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アミロイドーシスの種類 タンパク質科学:後藤祐児・桑島邦博・谷澤克行編、化学同人 前駆体タンパク質 アミロイドーシス 全身性アミロイドーシス 1 免疫グロブリンL鎖 ALアミロイドーシス 2 免疫グロブリンH鎖 AHアミロイドーシス 3 Serum component of amyloid A 反応性AAアミロイドーシス 4 トランスサイレチン 家族性アミロイドポリニューロパチーI, II型 老人性アミロイドーシス 5 アポAI 家族性アミロイドポリニューロパチーIII型 6 ゲルソリン 家族性アミロイドポリニューロパチーIV型 7 リゾチーム 家族性腎アミロイドーシス 8 フィブリノーゲンA 家族性腎アミロイドーシス 9 β 2 ミクログロブリン 透析アミロイドーシス 限局性アミロイドーシス 10アミロイドβペプチド アルツハイマー病 11シスタチンC 遺伝性アミロイド性脳出血 12プリオンタンパク質 プリオン病, クロイツフェルト・ヤコブ病 13(プロ)カルシトニン 甲状腺髄様がん 14アミリン II型糖尿病 15心房ナトリウム利尿ペプチド 限局性心房性アミロイド 16ケラチン 皮膚アミロイドーシス 17プロラクチン 老化脳下垂体, プロラクチノーマ 18インスリン インスリノーマ 19ラクトフェリン 家族性角膜アミロイドーシス 20ラクトアドヘリン 動脈中膜 21BRIタンパク質 家族性痴呆(イギリス型) 研究内容:アミロイド核の生成機構の解明 アミロイド線維 コラーゲン繊維 アルツハイマ-病 透析アミロイドーシス ストランド 間隔 約0.5 nm シート間隔 約1 nm 幅約 数~十数nm アミロイド線維 (プロトフィラメントが数本束なる) プロトフィラメント内部: クロスβ構造 ミスフォールディング フォールディング a b 伸長 (中間体の 形成) 肥大成長 (線維構造の 成熟化) c 時間 (sec) 長さ (Å) 半径 (Å) b a 時間 Q -1 ) I(Q) (a.u.) さらに、中間体が時間をかけて構造を発達させる様子を 小角X線散乱法による時分割測定で明らかにした。 アミロイド線維は、タンパク質のミスフォールディング によって形成される異常な凝集構造状態である。 これまでに、プリオン病やアルツハイマー病など30種 類以上のアミロイドーシスに加え、パーキンソン病やハ ンチントン病に代表される神経変性疾患にみられる沈着 物についてもアミロイド線維に類似していることが明ら かになっている。このことより、アミロイド線維の構造 形成のしくみには強い関心が寄せられている。 アミロイド線維の沈着 ネイティブ構造 (タンパク質の正常な立体構造) アミロイド 線維形成の基本メカニズム アミロイド線維の核生成はアミロイドーシス発症の分子基盤である アミロイド線維核の持つ自己増殖能はDNA複製に似ており、タ ンパク質を媒体に病気を伝播・感染させる能力を持つため、核 生成を未然に防ぐことが発症の対策において重要である 核形成 伸長 核依存性伸長 シード (線維断片) 核形成 伸長モデル アミロイド線維の形成反応は、おもに核生成とそれに続く成長の2段階から構成さ れるが、核生成は自発的には起こりにくいためアミロイド線維形成反応全体の律速 となっている。しかしながら、ひとたび核が生成すると核の持つ伝播性により自己 触媒的に成長・増殖し高確率で発病に至ると考えられている。 アミロイド線維とは 核形成相 伸長相 時間 アミロイド線維の形成量 アミロイド線維 アミロイドーシス発症 0 50 100 150 200 250 300 0 200 400 600 800 1000 ThT 蛍光 時間(分) ①核形成中間体 (未成熟な構造) ②アミロイド線維核 (成熟した構造) アミロイド構造の 一部が形成 さらなる 構造の発達 モノマー 線維核として必要な 構造を獲得 タンパク質分子のどのような集合および構造化プロセス を経て核構造が生成するのか? オリゴマー プロトフィブリル 線維核ができる前の プロセスの観察を試みる! モノマー アミロイド線維核が形成する前に生じる中間 体を捕捉し観察することを試みた。 さらに核形成に伴う水の構造変化を観測した 1.核形成中間体の捕捉の実現 2.核形成中間体の形成過程のリアルタイム観察 3.核形成過程に見られる特徴的な水の構造変化の発見 本研究の概要 核が生成するまでの中間体は、生理的条件下では不安定で捕捉が難し いが、溶媒条件を調整する方法により安定に捕まえることができた。 平衡相 核形成 伸長 平衡 近赤外分光法により核形成過程の水の挙動を調べた結果、核形 成の後半に特徴的な水の構造形成があることが分かった。 中間体の大量 捕捉に成功! 中間体 提案された線維核生成スキーム 中間構造体の生成 中間体の集合化および 水構造の秩序化 線維核の完成 -3 -2 -1 0 1 2 3 1343 1358 1367 1371 1382 1395 1408 1425 1438 1447 1464 1475 1492 1518 1343 1358 1367 1371 1382 1395 1408 1425 1438 1447 1464 1475 1492 1518 3 2 1 0 -3 -2 -1 1343 1358 1367 1371 1382 1395 1408 1425 1438 1447 1464 1475 1492 1518 3 2 1 0 -3 -2 -1 O H H 核形成 伸長 水分子間の 水素結合の 形成 各相と連動した 水構造の変化を捉えた 中間体の構造特性および水構造の変 化を、アミロイドーシス発症を防ぐ 手段および早期発見法の開発に活用 したいと考えている DNA複製 核を鋳型とした アミロイド線維 の伸長 (タンパク質の 構造複製) Chatani et al. J. Biol. Chem. 289, 10399-10410 (2014) Chatani et al. PLOS One 9, e101997 (2014) :農学研究科ツェンコヴァ教授との共同研究 投稿準備中 :京都大学井上倫太郎博士、金谷利治教授との共同研究 Jimenez et al., PNAS 99, 9196-21 (2002) Ban et al. J. Mol. Biol. 344, 757-767 (2004)

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Page 1: アミロイド線維形成の基本メカニズム - Kobe …...アミロイドーシスの種類 タンパク質科学:後藤祐児・桑島邦博・谷澤克行編、化学同人

アミロイドーシスの種類

タンパク質科学:後藤祐児・桑島邦博・谷澤克行編、化学同人

前駆体タンパク質 アミロイドーシス全身性アミロイドーシス

1免疫グロブリンL鎖 ALアミロイドーシス2免疫グロブリンH鎖 AHアミロイドーシス3Serum component of amyloid A 反応性AAアミロイドーシス

4トランスサイレチン家族性アミロイドポリニューロパチーI, II型老人性アミロイドーシス

5アポAI 家族性アミロイドポリニューロパチーIII型6ゲルソリン 家族性アミロイドポリニューロパチーIV型7リゾチーム 家族性腎アミロイドーシス8フィブリノーゲンA 家族性腎アミロイドーシス9β 2ミクログロブリン 透析アミロイドーシス

限局性アミロイドーシス10アミロイドβペプチド アルツハイマー病11シスタチンC 遺伝性アミロイド性脳出血12プリオンタンパク質 プリオン病, クロイツフェルト・ヤコブ病13(プロ)カルシトニン 甲状腺髄様がん14アミリン II型糖尿病15心房ナトリウム利尿ペプチド 限局性心房性アミロイド16ケラチン 皮膚アミロイドーシス17プロラクチン 老化脳下垂体, プロラクチノーマ18インスリン インスリノーマ19ラクトフェリン 家族性角膜アミロイドーシス20ラクトアドヘリン 動脈中膜21BRIタンパク質 家族性痴呆(イギリス型)

研究内容:アミロイド核の生成機構の解明

アミロイド線維

コラーゲン繊維

アルツハイマ-病透析アミロイドーシス

ストランド間隔

約0.5 nm

シート間隔約1 nm

幅約 数~十数nm

アミロイド線維(プロトフィラメントが数本束なる)

プロトフィラメント内部:クロスβ構造

ミスフォールディングフォールディング

ab

伸長(中間体の形成)

肥大成長(線維構造の成熟化)

c

時間 (sec)

長さ

(Å)

半径

(Å)

b

a

時間

Q (Å-1)

I(Q

) (a

.u.)

さらに、中間体が時間をかけて構造を発達させる様子を小角X線散乱法による時分割測定で明らかにした。

アミロイド線維は、タンパク質のミスフォールディングによって形成される異常な凝集構造状態である。

これまでに、プリオン病やアルツハイマー病など30種類以上のアミロイドーシスに加え、パーキンソン病やハンチントン病に代表される神経変性疾患にみられる沈着物についてもアミロイド線維に類似していることが明らかになっている。このことより、アミロイド線維の構造形成のしくみには強い関心が寄せられている。

アミロイド線維の沈着

ネイティブ構造(タンパク質の正常な立体構造)

アミロイド線維形成の基本メカニズム アミロイド線維の核生成はアミロイドーシス発症の分子基盤である

アミロイド線維核の持つ自己増殖能はDNA複製に似ており、タンパク質を媒体に病気を伝播・感染させる能力を持つため、核生成を未然に防ぐことが発症の対策において重要である

核形成 伸長

核依存性伸長

シード(線維断片)

“核形成‐伸長モデル”

アミロイド線維の形成反応は、おもに核生成とそれに続く成長の2段階から構成されるが、核生成は自発的には起こりにくいためアミロイド線維形成反応全体の律速となっている。しかしながら、ひとたび核が生成すると核の持つ伝播性により自己触媒的に成長・増殖し高確率で発病に至ると考えられている。

アミロイド線維とは

核形成相 伸長相

時間

アミロイド線維の形成量

アミロイド線維

アミロイドーシス発症

0 50 100 150 200 250 3000

200

400

600

800

1000

ThT蛍光

時間(分)

①核形成中間体(未成熟な構造)

②アミロイド線維核(成熟した構造)

アミロイド構造の一部が形成

さらなる構造の発達

モノマー

線維核として必要な構造を獲得

タンパク質分子のどのような集合および構造化プロセスを経て核構造が生成するのか?

オリゴマー プロトフィブリル

線維核ができる前のプロセスの観察を試みる!

モノマー

アミロイド線維核が形成する前に生じる中間体を捕捉し観察することを試みた。

さらに核形成に伴う水の構造変化を観測した

1.核形成中間体の捕捉の実現

2.核形成中間体の形成過程のリアルタイム観察

3.核形成過程に見られる特徴的な水の構造変化の発見

本研究の概要

核が生成するまでの中間体は、生理的条件下では不安定で捕捉が難しいが、溶媒条件を調整する方法により安定に捕まえることができた。

平衡相

核形成 伸長 平衡

近赤外分光法により核形成過程の水の挙動を調べた結果、核形成の後半に特徴的な水の構造形成があることが分かった。

中間体の大量捕捉に成功!

中間体

提案された線維核生成スキーム

中間構造体の生成中間体の集合化および

水構造の秩序化線維核の完成

-3-2-1012 23

31343

1358

1367

1371

1382

1395

14081425

1438

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1464

1475

1492

15181343

1358

1367

1371

1382

1395

14081425

1438

1447

1464

1475

1492

1518 3210

-3-2-1

13431358

1367

1371

1382

1395

14081425

1438

1447

1464

1475

1492

1518 3210

-3-2-1

OH H

核形成 伸長

水分子間の水素結合の

形成

各相と連動した水構造の変化を捉えた

中間体の構造特性および水構造の変化を、アミロイドーシス発症を防ぐ手段および早期発見法の開発に活用したいと考えている

DNA複製核を鋳型としたアミロイド線維

の伸長(タンパク質の構造複製)

Chatani et al. J. Biol. Chem. 289, 10399-10410 (2014)

Chatani et al. PLOS One 9, e101997 (2014) :農学研究科ツェンコヴァ教授との共同研究

投稿準備中 :京都大学井上倫太郎博士、金谷利治教授との共同研究

Jimenez et al., PNAS 99,

9196-21 (2002)

Ban et al. J. Mol. Biol.

344, 757-767 (2004)