ファストファッションを購入する日本の若者たちの...

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−1− ファストファッションを購入する日本の若者たちの特徴 辻   幸 恵 1.はじめに ファストファッションという言葉は2009年に、流行語のひとつとして世間の人々に広く認めら れた。これはファストフード店で商品を注文した後に、商品がすばやく出てくることに由来して いる。よって、ファストフードのような安い値段と商品を提供するサイクルの短さが、ファスト ファッションの特徴である。つまり、ファストファッションは、シーズン中でも商品を企画、生 産が可能である。また、既存のものよりも「とがった」部分を強調して差別化をはかるため、消 費者の視点からは最先端の流行に見えるのである。もしも消費者ニーズにそぐわない場合でも、 すぐに撤退して、新しい商品を投入できることが強みである。 本報告は、ファストファッションを購入する日本の若者たち(本報告の場合は大学生)につい ての調査結果から、彼らのファストファッションに対する好悪(意識)や所持枚数を明らかに し、特にファストファッションを好む学生たちの特徴について述べる。具体的には、それらを好 んで優先的に購入する大学生たちは、一体、ファストファッションの何が好きなのであろうか。 なぜ彼らはファストファッションを他のファッションと区別し、優先して購入するのか。それら を、本報告では明らかにする。 これらを明らかにすることの意義は、日本の若者たちのファッションに対する考え方の一部 が理解できることである。若者のファッションに関する価値観を理解することにより、その世 代(本報告の場合は大学生)が好むものや望むことを推察できるようになるだろう。彼らの価 値観を知ることによって、ファッションのカテゴリーだけではなく、より多くのビジネスに通じ るチャンスを見出せると考えている。好みや望むもの、つまりニーズを予測することは、未来の ヒット商品を生みだす糸口になる。 2.先行研究と現状 ファストファッションに関する研究の中で、最近の研究では、大枝(2013)が若者のファスト ファッション意識に関する調査をした 1) 。この研究では、若者はファストファッションに対して 「安価な」「気軽な」「親しみやすい」「流行の」というイメージを持っていることが示されてい る。また、男女の比較においては女性の方がファストファッションに対して親しさを感じている )この研究では、ファストファッション意識の構造を知るために、因子分析を用いている。そして結果とし て4つの因子を抽出している。それらは着こなし工夫の因子、話題性の因子、品質に対する不信の因子、使 い捨ての因子と大枝らに名づけられている。また、ファストファッションのイメージを安価な、気軽な、親 しみやすい、流行の、カジュアルな、若々しいであると結果を出している。

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ファストファッションを購入する日本の若者たちの特徴

辻   幸 恵

1.はじめに ファストファッションという言葉は2009年に、流行語のひとつとして世間の人々に広く認められた。これはファストフード店で商品を注文した後に、商品がすばやく出てくることに由来している。よって、ファストフードのような安い値段と商品を提供するサイクルの短さが、ファストファッションの特徴である。つまり、ファストファッションは、シーズン中でも商品を企画、生産が可能である。また、既存のものよりも「とがった」部分を強調して差別化をはかるため、消費者の視点からは最先端の流行に見えるのである。もしも消費者ニーズにそぐわない場合でも、すぐに撤退して、新しい商品を投入できることが強みである。 本報告は、ファストファッションを購入する日本の若者たち(本報告の場合は大学生)についての調査結果から、彼らのファストファッションに対する好悪(意識)や所持枚数を明らかにし、特にファストファッションを好む学生たちの特徴について述べる。具体的には、それらを好んで優先的に購入する大学生たちは、一体、ファストファッションの何が好きなのであろうか。なぜ彼らはファストファッションを他のファッションと区別し、優先して購入するのか。それらを、本報告では明らかにする。 これらを明らかにすることの意義は、日本の若者たちのファッションに対する考え方の一部が理解できることである。若者のファッションに関する価値観を理解することにより、その世代(本報告の場合は大学生)が好むものや望むことを推察できるようになるだろう。彼らの価値観を知ることによって、ファッションのカテゴリーだけではなく、より多くのビジネスに通じるチャンスを見出せると考えている。好みや望むもの、つまりニーズを予測することは、未来のヒット商品を生みだす糸口になる。

2.先行研究と現状 ファストファッションに関する研究の中で、最近の研究では、大枝(2013)が若者のファストファッション意識に関する調査をした1)。この研究では、若者はファストファッションに対して

「安価な」「気軽な」「親しみやすい」「流行の」というイメージを持っていることが示されている。また、男女の比較においては女性の方がファストファッションに対して親しさを感じている

1�)この研究では、ファストファッション意識の構造を知るために、因子分析を用いている。そして結果として4つの因子を抽出している。それらは着こなし工夫の因子、話題性の因子、品質に対する不信の因子、使い捨ての因子と大枝らに名づけられている。また、ファストファッションのイメージを安価な、気軽な、親しみやすい、流行の、カジュアルな、若々しいであると結果を出している。

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表1 インディテックスとH&Mの業績

インディテックス(スペイン) H&M(スウェーデン)売上高 167億2,400万ユーロ

� (約2兆3,600億円)1285億6200万スウェーデンクローナ� (約2兆570億円)

営業 30億7,100綿ユーロ 221億6,800万スウェーデンクローナ利益 � (約4,300億円) � (約3,500億円)世界店舗数 6,340店 3,132店   日本 (106店) (39店)展開国・地域 87地域 53地域注)2014年3月21日日本経済新聞に掲載された表を筆者が整理した

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ファストファッションを購入する日本の若者たちの特徴(辻)

という結果を示している。北村(2012)はファストファッション成立プロセスに着目し、ファストファッションの強みを4つにまとめた後、行為主体間の相互作用を研究している。これらの研究はファストファッションの特徴をふまえた上で行われているが、安価で親しみやすいものが流行しているのは、現在だけではない。消費者の購買行動においてはむしろこのような傾向は珍しいものでもない。田村(2011)は消費社会の発達段階を著書の中で時代別にまとめ、消費者の時代別のニーズについてもふれている。ニーズから考えればファストファッションは若者のニーズを満たしているのである。 現状については以下にいくつかの例を示す。2014年3月21日にZARAとH&Mの2つが「アパレル2強出店競う」という見出しで日本経済新聞に掲載されていた。記事には「「ZARA」などを展開する最大手インディテックス(スペイン)が2015年1月期に最大420店を増やす一方、2位のへネス・アンド・マウリッツ(H&M、スウェーデン)は14年11月期に375店を純増させる。」とあった2)。現在日本には、インディテックス(ZARA)が106店舗、H&Mが36店舗存在している。また、どちらも日本の若者たちを中心として、人気のあるブランドである。両者の売上高や営業利益を比較した表が、日本経済新聞に掲載されていた。それを表1として以下に示す。

 なお、2014年4月1日にしまむらの前期純利益が3%減少したことが同日(2014年3月21日)の日本経済新聞に掲載されていた。3%減少した原因はヒット商品がなかったことであると指摘されていた。

3.第1調査の概要3-1.調査方法 2014年7月2日に大阪市、京都市、神戸市のいずれかの都市に住んでいる経済学部男子大学生20人、女子大学生20人を調査対象とした。彼らはすべて3回生である。彼らを大学内の1つの教室に集めて、そこでファストファッションの画像を10点を見せ、調査の主旨を説明した後に、質問事項に回答をしてもらった。時間は説明時間を含めて90分で実施した。なお、質問や回答方法がわからない場合は、挙手してもらい、その場で説明を個別におこなった。調査対象者に以下の

2�)日本経済新聞Japanese�economy�Newspaperの5面に記事が掲載された。2013年4月に生活雑貨店「ザラホーム」を日本でも開業したことや、「日本での売上高が円安の影響で29億4,500万スウェーデンクローア(約464億円)と前の期比18%増にとどまったが、円建てで見れば同46%増えている」と紹介されていた。しまむらに関しては小川(2011)がヤオコーと比較をしている。小川はしまむらとヤオコーの共通点を小さな町から出発した点や小売りのチェーン店であることを挙げている。

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表2 好きあるいは嫌いの主な理由

男  子 女  子

好きな理由

流行しているから安価だからおしみなく着ることができるから親しみやすいから若者らしいから格好よいから批判されないから皆が着ているからカジュアルだから

皆がよく着ているから無難だからカジュアルだからよく似合うから流行しているからデザインがかわいいからおしゃれだからライトな感じだからどこにでも着ていけるから

嫌いな理由

シンプルではないからデザインが子供っぽいから色が派手だから皆がよく着ているから長くは着られないから安っぽく見えるから品質が悪いから苦情に対応しそうにないから

皆が着ているからデザインが子供みたいだからフォーマルとしては着られないから個性が感じられないから普通すぎるからデザインが奇抜だからありきたりだから粗悪な感じがするから

(筆者作成)

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ファストファッションを購入する日本の若者たちの特徴(辻)

4つの質問をした。1)「あなたはファストファッションを知っていましたか」2�)「あなたはファストファッションが好きですか」そして「好きな人は好きな理由を、嫌いな

人は嫌いな理由を書いてください」3�)「ファストファッションのTシャツと普通のブランド(あるいはノーブランド)のTシャツ

が同じ値段であったならば、どちらを優先して買いますか。ただしデザインも色も同じようなものとします」そして「その理由も書いてください」

4�)「あなたはファストファッションのブランドをいくつ知っていますか」そして「知っている人はその名前を書いてください」

 この中で質問があったものは3)のデザインも色も同じようなものという表現に対してであった。質問に対しては、色は同じということはあるのだが、デザインはまったく同じということは現実的には困難であると考えて、よく似ているようなデザインと言う意味であるという説明をした。 なお、これらの4つの質問は認知(質問1と質問4)、心理的な好悪(質問2)、ブランド比較

(質問3)をふまえて設定をした。畑井(2004)は消費者とブランドとの関係をみる測定尺度を32の質問項目として提案しているが、その中にも認知、好悪、比較の要素は含まれている。

3-2.結果 以下にこれらの質問ごとに回答結果を示す。1�)ファストファッションに対する認知度をはかるために「あなたはファストファッションを

知っていましたか」という質問を設定した。過去形で質問をしたのは、ファストファッションの画像を見せた後に、質問を開始したからである。結果は全員が「知っていた」と回答した。

2�)ファストファッションに対する心理的側面を知るために好悪について調査をした。具体的には、「あなたはファストファッションが好きですか」そして「好きな人は好きな理由を、嫌いな人は嫌いな理由を書いてください」という質問を設定した。結果、好きであると回答した者は男子大学生が50.0%、女子大学生が65.0%となった。彼らが回答した好きあるいは嫌いの主な理由を表2にまとめた。

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表3 選択の割合

ファストファッションを選ぶ 37.5%(15人)

普通のブランドを選ぶ 40.0%(16人)

どちらともいえない 22.5%(9人)

(筆者作成)

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ファストファッションを購入する日本の若者たちの特徴(辻)

 �� 表2で示したが女子には好きな理由にも嫌いな理由にも「皆がよく着ているから」という理由があがっている。これはまさに同調したい気持ちと差別化したい気持ちの両方が、ファッションには両立していることを示すものであり、相反する気持ちではあるが、ファストファッションにのみ当てはまる心理ではない。デザインに関しては男女ともに嫌いな理由に「デザインが子供っぽい、あるいは子供みたいだから」という意見があるが、女子の好きな理由の中には「デザインがかわいいから」という理由があげられている。これは個別の好悪がダイレクトに反映された意見である。つまり、かわいい洋服が好きか嫌いかによるのである。洋服そのものの特徴として「カジュアルだから」好きで「フォーマルとして着られないから」嫌いとある。これは個人のTPOと洋服との関係にもよるが、フォーマルを重視しているのか、カジュアルを重視しているのかという考え方の相違による。女子の嫌いな理由に「普通すぎるから」と「デザインが奇抜だから」という相反する理由が並んでいる。これは個人差の問題である。商品に関する知識の差にも原因がある。また、ファストファッションのカテゴリーをどのようにとらえているのかというところにも原因がある。消費者の知識カテゴリーの実証研究として清水(2004)が自動車やチョコレート菓子を対象に実施しているが、ファストファッションもカテゴリーが多い商品である。

 �� さて、男子大学生があげた嫌いな理由の中で「苦情に対応しそうにないから」とある。これはファストファッションを販売している店舗の店員の対応の問題で、店員個人の資質である。しかしイメージとしては苦情に対応してくれないようなものをこの男子大学生のほかにも18人の男子大学生が持っていた。ファストファッションは比較的に安価であるので、いちいち、取り合ってくれそうにないと思い込んでいるのである。なお、苦情をどのようにマーケティング要素としてとらえていくのかという問題はすでに、Stephen�S.�Tax(1998)などが論じているが、これはファストファッションだけの問題ではない。

3�)「ファストファッションのTシャツと普通のブランド(あるいはノーブランド)のTシャツが同じ値段であったならば、どちらを優先して買いますか。ただしデザインも色も同じようなものとします」そして「その理由も書いてください」という質問を設定した。結果、彼らの回答は以下のとおりであった。

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表4 主な選択理由

表5 大学生たちが知っているファストファッションのブランド名の数

ファストファッションを選択した理由

流行している。ブランドと同じ価値がある。ファストファッションが好きだから買う。無難だから買う。目新しい。旬な感じがする。今しかないような気がするから。

普通のブランドを選択した理由

ブランドの製品の方が信頼できる。高級だと思う。品質がよい。安価でないならばわざわざファストファッションでなくてよい。同じならば特にファストファッションにこだわらなくてよい。同じならば普通のブランドの方が品質がよいと思うから。

どちらともいえないを選択した理由

まったく同じであるならばサービスの良い店の方で買う。その時の気分によるから。その時の所持金によるから。それを着ていく場所にもよるから。店員の態度で決めるのでどちらかわからない。

(筆者作成)

男子大学生 平均3.5 最頻値4.0 最低値0.0 最高値7.0

女子大学生 平均4.0 最頻値4.0 最低値1.0 最高値8.0

(筆者作成)

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ファストファッションを購入する日本の若者たちの特徴(辻)

  主な選択理由については表4にまとめた。

 �� 表4からファストファッションを選択する大学生たちは、ファストファッションそのものに価値を見出していることがわかる。これはブランドロイヤリティと同じである。普通のブランドを選択する大学生たちは、ファストファッションが普通のブランドよりも格下だという意識がある。どちらともいえないを選択した大学生たちは商品そのものよりも、サービスや接客態度や空間などの買い物空間も重視している。

 �� なお、表4の主な選択理由では、複数人が述べたことや、個人が述べたことであっても非常に強く述べたことを中心にまとめた。この表4以外に「ファストファッションを選択していればはずれがない」「普通のブランドではかぶることが少ないがファストファッションは学内や通学途中でも同じ服を着ている人がいるので、同じ値段になるならばかぶることがない普通のブランドを選択したい」「友人と一緒の買い物であれば友人にあわせてファストファッションを買うし、友人が普通のブランドの店で買い物をしたら、そこで一緒に買うので、どちらともいえない」などの理由があった。

4�)「あなたはファストファッションのブランドをいくつ知っていますか」そして「知っている人はその名前を書いてください」

  これらの回答の結果は表5と表6のとおりであった。

 �� 表5をみると平均値が男子大学生で3.5、女子大学生で4.0になり、3つか4つくらいのブランド名は言えるという結果となった。ただし、男子大学生の中には1つもブランド名が言えない大学生が1人含まれていた。彼は質問1ではファストファッションを知っていると回答をしていた。商品は知っているのだが、ブランド名は知らないということである。

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表6 認知ランキング

順位 男子 女子

1位 H&M FOREVER212位 GAP ZARA3位 FOREVER21 H&M4位 UNIQLO GAP5位 ZARA UNIQLO6位 無印良品 g.u7位 ハニーズ 無印良品8位 g.u しまむら9位 しまむら ハニーズ10位 TOPSHOP Bershla

(筆者作成)

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ファストファッションを購入する日本の若者たちの特徴(辻)

 �� 表6にはファストファッションではないブランド名や会社名も含まれていた。しかし、これらを大学生たちはファストファッションであると思っているのである。

 �� 第1調査からわかったことは以下の5つであった。 1�)ファストファッションは日本の大学生たちには良く知られている。 2�)ファストファッションが好きだと回答した男子大学生は50.0%、女子大学生は65.0%で

あった。半数以上の大学生がファストファッションを好意的に受け止めている。 3�)一般的なブランドのTシャツよりもファストファッションのTシャツを優先的に選択する

大学生は全体の37.5%であった。 4�)大学生たちはほとんどが、3つか4つのファストファッションのブランド名を言うことが

できる。 5�)男子にも女子にもH&MやFOREVER21はよく知られている。 �� さて、表6には男子には4位で、女子には5位でUNIQLOがランキングされている3)。しか

し、UNIQLOはファストファッションではない。もちろんUNIQLOも、良いものを安く、スピーディに市場に提供しているが、システムや定番商品の堅実さがファストファッションとは異なっているのである。

3-3.第1調査結果の検証と考察 第1調査は2014年7月2日に実施したが、その前年2013年11月2日~7日の間に大阪市、京都市、神戸市のいずれかに住んでいる男子大学生200人、女子大学生200人を対象として選び、「ライフスタイルとファッションへの価値観」の調査を実施した。その調査票の中から表7に示した質問とその回答結果を使用して、第1調査結果と比較した。「ライフスタイルとファッションへの価値観」の調査では45の質問をしているが、ここでは、彼らの生活やファストファッションに関する16項目を使用した。なお、彼らはすべて2回生~4回生で、私立大学の経営学部かある

3�)ユニクロ(Unique�Clothing�Warehouseの略)は1984年に広島で1号店がオープンしている。この当時はDCブランドが主流であったが、1号店のユニクロは倉庫のような店で、食器類の販売に使用される什器に低価格帯の商品を並べた。また接客も少なく、顧客はセルフサービスのように自分で商品をかごに入れていく方法であった。ユニクロをケース・スタディとして、井原久光氏が『ケースで学ぶマーケティング』ミネルヴァ書房(2001年)172-179頁で取り上げている。

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表7 質問項目と回答結果単位:% n=339

番号            質 問 項 目 男168 女171

1)あなたはファストファッションが好きですか はい 52.4 63.22)あなたはファストファッションの服を頻繁に買いますか はい 34.5 49.13)あなたは所持している服の半数以上がファストファションですか はい 31.0 38.94)あなたは今後、もっとファストファッションを買いますか はい 27.4 30.45)あなたはファストファッションの商品の品質に満足していますか はい 42.9 55.66)あなたは1ヶ月に自由に使えるこづかいが3万円以上ですか はい 63.1 67.87)あなたは通学時間が60分以上ですか はい 69.3 52.68)あなたは1週間のうち4日以上外出しますか はい 59.5 60.89)あなたは将来よりも今を大事にしたいですか はい 53.0 58.010)あなたは手軽なものが好きですか はい 60.0 64.311)あなたは長く使用できる製品を重視して購入しますか はい 22.0 20.012)あなたは洋服などファッション商品を資産だと思いますか はい 18.0 9.513)あなたは買い物が好きですか はい 30.0 62.014)あなたは自分のことをおしゃれであると思いますか はい 25.0 50.015)あなたは流行に敏感な方ですか はい 30.0 55.016)あなたは友人が着ている洋服に興味がありますか はい 20.8 59.6

注)小数点以下第4位を四捨五入した� (筆者作成)

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いは経済学部に所属している学生たちであるので、第1調査対象とは母集団の条件が似ている。「ライフスタイルとファッションへの価値観」の調査では男子大学生の200人の中から168の有効回答数を得た。そして女子大学生の200人の中から171の有効回答数を得た。この中で、ファストファッションが好きかどうかを尋ねた。結果は表7に示しているが、男子大学生は168人中好きだと回答した者は88人(52.4%)であった。女子大学生は171人中、好きだと回答した者は109人

(63.4%)であった。これは第1調査(40人を対象としている)の結果と同じ傾向を示している。先に述べたとおり、40人を対象とした第1調査でもファストファッションを好きだといった男子大学生は50.0%、女子大学生は65.0%であった。半数以上の大学生がファストファッションを好意的に受け止めている。 次に、表7では2)の質問になるが、ファストファッションを買うかということについて男子34.5%、女子49.1%が買うという回答をしている。今回実施した第1調査でも37.5%(15人)が買うと言った。なお、第1調査の40人に対しての1ヶ月に自由に使えるこづかいの平均額は男子32,600円、女子31,200円、通学時間の平均は男子68分、女子62分、1週間のうち4日以上外出するのは男子も女子も60.0%となった。これらは表7の質問番号6)から8)までの3つの質問に対応しているが、生活面に関する回答でも第1調査と昨年の「ライフスタイルとファッションへの価値観」の調査との間にはt検定の結果、有意な差は見られなかった。よって第1調査の人数は合計40人と少ないが、大阪市、京都市、神戸市のいずれかの都市に住んでいる私立大学に在籍している標準的な大学生であると推察できる。

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 次に考えられることは以下のとおりである。 最初に、大学生たちにとって、ファストファッションは好まれるファッションであり、これは男女共の傾向であるが、やや女子の方が多い。この結果は先行研究の大枝(2013年)の結果と一致している。ただし、ファストファッションではなくても、ファッションに関しては、一般的には、男子よりも女子の方が関心があると考えられるので、ファストファッションだから女子のほうが男子よりも好きであるとは言い切れない。 また、ファストファッションは旬のテイスト、つまり流行を提案しているので、流行に敏感であるか否かも影響してくると考えられる。表7の15)の回答では流行に敏感であると回答しているのは男子30.0%で、女子は55.0%であった。これは検定をするまでもなく、女子の方が流行には敏感である。ただし、敏感であるというのは本人の自己評価であるので、必ずしも敏感であると回答した者が、流行を知っている、あるいは取り入れているとは限らないのである。敏感であるという回答者の多くは、流行の情報として雑誌を見ている、あるいは友人どうしの話題にしているという。これは辻(2013)の口コミ効果の調査結果と一致している。 次に、ファストファッションは日本の大学生たちには良く知られている。男子にも女子にもH&MやFOREVER21は特によく知られていた。また、大学生たちはほとんど3つか4つのファストファッションのブランド名を言うことができる。ただし、学生たちの中で、勝手にファストファッションだと思いこんでいる者もいるが、表6の中にあるユニクロやしまむらなどはファストファッションではない。大学生たちは身近に店舗があって、手頃な値段の商品であるものをすべてファストファッションであると思っているようである。 最後に、一般的なブランドのTシャツよりもファストファッションのTシャツを優先的に選択する大学生は全体の37.5%であった。もちろん、表4に示した理由のように、値段や色が変わらず、デザインも良く似ているのであれば、わざわざファストファッションを選択することはないという。ここからファストファッションに学生たちが期待していることは値段の安さであることが考えられる。ただし、高橋(2004)も引用しているように、買物動機は個人的動機と社会的動機にわかれている。表4では学生たちが多くの場合、個人的動機を述べているが、それだけで購買行動が成立しているわけではない。社会の中での学生の存在とファストファッションを受け入れる社会的素地や条件とが一致しているという社会的動機も考えられる。

4.第2調査の概要4-1.調査方法 2014年7月22・23日に第1調査に協力をしてくれた大学生の中から、ファストファッションが好きで、よく買い物に行くという男子大学生を3人、女子大学生3人を選び、聞き取り調査を実施した。最初に表7にあげた2)から5)までの4つの質問と13)から16)までの質問に全員に回答してもらった。前半の4つの質問はファストファッションの購入と所持状態、今後の希望や品質への思いである。これはファストファッションの現状を示している質問である。後半の4つの質問は自己評価と他者評価を問うた内容である。これらの結果を表8に示した。これらの8つの質問は聞き取り調査対象の学生の特性である。 聞き取り調査は個別に実施をした。ひとりずつ大学内の研究室に呼び、1人約70分ずつ話を聞いた。これらは彼らの許可を得た上で音声を録音した。その後、テープおこしをして、原稿にまとめたものを各自に目をとおしてもらった。なお、調査に協力するか否かは、事前に調査の目的

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表8 先行研究表7内の質問項目に対する男女6人の回答単位:人

番号            質 問 項 目 男 女

2)あなたはファストファッションの服を頻繁に買いますか3)あなたは所持している服の半数以上がファストファションですか4)あなたは今後、もっとファストファッションを買いますか5)あなたはファストファッションの商品の品質に満足していますか

はいはいはいはい

2323

2333

13)あなたは買い物が好きですか14)あなたは自分のことをおしゃれであると思いますか15)あなたは流行に敏感な方ですか16)あなたは友人が着ている洋服に興味がありますか

はいはいはいはい

3333

3333

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(主旨)を説明した上で同意を得た者とした。また得られたデータは学術研究目的以外には使用しないことも文書で示した。さらにテープおこしをした後の原稿を読み、ここでも再度、調査への協力を確認した。

4-2.結果 学生たちの特性を示す回答結果を表8に示した。表8の12)から16)までの回答からわかることは、聞き取り調査に参加をした学生たちは自分たちのことをおしゃれで流行に敏感であると評価していることである。また周囲の友人の洋服にも興味があり、ファッションそのものに関心が高いという特徴を有している。 次に表8の2)から5)までの回答からわかることは、彼らは現在のファストファッションに対しては好意的で、品質にも満足をしているが、当然のことながらファストファッションだけをターゲットに購入しているとは限らないということである。また男子3人の中の1人は、4)あなたは今後、もっとファストファッションを買いますかという質問に対しては「いいえ」と回答をしている。つまり、今よりもファストファッションの洋服を増やすことはないという意味である。

 次に聞き取り調査の結果のうち、ファストファッションの所持枚数などを表9に示した。男女6名にそれぞれ上着の所持数とその中でファストファッションの枚数を尋ねた。表9内のFFはファストファッションの略である。また、品目に占める割合を%で示している。この表9からわかることは男子の場合は上着とズボンはファストファッションの割合が4割以下であることに対して、女子の場合は上着とズボンがすくなくても58.3%で、それ以上になっていることである。もちろん男子と女子ではズボンに対する感覚は異なっているので、ダイレクトには比較はできない。

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表10 聞き取り調査から得られた特徴

A� TPOにあわせて洋服はそろえています。ファストファッションはカジュアルな感じのものが多いので、Tシャツやショートパンツ等を買います。大学や近所への買い物へ行く時は着ますが、ちょっとしたレストランに行く時は、別のブランドの上着を着ています。

B� 私はファストファッションだからという理由ではなく、気に入ったものを購入します。ファストファッションはサイクルが速いので、その場で判断して衝動買いも多いです。

C� 無印良品のようなテイストが好きです。だからファストファッションは好きですが奇抜なものは買いません。どちらかといえば無難で平凡なものを選択しています。

D� 私は大学の帰り道でショッピングをします。どうしても身の丈にあったものを買いますから、ファストファッションのように安価なものが多くなります。

E� ファストファッションは流行だし、安価だから気に入って購入します。今後のことを考えると就職活動ではブラウスはブランドを買う予定です。品質はブランドの方が良いです。

F� 特に強く意識をしてファストファッションを選んでいるわけではありません。皆と行く場所に店があるので、目にする機会が多いのだと思います。

注)ABCは男子大学生、CDFは女子大学生。� (筆者作成)

男子 女子質問項目 A B C D E F上着数 9 10 12 10 12 14FFの数 3 4 3 6 7 9FFの% 33.3 40.0 25.0 60.0 58.3 64.3ズボン数 13 12 10 5 4 4FFの数 5 4 3 4 3 3FFの% 38.5 33.3 30.0 80.0 75.0 75.0Tシャツ 8 9 7 8 9 10FFの数 7 7 6 6 6 8FFの% 87.5 77.8 85.7 75.0 66.7 80.0注)%は小数点以下第4位を四捨五入した� (筆者作成)

表9 所持枚数の男女比較

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ファストファッションを購入する日本の若者たちの特徴(辻)

 Tシャツになると男子も高い割合をファストファッションで占めるようになっている。表10に聞き取り結果から、ファストファッションをどのようにとらえているのか、あるいはどうしてファストファッションを購入しているのかという理由にあたる部分を抜粋して掲載した。

4-3.第2調査結果からの考察 表8からわかるように聞き取り調査に参加をした男女6人は、同世代の中でもファストファッションをはじめ、流行に関心がある。また、洋服の所持数をみてもすべてのアイテムにおいて、他の学生たちと比較をすれば、おそらくは所持数が多いと推察できる。そのような彼らではあるが、表9で示したように男女の差がうかがえるのである。この理由は表10内の男子Aが述べているように、男子は女子よりもTPOを念頭においていると推察できる。ファストファッションはカジュアルで、流行というイメージをもたれているからこそ、逆に、カジュアルシーンではないところへは着用しにくいように思われるのである。また、男子Cが奇抜なものは買わない、無難で平凡なものを選択するというように、おしゃれで流行に関心がある大学生でも、いわゆるとがったデザインを求めているわけではないのである。だからこそ、第1調査の結果で示された表

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ファストファッションを購入する日本の若者たちの特徴(辻)

6のようにファストファッションではないが、よく購入しているメーカーやブランドがあがっているのである。たとえば、ユニクロやしまむらは、定番商品をそろえ、そのうえで流行商品を投入している。よって大学生たちに人気があるからと言って、必ずしも流行商品で勝負しているとは限らないのである。会社のシステムをみてもファストファションとは異なっている。 男女6人は「ファストファッションが好きで、よく買い物に行く」大学生たちであるが、女子Dのように大学からの帰り道に繁華街やショッピングできる場所があれば、機会は増える。ただし、いつも彼らが同じ店舗で購入しているとは限らない。インターネットでの購入も考えられる。そこで6人にインターネットでの購入について尋ねたところ、全員がインターネットでも洋服やアクセサリーを購入していることがわかった。また、彼らの親世代もインターネットや通信販売を利用して、洋服やアクセサリーやバッグを購入していることもわかった。 女子Eは品質に関してはファストファッションよりもいわゆるブランド品の方が良いと判断している。これは科学的に比較をした結果ではなく、女子Eのイメージである。しかし、女子Eが特別に思っているわけではなく、聞き取り調査の中では他の女子も品質の面ではファストファッションがブランド品よりも、やや劣るようなイメージがある。 さて、ファストファッションを好む学生たちの特徴としては、以下のことが考えられる。 ファストファッションに執着しているのではなく、むしろ機会があったり、今の自分の好みにあったりしているから購入するという理由であった。ファストファッションに対してのブランドロイヤリティはそれほど高くはないことを示している。そうであるならば、サイクルの速さによる目新しさや、安価だけで今後どこまで若者の心をつかみ続けることが出来るのかが疑問視されるところであるが、現在のところは安価も魅力のひとつである。 表8をみると、彼らは自己評価で、自身をおしゃれであると思っている。そして流行に敏感であるとも思っている。買い物も好きで、他人の洋服にも興味がある。つまりファストファッションを好む彼らは、ファッション情報に敏感で、流行を取り入れることが上手な若者であると考えられる。ファストファッションが流行であるからこそ、彼らの心をとらえていると考えられる。つまり、彼らはファストファッションという流行が好きなのである。また、彼らはファストファッションを他のファッションと区別し、優先して購入する理由としては安価である、身近であるという理由が考えられる。

5.今後の課題 聞き取り調査を6人に対して実施したが、まだ成果をまとめきれていない。6人のファストファッションに対する感想は、6通りではあるが、購買行動や消費者心理としてとらえたときは、表9や表10のとおりである。購買行動としてあらわれた結果、所持枚数も明らかになったのだが、なぜ選択するのかという心理の解明が不十分である。選択基準に関する研究は辻も継続しているが、心理に特化をしてファストファッションを説明できるまでには至っていない。値段、デザイン、流行、色、ブランド名だけでは、ファストファッションの選択基準にはなっていないからである。特にデザインはとらえ方によって、個人差が大きい要因である。これらは今後の課題である。さらに、ファストファッションが今後も大学生たちに受け入れられ続けるのか否かも興味がある。ファストファッションというカテゴリーの中でも淘汰されるブランドやメーカーも出てくると思われるからである。

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参考文献井原久光氏(2001年)『ケースで学ぶマーケティング』ミネルヴァ書房大枝近子、佐藤悦子、高岡朋子(2013年)「若者のファストファッション意識に関する調査」『日

本家政学会誌』Vol.64、No.10、23-31ページ。小川孔輔(2011年)『しまむらとヤオコー』小学館北村真琴(2012年)「ファストファッション成立プロセスにおける行為主体間相互作用」『東京経

大学誌−経営学−』第274号、91-109ページ。清水聡(2004年)「知識カテゴリーの実証研究」『消費者行動研究』Vol.10,No.1-2、1-16ページ。高橋郁夫(2004年)『消費者購買行動−小売マーケティングへの写像−』千倉書房田村正紀(2011年)『消費者の歴史』千倉書房辻幸恵(2013年)『こだわりと日本人−若者の新生活感:選択基準と購買行動−』白桃書房辻幸恵(2001年)『流行と日本人−若者の購買行動とファッション・マーケティング−』白桃書房畑井佐織(2004年)「消費者とブランドの関係の構造と測定尺度の開発」『消費者行動研究』

Vol.10,No.1-2、17-33ページ。原研哉(2014年)『デザインのめざめ』河出文庫深澤徳(2011年)『思想としての「無印良品」−時代と消費と日本と−』千倉書房増田智恵編(2014年)『ファッショナブル衣生活−選び・着て・装い・管理する情報の提供−』

三重大学出版会Stephen�S.�Tax,�Stephen�W�.Brown,�&�Murali�Chandrashekaran(1998)Customer�Evaluations�

of�Service�Complaint�Experiences:Implications� for�Relationship�Marketing(Journal�of�Marketing)Vol62,�No.2,�pp.60-76.