モミガラを利用した簡易な脱臭装置の開発(2)モミガラを利用した簡易な脱臭装置の開発(2)...

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モミガラを利用した簡易な脱臭装置の開発(2) 誌名 誌名 群馬県畜産試験場研究報告 = Bulletin of the Gunma Animal Husbandry Experiment Station ISSN ISSN 13409514 巻/号 巻/号 23 掲載ページ 掲載ページ p. 86-91 発行年月 発行年月 2017年2月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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Page 1: モミガラを利用した簡易な脱臭装置の開発(2)モミガラを利用した簡易な脱臭装置の開発(2) 誌名 群馬県畜産試験場研究報告 = Bulletin of the

モミガラを利用した簡易な脱臭装置の開発(2)

誌名誌名群馬県畜産試験場研究報告 = Bulletin of the Gunma Animal HusbandryExperiment Station

ISSNISSN 13409514

巻/号巻/号 23

掲載ページ掲載ページ p. 86-91

発行年月発行年月 2017年2月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: モミガラを利用した簡易な脱臭装置の開発(2)モミガラを利用した簡易な脱臭装置の開発(2) 誌名 群馬県畜産試験場研究報告 = Bulletin of the

群馬畜試研報第 23号(2016)

群馬畜試研報第23号(2016)・ 86-91

キーワード・ 脱臭装置・モミガラ

モミガラを利用した簡易な脱臭装置の開発(第2報)

鹿沼由香理・坂西啓悟*

Development of Deodorizing Apparatus using Rice Husks (part2)

Yukari KANUMA and Keigo SAKANISHI

要 i:::. 日

*現農政部畜産課

モミガラを接触櫨材とし、そこに循環水を散布する簡易な微生物脱臭装置を

開発した。前報告では、脱臭装置 1基で平均 20ppmのアンモニア濃度を 70%以

上除去できることが確認できた。本報告では、比較的高濃度のアンモニアを含

む臭気を除去するため、同装置を 2基連結した場合のアンモニア除去効果につ

いて検討したところ、以下の結果を得た。

1 試験期間における原臭のアンモニア濃度平均値は 89ppmであった。一方、

脱臭槽通過後のアンモニア濃度平均値は 32ppmであり、原臭に対するアンモ

ニア除去率は平均 65%程度であった。

2 26年度では 5月から 10月に、 27年度では 7月から 11月において、平均 90

%と高いアンモニア除去率を示した。

3 水温が 15°C以下となる 12月から翌年 4月はアンモニア除去率の低下が確

認された。

緒言

平成 26年度の群馬県内の畜産経営に起

因する公害苦情は 72件あり、そのうち約 6

割の 44件が悪臭関連であったに

んできた。坂西ら 2)は、本装置を用いて、

場内の牛ふん堆肥化処理施設において平

均 20ppmのアンモニアを 70%以上除去で

きることを報告している。一方、本装置

では、冬季の低温条件下において脱臭能

力の低下が確認されたヘ近年、畜産施設と住宅との混在化が進

んできており、悪臭問題は畜産経営に大

きな影響を及ぼす深刻な課題となってい

る。

これまで、当場では、中小規模の畜産

農家が導入しやすい低コストかつ簡易な

脱臭装置として、安価で入手しやすいモミ

ガラを接触櫨材として利用した微生物脱臭

装置「モミガラ脱臭装置」の開発に取り組

・86-

そこで、本試験では、豚舎等から発生

する臭気を想定し、比較的高濃度のアン

モニアを含む臭気を除去できる装置とす

るため、本装置を 2基連結した場合のア

ンモニア除去効果について検討したので

報告する。

材料及び方法

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群馬音試研報第 23号(2016)

1 脱臭装置の構造

脱臭装置については、前報と同様の構造

とし2)、第 1糟上部を農業用ビ、ニールで、覆

い、捕集した第 l糟からの排気を第 2槽

に導入することで脱臭を行った(図 1、

2)。

2 試験期間

平成 26年 l月~平成 28年 l月

3 送風量

1.8 rrf /min

4 臭気

供試する臭気については、場内の密閉

|堆肥化に伴い発生する臭気|↓

縦型堆肥化施設(図 3)において豚ぷん、

鶏ふん等の堆肥化に伴い発生する臭気を、

電動送風機(昭和電機社製、ガストブロ

ア V2U-70S)を用いて原則 50ppm以下に

希釈したうえで、脱臭槽下部から導入し

た。

5 循環水

前報と同様、モミガラ層へ散水する水

は循環利用とし、 30分毎に 1[目、 l分間の

散水を行う間欠散水とした。

循環水は、蒸発や飛散により減少した

分を水道水で補充した。

|第2槽通過後の臭気

電動送風機※臭気と空気を混合し、

50~500ppm程度に希釈

密閉縦型堆肥化施設 モミガラ脱臭装置

(第1槽)

置一-K

2

)フ宮町

ガ(

~一~循環水

図 1 モミガラ脱臭装置( 2基連結)の概略

図 2 モミガラ脱臭装置( 2基連結) 図 3 密閉縦型堆肥化施設

-87 -

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群馬畜試研報第 23号(2016)

6 その他

モミガラ層への硝化細菌の定着及び増殖

を促進するため、場内尿汚水浄化処理施設

の活性汚泥を添加した。添加期間は、試験

開始から 7日間とし、各槽への活性汚泥添

加量は、初日にモミガラ層及び循環水に 2

Bずつ、 2 日目から 7 日固まではモミガラ

層にのみ 2Qずっとした。

7 調査項目

1 )臭気のアンモニア濃度

原臭及び各槽通過前後の臭気のアンモニ

ア濃度について北川式ガス検知管(光明理

化学工業社製)を用いて、測定した。

2)臭気温度

原臭温度及び第 2槽導入時の臭気温度

を、温度自記記録計(T&D 社製、おんど

とり j.r.TR52S)を用いて、測定した。

3)循環水の水質

各糟の循環水について、水温を温度自記

記録計、 pHをガラス電極法(東亜 DKK社

製、 MM-SOR)、アンモニア態窒素を直接

蒸留法、亜硝酸態窒素及び硝酸態窒素をイ

アンモニア濃度(ppm)

500

400

300

200

100

0

オンクロマトグラフ法(DJONEX社製、

ICS-1000)により、測定した。

4)クエン酸によるアンモニア除去効果

クエン酸を添加し、アンモニア除去率へ

の影響を検討した。添加日は、 26年 12月 9

日、 27年 1月 23、26日及び 2月 l日とし

た。添加は、 l月 23 日のみ各槽に lkgず

つ、それ以外は、第 l槽に lkg添加した。

結果

1 アンモニア除去効果

26年 l月から 28年 1月の試験期間中の

原臭中アンモニア濃度の平均値は 89ppm

であり、 2基連結したモミガラ脱臭装置に

よるアンモニア除去率の平均値は 65%で

あった(図 4)。

26年 5月から 10月では、平均 90%、 27

年 7月から 11月では、平均 98%と高いア

ンモニア除去率を示した。一方、水温が 15

oc以下となる 12月から翌年 4月の間はア

ンモニア除去率の低下が確認された(図

4)。

温度(℃)

一一一--50

40

30

0

H26.!Jl 2月 3月 4J'J 5月 6月 7Jl 8月 9月 10月 11月 12月 1127.I月 2月 3月 4月 5J16月 7Jl 8月 9月 10月1112 H28 月月 l月

一·H~央 一ー臭気(第I摘通過後) 唱・臭気(第2情通過後) 叫・央気温度(第1補) ・・・臭気温度(第2禍!)

図4 各槽の臭気温度とアンモニア除去効果

-88 -

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群馬畜試研報第 23号(2016)

2 循環水の水質

26年 4月から 27年 8月までの各窒素濃

度及び水温の推移は図 5、 6のようになっ

た。各槽ともに、 26年 4月から 11月まで

アンモニア態窒素及び亜硝酸態窒素は徐々

に増加し、臭気温度及び水温の低下する 12

月からは減少傾向で推移した。 27年 1月

からは、第 l槽では亜硝酸態窒素の増加は

みられなかった。また、各槽ともに、試験

期間中の硝酸態窒素の大きな増加はみられ

なかった(図 7)。

各室素濃度(×103 mg/l)

3 クエン酸によるアンモニア除去効果

クエン酸添加後、 pHは 2まで低下した。

pHの低下は 2週間程度続いたが、脱臭効

果は判然としなかった(図 7)。

4 モミガラの形状の変化

試験 1年経過後と試験期間終了後に、脱

臭槽からモミガラを取り出したところ、送

風部付近にモミガラ及び粉塵等の目詰まり

が確認された(図 8)。

水温(℃)

A

U

A

U

U

3

2

1

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1

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4

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4

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。H26.4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

"""' NH4-N - N02-N ・・ N03-N ------水温

H27.l月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月

図5 第 1槽における循環水中の各窒素濃度及び水温

各窒素濃度(X 10 3 mg/l) 水温(℃)

j : ·~t日}J1mi1仙。

H26.4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

E冨 NH1-N 圃圃 N02-N 圃圃 N03-N ・・・・・・水温

2月

。H27.l月 3月 4月 5月 6月 7月 8月

図6 第 2槽における循環水中の各窒素濃度及び水温

-89 -

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群馬畜書式研報 第 23号(2016)

アンモニア濃度(ppm)

500

400

300

200

l(〕O

0

pH

10

8

6

4

2

H26.4月5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 H27.l月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月

一一・原臭

一+ーpH (第 1槽循環水)

一一ー臭気 (第1槽通過後)

ー官ーpH(第2槽循環水)

一ーー臭気 (第2槽通過後)

図 7 臭気のアンモニア濃度と循環水中の pH

図 8 送風部の目詰まり(試験期間終了後)

考察

安価で入手しやすいそミガラを接触櫨材

として利用した微生物脱臭装置を 2基連結

した場合のアンモニア除去効果等を調査し

た。

1 アンモニア除去効果

春季から秋季には 90%程度の除去率が

得られたが、水温の低下する 12月から 4

月はアンモニア除去率の低下がみられた。

坂西ら 2)も水温が 10°Cを下回った場合に

脱臭能力が低下したと報告している。

-90 -

一般的に、微生物活性は、温度に大きく

影響される。20°Cの活性に対して、 30℃

では約 2倍の活性があり、これに対して 10

ocでは半分程度となり、 4°Cではさらにそ

の半分の活性になるといわれている。本試

験においては、水温が 15°C以下となる場

合に脱臭効果の低下がみられたが、これは

冬季において微生物活性が低下したことが

原因であると示唆された。

よって、冬季には、微生物活性を保持す

るための保温対策等が必要であると考えら

れた。

2 循環水の水質

本多ら 3)の試験では、低負荷の場合はア

ンモニア態窒素が亜硝酸態窒素に変化し、

次に硝酸態窒素へと菌液中の微生物分解が

順調に進行するのに対し、高負荷では亜硝

酸菌の活動は続くが 4週間後から硝酸菌数

は減少し、亜硝酸から硝酸態窒素への微生

物分解がほとんど行われなくなったことを

報告している。本試験においても循環水中

の硝酸態窒素は、アンモニア態窒素、市.硝

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群馬畜試研報第 23号(2016)

酸態窒素に比べ、低い値で推移したことか

ら、硝酸菌による分解が順調に進行しなか

ったと考えられた。特に、第 l槽では、高

濃度の原臭が導入されるため、硝酸菌が定

着しなかったと考えられた。

一方、坂西ら勺士、平均 6ppmと低負荷

の臭気を導入した場合には、循環水中の窒

素分解が順調に進行したことを報告してい

る。このことから、本装置は低濃度の臭気

であれば、利用可能であると考えられる。

3 モミガラの形状の変化

試験 l年経過後と試験期間終了後に、モ

ミガラ層への通気性の低下がみられた。こ

れは、圧力がかかることによって、モミガ

ラ層の下部が圧密化を起こすとともに、粉

塵の固着等によるものであると考えられ

た。粉塵が多量に発生する施設に本装置を

設置する場合には、モミガラの定期的な交

換または切り返しを行う必要があると考え

られる。しかし、具体的な交換頻度は明ら

かとなっていないため、今後の検討課題で

ある。

現在の畜産現場における臭気対策は、主

に、ロックウール、ファイパーボール、軽

石等を櫨材として利用する微生物脱臭やオ

ガ屑等を利用した吸着脱臭が主流となって

し、る。

モミガラは、難分解性でケイ酸を多く含

有するため、微生物が定着しやすいと考え

られる。また、カントリーエレベータ一等

から多量に排出されるため、安価で入手し

やすいことから、モミガラを櫨材として利

用することで安価な脱臭装置の開発を試み

た。

本試験では、 200ppmと高濃度なアンモ

ニア臭気が導入される場合、低い脱臭率を

示したが、坂西ら 2)の報告では、本装置 1

基で平均 20ppmのアンモニア濃度を 70%

以上除去できることが報告されている。こ

のことから、低濃度臭気に適用可能な脱臭

-91 -

装置であると考えられる。

今後の課題として、冬季には脱臭能力が

低下するため、低温時の保温対策が必要で

ある。微生物活性が維持可能な槽内温度を

保つためには、臭気温度を低下させずに脱

臭装置まで送風するために、市販の保温資

材を利用して送風配管を覆う等の保温対策

やモミガラ層への活性汚泥の追加投入等が

必要と考えられた。

粉塵等によるモミガラ層への通気性の低

下が問題となったが、この対策として本装

置の前段階に水洗法などを利用した前処理

装置を設置することが有効である思われ

た。

なお、使用後のモミガラの処理、利用に

ついては、土壌還元、堆肥化等を検討した

し\ 0

引用文献

1)群馬県.2015.畜産経営に起因する苦情発

生件数

2)坂西啓悟ら .2014.モミガラを利用した簡

易な脱臭装置の開発.群馬畜試研報第 21

号:56・62

3)本多勝男ら .1993.活性汚泥微生物による

脱臭技術に関する研究.神奈川畜試研報

第 83号:71-86