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1 デュアルコム分光法を用いた 高速・高精度・高機能な 材料特性評価法 電気通信大学 大学院 情報理工学研究科 基盤理工学専攻 教授 美濃島 薫 平成31年1月18日

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Page 1: デュアルコム分光法を用いた 高速・高精度・高機能 …...SAM2 H Q SAM1 P 半導体 レーザー EDF カプラ カプラ カプラ カプラ WDM WDM レンズ サーキュレータ

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デュアルコム分光法を用いた高速・高精度・高機能な

材料特性評価法

電気通信大学 大学院

情報理工学研究科 基盤理工学専攻

教授 美濃島 薫

平成31年1月18日

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背 景

物質のスペクトル(波長ごとの強度分布)を測定して、

その成分を分析する分光分析において、2つの「光コム」

を使用する「デュアルコム分光法」が注目されている。

これは、従来の「フーリエ分光法」に比べて、

機械的な操作が不要

広帯域で高速かつ精密なデータ取得が可能

といった特長を有しており、今後の発展が期待される。

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光コムとは周波数軸上においてスペクトル強度が櫛状に精密かつ等間隔に並んだ先端光源で、時間・空間・周波数の精密なものさしとして利用可能。

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デュアルコム分光法とは

繰り返し周波数(frep)が若干異なる2つの光コムを用いる干渉分光法

• 超高速かつ安定なパルススキャンによるフーリエ干渉分光

• 光コムを活かしたMHzオーダーの超高周波数分解能

• 精密長さ測定、ガス分光など幅広い応用

frep

Optical frequency

Δfrep

インターフェログラム(IGM)

RFマルチヘテロダインビート

frep+Δfrep

RF stabilized Er:fiber comb

High-speed servo controlled Er:fiber comb

CW laser lockedlocked with EOM

光コム1

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.0

inte

nsity

(a.

u.)

196194192190188frequency [THz]

光スペクトル

FFT

digitized

モード分解スペクトル

高速

広帯域

高精度

モード分解分光

光コム2

測定試料

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従来技術とその問題点

近年、デュアルコム分光法の優れた特徴を活かして、

様々な分光分析に利用される機会が増えているが、

ガスの吸収スペクトル測定がメイン

2台の精密に制御されたコム光源が必要

複雑で高価な測定システムが必要

等の問題があり、広く普及するまでには至っていない。

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本日の内容

デュアルコム分光法を用いた

高速・高精度・高機能な

材料特性評価法について説明する。

1.固体材料の物性評価

2.超高速応答の精密測定

3.コヒーレント制御による新規な測定

4.デュアルコムファイバレーザー

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デュアルコム分光による世界初の固体物性精密評価に成功

デュアルコム分光による固体材料の物性評価

新技術の説明(1-1)

0.4

0.2

0.0

Inte

nsity

(a.u

.)

2.0442.042Effective time (ns)

Phas

e (ra

d.)

(c)

(e)

sample path

w/o

w/

位相

振幅

Er:YAG ceramicsEr:fiber comb(1,550 nm, 56 MHz)

測定システムレーザー結晶試料

Δfrep: 120 Hz

観測された干渉信号(Er:YAG)

強度

(a.

u.)

実効時間(ns)

インターフェログラム

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• 振幅、位相スペクトルを直接検出することができた。

• フレネル反射を考慮したモデル解析に基づく複素光学定数を導出した。

固体材料の複素透過率スペクトルの解析

新技術の説明(1-2)

測定試料光コム

= + κ= 1

= 0= 1

= 2d

= 4( + 1) exp − 1 − 1+ 1 exp

Effective time (ns)

Optical frequency (THz)

2000

1950

1900Phas

e (ra

d.) (e)

1.0

0.5

0.0Tran

smitt

ance

196194192190188Optical frequency (THz)

Dual-Comb OSA

Er3+: 4I13/2-4I15/2

解析モデル

透過

透過スペクトル

位相

(ra

d.)

光周波数(THz)

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• 複素屈折率スペクトルを直接検出できることを実証した。

(Kramers-Kronig変換が不要)

固体材料の複素屈折率スペクトルの検出

新技術の説明(1-3)

1.828

1.827

Ref

ract

ive

inde

x

196194192190188Optical frequency (THz)

0.0005

0.0000

Extin

ctio

n co

effic

ient

1.8276

1.8274

1.8272

194.0193.5

0.0002

0.0000

Effective time (ns)

Optical frequency (THz)

2000

1950

1900Phas

e (ra

d.) (e)

1.0

0.5

0.0Tran

smitt

ance

196194192190188Optical frequency (THz)

Dual-Comb OSA

Er3+: 4I13/2-4I15/2

Sample

Sig. comb

= + κ= 1

= 0= 1

= 2d

消衰

係数屈

折率

光周波数(THz)

複素屈折率

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• デュアルコム分光法とポンプ-プローブ分光法を融合させて、

新しい”時間分解デュアルコム分光法”を開発した。

超高速(時間分解)デュアルコム分光法

新技術の説明(2-1)

ポンプ遅延 tTime-Resolved

frep,P(= frep,S)

Pump Comb // //

t t t

// //

// //

t +Dt t +Dt t +Dt

DTrep 2DTrep

// //

Time

Signal Comb(Probe)

Local Comb

インターフェログラム

// //

frep,S

frep,L

(= frep,L+Dfrep)// //

DTrep 2DTrep

Spectrum(Amplitude and Phase)

周波数

フーリエ変換

1. デュアルコム分光

2. ポンプ用コムの導入

3. 遅延時間τを変えたデュアルコム分光

4. 複素スペクトルの時間発展の精密測定

時間

時間分解スペクトル(振幅と位相)

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• デュアルコム分光 に ポンプ-プローブ光学系を導入した系を構築した。

• 半導体材料の光励起キャリア緩和ダイナミクスの観測に成功した。

Erファイバーコム:

l: 1,560 nm (192 THz)frep: 56.4 MHzDfrep: 120.6 Hz相対コヒーレンス時間 >> 1 sec.

ポンプ用コム:

30 mW, 60 fs (時間分解能 85 fs)

測定試料:

InGaAs可飽和吸収体

(BATOP, SA-1550-46-2ps)

(位相補正用)

超高速(時間分解)デュアルコム分光測定系

新技術の説明(2-2)

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• 周波数分解能:27 GHz、時間分解能:85 fs の

超高速/超精密2次元分光に成功した。

複素透過率スペクトルの超高速光応答

新技術の説明(2-3)

-10-50

(mra

d.)

210-1Pump delay time (ps)

0.005

0.000

T/T

0.01

0.00

T/T

0 ps

2 ps -100

10

(mra

d.)

2 ps

0 ps

2

1

0

-1

Pum

p de

lay

time

(ps)

192190188Frequency (THz)

-0.010.000.01

(mrad.)2

1

0

-1

Pum

p de

lay

time

(ps)

192190188Frequency (THz)

-0.010.000.01

T/T

振幅(吸収)Δ / 位相(屈折率)Δ 振幅・位相の時間発展

Averaged in 188-192 THzFlat spectrum

Impulsive response

光周波数(THz) 光周波数(THz)ポンプ遅延時間τ(ps)ポ

ンプ

遅延

時間

τ(p

s)

ポン

プ遅

延時

間τ

(ps)

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• 直交偏光パルスのコヒーレント合成を行った。

• ∆ 制御に基づく任意かつ正確な偏光変調方式を開発した。

デュアルコムのコヒーレント制御(偏光変調)

新技術の説明(3-1)

コム2

コム1

Time

Ex

Ey

偏光

偏光変調コム

<

合成

∆ , = 0 ∆ , = /2Ex

Ey

コム1

コム2

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• もう1つのコム2(Er comb2)を導入して、

実質3つの光コムによる

「偏光変調デュアルコム分光法」を開発した。

偏光変調光コムを用いたデュアルコム分光法

新技術の説明(3-2)

Dfrep: 1002 Hz Dfceo: 0 Hz

Reconstruction of 3D IGM

偏光変調コム

コム1

コム2

繰り返し周波数

オフセット周波数

偏光変調コム1 +コム2 +

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• 一例として、偏光状態が1kHzで変化する高速かつ自在な偏光変調を実証した。

偏光変調デュアルコムの実証例= / (p/2-shift for each IGM)

変調レート:1 kHz変調レート:1 kHz

新技術の説明(3-3)

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双方向動作型デュアルコムファイバレーザー

新技術の説明(4-1)

• 1台の共振器から2つの光コムを発生する、低雑音、高安定、堅牢、

実用的な双方向動作型デュアルコムファイバレーザーを開発した。

SAM2

H Q

SAM1

P半導体レーザー

EDF

カプラ

カプラ

カプラ

カプラ

WDM

WDM

レンズ サーキュレータ

アイソレータ

アイソレータ

SMF

光コム1(CW出力)

光コム2(CCW出力)

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全偏波保持型デュアルコムファイバレーザー

新技術の説明(4-2)

• 1台の共振器で2つの偏波面を保持することにより、環境変動に強い

2つの光コムを発生するデュアルコムファイバレーザーを開発した。

波長(nm) 周波数(MHz)

光出

力(m

W)

Slow軸出力

Fast軸出力

RFパ

ワー

(dB

m)

光コム1

光コム2

偏波保持ファイバ

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新技術の特徴・従来技術との比較

従来は、主にガスの組成分析に利用されていたデュアル

コム分光法を、固体材料の物性評価にも利用できることを

世界で初めて実証した。

時間分解デュアルコム分光法を新しく提案し、超高速応答

の精密測定が可能であることを実証した。

デュアルコム分光において、自在なコヒーレント制御によ

る新しい測定ができることを示した。

デュアルコム分光を画期的に簡便化する、低雑音、高安

定、堅牢な実用的デュアルコム光源を開発した。

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生物や植物の分光データから状態をリアルタイムに観測・分析

材料開発において固体物性をトータルに高精度で測定・評価

(反射・透過、屈折、散乱、吸収、励起、偏光特性、非線形効果など)

分光データからガス組成や化学反応過程を分析

光学ガラス材料

光学薄膜材料

磁性材料 高分子材料

新材料(新奇材料)

培養液組成 血流・肌

植物生育

ガス分析 呼気分析

反応モニタリング

想定される用途

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実用化に向けた課題

デュアルコム分光法の応用実証と適用性拡大

固体物性評価技術の確立

適用対象の拡大

汎用技術への展開

デュアルコムファイバレーザーの技術確立と応用実証

デュアルコム光源の高品位化

応用に必要な要求性能の実現

応用技術との組み合わせ実証

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企業への期待

デュアルコム分光装置の開発

分析機器メーカーにとって、デュアルコム分光装置

は次世代製品として有望であり、本技術を導入する

のが有効であると思われる。

デュアルコムファイバレーザー装置の開発

本技術を用いたレーザー装置が製品化されれば、

光コムの応用分野が一気に広がると期待される。

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本技術に関する知的財産権

①発明の名称 光コムの制御方法及び光コムの制御装置

公開番号 WO/2018/159445 出願人 電気通信大学発明者 美濃島薫、浅原彰文

②発明の名称 位相屈折率の導出方法、試料、位相屈折率の測定装置

出願番号 2018-165528 出願人 電気通信大学、中央大学発明者 美濃島薫、浅原彰文、庄司一郎

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本技術に関する知的財産権

③発明の名称 デュアル光周波数コム生成光学系、レーザー装置、計測装置

出願番号 PCT/JP2018/031150 出願人 電気通信大学発明者 美濃島薫、中嶋善晶

④発明の名称 デュアル光周波数コム生成光学系、レーザー装置、計測装置

出願番号 PCT/JP2018/031344 出願人 電気通信大学発明者 美濃島薫、中嶋善晶

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お問い合わせ先

電気通信大学

ERATO美濃島知的光シンセサイザプロジェクト

研究推進主任 大平 博之

TEL : 042 - 443 - 5758

e-mail: [email protected]