レアメタルシリーズ2009 マンガン及びバナジウム...

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151 2010.3 金属資源レポート 南 博志 希少金属備蓄部 企画課長代理 はじめに JOGMEC 希少金属備蓄部では、備蓄 9 鉱種のうち、2006 年度に取りまとめた 6 鉱種(クロム、タングステン、 コバルト、モリブデン、マンガン、バナジウムの 6 鉱種。ニッケル、ガリウム、インジウムを除く)の需給価格動 向等について、今般、順次リバイスすることとしました。 本号では、マンガンとバナジウムを取り上げています。 <レアメタル備蓄制度についての詳細は、レアメタル備蓄のページをご参照下さい。 (http://www.jogmec.go.jp/mric_web/organization/japan/g3/index.html)> レアメタルシリーズ 2009 マンガン及びバナジウムの 需要・供給・価格動向等 1. 需要・供給 1 - 1. 世界の需給状況 表 1 に世界のマンガン鉱石生産量を示す。世界のマ ンガン鉱石生産量は、中国を中心とした粗鋼生産の好 調を反映して(なお、マンガン需要の約 95%を鉄鋼 用途が占めるため、その影響は非常に大きい)、1999 年 の 19,642 千 t か ら、2000 年 に は 20,000 千 t、2005 年には 30,000 千 t を超え、順調に増加してきた。それ に伴い、主要生産各国(南アフリカ(以下「南ア」と いう)、豪州、ガボン 等)に、鉱山から港湾までの輸 送能力、港湾の積出能力に制限が発生する問題が生じ てきたものの、2008 年には 34,510 千 t まで増加した。 しかし、2008 年後半の米国サブプライムローン問題 に端を発した金融危機に伴う景気後退の影響により、 その後の生産量は落込んでおり、大手生産者は減産体 制を強いられている。2009 年の生産量は減少したも のと見られる。また、供給の寡占状況を表す世界の生 産国上位 5 か国への集中度は、一度は低下したもの の、 長 期 的 に は 1999 年 の 72.1 % か ら 2008 年 に は 75.6%と上昇、寡占化は進んでいると言える。 表 2 に世界のマンガン系合金鉄需給を示す。世界の マンガン系合金鉄の供給量は、2007年は前年比約 12.7%増加して 13,296 千 t、2008 年はさらに約 2.5%増 加して 13,623 千 t となった。また、長期的にも、1999 年の 7,101 千 t と比較するとほぼ倍増している。一方、 需要も同様の動きを示し、世界のマンガン系合金鉄の 需要量は、2007 年は前年比約 13.9%増加して 13,341 千 t、2008 年はさらに約 1.0%増加して 13,475 千 t となっ た。需要面では、2007 年から 2008 年の秋頃までは、 鉱石と同様に中国を中心とした粗鋼生産の増加を反映 して順調に拡大してきた。供給面でも、2008 年には 南アでの電力供給不足や一部生産者の電気炉事故等の 阻害要因を乗り越え、需要の拡大に応じて増産されて きた。しかし、2008 年後半の金融危機に伴う景気後 退の影響は大きく、世界各地で長期休止等の大減産が 実施されて、2009 年も大きな回復はなかったと見ら れている。需給バランスは、2006 年は若干のプラス、 2007 年は若干のマイナスとなったが、2008 年はプラ スへと回復した。 【マンガン】 マンガンは、銀白色の脆い金属で、一般的には、ドイツ語の“マンガン Mangan”がそのまま用語として使われ ている(英語では“マンガニーズ Manganese”)。元素名は、磁石を意味するラテン語の“Magnes”に由来すると いう説と、マンガン鉱が古来ガラスの不純物を消す目的で用いられていたため“浄化”を意味する“Manganizo” に由来するという説がある。 マンガンは、鋼等に靭性、耐磨耗性、耐食性を付加するため添加される他、酸素及び硫黄と強い親和性を持って いるためフェロ・マンガン(FeMn:鉄とマンガンの合金)として製錬時の脱酸及び脱硫に使用され、製鉄業界で は欠かせない素材となっている。身近なところでは、マンガン乾電池の正極やアルミ飲料缶等に使われる。また、 マンガン自体は磁性を持たないものの、合金にすることで磁性を有し、フェライト磁石の原料になっている。な お、人体にとっては、骨の形成や代謝に関係する必須元素である。 1107

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1512010.3 金属資源レポート

特集・連載

レアメタルシリーズ2009 

マンガン及びバナジウムの需要・供給・価格動向等

南 博志希少金属備蓄部 企画課長代理

はじめにJOGMEC 希少金属備蓄部では、備蓄 9 鉱種のうち、2006 年度に取りまとめた 6 鉱種(クロム、タングステン、

コバルト、モリブデン、マンガン、バナジウムの 6 鉱種。ニッケル、ガリウム、インジウムを除く)の需給価格動向等について、今般、順次リバイスすることとしました。

本号では、マンガンとバナジウムを取り上げています。<レアメタル備蓄制度についての詳細は、レアメタル備蓄のページをご参照下さい。(http://www.jogmec.go.jp/mric_web/organization/japan/g3/index.html)>

レアメタルシリーズ2009マンガン及びバナジウムの需要・供給・価格動向等

1. 需要・供給1-1. 世界の需給状況

表 1 に世界のマンガン鉱石生産量を示す。世界のマンガン鉱石生産量は、中国を中心とした粗鋼生産の好調を反映して(なお、マンガン需要の約 95%を鉄鋼用途が占めるため、その影響は非常に大きい)、1999年 の 19,642 千 t か ら、2000 年 に は 20,000 千 t、2005年には 30,000 千 t を超え、順調に増加してきた。それに伴い、主要生産各国(南アフリカ(以下「南ア」という)、豪州、ガボン 等)に、鉱山から港湾までの輸送能力、港湾の積出能力に制限が発生する問題が生じてきたものの、2008 年には 34,510 千 t まで増加した。しかし、2008 年後半の米国サブプライムローン問題に端を発した金融危機に伴う景気後退の影響により、その後の生産量は落込んでおり、大手生産者は減産体制を強いられている。2009 年の生産量は減少したものと見られる。また、供給の寡占状況を表す世界の生産国上位 5 か国への集中度は、一度は低下したものの、 長 期 的 に は 1999 年 の 72.1 % か ら 2008 年 に は75.6%と上昇、寡占化は進んでいると言える。

表 2 に世界のマンガン系合金鉄需給を示す。世界の

マンガン系合金鉄の供給量は、2007 年は前年比約 12.7%増加して 13,296 千 t、2008 年はさらに約 2.5%増加して 13,623 千 t となった。また、長期的にも、1999年の 7,101 千 t と比較するとほぼ倍増している。一方、需要も同様の動きを示し、世界のマンガン系合金鉄の需要量は、2007 年は前年比約 13.9%増加して 13,341千 t、2008 年はさらに約 1.0%増加して 13,475 千 t となった。需要面では、2007 年から 2008 年の秋頃までは、鉱石と同様に中国を中心とした粗鋼生産の増加を反映して順調に拡大してきた。供給面でも、2008 年には南アでの電力供給不足や一部生産者の電気炉事故等の阻害要因を乗り越え、需要の拡大に応じて増産されてきた。しかし、2008 年後半の金融危機に伴う景気後退の影響は大きく、世界各地で長期休止等の大減産が実施されて、2009 年も大きな回復はなかったと見られている。需給バランスは、2006 年は若干のプラス、2007 年は若干のマイナスとなったが、2008 年はプラスへと回復した。

【マンガン】マンガンは、銀白色の脆い金属で、一般的には、ドイツ語の“マンガン Mangan”がそのまま用語として使われ

ている(英語では“マンガニーズ Manganese”)。元素名は、磁石を意味するラテン語の“Magnes”に由来するという説と、マンガン鉱が古来ガラスの不純物を消す目的で用いられていたため“浄化”を意味する“Manganizo”に由来するという説がある。

マンガンは、鋼等に靭性、耐磨耗性、耐食性を付加するため添加される他、酸素及び硫黄と強い親和性を持っているためフェロ・マンガン(FeMn:鉄とマンガンの合金)として製錬時の脱酸及び脱硫に使用され、製鉄業界では欠かせない素材となっている。身近なところでは、マンガン乾電池の正極やアルミ飲料缶等に使われる。また、マンガン自体は磁性を持たないものの、合金にすることで磁性を有し、フェライト磁石の原料になっている。なお、人体にとっては、骨の形成や代謝に関係する必須元素である。

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2010.3 金属資源レポート152

レアメタルシリーズ2009 

マンガン及びバナジウムの需要・供給・価格動向等

特集・連載

表 3 に、世界の電解金属マンガン需給を示す。現在、世界で電解金属マンガンを生産しているのは、中国と南アの 2 か国だけである。中でも中国が圧倒的な生産量を誇っている上に、さらに生産設備の拡大を図っている。一方、南アでは、2 工場の内、1 工場が2006 年 2 月から生産を休止した。

需要面では、マンガン添加のステンレス鋼(200 番系)用需要の増大により、中国の需要が大きく伸びて

きていたが、2008 年に既に若干の減少、2009 年にはさらに落込んでいると見られている。供給面も需要面に合わせて、同様な傾向と見られる。

表 4 に過去のマンガンの供給障害事例を示す。粗鋼生産の増産に伴うマンガン需給タイト、主要生産国の天災や輸送能力、港湾の積出能力不足による供給障害、生産に必要な物資の不足による生産障害等の事例が認められる。

表 1. 世界のマンガン鉱石生産量(単位:グロス千 t)

暦年 1999 2000 2001 2002 2003中国 5,300 27.0% 5,300 24.8% 5,300 24.4% 5,300 22.8% 5,300 20.9%南ア 3,050 15.5% 3,635 17.0% 3,271 15.0% 3,082 13.2% 3,799 15.0%豪州 1,912 9.7% 1,614 7.6% 2,069 9.5% 2,187 9.4% 2,555 10.1%ガボン 1,908 9.7% 1,743 8.2% 1,791 8.2% 1,856 8.0% 2,000 7.9%インド 1,490 7.6% 1,604 7.5% 1,483 6.8% 1,625 7.0% 2,018 8.0%カザフスタン 944 4.8% 1,202 5.6% 1,387 6.4% 1,835 7.9% 2,369 9.3%ブラジル 1,656 8.4% 1,925 9.0% 1,970 9.1% 2,529 10.9% 2,544 10.0%ウクライナ 1,985 10.1% 2,741 12.8% 2,740 12.6% 2,762 11.9% 2,523 10.0%その他 1,397 7.1% 1,612 7.5% 1,741 8.0% 2,103 9.0% 2,232 8.8%

合 計 19,642 - 21,376 - 21,752 - 23,279 - 25,340 - 上位 5か国計 14,155 72.1% 15,344 71.8% 15,350 70.6% 15,860 68.1% 16,721 66.0%

(出典:World Metal Statisatics Yearbook)

暦年 2004 2005 2006 2007 2008中国 5,300 19.8% 7,500 23.9% 8,000 24.0% 8,000 24.0% 8,500 24.6%南ア 4,207 15.7% 4,612 14.7% 5,213 15.7% 5,341 16.0% 6,807 19.7%豪州 2,426 9.1% 3,872 12.3% 4,556 13.7% 5,289 15.9% 4,838 14.0%ガボン 2,460 9.2% 2,859 9.1% 3,000 9.0% 3,300 9.9% 3,250 9.4%インド 2,149 8.0% 2,163 6.9% 1,910 5.7% 2,348 7.0% 2,701 7.8%カザフスタン 2,318 8.7% 2,233 7.1% 2,531 7.6% 2,482 7.4% 2,198 6.4%ブラジル 3,143 11.7% 3,200 10.2% 3,128 9.4% 1,866 5.6% 1,700 4.9%ウクライナ 2,278 8.5% 2,226 7.1% 2,245 6.7% 2,390 7.2% 1,975 5.7%その他 2,500 9.3% 2,692 8.6% 2,700 8.1% 2,301 6.9% 2,541 7.4%

合 計 26,781 - 31,357 - 33,283 - 33,317 - 34,510 - 上位 5か国計 17,536 65.5% 22,043 70.3% 23,897 71.8% 24,412 73.3% 26,096 75.6%

(出典 : 国際マンガン協会、平成 20 年度特殊金属プロジェクト委員会報告書(国際鉱物資源開発協力協会) 他)

表 2. 世界のマンガン系合金鉄需給

暦年 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

日本 515 531 563 431 433 514 539 460 473 492中国 1,839 1,940 2,300 2,690 2,887 4,079 4,449 5,240 6,150 6,410その他 4,747 5,217 4,761 5,237 5,743 6,205 5,654 6,100 6,673 6,721

供給 合計 7,101 7,688 7,624 8,358 9,063 10,798 10,642 11,800 13,296 13,623日本 - - - 755 763 742 777 862 970 1,045中国 - - - 1,960 2,362 3,056 3,795 4,643 5,275

12,430その他 - - - 5,631 5,831 6,221 6,479 6,210 7,096

需要 合計 - - - 8,346 8,956 10,019 11,051 11,715 13,341 13,475需給バランス - - - 12 107 779 -409 85 -45 148

(単位:グロス千 t)

(注) 需給共に、フェロマンガン(高炭素及び中低炭素)とシリコマンガンを合計したデータ。

(注) 2001 年以前の需要量はデータ無し。

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2010.3 金属資源レポート 153

特集・連載

レアメタルシリーズ2009 

マンガン及びバナジウムの需要・供給・価格動向等

表 4. 過去のマンガン供給障害事例

時 期 事  例 障害状況

1988 ~ 90 年(3 年間) 鉄鋼需要の増大による供給不足 国際価格が約 2 倍に高騰

2000 年 2 ~ 4 月(3 か月間) 豪州:サイクロンによる道路寸断で出荷停滞 日本への入荷遅延

2004 年 中国:中国国内の電力不足、コークス不足による生産障害フランス:Eramet 社工場の減産や操業停止

国際価格が 3 倍以上に高騰、世界需給の逼迫

2006 ~ 08 年 中国を中心とした需要拡大主要生産国における輸送能力、積出能力不足

国際価格が約 6 倍に高騰、世界需給の逼迫

(出典:日本メタル経済研究所報告書 等)

(出典 :平成 20 年度特殊金属プロジェクト委員会報告書(国際鉱物資源開発協力協会) 他)

表 3. 世界の電解金属マンガン需給

暦年 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

中国 123 152 210 325 492 540 730 820 800南ア 45 45 45 47 47 47 30 27 27

供給 合計 168 197 255 372 539 587 760 847 827日本 - 40 40 55 77 80 83 76 68北米 - 50 30 30 40 40 40 40 25EU - 40 60 60 70 70 80 75 70中国 - 30 80 160 220 260 400 500 500その他 - 20 50 70 110 120 150 100 107

需要 合計 - 180 260 375 517 570 753 791 770需給バランス - 17 -5 -3 22 17 7 56 57

(単位:千 t)

(注) 2000 年以前の需要量はデータ無し。

1-2. 日本の需給状況日本は、マンガン全量を、マンガン鉱石、マンガン

系合金鉄(フェロ・マンガン、シリコ・マンガン(SiMn:シリコン、マンガン、鉄の合金))、電解金属マンガン等の形態で輸入している。なお、国内では、現在、マンガン系合金鉄の生産を 4 社(日本電工㈱、中央電気工業㈱、水島合金鉄㈱、㈱神戸製鋼所)が行っている。2004 年の価格高騰の際には、JFE マテリアル㈱が富山工場で(高炭素フェロ・マンガン、シリコ・マンガン< 2 年間限定>)、日本電工㈱が日高工場で(シリコ・マンガン)、生産を再開させたが、いずれも現在は生産していない。また、電解金属マンガンについては、1990 年代半ばに最後の 2 社が相次いで生産を打ち切り、以降、生産はゼロとなっている。

表 5 にマンガン全体の主要対日輸出国を示す。マンガン全体の対日輸出国の上位 5 か国集中度は 1999 年の 93.5%から 2008 年は 95.9%と上昇し、その寡占度は非常に高いレベルで推移していると言える。

日本企業の海外への権益投資は、マンガン系合金鉄では、南ア・Cato Ridge Alloy(中低炭素フェロ・マンガン生産:ASSMANG 50%、水島合金鉄㈱ 40%、住友商事㈱ 10 %)、 南 ア・Adovaloy( 中 低 炭 素 フ ェ ロ・ マ ン ガン生産:SAMANCOR 50%、三井物産㈱ 50%)、中 国・錦州日電合金(シリコ・マンガン生産:日本電工㈱

70%、豊田通商㈱ 25.2%、錦州鉄合金 4.8%)、中国・オルドスマンガンアロイ(シリコ・マンガン生産:オルドス電力冶金 51%、JFE スチール㈱ 24.5%、三井物産㈱ 24.5%)の 4 件が挙げられる。一方、主原料であ る マ ン ガ ン 鉱 石 に 対 し て は、 住 友 商 事 ㈱ のASSMANG への出資(1%)1 件のみと少ない。

表 6 に日本のマンガン系合金鉄需給を示す。日本のマンガン需要では、鉄鋼・特殊鋼分野における製鋼用消費が、世界全体と同様に、そのほとんどを占めている。他には、電池分野(マンガン乾電池、アルカリ乾電池、リチウム一次電池の 3 種類に使用されている)及びフェライト磁石、アルミ飲料缶等における需要がある。日本においても、粗鋼生産増により需要量は年々増加してきたが、金融危機に伴う景気後退により、2009 年には需給とも減少する見通しである。

表 7 に日本の電解金属マンガン輸入量を示す。電解金属マンガンは、2002 年以降の中国の安値攻勢により、低炭素フェロ・マンガンの代替として鉄鋼向け輸入量が増加してきたが、低炭素フェロ・マンガンとの価格差が無くなってきたこと等により、両者間の切替えが頻繁になり、2006 年以降は輸入量が大きく変動する状況となっている。2009 年は、需要減及び切替えの継続により、減少傾向にあると予測されている。

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レアメタルシリーズ2009 

マンガン及びバナジウムの需要・供給・価格動向等

特集・連載

表 5. マンガンの主要対日輸出国(単位:純分換算 t)

暦年 1999 2000 2001 2002 2003南ア 353,725 44.5% 319,005 42.2% 346,329 43.8% 354,997 47.1% 372,738 43.5%中国 151,177 19.0% 166,596 22.1% 161,833 20.5% 188,604 25.0% 224,206 26.1%豪州 178,168 22.4% 173,460 23.0% 186,324 23.6% 130,109 17.3% 185,606 21.6%韓国 3,135 0.4% 8,931 1.2% 10,186 1.3% 5,077 0.7% 4,281 0.5%インド 42,394 5.3% 27,918 3.7% 43,019 5.4% 43,000 5.7% 18,658 2.2%ガボン 12,373 1.6% 13,269 1.8% 1,231 0.2% 9,056 1.2% 9,262 1.1%ウクライナ 17,740 2.2% 6,837 0.9% 7,055 0.9% 10,021 1.3% 7,372 0.9%ガーナ 15,677 2.0% 17,477 2.3% 17,345 2.2% 9,534 1.3% 22,659 2.6%ブラジル 12,844 1.6% 17,946 2.4% 6,330 0.8% 0 0.0% 953 0.1%その他 7,900 1.0% 4,022 0.5% 10,488 1.3% 2,676 0.4% 11,802 1.4%

合 計 795,133 - 755,461 - 790,140 - 753,074 - 857,537 - 上位 5か国計 743,204 93.5% 704,925 93.3% 754,850 95.5% 726,731 96.5% 823,867 96.1%

(出典:貿易統計より JOGMEC 換算)

暦年 2004 2005 2006 2007 2008南ア 376,126 42.3% 416,653 46.6% 316,549 36.5% 368,048 38.9% 336,942 35.5%中国 209,951 23.6% 171,713 19.2% 228,877 26.4% 296,707 31.3% 261,574 27.5%豪州 208,840 23.5% 205,825 23.0% 224,815 26.0% 197,573 20.9% 243,243 25.6%韓国 4,526 0.5% 10,324 1.2% 17,760 2.1% 26,441 2.8% 41,861 4.4%インド 25,101 2.8% 20,535 2.3% 24,790 2.9% 20,666 2.2% 27,085 2.9%ガボン 9,762 1.1% 20,271 2.3% 18,650 2.2% 9,167 1.0% 0 0.0%ウクライナ 21,104 2.4% 26,136 2.9% 17,629 2.0% 8,154 0.9% 19,151 2.0%ガーナ 20,634 2.3% 10,874 1.2% 75 0.0% 1,197 0.1% 0 0.0%ブラジル 953 0.1% 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 208 0.0%その他 11,521 1.3% 10,827 1.2% 16,978 2.0% 19,300 2.0% 19,626 2.1%

合 計 888,518 - 893,158 - 866,123 - 947,253 - 949,690 - 上位 5か国計 841,122 94.7% 840,862 94.1% 813,681 93.9% 909,435 96.0% 910,705 95.9%

(出典 : 国際マンガン協会、貿易統計、平成 20 年度特殊金属プロジェクト委員会報告書(国際鉱物資源開発協力協会) 他)

表 6. 日本のマンガン系合金鉄需給

暦年 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

生産 515 531 563 431 433 514 539 460 473 490輸入 317 293 273 312 370 354 296 372 514 569

供給 合計 832 824 836 743 803 868 835 832 987 1,059製鋼用消費 609 673 692 710 763 807 826 862 970 1,045輸入 23 49 28 15 18 10 10 8 6 3

需要 合計 632 722 720 725 781 817 836 870 976 1,048需給バランス 200 102 116 18 22 51 -1 -38 11 11

(単位:グロス千 t)

(注) 需給共に、フェロマンガン(高炭素及び中低炭素)とシリコマンガンを合計したデータ。

(出典:貿易統計)

表 7. 日本の電解金属マンガン輸入量

暦年 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

中国 28.8 33.5 45.1 37.0 55.4 73.7 75.8 67.9 83.4 60.0南ア 9.3 8.5 6.6 7.4 7.7 8.6 7.8 6.7 7.0 6.4その他 1.8 1.3 1.0 1.4 1.1 1.0 0.7 0.9 0.7 0.4

輸入 合計 39.9 43.3 52.7 45.8 64.2 83.3 84.3 75.5 91.1 66.8

(単位:千 t)

なお、日本におけるリサイクルの現状を定量的に把握した統計は存在しない。鉱物資源マテリアルフロー2008(JOGMEC)によると、2007 年の鉄鋼応用製品のスクラップ等からのリサイクル量は、マンガン純分で 191 千 t と推定されている。また、各種スラグ中にも、かなりの量のマンガンが含まれているが、リサイ

クルされにくい。一方、その他の用途の内、アルミ製品のリサイクルはほぼ確立されており、マンガン純分で 3,069t がリサイクルされたと推定されている。また、マンガン電池は約 30%程度がリサイクルされている。

(1110)

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マンガン及びバナジウムの需要・供給・価格動向等

2. 価 格マンガンに関する国際的な価格決定機構は存在しな

い。なお、フェロ・マンガンの取引においては、一般的には Metals Week 誌のフェロ・マンガンの価格

(マンガン純分 78%物:CIF)が指標として用いられている。

フェロ・マンガンの価格は、1970 年代半ば以降1988 年頃まで、安定した供給を背景に 300 ~ 500 US$/LT(ロング・トン(※))で推移していた。その後、1980 年代後半に世界で鉄鋼生産が増大したことにより、1989 年から 1991 年半ばにかけて 600 US $/LT 台まで高騰したものの、中国の供給量増加により世界の需給は安定、1991 年後半から 2003 年半ばまでは 400 ~ 600 US/LT の範囲で推移した。しかし、中国国内の鉄鋼需要増、中国での電力不足による生産設備の稼働率の低下等により、2003 年末から 2004 年末に

※ LT(ロング・トン): ヤード・ポンド法によるイギリス制の質量単位、メートル法の“t”との換算式は、1LT ≒ 1.016t。

かけて価格は急騰し、2004 年半ばには 1,700 US $/LT 台まで上昇した。2005 年は、価格高騰を受けて多くの生産者が増産した結果供給過剰状態となり、一旦500 US $/LT 台まで下落したものの、この急落を受けて生産者が再び減産したことにより需給は引締まり、価格は回復基調に入った。そして、2007 年から2008 年にかけて、中国を中心とした粗鋼生産の増加、南アの電力不足、中国の輸出税率の引上げ等により、価格は記録的な急騰を示し、2004 年の 2 倍弱となる史上最高値の 3,300 US $/LT 台まで上昇した。現在

(2010 年初め)は、景気後退の影響により下落し、1,300 US $/LT 台で推移している。

3. 用 途図 1 にマンガンのマテリアルフロー(日本)を示す。

(出典:平成 20 年度特殊金属プロジェクト委員会報告書(国際鉱物資源開発協力協会))

図 1. マンガンのマテリアルフロー(日本)< 2007 年>

(単位:千 t)

(1111)

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マンガン及びバナジウムの需要・供給・価格動向等

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表 8. 世界の主要なマンガン鉱石の生産者

国名 会社名 (資本) 等生 産 (百万t)

グロス量 注釈中国 主要生産者 26 社合計 4.2 生産能力南ア Samancor (BHP Billiton 60%) 2.6 近年の最大生産量

Assmang 1.7 2006/07 年豪州 Gemco (BHP Billiton 60%) 3.1 2006 年ガボン Comilog (Eramet 67%) 3.0 2006 年インド MOIL 1.0 2006/07 年ブラジル CVRD 2.3 2006 年ウクライナ Ordzhonikidzevsky 1.3 2005 年ガーナ GMC 1.7 2005 年

(出典:Roskill)

マンガンは、マンガン鉱石、マンガン系合金鉄、電解金属マンガンとして日本に輸入される。

鉄鋼・特殊鋼分野は、日本のみならず世界のマンガンの需要分野として最大である(前述のように世界のマンガン需要の約 95%が鉄鋼・特殊鋼分野の需要)。日本では、マンガン鉱石及びマンガン系合金鉄は全量、電解金属マンガンでも輸入量の 70%弱が、この鉄鋼・特殊鋼分野で使用されている。

マンガンは、酸素、硫黄と結合しやすい性質を持つため、普通鋼を生産する際の脱酸、脱硫に使用されている。具体的にはマンガン鉱石の高炉への直接使用またはフェロ・マンガン、シリコ・マンガンの合金鉄の形で製鋼プロセス時に添加される。また、特殊鋼においても、靭性、耐磨耗性、耐食性を付加するため添加される。マンガンは、これら特殊鋼に添加されることにより、靱性を劣化させずに強度を高めたり、鋼中の硫黄と結合して硫化物を作り被切削性を増加させたりする他、鋼の赤熱脆性(鋼に硫黄、酸素、銅等がやや多く含有されると、熱間加工温度に加熱された時結晶粒界が溶解して脆くなる現象をいう)を防止するという特性を有している。なお、マンガンが添加された特殊鋼の用途としては、新幹線のレール、切削加工材料、各種機械部品の成型用ダイ、化学工業用機械・器具、船舶・車両構造材料、建築材料等が挙げられる。

また、その他の用途としては、マンガン乾電池材料、アルミ飲料缶材料、フェライト磁石原料等がある。

4. 生産・製錬マンガン鉱床は、概ね、層状マンガン鉱床であり、

厚さ数m程度の薄層として形成されている。一般に、鉱床の延長方向に連続性があり、1 つの鉱床の規模は大きく大型採掘機械の導入を可能にしている。採掘方法は露天掘と坑内掘がある。坑内掘鉱山は、生産規模も露天掘鉱山に比べ小さく、コストも割高であり、増

産への弾力性を乏しくしている。一方、露天掘鉱山は生産性及びコストの面で有利だが、採掘が進むにつれて、剥土比が上昇し、大型剥土機械の導入が必要となる場合がある。

マンガン鉱石の選鉱工程は酸化物鉱と炭酸塩鉱によって異なる。酸化物鉱は水洗だけで容易に品位向上できるため、鉱石を破砕後、水洗分級により粘土分を除去する簡易選鉱を行う。脈石の混入が多い場合は、重液選鉱等の比重選鉱を組み合わせて選鉱している。一方の炭酸塩鉱は、水洗、重液選鉱の他に酸化物鉱にはない浮遊選鉱、高磁力選鉱法の複雑な選鉱工程を採用している場合がある。

表 8 に世界の主要なマンガン鉱石の生産者・鉱山を示す。

なお、マンガン鉱石は、高品位鉱(マンガン品位44%以上)、中品位鉱(マンガン品位 30 ~ 44%)、低品位鉱(マンガン品位 30%未満)に分類される。この内、高品位鉱の生産は、南ア、豪州、ブラジル、ガボンの 4 か国に集中している。また、中品位鉱の生産はウクライナ、低品位鉱の生産は中国とガーナが圧倒的なシェアを占めている。

マンガン系合金鉄には、フェロ・マンガンとシリコ・マンガンがある。フェロ・マンガンは、マンガン鉱石にコークスを配合し電気炉で溶融して生産する。炭素の含有量 7.5%以下の物を高炭素フェロ・マンガン、同じく 2.0%以下を中炭素フェロ・マンガン、1.0%以下を低炭素フェロ・マンガンとして分類している。シリコ・マンガンはマンガン 60 ~ 70%、シリコン 14 ~25%、かつ炭素分が少ない、シリコン、マンガン、鉄の合金である。

表 9 に世界の主要なマンガン系合金鉄の生産者を示す。

なお、前述のとおり、現在、日本においても計 4 社が南ア、豪州等から鉱石を輸入し、マンガン系合金鉄の生産を行っている。

(1112)

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マンガン及びバナジウムの需要・供給・価格動向等

表 10. 世界のマンガン埋蔵量

(出典:Mineral Commodity Summaries)

国 名 埋蔵量(純分百万 t)ウクライナ 140 25.9%南ア 130 24.1%豪州 87 16.1%インド 56 10.4%ガボン 52 9.6%中国 40 7.4%ブラジル 29 5.4%メキシコ 4 0.7%その他 2 0.4%

合 計 540

表 9. 世界の主要なマンガン系合金鉄の生産者

国名 会社名 (資本) 等生産能力 (百万 t/ 年)

グロス量 注釈中国 Jilin Ferro-alloy Works 0.46 FeMn,SiMn 生産

Bayi Ferroalloys (Group) 0.28 SiMn 生産Longteng Ferroalloys 0.25 SiMn 生産Hunan Ferro-alloy Works 0.21 FeMn,SiMn 生産Minmetals (Guizhou) Ferroalloys 0.20 SiMn 生産

南ア Samancor (BHP Billiton 60%) 0.52Transalloys (Highveld) 0.23Assmang 0.20 さらに多い可能性有り

豪州 Temco (BHP Billiton 60%) 0.25 さらに多い可能性有りブラジル RDM/Urucum (CVRD) 0.39ウクライナ Nikopol 1.30

Zaporozh'e 0.26カザフスタン Aksu 0.21 SiMn 生産(2006 年)日本 Nippon Denko 0.27

Mizushima Ferroalloy (JFE steel) 0.23ノルウェー Eramet 0.36

グルジア Zestaponi 0.42 実際の生産は最大でも 0.1 百万 t

米国 Felman 0.20 旧 Highlandersスペイン Ferroatlantica 0.31メキシコ Minera Autlan 0.22

(出典:Roskill)

5. 資 源マンガンの地殻存在度は約 1,000ppm で、地球上に

存在する元素の中で 12 番目に多い鉱物である。マンガン資源として採掘されている鉱物は、酸化マンガン鉱、炭酸マンガン鉱、珪酸マンガン鉱の 3 種類に大別できる。この内、高品位で最も多く使用されるのは酸化マンガン鉱である。炭酸マンガン鉱と珪酸マンガン鉱は一般に中・低品位の鉱石である。

現状、マンガン鉱床はウクライナ、ルーマニア、ハンガリーの黒海周辺地域、ブラジル、ガボン、ガーナ等の南半球大西洋圏と、中国、南ア、豪州、インド等大陸移動前のゴンドワナ大陸と呼ばれる地域に分布しているが、北米大陸及びその他の地域にはマンガン資源は乏しい。

表 10 に世界のマンガン埋蔵量を示す。日本においては、昭和 40 年時点ではマンガン鉱山

会社は 108 社あり、主として低品位鉱を合計約 29 万 t生産していたが、昭和 61 年を最後に生産は無くなった。主要な鉱山としては、北海道の上国鉱山、大江鉱山、稲倉石鉱山、石崎鉱山、岩手県の野田玉川鉱山、長野県の浜横川鉱山が挙げられる。

なお、他に、マンガン、ニッケル、コバルト等のレアメタルを豊富に含有するマンガン団塊、コバルト・リッチ・クラスト等の深海底鉱物資源も地球上には存在している。これらの資源はいずれも陸上資源に比べて桁違いの埋蔵量があるものと推定され、近年海洋資源として注目を浴びているが、採掘・製錬コスト、環境問題等クリアすべきハードルはまだ高い。

6. まとめマンガンは、2003 年までは安定した供給を背景に

価格変動が比較的少なかったが、2004 年以降は二度も史上最高値を更新する(2004、2008 年)など大きく価格が変動した。この価格変動は、中国のマンガン系合金鉄生産量及び鉄鋼需要の動向が最も大きな要素である。また、中国は鉱物資源の輸出を抑制し国内需要に振り向ける政策をとっており、マンガンも例外ではない(輸出関税の税率引上げ等)。従って、マンガンでも、今後、中国の動向は常に把握しておかなければならない。マンガンは必ずしも供給安定性が高いとは言い切れない鉱種であると言える。

(1113)

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マンガン及びバナジウムの需要・供給・価格動向等

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【バナジウム】バナジウムは、スウェーデン産の鉄鉱石中から発見されたため、スカンジナビア神話の愛と美の女神“バナジス

Vanadis”にちなんで命名された。銀白色をした、低比重(6.11g/cm3)、高融点(1,915℃;なお、1,700 ~ 1,800℃台としている文献等もある)の金属である。

バナジウムは、鋼や合金に添加されるとその抗張力や耐熱性を高める性質があり、建築構造材、橋梁、工具、航空機、ロケット向けに使用されている。また、需要の大半を占めるこれら鉄鋼・特殊鋼向け用途の他、触媒として石油の脱硫、アルコールの酸化、硫酸製造、プロピレン樹脂合成等にも利用されている。最近では、人体内で血糖値を下げる性質が注目されており、健康サポート飲料としてバナジウム入りミネラルウォーターも市販されている。

1. 需要・供給1-1. 世界の需給状況

表 11 に世界のバナジウム生産量を示す。世界のバナジウム生産量は、マンガンと同様、近年の中国を中心とした粗鋼生産の好調を反映して(バナジウム需要の 90%以上を鉄鋼・特殊鋼用途が占めている)、長期的には増加傾向にあった。短期的には、価格低迷期にXstrata の 豪 州・Windmurra 工 場 の 閉 鎖(2003 年 2月~生産再開計画凍結中)及び南ア・Vantech 工場の生産休止(2004 年 1 月~)が実施され、特に前者の場合は一時的に生産量が減少することもあった。しかし、2008 年は、主要生産国である南アの電力不足及び中国四川大地震の影響が大きく、加えて金融危機

に伴う景気後退もあり、世界の生産量は前年比約7.1%減の 96.6 千 t となった。この状況は 2009 年も続き、生産量の減退が予測されている。その中で、中国は、国内需要への対応に加えてアジア地域への輸出も積極的で、生産量を年々着実に増やして 2008 年には南アを抜いて世界第 1 位のバナジウム生産国になったと推定され、世界の生産を牽引している。また、供給の寡占状況を表す世界の生産国上位 5 か国の集中度は、1999 年の 95.5%から 2007 年は 93.7%と微減となっているものの、非常に高いレベルを維持している。

暦年 2004 2005 2006 2007 2008(推定)中国 15.4 18.8% 21.5 23.3% 28.5 29.0% 30.5 29.3% 31.8 32.9%南ア 37.7 45.9% 38.7 41.9% 37.3 38.0% 39.0 37.5% 31.5 32.6%ロシア 12.7 15.5% 13.1 14.2% 14.3 14.6% 15.4 14.8% 14.9 15.4%米国 10.4 12.7% 10.9 11.8% 9.7 9.9% 10.2 9.8% 9.8 10.1%日本 1.8 2.2% 1.8 1.9% 2.0 2.0% 2.3 2.2%

8.6 8.9%

ニュージーランド 1.8 2.2% 2.3 2.5% 2.3 2.3% 2.3 2.2%英国 0.2 0.2% 0.2 0.2% 0.2 0.2% 0.2 0.2%台湾 0.5 0.6% 0.5 0.5% 0.5 0.5% 0.5 0.5%豪州 0.0 0.0% 0.0 0.0% 0.0 0.0% 0.0 0.0%東欧 1.6 1.9% 3.4 3.7% 3.4 3.5% 3.6 3.5%

合 計 82.1 - 92.4 - 98.2 - 104.0 - 96.6 - 上位 5か国計 78.0 95.0% 86.5 93.6% 92.1 93.8% 97.4 93.7% - -

表 11. 世界のバナジウム生産量(単位:V2O5 換算量 千 t)

暦年 1999 2000 2001 2002 2003中国 9.9 15.0% 15.7 20.1% 13.6 16.9% 12.7 16.1% 12.7 17.8%南ア 33.8 51.2% 31.6 40.4% 33.5 41.6% 32.1 40.8% 32.2 45.0%ロシア 9.5 14.4% 16.2 20.7% 15.8 19.6% 13.6 17.3% 12.5 17.5%米国 8.4 12.7% 7.7 9.8% 8.1 10.0% 10.0 12.7% 10.1 14.1%日本 1.4 2.1% 1.4 1.8% 1.4 1.7% 1.7 2.2% 1.7 2.4%ニュージーランド 1.1 1.7% 1.1 1.4% 1.8 2.2% 1.4 1.8% 0.5 0.7%英国 0.9 1.4% 0.9 1.1% 0.7 0.9% 0.9 1.1% 1.1 1.5%台湾 0.5 0.8% 0.5 0.6% 0.5 0.6% 0.5 0.6% 0.5 0.7%豪州 0.0 0.0% 2.7 3.4% 5.0 6.2% 5.6 7.1% 0.0 0.0%東欧 0.5 0.8% 0.5 0.6% 0.2 0.2% 0.2 0.3% 0.2 0.3%

合 計 66.0 - 78.3 - 80.6 - 78.7 - 71.5 - 上位 5か国計 63.0 95.5% 73.9 94.4% 76.0 94.3% 74.0 94.0% 69.2 96.8%

(出典:平成 20 年度特殊金属プロジェクト委員会報告書(国際鉱物資源開発協力協会) 等)

(1114)

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マンガン及びバナジウムの需要・供給・価格動向等

表 12. 世界のバナジウム需給

(出典:平成 20 年度特殊金属プロジェクト委員会報告書(国際鉱物資源開発協力協会) 等)

暦年 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008(推定)

供給 合計 66.0 78.3 80.6 78.7 71.5 82.1 92.4 98.2 104.0 96.6西欧 15.6 16.1 16.3 16.8 17.2 18.6 18.6 19.1 19.5 18.6中国 4.1 5.4 5.7 5.9 7.7 14.5 17.2 16.8 18.1 18.1米国 14.7 15.2 16.1 16.1 16.3 15.9 16.8 17.2 17.7 16.5日本 7.7 8.6 8.8 9.5 12.2 9.1 9.5 10.2 10.4 10.4旧ソ連諸国 4.1 5.4 5.9 6.2 5.9 7.0 8.2 9.5 10.0

13.8東欧 1.4 1.4 1.8 2.0 1.8 2.9 3.6 4.5 5.0その他 12.6 12.9 14.3 13.7 16.6 18.9 19.2 19.1 21.0 20.8

需要 合計 60.2 65.0 68.9 70.2 77.7 86.9 93.1 96.4 101.7 98.2

需給バランス 5.8 13.3 11.7 8.5 - 6.2 - 4.8 - 0.7 1.8 2.3 - 1.6

(単位:V2O5 換算量 千 t)

表 12 に世界のバナジウム需給を示す。世界の需要量は、中国を中心とした粗鋼生産の好調、また、この情勢を背景に欧州・ロシア・中国・中央アジア諸国を中心に原油ラインパイプ敷設プロジェクトが多数進行しており、かつ、鋼材の高抗張力化の浸透も加わり、近年、増加傾向にあった。需要量は、2007 年には史上初めてグロス量で 100 千 t を超え、前年比約 5.5%増の 101.7 千 t となった。しかし 2008 年は、金融危機に伴う景気後退の影響で粗鋼が大きく減産、2009 年も、欧米や日本では減産状況からの回復にはまだ時間を要すると見られていて、需要量は大幅な減少が予想されている。需給バランスは、2005 ~ 2008 年では、若干のプラスマイナスはあるものの、ほぼバランスしている状況となっている。

なお、中国では、2009 年もインフラ整備を伴う大型景気対策が実施されていて、粗鋼生産は 2008 年と同程度まで回復していると見られている。むしろ、国内生産量が減少して積極的に輸入を行うにまで至っていて、今後はさらに増えると考えられる。中国は以下のように内需優先・輸出規制の方向へ政策を実施してきており、今後も中国の動向をますます注視する必要があると考えられる。

【輸 出増値税の還付】<バナジウム精鉱> 2004 年 1 月に撤廃、還付率13%→ 0%。 <五酸化バナジウム> 2004 年 1 月に引下げ、還付率 15%→ 5%、2007 年 7 月に撤廃、還付率 5%→ 0%。

【輸 出税】 <フェロ・バナジウム> 2006 年 11 月に新設、税率 0%→ 10%。2008 年 1 月に引上げ、税率 10%→ 20%、 <五酸化バナジウム> 2008 年 1 月に新設、税率0%→ 5%。

【輸 出許可証管理】 <五酸化バナジウム> 及び <フェロ・バナジウム> を 2007 年 1 月から管理対象に追加。

また、表 13 に過去のバナジウムの供給障害事例を示す。原料の 1 つであるバナジウムスラグの供給減や鉄鋼用途の需要増による需給の逼迫等が主な原因となっている。近年では、上記のとおりの中国の動きが大きく影響している。

表 13. 過去のバナジウム供給障害事例

時 期 事  例 障害状況

1988 年 南ア: 経済制裁に伴う南ア・Highvelt からの含バナジウムスラグ供給大幅減、鉄鋼需要の増大に伴う供給不足

国際価格が約 3 倍に高騰

1994年11月~ 1995年2月(4 か月間)

中国: 南アからの原料スラグ入手減による生産減、モリブデン高騰により一部切替

国際価格が約 2.5 倍に高騰、入手困難

1997 ~ 98年 ロシア:含バナジウムスラグ供給減南ア:Highvelt の増産計画の停滞

国際価格が約 1.5 倍に高騰、入手困難

2003年12月 南ア:通貨ランド高騰による生産減ロシア:Vanady Tula の株主間紛争による生産停止

国際価格が 2 倍以上に高騰

2004年9月~ 2005年4月 中国を中心とした世界的な需要(粗鋼生産)増、 原料の新規生産・増産計画が無いことによる供給不足不安

国際価格が 5 倍以上に高騰(史上最高値を更新)、

需給逼迫

2008年2 ~ 6月 南ア:電力不足による生産減中国:輸出税率引上げ(五酸化バナジウム、フェロバナジウム)

国際価格が 2 倍以上に高騰(価格低迷時の約 10 倍)

(出典:日本メタル経済研究所報告書 等)

(1115)

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マンガン及びバナジウムの需要・供給・価格動向等

特集・連載

1-2. 日本の需給状況日本は、バナジウム全量を、主に五酸化バナジウ

ム、フェロ・バナジウムの形態で輸入している。なお、現在、国内の五酸化バナジウム生産は、太陽鉱工㈱及び日本キャタリストサイクル㈱の 2 社が石油精製用使用済触媒からの回収、新興化学工業㈱が重油ボイラーの煙灰からの回収という形で行っている(ただし、日本キャタリストサイクル㈱は、2011 年 3 月をもって解散することが発表されている)。また、フェロ・バナジウム生産は、2001 年の粟村金属工業㈱の撤退、2003 年の日本電工㈱の海外生産への移転により、太陽鉱工㈱ 1 社のみとなっていたが、2006 年 4月から㈱メタルテクノロジーが石油精製用使用済触媒及び重油ボイラーの煙灰からの生産を開始している。

表 14 にバナジウム全体の主要対日輸出国を示す。バナジウム全体の対日輸出国の上位 5 か国集中度は1999 年の 96.1%から 2008 年は 95.6%で微減となっていて、その寡占化は非常に高いレベルで推移していると言える。

日本企業の海外への権益投資は、フェロ・バナジウムでは、唯一、南ア・South African Japan Vanadium(SAJV)(Vanchem 50%、日本電工㈱ 40%、三井物産㈱ 10%)がある。同社は 2003 年 7 月に操業を開始し、全量日本輸出向け(日本電工㈱向け)に 3,000 グロス t/年の生産を行っている。なお、この 3,000t は、日本の 2005 年のフェロ・バナジウム輸入量(5,821 t:下記表 5 参照)の 50%を超えており、本件については、

日本への安定供給源として一定の評価が得られていると思われる。 また、 その他では、 双日㈱が米国・Stratcor に出資(25%)し、同社の傘下企業である南ア・Vametco が Brits 工場で生産している Nitrovan(ナイトロバン、窒化バナジウム)の南アを除く全世界への独占販売権を持っている。

表 15 に日本のフェロ・バナジウム需給を示す。日本のバナジウム需要では、鉄鋼・特殊鋼分野における製鋼用消費が世界全体と同様にそのほとんど(約90%)を占めている。他には、触媒、顔料、金属等の分野でも需要がある。2008 年の需要量は、夏場まで好調だった粗鋼・特殊鋼の生産が景気後退の影響で減退し、年間を通しては前年比約 2.4%減で 7,512t となった。一方、供給量は国内生産増、輸入増により増加したため、2008 年は供給過多となった。

なお、日本におけるリサイクルの現状を定量的に把握した統計は存在しない。鉱物資源マテリアルフロー2008(JOGMEC)によると、鉄鋼・特殊鋼分野では、バナジウムを主目的としたリサイクルは行われておらず、鋼のスクラップからはほとんど回収されていないと考えられている。また、触媒分野は、硫酸製造用、排ガス脱硝用触媒については鉄鋼材料用としてリサイクルされている。石油精製用脱硫触媒については前述のとおり五酸化バナジウム生産の原料として、リサイクルされている。

表 14. バナジウムの主要対日輸出国(単位:純分換算 t)

暦年 1999 2000 2001 2002 2003南ア 2,318 61.7% 2,096 41.9% 2,120 45.6% 2,580 51.3% 3,866 67.7%中国 906 24.1% 1,552 31.0% 1,099 23.6% 1,330 26.5% 1,161 20.3%韓国 2 0.1% 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 99 1.7%チェコ 158 4.2% 171 3.4% 157 3.4% 16 0.3% 61 1.1%ロシア 40 1.1% 174 3.5% 121 2.6% 176 3.5% 49 0.9%米国 81 2.2% 156 3.1% 132 2.8% 147 2.9% 116 2.0%台湾 56 1.5% 31 0.6% 16 0.3% 14 0.3% 112 2.0%オーストリア 150 4.0% 106 2.1% 78 1.7% 72 1.4% 112 2.0%豪州 0 0.0% 515 10.3% 795 17.1% 605 12.0% 56 1.0%その他 49 1.3% 199 4.0% 129 2.8% 87 1.7% 77 1.3%

合 計 3,760 - 5,000 - 4,647 - 5,027 - 5,709 - 上位 5か国計 3,613 96.1% 4,508 90.2% 4,302 92.6% 4,839 96.3% 5,368 94.0%

(出典:貿易統計より JOGMEC 換算)

暦年 2004 2005 2006 2007 2008南ア 3,971 66.1% 3,143 48.6% 2,554 40.8% 2,652 43.4% 2,334 34.1%中国 841 14.0% 1,633 25.3% 1,562 24.9% 1,573 25.7% 2,237 32.7%韓国 50 0.8% 400 6.2% 438 7.0% 634 10.4% 1,002 14.7%チェコ 144 2.4% 317 4.9% 870 13.9% 781 12.8% 647 9.5%ロシア 338 5.6% 495 7.7% 288 4.6% 150 2.5% 317 4.6%米国 236 3.9% 189 2.9% 333 5.3% 133 2.2% 144 2.1%台湾 241 4.0% 69 1.1% 12 0.2% 30 0.5% 24 0.4%オーストリア 104 1.7% 96 1.5% 64 1.0% 48 0.8% 48 0.7%豪州 0 0.0% 22 0.3% 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0%その他 79 1.3% 100 1.5% 145 2.3% 107 1.8% 85 1.2%

合 計 6,004 - 6,464 - 6,266 - 6,108 - 6,838 - 上位 5か国計 5,627 93.7% 5,988 92.6% 5,757 91.9% 5,790 94.8% 6,537 95.6%

(1116)

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2. 価 格バナジウムに関する国際的な価格決定機構は存在し

ない。なお、フェロ・バナジウムの取引においては、一般的に Metal Bulletin 誌のフェロ・バナジウムの価格(バナジウム純分 70 ~ 80%:CIF)が指標として用いられている。

フェロ・バナジウムの価格は、1980 年以降、粗鋼生産の減少等による供給過剰により、1988 年初までほぼ 10 US $/kg 台で低迷していた。しかし、粗鋼生産の増大に伴う需要増や投機筋の介入により、1988年から 1989 年にかけて価格は高騰、一時は約 50 US$/kg の高値となった。その後は、比較的価格が安定していたニオブへの代替が進んだため、1990 年後半から軟化し、1994 年半ばまでは再び 10 US $/kg 前後に低迷した。1994 年半ば以降は、モリブデン鉱価格の高騰が飛び火し、投機筋の動きもあって価格は若干上昇、主要生産者の再編や生産調整が行われたこともあり、1997 年末まで 10 US $/kg 台後半で推移した。さらに 1998 年には、欧州を中心としたパイプライン関連需要増に対し、ロシアからの供給減及び南アにおける増産計画の遅延により、価格は 30 US $/kg 前後まで高騰した。1999 年以降は、粗鋼生産の減少に伴い需要減となった他、豪州において新規プロジェクト

(Windmurra 工場)が立ち上がり、Rand(南ア通貨)安も相まって、2003 年まで 10 US $/kg を下回る低迷を続けた。しかし、世界の粗鋼生産の増大やラインパイプ敷設プロジェクトの進展、鋼材の高抗張力化の浸透により需要増となった。さらに、2003 年に豪州・Windmurra 工場が短期間で閉鎖し、2004 年には南ア・Vantech 工場も生産休止となり、供給不足状態となったため、投機筋の介入もあって 2004 年から 2005 年にかけて暴騰、一時は史上最高価格を更新し約 120 US$/kg の異常な高値となった。その後は、若干沈静化し、2006 年 か ら 2007 年 に か け て 30 ~ 40 US $/kgで推移していたが、2008 年は、南アの電力不足、中国での輸出税率引上げにより、再び 80 US $/kg 台まで高騰した。その後、金融危機に伴う景気後退の影響で大きく下落し、20 US $/kg 台で推移している。今後は、中国以外、欧米や日本等における粗鋼生産の回復状況が注目されるが、未だ時間を要するとの見方が強い。

3. 用 途図 2 にバナジウムのマテリアルフロー(日本)を示

す。

表 15. 日本のフェロ・バナジウム需給

(出典:平成 20 年度特殊金属プロジェクト委員会報告書(国際鉱物資源開発協力協会)

暦年 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

生産 3,349 4,108 3,613 3,692 3,595 2,178 2,360 3,036 3,205 3,477輸入 1,981 2,775 2,975 3,236 4,251 5,518 5,560 5,718 5,493 6,392

供給 合計 5,330 6,883 6,588 6,928 7,846 7,696 7,920 8,754 8,698 9,869

需要 合計 5,605 6,395 6,537 6,744 6,341 6,899 7,426 7,230 7,699 7,512

需給バランス - 275 488 51 184 1,505 797 494 1,524 999 2,357

(単位:グロス t)

図 2. バナジウムのマテリアルフロー(日本)< 2007 年>

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鉄鋼・特殊鋼は、バナジウムの需要分野として最大である。上記のとおり、世界のバナジウム需要の 90%以上が鉄鋼・特殊鋼分野であり、日本も同様となっている。残りは、触媒や顔料向け等に消費される。

バナジウムは鉄鋼に少量添加されることにより、高抗張力性、耐熱性、ねじり強さ、靱性、耐摩耗性等の優れた性質を発現し、高張力鋼、構造用鋼、工具・高速度鋼等の原料として用いられる。中でも、HSLA 鋼と呼ばれる高抗張力鋼の原料としてその多くが使用され、自動車用の鋼鈑やラインパイプ、あるいは厚板・型鋼・棒鋼等に幅広く利用されている。鉄鋼への添加は、フェロ・バナジウムの形態で行われる。これは、バナジウムが鉄よりも酸化順位が高いことに起因しており、モリブデンのように酸化物の直接添加は行われない。この他、鍛造用鋼の結晶微細化や、工具鋼の高温での切削能力維持のために、バナジウムが添加され利用されている。

また、チタン・アルミとの合金はジェットエンジン、ミサイル、ガス・タービン等の軽量耐熱材料に利用される。また、各種スーパーアロイにバナジウムを添加し、耐熱性、耐摩耗性を上げ、高性能合金同様航空機部品に用いられる。他には、金属バナジウムがスパッタリング・ターゲット、水素吸蔵用合金、中性子回折用としても利用されている。

これらの用途のうち、HSLA 鋼については、必ずしも全ての特性を満足する訳ではないが、モリブデン及びニオブによる代替がある程度可能である。また、高性能合金についても同様で、ニオブによりある程度代替される。バナジウムは過去に価格が乱高下し比較的価格が不安定な鉱種であるため、この価格と特性の兼

ね合いにより、他の金属に代替されることがある。

4. 生産・製錬バナジウムは、含バナジウム・チタン磁鉄鉱(鉱石

からの銑鉄製造時に発生するバナジウム・スラグを原料とする場合と直接鉱石を粉砕し原料とする場合の 2種類がある)やウラン鉱石、石油精製用使用済触媒、重油ボイラーの煙灰等を原料とし、バナジウム化合物、フェロ・バナジウム、金属バナジウムの主に 3 つの形態で生産され、それぞれ使用目的毎に使い分けられている。生産工程は、原料から五酸化バナジウムを生産する工程と、五酸化バナジウムからフェロ・バナジウム等の各使用形態に合わせ生産する2つの段階に大別される。

五酸化バナジウムを生産する工程は、まず、原料を炭酸ナトリウムと共に焙焼したものから水でナトリウム溶液として抽出し、この液に硫酸及びアンモニア化合物を加えメタバナジン酸アンモニウムとして析出させる。次に、このメタバナジン酸アンモニウムを焙焼することで五酸化バナジウムが得られる。なお、石油精製用使用済触媒にはモリブデンも含まれており、バナジウム抽出過程の後、モリブデンを回収している。また、フェロ・バナジウムは、五酸化バナジウムをアルミニウムを還元剤としたテルミット炉や電気炉で溶融還元することで生産される。また、金属バナジウムは、五酸化バナジウムに種々の還元剤(アルミニウム、炭素、シリコン 等)を用いることにより得られる。

表 16 に世界の主要なバナジウムの生産者、表 17 にそのうち世界の主要なフェロ・バナジウムの生産者を示す。

表 16. 世界の主要なバナジウムの生産者

国名等 会社名 (資本) 等 生産能力 2007 年生産量

南ア Highveld Steel and Vanadium 27.7 25.1Xstrata South Africa 10.6 8.4Vametco (Stratcor、Evraz) 5.9 5.5

計 44.2 39.0中国 Pangang、Chengde 他 31.8 30.5ロシア Tulachermet 19.1 15.4米国 Stratcor (Evraz) 5.4 3.9

Gulf Chemical & Metallurgical 2.7 2.7その他 5.0 3.6

計 13.1 10.2日本 太陽鉱工㈱ 1.1 1.1

JFE マテリアル㈱ 1.8 0.7新興化学工業㈱ 1.1 0.2その他 0.2 0.2

計 4.2 2.3ニュージーランド Newzealand Steel 1.8 2.3台湾 Full Yield 0.5 0.5英国 Orbit 1.1 0.2その他 (東欧 等) 21.1 3.6

合   計 136.9 104.0

(出典:平成 20 年度特殊金属プロジェクト委員会報告書(国際鉱物資源開発協力協会))

(単位:V2O5 換算量 千 t)

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表 18. 世界のバナジウム埋蔵量

(出典:Mineral Commodity Summaries)

国 名 埋蔵量(純分千 t)ロシア 5,000 38.3%中国 5,000 38.3%南ア 3,000 23.0%米国 45 0.3%

合 計 13,045

表 17. 世界の主要なフェロ・バナジウムの生産者

国名 会社名 (資本) 等 生産能力2006 年

南ア Xstrata South Africa  (うちスワジランドで生産している物、有り) 10,200

Highveld Steel and Vanadium  (右の数字は、2005 年の生産量) 8,686

Vametco (Stratcor、Evraz)  (「Nitrovan(同社商品名)」の生産量) 4,500

ロシア Vanady Tula 15,000ChMZ 7,500

中国 Panzhihua New Steel & Vanadium 8,000Chendge Xinxin  (2006 年春に拡張工事のため、現在は増) 3,000

オーストリア Treibacher 7,000米国 Gulf Chemical & Metallurgical 4,500

(出典:Roskill)

(単位:グロス t)

世界のバナジウムの生産の大半は、鉱石からの銑鉄製造時に発生するバナジウム・スラグから行われている。従って、バナジウムは鉄鋼生産の副産物として生産されるため、バナジウムそのものの需給・市況ではなく、鉄鋼生産の状況に生産量が左右されることもあり、必ずしも安定した供給体制にあるとは言えない。なお、日本では、上記のとおり石油精製用使用済触媒、重油ボイラーの煙灰からの回収のみが行われている。

5. 資 源バナジウムの地殻存在度は 150ppm で、銅・鉛・亜

鉛等のいわゆるベースメタルよりも多い。しかし、バナジウム単独鉱物は少なく、他の金属のように濃集して鉱床を形成することは希な金属であることから、希少価値を有するレアメタルとして数えられている。

バナジウムを含む鉱物は、モントレサイトやカルノー石等いくつか挙げられるが、バナジウムを主目的として採掘される鉱物は無い。資源として利用されるバナジウムは、含バナジウム・チタン磁鉄鉱、ウラン鉱石(カルノー石)、リン鉱石、鉛・亜鉛鉱石等の有用鉱石中に副成分として少量ずつ含まれている。また、世界の多くの原油や一部の石炭中にも、ごく少量ではあるがモリブデン等と共に含まれている。

表 18 に世界のバナジウム埋蔵量を示す。

埋蔵量としては南ア及びロシアの含バナジウム・チタン磁鉄鉱が世界のバナジウム資源の大部分を占めている。南アでは、ブッシュベルト複合岩体の上位部に層状に分布している。この磁鉄鉱は約 1 ~ 1.5%(最大で 2.5%含む富鉱部があることもある)のバナジウムを含有している。また、米国では、磁鉄鉱鉱床の他に、コロラド州の堆積性含ウラン砂岩鉱床から副産物として五酸化バナジウムが生産されている。このようなウラン鉱床はロシアにもある。さらに米国にはバナジウムを含む燐灰石鉱床も存在し、鉱石品位は 0.08%と低いものの、鉱床の規模が大きいこと等から、同国の重要なバナジウム資源となっている。

6. まとめバナジウムは、生産が上位 3 か国に集中しており、

地域偏在性の高い鉱種である。また、主に鉄鋼生産の副産物として生産されるため、バナジウムそのものの需給・市況ではなく鉄鋼生産の状況により生産量が左右されるという構造的な特殊性を持っている。

バナジウムは必ずしも供給安定性が高いとは言い切れない鉱種であると言える。

また、世界第 1 位の供給国かつ需要国である中国の需給動向及び内需優先・輸出規制の色彩をより強めている政策動向については、引続き注視することが必要である。

(2010.2.3)

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<参考文献等>1. The Economics of Manganese < 11th Edition >

Roskill2. The Economics of Vanadium < 11th Edition >

Roskill3. World Metal Statistics Yearbook 2009

World Bureau of Metal Statistics4. Mineral Commodity Summaries

U. S. Geological Survey5. 工業レアメタル ANNUAL REVIEW(2008 ~ 2009)

アルム出版社6. 特殊金属プロジェクト報告書(平成 17 ~ 19 年度)(社)特殊金属備蓄協会

7. 平成 20 年度特殊金属プロジェクト報告書 2009 年3 月 (財)国際鉱物資源開発協力協会

8. 鉱 物 資 源 マ テ リ ア ル フ ロ ー 2008 2009 年 8 月JOGMEC 企画調査部

9. レアメタル備蓄データ集 2009 年 3 月 JOGMEC希少金属備蓄部

10. JOGMEC 金属資源レポート 2007 年 1 月号南博志「マンガンの需要・供給・価格動向等」

11. JOGMEC 金属資源レポート 2006 年 3 月号南博志「バナジウムの需要・供給・価格動向等」

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