ホルマリン固定による横川吸虫 (metαgon;mus yokogαwα;)...

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RES.BUL L. MEGURO PARASIT. MUS. No.2 19-22 1968 19 ホルマリン固定による横川吸虫 (Metαgon;mus yokog αwα;) metacercaria の鑑別。 小宮義孝2) 榎本澄子2) (国立予防衛生研究所寄生虫部) ABSTRACT: Thecharacteristicsofthemetacercariaof Metagonimusyokogawai in itsfresh stateareasfo l1 ows: 1)ye l1 ow-brownishpigmentmassesarefounddistributedinthebody 2)the shapeofthecystisnearlyrounded measuringoa.157.0 x 157.3μin diameter 3) the thicknessof cystlayer amounts toca. 1. which is thinner than that of Clo orchis metacercaria 4)the excretory vesicleisY formedandcontainsfarsma l1 erexcretorygranulesthanthoseof Clonorchis metacercaria: Theyaredistributednotsodenselyinthevesicle 5)theventralsuckerissma l1 er thantheoralone defiectingfromthecenterlineand6)thespinesonthebody surfacearescale- formed. Amongthecharacteristics above mentioned 4 5 and 6 serve particulary as a key for identification. Thefixed specimen ofthe metacercariawithformalinisfoundnearlyas transparent asthatinthefreshstateanda l1 thecharacteristicsexcept 4 arefoundthe sameas in the fresh state. The excretory granules disappear 3 daysafterfixing. Buttheremainingcharacteristics particulary5and6 0 ertheimportantkeyforidentification. 先に筆者らは,ホルマリン固定魚体よりの肝 吸虫 metacercariaの検 出方法と ,かく して固 定された同 metacercariaの同定およびその鑑 別点について述べた(小宮・清水, 1965) 。 この 研究によって , 肝吸虫 metacercariaについて 10%ホルマリン固定によっても ,固定後 4-5 週日頃までは ,その特徴とする排i 止のう内にお ける排ii!t願粒の状態,包壁の厚さ,口腹吸盤の比 率,体内に散在する黄褐色の色素頼粒などは変 化す ることなく保存され ,新鮮標本と同様であ ることが判明した。今回筆者らは ,肝吸虫 meta- cercariaにもっともよく類似し ,叉その魚体へ の寄生率も比較的高い横川吸虫 (Metagonimus yokog αωai) metacercariaについての 10% ルマリン固定後の変化を追って観察し ,そ の結 果固定 metacercariaについてもその生標本の 場合とひと しく,固定が可能なることを知った。 以下はその報告である 。 実験材料およびその方法 実験方法としてまず横川吸虫 metacercaria の自然感染をうけた魚体を 8-10% のホルマリ ン水に浸潰し一定時間ごとにその変貌の過程を 追跡し変貌した metacercariaについてその同 定ができ得るかどうかを検索した。同時に自然 感染をうけた魚体筋肉より横川吸虫 metacer- canaを蒐集し ,一部を 10% ホルマリン水に浸 Receivedforpublication1April1968 潰して 3 0 c 氷室内に保存し,他の 一部を対照とし て生理的食塩水内に保存し時日の経過と共に対 照と比較しながらこれを観察した。魚体ウロコ に寄生している metacercariaの遊離および採 取は , ウロコを蒐集しこれを適当量 の人工胃液 に入れ 3rc瞬卵器内に 20-30 分格納し,宿 主よりつくられた包囲壁が多少消化 されるのを 待ってこれを薄い食極水で 2-3 回洗い胃液を 除去したのち,実体顕微鏡下において探針を用 い包囲壁を破り採取した。ただし肝吸虫 meta- cercaria との鑑別を考えるとその筋肉内寄生 metacercaria の方が鑑別上重要になるので, 今回は主として筋肉内寄生 metacercariaを用 いた。魚体としては,横川吸虫 metacercaria自然感染をうけている市販のアユ (Plecoglossus altivelis) を使用した。 実験成績 と考察 1. 生標本における横川吸虫 rnetacercaria の特徴 横川吸虫 metacercaria の生標本での主な 特徴は 1) 体内に散在する黄褐色の色素頼粒の 存在,2) 形は円形に近 くその大きさは直径約 157.0-157.3μ 3) 包壁の厚さは約1. で肝吸 metacercariaのそれと比較して薄い, 4)池のうの形は Y状 で内部の穎粒は肝吸虫のそれ に比 して非常に小 さく且つ充満しない ,5) 腹吸 1) Theidentification of the metacercaria of Metagonimus yokogawai from the fish body fixed withformalin 2) Yoshitaka KOMIYA & Sumiko ENOMOTO (Detartment 01 Para s"i tology NationalInstitute01 Health Tokyo)

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Page 1: ホルマリン固定による横川吸虫 (Metαgon;mus yokogαwα;) …kiseichu.la.coocan.jp/publ/Res_Bull_MPM2_p19-22.pdf · 2010. 10. 13. · RES. BULL. MEGURO PARASIT. MUS. No

RES. BULL. MEGURO PARASIT. MUS. No. 2, 19-22 1968 19

ホルマリン固定による横川吸虫

(Metαgon;mus yokogαwα;) metacercariaの鑑別。

小宮義孝2) 榎本澄子2)

(国立予防衛生研究所寄生虫部)

ABSTRACT: The characteristics of the metacercaria of Metagonimus yokogawai in its fresh state are as fol1ows: 1) yel1ow-brownish pigment masses are found distributed in the body, 2) the shape of the cyst is nearly rounded, measuring oa. 157.0 x 157.3μin diameter, 3) the thickness of cyst layer amounts to ca. 1. 2μ which is thinner than that of Clo刀orchismetacercaria, 4) the excretory vesicle is Y formed and contains far smal1er excretory granules than those of Clonorchis metacercaria: They are distributed not so densely in the vesicle, 5) the ventral sucker is smal1er than the oral one, defiecting from the center line and 6) the spines on the body surface are scale-formed. Among the characteristics above mentioned 4, 5 and 6 serve particulary as a key for identification. The fixed specimen of the metacercaria with formalin is found nearly as transparent as that in the fresh state and al1 the characteristics except 4 are found the same as in the fresh state. The excretory granules disappear 3 days after fixing. But the remaining characteristics, particulary 5 and 6 0任erthe important key for identification.

先に筆者らは,ホルマリン固定魚体よりの肝

吸虫 metacercariaの検出方法と ,かく して固

定された同 metacercariaの同定およびその鑑

別点について述べた(小宮 ・清水, 1965)。この

研究によって ,肝吸虫 metacercariaについて

は10%ホルマリン固定によっても ,固定後 4-5

週日頃までは,その特徴とする排ii止のう内にお

ける排ii!t願粒の状態,包壁の厚さ, 口腹吸盤の比

率,体内に散在する黄褐色の色素頼粒などは変

化することなく保存され,新鮮標本と同様であ

ることが判明した。今回筆者らは,肝吸虫 meta-

cercariaにもっともよく類似し,叉その魚体へ

の寄生率も比較的高い横川吸虫 (Metagonimus

yokog,αωai) metacercariaについての 10% ホ

ルマリン固定後の変化を追って観察し,その結

果固定 metacercariaについてもその生標本の

場合とひと しく,固定が可能なることを知った。

以下はその報告である。

実験材料およびその方法

実験方法としてまず横川吸虫 metacercaria

の自然感染をうけた魚体を 8-10% のホルマリ

ン水に浸潰し一定時間ごとにその変貌の過程を

追跡し変貌した metacercariaについてその同

定ができ得るかどうかを検索した。同時に自然

感染をうけた魚体筋肉より横川吸虫 metacer-

canaを蒐集し,一部を 10%ホルマリン水に浸

Received for publication 1 April 1968

潰して30

c氷室内に保存し,他の一部を対照とし

て生理的食塩水内に保存し時日の経過と共に対

照と比較しながらこれを観察した。魚体ウロコ

に寄生している metacercariaの遊離および採

取は,ウロコを蒐集しこれを適当量の人工胃液

に入れ 3rc瞬卵器内に 20-30分格納し,宿

主よりつくられた包囲壁が多少消化されるのを

待ってこれを薄い食極水で 2-3回洗い胃液を

除去したのち,実体顕微鏡下において探針を用

い包囲壁を破り採取した。ただし肝吸虫 meta-

cercaria との鑑別を考えるとその筋肉内寄生

metacercaria の方が鑑別上重要になるので,

今回は主として筋肉内寄生 metacercariaを用

いた。魚体としては,横川吸虫 metacercariaの

自然感染をうけている市販のアユ (Plecoglossus

altivelis)を使用した。

実験成績 と考察

1. 生標本における横川吸虫 rnetacercariaの特徴

横川吸虫 metacercaria の生標本での主な

特徴は 1)体内に散在する黄褐色の色素頼粒の

存在,2)形は円形に近 くその大きさは直径約

157.0-157.3μ, 3)包壁の厚さは約 1.2μ で肝吸

虫 metacercariaのそれと比較して薄い, 4)排

池のうの形は Y状で内部の穎粒は肝吸虫のそれ

に比して非常に小さく且つ充満しない,5)腹吸

1) The identification of the metacercaria of Metagonimus yokogawai from the fish body fixed with formalin

2) Yoshitaka KOMIYA & Sumiko ENOMOTO (Detartment 01 Paras"itology, National Institute 01 Health, Tokyo)

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20 RES. BULL. MEGURO PARASIT. MUS. No. 2, 1968

The identification of the metacercariae of Clonorchis sinensis and Metagonimus yolwgawai preserved in formalin

Metagonimus yokoga町az Clonorchis sinensis

Shape

Size

Oval

157.0x157.3μ

1.2μ

Willow tree leaf like

102.0 x 149. 0μ

3.5μ Thickness of cyst wall

Cuticular spine

Size ratio of the both suckers

Scale like spine: distinct

Oral sucker>Acetabulum

Minutes spine: indistinct

Oral suckerキ Acetabulum

Position of acetabulum

Disappearance of excretory granules in body

Lateral of the median line

3 days after the fixing procedure

Median

6 weeks after the fixing procedure

盤は口吸盤よりかなり小さく且つ体正中線をは

ずれている, 6)体表面上の皮林は明瞭にウ戸コ

状をなしている等である。 今これをそのも っと

も類似しているといわれる肝吸虫 metacerca-

riaと比較して見ると ,1, 2, 3の点では両者

とも類似しているが 4,5, 6の存在等に よっ

て明らかに肝吸虫のそれと区別し うる。

2. 固定 metacercariaにおける特徴

肝吸虫 metacercana については 10%ホル

マリン固定によっても 4~5 週日頃まではその

生標本と同様のすべての特徴を保持されている

ことが証明されており , またそれ以後の時期の

ものについても排池頼粒のみが消失するだけで

その他の諸特徴はすべて保持されていることが

すでに判明している。 そこで今回は横川吸虫

metacercaria についてこれを 10% ホルマリ

ン固定をした場合におけるその変貌を一定時間

ごとに観察してみた。結果は次のとおりである。

a) 固定 48時間後のもの:固定した metacer-

caria についてはその直後において運動はまっ

たく停止するが体内に散在する賀補色の色素頼

粒,色の形と大きさ,包壁の厚さ,排池のう内

の頼粒の状態,口腹吸盤の状態,体表面上の皮

林については対照 (生標本)のそれらと変りな

く存在する。弱拡大下においては多少全体が黒

ずんで見えるが透過光線による検鏡下において

はその透明度およ び弾力性は殆んど失われてい

ない。すなわち固定48時間後においては横川吸

虫 metacercariaの本来の特徴はすべてそのま

L保持されている。 なお体表のウロコ状の赫は

むしろ固定後における方がより著明に観察しう

るようである。

b) 固定 3日後のもつ:固定 3日後においても

体内に散在する色素頼粒,形,大きさ,口腹吸

盤の状態,体表面上の皮腕および透明度等は変

化な くそのま L保持されている。 しかし排池の

う内に存在する排池頼粒は,その特徴の一つで

ある暗黒色を皇さないが 2~3 重の同心円が見

えその輪郭を保っているが,時として全部消失

したかの如く見える こともある。 包壁の厚さに

は変化は認められないが弾力性は多少弱くなる

ようである。

c) 固定 1週および 2週間後のもの: この時期

のものについても体内に散在する色素頼粒,包

の形および大きさ ,口吸盤の状態,体表面上の

皮林,透明度などはそれ以前のものと比較して

特に変化は認められない。排?世頼粒は全部消滅

しその輪郭も認められない。排池のうの部分が

収縮し不透明に抜けてみえる。包壁の弾力性は

かなり弱まるようで少しの庄力にも壁は破れ

る。

以上の結果を通覧すると横川吸虫 metacer-

cariaの10%ホルマリン固定標本では,排池頼

粒は固定後わずか 3日以後には全部消滅してし

まうが,その他の特徴即ち包の大きさ,形及び

厚さ ,体内色素頼粒の存在,口腹吸盤の比率と

位置, 体表面上の腕等に何等の変化をみず生標

本同様にこれらの特徴は保持されることが判り,

このことによって肝吸虫 metacercanaの固定

により排池頼粒が消失したものと比較しでもそ

の鑑別は可能で、ある。

:l. 固定魚体標本中よ りの横川吸虫 metacercariaの採取

ホルマリン固定の魚体筋肉中よりの横川吸虫

metacercariaの採取は,固定標本中よりの肝

吸虫の採取方法とまったく 同様であるので, こ

与ではその操作は記述を省略する。 この点に関

しては小宮 ・清水 (1965) が行ったホルマ リン

固定魚体よりの肝吸虫 metacercariaの検出法

に関する研究を参照せられたい。 固定魚体のウ

ロコからの横川吸虫 metacercaria の遊離は.

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I(QMIYA. Y. et a/.

告静 回|FIg. Meta民 問ariaof IIfelagon;'1/I1$ J'okogau'ai

L Living包因。m回

2. 24 hNl after preserving in forma1in

Left LivInj:z叩eClmenRight: FIxing包peclmen

3. 48 hNl after preservIng in forma1in

4. 72 h河 aherpr田 en'Ingin formalin

5. 2 weeks after prcserving in formalin

6. 3 week包 afterpreserving in forma!in

"

E

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22 RES. BULL. MEGURO PARASIT. MUS. No. 2, 1968

本報告の実験材料およびその方法の部に述べた

方法と 同様に行えばよい。

4. 固定魚体標本中よりの繍川吸虫 rnetacercariaの

同定と鑑別

10%ホルマ リン固定横川吸虫 metacercaria

と同様に処理した肝吸虫 metacercariaとの異

同および鑑別点を表記すれば表の通りである。

要約

従来は横川吸虫 metacercariaは新鮮標本で

なければ鑑別できないとされていたが,ホルマ

リンで固定された横川吸虫 metacercariaにお

いては同様に処置された肝吸虫の場合と異な

り, 排池のう 内の排准頼粒は固定後 3日目にお

いてすでにその全部が消失する。 ゆえにそれ以

後の固定横川吸虫 metacercariaについては排

池頼粒の特徴は鑑別の要点とはなり得ない。 し

か し体表,特に背面におけるウロコ 状の皮聴の

存在,口吸盤に比較 して腹吸盤のかなり 小さく

且つ正中線を外れて位置するこ とが肝吸虫との

鑑別の要点になると思われる。

文献

小宮義孝 ・村瀬かつ子 (1944a):人工胃液消化法に

よる各種 metacercariaの魚体よりの収納度に就て.

上海自然科学研究所糞報,14 (5), 351-355.

2) 小宮義孝 ・村瀬かつ子 (1944b)ー魚体内におけ

る各種 metacercariaの分布に就て.上海自然科学研究所糞報, 14 (6), 419-434.

3) 小宮義孝 ・清水澄子 (1965) :ホノレマ リン固定魚体よりの肝吸虫 (Clonoγchissinensis) メタセノレ

カリアの検出法に関する研究.寄生虫学雑誌, 14 (6), 568-572.

4) NAGANO, K. (1927): A collecting method

of metacercaria. Okayal抑a19akkai Zasshi, (452),

1313-l314. (ln ]apanese)