉は速い神経でまかなわれるの

です。そしてそのような速い神経においては、感受性が

大きな役割をもっています。すなわち、受容器官(レセプ

ター)がどれほど敏感で、いかに精確に操作できるのかと

いうことに依存します。また、腱紡錘や筋紡錘がどれほ

ど敏感なのかということも関連しています。なかでも腱

はとくに大きな機能をもっています。この問題について

は、ドイツでも放送されたのですが、NHKが制作した

ドキュメント番組がかなり興味深い情報を提供してくれ

ています。世界最強クラス(2m30から40cm)の走り

高跳び選手であるトーマス(バハマ)とホルム(スウェーデ

ン)の二人を比較したものです。二人はそれぞれ依拠する

技術的な基礎がたがいに異なっています。とくにアキレ

ス腱の長さと強さ(堅固さ)において二人は好対照をなし

ています。トーマスのばあいは生まれつきアキレス腱が

長く、このことが跳躍力に有利に作用しており、ホルム

のばあいは、集中的なトレーニングをとおしてアキレス

腱の堅固度を増強したことで跳躍力を向上させていった

のです。これが冒頭部分の一般論で述べた、トップ領域

における多重構造的パフォーマンスの好例をしめしてい

ます。つまり、形態学的違いは、必然的に異なる技術解

決策が必要とされ、それに応じてトレーニングも異なる

のです。ホルムは1m83cmの身長で、高い助走速度

をジャンプに伝導させることによってのみ、2m40c

mのパフォーマンスにたっすることができるのです。そ

のために彼は、堅固な強い腱をつくりあげたのです。ト

レーニングにおいて筋を強化するのと同様に腱も強化し

ていったのです。そしてもういっぽう、トーマスのばあ

いは生まれつきアキレス腱が長いのです。たとえば、ト

ーマスがホルムと同様のトレーニングをしたとすれば、

まったく不利になるでしょう。なぜなら、ホルムと同じ

ように腱の伸展軌道が短いと、期待する跳躍は生まれな

いのです。かれは、伸展軌道の長さを有利に跳躍へと活

かしているのです。

以上のことから、腱の長さと堅固さに応じて、短時間プ

ログラムをこなす手法の違いに影響するということが結

論づけられるのです。つまりその手法とは、ホルムには、

ひじょうに効率の高い筋操作が不可欠であり、トーマス

のばあいは自身の特性のおかげで、それほど筋操作の効

率が高くなくても、比較的高いパフォーマンスに達する

ことは確かです。しかしこのような違いにもかかわらず、

筋を同時的かつ高度にリクルートすることがパフォーマ

ンスアップにつながることはいずれにせよ、共通する事

実です。

[技術的な対案]

もし、時間プログラムが短時間性ではないためにパフォ

ーマンス向上の障害になるようであれば、それに代わっ

てスピード前提を部分的に補うような代替技術を模索す

ることが可能です。つまり、タイムプレッシャーをある

ていど回避することが狙いとなります。

その一例として走り高跳びがあります。スピードフロッ

プとパワーフロップという2つの技術的バリエーション

に区別されます。この両者の違いは、踏切における支持

時間にはっきり現われてきます。スピードフロップのば

あいはおよそ130~140ミリ秒であり、それにたい

してパワーフロップのさいの支持時間は、助走速度が減

尐するいっぽう、跳躍時の踏み切る脚の屈曲がより大き

く、そのために170ミリ秒以上となります。

こうした背景から、該当の選手が、短時間プログラムと

いう基礎的パフォーマンス前提を実現できるとすれば、

効率の高いスピードフロップを跳躍することが可能とな

ります。そのためには、ドロップジャンプテストによっ

て短時間プログラムであることを確かめることが必要で

す。

ということは、結論としてパワーフロップが、不十分な

短時間プログラムを埋め合わせできる代替技術であるこ

とが明らかです。

このような技術的バリエーションは、フィギュアスケー

トにおけるジャンプ技のアクセル踏切にも応用されてい

ます。スピード前提が十分ではない選手は、より長い加

速軌道を確保し、その結果として長めの踏切時間が可能

となるバリエーションを活用するのです(Seifert 1999)。

ここにおいても同様に、踏切時の深めの屈曲のほかに、

回転ジャンプ技の助走速度と導入においても技術的違い

があります。

スピードの形態的な前提

➪筋 組 成

➪神経伝達速度

➪腱の強さと長さ

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[時間プログラムとは]

エレメンタルスピードは、脊髄の神経系に保存されてい

る刺激伝達プログラム(神経支配プログラム)によって決

められ、それは意識から独立して進行します。

非反動性スピードは、動作の開始時点で大量の筋線維を

取り込むことに、つまり筋線維の高いリクルート率と同

調性において発現します。周期性スピード(ピッチスピー

ド)とは、効果的な(非周期的な)インパルス群の連続性

を指しています。加速や制止、復元などの単一動作を内

包する単一サイクルがそれに相当しています。このよう

な単一サイクル群の連続性も、時間経過を設定しコオー

ディネートする脊髄内のプログラムによって操作される

のです。反応スピードでは、中枢処理のさいに、できる

だけ(シナプスの)中継ポイントを尐なくしてインパルス

の伝達回路を合理化することが重要となります。この“伝

達回路”も同じようにプログラムであると見なされます。

[短時間プログラムと長時間プログラム]

以上述べたプログラムはその時間経過をみると、200

ミリ秒以下です。時間がそれ以上長くなるにしたがって、

意識的に動作を操作できるようになりますが、根幹にあ

るプログラムは無意識下で進行する以外にないのです

(Heuer 1978)。

このような「スピードプログラム」の主要な特徴は、時

間の限定性と安定性という点にあります。ほとんどのば

あい、動作は空間的見本としてよりも、時間的見本とし

て保存されます。モーターニューロンをリクルートする

ということは、時間が主となる行動に属します。その理

由から、「スピードプログラム」は「時間プログラム」

として表現されているのです(Bauersfeld&Voss 1992)。そ

してこれらは、トレーニングにおいて容易に診断チェッ

クできるのです。

時間プログラムは、短時間プログラムと長時間プログラ

ムに大きく2つに分類されます。短時間プログラムが適

切なエレメンタルスピードです。この短時間プログラム

によってのみ、短く効果的な、高い駆動性インパルスを

帯びた本来の主局面が構成され,インパルスの高い連続

性(つまり高いピッチ=周期性)、さらには短い反応時間が

成就するのです。このようにして、外的なタイムプレッ

シャーを効果的に克服することができるのです。

トレーニングにおいて、いかにこのような時間プログラ

ムを活用していけば良いか、また短時間プログラムを育

成できるのかというポイントを知るためには、その属性

について周知しておく必要があります。

[反動性スピードにおける時間プログラム]

すでに、非周期的な反動性動作の例(ドロップジャンプ)に

よって、時間プログラムの属性についてあるていど解明

してきました。そこで得られた認識は、原則としてその

他のスピード形態における時間プログラムにも適用でき

ます。ここでは、反動性動作における時間プログラムは

いったい何によって構成されているのかという点につい

て述べましょう。

反動性動作は、遊脚局面からはじまる踏切跳躍動作です。

時間プログラムが長時間かあるいは短時間かという質的

な違いは、筋操作の仕方に根拠があります。つまり、短

い時間プログラムのばあいは、その鍵を握る筋(ドロップ

ジャンプのばあいは腓腹筋)が時間的にみて地面あるいはプ

レートに接触する以前に作動を開始しているのです。そ

の筋活動は初動時点ではひじょうに高いレベルにあり、

引き続く加速局面では下がっていくのです(5頁参照)。

この様相を筋電図で解析すると、短時間プログラムのば

あいは、プレートに着地する寸前の約40ミリ秒間の前

刺激伝達(前神経支配)がみられ、この直後に電位活動の

急激な上昇とピーク到達を支持時間(接地時間)前半で済

ませているのです。いっぽう、長時間プログラムのばあ

2.時間プログラムとその属性

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いは、前神経支配がそうはっきりと現われず、活動はス

ムーズに上昇せず、活動の減小局面により時々中断し、

ピーク到達活動または2つめのピーク到達が支持時間の

後半でようやく進行するということがよくあります。

[非反動性スピードにおける時間プログラム]

反動性動作と同じように、その他の動作タイプにおいて

もやはり時間的強制のもとでいかに速く運動単位を同調

/活性化するかということが問題となります。反動性動

作とは違って、比較的静止の状態あるいは既定の前緊張

状態からの動作のばあいは、瞬時的筋伸張から始まりま

せん。しかしこの種の動作も、それがスピード優勢の動

作であれば、200ミリ秒以下の時間内に経過するので

す。このような動作に該当するのが、スキージャンプ選

手の踏切動作です。助走としての滑走速度は高く、した

がって踏切ジャンプをひじょうに短い時間で遂行しなけ

ればならず、そのさいに垂直性の踏切速度をなるべく高

くひき上げなければなりません。この時間強制が、既定

の前緊張からの非周期性スピードという要求となるので

す。こうした要求に応えるには、速い運動単位を大量に

同調化することが必要なのです。

さらにこの動作形態は、筋群の共同作用が、つまり最終

節に至るまで個々の体節駆動の投入が、たとえば腰から

膝を経由して足へ、あるいは

腰から胴、肩、ひじを経由し

て手首へというようにはっき

り順序だてられているという

特徴ももっています。こうし

て、より大きな加速軌道の活

用が可能になります。

このような筋間コオーディネ

ーションを基礎とした動作は、

個々のエレメンタルな単一プ

ログラム、つまり体節個々の

作動プログラムの連続から成

り立っています。このように

エレメンタルな部分プログラ

ムがそのひとつひとつにおい

て、前刺激伝達(前神経支配)

から発して、集中された最大の

筋活性につながるのです。この

エレメンタルな単一プログラム

の質、とりわけ早い時点の神経支配において、エレメン

タルスピードが反映しています。ようするに、速筋線維

をいかにうまく即時に同調して操作するかが鍵となるの

です。

たいていのばあい、その鍵を握っているのが、決定的な

踏切に、つまり“最終加速”要素のプログラムにありま

す。というのも、そのプログラムは最大の動作速度にお

いて発生するからです。

以上のように、筋間コオーディネーションのプログラム

(言い換えると“テクニックプログラム”)は、エレメンタ

ルなスピードプログラムを利用して、ひとつの複合プロ

グラムへと組み合わせるのです。

[周期性スピードにおける時間プログラム]

周期性スピードにおける時間プログラムは、タッピング

のピッチ数にもっとも明瞭に示されます。

タッピングでは、短い持続時間で7から17ヘルツ(H

z;1秒当たりの頻度数)の高い動作ピッチ数に達します。

タッピング動作は、腕または脚を使い、異なる体勢で実

施します。動作の振幅は比較的僅かで、立位の脚タッピ

ング動作では0.3cmから5cm程度です。

外見上、高いタッピングピッチは、比較的にトレーナビ

リティの低い接地時間(コンタクトタイム)とトレーナビ

リティの高い遊離時間(ホップタイム)の2つの規準に左

種目別のピッチ数にかんする要求規準

競技種目 試合での動作要求 テスト項目 テスト要求数値

陸上スプリント走

毎秒 5.5ステップ 支持時間 70ms

立位タッピング

14-17Hz 支持時間 50-70ms

自転車ロードレース

100サイクル/分

自転車 エルゴメータ <抵抗ゼロ>

230-250 サイクル/分

自転車ロードレース- スプリントスペシャリスト

130サイクル/分

自転車 エルゴメータ <抵抗ゼロ>

250-260 サイクル/分

自転車バンクレース-

スプリント

160サイクル/分

自転車 エルゴメータ <抵抗ゼロ>

275-285 サイクル/分

競 泳- クロール・キック

6ビート

腹這いタッピング

14Hz

Page 18: スピードトレーニング 解明と方法 - KoLeSpo5 走タイム向上をもたらします(Mann 1999)。そのさいのピ ッチ数はストライドを不変とすると、約5%増加します。

18

右されます。しかし因果的にみると、それはとくに、交

差性神経支配の質によって左右されるのです。そこにお

いては、神経筋の基体(たとえば神経伝達速度、また中枢神

経系にあるアルファ波など)に基づいてはたらき、ち密に連

続するインパルスを産みだす特殊な操作プログラムが作

動しています。これこそが、周期性動作に相当する時間

プログラムなのです。ただし、その時間プログラムは、

非周期性動作にとっては基礎的な働きとなります。

スポーツ種目ごとの専門動作では、最大のピッチ数は5

あるいは6ヘルツ(陸上スプリントのステップ数、ボクシン

グの連続パンチ数、競泳のキック)ていどです。非専門的な

タッピング動作のテストで達成される最大ピッチ数はそ

れら種目専門動作の3倍以上になります。このように一

見、このテストは現実を反映していないように思われま

すが、専門的動作における動作頻度と非専門的なテスト

におけるタッピングピッチとの間には関連性があるので

す。つまり、明らかに同一の基本プログラムが異なる動

作を操作しているのです。したがって、タッピング動作

は、周期性のスピード前提を確かめるテストとして最適

なのです。

[反応性スピードにおける時間プログラム]

また、根幹的な反応スピードにおいても時間プログラム

に関連づけることができます。反応スピードあるいは反

応時間は以下のポイントに左右されます:

-受容器官(レセプター)の種類

-そのつどのモーターニューロンの特性と、それに関連

して異なる関与神経の刺激伝達速度

-中枢神経系の処理に関与するシナプスの経由ポイント

数。

とくに最後に挙げているプロセスはトレーニング可能で

あり、それにたいしてその他の要素は、関与する物質の

構造につよく依存しています。

“切り替え中枢”におけるシナプスの中継ポイントは、

「固定的な」中継ポイントが対応しており、つまり該当

する各反応経過はいずれもひとつのプログラムにもとづ

いているのです。

[時間プログラムの属性]

時間プログラムは、エレメンタルなパフォーマンス前提

としての役割をしっかりもっており、そのトレーニング

への活用に役立つ属性を有しています:

●時間プログラムにおいて、神経筋の形態学的な特性が

反映する

●時間プログラムは、根幹的であるために一般化可能な

(汎用化できる)パフォーマンス前提である

●時間プログラムの境界域は、該当する種目専門動作ご

とに異なる

●時間プログラムは、複数回の連続する運動負荷におい

ても衰えることは尐ない

●時間プログラムは、空間的な技術指標の具体化を決定

づける一要素である。

[神経筋の形態特性の現れとしての

時間プログラム]

脊髄の感覚運動系はその構造と機能が時間プログラムに

関係していることが、実験で証明されています。

速く収縮するFT線維は前伸張のさいにエネルギーをよ

り効率良く供給していることが証明されています

(Tihanyi,Apor&Fekete 1983)。そのような伸張によって誘発

された反射応答が、筋の短縮相を支えているのです

(Schmidtbleicher et al 1978)。ですから、そのような筋線

維を多く有している選手が、短い時間プログラムを実現

できる前提条件がより高いのです。FT筋線維は、速い

神経線維によって処理されます。したがって、神経伝達

速度と反射路の通過時間が、筋線維の組成を間接的に表

現すると言えるのです。

短時間プログラムをもっている選手はいずれも、比較的

高い神経伝達速度とより短い固有反射通過時間をしめし

ています(次頁上)。しかし、そのいっぽうで長い時間プロ

グラムに該当する数値をしめす選手もいるわけですから、

そのような選手においてはトレーニングによって短時間

プログラムへと発達を促すことが必要です。

[汎用性の高い時間プログラム]

神経筋システムは、無意識下で進行するプロセスにたい

して、すなわちスポーツにおいてもたらされるパフォー

マンスの大部分にたいして、操作機能を果たしています。

時間プログラムは、神経筋システムのそうした性能を現

わしています。したがって時間プログラムは、スポーツ

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パフォーマンスや主要パフォーマンス前提を支える根本

的な意味をもっていることになります。だからそれは、

エレメンタルなパフォーマンス前提なのです。

時間プログラムは一般化が可能です。つまり、時間プロ

グラムはその基本形態上、同一の神経筋システムにもと

づく多様な動作形態に活用することができるのです。よ

うするに、ひとつの基本プログラムはさまざまな動作、

しかもその質をも操作できるのです。そのポイントは以

下のとおりです:

● 多様な動作形態への活用可能性

●さまざまなスポーツパフォーマンスに当てはまる、パ

フォーマンス前提としての機能

●ある動作から他の動作への転移可能性

●将来の特定動作に活用するために、あらかじめそれ以

前の動作のなかで発達あるいは練習しておくことが可

能。

ただしこのような転移にはいくつかの条件がつきます。

時間プログラムは、どの動作においても自動的に作用す

るのではなく、該当の動作構造が、時間プログラムと同

様の要素をもっているばあいに活用できるのです。この

アクセスをトレーニング方策によって支えることになり

ます(Bauersfeld&Voss,1992)。

[種目専門動作別に異なる時間プログラムの規準]

時間プログラムが同様であれば、異なる動作であっても

同様の神経筋構造を有する

のですが、その現象の姿は

異なってきます。

このような違いは、それぞ

れの動作の空間的な指標と

時間経過が異なるからです。

そのように、時間プログラ

ムの短時間性と長時間性の

境界値は、動作ごとに異な

っています。

そのさい、時間プログラム

の境界域は、関節を軸とす

る水平性動作速度と動作振

幅などのように、とくに空

間と時間の各指標に依存し

ます。この両者の値は、その動作専門性に存在するタイ

ムプレッシャーと直接的に関連しています。つまり、タ

イムプレッシャーに起因して実現できるだけの制動軌道

と加速軌道しか活用できないのです。このようなことか

ら、技術を空間指標によって解決するバリエーションが

あるのです。

[運動負荷が高くても低下しない時間プログラム]

300回におよぶドロップジャンプの連続実施という実

験テストにおいて、短い時間プログラムの選手も、また

長い時間プログラムの選手も非周期性の時間プログラム

はほぼ不変であることがしめされました。支持時間その

ものもほとんど変化していかなかったのです。ドロップ

ジャンプ後にふたたび踏み台に上がるまでの時間がトラ

動作の違いに応じた時間プログラム境界域

動 作 時間プログラム境界域

ドロップジャンプ (陸上競技全般) 約140ミリ秒

スキー靴着用によるスクワット式ドロップジャンプ(アルペンスキー)

約170ミリ秒

走り幅跳び 約120ミリ秒

スプリント走 約80ミリ秒

ジャンピング走 約140ミリ秒

ホッピング走 約160ミリ秒

神経伝達速度(縦軸:m/s)と支持時間(横軸:ms)の関係

*短時間プログラムの選手たち(円内)は全て、秒速49m以上の高い神経伝達速度を示した (VOSS 1989)

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イ間の休息という実験でした(Bauersfeld&Voss,1992)。神

経筋システムはその負荷実施中、外的にはいっさい疲労

現象がありませんでした。それに反して他の機能系、と

くにエネルギー系の疲労現象が確かめられました。この

結果は、時間プログラムはたしかにプログラム操作によ

って経過し、かつ安定的であるということの現われです。

基本的に同じよう

な結果が、他のス

ピード形態におい

ても確かめられま

した(右図)。

立位のタッピング

(このばあい負荷なしで)

においては、明らか

なエネルギー疲労が

ラクタート値の変化

により確かめられま

したが、しかし、最

高値は最後の30

セットめで達せられ

たのです。

[技術の空間指標を左右する時間プログラム]

既述のように、短い時間プログラムの実施は、かなり特

定された空間的動作指標の実現と不可分です。

短時間プログラムの達成に共通するポイントは以下のと

おりです:

-短い制動と加速の軌道を進む

-躍動要素の加速を早い時点に導入し終了する

-インパルスを効果的に伝導するための良好な全身緊張

状態(体幹の強さ)。

さまざまなトレーニング法の実験によると、空間的指標

をさまざまに変えてもそれだけでは、長い時間プログラ

ムから短い時間プログラムに導いていくことが不可能で

あることが確かめられました(Bauersfeld&Voss 1992)。

したがって、動作の時間構造は長年にわたり安定的であ

る と す る 見 解 は 説 得 力 が あ る と 思 わ れ ま す

(Bothmischel&Halbing 1982)。スピードという観点からは、

動作の時間指標は、空間指標にたいして優位にあるとい

うことを基本に据えるべきです。神経筋のプログラムは

その開始後は固定的な時間順序にしたがって経過します。

そこでは、空間指標が短時間プログラムの遂行を左右す

るのではなく、先に短時間プログラムの遂行が、動作の

空間指標を変更するための基礎をつくるのです。この証

言は、動作の複合経過にたいする時間プログラムの中枢

系の操作機能と符合しているのです。

冒頭のスプリントの例で述べたように、支持時間の短さ

に示される非周期-反動性の短時間プログラムは、近年

の新しいスプリント技術を実現する決定的な前提条件で

す。

技術的なミスあるいは最新技術の主要規準を実現できな

い原因は、エレメンタルなスピード前提に、すなわち時

間プログラムにある場合が珍しくないのです。

それにしたがって、空間的な要因をいじってみても、長

時間から短時間へのプログラムの変更はいっさい不可能

です。ただし問題は、動作の空間的な面にかんするアド

バイスのほうが選手にとっては理解しやすいために、時

間プログラムの実現という目標は、付録的な動作アドバ

イスとして扱われがちであるという点にあります。

立位タッピングテストによる周期安定性を調べる実験:@5秒間タッピング x3回;1セッ

ト、セット間休息1分=乳酸値計測、合計10セット。

* 左縦軸:ピッチ数/秒(Hz) * 横軸:反復数/セット数 * 右縦軸:乳酸値(mmol)

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スピードトレーニングでは、その選手をタイムプレッシ

ャー下の動作を成功利に遂行できるようにする対策が全

てです。このようなパフォーマンス前提の発達に寄与す

るのがとりわけエレメンタルスピードのトレーニングな

のです。しかし、そうしたトレーニングが成果を上げる

には、筋力トレーニングから専門的トレーニングにいた

るその他のトレーニング領域への効果的影響を考慮する

ときに可能となります。その点、技術トレーニングと筋

力トレーニングにたいする関係性がもっとも密接です。

つまり、この両者の内容はスピードトレーニングの観点

から変えることが必要です。

[スピードトレーニングの課題]

A エレメンタルスピードトレーニング―基本動作によ

るエレメンタルスピードの発達

操作プログラムを短時間プログラムへと変更することが

スピードトレーニングの狙いです。ここでは、複数の動

作形態に利用できるような、根幹的な、一般化可能なプ

ログラムが問われており、そのためにこのプログラムは、

次に控える系列的な動作あるいは専門技術のための基礎

という特徴を帯びた、一般的な、広範に有用なトレーニ

ングエクササイズによって形成することができるのです。

そのばあい、その条件下で目標プログラムの実現を確実

にできるように、実施条件を変えることが中心ポイント

になります。このような促通法を講じて、いちど目標プ

ログラムに達したら、その後は、頻繁に実現できるよう

になり、やがて通常の条件下で実施できるようになりま

す。

B 操作を促す技術トレーニング―エレメンタルスピー

ドを複合的動作に活用するために、短時間プログラ

ムを試合エクササイズ・トレーニングエクササイズ

の専門技術へとはめ込む(または刷り込む)

スピードトレーニングにおけるこの領域の狙いは、発達

したあるいはすでに有している短時間プログラムを、試

合動作までも含めた複合的動作にも導入することにあり

ます。根幹的なプログラムが複合的な動作に適用されて

のみ、このプログラムの効能が、試合パフォーマンスや

専門筋力トレーニングにたいして、望まれた効果をもた

らすことができるのです。エレメンタルなプログラムを

複合的な操作プログラムに刷り込むことが目標なのです。

C 操作を促す筋力トレーニング―短時間プログラムの

条件下での専門性を形成することを狙いにした、エ

ネルギー系パフォーマンス前提の発達

短時間プログラムの実現には、最短の時間内での高エネ

ルギーの発揮が求められています。エネルギー系パフォ

ーマンス前提を形作るトレーニングエクササイズはたい

ていのばあい、その速度要求が低いために、特別な方策

なくしては成功しないことがままあります。そのうえ、

せっかく発達したパフォーマンス前提が、それが要求内

容に対応したかたちで育成されていなかったために、試

合パフォーマンスに適用できないという事態になるので

す。このトレーニングの対象領域は、短時間プログラム

に対応したパフォーマンス前提を形成することです。

[エレメンタルスピードトレーニング

(ESトレーニング) ]

エレメンタルスピードトレーニングの狙いは、短時間プ

ログラムをシンプルな、それゆえに広範囲に効く動作形

態によって育成することにあります。

そのトレーニングはプログラミングなのです。それは、

3.トレーニング

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負荷をかけられた組織の疲労化(刺激化)後の回復によっ

てパフォーマンス向上というトレーニング効果をもたら

すとする、伝統的な刺激‐順応の法則(「超回復」)に基

づいて進行しません。いわばプログラムトレーニングは、

むしろ情報系レベルに位置するトレーニングとして理解

されねばなりません。ようするに情報を神経系に与えて、

プログラム変更をもたらすことなのです。

トレーニングによってエレメンタルスピードを発達させ

るには、適切な促通法をつかって短時間プログラムの実

現が求められます。そのさいの短時間プログラムは最低

でも200ミリ秒以下であることに注意することが肝心

です。この時間帯は意識的に操作不能であり、無意識下

にある操作メカニズムを介して経過します(Heuer 1978)。

このことから、そうした時間プログラムにたいしてトレ

ーニングによって促通するためには、無意識に進行する

プロセスに働きかけることができる手段を講じなければ

なりません。その手段の内容は、今までの古く定着して

しまった操作構造をこじ開けることができるように、通

常の条件から明確に逸脱した要求課題が設定されること

が不可欠です。そうして、こじ開けられた構造内に新た

なプログラムを刷り込むことが重要です。ようするに、

時間プログラムの遂行を助ける促通形式が重要なポイン

トなのです。

このようにして、種々の促通条件の下で、プログラムの

変更が十分に、つまり頻繁に実施されるようになれば、

その新プログラムを今度は通常条件に転移化することが

可能となります。そのさいのヒントは以下の2つです:

1.トレーニングにおいて、反復数の半分以上が目標値

に妥当するようになれば、比較的低めの負荷分量を

こなした後に、目標プログラムを通常条件下でも実

施できるようになる(Stark 1986)。つまり、全体数

量よりも重要なのは目標の実現度が割りあい高くな

ったということが目安となる。

2.操作プログラムが変更されると、その変化に応じて、

他の機能系に新しいエネルギー系の課題が生まれる。

動作指標の変化に伴ってより高いエネルギー系の要求が

生じてくると、その選手においてただちに、傷害から自

身を守ろうとして、自己防衛的な抑制作用が生起します。

それが、通常条件下への新たなプログラムを転移化する

プロセスを阻害する場合もあり得ます。

ですから、トレーニングエクササイズは、そのエネルギ

ー系の要求が短時間プログラムをこなせるような程度で

あることが必要です。たとえば、ドロップジャンプの落

下高を適切に調節するなどです。

[ESトレーニングにおける促通形式]

現在の科学認識の現状から見て、操作プログラムの変更

には、以下に掲げる促通法があります:

●動作抵抗の軽減化-低減化(アシステッド):その選手

のエネルギー系レベルが明らかに高い(目安のひとつに

体重)場合などの対案として

●動作抵抗の重量化-増大化(レジステッド):運動単位

の働きをより速くリクルートし同調化するために

●電気刺激(EMS):操作にたいして直接的に働きかけ

るために

●時空的な制限:保有する行動時間を制限する、あるい

は運動振幅を小さくする

●動作感覚および固有感覚受容器の発達

●動作イメージ効果やメタファー応用による動作イメー

ジへの働きかけ。

大切なポイントは、目標プログラムの遂行になります。

つまり、筋を操作するという目標を実現できるようなト

レーニング条件を設定するということです。スピード性

のトレーニングは、たとえば筋力トレーニングのように、

ベンチプレスなどを遂行できなくなるまでやって一日半

の休養をとれば強くなる、つまり、疲労-超回復-筋強

化という流れではなく、ミスや失敗を徐々に取り除いて

いき、その動作をミスなしで実施できるレベルに達する

技術トレーニングと同じように実施するのです。ただし、

技術トレーニングでは、動きにミスがあれば、それを修

正する指示は可能ですが、スピードトレーニングのばあ

いは時間的に200ミリ秒以上の持続する動作は該当し

ないために、意識によって促通することが不可能です。

無意識下で進行する動作なのです。

[動作抵抗の軽減化(アシステッド)]

まず、その方法の一つめとして荷重軽減法(アシステッド

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法)があります。つまり、本来のスポーツ動作をより尐な

い抵抗という条件で実施する方法です。

たとえばスポーツ器具を使用する動作であれば、それを

軽めにする方策があり、また自体重だけの動作であれば、

体重抵抗を軽減するサポート器具を使用するという方法

があります。その一例では、ゴムザイルを装着して体重

抵抗を軽減してドロップジャンプトレーニングを行なう

という方策があります(下写真)。そうすると、接地時間

がより短く、踏切の高さも上昇します。

この促通法は、その動作をサポートして、選手をエネル

ギー系要求の負担から軽減することです。

スポーツトレーニングを積み重ねると、やがて選手は、

エネルギー系前提と、操作プログラムによるその呼び出

しとの間にバランスを形づくるようになります。ここで

はそのプログラムが変更を余儀なくされ、それはエネル

ギー系要求の変化によっても生じ、また、サポートやア

シストによっても可能です。そのやり方によって操作プ

ログラムが短時間プログラムに向かって変化していくよ

うになれば、正しい導入法と言えます。

短時間プログラムへの切り替えはそれ

に対応して、エネルギーの「超潜在力」

―長めの時間プログラムを実施するの

に要したときよりも高いエネルギーレ

ベルを必要とします。動作抵抗の低減

化の助けで、そのようなエネルギーの

超潜在力を仮説することができます。

ジュニアトレーニングでは、生物学的

見地から、プログラムの切り替えに必

要なエネルギー系の超潜在力を実現不

可能なばあいがよくあるために、これ

はとくに重要です。

子どもたちは、その体重との相対的関連をもってしても、

力の前提は比較的わずかです。

ESトレーニングにおいて各スピード形態の発達を促すさまざまな促通形式

非周期-

反動性スピード

非周期-

非反動性スピード 周期性スピード 反応スピード

アシステッド

ジャンプボール跳び

振り子スウィング

両脚

斜め体勢での

タッピング

ゴムロープ使用の

単一性反応

レジステッド

ドロップジャンプ

ザイルプルでの投てき

クランクアーム動作

抵抗に対する

単一性反応

EMS

ドロップジャンプ

スクワットジャンプ

ピッチ数設定

単一性反応

時空制限

固定ザイルによる

ドロップジャンプ

ローラー走行

ボールバウンド

デュエルゲーム

感受性向上

動作感覚

弾性プレートでの

ジャンピング

さまざまな床材からの

踏切

フープ‐ピッチ‐

コオーディネーション

反応時間の操作

イメージトレ

ーニング/メ

タファー

ゴムボール

カエル

空圧式ハンマー

交通信号

©Voß 2008

ゴムザイル装着によるトレーニング

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負荷を軽減するには例えば以下のやり方があります:

● 重量や動作の抵抗を軽減する

●非反動性動作のばあいは水平動作速度を増大する(水泳

やスプリント走におけるプルサポートなど)

●スポーツ器具の駆動面積や重量の低減化(小さめあるい

は軽めの投てき具、自転車のギア比率を小さくするなど)。

こうした方策によって、短い動作時間と短時間プログラ

ムを実現する場を設定します。しかしこれらは、自動的

には進んでいきません。動作遂行を継続的にチェックす

ることが必要です。負荷の軽減はつねに、改善プロセス

への条件が簡易化されたことによって、望んでいなかっ

た方向に進んでしまう危険をはらんでいます。それは、

選手がたとえば体重を支えるジャンピングゴムザイルを

装着してドロップジャンプを実施するさい、そのザイル

の弾性に自身を預けることに集中して、結果的に受動的

になるという危険性があります。そうすると、彼自身は

積極的(能動的)ではなくなり、短時間プログラムに逆行

する結果をもたらしてしまうのです。したがってこの練

習には、高い能動的な意識と目指すトレーニング効果の

継続的チェックが要求されるのです。

[動作抵抗の増大化(レジステッド)]

2つめとしての方法は、

その逆の荷重追加法(レ

ジステッド法)がありま

す。この狙いは、抵抗

が大きければそれだけ

多くの筋線維をリクル

ートしなければならな

い条件下におくという

ことにあります。それ

はたとえば、ウエイト

ベストを着けてドロッ

プジャンプをおこなう

という方策があります

(右写真)。

たいていのばあい抵抗の追加(レジステッド)は、動作抵

抗の増大によって不可避的に動作速度が低下するため、

スピードトレーニングというより、むしろ筋力トレーニ

ングのほうに関係づけられています。それゆえに筋力ト

レーニングはその作用原理を見る限り、根本的にスピー

ドトレーニングから区別されています。しかし、筋力ト

レーニングもそしてスピードトレーニングも、神経筋シ

ステムの発達に狙いを定めているのです。

増大化された動作抵抗におけるトレーニングは、スピー

ドトレーニングの観点からは、主として運動単位の操作

メカニズムの変化を狙いとしています。収縮する筋線維

の、とりわけ速筋線維のリクルート率をより高くするこ

とを目指すのです。

時間的な制限のもとでの動作においても同じです。神経

支配の(刺激伝達の)プログラムは、動作開始と同時に、

速い運動単位を同調して活性化しなければなりません。

最大域の荷重による筋力トレーニングは、速い筋線維の

リクルート率の向上につながります。似たような効果は、

尐なめの補助荷重をもちいた、瞬時的に高い筋引っ張り

応力を発揮するトレーニングでも得られます。

スピードトレーニングにおいて抵抗を増大するやり方は

さまざまです:

● 全体の荷重増加ないしは動作抵抗の増大(ランニング

やスイミングの引き抵抗、坂上がり走、ボートの牽引抵抗な

ど)

●インパルスを強調したトレーニング―周期性スポーツ

種目における尐ないピッチでの瞬発力系(パワー系)の

動作実施を強調する

●スポーツ器具の駆動面積や重量の増大―重めの投てき

器具、フィン、手かき板など

●運動振幅の拡大―ただし、より高い荷重によってしか

達せられないような、膝角度を増したときに大きな筋

力モーメントを引き起こすことが可能な場合、例;ウ

サギ跳び。

成人と児童における最大力/体重の関係性

最大力 体 重 関係指数

成 人 1,500N 75kg 20.0N/kg

児 童 300N 45kg 6.7N/kg

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[時空的制限]

つぎに3つめの方法として、時間と空間を利用する制限

法もあります。この関連は、旧東独時代にある新聞記事

を読んで思いついたことです。その記事は冬季種目のリ

ュージュ競技についてでしたが、あるコーチの話で、リ

ュージュのスピードアップは、仰向けでソリに乗る滑走

姿勢はまったく動じないことが理想であり、そのために

はソリに体を縛りつけて滑走させるのが良いと思いつい

たが、実際には誰もやろうとしなかったというエピソー

ドが載っていました。私はこのアイデアを陸上スプリン

トに応用できると思いつきました。水平的な反動性動作

における制限策としては水平速度の上昇というのがあり

ます。トレッドミルの上で高速ジャンプ走を行なうとい

う方策です(写真下)。そうすると、不可避的に水平性の

瞬時的な踏切動作を要求されるのです。もうひとつの策

としては、脚幅を固定したランニングがあります(写真下)。

最初は普通の非伸縮性のザイルを使用したのですが、す

ぐ転んでしまうので、その後はゴムザイルを使用し、け

が予防のために芝生上で実施するようにしています。こ

のランニングを競争形式で実施します。そうしてピッチ

数の高いほうが勝ちとなります。つまり、より高いピッ

チ数という制限的条件を設定するわけです。

ようするに、制限とは、短時間プログラムでしか動作を

実施できないような、外的条件のかたちを整えることを

意味します。そのような制限条件は以下の2点によって

設けることができます:

●時間制限―外的な高速度要求によって特別なタイムプ

レッシャーを生みだす。たとえば、エルゴメータやト

レッドミル、スイムミル、測定バイク、プルアシスト

器具など

●空間制限―動作余地空間を小さくすることでタイムプ

レッシャーに導き、速い動作ピッチないし短い運動局

面を課すことになる。

制限法だけでは、エネルギー的前提が不十分であるばあ

い、短時間プログラムに達することは不可能です。しか

し、制限法による刺激は動作時間の短縮にもっとも有効

です。したがって、この制限法は、他の促通法と組み合

わせるのが最適です。

[電気刺激(EMS)]

つぎの方法は、電気刺激法(EMS法)になります。たと

えば、陸上トラック種目のクラウチングスタートのトレ

ーニングへの導入例があります。

つまり、電気刺激(EMS)によって、より多くの筋線維

をリクルートすると同時に、反応スピードを改善しよう

というのが狙いです。スタートの号砲からの反応時間を、

たとえば140ミリ秒から130ミリ秒あるいは120

ミリ秒に改善したいとすれば、その時間に合わせて自動

的に刺激が伝わるようにEMS器具(バイオインパルサー)

を設定できます。スタートの号砲から100ミリ秒以内

にスタートすればフライングとされていますから、それ

に向けたスタート反応も改善できることになります(下写

真)。

トレッドミルでの高速ジャンプ走

脚幅を固定したランニング

スターター(センサー付の2つの半円板を閉じると音が鳴る仕組み)の合図後、セットしておいた時間後(例;120ms 後)に自動的にインパルスが発生する(“バイオインパルサー”)

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運動の操作プログラムに直接働きかけるということが、

電気刺激法(EMS)の主な狙いです。それは、その専門

動作の進行中に、筋にたいする瞬時的な電気刺激を引き

起こすというものです。しかし、筋だけが刺激されるの

ではなく、反射系メカニズムをとおして操作プログラム

にたいしても働きかけができるのです。

短時間プログラムに対応する筋操作の発達を促すために

は、その刺激が、とくにタイミングのよい集中した筋稼

働開始とその稼働の急激な上昇へと、筋活動の経過をリ

ードしていくということがポイントです。

このように、電気刺激が脊髄の操作プログラムに作用す

る様式は以下のようになります(11頁参照):

刺激は求心性の神経回路を通って、モーターニューロン

プールまで転送されます。比較的強力なその刺激に応じ

て、大多数の運動前角細胞、つまり数多くの運動単位が

同調活性化されます。このように電気刺激を利用して、

速い運動単位の大多数が同調してリクルートすることを

トレーニングするのです。

ドロップジャンプの事例で以上のことを説明しましょう

(下写真)。

ある選手が長時間プログラムであるため、そのような筋

操作を短時間プログラムに変更してゆくためには、接地

直前にすでに、筋電位活動の上昇が急激にかつスムーズ

に進み、支持時間の前半においてその活動のピークに達

していなければなりません。

これを達成するには、必要な前活動が開始されるべき時

点に(接地の40ミリ秒前)、刺激インパルスを与えるの

です。ドロップジャンプのケースでは、落下後、着地寸

前に足が光電管を通過した時点で刺激が誘発されます。

このようにして、長時間プログラムの選手にたいして、

筋動員のタイミングを刺激によって伝え、短時間プログ

ラムで踏み切るように改善していきます。このようなト

レーニングを一定回数行なったのち、EMSなしでも短

時間プログラムができるようになれば、かれの神経系に

短時間プログラムが保存されたと判断できるのです。

スピードをめぐるトレーニングはこれまで、神経系の重

要性は認識されていても、とくにEMSトレーニングも

含め、現実では主に筋力系にアプローチするトレーニン

グに終始し、神経系の能力向上はそれらの「副次効果」

でしかなかったことが明らかです。しかもその判断規準

がなかったのです。私たちが提唱するコンテンツは、筋

のみならず、むしろ神経系に促通するトレーニング法で

あることを強調しておきます。その要領はまず、電気刺

激パッドは該当する筋に近い皮膚に貼り付けますが、そ

れは筋への電気刺激に伴って筋内の感覚受容器、つまり

神経要素が励起されやすいからです。刺激が腱紡錘や筋

紡錘に命中し、それらがただちにモーターニューロンの

プールにその刺激を求心的に転送し、そのプールには大

量の強い刺激が集まり、モーターニューロンプール全体

が励起されてその刺激されたものを遠心的に筋に送り返

すのです。ようするに私たちがEMSによって目指すの

は、多くの筋線維に刺激を同時に命中させることにあり

ます。こうしたトレーニングを一定ていど積みあげると、

神経系に新しいプログラムが出来上がるのです。以上述

べた点は、ライプチヒ大学スポーツ学部の8人の学生選

手で行なった実験結果が証明しています(次頁図)。つま

り、EMS導入のドロップジャンプ・トレーニングによ

って改善した時間プログラムを、その終了から6週間の

あいだドロップジャンプをいっさい行わずにふたたび測

定したところ、大多数がその神経系に、EMSで改善さ

れた時間プログラムが保存されていることが証明されま

した。

[動作感覚と固有感覚受容器の発達]

つぎに、5つめの刺激促通法として、感覚系を鋭敏化す

る、つまり感受性を高める方法があります。たとえば、

Page 27: スピードトレーニング 解明と方法 - KoLeSpo5 走タイム向上をもたらします(Mann 1999)。そのさいのピ ッチ数はストライドを不変とすると、約5%増加します。

27

アウトドアパークにあるようなバランスプレートが一例

です。これは、タッピングを速くやればやるほど、プレ

ートが安定化する仕組みになっています。つぎは動作の

感覚化です。たとえば、トランポリンを使用したジャン

プ動作があります。トランポリン運動は、身体全体をし

っかり締めないとジャンプできないのです。体に締まり

がないと方向が外れたり、体勢を崩してしまうのです。

この動作では接地時間は長くなりますが、ここでは身体

の締め、つまり全身の筋動員率のアップを重視している

のです。そしてもうひとつは、この写真はフィギャアス

ケート選手ですが(下写真)、不安定なプレートに立って

バランスをとりながら、背後から不意に頭上から飛んで

来るボールをキャッチするというやり方です。ここでは

とくに自己受容性感覚(固有感覚受容器)の刺激が狙い

となっています。つまり、筋や腱、関節に内在している

感覚組織(受容器)の反射を促がすということです。これ

をしっかりこなせば、それだけ身体をしっかり操作でき

るのです。

スピードパフォーマンスでは

作動時間が200ミリ秒以内

に制限されると、その動作遂

行を意識下でコントロールす

ることができません。にもか

かわらず、その動作遂行後に、

感覚的な情報にもとづく動作

記憶が残ります。そうした記

憶とさらなる動作経験をつづ

けると、そのように極端に短

かい時間の作動に関しても内

的イメージが生じてきます。

その感覚情報は主に、筋や腱

および関節における固有感覚

受容器をとおして獲得されます。

固有感覚受容器の感受性を改善することにより、せん細

な動作感覚が身につくようになります。感覚は、促通条

件下で、目指すプログラムが明確な動作実施などによっ

てとくに促されます。ようするに、これまで未経験の、

変化された動作の実施はいずれも、新しい動作感覚と動

作経験をもたらすのです。既存の動作経験との比較が、

動作の事前調節を、狙い通りに変えるようにさせます。

このように動作の事前調節を意識下または無意識下で変

化させることによって、脊髄の動作プログラムを変える

よう促すのです。

的を絞って働きかけるには、固有感覚受容器へのアプロ

ーチにアクセントをおいたエクササイズが適しています。

それには、様々なコオーディネーション要求を組みあわ

せるのが有効です。たとえば、バランスディスクなどの

不安定な床面でのバランス動作のさいに目を閉じるとか

片脚の膝立ちとか、あるいはボールを正確にパスするま

たはキャッチするなど。

固有感覚受容器という点では、抵抗増大(レジステッド)

の方式でスピードトレーニングを実施すれば、神経筋シ

ステムの安定性の向上に利用することができます。そこ

では、瞬発力系(パワー系)の動作が実施されます。この

瞬発力性の動作が反復されると、効果がはっきり現われ

てきます。つまり、動作の操作内容が、運動単位をいっ

そう速くリクルートするように変化していくのです。こ

の効果は神経筋のウォームアップに利用できるし、その

あとのエレメンタルスピードトレーニングの条件を有利

80

100

120

140

160

180

200

220支持時間[ms]

1 2 3 4 5 6 7 8

選 手

EMS開始時

EMS終了時

6週間後

Page 28: スピードトレーニング 解明と方法 - KoLeSpo5 走タイム向上をもたらします(Mann 1999)。そのさいのピ ッチ数はストライドを不変とすると、約5%増加します。

28

にすることにもなります。 この効果が保たれる時間は

20分間で、その後失なわれていきます。抵抗は、動的

なあるいは静的なものも導入することができます

(Guellig 1996; Eggenberger&Hess 2003)。

[動作イメージとメタファー(比喩)]

動作イメージは、動作の(あるいはプログラムの)経過にか

んする感覚を、動作手本にかんする自己イメージに一体

化させます。狙いとしたある動作経過についての自己イ

メージは、ほとんど動作の実際上の手本からずれていま

す。

したがって、動作イメージの発達は、理想的なイメージ

を伝えることで促されます。これらが自己の動作感覚と

比較され、さらに働きかけられていきます。

既存の、あるいは意識的に変更された動作イメージは、

実際の動作遂行の変化に利用することができます。それ

がささいであっても、ある動作をイメージするだけで、

筋の神経支配を引き起こします(カーペンター効果)。こ

のような現象は、観念下における運動の原理として周知

されています。これを利用して、トレーニング効果を生

みだすことが可能なのです。その効果は、動作イメージ

中に、動作実施それ自体と同様のプロセスが神経と筋に

おいて活性化されることにあります。

意識的にメタファーを活用するという促通法は、一般生

活からの経験をトレーニング課題に結びつけるというも

のです。このような連想は、無意識下に進行するプロセ

スにたいしてアプローチするには、長々とした説明より

も、しばしば有効です。

とくに子どもたちに話しかけるさいには有効です。私は、

子どもたちにドロップジャンプの要領を説明するさい、

かならず、軟式テニスボール(中が空洞)と、ゴムボール

を2種類用意しています。そして、「このゴムボールは

どうしてこんなにジャンプするの?」と尋ねると、たい

てい「それはゴムだからだよ」という答えが返ってきま

す。そしてテニスボールを取り出し、「これもゴムでで

きてるのに、そんなに撥ねないよ」と言うと、子どもた

ちはどのように踏切跳躍すべきかイメージしやすいので

す。

[促通形式の組みあわせ]

以上、さまざまな促通形式について述べてきましたが、

これらは互いに組み合わせることが可能であるし、ある

いはそうすることが効果が上がるのです。とくに、単独

の促通法を施しても成果がはっきり見られないばあいに

は組み合わせを考えることが有効でしょう。以下その一

例です:

● アシステッド/レジステッドの条件を時間制限と組み

合わせる―ジャンピングザイルを装着(アシステッド)

あるいはウエイトベスト装着(レジステッド)によるト

レッドミルでの高速ランニング

● アシステッド条件をEMSと組み合わせる―ジャン

ピングザイル装着によるドロップジャンプへのEMS

導入

●レジステッド条件をメタファーと組み合わせる―たと

えば、荷重追加によるドロップジャンプ―そのときの

メタファー;「鉄でできた大きなバネみたいに!」

●アシステッド条件をスピード値やパフォーマンス値に

かんする自己情報または他者情報と組み合わせる―た

とえばドロップジャンプ後に、自分の支持時間の結果

値を推量したあと、実際値を知らせる

●空間と時間の制限をメタファーと組み合わせる―たと

えば、プルアシステッド道具(ゴム製牽引用具)を使用

したスプリント―メタファー;「灼熱の地面を駆け抜

けるように!」。

スピードトレーニングでは、方法の多面性が決定的です。

そのことによってしか、情報処理プロセス全体を活性化

させることができません。したがって指導者は、つねに

新しいエクササイズや組み合わせを導入しなければなり

ません。バリエーションやコンビネーションをうまく講

じれば、たったひとつの基本エクササイズから、トレー

ニングに必要な多面的な動作のバリエーションを数多く

展開できるのです。そして、複数の方法を組み合わせる

ことで、毎日のスピードトレーニングを変化に富み、興

味をそそる内容にしていき、そうすることで、効果をさ

らに高める負荷バリエーションを無限に“引き出す”こ

とができるのです。

[エレメンタルスピードトレーニング(ESトレーニ

ング)における負荷構成]

スピードトレーニングを方法論の見地から捉えてみると、

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29

その原則は多くの要因に依存しています。スピードトレ

ーニングの内容を構成するさい、その課題内容(メニュー)

とともに、選手個々にとってはその課題を実施するさい

の質の程度が重要です。

トレーニングには「処方箋」のようなものはありません。

したがって、スピードトレーニングの全てに共通する一

般原則を知っておくことが必要です。そのような原則を

念頭にいれておくと、さまざまなトレーニングシーンに

おいて、どのような方法を講じるべきかについて自立的

なかつ安定した判断を下すことができるのです。

ESトレーニングには独自の要因があります。それらを

介してトレーニングをステアリングしていきます。私た

ちが提唱するモデルとして、大きく4つの要因がありま

す:

●エクササイズの種類

●その実施の質

●刺激強度と刺激密度(休息構成)という形での負荷強度

●負荷量。

これら4つの要因は密接に関係しあっており、一体化し

てトレーニングのもたらす方向を決めていきます。

エクササイズの種類、動作実施の質、負荷強度の3つは、

考察や評価にあたり互いに切り離すことができません。

負荷強度と負荷量は、トレーニングにおいて負荷強度が

高いものであれば、その量は限定的にしか実現できない

というように、互いに制約し合うのです。動作実施の強

度が変われば、自動的にエクササイズの種類も変わりま

す。同様に高い負荷強度はかならず、高質の動作実施を

もたらすのです。

[エクササイズの種類]

スピードトレーニングにおいては、短時間プログラムに

負荷がかかり、その育成をねらったエクサイズを導入す

ることが肝心です。そのようなエクササイズとは、それ

を正確にかつ有効に遂行するには、速い運動単位の大部

分を同調してリクルートすることが必要な、そうしたエ

クサイズを指します。

それに応じてエレメンタルスピードトレーニングでは、

必要な操作プログラムの習得を可能にするエクササイズ

を探しだすことになります。ただしこのトレーニング域

は、個々人の力量に応じて短時間プログラムに導くため

のものですから、長時間プログラムの選手に該当します。

そのばあい、その選手にとってはすでに習熟しているエ

クササイズであればほとんど役に立ちません。

つまり、その促通条件が短時間プログラムに到達するよ

うなエクササイズを的確に導入しなければなりません。

このようにトレーニングでは、試合のパフォーマンスに

必要とされる以上に、つねにエレメンタルスピードをよ

り高いレベルに引き上げてゆくことが必要です。しかし、

エレメンタルスピードトレーニングにおいては、試合形

式練習より高いスピード指標につながるような、促通性

の高いエクサイズを見出すのが難しいということがよく

あります。その促通形式の効果のほどは、促通下で目標

とする時間指標の到達が2ないし3回のトレーニングの

うちに現れて来るようでなければなりません。

つぎに、第2章でも述べていますが、疲労とスピードの

関係からみた、トレーニング法にかんする私の見解を述

べておこうと思います。グラフは、両者の関連性につい

ておこなった実験結果です(下)。まず最初にタッピング

テストを行ない、引き続き、30分間にわたる持久系の

サーキットトレーニング後のタッピングピッチ変化

10.811.011.211.411.611.812.012.212.4

全員 非練習者 練習者 優秀練習者

トレ前トレ後

p<0,0001 p=0,0005© Voß 2008

サーキットトレーニング後のタッピング‐接地時間の変化

80

82

84

86

88

90

92

94

96

全員 非練習者 練習者 優秀練習者

トレ前トレ後

p=0,03© Voß 2008

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サーキットトレーニングを自転車エルゴメータで抵抗を

徐々に上げていく形式でオールアウトするまで実施し、

その直後に再度タッピングテストを行ないました。その

結果は予想外に、疲労困憊後のテスト結果の方が高かっ

たのです。この事実から、スピードトレーニングについ

てのこれまでとは異なる新しい捉え方がみちびかれます。

つまり、スピードトレーニングは必ずしもトレーニング

単元の初めに行なう必要がないということです。とくに

エネルギー消費の高いトレーニングの後にスピードトレ

ーニングを実施することは可能であるし、またそうすべ

きであるとも言えます。生体には、つねにその「課題」

を身体内部でたがいにカバーし合ってこなそうとするよ

うな機能が賦与されていると考えられます。エネルギー

系の前提が枯渇した

ばあい、それ以外の要因

が、この実験例でいうと

神経系がそれを引き受け、

より集中的なリクルート

によってパフォーマンス

を維持しようという機能

が発生したと考えられる

のです。たとえば、みな

さん自身の体験でも、ハ

ードなスピード走の終了後にとくに下肢の部位がぴくぴ

く痙攣したことがあるでしょう。それは、そのようなス

ピード値を高く支えようとするモーターニューロンから

の自然発生的な放電のせいなのです。現在も引き続いて、

各種の実験を行なってデータをさらに収集しているとこ

ろです。

[スピードトレーニングにおける負荷調整]

一般的にトレーニング負荷を増大するというばあい、負

荷を引き上げる要因として、負荷の量が前面に出されが

ちです。こうした考え方は、ことスピードトレーニング

にかんしては疑問点が多く、事情によっては逆効果です。

つまり、負荷の増大は、全ての要因の考察のなかで捉え

られる必要があります。

スピードトレーニングに新しいエクササイズを導入する

に当たり、それに類似する動作から推量した負荷量をそ

のまま当てはめることはできません。なぜなら、エレメ

ンタルスピードトレーニングでは、リプログラミング(プ

ログラムの再編)が重要だからです。そこで課される神経

筋システムにたいする要求は、まったく新しい性質をも

っています。スピードトレーニングに導入されるさまざ

まな促通形式は、神経筋の機能に高い要求を課すことに

なります。比較的尐ない量の負荷をこなしただけでも、

すでに神経筋の疲労現象がはっきり生じてくるのです。

このことは、既存プログラムが疲労にたいして安定性を

もつということに矛盾してはいませんが、ただし、プロ

グラムトレーニングの強度と質の要求が矛盾してきます。

刺激強度はスピードトレーニングにおいて、何よりも短

時間プログラムに達するところ、つまりプログラム操作

の目標に達するところで評定されます。この指標は、ト

レーニング反復数の50%以上が目標に達していること

が目安です。これをクリアしていなければ、希望するト

レーニング効果の達成は限定的です。エネルギー系のト

レーニングとは違い、スピードトレーニングではそれほ

ど強いレベルの疲労と回復は進行しません。ここではも

っぱら、目標とする構造に近似したエクササイズの実現

が重要なのです。

エクササイズの質を確保し、そのようにしてスピードト

レーニングの刺激効果を確実にするためには、意識的に

スピード指標を操作することに注意を払うことが必要で

す。それは、時間指標をおもに改善することを狙いにす

るため、エネルギー的側面を犠牲にすることにもつなが

ります。その関連については以下のように説明できま

す:パフォーマンスは、動作遂行スピードと力をとおし

て成就します。そのスピード指標はタイムプレッシャー

の克服に対応しており、力の指標は、ある質量の加速な

ど動作抵抗の克服という点に現われてきます。力の指標

を考慮せず、スピード指標のほうを一方的に時間要求へ

と適応させれば、力学上のパフォーマンス確保が度外視

されます。そうすると動作実施の質は、目標動作にたい

して的確ではなく、思い描くスピード向上が確保できな

時間プログラムトレーニングの分量的な目安

ジャンピングゴ

ムザイル使用

EMS エルゴメータ タッピング

立位

期 間 6-8週間 6週間 6-7週間 6週間

周当たり回数 1-2 1 1 2

1回当たりの

分量

1-3x5-8回 1-2x4-6回 6x4秒間 6-10x3秒間

全体量 220-380 24-72 168秒以下 216-360秒間

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いのです。

以上の理由から、エクササイズの質を操作するさい、ス

ピード指標と並んで、力の値またはパフォーマンス値も

同時に把握されねばなりません。これについては、スピ

ード診断の章において事例が述べられています。

休息の取り方は、先行のエクササイズ実施に起因する神

経筋の励起を活用することもともに考慮すべきです。ジ

ャンプあるいはタッピングの後、休息は、神経筋の励起

が維持し続ける程度の短い時間にすべきでしょう。タッ

ピングのエクササイズのばあいは30-60秒の間隔で

実施することが目安です。ドロップジャンプのばあいは

10-20秒の間隔で十分でしょう。セット間の休息は

3-5分間をお勧めします。

神経筋疲労の蓄積を避けるため、エレメンタルスピード

トレーニングは、周当たり最大2回、また、週に1回で

あっても十分と言えます。エレメンタルスピードトレー

ニング間のブランクは最低3日間というのが目安です。

プログラムの変更を目指すトレーニングの量は、先に述

べた50%以上という条件が満たされれば、比較的尐な

い量で十分です。表に掲げている数値をみればわかるよ

うに、エネルギー系トレーニングに必要な反復数に比べ、

かなり尐ない分量です。そして、基本的には、3-4週

間ほどで肯定的なトレーニング効果が現われてくると見

なしていいでしょう。

[短時間プログラム操作に適応した技術トレーニン

グと筋力トレーニング]

根幹的なスピード前提としての短時間プログラムを有し

ている選手では、その他のトレーニング域に係わる重要

なポイントがあります。

短時間プログラムによる神経筋操作はいっぽうではスポ

ーツ技術にたいして直接作用するものです。ただしそれ

は、複合動作プログラムを構成する一要素として、技術

の実現に直接関与しているということなのです。スポー

ツ技術とは、ある動作課題を時間と空間において解決す

る様式です。技術は、たんにコオーディネーションだけ

の問題ではなく、それは、パフォーマンスの前提となる

全ての因子の形成度合いにかかっています。新しいスポ

ーツ技術が必要になれば、まず先に、その新しい技術の

要求レベルに見合う特定のパフォーマンス前提を作り上

げねばなりません。

この関連において、エレメンタルスピードという前提は

特別な役割を演じます。とくに近年におけるスピードを

強調したテクニックのバリエーションは、その習得のた

めにいく度となく短時間プログラムを必要としています。

それは、たとえば「アメリカ式の」スプリントモデルに

該当しています。短時間プログラムがあれば、その新し

いテクニックの空間的な動作特性も実現可能となるので

す。

そのほか、短時間プログラムの条件を備えた複合エネル

ギー系パフォーマンス前提の特性は、長時間プログラム

の条件下にあるそうした特性とは異なります。とりわけ、

短時間プログラムへの転換を成しとげた選手には、パフ

ォーマンス前提にまったく新しい質が生み出されるので

す。そしてこの新しい、複合パフォーマンス前提は、試

合形式の練習において要求されるような、短時間プログ

ラムの条件下でトレーニングするように引き継がれてい

かねばなりません。

スポーツ技術への短時間プログラムの有効化と、短時間

プログラムを備えたエネルギー系パフォーマンス前提の

育成とのあいだには相互作用があります。エネルギー系

パフォーマンス前提のなかでは、とくに力という前提が

主に関係しています。いっぽうで、この力は、技術を短

時間プログラム下でも効果的に実現するために、短時間

プログラム下で発揮されなくてはなりません。もういっ

ぽうで、適応した力の前提を発達可能とするためには、

主要な筋力トレーニングのエクサイズを短時間プログラ

ムの技術によってこなせるようにならなければなりませ

ん。

従来のトレーニングでは、短時間プログラムを備えた選

手に適応した刺激を付与する点で十分とはいえない面が

あります。力の持久性を強調したトレーニングがほとん

どで、短時間プログラムの操作を必須とするような負荷

強度はほんの僅かしか保証されていないのが現状です。

短時間プログラムをもつ選手のなかで、中間的な強度で

も時間プログラムに適応してトレーニングできるような、

安定した短時間プログラムを保持している選手はごくわ

ずかです。私たちが見る限りでは、短時間プログラムに

もう一歩のところの選手も含め、短時間プログラムをも

っている選手たちが、時間プログラムに適応したトレー

ニング内容にたいし、それ以外の選手たちよりも比較的

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確かな反応をしめしています。

時間プログラムに適応したトレーニングがおろそかにさ

れたばあい、やがて、「トレーニングで積み上げた身体

的潜在力の活用度の低下」を招きます。見た目ではたし

かに主要なパフォーマンス前提が発達したものの、どう

も試合パフォーマンスがそれに比例して向上しないので

す。この現象は、複合的な前提を別の条件下で(つまり長

時間プログラム下で)トレーニングしてきたことに起因し

ています。具体的には、タイムプレッシャーが支配する

試合形式練習に求められる条件がおろそかであったとい

うことです。

持久系競技種目でもスピードは大事な指標ですが、その

要求に応えるトレーニングの典型例として、とくにボー

ト競技では長年にわたって実施されている、いわゆる“イ

ンパルス強調式”トレーニングがあります。インパルス

(刺激)を強調したトレーニングとは、持久系トレーニン

グにおいて試合と同様の時間構造を実現するということ

です。ボート競技に当てはめると、試合条件と同様の時

間で、能動的(つまり最大の力を発揮する)漕局面を実施す

るということです。持久系トレーニングにおいては明ら

かに周期数が減りますが、それはオールの滑り局面がひ

じょうに長いからです。この原理はその後、たとえば競

泳(ハンド・オーバー・ハンド‐スイミング)などその他の

持久系種目に応用され、多くの世界トップクラスのアス

リートにその例を見ることができます。かれらは試合に

必要とされるエネルギー投入の時間プログラムを、トレ

ーニング全体の過半数を越えるトレーニング周期のなか

で実施しています。

以上述べたことをまとめると、タイムプレッシャーを克

服するトレーニング法として、以下のステップが必要で

あることがわかります:

●主要な複合パフォーマンス前提の発達を目指すトレー

ニングの技術は、短時間プログラムの条件下でも実現

できるように習得しなければならない。それには、「技

術トレーニング」と「エレメンタルスピードトレーニ

ング」を関連づける方法から選び出す。そのさいの強

調点は、短い動作時間あるいは小さな運動振幅という

点。重要なポイントとしては、最初は、コンディショ

ンと技術の要求度が低くても、その促通によって短時

間プログラムを確実にできるような簡単なエクササイ

ズにする。そうして、エクササイズをじょじょに複合

化することも可能である。

●短時間プログラムを内包した専門的筋力前提の発達を

目指すエクササイズの割合を徐々に増やしてゆくこと

が必要。はじめは量的な増大は避ける。むしろ、その

全体量は尐なめにし、大部分が長時間プログラムにお

ける強度の低いエクササイズという内容から、低い割

合でもより集中性の高い短時間プログラムを帯びたエ

クササイズへと換えてゆく。そのコンペンゼーション

(補償)については一般筋力トレーニングを増やすこと

でつり合いを取る。その後、50%原則に応じて、専

門筋力トレーニングの量をふたたび増やすことが可能。

●このようにして高められた、短時間プログラム条件下

での専門的筋力前提にもとづいて、短時間プログラム

を帯びた試合技術を形成することが可能となる。その

さい、その技術の導入練習、技術習得の基本練習そし

て専門技術練習は、起こりうる回避戦略(“間”を設け

る)の見地からの点検が必要である。回避戦略とは、本

当は実現できるのだが、短時間プログラムの有効化を

避けるという動作解決案のことである。既述の3つの

練習はすべて、短時間プログラムの要求に応えていな

ければならず、具体的には、尐なくても反復数の50%

が短時間プログラム下で遂行されねばならない。

動作時間を指標として、それら短時間プログラムの時間

指標の点検が可能です。注意点は、その時間プログラム

は、運動特有の動作時間に付随して現れ、プログラム域

は、エクササイズごとに異なるということです。

操作が短時間プログラムに適応した技術トレーニングと

筋力トレーニングを確実なものにするには、エレメンタ

ルスピードトレーニングにおける促通形式も利用できま

す。いくつかの例は表(次頁)のとおりです。

以上述べてきたことを中間的に整理しておきましょう。

これまで、スピードトレーニングというと、一年中、ト

レーニング単元ごとにやろうとしていました。そして、

スピードは神経系を動員するために、トレーニングの初

めの、心身ともにフレッシュな状態で実施すべきである

という考えが一般的でした。さらに、すでにスピードの

タレント性が高い選手もあるいは低い選手も区別せずに

同じメニューを行なっていました。しかし既述のように、

神経系に起因するエレメンタルスピードの捉え方にもと

づくと、スピードはにわかに重要な鍵を握っていること

に気づくはずです。

とくに筋力トレーニングなどその他全てのトレーニング

Page 33: スピードトレーニング 解明と方法 - KoLeSpo5 走タイム向上をもたらします(Mann 1999)。そのさいのピ ッチ数はストライドを不変とすると、約5%増加します。

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領域について考えるとき、それらの背景にはどのような

スピード要因が隠されているかという観点が不可欠にな

るのです。したがって、スピードトレーニングの目標は

まず全ての選手にたいして、短時間プログラムとして示

されるような適切なスピード性を習得させることが出発

点になります。とくに10歳ころから13歳ころの子ど

もたちにおいては、発育発達の見地からも4つのスピー

ド形態に該当するさまざまなエクササイズを実施するこ

とが大切です。そのさい、多面性とコオーディネーショ

ンという2つのキーワードがスピード性を促すというこ

とを基本に据えることが大事です。ドイツでは一般的に、

12歳ころから競技種目に照準を合わせた専門的トレー

ニングが始まります。ということは、エレメンタルスピ

ードを形成すると、その能力特性を専門技術に転換する

トレーニングが同時に必要となるのです。

ようするに、まず一般的なスピード性を形成してから、

専門的なスピード性を形成するということです。そして、

専門筋力系のトレーニングを行なうさい、目標プログラ

ムの条件下における力を発達させていくことが肝心です。

先に述べたように、ハイジャンパーのホルム選手のばあ

いは、たとえば1.6m高のハードルの連続両脚跳びな

ど、ひじょうに集中性の高いジャンプ系メニューをたく

さん実施しています。しかも、接地局面はすべて短時間

プログラムが条件です。また、フリーウエイトのトレー

ニングでも、大きな荷重を瞬間的にこなすメニューばか

り行なっています。この点にかんしてドイツでは、スピ

ードタレント性のあるジュニア選手にたいするトレーニ

ング内容は適切であるとは言えないのが現状です。

つまり、伸展性(エクステンシブ)のトレーニングがど

うも多すぎるのです。とくにスピードタレント性の高い

選手にたいしては集中性のトレーニングが欠かせないの

です。このようにスピードトレーニングは、トレーニン

グ全体にとって、既述のようなスピード原理、すなわち

一般から専門へのスピードの発達にもとづいて実行する

ことがますます重要になっています。そのひとつめとし

てはすでに言ったように、短時間プログラムをもってい

る選手にはそれに相応する集中性の高い負荷を保証する

トレーニングが必要だということ。さらに、すでに二人

のハイジャンパーの例で説明したように、タイプ別に分

けたトレーニングが必要であること。そして、トレーニ

ング中に情報がすぐにフィードバックされ、それによっ

要求に適応した筋力トレーニング/技術トレーニング

非周期-反動性

非周期-非反動性

周期性スピード

反応スピード

アシステッド

パートナーのアシス

トによる水平ジャン

軽めの器具の投て

プルサポートによ

る水泳

荷重を軽くしたク

ラウチングスター

レジステッド

スイング荷重による

複数ジャンプ

スキージャンプの

踏切動作

足首に重りを着け

たピッチスプリン

水泳におけるプル

抵抗を利用したス

タートジャンプ

EMS

EMS使用のハード

リング

EMS使用の縄引

EMS使用の自転

車エルゴメータ

EMS使用のボク

シングパンチ

時空制限

ジャンピング

トレッドミル

消失してゆく抵抗

に対する筋力トレ

ーニング

ハードル間距離を

短縮したハードル

飛方向の不鮮明な

ボールゲーム

感受性向上

動作感覚

ロイター板からのハ

イジャンプ

水泳高飛び込みに

おける踏切板の変

スプリントにおけ

る体勢の変更

ある動作の実施中

における追加刺激

への反応

イメージトレーニ

ング/メタファー

踏切リズミング/ロ

ングジャンプ

投てきのメタファ

ー;鞭を打つよう

ピッチ目標値を聴

覚化したハードリ

ングリズムのドリ

シャドウボクシン

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てモチベーションの高い効率的なトレーニングが可能な

「メスプラッツトレーニング」(測定とトレーニングの統合

化を基調としたトレーニング)が望まれるのです。ドロップ

ジャンプやタッピングのテスト器具は同時にトレーニン

グ器具でもあるという観点が大事です。その目的からい

うと、メスプラッツトレーニングとはいわばフィードバ

ックトレーニングを意味します。

[ジュニア期におけるスピードトレーニング]

とくにジュニアトレーニングにおいて短時間プログラム

の育成が軽視されたばあい、ほとんどの競技種目に共通

して、トップトレーニングへの移行期(種目によって異な

るが18~21歳ころ)にパフォーマンスの停滞現象が現

われて来るようになります。ジュニアトレーニング期に

おいては、他のパフォーマンス前提と同様に、短時間プ

ログラムが不十分であっても、それを補てん/代替する

ことが可能です。これは、「タイムプレッシャー」がそ

れほど強くないばあい、たとえば助走速度が遅いゆえに

ジュニア選手には、その代りに動作実施においてバリエ

ーションの可能性が広がるということと関連しています。

トップトレーニング期になると、それはもはや通用しな

くなります。この時期にようやく短時間プログラムが形

成されたばあい、パフォーマンス前提の共同作用という

点でその「構造的再編」が必要になります。このように

「再編作業」だけをとっても、一時的なパフォーマンス

後退を招くことになるのです。

短時間プログラムは、すでに6歳ころから保有できるよ

うになります。ただし、このように児童は、有利な条件

下で短時間プログラムを身につけることができますが、

そのいっぽうで、それ以外のパフォーマンス前提はその

発達についてはまだかなり不完全です。ですから、とく

に要求に見合う技術トレーニングと筋力トレーニングに

かんしては、その年齢時のパフォーマンス発達や、また

長期的なパフォーマンス発達という観点でも否定的な影

響を与えかねない問題が発生しがちです。

そうした問題の発生を避けるためにも、以下に掲げる要

点を配慮しておくことが大事です:

●児童期には、神経筋システムの発達を促す良好な条件

がある。

●生物学的年齢とパフォーマンスレベルおよびエレメン

タルスピードの形成度という3つのポイントにもとづ

いて、ジュニア期のスピードトレーニングも含め、ト

レーニング課題を設定する。

●ジュニア期におけるスピードトレーニングはエレメン

タルスピードの形成と保持という点に、的がはっきり

定められていなければならない。遅くなってからの効

率良い操作プログラムへの「乗り換え」は、すでにパ

フォーマンスレベルが高くなっていても、たいていの

ばあい、一時的にパフォーマンス低下を招く。

●ジュニアトレーニングでは、その選手の種目が何であ

るかに関係なく、4つ全てのスピード形態を発達させ

る、あるいは尐なくとも働きかけることが必要である。

●ジュニアトレーニングでは、その年齢に応じて、原則

的により軽めのスポーツ用具と尐なめの動作抵抗が優

先されねばならない。この点は、すでにこの時期にお

いて将来におよぶ時間構造を発達させるためにも、ま

たは尐なくともそれが妨害因子にならないためにも必

要である。

●エレメンタルスピード前提の存在ないし育成可能性に

応じて、ジュニアトレーニングではとくに重要な適性

判断を行なうことができる。エレメンタルスピードの

目標プログラムを達成する選手、あるいは促通法を講

じれば達成できる選手は、高度なスピード要求を課す

競技種目に適していると言える。それ以外の選手につ

いては、低いスピード要求度を課す種目、またはスピ

ード要求度が高くても補償性をもつ代替技術を保有す

る種目に適している。さらに個別事例としては、遅く

になって短時間プログラムに、自然発生的に切り替わ

ることもある。それは、力の前提の大幅な増大の結果、

相対的な体重負担が軽減するなどが原因である。した

がって、短時間プログラムを持っていないから適性が

ないと性急に結論を下してはならない。

●良好なエレメンタルスピード前提をもっている選手に

たいしては、特別の注意を払うことが必要だ。かれら

は、ほとんどのばあい、効果の尐ない筋持久系のトレ

ーニングをしているのが現状だ。このような事態が、

しばしばパフォーマンスの停滞をもたらす。そうする

と、その選手はモチベーション不足のために、ときど

き長期にわたりトレーニングをせず、そして目標が不

鮮明なトレーニングをつづけて数年後に、唐突に目を

見張るようなパフォーマンスを供するという事例がし

ばしば見受けられる。このような“回り道”は、早齢

期のスピード強調型のトレーニングによって避けるこ

とができる。しかもこうした選手は、スピード刺激に

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たいして非凡な反応をしめすから尚更である。また、

長時間プログラムを帯びたトレーニングばかりを続け

ると、短時間プログラムがふたたび失われる危険性も

ある。

●短時間プログラム要求に適応した技術トレーニングと

筋力トレーニングは、ジュニアトレーニングでは、ま

だ目標プログラムに向けて強制するかたちで行なって

はならない。可能なかぎり、アシステッド(負荷軽減化)

あるいはまた代替技術を適用することが望ましい。代

替技術のばあい、否定的な転移結果をできるだけ尐な

くするために、その構成内容が本来の目標とする技術

構成からなるべくかけ離れた解決法であるのが望まし

い。

●とくにエレメンタルスピード前提を多層的に要求する

ような、多面的な動作経験は、その後における短時間

プログラム要求に適応した技術トレーニングと筋力ト

レーニングに良好な影響を与える。この関連では、多

くの競技種目に該当することとして、現存の試合シス

テムや選考システムに課されている要求基準について

しっかり再検討することが求められる。専門パフォー

マンスのみに、あるいはエネルギー系パフォーマンス

前提のみに偏重していないだろうか?エレメンタルス

ピード前提が取り入れられている処はあるだろうか?

ジュニアトレーニングにはエレメンタルスピード前提

が重要であると判断できるのであれば、試合システム

や規準システムに反映すべきである。そうしないと、

私たちは相変わらず抜きんでた試合結果を出す、加速

型(生物学的に早熟タイプ)の選手ばかりを優先し続けな

ければならないことになる。かれらはトップトレーニ

ング期にはいると、トップパフォーマンスをしめすタ

レントとして証明された例は稀なのである。

[陸上競技のジュニアトレーニング

における重要点]

以上のように、種目を問わず全てのジュニアトレーニン

グについて質的な見直し作業が必要であることがおわか

りかと思います。ジュニアトレーニングでは多面性やコ

オーディネーションを重視する必要性を知っています。

また、どのような種目であろうとも、その基礎として体

操系のエクササイズが欠かせないことも知っています。

また、どのような種目であろうともジュニアトレーニン

グではとくにスピード性を強調することが大事であるこ

とも確認できるはずです。さらに一般的な体力や可動性

も育成しなければなりません。しかし、その一方で、現

実においては、ジュニアにたいしてもトップと同じよう

に、そのパフォーマンスという規準にしたがって評価さ

れたり、パフォーマンスの出来しだいでその指導者の名

声などが決まるという傾向もあり、どうしてもトレーニ

ングは、結果重視のスキルばかりが強調されがちです。

私が運営する陸上クラブ(アイレンブルク陸上競技クラブ)

には、暦年齢で14歳の女子選手がおり、生物学的には

32か月若い晩熟タイプです。彼女はひじょうにタレン

ト性が高いということを確かめることができました。し

かし彼女はその専門種目のパフォーマンスという点から

不利益をこうむっているのが現状でした。というのも、

ドイツでは年齢別の規準システムがあり、それがほとん

どパフォーマンス結果で評定されているからです。よう

やく、2年前から評定にたいして、タイプ別にポイント

がプラスマイナスされるようになったおかげで、彼女は

候補選手に登録されました。しかし、現在の規準システ

ムにはまだ多くの欠陥があるというのが現状です。

人間の眼は単眼ですが、指導者はつねに複眼的に、つま

り物事を複合的に捉えることを身につけねばなりません。

そのことは、本人の思いがどうであるにかかわらず、つ

ねに科学的作業の第1歩です。パフォーマンスが向上す

れば、それがどんなに些細なものでも、かならずその原

因があります。ジュニア選手を世界トップクラスへとト

レーニング指導しようとすれば、その成績の原因を見つ

ける努力を習慣化することが必要最低条件です。そして、

これまでの歴代の世界記録保持者のなかに、他よりも楽

な“近道”のトレーニングでトップに到達した選手はひ

とりもいないという事実があります。パフォーマンスは

つねに、そのために費やされたトレーニング負荷の質量

の結果なのです。

陸上競技における基礎トレーニング期(約9~13歳)

の主な課題:

• スポーツ、とくに陸上競技の楽しさを身につける

• 陸上競技の重要な基本技術を教える

• トレーニング全体に、スピードを強調すること

• 体力向上–とくに胴体幹部のちから(負荷可能性)

• 可動性の育成

• コオーディネーション系前提の発達 –動作経験を身につける

• 基礎持久の発達

*一般的かつ多面的なトレーニングが不可欠!

© Voß 2008

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一般的にパフォーマンスの診断は、スポーツパフォーマ

ンスの構造的解明にも、また目標と現状の比較に役立ち

ます。それは、作成された規準を用いて、個々の選手の

特定の運動行為にかんするトレーニング効果ならびに適

性についての判定を可能とします。スピード診断にかん

する計測方式としては、主にスポーツ動作テストと、動

力計測やスピード計測、筋電図分析などバイオメカニッ

クな計測方式が導入されています。それらのテスト方式

は品質規準(妥当性や信頼性など)と並んで、トレーニ

ングへの導入にかんするテストの汎用性(経済性含む)が

大事なポイントになります。パフォーマンス診断の方式

はトレーニングだけでなく、試合にも導入されています。

つまり、トレーニングにおいてはつねに、個々のパフォ

ーマンス前提あるいは個々の部分的パフォーマンスが中

心点にあるのにたいして、試合においては複合パフォー

マンスの完遂にかんする証言が行われます。

スピード診断は、エレメンタルスピード前提の把握と、

複合パフォーマンスあるいは部分的パフォーマンスへの

それらの反映度の把握に役立てられます。その具体化は、

それ以外のパフォーマンス前提に比べてなかなか容易で

はありません。なぜならスピードは、意識的に操作する

ことができないほどのほんの僅かな時間的断片に関わっ

ているからです。したがって、“観察法”によって、ス

ピード前提を把握し判定することはまったく不可能です。

診断するには計測器具を持ち込むことが不可欠なため、

それが理由で、スピード診断は多くのケースで「日蔭者」

扱いにされているのです。しかし、そうであってもその

計測作業を断念することができないことこそが、スピー

ド診断の重要性を表わしています。このように重要なパ

フォーマンス前提にかんする証言と、トレーニングにお

けるその変化についての証言を得ようとすれば、計測す

る以外になんら手立てはないのです。

スピードは、いくつかの特徴点にかんしてはそのトレー

ナビリティに照らすと比較的安定した発現度であるため

に、重要な適性規準と見なされています。適性診断に関

しては、スピードのなかでもとくに以下のような安定的

因子について調べることが必要です:

●支持時間

●かんたんな動作における力の上昇様態

●基本的なタッピング周期

●単一性反応時間

ただし適性規準は、たんに“安定的因子”だけではなく、

同様にスピード前提ないしスピードに影響される前提の

個人別トレーナビリティにかんする証言でもあるのです。

それでは、選手はどのようにスピードトレーニングにア

プローチすべきでしょうか。

スピードを要求された選手には、スピードに向かうよう

な促通法を使うことが効果的です。それにより、かれら

はひじょうに速く反応し、スピード指標あるいはパフォ

ーマンスにおいても明らかに向上するのです。

トレーニングをステアリングするための診断においては、

個々人の現状の特定とトレーニング課題の決定が中心テ

ーマになります。そこで把握する事項は以下のポイント

になります:

●スピードの観点からみたエクサイズ遂行の質的側面―

つまり、トレーニングにおけるエクササイズの個人ご

との具体化をとおして、トレーニング指標である目標

値がどのていど達成できたのか

●トレーニングの効果―トレーニング周期の目標値にか

4.スピード診断

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37

んする前後比較

●トレーニングにおける目標指標の疲労度―どの時点で

目標指標が達成不能となったか、どの時点でトレーニ

ングが効果的にならなくなったか、どの時点で、それ

以外のトレーニングによって、スピード指標の向上が

損なわれはじめたか。

[スピード診断システム]

スピード診断法はどれも、エレメンタルスピードが神経

筋システムの機能を現わすため、間接的にしか把握でき

ないという点で共通しています。エレメンタルスピード

前提はかならず、他のパフォーマンス前提と関連して現

れてきます。したがって、一つあるいは複数のテスト結

果にもとづき、間接的にのみ推論することが可能となり

ます。もっとも直接的な計測は、筋電図分析によって行

われます。しかしこの方法は、機器のみならず専門スタ

ッフなども含めるとコストが高く実用的ではありません。

したがって、得られたテスト結果を確実にするためには、

たいていのばあい、複数のテストを行なうのが普通です。

このような観点に立つと、診断方策について、その証言

力の確保、その運用性と効率性に関連するいくつかの原

則を念頭に置くことが重要です:

●特別な器具調達費用を必要としないような、できるだ

けシンプルなテストを選ぶこと

●テスト方式は、その結果の比較可能性が(とくに時系

列的に)確保されるようにできるだけ標準化すること

●テストの数は、重要な証言を損なうことがないていど

の必要かつ最低限を維持すること

●コストを抑えて可能な限り多くの選手たちを分析し、

そこからトレーニングアドバイスを導くために、地域

的に種目を越えて協力しあえるような、複合的なテス

ト方式を実施すること

●選手のモチベーションを向上するためにも、診断対策

の一環としての「計測式大会試合」を定期的に実施す

ること

●真剣に取り組まれる試合という形式を利用した診断は、

そのデータのランクで言えば、もっとも証言性の高い

方法である。ただしそのような診断試合は、本来の試

合行事に支障を及ぼさない方法であること

●診断はかならず即時に評価されることが大事である。

その証言内容は、コーチと選手に分かりやすく伝えら

れ、トレーニング方針に示唆を与える内容であること。

評価は概観可能な特徴点に絞り、尐なくかつ重要な指

標に制限すること。

スピード診断のシステムについては表(下)にしめした項

目に要約できます。

適性診断と、トレーニング内容に及ぼすその影響の関連

で、規準値システムも重要な役割をもっています。ジュ

ニアトレーニングでは、何にもとづいて選抜規準を定め

ているのでしょうか。

各競技種目にある規準は今だに複合的な、つまり目標と

するパフォーマンスに到達するか否かが支配的です。こ

の目標パフォーマンスは、その中身をみると、力や持久

に大きく左右されているのがしばしばです。

競技種目の多くで、今や短時間プログラムは世界トップ

パフォーマンスに到達する条件のひとつであることを示

しており、短時間プログラムの形成と活用はすでにジュ

ニアトレーニングで実施しなければならないことから、

選抜などの各規準値システムは見直されねばならないの

です。

スピード診断システム

スピード診断の領域 狙い 例

エレメンタルスピードトレー

ニング(ESトレーニング)

適性判断 / タレント診断 ドロップジャンプ、最大タッピング

ピッチ

スピードのトレーナビリティ EMS導入あるいはアシステッド

条件導入による動作遂行

持久系テストにおける疲労 タッピングピッチの減尐

スピード対応型の

筋力トレーニング/

技術トレーニング

実施条件のさまざまなバリエーシ

ョンを導入して、個人別にそれら

エクササイズの効果度合いを把握

する

跳躍力トレーニングにおける接地

時間、スクワット時の最大動作速度

試 合

試合形式練習

個人別に技術手本を作成する 接地のさいの支持時間(例;ハード

リング動作)、動作の主相における

力の上昇様態(例;踏切局面)

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[反動性動作におけるスピード診断]

ドロップジャンプテスト

ドロップジャンプ:

ドロップジャンプは、通常、垂直の自然落下速度から、接地直後ふたたび垂直上方に踏切跳躍する。

台上からの落下動作は膝を曲げず伸展姿勢でおこなう。

台上前方ラインに両足裏の母子球付近をあわせ、肩幅よりもすこし狭い間隔を確認して、真っすぐの姿勢で立つ。こ

のとき前かがみにならないように着地点を過度に注視しないようにする。測定の用意ができたら、片足を着地ポイン

トの真上にくるように前方に移動させながら落下動作を開始する。

落下開始のさい膝が曲がると、それだけ落下高を低くしてしまう。また、落下高をおおきくするような、上方踏切を

しない。

着地は、両足裏の母指球を中心とするふくらみで行ない、膝はほぼまっすぐ伸ばしているか、ほんの僅かに曲がるか

どうかという程度にする。

接地中の膝は、できるだけ屈曲をしないように、または曲がってもほんの僅かであるようにする。同時に、足首関節

の動きも僅かにしなる程度に抑え、その影響で、踵が受動的に接地面を踏みこんでしまうことがあってはならない。

接地全体をとおして、とくに腓腹筋(ふくらはぎ)と膝伸張筋群など、全身の筋緊張をほぐさないことがもっとも重要

である。それによって、踏切のインパルスをただちに全身に伝導させることが肝要だ。そのためには、強めの全身緊

張と体幹緊張が不可欠となる。腕の動きは小さくし、補助的にスイングする程度にする。腕の導入タイミングが遅れ

ると、それだけ接地時間を長くしてしまうので注意する。

踏切は、足首関節から弾けるように実施する。

落下する高さは、該当者の力や体重にあった高さにする。低すぎると、反動性の典型動作に足りるだけの踏み込み速

度が不十分となり、高すぎると、踏み込み速度が高すぎて、瞬間の爆発的な動作実施が、筋力に左右されてしまう。

テストの狙いから見ると、落下高は30~40cmの範囲がもっとも適している(例えば40cmの腰かけ椅子)。

こうした一連の動作による狙いは、適度の跳躍高を伴った、できるだけ短い接地時間に達することにある。より高い

跳躍を強調すると、たいていのばあい、支持時間(接地時間)が比較的長くなる。 したがってテスト評価には、支持

時間と遊脚時間の両方を計測するドロップジャンプジャンプ器具が必要である。

140ミリ秒以内の支持時間が目安で、そのさいの遊脚時間はできるだけ長いことが望ましい。再着地は下肢が伸び

た状態でソフトランディングする。意図的な膝の屈曲はしない。

とくに、「弾けるように踏み切る」動作の要領をしっかり理解できないばあいがある。そのときには、メタファー(比喩)

を用いた説明が役立つ:「ゴムボールが弾むように」あるいは「空気をいっぱい詰め込んだサッカーボールが弾むように」、

さらに「着地と踏切の順序を区別しない―着地と踏切は同時に」または「灼熱の鉄板上で踏み切るイメージで」など。

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事 例 *効率(EKA):次頁参照

その選手が達成可能な最大効率は、できるだけ各トライで示されることが望ましく、そのさいの支持時間は

短時間プログラム(140ミリ秒以下)を目指すことが必要である。低い効率あるいは長い支持時間のジャ

ンプは好ましくない。以下の表で例証してみよう:

支持時間 遊脚時間 効率(EKA) 評 定

130ミリ秒 550ミリ秒 2.33 該当選手の基本レベル

140ミリ秒 570ミリ秒 2.32 良 好

120ミリ秒 530ミリ秒 2.34 良 好

170ミリ秒 610ミリ秒 2.19 支持時間が長すぎる

110ミリ秒 420ミリ秒 1.60 遊脚時間短縮に起因する効率低下

競技種目の多くに言えることだが、遊脚時間そのものを跳躍高の規準と見なすのは今のところ実用性は低い。

そのため、その時間を跳躍高(cm)に換算できるチャートを掲載する:

遊脚時間(ms) 跳躍高(cm) 遊脚時間(ms) 跳躍高(cm) 遊脚時間(ms) 跳躍高(cm)

202 5 495 30 670 55

221 6 503 31 676 56

239 7 511 32 682 57

255 8 519 33 688 58

271 9 527 34 694 59

286 10 534 35 699 60

300 11 542 36 705 61

313 12 549 37 711 62

326 13 557 38 717 63

338 14 564 39 722 64

350 15 571 40 728 65

361 16 578 41 734 66

372 17 585 42 739 67

383 18 592 43 745 68

394 19 599 44 750 69

404 20 606 45 756 70

414 21 612 46 761 71

424 22 619 47 766 72

433 23 626 48 772 73

442 24 632 49 777 74

452 25 639 50 782 75

460 26 645 51 787 76

469 27 651 52 792 77

478 28 657 53 798 78

486 29 664 54 803 79

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ドロップジャンプの評定作業は、以下の規準にもとづい

て行なうことが必要です:

支持時間がスピード指標で、踏切後の跳躍高は力の指標

です。跳躍高は遊脚時間(滞空時間)によってかんたんに

特定できます。支持時間は、跳躍高を極端に低くすれば

随意に短くすることができます。しかし、それだけ全体

パフォーマンスが低下します。

支持時間と跳躍高との関連性をしっかり把握するために、

ドロップジャンプの全体パフォーマンスを、両数値を使

った数式でかんたんに特定できます。それは、以下の式

で表わされます(Abramov,Kuporosov&Matwejerer 1980):

効率係数(EKA)=遊脚時間の2乗÷支持時間

例: 1.79=0.500秒の2乗÷0.140秒

この効率係数は、無次元の値として約0.50から3.

50までと設定しています。効率は、遊脚時間の増大と

支持時間の減尐に応じて上昇していきます。したがって、

その個人にとっての最大効率は、自身の支持時間と遊脚

時間の双方が最善状態のときに達せられます。そのよう

な最善状態のときに達した支持時間が、どの時間プログ

ラムにその選手が位置しているのかを明言できる規準と

なります。

このEKAという指標は、スピード値およびそのパフォ

ーマンスにかんするトレーニングをステアリングするた

めにも活用できます。トレーニングにおいて、支持時間

が長くなるかあるいはEKAの低下が目立つようになっ

た場合、それは、必要なトレーニングレベルに達してい

ないことを表す兆候です。その原因はたいていのばあい、

神経筋の疲労が大きすぎるせいであり、

時間プログラムのトレーニングを一時

休止することが必要です。

[非反動性動作におけるスピード診断]

非反動性の動作におけるエレメンタル

スピードの精確な計測には、かならず

力やあるいは加速の計測機器が欠かせ

ません。

しかし、かんたんなテストでも、十分に通用するだけの

証言を得ることができます。それは、比較的固定した加

速軌道で自身あるいはスポーツ器具を静止状態から加速

させるようなテスト法です。ただし、問題点(あるいは注

意点)は導入動作が起きてしまうため、静止状態の確保が

難しいという点です。

とりわけ、以下のテストが挙げられます:

●スクワットジャンプ(安定した静止体勢からの伸展性跳躍)

●スクワットジャンプと導入動作付きの伸展性跳躍(カウ

ンタームーブメントジャンプ)との比較

●両手砲丸投げ。

[周期性動作におけるスピード診断

(ピッチスピード)]

タッピングテストは、小幅の交互ステッピングの動作周

期を計測します。その動作振幅は可能なかぎり小さくし、

動作周期(ピッチ)を最大にします。この動作を反復練習

すると、トレーニング効果が現われます。それはたいて

い、ホップタイム(剥離時間)の減尐となって現われます。

それにたいして、接地時間はほとんど変わりません。

通常、タッピング周期の特定は専門テスト機器を使用し

ます。その具体的な動作形式に関係なく、脚のタッピン

グにおける周期は、1秒あたり12ヘルツ(HZ/S)を越える

と適切と見なされます。14ヘルツないしは14.5ヘ

ルツ以上であれば最適に相当します。接地時間が同時計

測できるばあいは、その時間は50ミリ秒から80ミリ

秒の範囲であるのが規準となります。

周期(ピッチ)と接地時間の間には、当然のように一定の

相互依存の関係があります。接地時間は、すでに述べ

計測結果の評価ランキング ― 脚タッピングテスト(立位)

評 定 タッピング周期

(ピッチ数/秒)

タッピング中の 接地時間

ずば抜けている 15-17ヘルツ 50-70ミリ秒

ひじょうによい 13-15ヘルツ 70-85ミリ秒

よい 12-13ヘルツ 85-100ミリ秒

ふつう 10-12ヘルツ 100-125ミリ秒

平均以下 7-10ヘルツ 125-160ミリ秒

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たようにトレーニングによる影響をあまり受けない安定

的指標であるため、より重要視されます。的確なトレー

ニング対策を講じることで、周期値は15%の増大が可

能であるとされています。

タッピング周期と接地時間の結果が、同じランクに位置

しない場合、間接的にコオーディネーションの弱さない

し強さに関係していることが考えられます。表に示され

た数値は、14歳以降のジュニアおよび成人に該当しま

す。それ以下の児童については、接地時間数の各ランク

に対しておよそ10%尐なめをタッピング基準の目安と

します。

両指標を総合評価すると、以下のようにタッピング効率

を特定できます:

効率係数={周期(Hz)÷接地時間(ms)}x100

[反応スピード診断]

一般的には、競争形式でさまざまなリアクションゲーム

を行ない、反応スピードの高い選手を特定することが適

しています。ただし、計測は不可能です。やはり、正確

さを期すには、反応時間計測の機器が必要となります。

伝統的でシンプルな方法としては「落下棒反応テスト」

があります。

[複合スピード(スプリント)の診断]

スプリントの速度は、手動のストップウォッチでは精確

に特定することができません。この点についてもやはり

計測機器が必要になります。レーザー式または光電管の

速度計測機器が考えられます。助走なしまたは助走つき

のスプリントあるいはピッチスプリントというのがテス

ト内容です。ピッチスプリントのケースでは、コース上

に決められた間隔で、ステップ幅の境界線として障害物

(ミニハードルなど)を配列します。そのテストコースを

駆け抜けたたタイムは、時間単位あたりのステップ数と

ステップ周期についての情報を与えることになります。

テスト距離は10mとし、児童のばあいは障害間隔を約

1mとするのが適当です。

[競技種目別のスピード診断]

これまで、とくにジュニアトレーニングにおけるスピー

ドのもつ重要性を確かめてきました。そして、それは殆

んどの競技種目に共通していることもはっきりしていま

す。スピードを強調したトレーニングを体系的に実施し

ていくこと、そのために診断をトレーニング体系のなか

に定着していくことが必要です。

以下において、いくつかの競技種目にかんするスピード

診断の形式を紹介しましょう。もちろん、それは指導者

の創意工夫によって補足し、もっと充実させることも可

能です。

タッピングの効率係数

評 定 タッピング効率係数

ずば抜けている 20以上

ひじょうによい 17.5-20

よい 15-17.5

ふつう 12-15

平均以下 8-12

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[陸上競技におけるスピード診断]

測定式多種競技会(ドイツ・アイレンブルク陸上競技クラブの実施例)

テスト(診断項目) 計 測 内 容

10mトップスピード・スプリント

(助走で達した最高速度の 10mスプリント) スプリント最大速度

10mスプリント

(スタンディングスタート) スプリント加速力

10mミニハードル走

(助走 3m、高さ 10cmハードルを 1mごとに配置、 最

終ハードルからゴールまで 3m)

スプリントピッチ力

ドロップジャンプテスト 反動性スピード

非反動の垂直ジャンプテスト 非反動性スピード/瞬発力(パワー)

投てき姿勢からのザイルプルテスト

(プルマシーン計測、低い抵抗のプル速度) 非反動性スピード/投てきスピード

ボール投げのリリース速度テスト

(レーダー計測、ラウンダーズ用の皮製ボール) 投てきの非反動性スピード

タッピングテスト

(座位および立位) エレメンタル・ピッチスピード

選択反応テスト(視覚) 複合的な選択反応力

聴覚シグナルへの反応テスト(単一反応) エレメンタル・反応スピード

実際の跳躍距離を計測する走り幅跳び

(助走速度、踏切時間)

跳躍力、スプリント速度の活用度、幅跳び技術への反動

性時間プログラムの活用度

以下の領域ごとにポイント査定:

▪ スプリント

▪ 跳躍スピード/跳躍力

▪ ピッチスピード

▪ 投てきスピード

▪ 反応スピード

▪ 走り幅跳び

同時に多種競技種目としてのポイント査定も行なう。

個々のテストデータをもとに指導者は、スピード前提を適切に評価することができる。

テストデータはいずれも、複数の同種テストによって精度が確保されている。

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[自転車競技におけるスピード診断]

●6秒間テスト(抵抗ゼロの自転車エルゴメータにおける最

大トレッドピッチ)

●力上昇(非反動性スピード)の特定を含めた、アイソメ

トリック最大力テスト(最大力エルゴメータ使用)

●選択反応テスト

●視覚シグナルおよび聴覚シグナルにたいする単一反応

●座位のハンドタッピング、座位のフットタッピング、

立位のフットタッピング

●ドロップジャンプテスト

●200mトップスピード自転車走テスト

[サッカーにおけるスピード診断]

●ドロップジャンプテスト

●スクワットジャンプテスト

●タッピングテスト(立位)

●選択反応テスト

●単一反応テスト(視覚)

●10mスプリントテスト(スタンディングスタート)

●10mトップスピード・スプリントテスト(助走つきの

トップスピード区間)

●ボールドリブル・スプリント

●シューティングの速度と精度

●プレイシーンからのシューティングの速度と精度

[ハンドボールにおけるスピード診断]

●ドロップジャンプ(複数の落下高も可能)

●スクワットジャンプテスト

●タッピングテスト(立位)

●選択反応テスト

●単一反応テスト(視覚と聴覚)

●10mスプリントテスト(スタンディングスタート)

●10mトップスピード・スプリントテスト(助走つきの

トップスピード区間)

●ジャンプシュートとステップシュートによるシューテ

ィングの速度と精度

●異なる荷重を使ったプルマシーンでのシュート動作

[バレーボールにおけるスピード診断]

●スクワットジャンプテスト

●カウンタームーブメントジャンプ(導入動作つきの伸展

跳躍)

●ドロップジャンプテスト

●水平的に構成した複数跳躍テスト:ドロップジャンプ

テストにおいての落下踏切から約2m先のプレートへ

とジャンプして再度踏み切る(2回めの踏切の接地時間も

計測)

●タッピングテスト(立位)

●選択反応テスト

●単一反応テスト(視覚と聴覚)

●5mスプリントテスト(スタンディングスタート)

●スパイクの速度と精度

●異なる荷重を使ったプルマシーンでのスパイク動作

[野球におけるスピード診断]

1.エレメンタルスピード

●ドロップジャンプテスト

●カウンタームーブメントジャンプ

●スクワットジャンプ

●タッピングテスト(座位および立位)

●単一反応テスト(視覚および聴覚)

2.走

●10m(または5m)スプリント走(スタンディングス

タート)

●10m(または20m)トップスピード・スプリント

●ピッチスピード・スプリント(約15cm高のミニ

ハードルを1m間隔に配置して)

3.投

●投速度

●投精度

●両者の複合性

4.打

●選択反応テスト

●専門的予測能力(アンティシペーション)

●対ピッチャー予測を制限した打動作

●打速度