マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関す...

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マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関する実践的研究 上田喜彦 (n_u 天理大学人間学部総合教育研究センター教職課程 要旨 本稿の目的は,イギリスの教育家である TonyBuzan が開発したマイ ンドマップを活用した教育実銭を通して,マインドマップの学習ツールと しての可能性を明らかにすることである。その背景として,授業における ノートテイキングがうまくできない学生や,文章や文献の内容や要旨を整 理することができない学生が少なくないという,学生の学習スキルを含む 学力の低下傾向がある。本稿では,マインドマップを活用した教育実践と 実践後の学生へのアンケート調査等の結果から発想を広げたり,情報を整 理したりする学習ツールとして,マインドマップの可能性について検討し た。 キーワードマインドマップ学習ツールノート 大学生 I 問題の所在と研究の目的 大学生の学力低下がいわれて久しい。その原因を教育改革や学習指導要領の内容に求め るもの,大学の入試制度の変化に求めるもの,あるいは,大学生の層の変化に求めるもの など様々であるが,大学生の学力なり知識や学習スキルの低下傾向は,日常的に感じられ る状況である。まず、学力低下論の中でその要因のひとつとして取り上げられることの多 い学習指導要領の変遷と学力低下論争についてごく簡単に振り返ってみたい。 我が国の学習指導要領は,学校での教育課程編成の手引きまたは基準として昭和 22の学習指導要領(試案)から,およそ 10年に 1 度改訂されてきた。文部大臣の告示とし て,教育課程の規準としての性格の明確化が行われた昭和 33 年の改訂以降,昭和 43 年, 昭和 52 年,平成元年,平成 10 年,平成 20 年と 6 回の改訂を経て現在に至っている。 昭和 52年の改訂では,ゆとりある充実した学校生活の実現,すなわち児童生徒の学習 負担の適正化という,いわゆる「ゆとりと充実j 路線が示された。それ以降,平成 10の改訂まで学習内容の精選あるいは厳選という形で,指導内容や授業時間数が削減される 方向で改訂を重ねてきた。 特に, 1998 (平成 10) 年の改訂では,基礎・基本を確実に身に付けさせ,自ら学び自 ら考える力など「生きる力Jの育成をかかげて,教育内容の厳選として指導内容の 3 割削 -1-

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Page 1: マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関す …...マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関する実践的研究 上田喜彦(n_u

マインドマップの学習ツールとしての

可能性に関する実践的研究

上田喜彦 (n_u

天理大学人間学部総合教育研究センター教職課程

要旨 本稿の目的は,イギリスの教育家である TonyBuzanが開発したマイ

ンドマップを活用した教育実銭を通して,マインドマップの学習ツールと

しての可能性を明らかにすることである。その背景として,授業における

ノートテイキングがうまくできない学生や,文章や文献の内容や要旨を整

理することができない学生が少なくないという,学生の学習スキルを含む

学力の低下傾向がある。本稿では,マインドマップを活用した教育実践と

実践後の学生へのアンケート調査等の結果から発想を広げたり,情報を整

理したりする学習ツールとして,マインドマップの可能性について検討し

た。

キーワードマインドマップ学習ツールノート 大学生

I 問題の所在と研究の目的

大学生の学力低下がいわれて久しい。その原因を教育改革や学習指導要領の内容に求め

るもの,大学の入試制度の変化に求めるもの,あるいは,大学生の層の変化に求めるもの

など様々であるが,大学生の学力なり知識や学習スキルの低下傾向は,日常的に感じられ

る状況である。まず、学力低下論の中でその要因のひとつとして取り上げられることの多

い学習指導要領の変遷と学力低下論争についてごく簡単に振り返ってみたい。

我が国の学習指導要領は,学校での教育課程編成の手引きまたは基準として昭和 22年

の学習指導要領(試案)から,およそ 10年に 1度改訂されてきた。文部大臣の告示とし

て,教育課程の規準としての性格の明確化が行われた昭和 33年の改訂以降,昭和 43年,

昭和 52年,平成元年,平成 10年,平成 20年と 6回の改訂を経て現在に至っている。

昭和 52年の改訂では,ゆとりある充実した学校生活の実現,すなわち児童生徒の学習

負担の適正化という,いわゆる「ゆとりと充実j路線が示された。それ以降,平成 10年

の改訂まで学習内容の精選あるいは厳選という形で,指導内容や授業時間数が削減される

方向で改訂を重ねてきた。

特に, 1998 (平成 10)年の改訂では,基礎・基本を確実に身に付けさせ,自ら学び自

ら考える力など「生きる力Jの育成をかかげて,教育内容の厳選として指導内容の 3割削

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減,総合的な学習の時間の新設などが行われ, 2002 (平成 14)年から学校週 5日制とと

もに完全実施された。 2002年から現行の学習指導要領が実施された 2011(平成 23)年度

までの時期は,いわゆる「ゆとり教育Jが極まった時期であるといえる。現在の大学生は,

小学校から高等学校までの時期をほぼ 1998(平成 10)年改訂の学習指導要領のもとで学

んできたことになる。マスコミなどで「ゆとり世代Jと称される学生たちということにな

る。

1998 (平成 10)年の学習指導要領改訂と前後して,学力低下に関する議論,いわゆる

学力低下論争が盛んに行われた。学力低下に関する様々な議論は, 1998 (平成 10)年告

示の学習指導要領において学習内容が 3割削減されことや, OECDの国際学力調査 PISA

2000の結果がおもわしくなかったことなどに端を発していると恩われる。

例えば, w分数ができない大学生~ 1)では,大学生の算数・数学の基礎的な学力が危機

的な状況にあるとし,その原因のひとつとして受験科目に数学がないことをあげている。

逆に,神永は, r r恐るべき学力低下Jの大部分は,おそらく統計上の錯覚であるJ2)と

して,ゆとり教育が大学生の学力低下の原因であるとする論に反対しているが,大学生の

学力低下については,大学へ進学する層の変化などを原因として,その傾向がみられると

している。

このほかにも様々な立場から学力低下論争が行われたが,市川は『学力低下論争~ 3)で,

その論調を次のように分類している。

教育改革路線

(ゆとり教育)

に賛成。学力低

下に悲観的

..“一一ーー 奇

守司‘

安商省一田村哲夫

(~鬼稔事) I I 橋本大二郎

市川伸一 須藤敏昭 I I 官島正人

品:麟学 (小寺隆幸)

(.1:野健嗣)

教育改革路線

(ゆとり教育)

に賛成。学力低

下に楽観的教育敬革路線に

河ムー匙

藤田英典 3 清水議範

苅谷剛彦教育改革路線

(ゆとり教育)

に反対。学力低

下に悲観的憂慮 楽観

「学力低TJについて

図 1 r論争・学力崩壊j に登場する論者の立場

( )内は執筆者ではないが論文中で言及されている論者

これらの論争を受けて, 2002 (平成 14)年 1月 17日に「確かな学力向上のための 2002

アピール「学びのすすめJJを発表し,きめ細かな指導で,基礎・基本や自ら学び自ら考

える力を身につける,発展的な学習で一人一人の個性等に応じて子どもの力をより伸ばす

など5項目にわたる方策を示した。また,文部科学省は, r2002 (平成 14)年度に学習

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指導要領を実施した翌年の 2003(平成 15)年 12月に,学習指導要領の一部を改正して,

学習指導要領の最低基準性の明確化,いわゆる歯止め規定の廃止などを行いt r生きる

カJ心のうち「知j の部分にあたる「確かな学力jの育成にその重点を移すなど対応に追

われた。学力低下論争は,国レベルでの教育行政にも大きな影響を与えたといえる。 2008(平成 20)年告示の学習指導要領では,理数科を中心に授業時間数が増加され,学力低

下論争は落ち着いているというのが現状であろう。

しかし,大学生の学力は,実感として確かに低下しているように恩われる。本学の学生

の学力の傾向はどのようになっているのだろうか。 2009年度に日本語検定3級〈日本

語検定協会〉の問題を使用して,筆者がおこなった日本語運用能力の調査の結果は,

次のようなものであった 5)。

'as置の怠喰 1

鈎 3$ω450. eo lS5 70 75 鈎舗"鈴 ↓4Ml ヱ寄:s:門前

図2 正答率 図3 分野別の正答率

表 l 本学の学生と日本語検定3級受験者全体の認定率の比較

認定級2009年度調査 2009年度調査 全国の受検者の

における認定者数 における認定率 認定率〈参考)

3級認定(高校・大学レベル} 4人 3.1% 32.0%

準3級認定 5人 4.6% 24. 7%

これらの結果から,本学の学生の日本語運用能力は二極化の様相を呈しており,学

力の幅が広いといえる。

また,この調査と同問題で実施された全国の受験者の 51.1%が 60点以上を獲得し

ているなかで,この調査では, 60点以上は 46略にとどまっており,表 1のとおり 3級

認定率にも低さが見られるなど全体に日本語運用能力が低く,特に「語葉力J r表記

カJについて大きい落ち込みが見られる。また,下位群では,漢字力の落ち込みも激

しいことから,何らかの方策が必要であることは明らかである。

角は,基礎学力としての日本語(国語)力を「語しリと f読解Jの観点から調査を行い,

I学力調査から見えた構図は, r低学力化Jとか「学力の二極化j よりは「学力差の

拡大Jといったフレーズのほうがより現実をいいあてているようにおもえるJとし,

その原因を, r多様な入試制度の導入,入学定員の確保等の理由で低学力者も入学し

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てきているということj に求めているぺ

これらの調査に見られる大学生の学力差の拡大や二極化,大学生の学力低下につい

ては,その原因を,ゆとり教育に求めるのか,あるいは,大学に入学してくる学生の

層に原因を求めるのかにかかわらず,学力や学習スキルの低い学生たちが存在するこ

とが確認されており,それらの学生たちに対して何らかの方策が必要であることは確

かだといえる。

「大学全入時代J7)を迎え,大学が「選抜Jする時代から大学と進学希望者が f相

E選択Jする時代となり,大学進学希望者は一定の基礎学力を有するという前提が成

立しにくくなっているo その結果,様々な学力の様相をもっ学生が大学に入学してく

る。一方で、,これから社会に出る学生が身に付けるべきカ,例えば社会人基礎力的な

どの育成が求められている。逢沢明 9)は,我が国の学校教育では,発想法や創造的思

考について教育することはほとんどなく,大学教育においても,そのような趣旨の教

育が行われている例は珍しいと指摘している。そのような状況のなかで,大学の授業

もこれまでのような知識や学問の体系を講義法によって効率よく多くの学生に伝えて

いくという伝統的な教育方法に加えて,個人の変容に焦点をあて,新たな教育ツール

を授業のなかで活用したり,参加型のアクティピティなど個が見える関係の中で行わ

れる新たな教育方法を取り入れたりすることが求められているのではないか。

本研究では,発想法や創造的思考についての教育を指向した新たな教育ツールとし

て,マインドマップを取り上げることとした。マインドマップは,イギリスの教育家

であるトニー・ブザン (TonyBuzan)が開発した発想支援のツールであり,情報や思

考整理のツールである。これまで,小学校や中学校での実践事例は紹介され,その効

果も高いことが指摘されているが,大学生における学習ツールとして活用した実践的

研究は少ない。

本研究の目的は,これまでに述べてきた学生たちの現状をふまえ,マインドマップ

を活用した教育実践を通して,マインドマップの学習ツールとしての可能性を明らか

にすることである。そのために,大学生における学習ツールとしてマインドマップを

活用した教育実践と実践後のアンケート調査等を通して,マインドマップの大学生の

学習ツールとしての可能性について検討する。

E マインドマップについて

1 マインドマップの定義と特徴

マインドマップとは,図4のようにセントラルイメージと呼ばれるイラストを中心に放

射状にプランチ(枝)をのばし,プランチに言葉や記号,アイコンなどをのせて思考を外

面化する手法である。

トニー・プザンは,マインドマップの定義あるいは特徴を次のように述べている。川

マインドマップは,放射思考を外面化したものであり,脳の自然な働きを表した

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ものである。脳の潜在能力を解き放つ鍵となる強力な視覚的手法で,誰もが身につ

けることができる。あらゆる用途に使用でき,学習能力を高めたり,考えを明らか

にしたりするのに役立ち,生産性の向上が可能になる。マインドマップの特徴は,

次の 4つである。

a) 中心イメージを描くことにより,関心の対象を明確にする。

b) 中心イメージから主要テーマを枝のように放射状に広げる。

c) プランチには関連する重要なイメージや重要な言葉をつなげる。あまり重要

でないイメージや言葉もより重要なものに付随する形で加える。

d) プランチは節をつなぐ形でのばす。

マインドマップに色,形,絵,記号,立体化などを使うと,おもしろさや美しさ個

性を加えることができ,創造力,覚える力,特に記憶の再生の助けになる。

(中略) マインドマップは,思考を直線思考(1次元)から一歩前進させ,平面(2次

元),そして放射状で多次元なものへと進化させる。

つまり J rマインドマップは,脳の自然なはたらきである放射思考を紙面に写像したもの

である。 j あるいはJ rマインドマップは,思考を可視化したものであり,発想・思考の

ためのツールである。 Jと定義することができる。

図4に示したようにセントラルイメージと呼ばれる

イラストを中心に放射状にプランチを伸ばす。プラン

チの上には,言葉(1単語)や記号,アイコン,イラス

トなどを配置する。

セントラルイメージから直接伸ばされているブラン

チは,メインプランチと呼ばれ,より重要な言葉や記

号,アイコンなどを配置する。それに続くプランチに

は,メインプランチに書かれた言葉などに関連するも図4 マインドマップの事例

の,あるいは,その言葉から連想された言葉などを配置する。マインドマップは,中心に

近いほど上位概念が記され,中心からとおいほど下位概念や具体的な内容が記される階層

構造をもっている。印刷の関係上わかりにくいが,実際には多くの色を用いて描かれてお

りJ 1つのメインプランチから続くプランチは,閉じ色で描かれている。

2 発想を広げるツールとしてのマインドマップ

マインドマップ基礎講座では,放射思考で連想を広げるエクササイズが取り入れられて

いる。このエクササイズを概観することで,発想を広げるツールとしてのマインドマップ

の特徴を述べることにする。・しあわせエクササイズ

( 1 )準備

①ベン, A4程度の白紙を数枚用意し,横置きに使う。

② 中心に図5のようなイラストを描く。

(2) r幸せという言葉から連想した言葉を放射状に広がる線(プランチ)の上に書く。

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(3)数人で結果をシェアする

トニー・プザンが行った実験によると,

各個人が連想する言葉が一致することは

少なく,グループの人数が増えればふえ

るほど,共通の言葉が見つかる確率は低

くなる llhすなわち,グループでシェ

アすることで,それぞれの個人がその言

葉に対してもっていたイメージのちがい 図5 rしあわせJエクササイズ

が明らかになるとともに,さらに多くの {出典川町Buzan-加陥ndMap Book" 1993,p59

発想を生むことになる。 をもとに筆者が作成

(4) rしあわせJエクササイズの発展

次の段階では, rしあわせJから連想

された 10の言葉から,さらに連想を広げ

て, rしあわせJエクササイズを発展さ

せていく。

この「しあわせJエクササイズでは,マイン

ドマップ(ミニマインドマップ)を使ってプレ

インストーミングを行っているのであるが,実

際に行ってみると,箇条書きで行う場合よりも, 図6 rしあわせjエクササイズの

より多くの言葉が連想される場合が多い。 発展系の例

このように,マインドマップは,連想を連続 {出典)1bnyBuzan"The Mind Map B∞k"1993.p73

させ発想を広げるツールとしての性格をもっと をもとに筆者が作成

いえる。

3 整理のツールとしてのマインドマップ

トニー・プザンは,従来のノート法と天才のノート法を比較・検討し,人間の脳の力,

例えば,受容,保持,分析,出力,制御などの力をより引き出す方法としてマインドマッ

プを開発している。その中で従来のノート法には 4つの欠点があると指摘している 12)。

φ 普通のノートの 4つの欠点

① キーワードが明確でない

② 記憶しにくい

③ 時間を無駄にする

④ 脳の創造性を刺激しない

その上で,ノートの主な機能として,記憶を助ける機能,分析する機能,創造する機能,

対話を促す機能をあげ, rマインドマップは,外部環境(講義,本,新聞,メディア)か

らとったノートを,内部環境からつくったノート(意思決定,分析,創造的思考)と合体

させる。 J川理想的なノートであるとし,以下のような利点をあげている川。

-6-

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@ マインドマップが従来のノート法に勝る理由

① 関連語だけを書くので時聞が節約できる (50から 95パーセント)。

② 関連語だけを読むので時間を節約できる (90パーセント以上)。

③ 復習するときに時間が節約できる (90パーセント以上)。

④ 無関係な言葉の中からキーワードを探す必要がないので時間を節約できる

(90パーセント以上)。

⑤ 要点への集中力が高まる。

⑥ キーワードが簡単に認識できる。

⑦ キーワードが近くに並んでいるので,創造力と記憶再生力が高まる。

③ キーワードとキーワードのつながりが明確で適切である。

⑨ マインドマップは色や立体的イメージを使って視覚を刺激するので,単色で

直線形のノートより脳が受容し記憶しやすい。

⑩ マインドマップの作成中は,新しい発見と認識が絶えず起こり,思考の流れ

が妨げられることなくずっと続く。

⑪ マインドマップは,完全性や全体性を求める脳の欲求と調和し,学びたいと

いう願いを満たしてくれる。

⑫脳のスキルをすべて使うことにより,脳の注意力と受容力を増進し,その能

力に自信をもつことができる。

つまり,マインドマップは,情報や思考の整理のツールであり,脳の持つ能力を最大限

に引き出し,学習の効率を上げるノートの方法としての性格をもっといえる。

4 マインドマップをかくためのルール

マインドマップをかくための基本的なルールは,マインドマップ公式サイト 15)では,

次のように紹介されている。・セントラルイメージ

紙の真ん中からかき始める

3色以上の絵をかく

中心となるテーマを絵(イメージ)でかきます。たく

さんの色 (3色以上)を使ってテーマとなるイメージを

表現します。・メイン・プランチ

太く,おおきく

目立つように

セントラルイメージにつなげる

中心から伸びる大切なブランチ。太く大きく,目立つ

ようにかき,しっかりとセントラルイメージにつなげます。

-1-

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- プランチなめらかな線

プランチとプランチはつなげる

全体にまんべんなく広げる

だんだん細く

木から枝が生えるよう中心から伸ばして,だんだん細

くかいていきます。曲線で,プランチは離さず,くっつ

けてかきます。全体にまんべんなく広げます。

・言葉

プランチの上

ひとつの言葉で

プランチの上にのせる言葉。全ての言葉や文をかくの

ではなく,ひとつの言葉でかきます。

・色たくさんの色を使いカラフルに

たくさんの色を使い全体をカラフルにかきます。目立

たせたい場合は異なる目立つ色を使います。

・イメージ

プランチの上に絵もたくさんのせる

プランチの上にのせるのは,言葉だけではなく,イメ

ージ(絵)もたくさんのせます。できるだけ覚えやすい

ように楽しくユニークな絵をかきます。

“一-一一一一--_..._.._.--一一一

(出典)マインドマップ公式サイト URL: http://www.mindmap.or.jp/howto/

5 マインドマップの活用と学習ツールとして期待できること

( , )マインドマップの活用

マインドマップは,情報や思考を整理したり,新しい情報を取り入れたり,創造的

思考を働かせたりするのに活用でき,学習や住事,生活の様々な場面で活用できると

考えられる。例えば, トニー・ブザンは,問題解決場面での意思決定,学習場面での

ノートテイキングや記憶,グループでのコミュニケーション,自己分析やビジョンの

策定,生活や仕事でのスケジュール管理や企画・運営のアイデアの構想,プレゼンテ

ーションなどに活用することができるとしている。

マインドマップを活用することで,情報整理カ,記憶力,発想力,コミュニケーシ

ョンカ,読書力,プレゼンテーションカ,スビーカーカ,問題解決カなどをのばすこ

とができるとしている 16)。

。。

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(2)学習ツールとして期待できること

マインドマップを学習のツールとして活用したとき,次のような効果が期待できると考えられる。

① 発想、を広げるツールとしての効果

② 学習意欲や集中カを高めるツーノレとしての効果

③ 情報を整理し,全体を傭敵するツールとしての効果@ 記憶のツールとしての効果

⑤ 自己分析のツールとしての効果

⑥ 自己実現へのビジョン策定など構想ツールとしての効果⑦ 問題解決や意思決定のツールとしての効果

E マインドマップを活用した教育実践とアンケート結果等

1 マインドマップを活用した教育実践

( 1 )実践の概要

-実践の時期

・科目名

-対象

・実践の概要

2011年 4月"""7月

教職に関する科目「総合演習 1J

3年次生 20名

今回の実践の概要は 表 2に示したとおりである。

表 2 201 1年度春学期「総合演習 1Jの概要

時間 ねらい 指導内容

1......4 マインドマップの基礎的な理 マインドマップ基礎講座(18)

解を図り,そのかきかたについ 1)スキル理解のためのワークショップ

て知るとともに,メンタルリテ 4名を 1グループとしたグループ学習

ラシー仰を身につける。 WORK1 fクリップワークJ

WORK2 f私の好きなものj

WORK3 f偏愛マップJ(19)

WORK4 fアインシュタインの一生J

WORK5 「自己紹介J

WORK6 『記憶にチャレンジj

WORK1 r 1 0年後の自分j

-マインドマップ 7つのルールの理解

-9-

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2) 脳の仕組みゃ機能に関する内容

.脳細胞や脳内地図について知る。

-情報の入出力や伝達について知る。

・右脳と左脳 (RogerSperry)の働きや脳の

情報処理について知る。

3) 記憶や認知・学習に関する内容

• Bouba/kiki effect,忘却曲線,多重知能,

初頭効果,親近性効果,記銘・保持・想起,

短期記憶・長期記憶・ワーキングメモリ・ス

キーマなどについて知る。

4) マインドマップの活用事例紹介

・講義録,記憶,読書,プレゼン,グループ

でのマインドマップ,授業,研修,計画,メ

ンタルトレーニング,レポート作成などの事

例について知る。

5........ 7 Iマインドマップを活用して,講 Ir中学校学習指導要領解説 総合的な学習の

師の話からキーワードを抽出し|時間編Jをテキストとして,総合的な学習の

て,講義を記録することができ|時間の趣旨,目標及びその趣旨,学習過程と

る。 I指導計画,配慮事項など総合的な学習の時間

に関する基礎・基本について知る。

8........ 9 I地球環境や異文化理解に関する|テーマを決め,文献を選択する。

書籍群の中から書籍を選択し, Iマインドマップの作成ルールに従って,文献

内容をマインドマップにまとめ iの内容をマインドマップに整理する。

ることを通して,地球環境等に

ついての理解を深める。

10........13 I作成したマインドマップを活用|作成したマインドマップを書画カメラで拡大

して,プレゼンテーションを行|表示し,それを用いて書籍の内容,の概説を

うことを通して,自らの問題意|行い,自分の考えをプレゼンテーションす

識や課題意識を高める。 Iる。

14........15 I総合的な学習の時間の具体的な|・総合的な学習の時間の具体的な指導事例の

指導例及びES D (持続発展教|紹介及び全体のまとめ

育)加について理解する。 .ESDについての概説

(2)各ワークショップ及び授業の概要と学生の感想

まず,第 1講目から第 4講目まで実施したマインドマップ基礎講座の概要として,各回

に行った主なワークショップの概要と学生の作成した作品及び感想を示す。

-10-

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ア WORKl rクリップワークJ(第 1講目)

WORK 1は,前述の「しあわせj エクササイズの手順で, ミニマインドマップを発展さ

せ,クリップの使い道を発想するものである。発想のツールとしてのマインドマップの

活用を意図している。学生の作成したマインドマップの作品と感想は,次のとおりであ

る。

【学生の作品】

感想 1 r今日は,はじめてマインドマップをしてすごく楽しかった。新しい発見がで

きたので,よく集中できた。初めて, 90分が短いと思った授業でした。

(以下略)J

感想 2rクリップワークで,箇条書きのときは全然書けなかったけど,つなげて書い

ていく方法で書いていったらいろいろと出てきた。(略)J

イ WORK2 r私の好きなものJ WORK3 r偏愛マップJ(第 1講目)

これらのワークは,自分の好きなものをマインドマップに表現し,作成したマインド

マップを使い, r偏愛マップJの手法を用いてベアグループでのコミュニケーションを

促すものである。学生の作成したマインドマップの作品と感想は,次のとおりである。

【学生の作品1

感想 3 r今日マインドマップという活動をしましたが,他の授業でもしたことがあ

って,今回 2回目でしたが,すごく楽しくて,友だち同士の会話も弾んだ

と思いました。教師になれたときに,初回の時間などにぜひ使いたい授業

だと思いました。すごく楽しかったです!J

-11ー

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感想、4 rめちゃくちゃ楽しかったです。正直2限........4限までずっと座学だったので,

アクティビティがあってよかった。みんなともたくさん会話できて,いっ

ぱい笑って,これからの授業もとても楽しみです。 j

ウ WORK4 rアインシュタインの一生J(第2講目)

WORK4は,アインシュタインの生涯についてかいた簡単な文章 (800文字程度)を

マインドマップに整理するものである。文章からキーワードを抽出し,内容のまとまり

を面プランチにして階層化を考えながらマップにしていくという手順をとった。学生の

作成したマインドマップの作品と感想は,次のとおりである。

【学生の作品】

感想 5 rアインシュタインの文章をマインドマップにするのは,すごく感動しまし

た。文章をあんなふうに整理できるんだなあと驚きました。思い出しやす

いし,何回でも読めるのでテスト勉強にも使いたいです。 j

感想6 rアインシュタインの生い立ちは,自分のマインドマップを見たら,絶対説明

できる自身があります。(中略)自分が先生になったら生徒にこういう授業

をします!!必ず!!楽しい食」

エ WORK5 r自己紹介j WORK6 r記憶にチャレンジJ(第3講目)

WORK5は,自己紹介のためのマインドマップを作成し,グループ(4名)内で3分間の

プレゼンテーションを行うものである。まず,ミニマップで発想し,フルマップにまと

めるという手法をとった。プレゼンテーションでは, 1枚のマインドマップに書き出さ

れた情報量が多かったため,マインドマップに表現したすべての内容を 3分間では話し

きれない学生が多かった。

WORK6は,マインドマップ検定(現整理力・記憶力検定)の過去問(後掲資料1)を

用いて行った。提示された単語をカテゴライズしながらマインドマップに表現する。そ

の後,記憶できているかどうかを確認した。学生の作成したマインドマップの作品と感

想及び記憶テストの問題・結果は,図 7のとおりである。

-12-

Page 13: マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関す …...マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関する実践的研究 上田喜彦(n_u

[学生の作品]

WORK5

…繰WORK6

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感想 7 rマインドマップのしかたを知ったことで,自分の頭の中の事柄をキーワード

ごとに分け,整理するこ とができるようになった。 関連づけて書くことに

より,党えやすくなった。J

感想、8 r今日のマインドマップはすごく記憶しやすくって,是非,自分の勉強(英語

を党える)に使いたいと思いました。 J

感想9 rマインドマップで,少し書いただけなのに,党えられていてびっくり しまし

た。これを今後のテストとかに活かせたらいいなあと思います。J

感想 10 r今日も楽しかったです。マイ ンドマップでII~記した方がとても暗記しやすかったです。もっと早く出会いたかった。j

- 記憶テストの結果

:l、N・'6.iE苔'12M伺 1'6iE苔革担制

'! , ‘

.. 亀, u 自

'" 11 .. 岨量

図7 記憶テス ト結果

-13-

Page 14: マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関す …...マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関する実践的研究 上田喜彦(n_u

オ WORK7 r 1 0年後の自分J (第4講目)

IVORK 7は, ミニマップを使って, 1 0年後の今日の「なりたい自分Jを想像した後,

1 0年後の自分から逆算しながら, 5年後 ・3年後 ・1年後の自分の姿及びこの3ヶ月

にしなければならないことをメインブランチにして,フノレマインドマップを作成するこ

とで,これからの 10年間の自分自身のビジョンづくりと,それを達成するための計画

をするものである。キャリア教育や今の自分を見つめ直すことなどに応用できると考え

られる。

学生の作成したマインドマップの作品と感想は,次のとおりである。

[学生の作品]

議供給.~~ 波注:rf11'望聖子ユ~ ,.,・o _", 7

凶出~ '.........ーち'::......"日旬 ?益旦幌,,!) -~三!\ " &~.噌』村

山-_ .. -':.?''Lf'" -、‘や I~ ,!:!" .!t,、川 町♂~!: ~~-

,?孝弘容ヤ ・17:::ふ も ,幅二

感想 11rマインドマップを学んで,ただ使えるだけじゃなくて物事を整理し,具体

的に考えていく大切さを学びました。今日ゃった将来のことは,具体的す

ぎて怖かったけど,夢に少し近づけた気がしてポジティプに具体的に考え

られるようになりました。 これから定期的にマインド、マップを書いていき

たいと思います。これからも学んだことをマインドマップに書いていきた

いです。どんどんポジティブシンキングになっていく のがうれしい。 J

感想 12r将来の自分を実際にマインドマップで書き,それを 10年後'""1年後,そし

て 3ヶ月後としていくことで,自分が今なにをすべきなのかというのがわ

かってくる。 マインドマップは,だれにでもできるこ とです。 小学生はも

ちろんのこと僕たち大学生も楽しみながらすることができました。どうし

ても「勉強=苦痛」のイメージを持っている人が多いので, このマインド

マップを教育に取り入れていきたいと思いました。J

(3 )講義ノートにマインドマ ップを活用する(第 5'"第 7講 目)

第5訴目~第7講目には,講義のノート としてマイン ドマップを活用するようにした。

なお,講義の内容をできるかぎり自由に記録できるようにマインドマップ用の用紙には,

A3版を用いている。授業後に, r総合的な学習の時間Jの目標について小テストを行っ

たが全員がほぼ目標の内容をとらえることができていた。学生の作成したマインドマップ

の作品と感想は,次のとおりである。学生の作成するマインドマップが洗練され,習熟の

度合いが高まっているのがわかる。

-14-

Page 15: マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関す …...マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関する実践的研究 上田喜彦(n_u

【学生の作品】

感想 13rマインドマップを書くために,集中して授業を聞けた。いろいろ自分で考

えながら書いていたので,書くのは難しかったけど頭に入りやすか勺た。

でも書くのに時間がかかって聞き逃したところもあった。最後に書けたマ

インドマップを見てみたら結構わかりやすかった。 J

感想 14r書いていて楽しかったです。色もいっぱい使ったので見直すときもわかり

やすそうだし,意外と楽しく思い出せそうです。でも書き取るのが忙しく

おもしろかったけど結構大変でした。 rやらなあかん!Jって意識したか

らか眠くなりませんでした。 J

感想 15r書き終わって見直してみると,普通のノートよりわかりやすくできていた。

落書き感覚で楽しくできた。 J

(4)文献の内容の整理及びプレゼンテーションへの活用(第8-第 13講目)

この授業では,地球環境や国際理解に関する文献を各自選択し, 1冊の内容を 1枚のマ

インドマップに整理し,作成したマインドマップを書画カメラでスクリーンに拡大表示し

て 15分間程度のプレゼンテーションを行った。文献の概要を発表し,その後の発表内容

に関する質疑応答を行った。

学生が作成したマインドマップは,ビジュアル的にも工夫され,グラフや表を加えて伝

えやすさに工夫をしたマインド‘マップも見られた。学生の作成したマインドマップの作品

は,次のとおりである。セントラルイメージのイラストなどに文献の内容全体を象徴させ

ようとする工夫がみられる。

また,プレゼンテーションでは,全体の内容を押さえた上で,自らの考えなどもきちん

と述べることができる学生が多かった。質疑応答でも,マインドマップに書かれているキ

ーワードをうまくとらえて質問する学生もあり,発表する仮IJ・聞く側の双方にとってマイ

ンドマップをうまく活用できた事例も見られた。

-15-

Page 16: マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関す …...マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関する実践的研究 上田喜彦(n_u

[学生の作品]

2 春学期終了後のアンケート調査結果

春学期終了後,

( 1 )対象

学生に表 2,表 3及び表4に示した項目でアンケート調査を行った。

総合演習 1受講生 18名

( 2 )実施時期

( 3 )回答方法

総合演習 1 全授業終了時

資料 lのような質問紙を用いて,マークシー ト式で回答を求めた。

また,設問 (4) (5)では,自由記述で回答を求めた。

設問 (1)の各項目では, 「4 :よくあてはまる 3 :だいたいあてはまる 2 :

あま りあてはまらない 1 :あてはまらなしリの4段階尺度 と r0 :わからないj

で回答するよう求めた。

設問 (2) の項目では, 「5 :ぜひ使ってみたい 4 :使ってみたい 3 :場面に

よっては使ってみたい 2 :あまり使ってみたくない 1 :使ってみたくなしリの 5

段階尺度で回答を求めた。

設問 (3)の項目では, 「5 :ぜひすすめたい 4 すすめたい 3 どちらとも

いえない 2 :あま りすすめたくない 1 すすめたくなしリの 5段階尺度で回答

を求めた。

(4)設問及び結果 (有効回答数 N= 1 8)

設問 (1) マインドマップについてお伺いします。以下の項目についてどれぐらいあて

はまると思うかをお答えください (各項目 ,1つずつマーク)

表 3 アンケー トの設問1の結果 (単位 :%)

項 目 4 3 2 1 。無M符

7 インドマ ップは.発想、を広げるツールとして効果

がある77.8 22.2 0.0 0.0 0.0 0.0

9 7イ ンドマ ップは. 2託んだ本の内容を盤~するのに

役立つ55.6 38.9 0.0 0.0 5.6 0.0

-16一

Page 17: マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関す …...マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関する実践的研究 上田喜彦(n_u

4 マインドマップは,情報を整理するのに効果がある 77.8 16.7 5.6 0.0 0.0 0.0

11 マインドマップは楽しい 66. 7 22.2 5.6 5.6 0.0 0.0

10 マインドマップを使った方が,本の内容をよく理解

できる38.9 50.0 5.6 5.6 0.0 0.0

6 マインドマップを使うと,よく記憶できる 38.9 50.0 5.6 0.0 0.0 5.6

5 マインドマップにまとめることで,全体を把握する

ことができる44.4 44.4 5.6 5.6 0.0 0.0

2 マインドマップを使うと,学習意欲が高まる 44.4 44.4 5.6 5.6 0.0

18 マインドマップにまとめると,後で勉強(復習)す

50.0 33.3 11. 1 5.6 0.0 る気が起こる

3 マインドマップを使うと集中力が高まる 50.0 27.8 16. 7 5.6 0.0 0.0

17 マインドマップのノートは,普通のノートよりわか

33.3 38.9 11. 1 11. 1 5.6 0.0 りやすい

7 マインドマップは,自分のビジョンの策定に役立つ 44.4 27.8 16.7 11. 1 0.0 0.0

12 マインドマップを使うことは.自分に合っている 38.9 27.8 22.2 11. 1 0.0 0.0

8 マインドマップは,計画を立てるときに役立つ 38.9 27.8 27.8 5.6 0.0 0.0

15 マインドマップは,コミュニケーションツールとし

て役立つ33.3 33.3 22.2 5.6 5.6 0.0

14 マインドマップは,プレゼンのツールとして役立つ 44.4 22.2 22.2 0.0 5.6 5.6

13 マインドマップは,ノートを取るときに役立つ 33.3 27.8 22.2 11. 1 5.6 0.0

16 マインドマップは,メンタルトレーニングに役立つ 27.8 16. 7 38.9 5.6 11. 1 0.0

19 マインドマップをかくことは面倒くさい 16. 7 22.2 22.2 33.3 5.6 0.0

※ この表では.肯定的な回答の多い眠に並べ替えて示している。

設問 (2) あなたは,これからもマインドマップを使っていきたいですか。

表4 設問 (2)の結果 (単位:%)

ぜひ使ってみたい 使ってみたい当面面によっては使っ

てみたいあまり使ってみたくない 使ってみたくない

27.8 33.3 33.3 0.0 0.0

設問(3) あなたは,自分の友人などにマインドマップをすすめようと思いますか。

表 5 設問(3)の結果 (単位:%) ぜひすすめたい | すすめたい | どちらともいえない| あまりすすめたくない | すすめたくない

27.8 I 33.3 I 33.3 I 0.0 I 0.0

設問 (4)書籍をマインドマップにまとめてみた感想・気づきなどについてご記入ください。

部分,部分のその本の内容を簡潔にまとめることができ,印象に残った内容や重要語句を

書き出すことにより,よく理解しまとめることができる。

一つ一つ整理しなくても,適当に書いていくと自然と整理されていく。

-17-

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本の内容や量が多くても,それをわかりやすくまとめるスキルを身につけることができた

ように思う。慣れたら作業は楽しくなった。

作っているときはとても楽しく,あとから見直すと,とても見やすくてすごく効率のよい

方法だなと思った。

私が読んだ本は,題ごとに分かれていたので,割と書きやすかったが,あまり自分でまと

めることができず難しかった。情報の本みたいな感じだったので,まとめやすかったが,物

語形式の本だったら,私にはもっとむずかしくなっていたと思う。

大事な言葉をわかりやすくまとめることができてよかった。

自分が頭でわからなかったことでも,マインドマップにしたら見やすいし,分かりやすい

ので,理解することができた。また,書くことが楽しいので,学ぶ意欲がわきました。

はじめは難しいという感覚が強かったのですが,慣れるとすらすら書けてとてもよかった

です。

本の内容をまとめるのに役立ち,発表するときにカテゴリーごとにまとめられているので

発表じやすい。

自分の頭で内容を理解しながらかけたので,難しい内容の本でも普段よりよく理解しなが

ら読むことができた。

読んだ部分がすぐ思い出せて忘れなかった。マインドマップでだいたい把握できた。

分かりやすくてよい手法だと思う。

本の内容を整理するのには,とても最適だと思った。前に書いたことを忘れてしまったと

きに読み返すと思い出しやすかった。

回数を重ねると,もっと簡単にまとめられるかも知れませんが,初めてなので難しかった

です。

本の内容がリサイクルというテーマで,読んでいてとても難しかったのですが,マインド

マップにすることによって,易しいような感じがして,よかったです。また,マインドマッ

プを見ていて,楽しい気持ちになるし,見る気がわくので,意欲を促進させられました。

練習を重ねるごとに,マインドマップに慣れ,だんだんうまくなってきて楽しかったで

す。

設問(5)マインドマップで学習してみた感想やこれからマインドマップを使ってしてみた

いことなどについてご記入ください。

0自分の人生などをマインドマップにしてみたいです。

0学習は,やっているとだんだん楽しくなってきてやみつきになりそうです。

0授業のすべてでなくても,必要なときだけでも少し工夫して取り組みたいです。

O学校に実習に行ったときに,生徒に使ってみたい。

0自分でマインドマップを作ってみると,よく内容も覚えるし,内容の整理にも役立ち

ました。

O難しい本を読むときまた使いたい。

0社会に出たときにプレゼンなどで使ってみたい。

0読み返すととても頭に入っていたと感じたので,これからもメモをとるときなどに使

いたいと思います。

Oこれから社会に出て行く準備として,自分は本当に何がしたいのか,というのをテー

マにマインドマップで定期的に自分探しにたくさん使って行きたいです。最初の方の

-18-

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授業で,自己紹介をマインドマップで書いたときに,改めて自分を傭敵的に見ること

がどういうことか分かったからです。

0楽しんで活動することができました。これからは,授業の組み立てなどにマインドマ

ップを使っていきたいと思いました。

V マインドマップの学習ツールとしての可能性

第2章でマインドマップを学習に活用した場合に期待できる効果として次の 7点をあげ

た。

① 発想を広げるツールとしての効果

② 学習意欲や集中力を高めるツールとしての効果

③ 情報を整理し,全体を僻敵するツールとしての効果

④ 記憶のツールとしての効果

⑤ 自己分析のツールとしての効果

⑥ 自己実現へのビジョン策定など構想ツールとしての効果

⑦ 問題解決や意思決定のツールとしての効果

これらの観点に沿って,アンケート結果と学生の感想から,マインドマップがもっ大学

生の学習ツールとしての可能性について考えてみたい。

( , )発想を広げるツールとしての可能性

発想を広げるツールとしてのマインドマップの可能性は,アンケートや感想などから非

常に高いものがあると考えられる。

アンケートから,すべての学生(100紛がマインドマップの発想を広げるツールとしての

効果を感じていることがわかる。それは, WORK 1 (クリップワーク)の後の感想にある

「人はある物事を考えるとき深みにはまるとなにも考えが浮かばなくなるが,このやり方

でするとひとつのものから派生して考えるので, 2倍にも 3倍にもなるので驚いた。 Jと

いう記述や「クリップワークで,箇条書きのときは全然書けなかったけど,つなげて書い

ていく方法で書いていったらいろいろと出てきた。 Jという記述からもその効果がうかが

える。これらの感想を裏付けるように, ¥VORKlを行う前に箇条書きで閉じ課題「クリップ

の使い方を考えようJでは, 3種類の使い方しか発想できなかった学生がマインドマップ

(ミニマップからの発展型)を用いて8種類の使い方を発想している事例もあった。

図式型の発想支援手法は, KJ法,マトリックス法,アイデア・ピット法+7x 7,ロ

ジックツリー,フィシュボーン図法,マンダラートなど多く存在する。 KJ法であれば,

ぱらぱらな部分をカテゴリー化し,分類・整理することによって全体を傭敵し,部分と部

分の関係から新しい発想を引き出しているといえる。マンダラートは,受茶羅のように 9

つに住切られた正方形の中心にテーマを書き,周りの空白を埋めたくなるという人間の心

理を活用し,次々と連想を広げてし、く。フィシュボーン図法では,横に 1本の線を描き,

そこから魚の骨のように枝分かれしながら中骨,小骨描いて発想を引き出していく。これ

-19-

Page 20: マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関す …...マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関する実践的研究 上田喜彦(n_u

らの図式型の発想支援技法は,描き方あるいは作成のルールの制約の強さは異なるものの,

どれもが発想の切り口を増やすこと,あるいは,新たな発見や気づきへの端点を増やすこ

とを支援しているものである。

マインドマップは,メインプランチからプランチへと連想を重ね,連想に詰まったら,

空白のプランチを残して,新しいメインプランチから別の連想を広げることを繰り返す。

また,前に発想したものと関連がある内容が生まれてくれば,もとのプランチに戻って連

想を関連づけていくという手法をとる。作成のルールの制約の強さは,フィシュボーン図

法などより弱いと考えられる。マインドマップは 他の様々な発想法と同様に発想の切り

口を増やすことと同時に, 1次元的な広がりに加えて, 2次元的な広がりがあることも,

さらに発想を広げやすい要因となっていると考えられる。

(2)学習意欲や集中力を高めるツールとしての可能性

アンケートの結果や感想から,学習意欲や集中力を高めるツールとしてのマインドマッ

プの可能性も,かなり高いことがわかる。

設問(1)の項目 2から, 88.8%の学生が学習意欲への効果を感じていることがわかる。

また,集中力が高まるということについては,設問(1)の項目 3から 77.8%の学生が集中

力を高めることに効果があると感じていることがわかる。

「今日は,はじめてマインドマップをしてすごく楽しかった。 Jのように多くの学生が,

学習や活動に対する情意面で,肯定的なとらえ方をしている。 r遊んでいるだけのようで,

以外とアインシュタインの情報が絵とともに頭に残っています! !効果的!Jの記述に見

られるように,イラストや短い言葉,キーワードなどをプランチの上に描くことを何度も

繰り返すことで,情報が整理されたり,発想が広がったりするという体験が, rマインド

マップで書くことは楽しいJという感覚を与えているものと考えられる。

また, r書いていて楽しかったです。色もいっぱい使ったので見直すときもわかりやす

そうだし,意外と楽しく思い出せそうです。でも書き取るのが忙しくおもしろかったけど

結構大変でした。 rやらなあかん!Jって意識したからか眠くなりませんでした。 jや

『マインドマップを書くために,集中して授業を聞けた。 j という記述に見られるように,

マインドマップを書くことが学習者のなかで目的化され,それが学習への意欲や集中力の

高まりにつながっていることもうかがえる。

しかし,この感想にあるように,マインドマップという手法を完全に使いこなすには,

一定の経験なり訓練が必要で,なれるための時聞が必要であることもわかる。そのことは,

アンケートの自由記述に「はじめは難しいという感覚が強かったのですが,慣れるとすら

すら書けてとてもよかったです。 Jや f練習を重ねるごとに,マインドマップに慣れ,だ

んだんうまくなってきて楽しかったです。 Jあるいは『回数を重ねると,もっと簡単にま

とめられるかも知れませんが,初めてなので難しかったです。 Jとあることからも確認で

きる。

『落書き感覚で楽しくできた。 j という記述から,マインドマップは,これまでに学生

が経験してきた他の方法に比べて学習へのハードルが低いといえる。このことが学習への

意欲の向上という効果につながっていると考えられる。

-20-

Page 21: マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関す …...マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関する実践的研究 上田喜彦(n_u

さらに,色やイラストを多用して描いていくので,描き終わったときに作品としての完

成度が高く,より大きな達成感が得られることも意欲という点に影響しているのかも知れ

ない。

(3)情報を整理し.全体を傭敵するツールとしての可能性

情報を整理することについては, 94.5%の学生が効果を感じており,全体を把握するこ

とについては, 88.邸の学生が効果を感じていることから,いずれもこのことについて,

マインドマップが高い可能性をもっていることがわかる。

- 文献や文章の整理への活用

情報の整理に関しては, r一つ一つ整理しなくても,適当に書いていくと自然と整理さ

れてし、く。 Jや「部分,部分のその本の内容を簡潔にまとめることができ,印象に残った

内容や重要語句を書き出すことにより,よく理解しまとめることができる。 Jや「マイン

ドマップのしかたを知ったことで,自分の頭の中の事柄をキーワードごとに分け,整理す

ることができるようになった。 Jという記述から,メインプランチからそれに続くプラン

チへとかきすすめるマインドマップのもつ階層構造が,情報の整理を助けていることがう

かがえる。

また, r作っているときはとても楽しく。あとから見直すと,とても見やすくてすごく

効率のよい方法だなと思った。 Jという記述や f文章で見るよりも,マインドマップで見

た方が分かりやすいし,自分で作るから覚えやすいと思った。遊び感覚で楽しかった!J

という記述, r自分が頭でわからなかったことでも,マインドマップにしたら見やすいし,

分かりやすいので,理解することができた。 Jという記述から,文章の内容を理解し全体

を把握することについての効果がうかがえる。

これは,マインドマップに情報を整理する際,文章を読み自分なりに理解した上で,キ

ーワードを抽出し,それを階層に分類して情報の構造化を行いマインドマップに表現する

としづ過程を踏むことで文章の内容の理解が深まり,文章全体をよりよく把握することが

できたのだと考えられる。

さらに,できあがったマインドマップは,色やイラストを多用しているため視覚的にも

美しくできあがるので,学生たちにとっては受け入れやすい形になっていることも影響し

ているものと思われる。

- 講義ノートへの活用

それでは,学習ツールとして最も重要であると考えられるノートとしての活用の可能性

はどうだろうか。

アンケートでは, 61. 1%の学生がノートとして役立つとその効果を感じているものの,

.33.3覧の学生がその効果を感じていない。また,普通のノートよりもマインドマップで取

ったノートの方がわかりやすいと感じている学生も, 72.2%にとどまっている。ノートに

関する効果を感じている学生の割合は,発想、のツールとしての効果を感じている学生の割

合に比べると低くなっている。

-21-

Page 22: マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関す …...マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関する実践的研究 上田喜彦(n_u

これらの結果には,マインドマップに対する習熟度や 1プランチ 1単語というマインド

マップのルールが影響していると考えられる。先にも述べた通り,マインドマップの習熟

には,一定の期間繰り返し用いてみる経験が必要であり,ある程度練習しなければ,自分

のものとならないことがある。マインドマップへの習熟が不十分な状況であれば,文献と

違って講義などの場合,そのスピードについていけないということが考えられる。そのこ

とは, rマインドマップを書くために,集中して授業を聞けた。いろいろ自分で考えなが

ら書いていたので,書くのは難しかったけど頭に入りやすかった。でも書くのに時間がか

かって聞き逃したところもあった。(略)Jという記述からもうかがえる。

また, rまだ慣れていないのですごく難しかったです。まだ今は,無駄な情報を書きす

ぎて,本当に必要な情報を書き漏らしているのではないかと思います。 j という記述から,

プランチの上には,単語を書くというルールに忠実に従っているため,センテンス型の記

述はしにくいということが影響していると考えられる。例えば, r総合的な学習の時間で

は,課題を見つけ,課題を解決するために必要な情報を収集し,集めた情報を分析した上

で,必要な情報を選択し,まとめて発信するという問題解決学習のプロセスを大切にする

ことが必要である。 j という文章の場合, r総合的な学習の時間J r重要J r問題解決過

程J r課題発見J r情報収集J r情報分析・選択J rまとめと発信j程度の語句を抽出し,

プランチの上に記述することになる。まとまったプレゼンテーションや板書であればマイ

ンドマップに表現することは容易であるが,このセンテンスを聞きながらマインドマップ

を作ることは,初心者にとっては困難を感じるものと思われる。特に,日本語では,主語

が省略されたりすることが多く,文末まで聞かないと肯定か否定かを判断できないなど,

日本語に特有の言語構造による困難性もあると思われる。講義ノートに活用する場合など

は, 1つのブラシチの上に 1つの単語というルールを少し緩めて, 2語, 3語を意味のま

とまりとしてプランチ上に配置するなどの工夫も必要となってくると考えられる。

また,講義ノートにマインドマップを用いることを前提とするならば,マインドマップ

のかき方に習熟していない初期の段階では,マインドマップで表現しやすい講義の構成や

工夫,例えば,講義全体の流れを授業の最初に示したり,板書や提示するスライドの提示

内容を重要なキーワードが分かりやすい形で示したりすることなどで,マインドマップを

講義ノートとして活用しやすい状況を作ることができると考えられる。

- その他の事例から見る全体を傭敵する効果

全体を傭敵するツールとしての効果については, r自己紹介をマインドマップで書いた

ときに,改めて自分を傭敵的に見ることがどういうことか分かつたからです。 Jという記

述や「初め,マインドマップをしたときは,何をどう書いてよし、か分からなかった。しか

し,何回も書いていく内に,自由に何でも書いていける気がした。それと同時に,最初の

ことにくらべてj もっと広い視野で考えることができるようになったと思う。 Jという記

述から,学生が全体を術敵する効果を感じていることがうかがえる。

マインドマップでは,重要なキーワードを取り上げてプランチ上に配置し,関連する項

目は,一連のプランチ上に整理される。また, 1枚の紙(または,ディスプレイ)の上に

表現していくので,できあがったマインドマップを見れば,それまでの思考や整理した情

報が一覧できるという特徴がある。また,できあがったマインドマップを見て,新たな関

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Page 23: マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関す …...マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関する実践的研究 上田喜彦(n_u

連性やつながりを発見することもできる特徴もある。この特徴が,アンケートでの結果や

学生の記述にあらわれているものと考えられる

(4)記憶のツールとしての可能性

アンケートでは, 88.9%の学生がマインドマップを使うとよく記憶できると回答してお

り,記憶のツールとしての効果は高いといえる。

簡単な単語を記憶し再生させる問題の正答率は, 95.8覧で非常に高い結果であるといえ

る。 r今日のマインドマップはすごく記憶しやすくって,是非,自分の勉強に使いたいと

思いました。 J, rマインドマップで,少し書いただけなのに,覚えられていてびっくり

しました。これを今後のテストとかに活かせたらいいなぁと思います。 J, rマインドマ

ップで暗記した方がとても暗記しやすかったです。もっと早く出会いたかった。 j などの

記述からも,学生が記憶に関する効果を実感していることがうかがえる。

これは, rマインドマップのしかたを知ったことで,自分の頭の中の事柄をキーワード

ごとに分け,整理することができるようになった。関連づけて書くことにより,覚えやす

くなった。 Jという記述からもわかるように,単に言葉を!頓に丸暗記することに比べてマ

インドマップに表現する際に知識の構造化が行われ,分類したり意味付をしたりしながら

記憶することができるためであると考えられる。

また, r思い出しやすいし,何回でも読めるのでテスト勉強にも使いたしリという記述

やアンケートで,復習に役立つとしている学生が, 83.3仙、ることから,復習や繰り返し

記憶する場合にも効果があると考えられる。これは,全体を術敵することができる効果や

色が使われていて関連がわかりやすいことなどのマインドマップの特徴が影響を与えてい

るものと思われる。

さらに,マインドマップを使って記憶しやすいことを経験した学生の中には, rマイン

ドマップは,楽しく勉強・記憶するのにょいと思います。勉強が嫌いな子に適していると

思います。 J r早速,塾の子どもたちに覚えたことをマインドマップにまとめてくる宿題

を出しました。今日それが集まるのでとても楽しみです。 Jという記述にあるように,教

育への活用について視野を広げる姿も見られた。

(5)自己分析のツールとしての可能性

自己分析のツールとしての事例は,今回の実践の中では WORK5r自己紹介Jで,自分自

身を見つめ直し,グループでシェアする活動があげられる。

「自分が興味をもっていることが目に見えてわかっておもしろかった! !今,将来につ

いて悩んでいる時期なのでこのマインドマップがヒントになる気がした。また,やらなけ

ればいけないことを書き出すのにも使えると感じた。自分にびっくりしたし,プラス思考

にたくさん考えることができて楽しかった。 j という記述や「自分の好きな分野が目で見

てすぐわかりました。オシャレとか英語に関するところが,すごくたくさん広がりました。

自分探しにもとてもいい教材だと思いました。 j という記述,あるいは, rこれから社会

に出て行く準備として,自分は本当に何がしたいのか,というのをテーマにマインドマツ

-23-

Page 24: マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関す …...マインドマップの学習ツールとしての 可能性に関する実践的研究 上田喜彦(n_u

プで定期的に自分探しにたくさん使って行きたいです。最初の方の授業で,自己紹介をマ

インドマップで書いたときに 改めて自分を傭敵的に見ることがどういうことか分かつた

からです。 Jとしづ記述から マインドマップをかくとしづ活動の中で,自分自身を見つ

め直すことができている姿がみられる。また,自分自身を見直すことでポジティプな考え

方ができる効果があることもうかがえる。

渋谷文武 21)は,自己分析や自己PR,会社の情報整理などの就職にかかわる内容につ

いてマインドマップを活用して行う様々な事例をあげ解説している。大学生活を振り返る

マインドマップづくりでは,メインブランチにアルバイト,学業,部活動を置き,具体的

な事実のみを関連するプランチにおくことで大学生活をまとめるマインドマップを作成し,

そこから自己PRのための文章を書いていく手法を述べている。メインプランチに置く内

容を変えることで,様々な視点から自己分析ができることを示している。

(6) 自己実現へのビジョン策定など構想ツールとしての可能性

アンケートから, 72.2誌の学生がビジョンの策定のツールとして効果があると感じてい

ることから,ピジョンを策定する構想ツールとしての可能性があることが分かる。

変化が激しく先行きが不透明な現在の社会の中で生きている学生たちにとって,夢を描

きにくい時代の中で, r自分は将来どのようになりたいのかJあるいは『自己実現に向け

て今何をすればよいのかj を考え,自分の将来についてのビジョンを思い描くことは重要

な営みであると考えられる。

今回の実践では, 10年後の自分を考える活動をおこなったが,その感想に「今日ゃっ

た将来のことは,具体的すぎて怖かったけど,夢に少し近づけた気がしてポジティプに具

体的に考えられるようになりました。これから定期的にマインドマップを書いていきたい

と思います。これからも学んだことをマインドマップに書いていきたいです。どんどんポ

ジティプシンキングになっていくのがうれしい。 J rl0年後の自分を想像したあと, 10

年後, 5年後・・・と逆算してみましたが, 10年後の理想に近づくために,今,これから

自分がしなければならないことが,たくさんあるのだと改めて気づくことができました。

ただの理想だけに終わるのではなく,きちんと実行していけるように,こつこつと積み上

げた生活をすることができるようにがんばります。 jなどの記述がある。これらの記述か

ら,マインドマップを活用して自己実現へのビジョンなり道筋なりを具体的に考えること

ができていることが分かる。これらの活動は,キャリア教育として,あるいは,自らの目

標をしっかりもって学生生活を送るために,学生にとって非常に意味のある活動であり,

マインドマップは,そのような活動を支援するツールとして十分に効果的なものであると

考える。

(7)問題解決や意思決定のツールとしての可能性

今回の実践やアンケートでは,この点についての検証はできていないが,高橋政史は

『マインドマップ問題解決』で, rロジカルシンキングは勉強するほど難しくなる。私は

このパターンにはまってしまった。私はロジカルシンキングを一生懸命勉強していた。し

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かし,挫折を経験する。 J22)と述べ,マインドマップとロジカルシンキングを一緒に使う

ことで結果を出せるとして,マインドマップとロジカルシンキングを活用して問題解決をスムーズに行うための手法について自らの経験を踏まえて述べている。彼にとって,マインドマップはロジカルシンキングをスムーズに行うことを支援するツールとなっていると

いえる。これ以外にもビジネスの場や教育の場における問題解決や意思決定のツールとして用いた事例が数多く報告されているが,学生に対するこの部分の実践及び検証は,今後の課題としたい。

VI おわりに

ここまで,マインドマップの学習ツールとしての可能性について検討してきた。

その結果,マインドマップを活用することで,発想、を広げる効果,学習意欲や集中力を

高める効果,情報を整理し全体を傭敵する効果,記憶を助ける効果,自己分析や自己実現を支援する効果などがあることが確かめられた。

一方で,誰にでも容易に習得できるといわれているマインドマップではあるが,講義ノートとしてマインドマップを活用するためには,マインドマップに習熟することの必要性やセンテンス型の記述の工夫などが必要であり,マインドマップを学んだからといってすぐにその効果があらわれるわけではないことも明らかになった。

今回の実践とは別に,マインドマップ基礎講座を受講した学生が,教員採用試験に向けての学習にマインドマップを活用し,自ら考え出した学習法で学習に取り組んだ事例や教育実習において模造紙に自己紹介のマインドマップを作成し,教室での自己紹介に用いて生徒とのコミュニケーションを豊かにした事例などがある。この学生は, rマインドマップと出会って,勉強が苦痛でなくなり,楽しいものであると思えるようになった。 Jと語っている。マインドマップは,学習ツールとしての活用だけではなく,その人の学習観までも変え得る可能性をもったツールであるといえる。

「知識基盤社会Jあるいは「高度情報通信社会j といわれる現代の社会は,豊かな発想、

や教養,情報の整理や正しい選択が求められる社会であるといえる。このような社会を生きていく学生たちにとっては,発想を広げたり,情報や思考を整理したりする方法をもつ

ことは有意義なことである。今回とりあげたマインドマップをはじめとする発想支援や思考支援の様々な方法を自由に操れるツールとして身につけることは,今を生きる学生たち

にとって重要であり,社会に出てから必要な力あるいはスキルになるといえる。

今後も,様々な場面で教育にマインドマップを活用しながら,今回は検討できなかった問題解決や意思決定のツールとしての効果など,さらに様々な観点から検証する機会をもちたいと考えている。

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註及び引用・参考文献

1) 阿部恒治・西村和雄・戸瀬信之『分数ができない大学生一21世紀の日本が危ない~ ,東洋経済新

報社, 1999

2) 神永正博『学力低下は錯覚である~ ,森北出版,2008

3) 市川伸一『学力低下論争~ ,筑摩書房(ちくま新書),2002, p. 16

4) r生きる力Jは第15期中央教育審議会が,第 1次答申(平成8年7月)において提言したもの

である。この答申では, r生きる力j とは f自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体

的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する能力であり J, r自らを律しつつ,他人ととも

に協調し,他人を思いやる心や感動する心など,豊かな人間性Jであり, rたくましく生きる

ための健康や体力が不可欠であるJと説明されている。また,文部科学省は平成20年公示の学

習指導要領の基本的な考え方として, r r生きるカJ=知・徳・体のバランスのとれた力であ

るとしている。

5)上田喜彦『教職を志望する大学生の日本語能力に関する一考察J,総合教育研究センタ一紀要

第7号,2009,P.22-40

6)角知行『大学新入生の日本語力:2009年度学力調査からJ,総合教育研究センタ一紀要 第8号,

2010,p.I-20

7) 1997 (平成9)年に当時の文部省大学審議会が答申の中で予測が発端となっている。その当時の推

計によると, 18歳人口の減少により、 2009(平成21)年には,大学進学志願者数と入学者数が等

しくなり,収容率が100%になるとしたのである。 2006(平成17)年の中央教育審議会答申では,

それより早い2007(平成19)年には大学全入時代が来ると予想した。実際には,平成19年度には,

大学進学希望者数に対する大学入学者数の割合(収容率)が90.5%となり,平成20年度には,

92.0覧(割合はいずれも文部科学省調)という状況であり,完全な f大学全入J時代とはいえな

いにせよ「大学全入J時代に突入したといってもよい状況である。

8) r社会人基礎カJとは、 f前に踏み出すカJ、 f考え抜く力J,. rチームで働くカJの3つの能

カ(12の能力要素)から構成されており、 『職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくた

めに必要な基礎的な力Jとして、経済産業省が2006年から提唱しているものである。企業や若

者を取り巻く環境変化により、 「基礎学力J r専門知織j に加え、それらをうまく活用してい

くための『社会人基礎力Jを意識的に育成していくことが今まで以上に重要となってきている

としている。 r社会人基礎力Jの3つの能力は,前に踏み出すカ(アクション),考え抜く力

(シンキング),チームで働く力(チームワーク)であり t 1 2の能力要素は,主体性,働き

かけ力,実行力,問題発見カ,計画カ,創造力,発信カ,傾聴力,柔軟性,情報把握力,規律

性,ストレスコントロールカであるとされている。

9)逢沢彰『結果が出る発想法 アイデアはいかにして生まれるのか~ ,PHP研究所 (PHP新書),

2008

10)トニー・プザン,パリー・プザン著神田昌典訳『ザ・マインドマップ脳のカを強化する技

術~ ,ダイヤモンド社, 2005,p. 39

11)トニー・プザンは, rこの実験により,教育を受けた人はほとんどクローンみたいになってし

まうのではないかという考え方は誤解で,事実はその逆だということがよくわかる。つまり,

教育を受けた人ほど,連想の回路がおおきくなり,個性的なのである。 J前掲書 10),p..65

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「ある言葉に対してひとりひとりが持つイメージや思いつく言葉がまったくちがうのは,人間

ひとりひとりが,不思議なほど,そして,奇妙なほど違うからである。つまり,誰もが自分や

他人が考えるよりずっと個性的でユニークなのだ。この文章を読んでいるあなたの脳にも,過

去・現在・未来の他の誰とも違う何兆もの連想が存在するのである。 J前掲書 10),p..67と人

間の連想の多様さについて述べている。

12)前掲書 10),p. 51

13)前掲書 10)p.134

14)TONY&sARRY BUZAN “The Mind Map Book" ,BBC Worldwide Limmited,1993,p.81から筆者が訳

15)マインドマップ公式サイト 『マインドマップのかき方J

http://www.mindmap.or.jp/howto/

16)マインドマップ公式サイト 「マインドマップとはJ

http://www.mindmap.or.jp/about/

17)前掲書 14)p.244に, rメンタルリテラシーとは,脳の生物学的・行動学的な側面の理解であり,

特に大脳皮質,脳細胞,学習,記憶,創造性に関する理解を含むものである。 Jとある。

18)プザン教育協会の公認インストラクターが一般方を対象とした講座として,公認フエローが教

育機関での講座として実施できる講座で,各地で『マインドマップ・マスター講座Jという名

称で実施されている講座。本来であれば 1日 (6時間程度)で,マインドマップの基礎及び原

理・原則を学ぶことができる内容となっているが,今回の実践では,授業時間に合わせて 4回

に分けて実施した。

19) 斎藤孝『偏愛マップーキラいな人がいなくなるコミュニケーション・メソッド~ ,NTT出版,

2004

20)日本ユネスコ圏内委員会によれば,持続発展教育 (ESD)は,その目標を,持続可能な発展のた

めに求められる原則,価値観及び行動が,あらゆる教育や学びの場に取り込まれること,すべ

ての人が質の高い教育の恩恵を享受すること,環境,経済,社会の面において持続可能な将来

が実現できるような価値観と行動の変革をもたらすことの 3点とする。 2002年に開催された

“持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスプルグサミット)"の実施計画の議論の中

で,わが国は, r持続発展教育 (ESD)の10年Jを提案し,各国の政府や国際機関の賛同を得て,

実施計画に盛り込まれることになったもので, 2005年からの10年間は, rESDの10年Jとされて

いる。 ESDの目標は,持続可能な社会づくりのための担い手づくりであり, ESDの実施には,特

に次の2つの観点が必要であるとしている。①人格の発達や,自律心,判断力,責任感などの人

間性を育むこと②他人との関係性,社会との関係性,自然環境との関係性を認識し, r関わ

りJ, rつながり Jを尊重できる個人を育むこと。また,内容は,国際理解教育,世界遺産・

地域遺産学習,人権教育,エネルギー教育,環境教育など多岐にわたる。

21) 渋谷文武『マインドマップ内定術~,日本経済新聞出版社, 2010

22)高橋政史『マインドマップ問題解決 f らくがき j で劇的に身につくロジカルシンキング~ ,ダ

イヤモンド社, 2009

上記以外に,実践する上で以下の文献を参考にした。

(1)谷津潤『プレインダンプ 必ず成果が出る驚異の思考法~ ,東洋経済新聞社, 2010

(2) 川喜多二郎『発想法~ ,中公新書, 1967

時,q,“

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(3) 川喜多二郎『続発想法~ ,中公新書, 1970

(4) 萩原京二,近藤哲生『マインドマップ資格試験勉強法~ ,ディスカパートウエンティーワ

ン 2009

(5) トニー・プザン著 神田昌典監修 近田美季子訳『仕事に役立つマインドマップ~ ,ダイヤモ

ンド社, 2008

(6) TONY BUZAN “How to Mind Map The ultimate thinking tool that will change your

life" ,Thorson, Harper Collins Publishers Limited,2002

(7) トニー・プザン著,近田美季子監訳『マインドマップ記憶術~ ,ディスカパートクエンティー

ワン, 2009

(8) トニー・プザン著,田中孝顕訳『これが教育マインドマップ放射思考だ~ ,騎虎書房, 1996

(9) トニー・プザン箸,田中孝顕訳『どんどん右脳が目覚める不思議なノート法~ ,きこ書房, 2003

(10)今村光章『アイスプレイク入門 心をほぐす出会いのレッスン~ ,解法出版社,2009

(11)加藤昌治『考具一考えるための道具,持っていますか?~ ,阪急コミュニケーションズ, 2003

(12)ジェームズ・ w・ヤング著 今井重雄翻訳『アイデアのっくり方~ ,阪急コミュニケーション

ズ, 1988

(1 3) 後藤和宏『図解入門よくわかる最新「脳J の基本としくみ~ ,秀和システム,2009

(14)サンドラ・アーモット,サム・ワン著 三橋智子訳『最新脳科学で読み解く脳のしくみ~ ,東

洋経済新報社,2009

【資料 1)語黛記憶テストの問題

問 l次の言葉をマインドマップを使って覚えましょう。 (5分間)

ホタル/ふともも/しゃみせん/セーター/ヤナギ/エアコン/ふくらはぎ/

テントウムシ/れいぞうこ/スギ/ハエ/めだか/太陽/イチョウ/バイオリン

たいこ/つまさき/ひざ/トースター/カメラ/ピアノ/ドライヤー

コオロギ/テレビ/かかと/ポプラ/ギター/マツ/つぼめ/カマキリ

問2覚えた言葉のうち、 『虫j を表わす言葉を五つ書きましょう。

問3覚えた言葉のうち、 f木j を表わす言葉を五つ書きましょう。

問4覚えた言葉のうち、 f足の部分Jを表わす言葉を五つ書きましょう。

問5覚えた言葉のうち、 f楽器Jを表わす言葉を五つ書きましょう。

閑6覚えた言葉だけが書かれているものを選ぴ、番号を書きましょう。

(1) テントウムシホタル っちふまず ふえ テレピ

(2) スギ パッタ ポプラ かかと ドライヤー

(3) つまさき サクラ ふともも バイオリン せんたくき

(4) /、ごE スギ ひじ ギター 太陽

(5) セーター コンノミス ヤナギ しゃみせん /{ソコン

(6) えんびつ カメラ れいぞうこ マツ イチョウ

(7) たいこ コオロギ めだか ひざ エアコン

(8) つばめ カマキリ すずめ 太陽 トースター

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