エステートプラン - wealthmanager.jp ·...
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2012 年
9 月 Vol.3
エステートプラン
戦略的資産管理の実践
■公益財団法人証券アナリスト協会
第6回プライベートンキングセミナー開催報告
■第一回ファミリーオフィス実践研究会開催
■Wealth Management Workstation 簡易版のご紹介
■資産運用に関するリターン分析
- AIJ 問題をいかに防止するか
■今月の必読書「When Family Businesses are Best」
■WMW だより
1
3
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7
10
11
Ⅰ. 日本証券アナリスト協会
第 6 回プライベートバンキングセミナー開催報告
~ ファミリーオフィスビジネス市場の創造 1 ~
■ セミナー概要
9 月 4 日、公益財団法人日本証券アナリス
ト協会の主催で第 6 回プライベートバンキン
グセミナー -プライベートバンカーのための
理論と実践- が開催された。
日本において金融資産運用、資産の保全と
次世代への円滑な継承などプライベートバン
キング(以下PB)に対するニーズが拡大、高度
化する環境のもと、日本証券アナリスト協会
が教育プログラムの整備を進めており、その
一環としてPBセミナーが毎年開催されている。
また、2013 年以降にPBコーディネーター、プ
ライマリーPB、シニアPB、エグゼクティブPB
など段階別に資格が創設される予定とのこと
である。(詳細は日本証券アナリスト協会ホー
ムページ www.saa.or.jpをご参照)
今年の PB セミナーは 50 名超のプロフェッ
ショナルが参加され、約 7 割が金融機関とそ
の関連職員の方々、残りの皆様は会計士・税
理士、FP、弁護士といった構成であった。
今回はプライベートバンカーとして理解し
ておくべきファミリーオフィスに関する最新
知見と実例ということで、ファミリーオフィ
スに焦点が当たっていた。キャピタル・アセ
ット・プランニングはケーススタディの提供
とモデレーターとしての役を担当した。午前
中は株式会社グローバル・リンク・アソシエ
ーツ代表取締役でファミリービジネス学会理
事である米田隆氏と小谷野公認会計士事務所
所長の小谷野幹雄会計士よりレクチャーが行
われ、午後は弊社より「同族会社経営のため
のファミリーオフィスを活用して事業承継、
財産承継対策」を内容とするケーススタディ
を提供した。ここではセミナー内容をご紹介
したい。
■ ファミリーオフィス実務家の知見
セッション 1 での米田隆氏のレクチャーで
は、なぜ多くの富裕層一族が三代で資産を失
うかについて構造的課題について言及がなさ
れた。本冊子エステートプラン創刊号でも紹
介させていただいた、James E. Hughes,JR の
「Family Wealth」にある「A family’s wealth
consists primarily of its human capital and
its intellectual capital, and secondarily
its financial capital.」という一節を引用
し、一族の富は主に人的資本(一族の構成員)
及び知的資本(一族全体のノウハウ、知財)に
よりなり、金融資本は副次的なものに過ぎな
いという哲学を紹介された。一族が資産を失
うのは、高い相続税のみが要因ではない。む
しろ、人間の生きる目的や能力の活用こそが
富の源泉であり、その効果的、効率的な活用
を図るファミリーガバナンスの欠如などが資
産を失う要因となるとの認識である。また副
次的といわれる資産運用でも、多くが一人の
人生で見た運用期間(20~30年)を念頭におい
た資産保全を行っており、数世代を視野に入
れた 100 年単位での運用期間での資産承継策
は考えられていないという問題が指摘した。
米国の事例では、ファミリーオフィスは伝
統的に資産運用、財務管理報告に加え、富裕
層の関心の高い慈善事業の支援や一族経営を
サービスとしてカバーしてきているという。
今後の課題として、人的資本、知的資本を含
む総合資産管理、損害保険、生命保険を活用
する総合的リスクマネジメント、オフショ
ア・ソリューションなどへの対応が求められ
ているとの考えである。
セッション 2 では、小谷野会計士より、ご
自身の経験に基づいた日本でのファミリーオ
フィス実務の実態が紹介された。日本では、
ファミリー資産を金融資産、不動産、絵画骨
董等伝統的資産のみを対象にしがちで、ファ
ミリーガバナンスなどは定着した実務はない
と感じておられる。家族理念、家訓(ファミ
─ 1 ─
リーミッションステートメント)などをつく
るケースは少なく、次世代に引き継ぐ仕組み
が少ないというご指摘であった。
お二人ともシングルファミリーオフィス(1
つのファミリーのための専用オフィス)を前
提としたお話であった。共通していることは、
ファミリーオフィスを定性的な観点から評価
していたことである。金融資産などの目に見
える資産の承継にのみ集中することなく、そ
の基礎となる人的資本、知的資本の重要性に
言及されており、日本のファミリーオフィス
では十分なケアとサービスが行われていると
はいいにくい状況であるということである。
また、ファミリーガバナンスの重要性も共通
していた。
但し、ガバナンスといっても注意が必要で
はないか。2005 年の会社法改正に伴い、英米
色が濃いコーポレートガバナンスが日本に導
入されたが、英米型のガバナンスを導入した
企業の多くが、業績不振に陥っていることは
記憶に新しい。日本人にとって内部統制、文
書化、ルール明確化といっても、理解はでき
るが、居心地の悪さ、違和感を感じることが
多いのではないか。ファミリーガバナンスで
も同様と想定され(特に富裕層の多くを占め
る非上場会社ファミリーのガバナンス)、欧米
にある実務をいかに日本人ファミリーの心情
に合せ、実効的な仕組みにしていくかが大き
な課題と感じた。
■ 日本版ファミリーオフィスの実現
セッション 3 では、午後 4 時間を使って、
弊社によりケーススタディを提供した。午前
の定性的内容に対してケースを活用した定量
的分析とした。ケースは、資産規模が 25 億円
程度の中堅企業オーナーが事業承継、財産承
継に悩んでおり、金融機関に所属するプライ
ベートバンカーに相談。プライベートバンカ
ーが、資産保有法人の設立、日本版ファミリ
ーオフィスを提案するというもの。資産保有
法人設立に当ってストラクチャー(合同会社
か株式会社か)の選択や留意点、設立した場
合の効果(資産保有会社の自社株評価、所得
分散による節税効果)などをグループディス
カッションにより検討していくというものだ
った。よって、プライベートバンカーや会計
人によるマルチファミリーオフィスの運営、
非上場会社ファミリーをイメージしたものと
なっている。
弊社北山よりケース概要の説明を行った後、
参加者を6つ(1グループ当り 8~9名)に分
グループ別にクライアントへの提案をプレゼ
ンテーションしていただいた。
<プレゼンテーション後の板書と講評の様子>
参加者の声を伺うと、「合同会社を使うスキ
ームは新鮮だった」、「合同会社に関する論点
がよく整理されていた」といったコメントが
あった一方、「事前にケースに目を通すなど準
備の時間がなく、当日の内容がかなり難しか
った」等のご意見をいただいた。今後とも我
国における PB セミナーの最高のケーススタ
ディを提案していく所存である。
■ 研修等を通じたファミリーオフィ
スビジネス市場の創造
弊社では、総合資産管理ツール(Wealth
Management Workstation)の提供によりファ
ミリーオフィスビジネスをご支援させていた
だいております。さらに、今回の日本証券ア
ナリスト協会でのセミナーのご支援、あるい
はファミリーオフィス実践研会の運営、専門
書の出版などにより、実務家のベストプラク
ティスをケーススタディ等を通じて共有化、
理論体系化を行い、ファミリーオフィスビジ
ネスに参加される会計人、プライベートバン
カー、FPの皆様を増やし、市場を創造して
参る所存です。今回のセミナーで明らかにな
った通り、知的資本や人的資本などを含めた
総合資産管理、ファミリーガバナンスの設計、
実施などは実務も定着していない状況です。
こういった分野についても、弊社もプロフェ
ッショナルネットワークの中で、標準化、体
系化を図り、研修やセミナーの形で知見を市
場に発信してまいりたいと考えております。
弊社とのネットワークの強化をご検討たまわ
れますようお願い申し上げます。(神棒 信彦)
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Ⅱ. 第1回ファミリーオフィス実践研究会開催
~ ファミリーオフィスビジネス市場の創造 2~
■ ファミリーオフィス実践研究会が
始動
エステートプラン第2号にてご紹介した通
り、弊社主催の第 1 回ファミリーオフィス実
践研究会を六本木ヒルズクラブにて開催させ
て い た だ い た 。 Wealth Management
Workstation 上級版ユーザー様を中心に 23名
の参加をいただいた。
<研究会の様子>
最初に、弊社北山より、「ファミリーオフィ
ス概論」として、ファミリーオフィスをめぐ
<日本版ファミリーオフィスのイメージ>
る経済、税務環境、海外事情、合同会社を活
用した資産保有会社の設立、設立に当っての
留意点、合同会社を活用した日本版ファミリ
ーオフィス像などが紹介させていただいた。
弊社は、金融資産数十億円以上の超富裕層
をクライアントとして抱え、マルチファミリ
ーオフィスを運営しており、その際の実務上
の課題を指摘した。
その後、永田町ファミリーオフィス代表で、
NPO 日本ファミリーオフィス協会代表理事の
相山豊氏より「欧米型とは違う日本型ファミ
リーオフィスの役割と成功への条件」を講義
いただいた。
欧米のファミリーオフィスはトラストなど
を活用した金融資産の運用、管理が中心であ
るのに対し、日本型は「株」にまつわる相続・
事業承継などの家族の問題のウエートが高い
のが特徴という。これらを扱う税理士や弁護
士は少なく、相談する側も報酬を払う習慣も
ないのでうやむやになってしまうという。
多忙な富裕層は時間がないため、ファミリ
ーオフィスにとって重要なのはワンストップ
での提供を実現すること、そして家族の問題
(医療、結婚、教育)といった「非金融サービ
ス」提供が重要とのお話であった。
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<相山氏によるプレゼンテーション>
また、ご自身がハーバードやエール大学に
留学した経験から富裕層とのネットワークを
形成し、富裕層の考え方を知る上で、欧米へ
の名だたるビジネススクールへの留学が有効
であるとのコメントもあった。
続いて、生田・名越・高橋特許法律事務所
代表の名越秀夫弁護士より、「法人格の選択と
合同会社の活用」というタイトルで主に株式
会社と合同会社の特徴を法的な面から解説い
ただいた。まず、株式会社、合同会社、合資
会社、合名会社の制度比較を行った。合同会
社は有限責任で、現物出資が容易、内部自治
範囲が大きいが、加入と脱退には全社員の一
致が必要であり、ファミリーオフィスの設立
に当っては、相続の場合の持分の承継、社員
退社など定款で十分想定しておく必要がある
との解説があった。さらに社員退社の場合の
持分払戻しの場合の留意点などの説明があっ
た。
<名越弁護士による解説>
名越弁護士の講義は先述の日本証券アナリ
スト協会のプライベートバンキングセミナー
での記事でご紹介したファミリーガバナンス
と密接に連動する分野である。会社法体系を
踏まえて、日本独自のファミリーに関する思
い、知恵を組み込み、ファミリーガバナンス
をいかに設計するかが極めて重要なプロセス
であると考えた。今後実践と体系化を進めな
ければならないという思いを強くした。
講義のあと、同じく六本木ヒルズクラブで
懇親会を開催し、ネットワーキングの機会を
提供させていただいた。六本木ヒルズからの
きれいな夜景を堪能しつつ、夜遅くまで歓談
が続いた。
■ 第 2 回以降もご期待を
第 2 回研究会は、10 月 11 日に弊社オフィ
スのある平河町森タワー24F スカイラウンジ
にて開催いたします。次回は、司法書士法人
飯塚リーガルパートナーズの飯塚貴規司法書
士より、「合同会社の定款の書き方」、弊社 磯
浩之税理士より不動産運用の留意点を解説す
る他、ケーススタディを実施いたします。ケ
ーススタディは、外資系製薬会社の経営に成
功し、資産 25 億円を形成し引退した元経営者
が、次世代への資産承継に悩んでおり、ソリ
ューションを提案するという内容となってお
ります。
また、第二回以降も 2 カ月半に 1 回程度の
開催を予定しており、ファミリーオフィスに
おける金融ポートフォリオ、保険活用、海外
移住などに関するトピックを提供して参りま
す。また、欧米のファミリーオフィスに関す
る団体との知識、人材交流を行い、欧米ファ
ミリーオフィス参考とした日本型ファミリー
オフィスをさらに研究して参ります。 ファミリーオフィス実践研究会は、参加の
皆様の実践的なソリューション提供を考える場として、専門知識習得の場として、さらには知的刺激の得られるネットワーキングの場として機能し、ファミリーオフィスビジネス市場を創造したいと考えております。当冊子をお読みの皆様でファミリーオフィスビジネスに興味のある方のご参加をお待ちしております。
<第 1 回ファミリーオフィス実践研究会で
お示しした研究会のミッション>
個人資産の最適な配分とファミリービジネス
の円滑な承継、後世代への不安無き移転を約
束し、永代にわたる、その御家族のファミリ
ーミッションの実現をアセットマネジメント、
タックスマネジメントを統合しながら支援す
る。
(神棒 信彦)
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Ⅲ. Wealth Management Workstation 簡易版のご紹介(10 月 1 日リリース)
弊社が満を持してリリースする WMW 簡易版は、上級・中級ユーザー各位には追加コストや手
続を要さずご利用いただける。本稿ではWMW簡易版の機能と具体的な活用シーンをご紹介する。
■ 「見えざる債務」の「見える化」
「見えざる債務を『見える化』しましょう。
あなたの財産は誰のもの?」これは弊社の北
山がセミナーで必ず申しあげる言葉だ。ロー
ンや借入金等の債務は可視化されているが、
未払相続税や代償交付金等の「見えざる債務」
を「見える化」して初めてクライアントと課
題を共有化できる。WMW 簡易版は「見えざる
債務」の「見える化」を Simple に実現する。
■ WMW 簡易版の機能
① 入力画面(11 月上旬リリース予定)
簡易入力は「ダッシュボード」で選択可能
で、「ご家族情報」→「ファイナンシャルゴー
ル」→「リスク許容度診断」→「保有金融資
産」→「その他資産」という画面遷移だ(図
1参照)。1画面の入力時間はものの数分だ。
② 出力帳票(10 月 1日リリース)
WMW簡易版から出力されるA3帳票3頁の「総
合資産管理分析」にはクライアントの資産概
要が簡潔に記載される(図 2参照)。
〔1頁目〕
「ご家族の状況」「ファイナンシャルゴール」
「家計貸借対照表」「金融ポートフォリオ分析」
「生命保険分析」「個人年金保険分析」が記載
される。中でも「家計貸借対照表」は家族の
資産構成や相続税納税可否を一目で把握でき、
ビジュアルな訴求力の高さはコンサルティン
グのファーストステップにうってつけだ。
〔2頁目〕
「相続財産および相続税に関わる分析」「相
続人別納税可能性分析」「診断結果」が記載さ
れる。中でも各相続人の相続税納税可能性を
分析する「相続人別納税可能性分析」は相続
人毎の対策要否を一目で訴求可能だ。
〔3頁目〕
WMW に登録されたクライアントの資産明細
である「保有財産明細」が記載され、各資産
毎の対策をクライアントと話し合う際の基礎
データとして活用可能である。
■ WMW 簡易版の活用シーン
① 新規顧客開拓ツールとしての WMW 簡易版
顧客からアプローチ段階で資産詳細が開示
されることは稀で、提案の糸口すら掴めない
という苦い経験をお持ちの方も多いだろう。
WMW 簡易版を活用すれば、アプローチ段階で
把握できる概要だけで課題抽出でき、顧問契
約や生保・投信等の商品の成約に至るコンサ
ルティングプロセスをごく自然に作り出せる。
② 既存顧客深耕ツールとしての WMW 簡易版
例えば法人取引はあるが個人取引はないク
ライアントについて、個人開拓に WMW 簡易版
は非常に有効だ。新規顧客と同様のアプロー
チで WMW 簡易版を活用すればごく自然に個人
開拓でき、会計事務所の顧問料アップや FP・
PB の生保・投信等の拡販につながっていく。
③ 簡易版が創出するコンサルティング
プロセスの永続性
WMW 簡易版が浮彫りにする財産承継・事業
承継に関わる課題は、クライアントファミリ
ーの存続につながる課題だ。WMW 簡易版は WMW
ユーザー各位がクライアントファミリーと長
いお付き合いをされていく入り口となり、将
来的な相続税申告業務や次世代との取引開拓
へつながっていくであろう。
■ まとめ
WMW 初級ユーザーにおかれてはぜひこの機
会にアップグレードして WMW 簡易版をご活用
頂きたい。また、次号以降で WMW 簡易版の具
体的な活用事例をご紹介させていただく予定
だ。楽しみにして頂きたい。 (星野 健)
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(図 1)簡易版入力画面
(図 2)簡易版出力帳票「総合資産管理分析」
〔3 頁目〕〔1 頁目〕
〔2 頁目〕
Ⅳ. 資産運用に関するリターン分析
- AIJ 問題をいかに防止するか
■ AIJ 投資顧問年金消失事件
2012 年初頭に発覚した AIJ 投資顧問の年
金消失事件は記憶に新しい。AIJ 投資顧問は
厚生年金基金等顧客から投資一任勘定で預
かっていた年金資産等約 1,472 億円の資産
運用に失敗、資産残高は 251 億円へ減少、
その大半を失っていた。にもかかわらず、
顧客には虚偽の運用成果を報告し続けた。
リーマン・ショックのあった 2008 年度も運
用成績は+7%強、過去 10 年間 10 連勝で累
積リターンは 245%としていた。さらに監督
官庁にも虚偽の運用報告書、事業報告書を
作成、提出していた。2012 年 3 月、証券取
引等監視委員会はその検査結果をもとに
AIJ 投資顧問に対する行政処分を要請し、7
月に金融商品取引法違反、投資一任契約の
締結に係る偽計の嫌疑で、AIJ 投資顧問及び
関係者は東京地検に告発されることとなっ
た。
同様の証券事件は米国でも発生している。
もと米国 NASDAQ 市場の元会長であった“バ
ーナード・マドフ”氏の運営するヘッジ・
ファンド“バーナード・マドフ証券”は、
年 10%を超える卓越した運用成績から事業
は順調に拡大を続ける。しかしながらその
実態は顧客からの資金を運用に回さず、配
当や償還に当てる自転車操業による古典的
なポンジー・スキーム(ねずみ講)の証券
詐欺であった。
<マドフ事件>
(出典:Bloomberg, マドフ氏は禁固150
年の刑で現在服役中)
2008年70億ドルの大口の解約に応じる
ことができず事件が発覚。損失額は 650
億ドル(約 5 兆 2,000 億円)に上る史上最
大規模の証券詐欺事件となる。これら不祥
事から米国では 2010年に米国金融安定回復
法(ドット法)でヘッジ・ファンドへの登
録規制の導入、顧客資産保護の強化等の規
制が導入されることとなった。
■ 注目される Returns-Based Style
Analysis
AIJ 年金消失事件を受け、監督官庁は運用
のチェック体制やディスクロージャーなら
びに不正行為へ罰則を今後強化するなど規
制、監督の強化を決定した。しかし、運用
委託側である年金基金など顧客が、投資顧
問や運用会社、あるいはヘッジ・ファンド
はどのように運用しているのか、運用状況
を正確に把握できるかという問題は残って
いる。運用報告書などの書面を基に判断す
るのであれば、その分析は運用会社の発信
する情報に完全に支配されることになる。
また書面が交付される前、期中どのように
運用を行っているかは運用会社から説明が
ないと推定が難しい。このような状況のも
とで、年金基金や投資家が投資顧問や運用
会社の資産運用状況を把握するのに役立つ
と考えられるのが Returns-Based Style
Analysis(以下、簡略化して「リターン分析」
と呼ぶ)である。リターン分析はファンドの
値動きにより、ファンドが投資しているア
セット・クラスやスタイルを推計、ファン
ドを「見える化」する、という機能を持つ
からである。
① リターン分析とは何か
リターン分析はファンドの値動きとベン
チマーク・インデックス(評価の基準とな
るインデックス、東証株価指数など)の値
動きとを比較し、ファンドがどのような運
用をしているか、投資スタイルを推定する。
ここでいうファンドの投資スタイルとは、
例えば株式では成長株や割安株、大型株や
小型株などである。
成長とは、市場より高い成長率が予想さ
れ、株価上昇によるリターンの獲得が可能
な株式で、増収率、増益率、予想成長率等
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の成長性を示す指標が高い銘柄である。一
方、割安は株式のバリューに投資する。割
安は PER や PBR が低い、あるいは配当利回
りが高い銘柄である。
また下記の通り“小型成長”や“大型割
安”など、「成長」、「割安」に加えて、「大
型」「小型」の企業規模を組み合わせるケー
スも多い。企業規模によりリターンやリス
クの特性が異なるためである。
<投資スタイル:
規模と成長/割安の組み合わせ例>
規模 成長/割安
Value Large
Growth
Value Mid-small
Growth
Value Small
Growth
Value Prime
Growth
各投資スタイルのベンチマーク・インデ
ックスとしては、Russell/Nomura 日本株イ
ンデックスなどがある。
( http://qr.nomura.co.jp/jp/frcnri/ind
ex.html)
<Russell/Nomura 日本株インデックス
長期推移イメージ>
分析するファンドの値動きと、投資スタ
イルを示すベンチマーク・インデックスの
値動きを比較、ファンドの投資スタイルを
推定する。リターン分析によりファンドが
投資するアセット・クラスや投資スタイル
を推計、ファンドを「見える化」する。
リターン分析の計算手法
Rt ファンドの t 期のリターン
Rat 投資スタイルaインデックスのt期のリタ
ーン
Rbt 投資スタイルbインデックスのt期のリタ
ーン
Rct 投資スタイルcインデックスのt期のリタ
ーン (以後 d, e ・・・・)
βa 投資スタイル aインデックスへの感応度
βb 投資スタイル bインデックスへの感応度
βc 投資スタイル bインデックスへの感応度
et t 期の残差項
Rt=βa・Rat+βb・Rbtt+βc・Rct+et
βa+βb+βc=1
制約条件
(1) アセット・クラスのウエイトはプラス
である。すなわち空売りはない。
(2) アセット・クラスのウエイトの合計は
1である。
上記の制約条件を満たしながら、etを
最小化するβa、βb、βc を求める
② ファンダメンタル分析との比較
ファンドの分析にはファンダメンタル分
析という手法がある。リターン分析との違
いは何であろうか。ファンダメンタル分析
はファンドの目論見書や運用報告書などか
らファンドを分析する。ファンダメンタル
分析ではファンドの分析に係る情報を運用
会社に依存することになる。またファンダ
メンタル分析ではファンドに組み入れられ
た個別銘柄を個々に調査するなど分析に時
間とコストが必要である。一方、リターン
分析では個々のファンドとベンチマークの
リターンからファンドとベンチマーク・イ
ンデックスとの感応度を計算すればよいた
め、分析は低コストで可能である。リター
ン分析では運用会社の情報に完全に依存す
ることなく、投資信託の運用方針や運用ス
─ 9 ─
─ 9 ─
タイルに一貫性があるかを調査できる。
リターン分析は、ファンドの運用結果と
いう外見から、実態的にどのように運用さ
れているかを推定する。ノーベル経済学賞
を受賞したウイリアム・フォーサイス・シ
ャープは、リターン分析について、「If it
acts like a duck, assume it’s a duck.(あ
ひるのようにふるまうものは、あひると推
定する) 」と述べている。つまりリターン
分析は、「あひる」と判断するに十分な特徴
があるかを見て、「あひる」であることを推
定する。一方で、ファンダメンタル分析は、
上記の例であれば、ある生物を解剖し、そ
の DNA を解析して「あひる」であることを
突き止めるということになる。
③ リターン分析の活用
このリターン分析を活用してヘッジ・フ
ァンドや年金を分析しようという動きが進
んでいる。投資信託は不特定多数の投資家
から資金を集めるのに対して、ヘッジ・フ
ァンドは特定少数の大口投資家から資金を
集めており、ヘッジ・ファンドに運用資金
を委託しているのは、主として大手金融機
関や年金基金、超富裕層の個人の資産家な
どプロの投資家が主体である。このため、
投資信託では個人投資家を保護するため、
細かい規制が設けられているのに対して、
ヘッジ・ファンドに対する規制は一部のフ
ァンドに対する登録義務などを除いてほと
んどない状況である。情報が限られている
場合、リターン分析は投資家にとって実務
的なツールとなりうる。
前出のマドフ事件では“Fairfield Sentry
Fund”を Markov Processes International
社がリターン分析を行ったところ、①同フ
ァンドの値動きは同様のストラテジーを使
うファンドの値動きと全く異なる結果であ
ったこと、②同ファンドの値動きはマドフ
氏が公表していたオプションの売買手法と
は全く逆のポジションを取った場合の値動
きに近いこと、③同ファンドの値動きは
2006 年にパフォーマンス・データ捏造など
証券詐欺により検挙されたヘッジ・ファン
ドの“Bayou Fund”の値動きときわめてよ
く似ていること、などが判明、報告されて
いる。このようにリターン分析はファンド
が、運用計画通りに運用されているか、そ
の運用戦略を感知し、マネジャー選択やコ
ンプライアンスの一助となる。
■ ヘッジ・ファンド詐欺事件や AIJ
年金消失問題から何を学ぶか
そもそもマドフ氏の“Fairfield Sentry
Fund”の 2008 年までの 20 年間のリターン
は年 12%、リスク(標準偏差)9%(S&P のリタ
ーンは 9%、リスク 14%)と安定的に良すぎ
たうえ、マドフ氏の大規模なファンドでは
同氏の言うオプションのポジションを取る
のは極めて困難であった。AIJ 年金消失問題
でも同様だが、投資の世界でも、①怪しい
話、おいしい話には気をつける、②理解で
きないものに投資しない、③集中投資しな
い、④リターンをむやみに追及しない、⑤
損を取り戻そうと向きにならないなど投資
以前の常識が肝要となろう。
リターン分析だけではどのような運用が
行われているかを断言することはできない
が、リターン分析を活用すれば、ファンド
や運用者の動きを理解し、パフォーマンス
を推測し、リスクを感知することが可能に
なる。マネジャー選択やコンプライアンス
で重要な役割を果たすと考えられる。
(大平 浩司)
<ご参考文献>
Lori Lucas and Mark W. Riepe. (1996) The
Role of Returns-Based Style Analysis:
Understanding, Implementing, and
Interpreting the Technique
Michael Marcov, (2008) Madoff: “A Tale
of Two Funds”, MPI Quantiative Research
Series
Ⅴ. 今月の必読書『When Family Businesses are Best』
● この本は、2 人の実
務家であり、理論家の
共著である。
1 人がロナルド・カー
ロック。彼は、現在世
界で最高のビジネスス
クールと言われるフラ
ンス インシアードで、
ファミリー企業の分析
を専門に行うワンデル
国際センターの教授である。また、NASDAQ の
上場企業の創業者であり、ファミリービジネ
スに関しては世界でも最も高名な実務家であ
り、啓蒙家と言える。もう 1 人の著者である
ジョン・ワードは、ケロッグマネジメントス
クールのファミリー経営センターの教授であ
り、ファミリー企業の戦略管理、リーダーシ
ップ、ファミリーの承継戦略について教鞭を
ふるっている。この 2人は、前著 ”Strategic
Planning for the Family Business”におい
て、ファミリービジネスの数世代にわたる繁
栄のために「家族の戦略と事業戦略」の明確な
峻別が必要であり、2つの異なる戦略を早い
段階から計画すべきことを表した。その際、
「Parallel Planning Process」即ち、ファミリ
ーとビジネスの並行的な計画と実行がファミ
リービジネスの継続性に不可欠な要素である
と述べた。今回の 2 人の新著「When Family
Businesses are Best 」 は 、 副 題 を 「 The
Parallel Planning Process for Family
Harmony and Business Success」とし、ファミ
リーとその同族が経営する企業において、同
時に実行すべき課題を 5 つのプロセスにおい
て具体的に記述した。
● STEP1「家族の価値観と企業文化」は、洋の
東西を問わず、すべての創業家の文化は、創
業家の信念と経験、目標を反映した価値認識
から生み出されたものである。その創業家の
価値認識を明確に定義することが、ファミリ
ーと企業の繁栄の第 1 ステップであるという。
創業家の価値認識がビジョン、戦略、投資、
統治というそのあとに続くプロセスに最も重
要な影響を与える。そして創業者の価値認識
が同族企業の将来の成功にいかに貢献できる
かを決定することになる。一方、企業文化は
従業員を意識付け、企業の戦略を支援する行
動規範を作り出すことになる。従って、創業
家の価値認識と企業文化の創造が、企業をさ
らに強化し、創造性と企業家精神を持ち続け
るための基礎となる。
● STEP2「ファミリービジョンと企業ビジョン」
創業家がファミリー内で、かつ事業に対して
ビジョンを共有化させることが次のステップ
である。事業ビジョンとファミリービジョン
は異なる可能性があり、事業のビジョンは、
例えば 10 年後の売上、利益、市場シェア等、
定量化できるものである。一方、ファミリー
のビジョンとは、創業家が事業の成功に対し
てどのように貢献できるか、そして将来の企
業の戦略や投資に対して明確なガイドを与え
ることである。
● STEP3「創業家の参加戦略と事業戦略」
この著書では、創業家の複数世代にわたって
事業への参加戦略が一番困難なテーマと述べ、
ファミリーと企業で軋轢が発生することを防
がなければならないと述べている。
● STEP4 では、創業家内の人的資本と企業サ
イドの財務的資本に、いかに投資すべきかを
説明し、STEP5 では、家族の統治はファミリ
ーミーティングとファミリー内で文書化され
た同意書の作成が重要とし、事業の統治は、
取締役会での意思決定をファミリー企業でい
かに行うべきかを記述している。このパラレ
ルプランニングの概念は、我国の同族企業の
多くが長年避けてきた課題を明確に表現する
とともに、事業成長、事業承継、財産承継に
対し、創業家とそのアドバイザーがいかに明
確なソリューションを提供すべきかの大きな
指針になるだろう。 (北山 雅一)
● 2 人の新著では、図 1のようにファミリー
と経営する企業において計画立案されなけれ
ばならない過程を①価値認識 ②ビジョン ③
戦略 ④投資 ⑤統治支配 の5つに区分し、そ
れぞれのプロセスにおいて、家族が考えるべ
き課題と同族企業が対処すべき課題の2つの
側面から記述している。 図1 ファミリーとビジネスのアクションステップ
価値認識価値認識 ビジョンビジョン 戦略戦略 投資投資 統治支配統治支配
家族の価値観
企業文化
家族のビジョン
ビジネスのビジョン
参加戦略
事業戦略
人的資本
財務的資本
家族会議・協定
取締役会の方向性
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Ⅶ.WMW だより
第 2 回 ファミリーオフィス実践研究会
日程:2012 年 10 月 11 日(木)
場所:平河町森タワー スカイラウンジ
第 6 回 WMW ユーザー会
日程:【東京】2012 年 11 月 8 日(木)
【大阪】2012 年 11 月 22 日(木)
ビジネス会計人クラブ 相続・事業承継分科会
日程:【東京】2012 年 11 月 26 日(月)
【大阪】2012 年 11 月 27 日(火)
WMW 定期開催セミナー ※応用セミナーは日本 FP 協会・FP 継続教育単位取得講座となります
日程:【東京】2012 年 10 月 24 日(水) 応用セミナーⅣ(税務)
【東京】2012 年 10 月 26 日(金) 基本操作セミナー
【東京】2012 年 11 月 28 日(水) 応用セミナーⅤ(資産保有会社の活用による相続税の圧縮)
【東京】2012 年 11 月 30 日(金) 基本操作セミナー
エステートプラン 2012 年 9 月 Vol.3
著作者/発行者:株式会社キャピタル・アセット・プランニング
執筆責任者:神棒 信彦
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