山岳リゾート先進地視察アメリカコロラド州

報告書

2020年3月2日（月）～8日（日）

（一社）長野県観光機構

国内ツーリズム推進部 三井

視察の目的•長野県のスキー場の国際的な競争力を高めるため、先進スキーリゾート地であるアメリカ・コロラド州において、視察も兼ねた現地調査・動向分析を実施し、スキーリゾートの戦略的な推進事例を学ぶ。

日程：2020年3月2日（月）～3月8日（日）

主催：（公財）日本交通公社「スキーリゾート研究会」

参加者氏名 所属

山田 雄一 （公財）日本交通公社

小坂 典子 （公財）日本交通公社

樋口 正輝 （株）クロスプロジェクトグループ／アップかんなべスキー場

乾 洋俊 東急リゾートサービス／スキージャム勝山

田中 義人 （株）ニセコリゾートサービス／倶知安町議会議員

住吉 敬 ＪＪＬ Ｊａｐａｎ

降旗 昌彦 （株）五竜

横川 仁 （株）五竜

浅野 慧 （一社）信州いいやま観光局

三井 猛司 （一社）長野県観光機構

視察地１ ベイル（Ｖａｉｌ）

スキーリゾートの特徴ターゲット

世帯年収2,000万円以上の富裕層

リゾートの特色①広大でコンディション抜群のスキー場

フロントサイドエリア

バックボウル（BACKBOWLS)エリア フロントサイドの背後に位置

• 滑走面積 2,140ヘクタール（志賀高原の約5倍） コース数 約200

リゾートの特色

①広大でコンディション抜群のスキー場

• ベース部標高約2,500ｍ、山頂部の標高約3,500m

• 内陸性の寒冷な気候

降雪量は日本と比べて多くはないが、降った雪が融けにくく、

パウダースノーが長持ちする。

４，０００ｍ

３，５００ｍ

３，０００ｍ

２，５００ｍ

２，０００ｍ

１，５００ｍ

１，０００ｍ

５００ｍ

標高 ０ｍ

VailBeaverCreek

CopperMountain

Breckenridge

白馬八方

志賀高原

野沢温泉

富士山の標高３，７７６ｍ

リゾートの特色①広大でコンディション抜群のスキー場

特徴的な「BACKBOWLS」フロントサイドの奥には9つのお椀状（ボウル）の谷が8基の高速リフトで連繋。コロラドの大自然がもたらす豊かなパウダーが静かに待っていてくれる広大なエリア

リゾートの特色 ② Customer Experienceの徹底

• 毎日圧雪（グルーミング）される面積は世界一とされる

• グルーミングレポート（圧雪されたゲレンデを示すマップ）が毎日配布される。

Vail Resort（VR)は「Customer Experience」（顧客体験）の向上が顧客ロイヤリティ向上に直結する重要な要素と位置付け、そのための投資をしている。

快適に滑走できる＝Customer Experience

リゾートの特色 ② Customer Experienceの徹底

• 最新の索道施設（リフト・ゴンドラ）

Vail Resort（VR)は「Customer Experience」（顧客体験）の向上が顧客ロイヤリティ向上に直結する重要な要素と位置付け、そのための投資をしている。

快適にリフト・ゴンドラを利用できる＝Customer Experience

リゾートの特色 ② Customer Experienceの徹底

• 総勢約30人のゲストサービススタッフ（ボランティアを含む）がゲレンデ内を巡回しており、スキーヤーの様々な要望に応えている。

• 毎日定時には、広大なゲレンデをガイドが案内するゲレンデガイドツアーも開催している。

Vail Resort（VR）は「Customer Experience」（顧客体験）の向上が顧客ロイヤリティ向上に直結する重要な要素と位置付け、そのための投資をしている。

右の女性がゲストサービススタッフ

（ユニフォームの背中にはインフォメーションマークがプリントされている）

• 高速リフトにのセーフティーバーにはゲレンデマップが掲載されている。（広大なゲレンデで位置を確認できる）

⇒昨年、坂口さんが感動した、レストランの入り口で鼻拭き用のティッシュを配っているおじさん

他にもリフト乗り場にもティッシュボックス（対候性有）があった

リゾートの特色 ③ ＩＯＴを駆使したマーケティング

・スマホアプリ「Epic MIX」

Veil Resortは顧客の動態データを把握するだけでは

なく、場内消費の促進、お得なリフト券前売り券の情報発信など、顧客の囲い込みに活用している。

EpicMIXは、Veil Resortが運営する北米の１１か所のスキー場で共通使用できる。

「カメハメ波で吹き飛ばされている図」のように撮影してくれた

→撮った写真は「EpicMIX」で見ることができ、Facebookでも共有できる。（※写真のダウンロードは有料）

スキー場内のフォトスポットには、カメラマン（→黄色い

ユニフォーム）が常駐し、声をかければ記念写真を撮っ

てくれる。

リフト券とスマホアプリが連動し、スキー場内リフト乗り場などに設置されたセンサーを通過することで、自分が滑ったコース、距離、標高差などのデータがわかる

リゾートの特色④

Epic passによる財務安定化

「Epic pass」ベイルやウィスラーをはじめ37のウインターリゾートを所有または管理するVail Resortグループの早割リフトパス（毎年3月末から11月下旬までの期間限定発売）ヨーロッパ・南半球・日本など世界各地の49リゾートともパス提携しているのでエピックパス 1枚で世界中のリゾートを滑ることができる。

券種／有効期間 通用スキー場 大人 子供 特典

Epic Pass/シーズン中有効

北米１７件（使用日制限なし）豪州３件

US＄989（約11万円）

US＄519（約5.7万円）

白馬バレー5日券、ルスツ5日券、加州・欧州の提携スキー場リフト券付き

Epic Local Pass/シーズン中有効

北米１７件（Veil等

の高級スキー場は10日間まで・使用日制限あり）

US＄739（約8.1万円）

US＄389（約4.3万円）

白馬バレー5日券、ルスツ5日券付き

Epic Day Pass/１～7日間

北米17～20件

1日券US＄132（約1.5万円）～7日券US＄775（約8,5万円）

1日券US＄69（約0.7万円）～7日券US＄403（約4.4万円）

他に祝祭日に使用制限のある少し安いパスもあり。

リゾートの特色④

Epic passによる財務安定化

「Epic pass」を持たず、当日チケット売り場でリフト券を買おうとすると．．．．

大人1日券 ＄２１９（約２．４万円）

曜日や連休などによって変動する※この日は平日

ちなみにスクールは、グループレッスン１日＄２４９（約２．７万円）

リゾートの特色④

Epic passによる財務安定化

Epic pass の財務への貢献・2019-2020シーズンのepic passの売上枚数は940,000枚・passの価格を平均600ドルとして564,000,000 ドル≒620億円（→総売上の約24%）・VRの総売上の約24%がepic pass の売上。また、約20%は飲食。（垂直経営によって強化）※2019-2020シーズンのEpic passは 2019/3頃から販売開始、2019-2020シーズン前に完売

シーズン開始前に、年間のリフト券収入の約８０％が確定する。（悪天候・雪不足などの不確定要素よって収入が減ることはない）

↓計画的に設備更新・雇用などの投資を行うことができる

（Veilではほぼ毎年、どこかのリフトを更新し、昨夏は約200台のスノーマシンを導入した）

↓

それが顧客にとっての魅力と満足度を高め、よりアッパー層を取り込む好循環を作り出している

リゾートの特色⑤

洗練されたヨーロッパ風の街並み

・リゾート内を無料巡回バスが、日中から夜間まで頻繁に運行

・清流のゴア川沿いにフォーシーズンズなどの五つ星ホテルや高級コンドミニアムが景観と調和を保ちながら林立

・飲食店やスキー用品、ブティック、土産物店などの商店街・歩行者部分はロードヒーティングが徹底していて、雪や氷を気にせずに歩ける。

リゾートの特色 番外

・スキーを滑った後は、ゲレンデサイドのパブのテラスで一杯ゲレンデを眺めながら、滑走の余韻に浸る、至福のひと時♪

これこそ、まさに“非日常”

（２）Town of Vail（町行政）ヒアリング

ヒアリング対象者Town of Vail

Dave Chapin（Mayor）町長（下段写真右側）

Patty McKenny（Assistant Town Manager）助役・実務責任者

Kristen Bertuglia,LEED AP（Environmental Sustainability

Derector）環境担当Mia Vlaar（Economic Development Director）経済開発担当

Matt Gennett,AICP（Community Development Director）公共開発担当

（２）Town of Vail（町行政）ヒアリング

索道事業者（Vail Resort）は、スキー場の中で顧客が得る体験（Customer Experience）を追求し、スキー場でのリフト・滑走・飲食などを通じて顧客がいかに満足してもらうかを追求している。一方、町行政（Town of Vail）は、タウンも含めたリゾート内での滞在中に訪問客が得る体験（Guest Experience）を追求し、環境整備として、バスシステムの

運営や街並み整備、歩行者環境の整備、サスティナブル・環境保全、住民・事業者の啓発活動、グリーンシーズンのイベント開催などに注力している。歴史的に、まずスキー場が開設され、その2年後に町行政が発足したというこ

ともあり、索道事業者と町行政の役割が明確に分かれていながら、旅行者にはその境目がわからないようにうまく工夫されて街づくりが行われている

索道事業者（Vail Resort）と行政（Town of Vail）の役割分担の徹底索道事業者＝「Customer Experience」を追求

スキー場の中で顧客が得る体験町 行 政 ＝「Guest Experience 」を追求

タウンも含めたリゾート内での滞在中に訪問客が得る体験

視察地２

スキーリゾートの特徴ターゲット

世帯年収3,000万円以上の“超”富裕層

スキーリゾートの特徴超富裕層のためにゼロから作られた

スキーとゴルフの「理想」のテーマパーク五つ星ハイエンドホテル

リッツカールトン パークハイアット

ゲレンデサイドの屋外暖炉 スケートリンク

スキーリゾートの特徴超富裕層セレブ老夫婦の一日

孫に最新ギアを買い与え

スキースクールに孫を預け1day Lesson $269（¥30,000）

Private 1day Lesson $1119（¥123,000）

リフトに乗るのが怖い初心者のために作られた、世界一短いゴンドラ このあた

りで終点

シャンパンを飲みながらレッスンを眺めるスクール受講者専用レストランも完備

スキーリゾートの特徴

スケートリンクの真下に作られたシアター

世界のエンターテイメントをお楽しみ

開演まではVIPルームでカクテル

最新音響設備満載

アフタースキーも充実（リゾート内のシアター）

スキーリゾートの特徴

世界のエンターテイメントをお楽しみ

日本でも取り入れてほしい、“非日常”演出

ゲレンデ中腹の絶景グリルテラス 屋内のバーで注文

ハンバーガーのキットを渡される（他にもメニュー有）

ハンバーガーのキットを渡される（他にもメニュー有）

自分で焼く（絶景を眺めながら）

出来上がり「ミディアムレアはあと1分」スタッフが教えてくれる

スキーリゾートの特徴

視察地３

カッパーマウンテン（Copper Mountain）

スキーリゾートの特徴スキーリゾートの特徴ターゲット

スキーヤーに加え、フリースタイル愛好者（スノボ含む）

デンバー近郊の地元客（ベイルと比べ、若年層が多い）

スポーツ愛好者、アスリートトレーニング

スキーリゾートの特徴リゾートの特色・ベース部で標高約2,800m 高地を生かしたアスリート合宿誘致・競技開催（1シーズンに約650の競技大会を開催）

・近隣のスキー場にはない、大規模なフリースタイル用「パーク」を整備し、「競技の聖地」「フリースタイルの聖地」として差別化を図り、競合が起きにくい環境を作り上げた。

フリースタイル用のパーク

屋内トレーニング用のプール・スケートボードパーク

スキーリゾートの特徴一般スキーヤー（旅行愛好者）へのヒアリング

デルタ航空の家族パスを利用して頻繁に日本旅行を楽しんでいる、現地ガイドの友人“ジェイソンさん”（不動産会社経営）にヒアリング【旅の情報源】

「Reddit」や「Time Out」、「Culture Trip」、「Tokyo cheapo」といった英語圏ソーシャルニュースサイト（口コミ情報投稿サイト）を利用し、自分が興味のある「一人旅」「温泉」「食べ物」といったキーワードにタグ付けされた、口コミ、体験談といった新鮮な情報を得て参考にしている。

そういったサイトには、長野県の情報はまだまだ少ないので、もっと積極的に、地元からの情報を発信したほうがいい、とのアドバイスをいただいた。

↑ジェイソンさん

→

Reddit

視察地４

ブリッケンリッジ（Breckenridge）

スキーリゾートの特徴ターゲット

主に米国内客

（ベイル等と比べ、若年層や非白人顧客が多い）

リゾートの特色

①北米トップクラスの集客力

・ベース標高約2,900m 山頂部標高約4,000m

・滑走面積1,177ヘクタール（志賀高原の約3倍）

・南北に連なる5つの山頂から広がる、ワイド＆ロングなゲレンデ

・宿泊施設はスキーを履いたまま出発して帰ってくることができるようになっているところが多い。日帰り客も多く、駐車場内にスキー場につながるゴンドラの駅（→）があるなど、利便性が高い。

・現在索道はベイルリゾートが経営し、Epic passを使用することができる。

リゾートの特色②「古い街並みを保全・活用した旧市街とスキー場との共生」

・1800年代にゴールドラッシュで栄えた鉱山街（旧市街）を歴史的街区として保全をしながら、飲食や買い物などが楽しめる商店街として再生し、アフタースキーにノスタルジックな街並みの街歩きを楽しむことができる。

ノスタルジックな街並みとスキーリゾートが共生

クラフトビール工房＆パブ ファットバイクの街並みサイクリングツアー

研修で感じたこと• ベイルやビーバークリークといった、まるでテーマ―パークのような超高級スキーリゾートを日本で100％真似をすることは、新規のスキーリ

ゾートをゼロから作り上げなくてはならず、現実的には不可能（そもそも、そのための研修ではない）

• インバウンドのスキーヤーにも超富裕層からバックパッカーに近いレベルまで様々あり、それぞれのレベルにおいて、アメリカにはアメリカ流の、日本には日本流のスキーリゾートに魅力を感じるのではないだろうか。

• ベイルやビーバークリークといった超高級リゾートに囲まれたカッパーマウンテンやブリッケンリッジが独自のコンセプトやターゲットを明確にして成功しているように、日本のスキー場はそれぞれの地域の文化や特性を活かしたコンセプトやターゲットを明確にし、温泉や地域文化の体験、食事、アフタースキー・ナイトライフ、周辺観光といった日本ならではの魅力（それも一つの“和風テーマパーク” ）でそれらのインバウ

ンドに訴求し、あとは「いかにストレスを感じずにリゾートライフを楽しむことができるか」ということを工夫して追求することに力を入れたほうが良いと感じた。