アフガニスタン国 カンダハル帰還民社会復帰・ コミュニティ ...2005年6月...

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No. 09-51 J R 農 村 PROTECO(提案型技術協力) アフガニスタン国 カンダハル帰還民社会復帰・ コミュニティ開発支援計画 ファイナルレポート (和文要約) 平成 21 6 2009年) 独立行政法人国際協力機構 JICA委託先 株式会社オリエンタルコンサルタンツ アフガニスタン国 農村復興開発省

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  • No.

    09-51

    J R農 村

    PROTECO(提案型技術協力)

    アフガニスタン国

    カンダハル帰還民社会復帰・

    コミュニティ開発支援計画

    ファイナルレポート

    (和文要約)

    平成 21 年 6 月 (2009年)

    独立行政法人国際協力機構 (JICA)

    委託先

    株式会社オリエンタルコンサルタンツ

    アフガニスタン国 農村復興開発省

  • PROTECO(提案型技術協力)

    アフガニスタン国

    カンダハル帰還民社会復帰・

    コミュニティ開発支援計画

    ファイナルレポート

    (和文要約)

    平成 21 年 6 月 (2009年)

    独立行政法人国際協力機構 (JICA)

    委託先

    株式会社オリエンタルコンサルタンツ

    アフガニスタン国 農村復興開発省

  • 序 文

    2005 年 1 月より現地での活動を進めてまいりましたアフガニスタン国の戦後復興の一翼を担う

    技術協力プロジェクト「カンダハル帰還民社会復帰・コミュニティ開発支援計画」が 2009 年 6

    月に完了いたしました。

    4 年以上に亘る現地での活動内容をまとめた総合報告書をここに提出いたします。本報告書には

    付属書として、活動の中で作成した研修と実践のための各種資料を JSPR モデルとして取りまと

    めました。JSPR モデルはコミュニティ開発人材育成のための「研修」と「実践」について、各々

    ガイドラインとマニュアルから構成されています。今後、JSPR モデルがコミュニティ開発のた

    めの一助となることを願っております。

    現地での活動を開始した 2005 年当初は、20 年以上に亘った内乱や、近年の旱魃がもたらした混

    乱にもようやく落ち着きが見られるようになってきておりました。しかし、その後再び治安は

    悪化の一途をたどり、2006 年度以降、日本人はカンダハルに入れなくなってしまいました。こ

    の為、活動を続けていくには多大な困難がありましたが無事終了することが出来ました。これ

    もひとえに JICA、MRRD をはじめとする、大勢の関係者の多大なご支援の賜物です。ここに深く

    感謝申し上げます。

    アフガニスタンの人々の生活に平和と安定がもたらされるにはいまだに多くの問題を抱えてお

    ります。今後もアフガニスタン復興への関係各位の変わらぬご関心とご協力を祈っております。

    川崎正三

    プロジェクト・リーダー

    カンダハル帰還民社会復帰・コミュニティ開発支援計画

  • プロジェクト概要および対象地域

    国名 :アフガニスタン・イスラム共和国

    案件名 :カンダハル帰還民社会復帰・コミュニティ開発支援計画

    援助形態 :民間提案型技術協力プロジェクト(PROTECO)

    協力期間 :2004 年 6 月~2009 年 6 月(R/D)

    対象地域 :カンダハル州(サブプロジェクト実施は同州ダンド郡)

    先方関係機関 :農村復興開発省(MRRD)、カンダハル州農村復興開発局(PRRDD)

    上位目標 :カンダハルの帰還民を含む住民が地元資源を活用したコミュニティ開発活動を通じて発展を享受できる。

    プロジェクト目標 :持続可能なコミュニティ開発活動の運営に関わる開発従事者の能力が開発される。

    成果:

    (1) コミュニティ開発に関わる開発従事者が研修プログラムを通じて参加型のコミュニティ開発を実施するために必要な知識や

    考え方を身につける(理論)。

    (2) コミュニティ開発に関わる開発従事者がコミュニティ開発の実践を通じて参加型のコミュニティ開発を実施するために必要な

    スキルや態度を身につける(実践)。

    (3) コミュニティ開発に関わる開発従事者が関係者間でより良い調整と効果的な連携をできるようになる。

    (4) 地元資源の有効活用による CDC の強化システムに関わるモデルが開発される。

    指標、活動、投入、外部条件の詳細については Annex 1. PDM ver.3 を参照

    Gundigan

    対象地域図

    DDaanndd DDiissttrriicctt

    KKaannddaahhaarr CCiittyy

    Loy Balakarz Deh Khatai

    Karez

    Yahk Kariz

    Kakaro Ghoshkhana

    Deh Bagh

    Kshata Kokaran

    Ghulam Dastagir Kalacha

    Dheh Kuchi

  • 実践活動

    研修活動

    プロジェクト管理

    カンダハルでのキックオフ会議

    2005 年 2 月

    カンダハルでの日本人専門家

    2005 年 6 月

    日本人専門家による研修

    2007 年 5 月

    カンダハルでの PRA 研修

    2006 年 2 月

    バルフ州およびサマンガン州

    への国内視察研修

    2006 年 11 月

    沖縄での本邦研修

    2007 年 10 月

    平和構築研修

    2008 年 8 月

    モニタリング・評価研修

    2009 年 2 月

    新潟での本邦研修

    2008 年 10 月

    対象村での

    PRA の実践

    2006 年 4 月

    スキルトレーニング

    2006 年 9 月

    インフラタイプの

    サブプロジェクト

    2007 年 3 月

    農村スキル活性化事業の事後評価

    2007 年 6 月

    インフラ・ノンインフラ統合

    サブプロジェクト

    2009 年 1 月

    ノンインフラタイプの

    サブプロジェクト

    2008 年 1 月

    カンダハルでの合同調整委員会

    2006 年 2 月

    終了時評価

    2009 年 1 月

    セミナー開催

    2008 年 2 月 JSPR モデルフォローアップ

    委員会の立ち上げ

    2009 年 2 月

    カブールでの合同調整委員会

    2006 年 9 月

  • - i -

    目 次

    序 文

    プロジェクト概要および対象地域

    プロジェクト活動写真

    図表一覧

    略語集

    ページ

    第1章 JSPRの全体像

    1.1 カンダハルにおける帰還難民・国内避難民 ······························· 1 - 1

    1.2 コミュニティ開発とMRRDの支援········································· 1 - 3

    1.3 コミュニティ開発のための人材育成····································· 1 - 5

    1.4 JSPRのアプローチ····················································· 1 - 6

    1.5 JSPRの概要··························································· 1 -10

    第2章 JSPRの実施

    2.1 プロジェクト管理····················································· 2 - 1

    2.1.1 プロジェクト管理体制········································· 2 - 1

    2.1.2 プロジェクト実施体制········································· 2 - 6

    2.1.3 合同調整委員会と評価········································· 2 - 8

    2.1.4 広報························································· 2 -10

    2.2 「理論」を通じた人材育成············································· 2 -11

    2.2.1 研修プログラム··············································· 2 -12

    2.2.2 2005年度および2006年度に実施した研修························· 2 -14

    2.2.3 2007年度に実施した研修······································· 2 -15

    2.2.4 2008年度に実施した研修······································· 2 -17

    2.3 「実践」を通じた人材育成············································· 2 -18

    2.3.1 「実践」の内容··············································· 2 -18

    2.3.2 コミュニティ開発事業········································· 2 -19

    2.3.3 農村スキル活性化事業········································· 2 -23

    2.4 関係者間の「調整」··················································· 2 -26

    2.4.1 プロジェクト実施のための定期的調整会議······················· 2 -26

    2.4.2 情報共有および関係者との多様な調整··························· 2 -27

    2.4.3 事業の合同実施··············································· 2 -27

    2.5 JSPRの「モデル化」··················································· 2 -27

    2.5.1 モデル化の手順··············································· 2 -28

    2.5.2 JSPRモデル··················································· 2 -29

  • - ii -

    第3章 事業評価

    3.1 プロジェクトの実績 ··················································· 3 - 1

    3.2 プロジェクトの実施プロセス············································ 3 - 5

    3.3 評価5項目および平和構築の視点からの評価結果··························· 3 - 6

    3.4 制限・抑制要因 ······················································· 3 - 9

    3.5 結論 ································································· 3 -10

    第4章 教訓と提言

    4.1 「理論」と「実践」からの教訓·········································· 4 - 1

    4.2 JSPRのアプローチ ····················································· 4 - 7

    4.3 JSPRモデルの適応可能性 ··············································· 4 - 8

    添付文書

    Annex 1: プロジェクトデザインマトリックス(PDM)第3版和訳

    以下は報告書本体(英文・ダリ文・パシュトゥ文)のみに添付

    Annex 1: プロジェクトデザインマトリックス(PDM)第1版、第2版

    Annex 2: 活動計画

    Annex 3: プロジェクト目標および成果の達成度

    Annex 4: 研修リスト

    Annex 5: 機材リスト

    Annex 6: 投入

    Annex 7: 政府間技術協力プロジェクト合意文書(R/D)

    Annex 8: 討議議事録

    Annex 9: ニュースレター

    付録資料(別冊): JSPRモデル

  • - iii -

    図表一覧

    ページ

    図 1.1 MRRDの国家プログラム················································· 1 - 3

    図 1.2 JSPRのポジション····················································· 1 - 7

    図 1.3 JSPRのビジョン······················································· 1 -11

    図 2.1 プロジェクト管理体制 (2005年度まで)·································· 2 - 2

    図 2.2 プロジェクト管理体制 (2008年度)······································ 2 - 3

    図 2.3 プロジェクト実施体制 (2004年度-2005年度)····························· 2 - 6

    図 2.4 プロジェクト実施体制 (2006年度-2008年度)····························· 2 - 7

    図 2.5 研修のサイクル······················································· 2 -14

    図 2.6 コミュニティ開発のプロジェクトサイクル······························· 2 -19

    図 2.7 コミュニティ開発事業実施プロセス····································· 2 -20

    図 2.8 農村スキル活性化事業のイメージ······································· 2 -24

    図 2.9 農村スキル活性化事業実施プロセス····································· 2 -24

    図 2.10 モデル化の体制······················································ 2 -28

    図 2.11 フォローアップ委員会················································ 2 -29

    図 2.12 JSPRモデルブックレットの構成········································ 2 -30

    図 4.1 JSPRモデル活用例のオプション········································· 4 -10

    表 1.1 MRRDによる主要国家プログラム········································· 1 - 4

    表 2.1 JSPRのセキュリティフェーズ··········································· 2 - 5

    表 2.2合同調整委員会························································ 2 - 9

    表 2.3 JSPRセミナー························································· 2 -11

    表 2.4 2005年度および2006年度に実施した研修································· 2 -15

    表 2.5 2007年度に実施した研修··············································· 2 -16

    表 2.6 2008年度に実施した研修··············································· 2 -17

    表 2.7 実施したインフラタイプサブプロジェクト······························· 2 -21

    表 2.8 実施したノンインフラタイプサブプロジェクト··························· 2 -22

    表 2.9 スキルトレーニングに参加した訓練生数································· 2 -25

    表 2.10 元訓練生によって修理および新たに作成された設備等···················· 2 -26

    表 2.11 JSPRモデル各ブックレットの内容······································ 2 -31

  • - iv -

    略 語 集

    AGE Anti Government Element 反政府勢力

    AIRD Afghanistan Institute for Rural

    Development

    アフガニスタン農村開発研究所

    ALO Afghan Literacy Organization NGO名

    AREDP Afghanistan Rural Enterprise

    Development Programme

    アフガニスタン農村企業開発計画

    BRAC Bangladesh Rural Advancement Committee NGO名

    CDC Community Development Council コミュニティ開発委員会

    CDP Community Development Plan コミュニティ開発計画

    CDW Community Development Worker コミュニティ開発従事者

    CHA Coordination of Humanitarian Assistance NGO名

    CLC Community Learning Centre 寺子屋

    CLDD Community Led Development Department コミュニティ主導開発局

    DDA District Development Assembly 郡開発議会

    DDP District Development Plan 郡開発計画

    DDR Disarmament, Demobilization and

    Reintegration

    元兵士の武装解除、動員解除、社会再

    統合

    DIAG Disbandment of Illegal Armed Groups 民兵組織の解体

    DOA Department of Agriculture 州農業局

    DORR Department of Refugees and Repatriation 州難民帰還局

    DOWA Department of Women’s Affairs 州女性課題局

    DSO District Social Organiser 郡ソーシャルオーガナイザー

    EWEEP Enhancing Women's Economic Empowerment

    Project

    女性の経済的エンパワメントプロジェ

    クト

    FP Facilitation Partner ファシリテーションパートナー

    FY Fiscal Year 日本の会計年度(4月1日~3月31日)

    HAPA Humanitarian Action for People of

    Afghanistan

    NGO名

    IAA Interim Administration of Afghanistan アフガニスタン暫定政権

    ICD Institute for Community Development コミュニティ開発研修所

    ICDN Integrated Community Development in

    Northern Afghanistan

    北部アフガニスタン総合コミュニティ

    開発事業

    IDP Internally Displaced Person 国内避難民

    IP Implementing Partner 実施パートナー

    IRDP Inter-Communal Rural Development

    Project

    地方開発支援プロジェクト

    JCC Joint Coordination Committee 合同調整委員会

    JICA Japan International Cooperation Agency 独立行政法人国際協力機構

  • - v -

    JSPR JICA Support Programme for

    Reintegration and Community

    Development

    カンダハル帰還民社会復帰コミュニテ

    ィ開発支援計画

    LKRO Loy Kandahar Reconstruction

    Organization

    NGO名

    MISFA Microfinance Investment Support

    Facility for Afghanistan

    マイクロファイナンス制度支援プログ

    ラム

    MOE Ministry of Education 教育省

    MoLSA Ministry of Labour and Social Affairs 労働社会課題省

    MoWE Ministry of Water and Energy 水資源電力省

    MoPH Ministry of Public Health 公衆衛生省

    MRRD Ministry of Rural Rehabilitation and

    Development

    農村復興開発省

    MUDH Ministry of Urban Development and

    Housing

    都市開発省

    M&E Monitoring and Evaluation モニタリング・評価

    NABDP National Area Based Development

    Programme

    国家地域開発プログラム

    NDF National Development Framework 国家開発枠組

    NFI Non Food Item 食糧以外の必要物資

    NGO Non-governmental Organization 非政府機関

    NRAP National Rural Access Programme 国家農村アクセス改善プログラム

    NSP National Solidarity Programme 国家連帯プログラム

    OECD/DAC Organization for Economic Co-operation

    and Development / Development

    Assistance Committee

    経済協力機構/開発支援委員会

    OJT On-the-Job-Training 職場研修

    PAL Participatory Alternative Livelihoods

    Programme

    参加型代替生計プログラム

    PB Peacebuilding 平和構築

    PCI Pacific Consultants International パシフィックコンサルタンツインター

    ナショナル

    PCM Project Cycle Management プロジェクトサイクルマネージメント

    PDM Project Design Matrix プロジェクトデザインマトリックス

    PR Public Relations 広報

    PRA Participatory Rural Appraisal 参加型村落調査

    PROTECO Proposal Type Technical Cooperation 提案型技術協力

    PRR Priority Reform and Restructuring 優先構造改革

    PRRDD Provincial Rural Rehabilitation and

    Development Department

    州農村復興開発局

    PRT Provincial Reconstruction Team 地域復興チーム

  • - vi -

    QIPs Quick Impact Projects クイックインパクトプロジェクト

    R/D Record of Discussion 政府間技術協力プロジェクト合意文書

    REAP Recovery and Employment Afghanistan

    Programme

    アフガニスタン復興雇用促進プログラ

    SADA South Afghanistan Development

    Association

    NGO名

    SDO Sanayee Development Organisation NGO名

    TOT Training of Trainers トレーナー研修

    TIC Tokyo International Centre, JICA JICA東京研修センター

    UNDP United Nations Development Programme 国連開発計画

    UN Habitat United Nations Centre for Human

    Settlement (UNCHS Habitat)/ United

    Nations Human Settlements Programme

    国連人間居住計画

    UNHCR The Office of the United Nations High

    Commissioner for Refugees

    国連難民高等弁務官事務所

    VARA Voluntary Association for

    Rehabilitation of Afghanistan

    NGO名

    WatSan Rural Water Supply and Sanitation 農村給水衛生改善プログラム

    WFP World Food Programme 世界食糧計画

  • アフガニスタン国 カンダハル帰還民社会復帰・コミュニティ開発支援計画

    1 - 1

    第1章 JSPR の全体像

    1.1 カンダハルにおける帰還難民・国内避難民

    復興期のコミュニティ開発人材の育成を目的として、カンダハル帰還民社会復帰・コミュニティ

    開発支援計画(JSPR)は、2003 年にアフガニスタン政府および独立行政法人国際協力機構(JICA)

    によって形成された。JSPR およびその教訓を適切に理解するにためには、不安定かつ変化に富

    むアフガニスタン情勢によって、本プロジェクトが多様な影響を受けてきたことを鑑みること

    が重要であり、そのためにはまずアフガニスタンの歴史と復興支援の困難さを認識する必要が

    ある。

    JSPR が対象とした南アフガニスタン地域は、5 つの州に分かれパキスタンおよびイランと国境

    を接している。2002 年時点の、同地域における推定人口は 266 万人であり、多数派であるパシュ

    トゥ人は、隣国パキスタンに居住するパシュトゥ人と文化、言語を共有する1。多くの住民は、

    農村地域において農業か遊牧に従事している。その中でも、特にカンダハル州は地域の中心で

    あり、過去にはアフガニスタンのフルーツ・バスケットと呼ばれるほどに、高い生産性を誇る

    果樹園が多く存在した。

    ソビエト連邦のアフガニスタン侵攻と冷戦は、アフガニスタンの物理的インフラと社会・経済

    システムを著しく破壊した。さらに、タリバン政権時代に起こった長期に亘る旱魃は、住民の

    移動・転住を加速化し、難民・国内避難民が増加する要因となった。このために社会は分断さ

    れ、伝統的なシューラ(コミュニティの年長者による参加型の意思決定システム)やハシャー

    ル(共同作業)といった社会機能が衰退していくこととなった。

    UNHCR の統計によると、タリバン政権崩壊までの間におよそ 50 万人が南アフガニスタン地域を

    離れ、難民として隣国イラン、パキスタンに存在していたという2。この難民の数は、2004 年 2

    月時点でも未だ 311,923 人であった。避難民の多数は旱魃に影響を受けたクチおよび非クチ遊

    牧民であり、その他にも政治的問題で北部州から逃れてきたパシュトゥ人等がいた。このよう

    な状況と平行して、カンダハル周辺地域およびダンド地区を中心に、多数の難民の故郷への帰

    還が始まってもいた。しかしながら、このような状況は、地域における限られた職の機会、水、

    燃料用の薪等を巡る、現地コミュニティにおける緊張関係を生み出すことになっていた。

    長引く旱魃と紛争によって、当該地域のコミュニティおよび住民は、経済的にも社会的にも疲

    弊していた。地下水位はより下がり、カンダハル州では平均マイナス 8 メートルにまでなって

    いた。十分な量の水へのアクセスもなく、かつ質の悪い水が疾病および死亡者数の増加を引き

    起こしていた。アフガニスタン国家全体で、土地を持たない家族の割合は 21%であるのに対し

    1 Afghanistan Statistical Yearbook によると、アフガニスタンの全人口は 2,029 万人である(1382 (2003)

    Afghanistan Statistical Yearbook) 2 2004 年時点での UNHCR の統計によると、アフガニスタン全土からの難民総数は 540 万人であり、南部地域か

    らは 50 万人が難民となっている。2004 年 2 月の時点での難民総数は、アフガニスタン全土で 2,383,355 人、

    南部地域から 311,923 人であった。

  • 最終報告書

    1 - 2

    て、カンダハル市周辺の郡(アルガンダブ、ダマンおよびダンド)ではその割合は 40%にも上っ

    ており、人々が家族を支えるのに十分な農地が不足していた3。こうした状況は帰還難民の間で

    はさらに深刻であり、農業のための土地を持たない家族の割合は 79%に上っていた。このため

    に、土地を巡る問題は難民が帰還してくる度に絶えず争いを引き起こした。

    こうした状況に加え、行政サービスは機能しておらず、農村地域の多くの人々は保健や教育な

    ど基本的社会サービスを受ける機会を失っていた。例えば、カンダハル州ダンド郡では、小学

    校への推定就学率は男子児童で 28%、女子児童で 5%であった4。この割合は、アフガニスタン

    国家全体の推定平均就学率である、男子児童 59%、女子児童 30%と比べても、極端に低いとい

    える。保健問題に関しても、例えば全国平均では乳幼児死亡率が 16.5%、妊婦死亡率が 1.6%

    であるのに対して、同地区では乳幼児死亡率が 23.1%、妊婦死亡率が 2.6%となっていた5。加

    えて、同地域では失業者が多く、燃料や日用品の価格高騰が彼らの生活に深刻な影響を及ぼし

    ていた。

    このような数々の問題に対して、国際社会による緊急人道支援は、人々が直面する危機への対

    処という意味で大きな役割を果たした。しかし、緊急人道支援は、中期および長期の帰還民統

    合プロセスとコミュニティにおける経済発展を支える為に必要な、生活環境と経済インフラの

    改善には大きな貢献はできなかったと言える。人道支援による食糧配給や井戸建設、「労働の対

    価としての食料(Food for Work)」や「労働の対価としての現金(Food for Cash)」方式によ

    る基礎インフラの整備等は、帰還難民や国内避難民のみでなく、地域コミュニティの人々へ多

    くの便益を生み出した。しかし、こうした形式の援助は、人々の援助への依存状態を作り上げ

    てしまうことにも繋がる。そして何より、こうした人道支援は長年継続して実施を続けること

    は不可能である。

    アフガニスタンにおいて、過去には識字教育や職業訓練といった、社会開発や人材育成に資す

    るプロジェクトが行われてきたこともある。しかし、実際には予算と労力の大半は、都市部の

    インフラ復興支援に充てられてきた。社会・経済的インフラの復興や整備は未だ必要ではある

    が、こうした物的なプロジェクトは、人々自身がイニシアティブを持って開発事業を自ら行っ

    ていくという、真の社会復興にはなかなか結びつかない。

    これらの問題が背景にあるために、アフガニスタンにおいて人々の間の連帯意識は弱く、帰還

    難民や国内避難民がスムーズに故郷に帰還して地域に統合されることは容易ではない。逆に、

    人々の帰還は地域において緊張を生み、不安定な状態を高めていた。限られた職の機会や資源

    を巡り競う帰還民の増加は、受け入れコミュニティの帰還民に対する態度に負の影響を与えて

    3 JICA カンダハル近郊農業緊急復旧支援調査報告書最終草案(2004 年)によると、大規模土地所有者は 8%、

    小規模土地所有者は 52%、土地を持たない家族は 40%とのことである。同調査は、対象 3郡、16,760 家族

    の内から 100 家族を対象としている。 4 UNDP による全国平均の就学率調査(UNDP2004 年)および、JSPR によるダンド郡を対象とした調査(LKRO2006

    年)による。LKRO の統計は、2005 年のベースライン調査が基となっている。 5 全国平均の乳幼児死亡率および妊婦死亡率は、UNDP 調査(UNDP2004 年)による。ダンド郡における数字は、

    JSPR 調査(LKRO2006 年)による。UNDP の統計は、2002 年のデータによるものであり、LKRO の統計は 2005

    年のベースライン調査によるものが基となっている。

  • アフガニスタン国 カンダハル帰還民社会復帰・コミュニティ開発支援計画

    1 - 3

    いた。このような状況、そして貧困という困難の下、コミュニティが新たな住民を受け入れる

    キャパシティは非常に限られていたと言える。

    人道緊急援助から持続的な開発まで、帰還難民と国内避難民の社会再統合において、継ぎ目の

    ないスムーズな支援を行う為には、これらの問題に適切に対応できる環境を醸成することが重

    要である。こうした観点から、JSPR が目指したコミュニティ開発とは、持続可能な帰還難民と

    国内避難民の社会再統合を達成するのに、効果的なアプローチであるといえる。

    1.2 コミュニティ開発と MRRD の支援

    コミュニティが帰還してくる新たな住民を受け入れるキャパシティを高め、より多くの帰還民

    を受け入れることが出来るようになり、持続可能な帰還難民と国内避難民の社会再統合を達成

    するためには、人々の生活状況を改善する為のコミュニティ開発を推進することが重要である。

    アフガニスタン政府が「難民および国内避難民の帰還と社会再統合」および「持続可能な生計

    手段の確保」を優先事項と扱っていることからも言えるように、社会再統合とコミュニティ開

    発は相互に密接に関連している6。

    農村復興開発省(MRRD)はこれらの問題を管轄する省庁であり、農村開発の目標と戦略を作成

    している。目標は「基本的なサービスの提供、地方行政の強化、違法なケシ栽培の廃止と持続

    的生計手段の確保を通じ、農村コミュニティ、特に貧困層と社会的弱者の、社会、経済、政治

    的な生活の質の改善を実現すること」とされている。さらに MRRD は、「農村の生活向上」「地方

    行政」「ジェンダー平等な発展」「プログラムの連携」「組織開発」「パートナーシップ」という

    各分野に優先度を置き、戦略を策定している。これらのミッションを達成する為に、MRRD はバ

    イおよびマルチのドナーによる支援を受けていくつもの国家プログラムを実施している。図 1.1

    は主要な国家プログラムを示す。

    図 1.1 MRRD の国家プログラム

    6 アフガニスタン暫定政権(IAA)は 2001 年ボン合意によって設立され、「アフガニスタンの平和と発展」とい

    う開発ビジョンを定めた。2002 年 4 月、IAA は国家開発計画(NDF)を策定し、同ビジョンを実現するための

    戦略および政策が明確にされた。NDF は三つの主要な柱をもつ」;1.人道、人的および社会関係資本、2.物理

    的復興と自然資源、3.民間セクター開発。「難民および国内避難民の帰還・社会再統合」および「持続的生活

    改善」は第一の柱の優先事項となっている。

    生活

    インフラストラクチャー

    ガバナンス

    NSP

    国家連帯プログラム

    NABDP 国家地域開発プログラム

    AREDP アフガニスタン

    農村企業開発計画

    MISFA マイクロファイナンス制度支援

    プログラム

    WatSan 農村給水衛生改善プログラム

    NRAP 国家農村アクセス 改善プログラム

  • 最終報告書

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    国家プログラムの中で、JSPR は特に対象となる裨益者の規模およびコミュニティ・レベルへの

    支援の手法という点で、国家連帯プログラム(NSP)の影響を受けている。また、地方行政の状

    況を鑑み、JSPR は地域レベルの支援を行うに際して国家地域開発プログラム(NABDP)のアプロー

    チを参考にしている。これら、JSPR に深く関連している二つの国家プログラムの概要について、

    表 1.1 にまとめる。

    表 1.1 MRRD による主要国家プログラム

    (1) 国家連帯プログラム(NSP)

    NSP は、2003 年から世銀等のドナーによって支援されてきた。特に、NSP は MRRD の中で最大の

    予算を持っており、最も重要なプログラムであると見做されている。このプログラムは、コミュ

    ニティ開発委員会(CDC)と呼ばれる地方自治組織を設立し、小規模コミュニティ開発事業を通

    じてコミュニティの連帯を強めることを目指している。このプログラムの下、全国 34 の州にお

    いて、草の根レベルの行政機能を高め小規模のコミュニティ主体の開発事業を行う為に、21,552

    以上の CDC が設立された7。

    NSP は、そのプログラム実施において多数の NGO をファシリテーション・パートナー(FP)とし

    て活用した。FP の多くは国際 NGO であり、その他にもアフガニスタン国内の有力 NGO が選ばれ

    ていた。これら FP は、各 CDC が NSP の補助金(ブロック・グラント)を活用して小規模プロジェ

    クトを形成、実施するのを支援する8。JSPR が開始された当時、カンダハルでは国連人間居住計

    画(UN-Habitat)が NSP の FP として活動しており、アルガンダブ、ダマン およびダンド各郡

    における小規模プロジェクトの支援を行っていた。

    概して、NSP は道路建設等の小規模事業や草の根レベルでの参加型意思決定システムの強化を通

    じて、人々の生活状況改善に貢献したと考えられる。しかしながら、NSP によって設立された、

    CDC によるコミュニティ主導の村落開発の持続性については、限界を見て取ることができる。CDC

    7 2008 年 8 月時点。MRRD ウェブサイトによる。 8 NSP は CDC が設立した銀行口座へ、補助金を直接送金し、選定された CDC が実施する復興および開発活動を

    支援する。この補助金は、一家族 US$200 で計算され、コミュニティ毎の平均補助金額は US$33,000、最大補

    助金額は US$60,000 である。補助金は、資機材購入や承認されたサブプロジェクトの進捗によって、分割送

    金される。参照:http://www.nspafghanistan.org/about_nsp.shtm

    プログラム 国家連帯プログラム(National Solidarity Programme: NSP)

    国家地域開発プログラム(National Area Based Development Programme: NABDP)

    ドナー オーストラリア、カナダ、チェコ、デンマーク、EU、フィンランド、ドイツ、日本、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン、スイス、イギリス、アメリカ、世銀

    ベルギー、カナダ、日本、オランダ、ノルウェー、UNDP、アメリカ

    対象地域 17,300 コミュニティ (NSP I) 4,300 コミュニティ (NSP II)

    全 34 州

    期間 2003-2007 (NSP I) 2007-2010 (NSP II)

    2002-2006 (Phase I) 2006-2008 (Phase II)

    主要分野 コミュニティ開発委員会(CDC)の設立、CDCの人材育成、サブプロジェクトの実施

    郡レベルにおけるコミュニティの能力強化、MRRD の組織開発、農村インフラ開発支援および経済再活性化事業の実施

  • アフガニスタン国 カンダハル帰還民社会復帰・コミュニティ開発支援計画

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    のイニシアティブの下、継続したコミュニティ主導の開発事業が行われない限り、人々の貧困

    と社会的脆弱性を改善することは難しい。しかし、如何にして持続的発展性を確保していくか

    は、NSP 開始当初はもとより、その他のコミュニティ開発事業においても共通する非常に大きな

    課題であった。

    (2) 国家地域開発計画(NABDP)

    NSP とは対照的に、NABDP は郡レベルの地方行政に焦点が当てられている。NABDP は、当初フェー

    ズⅠの段階では、コミュニティ・インフラを対象とした支援を通じた緊急復興支援を主として

    行なっていた。しかし、特にフェーズⅡの段階では、州および郡レベルでのコミュニティ強化

    の他、MRRD が自ら経済再活性化事業および村落開発事業を行えるようになるための、MRRD の組

    織開発等に焦点が置かれている。

    JSPR 実施期間中、2006 年にカンダハル州では郡開発議会(DDA)が設立された。DDA のメンバー

    は、UN-Habitat のファシリテーションの下に形成されたクラスターCDC のメンバーの中から選

    出された。こうして設立された各 DDA は、各郡における開発戦略と事業の優先度を考慮に入れ

    た郡開発計画(DDP)を策定した。NABDPは、実際にはこうしたDDAおよび州農村復興開発局(PRRDD)

    を通じてカンダハルにおける多様なプロジェクトの実施を支援してきた。治安が悪化する中、

    NABDP は大臣の強力なイニシアティブの下で政府主導のアプローチを採用し、開発事業を推し進

    めてきた。これが、所謂「カンダハル・モデル」と呼ばれている。

    カンダハル・モデルは、厳しい治安状況下にあるカンダハルにおいて、特に人々の早急なニー

    ズに応えるためのクイックインパクト事業を行うという点では効果的であったと思われる。し

    かし、カンダハルにおける長期の持続的な開発を目的とし、コミュニティの能力強化を行うと

    いう点では限界があるといえる。

    1.3 コミュニティ開発のための人材育成

    アフガニスタン、特にカンダハルにおいては、人道援助やクイックインパクト・プロジェクト

    の実施のための人材・資金は確保されていたものの、持続的開発という側面では人材も予算配

    分も著しく足りない状況にあった。コミュニティと話し合い、地域開発を推進していく為に主

    要な役割を担うべき政府職員の数は非常に少ない。また、現地 NGO や CDC などのコミュニティ

    に根ざした組織も、十分に発展しているとは言い難い。結果として、中期、長期の開発を念頭

    に置いた努力には、あまり注意が払われてこなかった。

    現地 NGO は、支援物資の配布や基本的社会サービスの提供、物的な復興活動を行ってきた。彼

    らは、人道援助を行うにあたっては安価な現地コントラクターでもある。しかし、彼らの人道

    支援に関する経験とスキルは、中長期的開発の促進のために適応可能であるとは言いがたい面

    があった。

    中長期的な開発段階においては、コミュニティ・レベルにおける参加と自助努力がより重要な

    要素となってくるため、ファシリテーションと参加型アプローチの技術を持った開発従事者が

  • 最終報告書

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    必要不可欠である。現地 NGO スタッフや政府職員は、20 年に亘る国際社会からの孤立とその後

    の集中的な人道援助、緊急復興支援等の背景もあり、開発援助を行うにあたって必要なスキル

    や態度を十分に備えてはいなかった。

    また、海外ドナー、国際 NGO や地元 NGO と比べ、政府機関および職員は、集中的かつ巨大な人

    道支援および緊急復興支援において、限定的な役割しか担ってこなかった。この為、政府機関

    および職員は、地元 NGO に対して否定的な感情を持つ傾向がある。さらに、政府機関は中、長

    期開発のためにNGOが新たな役割を担うことについて、なかなか理解を示そうとはしなかった。

    コミュニティの人々が主要なアクターであり、政府機関と地元NGOが双方共にファシリテーター

    の役割を担っていかなければならないという開発事業において、政府機関は自らが指導、ファ

    シリテーション、管理といった新たな役割を担うべきであることを理解する必要がある。政府

    機関および職員が、コミュニティ開発の意味とコミュニティ開発およびコミュニティの能力強

    化における自らの役割を認識することが重要である。

    上記のような状況および問題点を念頭に、プロジェクトでは以下の 4 つの分野における課題が

    見出された。

    (1) 人道援助と緊急復興支援を越えて、中、長期的開発を推進していくという目的のために、

    どのようにして参加型アプローチを活用したコミュニティ開発を実践する開発従事者を育

    成し、訓練していくべきか。

    (2) どのようにして、コミュニティのリーダー、住民、そしてコミュニティ組織に対して、コ

    ミュニティ開発への参加の重要性を認識させ、コミュニティ開発事業の管理における彼ら

    の役割とイニシアティブを高めていくか。

    (3) 人的資本・社会関係資本を強化し、人々の生活を改善するという目的のために、どのよう

    にしてプロジェクトで育成する人材(NGO スタッフとコミュニティ・リーダー)を活用した、

    参加型形態によるソフト・ハード両面を含むコミュニティ開発事業を実施していくか。

    (4) どのようにして、政府職員がコミュニティ開発の重要性と方法を理解し、自らコミュニティ

    開発を推し進めていくという役割を高めていくために、コミュニティ開発の理論と実践を

    学ぶことを促進していくか。

    貧困に生きる人々に対し、人道援助とクイックインパクト・プロジェクトを通じて保護するだ

    けでなく、恒久的解決を目指して地域における人間の安全保障を実現していくためには、現地

    の開発従事者を通じて、人々とコミュニティの能力を強化していくことが必要不可欠である。

    つまり長期的コミュニティ開発を考える場合、持続的な開発を目的とした政府職員、現地 NGO

    スタッフ、CDC メンバーに対する、非常に大きな人材育成のニーズがあるといえる。

    1.4 JSPR のアプローチ

    上述のような状況下、JICA は 2002 年 11 月に「カンダハルにおける帰還民支援」を目的とした

    提案型技術協力(PROTECO)のプロポーザル募集を行なった。プロポーザル選定および面接の結

  • アフガニスタン国 カンダハル帰還民社会復帰・コミュニティ開発支援計画

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    果によって、パシフィックコンサルタンツインターナショナル(PCI)が選出され、JICA のパー

    トナーとして本技術協力事業を実施することとなった。プロジェクト形成調査は、2003 年 5 月

    に実施された。この調査の結果、PCI はマルチ・セクターを対象とした地域開発のアプローチを

    採り、帰還民の社会再統合と地域の安定化を促進するためのプロジェクト計画を提案した。2003

    年 9月には、アフガニスタン政府は公式に日本政府に対して本プロジェクトの実施を要請した。

    さらに、事前評価結果および 2004 年 5 月の事前準備調査の結果を受けて、JICA はプロジェクト

    の実施を決定した。事前評価調査では、NSP 後を念頭においた開発従事者に対するキャパシ

    ティ・ビルディングのニーズが確認された。2004 年 6 月には、プロジェクトの実施に関して、

    アフガニスタン政府側のカウンターパートとして、MRRD が政府間技術協力プロジェクト合意文

    書(R/D)の署名に合意した。

    当時、カンダハルの状況は未だ人道支援と復興支援の状況にあったものの、プロジェクトは当

    初コミュニティの能力強化と持続的な開発を通じた人間の安全保障実現へ向けて、現地の開発

    従事者に対するキャパシティ・ビルディングを企図していた。これは大きな困難を伴う、野心

    的なプロジェクトであったということができる。しかしながら、現地住民のイニシアティブに

    よる、中、長期的な開発を考えた場合、できる限り早期に持続的開発のための基盤を作り上げ

    ることが必要である。図 1.2 は、各支援段階における JSPR のポジションを示している。

    図 1.2 JSPR のポジション

    プロジェクトは、持続的コミュニティ開発とキャパシティ・ビルディングという基本的コンセ

    プトのもと、いくつかの鍵となる戦略・アプローチを適応した。

    人道支援 (緊急支援) - 食料等必需品

    復興&クイックインパクト (安定、信頼回復、目に見える変化) - インフラ、治安回復

    持続的開発 (コミュニティ・エンパワーメント) - 人材、生活の質改善

    UNHCRによる難民帰還支援

    WFPによる食糧支援

    REAP, PRTなどの復興支援事業

    DDR, DIAGなど治安セクター事業

    NSP

    NABDP

    JSPR

    MRRDによる将来のプログラム

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    (1) 研修とプロジェクト実施の相互関連性

    プロジェクトの二つの主要なコンポーネントである研修プログラムと小規模コミュニティ開発

    事業は、相互に関連して機能し、相互のプログラムの強みを助けるものとなる。研修プログラ

    ムは開発従事者に対して、コミュニティ開発に関する主要なコンセプトと技術を提供する。実

    際の、小規模コミュニティ開発事業の実施は、研修で学んだ理論と技術を実践に移す場を提供

    する。さらに、実践の場によって得た教訓は、後の研修の際に理論の評価・確認として反映さ

    れることによって、コミュニティ開発従事者の技術を確実に高めることが狙われている。なお、

    研修ではワークショップ、視察研修、職場研修(OJT)を含む、さまざまな参加型手法を活用し

    ている。

    (2) 学習過程の重視

    学習の方法・過程については、特に重視された。プロジェクトでは、単にコミュニティ開発事

    業の実施によって得られる直接的な利益のみでなく、実際のコミュニティ開発事業の実施を通

    じて得た経験にも焦点を当てている。問題、課題が出てきた際には、それは適宜フォローアッ

    プ研修の内容に反映された。

    (3) コミュニティ住民の能力強化

    コミュニティ開発事業においては、人々の自発的イニシアティブ、能力、コミットメント、そ

    して地元資源が適切に活用できるよう、プロジェクトはコミュニティ住民の人材育成を狙う。

    コミュニティ住民の可能性および資源が、コミュニティ開発への努力を通じて活用されること

    こそが、コミュニティ住民の能力強化につながると考えられる。

    (4) 参加機会の平等

    女性、子供、貧困者および脆弱な状況にある人々等、プロジェクトに関わるすべての人々が、

    参加型アプローチについて学び実践することによって、平等にコミュニティに根ざした開発事

    業からの利益を得る。

    (5) 現地 NGO とのパートナーシップ

    コミュニティ開発事業の実施に当たり、プロジェクトはカンダハルの地元NGOと協力していく。

    政府関係者やコミュニティの代表者と同様に、NGO スタッフも研修プログラムに参加する。カン

    ダハルには、登録されている NGO は約 300 存在するが、多くの NGO は実際には活動を行なって

    いない。一握りの NGO にのみ、訓練されたプロフェッショナルとしての質を備えた人材がいる

    状況である。したがって、プロジェクトのターゲット NGO は、物的なインフラ再建といった復

    興支援等に十分な経験を有しているが、社会開発、人間開発においては未だ経験が浅いという、

    コミュニティ開発へのポテンシャルを十分に備えている NGO とされた。

  • アフガニスタン国 カンダハル帰還民社会復帰・コミュニティ開発支援計画

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    (6) 国家プログラムおよび他支援との調整

    カンダハルにおいて、プロジェクト活動の重複を避けるだけでなく、相互作用によるシナジー

    効果を促進するために、関係者間のコーディネーションは必要不可欠である。JSPR は、コミュ

    ニティ開発、および MRRD の国家プログラムに従事するドナーの代表者等を含む、国家レベルの

    調整を行なうために合同調整委員会(JCC)をカブールにおいて設置した。カンダハルにおいて

    は、より実務的に、PRRDD や NSP の FP である UN-Habitat と共に、定期的な調整会議を行なうこ

    ととした。この調整会議は、プロジェクト活動およびプロジェクトの達成状況のモニタリング、

    全体的な進捗の確認、プロジェクト実施に際して生じる主要な問題に対する意見交換、他の地

    域開発政策およびプログラムとの調整、そして中央レベルの JCC へのフィードバックを目的と

    している。

    当初、プロジェクトは、以下の「基本理念」と「持続的発展のための戦略」をカンダハルの関

    係者と共有した。実際には、プロジェクト開始後の治安状況の悪化によって、いくつかのプロ

    ジェクト内容は後に変更されている。対象地域村落の生活状況改善を目的とするコミュニティ

    開発事業の規模は、日本人専門家が治安上の理由によってカンダハルからカブールに移ったこ

    とにより縮小された。しかし、技術協力プロジェクトの理念はプロジェクト期間を通じて変更

    されることはなかった。

    基本理念

    アフガニスタンの歴史において、人々は繰り返し、その非常に弾力性のある特徴を顕わにして

    きた。この歴史の転換期において、アフガニスタンは国家を再建し、持続的な平和を達成する

    ための大きな挑戦に立ち向かっている。これは、人々が生来持つ弾力性にとんだ能力に注視す

    ることなくして、適切に行なっていくことは不可能である。全ての海外ドナーによる開発事業

    は、援助依存を生み、人々が生来持っている強力な特性を損なうことがないように、注意を払

    われなければならない。従って、私たちの協力は人々が精神と力をより高めていくために行な

    われなければならない。開発事業の中心的な実施者は、人々自身であり、政府および NGO であ

    り、私たちのような外部者はその努力を支援していく役割を担っている。

    持続的発展のための戦略

    コミュニティの人々による開発活動は継続的に続けられていくのに対し、本プロジェクトは 5

    年しか継続されない。従って、プロジェクトは持続的発展を実現するための視点を活動の中に

    織り込んでいた。特に、プロジェクト内容の中でも二つの主要な点が、持続的発展のために決

    定的な意味を持っている。一つ目は、人材育成である。人材を育成し、その能力を発展させる

    ことによって、コミュニティ活動に関わる人々はプロジェクト終了後、知識と経験をさらに活

    用していくことができる。地元 NGO と共に事業を実施していくことは、持続的発展のためのも

    うひとつの大きな戦略である。コミュニティ組織は、自らが必要な活動を行なうことができる

    ようになるために外部の支援を必要としている。コミュニティ開発事業にとって、コミュニティ

    の人々が求めるものは単なる資金ではない。彼らは一緒に座り、話を聞き、相談に乗って、外

    部と彼らをつなぎ合わせ、勇気づけ、人々がすべてを自らで行なえるようになるまで信頼ある

  • 最終報告書

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    関係を維持し続けていくことができる者を求めている。初期の状況においては、コミュニティ

    の人々との親密な関係を維持する、そのようなコミュニティ開発従事者が必要不可欠である。

    アフガニスタンの現状においては、地方政府がそうした役割を果たすことは困難である。NSP で

    は、ファシリテーション・パートナーは国内有力または国際 NGO である。本プロジェクトは、

    カンダハルのコミュニティと協力して、プロジェクト終了後も継続して働き続けていくことが

    できる地元 NGO と協力していくように形成されている。

    1.5 JSPR の概要

    JSPR の概要は、Annex19としてプロジェクトデザインマトリックス(PDM)に示されている。し

    かし、対象地域における治安状況の悪化とカウンターパートである MRRD のニーズの変化を受け

    て、プロジェクトの中心的な要素と理念は変わらないながらも、PDM はプロジェクト期間中に二

    回変更された。プロジェクトの重要な転機は、2006 年 4 月に治安状況への懸念から、日本人専

    門家がカンダハルからカブールへ引き揚げた時であった。元々、プロジェクトは人材育成と対

    象地域の生活状況の改善を、日本人専門家による緊密な技術協力を通じて行なっていくことを

    企図していた。しかし、緊密な技術協力なくして、多数のコミュニティ開発事業を成功裏に実

    施していくことは困難であった。したがって、プロジェクトはコミュニティ開発従事者を理論

    的研修を通じて育成し、さらに限られた数のコミュニティ開発事業を人材育成の為の「実践研

    修」と位置づけた。他方、プロジェクトは、当初の計画に加え、中央レベルでもコミュニティ

    主導開発局(CLDD)をカウンターパートとして追加した。2007 年 2 月に行なわれた中間評価を

    受けて、プロジェクトは中央レベルのカウンターパートとカンダハルにおけるカウンターパー

    トの人材育成と共に、プロジェクトの経験を持続的コミュニティ開発のための人材育成モデル

    として纏め上げることとした。

    本プロジェクトの目標、またはマンデートは開発従事者の人材育成である。プロジェクト目標

    が達成されることによって、コミュニティ開発事業が活性化される。さらに、活性化されたコ

    ミュニティ開発事業は帰還民と IDP の社会再統合を促進する。この結果、地域の人間の安全保

    障および安定化実現のために貢献すると考えられる。JSPR のビジョンは、下図のとおりである。

    9 Annex については PDM ver.3 の日本語版のみが本報告書(和文要約)には添付されており、その他の Annex

    (すべて英文)については、報告書(英語版、ダリ語版、パシュトゥ語版)の Annex に添付されている。

  • アフガニスタン国 カンダハル帰還民社会復帰・コミュニティ開発支援計画

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    図 1.3 JSPR のビジョン

    これらのプロジェクト目標を達成するために、以下の活動が計画、実施された。

    成果と活動

    成果 1

    コミュニティ開発に関わる開発従事者が研修プログラムを通じて参加型のコミュニティ開発を実施する為

    に必要な知識や考え方を身につける(理論)

    成果 1の活動

    • 研修ニーズアセスメントを実施し、カリキュラム設計、教材を開発する。 • コミュニティ開発研修所(ICD)を設立し、政府関係者、パートナーNGO、CDC 関係者を対象

    とした研修、ワークショップ、セミナーを実施する。

    • 研修旅行の実施。 • カウンターパートおよびパートナーNGO へのオンザジョブ・トレーニング(OJT)。

    成果 2

    コミュニティ開発に関わる開発従事者がコミュニティ開発の実践を通じて参加型のコミュニティ開発を実

    施する為に必要なスキルや態度を身につける(実践)

    成果 2の活動

    • 既存資料や調査をもとに州政府など関係者とともに対象村を選定する。 • 初期においてダンド郡においてベースライン調査を実施する。

    帰還民・IDPの社会再統合の促進 スーパーゴール:コミュニティにおける調和が改善され、帰還民やIDPのコミュニティへの再統合が促進される

    人間の安全保障と地域の安定化

    コミュニティ開発活動の活性化 上位目標:カンダハルの帰還民を含む住民が地元資源を活用したコミュニティ開発活動を通じて

    発展を享受できる

    マンデート:開発従事者の育成 プロジェクト目標:持続可能なコミュニティ開発活動の運営に関わる開発従事者の能力が強化される

  • 最終報告書

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    • 実施戦略及び政府機関、CDC、パートナーNGO 間における協働メカニズムを作成する。 • 政府機関、CDC、パートナーNGO とともに対象村におけるコミュニティ開発プロジェクト(パ

    イロット含む)をファシリテートする。

    • スキルトレーニングの支援を実施する。

    • 実施経験を研修にフィードバックする。

    成果 3

    コミュニティ開発に関わる開発従事者が関係者間でより良い調整と効果的な連携をできるようになる

    成果 3の活動

    • あらゆる機会を利用し多くの利害関係者を巻き込むと共に、情報共有や調整を促進する。 • 多くの利害関係者の参加による調整会議や計画策定ワークショップを行なう。

    成果 4

    地元資源の有効活用による CDC の強化システムに関わるモデルが開発される

    成果 4の活動

    • プロジェクトの経験から CDC の強化システムに関わるモデルを開発する • 開発したモデルをアフガニスタン政府関係者およびドナー関係者と共有する

    対象地域

    当初のプロジェクト対象地域はカンダハル州であった。しかし、治安状況の悪化から、コミュ

    ニティ開発事業の対象地域は縮小され、ダンド郡、その中でも特にカンダハル市周辺地域とさ

    れた。他方、能力強化の対象は、当初カンダハルにおける開発従事者のみとされていたが、中

    央レベルのカウンターパートにまで拡大された。

    実施期間

    R/D によると、当初のプロジェクト実施期間は 2004 年 6 月から 2009 年 6 月までであった。しか

    し、2004 年の大統領選挙と、それに伴う治安への懸念からプロジェクトの開始は遅れた。結果

    として、プロジェクトは 2005 年 1 月、日本人専門家がアフガニスタンに到着した際に、公式に

    現地活動を開始した。

  • アフガニスタン国 カンダハル帰還民社会復帰・コミュニティ開発支援計画

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    第2章 JSPR の実施

    2.1 プロジェクト管理

    プロジェクトの現地での活動は 2005 年 1 月にカンダハルにて始まり、2009 年 3 月まで約 4年間

    実施された。プロジェクトは当初、カンダハルにおいて政府職員や現地 NGO スタッフと共に実

    施する予定であり、プロジェクトチームは 2005 年 1 月にカンダハルに到着した。2005 年 2 月に

    は、カンダハル現地政府職員と共にキックオフミーティングが行なわれた。同ミーティングに

    おいて、参加型手法によって JSPR のプロジェクトデザインマトリックス(PDM)第一版が作成

    された。プロジェクトは、現地カウンターパートとの緊密な連携の下に開始されたといえる。

    しかし、2006 年 4 月からは、悪化する治安状況のために日本人専門家はカンダハルに滞在する

    ことができなくなり、プロジェクトはカブールから遠隔操作で実施されることとなった。この

    ような状況下、プロジェクトは 2006 年 6 月にカブールにてプロジェクト事務所を設立した。さ

    らに、プロジェクト目標を含むプロジェクトの枠組みが見直され、2006 年 9 月に PDM が変更さ

    れた。その後、プロジェクトは活動期間終了まで、カブールとカンダハルにおいて活動を行う

    こととなった。この章では、プロジェクト実施プロセスについて詳述する。

    2.1.1 プロジェクト管理体制

    (1) プロジェクトオフィス

    2006 年 3 月までは、カンダハル市のみにプロジェクト事務所が設置され、運営体制が構築され

    ていた。カンダハル州の農村復興開発局(PRRDD)には十分なオフィススペースがなく、また安

    全面でも問題があったため、プロジェクト事務所は PRRDD とは別に独立して設置された。プロ

    ジェクト事務所は、日本人専門家の下、ナショナルマネージャーを筆頭に、シニアプロジェク

    トオフィサーやアドミオフィサー、セキュリティオフィサーからセキュリティガード等、総勢

    25 名程度で構成された。2006 年 3 月までの事務所運営体制を図 2.1 に示す。

  • 最終報告書

    2 - 2

    日本人専門家

    シニアプロジェクトオフィサー

    安全対策オフィサー

    トレ

    ーニ

    ング

    オフ

    ィサ

    ー補

    チー

    フガ

    ード

    ナショナルマネージャー

    副マネージャー/トレーニングオ

    フィサー

    アドミオフィサー

    プロ

    ジェ

    クト

    アシ

    スタ

    ント

    ソー

    シャ

    ルオ

    ーガ

    ナイ

    ザー

    ソー

    シャ

    ルオ

    ーガ

    ナイ

    ザー

    レセ

    プシ

    ョニ

    スト

    運転

    ガー

    アドミオフィサー補佐(ロジ)

    維持管理

    アドミオフィサー補佐(会計)

    維持管理補佐

    シニアスタッフ

    日本人専門家

    シニアプロジェクトオフィサー

    安全対策オフィサー

    トレ

    ーニ

    ング

    オフ

    ィサ

    ー補

    チー

    フガ

    ード

    ナショナルマネージャー

    副マネージャー/トレーニングオ

    フィサー

    アドミオフィサー

    プロ

    ジェ

    クト

    アシ

    スタ

    ント

    ソー

    シャ

    ルオ

    ーガ

    ナイ

    ザー

    ソー

    シャ

    ルオ

    ーガ

    ナイ

    ザー

    レセ

    プシ

    ョニ

    スト

    運転

    ガー

    アドミオフィサー補佐(ロジ)

    維持管理

    アドミオフィサー補佐(会計)

    維持管理補佐

    シニアスタッフ

    図 2.1 プロジェクト管理体制 (2005 年度まで)

    2006 年 4 月、日本人専門家がカンダハル入りできなくなったことを受け、カンダハルの事務所

    に加え、カブールにも新たに事務所を開設することになった。2006 年度は、カウンターパート

    機関である農村復興開発省(MRRD)内に十分なスペースがなかったため、MRRD 外に独立した事

    務所を設立し、運営体制を築いた。2006 年度後半には、MRRD が郊外に移転し、MRRD 内にスペー

    スができたため MRRD 内にもプロジェクト事務所を設置した1。これを受け、2006 年度終わりに

    はそれまでのカブール事務所を閉鎖し、2007 年度初めより本格的に MRRD 内事務所での活動が開

    始された。

    2006 年度以降の運営体制であるが、カンダハル事務所は、日本人専門家がカブールに移動した

    ことを除いては、基本的に 2005 年度までに確立した運営体制を継続した。カブール事務所は、

    プロジェクトアシスタント、事務職員等 5 名のナショナルスタッフで構成された。図 2.2 に、

    2008 年度の事務所運営体制(カンダハル事務所、カブール事務所)を示す。

    1 日本の会計年度は 4月 1日から 3月 31 日となっている。

  • アフガニスタン国 カンダハル帰還民社会復帰・コミュニティ開発支援計画

    2 - 3

    カンダハル事務所カブール事務所

    日本人専門家

    アドミオフィサー (1)

    運転手 (2)

    維持管理 (1)

    カンダハル事務所組織図

    カンダハルシニアスタッフ

    (4)

    プロジェクトアシスタント (2)

    カンダハル事務所カブール事務所

    日本人専門家

    アドミオフィサー (1)

    運転手 (2)

    維持管理 (1)

    カンダハル事務所組織図

    カンダハルシニアスタッフ

    (4)

    プロジェクトアシスタント (2)

    カンダハル事務所

    技術面社会面

    シニアプロジェクトオフィサー

    (1)安全対策オフィ

    サー (1)ト

    レー

    ニン

    グオ

    フィ

    サー

    補佐

    (1)

    ナショナルマネージャー (1)

    アドミオフィサー(1)

    シニアプロジェクトオフィサー

    (1)

    運転

    手(4)

    アドミオフィサー補佐(1)

    維持管理(1)

    維持管理補佐(2)

    シニアスタッフ

    レセ

    プシ

    ョニ

    スト

    (1)

    プロ

    ジェ

    クト

    アシ

    スタ

    ント

    (5)

    チーフガード(1)

    ガード(5)

    エン

    ジニ

    ア(2)

    研修部門 プログラム部門

    日本人専門家(カブール)

    プロ

    ジェ

    クト

    アシ

    スタ

    ント

    /ト

    レー

    ニン

    グオ

    フィ

    サー

    補佐

    (1)

    カンダハル事務所

    技術面社会面

    シニアプロジェクトオフィサー

    (1)安全対策オフィ

    サー (1)ト

    レー

    ニン

    グオ

    フィ

    サー

    補佐

    (1)

    ナショナルマネージャー (1)

    アドミオフィサー(1)

    シニアプロジェクトオフィサー

    (1)

    運転

    手(4)

    アドミオフィサー補佐(1)

    維持管理(1)

    維持管理補佐(2)

    シニアスタッフ

    レセ

    プシ

    ョニ

    スト

    (1)

    プロ

    ジェ

    クト

    アシ

    スタ

    ント

    (5)

    チーフガード(1)

    ガード(5)

    エン

    ジニ

    ア(2)

    研修部門 プログラム部門

    日本人専門家(カブール)

    プロ

    ジェ

    クト

    アシ

    スタ

    ント

    /ト

    レー

    ニン

    グオ

    フィ

    サー

    補佐

    (1)

    図 2.2 プロジェクト管理体制 (2008 年度)

    カンダハル事務所は 2009 年 2 月末、カブール事務所は 2009 年 3 月半ばに閉鎖し、同時期にナ

    ショナルスタッフの雇用も終了した。

    カンダハルにおけるプロジェクトオフィスの運営とプロジェクト活動の実施を遠隔で管理する

    ことによって、様々な困難が発生した。日本人専門家は、プロジェクト管理体制に関して透明

    性と説明責任を重んじ、ナショナルスタッフとのコミュニケーションギャップを減らし、相互

    に不信感を生まないように以下のような方策を実施した。

    • コミュニケーション体制の確立

    日本人専門家とカンダハルに居るナショナルスタッフ間のコミュニケーションギャップ

    を埋め、誤解を減らすことは非常に重要であった。コミュニケーションギャップを埋める

    ために、ナショナルスタッフとのコミュニケーションは原則としてシニアスタッフを通じ

    て行なうこととされ、連絡ミスや誤解の基となる個々のスタッフと日本人専門家との個別

  • 最終報告書

    2 - 4

    のコミュニケーションは極力しないようにされた。また、日本人専門家がカブールに居る

    際には、カブールのナショナルスタッフと顔を合わせて直接指示を出し、さらに指示を受

    けたナショナルスタフが電話を使用して現地の言葉でカンダハルのナショナルスタッフ

    へ指示を出すという方式が取られた。また、業務上の連絡の際には、基本的なコミュニケー

    ションはメールで行なうと同時に、詳細な説明や補足のために電話での直接会話という方

    式が取られた。

    • 規則や指示などの文書化

    日本人専門家は、ナショナルスタッフがとるべき行動について、できる限り文書で明確化

    するように努めた。プロジェクト管理に関しては、日本人専門家とナショナルスタッフの

    間で規則と規定について議論の上で合意し、それに沿ってプロジェクトが管理された。ま

    た、各ナショナルスタッフの業務と責任については、原則としてそれぞれのスタッフ自身

    が作成した職務規定書に基づいて明確化された。

    プロジェクト活動については、日本人専門家はそれぞれのプロジェクト毎に目標、成果、

    手続き等を説明する指示書を作成し、ナショナルスタッフがなぜ、まだどのようにプロ

    ジェクト活動を行なっていくのか理解できるように努めた。プロジェクトが進むにつれ、

    日本人専門家はナショナルスタッフに対して、自ら目標、成果、手順、スケジュール

    等を明確にしたプロジェクト活動計画を作成させ、どのように業務を進めていくか日本人

    専門家に示すことを求めるようにした。

    資機材に関しては、カンダハルで必要であった資機材については、2006 年 3 月までにほぼ購入

    は完了した。カブールで必要となった資機材については、2006 年度にほぼ購入を完了した。し

    たがって、2007 年度および 2008 年度には、限られた小数の物品が購入されたのみである。これ

    らプロジェクトで購入した資機材は、プロジェクトの現地活動終了時に、カウンターパート機

    関からの要請を踏まえ、JICA アフガニスタン事務所とも相談の上で、数点を除いてカンダハル

    事務所で使用していたものは PRRDD カンダハルへ、カブールで使用していたものは MRRD/CLDD

    に寄贈された。寄贈された機材リストは、報告書本体の Annex 5 に添付されている。

    (2) 治安(安全)対策

    アフガニスタンの治安状況であるが、プロジェクト実施期間中の一時期、大統領選挙後の暫く

    の間は良かったものの、その後はプロジェクト期間を通じて治安状況は悪化の一途をたどった。

    この為、安全対策については、JICA のセキュリティアドバイザーと協力の下、様々な方策を採

    らざるを得なかった。

    カンダハル事務所は独立した事務所を設立していたため、独自の安全対策を講じた。安全担当

    のナショナルスタッフを雇用し、常時情報を収集させると共に、事務所コンパウンド外には警

    察から派遣された武装ガードを 24 時間配備し、コンパウンド内にも非武装ガードを 24 時間配

    備した。また、有刺鉄線を設置し、窓ガラスには飛散防止フィルムを張り、有事に備えて水や

    食料などを備蓄した。

  • アフガニスタン国 カンダハル帰還民社会復帰・コミュニティ開発支援計画

    2 - 5

    さらに、プロジェクトは、ロープロファイルの方針を徹底した。カンダハル市からプロジェク

    ト対象コミュニティまでの道路は危険が高かったため、ナショナルスタッフがサイトへ行く際

    には、目立たないように 4WD の車の使用は避け、現地服を着用するようにした。また、有事の

    際の安全確認が素早く実施できるように、ナショナルスタッフの連絡網を整備した。

    カンダハルからカブールへの陸路は反政府組織から攻撃の対象とされることから、ナショナル

    スタッフのカブール-カンダハル間の移動は、可能な限り空路を利用することとした。また、

    陸路を使用しなくてはならない場合、一般のバスを利用し、国際組織のプロジェクトに関わっ

    ていることを示すような資料、資機材は携行しないようにした。

    2007 年度に入り、治安状況が著しく悪化するようになった。実際にプロジェクト対象コミュニ

    ティでも事件が発生するようになったことから、プロジェクト自体のセキュリティフェーズを

    作成し、毎月対象コミュニティの治安状況調査を行なうこととした。セキュリティフェーズは

    表 2.1 の通りである。セキュリティフェーズは、プロジェクト開始時に 2 であったが、終了時

    には 4まで上がっていた。

    表 2.1 JSPR のセキュリティフェーズ

    安全 段階

    治安状況

    1 反政府勢力の活動は認められるものの、国際組織の外国人およびアフガニスタン人援助関係者は攻撃のターゲットとされておらず、ダンド郡内およびカンダハルの空港から市内まで安全に移動することが出来る

    2 直接の標的とはされていないものの、外国人援助関係者が反政府勢力の活動に巻き込まれる可能性が存在する。国際組織で働くアフガニスタン人ナショナルスタッフに関しては、標的とされておらずダンド郡内およびカンダハル空港から市内まで安全に移動することが出来る

    3 外国人およびアフガニスタン人援助関係者双方が、テロリスト活動および誘拐の標的となり得る。脅迫状を受け取る、または実際に脅威となる活動に影響を受けるケースが発生する。ダンド郡内およびカンダハル空港から市内までの移動にも制限が加えられる

    4 反政府勢力の活動が殆どの対象地域で認められ、政府の影響力は著しく低下する。FP スタッフ、政府職員を含むアフガニスタン人ナショナルスタッフに加え、CDC メンバーも政府関係のコミュニティ開発活動に従事することが難しくなる

    5 反政府勢力の活動は対象地域農村住民にとって確実な脅威となり、政府関係のコミュニティ開発活動にはもはや従事できなくなる。更に、アフガニスタン人ナショナルスタッフが対象コミュニティに行くことも出来なくなる

    6 対象地域が戦争状態になる

    上述のように、プロジェクトは取り得る限りの安全対策を行い、プロジェクト期間中、特に大

    きな問題は発生しなかった。しかしながら、安全対策の専門性が十分ではないプロジェクト関

    係者にとって、安全情報を判断して適切な安全対策を取ることは非常に難しかった。

    一方、カブール事務所の安全対策は、JICA アフガニスタン事務所及び MRRD によって管理されて

    いた。全ての窓ガラスには飛散防止フィルムが貼られ、緊急事態に備えて食料と水が備蓄され

    た。カブールにおける治安情勢も年々悪くなってきたことから、2008 年度からは全ての移動は

    JICA アフガニスタンオフィスより提供された防弾車によって行なわれた。

  • 最終報告書

    2 - 6

    2.1.2 プロジェクト実施体制

    MRRD がプロジェクトのカウンターパートであった。中央レベルでは、MRRD のプログラム担当副

    大臣がカウンターパートの長として任命された。また、州レベルにおいては、PRRDD を中心とし

    て、農業局、難民帰還局といった関係する部局がカウンターパートとなった。現地カウンター

    パートとの協働に加え、プロジェクトは研修やフィールドにおけるサブプロジェクト実施のた

    めにナショナルスタッフを雇用した。地方政府および現地 NGO には、参加型コミュニティ開発

    に経験を持つものが少なく、これらナショナルスタッフはカウンターパートやファシリテー

    ティング・パートナー(FP)を監督、教える役目を持つことが期待されていた。

    プロジェクト開始当初は、日本人専門家はカンダハルに拠点を置いて活動した。PRRDD 職員、ナ

    ショナルスタッフ、FP と同じ地域に居ることが出来たことから、日本人専門家は彼らに直接技

    術的なアドバイスや指示を出すことができた。研修及び OJT、そして対象コミュニティにおける

    コミュニティ開発活動の監督・支援を通じて、人材育成を行なっていくことが計画された。2005

    年度終わりまでのプロジェクト実施体制は、図 2.3 の通りである。

    PRRDDカンダハル局指導・監督

    コミュニティ開発委員会ファシリテーション、プロジェクトマネージメント

    JSPRナショナルスタッフファシリテーション、 プロジェクトマネージメント、

    モニタリング・評価

    FP(ローカルNGO)ファシリテーション、プロジェクトマネージメント支援

    モニタリング・評価

    JSPR日本人専門家

    カンダハル

    PRRDDカンダハル局指導・監督

    コミュニティ開発委員会ファシリテーション、プロジェクトマネージメント

    JSPRナショナルスタッフファシリテーション、 プロジェクトマネージメント、

    モニタリング・評価

    FP(ローカルNGO)ファシリテーション、プロジェクトマネージメント支援

    モニタリング・評価

    JSPR日本人専門家

    カンダハル

    図 2.3 プロジェクト実施体制 (2004 年度-2005 年度)

    2006 年度に入り、日本人専門家がカンダハルにて活動することが困難になってからは、プロジェ

    クトの枠組み全体が見直されることとなった。プロジェクトは、実施するコミュニティ開発活

    動の規模よりも、コミュニティ開発従事者の人材育成に集中することになった。また、日本人

    専門家がカブールに滞在することになったため、プロジェクト実施体制も下図に示されるよう

    に変更された。人材育成に関しても、まずナショナルスタッフの育成を行い、更に育成された

    ナショナルスタッフがカンダハルにて対象グループの人材育成を行なうという、段階的手法が

    採られるようになった。

  • アフガニスタン国 カンダハル帰還民社会復帰・コミュニティ開発支援計画

    2 - 7

    同時に、MRRD は NSP のフォローアップ及び NSP 後の開発活動を念頭に、新しく設立されたコミュ

    ニティ主導開発局(CLDD)の人材育成に力を注いでいた。このため、2006 年 9 月に JICA と MRRD

    は、CLDD をプロジェクトの実質的カウンターパート機関とすることで合意した。これによって、

    日本人専門家は遠隔操作でカンダハルのコミュニティ開発従事者の人材育成を行なうと同時に、

    直接 CLDD 職員の人材育成を行なうこととなった。

    PRRDDカンダハル局指導・監督

    MRRD/CLDD指導・監督

    コミュニティ開発委員会ファシリテーション、プロジェクトマネージメント

    JSPRナショナルスタッフファシリテーション、プロジェクトマネージメント、

    モニタリング・評価

    FP(ローカルNGO)ファシリテーション、プロジェクトマネージメント支援、

    モニタリング・評価

    JSPR日本人専門家

    カブールカンダハル

    PRRDDカンダハル局指導・監督

    MRRD/CLDD指導・監督

    コミュニティ開発委員会ファシリテーション、プロジェクトマネージメント

    JSPRナショナルスタッフファシリテーション、プロジェクトマネージメント、

    モニタリング・評価

    FP(ローカルNGO)ファシリテーション、プロジェクトマネージメント支援、

    モニタリング・評価

    JSPR日本人専門家

    カブールカンダハル

    図 2.4 プロジェ