オペランド共鳴非弾性軟 x 線散乱による 粉末状リ...

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オペランド共鳴非弾性軟 X 線散乱による 粉末状リチウムイオン電池電極材料の電子状態解析 Electronic structure analysis of powdered electrode materials for Li-ion battery by operando RIXS 朝倉大輔 1 、須田山貴亮 1 、難波優輔 1 、松田弘文 1 、宮脇淳 2,3 、丹羽秀治 2,3 、木内久雄 4 原田慈久 2,3 、細野英司 1 1 産総研、 2 東大物性研、 3 東大放射光機構、 4 東大院工) D. Asakura 1 , T. Sudayama 1 , Y. Nanba 1 , H. Matsuda 1 , J. Miyawaki 2,3 , H. Niwa 2,3 , H. Kiuchi 4 , Y. Harada 2,3 , E. Hosono 1 ( 1 AIST, 2 ISSP, UTokyo, 3 SRRO, UTokyo, 4 Dep. of Appl. Chem., UTokyo) 近年、電気自動車等の普及が進み、そのエネルギー源であるリチウムイオン電池のさらなる高 性能化が強く求められている。特に大容量を有する正極材料の開発が急務であり、様々な材料開 発に加えて、既存材料の充放電機構解明に向けた各種分析が進められている。多くの場合、正極 材料として用いられるのは LiCoO2 に代表される Li を含む 3d 遷移金属酸化物、あるいは LiFePO4 のようなリン酸塩等である。Li + の脱挿入によって、ホスト材料では電荷補償に対応する酸化還 元反応が生じており、遷移金属元素や配位子元素の電子状態変化を調べることが、電子論的な観 点からの充放電機構の解明に直結する。 遷移金属 3d 軌道の情報を直接的に抽出できる手段として、二次電池・電気化学分野でも軟 X 線分光の利用が重要視されており、電極材料に対する軟 X 線吸収分光(XAS)は一般的になり つつある。加えて、軟 X 線発光分光(XES)および共鳴非弾性軟 X 線散乱(RIXS)による電子 状態解析も行われ始めている [1-3]。しかし動作環境下で軟 X 線分光を適用するためには、リチ ウムイオン電池用のオペランド測定技術の開発が求められる。そこで我々は、特殊な薄膜電極と 有機電解液、Li 対極から成るオペランドセルを開発することによって、東京大学放射光アウト ステーション SPring-8 BL07LSU の超高分解能軟 X 線発光分光器[4]を用いて、代表的な正極材料 である LiMn2O4 の充放電動作下オペランド Mn 2p RIXS 測定を達成してきた[5]。薄膜化を施した 他の電極材料についても、オペランド XESRIXS 測定に成功している。 薄膜化を進めてきた最大の理由は、ビームダメージ由来と考えられる電極材料の剥離等を防ぐ 上で、真空と電解液層を隔てる窓材との密着性の高い薄膜が非常に有効であるためである。一方 で、通常の電池で用いられる粉末状の電極材料に対するオペランド XESRIXS の確立も重要で ある。当グループでは、BL07LSU において、薄膜系電極材料のオペランド測定と並行して、電 解液やセルの構成を適宜変更することによって、粉末状の LiMn2O4 等の正極材料に対するオペ ランド XESRIXS にも成功しており、その結果について報告する。 参考文献 [1] K. Luo et al., Nat. Chem. 8, 684 (2016). [2] D. Asakura et al., Phys. Chem. Chem. Phys. 19, 16507 (2017). [3] D. Asakura et al., ChemPhysChem, in press. [4] Y. Harada et al., Rev. Sci. Instrum. 83, 013116 (2012). [5] D. Asakura et al., Electrochem. Commun. 50, 93 (2015).

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オペランド共鳴非弾性軟 X 線散乱による 粉末状リチウムイオン電池電極材料の電子状態解析

Electronic structure analysis of powdered electrode materials for Li-ion battery by operando RIXS

朝倉大輔 1、須田山貴亮 1、難波優輔 1、松田弘文 1、宮脇淳 2,3、丹羽秀治 2,3、木内久雄 4、

原田慈久 2,3、細野英司 1 (1 産総研、2東大物性研、3東大放射光機構、4 東大院工) D. Asakura1, T. Sudayama1, Y. Nanba1, H. Matsuda1, J. Miyawaki2,3, H. Niwa2,3, H. Kiuchi4,

Y. Harada2,3, E. Hosono1 (1AIST, 2ISSP, UTokyo, 3SRRO, UTokyo, 4Dep. of Appl. Chem., UTokyo)

近年、電気自動車等の普及が進み、そのエネルギー源であるリチウムイオン電池のさらなる高

性能化が強く求められている。特に大容量を有する正極材料の開発が急務であり、様々な材料開

発に加えて、既存材料の充放電機構解明に向けた各種分析が進められている。多くの場合、正極

材料として用いられるのは LiCoO2 に代表される Li を含む 3d 遷移金属酸化物、あるいは LiFePO4

のようなリン酸塩等である。Li+の脱挿入によって、ホスト材料では電荷補償に対応する酸化還

元反応が生じており、遷移金属元素や配位子元素の電子状態変化を調べることが、電子論的な観

点からの充放電機構の解明に直結する。 遷移金属 3d 軌道の情報を直接的に抽出できる手段として、二次電池・電気化学分野でも軟 X

線分光の利用が重要視されており、電極材料に対する軟 X 線吸収分光(XAS)は一般的になり

つつある。加えて、軟 X 線発光分光(XES)および共鳴非弾性軟 X 線散乱(RIXS)による電子

状態解析も行われ始めている [1-3]。しかし動作環境下で軟 X 線分光を適用するためには、リチ

ウムイオン電池用のオペランド測定技術の開発が求められる。そこで我々は、特殊な薄膜電極と

有機電解液、Li 対極から成るオペランドセルを開発することによって、東京大学放射光アウト

ステーション SPring-8 BL07LSU の超高分解能軟 X 線発光分光器[4]を用いて、代表的な正極材料

である LiMn2O4 の充放電動作下オペランド Mn 2p RIXS 測定を達成してきた[5]。薄膜化を施した

他の電極材料についても、オペランド XES・RIXS 測定に成功している。 薄膜化を進めてきた最大の理由は、ビームダメージ由来と考えられる電極材料の剥離等を防ぐ

上で、真空と電解液層を隔てる窓材との密着性の高い薄膜が非常に有効であるためである。一方

で、通常の電池で用いられる粉末状の電極材料に対するオペランド XES・RIXS の確立も重要で

ある。当グループでは、BL07LSU において、薄膜系電極材料のオペランド測定と並行して、電

解液やセルの構成を適宜変更することによって、粉末状の LiMn2O4 等の正極材料に対するオペ

ランド XES・RIXS にも成功しており、その結果について報告する。 参考文献 [1] K. Luo et al., Nat. Chem. 8, 684 (2016). [2] D. Asakura et al., Phys. Chem. Chem. Phys. 19, 16507 (2017). [3] D. Asakura et al., ChemPhysChem, in press. [4] Y. Harada et al., Rev. Sci. Instrum. 83, 013116 (2012). [5] D. Asakura et al., Electrochem. Commun. 50, 93 (2015).

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時間分解 X 線磁気円二色性測定で明らかにする ダブルペロブスカイト酸化物薄膜の超高速スピンダイナミクス

Ultrafast spin dynamics of double-perovskite oxide thin films observed by time-resolved x-ray magnetic circular dichroism measurement

平田靖透 A,B,山本航平 A,B,山本真吾 A,B,N. PontiusC,C. Schussler-LangeheineC,

吉松公平 D,大久保勇男 E,北村未歩 F,尾嶋正治 G,大友明 D,松田巌 A,B,和達大樹 A,B (東大物性研 A, 東大理 B, Helmholtz-Zentrum BerlinC,東工大理工 D,

物材機構 E,東大工 F,東大放射光連携機構 G) A,BY. Hirata, A,BK. Yamamoto, A,BSh. Yamamoto, CN. Pontius, CC. Schussler-Langeheine,

DK. Yoshimatsu, EI. Ohkubo, FM. Kitamura, GM. Oshima, DA. Ohtomo, A,BI. Matsuda, A,BH. Wadati (AISSP Univ. of Tokyo, BDept. Phys., U. Tokyo, CHelmholtz-Zentrum Berlin,

DDept. Appl. Chem., Tokyo Inst. Tech., ENIMS, FDept. Appl. Chem., U. Tokyo, GSRRO, U. Tokyo)

近年、磁気記憶媒体の開発などへの応用を見据え、電子スピンの振る舞いを扱うスピントロニ

クスの研究が盛んになっている。特に、磁性薄膜の超高速応答や光による磁化制御への関心が高

まっている。例えばフェリ磁性垂直磁化膜 GdFeCo では Gd サイトと Fe サイトで異なる時間ス

ケールでの磁化反転が観測され、光と磁気の相互作用の物理に大きな示唆を与える結果が得られ

ている[1]。

La2MnNiO6、La2MnCrO6 はいずれもダブルペロブスカイト構造を持つ絶縁性の酸化物磁性体で

ある。このうち La2MnNiO6 は Mn と Ni の磁気モーメントが同じ方向を向く強磁性体であるのに

対し、La2MnCrO6 は Mn と Cr の磁気モーメントが逆方向を向くフェリ磁性体である[2]。このよ

うに複数種類の磁性サイトを持つ物質での磁性の動的な振る舞いを明らかにするには、X 線磁気

円二色性 (X-ray magnetic circular dichroism, XMCD)の時間分解測定を行うのが有力である。

我々はドイツの放射光施設 BESSY を利用して、La2MnNiO6 薄膜及び La2MnCrO6 の磁性ダイナ

ミクスの観測を試みた。実験としては、近赤外レーザー(波長 790 nm、繰り返し周波数 3 kHz)をポンプ光として利用したポンプ・プローブ法により、各金属サイトの L 吸収端を利用して反

射率の共鳴 XMCD の時間分解測定(時間分解能 70 ps)を行った。その結果、La2MnCrO6 では時

間分解能未満の超高速の消磁が観測されたのに対し、La2MnNiO6 の消磁は 100 ps 程度と遅い時

間スケールを持つことが明らかになった(図1)。この消磁の速度の違いは、第一には La2MnNiO6

がより大きなエネルギーギャップを持つ絶縁体であることが原因であると考えられるが、強磁性

と反強磁性で磁性ダイナミクスの時間スケールに差があるとする報告もあり[3]、磁気秩序の違

いにも由来している可能性がある。

[1] I. Radu et al., Nature 472, 205 (2011). [2] M. Kitamura et al., Appl. Phys. Lett. 94, 132506 (2009). [3] N. Thielemann-Kühn et al., Phys. Rev. Lett. 119, 197202 (2017).

1.0

0.5

0.0

5000

1.0

0.5

0.0

5000

図1:(a)La2MnCrO6 薄膜および(b)La2MnCrO6 薄膜の

Mn L3 吸収端における XMCD の過渡応答。

Delay (ps)

40 mJ/cm2

27 mJ/cm2

22 mJ/cm2

15 mJ/cm2

7 mJ/cm2

(a)

Delay (ps)

Nor

mal

ized

XM

CD

(b)

12 mJ/cm2

3.5 mJ/cm2

1.5 mJ/cm2

0.7 mJ/cm2

0.2 mJ/cm2

Nor

mal

ized

XM

CD

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p 型ダイヤモンドの活性ドーパントサイトの解明 3D active-site of p-type boron doped diamond

加藤 有香子 (産業技術総合研究所 先進パワーエレクトロニクス研究センター)

Yukako KATO (Advanced Power Electronics Research Center, AIST)

絶縁破壊電界特性が高いダイヤモンドは、パワーデバイスのさらなる低ゲート制御電

力化と高破壊耐圧化を実現できる材料として期待されている[1]。本研究では、活性状

態にあるボロンの原子位置(ドーパントサイト)を解明し、得られた知見をダイヤモンド

合成技術にフィードバックして、より活性化率の高い p 型ダイヤモンドを得ることを目

的としている。 試料はボロンを添加した p 型ダイヤモンド(001)である。ボロン濃度は 3×1020 /cm3

で導電性(抵抗率:1.6×10-2 Ωcm)があり、ダイヤモンドパワーデバイスではコンタクト

層として機能する。ドーパントサイトを解析するために、SPring-8 BL07LSU に接続

した高分解能広立体角 2 次元光電子顕微分光器 (DELMA)を用いて二次元光電子分光

実験を行った。 図 1a-d は C 1s の二次元光電子像[Ekin=600 eV] (a)、TMSP[2]を用いて描画した二次

元光電子像[Ekin=600 eV] (b)、ダイヤモンド結晶構造の模式図(c) および、ダイヤモン

ドの結晶構造と二次元光電子像との対応を示した図(d)である。ボロンの共有結合半径

(rB=0.88 Å) は炭素(rC=0.77 Å) に比べて大きく、ダイヤモンドにボロンを添加すると

結晶格子は伸長する。図 1a と図 1b の一致は、p 型ダイヤモンド(001)が等方的に格子

伸張しながら結晶成長していること、すなわちドーパントサイトに結晶方位依存性がな

い事を示唆するものである。また、B 1s の光電子スペクトルの放出角度依存性から、2種類のドーパントサイトを示唆するデータが得られた。B 1s のデータ及び、各成分の

帰属はポスターにて紹介させていただく。

[1]波多野 睦子, 岩崎 孝之, 山崎 聡, 応用物理 85 (2016) pp.311-316. [2]Electron Holography Analysis Tools (https://osdn.jp/projects/tmcoca/)

Fig. 1) C1s の二次元光電子像 (a) 実験データ、(b) 計算データ、(c) ダイヤモン

ド(001)の原子配列、(d) 二次元光電子像と原子配

列の対応図

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放射光分光による鉄系強磁性半導体の強磁性発現機構解明 Unveiling Origin of Ferromagnetism in Fe-Doped Ferromagnetic Semiconductors by

Synchrotron Radiation Spectroscopy 小林 正起 (東大スピンセンター), L. D. Anh (東大工), P. N. Hai (東工大), 木内 久雄 (東大工), 丹羽 秀治 (東大工), 宮脇 淳 (ISSP), 原田 慈久 (ISSP), T. Schmitt (SLS), 藤森 淳(東大理),

V. N. Strocov (SLS), 尾嶋 正治 (東大工), 田中 雅明 (東大スピンセンター) M. Kobayashi (Univ. of Tokyo CSRN), L. D. Anh (Univ. of Tokyo), P. N. Hai (Tokyo Tech.),

H. Kiuchi (Univ. of Tokyo), H. Niwa (Univ. of Tokyo), J. Miyawaki (ISSP), Y. Harada (ISSP), T. Schmitt (SLS), A. Fujimori (Univ. of Tokyo), V. N. Strocov (SLS),

M. Oshima (Univ. of Tokyo), M. Tanaka (Univ. of Tokyo CSRN)

強磁性半導体(FMS)は、非磁性半導体の一部の原子を磁性元素で置換した物質であり、磁性体と半導体両方の特

性を合わせ持つ。電子の「電荷」と「スピン」を両方活用

するスピントロニクスにおいて、FMS の開発は最も重要な課題の一つである。FMS では磁性イオンがキャリアのスピンを介して磁気相互作用することで強磁性を示す。こ

の強磁性はキャリア誘起強磁性と呼ばれ、キャリアの電荷

とスピン自由度の一方を制御することにより他方の制御

が可能となる。FMS の新規材料開発に関して、東京大学スピントロニクスセンターでは n型 FMS (In,Fe)Asを発見し[1]、ナローギャップ半導体を用いた磁性半導体で比較的高い TC(〜40 K)を持つ FMSを作製できることを見出した。(In,Fe)As においては、Be がダブルドナーとして働き、Feによる磁気モーメント添加と Beによるキャリア濃度を独立に制御することが可能である[1]。また、同センターは、ナローギャップ半導体に Fe を添加した p 型(Ga,Fe)Sb [2], (Al,Fe)Sb [3], そして n型(In,Fe)Sb [4]を発見した。これら鉄系 FMS は室温を越える TCを示す。鉄系

FMSは、p型と n型の組み合わせを可能とし、室温動作スピントロニクスデバイス作製への道を拓くことが期待さ

れている。 FMS の強磁性発現機構を明らかにし、さらなる機能性

FMS の物質創成へ向けた指標を得るためには、FMS の電子構造を調べることが必要不可欠である。今回我々は、鉄

系 FMS (In,Fe)As:Be の強磁性発現機構を明らかにする目的で、軟 X線角度分解光電子分光(SX-ARPES)[5]を用いて価電子帯のバンド構造を、軟 X 線共鳴非弾性 X 線散乱(SX-RIXS)[6]により Fe イオンの局所的な電子構造を調べた。図 1は、908 eVでΓ-X対称線において観測されたバンド分散を示す。Γ点周辺にフェルミ準位をよぎる小さ

いが明瞭な電子バンドが観測された。更に、Fe L3端での共鳴 ARPESは、伝導帯の底付近に存在する Fe 3d由来の不純物バンドを明らかにした。図 2は Fe L3 RIXSスペクトルを示す。スペクトルは蛍光と Raman 成分から成り、その形状は Fe 金属のように広がっていた。この結果は、Fe 3d電子が伝導帯との混成を介して、金属的な状態になっていることを示唆する。これらの結果から、遍歴的なキ

ャリアに基づく伝導帯モデルが(In,Fe)As の強磁性モデルとして適していることが分かった。

References: [1] P. N. Hai et al., Appl. Phys. Lett. 101, 182403; ibid, 252410 (2012). [2] N. T. Tu et al., Appl. Phys. Lett. 105, 132402 (2014). [3] L. D. Anh et al., Appl. Phys. Lett. 107, 232405 (2015). [4] N. T. Tu et al., arXiv.1706.00735 (2017). [8] M. Kobayashi et al., Phys. Rev. B 89, 205204 (2014). [9] M. Kobayashi et al., Phys. Rev. Lett. 112, 107203 (2014).

FIG. 1. Band dispersion along the G-K-X line of In0.95Fe0.05As:Be. Here, the Be concentration is about 2×1019 cm-3. The inset is an enlarged figure around the G point. LH and SO denote the light-hole and split-off bands.

FIG. 2. Fe L3 RIXS spectra of In0.95Fe0.05As:Be. The spectra were taken at 709.9 eV and 712 eV. These spectra are composed of the Fe fluorescence and Raman components.

Inte

nsity

(arb

. uni

ts)

14 12 10 8 6 4 2 0Energy Loss (eV)

712 eV

709.9 eV

In0.95Fe0.05AsFe L3 RIXS

Fe L3 Raman

Fe L fluorescence

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雰囲気 X 線光電子分光による亜鉛蒸着銅表面における二酸化炭素水素化の その場観測

In-situ observation of CO2 hydrogenation on Zn-deposited Cu surfaces by near-ambient-pressure X-ray photoelectron spectroscopy

小板谷 貴典 1, 2、山本 達 3、塩澤 佑一朗 3、芳倉 佑樹 3、長谷川 雅大 3、唐 佳芸 3、

竹内 佳織 3、向井 孝三 3、吉本 真也 3、松田 巌 3、吉信 淳 3 (1東大院総合文化、2JST さきがけ、3 東大物性研)

T. Koitaya1, 2, S. Yamamoto3, Y. Shiozawa3, Y. Yoshikura3, M. Hasegawa3, J. Tang3, K. Takeuchi3, K. Mukai3, S. Yoshimoto3, I. Matsuda3, and J. Yoshinobu3

(1Graduate School of Arts and Sciences, Univ. of Tokyo, 2JST-PRESTO, 3ISSP, Univ. of Tokyo)

近年、化石燃料の使用に伴って大量に排出される二酸化炭素(CO2)を化学原料として有効利

用する試みが始まっている [1]。その一例として、銅-酸化亜鉛触媒を用いた CO2の水素化によ

るメタノール合成が挙げられる。メタノール合成の反応活性サイトは銅-亜鉛合金表面であ

るとされているが[2, 3]、近年では合金表面ではなく銅-酸化亜鉛界面で反応が起きていると

の報告もある[4]。反応条件下における触媒表面の酸化状態および反応メカニズムを解明す

るためには、反応をその場観測できる手法が非常に有効である。 本研究は BL07LSU フリーポートにて、雰囲気光電子分光(AP-XPS)装置[5]を用いて実験

を行った。微傾斜 Cu(997)表面に亜鉛を蒸着することにより作製した合金表面をモデル触媒

として、気相雰囲気中での CO2の活性化および水素化に関して AP-XPS 測定を行った。そ

の結果、0.8 mbar CO2と 0.4 mbar H2からなる混合ガス雰囲気下においては、CO2の水素

化は起こらず、カーボネート(CO3)のみ表面に生成することが分かった。一方、供給混合

ガスに分圧 0.05 mbar の水を加えたところ、CO3の他に CO2水素化反応過程の中間体であ

るフォルメート (HCOO) が表面上に形成されることが明らかになった。これらの結果は、

CO2 の水素化に水が重要な役割を果たしていることを示唆している。また、水を添加した

場合のみ、メタノール合成反応温度に近い 473 K において亜鉛の酸化が起こり、酸化亜鉛

として表面に析出することも分かった。水はメタノール合成や逆水性ガスシフト反応とい

った CO2還元反応における共生成物であり、実際のメタノール合成触媒反応でも CO2水素

化に寄与していることが考えられる。

[References] [1] G.A. Olah, A. Goeppert, G.K. Surya Prakash, “Beyond Oil and Gas: The Methanol Economy”, WILEY-VCH (2009). [2] J. Nakamura et al., Top. Catal. 22 (2003) 277. [3] M. Behrens et al., Science 336 (2012) 893. [4] S. Kattel et al., Science, 355 (2017) 1296. [5] T. Koitaya et al., Top. Catal. 59 (2016) 526.

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Tuning the ultrafast demagnetization dynamics in GdFeCo thin films

Souliman El Moussaoui, Hiroki Yoshikawa, Tetsuya Sato†, Arata Tsukamoto

(Nihon University, † now at Waseda University)

Since the demonstration of the ultrafast laser induced demagnetization in metallic

materials [1] and the helicity dependent all-optical switching in GdFeCo [2], the

manipulation of the magnetization by an ultrafast laser radiation is thought to be the

next mechanism for opto-magnetic recording technology. Nowadays the magnetization

reversal can be achieved in a large variety of magnetic materials, including a variety of

ferromagnetic materials [3]. The mechanisms of reversal depend on the nature of the

investigated materials and a general theory is hard to draw. In the rare-earth transition

metal GdFeCo, it has been demonstrated that the reversal can be induced by a single

heat pulse alone independently of the radiation helicity [4]. The explanation of such

reversal is based on the discovery that in GdFeCo the Gd and Fe sublattices

demagnetize with different timescales via a transient ferromagnetic-like state [5].

In this workshop, I will present a comparative study of the demagnetization dynamics

in GdFe and GdFeCo. I will show how we can use the exchange strength to modulate

the timescale of the ultrafast demagnetization in these materials. To conduct this study,

20 nm thin films of Gd23Fe and Gd23FeCo have been fabricated by using magnetron

sputtering. The ultrafast magnetization dynamics properties of these films were studied

in function of the FeCo composition in a pump-probe set-up with Faraday geometry.

The obtained results are compared to the different static parameters of the samples and

to their respective exchange strength (determined from the Curie temperature Tc). We

have observed that the quenching of the magnetization in GdFe is much faster than in

the films containing Co (where Tc is larger). The results obtained emphasize the major

role played by the strength of the exchange interaction in the ultrafast demagnetization

and gives indications toward a control of the demagnetization timescale by

appropriately tuning the sample fabrication.

[1] E. Beaurepaire et al., Phys. Rev. Lett. 76, 4250 (1996).

[2] C.D. Stanciu et al., Phys. Rev. Lett. 99, 217204 (2007).

[3] C-H. Lambert et al., Science 345, 1337 (2014).

[4] T. A. Ostler, et al., Nature comm. 3, 666 (2012).

[5] I. Radu, et al., Nature 472, 205 (2011).

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X 線自由電子レーザーによる BaFe2As2における光誘起構造変位の観測 Photo-Induced Structural Change in BaFe2As2 Observed by X-ray Free Electron Laser

鈴木 剛 (東大物性研)

Takeshi Suzuki (ISSP, University of Tokyo)

鉄系超伝導は、銅酸化物超伝導体に次ぐ高い超伝導転移温度(TC)を示し、数々の特異な性質を

有することから、精力的に研究が行われている。その一つの特徴として、圧力、単層化、インタ

ーカレーションなどの様々な外場に応じて、TC が顕著に変化することが挙げられる。このよう

な背景の中、我々は、新たな外場として光電場に注目し、鉄系超伝導において光励起により発現

する、電子系・格子系の新たな性質について、時間分解分光法を用いて多角的に研究している。

そこで、本研究では、BaFe2As2 をその舞台として選定し、光励起後の格子ダイナミクスにつ

いて調べるために、X 線自由電子レーザーSACLA の BL3 を用いて、時間分解 X 線回折実験を行

った。図(a)、(b)に、BaFe2As2 結晶における、励起強度 16 mJ/cm2、ポンプ・プローブ遅延時間

⊿t = (a)-50 ps, (b) 100 psにおける(008)回折ピークを示す。励起後 100 psに、回折ピーク

が垂直角度方向に対して下方シフトする様子が明瞭に現れている。回折角は単位方の長さで決ま

るため、この結果は、光励起により c軸方向の長さが伸びたことを示している。

次に、格子定数の定量的な情報を得るため、フィッティング解析により、回折角の変化を求め、

c 軸長の変化量を算出した。図(c)にそのダイナミクスを示す。16 mJ/cm2 の光励起により、c 軸方

向の長さが約 2%伸長したことが分かった。また、ダイナミクスから、観測時間(300 ps)以上

続く、長寿妙な変化であることも示された。このような、光励起に伴う格子定数の変化は、銅酸

化物でも報告されており[1]、光誘起構造相転移であることが示されているが、鉄系超伝導では、

本研究が始めての報告である。本ワークショップでは、より詳細な解析結果を紹介し、議論した

い。

[1] N. Gedik, et al., Science 316, 425 (2007).

図 励起強度 16mJ/cm2 における、遅延時間(a)-50 ps, (b)100 ps でのブラッグピーク

(008)。(c)フィッティング解析から求めた、c軸長のダイナミクス。

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時間分解共鳴軟 X 線散乱を用いた光誘起相転移ダイナミクス測定 Dynamics of photoinduced phase transition

probed by time-resolved resonant soft x-ray scattering 田久保耕(物性研),山本航平(物性研),横山優一(物性研),平田靖透(物性研),今泉聖司(東北大理), 大串研也(東北大理),Huiyuan Man(東大物性研),中辻知(東大物性研),和達大樹(東大物性研)

K. Takubo (ISSP.), K. Yamamoto (ISSP.), Y. Yokoyama (ISSP.), Y. Hirata (ISSP.), S. Imaizumi (Dept. of Phys., Tohoku Univ.), K. Ohgushi (Dept. of Phys., Tohoku Univ),

H. Man (ISSP.), S. Nakatsuji (ISSP.), H. Wadati (ISSP.)

我々は、BL-07LSU において時間分解型の共鳴軟 X 線散乱(回折・Tr-RSXS)および軟 X 線吸

収分光(Tr-XAS)測定装置の開発に取り組んできた[1]。図 1 にその概要を示す。レーザーステー

ションから 800nm の Ti:Sapphire レーザーを導入し、ポンププローブ法により光誘起ダイナミ

クス測定を行なう。図の chamber の上半分において RSXS 測定を行い、下半分で XAS 測定を

行うことが可能である。XAS 側の測定に関しては FePt などの磁性材料や 4f 電子系の価数揺動/転移に関しての成果を報告してきた。今回は RSXS 側の測定結果として、CsFe2Se3の磁気回折

および Ba3CuSb2O9の構造変化の2つの系の光誘起相転移ダイナミクスを報告する。

CsFe2Se3は圧力下で高温超伝導を示す BaFe2S3と同型の構造を持つ反強磁性のナローギャッ

プ絶縁体である[2]。梯子型構造のため 1 次元性と 2 (or 3)次元性を併せ持つことが予想され、ま

た遷移金属の L 端で 2 倍の磁気周期(1/2,1/2,0)に共鳴軟 X 線磁気回折が届く珍しい系である。図

2 に CsFe2Se3 の Tr-RSXS 強度の時間発展を示す。変化率や緩和時間は大きな励起光強度依存

性を示す。0.5~1.0mJ/cm2 程度の比較的弱いポンプ光強度でも、時間分解能 50ps 以内に 50%以

上の磁気回折強度が消失する。しかし熱拡散などにより 200 ps 程度の緩和時間でほぼもとの状

態に戻る。一方で 3mJ/cm2 程度の強いポンプ光強度の場合は 80%以上の磁気回折消失後、ns以上の時間スケールで徐々に緩和する。光刺激で容易に磁気秩序が消失する点は、梯子型構造の

1 次元性を反映している可能性がある。また強い励起光強度の場合のダイナミクスに関しては構

造変化などの一次相転移が絡んでいる可能性がある。

一方、六方晶 Ba3CuSb2O9 は反強磁性の絶縁体であるが、Cu2+サイトが低温で磁気秩序どこ

ろか静的な軌道秩序も示さないスピン軌道液体の候補物質である[3]。スピン軌道液体のメカニ

ズムとして動的な Jahn-Teller 効果の可能性が示唆されている。またその回折強度の温度変化は

スピン軌道秩序の揺らぎを反映する[4]。我々は Ba3CuSb2O9の Cu L 端の Tr-RSXS 強度の光誘

起ダイナミクスを測定し、その結果、100 ps 以上の周期の比較的遅いコヒーレントフォノンを観

測した。揺らぎとの関連性を議論する。

[1] K. Takubo et al., APL. 110, 162401 (2017) [2] H. Takahashi et al., Nature Mat. 14, 1008 (2015).

[3] S. Nakatsuji et al., Science 336, 559 (2012). [4] H. Ishiguro et al., Nature Comm. 4, 2022 (2013).

図 1. BL-07LSU における時間分解共鳴軟 X 線散乱 および吸収分光測定装置概要

図 2. CsFe2Se3の Tr-RSXS (磁気回折)の時間発展

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雰囲気光電子分光法による Pd 系合金における水素吸着および吸蔵過程の研究 Hydrogen Adsorption/Absorption on Pd-based Alloys Studied by In-situ Ambient

Pressure XPS and UHV XPS using Synchrotron Radiation 唐佳藝、山本達、小板谷貴典、徳永拓馬、向井孝三、吉本真也、松田巌、吉信淳(東大物性研)

J. Tang, S. Yamamoto, T. Koitaya, T. Tokunaga, K. Mukai, S. Yoshimoto, I. Matsuda, J. Yoshinobu (ISSP, Univ. of Tokyo)

The Pd-based alloys, particularly the PdAg and PdCu alloys, have attracted many attentions recently because of their high hydrogen storage ability and hydrogen permeability [1-2]. However, the hydrogen interactions with both the surface and bulk of the alloys during the hydrogen permeation are still under debates. In the present study, the mechanisms of hydrogen adsorption and absorption processes on Pd-based alloys (PdAg, PdCu) have been investigated by the in-situ ambient pressure X-ray photoelectron spectroscopy (AP-XPS) and in-situ XPS under UHV. The in-situ AP-XPS measurements were carried out under the hydrogen pressure of 1.5 Torr on both PdAg and PdCu alloys at BL07LSU, SPring-8. The in-situ UHV-XPS experiments were performed under the hydrogen pressure of 5 × 10-8 Torr and 3.8 × 10-8 Torr on PdAg and PdCu alloys, respectively, at BL23LSU, SPring-8 and BL13B, Photon Factory. According to the UHV-XPS measurements, Ag atoms was found to be the more reactive sites for the hydrogen adsorption than Pd atoms during the hydrogen adsorption at 300-620 K. Figs. 1 (a)-(e) show the Pd 3d5/2 spectra measured on the clean PdAg alloy and under H2 pressure of 1.5 Torr. The bulk and surface Pd components were observed on the clean surface. The surface component disappeared after the exposure of H2, and followed by the appearance of the hydrogen absorption on Pd atoms component (bulk Pd-H) at 473 K. The intensity of bulk Pd-H component further increased when the temperature was increased from 473 K to 573 K. In Fig. 1 (f), the surface and bulk Ag component were observed from Ag 3d5/2 spectrum on the clean surface, which is similar with the Pd 3d5/2 spectrum. However, the hydrogen absorption on Ag atom component was not found after H2 exposure. It indicates that the Pd atoms are more reactive for hydrogen absorption than Ag atoms. The UHV-XPS and AP-XPS measurements were also performed on PdCu alloys. The experiment results will be shown in the poster presentation. Reference [1] Jovanovic, Z.; Francesco, M. D.; Tosti, S.; Pozio, A., Int. J. Hydrogen Energy 2011, 36, 15364. [2] Westerwall, R. J.; Bouman, E. A.; Haije, W. G.; Schreuders, H.; Dutta, S.; Wu, M. Y.; Boelsma, C.; Ngene, P.; Basak, S.; Dam, B., Int. J. Hydrogen Energy 2015, 40, 3932.

Fig. 1 Pd 3d5/2 XPS spectra measured on (a) clean surface, and under hydrogen pressure at 1.5 Torr at (b)-(e) 300-573 K on PdAg alloy. Ag 3d5/2 XPS spectra measured on (f) clean surface, and under hydrogen pressure at 1.5 Torr at (g)-(j) 300-573 K on PdAg alloy.

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Fig.1 Chemical structure of

poly [2-(methacryloyloxy) ethyl trimethylammonium chloride]

(PMTAC).

対イオンが高分子電解質ブラシ中の水の水素結合構造に与える効果

Counter ion effect on hydrogen-bonding structure of water in polyelectrolyte brush

○山添 康介 1,2、檜垣 勇次 3,4、犬塚 仁浩 2、宮脇 淳 1,2,5、崔 藝涛 1、高原 淳 3,4、

原田 慈久 1,2,5

(1東大物性研・2東大新領域・3九大院工・4九大先導研・5東大放射光)

YAMAZOE, Kosuke1,2; HIGAKI, Yuji3,4; INUTSUKA, Yoshihiro3; MIYAWAKI, Jun1,2,5; CUI, Yi-Tao1;

TAKAHARA, Atsushi3,4; HARADA, Yoshihisa1,2,5

(1ISSP, The Univ. of Tokyo 2Grad. Sch. Frontier Sci., The Univ. of Tokyo; 3School of Eng., Kyushu Univ.; 4IMCE, Kyushu Univ.; 5UT-SRRO;)

【緒言】近年、高分子電解質ブラシを用いた表面改質に

注目が集まっている[1,2]。高分子電解質ブラシで修飾さ

れた基板表面の濡れ性は対イオンの交換で制御でき[3]、

防氷性能をもつ表面への応用も期待されている。最近の

研究で高分子電解質ブラシ近傍の水の水素結合構造が、

水の凍結温度と相関を持つことが分子動力学的計算で予想されている[4]。そこで本研究で

は、水の構造と機能の相関を理解するために、対イオンが高分子電解質ブラシ中の水の水

素結合構造に与える影響を実験的に調べた。水の水素結合に関与する酸素の電子状態を直

接観測できる軟 X 線発光分光 (XES: X-ray Emission Spectroscopy) を用いて PMTACブラ

シ (Fig.1) 中の水の水素結合に関与する電子状態を測定した。

【実験手法】SPring-8 BL07LSU の超

高分解能軟X線発光分光システム

[5] における溶液セルを用いた実験

配置図を Fig.2 に示す。蒸気発生装

置から水分を高分子電解質ブラシ

に供給し、セル内の湿度はセンサで

モニターした。

【結果】得られた XES スペクトルから、ほぼ水の構造を変化させない性質の対イオン Cl−

の場合、ブラシ中で「四面体配位した水」のみが観測され、疎水的な性質の対イオン SCN−

の場合、ブラシ中で「四面体配位した水」と「大きく歪んだ水素結合の水」の両方が観測

された。本結果は、対イオンを SCN− に交換した際に水の水素結合構造が歪むという分子

動力学的計算結果[4]を支持し、さらに具体的な水素結合構造の情報を与えている。大きく

歪んだ水素結合の水は、疎水性水和に起因する水の構造と考えられる[6]。本研究は、高分

子電解質と相互作用する水の構造に関する知見[7]を通じて、高分子電解質ブラシ表面の水

の凍結抑制メカニズムの解明に貢献することが期待される。

[1] Y. Higaki et al., Polym. J. 48, 325 (2016). [2] D. Murakami et al., Langmuir 29, 1148 (2013). [3]

O. Azzaroni et al., Adv. Mater. 19, 151 (2007). [4] Z. He et al., Sci. Adv. 2, e1600345 (2016). [5] Y.

Harada et al., Rev. Sci. Instrum. 83, 013116 (2012). [6] J. G. Davis et al., Nat. Chem. 5, 796 (2013).

[7] K. Yamazoe et al., Langmuir 33, 3954 (2017).

Fig.2 Schematic of the experimental setup for the XES of

water in the polyelectrolyte brushes.

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Controllable Uniaxial Magnetic Anisotropy Induced by Interfacial Orbital Preferential Occupation in Ni/NiO(110) Heterostructures

Yujun Zhang1, L. Wu1, J. Ma1, Q. Zhang1, A. Fujimori2, J. Ma1, Y. Lin1, C. Nan1

1State Key Lab of New Ceramics and Fine Processing, School of Materials Science and Engineering, Tsinghua University, Beijing 100084, P. R. China;

2Department of Physics, University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan

Unexpected physical phenomena could emerge at heterostructure interfaces, and interface effects are also capable of giving rise to magnetic anisotropy. In this work, a peculiar uniaxial magnetic anisotropy in (polycrystalline Ni)/(epitaxial NiO)/SrTiO3(110) heterostructures is investigated. Thickness dependence of the anisotropy confirms its interfacial effect nature. The NiO antiferromagnetic ordering induced interface exchange coupling should not be responsible for the anisotropy according to the temperature dependence. Our soft X-ray linear dichroism and magnetic circular dichroism results show a preferential occupation of orbital parallel to in-plane [100] at Ni/NiO interface and the origin of this uniaxial anisotropy is closely related to the occupation of Ni 3d orbitals at the interface. The magnetocrystalline anisotropy and piezoelectric strain could be utilized to manipulate this uniaxial anisotropy and realize controllable in-plane easy axis switching, which could be promising in future application of spintronics devices.