スタートアップの成長要因分析 -...

16
竹内ゼミ スタートアップの成長要因分析 日本の製造業と非製造業 IPO 前後の売上高成長要因分析― XUE YAO A1341792 2017/01/24

Upload: others

Post on 20-May-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: スタートアップの成長要因分析 - pweb.sophia.ac.jppweb.sophia.ac.jp/takeuchi/zemipaper/2016/XUEYAO(2016年度... · 再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

竹内ゼミ

スタートアップの成長要因分析 —日本の製造業と非製造業 IPO 前後の売上高成長要因分析―

XUE YAO A1341792

2017/01/24

Page 2: スタートアップの成長要因分析 - pweb.sophia.ac.jppweb.sophia.ac.jp/takeuchi/zemipaper/2016/XUEYAO(2016年度... · 再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

スタートアップの成長要因分析

—日本の製造業と非製造業 IPO 前後の売上高成長要因分析―

1. イントロ

新しい技術や革新的なビジネスモデルを生み出すベンチャー企業は新しいマー

ケットを作り出すことによって、経済全体に成長や活性化に寄与している。ベンチ

ャー企業は GDP の成長にとって非常に重要な下支えになっており、一般的に開業

率が高い国は GDP の成長率も高いと見られる。 また、ベンチャー企業は雇用の創出源としても重要である。米国では、ベンチャ

ーキャピタルが支援したベンチャー企業の雇用数は民間雇用の 11%にも到達して

いる。2016 年の中国では、安定した雇用と GDP の成長を促すために、ベンチャー

企業の創出と支援を重要な国策の一としている。また、日本の 2014 年版の「日本

再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

をシフトさせていくためには、既存の企業に変革を迫るだけでは不十分であり、ベ

ンチャーが次々と生まれ、成長分野を牽引していく環境を整えられるかどうかが非

常に重要である」があったように、ベンチャー企業が経済成長と雇用拡大に果たす

重要性を再び強調している。 しかし、世界 GDP 総額ランキングの第三位も占めている日本はベンチャー企業

を育成する環境を整えていると言いにくい現状である。2015 年のデータを調べる

と、米国のベンチャーキャピタル投資残高は GDP の約 3.5%を占め、55 兆円を有

している。そこから生まれてくる Facebook(八兆円)、Uber(5兆円)は世界的にも

有名になっている。中国のベンチャーキャピタル投資残高はGDPの約3%を占め、

34 兆円を有している。その中から生まれた滴滴(配車アプリ、3兆円)、美団(8000億円)は典型的な企業である。それに対して、日本のベンチャーキャピタル投資残

高は 1.5 兆円であり、GDP のわずか 0.3%を占めている。その中から生まれる代表

的だと言える企業であるライフネット生命の時価総額も 420 億に留まる。 日本は高い GDP を有している割には、ベンチャー企業の活性がなく、世界的に

見ても極めて異例である。 (データ出所:社団法人ベンチャーエンタープライスセンター、中国国家統計局、為替レート 115 円/ドルによる)

日本国のベンチャー企業が活性化しないことに対して、数多く研究を行われてき

たが、主に「環境不適合説」と「起業精神低い説」に分けられる。 「環境不適合説」とは、日本のベンチャーキャピタルの数が少ないことを原因に

し、ベンチャー企業が成長するために十分な資金や経営ノウハウの供給環境がない

ため、良いベンチャー企業が生まれないことである。

Page 3: スタートアップの成長要因分析 - pweb.sophia.ac.jppweb.sophia.ac.jp/takeuchi/zemipaper/2016/XUEYAO(2016年度... · 再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

「起業精神低い説」とは、日本で起業する社長が少ないことを原因し、ベンチャ

ーキャピタルの関与はただベンチャー企業の多数の成長要因の一つにすぎず、良い

ベンチャー企業が生まれないことは外部環境に責任があるといえないことである。 したがって、本稿は日本のベンチャー企業の成長要因を解明するために、近年の

IPO 企業のデータを製造業と非製造業に分類し、創業社長の存在、ベンチャーキャ

ピタルによる投資とそのベンチャーキャピタルの属性、経験、能力及び企業経営の

関与はどのようにベンチャー企業の成長に影響を与えるかを実証分析する。具体的

には、IPO を行った個別企業のデータとそれらの企業に投資したベンチャーキャ

ピタルの個別データを組み合わせ、様々な要因の影響を比較することにより、日本

のベンチャー企業の成長要因を検討する。

2. 先行研究

これまでベンチャー企業の成長要因に関する研究は多数あったが、変数の違いと

捉え方によって、結果も変わることがよく見られる。例えば、「新規株式公開企業

の株式所有構造と業績パフォーマンスの関係」(2016)は株式所有構造と IPO 企業

の業績に着目し、上場する前まで、経営層の持ち株比率、ベンチャーキャピタルの

出資有無はベンチャー企業の業績を影響しないが、上場した後から、経営層の持ち

Page 4: スタートアップの成長要因分析 - pweb.sophia.ac.jppweb.sophia.ac.jp/takeuchi/zemipaper/2016/XUEYAO(2016年度... · 再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

株比率の違いがベンチャー企業の業績成長に大きく影響を与えると述べている。 また、「风险投资,股权集中度与公司绩效的关系实证分析」(中国 2013)は中国

のベンチャー企業のデータを利用し、ベンチャー企業の業績成長と企業株式の集中

度との関係に焦点を当て、実証分析を行った結果、ベンチャーキャピタルが一定比

率以下のベンチャー企業の株式を取得すると、ベンチャー企業の成長にプラス効果

が働くが、持ち株比率が一定以上のレベルを超えた場合、ベンチャー企業の成長に

マイナス効果が働くことを統計的に証明しており、ベンチャー企業の業績成長と企

業株式の集中度が U型関係であると述べている。 それに対して、「ベンチャーキャピタルの関与と IPO 前後の企業成長率」(2007)

はベンチャー企業の成長度合い、社長の持ち株比率とそのベンチャー企業に投資す

るベンチャーキャピタルの属性に着目し、社長の持ち株比率もしくはベンチャーキ

ャピタルの持ち株比率とベンチャー企業の成長との関係が存在することを有意に

証明できないと述べるほか、ベンチャーキャピタルの経営関与は熱心であればある

ほど、ベンチャー企業の成長にプラス効果が働き、ベンチャーキャピタルは良いベ

ンチャー企業を選別するよりも育成に重心を置くべきであると述べている。 また、「风险投资对创业板上市企业 IPO 效应影响的实证研究」(中国 2013)はベ

ンチャーキャピタルが IPO 企業への投資有無と上場するベンチャー企業の株価成

長率との関係から実証研究し、ベンチャーキャピタルが投資する IPO 企業は上場

する前まで評価価値が高いが、上場した後に市場からの注目度が高まる一方、株価

の成長率が低いことを説明している。その中でも、ベンチャーキャピタルのブラン

ド力が高ければ高いほど、IPO 企業が上場した後の株価成長率が低い。しかし、中

国国有背景を持つベンチャーキャピタルが投資している場合は論外であると述べ

ている。 そのほかにもベンチャー企業の成長要因を解析する先行研究が数多くあったが、

以上のように、被説明変数と説明変数の扱い方や焦点の当て方の違いによって、真

逆な結果を出されることもあり得る。そういった結果が生まれる一つ大きな原因と

して、それぞれの国の性質、市場もしくは経済発展段階の違いによるものだと考え

られるが、研究が一つの国に限定した場合でも、ベンチャーキャピタルの業種は全

体的に性質が安定していなく、当然安定した結論を導き出すことも非常に難しいと

考える。 したがって、時期や経済環境の変化によって、ベンチャー企業やベンチャーキャ

ピタルが取り込む環境も常に変化していることから、本稿では日本の 2011-2014にわたる IPO 企業のデータを利用し、日本のベンチャー企業の成長要因がどうい

った変化を生じているかについて解明していきたい。また、企業の特性と性質から、

大きく製造業と非製造業に分けて検討する。

Page 5: スタートアップの成長要因分析 - pweb.sophia.ac.jppweb.sophia.ac.jp/takeuchi/zemipaper/2016/XUEYAO(2016年度... · 再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

3. 分析方法とモデル

本稿の目的は、日本のベンチャー企業(製造業と非製造業)IPO の前後における

ベンチャー企業の業績成長がどういった要因に影響されるかについて解明するた

めである。業績成長の代理変数として売上高成長率を使うことにする。また、様々

要因の中、本稿は特にベンチャー企業の成長エンジンといわれるベンチャーキャピ

タルの行動特性の概念を導入し、ベンチャーキャピタルの行動特性は上場するベン

チャー企業にどのように影響を与えるかを計量的に分析する。そして、IPO 企業に

投資するベンチャーキャピタルが複数存在する場合では、IPO 前の最大出資をして

いるベンチャーキャピタル(以下リード VC と呼ぶ)に注目し、その行動特性の影

響を分析する。なぜなら、一般的に最大の出資を行っているリード VC が、出資先

企業への投資や支援 において中心的な役割や投資人責任を担っているからである。 本稿では重回帰モデル(OLS 最小二乗法)を使って分析をしており、今回の分

析で用いるモデルは、次のように設定される。

GRSALES =a+b *VCSHVC+c*LVCSH+d* VCSIZE+e* VCYEAR + f*HANDSON(ダミー) + g*FIRMAGE+ h*LNSALES+ i*CEOSH+j* LISTED(ダミー) +𝜇𝜇𝑖𝑖

(a:定数項、𝜇𝜇𝑖𝑖:残差)

被説明変数は分析するベンチャー企業 IPO 前後の期間にわたる売上高成長率で

ある。 具体的には「IPO 後2度目の決算期における売上高/ IPO 直前の決算期における

売上高―1」によって算出される。データ入手の可能性から、ベンチャー企業が IPOする前のベンチャーキャピタルの出資比率データをとれるのが IPO 直前期の目論

見書のみなので、それを売上高成長率測定の基準点とする。また、ベンチャー企業

の IPO 時期によって、IPO 直後に最初の決算期を迎えるものも存在するが、IPO直後の決算期のデータは IPO 後の業績成長の測定に相応しいものでないことと考

え、上場した後の1期後の決算期のデータを採用する。したがって、IPO 前後に決

算期の変更がない限り、被説明変数は上場する前後2年間を通じての名目売上高成

長率(GRSALES)である。 また、被説明変数である名目売上高成長率(GRSALES)を説明するのに使う説

明変数は、Ⅰベンチャーキャピタル固有要因、Ⅱベンチャーキャピタル行動要因、

Page 6: スタートアップの成長要因分析 - pweb.sophia.ac.jppweb.sophia.ac.jp/takeuchi/zemipaper/2016/XUEYAO(2016年度... · 再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

Ⅲベンチャーキャピタル持ち株比率構造要因、Ⅳ企業自身要因といった四つ大きい

な要因に分類する。 その中、Ⅰベンチャーキャピタル固有要因にはリード VC の設立からの年数

(VCYEAR)とリード VC の従業員数(VCSIZE)から成り立っている。この二

つの変数はある程度ベンチャーキャピタルの規模と経験を代表しているからであ

る。Ⅱベンチャーキャピタル行動要因にはダミー変数(HANDSON)を使い、ベ

ンチャーキャピタルが投資先企業へ経営関与の有無を示している。経営関与ありの

場合は 1 にし、経営関与なしの場合は 0 にする。Ⅲベンチャーキャピタル持ち株比

率構造要因にはベンチャーキャピタルの合計持株比率(VCSH VC)、リード VC 持株比率(LVCSH)を利用している。最後に、Ⅳ企業自身要因とは、IPO 時点での

企業年齢(FIRMAGE)、IPO 直前決算期の売上高の対数値(LNSALES)、社長持

株比率(CEOSH)、一部・二部上場ダミー(LISTED、東証一部・二部市場への IPO =1,その他0)を使っている。これは、企業自身の経験、一部・二部に上場でき

るかどうかレベルの違い、社長自身の持ち株構造などのような企業自身要因で売上

高成長率を説明しようとするためである。各変数の定義は以下のようになる。

また、ベンチャーキャピタルに関する要因はお互いに相関関係が高いことと予想

されることから、重回帰モデルを利用する際に、多重共線性を排除するために、上

記で提示したモデル以外に、ベンチャーキャピタルに関する要因を代表する説明変

数は一つずつ検討する形にする。

4. 仮説

ベンチャー企業の成長は様々な外部・内部環境要因に影響されるが、本稿ではⅠ

ベンチャーキャピタル固有要因、Ⅱベンチャーキャピタル行動要因、Ⅲベンチャー

変数GRSALESFIRMAGELNSALESCEOSHLISTEDVCSH VCLVCSHVCSIZEVCYEARHANDSON

一部・二部上場ダミー(一部・二部市場へのIPO =1,その他0)合計持株比率リードVC 持株比率リードVC の従業員数リードVC の設立からの年数リードVC のハンズオン投資ダミー(あり=1、なし=0)

変数の定義売上高成長率(IPO前後)IPO 時点での企業年齢(創業からの経過年数)IPO 直前決算期の売上高(対数値)社長持株比率

Page 7: スタートアップの成長要因分析 - pweb.sophia.ac.jppweb.sophia.ac.jp/takeuchi/zemipaper/2016/XUEYAO(2016年度... · 再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

キャピタル持ち株比率構造要因、Ⅳ企業自身要因といった四つの要因に焦点を当て

て、分析する。 ベンチャーキャピタルにとって、一番重要な目的は有望な事業を行う将来性の高

い企業を選別して、金銭投資などを通じて、被投資企業の将来的成長を享受するこ

とである。その中、被投資企業の行動をモニタリングし、必要に応じて経営支援を

行うことが一般的である。しかし、ベンチャーキャピタルの性質が異なる以上、投

資するベンチャー企業を選別するが、経営支援を行わないベンチャーキャピタルも

存在する。例えば、銀行を母体とするベンチャーキャピタルは豊富な成長資金を提

供できる一方、経営のノウハウを十分に蓄積していなく、経営上複雑の市場ニーズ

に対応しきれないなどを挙げられる。 被投資企業から見ると、ベンチャーキャピタルからの資金供給を受けることで、

会社の発展上の資金制約を和らげるだけでなく、複雑の経営課題に遭遇したときに、

投資側が経験豊富かつ経営関与積極的なベンチャーキャピタルであれば、貴重なア

ドバイスなどといった資金以外の経営資源も頂ける。その一方、ベンチャーキャピ

タルの持ち株比率を高まれば高まるほど、経営関与傾向が強くなると予想され、利

益相反が生じた場合、ベンチャー企業の経営独立性が失う恐れも無視できない。 また、ベンチャー企業の行動を考慮する場合、企業規模が小さい性質を持つ以上、

経営の代表者である社長の行動がベンチャー企業の成長に絶大な影響を与えると

考えられる。ベンチャー企業の株主が多数存在する中、経営人である社長とベンチ

ャー企業との間は利益相反を起こらないようにしたほうが良いと考えられ、社長の

持ち株率が高ければ高いほど、ベンチャー企業の成長に良い影響を与えると予想で

きる。 以上のように、仮にベンチャーキャピタルが投資するベンチャー企業の成長率が

高い場合、その要因として、「社長の持ち株比率が高いことによる経営に対する強

いインセンティブの働き」、「経営豊富のベンチャーキャピタルの積極的な関与」な

どあげられる。 以上なことから、本稿で検証する仮説は以下のように提示する。 仮説Ⅰ:ベンチャー企業に投資するベンチャーキャピタルの経験(規模)が豊富

であればあるほど、ベンチャー企業の業績成長にプラス効果が働く。 仮説Ⅱ:ベンチャーキャピタルがベンチャー企業への経営関与積極的であればあ

るほど、ベンチャー企業の業績成長にプラス効果が働く。 仮説Ⅲ: リード VC の持ち株比率が高ければ、高いほど(株式構造集中型)、ベ

ンチャー企業の業績が成長する。

Page 8: スタートアップの成長要因分析 - pweb.sophia.ac.jppweb.sophia.ac.jp/takeuchi/zemipaper/2016/XUEYAO(2016年度... · 再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

仮説Ⅳ:ベンチャーキャピタルの合計持ち株比率が高いほど(株式構造分散型)、

ベンチャーキャピタルの業績成長にマイナス効果が働く。 仮説Ⅴ:社長の持ち株比率が高ければ、高いほど(インセンティブ型)、ベンチ

ャー企業の業績が成長する。 このように、もし説明変数 VCYEAR と VCSIZE の係数が有意にプラスを証明で

きれば、仮説Ⅰが支持される。ダミー変数 HANDSON の係数が有意にプラスを証

明できれば、仮説Ⅱが支持される。LVCSH の係数が有意にプラスを証明できれば、

仮説Ⅲを支持される。VCSH VC の係数が有意にマイナスを証明できれば、仮説Ⅳ

が支持される。CEOSH の係数が有意にプラスを証明できれば、仮説Ⅴが支持され

る。また、仮説Ⅰ~仮説Ⅳはベンチャーキャピタル要因に関すもので、仮説Ⅴは企

業自身要因に関するものである。

5. データの入手方法と基本統計量

本稿は日本の 2011-2014 にわたり、上場する前にベンチャーキャピタルの出資を

受けている IPO 企業のデータを扱い、製造業と非製造業に分けて分析する。分析

で使う売上高成長率は(IPO 後の次の年決算期の売上高/IPO 直前の決算期の売上

高―1)を定義していることから、新規上場企業 IPO 直前の決算期の財務データ、

リード VC の持ち株比率、ベンチャーキャピタル合計持ち株比率、社長の持ち株比

率は株式公開に先立って発表される新規公開目論見書から入手した。IPO 後の次の

年の決算期の財務データは株式会社イーオーエルのデータベースから入手した。そ

の中、財務情報はすべて単体決算書を扱うことにする。 また、IPO 企業の企業年齢(創業してから上場するまでの年数)、東証一部・二

部とそれ以外の上場区分情報は各企業の有価証券報告書から得られた。そのほか、

ベンチャーキャピタルの企業年齢、従業員規模、投資先への経営関与情報は各ベン

チャーキャピタルのホームページから得られた。その中、銀行を母体とするベンチ

ャーキャピタルは、財務コンサルディング支援を中心にしていることから、特別に

経営関与しているメッセージを発信していない限り、経営関与していないことにす

る。 具体的な基本統計量は以下通りになる。

Page 9: スタートアップの成長要因分析 - pweb.sophia.ac.jppweb.sophia.ac.jp/takeuchi/zemipaper/2016/XUEYAO(2016年度... · 再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

基本統計量からみると、製造業と非製造業の売上高成長率の平均値はそれぞれ

1.39 と 1.81 である。最小値はそれぞれ 0.07 と 0.02 であり、最大値はそれぞれ 4.65と 7.34 である。このようなデータから、ベンチャーキャピタルの出資を受けてい

るすべての IPO 企業は全体的に売上高が伸びる傾向がわかる。しかし、非製造業

は製造業と比べて、全体的に製造業より優れるが、個別企業を着目した場合、ばら

つきが大きく、業績変動リスクも高い。これは性質上、製造業は非製造業より安定

していることと整合的である。 リード VC とベンチャーキャピタル合計持ち株比率の平均値から、製造業はそれ

ぞれ 0.19 と 0.30 であり、非製造業はそれぞれ 0.15 と 0.49 である。このデータか

ら、一つの企業が複数のベンチャーキャピタルからの出資を受けていることがわか

る。また、株式構造の集中度は個別の会社の特有の要因で影響されることが多く、

すべてが判断しきれませんが、カテゴリ別に、製造業は非製造業よりも、株式集中

度が高い情報が得られる。 企業年齢を着目した場合、すべでの企業が平均的に、創業してから、17 年前後

で上場に果たしているが、その中、ばらつきが大きく、創業してから、3年で上場

できる若手企業もあれば、120 年の時間もかかった老舗企業も存在する。

平均 中央値 標準偏差 最小 最大 標本数

GRSALES 1.394446 1.177707 0.85152 0.070707 4.658383 31FIRMAGE 19.80645 10 20.1964 3 67 31LNSALES 8.385778 8.309677 1.988584 5.01728 12.01457 31CEOSH 0.168165 0.087 0.199242 0 0.669 31LISTED 0.290323 0 0.461414 0 1 31LVCSH 0.195568 0.1376 0.19063 0.022 0.8423 31VCSH 0.307229 0.255 0.189038 0.034 0.8423 31VCSIZE 63.57143 52.5 55.5007 2 174 28VCYEAR 20.03333 19 13.48686 1 43 30HANDSON 0.483871 0 0.508001 0 1 31

基本統計量(製造業)

平均 中央値 標準偏差 最小 最大 標本数

GRSALES 1.817329 1.456114 1.138098 0.023609 7.344284 122FIRMAGE 16.59016 11 15.38635 3 120 122LNSALES 8.086063 7.976849 1.461455 4.691348 12.71435 122CEOSH 0.301808 0.3026 0.232096 0 0.8641 122LISTED 0.131148 0 0.338954 0 1 122LVCSH 0.157751 0.0921 0.172728 0.011 0.9123 122VCSH 0.492035 0.173 2.759989 0.0115 30.64 122VCSIZE 296.3214 159 448.1159 1 1739 112VCYEAR 29.01681 29 15.1758 1 94 119HANDSON 0.598361 1 0.492251 0 1 122

基本統計量(非製造業)

Page 10: スタートアップの成長要因分析 - pweb.sophia.ac.jppweb.sophia.ac.jp/takeuchi/zemipaper/2016/XUEYAO(2016年度... · 再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

最後に、ハンズオンダミー変数 HANDSON に着目すると、製造業は 0.48 であ

り、非製造業が 0.59 である。全体的に、企業経営に積極的関与しているベンチャ

ーキャピタルが多いが、製造業よりも、非製造業に出資しているベンチャーキャピ

タルの方がベンチャー企業の経営にかかわることが多いことがわかる。

6. 実証分析の結果

分析を行った結果は以下のように提示する。全文で紹介した通りに、モデル 2~モデル 6 は説明変数の間の相関関係による多重共線性を排除するための分析であ

る。

変数モデル1 モデル2 モデル3 モデル4 モデル5 モデル6

定数項 0.501 0.186 -0.345 -0.276 -0.072 -0.925t値 0.542 0.290 -0.506 -0.310 -0.098 -1.389FIRMAGE -0.011 -0.006 -0.005 -0.010 -0.011 -0.004t値 -1.302 -0.781 -0.585 -1.128 -1.141 -0.444LNSALES 0.117 0.117** 0.176 0.233** 0.227** 0.261***t値 1.339 2.121 1.937 2.470 2.466 3.287CEOSH 0.273 0.711 0.552 -0.024 0.093 -0.202t値 0.434 0.983 0.716 -0.030 0.118 -0.306LISTED (-)0.642** -0.639 -0.631 -0.690 -0.672 -0.627t値 -2.042 -1.714 -1.593 -1.644 -1.596 -1.745LVCSH 6.350** 2.128**t値 2.665 2.584VCSH (-)4.590** 1.490t値 -1.988 1.773VCSIZE 0.098 0.032t値 1.146 0.317VCYEAR -0.015 -0.002t値 -1.376 -0.162HANDSON 0.765*** 0.857***t値 2.808 3.009調整済み決定係数 0.526 0.284 0.194 0.093 0.136 0.334

製造業

Page 11: スタートアップの成長要因分析 - pweb.sophia.ac.jppweb.sophia.ac.jp/takeuchi/zemipaper/2016/XUEYAO(2016年度... · 再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

(カテゴリー別に、上段は回帰係数、下段は対応する t 値を表示している、また、**は 5%

有意、***は 1%有意との意味を示している)

表のように、モデル 1 は全体像を掴むために、ベンチャーキャピタルに関係する

説明変数の間の多重共線性を考慮しない場合の分析モデルである。これと説明変数

VCSH を含んだモデル3と比較し、仮説Ⅳの「株式分散型説」対応する。モデル 2は説明変数 LVCSH を含み、仮説Ⅲの「株式集中型説」に対応している。そして、

モデル 4 とモデル 5 はそれぞれの説明変数 VCSIZE と VCYEAR を含み、これはベ

ンチャーキャピタルの経験や規模を代表するもので、仮説Ⅰに対応する。最後に、

モデル 6 はダミー変数 HANDSON を含み、これはベンチャーキャピタルの積極的

な経営関与を証明するもので、仮説Ⅴに対応する。 製造業に関して、分析の結果から、説明変数 VCSIZE、VCYEAR と CEOSH の

回帰係数はすべて有意に証明できないもので、仮説Ⅰの「ベンチャーキャピタルの

経験(規模)が豊富であればあるほど、被投資ベンチャー企業の業績が成長する」

と仮説Ⅴの「社長の持ち株比率が高ければ高いほど、企業の業績が成長する」は断

言できない。その一方、モデル 1 とモデル 2 の説明変数 LVCSH の回帰係数が有意

にプラスという結果から、被投資企業に対するリードベンチャーキャピタルの持ち

株比率が高ければ高いほど、被投資企業の業績が成長する傾向が言える。これによ

って、仮説Ⅲが支持される。そして、モデル 1 とモデル6の説明変数 HANDSON

変数モデル1 モデル2 モデル3 モデル4 モデル5 モデル6

定数項 3.818*** 3.647*** 3.635*** 3.908*** 3.631*** 3.571***t値 5.207 5.637 5.620 5.506 5.381 5.508FIRMAGE -0.014 -0.013 -0.013 -0.013 -0.014 -0.011t値 -1.673 -1.811 -1.805 -1.764 -1.909 -1.583LNSALES (-)0.257** (-)0.245*** (-)0.246*** (-)0.256*** (-)0.251*** (-)0.253***t値 -2.804 -2.887 -2.958 -2.892 -2.980 -3.044CEOSH 0.793 0.830 0.845 0.877 0.764 0.808t値 1.606 1.802 1.958 1.944 1.688 1.875LISTED 0.935** 0.908** 0.909** 0.944** 0.900** 0.895**t値 2.547 2.602 2.609 2.609 2.559 2.576LVCSH -0.055 -0.027t値 -0.076 -0.027VCSH 0.017 0.015t値 0.457 0.428VCSIZE -0.052 -0.040t値 -0.767 -0.657VCYEAR 0.006 0.004t値 0.636 0.558HANDSON 0.060 0.201t値 0.239 1.001調整済み決定係数 0.103 0.122 0.123 0.131 0.128 0.130

非製造業

Page 12: スタートアップの成長要因分析 - pweb.sophia.ac.jppweb.sophia.ac.jp/takeuchi/zemipaper/2016/XUEYAO(2016年度... · 再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

の回帰係数も有意にプラスであり、リードベンチャーキャピタルが投資先企業に積

極的な経営関与を行えば行うほど、被投資企業の業績が成長する傾向がわかる。こ

れによって、仮説Ⅱが支持される。また、仮説Ⅳに関して、モデル 1 とモデル 3 の

説明変数 VCSH を着目した場合、モデル 1 の VCSH の回帰係数は有意にマイナス

であるが、モデル 3 のすべての説明変数の回帰係数は有意に説明できないという結

果が生じている。これは、ベンチャーキャピタルの固有要因・行動要因を代表する

説明変数の間、高い相関が存在する可能性があるため、多重共線性の影響によるも

のと考えられる。したがって、仮説Ⅳは支持されない。 非製造業に関して、説明変数 VCSIZE、VCYEAR、VCSH と CEOSH の回帰係

数は有意性でないため、仮説Ⅰ、仮説Ⅳと仮説Ⅴが支持されず、製造業の場合と同

じ結果が生じている。しかし、製造業の場合の「仮説Ⅱ、仮説Ⅲが支持された」と

いう結論に対し、非製造業のすべてのモデルの説明変数 LVCSH と HANDSON の

有意性が統計的に証明できないため、仮説Ⅱ、仮説Ⅲも支持されない。そのほか、

非製造業に限って、説明変数 LNSALES の回帰係数は有意にマイナスであり、

LISTED の回帰係数は有意にプラスである。非製造業の IPO 企業が東証一部・二

部に上場できるかどうかによる違いで、その後の業績成長水準も大きく影響される

傾向があることを示している。 以上の結果をまとめると、製造業と非製造業であるかどうか関係なく、仮説Ⅰ、

仮説Ⅳと仮説Ⅴが支持されない。つまり、IPO 企業の業績成長を注目する場合、製

造業・非製造業を問わず、社長の持ち株比率の重要度が低い上で、投資側であるリ

ードベンチャーキャピタルの経験・規模も投資先企業の業績成長に強い関係をもっ

ていない。また、IPO 企業が複数のベンチャーキャピタルから出資を受けている場

合、それらの合計持ち株比率もそれほど重要な成長要因ではないのである。 また、リードベンチャーキャピタルの持ち株比率と投資先企業への経営関与要因

は、IPO 製造業企業の業績成長に絶大な影響力を持つのに対して、非製造業の場合

はそれほど重要視しない。そして、非製造業は東証一部・二部上場にできた場合、

その後も高い成長を期待できる。この原因は、非製造業の分析データの六割が IT新興産業である。このような企業の財務性質(財務レバレッジがが高いなど)を考

慮し、本来東証一部・二部に上場できるぐらいの IT 企業の企業規模がダントツに

大きいことから、ブランド力による集客力が高まり、売上高が伸びる傾向になると

考えられる。

7. 結果の解釈と今後の課題

以上の結果により、リードベンチャーキャピタルからの経営関与や育成行動が行っ

たほうが望ましいかどうかを検討すると、被投資企業は製造業である場合、投資側か

Page 13: スタートアップの成長要因分析 - pweb.sophia.ac.jppweb.sophia.ac.jp/takeuchi/zemipaper/2016/XUEYAO(2016年度... · 再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

らの育成行動を期待すべきが、被投資企業は非製造業である場合、それほど投資側か

らの経営関与が重要ではない。これは製造業大国である日本が経済発展してきた過程

の中で、蓄積してきた膨大な製造業に関するノウハウと非製造業に関するノウハウの

情報量の違いによるものと考えられる。また、社長持ち株比率はベンチャー企業の業

績成長の関係性が見られないという結果が示している。その理由としては、ベンチャ

ー企業の経営人は創業社長が多く、経営に熱心であることは変わらないのである。し

かし、ベンチャー企業の規模が小さいため、経営人である社長が積極的に経営に参加

するとしても、効果が限定的である。一般的に、創業社長は自らの持ち株比率を一定

のレベル以上に維持したいはずである。それでも、社長の持ち株比率の違いが生じた

のは企業経営上による資金需要の関係で、成長資金を得るために、株で換金したから

である。そして、非製造業の成長はベンチャーキャピタルからの経営関与との関係性

が低いと本稿で証明された。しかし、東証一部・二部に上場できるほど、その後の売

上高成長率も高いため、非製造業の規模拡大による資金重要を支えるのに、ベンチャ

ーキャピタルは掛け替えのない存在である。 その一方、本稿の分析に関してはいくつの課題が残っている。 本稿では、ベンチャー企業の業績成長を検討する際、売上高成長率を「業績成長」

の代理変数として分析している。売上高成長率だけで、企業の業績成長を説明しきれ

ない部分があり、被説明変数は売上高成長率のほか、EBIEAT(税引き前営業利益+減価償却)、当期純利益なども検討すべきである。また、ベンチャーキャピタルの規模・

経験は従業員数と設立からの年数に見えるかにしているが、業種の性質上の影響で、

ベンチャーキャピタル自体人員の入れ替えが激しく、毎年大きく変動する可能性が

あるため、ある時点での従業員数もしくは設立からの年数はベンチャーキャピタル

の規模・経験に比例的に対応しないため、説明変数として扱うのが適切であるかど

うかも検討する必要がある。最後に、本稿の分析で扱う企業データの6割は IT 企

業であることから、データの偏りを考慮し、IT 企業群を一つのカテゴリーとして分析

するなどの方法も考えられる。

Page 14: スタートアップの成長要因分析 - pweb.sophia.ac.jppweb.sophia.ac.jp/takeuchi/zemipaper/2016/XUEYAO(2016年度... · 再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

8. 参考資料・文献

① 東証一部・二部上場基準

Ⅰ継続的に事業を営み、かつ、安定的な収益基盤を有していること

Ⅱ事業を公正かつ忠実に遂行していること

Ⅲコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備され、機能していること

Ⅳ企業内容等の開示を適正に行うことができる状況にあること

② 日本年間投融資額の推移(社団法人ベンチャーエンタープライスセンターより)

Page 15: スタートアップの成長要因分析 - pweb.sophia.ac.jppweb.sophia.ac.jp/takeuchi/zemipaper/2016/XUEYAO(2016年度... · 再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

③ 参考文献・資料・データ EOL 日経 NEEDS ベンチャー白書 2015 中国国家統計局 http://www.stats.gov.cn/ 岡室博之、比佐優子(2007)「ベンチャーキャピタルの関与と IPO 前後の

企業の成長」 濱田康行、桐畑哲也、片川真実(2006)「わが国ベンチャーキャピタルの投

資実態」

橋本介三(2007)「開業期にある企業の実態と成長要因」

赤石篤紀(2016)「新規株式公開企業の株式所有構造と業績のパフォーマン

スの関係」 恩蔵直人(1989)「企業成長と企業特性」

李小花(2013)「风 风 投风 、股风 集中度与公司风 效关系风 风 分析」

风 关婷(2015)「风 风 投风 风 IPO 公司盈余管理的影响研究」

崔涛(2013)「风 风 投风 (家)声誉与上市企风 风 风 的相关性分析」

刘风 ,风 风 ,温风 (2012)「风 风 投风 风 上市公司风 风 影响的风 风 研究」

风 昌风 (2013)「风 风 投风 风 风 风 板上市企风 IPO 效风 影响的风 风 研究」

Page 16: スタートアップの成長要因分析 - pweb.sophia.ac.jppweb.sophia.ac.jp/takeuchi/zemipaper/2016/XUEYAO(2016年度... · 再興戦略」の中にも「新陳代謝を促進し、収益性・生産性の高い分野に投資や雇用

.