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ポリマーの架橋構造の構築 データシート 背景 ポリマーは、お互いに化学結合し網目状の架橋構造を形成す ることで、機械的特性、耐熱性、耐溶剤性などを向上させる ことができます。このような架橋ポリマーの構造や、架橋率 に対する物性の依存性やそのメカニズムを明らかにするため には、原子・分子レベルのシミュレーションを行うことが重 要となりますが、架橋ポリマーのような複雑な構造を作成す ることは、一般的には非常に困難です。 架橋反応の取扱い ポリマーの架橋構造を構築するためには、架橋反応を取り扱 う必要があります。一般的には化学反応を取り扱うために は、量子化学的な手法を使用するか、古典力学的な手法の範 囲で反応力場を使用するかのどちらかになります。しかし、 シミュレーション可能な時間スケールの範囲で、目的とする 架橋反応が起こるかどうかが問題となり、特に前者の方法で は計算時間の観点から言って、ほとんど現実的ではありませ ん。そこで、古典分子動力学法を用いて、架橋反応を近似的 に取り扱うことで、上記の方法よりも遥かに効率的に架橋構 造を構築することができます。この方法では、架橋反応の対 象となる反応原子を定義し、分子動力学計算の途中で反応原 子同士が一定の距離以内に近づいた場合には、原子間に結合 を作成し、構造最適化を行ってから、分子動力学計算を継続 します。架橋反応の起こりやすさは相対的な確率で考慮する ことができます。もしくは、異なる架橋反応ごとに、アレニ ウスの式に基づいて、反応の活性化エネルギーから反応確率 を定義し、反応エネルギーによる運動エネルギーの変化も考 慮することで、硬化曲線をシミュレーションすることができ ます。活性化エネルギーや反応エネルギーは実験データを 参照するか、もしくは、量子化学計算モジュールのDMol 3 VAMPを使って計算することもできます。 計算の自動化 Materials Studioには、分子動力学計算を行うためのForcite モジュールと、高い精度で高分子などの物性計算を行うた めの力場パラメータとして、COMPASSIIが搭載されていま す。また、ポリマーのガラス状態のような複雑な構造をモデ リングするためのAmorphous Cellモジュールも搭載していま す。Materials Studioではこれらの各モジュールを洗練され たインターフェースを備えた1つのアプリケーション上で実 行し、結果の解析を行うことができます。 また、架橋構造を構築するためには、分子動力学計算と構 造最適化を繰り返し行っていく必要があります。そのよう な計算を行うために、Materials Studioには、Perl言語を基に して、Materials Studio上で使える各ツールやモジュール群 を呼び出すことができるMaterialsScriptという仕組みが備わ っており、そのスクリプトの一例を弊社コミュニティーサイ (https://community.3dsbiovia.com)にて配布しています。 さらに、樹脂や硬化剤の混合比や種類を変えて架橋構造の構 築を複数回行う場合には、大量のデータを処理・解析し、 指定したフォーマットで結果を出力するために用いられる Pipeline Pilotを使って、より効率のよい計算を行うことも可 能です。Pipeline Pilotには、Materials Studioの各ツールやモ ジュール群から構成されるMaterials Studioコレクションが

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Post on 04-Mar-2020

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ポリマーの架橋構造の構築データシート

背景ポリマーは、お互いに化学結合し網目状の架橋構造を形成することで、機械的特性、耐熱性、耐溶剤性などを向上させることができます。このような架橋ポリマーの構造や、架橋率に対する物性の依存性やそのメカニズムを明らかにするためには、原子・分子レベルのシミュレーションを行うことが重要となりますが、架橋ポリマーのような複雑な構造を作成することは、一般的には非常に困難です。

架橋反応の取扱いポリマーの架橋構造を構築するためには、架橋反応を取り扱う必要があります。一般的には化学反応を取り扱うためには、量子化学的な手法を使用するか、古典力学的な手法の範囲で反応力場を使用するかのどちらかになります。しかし、シミュレーション可能な時間スケールの範囲で、目的とする架橋反応が起こるかどうかが問題となり、特に前者の方法では計算時間の観点から言って、ほとんど現実的ではありません。そこで、古典分子動力学法を用いて、架橋反応を近似的に取り扱うことで、上記の方法よりも遥かに効率的に架橋構造を構築することができます。この方法では、架橋反応の対象となる反応原子を定義し、分子動力学計算の途中で反応原子同士が一定の距離以内に近づいた場合には、原子間に結合を作成し、構造最適化を行ってから、分子動力学計算を継続します。架橋反応の起こりやすさは相対的な確率で考慮することができます。もしくは、異なる架橋反応ごとに、アレニウスの式に基づいて、反応の活性化エネルギーから反応確率を定義し、反応エネルギーによる運動エネルギーの変化も考

慮することで、硬化曲線をシミュレーションすることができます。活性化エネルギーや反応エネルギーは実験データを参照するか、もしくは、量子化学計算モジュールのDMol3やVAMPを使って計算することもできます。

計算の自動化Materials Studioには、分子動力学計算を行うためのForciteモジュールと、高い精度で高分子などの物性計算を行うための力場パラメータとして、COMPASSIIが搭載されています。また、ポリマーのガラス状態のような複雑な構造をモデリングするためのAmorphous Cellモジュールも搭載しています。Materials Studioではこれらの各モジュールを洗練されたインターフェースを備えた1つのアプリケーション上で実行し、結果の解析を行うことができます。また、架橋構造を構築するためには、分子動力学計算と構造最適化を繰り返し行っていく必要があります。そのような計算を行うために、Materials Studioには、Perl言語を基にして、Materials Studio上で使える各ツールやモジュール群を呼び出すことができるMaterialsScriptという仕組みが備わっており、そのスクリプトの一例を弊社コミュニティーサイト(https://community.3dsbiovia.com)にて配布しています。さらに、樹脂や硬化剤の混合比や種類を変えて架橋構造の構築を複数回行う場合には、大量のデータを処理・解析し、指定したフォーマットで結果を出力するために用いられるPipeline Pilotを使って、より効率のよい計算を行うことも可能です。Pipeline Pilotには、Materials Studioの各ツールやモジュール群から構成されるMaterials Studioコレクションが

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ダッソー・システムズの3Dエクスペリエンス・プラットフォームでは、12の業界を対象に各ブランド製品を強力に統合し、各業界で必要とされるさまざまなインダス トリー・ソリューション・エクスペリエンスを提供しています。ダッソー・システムズは、3Dエクスペリエンス企業として、企業や個人にバーチャル・ユニバースを提供することで、持続可能な イノベーションを提唱します。世界をリードするダッソー・システムズのソリューション群は製品設計、生産、保守に変革をもたらしています。ダッソー・システムズのコラボレーティブ・ソリューションはソーシャル・イノベーションを促進し、現実世界をより良い ものとするためにバーチャル世界の可能性を押し広げています。ダッソー・システムズ・グループは140カ国以上、あらゆる規模、業種の約19万社のお客様に価値を提供しています。より詳細な情報は、www.3ds.com(英語)、www.3ds.com/ja (日本語)を ご参照ください。

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計算例

図2はMaterials Studioを使って、基となる分子構造(DGEBAとDDS)を作成し、Amorphous Cellモジュールを使って作成したアモルファス構造です。

図2. DGEBA 200分子とDDS 100分子をランダムにパッキングしたアモルファス構造

図3. DGEBAとDDSのアモルファス構造を基に作成された架橋率98%の構造。黄色くハイライト表示されている原子が架橋反応した原子を表します。

図1. Pipeline Pilotで利用可能な架橋構造作成のためのプロトコル。あらかじめ反応原子を定義した分子構造を準備し、それらの混合比、目的の架橋率などの条件を指定すると自動的に架橋構造を作成します。

用意されています。また、架橋構造を構築するための自動化されたワークフローのサンプルも提供されていますので、簡単に架橋構造の構築が可能です。Pipeline PilotのプロトコルはMaterials Studioから呼び出して、パラメータの設定やプロトコルの実行を行うことが可能です。

この構造を初期構造として架橋反応のシミュレーションを行うと、図3のような架橋ネットワーク構造が得られます。また、活性化エネルギーや反応エネルギーを考慮したシミュレーションを行うと、図4のような硬化曲線を計算することも可能です。

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Conv

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Simulated

Logistic Fit

図4. 架橋率の温度依存性を示す硬化曲線。青線は計算データを表し、赤線は計算データに対して、5パラメータのロジスティック曲線でフィッティングした結果です。