『デロイト トーマツ チャイナ ニュース』...
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1.はじめに米国に次ぐ世界第2位のユニコーン企業数を誇る中国。本稿では、近年特に注目されている中国のユニコーン企業をめぐるサポート体制を俯瞰し、イノベーションモデル基地の1つとして注目を集める杭州における新たなエコシステムに着目している。2回目となる今回は、近年特に注目を集めている杭州の状況ならびにデロイト中国の取り組みを紹介したい。
2. 中国国内における杭州のユニコーン企業の状況
中国国内のユニコーン企業139社の都市別分布をみると、企業数が最も多いのは北京の60社、次に上海の31社、3番目は杭州の17社である(表1)。杭州は企業数では3番目だが、企業価値の合計では2,671億米ドルで、ユニコーン企業数が最も多い北京を抜いて第1位である(表2)。
杭州のユニコーン企業が属する業態は、主に電子商取引、フィンテック、コーポレート・サービス、物流管理等に集中しており、プラットフォーム型のインキュベーター、もしくは大企業の投資により設立された企業が多いのも特徴の1つとして挙げられる。17社のユニコーン企業以外にも、企業価値が1億米ドルを超える準ユニコーン企業が100社以上あり、これらの中には創業間もなく急成長を遂げている企業が多数含まれ、中には近い将来に企業価値が10億米ドルを超え、ユニコーン企業の仲間入りを果たす企業が含まれると考えられる。
3. 杭州未来科技城の特徴及びユニコーン企業杭州未来科技城には、釘釘(Ding Talk)、菜鳥網絡科
技有限公司(Cai Niao Network)、同盾科技有限公司(Tong Dun)、大搜車汽車服務有限公司(Sou Che)、草根網絡科技有限公司等のユニコーン企業(準ユニコーン企業を含む)の5社があり、なかでも、草根網絡科技有限公司の評価額は既に200億米ドルを超え、スーパーユニコーン企業として高く評価されている。ここでは、その他の準ユニコーン企業を含む20社以上のユニコーン企業が優れたインキュベーション環境や人材をベースに、政府の支援政策を受けている。また杭州未来科技城は、中国におけるユニコーン企業数が最も多い未来科技城である。
杭州未来科技城は、浙江省省委員会組織部主導の下、浙江省と杭州市とが共同で杭州市の西に位置する余杭区に建設した巨大イノベーション都市を指す。総面積は123.1平方キロメートル、複数のイノベーションセンターを有しており、主要なイノベーションセンターの面積は49.5平方キロメートルある。2013年5年28日の設立以来、多くのスタートアップ企業に対し様々な側面からサポートを行ってきた実績を有する。また浙江大学、浙江工業大学、浙江科技学院などの大学と隣接しており、
(表1)中国国内の都市別ユニコーン企業数
都市 ユニコーン企業数北京 60上海 31杭州 17深セン 11その他 20
(表2)中国国内の都市別ユニコーン企業の企業価値総額
都市 ユニコーン企業 企業価値総額(億 米ドル)杭州 2,671.4北京 2,537.6上海 1,043.2深セン 655.0その他 379.2
(出典:CHINA MONEY NETWORK)
海外情報
『デロイト トーマツ チャイナ ニュース』
投資情報中国におけるユニコーン企業の動向と それを支える杭州のエコシステム 第2回
デロイト中国 公認会計士 岡おか
本もと
紳しん
太た
郎ろう
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周囲にはアリババ(Eコマース企業)、中電海康(実業投資、インターネット製品の研究開発等を手掛ける企業集団)、之江実験室(浙江省政府、浙江大学、アリババ集団が共同で立ち上げた情報ネットワーク実験室)、浙江大学国家大学科技園などの多くの強力なテクノロジー企業や科学技術研究開発プラットフォームがあり、地域全体で科学技術分野における研究開発能力及び大企業によるバックアップ体制が整備されたエコシステムを形成している。
4.杭州未来科技城の特徴他の未来科技城やイノベーションセンターと比較した場合、杭州未来科技城は次の3つの特徴を有している。
(1)「プロジェクト計画、技術、資金」という3つの要素を兼ね備えた海外の優秀な人材、企業、団体を優先的に誘致しており、特に人材に着目した発展を目指している。
(2)インターネット企業を中心とした浙江省の経済の特徴を最大限に活かし、海外留学人材の帰国後のプロジェクト支援や、民間企業資本との連携により、民間企業資本のイノベーション技術、革新的な産業技術への活用を促し、「優秀な人材 + 豊富な資本 + 優れた民間企業によるバックアップ」という起業しやすい環境の整備を目指している。
(3)革新的な人材の招致・起用をベースに、革新的な政策や体制を通じて、国有企業、大規模民間企業、海外大学院が相互に連携したプラットフォームの構築をサポートしており、外部から積極的な人材の受け入れを行っている。
杭州未来科技城は、中国における4つの未来科技城の中では比較的遅れてスタートしたものの、アリババを代表とするネット企業や、杭州恒生サイエンスパーク、杭州夢想小鎮(杭州ドリームタウン)、中国人工智能小鎮(人工知能タウン)などの重要なプラットフォームを基盤として、次世代ネットワークコンピューティング、汎用人工知能(AGI)、情報セキュリティ、ワイヤレスセンサーネットワーク、デジタル・マニュファクチャリング、ロボティクス等の分野における急速な発展及び強固な産業構造を構築し、中国のシリコンバレーを建設していくことを目的としているところに特徴がある。
5. デロイト中国の杭州未来科技城への参画
2017年7月以降、杭州未来科技城の中国人工智能小鎮(人工知能タウン)では、先に述べた之江実験室やアリババと浙江大学による先端技術研究センター、百度イノベーションセンター、中烏人工智能産業センターなどの研究開発機関を設置し、大学や大手企業との連携を進めることにより、イノベーションの創造を加速するためのエコシステムを形成し、積極的に外部機関の受け入れや提携を進めており、デロイト中国も当該エコシステムに参画することとなった。
2018年4月25日に中国人工智能小鎮にて杭州未来科
◆China Hangzhou Blockchain Industrial Park◆
◆アリババ グループコーポレートキャンパス◆
◆杭州未来科技城中心地◆
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技城管理委員会とデロイト中国との間で、戦略的パートナーシップ協定が締結され、杭州未来科技城に德勤智慧未来学院を設置し、デロイトの専門知識とグローバルのリソースを活用したサポート体制を構築するとしている。具体的にはデロイト中国は、AI、Block Chain、
Cloud Computing、Data Analytics、Roboticsの5つのイノベーションの分野に積極的に取り組んでおり、杭州未来科技城の今後の発展に寄与するため強力なサポート体制を構築していく計画である。また杭州未来科技城が「鯤鵬計画」(政府機関と企業が密接に連携すること
により、各企業の特徴に合わせた育成計画を策定し、発展させる計画)を遂行する上で、デロイト中国は企業に対する専門的なトレーニングや、セミナー、コンサルティングサービスの提供を随時行うことが可能となり、デロイト中国のイノベーションに関する知見を企業に提供し、杭州未来科技城において特徴的なエコシステムを構築していくことを検討している。
6. 中国におけるエコシステムの今後の発展杭州未来科技城をはじめとして、杭州市においては国
家の全面的な支援のもと、政府と大学、研究機関、民間企業が一体となって「大衆創業、万衆創新」を支援するためのエコシステムを構築しており、他の地域のエコシステムとは異なる特徴を有する地域となっている。産官学研間の強力な連携により築き上げられているこの特徴的なエコシステムは、今後、杭州市において優れたユニコーン企業の発展とイノベーションのさらなる創出により、中国における新たな経済成長の原動力のモデル都市として注目されると同時に、より優秀な人材を惹きつけ、また中国国内のみならず海外のイノベーション企業にとっても魅力的なエコシステムとなるであろう。
以上
◆中国人工智能小鎮ビル◆
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