フェンバレレート類縁体の 発毛効果フェンバレレート類縁体の 発毛効果...
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フェンバレレート類縁体の 発毛効果
東海大学 工学部 応用化学科 毛塚 智子
東海大学 医学部 皮膚科 藤井 誠史郎 小澤 明
従来技術 • 男性型脱毛症は“壮年型脱毛”“わかはげ”とも言わ
れ、器質的な疾患ではないが、その人の外観の印象を大きく左右するので社会生活の中でのストレスは強い。
坪井良治, 日皮会誌, 118, 163 (2008)
• 医薬品では脱毛治療薬として外用剤(5%塩化カルプロニウム配合)が存在
1999年: 外用剤(1%ミノキシジル配合) 2004年: 外用剤(2%塩化カルプロニウム配合) 2005年: 内服剤(フィナステリド、0.2 mg / 1 mg) 2009年: 外用剤(5%ミノキシジル配合) が上市
従来技術 • 男性の軽症から中等度の男性型脱毛症の標準治療
方法として、フィナステリド内服とミノキシジル外用の併用療法が行われているが、これらに続く画期的な治療薬はまだ創出されていない。
• 男性ホルモン関連物質でフィナステリドを超える薬剤の開発は困難と考えられている。
坪井良治, 日薬理誌, 133, 78 (2009)
目標
外用で、ミノキシジルとは異なるメカニズムを 利用した発毛物質の創出
• カルシニューリン(CN)阻害作用を持つ免疫抑制剤(タクロリムス、シクロスポリン)は医薬品として臓器移植時などに利用されている。
• タクロリムスの0.1%外用剤はアトピー皮膚炎治療に用いられている。
• シクロスポリン内服時における副作用として多毛がある。また、シクロスポリンやタクロリムスはマウスにおいて発毛作用が確認されている。
T. Iwabuchi, T. Maruyama, Y. Seki, K. Adachi,
J. Dermatological Science, 9, 64 (1995)
従来技術
• 米国特許 US 6,288,112においてタイプⅡのピレスロイドはマウスにおいて発毛作用を有することが報告されている。
方法: 10週齢のC3Hマウス(♀)の背部皮膚を刈毛(直径1 cm)後、 同部位にサンプル5 μL (溶媒:エタノール)を1日1回、週5 回、6週間塗布。発毛は肉眼で確認。
ピレスロイド:
除虫菊の有効成分ピレトリン とその類縁化合物
ピレスロイド
タイプⅠ:神経細胞へのNa+流入を促進して興奮状態にさせ、 痙攣・麻痺を引き起こす
タイプⅡ:神経細胞のGABA受容体を阻害し神経の興奮の 抑制を阻害する
ピレスロイドの発毛効果
ペルメトリン (タイプⅠ)
シペルメトリン
(タイプⅡ)
フェンバレレート
(タイプⅡ)
シクロスポリンA
エタノール
濃度(%) 1 2 3 4 (週)
1 0 0 0 0 /5匹
0.1 0 0 0 0 /5匹
1 0 0 5 5 /5匹
0.1 0 0 5 5 /5匹
1 0 0 5 5 /5匹
0.1 0 0 5 5 /5匹
1 0 5 5 5 /5匹
0 0 0 0 /5匹
発毛を認めたマウス数
いずれも皮膚刺激性なし 米国特許US 6,288,112
ピレスロイド
• 哺乳類、鳥類の受容体に対する作用は弱く、安全性の 高い防虫剤として利用されている。 例: ペルメトリン(タイプⅠ) 例: ペルメトリン(20%)乳剤 柑橘類に対し2000-4000倍液散布 ペルメトリン(5%)乳剤 ゴキブリに卓抜した効果あり
シぺルメトリン(タイプⅡ) 例: シぺルメトリン(6%)水和剤 野菜、柑橘類に対し1000倍液散布
フェンバレレート(タイプⅡ) 例: フェンバレレート(10%)・マラソン1(30%)乳剤 野菜類に対し1000-2000倍液散布
• 医薬品として応用されているものもある。 例: ペルメトリン(タイプⅠ) 疥癬:5%配合外用剤(海外)
フェノトリン(タイプⅠ) アタマジラミ症:0.4%配合外用剤(日本)
目的: CN基を他の置換基に変換し、CNインヒビター作用はほぼ 無い~弱いが、発毛作用を有する物質を得る
タイプⅠ タイプⅡ
ペルメトリン シペルメトリン フェンバレレート
CN基 なし あり あり
CN阻害作用 なし あり あり
発毛作用 なし あり あり
ピレスロイドの発毛効果
フェンバレレート類縁物質の合成
エステル化
ClO
OH
SOCl2Toluene
refluxToluene, r.t.
OHO, Et3N
ClO
OO
アルコールの合成
OO
H
OHO
MgBrTHF, r.t.
ClO
OO
フェンバレレート類縁物質の合成 アルコールの光学分割
カルボン酸の光学分割
OHO
OHO
OAcO
Novozym 435Vinyl acetate
40oC+
OAcO
OHO
K2CO3CH3OH-H2O, r.t.
ClO
OH
NH2Cl
O
OH1) , Toluene-MeOH, 70oC2) recrystallization
フェンバレレート類縁物質の発毛試験結果
濃度(%) 1 2 3 4 5 6 (週)
R = C≡N : 1 0 7 8 9 10 10 /10匹
フェンバレレート 0.1 0 1 3 5 5 5 / 5匹
R = C≡CH 1 0 3 7 10 10 10 /10匹
0.1 0 0 0 2 2 4 / 5匹
対照:ミノキシジル 1 0 0 0 1 1 1 /10匹
試験方法:米国特許の方法に準ずる 表示:溶媒(EtOH)と比較した結果
いずれも皮膚刺激性なし R = C≡CHの発毛作用はフェンバレレートより弱い
ClO
O
R
O
フェンバレレート類縁物質の発毛試験結果
濃度(%) 1 2 3 4 5 6 (週)
ラセミ体 1 0 2 4 9 10 10 /10匹
光学異性体1 1 0 0 0 0 0 0 /10匹
光学異性体2 1 0 0 0 0 0 0 /10匹
光学異性体3 1 0 0 0 0 0 0 /10匹
光学異性体4 1 0 3 4 9 10 10 /10匹
フェンバレレート 1 0 7 8 9 10 10 /10匹
いずれも皮膚刺激性なし ラセミ体の発毛作用は特定の光学異性体に因る
ClO
OO
フェンバレレート類縁物質の発毛試験結果
濃度(M) 1 2 3 4 5 6 (週)
ラセミ体 1.0x10-2 0 3 6 10 11 11 /11匹
1.0x10-3 0 0 0 1 4 7 /11匹
光学異性体4 1.0x10-2 0 6 7 10 11 11 /11匹
1.0x10-3 0 1 2 6 11 11 /11匹
フェンバレレート 1.0x10-2 0 4 9 10 10 10 /10匹
1.0x10-3 0 0 5 7 8 9 /10匹
対照:ミノキシジル 1.0x10-2 0 0 0 0 0 0 /10匹
いずれも皮膚刺激性なし R = C≡CHはラセミ体より光学異性体4の発毛作用が強い
ClO
OO
新技術の特徴・従来技術との比較
• 発毛メカニズムは現時点で不明だが、CN阻害作用によるものと予測している。
• この点からの発毛剤は市場になく、新たな観点からの発毛物質を提供できる。
想定される用途
• ミノキシジルを超える、外用発毛剤の有効成分としての利用。
実用化に向けた課題
• 現在、フェンバレレートを基本骨格とする類縁体の合成とマウスでの発毛試験をおこない、いくつかの発毛物質を確認した。
しかし、in vitroでの試験や安全性確認が未解 決である。 • 今後、さらなる発毛物質の探索を行っていく。
企業への期待
• In vitroでの研究、安全性確認の技術を持つ企業との共同研究。
• 発毛剤・育毛剤を開発中の企業、毛髪医療分野への展開を考えている企業には、本技術の導入が有効と思われる。
本技術に関する知的財産権
• 発明の名称:育毛剤 • 出願番号:特願2012−12930 • 出願人:東海大学 • 発明者:小澤明、藤井誠史郎、毛塚智子、 川島一騎
お問い合わせ先
東海大学
研究支援・知財本部プロジェクトマネージャー
蓮池 岳司
TEL 0463-59- 4364
FAX 0463-58- 1812
e-mail [email protected]