欧州ユーティリティー企業の 上流進出...vorkuta labytnangi salekhard berezovo...

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67 石油・天然ガスレビュー じめに ヨーロッパのユーティリティー企業 (電力・ガス企業)は、欧州委員会(EC: European Commission)による欧州連合 (EU:European Union)域内の電力・ガ ス市場の統合および自由化指令を受け、 激化すると予想される域内競争に対応す べく、さまざまな対応を図ってきた。企 業合併による大型化とともに、事業の利 益性を向上させるため、多くのユーティ リティー企業が上流事業に乗り出し、油 ガス田等の上流権益に対して出資するだ けでなく、企業によっては油ガス田のオ ペレーターとして事業をリードし、ガ ス・原油の生産物を確保するケースも挙 げられる。 今回は、二つのドイツ企業に焦点を当 て、欧州最大のユーティリティー企業で あるE.ONとRWEについて、その上流事 業戦略と経営に対する効果・影響をまと める。 1. E.ON (1)E.ONの上流事業への取り組み E.ON設立時の上流事業(2000~2002年) E.ONは、欧州最大のユーティリ ティー企業で、2011年の電力販売量は1 兆1,448億kWh、ガス販売量は1,512億m 3 (1兆7,181億kWh)である。 E.ONは、2000年にVEBAとVIAGの 合併によりドイツ最大の電力・エネル ギー企業として発足した。 上流事業については、前身である VEBAのグループ企業VEBA Oel(石 油化学企業)が上流権益を保有し、合 併直前の1999年には、英国、エジプト、 リビア、オランダ、ノルウェー、イン ドネシア、ベネズエラ、シリアに権益 を保有、原油・天然ガスの生産・販売 を行っていた。1 9 9 9年の生産量は原油 5,240万バレル、天然ガス12億m 3 (780万 boe (barrel of oil equivalent))で、原 油に重点を置いていた(原油比率:約 87%)。 VEBA Oelは、E.ON設立時の方針 である「コア(核)ビジネス(電力・ガス 供給事業)に集中し、非コアビジネス から投資撤退する」という方針の下、 その事業は非コアビジネスと位置付け 欧州ユーティリティー企業の 上流進出 ― その戦略と実績 ― (ドイツ:E.ON/RWE) ○ドイツの2大ユーティリティー企業であるE.ON、RWEは、発電・電力供給/天然ガス供給をコア事 業とする企業であり、特にE.ONは欧州最大のユーティリティー企業である。E.ONとRWEは現在、 従来の中・下流事業(発電・送電・電力販売および天然ガス輸送・販売)だけでなく、上流事業に積 極的に乗り出している。 ○E.ON、RWEの上流事業への進出には、以下の共通した特徴がある。 ①上流事業でのオペレーターとしての関与 上流事業でオペレーターとなるため、核となる上流企業(探鉱・開発企業)の買収を行い、自ら がオペレーターとして事業活動ができる体制を構築している。 ②上流事業の重点戦略地域に類似性がある ・E.ON:英領・ノルウェー領北海、ロシア、北アフリカ(アルジェリア) RWE:英領北海、ノルウェー洋上(北海、ノルウェー海、バレンツ海)、中央ヨーロッパ、 北アフリカ ・今後、より国際的な展開をする動きが見られる。 ③天然ガスに重点を置いた探鉱・生産活動の実施 ④下流事業者としての、原料調達のポートフォリオの一部としての上流事業

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  • 67 石油・天然ガスレビュー

    JOGMEC

    K Y M C

    はじめに

     ヨーロッパのユーティリティー企業(電力・ガス企業)は、欧州委員会(EC:European Commission)による欧州連合

    (EU:European Union)域内の電力・ガス市場の統合および自由化指令を受け、激化すると予想される域内競争に対応すべく、さまざまな対応を図ってきた。企業合併による大型化とともに、事業の利益性を向上させるため、多くのユーティリティー企業が上流事業に乗り出し、油ガス田等の上流権益に対して出資するだけでなく、企業によっては油ガス田のオペレーターとして事業をリードし、ガス・原油の生産物を確保するケースも挙げられる。

     今回は、二つのドイツ企業に焦点を当て、欧州最大のユーティリティー企業であるE.ONとRWEについて、その上流事業戦略と経営に対する効果・影響をまとめる。

    1. E.ON

    (1)E.ONの上流事業への取り組み

    ①�E.ON設立時の上流事業(2000~2002年)   E.ONは、欧州最大のユーティリ

    ティー企業で、2011年の電力販売量は1兆1,448億kWh、ガス販売量は1,512億m3

    (1兆7,181億kWh)である。   E.ONは、2000年にVEBAとVIAGの

    合併によりドイツ最大の電力・エネルギー企業として発足した。

       上流事業については、前身であるVEBAのグループ企業VEBA Oel(石油化学企業)が上流権益を保有し、合併直前の1999年には、英国、エジプト、リビア、オランダ、ノルウェー、インドネシア、ベネズエラ、シリアに権益を保有、原油・天然ガスの生産・販売を行っていた。1999年の生産量は原油5,240万バレル、天然ガス12億m3(780万boe*(barrel of oil equivalent))で、原油に重点を置いていた(原油比率:約87%)。

       VEBA Oelは、E.ON設立時の方針である「コア(核)ビジネス(電力・ガス供給事業)に集中し、非コアビジネスから投資撤退する」という方針の下、その事業は非コアビジネスと位置付け

    欧州ユーティリティー企業の上流進出― その戦略と実績 ― (ドイツ:E.ON/RWE)

    ○ドイツの2大ユーティリティー企業であるE.ON、RWEは、発電・電力供給/天然ガス供給をコア事業とする企業であり、特にE.ONは欧州最大のユーティリティー企業である。E.ONとRWEは現在、従来の中・下流事業(発電・送電・電力販売および天然ガス輸送・販売)だけでなく、上流事業に積極的に乗り出している。

    ○E.ON、RWEの上流事業への進出には、以下の共通した特徴がある。 ①上流事業でのオペレーターとしての関与  ・�上流事業でオペレーターとなるため、核となる上流企業(探鉱・開発企業)の買収を行い、自ら

    がオペレーターとして事業活動ができる体制を構築している。 ②上流事業の重点戦略地域に類似性がある  ・E.ON:英領・ノルウェー領北海、ロシア、北アフリカ(アルジェリア)  ・�RWE:英領北海、ノルウェー洋上(北海、ノルウェー海、バレンツ海)、中央ヨーロッパ、�

    北アフリカ  ・今後、より国際的な展開をする動きが見られる。 ③天然ガスに重点を置いた探鉱・生産活動の実施 ④下流事業者としての、原料調達のポートフォリオの一部としての上流事業

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    られ、2 0 0 2年7月にBPに事業を譲渡し、その際に上流権益がPetro-Canadaに売却された。

    ②�Ruhrgasの買収・合併による本格的な上流事業への進出(2003~2006年)

       現在のE.ONの上流進出は、ドイツを中心に欧州でガス事業を行っていたRuhrgasを2003年1月に合併したことにより開始された。Ruhrgas自身、E.ONとの合併前に既に上流権益の取得に乗り出していたが、主に英領北海での権益取得(1993年:Elgin/Franklin(5.2%)、1998・2002年:Glenelg(約15%)、2002年:Scoter(12%))であり、オペレーターを志向してはいなかった。上流活動を本格化させたのは、200 3年7月、ノルウェーのNjord油ガス田の権益取得以降である。Ruhrgasの合併以降、

    E.ONはRuhrgasを母体にE&P(探鉱&生産)活動を活発化させていく。

       2004年、E.ONは初めてE&Pに関する具体的な目標を掲げ、戦略を立ち上げた。

      a. 英国およびノルウェーでの特定の地域(主に北海)での探鉱・開発・生産に重点を置く。

      b. ロシアでの上流活動の可能性を調査する。

       この一環としてE.ON Ruhrgas E&Pを設立し、E.ONの上流活動を管理・実行させた。2005年に英国の探鉱開発企業Caledonia社を買収し、E.ON Ruhrgas E&P UKとして、英領北海でのオペレーターとしての活動を開始していく。

    ③生産に対する数値目標の設定(2007年~)   2007年以降、E.ONは「ヨーロッパに

    おける天然ガス事業の強化と多様性の獲得のため、E.ON自らが生産するガス生産量を、少なくとも100億m3/年まで拡張する」と言う、具体的な数値目標を設定し、上流事業を展開していく。

       前年の2006年には、オペレーターとして初めて坑井の掘削を開始し、上流事業(特にE&P)への関連を深めていく(2007年生産開始)。更に2008年には、ロ シ ア ・ 西 シ ベ リ ア の Y u z h n o Russkoyeガス田の25%権益を取得し、これが2009年以降、飛躍的にガス生産量を増加させた大きな要因となっている(E.ONは2011年までGazpromの株式を6.4%所有した株主である〈2011年第1四半期に売却〉。これはGazpromとの比較的良好な関係を背景に取得したものであった)。ただし、ロシア産のガスはいったん全量をGazpromに売却しなければならない条件となっており、ガスの直接販売もロシア国内に限定されている。

    (2) E.ONの上流

    戦略

     E.ONの最優先事項は、ヨーロッパにおけるポジションの強化と成長であり、自らのガス生産とLNGをもって、ガス供給者としてのポジションを強化する、としている。上流進出を通じ、天然ガス原料調達先の多様化、エネルギーセキュリティーの確保を目指しており、以下の目標を掲げている。 ・ E.ON自らが生産する天然ガス生産

    量を、少なくとも100億m3/年まで拡大する(目標:北海・北アフリカか ら 最 大 3 0 億 m 3/ 年 、 Y u z h n o Russkoyeから6 0億m3/年、その他ヨーロッパ、ロシア、北アフリカ等からの生産で100億m3/年以上を目指す)。

     ・ 長期的には、自ら生産した天然ガスから、天然ガス供給量の20%を賄う。そのため、ガス供給のポートフォリオを多様化し、強化する。

    対象国

    Production &Development(生産・開発)

    Exploration(探鉱)

    Operator Partner Operator Partner

    英国 ○ ○ ○ ○

    ノルウェー - ○ ○ ○

    ロシア - ○ - ○

    アルジェリア - - ○ ○

    表1 E.ONの上流事業への関与状況(2011年末時点)

    出所:E.ONホームページ

    対象国 E&P実績

    英国 ・30のライセンスを保有、約1/3はオペレーターとして直接活動・英領北海で生産中の四つの油ガス田をオペレーターとして操業

    ノルウェー ・ノルウェー海とノルウェー領北海に約30のライセンスを保有・七つの探鉱ライセンスではオペレーターを務める

    ロシア ・Yuzhno Russkoyeガス田の25%権益を保有(2007年生産開始。E.ONの天然ガス生産量の約85%に相当)

    アルジェリア ・オペレーターとして探鉱活動を実施(陸上鉱区)

    全般・探鉱・評価(Exploration & Appraisal):53ライセンスを保有(14:オペレーター)・開発(Development):6フィールドで開発中(3:オペレーター)・生産(Production):12フィールド(4:オペレーター)

    表2 E.ONのE&P実績(2011年末時点)

    出所:E.ONホームページ

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     ・ 北海(英国、ノルウェー)、ロシア、北アフリカを重点地域として投資・開発を進める。

    (3) 2 0 1 1年末時点でのE&P実績

    (取り組み状況)

     2 0 1 1年現在、E.ONの子会社E.ON Ruhrgas E&Pは北海、ロシア、北アフリカ(特にアルジェリア)を主要ターゲットとして探鉱・開発を行っている。E.ONの上流事業への関与状況を表1、表2にまとめた。 2011年末現在、英国、ノルウェー、ロシアで原油・天然ガス生産を行っており、特に英国ではオペレーターを務めている。また、探鉱活動については、上記3カ国に加え、アルジェリアでも行っており、英国、ノルウェー、アルジェリアでは、オペレーターを務めている。このように近年、オペレーター志向が見られる。 また、LNGに関しては、①現時点で

    Norway & UK* Russia

    Norwegian Sea

    Central North SeaNjord

    Elgin/FranklinScoterWest FranklinMerganserGlenelg

    * Only field in production by the end of 2011, therefore without Skarv-Idun.

    RitaRavenspurn NorthJohnstonCaisterBabbage

    30

    5.2

    5.27.9

    18.6

    12.0

    74.028.850.140.047.0

    Southern North SeaInterest in % Interest in %

    E.ON fields

    VorkutaVorkuta

    LabytnangiLabytnangi

    SalekhardSalekhard

    BerezovoBerezovo

    SveltyorSveltyor

    SerginoSerginoNoyabrskNoyabrsk

    Novy PortNovy Port

    JamburgJamburg

    UrengoyUrengoy

    DudinkaDudinka

    YuzhnoRusskoye

    YuzhnoRusskoye

    NorilskNorilsk

    SurgutSurgut

    Existing pipelinesPlanned pipelinesOther gas fields

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    70

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2011

    生産量

    天然ガス生産量 原油生産量 天然ガス・原油生産量合計

    2001年:天然ガス原油合計のみ※

    2002年:Veba Oel 売却

    2003年:Ruhrgas 合併

    2008年:Yuzhno Russkoyeガス田権益取得

    百万 boe

    図1 E.ONの生産・探鉱地域

    出所:E.ON Facts & Figures 2012

    図2 E.ONの天然ガス・原油生産量(2000~2011年)

    ※2001年の天然ガス・原油別生産量のデータなし出所:E.ON Annual Reportを基に筆者作成

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    はLNG生産に関する権益は所有していないが、アルジェリアで油ガス田の探鉱権益(オペレーター)を持ち、事業の進展いかんでは将来的にLNG事業化も期待される。 一方、下流事業者としては、LNG基地を所有していないものの、ヨーロッパの4基地(英国:Isle of Grain、オランダ:Gate、スペイン:Huelva、Barcelona)に使用権(受け入れ、再ガス化の権利)を保有し、LNGを欧州に持ち込みガス化する輸入者としての、もしくは再輸出等ト

    レーダーとしての要件を備えつつある。 今後、LNGトレーダーとしての動きも注目される。

    (4) 上流事業活動:天然ガス・原油の

    生産量

     2 0 0 3年のRuhrgas買収・合併以降、Ruhrgasが保有していた権益(主に英領北海のElgin/Franklin)からの生産が主であったが、その後も油ガス田の権益取得により、生産量を徐々に伸ばし、2009年以降飛躍的にガス生産量を増加させ

    た。これは、ロシアのYuzhno Russkoyeガス田の25%権益を取得し(Gazprom:50%、Wintershall:25%)、その生産に伴い増加したものである。2011年現在、年間約75億m3の天然ガス生産を行っており、2007年以来目標としている100億m3

    に近づきつつある。一方、長期的にガス供給量の20%を自社生産ガスで賄う、という追加目標もあるが、トレーディングの強化に伴い取り扱い量が増加するなか、その達成は難しいと思われる。 今後も、権益を保有する油ガス田の生産開始が予定されている。100億m3到達後、さらに高い目標を設定するのか、あるいは現状を維持するのか、今後の動きが注目される。

    (5)天然ガス販売量と生産量

     2000年のE.ON設立後の国別天然ガス生産量および販売量・生産量を(図3、図4)に示す。 2003年に天然ガス販売量が飛躍的に増加したのは、Ruhrgasの合併によるものである。また、2010年以降の販売量の伸びは、天然ガストレーディング事業に積極的に取り組み始めたことによる(Trading Unitの設立は2008年)。このトレーディングは、主に欧州の天然ガストレーディング・ハブで天然ガスの購入・売却を行うものであるが、一部LNGを含んでいる。 天然ガス生産量は、2 0 1 1年で7 5億6,000万m3であり、全販売量(1,512億m3)の5%に相当する。割合から見ると少ないようだが、量としては多い。一方で、Yuzhno Russkoyeガス田で生産した天然ガスはGazpromに売却しなければならず、直接自らの市場に持ち込むことができないため、自ら販売できる量は、実質、英国・ノルウェーで生産した11億7,0 00万m3(0.8%)となる。また、この販売分以外にも、発電事業者として、ガス火力発電所の燃料ガスの調達も必要である

    (2011年のガス火力発電所での発電量:1,025億kWh)。

    図3 E.ONの国別天然ガス生産量(2000~2011年)

    図4 E.ONの天然ガス販売量と生産量(2000~2011年)

    出所:E.ON Annual Reportを基に筆者作成

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2011

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    70

    80

    90その他 英国 ノルウェー ロシア億m3

    生産量

    0

    200

    400

    600

    800

    1,000

    1,200

    1,400

    1,600

    0

    200

    400

    600

    800

    1,000

    1,200

    1,400

    1,600

    1,800

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2011

    百万 boe 10 億 kWh

    天然ガス生産量天然ガス販売量 天然ガス長期契約調達量

    2003年:Ruhrgas 合併

    2008年:Yuzhno Russkoyeガス田権益取得

    生産量

    出所:E.ON Annual Reportを基に筆者作成

  • 71 石油・天然ガスレビュー

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     このことから、現状の上流事業への取り組みは、トレーディング事業の原資としてよりも、ユーティリティー企業としての原料調達のポートフォリオの一部、と見ることができる。

    (6) E.ONにおける上流部門(E.ON

    Ruhrgas)の貢献度

     2 0 1 1年のE.ONの売上高とEBITDA(Earnings before interest , taxes , depreciation and amortization:金利・税金・償却前利益〈税引前利益に特別損益、支払利息、および減価償却費を加算したもの〉)を図5、図6に示す。 総売上高に占める上流事業の比率は1.3%だが、EBITDAは8.1%と6.2倍で、上流事業の収益性の高さが見られる(なお、2010年についても、売上高が全社の1.5%であるのに対し、EBITDAは5.1%、同3.4倍であった)。

    2. RWE

    (1)RWEの上流事業への取り組み

     RWEは、1 9 9 0年までRhein isch -

    Westfälisches Elektrizitätswerk AGと称したドイツの大手エネルギー企業である。2000年にVEWと合併した後、ドイツで2位のユーティリティー企業となっている。2011年の電力販売量は2,946億kWh

    (E.ONの約1/4)、ガス販売量は284億m3

    (3,222億kWh、E.ONの約1/5)である。 RWEの上流事業への進出は、1988年にDeutsche Texaco AGを獲得(合併)したことに始まる。同社は1899年に操業を開始し、1911年よりDeutsche Erdol AG

    (ドイツ石油:DEA)として事業を行ってきた化学・石油企業であるが、合併後、RWE Deaと社名変更した。1990年の組織改正以降、RWE Deaは、RWE AGの化学・石油部門として上流開発を進めてきており、1998年には、DEMINEX社の掘削オペレーション・生産業務が分割された際、ノルウェー、エジプトでの元DEMINEXのオペレーションの多くを保有することとなった。 2001年、RWEは四つのコアビジネス

    (電力、ガス、水道、廃棄物処理)に集中することへの一環として、ドイツにおける石油精製と販売事業に関しShellと合弁

    企業を設立、翌2002年7月にはShellに合弁企業の株式を売却し、RWE Deaは、RWEにおける石油・ガスのE&Pと、地下ガス貯蔵オペレーションに特化した企業となった。また、2002年、RWE Deaは、英領北海のガス貯層にアクセスするため、英国のガス生産企業Highland Energyを獲得し、社名をRWE Dea UK Ltd.とし、英領北海での活動を本格化させた。 RWE Deaの2011年の天然ガス生産量は26億7,000万m3(1,630万boe)、原油生産量は1,580万バレル(1,580万boe)、合計3,2 1 0万boeである。また、総生産量の5 0%以上はドイツ国内で生産したもので、RWE Deaはドイツ最大の原油・天然ガス生産者である。

    (2)RWEの上流戦略

     RWEは1 8 0以上のライセンスを保有し、ライセンスの半数近くを自らオペレーションする等、積極的な上流活動を展開し、以下の戦略を掲げている。

     ・ 現状の高いレベルでの生産を維持するため、RWE Deaの国内生産や国

    図5 E.ONの売上高(2011年) 図6 E.ONのEBITDA(2011年)

    出所:E.ON Annual Report 2011

    Upstream1,517 (1.3%)

    UpstreamUpstream以外

    売上高計:112,954売上高計:112,954百万ユーロ百万ユーロ

    Upstream UpstreamUpstream以外

    百万ユーロ百万ユーロ

    753 (8.1%)

    EBITDA:9,293EBITDA:9,293

    出所:E.ON Annual Report 2011

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    際子会社による生産向上を目指す。 ・ 2016年までに、原油・ガスの生産量

    を、約7,0 0 0万boeまで増加させる(2010年の約2倍)。

     ・ 上流事業に関する主要なプロジェクト地域を、英領北海、ノルウェー洋上(北海、ノルウェー海、バレンツ海)、北アフリカとする。

     また、RWEは、ヨーロッパ第5位の電力・ガス企業として、激しい価格変動や市場構造の変化、気候変動の防止や政策決定者により増す規制等に対応するた

    め、以下の三つの戦略のほか、上流部門が関連する目標も掲げている。

    (3) 2 0 1 1年末時点でのE&P実績

    (取り組み状況)

     2011年現在、RWEの子会社RWE Deaは、英国、ノルウェー、中央ヨーロッパ(ドイツ、デンマーク、ポーランド)、北アフリカ(アルジェリア、エジプト、リビア)等を主要ターゲットとして探鉱・開発を行っている。RWEの上流事業への関与状況を表4、表5、表6、図7にまとめる。 2011年末現在、英国、ノルウェー、ド

    イツ、デンマーク、エジプト、アルジェリア、リビアで原油・天然ガスの生産を行っており(図9、デンマーク、リビアは原油のみ)、特に英国、ドイツ、エジプト、リビアではオペレーターを務めている。また、探鉱活動については、より多くの国々で活動し、数多くオペレーターを務めている。RWEのオペレーター志向は強いと思われる。 また、特記すべきは、LNG権益を保有していることである。ノルウェーのSnohvitプロジェクトに参画し、油ガス田の権益を保有するとともに、液化事業にも参加し、2.81%の権益を保有している。また、エジプトではガス田の権益を保有し、今後、自らオペレーターとしてガスの生産を行う予定である。具体的な時期は決定していないが、Egyptian LNGのトレイン 3の計画もあり、RWEも参画する計画がある。 一方、LNG受入基地については、オランダのGate基地に220万トン/年のキャパシティーを保有しており、LNG調達、もしくはトレーディング環境も整えつつある。

    (4) 上流事業活動:天然ガス・原油の

    生産量

     天然ガス・原油の合計生産量は、ここ数年は安定しているものの、減少傾向にある。これは、原油生産量の落ち込みが要因であることが分かる。RWEもE.ONと同様、2002年に石油化学部門を売却して以降、生産の重点を天然ガスにシフトしてきている(図8)。

    (5) 天然ガス・原油の生産量と天然

    ガス販売量

     天然ガス販売量は、2002~2003年にかけて、欧州各国の天然ガス企業の買収や出資を通じ飛躍的に増加したが、その後は300億m3程度で安定している(図10)。 天然ガス生産量がその販売量に占める割合は、2 0 1 1年9.8%で、ユーティリティー企業としては高い割合と思われる

    RWEの戦略 上流部門(RWE Dea)関連事項

    ① より持続可能となる-RWE is becoming more sustainable- -

    ② より国際的となる-RWE is becoming more international-

    ・ ヨーロッパだけでなく、北アフリカにおいても天然ガス・原油を生産する。

    ・ オペレーション領域(地域)を拡大する (カスピ海地域を例示)

    ③ より強靭となる-RWE is becoming more robust-・ 年間の原油・ガス生産量を約7,000万boe(2010年の約2倍)にする

    表3 RWEの戦略と関連する上流事業目標

    表4 RWEの上流事業への関与状況(2011年末時点)

    出所:RWE Dea Annual Report 2011

    対象国

    Production & Development(生産・開発)

    Exploration(探鉱)

    Operator Partner Operator Partner

    英国 ○ ○ ○ ○

    ノルウェー - ○ ○ ○

    アイルランド - - ○ -

    ドイツ(自国) ○ ○ ○ ○

    デンマーク - ○(原油のみ) - ○

    ポーランド - - ○ -

    エジプト ○ ○ ○ ○

    リビア ○(原油のみ) - ○ -

    アルジェリア - ○ - -

    モーリタニア - - - ○

    トリニダード・トバゴ - - - ○

    トルクメニスタン - - ○ -

    出所:RWE Dea Annual Report 2011

  • 73 石油・天然ガスレビュー

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    が、E.ONと同様、トレーディング事業の原資としてよりもユーティリティー企業としての原料調達の要素が大きいと思われる。一方で、LNG事業にも取り組み、ノルウェーのSnohvitプロジェクトの権益を保有しているほか、トリニダード・トバゴや赤道ギニアで今後、ガスの探鉱開発事業に関わっていく姿勢から、原料多様化だけでなく、LNGトレーディング事業にも重きを置こうとする姿勢も見られる。

    (6) RWEにおける上流部門(RWE Dea)

    の貢献度

     2011年のRWEの売上高とEBITDAを図11、図12に示す。 総売上高に占める上流事業の比率は3.8%だが、EBITDAは10.9%と約2.9倍である。現在原油価格が高いという状況もあるが、上流事業の収益の高さが見られる。また、2002年から2011年までの傾向を図13に示す。 RWEにおける上流事業(RWE Dea)の企業貢献度は、EBITDAでは常に売上

    対象国 E&P実績

    全般 ・180以上のライセンスを保有・半数近くで自らオペレーターを務める

    表5 RWEの2011年末時点でのE&P実績

    対象国 E&P実績

    英国 ・二つのプロジェクト(Breagh、Clipper South)を推進

    ノルウェー・2坑井を掘削・ APA2011 bidding Roundに入札し、七つのライセンスを授与、うち二つ

    でオペレーターとなった

    ドイツ(自国) ・探鉱活動を継続

    エジプト・ Disouq(Nile Delta/陸上鉱区)の開発についてEGASとPSAを締結

    2013年春生産開始予定・活発な探鉱作業を実施

    リビア ・内戦の影響で遅延

    アルジェリア ・ Raggane North(陸上鉱区)の6坑の開発井掘削が2011年に承認 2016年生産開始予定。12年の生産期間に8 Mcf/dを計画

    モーリタニア ・探鉱活動を実施

    トリニダード・トバゴ ・ トリニダード・トバゴ政府と浅海プロジェクトに対するPSAに署名、 ライセンスエリアの3D地震探査を実施(2012年1月完了)

    トルクメニスタン ・探鉱作業を開始

    アゼルバイジャン ・ 国営石油企業SOCARとHOAを締結し、カスピ海のNakhichevan構造のEPSAに対する交渉を行い、パートナーとなる調整を開始

    表6 RWEの2011年のE&P実績

    出所:RWE Dea Annual Report 2011

    図7 RWEの生産・探鉱地域

    出所:RWE Dea Annual Report 2011

    出所:RWE Dea Annual Report 2011

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    高の2倍から3倍であることから、収益性が高いことが分かる。また、純利益(NET INCOME)ではばらつきがある(2009年、2010年のように、総売上高に占める上流事業の比率を下回ることもある)が、概

    おおむ

    ねEBITDA以上に高収益性であることが分かる。

    3. イ ン プ リ ケ ー シ ョ ン : ドイツの2大ユーティリティー企業(E.ON/RWE)に共通する上流戦略

    ①上流事業への進出 ・ ドイツの2大ユーティリティー企業

    (E.ON/RWE)は、1)原料調達先の多様化、2)エネルギーセキュリティーの確保、の必要性・重要性から 、 上 流 事 業 に 進 出 し て い る

    (E.ON:2003年、RWE:1990年)。これは、自ら上流事業に進出し、権益を保有 す る こ とで、生産物として原料そのものを確保することを目的としたものである。

     ・ また、近年、長期契約からの天然ガス調達価格が高いことを両社とも挙げており、GazpromやStatoil等天然ガス生産・供給者との価格交渉を活発に行っている(E.ONとRWEは、GazpromとArbitrationを実施中)。このような状況から、上流事業への進出と生産物の確保は、価格低減の面からも重要となっている。

    ②上流事業でのオペレーターとしての関与 ・ 日本のユーティリティー企業(電力・

    都市ガス企業)と異なり、上流事業でオペレーターとして活動していることが特徴的である。これは、オペレーターとしてのメリットを最大限享受するとともに、一定量の生産物を安価で競争力のある原料として確保するため、と考えられる。

    0

    10

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    2002

    2003

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    2006

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    2011

    生産量

    天然ガス生産量 原油生産量 天然ガス・原油生産量合計百万 boe

    その他 英国 ノルウェー ドイツ億m3/ 年

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    生産量

    2002

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    2006

    2007

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    2011 年

    図8 RWEの天然ガス・原油生産量(2002~2011年)

    出所:RWE Dea Annual Reportを基に筆者作成

    図9 RWEの国別天然ガス生産量(2002~2011年)

    図10 RWEの天然ガス販売量と生産量(2002~2011年)

    年0

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    2006

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    2009

    2010

    2011

    億m3

    販売量

    天然ガス販売量 天然ガス生産量

    出所:RWE Dea Annual Reportを基に筆者作成

    出所:RWE Dea Annual Reportを基に筆者作成

  • 75 石油・天然ガスレビュー

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     ・ 自らが新たにE&P技術を取得することは難しく、また長期間を必要とするため、上流事業でオペレーターとなるために両社とも核となる上流企業(探鉱・開発企業)の買収を行い、自らがオペレーターとして事業活動ができる体制を構築している。

    ③上流事業の重点戦略地域 ・ E.ON、RWEの探鉱・開発・生産の

    重点戦略地域には類似性がある。

      ○ E.ON:英領北海、ノルウェー領北海、ロシア、北アフリカ(アルジェリア)

      ○ RWE:英領北海、ノルウェー洋上(北海、ノルウェー海、バレンツ海)、中央ヨーロッパ、北アフリカ

     ・これには、以下の要因が考えられる。  a. 政治的、経済的に比較的安定し

    ていて、進出しやすい。

      b. パイプライン等を経由し、自らの市場に直結しており、生産物を直接自市場に持ち込むことができる(北海、中央ヨーロッパ、ロシア、北アフリカ)。

      c. LNGへの可能性を追求し、LNG生産権益につながるガス田にアクセスしている(E.ON:エジプト・アルジェリア、RWE:ノルウェー、エジプト、アルジェリア、トリニダード・トバゴ)。また、下流事業者(ユーティリティー企業)としての立場を生かし、LNG受け入れ・再輸出基地の使用権の獲得も図っている。このことにより、LNGの輸入者としてだけでなく、LNGトレーダーとなる可能性も追求している。

      d. 両社とも、これから国際的な展開をする動きも見られる(RWE:更なる国際化を目標とし、トリニダード・トバゴやトルクメニスタンでの活動も開始している)。

    Upstream UpstreamUpstream以外

    百万ユーロ百万ユーロEBITDA:8,460EBITDA:8,460

    922 (10.9%)

    図12 RWEのEBITDA(2011年)

    Upstream UpstreamUpstream以外

    百万ユーロ百万ユーロ売上高計:51,686売上高計:51,686

    1,943 (3.8%)

    図11 RWEの売上高(2011年)

    出所:RWE Annual Report 2011

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    2011

    割合

    % 売上高 EBITDA 純利益

    図13 RWEの上流事業実割合(2002~2011年)

    出所:RWE Annual Report 2011

    出所:RWE Annual Reportを基に筆者作成

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    JOGMEC

    K Y M C

    <注・解説>* : 石油換算バレル

    ④�天然ガスに重点を置いた探鉱・生産活動の実施

     ・ E.ON、RWE両社とも、発電・電力供給事業/天然ガス供給事業をコア事業とし、天然ガスに重点を置いた探鉱・生産活動を実施している。

    ⑤�下流事業者としての原料調達のポートフォリオの一部としての上流事業

     ・ 両社とも、上流事業への進出を重要と考えており、専門の部門を設立し、事業を実施。

     ・ 2011年の天然ガス生産量は、E.ON:75億6,000万m3、RWE:26億7,000万m3。天然ガス販売量に対する生産量は、

    E.ONが約5%、RWEが約1 0%であり、取り扱い数量としては限定的であることから、上流事業はトレーディングのための原資というよりは、原料調達のポートフォリオの一部として位置付けられている、と考えられる。

    (大貫 憲二) 

  • ご好評につき、2011年版も限定販売 !!ご好評につき、2011年版も限定販売 !! 昨年、初の限定販売を行った機構内部資料『天然ガス リファレンスブック』を、ご好評につき、2011年版も一般向けに販売させて頂くこととなりました。 厳しい電力事情等からさらに注目を集める天然ガスに関し、IEA、EIAを始めとする国内外の機関・企業から得られた世界中の様々なデータ(LNG、GTL等を含む)を取り纏め、最新の情報に更新しております。非在来ガス(シェールガス・CBM)についての有意な情報も記載しました。※書店等では販売しておりません。なお、数に限りがあります ので売切れ次第販売を終了いたします。

    独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (JOGMEC) 石油調査部E-mail:[email protected]     TEL:03-6758-8024 担当者:鈴木 美穂、小林 理絵

    ・世界と日本のエネルギー全般の需給動向・世界の天然ガスの埋蔵量や消費量、貿易量の推移、価格動向。 非在来型ガス、GTLプロジェクト・日本における LNG輸入量、天然ガスの県別・用途別生産量、日本の主要ガスパイプライン、LPGの生産・輸入量 ・世界の LNGの需給動向や世界の LNGプロジェクトの契約概要、液化・受入基地概要・世界の LNGビジネスの上中下流に関わる主要40社の企業動向天然ガス関係単位・熱量換算等

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